(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2021-12-22
(45)【発行日】2022-01-18
(54)【発明の名称】有機電界発光素子
(51)【国際特許分類】
H01L 51/50 20060101AFI20220111BHJP
C09K 11/06 20060101ALI20220111BHJP
C07D 209/88 20060101ALI20220111BHJP
C07D 405/14 20060101ALI20220111BHJP
C07D 487/04 20060101ALI20220111BHJP
【FI】
H05B33/14 B
C09K11/06 690
C09K11/06 640
C07D209/88
C07D405/14
C07D487/04 137
(21)【出願番号】P 2019507455
(86)(22)【出願日】2018-02-20
(86)【国際出願番号】 JP2018005922
(87)【国際公開番号】W WO2018173593
(87)【国際公開日】2018-09-27
【審査請求日】2020-12-04
(31)【優先権主張番号】P 2017057487
(32)【優先日】2017-03-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006644
【氏名又は名称】日鉄ケミカル&マテリアル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100132230
【氏名又は名称】佐々木 一也
(74)【代理人】
【識別番号】100088203
【氏名又は名称】佐野 英一
(74)【代理人】
【識別番号】100100192
【氏名又は名称】原 克己
(74)【代理人】
【識別番号】100198269
【氏名又は名称】久本 秀治
(74)【代理人】
【識別番号】100082739
【氏名又は名称】成瀬 勝夫
(72)【発明者】
【氏名】相良 雄太
(72)【発明者】
【氏名】多田 匡志
(72)【発明者】
【氏名】吉村 和明
(72)【発明者】
【氏名】小川 淳也
(72)【発明者】
【氏名】野口 勝秀
【審査官】岩井 好子
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2016/194604(WO,A1)
【文献】国際公開第2012/077520(WO,A1)
【文献】国際公開第2011/070963(WO,A1)
【文献】国際公開第2017/115596(WO,A1)
【文献】国際公開第2017/115589(WO,A1)
【文献】特表2011-509247(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 51/50
C09K 11/06
C07D 209/88
C07D 405/14
C07D 487/04
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
対向する陽極と陰極の間に、1つ以上の発光層を含む有機電界発光素子において、少なくとも1つの発光層に下記一般式(1)で表されるホスト材料と、下記一般式(2)で表される熱活性化遅延蛍光発光材料を含
み、該発光層には燐光発光性のドーパント材料を含まないことを特徴とする有機電界発光素子。
【化1】
(ここでL
1は、置換若しくは未置換の
単環の炭素数6の芳香族炭化水素基、置換若しくは未置換の炭素数3~36の芳香族複素環基、置換若しくは未置換のカルボラン基、又はこれらの芳香族炭化水素基、芳香族複素環基、カルボラン基の環から選ばれる何れかの環が2~6個連結して構成される連結環基である。R
1は、それぞれ独立に、水素、炭素数1~8の脂肪族炭化水素基、置換若しくは未置換の炭素数6~30の芳香族炭化水素基、又は置換若しくは未置換の炭素数3~36芳香族複素環基、置換若しくは未置換のカルボラン基、又はこれらの芳香族炭化水素基、芳香族複素環基、カルボラン基の環が2~3個連結して構成される連結環基であり、少なくとも1つのR
1は置換又は無置換の
N-カルバゾリル基を表す。nは1~2の整数である。
)
【化2】
(ここで、Zは式(2a)で表される基であり、式(2a)中、環Aは式(2b)で表される芳香族炭化水素環であり、環Bは式(2c)で表される複素環であり、環A及び環Bはそれぞれ隣接する環と任意の位置で縮合する。L
2は炭素数6~30の芳香族炭化水素基、又は炭素数3~18の芳香族複素環基であり、a+bが2の場合は、L
2は単結合であってもよい。Ar
1とAr
2はそれぞれ独立に置換若しくは未置換の炭素数6~30の芳香族炭化水素基、置換若しくは未置換の炭素数3~18の芳香族複素環基、又は該芳香族炭化水素基及び該芳香族複素環基から選ばれる芳香族基の芳香族環が2~6個連結して構成される連結芳香族基である。R
2は、独立に炭素数1~10の脂肪族炭化水素基、置換若しくは未置換の炭素数6~18の芳香族炭化水素基、又は置換若しくは未置換の炭素数3~18の芳香族複素環基、又は該芳香族炭化水素基及び該芳香族複素環基から選ばれる芳香族基の芳香族環が2~3個連結して構成される連結芳香族基である。aは1~3の整数を表し、bは0~3の整数を表し、cとdは独立に0~4の整数を表し、jは0~2の整数を表す。
)
【請求項2】
一般式(1)において、n = 1であることを特徴とする請求項1に記載の有機電界発光素子。
【請求項3】
一般式(1)において、L
1が、置換若しくは未置換の、ベンゼン、トリアジン、カルバゾール、ジベンゾフラン、ジベンゾチオフェン、カルボラン、又はこれらが2~3個連結した連結環化合物から生じる基であることを特徴とする請求項1
又は2に記載の有機電界発光素子。
【請求項4】
一般式(1)が一般式(3a)、又は(3b)で表されることを特徴とする請求項
1~3のいずれかに記載の有機電界発光素子。
【化3】
(ここで、L
1及びnは、一般式(1)と同意であり、R
3は水素、置換若しくは未置換の炭素数6~18の芳香族炭化水素基、又は置換若しくは未置換の炭素数3~18の芳香族複素環基を表す。
)
【請求項5】
発光層中に、一般式(1)で表されるホスト材料を少なくとも2種類含有することを特徴とする請求項
