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特許6998399制御システム、制御システムの帯域幅を増加させる方法、及びリソグラフィ装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2021-12-22
(45)【発行日】2022-01-18
(54)【発明の名称】制御システム、制御システムの帯域幅を増加させる方法、及びリソグラフィ装置
(51)【国際特許分類】
   G03F 7/20 20060101AFI20220111BHJP
   G05B 11/36 20060101ALI20220111BHJP
【FI】
G03F7/20 521
G03F7/20 501
G05B11/36 501H
【請求項の数】 15
(21)【出願番号】P 2019558711
(86)(22)【出願日】2018-04-23
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2020-07-16
(86)【国際出願番号】 EP2018060323
(87)【国際公開番号】W WO2018215153
(87)【国際公開日】2018-11-29
【審査請求日】2019-12-20
(31)【優先権主張番号】17172257.2
(32)【優先日】2017-05-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】504151804
【氏名又は名称】エーエスエムエル ネザーランズ ビー.ブイ.
(74)【代理人】
【識別番号】100079108
【弁理士】
【氏名又は名称】稲葉 良幸
(74)【代理人】
【識別番号】100109346
【弁理士】
【氏名又は名称】大貫 敏史
(74)【代理人】
【識別番号】100117189
【弁理士】
【氏名又は名称】江口 昭彦
(74)【代理人】
【識別番号】100134120
【弁理士】
【氏名又は名称】内藤 和彦
(72)【発明者】
【氏名】ヒアチェス,マルセル,フランソワ
(72)【発明者】
【氏名】ディーネン,ダニエル,アンドレアス
(72)【発明者】
【氏名】イリゴージェン ペルディグエロ,ナタリア
(72)【発明者】
【氏名】クノップス,ヤニック
【審査官】菅原 拓路
(56)【参考文献】
【文献】米国特許第05298845(US,A)
【文献】米国特許第04283670(US,A)
【文献】特開2009-186685(JP,A)
【文献】特表2010-528385(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G03F 7/20
G03F 9/00
H01L 21/027
G05B 11/36
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
入力信号に基づいて出力信号を提供するように構成されたコントローラを備えた制御システムであって、前記コントローラが、
第1の制御信号を提供するように構成された線形積分器と、
前記線形積分器に並列に配置され、第2の制御信号を提供するように構成された線形ゲインと、
前記第1の制御信号が前記コントローラの前記出力信号として使用される積分器モードと、前記第2の制御信号が前記コントローラの前記出力信号として使用されるゲインモードとを切り換えるように構成されたセレクタと、を備え、
前記コントローラの前記入力信号が前記線形積分器と前記線形ゲインとに供給され、
前記セレクタが、
前記第2の制御信号の値がゼロを通過したときに前記積分器モードに切り換え、
eを前記コントローラの前記入力信号、uを前記コントローラの前記出力信号、kを前記線形ゲインのゲインとした場合に、eu<k -1のときに前記ゲインモードに切り換える、
ように構成された制御システム。
【請求項2】
前記セレクタがさらに、
ωを前記線形積分器の積分周波数、eを前記入力信号、kを前記線形ゲインのゲイン、
【数21】
を前記入力信号の第1の導関数とした場合に、
【数22】
のときに前記積分器モードに切り換えるように構成された、請求項1に記載の制御システム。
【請求項3】
前記セレクタが、前記第1の制御信号の絶対値が前記第2の制御信号の絶対値より大きい場合に前記ゲインモードに切り換える、請求項1又は2に記載の制御システム。
【請求項4】
前記コントローラが、前記第1の制御信号の値と前記第2の制御信号の値とが切換の瞬間に同じ又は実質的に同じである場合に、前記ゲインモードと前記積分器モードとを切り換えるように構成された、請求項1から3の1項に記載の制御システム。
【請求項5】
入力信号に基づいて出力信号を提供する制御システムの帯域幅を増加させる方法であって、前記制御システムが、線形積分器と、前記線形積分器に並列に配置された線形ゲインとを備え、前記制御システムの前記入力信号が前記線形積分器と前記線形ゲインとに供給され、前記線形積分器が第1の制御信号を提供するように構成され、前記線形ゲインが第2の制御信号を提供するように構成され、前記方法が、
前記第2の制御信号の値がゼロを通過したときに積分器モードに切り換えるステップと、
eを前記制御システムの前記入力信号、uを前記積分器モードにある前記制御システムの前記出力信号、kを前記線形ゲインのゲインとした場合に、eu<k -1のときに前記ゲインモードに切り換えるステップと、を含み、
前記積分器モードにおいて、前記第1の制御信号が前記出力信号として使用され、
前記ゲインモードにおいて、前記第2の制御信号が前記出力信号として使用される方法。
【請求項6】
前記方法が、
ωを前記線形積分器の積分周波数、eを前記入力信号、kを前記線形ゲインのゲイン、
【数23】
を前記入力信号の第1の導関数とした場合に、
【数24】
のときに前記積分器モードに切り換えるステップを含む、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記方法が、
前記積分器モードに切り換えるとき、前記第2の制御信号の実際値を前記線形積分器の初期値として使用するステップを含む、請求項5又は6に記載の方法。
