(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2021-12-22
(45)【発行日】2022-01-18
(54)【発明の名称】グルコース検出用蛍光ゲル及びそれを用いた連続的グルコースモニタリング方法
(51)【国際特許分類】
G01N 21/78 20060101AFI20220111BHJP
G01N 21/64 20060101ALI20220111BHJP
C09K 11/06 20060101ALI20220111BHJP
【FI】
G01N21/78 C
G01N21/64 F
C09K11/06 680
(21)【出願番号】P 2017204079
(22)【出願日】2017-10-20
【審査請求日】2020-10-01
(31)【優先権主張番号】P 2017007188
(32)【優先日】2017-01-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成28年度 国立研究開発法人日本医療研究開発機構、医療分野研究成果展開事業、先端計測分析技術・機器開発プログラム委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受けるもの
(73)【特許権者】
【識別番号】504137912
【氏名又は名称】国立大学法人 東京大学
(74)【代理人】
【識別番号】100114188
【氏名又は名称】小野 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100119253
【氏名又は名称】金山 賢教
(74)【代理人】
【識別番号】100124855
【氏名又は名称】坪倉 道明
(74)【代理人】
【識別番号】100129713
【氏名又は名称】重森 一輝
(74)【代理人】
【識別番号】100137213
【氏名又は名称】安藤 健司
(74)【代理人】
【識別番号】100143823
【氏名又は名称】市川 英彦
(74)【代理人】
【識別番号】100151448
【氏名又は名称】青木 孝博
(74)【代理人】
【識別番号】100196483
【氏名又は名称】川嵜 洋祐
(74)【代理人】
【識別番号】100203035
【氏名又は名称】五味渕 琢也
(74)【代理人】
【識別番号】100185959
【氏名又は名称】今藤 敏和
(74)【代理人】
【識別番号】100160749
【氏名又は名称】飯野 陽一
(74)【代理人】
【識別番号】100160255
【氏名又は名称】市川 祐輔
(74)【代理人】
【識別番号】100202267
【氏名又は名称】森山 正浩
(74)【代理人】
【識別番号】100146318
【氏名又は名称】岩瀬 吉和
(74)【代理人】
【識別番号】100127812
【氏名又は名称】城山 康文
(72)【発明者】
【氏名】竹内 昌治
(72)【発明者】
【氏名】澤山 淳
【審査官】吉田 将志
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-59869(JP,A)
【文献】SHIBATA, Hideaki,Injectable hydrogel microbeads for fluorescence-based in vivo continuous glucose monitoring,PNAS,2010年10月19日,Vol.107/No.42,PP.17894-17898
【文献】酒井崇匡,Tetra-PEGゲルの機能,その機能を発現する架橋構造との相関,日本ゴム協会誌,2014年03月,Vol.87/Iss.3,PP.89-95
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 21/78
G01N 21/64
C09K 11/06
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリエチレングリコール骨格を有する複数の四分岐型ポリマーがそれらの末端で架橋した3次元網目構造を有するグルコース検出用蛍光ゲルであって、グルコースとの結合により蛍光応答を示す蛍光色素ユニットが共有結合によってゲル構造中に固定化されている、該グルコース検出用蛍光ゲル。
【請求項2】
前記四分岐型ポリマーが、末端に4個の求核性官能基を有する第1のポリマーと、末端に4個の求電子性官能基を有する第2のポリマーからなる、請求項1に記載のグルコース検出用蛍光ゲル。
【請求項3】
前記求核性官能基が、ヒドロキシル基、アミノ基及びチオール基よりなる群から選択され;前記求電子性官能基が、カルボキシル基、N-ヒドロキシ-スクシンイミジル(NHS)基、スルホスクシンイミジル基、マレイミジル基、フタルイミジル基、及びニトロフェニル基よりなる群から選択される、請求項2に記載のグルコース検出用蛍光ゲル。
【請求項4】
前記第1のポリマーが式(I)で表される構造を有し
【化1】
(式中、各mは、それぞれ同一又は異なる10~300であり、各Xは、R
1-NH
2又はR
1-SHであり、R
1はC
1-C
7アルキレン基である。);及び
前記第2のポリマーが式(II)で表される構造を有する
【化2】
(式中、各nは、それぞれ同一又は異なる10~300であり、各Yは、-CO-R
2-COO-NHS又はR
2-マレイミジル基であり、R
2はC