1~4のいずれかに記載の有機電界発光素子。
【請求項6】
一般式(2)で表される熱活性化遅延蛍光発光材料の励起一重項エネルギー(S1)と励起三重項エネルギー(T1)の差が0.2eV以下であり、一般式(1)で表されるホスト材料の励起三重項エネルギー(T1)が一般式(2)で表される熱活性化遅延蛍光発光材料の励起一重項エネルギー(S1)及び励起三重項エネルギー(T1)より大きいことを特徴とする請求項
1~5のいずれかに記載の有機電界発光素子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は遅延蛍光発光型の有機電界発光素子(有機EL素子という)に関するものである。
【0002】
有機EL素子に電圧を印加することで、陽極から正孔が、陰極からは電子がそれぞれ発光層に注入される。そして発光層において、注入された正孔と電子が再結合し、励起子が生成される。この際、電子スピンの統計則により、一重項励起子及び三重項励起子が1:3の割合で生成する。一重項励起子による発光を用いる蛍光発光型の有機EL素子は、内部量子効率は25%が限界であるといわれている。一方で三重項励起子による発光を用いる燐光発光型の有機EL素子は、一重項励起子から項間交差が効率的に行われた場合には、内部量子効率が100%まで高められることが知られている。
近年では、燐光型有機EL素子の長寿命化技術が進展し、携帯電話等のディスプレイへ応用されつつある。しかしながら青色の有機EL素子に関しては、実用的な燐光発光型の有機EL素子は開発されておらず、高効率であり、且つ長寿命な青色有機EL素子の開発が求められている。
【0003】
さらに最近では、遅延蛍光を利用した高効率の遅延蛍光発光型の有機EL素子の開発がなされている。例えば特許文献1には、遅延蛍光のメカニズムの1つであるTTF(Triplet-Triplet Fusion)機構を利用した有機EL素子が開示されている。TTF機構は2つの三重項励起子の衝突によって一重項励起子が生成する現象を利用するものであり、理論上内部量子効率を40%まで高められると考えられている。しかしながら、燐光発光型の有機EL素子と比較すると効率が低いため、更なる効率の改良が求められている。
【0004】
一方で特許文献2では、熱活性化遅延蛍光(TADF;Thermally Activated Delayed Fluorescence)機構を利用した遅延蛍光発光型の有機EL素子が開示されている。TADF機構は一重項準位と三重項準位のエネルギー差が小さい材料において三重項励起子から一重項励起子への逆項間交差が生じる現象を利用するものであり、理論上内部量子効率を100%まで高められると考えられている。しかしながら燐光発光型素子と同様に寿命特性の更なる改善が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】WO2010/134350 A1
【文献】WO2011/070963 A1
【文献】WO2015/022987 A1
【非特許文献】
【0006】
【文献】Phys. Rev. Lett. 2013, 110, 247401
【0007】
特許文献2、及び非特許文献1では、インドロカルバゾール化合物をTADF材料として使用することを開示している。
【0008】
特許文献3では、以下のカルバゾールが連結した化合物をホストとして使用し、発光材料にシアノベンゼン化合物を用いた遅延蛍光発光型の有機EL素子が開示されている。
【化1】
【0009】
しかしながら、いずれも十分なものとは言えず、更なる特性改善が求められている。
【発明の概要】
【0010】
有機EL素子をフラットパネルディスプレイ等の表示素子、または光源に応用するためには素子の発光効率を改善すると同時に駆動時の安定性を十分に確保する必要がある。本発明は、上記現状を鑑み、低駆動電圧でありながら高効率かつ高い駆動安定性を有した有機EL素子を提供することを目的とする。
【0011】
本発明は、対向する陽極と陰極の間に1つ以上の発光層を含む有機EL素子において、少なくとも1つの発光層が、下記一般式(1)で表されるホスト材料と一般式(2)で表される熱活性化遅延蛍光発光材料を含有することを特徴とする有機EL素子である。
【0012】
【0013】
ここでL1は、n価の基である。L1は、置換若しくは未置換の炭素数6~30の芳香族炭化水素基、置換若しくは未置換の炭素数3~36の芳香族複素環基、置換若しくは未置換のカルボラン基、又はこれらの芳香族炭化水素基、芳香族複素環基、カルボラン基の環から選ばれる何れかの環が2~6個連結して構成される連結環基であり、連結環基である場合、連結する環は同一であっても異なっていても良い。R1は、それぞれ独立に、水素、炭素数1~8の脂肪族炭化水素基、置換若しくは未置換の炭素数6~30の芳香族炭化水素基、又は置換若しくは未置換の炭素数3~36芳香族複素環基、置換若しくは未置換のカルボラン基、又はこれらの芳香族炭化水素基、芳香族複素環基、カルボラン基の環から選ばれる何れかの環が2~3個連結して構成される連結環基であり、少なくとも1つのR1は置換又は無置換のカルバゾリル基である。nは1~2の整数である。
【0014】
【0015】
ここで、Zは、式(2a)で表される基であり、式(2a)中環Aは式(2b)で表される芳香族炭化水素環であり、環Bは式(2c)で表される複素環であり、環A及び環Bはそれぞれ隣接する環と任意の位置で縮合する。L2は、炭素数6~30の芳香族炭化水素基、又は炭素数3~18の芳香族複素環基であり、Ar1とAr2はそれぞれ独立に置換若しくは未置換の炭素数6~30の芳香族炭化水素基、置換若しくは未置換の炭素数3~18の芳香族複素環基、又は該芳香族炭化水素基及び該芳香族複素環基から選ばれる芳香族基の芳香族環が2~6個連結して構成される連結芳香族基であり、連結芳香族基である場合、連結する芳香族環は同一であっても異なっていても良い。R2は、独立に炭素数1~10の脂肪族炭化水素基、置換若しくは未置換の炭素数6~18の芳香族炭化水素基、又は置換若しくは未置換の炭素数3~18の芳香族複素環基、又は該芳香族炭化水素基及び該芳香族複素環基から選ばれる芳香族基の芳香族環が2~3個連結して構成される連結芳香族基である。aは1~3の整数を表し、bは0~3の整数を表し、cとdは独立に0~4の整数を表し、jは0~2の整数を表す。a+bが2の場合は、L2は単結合であってもよい。
