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特許6998715スズ粒子担持シートおよびリチウムイオン二次電池用負極
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2021-12-23
(45)【発行日】2022-01-18
(54)【発明の名称】スズ粒子担持シートおよびリチウムイオン二次電池用負極
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/134 20100101AFI20220111BHJP
   H01M 4/38 20060101ALI20220111BHJP
   H01M 4/66 20060101ALI20220111BHJP
【FI】
H01M4/134
H01M4/38 Z
H01M4/66 A
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2017189161
(22)【出願日】2017-09-28
(65)【公開番号】P2019067534
(43)【公開日】2019-04-25
【審査請求日】2020-06-22
(73)【特許権者】
【識別番号】504180239
【氏名又は名称】国立大学法人信州大学
(73)【特許権者】
【識別番号】000229117
【氏名又は名称】日本ゼオン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【弁護士】
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100150360
【弁理士】
【氏名又は名称】寺嶋 勇太
(74)【代理人】
【識別番号】100209679
【弁理士】
【氏名又は名称】廣 昇
(72)【発明者】
【氏名】新井 進
(72)【発明者】
【氏名】清水 雅裕
(72)【発明者】
【氏名】清水 俊也
(72)【発明者】
【氏名】山岸 智子
(72)【発明者】
【氏名】上島 貢
【審査官】前田 寛之
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-009837(JP,A)
【文献】特開2018-113108(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/134
H01M 4/38
H01M 4/66
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
単層カーボンナノチューブを含むカーボンナノチューブを含有し、且つ、空隙率が5%以上90%以下であるシートと、
前記シートに担持されたスズ粒子と、
を有
自立性を有し、
リチウムイオン二次電池用負極に用いられる、スズ粒子担持シート。
【請求項2】
前記スズ粒子の少なくとも一部が前記シートの内部に存在する、請求項1に記載のスズ粒子担持シート。
【請求項3】
前記スズ粒子の平均粒径が5μm以下である、請求項1または2に記載のスズ粒子担持シート
【請求項4】
前記シートが、繊維状基材と、前記繊維状基材に付着した前記カーボンナノチューブとを備える、請求項1~3のいずれかに記載のスズ粒子担持シート。
【請求項5】
前記シートが前記カーボンナノチューブのみで構成されている、請求項1~3のいずれかに記載のスズ粒子担持シート。
【請求項6】
請求項1~5のいずれかに記載のシートからなるリチウムイオン二次電池用負極。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スズ粒子担持シートおよびリチウムイオン二次電池用負極に関するものである。具体的には、本発明は、カーボンナノチューブを含み、スズ(Sn)粒子が担持されたシートに関するものである。また、本発明は、当該シートからなるリチウムイオン二次電池用負極に関するものである。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン二次電池は、小型で軽量、且つエネルギー密度が高く、さらに繰り返し充放電が可能という特性があり、幅広い用途に使用されている。そのため、近年では、リチウムイオン二次電池の更なる高性能化を目的として、電極などの電池部材の改良が検討されている。具体的には、集電体上に、理論容量の高いスズを含有する負極活物質を含む負極活物質層を備えてなる負極が検討されている(例えば、特許文献1および2参照)。そして特許文献1および2に記載された負極によれば、リチウムイオン二次電池を高容量化しつつ、充放電した際の負極活物質のクラックの発生や集電体からの脱離を抑制して、良好なサイクル特性を確保することができると報告されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2015-43309号公報
【文献】特許第5275702号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ここで、上記従来の技術では、理論容量の高いスズを含有する負極活物質を用いることでリチウムイオン二次電池の高容量化が図られている。しかしながら、上記従来の技術を用いても、スズを含有する負極活物質を用いた場合に、負極活物質の膨張および収縮に起因するサイクル特性低下を十分に抑制することはできなかった。すなわち、上記従来の技術には、リチウムイオン二次電池の高容量化を実現しつつ、サイクル特性を更に向上させるという点で改善の余地があった。
