(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2021-12-22
(45)【発行日】2022-01-18
(54)【発明の名称】積層配線膜およびその製造方法ならびにMo合金スパッタリングターゲット材
(51)【国際特許分類】
H01L 21/285 20060101AFI20220111BHJP
C23C 14/34 20060101ALI20220111BHJP
C23C 14/14 20060101ALI20220111BHJP
H01L 21/28 20060101ALI20220111BHJP
H01L 21/3205 20060101ALI20220111BHJP
H01L 21/768 20060101ALI20220111BHJP
H01L 23/532 20060101ALI20220111BHJP
H01B 5/14 20060101ALI20220111BHJP
H01B 13/00 20060101ALI20220111BHJP
C22C 9/00 20060101ALI20220111BHJP
C22C 21/00 20060101ALI20220111BHJP
C22C 5/06 20060101ALI20220111BHJP
C22C 27/04 20060101ALI20220111BHJP
H01B 1/02 20060101ALI20220111BHJP
【FI】
H01L21/285 S
C23C14/34 A
C23C14/14 G
H01L21/28 301R
H01L21/88 R
H01B5/14 A
H01B5/14 B
H01B13/00 503B
H01B13/00 503D
C22C9/00
C22C21/00 A
C22C5/06 Z
C22C27/04 102
H01B1/02 Z
(21)【出願番号】P 2017222537
(22)【出願日】2017-11-20
【審査請求日】2020-10-14
(31)【優先権主張番号】P 2016252954
(32)【優先日】2016-12-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000005083
【氏名又は名称】日立金属株式会社
(72)【発明者】
【氏名】村田 英夫
【審査官】佐藤 靖史
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-027195(JP,A)
【文献】特表2016-502592(JP,A)
【文献】特開2000-214309(JP,A)
【文献】特表2016-522317(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/285
C23C 14/34
C23C 14/14
H01L 21/28
H01L 21/3205
H01B 5/14
H01B 13/00
C22C 9/00
C22C 21/00
C22C 5/06
C22C 27/04
H01B 1/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
透明基板の直上または透明膜が形成された透明基板の直上に、膜厚が30~70nmで、Mo合金からなる中間膜が形成され、該中間膜の直上に比抵抗が15μΩ・cm以下の導電膜が形成された積層構造を有し、前記透明基板側から測定した可視光反射率が15%以下であ
り、前記Mo合金が、金属成分として、TiおよびNbから選択される一種以上の元素を合計で5~20原子%、Niを1~30原子%含有し、Ti、V、Nb、Ta、Ni、CoおよびFeから選択される一種以上の元素を合計で5~50原子%含有し、残部がMoおよび不可避的不純物からなることを特徴とする積層配線膜。
【請求項2】
前記導電膜が、Al、Cu、Agのいずれか一種、またはAl、Cu、Agのいずれか一種に遷移金属および半金属から選択される元素を合計で5原子%以下含有したAl合金、Cu合金、Ag合金のいずれか一種からなり、膜厚が50~500nmであることを特徴とする請求項1に記載の積層配線膜。
