(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2021-12-20
(45)【発行日】2022-01-17
(54)【発明の名称】デュワー瓶、フォトルミネッセンス測定装置、濃度測定方法およびシリコンの製造方法
(51)【国際特許分類】
G01N 21/64 20060101AFI20220107BHJP
G01N 1/06 20060101ALI20220107BHJP
C03C 3/091 20060101ALI20220107BHJP
C03C 3/108 20060101ALI20220107BHJP
G01N 21/01 20060101ALI20220107BHJP
【FI】
G01N21/64 C
G01N1/06 J
C03C3/091
C03C3/108
G01N21/01 C
(21)【出願番号】P 2021555312
(86)(22)【出願日】2021-06-03
(86)【国際出願番号】 JP2021021135
【審査請求日】2021-09-13
(31)【優先権主張番号】P 2020134062
(32)【優先日】2020-08-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000003182
【氏名又は名称】株式会社トクヤマ
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】特許業務法人HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】阪井 純也
(72)【発明者】
【氏名】山本 朋浩
【審査官】吉田 将志
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-123704(JP,A)
【文献】特開2019-120359(JP,A)
【文献】ステンレスとガラス製クライオスタットについて,[online],2010年11月28日,Retrieved from the Internet:<URL: https://kichem.co.jp/blog/2010/11/post-1351.php>
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 21/00 - G01N 21/958
G01N 1/06
C03C 3/091
C03C 3/108
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリコンに含まれる不純物の濃度を、液体ヘリウム中でフォトルミネッセンス法によって測定するときに用いられるガラス製のデュワー瓶であって、
前記ガラスは、SiO
2の含有量が65重量%以上75重量%以下であり、かつ、前記ガラスの温度が20℃以上300℃以下の場合における平均熱膨張率が25×10
-7/℃以上55×10
-7/℃以下であることを特徴とするデュワー瓶。
【請求項2】
前記ガラスは、B
2O
3の含有量が10重量%以上30重量%以下であることを特徴とする請求項1に記載のデュワー瓶。
【請求項3】
前記不純物は、P、B、AlおよびAsの少なくともいずれか1種の原子であることを特徴とする請求項1または2に記載のデュワー瓶。
【請求項4】
請求項1から3のいずれか1項に記載のデュワー瓶を備えていることを特徴とするフォトルミネッセンス測定装置。
【請求項5】
シリコンに含まれる不純物の濃度を測定する濃度測定方法であって、
SiO
2の含有量が65重量%以上75重量%以下であり、かつ、ガラスの温度が20℃以上300℃以下の場合における平均熱膨張率が25×10
-7/℃以上55×10
-7/℃以下の前記ガラスで形成されたデュワー瓶に、液体ヘリウムと前記シリコンとを収容して、前記不純物の濃度をフォトルミネッセンス法によって測定することを特徴とする濃度測定方法。
【請求項6】
SiO
2の含有量が65重量%以上75重量%以下であり、かつ、ガラスの温度が20℃以上300℃以下の場合における平均熱膨張率が25×10
-7/℃以上55×10
-7/℃以下の前記ガラスで形成されたデュワー瓶に、液体ヘリウムとシリコンとを収容して、前記シリコンに含まれる不純物の濃度を測定する濃度測定工程を含んでいることを特徴とするシリコンの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、デュワー瓶、フォトルミネッセンス測定装置、濃度測定方法およびシリコンの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、多結晶シリコンに含まれるリン、ボロン等の不純物の濃度を測定するための様々な方法が研究されている。一例として、非特許文献1には次のような方法が開示されている。すなわち、まず、多結晶シリコンの棒をFZ(Float-Zone)法により単結晶化(単結晶棒)する。次に、単結晶棒の任意の直胴部から試料を切り出し、フォトルミネッセンス法により試料中の不純物の濃度測定を行う。そして、理論計算により、得られた測定値を多結晶シリコンロッド中の不純物量に換算する。
【0003】
フォトルミネッセンス法による試料中の不純物の濃度測定としては、フォトルミネッセンス測定装置のクライオスタットに設置されたガラス製のデュワー瓶内に液体ヘリウムを収容し、試料の全体を当該液体ヘリウムに浸漬させる方法が一般的である。この濃度測定方法に用いられるガラス製のデュワー瓶としては、通常、硬質1級ガラス製のデュワー瓶が用いられる。以下、この硬質1級ガラス製のデュワー瓶を「従来の測定用デュワー瓶」と称する。
【0004】
ここで、ヘリウムガスはガラスを透過する性質があるところ、従来の測定用デュワー瓶内に液体ヘリウムを収容して濃度測定を行うと、液体ヘリウムから発生したヘリウムガスがデュワー瓶のガラス壁を急速に透過し、ガラス壁内の真空層の真空度が急激に低下する。そして、真空層からなる断熱層の断熱効果が低下して液体ヘリウムの蒸発が活発化することにより、試料を測定温度(約4K)に保てなくなる。その結果、フォトルミネッセンスによる試料中の不純物の濃度測定ができなくなる。ここで、「真空度」は、極低圧状態の真空の程度であり、残存する気体の圧力で表される。具体的には、真空層に残存する気体の圧力を指す。ガラス壁内の真空層の真空度が低下した場合、真空引きを行って真空度を濃度測定前の程度まで回復しなければならないことから、真空度が急激に低下すればその分だけ真空引きの回数が増える。
【0005】