【0016】
上記一般式(1)及び一般式(2)の好ましい態様を次に示す。
1) 一般式(1)におけるn = 1であること。2) 一般式(1)におけるL
1が、置換若しくは未置換の、ベンゼン、トリアジン、カルバゾール、ジベンゾフラン、ジベンゾチオフェン、カルボラン、又はこれらが2~3個連結した連結環化合物から生じる芳香族炭化水素基、芳香族複素環基、カルボラン基、又は連結環基であること。3) 一般式(1)が、下記一般式(3a)、又は(3b)であること。
【化4】
(ここで、L
1及びnは、一般式(1)のL
1及びnと同意であり、R
3は水素、置換若しくは未置換の炭素数6~18の芳香族炭化水素基、又は置換若しくは未置換の炭素数3~18の芳香族複素環基を表す。)
4) 一般式(2)におけるL
2がa+b価のL
2が炭素数6の芳香族炭化水素基であること。
【0017】
発光層中には、一般式(1)で表されるホスト材料を2種類以上含有することができる。
【0018】
また、上記熱活性化遅延蛍光発光材料の励起一重項エネルギー(S1)と励起三重項エネルギー(T1)の差が0.2eV以下であり、上記ホスト材料の励起三重項エネルギー(T1)が、上記熱活性化遅延蛍光遅延蛍光発光材料の励起一重項エネルギー(S1)及び励起三重項エネルギー(T1)より大きいことが望ましい。
【0019】
本発明の有機EL素子は、発光層に特定の熱活性化遅延蛍光発光材料と特定のホスト材料を含有するため、低駆動電圧で高発光効率、且つ長寿命な有機EL素子となることができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】有機EL素子の一例を示した模式断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明の有機EL素子は、対向する陽極と陰極の間に、1つ以上の発光層を有し、発光層の少なくとも1層が、上記一般式(1)で表されるホスト材料と上記一般式(2)で表される熱活性化遅延蛍光発光材料(TADF材料という。)を含有する。
【0022】
上記一般式(1)について、説明する。
一般式(1)で表される化合物は2個以上のカルバゾール環を有するので、カルバゾール化合物ということができる。L1は、n価の基である。
L1は、置換若しくは未置換の炭素数6~30の芳香族炭化水素基、置換若しくは未置換の炭素数3~36の芳香族複素環基、置換基若しくは未置換のカルボラン基、又はこれらの環が2~6個連結した連結環基を表す。好ましくは、置換若しくは未置換の単環の芳香族炭化水素基、置換基若しくは未置換の炭素数3~12の芳香族複素環基、置換基若しくは未置換のカルボラン基、又はこれらの環が2~3個連結した連結環基である。より好ましくは、置換若しくは未置換の単環の芳香族炭化水素基、置換基若しくは未置換の炭素数3~12の芳香族複素環基、置換基若しくは未置換のカルボラン基、又はこれらの環が2個連結して構成される連結環基を表す。
【0023】
本明細書において、連結環基は、芳香族炭化水素基、芳香族複素環基、及びカルボラン基から選ばれる基の骨格となる環(芳香族炭化水素環、芳香族複素環又はカルボラン環)が直接結合で複数個連結して構成される基をいう。ここで、連結する環は同一であっても異なっていても良く、その構造は式(d)に示すような直鎖状でもあってもよく、式(e)に示すような分岐状でも良い。
A1-A2-A3-A4 (d)
A1(A2)-A3(A4) (e)
式(d)、(e)は4個の環が連結した連結環化合物であり、n価の基の場合は、これからn個の水素を除いて生じる基であるあると解される。水素を除く環は、A1、A2、A3、A4のいずれでもよい。また、A1、A2、A3、A4は、独立に芳香族炭化水素環、芳香族複素環又はカルボラン環であり、これらの1種だけであっても、2種以上で構成されていてもよい。連結環基は、置換基を有することができ、これは対応する芳香族炭化水素基、芳香族複素環基、及びカルボラン基が有し得る置換基であると解される。
【0024】
未置換のカルボラン基は、C
2B
10H
10の下記式(4a)、(4b)、(4c)から選ばれる2価の基である。
【化5】
【0025】
L1の具体例としては、ベンゼン、ナフタレン、アズレン、アントラセン、フェナントレン、ピレン、クリセン、ナフタセン、トリフェニレン、アセナフテン、コロネン、インデン、フルオレン、フルオラントレン、テトラセン、ペンタセン、フラン、ジベンゾフラン、チオフェン、ジベンゾチオフェン、オキサゾール、ピロール、ピリジン、ピリダジン、ピリミジン、ピラジン、トリアジン、ベンゾイミダゾール、オキサジアゾール、トリアゾール、イミダゾール、ピラゾール、チアゾール、インドール、インダゾール、ベンゾイミダゾール、ベンゾチアゾール、ベンゾオキサゾール、キノキサリン、キナゾリン、シンノリン、キノリン、イソキノリン、フタラジン、ナフチリジン、カルバゾール、カルボリン、ジアザカルバゾール、カルボラン、又はこれらが2~3個連結して構成される連結環化合物からn個の水素を取って生じる基が挙げられる。好ましくは、ベンゼン、ジベンゾフラン、ジベンゾチオフェン、ピリジン、ピリミジン、トリアジン、カルバゾール、カルボラン、又はこれらが2~3個連結して構成される連結環化合物からn個の水素を取って生じる基が挙げられる。より好ましくは、ベンゼン、トリアジン、ジベンゾフラン、ジベンゾチオフェン、カルバゾール、カルボラン、又はこれらが2個連結して構成される連結環化合物からn個の水素を取って生じる基が挙げられる。
【0026】
上記芳香族炭化水素基、芳香族複素環基、カルボラン基、及び連結環基は、置換基を有することができる。L1の置換基の具体例としては、炭素数1~8の脂肪族炭化水素基、炭素数1~8のアルコキシ基がある。
【0027】
上記炭素数1~8の脂肪族炭化水素基の具体例としては、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、へキシル基、ヘプチル基、オクチル基等が挙げられる。
【0028】
上記炭素数1~8のアルコキシ基は、―OYと表され、Yの例として上記のアルキルが挙げられる。具体例としては、メトキシ基、エトキシ基等が挙げられる。
【0029】