【請求項3】
請求項1に記載の中間膜を形成するためのスパッタリングターゲット材であって、
TiおよびNbから選択される一種以上の元素を合計で5~20原子%、Niを1~30原子%含有し、Ti、V、Nb、Ta、Ni、CoおよびFeから選択される一種以上の元素を合計で5~50原子%含有し、残部がMoおよび不可避的不純物からなるMo合金スパッタリングターゲット材。
【請求項4】
請求項1に記載の積層配線膜の製造方法であって、前記中間膜は、酸素および窒素から選択される少なくとも一方を10~90体積%含有する雰囲気で、請求項
3に記載のMo合金スパッタリングターゲット材を用いてスパッタリング法により形成することを特徴とする積層配線膜の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、低い反射率という特性が要求される、例えば、平面表示素子用の電極膜または配線膜に用いられる導電膜と中間膜で構成される積層配線膜およびその製造方法ならびに上記中間膜を形成するためのMo合金スパッタリングターゲット材に関するものである。
【背景技術】
【0002】
透明なガラス基板等の上に薄膜デバイスを形成する液晶ディスプレイ(以下、「LCD」という。)、プラズマディスプレイパネル(以下、「PDP」という。)、電子ペーパー等に利用される電気泳動型ディスプレイ等の平面表示装置(フラットパネルディスプレイ、以下、「FPD」という。)は、大画面、高精細、高速応答化に伴い、その配線膜には低い電気抵抗値(以下、「低抵抗」という。)が要求されている。そして、近年、FPDに操作性を加えるタッチパネル、あるいは透明な樹脂基板や極薄ガラス基板を用いたフレキシブルなFPD等、新たな製品が開発されている。
【0003】
近年、FPDの駆動素子として用いられている薄膜トランジスタ(Thin FilmTransistor:以下、「TFT」という。)の配線膜は、上記の高性能化を達成するために低い電気抵抗値が必要であり、導電膜の材料としてAlやCuが用いられている。
現在、TFTには、Si半導体膜が用いられており、導電膜材料であるAlやCuは、Siに直接触れると、TFT製造中の加熱工程により熱拡散して、TFTの特性を劣化させる場合がある。このため、AlやCuの導電膜と半導体膜のSiの間には、耐熱性に優れた純MoやMo合金等の金属膜をバリア(中間)膜として設けた積層配線膜が用いられている。
【0004】
FPDの画面を見ながら直接的な操作性を付与するタッチパネル基板画面も大型化が進んでおり、スマートフォンやタブレットPC、さらにデスクトップPC等においてもタッチパネル操作を行う製品が普及しつつある。このタッチパネルの位置検出電極には、一般的に透明導電膜であるインジウム-スズ酸化物(Indium Tin Oxide:以下、「ITO」という。)膜が用いられている。
近年、多点検出が可能な静電容量式のタッチパネルでは、四角形のITO膜を配置した通称ダイヤモンド配置となっており、四角形のITO膜を接続する電極や配線膜にも上記の金属膜が用いられている。この金属膜には、ITO膜とのコンタクト性が得られやすいMo合金やMo合金とAlの積層配線膜が用いられている。
【0005】
本発明者は、耐熱性、耐食性や基板との密着性に優れた低抵抗な金属膜として、特許文献1で、Moに3~50原子%のVやNbを含有させ、さらにNiやCuを添加した金属膜を提案している。
一方、低抵抗なCuからなる導電膜の表面を保護するために、例えば、特許文献2や特許文献3では、金属膜としてNi-Cu合金で被覆した積層配線膜が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2004-140319号公報
【文献】特開2011-52304号公報
【文献】特開2006-310814号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