このような不都合のある真空度の低下を回避するための知見が、例えば非特許文献2に開示されている。非特許文献2には、ガラス中のSiO2の含有量と、ヘリウムガスが当該ガラスを透過するときの透過速度との間に相関関係があることが示唆されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【文献】「電子情報技術産業情報規格JEITA EM-3601A 高純度多結晶シリコン標準規格」、社団法人電子情報技術産業協会、2004年9月
【文献】F.J.Norton,「Helium Diffusion Through Glass」(Journal of the American Ceramic Society, 36,1953,90-96)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、非特許文献2には、ガラス中のSiO2の含有量と前記透過速度との相関関係を経験則として示唆しているだけであり、常温(約23℃=約296.15K)から極超低温(約4K)までの冷却による歪の発生については記載されていない。加えて、非特許文献2では、ガラス母材からデュワー瓶への加工のし易さについても触れられていない。ガラス製のデュワー瓶においては、この加工のし易さがデュワー瓶用のガラス母材を選定する一要素となる。このような背景があり、ガラス中のSiO2の含有量と前記透過速度との相関関係を従来の測定用デュワー瓶に適用するまでには至っていない。そのため、フォトルミネッセンス法による試料中の不純物の濃度測定を従来の測定用デュワー瓶を用いて行った場合、真空引きを多回数行わなければならず、真空引き作業者の負担が増大するとともに真空引き費用が増加する。
【0008】
本発明の一態様は、前記の問題点に鑑みてなされたものであり、その目的は、液体ヘリウム中のシリコンに含まれる不純物の濃度をフォトルミネッセンス法で測定する場合に、真空引き作業者の負担軽減および真空引き費用の削減を図ることにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記の課題を解決するために、本発明の一態様に係るデュワー瓶は、シリコンに含まれる不純物の濃度を、液体ヘリウム中でフォトルミネッセンス法によって測定するときに用いられるガラス製のデュワー瓶であって、前記ガラスは、SiO2の含有量が65重量%以上75重量%以下であり、かつ、前記ガラスの温度が20℃以上300℃以下の場合における平均熱膨張率が25×10-7/℃以上55×10-7/℃以下である。なお、「平均熱膨張率」としたのは、ガラスの温度が20℃以上300℃以下の場合における当該ガラスの熱膨張率を測定する際、実際には熱膨張率の平均値を測定するためである。
【0010】
前記の課題を解決するために、本発明の一態様に係る濃度測定方法は、シリコンに含まれる不純物の濃度を測定する濃度測定方法であって、SiO2の含有量が65重量%以上75重量%以下であり、かつ、ガラスの温度が20℃以上300℃以下の場合における平均熱膨張率が25×10-7/℃以上55×10-7/℃以下の前記ガラスで形成されたデュワー瓶に、液体ヘリウムと前記シリコンとを収容して、前記不純物の濃度をフォトルミネッセンス法によって測定する。
【0011】
前記の課題を解決するために、本発明の一態様に係るシリコンの製造方法は、SiO2の含有量が65重量%以上75重量%以下であり、かつ、ガラスの温度が20℃以上300℃以下の場合における平均熱膨張率が25×10-7/℃以上55×10-7/℃以下の前記ガラスで形成されたデュワー瓶に、液体ヘリウムとシリコンとを収容して、前記シリコンに含まれる不純物の濃度を測定する濃度測定工程を含んでいる。
【発明の効果】
【0012】
本発明の一態様によれば、液体ヘリウム中のシリコンに含まれる不純物の濃度をフォトルミネッセンス法で測定する場合に、真空引き作業者の負担の大幅軽減および真空引き費用の大幅削減を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本発明の一実施形態に係るフォトルミネッセンス測定装置の概略構成を示す図である。
【
図2】符号201は、本発明の一実施形態に係る測定用デュワー瓶内の液体ヘリウムに試料を浸漬させたときの状態を示す概略図である。符号202は、前記測定用デュワー瓶のガラス壁の構造を示す断面図である。
【
図3】本発明の一実施形態に係る多結晶シリコンの製造方法の一例を示すフローチャートである。
【
図4】本発明の一実施形態に係る濃度測定方法の一例を示す図である。符号401は、挿入工程を示す図である。符号402は、液体窒素収容工程を示す図である。符号403は、液体ヘリウム収容工程を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、
図1~
図4を用いて、本発明の一実施形態について詳細に説明する。なお、本明細書において特記しない限り、数値範囲を表す「A~B」は、「A以上B以下」を意味する。
【0015】
〔フォトルミネッセンス測定装置100〕
まず、
図1を用いて、本発明の一実施形態に係るフォトルミネッセンス測定装置100について説明する。フォトルミネッセンス測定装置100は、多結晶シリコン(不図示)に含まれる不純物(不図示)の濃度をフォトルミネッセンス法によって測定するときに用いられる測定装置である。多結晶シリコンは、本発明に係るシリコンの一例である。
【0016】
フォトルミネッセンス法は、多結晶シリコンを単結晶化して得られた試料4(詳細は後述)にレーザ光を照射して試料4からフォトルミネッセンスを放射させ、放射されたフォトルミネッセンスを解析することで試料4中の不純物の濃度を測定する方法である。フォトルミネッセンスは、試料4にレーザ光が照射されることで試料4中に過剰の電子および正孔が生じ、電子と正孔とが再結合する過程で試料4から放射される光である。
【0017】
本実施形態では、P、B、AlおよびAsの4種の原子が、フォトルミネッセンス測定装置100による濃度測定の対象の不純物となる。なお、前記4種の原子のすべてを濃度測定の対象にする必要はなく、前記4種の原子のうちの少なくとも1種以上を濃度測定の対象にすればよい。あるいは、前記4種の原子以外の原子を濃度測定の対象にしてもよい。フォトルミネッセンス測定装置100による濃度測定の対象となる、前記4種の原子以外の原子としては、例えばCが挙げられる。
【0018】
フォトルミネッセンス測定装置100は、
図1に示すように、クライオスタット101、レーザ光源102、第1フィルタ103、平面鏡104、集光レンズ106、第2フィルタ107、分光器108、光検出器109、情報処理装置110およびサンプルホルダ111を備えている。
【0019】