1-C
7アルキレン基である。)、
請求項2に記載のグルコース検出用蛍光ゲル。
【請求項5】
前記蛍光色素ユニットが蛍光団及び消光団を有しており;
グルコース非存在下では前記消光団により前記蛍光団が消光されているが、前記消光団がグルコースと結合することによって蛍光団が発光することにより蛍光応答を示す、請求項1~4のいずれか1に記載のグルコース検出用蛍光ゲル。
【請求項6】
前記蛍光団がアントラセンを有し、前記消光団がアリールボロン酸を有する、請求項5に記載のグルコース検出用蛍光ゲル。
【請求項7】
前記蛍光色素ユニットが末端に1又は複数のアミノ基を有し、当該アミノ基と前記四分岐型ポリマーとの共有結合によって前記ゲル構造中に固定化されている、請求項1~6のいずれか1に記載のグルコース検出用蛍光ゲル。
【請求項8】
前記蛍光色素ユニットが以下の式(III)又は(IV)で表される、
【化3】
【化4】
(式(IV)において、「PEG」は、ポリエチレングリコール鎖を表す。)
請求項1~7のいずれか1に記載のグルコース検出用蛍光ゲル。
【請求項9】
さらに抗酸化剤を含む、請求項1~8のいずれか1に記載のグルコース検出用蛍光ゲル。
【請求項10】
前記抗酸化剤が共有結合によって前記ゲル構造中に固定化されている、請求項1~9のいずれか1に記載のグルコース検出用蛍光ゲル。
【請求項11】
前記抗酸化剤が酵素である、請求項9又は10に記載のグルコース検出用蛍光ゲル。
【請求項12】
前記酵素が、カタラーゼ、SOD、ペルオキシレドキシン、メタロチオネイン、グルタチオンペルオキシダーゼ、グルタチオン、チオレドキシン、又はグルコース-6-リン酸デヒドロゲナーゼである、請求項11に記載のグルコース検出用蛍光ゲル。
【請求項13】
請求項1~12のいずれか1に記載のグルコース検出用蛍光ゲルを含む、埋め込み型グルコースモニタリングセンサー。
【請求項14】
請求項1~12のいずれか1に記載のグルコース検出用蛍光ゲルを用いて試料中のグルコースの存在を蛍光応答として検出する工程を含む、グルコース検出方法。
【請求項15】
請求項14に記載のグルコース検出方法により、試料中のグルコースの存在を連続的にモニタリングすることを特徴とする、グルコースの連続的モニタリング方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、長期間の埋植でもゲルの線維化を抑制し、生体内のグルコース濃度を連続的に計測可能な新規グルコース検出用蛍光ゲル、及び当該蛍光ゲルを用いた連続的グルコースモニタリングに関する。
【背景技術】
【0002】
全世界的に患者が急増している糖尿病の治療においては、正常血糖領域への血糖値制御が重要である。そのため、長期間にわたって高い検出精度を維持し、生体内のグルコース濃度を連続的に計測及びモニタリング可能なセンサー開発が求められている。
【0003】
しかしながら、かかるグルコースモニタリングの手法として、現状では、酵素電極型の測定が主流であるが、当該手法では測定に伴って酵素が消費され、長期間の継続計測には用いることができない。また、所望の検出精度を維持するために、頻回な穿刺による血糖測定が必要とされ、患者の負担が大きい。
【0004】
一方、ゲル中の蛍光色素によりグルコース応答を測定する手法が研究されている(非特許文献1等)。当該ゲルとしては主としてポリアクリルアミド等のアクリル系ゲルが用いられているため、生体内へ埋植した際に、タンパク質等が付着し、異物反応による線維化或いは炎症が生じてしまい、長期間の使用に耐えることができない。このため、ポリアクリルアミド等の側鎖に官能性を導入すること等の検討がなされているが、線維化等を十分に抑制するには至っておらず、実際の血中グルコース濃度の変動に蛍光強度が追随できない。さらに、アクリル系ゲルは、その合成にラジカル重合を用いるため、嫌気下での重合条件を用いるため作製に制限が多く、ゲルの強度も十分ではないという問題点を有していた。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【文献】Shibataら、Proc.Nat.Acad.Sci.USA、107、17894-17898、2010年
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
そこで、本発明は、長期間の埋植でもゲルの線維化を抑制でき、生体内のグルコース濃度を連続的に計測可能な新規グルコース検出用蛍光ゲル、及び当該蛍光ゲルを用いた連続的グルコースモニタリングを提供することを課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を解決するべく鋭意検討を行った結果、四分岐型のポリエチレングリコールポリマー(Tetra-PEG)によって形成された均質なネットワーク構造のゲル中に、グルコース応答性の蛍光色素を固定化することで、タンパク質等の付着等を抑制し、異物反応である線維化を低減でき、それにより、生体内のグルコース濃度を発蛍光型の応答として長期間に渡って連続的にモニタリング可能な新規グルコース検出用蛍光ゲルを提供できることを見出した。また、当該蛍光ゲル中に酵素等の抗酸化剤を固定化することで、生体内埋植時における蛍光ゲルの劣化を抑制し、上記連続的モニタリングの特性をさらに向上できることを見出した。これらの新たな知見に基づき、本発明を完成するに至ったものである。