近年主流となっているフルハイビジョンの代替となる、4倍の画素を有する大型の4K-TVや、視点から数10cm程度という近距離で表示画面を操作するスマートフォンでは、高精細化が進んでいる。この高精細化に伴い、入射光による金属膜の反射が表示品質を低下させるという新たな問題が顕在化するようになってきた。このため、金属膜には低い反射率を有するという特性(以下、「低反射」という。)の要求が急速に高まりつつある。
【0008】
また、平面表示素子の導電膜に用いられているAl膜は、可視光域において90%以上の高い反射率を持つ金属である。また、同じく平面表示素子の導電膜に用いられているCu膜は、可視光域で70%の反射率を有し、600nm以上の長波長域ではAg膜と同等の95%以上の高い反射率を有する。
一方、これらの導電膜を保護するために積層される中間膜となるMo膜やMo合金膜は、60%程度の反射率を有している。これらの中間膜は、平面表示素子の製造プロセスを経ても反射率はほとんど変化しないため、中間膜の反射が特に高精細な表示装置においては表示品質を低下させる要因となっている。このため、上記のような高精細化される表示装置においては、反射率が15%以下となる、より低反射な積層配線膜が要求されている。
【0009】
以上のように、これまで種々の材質を用いた配線膜や積層配線膜が開発されているところ、これらの特許文献では、導電膜や中間膜としてのバリア性や保護性能に注目して検討されており、今後の高精細な表示装置に対応するために必要な低反射という新たな特性に関しては、何ら検討されていなかった。
【0010】
本発明の目的は、高精細な平面表示素子の表示品質を向上させるために必要な、電極または配線膜の低反射の要求に対応できる積層配線膜およびその製造方法、ならびに低反射の中間膜を担うMo合金膜を形成するためのMo合金スパッタリングターゲット材を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者は、上記課題に鑑み、平面表示素子やタッチパネルの製造工程において、低反射という新たな特性を得るために、種々の合金膜および積層膜を検討した。その結果、Mo合金からなる中間膜と導電膜とを透明基板の直上または透明膜を形成した透明基板の直上に積層することで、低反射の積層配線膜が得られることを見出し、本発明に到達した。
【0012】
すなわち、本発明は、透明基板の直上または透明膜が形成された透明基板の直上に、膜厚が30~70nmで、Mo合金からなる中間膜が形成され、該中間膜の直上に比抵抗が15μΩ・cm以下の導電膜が形成された積層構造を有し、前記透明基板側から測定した可視光反射率が15%以下である積層配線膜の発明である。
前記導電膜は、Al、Cu、Agのいずれか一種、またはAl、Cu、Agのいずれか一種に遷移金属および半金属から選択される元素を合計で5原子%以下含有したAl合金、Cu合金、Ag合金のいずれか一種からなり、膜厚が50~500nmであることが好ましい。
前記中間膜は、金属成分として、Ti、V、Nb、Ta、Ni、CoおよびFeから選択される一種以上の元素を合計で5~50原子%含有し、残部がMoおよび不可避的不純物からなることが好ましい。
また、前記中間膜は、TiおよびNbから選択される一種以上の元素を合計で5~20原子%含有することが好ましい。
また、前記中間膜は、Niを1~30原子%含有することが好ましい。
【0013】
本発明は、前記中間膜を形成するためのMo合金スパッタリングターゲット材であって、Ti、V、Nb、Ta、Ni、CoおよびFeから選択される一種以上の元素を合計で5~50原子%含有し、残部がMoおよび不可避的不純物からなるMo合金スパッタリングターゲット材の発明である。
前記Mo合金スパッタリングターゲット材は、TiおよびNbから選択される一種以上の元素を合計で5~20原子%含有することが好ましい。
前記Mo合金スパッタリングターゲット材は、Niを1~30原子%含有することが好ましい。