【請求項8】
放射ビームの断面にパターンを付与してパターン付与された放射ビームを形成することができるパターニングデバイスを支持するように構築されたサポートと、
基板を保持するように構築された基板テーブルと、
前記パターン付与された放射ビームを前記基板のターゲット部分に投影するように構成された投影システムと、を備えたリソグラフィ装置であって、
前記リソグラフィ装置が、前記リソグラフィ装置の変数を制御するための、請求項1から4の1項に記載の制御システムを備えたリソグラフィ装置。
【請求項9】
入力信号に基づいて出力信号を提供するように構成されたコントローラを備えた制御システムであって、前記コントローラが、
第1の制御信号を提供するように構成された線形積分器と、
前記線形積分器に並列に配置され、第2の制御信号を提供するように構成された線形ゲインと、
前記コントローラの前記出力信号として、前記第1の制御信号又は前記第2の制御信号を選択するように構成されたセレクタと、を備え、
前記コントローラの前記入力信号が前記線形積分器と前記線形ゲインとに供給され、
前記セレクタが、
前記第2の制御信号の値がゼロを通過したときに前記出力信号を前記第1の制御信号に
切り換え、
前記第1の制御信号の絶対値が前記第2の制御信号の絶対値以上である場合に前記出力信号を前記第2の制御信号に切り換える、
ように構成された制御システム。
【請求項10】
前記セレクタがさらに、前記第2の制御信号の第1の導関数の値がゼロを通過したときに、前記出力信号を前記第1の制御信号に切り換えるように構成された、請求項9に記載の制御システム。
【請求項11】
前記セレクタが、前記第1の制御信号の前記絶対値が前記第2の制御信号の前記絶対値より小さい場合に、前記第1の制御信号を前記出力信号として選択するように構成された、請求項9又は10に記載の制御システム。
【請求項12】
前記コントローラが、前記セレクタが前記出力信号を前記第2の制御信号から前記第1の制御信号に切り換えるときに、前記線形積分器の初期値として前記第2の制御信号の実際値を使用するように構成された、請求項9から11の1項に記載の制御システム。
【請求項13】
前記コントローラが、前記第2の制御信号の前記実際値を前記線形積分器に実質的に連続して提供するように構成された、請求項12に記載の制御システム。
【請求項14】
入力信号に基づいて出力信号を提供するコントローラの帯域幅を増加させる方法であって、前記コントローラが、線形積分器と、前記線形積分器に並列に配置された線形ゲインとを備え、前記コントローラの前記入力信号が前記線形積分器と前記線形ゲインとに供給され、前記線形積分器が第1の制御信号を提供するように構成され、前記線形ゲインが第2の制御信号を提供するように構成され、前記方法が、
前記第2の制御信号の値がゼロを通過したときに前記コントローラの前記出力信号として前記第1の制御信号を選択するステップと、
前記第1の制御信号の絶対値が前記第2の制御信号の絶対値以上である場合に、前記コントローラの前記出力信号を前記第2の制御信号に切り換えるステップと、を含む方法。
【請求項15】
前記方法が、
前記第2の制御信号の第1の導関数の値がゼロを通過したときに、前記出力信号を前記第1の制御信号に切り換えるステップを含む、請求項14に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
[001] この出願は、2017年5月22日に出願された欧州出願17172257.2の優先権を主張し、参照によりその全体が本明細書に組み込まれる。
【0002】
[002] 本発明は、制御システム、制御システムの帯域幅を増加させる方法、及びそのような制御システムを備えたリソグラフィ装置に関する。
【背景技術】
【0003】
[003] リソグラフィ装置は、所望のパターンを基板に、通常は基板のターゲット部分に適用する機械である。リソグラフィ装置は、例えば、集積回路(IC)の製造に使用可能である。このような場合、代替的にマスク又はレチクルとも呼ばれるパターニングデバイスを使用して、ICの個々の層上に形成すべき回路パターンを生成することができる。このパターンを、基板(例えばシリコンウェーハ)上のターゲット部分(例えば1つ又は幾つかのダイの一部を含む)に転写することができる。パターンの転写は通常、基板に設けた放射感応性材料(レジスト)の層への結像により行われる。一般的に、1枚の基板は、順次パターンが付与される隣接したターゲット部分のネットワークを含んでいる。従来のリソグラフィ装置は、パターン全体をターゲット部分に1回で露光することによって各ターゲット部分が照射される、いわゆるステッパと、基板を所与の方向(「スキャン」方向)と平行あるいは逆平行に同期的にスキャンしながら、パターンを所与の方向(「スキャン」方向)に放射ビームでスキャンすることにより、各ターゲット部分が照射される、いわゆるスキャナとを含む。パターンを基板にインプリントすることによっても、パターニングデバイスから基板へとパターンを転写することが可能である。
【0004】
[004] リソグラフィ装置では、制御システムを使用してリソグラフィ装置の変数を制御する。これらの多くの制御システムでは線形積分器が適用される。線形積分器が適用される制御システムの例は、例えばステージ及び/又はレンズ用の位置又は速度制御システム、基板ハンドラ用の位置制御システム、リソグラフィ装置の熱的条件を制御する制御システムなどである。
【0005】
[005] 適切な低周波外乱除去を行う線形積分器が知られている。さらに、線形積分器の線形挙動は性能及び安定性に関して予測可能である。
【0006】
[006] しかしながら、全ての線形積分器はボードのゲイン-位相関係、すなわち90度位相遅れを伴うdecadeあたりマイナス20dBの振幅傾斜に耐える。この90度位相遅れは、一般に制御システムの帯域幅の増加に制限を設ける。この帯域幅制限は一般に望ましくない。
【発明の概要】
【0007】
[007] 本発明の目的は、改善された制御特性を提供し得る線形積分器を有する制御システムを提供することである。本発明の目的は、特に線形積分器の低周波外乱除去を適用可能であるが、同時に線形積分器の帯域幅に関して帯域幅の改善を可能にする制御システムを提供することである。