【0008】
すなわち、本発明は、一態様において、
<1> ポリエチレングリコール骨格を有する複数の四分岐型ポリマーがそれらの末端で架橋した3次元網目構造を有するグルコース検出用蛍光ゲルであって、グルコースとの結合により蛍光応答を示す蛍光色素ユニットが共有結合によってゲル構造中に固定化されている、該グルコース検出用蛍光ゲル;
<2>前記四分岐型ポリマーが、末端に4個の求核性官能基を有する第1のポリマーと、末端に4個の求電子性官能基を有する第2のポリマーからなる、上記<1>に記載のグルコース検出用蛍光ゲル;
<3>前記求核性官能基が、ヒドロキシル基、アミノ基及びチオール基よりなる群から選択され;前記求電子性官能基が、カルボキシル基、N-ヒドロキシ-スクシンイミジル(NHS)基、スルホスクシンイミジル基、マレイミジル基、フタルイミジル基、及びニトロフェニル基よりなる群から選択される、上記<2>に記載のグルコース検出用蛍光ゲル;
<4> 前記第1のポリマーが式(I)で表される構造を有し
【化1】
(式中、各mは、それぞれ同一又は異なる10~300であり、各Xは、R
1-NH
2又はR
1-SHであり、R
1はC
1-C
7アルキレン基である。);及び
前記第2のポリマーが式(II)で表される構造を有する
【化2】
(式中、各nは、それぞれ同一又は異なる10~300であり、各Yは、-CO-R
2-COO-NHS又はR
2-マレイミジル基であり、R
2はC
1-C
7アルキレン基である。)、
上記<2>に記載のグルコース検出用蛍光ゲル;
<5>前記蛍光色素ユニットが蛍光団及び消光団を有しており;
グルコース非存在下では前記消光団により前記蛍光団が消光されているが、前記消光団がグルコースと結合することによって蛍光団が発光することにより蛍光応答を示す、上記<1>~<4>のいずれか1に記載のグルコース検出用蛍光ゲル;
<6>前記蛍光団がアントラセンを有し、前記消光団がアリールボロン酸を有する、上記<5>に記載のグルコース検出用蛍光ゲル;
<7>前記蛍光色素ユニットが末端に1又は複数のアミノ基を有し、当該アミノ基と前記四分岐型ポリマーとの共有結合によって前記ゲル構造中に固定化されている、上記<1>~<6>のいずれか1に記載のグルコース検出用蛍光ゲル;
<8>前記蛍光色素ユニットが以下の式(III)又は(IV)で表される、
【化3】
【化4】
(式(IV)において、「PEG」は、ポリエチレングリコール鎖を表す。)
上記<1>~<7>のいずれか1に記載のグルコース検出用蛍光ゲル;
<9>さらに抗酸化剤を含む、上記<1>~<8>のいずれか1に記載のグルコース検出用蛍光ゲル;
<10>前記抗酸化剤が共有結合によって前記ゲル構造中に固定化されている、上記<1>~<9>のいずれか1に記載のグルコース検出用蛍光ゲル;
<11>前記抗酸化剤が酵素である、上記<9>又は<10>に記載のグルコース検出用蛍光ゲル;及び
<12>前記酵素が、カタラーゼ、SOD、ペルオキシレドキシン、メタロチオネイン、グルタチオンペルオキシダーゼ、グルタチオン、チオレドキシン又はグルコース-6-リン酸デヒドロゲナーゼである、上記<11>に記載のグルコース検出用蛍光ゲル
を提供するものである。
【0009】
別の態様において、本発明は、
<13>上記<1>~<12>のいずれか1に記載のグルコース検出用蛍光ゲルを含む、埋め込み型グルコースモニタリングセンサー;
<14>上記<1>~<12>のいずれか1に記載のグルコース検出用蛍光ゲルを用いて試料中のグルコースの存在を蛍光応答として検出する工程を含む、グルコース検出方法;及び
<15>上記<14>に記載のグルコース検出方法により、試料中のグルコースの存在を連続的にモニタリングすることを特徴とする、グルコースの連続的モニタリング方法
を提供するものである。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、体内に埋植して用いた場合でもゲルの線維化を抑制でき、長期間にわたって高い検出精度を維持した連続的なグルコースモニタリングが可能であるという効果を奏する。このため、糖尿病の患者の刻一刻変動する血糖値を高精度で連続的にモニタリングするための生体内バイタルサイン計測センサーとして用いることができ、合併症予防やQOL向上等につながる。
【0011】
また、グルコース応答性の蛍光色素ユニットに加えて、酵素等の抗酸化剤を当該蛍光ゲル中に固定化することで、生体内埋植時における線維化等による蛍光ゲルの劣化をさらに抑制することができ、上記連続的モニタリングの特性及び耐久性をより向上させることが可能となる。
【0012】
加えて、本発明のグルコース検出用蛍光ゲルは、生体適合性に加えて、高い力学的強度を有し、作製方法も容易であるというという利点を有するため、産業上の利用価値も極めて高いものである。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】
図1は、本発明のグルコース検出用蛍光ゲルの作製手順を示した模式図(a~c)、及び作製した本発明のグルコース検出用蛍光ゲルの画像(d)である。
【
図2】
図2は、本発明のグルコース検出用蛍光ゲル(TAPEG-TNPEG)のin vitroにおけるグルコース応答性評価の結果を示すグラフである。
【
図3】
図3は、本発明のグルコース検出用蛍光ゲル(TTPEG-TMPEG)のin vitroにおけるグルコース応答性評価の結果を示すグラフである。