また、前記の中間膜は、酸素および窒素から選択される少なくとも一方を10~90体積%含有する雰囲気で、上記に記載のMo合金スパッタリングターゲット材のいずれかを用いてスパッタリング法により形成することができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明の積層配線膜は、従来の積層配線膜では得られなかった低い反射率を達成できるため、例えばFPD等の表示品質を向上させることが可能となる。このため、より高精細なFPDとして注目されている、例えば4K-TVやスマートフォン、あるいはタブレットPC等の次世代情報端末や透明樹脂基板を用いるフレキシブルなFPDに対して非常に有用な技術となる。これらの製品では特に積層配線膜の低反射化が非常に重要なためである。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本発明の積層配線膜の適用例を示す断面模式図。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明の積層配線膜の適用例を
図1に示す。本発明の積層配線膜は、例えば、透明基板1の直上に中間膜2が形成され、この中間膜2の直上に導電膜3が形成される。
そして、本発明の重要な特徴の一つは、例えば、ガラス基板のような透明基板の直上、または、例えば、透明樹脂フィルム等の透明膜が形成された透明基板の直上に形成する中間膜にMo合金を採用し、その膜厚を30~70nmとした点にある。また、本発明のもう一つの重要な特徴は、上記中間膜の直上に、比抵抗が15μΩ・cm以下の導電膜が形成され、積層構造にする点にある。さらに、本発明のもう一つの重要な特徴は、透明基板側から測定した可視光反射率が15%以下である点にある。以下、本発明の各特徴について詳細に説明する。
なお、以下の説明において、「反射率」とは、可視光域である波長360~740nmの範囲の平均反射率をいう。
【0017】
本発明の積層配線膜において、中間膜の膜厚が30nm未満では、上層の導電膜で光が反射してしまい、可視光域の長波長側である600nm以上での反射率が十分に低下せず赤っぽい色調となり低反射特性を得にくくなる。また、中間膜の膜厚が70nmを越えると短波長側の500nm以下での反射率が十分に低下せず、青っぽい色調となり低反射特性を得にくくなる。透明基板側から測定した可視光域で反射率を15%以下にするには、中間膜の膜厚は30~70nmとする。さらに、より望ましい可視光域での反射率の変化が少ない青黒い色調とし、10%以下の低反射膜とするには、中間膜の膜厚を40~60nmの範囲にすることが好ましい。
【0018】
本発明の積層配線膜における中間膜の直上に形成する導電膜の比抵抗は、できるだけ低い方が望ましく、その値を15μΩ・cm以下とする。
本発明は、上記の中間膜と導電膜を最適な膜厚構成で積層することにより、より低反射な特性を有する積層配線膜とすることが可能となる。導電膜としては、低抵抗が得られる例えば、Al、Cu、Agのいずれか一種、またはAl、Cu、Agのいずれか一種に遷移金属および半金属から選択される元素を合計で5原子%以下含有したAl合金、Cu合金、Ag合金のいずれか一種からなることが好ましい。これは、要求される電気抵抗値や製造工程における加熱工程の温度や雰囲気、他の酸化膜や保護膜との密着性、バリア性等を考慮して適宜選択できる。
【0019】
Alは、透明基板上に透明膜としてITO膜が形成されていて、中間膜を形成しない場合、透明導電膜であるITO膜と積層して加熱工程を経ると、界面にAlの酸化物を生成してしまい、電気的コンタクト性が低下する場合がある。このため、ITO膜とのコンタクト性に優れるMo合金からなる中間膜をAlの導電膜とITO膜との間に形成することが好ましい。
また、Cuは、Alより電気抵抗値が低く好適である。
また、Agは、高価な材料である反面、Cuと同程度の低抵抗を有しながらCuの欠点である耐酸化性、耐湿性に優れ、ITO膜とのコンタクト性も有するため、簡便な導電膜として好適である。
【0020】
Moは、FPDで適用可能な上述のAl合金等の導電膜に用いるエッチャント等でエッチングされやすい反面、耐湿性と耐酸化性が低い。
Ti、V、Nb、Ta、Ni、CoおよびFeは、Moに含有させてMo合金にすることで、耐湿性や耐酸化性を改善する効果を持つ元素である。この効果は、Moに、Ti、V、Nb、Ta、Ni、CoおよびFeから選択される一種以上の元素を合計で5原子%以上含有させることで明確となり、含有量の増加とともに顕著となる。このため、中間膜は、Moに、Ti、V、Nb、Ta、Ni、CoおよびFeから選択される一種以上の元素を合計で5原子%以上含有することが好ましい。