R1は、それぞれ独立に、水素、炭素数1~8の脂肪族炭化水素基、置換若しくは未置換の炭素数6~30の芳香族炭化水素基、又は置換若しくは未置換の炭素数3~36芳香族複素環基、置換若しくは未置換のカルボラン基、又はこれらの環が2~3個連結して構成される連結環基を表す。好ましくは、水素、置換若しくは未置換の炭素数6~20の芳香族炭化水素基、又は置換若しくは未置換の炭素数3~20芳香族複素環基、置換若しくは未置換のカルボラン基、又はこれらが2個連結して構成される連結環基である。より好ましくは、水素、置換若しくは未置換の炭素数6~10の芳香族炭化水素基、又は置換若しくは未置換の炭素数3~12芳香族複素環基、置換若しくは未置換のカルボラン基、又はこれらが2個連結して構成される連結環基である。R1の少なくとも1つは、好ましくは1~4つは、更に好ましくは1~2つは置換又は無置換のカルバゾリル基を表す。置換のカルバゾリル基である場合、置換基は後記するR1が置換基を有する場合の置換基と同様な置換基であることができ、アルキル基等の他、芳香族炭化水素基、又は芳香族複素環基であってもよい。
【0030】
上記炭素数1~8の脂肪族炭化水素基の具体例としては、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、へキシル基、ヘプチル基、オクチル基等が挙げられる。
【0031】
上記炭素数6~30の芳香族炭化水素基、炭素数3~36芳香族複素環基及び連結環基の具体例としては、ベンゼン、ナフタレン、アズレン、アントラセン、フェナントレン、ピレン、クリセン、ナフタセン、トリフェニレン、アセナフテン、コロネン、インデン、フルオレン、フルオラントレン、テトラセン、ペンタセン、フラン、ジベンゾフラン、チオフェン、ジベンゾチオフェン、オキサゾール、ピロール、ピリジン、ピリダジン、ピリミジン、ピラジン、トリアジン、ベンゾイミダゾール、オキサジアゾール、トリアゾール、イミダゾール、ピラゾール、チアゾール、インドール、インダゾール、ベンゾイミダゾール、ベンゾチアゾール、ベンゾオキサゾール、キノキサリン、キナゾリン、シンノリン、キノリン、イソキノリン、フタラジン、ナフチリジン、カルバゾール、カルボリン、ジアザカルバゾール、カルボラン、又はこれらが2~3個連結して構成される連結環化合物から1個の水素を取って生じる基が挙げられる。好ましくは、ベンゼン、ナフタレン、フェナントレン、トリフェニレン、フルオレン、ジベンゾフラン、ジベンゾチオフェン、ピリジン、ピリダジン、ピリミジン、ピラジン、トリアジン、キナゾリン、キノリン、カルバゾール、ジアザカルバゾール、カルボラン、又はこれらが2個連結して構成される連結環化合物から1個の水素を取って生じる基が挙げられる。より好ましくは、ベンゼン、ピリジン、ピリミジン、トリアジン、カルボラン、カルバゾール、又はこれらが2個連結して構成される連結環化合物から1個の水素を取って生じる基が挙げられる。
【0032】
R1が芳香族炭化水素基、芳香族複素環基、及び連結環基である場合は、置換基を有することができる。
R1が置換基を有する場合、置換基としては炭素数1~8の脂肪族炭化水素基、炭素数1~8のアルコキシ基、炭素数6~18の芳香族炭化水素基、炭素数3~18の芳香族複素環基がある。好ましくは、炭素数6~12の芳香族炭化水素基、炭素数3~12の芳香族複素環基である。
【0033】
上記炭素数1~8の脂肪族炭化水素基、及び炭素数1~8のアルコキシ基の具体例は、前記L1の置換基の具体例と同意である。
【0034】
上記炭素数6~18の芳香族炭化水素基、及び炭素数3~18の芳香族複素環基の具体例としては、ベンゼン、ナフタレン、アントラセン、フェナントレン、ピレン、クリセン、トリフェニレン、フルオレン、フルオラントレン、ジベンゾフラン、チオフェン、ジベンゾチオフェン、オキサゾール、ピロール、ピリジン、ピリダジン、ピリミジン、ピラジン、トリアジン、インドール、キノリン、カルバゾール、ジアザカルバゾール等から1個の水素を取って生じる基が挙げられる。好ましくは、ベンゼン、ジベンゾフラン、ジベンゾチオフェン、カルバゾール等から1個の水素を取って生じる基が挙げられる。より好ましくは、フェニル基、又はカルバゾリル基である。
【0035】
上記カルボラン基の具体例は、前記L1における具体例と同意である。
【0036】
一般式(1)中のnは1~2の整数であり、好ましくは、n=1である。
【0037】
一般式(1)で表される化合物中の水素の一部又は全部は重水素に置換されても良い。
【0038】
一般式(1)の好ましい態様として、上記一般式(3a)又は(3b)がある。一般式(3a)又は(3b)において、一般式(1)と共通する記号は一般式(1)と同様な意味を有する。R3はそれぞれ独立に、水素、置換若しくは未置換の炭素数6~30の芳香族炭化水素基、又は置換若しくは未置換の炭素数3~18芳香族複素環基である。
【0039】
一般式(1)で表される化合物の具体的な例を以下に示すが、これらの例示化合物に限定されるものではない。
【0040】
【0041】
【0042】
【0043】
【0044】
【0045】
次に、上記一般式(2)について、説明する。
一般式(2)におて、Zは式(2a)で表される基であり、式(2a)中環Aは式(2b)で表される芳香族炭化水素環であり、環Bは式(2c)で表される複素環であり、環A及び環Bはそれぞれ隣接する環と任意の位置で縮合する。Zの骨格は、インドロカルバゾール環であるので、一般式(2)で表される化合物は、インドロカルバゾール化合物であるということができる。
【0046】
aは1~3の整数を表し、好ましくは1~2の整数であり、より好ましくは1の整数である。bは0~3の整数を表し、好ましくは0~2の整数である。a+bは、1~6、好ましくは1~4の範囲である。
cとdは独立に0~4の整数を表し、j は0~2の整数を表す。
【0047】
L2はa+b価の基である。
L2は炭素数6~30の芳香族炭化水素基又は炭素数3~18の芳香族複素環基である。好ましくは、炭素数3~18の芳香族炭化水素であり、より好ましくは、炭素数6の芳香族炭化水素基である。ここで、炭素数6の芳香族炭化水素基はベンゼンからHを除いて生じる基であり、2価以上の基である場合を含む。また、a+bが2である場合は、L2は単結合であることができる。
【0048】