【0008】
[008] 本発明のある態様によれば、入力信号に基づいて出力信号を提供するように構成されたコントローラを備えた制御システムであって、コントローラが、
第1の制御信号を提供するように構成された線形積分器と、
線形積分器に並列し、第2の制御信号を提供するように構成された線形ゲインと、
第1の制御信号がコントローラの出力信号として使用される積分器モードと、第2の制御信号がコントローラの出力信号として使用されるゲインモードとを切り換えるように構成されたセレクタと、を備え、
セレクタが、
第2の制御信号の値がゼロを通過したときに積分器モードに切り換え、
eをコントローラの入力信号、uをコントローラの出力信号、kを線形ゲインのゲインとした場合に、eu<k -1のときにゲインモードに切り換える、
ように構成された制御システムが提供される。
【0009】
[009] 本発明のある態様によれば、入力信号に基づいて出力信号を提供する制御システムの帯域幅を増加させる方法であって、制御システムが、線形積分器と、線形積分器に並列した線形ゲインとを備え、線形積分器が第1の制御信号を提供するように構成され、線形ゲインが第2の制御信号を提供するように構成され、方法が、
第2の制御信号の値がゼロを通過したときに積分器モードに切り換えるステップと、
eをコントローラの入力信号、uをコントローラの出力信号、kを線形ゲインのゲインとした場合に、eu<k -1のときにゲインモードに切り換えるステップと、を含み、
積分器モードにおいて、第1の制御信号が出力信号として使用され、
ゲインモードにおいて、第2の制御信号が出力信号として使用される、
方法が提供される。
【0010】
[010] 本発明のある態様によれば、放射ビームの断面にパターンを付与してパターン付与された放射ビームを形成することができるパターニングデバイスを支持するように構築されたサポートと、
基板を保持するように構築された基板テーブルと、
パターン付与された放射ビームを基板のターゲット部分に投影するように構成された投影システムと、を備えたリソグラフィ装置であって、
リソグラフィ装置が、リソグラフィ装置の変数を制御するための、本発明のある態様に係る制御システムを備えた、リソグラフィ装置が提供される。
【0011】
[011] 本発明のある態様によれば、入力信号に基づいて出力信号を提供するコントローラの帯域幅を増加させる方法であって、コントローラが、線形積分器と、線形積分器に並列した線形ゲインとを備え、線形積分器が第1の制御信号を提供するように構成され、線形ゲインが第2の制御信号を提供するように構成され、方法が、
第2の制御信号の値がゼロを通過したときにコントローラの出力信号として第1の制御信号を選択するステップと、
第1の制御信号の絶対値が第2の制御信号の絶対値以上である場合に、コントローラの出力信号を第2の制御信号に切り換えるステップと、を含む方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0012】
[012] 対応する参照符号が対応する部分を示す添付の概略図を参照しながら以下に本発明の実施形態について説明するが、これは単に例示としてのものに過ぎない。
【0013】
図1】本発明の実施形態を提供し得るリソグラフィ装置を示す。
図2】本発明に係る制御システムを模式的に示す。
図3図2のハイブリッド積分器-ゲインコントローラをより詳細に示す。
図4図3のコントローラの入力信号と出力信号との関係を含む図を示す。
図5】線形積分器コントローラ及びハイブリッド積分器-ゲインコントローラの 移動平均Maの時間領域応答を示す。
図6】線形積分器コントローラ及びハイブリッド積分器-ゲインコントローラの移動標準偏差Msdの時間領域応答を示す。
【発明を実施するための形態】
【0014】
[013] 図1は、本発明の一実施形態によるリソグラフィ装置を概略的に示す。この装置は、照明システムIL、支持構造MT、基板テーブルWT、及び投影システムPSを含む。
【0015】
[014] 照明システムILは放射ビームBを調整するように構成される。支持構造MT(例えばマスクテーブル)は、パターニングデバイスMA(例えばマスク)を支持するように構築され、特定のパラメータに従ってパターニングデバイスを正確に位置決めするように構成された第1のポジショナPMに接続される。基板テーブルWT(例えばウェーハテーブル)は、基板W(例えばレジストコートウェーハ)Wを保持するように構築され、特定のパラメータに従って基板を正確に位置決めするように構成された第2のポジショナPWに接続される。投影システムPSは、パターニングデバイスMAによって放射ビームBに付与されたパターンを基板Wのターゲット部分C(例えば1つ以上のダイを含む)上に投影するように構成される。
【0016】
[015] 照明システムILは、放射を誘導し、整形し、又は制御するための、屈折型、反射型、磁気型、電磁型、静電型、又はその他のタイプの光学コンポーネント、あるいはそれらの任意の組み合わせなどの様々なタイプの光学コンポーネントを含むことができる。
【0017】
[016] 本明細書で使用する「放射ビーム」という用語は、イオンビーム又は電子ビームなどの粒子ビームのみならず、紫外線(UV)放射(例えば、365nm、355nm、248nm、193nm、157nmもしくは126nm、又はこれら辺りの波長を有する)及び極端紫外線(EUV)放射(例えば、5nm~20nmの範囲の波長を有する)を含むあらゆるタイプの電磁放射を網羅する。
【0018】
[017] 支持構造MTは、パターニングデバイスMAを支持、すなわちその重量を支えている。支持構造MTは、パターニングデバイスMAの配向、リソグラフィ装置の設計及び、例えばパターニングデバイスMAが真空環境で保持されているか否か等の条件に応じた方法でパターニングデバイスMAを保持する。支持構造MTは、機械式、真空式、静電式又はその他のクランプ技術を用いて、パターニングデバイスMAを保持することができる。支持構造MTは、例えば、必要に応じて固定又は可動式にできるフレーム又はテーブルであってもよい。支持構造MTは、パターニングデバイスMAが例えば投影システムPSに対して確実に所望の位置に来るようにしてもよい。