一方、これら元素の合計の含有量を増加し過ぎると、エッチング性が低下する場合がある。このため、上記のエッチャント等によるエッチング性を考慮すると、中間膜は、Moに、Ti、V、Nb、Ta、Ni、CoおよびFeから選択される一種以上の元素を合計で50原子%以下含有することが好ましい。
【0021】
また、中間膜は、TiおよびNbから選択される一種以上の元素を合計で5~20原子%含有することが好ましい。TiおよびNbは、窒素と結合しやすいため、中間膜を容易に半透過着色膜にすることが可能な元素であり、低反射特性および耐湿性の改善と、エッチング性の確保を少ない含有量で実現できる。この改善効果は、TiおよびNbから選択される一種以上の元素の合計が5原子%以上で明確となる。
一方、TiおよびNbから選択される一種以上の元素の合計が20原子%を越えると、エッチング性が低下する場合がある。このため、中間膜は、TiおよびNbから選択される一種以上の元素を合計で5~20原子%の範囲で含有することが好ましい。また、上記と同様の理由から、上記の元素の合計は、10~20原子%の範囲がより好ましい。
【0022】
また、中間膜は、Niを1~30原子%含有することが好ましい。Niは、Mo合金のドライエッチング耐性を大きく向上できるとともに、耐酸化性の向上に寄与する元素であることに加え、Cuの導電膜を用いたときのエッチャントに対してエッチング性を改善できる。その反面、中間膜のNiの含有量が多過ぎると、低反射特性を得にくくなるとともに、Alの導電膜を用いて250℃以上に加熱した場合は、NiがAlに熱拡散しやすくなる。
また、Niによるドライエッチング耐性の改善効果は、Niの含有量が1原子%から現れ、耐酸化性の改善効果は、Niの含有量が5原子%から明確となる。
一方、Niの含有量が30原子%を越えると、低反射特性を得にくくなる場合がある。このため、中間膜は、Niを1~30原子%の範囲で含有することが好ましい。また、上記と同様の理由から、より好ましいNiの下限は、5原子%であり、より好ましいNiの上限は20原子%である。
【0023】
また、中間膜に含有することができるTaは、中間膜の膜応力を圧縮側に変化できる元素であり、特にフィルム基板等に中間膜を形成した場合に膜面が凹状になる、すなわち引張応力となる場合に、その応力を緩和できる元素である。その効果は、Taの含有量が3原子%から現れる。また、Taは、窒素と結合しやすいため、中間膜を容易に半透過着色膜とすることが可能な元素であるが、重く高価な元素であるため、できる限り少ない含有量とすることが好ましい。
また、中間膜に含有することができるFeは、安価な元素であるが、半導体膜であるSiに拡散すると特性を劣化させる元素である。中間膜にFeを含有させる場合は、タッチパネル等の用途に好適となる。
【0024】
導電膜の膜厚は、50~500nmであることが好ましい。導電膜の電気導電性や光透過性は選択される材質により異なるところ、膜厚が50nm未満では、導電膜の連続性が低くなってしまい、電子散乱の影響により電気抵抗値が増加しやすくなるとともに、透過光が増加する場合があり、低反射を得にくい。このため、安定した低反射特性を得るには、導電膜の膜厚を透過光が減少する50nm以上にすることがより好ましい。
一方、導電膜の膜厚が500nmを越えると、形成する際に時間が掛かるとともに、透明なフィルム基板等に適用した場合は、膜応力により反りが発生しやすくなる。
また、導電膜の膜表面における電子散乱の影響による電気抵抗値の増加を緩和し、安定した低抵抗を得るには、導電膜の膜厚は100nm以上にすることがより好ましい。
【0025】
上述した中間膜を形成する手法としては、Mo合金スパッタリングターゲット材を用いたスパッタリング法が最適である。スパッタリング法は、物理蒸着法の一つであり、他の真空蒸着やイオンプレーティングに比較して、安定して大面積を形成できる方法であるとともに、組成変動が少ない、優れた薄膜が得られる有効な手法である。