L2の具体例としては、ベンゼン、ナフタレン、アズレン、アントラセン、フェナントレン、ピレン、クリセン、ナフタセン、トリフェニレン、アセナフテン、コロネン、インデン、フルオレン、フルオラントレン、テトラセン、ペンタセン、フラン、ジベンゾフラン、チオフェン、ジベンゾチオフェン、オキサゾール、ピロール、ピリジン、ピリダジン、ピリミジン、ピラジン、トリアジン、ベンゾイミダゾール、オキサジアゾール、トリアゾール、イミダゾール、ピラゾール、チアゾール、インドール、インダゾール、ベンゾイミダゾール、ベンゾチアゾール、ベンゾオキサゾール、キノキサリン、キナゾリン、シンノリン、キノリン、イソキノリン、フタラジン、ナフチリジン、カルバゾール、カルボリン、ジアザカルバゾール等からa+b個の水素を取って生じる基が挙げられる。好ましくは、ベンゼン、ナフタレン、アントラセン、フェナントレン、トリフェニレンフルオレン等からa+b個の水素を取って生じる基が挙げられる。より好ましくは、フェニレン基である。
【0049】
Ar1とAr2は、それぞれ独立に置換若しくは未置換の炭素数6~30の芳香族炭化水素基、置換若しくは未置換の炭素数3~18の芳香族複素環基、又は該芳香族炭化水素基及び該芳香族複素環基から選ばれる芳香族基の芳香族環が2~6個連結して構成される連結芳香族基である。好ましくは、置換若しくは未置換の炭素数6~18の芳香族炭化水素基、置換基若しくは未置換の炭素数3~15の芳香族複素環基、又は該芳香族炭化水素基及び該芳香族複素環基から選ばれる芳香族基の芳香族環が2~4個連結して構成される連結芳香族基である。より好ましくは、置換若しくは未置換の炭素数6~12の芳香族炭化水素基、置換基若しくは未置換の炭素数3~12の芳香族複素環基、又は該芳香族炭化水素基及び該芳香族複素環基から選ばれる芳香族基の芳香族環が2~4個連結して構成される連結芳香族基である。Ar1、Ar2が連結芳香族基である場合、連結する芳香族環は同一であっても異なっていても良く、直鎖状であっても、分岐状でも良い。連結芳香族基の説明は、連結する芳香族環等の環からカルボラン環が除外される他は、前記連結環基の説明が参照される。
【0050】
Ar1、Ar2の具体例としては、ベンゼン、ナフタレン、アズレン、アントラセン、フェナントレン、ピレン、クリセン、ナフタセン、トリフェニレン、アセナフテン、コロネン、インデン、フルオレン、フルオラントレン、テトラセン、ペンタセン、フラン、ジベンゾフラン、チオフェン、ジベンゾチオフェン、オキサゾール、ピロール、ピリジン、ピリダジン、ピリミジン、ピラジン、トリアジン、ベンゾイミダゾール、オキサジアゾール、トリアゾール、イミダゾール、ピラゾール、チアゾール、インドール、インダゾール、ベンゾイミダゾール、ベンゾチアゾール、ベンゾオキサゾール、キノキサリン、キナゾリン、シンノリン、キノリン、イソキノリン、フタラジン、ナフチリジン、カルバゾール、カルボリン、ジアザカルバゾール、又はこれらが2~4個連結して構成される連結芳香族化合物から1個の水素を取って生じる基が挙げられる。好ましくは、ベンゼン、ナフタレン、アントラセン、フェナントレン、フルオレン、フラン、ジベンゾフラン、チオフェン、ジベンゾチオフェン、ピリジン、ピリダジン、ピリミジン、ピラジン、トリアジン、ベンゾイミダゾール、オキサジアゾール、トリアゾール、イミダゾール、ピラゾール、チアゾール、インドール、インダゾール、ベンゾイミダゾール、ベンゾチアゾール、ベンゾオキサゾール、キノキサリン、キナゾリン、シンノリン、キノリン、イソキノリン、フタラジン、ナフチリジン、カルバゾール、カルボリン、ジアザカルバゾール、又はこれらが2~4個連結して構成される連結芳香族化合物から1個の水素を取って生じる基が挙げられる。より好ましくは、ベンゼン、ナフタレン、ジベンゾフラン、ジベンゾチオフェン、ピリジン、ピリダジン、ピリミジン、ピラジン、トリアジン、キノリン、イソキノリン、カルバゾール、又はこれらが2~4個連結して構成される連結芳香族化合物から1個の水素を取って生じる基が挙げられる。
【0051】
Ar1、Ar2が芳香族炭化水素基、芳香族複素環基である場合は、置換基を有することができる。Ar1、Ar2が置換基を有する場合、炭素数1~8の脂肪族炭化水素基、炭素数1~8のアルコキシ基がある。連結芳香族基である場合も、同様に置換基有することができる。
【0052】
上記炭素数1~8の脂肪族炭化水素基、及び炭素数1~8のアルコキシ基の具体例は、前記L1の置換基の具体例と同意である。
【0053】
R2は、炭素数1~10の脂肪族炭化水素基、置換若しくは未置換の炭素数6~18の芳香族炭化水素基、置換若しくは未置換の炭素数3~18の芳香族複素環基、又は該芳香族炭化水素基及び該芳香族複素環基から選ばれる芳香族基の芳香族環が2~3個連結して構成される連結芳香族基である。好ましくは、置換若しくは未置換の炭素数6~12の芳香族炭化水素基、置換若しくは未置換の炭素数3~15の芳香族複素環基、又は該芳香族炭化水素基及び該芳香族複素環基から選ばれる芳香族基の芳香族環が2個連結して構成される連結芳香族基である。
【0054】
上記炭素数1~10の脂肪族炭化水素基の具体例としては、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、へキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノナン基、デカン基等が挙げられる。
【0055】
上記炭素数6~18の芳香族炭化水素基、又は炭素数3~18の芳香族複素環基の具体例としては、ベンゼン、ナフタレン、アズレン、アントラセン、フェナントレン、フルオレン、ジベンゾフラン、ジベンゾチオフェン、ピリジン、ピリダジン、ピリミジン、ピラジン、トリアジン、ベンゾイミダゾール、オキサジアゾール、トリアゾール、イミダゾール、ピラゾール、チアゾール、インドール、インダゾール、ベンゾイミダゾール、ベンゾチアゾール、ベンゾオキサゾール、キノキサリン、キナゾリン、シンノリン、キノリン、イソキノリン、フタラジン、ナフチリジン、カルバゾール、カルボリン、ジアザカルバゾール等から1個の水素を取って生じる基が挙げられる。好ましくは、ベンゼン、ナフタレン、ジベンゾフラン、チオフェン、ジベンゾチオフェン、ピリジン、ピリダジン、ピリミジン、ピラジン、トリアジン、ベンゾイミダゾール、オキサジアゾール、トリアゾール、イミダゾール、ピラゾール、チアゾール、インドール、インダゾール、ベンゾイミダゾール、ベンゾチアゾール、ベンゾオキサゾール、キノキサリン、キナゾリン、シンノリン、キノリン、イソキノリン、フタラジン、ナフチリジン、カルバゾール、カルボリン、ジアザカルバゾール等から1個の水素を取って生じる基が挙げられる。より好ましくは、ベンゼン、ナフタレン、ジベンゾフラン、ジベンゾチオフェン、ピリジン、ピリダジン、ピリミジン、ピラジン、トリアジン、キノリン、イソキノリン、カルバゾール等から1個の水素を取って生じる基が挙げられる。