クライオスタット101は、試料4を4K程度の低温に保つための装置である。クライオスタット101の内部には測定用デュワー瓶1が設置されており、測定用デュワー瓶1を構成する内筒デュワー瓶2(
図2の符号201参照;詳細は後述)に試料4および液体ヘリウム5が収容される。液体ヘリウム5は、試料4を4K程度まで冷却するために用いられる。また、クライオスタット101には窓105が設けられており、試料4がクライオスタット101の内部に収容(具体的には、内筒デュワー瓶2に収容)された状態において、窓105の外から試料4の全体が視認できるようになっている。
【0020】
レーザ光源102は、クライオスタット101の内部に収容された試料4の方向にレーザ光を照射する。クライオスタット101とレーザ光源102との間には、第1フィルタ103と平面鏡104とが配置されている。第1フィルタ103は、レーザ光源102と平面鏡104との間に配置されており、レーザ光源102から照射されたレーザ光に含まれる赤外光をカットする。
【0021】
平面鏡104は、第1フィルタ103とクライオスタット101との間に配置されており、第1フィルタ103を透過したレーザ光の光路を調整する。具体的には、平面鏡104は、第1フィルタ103を透過したレーザ光がクライオスタット101内の試料4を照射するように、当該レーザ光の光路を調整する。レーザ光を照射されたクライオスタット101内の試料4は、フォトルミネッセンスを放射する。
【0022】
集光レンズ106は、クライオスタット101内の試料4から放射されたフォトルミネッセンスを集光し、集光したフォトルミネッセンスを分光器108に導く。第2フィルタ107は、集光レンズ106と分光器108との間に配置されており、レーザ光および回折高次光をカットする。
【0023】
分光器108は、集光レンズ106によって導かれたフォトルミネッセンスを分光する。光検出器109は、分光器108による分光後の光を検出し、検出結果を検出信号として情報処理装置110に出力する。情報処理装置110は、光検出器109から出力された検出信号を処理してフォトルミネッセンススペクトルを取得する。また情報処理装置110は、取得したフォトルミネッセンススペクトルを解析することで、試料4中に含まれる不純物の濃度を測定する。情報処理装置110としては、例えば据え置き型のPC、タブレット端末、スマートフォンなどが挙げられる。
【0024】
サンプルホルダ111は、試料4を保持した状態で当該試料4の全体を液体ヘリウム5に浸漬させる器具である。また、サンプルホルダ111には、ヘリウムガス供給/排出口(不図示)と液体ヘリウム供給口(不図示)とが形成されている。ヘリウムガス供給/排出口は、内筒デュワー瓶2内にヘリウムガスを供給し、かつ内筒デュワー瓶2内に滞留したヘリウムガスを瓶外に排出するための通気口である。液体ヘリウム供給口は、内筒デュワー瓶2に液体ヘリウム5を供給して瓶内に液体ヘリウム5を収容するための供給口である。
【0025】
なお、上述したフォトルミネッセンス測定装置100の構成はあくまで一例である。測定用デュワー瓶1内に試料4および液体ヘリウム5を収容し、フォトルミネッセンス法によって試料4中の不純物の濃度を測定できるのであれば、フォトルミネッセンス測定装置100はどのような構成であってもよい。
【0026】
〔測定用デュワー瓶1〕
次に、
図2を用いて、本発明の一実施形態に係る測定用デュワー瓶1について説明する。測定用デュワー瓶1は、試料4に含まれる不純物の濃度をフォトルミネッセンス法によって測定するときに用いられ、
図2の符号201に示すように、外筒デュワー瓶3の瓶内に内筒デュワー瓶2が収容された二重構造のデュワー瓶である。
【0027】
ここで、本発明の一態様に係るデュワー瓶とは、当該デュワー瓶内に液体ヘリウムが収容されるものを指す。測定用デュワー瓶1については、内筒デュワー瓶2内に液体ヘリウム5が収容されることから、内筒デュワー瓶2が本発明の一態様に係るデュワー瓶に該当する。また、測定用デュワー瓶1は、本発明の一実施形態に係る内筒デュワー瓶2が用いられたデュワー瓶と言える。
【0028】
なお、以下の説明は、内筒デュワー瓶2の外側に外筒デュワー瓶3を配置して、両者の間に液体窒素6を介在させる構成を前提としている。この構成により、測定用デュワー瓶1を効率よく冷却することができる。この構成によれば、外筒デュワー瓶3内には液体ヘリウム5ではなく液体窒素6が収容されることから、外筒デュワー瓶3は本発明の一態様に係るデュワー瓶に該当しない。ただし、液体窒素6ではなく液体ヘリウム5を収容する構成を採用するのであれば、外筒デュワー瓶3も本発明の一態様に係るデュワー瓶に該当することになる。
【0029】
内筒デュワー瓶2はガラス製であり、円筒形状で底のあるガラス壁21から成る。また内筒デュワー瓶2は、ガラス壁21の全ての部分に亘って内部に空間22が形成されており、空間22を真空引きすることで当該空間22に真空層が形成される。真空引きする際には、内筒デュワー瓶2の瓶底に引き口(不図示)を形成し、当該引き口から真空引きする。引き口は、開口部が形成された、空間22内の空気の排出路である。真空引きを終えたら、引き口を塞ぐ。空間22に形成された真空層の真空度を調整するのも、内筒デュワー瓶2の瓶底に引き口を形成して行う。内筒デュワー瓶2は、本発明に係るデュワー瓶の一例であり、瓶内に試料4および液体ヘリウム5が直接収容される。
【0030】
本実施形態では、内筒デュワー瓶2は、高さが約800mm、外径が約90mm、ガラス壁21の厚さが約5mm、ガラス壁21における空間22を取り囲むガラス板211(
図2の符号202参照)の厚さが約2mmになっている。また本実施形態では、内筒デュワー瓶2の形成材料となるガラスとして、ホウケイ酸ガラスのうちの硬質2級ガラスを使用することができる。
【0031】
外筒デュワー瓶3もガラス製であり、円筒形状で底のあるガラス壁31から成る。また外筒デュワー瓶3も、ガラス壁31の全ての部分に亘って内部に空間32が形成されている。但し、空間32には当初から真空層が形成されており、かつ、空間32に形成された真空層の真空度の調整も行われない。空間32に形成された真空層の真空度の調整が行われないのは、下記の通り外筒デュワー瓶3内に液体窒素6が収容されるためである。なお当然のことながら、外筒デュワー瓶3を、前記真空度の調整が可能な構造にすることもできる。
【0032】
外筒デュワー瓶3には、内筒デュワー瓶2のガラス壁21から熱が放出されるのを防ぐための液体窒素6が収容される。そして、外筒デュワー瓶3内の液体窒素6に内筒デュワー瓶2が浸漬されることで、前記二重構造の測定用デュワー瓶1が形成される。
【0033】
本実施形態では、外筒デュワー瓶3は、高さが約700mm、外径が約140mm、ガラス壁31の厚さが約10mm、ガラス壁31における空間32を取り囲むガラス板311(