【0019】
[018] 本明細書において使用する「パターニングデバイス」という用語は、基板Wのターゲット部分Cにパターンを生成するように、放射ビームBの断面にパターンを付与するために使用し得る任意のデバイスを指すものとして広義に解釈されるべきである。ここで、放射ビームに付与されるパターンは、例えばパターンが位相シフトフィーチャ又はいわゆるアシストフィーチャを含む場合、基板Wのターゲット部分Cにおける所望のパターンに正確には対応しないことがある点に留意されたい。一般的に、放射ビームに付与されるパターンは、集積回路などのターゲット部分Cに生成されるデバイスの特定の機能層に相当する。
【0020】
[019] パターニングデバイスMAは透過性又は反射性でよい。パターニングデバイスの例には、マスク、プログラマブルミラーアレイ、及びプログラマブルLCDパネルがある。マスクはリソグラフィにおいて周知のものであり、これには、バイナリマスク、レベンソン型(alternating)位相シフトマスク、ハーフトーン型(attenuated)位相シフトマスクのようなマスクタイプ、更には様々なハイブリッドマスクタイプも含まれる。プログラマブルミラーアレイの一例として、小型ミラーのマトリクス配列を使用し、ミラーは各々、入射する放射ビームBを異なる方向に反射するように個々に傾斜することができる。傾斜したミラーは、ミラーマトリクスによって反射する放射ビームBにパターンを付与する。
【0021】
[020] 本明細書において使用する「投影システム」という用語は、例えば使用する露光放射、又は液浸液の使用や真空の使用などの他の要因に合わせて適宜、例えば屈折光学システム、反射光学システム、反射屈折光学システム、磁気光学システム、電磁気光学システム及び静電光学システム、又はその任意の組み合わせを含む任意のタイプの投影システムを網羅するものとして広義に解釈されるべきである。
【0022】
[021] 本明細書で示すように、本装置は透過タイプである(例えば透過マスクを使用する)。あるいは、装置は反射タイプでもよい(例えば上記で言及したようなタイプのプログラマブルミラーアレイを使用する、又は反射マスクを使用する)。
【0023】
[022] リソグラフィ装置は、2つ(デュアルステージ)又はそれ以上の基板テーブルWT(及び/又は2つ以上のマスクテーブル)を有するタイプでよい。このような「マルチステージ」機械においては、追加のテーブルを並行して使用するか、1つ以上の他のテーブルを露光に使用している間に1つ以上のテーブルで予備工程を実行することができる。1つ以上の基板テーブルWTに加えて、リソグラフィ装置は、基板テーブルWTがその位置から離れているときに投影システムPSの下の位置に配置される測定ステージを有してもよい。基板Wを支持する代わりに、測定ステージにセンサを設けて、リソグラフィ装置の特性を測定してもよい。例えば、投影システムは、画像品質を決定するために測定ステージ上のセンサに画像を投影してもよい。
【0024】
[023] リソグラフィ装置は、投影システムと基板との間の空間を充填するように、基板Wの少なくとも一部が相対的に高い屈折率を有する液体、例えば水によって覆えるタイプでもよい。液浸液は、例えばパターニングデバイスMAと投影システムPSとの間など、リソグラフィ装置の他の空間に適用することもできる。液浸技術は、投影システムの開口数を増やすために当技術分野では周知である。本明細書で使用する「液浸」という用語は、基板Wなどの構造を液体に沈めなければならないという意味ではなく、露光中に投影システムPSと基板Wとの間に液体が存在するというほどの意味である。
【0025】
[024] 図1を参照すると、照明システムILは放射源SOから放射ビームを受ける。放射源SO及びリソグラフィ装置は、例えば放射源SOがエキシマレーザである場合に、別々の構成要素であってもよい。このような場合、放射源はリソグラフィ装置の一部を形成すると見なされず、放射ビームBは、例えば適切な誘導ミラー及び/又はビームエクスパンダなどを備えるビームデリバリシステムBDの助けにより、放射源SOから照明システムILへと渡される。他の事例では、例えば放射源SOが水銀ランプの場合は、放射源SOがリソグラフィ装置の一体部分であってもよい。放射源SO及びイルミネータILは、必要に応じてビームデリバリシステムBDとともに放射システムと呼ぶことができる。
【0026】
[025] 照明システムILは、放射ビームBの角度強度分布を調整するためのアジャスタADを備えていてもよい。一般に、照明システムの瞳面における強度分布の外側及び/又は内側半径範囲(一般にそれぞれ、σ-outer及びσ-innerと呼ばれる)を調節することができる。また、照明システムILは、インテグレータIN及びコンデンサCOなどの他の種々のコンポーネントを備えていてもよい。照明システムILを用いて放射ビームBを調節し、その断面にわたって所望の均一性と強度分布とが得られるようにしてもよい。
【0027】
[026] 放射ビームBは、支持構造MT上に保持されたパターニングデバイスMTに入射し、パターニングデバイスMAによってパターン形成される。パターニングデバイスMAを横断した放射ビームBは、投影システムPSを通過し、投影システムPSは、ビームを基板Wのターゲット部分C上に合焦させる。第2のポジショナPW及び位置センサIF(例えば、干渉計デバイス、リニアエンコーダ又は容量センサ)の助けにより、基板テーブルWTを、例えば様々なターゲット部分Cを放射ビームBの経路に位置決めするように正確に移動できる。同様に、第1のポジショナPMと別の位置センサ(図1には明示されていない)を用いて、マスクライブラリからの機械的な取り出し後又はスキャン中などに放射ビームBの経路に対してパターニングデバイスMAを正確に位置決めできる。一般に、支持構造MTの移動は、第1のポジショナPMの部分を形成するロングストロークモジュール(粗動位置決め)及びショートストロークモジュール(微動位置決め)の助けにより実現できる。