【0056】
R2が芳香族炭化水素基、芳香族複素環基、連結芳香族基である場合は、置換基を有することができる。R2が置換基を有する場合、炭素数1~8の脂肪族炭化水素基、炭素数1~8のアルコキシ基である。
【0057】
上記炭素数1~8の脂肪族炭化水素基、及び炭素数1~8のアルコキシ基の具体例はL1の置換基の具体例と同様である。
【0058】
以下、一般式(2)で表される化合物の具体例を示す。しかし、これらの例示化合物に限定されない。
【0059】
【0060】
【0061】
【0062】
【0063】
【0064】
【0065】
【0066】
【0067】
【0068】
【0069】
【0070】
【0071】
【0072】
前記一般式(1)で表される化合物をホスト材料と言い、前記一般式(2)で表される化合物を熱活性化遅延蛍光発光材料(TADF材料)という。これらの化合物をホスト材料又はTADF材料として発光層に含有させることで優れた特性を有する遅延蛍光発光型の有機EL素子を提供することができる。
【0073】
上記TADF材料の励起一重項エネルギー(S1)と励起三重項エネルギー(T1)の差(ΔE)は、0.2eV以下であることが好ましく、0~0.15 eVであることがより好ましい。上記を満足することにより、TADF材料として優れたものとなるが、ΔEが0.3eV以上のように大きくなると、TADF材料としての機能を発揮することが困難となる。
また、上記ホスト材料の励起三重項エネルギー(T1)が、上記TADF材料の励起一重項エネルギー(S1)及び励起三重項エネルギー(T1)より大きいものとすれば、ホストとしての機能が向上する。
【0074】
また、2種以上のホスト材料を含有することで、有機EL素子の特性を改良することもできる。この場合、少なくとも1つのホスト材料を一般式(1)で表される化合物とする。また、第1ホストが一般式(1)で表される化合物であることが好ましい。第2ホストは、第1ホストよりも一重項エネルギー(S1)が大きい化合物であることが好ましく、これらは共に一般式(1)で表される化合物であることがより好ましい。
【0075】
ここで、S1及びT1は次のようにして測定される。
石英基板上に真空蒸着法にて、真空度10-4Pa以下の条件にて試料化合物を蒸着し、蒸着膜を100nmの厚さで形成する。この蒸着膜の発光スペクトルを測定し、この発光スペクトルの短波長側の立ち上がりに対して接線を引き、その接線と横軸の交点の波長値λedge[nm]を、次に示す式(i)に代入してS1を算出する。
S1[eV] = 1239.85/λedge (i)
【0076】
T1は上記蒸着膜の燐光スペクトルを測定するが、単一化合物の薄膜では燐光スペクトルが得られない場合がある。その際は、試料化合物よりも高いT1を有する適切な材料との混合薄膜を作製し、燐光スペクトルを測定する。燐光スペクトルの短波長側の立ち上がりに対して接線を引き、その接線と横軸の交点の波長値λedge[nm]を、式(ii)に代入してT1を算出する。
T1[eV] = 1239.85/λedge (ii)
【0077】
次に、本発明の有機EL素子の構造について、図面を参照しながら説明するが、本発明の有機EL素子の構造はこれに限定されない。
【0078】
図1は本発明に用いられる一般的な有機EL素子の構造例を示す断面図であり、1は基板、2は陽極、3は正孔注入層、4は正孔輸送層、5は発光層、6は電子輸送層、7は陰極を表す。本発明の有機EL素子は発光層と隣接して励起子阻止層を有してもよく、また発光層と正孔注入層との間に電子阻止層を有しても良い。励起子阻止層は発光層の陰極側、陰極側のいずれにも挿入することができ、両方同時に挿入することも可能である。本発明の有機EL素子では、陽極、発光層、そして陰極を必須の層として有するが、必須の層以外に正孔注入輸送層、電子注入輸送層を有することが良く、更に発光層と電子注入輸送層の間に正孔阻止層を有することがよい。なお、正孔注入輸送層は、正孔注入層と正孔輸送層のいずれか、または両者を意味し、電子注入輸送層は、電子注入層と電子輸送層のいずれかまたは両者を意味する。
【0079】
図1とは逆の構造、すなわち基板1上に陰極7、電子輸送層6、発光層5、正孔輸送層4、陽極2の順に積層することも可能であり、この場合も必要により層を追加、省略することが可能である。
【0080】
―基板―
本発明の有機EL素子は、基板に支持されていることが好ましい。この基板については特に制限はなく、従来から有機EL素子に用いられているものであれば良く、例えばガラス、透明プラスチック、石英等からなるものを用いることができる。
【0081】
―陽極―
有機EL素子における陽極材料としては、仕事関数の大きい(4eV以上)金属、合金、電気伝導性化合物又はこれらの混合物からなる材料が好ましく用いられる。このような電極材料の具体例としてはAu等の金属、CuI、インジウムチンオキシド(ITO)、SnO2、ZnO等の導電性透明材料が挙げられる。また、IDIXO(In2O3-ZnO)等の非晶質で、透明導電膜を作成可能な材料を用いてもよい。陽極はこれらの電極材料を蒸着やスパッタリング等の方法により、薄膜を形成させ、フォトリソグラフィー法で所望の形状のパターンを形成しても良く、あるいはパターン精度をあまり必要としない場合(100μm以上程度)は、上記電極材料の蒸着やスパッタリング時に所望の形状のマスクを介してパターンを形成してもよい。あるいは有機導電性化合物のような塗布可能な物質を用いる場合には印刷方式、コーティング方式等湿式成膜法を用いることもできる。この陽極より発光を取り出す場合には、透過率を10%より大きくすることが望ましく、また陽極としてのシート抵抗は数百Ω/□以下が好ましい。膜厚は材料にもよるが、通常10~1000nm、好ましくは10~200nmの範囲で選ばれる。