【
図4】
図4は、本発明のグルコース検出用蛍光ゲルを含む埋込型デバイスの構成を示す画像である。
【
図5】
図5は、本発明のグルコース検出用蛍光ゲル(TAPEG-TNPEG)のin vivoにおけるグルコース応答性評価の結果を示すグラフである。
【
図6】
図6は、in vivoにおけるグルコース応答性評価について、ポリアクリルアミドゲルを用いた比較例の結果(左図)と、本発明の酵素を固定化したグルコース検出用蛍光ゲルの結果(右図)を示したグラフである。
【
図7】
図7は、酵素を固定化した本発明のグルコース検出用蛍光ゲルについて、埋植後14日経過後におけるグルコース応答性評価の結果を示すグラフである。
【
図8】
図8は、酵素を固定化した本発明のグルコース検出用蛍光ゲルについて、埋植後28日経過後におけるグルコース応答性評価の結果を示すグラフである。
【
図9】
図9は、酵素を固定化した本発明のグルコース検出用蛍光ゲルについて、埋植後28日経過後におけるグルコース透過速度を示すグラフである。
【
図10】
図10は、本発明の酵素を固定化したグルコース検出用蛍光ゲルを用いた、低血糖領域におけるグルコース応答性評価の結果を示すグラフである。
【
図11】
図11は、糖尿病マウスについてグルコースモニタリングを1週間行った結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施形態について説明する。本発明の範囲はこれらの説明に拘束されることはなく、以下の例示以外についても、本発明の趣旨を損なわない範囲で適宜変更し実施することができる。
【0015】
本発明のグルコース検出用蛍光ゲルは、
1)ポリエチレングリコール骨格を有する複数の四分岐型の親水性ポリマーがそれらの末端で架橋した3次元網目構造によりゲルを形成した構造を有し、
2)グルコースとの結合により蛍光応答を示すことができる蛍光色素ユニット(グルコース応答性蛍光色素ユニット)を、共有結合によって上記四分岐型ポリマーによって形成されるゲル構造中に固定化した
ものである。
【0016】
1.ポリエチレングリコール骨格を有する四分岐型ポリマー成分
本発明のグルコース検出用蛍光ゲルにおいて、そのゲル構造を構成するポリマー成分は、4つに分岐したエーテル鎖を有するポリエチレングリコール骨格を有するものである。そして、当該ポリマーどうしが、その末端において互いに架橋することによって均質な3次元網目構造を形成してゲル化している。当該ゲルは、水を含むことによって、ハイドロゲルを形成する。ここで、「ハイドロゲル」とは、多量の水を含んだ親水性の高分子を含むゲル状の物質であり、「ゲル」とは、一般に、高粘度で流動性を失った分散系をいう。
【0017】
本発明の蛍光ゲルでは、複数のポリマー成分におけるそれぞれの4つのポリエチレングリコール分岐の末端が、互いに架橋して均一な網目構造ネットワークを形成したものである。かかる四分岐型のポリエチレングリコール骨格よりなるゲルは、一般に、Tetra-PEGゲルとして知られており、それぞれ末端に活性エステル構造等の求電子性の官能基とアミノ基等の求核性の官能基を有する二種の四分岐高分子間のAB型クロスエンドカップリング反応によって網目構造ネットワークが構築される。なお、Tetra-PEGゲルは各高分子溶液の単純な二液混合で簡便にその場で作製可能であり、ポリエチレングリコールを主成分としているため、生体適合性にも優れている。
【0018】
したがって、本発明のグルコース検出用蛍光ゲルを構成する四分岐型ポリマーは、末端に求核性官能基を有する第1のポリマーと、末端に求電子性官能基を有する第2のポリマーからなる。これら第1のポリマーの末端と、第2のポリマーの末端が、共有結合による架橋反応(AB型クロスエンドカップリング反応)によって網目構造ネットワークを形成し、ゲルを構成する。例えば、第1のポリマーの末端がアミノ基であり、第2のポリマーの末端がN-ヒドロキシ-スクシンイミジル(NHS)を含むエステル構造である場合には、各ポリマーの末端は、アミド結合によって架橋してゲルを形成する。好ましくは、第1のポリマーは、四分岐の末端に4個の求核性官能基を有し、第2のポリマーは、四分岐の末端に4個の求電子性官能基を有する。
【0019】
第1のポリマーの末端に存在する求核性官能基は、好ましくは、ヒドロキシル基、アミノ基又チオール基であり、より好ましくはアミノ基又チオール基である。しかし、ゲルを形成し得る架橋が得られる限り、当該求核性官能基は、これら以外の求核性官能基を用いることもでき、当業者であれば公知の求核性官能基を適宜用いることができる。当該求核性官能基は、それぞれ同一であっても、異なってもよいが、同一である方が好ましい。官能基が同一であることによって、架橋反応の対象となる求核性官能基との反応性が均一になり、均一な立体構造を有する高強度のゲルを得やすくなる。
【0020】
第2のポリマーの末端に存在する求電子性官能基は、好ましくは、カルボキシル基、N-ヒドロキシ-スクシンイミジル(NHS)基、スルホスクシンイミジル基、マレイミジル基、フタルイミジル基、及びニトロフェニル基よりなる群から選択される官能基である。より好ましくは、NHS基で又はマレイミジル基ある。しかしながら、求電子性を有する他の活性エステル基を用いてもよく、当業者であれば公知の活性エステル基を適宜用いることができる。当該官能基は、それぞれ同一であっても、異なってもよいが、同一である方が好ましい。官能基が同一であることによって、架橋反応の対象となる求核性官能基との反応性が均一になり、均一な立体構造を有する高強度のゲルを得やすくなる。