図2の符号202参照)の厚さが約5mmになっている。また、本実施形態では、外筒デュワー瓶3の形成材料となるガラスとしてパイレックス(コーニング社製;登録商標)を使用している。パイレックスは、ホウケイ酸ガラスのうちの硬質1級ガラスに属する。
【0034】
上述のような特徴を有する測定用デュワー瓶1を用いることで、従来の測定用デュワー瓶に比べて真空層の真空度の低下速度が大幅に遅くなり、以下に述べるメリットを享受できるようになった。すなわち、フォトルミネッセンス法による多結晶シリコン中の不純物の濃度測定は、通常、多結晶シリコン製造の品質工程で用いられるのであれば、少なくとも1日1回年間を通じて行われる。これに伴い、従来の測定用デュワー瓶を用いて前記の濃度測定を行うのであれば、1日1回は真空引きしなければならない。
【0035】
一方、本実施形態に係る内筒デュワー瓶2を備えた測定用デュワー瓶1を用いれば、多くても3ヶ月に1回のペースで真空引きすれば済む。そのため、真空引き作業者の負担を大幅に軽減できるとともに、真空引き費用を大幅に削減することができる。また、長期継続使用した場合の耐久性も従来の測定用デュワー瓶と同程度であり、長期継続使用に伴って生じるガラス壁の変形・破損を許容範囲に留めることができる。
【0036】
なお、内筒デュワー瓶2および外筒デュワー瓶3は上述した各寸法に限定されず、試料4の大きさ・形状、クライオスタット101の内部の構造等に応じて任意に設計変更してもよい。また、内筒デュワー瓶2の形成材料となるガラスは、SiO2の含有量が65~75重量%以下であり、かつ、ガラスの温度が20~300℃の場合における平均熱膨張率が25×10-7~55×10-7/℃であれば、硬質2級ガラスでなくてもよい。ここで、平均熱膨張率を特定するガラスの温度の下限値20℃は、フォトルミネッセンス測定装置100が設置されている室内がとり得る室温の下限値と一致する。前記室内がとり得る室温の上限値は25℃である。さらに、外筒デュワー瓶3の形成材料となるガラスは硬質1級ガラスであればよく、パイレックスである必要は必ずしもない。
【0037】
さらに、本実施形態では二重構造の測定用デュワー瓶1を例に挙げて説明したが、測定用デュワー瓶1は、外筒デュワー瓶3の瓶内に内筒デュワー瓶2が収容された二重構造である必要はない。例えば、瓶を構成するガラス壁が1枚のみの一重構造のデュワー瓶で構成されていてもよい。但し、一重構造のデュワー瓶の形成材料となるガラスは、少なくとも、SiO2の含有量が65~75重量%以下であり、かつ、ガラスの温度が20~300℃の場合における平均熱膨張率が25×10-7~55×10-7/℃である必要がある。
【0038】
〔多結晶シリコンの製造方法〕
次に、
図3を用いて、本発明の一実施形態に係る多結晶シリコンの製造方法について説明する。前記の製造方法は、シリコン析出工程S1、加工/検査工程S2、分離工程S3および蒸留工程S4を含んでいる。
【0039】
<1.シリコン析出工程S1>
まず、クロロシラン化合物(不図示)とH2とを反応させて多結晶シリコンを析出させる(シリコン析出工程:S1)。シリコン析出工程S1にて用いられる反応装置の構造および反応条件は特に制限されず、公知の反応装置および反応条件を採用することができる。シリコン析出工程S1は、具体的には、例えばシーメンス法(ベルジャー法)または溶融析出法(VLD法、Vapor to Liquid Deposition法)によって行うことが可能である。シーメンス法および溶融析出法は公知の方法であるため、これらの方法の説明については省略する。なお、多結晶シリコンを効率的に析出させるためには、シリコン析出工程S1はシーメンス法によって行われることが好ましい。
【0040】
本明細書においてクロロシラン化合物とは、ClとSiとを含む化合物を意味する。シーメンス法および溶融析出法ともに、原料ガスに含有されるクロロシラン化合物としては、例えばトリクロロシランおよびジクロロシラン等を挙げることができる。
【0041】
<2.加工/検査工程S2>
次に、シリコン析出工程S1での処理によって析出した多結晶シリコンのロッドを切断および破砕して、顧客の要求形状および要求寸法になるように加工する(加工工程:S2)。また、前記多結晶シリコンのロッドから試料4を作製し、フォトルミネッセンス測定装置100を用いて試料4中の不純物の濃度を測定することにより、多結晶シリコンの品質を検査する(検査工程:S2)。「合格」の検査結果が出れば、加工後の製品の表面を洗浄し、梱包した後、当該製品を顧客に出荷する。なお、加工/検査工程S2のうちの検査工程が、本発明に係る濃度測定工程の一例となる。
【0042】
<3.分離工程S3>
次に、シリコン析出工程S1での処理によって排出される排ガスを、クロロシラン凝縮液とガス成分とに分離する(分離工程:S3)。排ガス中には、クロロシラン化合物、H2、HClおよびシリコン微粉が含有され、さらに、シラン類オリゴマーも含有され得る。
【0043】
クロロシラン凝縮液は、シリコン微粉を含有し得る。例えば、クロロシラン凝縮液におけるシリコン微粉の含有量は、0.01~0.3質量%、特には0.05~0.2質量%であり得る。クロロシラン凝縮液は、本製造方法以外の用途に用いられてもよい。ガス成分は、水素ガスおよびHClを主成分として含む。ガス成分はさらに、クロロシラン凝縮液として凝縮分離されずに残存しているクロロシラン化合物を、数体積%程度の量で含有している。また極微量ではあるが、金属シリコン由来のBおよびPも含み得る。
【0044】
分離工程S3において、ガス成分の冷却温度は、クロロシラン化合物が凝縮する温度以下であれば特に制限されず、用いられる冷却装置の冷却能力等を勘案して適宜決定することが可能である。なお、冷却温度が低いほど、クロロシラン化合物の凝縮効果が高い傾向にある。
【0045】
分離工程S3で用いられる分離方法としては、クロロシラン凝縮液とガス成分とに分離できる限り特に制限されないが、凝縮除去法を用いることが好ましい。凝縮除去法は、排ガスを冷却してクロロシラン化合物を凝縮させることによって、クロロシラン凝縮液とガス成分とを分離する方法である。
【0046】
分離工程S3で用いられる排ガスの冷却方法としては、クロロシラン化合物が凝縮する温度以下に冷却することが可能である限り特に制限されず、公知の冷却方法を用いることが可能である。具体的には、冷却された熱交換器に排ガスを通過させて冷却する方法、あるいは、凝縮され冷却された凝縮物によって排ガスを冷却する方法等が挙げられる。これらの方法をそれぞれ単独で、または併用して採用することも可能である。
【0047】
<4.蒸留工程S4>