ロングストロークモジュールは、広い範囲の動きにわたってショートストロークモジュールの粗動位置決めを提供することができる。ショートストロークモジュールは、小さい範囲にわたってロングストロークモジュールに対して支持構造MTの微動位置決めを提供することができる。同様に、基板テーブルWTの移動は、第2のポジショナPWの部分を形成するロングストロークモジュール及びショートストロークモジュールを用いて実現できる。ロングストロークモジュールは、移動の広い範囲にわたってショートストロークモジュールの粗動位置決めを提供することができる。ショートストロークモジュールは、移動の小さい範囲にわたってロングストロークモジュールに対して支持構造MTの微動位置決めを提供することができる。ステッパの場合(スキャナとは対照的に)、支持構造MTをショートストロークアクチュエータのみに接続するか、又は固定してもよい。パターニングデバイスMA及び基板Wは、マスクアライメントマークM1、M2及び基板アライメントマークP1、P2を使用して位置合わせすることができる。図示のような基板アライメントマークP1、P2は、専用のターゲット部分を占有するが、ターゲット部分Cの間の空間に位置してもよい(スクライブラインアライメントマークとして周知である)。同様に、パターニングデバイスMA上に複数のダイを設ける状況では、マスクアライメントマークM1、M2をダイ間に配置してもよい。
【0028】
[027] 図示のリソグラフィ装置は、以下のモードのうち少なくとも1つにて使用可能である。
【0029】
[028] 第1のモード、いわゆるステップモードでは、支持構造MT及び基板テーブルWTは、基本的に静止状態に維持される一方、放射ビームBに付与されたパターン全体が1回でターゲット部分Cに投影される(すなわち単一静的露光)。次に、別のターゲット部分Cを露光できるように、基板テーブルWTがX方向及び/又はY方向に移動される。ステップモードでは、露光フィールドの最大サイズによって、単一静的露光で像が形成されるターゲット部分Cのサイズが制限される。
【0030】
[029] 第2のモード、いわゆるスキャンモードでは、支持構造MT及び基板テーブルWTは同期的にスキャンされる一方、放射ビームBに付与されるパターンがターゲット部分Cに投影される(すなわち単一動的露光)。支持構造MTに対する基板テーブルWTの速度及び方向は、投影システムPSの拡大(縮小)及び像反転特性によって求めることができる。スキャンモードでは、露光フィールドの最大サイズによって、単一動的露光におけるターゲット部分の(非スキャン方向における)幅が制限され、スキャン動作の長さによってターゲット部分の(スキャン方向における)高さが決まる。
【0031】
[030] 第3のモードでは、支持構造MTはプログラマブルパターニングデバイスを保持して基本的に静止状態に維持され、基板テーブルWTを移動又はスキャンさせながら、放射ビームに与えられたパターンをターゲット部分Cに投影する。このモードでは、一般にパルス状放射源を使用して、基板テーブルWTを移動させる毎に、又はスキャン中に連続する放射パルスの間で、プログラマブルパターニングデバイスを必要に応じて更新する。この動作モードは、以上で言及したようなタイプのプログラマブルミラーアレイなどのプログラマブルパターニングデバイスを使用するマスクレスリソグラフィに容易に利用できる。
【0032】
[031] 上述した使用モードの組み合わせ及び/又は変形、又は全く異なる使用モードも利用できる。
【0033】
[032] 図2は、本発明のある実施形態に係る制御システムの制御方式を示している。制御システムは、実出力値yを有するプラントPの変数を制御するために提供される。制御対象のプラントPの変数の実出力値yは測定システムによって測定され、測定ノイズηが生じる。制御システムは、例えばリソグラフィ装置のステージ及び/又はレンズ用の位置制御システム又は速度制御システム、基板ハンドラ用の位置制御システム、ステージ位置システム、放射源システム、リソグラフィ装置の熱的条件を制御するための制御システムであってよい。
【0034】
[033] 制御システムは、基準信号rを提供する信号発生器SGを備える。基準信号rは、一般に制御システムにより制御される変数の目標値を表す。減算器SUBにおいて、制御対象のプラントPの変数の実出力値yは基準信号rから減算されて誤差信号eが提供される。
【0035】
[034] 誤差信号は第1のコントローラHに入力信号として供給される。第1のコントローラHは出力信号uを提供する。出力信号uは誤差信号eに加算されて信号wが提供される。信号wは、例えば線形時不変コントローラなどの第2のコントローラCnomに供給される。第2のコントローラCnomの出力は、プラントPの入力として使用される。
【0036】
[035] 本発明によれば、コントローラHは、線形積分器L-I、線形ゲインL-G及びセレクタSELを備える。
【0037】
[036] 図3は、コントローラHをより詳細に示している。線形積分器L-Iと線形ゲインL-Gは並列に配置され、誤差信号eは線形積分器L-Iと線形ゲインL-Gの両方に供給される。誤差信号eに基づいて、線形積分器L-Iは第1の制御信号c1を提供することができ、線形ゲインは第2の制御信号c2を提供することができる。
【0038】
[037] セレクタSELは、出力信号として第1の制御信号c1又は出力信号として第2の制御信号c2のいずれかを選択するスイッチSWを備える。スイッチSWが図3に示すように出力信号uとして第1の制御信号c1を使用するように構成されるとき、第1のコントローラHは積分器モードにある。スイッチSWが出力信号uとして第2の制御信号c2を使用するように構成されるとき、第1のコントローラHはゲインモードにある。スイッチSWを備えるセレクタSELは通常、例えばリソグラフィ装置の中央処理ユニットなどの処理ユニット内の多くのソフトウェア命令として実現されることに留意されたい。
【0039】
[038] 状態空間表現では、線形積分器L-Iは、次のように記述することができる。
【0040】
【数1】