【0082】
―陰極―
一方、陰極材料としては仕事関数の小さい(4eV以下)金属(電子注入性金属と称する)、合金、電気伝導性化合物又はこれらの混合物からなる材料が用いられる。このような電極材料の具体例としては、ナトリウム、ナトリウム―カリウム合金、マグネシウム、リチウム、マグネシウム/銅混合物、マグネシウム/銀混合物、マグネシウム/アルミニウム混合物、マグネシウム/インジウム混合物、アルミニウム/酸化アルミニウム(Al2O3)混合物、インジウム、リチウム/アルミニウム混合物、希土類金属等が挙げられる。これらの中で、電子注入性及び酸化等に対する耐久性の点から、電子注入性金属とこれより仕事関数の値が大きく安定な金属である第二金属との混合物、例えばマグネシウム/銀混合物、マグネシウム/アルミニウム混合物、マグネシウム/インジウム混合物、アルミニウム/酸化アルミニウム(Al2O3)混合物、リチウム/アルミニウム混合物、アルミニウム等が好適である。陰極はこれらの陰極材料を蒸着やスパッタリング等の方法により薄膜を形成させることにより、作製することができる。また、陰極としてシート抵抗は数百Ω/□以下が好ましく、膜厚は通常10nm~5μm、好ましくは50~200nmの範囲で選ばれる。なお、発光した光を透過させるため、有機EL素子の陽極又は陰極のいずれか一方が透明又は半透明であれば発光輝度は向上し、好都合である。
【0083】
また、陰極に上記金属を1~20nmの膜厚で形成した後に、陽極の説明で挙げた導電性透明材料をその上に形成することで、透明又は半透明の陰極を作製することができ、これを応用することで陽極と陰極の両方が透過性を有する素子を作製することができる。
【0084】
―発光層―
発光層は陽極及び陰極のそれぞれから注入された正孔及び電子が再結合することにより励起子が生成した後、発光する層である。発光層には、一般式(2)で表される熱活性化遅延蛍光発光材料と一般式(1)で表されるホスト材料を共に使用する。また、2種以上のホスト材料を含有することで、特性を改良することもできる。2種以上のホスト材料を含有する場合、少なくとも1種は、一般式(1)で表される化合物から選ばれるホスト材料であることがよい。
【0085】
ドーパント材料は、発光層中に1種類のみが含有されても良いし、2種類以上を含有しても良い。熱活性化遅延蛍光発光材料からなる有機発光性ドーパント材料の含有量は、ホスト材料に対して0.1~50wt%であることが好ましく、1~30wt %であることがより好ましい。
本発明の素子は、TADFを利用するものであるので、燐光発光性のドーパント材料は使用されない。
【0086】
発光層におけるホスト材料としては、前記一般式(1)で表される化合物を用いることが好ましい。またホスト材料を複数種類併用して用いても良い。ホスト材料を複数種類併用して用いる場合、少なくとも1種類のホスト材料が前記一般式(1)で表される化合物から選ばれることが好ましい。
【0087】
前記一般式(1)で表されるホスト材料の中でも、正孔輸送能、電子輸送能を有し、かつ高いガラス転移温度を有する化合物であり、発光性ドーパント材料S1及びT1よりも大きいT1を有していることが好ましい。
【0088】
ホスト材料を複数種使用する場合は、それぞれのホストを異なる蒸着源から蒸着するか、蒸着前に予備混合して予備混合物とすることで1つの蒸着源から複数種のホストを同時に蒸着することもできる。
【0089】
-注入層-
注入層とは、駆動電圧低下や発光輝度向上のために電極と有機層間に設けられる層のことで、正孔注入層と電子注入層があり、陽極と発光層又は正孔輸送層の間、及び陰極と発光層又は電子輸送層との間に存在させてもよい。注入層は必要に応じて設けることができる。
【0090】
-正孔阻止層-
正孔阻止層とは広い意味では電子輸送層の機能を有し、電子を輸送する機能を有しつつ正孔を輸送する能力が著しく小さい正孔阻止材料からなり、電子を輸送しつつ正孔を阻止することで発光層中での電子と正孔の再結合確率を向上させることができる。
【0091】
正孔阻止層には、公知の正孔阻止層材料を用いることもできる。
【0092】
-電子阻止層-
電子阻止層とは広い意味では正孔輸送層の機能を有し、正孔を輸送しつつ電子を阻止することで発光層中での電子と正孔が再結合する確率を向上させることができる。
【0093】
電子阻止層の材料としては、公知の電子阻止層材料を用いることができ、また後述する正孔輸送層の材料を必要に応じて用いることができる。電子阻止層の膜厚は好ましくは3~100nmであり、より好ましくは5~30nmである。また、一般式(1)で表される化合物を使用することもできる。
【0094】
-励起子阻止層-
励起子阻止層とは、発光層内で正孔と電子が再結合することにより生じた励起子が電荷輸送層に拡散することを阻止するための層であり、本層の挿入により励起子を効率的に発光層内に閉じ込めることが可能となり、素子の発光効率を向上させることができる。励起子阻止層は2つ以上の発光層が隣接する素子において、隣接する2つの発光層の間に挿入することができる。
【0095】
励起子阻止層の材料としては、公知の励起子阻止層材料を用いることができる。例えば、1,3-ジカルバゾリルベンゼン(mCP)や、ビス(2-メチル-8-キノリノラト)-4-フェニルフェノラトアルミニウム(III)(BAlq)が挙げられる。
【0096】
-正孔輸送層-
正孔輸送層とは正孔を輸送する機能を有する正孔輸送材料からなり、正孔輸送層は単層又は複数層設けることができる。
【0097】
正孔輸送材料としては、正孔の注入又は輸送、電子の障壁性のいずれかを有するものであり、有機物、無機物のいずれであってもよい。正孔輸送層には従来公知の化合物の中から任意のものを選択して用いることができる。かかる正孔輸送材料としては例えば、ポルフィリン誘導体、アリールアミン誘導体、トリアゾール誘導体、オキサジアゾール誘導体、イミダゾール誘導体、ポリアリールアルカン誘導体、ピラゾリン誘導体及びピラゾロン誘導体、フェニレンジアミン誘導体、アリールアミン誘導体、アミノ置換カルコン誘導体、オキサゾール誘導体、スチリルアントラセン誘導体、フルオレノン誘導体、ヒドラゾン誘導体、スチルベン誘導体、シラザン誘導体、アニリン系共重合体、また導電性高分子オリゴマー、特にチオフェンオリゴマー等が挙げられるが、ポルフィリン誘導体、アリールアミン誘導体及びスチリルアミン誘導体を用いることが好ましく、アリールアミン化合物を用いることがより好ましい。