次に、分離工程S3で得られたクロロシラン凝縮液を蒸留して得られたクロロシラン化合物を、シリコン析出工程S1で使用する反応装置に循環させる(蒸留工程:S4)。この処理を行うことにより、蒸留後に得られたクロロシラン化合物を、シリコン析出工程S1において多結晶シリコン生成の原料として再利用することができる。
【0048】
以上のS1からS4までの各工程を踏むことにより、多結晶シリコンが製造される。なお、上述した製造方法はあくまで一例であり、加工/検査工程S2でフォトルミネッセンス測定装置100を用いた濃度測定を行う限りにおいて、様々な製造方法を採用することができる。例えば、分離工程S3で得られたガス成分とクロロシラン液とを接触させてHClを除去する塩化水素除去工程を含めてもよい。また、前記の塩化水素除去工程で得られたガス成分と活性炭とを接触させてクロロシラン化合物を除去し、水素ガスを得る水素精製工程を含めてもよい。さらには、加工/検査工程S2の「検査工程」は、単結晶シリコンの製造方法の一工程としても採用することができる。
【0049】
〔多結晶シリコン中の不純物の濃度測定方法〕
次に、
図4を用いて、本発明の一実施形態に係る多結晶シリコン中の不純物の濃度測定方法について説明する。具体的には、フォトルミネッセンス法による多結晶シリコン中の不純物の濃度測定を行うための測定前準備、実測定、および測定終了後の一連の操作について説明する。なお、以下の説明はあくまで一例であり、必ずしも以下の手順に限定される訳ではない。以下、内筒デュワー瓶2の瓶底に引き口が形成され、外筒デュワー瓶3の瓶内に内筒デュワー瓶2が収容されていることを前提として説明する。
【0050】
まず、多結晶シリコンのロッドから試料4を作製する(作製工程)。具体的には、多結晶シリコンのロッドの直胴部から直径方向に丸棒を切り出した後、この丸棒をFZ法により単結晶化して単結晶棒を得る。そして、単結晶棒の任意の直胴部から試料4を切り出すことにより、試料4を作製する。なお、前記の試料4の作製方法はあくまで一例であり、多結晶シリコンのロッドの直径等に応じて作製方法を変更できる。
【0051】
次に、内筒デュワー瓶2のガラス壁21の空間22に真空(断熱)層を形成する。真空(断熱)層を形成するための真空引きには、例えばロータリーポンプおよびターボポンプ(ともに不図示)を併用し、真空(断熱)層の真空度が1×10-4Paになるのを目安として真空引きする(真空引き工程)。
【0052】
次に、ガラス壁21内の空間22に形成された真空(断熱)層の真空度が1×10-4Paであることを確認する(確認工程)。この真空度の確認は、真空(断熱)層に連結させた圧力計(不図示)によって行う。真空度が1×10-3Paより低下している場合、真空引き工程を再度実施して真空度を1×10-4Paにする。
【0053】
一方、真空度が1×10-4Paであることを確認した場合、サンプルホルダ111に試料4をセットする(試料セット工程)。そして、外筒デュワー瓶3内で内筒デュワー瓶2が動かないように、当該内筒デュワー瓶2を外筒デュワー瓶3内に設置する(瓶設置工程)。具体的には、例えば、外筒デュワー瓶3の瓶底の内面にフェルト(不図示)等を接着し、当該フェルト上に内筒デュワー瓶2の瓶底の底面を接着させることで、内筒デュワー瓶2が外筒デュワー瓶3内で振動しないように固定される。この固定によって、内筒デュワー瓶2の瓶底の底面が、外筒デュワー瓶3の瓶底の内面を基準として所定の高さの位置に配置される。
【0054】
次に、瓶設置工程によって内筒デュワー瓶2と外筒デュワー瓶3との二重構造になった測定用デュワー瓶1をクライオスタット101に装着する(装着工程)。そして、
図4の符号401に示すように、試料4がセットされたサンプルホルダ111を内筒デュワー瓶2内に挿入し、サンプルホルダ111をクライオスタット101に固定する(挿入工程)。
【0055】
次に、サンプルホルダ111の上部に形成された減圧引き口(不図示)にコックを介してロータリーポンプのホースを取り付け、減圧引き口とロータリーポンプとを連結させる(連結工程)。減圧引き口は、液体ヘリウム5を収容する内筒デュワー瓶2内を真空(減圧下)にするために形成された開口部である。
【0056】
次に、同じくサンプルホルダ111の上部に形成されたガス供給口(不図示)に、ガスバック(不図示)を介してガス供給用チューブを取り付ける(取り付け工程)。ガスバックは、内筒デュワー瓶2内に液体ヘリウム5を収容し易くすることを主目的として用いられる。また、ガスパックは、内筒デュワー瓶2内を減圧下にし易くすることを目的としても用いられる。さらに、ガスパックは、内筒デュワー瓶2内の水蒸気・水分等を除去し易くするために窒素ガス等を供給できるようにすることを目的としても用いられる。なお、ガスパックを用いることは必須ではない。
【0057】
次に、ロータリーポンプを作動させるとともにロータリーポンプ側のコックを開いて、内筒デュワー瓶2内を減圧する(第1減圧工程)。具体的には、圧力計が0.1×100Paを示すまで、ロータリーポンプで内筒デュワー瓶2内を減圧する。次に、ロータリーポンプ側のコックを閉じるとともにガス供給側のコックを開いて、内筒デュワー瓶2内に窒素ガス等を供給する(ガス供給工程)。
【0058】
次に、内筒デュワー瓶2内への窒素ガス等の供給が終了した後、ガス供給側のコックを閉じるとともにロータリーポンプ側のコックを再び開いて、内筒デュワー瓶2内を再度減圧する(第2減圧工程)。第1減圧工程と同様、圧力計が0.1×100Paを示すまで、ロータリーポンプで内筒デュワー瓶2内を減圧する。なお、後掲の実施例および比較例では、第1減圧工程での減圧時間と第2減圧工程での減圧時間とを同じ時間にした。
【0059】
本実施形態では、ガス供給工程と第2減圧工程とを必要回数繰り返す。なお、後掲の実施例および比較例でも、ガス供給工程と第2減圧工程とを必要回数繰り返した。
【0060】
ガス供給工程と第2減圧工程とを必要回数繰り返して、内筒デュワー瓶2内を液体ヘリウム5が収容できる程度の減圧下にした後、ロータリーポンプ側のコックを閉じて当該ロータリーポンプの作動を停止する。そして、ロータリーポンプの作動を停止した後、サンプルホルダ111の上部に取り付けられたホースおよび供給用チューブを取り外す(取り外し工程)。
【0061】
次に、
図4の符号402に示すように、内筒デュワー瓶2のガラス壁21の外面と外筒デュワー瓶3のガラス壁31の内面との間に形成された隙間に、液体窒素6を収容する(液体窒素収容工程)。具体的には、サンプルホルダ111の上部に形成された液体窒素供給口(不図示)から前記の隙間に液体窒素6を供給することにより、当該隙間に液体窒素6を収容する。液体窒素6の収容が終了したら、揮発しないように液体窒素供給口を閉じる。