ここで、
【0041】
【数2】

は線形積分器の状態xの第1の導関数であり、ωは積分器周波数であり、eはコントローラの入力信号として使用される誤差信号であり、c1=xである。
同様に、線形ゲインL-Gは、x=keのように記述することができる。ここで、xは線形ゲインL-Gの状態であり、kはゲインであり、eはコントローラの入力信号として使用される誤差信号であり、c2=xである。
【0042】
[039] セレクタSELは、出力信号uの値、入力信号eの値、及び入力信号eの第1の導関数
【0043】
【数3】

に依存して、積分器モードに切り換える、すなわちコントローラの出力信号として第1の制御信号c1を選択する、又はゲインモードに切り換える、すなわちコントローラの出力信号uとして第2の制御信号c2を選択するように構成される。
【0044】
[040] 特に、セレクタSELは、第2の制御信号c2の値がゼロを通過したときに積分器モードに切り換えるように構成される。第2の制御信号c2の値は、値が負の値から正の値に変化するとき、又は値が正の値から負の値に変化するときにゼロを通過することができる。
【0045】
[041] さらに、セレクタSELは、次の切換条件が満たされる場合に、出力信号uとして第2の制御信号c2に、すなわち積分器モードからゲインモードに切り換えるように構成される。
eu<k -1
ここでeはコントローラの入力信号として使用される誤差信号であり、uはコントローラの出力信号であり、kは線形ゲインL-Gのゲインであり、k -1は1/kである。コントローラが積分器モードにあるとき、出力信号uはコントローラの出力信号であってよい。積分器モードでは、出力信号uは第1の制御信号c1に等しく、第2の制御信号c2は常にkeに等しいため、切換条件は次のように書くこともできる。
【0046】
【数4】

eとuは同じ符号を有するという必要条件が追加される。
【0047】
[042] 換言すれば、セレクタSELは、第1の制御信号c1の絶対値が第2の制御信号c2の絶対値より大きい場合に、出力信号uとして第2の制御信号c2に切り換えるように構成される。セレクタSELは、第1の制御信号c1の絶対値が第2の制御信号c2の絶対値より大きい場合に、ゲインモードに切り換えるように構成される。入力信号eと出力信号uは同じ符号を有してよい、すなわち入力信号eと出力信号uは共に正であっても、共に負であってもよい。
【0048】
[043] 第1の制御信号c1と第2の制御信号c2が同じである場合、セレクタSELは積分器モードからゲインモードに切り換えても、積分器モードのままであってもよいことに留意されたい。
【0049】
[044] さらに、セレクタSELは、次の切換条件が満たされる場合に積分器モードに再度切り換えるように構成される。
【0050】
【数5】

式中、ωは線形積分器の積分周波数であり、eは入力信号であり、kは線形ゲインのゲインであり、
【0051】
【数6】

は入力信号eの第1の導関数である。
【0052】
[045] コントローラを積分器モードに構成すべきかゲインモードに構成すべきかをセレクタSELが決定できるように、誤差信号eはセレクタ信号s1としてセレクタSELに供給される。さらに、第1のセレクタ信号s1の第1の導関数は、第2のセレクタ信号s2としてセレクタSELに提供される。したがって、第2のセレクタ信号s2は誤差信号eの第1の導関数を表す。
【0053】
[046] コントローラの出力信号uもまた、セレクタ信号s3としてセレクタSELに供給される。セレクタSELが積分器モードにあるかゲインモードにあるかに依存して、セレクタ信号s3は、第1の制御信号c1又は第2の制御信号s2にそれぞれ等しい。
【0054】
[047] 誤差信号eにゲインkが乗じられた場合、結果として生じる信号は第2の制御信号c2に等しくなることに留意されたい。したがって、ke=ks1=c2である。
【0055】
[048] コントローラがゲインモードにあるとき、第2の制御信号c2は線形積分器L-Iに実質的に連続して供給されて、第2の制御信号c2の実際値が線形積分器L-Iに提供される。この第2の制御信号c2の実際値は、セレクタSELが出力信号を第2の制御信号c2、すなわちゲインモードから第1の制御信号c1、すなわち積分器モードに切り換えるとき、線形積分器の初期値として線形積分器L-Iによって使用される。これによって、セレクタSELがゲインモードから積分器モードに切り換えるときに出力信号uに不連続点が存在しないことが保証される。同様に、セレクタSELが積分器モードからゲインモードに切り換えるとき、第1の制御信号c1と第2の制御信号c2の値は実質的に同じである。これによって実質的な不連続点のない出力信号uがもたらされる。出力信号uは不連続点を含まないが、出力信号uの第1の導関数には不連続点がある可能性があることに留意されたい。
【0056】
[049] ハイブリッド積分器ゲインコントローラHを含むこのコントローラ構成は、ハイブリッド積分器ゲイン制御システム(HIGS)と称される場合がある。
【0057】
[050] HIGSシステムは一般的に次のように記述することができ、
【0058】
【数7】