【0021】
なお、ポリマーの末端に存在する上記求核性官能基と求電子性官能基の組み合わせによる架橋反応に代えて、いわゆるクリック反応を用いてポリマーどうしを架橋させることもできる。例えば、アジド基及びアルキン基の組み合わせによるクリック反応を用いて、上記ポリマーどうしを架橋させてゲル化させることができる。かかるクリック反応は1,3-双極子環化付加反応であるため、アジド基及びアルキン基の双方が求核的かつ求電子的に働く。
【0022】
本発明のグルコース検出用蛍光ゲルにおいて用いられる第1のポリマーは、一態様において、以下の一般式(I)で表されるポリエチレングリコール骨格を有する四分岐型ポリマーである。
【化5】
【0023】
式(I)において、各mは、それぞれ同一又は異なる10~300、好ましくは25~75であり、各Xは、R1-NH2又はR1-SHであり、R1はC1-C7アルキレン基である。
【0024】
ここで、「C1-C7アルキレン基」とは、分岐を有してもよい炭素数が1以上7以下のアルキレン基を意味し、直鎖C1-C7アルキレン基又は1つ又は2つ以上の分岐を有するC2-C7アルキレン基(分岐を含めた炭素数が2以上7以下)を意味する。C1-C7アルキレン基の例は、メチレン基、エチレン基、プロピレン基、ブチレン基である。C1-C7アルキレン基の例は、-CH2-、-(CH2)2-、-(CH2)3-、-CH(CH3)-、-(CH2)3-、-(CH(CH3))2-、-(CH2)2-CH(CH3)-、-(CH2)3-CH(CH3)-、-(CH2)2-CH(C2H5)-、-(CH2)6-、-(CH2)2-C(C2H5)2-、及び-(CH2)3C(CH3)2CH2-などが挙げられる。また、本明細書において、アルキレン基は任意の置換基を1個以上有していてもよい。該置換基としては、例えば、アルコキシ基、ハロゲン原子(フッ素原子、塩素原子、臭素原子、又はヨウ素原子のいずれであってもよい)、アミノ基、モノ若しくはジ置換アミノ基、置換シリル基、アシル基、又はアリール基などを挙げることができるが、これらに限定されることはない。2個以上の置換基を有する場合には、それらは同一でも異なっていてもよい。
【0025】
上記式(I)中、各mは、それぞれ同一でも又は異なってもよいが、各mの値が近いほど、均一な立体構造をとることができ、高強度となる。そのため、高強度のゲルを得るためには、同一であることが好ましい。各mの値が高すぎるとゲルの強度が弱くなり、各mの値が低すぎると化合物の立体障害によりゲルが形成され難くなる。また、ゲル中の空隙がグルコースを取り込むのに適した大きさの空間とする観点からは、上述のとおり、mは、10~300、好ましくは25~75であることが望ましい。
【0026】
本発明のグルコース検出用蛍光ゲルにおいて用いられる第2のポリマーは、一態様において、以下の一般式(II)で表されるポリエチレングリコール骨格を有する四分岐型ポリマーである。
【化6】
【0027】
式(II)において、各nは、それぞれ同一又は異なる10~300であり、各Yは、-CO-R2-COO-NHS又はR2-マレイミジル基であり、R2はC1-C7アルキレン基である。)
【0028】
上記式(I)中のnと同様に、式(II)中の各nは、それぞれ同一でも又は異なってもよいが、各nの値が近いほど、均一な立体構造をとることができ、高強度となる。そのため、高強度のゲルを得るためには、同一であることが好ましい。各nの値が高すぎるとゲルの強度が弱くなり、各nの値が低すぎると化合物の立体障害によりゲルが形成され難くなる。また、ゲル中の空隙がグルコースを取り込むのに適した大きさの空間とする観点からは、上述のとおり、nは、10~300、好ましくは25~75であることが望ましい。
【0029】
2.蛍光色素ユニット成分
本発明のグルコース検出用蛍光ゲルは、グルコースとの結合により蛍光応答を示す蛍光色素ユニットをゲル中に含む。これにより、試料中のグルコースの存在を蛍光応答として検出することができる。
【0030】
当該蛍光色素ユニットは、好ましくは、蛍光色素ユニットが蛍光団及び消光団を有している。「蛍光団」は、特定の波長で励起されることにより蛍光を発する分子を含む部位である。「消光団」は、当該蛍光団との相互作用により蛍光団からの発光を低減し得る電子受容体を含む部位であり、かつ、グルコースとの結合によりかかる消光作用が解消されて、蛍光団の発光を再び生じさせるものである。これにより、グルコース非存在下では前記消光団により前記蛍光団が消光されているが、前記消光団がグルコースと結合することによって蛍光団が発光することにより、グルコースの存在をON-OFFの蛍光応答として検出すること可能となる。
【0031】
好ましくは、前記蛍光団がアントラセンを有し、前記消光団がアリールボロン酸を有するものである。ただし、グルコースとの結合によって蛍光応答を示すものであれば、場合によっては、これらに限定されず、当該技術分野における公知の蛍光団と消光団の組み合わせを用いることもできる。
【0032】