【0026】
また、本発明の積層配線膜の製造方法において、中間膜を形成するために、Mo合金スパッタリングターゲット材を用いてスパッタリングする際、窒素を含有する雰囲気中でスパッタリングすることが好ましい。これによって、中間膜を、導電膜と積層した際に、光を吸収しやすい半透過着色膜とすることができる。
そして、この窒素を含有する雰囲気は、通常スパッタガスに用いる不活性ガスであるAr以外に、窒素を特定量含むスパッタガスを用いた反応性スパッタ法を用いることで形成できる。
【0027】
反応性スパッタ法を用いる場合、スパッタガスを構成するArと窒素の含有比率を合計で100体積%としたときに、スパッタガスの窒素の含有比率は、10~90体積%の範囲とすることが好ましい。この範囲とすることにより、透明基板側から測定した可視光反射率が15%以下の積層配線膜を得やすい。好ましい窒素の含有比率の下限は20体積%であり、さらに好ましい下限は40体積%である。また、好ましい窒素の含有比率の上限は80体積%であり、さらに好ましい上限は60体積%である。
また、スパッタガスを構成する窒素の一部を酸素に置換することで、中間膜の密着性を向上させることも可能であるが、酸素を含有させる場合、酸素の含有量が窒素の含有量を越えると、中間膜が透過してしまい、低反射を得にくくなる場合がある。このため、スパッタガスへの酸素の含有量は、窒素の含有量よりも少なくすることが好ましい。
【0028】
また、上記した中間膜の反応性スパッタ法において、投入電力は、スパッタ時に印加する電力の値をスパッタリングターゲットのスパッタ面の面積値で除した値を電力密度とし、これを指標とすることが望ましい。そして、その電力密度は、2~6W/cm2の範囲にすることが好ましい。電力密度が2W/cm2未満では、成膜速度が遅くなるとともに、放電が不安定となりやすくなり、安定した中間膜の形成が行ない難くなる。
一方、電力密度が6W/cm2を越えると、低反射な中間膜を得難くなる。これは、反応性スパッタでは、スパッタリングターゲットの粒子が反応ガスと反応した後にスパッタされると考えられるが、電力密度が高くなると、反応したスパッタリングターゲットの粒子がArで再度分解されてスパッタされ、膜中に取り込まれ難くなるためと考えられる。
【0029】
また、本発明の積層配線膜におけるMo合金からなる中間膜は、上記した製造方法によれば、Mo合金に窒素を含有したものとなることが好ましいものと考えられる。ただし、中間膜における窒素の含有量を正確に特定することは容易ではないため、具体的な窒素の含有量を明確に定めることはできない。
しかしながら、発明者の推察によれば、中間膜に含まれる窒素の含有量は、2~60原子%が好ましいと考えられる。更に好ましい下限は3原子%であり、更に好ましい上限は30原子%である。この好ましい範囲とすることにより、透明基板側から測定した可視光反射率が15%以下の積層配線膜を得やすい。
また、中間膜を、導電膜と積層した際に、光を吸収しやすい半透過着色膜とすることが好ましい。
【0030】
本発明の積層配線膜を構成する中間膜を形成するためのMo合金スパッタリングターゲット材は、上述した中間膜を形成するために、金属成分としてTi、V、Nb、Ta、Ni、CoおよびFeから選択される一種以上の元素を合計で5~50原子%含有し、残部がMoおよび不可避的不純物からなるMo合金とすることが好ましい。
また、Mo合金スパッタリングターゲット材に含有する元素として、Ti、V、Nb、Taは、周期律表において、Moの周辺元素であり、Moと容易に合金化する元素である。中でも、工業的な元素単価と入手性等を考慮すると、TiおよびNbから選択される一種以上の元素を5~20原子%の範囲で含有することが好ましい。また、上記と同様の理由から、上記の元素の合計は、10~20原子%の範囲がより好ましい。
また、Mo合金スパッタリングターゲット材に含有する元素として、Ni、Co、Feは、単独で磁性体元素である。そして、スパッタリングターゲット材の利用効率を向上させるには、Moとこれら元素を合金化し、キュリー点を低下させて、常温において非磁性とし、Mo合金スパッタリングターゲット材中に存在させることが好ましい。中でも、飽和磁束密度が低く、非磁性化しやすいNiは、1~30原子%の範囲で含有することが好ましい。そして、上記と同様の理由から、Niは、5~20原子%の範囲がより好ましい。