【0062】
次に、
図4の符号403に示すように、減圧下とした内筒デュワー瓶2内、言い換えれば試料4が存在する空間に液体ヘリウム5を収容する(液体ヘリウム収容工程)。具体的には、サンプルホルダ111の上部に形成された液体ヘリウム供給口(不図示)から前記の空間に液体ヘリウム5を供給することにより、当該空間に液体ヘリウム5を収容する。
【0063】
液体ヘリウム収容工程における液体ヘリウム5の収容方法の一例を以下に示す。まず、液体ヘリウム5が予め収容された容器とサンプルホルダ111の液体ヘリウム供給口とを、専用の液体ヘリウムトランスファー(不図示)で接続する。内筒デュワー瓶2内は減圧されていることから、前記の接続によって、容器から液体ヘリウム供給口を経由して内筒デュワー瓶2内に液体ヘリウム5が供給される。ここで、必要に応じて、液体ヘリウム5が予め収容された容器内を窒素ガス等で加圧することによっても、液体ヘリウム5を内筒デュワー瓶2内に供給してもよい。最終的には、
図4の符号403に示すように、試料4の全部が浸漬される程度の量の液体ヘリウム5が内筒デュワー瓶2内に収容される。
【0064】
液体ヘリウム5の内筒デュワー瓶2内への収容が終了した後、液体ヘリウム5が収容されていた容器から液体ヘリウムトランスファーを取り外す。そして、前記の容器の抜出口およびサンプルホルダ111の液体ヘリウム供給口を閉じる(測定前準備最終工程)。
【0065】
次に、
図4の符号403に示す状態で、フォトルミネッセンス法によって試料4中の不純物の濃度測定を行う(濃度測定工程)。まず、フォトルミネッセンス測定装置100のレーザ光源102を起動して、当該レーザ光源102からレーザ光を放射する。なお、レーザ光を放射する前に、予めシャッターおよびスリット幅を確認しておく。そして、サンプルホルダ111にセットされ、内筒デュワー瓶2内の液体ヘリウム5に浸漬された試料4にレーザ光が照射されることにより、当該試料4中の不純物の濃度測定が始まる。
【0066】
濃度測定工程での濃度測定自体は、例えば非特許文献1に開示された規格「JEITA EM-3601A」の方法、あるいはこの規格で引用されたJIS規格「JIS H 0615-1996 フォトルミネッセンスによるシリコン結晶中の不純物濃度測定方法」の方法に準じればよい。本実施形態では、前記のJIS規格に準じた方法で濃度測定を行うものとしてその説明を省略する。
【0067】
濃度測定工程の終了後、サンプルホルダ111をクライオスタット101から取り外す。そして、外筒デュワー瓶3から内筒デュワー瓶2を取り外して内筒デュワー瓶2内に残存する液体ヘリウム5を廃棄する。そして、外筒デュワー瓶3をクライオスタット101から取り外して外筒デュワー瓶3内に残存する液体窒素6を廃棄する。前記の取り外し後、内筒デュワー瓶2、外筒デュワー瓶3およびサンプルホルダ111等の器具一式を十分に乾燥する。別の試料4を濃度測定する場合、作製工程以降の各工程を再び実施する。
【0068】
〔真空引き工程〕
本実施形態では、真空引き工程として具体的には以下の作業を行う。なお、後掲の実施例および比較例においても、以下に説明する作業と同様の作業を行った。まず、内筒デュワー瓶2のガラス壁21の空間22と連結したバルブを備えた第1配管(不図示)に、真空ホースを介して、ロータリーポンプとターボポンプとが接続されたバルブを備えた第2配管(不図示)を取り付けて、真空ラインを形成する。
【0069】
次に、ロータリーポンプを作動させて真空ラインに含まれるバルブの開閉操作を行うことにより、空間22をロータリーポンプで真空引きする。そして、粗方減圧(0.1×100Paが目安)したところで、ターボポンプを作動させてバルブの開閉操作を行い、さらに真空引きする。真空引きを行っている間は、空間22に連結させた圧力計を目視することで、空間22に形成された真空(断熱)層の真空度を確認する。そして、真空(断熱)層の真空度が1×10-4Paになるのを目安として真空引きする。そして、真空(断熱)層の真空度が1×10-4Paになったことを確認したら、真空ラインに含まれるバルブを閉じてロータリーポンプおよびターボポンプの作動を停止する。そして、真空(断熱)層の真空度が維持されるように、真空ライン等を内筒デュワー瓶2から取り外す。
【0070】
なお、上述した各工程の内容および実行順番はあくまで一例である。測定用デュワー瓶1内に試料4および液体ヘリウム5を収容し、フォトルミネッセンス法によって試料4中の不純物の濃度を測定するのであれば、上述した各工程の内容および実行順番を任意に変更してもよい。
【0071】
〔変形例〕
本実施形態に係るフォトルミネッセンス測定装置100、測定用デュワー瓶1、濃度測定方法は、単結晶シリコン(不図示)に適用することができる。また、本実施形態に係る濃度測定方法を単結晶シリコンに適用することで、単結晶シリコンを製造することもできる。つまり、単結晶シリコンも、本発明に係るシリコンの一例である。
【0072】
例えばフォトルミネッセンス測定装置100および測定用デュワー瓶1は、単結晶シリコンから成るシリコンウェーハの品質管理、具体的には前記シリコンウェーハに含まれる微量の不純物の濃度をフォトルミネッセンス法で測定する場合にも使用できる。この場合、微量の不純物の濃度測定を行うために熱雑音の影響を無くす必要がある。そのため、本実施形態と同様、内筒デュワー瓶2に液体ヘリウム5を収容して低温下で濃度測定を行う。
【0073】
〔まとめ〕
前記の課題を解決するために、本発明の一態様に係るデュワー瓶は、シリコンに含まれる不純物の濃度を、液体ヘリウム中でフォトルミネッセンス法によって測定するときに用いられるガラス製のデュワー瓶であって、前記ガラスは、SiO2の含有量が65重量%以上75重量%以下であり、かつ、前記ガラスの温度が20℃以上300℃以下の場合における平均熱膨張率が25×10-7/℃以上55×10-7/℃以下である。なお、「平均熱膨張率」としたのは、ガラスの温度が20℃以上300℃以下の場合における当該ガラスの熱膨張率を測定する際、実際には熱膨張率の平均値を測定するためである。
【0074】
前記構成によれば、本発明の一態様に係るデュワー瓶の形成材料であるガラスは、SiO2の含有量が65重量%以上75重量%以下である。そのため、従来の測定用デュワー瓶に比べて、フォトルミネッセンス法による測定時に、デュワー瓶内に生じたヘリウムガスが当該デュワー瓶のガラス壁を透過し難い。したがって、従来の測定用デュワー瓶に比べてガラス壁の内部に形成された真空層の真空度が低下し難くなることから、測定後の真空引きの回数を大幅に減らすことができる。そのため、真空引き作業者の負担を大幅に軽減できるとともに真空引き費用を大幅に削減することができる。