また、当該蛍光色素ユニットは、前記ゲル構造中に共有結合によって固定化されていることが好ましい。したがって、好ましくは、蛍光色素ユニットが末端に1又は複数のアミノ基を有し、当該アミノ基と前記四分岐型ポリマーとの共有結合によって前記ゲル構造中に固定化される。
【0033】
本発明のグルコース検出用蛍光ゲルにおいて用いられる蛍光色素ユニットの好ましい例としては、以下の式(III)で表される化合物が挙げられる。
【化7】
【0034】
式(III)で表される化合物において、中央部のアトラセンが蛍光団であり、その両側の2つのアリールボロン酸が消光団である。以下の平衡式に示すように、グルコース非存在下ではアリールボロン酸部位によりアトラセンの蛍光は消光されているが、アリールボロン酸部位とグルコースが結合すると、分子内の窒素原子とホウ素原子の静電相互作用によりアントラセン部位への電子移動が抑えられ、消光作用が解消してアトラセンの蛍光発光が生じる。かかる認識機構によって、グルコースの存在をON-OFFの蛍光応答として検出することができる。
【化8】
【0035】
また、式(III)の化合物は、末端に2つのアミノ基を有しており、当該アミノ基が、上記四分岐型ポリマー末端の求電子性官能基と反応することによって、当該蛍光色素ユニットをゲル中に共有結合により固定化することができる。なお、ここでは、式(III)の化合物の末端の官能基がアミノ基である例を示したが、これに限定されず、四分岐型ポリマー末端における求核性官能基又は求電子性官能基のいずれかと共有結合し得る官能基であれば用いることができることは当業者には理解可能であろう。すなわち、蛍光色素ユニットはその末端に、上述の求核性官能基又は求電子性官能基のいずれかを有するものであれば、共有結合によりゲル中に固体化することができる。
【0036】
本発明のグルコース検出用蛍光ゲルにおいて用いられる蛍光色素ユニットの別の好ましい例としては、以下の式(IV)で表される化合物が挙げられる。
【化9】
【0037】
式(IV)において、「PEG」は、ポリエチレングリコール鎖を表す。当該ポリエチレングリコール鎖は、好ましくは、繰り返し単位が2~60である。ただし、当該ポリエチレングリコール鎖の長さは、本発明のグルコース検出用蛍光ゲルを構成する四分岐型ポリマーの構造等に応じて適宜変更して用いることができる。
【0038】
式(IV)で表される化合物も、上記式(III)の化合物と同様に、中央部のアトラセンが蛍光団であり、その両側の2つのアリールボロン酸が消光団である。したがって、グルコースの存在をON-OFFの蛍光応答として検出する機構は、上述のとおりである。
【0039】
一方、式(IV)で表される化合物は、上記式(III)の化合物と異なり、末端に2つのマレイミド基を有している。当該マレイミド基が、上記四分岐型ポリマー末端の求核性官能基と反応することによって、当該蛍光色素ユニットをゲル中に共有結合により固定化することができる。
【0040】
3.抗酸化剤成分
本発明のグルコース検出用蛍光ゲルは、また、ゲル中に抗酸化剤をさらに含むことができる。当該抗酸化剤を蛍光ゲル中に用いることによって、生体内埋植時における線維化等による蛍光ゲルの劣化をさらに抑制することができ、グルコースの連続的モニタリングの特性及び耐久性をより向上させることが可能となる。好ましくは、かかる抗酸化剤は、カタラーゼ、SOD(スーパーオキシドディスムターゼ)、ペルオキシレドキシン、メタロチオネイン、グルタチオンペルオキシダーゼ、グルタチオン、チオレドキシンやグルコース-6-リン酸デヒドロゲナーゼ(Glucose-6-phosphate dehydrogenase;G6PD)等の酵素である。より好ましくは、当該酵素は、カタラーゼ又はSODである。
【0041】
また、当該抗酸化剤は、共有結合によって前記ゲル構造中に固定化されることが好ましい。かかる固定化の手法としては、上述の蛍光色素ユニットと同様に、抗酸化剤に求核性官能基又は求電子性官能基のいずれかと共有結合し得る官能基を導入することで、ゲル中に共有結合により酵素等を固定化する手法が用いることができる。
【0042】
4.グルコース検出用蛍光ゲルの調製
本発明のグルコース検出用蛍光ゲルは、上述の四分岐型ポリマー及び蛍光色素ユニットを用いて、当該技術分野において公知のゲル作製方法により調整することができるが、例えば、末端に求核性官能基を有する四分岐型ポリマー(第1のポリマー)と同じく末端に求核性官能基を有する蛍光色素ユニットを含む混合溶液と、末端に求電子性官能基を有する四分岐型ポリマー(第2のポリマー)を含む溶液とを混合する方法を用いることができる。これにより、四分岐型ポリマー成分の間でアミド結合の架橋反応が起こり、均一な網目構造を有するハイドロゲル構造が形成されるとともに、蛍光色素ユニットが共有結合によって固定化されたゲルを製造することができる。
【0043】
架橋反応の際のpHを適切な条件とするため、これらのポリマー成分を含む溶液は、適切な緩衝液を含むことが好ましい。用いられる緩衝液としては、例えば、リン酸緩衝液(PBS)、クエン酸緩衝液、クエン酸・リン酸緩衝液、酢酸緩衝液、ホウ酸緩衝液、酒石酸緩衝液、トリス緩衝液、トリス塩酸緩衝液、リン酸緩衝生理食塩水、又はクエン酸・リン酸緩衝生理食塩水、塩化カリウム-水酸化ナトリウム緩衝液、りん酸水素二ナトリウム-水酸化ナトリウム緩衝液、炭酸水素ナトリウム-水酸化ナトリウム緩衝液、ほう酸-塩化カリウム-水酸化ナトリウム緩衝液、りん酸二水素カリウム-水酸化ナトリウム緩衝液、フタル酸水素カリウム-水酸化ナトリウム緩衝液が挙げられる。