【0098】
-電子輸送層-
電子輸送層とは電子を輸送する機能を有する材料からなり、電子輸送層は単層又は複数層設けることができる。
【0099】
電子輸送材料(正孔阻止材料を兼ねる場合もある)としては、陰極より注入された電子を発光層に伝達する機能を有していればよい。電子輸送層には、従来公知の化合物の中から任意のものを選択して用いることができ、例えば、ナフタレン、アントラセン、フェナントロリン等の多環芳香族誘導体、トリス(8-キノリノラート)アルミニウム(III)誘導体、ホスフィンオキサイド誘導体、ニトロ置換フルオレン誘導体、ジフェニルキノン誘導体、チオピランジオキシド誘導体、カルボジイミド、フレオレニリデンメタン誘導体、アントラキノジメタン及びアントロン誘導体、ビピリジン誘導体、キノリン誘導体、オキサジアゾール誘導体、ベンゾイミダゾール誘導体、ベンゾチアゾール誘導体、インドロカルバゾール誘導体等が挙げられる。更にこれらの材料を高分子鎖に導入した、又はこれらの材料を高分子の主鎖とした高分子材料を用いることもできる。
【0100】
本発明の有機EL素子を作製する際の、各層の製膜方法は特に限定されず、ドライプロセス、ウェットプロセスのどちらで作製しても良い。
【実施例】
【0101】
以下、本発明を実施例によって更に詳しく説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0102】
実施例で用いた化合物を次に示す。1-10、1-28、1-42、1-65、2-50、2-91、2-120、2-178は前述した化合物である。
【化63】
【0103】
実施例で用いた化合物のS1、T1、S1-T1(ΔE)を表1に示す。
【表1】
【0104】
実験例1
化合物2-120の蛍光寿命を測定した。石英基板上に真空蒸着法にて、真空度10-4Pa以下の条件にて化合物2-120と化合物1-10を異なる蒸着源から蒸着し、化合物2-120の濃度が15重量%である共蒸着膜を100nmの厚さで形成した。この薄膜の発光スペクトルを測定し、483nmをピークとする発光が確認された。また、窒素雰囲気下で小型蛍光寿命測定装置(浜松ホトニクス社製Quantaurus-tau)により発光寿命を測定した。励起寿命が12nsの蛍光と13μsの遅延蛍光が観測され、化合物2-120が遅延蛍光発光を示す化合物であることが確認された。
化合物2-50、2-91、2-178についても、上記と同様に蛍光寿命を測定したところ、遅延蛍光が観測され、遅延蛍光発光を示す材料であることが確認された。
【0105】
実施例1
膜厚70nmのITOからなる陽極が形成されたガラス基板上に、各薄膜を真空蒸着法にて、真空度4.0×10-5Paで積層した。まず、ITO上に正孔注入層としてHAT-CNを10nmの厚さに形成し、次に正孔輸送層として化合物(HT-1)を25nmの厚さに形成した。次に、電子阻止層として化合物(1-117)を5nmの厚さに形成した。そして、ホストとして化合物(1-28)を、ドーパントとして化合物(2-50)をそれぞれ異なる蒸着源から共蒸着し、30nmの厚さに発光層を形成した。この時、化合物(2-50)の濃度が15wt%となる蒸着条件で共蒸着した。次に、正孔阻止層として化合物(ET-2)を5nmの厚さに形成した。次に電子輸送層としてET-1を40nmの厚さに形成した。更に、電子輸送層上に電子注入層としてフッ化リチウム(LiF)を1nmの厚さに形成した。最後に、電子注入層上に、陰極としてアルミニウム(Al)を70nmの厚さに形成し、有機EL素子を作製した。
【0106】
実施例2~10、実施例12~14、比較例1~3
実施例1において、ホスト及びドーパントを表2に示す化合物とした他は、実施例1と同様にして有機EL素子を作製した。
【0107】
実施例11
膜厚70nmのITOからなる陽極が形成されたガラス基板上に、各薄膜を真空蒸着法にて、真空度4.0×10-5Paで積層した。まず、ITO上に正孔注入層としてHAT-CNを10nmの厚さに形成し、次に正孔輸送層として化合物(HT-1)を25nmの厚さに形成した。次に、電子阻止層として化合物(1-117)を5nmの厚さに形成した。次に、ホストとして化合物(1-10)を、第2ホストとして化合物(1-42)を、ドーパントとして化合物(2-120)をそれぞれ異なる蒸着源から共蒸着し、30nmの厚さに発光層を形成した。この時、化合物(2-120)の濃度が15wt%、ホストと第2ホストの重量比が50:50となる蒸着条件で共蒸着した。次に、正孔阻止層として化合物(ET-2)を5nmの厚さに形成した。次に電子輸送層としてET-1を40nmの厚さに形成した。更に、電子輸送層上に電子注入層としてフッ化リチウム(LiF)を1nmの厚さに形成した。最後に、電子注入層上に、陰極としてアルミニウム(Al)を70nmの厚さに形成し、有機EL素子を作製した。
【0108】
実施例1~14、比較例1~3で用いた化合物を表2に示す。
【0109】
【0110】
作製した有機EL素子の発光スペクトルの極大波長、外部量子効率(EQE)、電圧、素子寿命を表3に示す。極大波長、EQE、電圧は駆動電流密度が2.5mA/cm2時の値であり、初期特性である。寿命は、2.5 mA/cm2の定電流密度時に輝度が初期輝度の95%まで減衰するまでの時間とした。
【0111】
【0112】
表3より、一般式(1)で表されるホストと一般式(2)で表されるドーパントを発光層に用いた実施例1~14はホストとして一般的に用いられるmCPを用いた比較例1~2に比べ、高い発光効率と優れた寿命特性を有することがわかる。また、一般式(1)で表されるホストと一般式(2)で表されるドーパントを発光層に用いた実施例1~14はドーパントにシアノベンゼン化合物を用いた比較例3に比べて、優れた寿命特性を有することがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0113】
本発明の有機EL素子は、高発光効率で、長寿命な有機EL素子となる。
【符号の説明】
【0114】
1 基板、2 陽極、3 正孔注入層、4 正孔輸送層、5 発光層、6 電子輸送層、7 陰極