【0075】
さらに、例えばSiO2の含有量が75重量%を超えると、デュワー瓶内に生じたヘリウムガスが該デュワー瓶のガラス壁を透過し易くなり、長時間低温を保持することが難しくなる。一方、SiO2の含有量が65重量%未満になると、代わりにSiO2以外の成分が多くなってしまい、その成分の影響が大きくなる。例えば、PbOが20重量%以上60重量%以下含まれるガラスは、平均熱膨張係数が大きいことから常温から極超低温までの冷却による歪が大きくなる。そのため、低温で使用するデュワー瓶の形成材料としては不向きとなる。また例えば、Al2O3が5重量%以上20重量%以下含まれるガラスは、ガラス転移温度が高いことから当該ガラスからデュワー瓶への加工が難しくなる。そのため、デュワー瓶の形成材料としてはやはり不向きとなる。
【0076】
一方、本発明では、ガラス中のSiO2の含有量が65重量%以上75重量%以下であることから、真空層の真空度の低下を抑制するだけでなく、常温から極超低温までの冷却による歪も小さくデュワー瓶への加工が容易になる。さらには、測定後の真空引きの回数を大幅に減らすことができるとともに、常温と極超低温との間の繰り返し降温/昇温によるデュワー瓶の劣化もなく、デュワー瓶の製作費を低く抑えることができる。
【0077】
また前記構成によれば、デュワー瓶の形成材料であるガラスについて、当該ガラスの温度が20℃以上300℃以下の場合における平均熱膨張率が25×10-7/℃以上55×10-7/℃以下である。そのため、フォトルミネッセンス法による測定の過程でデュワー瓶のガラス壁の温度が常温から極超低温まで低下しても、従来の測定用デュワー瓶に比べてガラス壁が熱収縮し難い。また、フォトルミネッセンス法による測定の終了後にデュワー瓶のガラス壁の温度が極超低温から室温(20℃~25℃)まで上昇しても、ガラス壁の熱膨張が測定継続の上で許容範囲に留まる。したがって、フォトルミネッセンス法による測定の回数を重ねても、ガラス壁の変形・破損を許容範囲に留めておくことができ、耐久性が担保されたデュワー瓶を実現することができる。
【0078】
さらには、例えば、ガラスの温度が20℃以上300℃以下の場合における平均熱膨張率が25×10-7/℃未満になると、ガラスを1000℃以上の高温にさらしても軟化され難く加工が難しいことから、デュワー瓶の形成材料としては不向きとなる。一方、前記の平均熱膨張率が55×10-7/℃を超えると、ガラスを常温から極超低温に冷却する際に歪が発生し易くなるため、デュワー瓶の形成材料としてはやはり不向きとなる。
【0079】
また、本発明の一態様に係るデュワー瓶は、前記ガラスは、B2O3の含有量が10重量%以上30重量%以下であってもよい。前記構成によれば、B2O3の含有量が10重量%未満のガラスおよび30重量%よりも多いガラスに比べてガラスの平均熱伝導率が低い傾向にある。そのため、デュワー瓶は、フォトルミネッセンス法による測定の過程で生じるデュワー瓶内外の温度変化の影響を受け難い。したがって、デュワー瓶の耐久性を向上させることができる。
【0080】
前記の通り、ガラス中にB2O3が特定量含まれていると平均熱伝導率、言い換えれば平均熱膨張係数を低くできる傾向にある。さらには、B2O3が特定量含まれていることにより、化学耐久性を維持しつつ、ガラスの軟化温度を下げる効果を得ることもできる。しかしながら、B2O3の含有量が10重量%未満のガラスでは前記の軟化温度を下げる効果が小さく、ガラスの加工性(加工のし易さ)が改善されない場合がある。一方、B2O3の含有量が30重量%を超えると、SiO2とB2O3が分離し易くなってガラスの使用自体が難しくなる傾向となる。
【0081】
また、本発明の一態様に係るデュワー瓶は、前記不純物は、P、B、AlおよびAsの少なくともいずれか1種の原子であってもよい。前記構成によれば、シリコンにP、B、AlおよびAsの少なくともいずれか1種の原子が含まれているか否かを、従来の測定用デュワー瓶に比べて真空引き作業者の大幅な負担軽減および真空引き費用の大幅な削減が可能なデュワー瓶で測定することができる。
【0082】
前記の課題を解決するために、本発明の一態様に係るフォトルミネッセンス測定装置は、前記のいずれかの態様に係るデュワー瓶を備えている。前記構成によれば、本発明の一態様に係るフォトルミネッセンス測定装置は、従来の測定用デュワー瓶に比べて真空引き作業者の大幅な負担軽減および真空引き費用の大幅な削減が可能であり、耐久性も向上したデュワー瓶を備えている。そのため、本発明の一態様に係るフォトルミネッセンス測定装置を用いて液体ヘリウム中のシリコンに含まれる不純物の濃度測定を行えば、測定関係者の負担を大幅に軽減でき、かつデュワー瓶のメンテナンス費用を大幅に削減することができる。
【0083】
前記の課題を解決するために、本発明の一態様に係る濃度測定方法は、シリコンに含まれる不純物の濃度を測定する濃度測定方法であって、SiO2の含有量が65重量%以上75重量%以下であり、かつ、ガラスの温度が20℃以上300℃以下の場合における平均熱膨張率が25×10-7/℃以上55×10-7/℃以下の前記ガラスで形成されたデュワー瓶に、液体ヘリウムと前記シリコンとを収容して、前記不純物の濃度をフォトルミネッセンス法によって測定する。前記構成によれば、本発明の一態様に係るフォトルミネッセンス測定装置と同様の効果を奏する。
【0084】
前記の課題を解決するために、本発明の一態様に係るシリコンの製造方法は、SiO2の含有量が65重量%以上75重量%以下であり、かつ、ガラスの温度が20℃以上300℃以下の場合における平均熱膨張率が25×10-7/℃以上55×10-7/℃以下の前記ガラスで形成されたデュワー瓶に、液体ヘリウムとシリコンとを収容して、前記シリコンに含まれる不純物の濃度を測定する濃度測定工程を含んでいる。
【0085】
前記構成によれば、本発明の一態様に係るシリコンの製造方法は濃度測定工程を含んでいる。濃度測定工程では、液体ヘリウム中のシリコンに含まれる不純物の濃度測定を、従来の測定用デュワー瓶に比べて真空引き作業者の大幅な負担軽減および真空引き費用の大幅な削減が可能なデュワー瓶を用いて行う。そのため、シリコンの製造を、製造関係者の負担を軽減しつつ低コストで行うことができる。
【0086】
〔付記事項〕
本発明は上述した実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、上述した実施形態に開示された種々の技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても、本発明の技術的範囲に含まれる。
【0087】
〔実施例〕