【0044】
上記ポリマー溶液の混合工程は、例えば、二液混合シリンジを用いて行うことができる。混合時の二液の温度は、特に限定されず、ポリマー成分がそれぞれ溶解され、それぞれの液が流動性を有する状態の温度であればよい。温度が低すぎると化合物が溶解されにくく、または溶液の流動性が低くなり、均一に混ざり難くなる。一方、温度が高すぎると四分岐型ポリマーどうしの反応性を制御し難くなる。そのため、混合するときの溶液の温度としては、1℃~100℃が挙げられ、5℃~50℃が好ましく、10℃~30℃がより好ましい。二液の温度は異なってもよいが、温度が同じである方が、二液が混合されやすいので好ましい。
【0045】
5.グルコース検出用蛍光ゲルを用いたグルコース検出及びモニタリング
さらに、本発明は、上述のグルコース検出用蛍光ゲルを用いて、グルコースを検出・モニタリングする方法、及び当該蛍光ゲルを含むセンサーにも関する。
具体的には、本発明のグルコース検出用蛍光ゲルを測定対象である試料と接触させ、特定の波長の光を照射することによって、試料のグルコースの存在を蛍光応答として検出することができる。
【0046】
本発明のグルコース検出用蛍光ゲルは、上述のように、ポリエチレングリコールに基づく生体適合性のゲルであるため、当該蛍光ゲルを生体内に埋植することによってin vivoでグルコースを検出することができる。さらに、当該蛍光ゲルと共に、例えば、後述の実施例に示すように、LED等の光源;光電子増倍管等の検出器;無線データ転送システム等を備える小型センサーデバイスを作製することで、生体内に埋め込み可能なグルコースモニタリングセンサーとして用いることができる。なお、蛍光シグナルの検出は、当該技術分野において公知の装置やシステム等を用いることができる。
【0047】
さらに、上述のように、本発明のグルコース検出用蛍光ゲルは、生体内に長期間埋植した場合でも、タンパク質等の付着等を抑制し、ゲルの線維化を低減できるという特性を有するため、従来の手法のように頻回な穿刺等を行うことなく、生体内において連続的なグルコースモニタリングが可能となる。そのため、糖尿病患者等における血糖値を高精度で連続的にモニタリングする方法またはデバイスとして好適に用いることができる。
【実施例】
【0048】
以下、実施例により本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらによって限定されるものではない。
【実施例1】
【0049】
1-1.蛍光ゲル(TAPEG-TNPEGゲル)の調製
以下の試料を用いて本発明の蛍光ゲルを調整した。
TAPEG:末端に4個のアミノ基(求核性官能基)を有する四分岐型ポリエチレングリコール(製品名「SUNBRIGHT PTE-100PA」:油化産業株式会社製)
TNPEG:末端に4個のNHS基(求電子性官能基)を有する四分岐型ポリエチレングリコール(製品名「SUNBRIGHT PTE-100GS」:油化産業株式会社製)
グルコース応答性蛍光色素:アリールボロン酸化アントラセン誘導体A(製品名「G55」:株式会社NARD社製)
【化10】
【化11】
【化12】
【0050】
予め、グルコース応答性蛍光色素 0.5 mgを1 mlのPBS pH 7.4 に溶解させて溶液を調製した。次いで、60 mgのTNPEGをPBSに、60 mgのTAPEGをグルコース応答性蛍光色素/PBS溶液に溶解させ、2種のプレゲル溶液を作製した。その後、素早くPSMSの鋳型の上にプレゲル溶液を滴下し、PETフィルムでフタをし、37℃で1時間静置した(
図1のa~c)。PETフィルムを剥がし、得られたゲルを1日PBS中に起き、未反応物を除去した。
図1のdに得られたゲルの画像を示す。
【0051】
TAPEGの上記式中の分子量を10000に固定し、一方、TNPEGの上記式中におけるエーテル鎖の分子量を5000~20000まで変化させてゲルを作製した結果を表1に示す。実施例3では、溶液中のポリマー濃度を100mg/mlとした。
【0052】
1-2.蛍光ゲル(TTPEG-TMPEGゲル)の調製
同様に、以下の試料を用いて本発明の蛍光ゲルを調整した。
TTPEG:末端に4個のチオール基(求核性官能基)を有する四分岐型ポリエチレングリコール(製品名「SUNBRIGHT PTE-100SH」:油化産業株式会社製)
TMPEG:末端に4個のマレイミジル基(求電子性官能基)を有する四分岐型ポリエチレングリコール(製品名「SUNBRIGHT PTE-100MA」:油化産業株式会社製)
グルコース応答性蛍光色素:アリールボロン酸化アントラセン誘導体B
【化13】
【化14】
【化15】
(式中、「PEG」は、ポリエチレングリコール鎖を表す。当該ポリエチレングリコール鎖部分の分子量は2000、3400、又は5000とした。)
【0053】
ここで、アリールボロン酸化アントラセン誘導体Bは、上記1-1で用いたアリールボロン酸化アントラセン誘導体A(製品名「G55」:株式会社NARD社製)の末端を修飾することにより合成した。具体的には、アリールボロン酸化アントラセン誘導体Aと、マレイミド末端を有する分子量2000、3400、又は5000のPEG(それぞれ、製品名「SUNBRIGHT MA-020TS」、「SUNBRIGHT MA-034TS」、「SUNBRIGHT MA-050TS)とを、アセトニトリルと水の混合溶媒中でDMT-MM(縮合剤)の存在下で撹拌し、末端をPEG-マレイミジル基とした。