次のサブ領域を含む。
【0059】
【数8】

式中、
【0060】
【数9】

は線形積分器の状態xの第1の導関数であり、ωは積分器周波数であり、eはコントローラの入力信号として使用される誤差信号であり、kはゲインであり、uはコントローラの出力信号である。
【0061】
[051] 図4は、第1のコントローラHの出力信号uの挙動の時系列応答の例を示している。入力信号eは、e(t)=sin(2πt)+0.5sin(6πt)によって与えられ、第1のコントローラのパラメータはωh=1rad/s及びk=1.5に設定され、ここでωhは積分器周波数であり、kは線形ゲインL-Gのゲインである。図4は、信号keはゲインkが乗じられた入力信号eであることを示す。この信号keは第1の制御信号c1に対応することに留意されたい。
【0062】
[052] 最初は、第1のコントローラHは積分器モードにある。この積分器モードでは、線形積分器L-Iの第1の制御信号c1は、図4に出力uF1で示す第1のコントローラHの出力信号uとして使用される。
【0063】
[053] 第1のコントローラHは、切換条件eu<k -1が満たされない限り積分器モードのままである。別の言葉で表現すると、第1の制御信号c1の絶対値が第2の制御信号c2の絶対値より小さい限り、第1のコントローラHは積分器モードであり続ける。図3に示す実施形態では、セレクタSELは、積分器モードの第1の制御信号c1と同じである出力信号uを、第2の制御信号c2を表すゲインkが乗じられた第1のセレクタ信号s1と比較できることに留意されたい。
【0064】
[054] 第1の制御信号c1の絶対値が第2の制御信号c2の絶対値より大きくなるとすぐに、切換条件eu<k -1が満たされ、セレクタSELは、出力信号uとして線形積分器L-Iの第1の制御信号c1を使用する積分器モードから、出力信号uとして線形ゲインL-Gの第2の制御信号c2を使用するゲインモードに切り換える。この出力信号uは、図4に出力uF2として示される。
【0065】
[055] ゲインモードでは、出力信号uは、ゲインkが乗じられた入力信号e、すなわち図4に見られる出力信号u=keと同じになる。
【0066】
[056] 第1のコントローラHは、第2の制御信号c2がゼロを通過しない、すなわち切換条件
【0067】
【数10】

が満たされない限りゲインモードであり続ける。
【0068】
[057] 図4では、第2の制御信号c2の第1の導関数は、時間1/2πでゼロを通過する。この時点で信号keの値は減少から増加に変化する。これは条件
【0069】
【数11】

が満たされたことを意味し、結果として、セレクタSELはこの時点でゲインモードから積分器モードに切り換えることになる。
【0070】
[058] 図示された正弦波誤差信号の例では、切換条件
【数12】

は、第2の制御信号c2の第1の導関数がゼロを通過したときに満たされることに留意されたい。
【0071】
[059] 第1のコントローラHは、線形積分器の初期値として、時間1/2πでゲインモードにおける出力信号uと等しい第2の制御信号c2の実際値を使用するように構成される。これには第1のコントローラHの出力信号uの値に不連続点が存在しないという利点がある。実際値は、第1のコントローラHがゲインモードにあるときに、第2の制御信号c2、すなわち出力信号uの実際値を線形積分器L-Iに実質的に連続して供給することから利用可能である。繰返しになるが、第1のコントローラHは、切換条件eu<k -1が満たされない限り積分器モードのままであり、これは出力uF1の第2の部分に示されている。
【0072】
[060] 図4から、第1の制御信号c1の絶対値が第2の制御信号c2の絶対値より大きくなると、セレクタSELは、出力信号uとして線形積分器L-Iの第1の制御信号c1を使用することから、出力信号uとして線形ゲインL-Gの第2の制御信号c2を使用することに切り換えることが分かる。
【0073】
[061] ここで繰返しになるが、出力信号uは、第2の制御信号c2がゼロを通過しない、すなわち切換条件
【0074】
【数13】

が満たされない限り第2の制御信号c2と同じである。時間πで第2の制御信号c2はゼロを通過する。結果として、第1のコントローラHは、時間πでゲインモードから、線形積分器L-Iの初期値として0である第2の制御信号c2の実際値を使用する積分器モードに切り換えることになる。
【0075】
[062] 図4に見られるように、第1のコントローラHは、第1の制御信号c1の絶対値が第2の制御信号c2の絶対値より大きくなるとすぐに積分器モードからゲインモードに切り換えることを継続する。同様に、第1のコントローラHは、第2の制御信号c2がゼロを通過する、又は第2の制御信号c2の第1の導関数がゼロを通過する、すなわち切換条件
【0076】
【数14】