【0031】
本発明の積層配線膜を構成する中間膜を形成するためのMo合金スパッタリングターゲット材の製造方法としては、例えば、粉末焼結法が適用可能である。Moは、高融点な金属であるため、Mo粉末と、例えば、ガスアトマイズ法で添加元素を含有する合金粉末を製造して原料粉末とすることや、複数の合金粉末や純金属粉末を本発明の最終組成となるように混合した混合粉末を原料粉末とすることが可能である。
原料粉末の焼結方法としては、熱間静水圧プレス、ホットプレス、放電プラズマ焼結、押し出しプレス焼結等の加圧焼結を用いることが可能である。
本発明の積層配線膜を構成する中間膜を形成するためのMo合金スパッタリングターゲット材において、不可避的不純物の含有量は少ないことが好ましい。そして、本発明のMo合金スパッタリングターゲット材は、本発明の作用を損なわない範囲で、ガス成分である酸素、窒素や炭素、遷移金属であるCu、半金属のAl、Si等の不可避的不純物を含んでもよい。
ここで、各主要構成元素は、主要構成元素全体に対する原子%、主要構成元素以外の不可避的不純物は、Mo合金スパッタリングターゲット材全体における質量ppmで表わす。例えば、炭素は200質量ppm以下、Cuは200質量ppm以下、Al、Siはそれぞれ100質量ppm以下等であり、ガス成分を除いた純度として99.9質量%以上であることが好ましい。
【実施例1】
【0032】
まず、中間膜を形成するためスパッタリングターゲット材を作製した。平均粒径が6μmのMo粉末と、平均粒径が85μmのNb粉末と、平均粒径が150μmのTi粉末と、平均粒径が100μmのNi粉末を表1に示す組成となるように混合し、軟鋼製の缶に充填した後、加熱しながら真空排気して、缶内を脱ガスした後に缶を封止した。
次に、封止した缶を熱間静水圧プレス装置に入れて、1000℃、100MPa、5時間の条件で焼結させた後に、機械加工により、直径100mm、厚さ5mmのスパッタリングターゲット材を作製した。
また、比較例となるNi-Cu-Mo合金の中間膜を形成するために、原子比でNi-25%Cu-8%Moとなるように、Ni原料、Cu原料およびMo原料を秤量して、真空溶解炉にて溶解鋳造法によりインゴットを作製した。このインゴットを機械加工により、直径100mm、厚さ5mmのNi合金スパッタリングターゲット材を作製した。
【0033】
また、中間膜の直上に積層する導電膜としてAl膜およびAg膜を形成するために、直径100mm、厚さ5mmのAlおよびAgのスパッタリングターゲット材を準備した。Alスパッタリングターゲット材は、住友化学株式会社製のものを用い、Agスパッタリングターゲット材は、フルヤ金属株式会社製のものを用いた。また、導電膜としてCu膜を形成するためのCuスパッタリングターゲット材は、日立金属株式会社製の無酸素銅(OFC)の素材から切り出して作製した。また、ITOを形成するためのスパッタリングターゲット材は、JX金属株式会社製のものを用いた。
【0034】
上記で準備した各スパッタリングターゲット材を銅製のバッキングプレートにろう付けして、株式会社アルバック製のスパッタリング装置(型式:CS-200)に取付けた。そして、25mm×50mmのガラス基板(製品番号:EagleXG)の直上に、表1に示すスパッタガスを用いて、各膜厚構成の中間膜および導電膜を形成して各試料を作製した。ここで、投入電力を200Wとしたときに、電力密度は2.6W/cm2となる。また、導電膜は、スパッタガスにArを用いて、投入電力500Wの条件で中間膜の直上に形成した。尚、試料No.8は、上記のガラス基板の直上に、厚さが100nmのITO膜を形成した。
得られた各試料について、反射率および比抵抗を測定した結果を表1に示す。尚、反射率の測定は、コニカミノルタ株式会社製の分光測色計(型式番号:CM2500d)を用いて、ガラス基板面側と導電膜面側から測定した。また、比抵抗の測定は、三菱油化株式会社製の薄膜抵抗率計(型式番号:MCP-T400)を用いて導電膜面側から測定した。