【実施例2】
【0054】
2.酵素を固定化した蛍光ゲル(TAPEG-TNPEG)の調製 TAPEG/グルコース応答性蛍光色素の混合溶液に1mg/mlのカタラーゼ及び1mg/mlのSODを添加した溶液(TAPEG:58mg/ml、蛍光色素:0.1mg/ml)を用いたこと以外は、実施例1のTAPEG-TNPEGゲルと同様にして蛍光ゲルを調製した。なお、当該混合溶液中の酵素中のリジン基がゲル骨格のカルボン酸と反応し、ゲル中に酵素を固定化して、抗酸化能を付与した蛍光ゲルが得られた。
【0055】
同様に、混合溶液の組成を、TAPEG:50mg/ml、カタラーゼ:5mg/ml、SOD:5mg/ml、蛍光色素:0.1mg/mlとした溶液を用いて、蛍光ゲルを調製した。
【0056】
カタラーゼ及びSODを固定化した蛍光ゲルは、いずれも1000mg/dLのグルコース溶液の添加により蛍光発光を示すことを確認した。
【実施例3】
【0057】
3.蛍光ゲルによるグルコース応答性の評価(in vitro)
実施例1で得た蛍光ゲル(TAPEG-TNPEG)を用いてグルコースの蛍光応答を評価した。ゲルに0~1000mg/dLのグルコース溶液を添加し、各濃度における蛍光強度を測定した(励起波長:405nm、検出波長:490nm)。結果を
図2に示す。
【0058】
同様に、実施例1で得た蛍光ゲル(TTPEG-TMPEG)についても、グルコースの蛍光応答を評価した。結果を
図3に示す。
【0059】
その結果、いずれの蛍光ゲルについても、グルコース濃度の増加に伴い、蛍光強度の増大が観測された。繰り返しの測定に対しても、グルコース濃度に対して一意的に蛍光強度が決定された。
【実施例4】
【0060】
4.蛍光ゲルによるグルコース応答性の評価(in vivo)
図4に示すLED光源、光電子増倍管、及び無線データ転送ユニットを備える埋込型デバイスを作製し、これに実施例1で得た蛍光ゲル(TAPEG-TNPEG)を設置した。当該埋込型デバイスをマウスの体内に埋植し、グルコース溶液を静脈中に投与することで高血糖状態を作り出し、蛍光応答を測定した。得られた蛍光強度の結果から、グルコース濃度に変換した。結果を
図5に示す。また、比較例として、同様の実験を、ポリアクリルアミドゲルを用いて行った。得られた結果を、
図5に示した本発明の蛍光ゲル(Tetra-PEGゲル)との比較する形で
図6に示す。
【0061】
図6の結果より、本発明のTetra-PEGゲルを用いた蛍光ゲルは、グルコース濃度の上昇に追随し、生体内でのグルコースモニタリングにおいてポリアクリルアミドゲルよりも高い安定性を有することが分かった。なお、ポリアクリルアミドゲルでは、体内への埋植から一定期間経過後に表面の線維化によるゲル劣化が観測されたが、本発明のTetra-PEGゲルを用いた蛍光ゲルではそのような劣化は見られなかった。
【実施例5】
【0062】
5.抗酸化能を付加した蛍光ゲルの耐久性評価
実施例2で得られた酵素固定化蛍光ゲルを用いて、体内埋植後のゲル耐久性の比較を行った。
【0063】
実施例4の埋込型デバイスにより酵素固定化蛍光ゲル(TAPEG-TNPEG)を埋植し、埋植時及び14日経過後のそれぞれについて、グルコース応答を測定した。添加するグルコース溶液は0~1000mg/dLの濃度のものを用いた。酵素を固定化していない実施例1の蛍光ゲルについても、同様の測定を行った。結果を
図7に示す。
【0064】
図7に示すように、酵素を固定化していない実施例1の蛍光ゲル(左図)では、埋植後14日経過した後では、同じグルコース濃度の添加で蛍光強度の低下し、線維化等によるゲル劣化によるグルコース応答性の低下が見られた。一方、酵素固定化蛍光ゲル(右図)では、埋植後14日経過した後も、埋植当初と同等のグルコース応答性を示し、より安定的な連続モニタリングが可能であることが分かった。
【0065】
同様に、埋植後28日経過した後についても、同様にグルコース応答性を測定したが、埋設前と同様の蛍光応答性を示し、蛍光強度に変化がほとんど見られなく、生体内での劣化を抑制した(
図8)。さらに、埋植後28日経過した後の蛍光ゲルについて、明視野顕微鏡及び蛍光顕微鏡で観察したが、繊維芽細胞などの付着は確認されなかった。また、埋植前と埋設後28日経過した後のグルコース透過速度についても、埋設前と埋設後でほぼ差は見られなかった(
図9)。
【実施例6】
【0066】
6.低血糖領域におけるグルコース応答性の評価(in vivo)
糖尿病マウスにインスリンを投与した条件下で、実施例4と同様の実験を行い、低血糖領域におけるグルコースモニタリングの精度を評価した。0.012単位/kg/minの濃度のインスリンを、実験開始から25分後に投与した。得られた結果を
図10に示す。
【0067】
その結果、本発明のTetra-PEGゲルを用いた蛍光ゲルを用いたグルコースモニタリングでは、酵素電極では測定が困難な低血糖領域でも高い精度を維持できることが分かった。
【0068】
さらに、糖尿病マウスについて同様のグルコースモニタリングを1週間行った結果を
図11に示す。定期的にインスリン製剤投与し、複雑な血糖変動パータンを作製した。その結果、複雑に変化する生体内のグルコースの濃度を長期間継続して計測できることが実証された。