が満たされるとすぐにゲインモードから積分器モードに切り換えることを継続する。
【0077】
[063] 積分器モードとゲインモードの切り換えの利点は、出力信号uの符号が入力信号eの符号と常に同じであると同時に連続的な出力信号uを確保することであることに留意されたい。
【0078】
[064] これらの積分器モードとゲインモードの切り換えに基づいた第1のコントローラHの出力信号uの特性は、図1の制御システムの制御性能にプラスの影響を与えることが分かった。特に、線形積分器に通常認められる90度位相遅れは、第1のコントローラHの構成によって大幅に低減することができる。
【0079】
[065] このことは、誤差信号eとして次のものを使用する場合にはっきりと見られる。
【0080】
【数15】

これについて次式が成り立つ。
【0081】
【数16】

ここでガンマは次式で定義された切換の瞬間を表す。
【0082】
【数17】
【0083】
[066] 次に、記述関数D(ω)、すなわち第1のコントローラHのe(ω)及びu(ω)間の周波数応答は次式によって与えられ、
【0084】
【数18】

ここで、
【0085】
【数19】

である。
【0086】
[067] 興味深いことに、γ→πのとき
【0087】
【数20】

である。
【0088】
[068] これは、振幅減衰がdecadeあたり20dBであるが、位相遅れが38.15度しかない標準的な線形積分器の周波数応答関数である。ω及びkの他の値について、異なる特性を得ることができるが、位相遅れは常に38.15度未満である。したがって、第1のコントローラHは、上記の位相利益を使用するために既存の線形積分器の代替品/代用品として最適である。このような位相利益は、制御システムの帯域幅を増加させたり、より一般的に制御システムの性能を向上させたりするのに使用できる点で有利である。
【0089】
[069] 図5及び図6は、改善された制御性能の例として、2つの性能指標、すなわち移動平均Ma(図5)及び移動標準偏差Msd(図6)の2つの時間領域応答を示している。各図には、線形積分器コントローラの時間応答及びハイブリッド積分器ゲインコントローラの時間応答が示されている。外乱除去性能は、線形積分器コントローラを有する制御システムに対して、ハイブリッド積分器ゲインコントローラを有する制御システムにおいて大幅に高められることが分かる。
【0090】
[070] 以上では、ハイブリッド積分器ゲインコントローラと第2のノミナルコントローラとを備えた制御システムにおいて、ハイブリッド積分器ゲイン制御システムを使用することについて説明した。この制御システムは、積分器の1つがハイブリッド積分器ゲインコントローラに代替される非線形PID、又は場合によりPID制御システムを形成する。ハイブリッド積分器ゲインコントローラはまた、例えばローパスフィルタ又はノッチフィルタの積分器の1つがハイブリッド積分器ゲインコントローラに代替されたローパスフィルタ又はノッチフィルタを形成するために、他の制御システムに適用することができる。
【0091】
[071] より一般的には、ハイブリッド積分器ゲインコントローラは、任意の適切な制御システムで使用することができる。特に、ハイブリッド積分器ゲインコントローラの使用により従来の線形積分器を置き換えて位相遅れを低減することができる。この位相遅れの低減は、制御システムの帯域幅にプラスの影響を与えることができる。
【0092】
[072] 以上では、フィードバックシステムについて説明した。実際には、フィードバックループを有する制御システムをフィードフォワードループなどの他の制御機能と組み合わせることができる。
【0093】
[073] 本文ではICの製造におけるリソグラフィ装置の使用に特に言及しているが、本明細書で説明するリソグラフィ装置には他の用途もあることを理解されたい。例えば、これは、集積光学システム、磁気ドメインメモリ用ガイダンス及び検出パターン、フラットパネルディスプレイ、液晶ディスプレイ(LCD)、薄膜磁気ヘッドなどの製造である。こうした代替的な用途に照らして、本明細書で「ウェーハ」又は「ダイ」という用語を使用している場合、それぞれ「基板」又は「ターゲット部分」という、より一般的な用語と同義と見なしてよいことが当業者には認識される。本明細書に述べている基板は、露光前又は露光後に、例えばトラック(通常はレジストの層を基板に塗布し、露光したレジストを現像するツール)、メトロロジツール及び/又はインスペクションツールで処理することができる。適宜、本明細書の開示は、以上及びその他の基板プロセスツールに適用することができる。更に基板は、例えば多層ICを生成するために、複数回処理することができ、したがって本明細書で使用する基板という用語は、既に複数の処理済み層を含む基板も指すことができる。
【0094】
[074] 光リソグラフィの分野での本発明の実施形態の使用に特に言及してきたが、本発明は文脈によってはその他の分野、例えばインプリントリソグラフィでも使用することができ、光リソグラフィに限定されないことを理解されたい。インプリントリソグラフィでは、パターニングデバイス内のトポグラフィが基板上に作成されたパターンを画定する。パターニングデバイスのトポグラフィは基板に供給されたレジスト層内に刻印され、電磁放射、熱、圧力又はそれらの組み合わせを適用することでレジストは硬化する。パターニングデバイスはレジストから取り除かれ、レジストが硬化すると、内部にパターンが残される。
【0095】
[075] 以上、本発明の特定の実施形態を説明したが、説明とは異なる方法でも本発明を実践できることが理解される。例えば、本発明は、上記で開示したような方法を述べる機械読み取り式命令の1つ以上のシーケンスを含むコンピュータプログラム、又はこのようなコンピュータプログラムを内部に記憶したデータ記憶媒体(例えば半導体メモリ、磁気又は光ディスク)の形態をとることができる。
【0096】
[076] 上記の説明は例示的であり、限定的ではない。したがって、請求の範囲から逸脱することなく、記載されたような本発明を変更できることが当業者には明白である。
図1
図2
図3
図4
図5
図6