以下、本発明の実施例に係る測定用デュワー瓶1を用いた、フォトルミネッセンス法による試料4中の不純物の濃度測定について、本発明の比較例に係る測定用デュワー瓶と比較しつつ説明する。なお、本発明の比較例に係る測定用デュワー瓶も、内筒デュワー瓶と外筒デュワー瓶(ともに不図示)との二重構造になっている。本発明の比較例に係る内筒デュワー瓶および外筒デュワー瓶は、ガラスの成分および平均熱膨張率以外、本発明の実施例に係る内筒デュワー瓶2および外筒デュワー瓶3と同様の構成である。
【0088】
<ガラスの組成および平均熱膨張率>
本発明の実施例1~3に係る測定用デュワー瓶1、および本発明の比較例1~3に係る測定用デュワー瓶のそれぞれについて、形成材料となるガラスの成分および平均熱膨張率を下記の表1に示す。なお、ガラスの組成成分(SiO2等)は、波長分散型蛍光X線分析装置(WDX)を用いた検量線法によって求めた。また、ガラスの平均熱膨張率は、当該ガラスの温度が20~300℃の場合の平均熱膨張係数を、熱機械分析装置(TMA)を用いて測定した。
【0089】
【表1】
本発明の実施例1~3に係る測定用デュワー瓶1はすべて、内筒デュワー瓶2が、上記の表1におけるガラスBを用いて作製されたものであった。一方、本発明の比較例1~3に係る測定用デュワー瓶はすべて、内筒デュワー瓶が、上記の表1におけるガラスAを用いて作製されたものであった。なお、下記の実施例1~3のすべてにおいて、最初(1回目)の濃度測定では、内筒デュワー瓶2の真空(断熱)層の真空度および外筒デュワー瓶3の真空(断熱)層の真空度が1×10
-4Paになっている測定用デュワー瓶1を使用した。このことは、下記の比較例1~3の測定用デュワー瓶にも当てはまる。
【0090】
<実施例1~3>
本発明の実施例1に係る外筒デュワー瓶3は、上記の表1におけるガラスAで作製されたものであった。前記のガラスAで作製された外筒デュワー瓶3を備えた測定用デュワー瓶1を用いて、サンプルホルダ111に試料4を36枚セットして、最初(1回目)の濃度測定を行った。最初の濃度測定の終了後、内筒デュワー瓶2の真空(断熱)層の真空度を測定した。測定した結果、内筒デュワー瓶2の真空(断熱)層の真空度が1×10-4Paのままであることが判明した。よって、前記の〔真空引き工程〕の欄で説明した真空引き作業を行うことなく、2回目の濃度測定を行うことができた。
【0091】
本発明の実施例2に係る測定用デュワー瓶1は、本発明の実施例1に係る測定用デュワー瓶1と同じものを使用した。そして、サンプルホルダ111に試料4を36枚セットして、最初(1回目)の濃度測定を行った。以降、前記の〔多結晶シリコン中の不純物の濃度測定方法〕の欄で説明した各工程を一日一回実施し、3ヶ月(約75回)繰り返した。最後の濃度測定の終了後、内筒デュワー瓶2の真空(断熱)層の真空度を測定した。測定した結果、内筒デュワー瓶2の真空(断熱)層の真空度が1×10-4Paのままであることが判明した。また、すべての回の濃度測定において、その前後で内筒デュワー瓶2の真空(断熱)層の真空度は1×10-4Paのままであった。よって、最初の濃度測定の終了後から最後の濃度測定の終了後まで、真空引き作業を行う必要はなかった。
【0092】
本発明の実施例3に係る外筒デュワー瓶3は、上記の表1におけるガラスBで作製されたものであった。そして、実施例2と同様の操作を行った。内筒デュワー瓶2の真空(断熱)層の真空度の測定結果も、実施例2と同様であった。つまり、実施例3においても、最初の濃度測定の終了後から最後の濃度測定の終了後まで、真空引き作業を行う必要はなかった。
【0093】
<比較例1~3>
(比較例1)
本発明の比較例1に係る外筒デュワー瓶は、上記の表1におけるガラスAで作製されたものであった。前記のガラスAで作製された外筒デュワー瓶を備えた測定用デュワー瓶を用いて、サンプルホルダ111に試料4を36枚セットして、最初(1回目)の濃度測定を行った。最初の濃度測定の終了後、内筒デュワー瓶の真空(断熱)層の真空度を測定した。測定した結果、内筒デュワー瓶の真空(断熱)層の真空度が6×10-2Paに低下していることが判明した。そのため、前記の〔真空引き工程〕の欄で説明した真空引き作業を行った。
【0094】
次に、真空引き作業を行って内筒デュワー瓶の真空(断熱)層の真空度が再び1×10-4Paになった測定用デュワー瓶を用いて、2回目の濃度測定を行った。1回目の濃度測定に要した作業時間は約5時間30分であった。また、真空引き作業に要した時間は約2時間50分であった。さらに、2回目の濃度測定に要した作業時間は約5時間40分であった。
【0095】
(比較例2)
本発明の比較例2に係る測定用デュワー瓶は、本発明の比較例1に係る測定用デュワー瓶と同じものを使用した。そして、サンプルホルダ111に試料4を36枚セットして、最初(1回目)の濃度測定を行った。最初の濃度測定の終了後、内筒デュワー瓶の真空(断熱)層の真空度を測定した。測定した結果、内筒デュワー瓶の真空(断熱)層の真空度が6×10-2Paに低下していることが判明した。
【0096】
ここで、真空引き作業を行うことなく2回目の濃度測定を行ったところ、測定開始から15分経過後、内筒デュワー瓶内の液体ヘリウム5の液面が試料4よりも下側に変位した。そのため、この変位以降は2回目の濃度測定の続行が不可能になった。結果、2回目の濃度測定の続行が不可能になった時点で4枚の試料4の測定しかできなかった。これは、2回目の濃度測定の開始時点で内筒デュワー瓶の真空(断熱)層の真空度が低かったため、断熱効果が低下して液体ヘリウム5の蒸発速度が速まり、結果、液体ヘリウム5の液面が急速に下側に変位したためと考えられる。
【0097】
(比較例3)
本発明の比較例3に係る外筒デュワー瓶は、上記の表1におけるガラスBで作製されたものであった。そして、比較例2と同様の操作を行った。最初の濃度測定の終了後、内筒デュワー瓶の真空(断熱)層の真空度を測定した。測定した結果、内筒デュワー瓶の真空(断熱)層の真空度が7×10-2Paに低下していることが判明した。
【符号の説明】
【0098】
2 内筒デュワー瓶(デュワー瓶)
4 試料(シリコン)
5 液体ヘリウム
100 フォトルミネッセンス測定装置
S2 加工/検査工程(濃度測定工程)
【要約】
シリコンに含まれる不純物の濃度を液体ヘリウム中でフォトルミネッセンス法によって測定するときに、真空引き作業者の負担の大幅軽減および真空引き費用の大幅削減を図る。内筒デュワー瓶(2)の形成材料であるガラスは、SiO2の含有量が65重量%以上75重量%以下であり、かつ、前記ガラスの温度が20℃以上300℃以下の場合における平均熱膨張率が25×10-7/℃以上55×10-7/℃以下である。