【0035】
【0036】
表1に示すように、本発明例となる積層配線膜は、透明なガラス基板側から測定した反射率が15%以下の低い反射率を有していることが確認できた。
【実施例2】
【0037】
次に、表1の試料No.5で作製した原子比でMo-15%Ni-15%TiからなるMo合金スパッタリングターゲット材を用いて、投入電力を200Wとし、スパッタガスのArと窒素の含有比率を表2に示す条件に変更して、各ガラス基板の直上に、膜厚50nmの中間膜を形成した。そして、その中間膜の直上に、導電膜となるAl膜を、スパッタガスにArを用いて、投入電力500Wの条件で形成した。
実施例1と同様の方法で反射率および比抵抗を測定した。その結果を表2に示す。
【0038】
【0039】
表2に示すように、Arと窒素を含んだスパッタガスで形成したMo合金からなる中間膜の直上に導電膜を形成した本発明例となる積層配線膜は、透明なガラス基板側から測定した反射率が15%以下の低い反射率を有していることが確認できた。
また、試料No.5、No.13~No.16に記載した組成の中間膜をそれぞれ200nm形成して、光電子分光装置(ESCA)であるKRATOS ANALYTICAL社製(型式:AXIS-HS)を用いて、中間膜中の窒素濃度を測定した結果、6~28原子%の窒素を含有しており、Mo2Nの解析チャートが確認された。
【実施例3】
【0040】
次に、表1のNo.5で作製した原子比でMo-15%Ni-15%TiからなるMo合金スパッタリングターゲット材を用いて、Arと窒素の含有比率が50体積%のスパッタガスを用いて、投入電力を200Wとして、各ガラス基板の直上に、表3に示す膜厚で中間膜を形成した。そして、その中間膜の直上に、導電膜となるAl膜を、スパッタガスにArを用いて、投入電力500Wの条件で形成した。実施例1と同様の方法で反射率および比抵抗を測定した。その結果を表3に示す。
【0041】
【0042】
表3の試料No.18に示すように、中間膜の膜厚が20nmになると、15%以下の低い反射率が得られないことが確認された。一方、本発明例となる積層配線膜は、中間膜の膜厚が30~70nmの範囲で、15%以下の低反射であることが確認できた。ここで、最も反射率の低下する中間膜の膜厚は、50nm付近であることがわかる。
【実施例4】
【0043】
次に、表4に示す中間膜の組成となるように、実施例1と同様の製法で試料No.25~試料No.32のスパッタリングターゲット材を作製した。また、導電膜であるAl合金、Cu合金、Ag合金のスパッタリングターゲット材は、真空溶解法にて、原子比でAl-0.6Nd、Cu-3Ti、Ag-0.3Smとなる各合金のインゴットを作製し、このインゴットを直径100mm、厚さ5mmとなるように機械加工してスパッタリングターゲット材を作製した。
これらのスパッタリングターゲット材を用いて、表4に示すスパッタガスの体積比率となるように調整し、投入電力を200Wとし、各基板の直上に、膜厚50nmの中間膜を形成した。そして、この中間膜の直上に、スパッタガスにArを用いて、表4に示す各導電膜を形成した。ここで、基板は、実施例1~実施例3と同様のガラス基板を用いた他、試料No.28は、厚さ0.5mmのPC基板(透明ポリカーボネート:PC)を用い、試料No.29は、厚さ100μmのPETフィルム基板(透明ポリエチレンテレフタレート:PET)を用いた。
上記で得た各試料について、実施例1と同様の方法で反射率および比抵抗を測定した。その結果を表4に示す。
【0044】
【0045】
表4に示すように、スパッタガスとしてArのみで中間膜を形成した比較例となる試料No.25や、添加元素量が多く、スパッタガスとして酸素のみで中間膜を形成した試料No.32は、低反射率が得られないことが確認された。
これに対して、本発明例となる試料No.26~試料No.31は、低反射と低抵抗を有する積層配線膜であることが確認できた。
【符号の説明】
【0046】
1.透明基板
2.中間膜
3.導電膜