そこで、本発明は、上述した改善点を有利に解決する手段を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、上記課題を解決することを目的として鋭意検討を行った。そして、本発明者らは、カーボンナノチューブを有し、且つ、空隙率が所定の範囲内であるシートにスズ粒子を担持してなるスズ粒子担持シートを用いることで、リチウムイオン二次電池の容量およびサイクル特性を高めることができることを見出し、本発明を完成させた。
【0006】
即ち、この発明は、上記課題を有利に解決することを目的とするものであり、本発明のスズ粒子担持シートは、カーボンナノチューブを含有し、且つ、空隙率が5%以上90%以下であるシートと、前記シートに担持されたスズ粒子とを有することを特徴とする。このように、カーボンナノチューブを含有し、且つ、空隙率が上述した値の範囲内であるシートと、前記シートに担持されたスズ粒子とを有するスズ粒子担持シートを用いれば、リチウムイオン二次電池の容量およびサイクル特性を高めることができる。
なお、本発明における空隙率は、シートの断面を集束イオンビーム(FIB)で加工し、その断面をエネルギー分散型X線分光法(SEM-EDX)で観察し、得られたC元素の可視化像からSEM観察画像中のC元素の位置を特定し、視野全体におけるC元素の占有率(A)を算出して、下記式により求めることができる。
空隙率(%)=100-A
【0007】
ここで、本発明のスズ粒子担持シートは、前記スズ粒子の少なくとも一部が前記シートの内部に存在することが好ましい。スズ粒子の少なくとも一部が前記シートの内部に存在するスズ粒子担持シートを負極として用いれば、リチウムイオン二次電池に一層優れたサイクル特性を発揮させることができる。
【0008】
ここで、本発明のスズ粒子担持シートは、前記スズ粒子の平均粒径が5μm以下であることが好ましい。スズ粒子の平均粒径が上記の範囲内であれば、リチウムイオン二次電池のサイクル特性を更に向上させることができる。
なお、本発明において、スズ粒子の粒径は、例えば電界放出形走査電子顕微鏡(FE-SEM)等でスズ粒子を観察し、当該スズ粒子の外縁上の2点を結ぶ線分の長さのうち最大の長さを測定することで得られる。また、本発明において、スズ粒子の「平均粒径」は、無作為に選択した100個のスズ粒子の粒径の平均値として算出することができる。
【0009】
また、本発明のスズ粒子担持シートは、前記シートが、繊維状基材と、前記繊維状基材に付着した前記カーボンナノチューブとを備えることが好ましい。前記シートが、繊維状基材と、前記繊維状基材に付着した前記カーボンナノチューブとを備えていれば、シートの空隙率をさらに高め、リチウムイオンの挿入、脱離の効率を上げることができるため、二次電池の充電量および放電量をさらに高めることができる。
【0010】
また、本発明のスズ粒子担持シートは、前記シートが前記カーボンナノチューブのみで構成されていることが好ましい。これにより、スズ粒子担持シートを軽量化および薄層化できるため、リチウムイオン二次電池の軽量化および薄層化が可能となる。
【0011】
また、この発明は上記課題を有利に解決することを目的とするものであり、本発明のリチウムイオン二次電池用負極は上述したスズ粒子担持シートからなることを特徴とする。リチウムイオン二次電池が当該負極を備えることで、当該二次電池の容量およびサイクル特性を高めることができる。
【発明の効果】
【0012】
本発明のスズ粒子担持シートによれば、リチウムイオン二次電池の容量およびサイクル特性を高めることができるリチウムイオン二次電池用負極を提供することができる。
また、本発明のリチウムイオン二次電池用負極によれば、リチウムイオン二次電池の容量およびサイクル特性を高めることができる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施形態について詳細に説明する。
ここで、本発明のスズ粒子担持シートは、カーボンナノチューブ(以下、「CNT」と称することがある)を有し、且つ、空隙率が所定の範囲内であるシートに、スズ粒子を担持してなるシートである。そして、本発明のスズ粒子担持シートは、特に限定されることなく、例えば本発明のリチウムイオン二次電池用負極として用いることができる。
【0014】
(スズ粒子担持シート)
本発明のスズ粒子担持シートは、CNTを含有し、且つ、空隙率が5%以上90%以下であるシート(以下、「基材シート」と称することがある)と、前記シートに担持されたスズ粒子とを有し、任意にその他の成分を更に含有し得るシートである。
本発明のスズ粒子担持シートを用いることで、リチウムイオン二次電池の容量およびサイクル特性を高めることができる。
【0015】
<基材シート>
本発明のスズ粒子担持シートに用いられる基材シートは、スズ粒子を担持するための担体として使用されるものである。そして、当該基材シートは、表面および内部にスズ粒子を担持するための空隙を有している。
基材シートは、CNTを含有し、且つ、空隙率が5%以上90%以下である必要があり、任意で繊維状基材およびその他の成分を含有し得る。なお、基材シートが繊維状基材を有する場合、CNTが当該繊維状基材に付着していることが好ましい。
【0016】
[基材シートの構造]
具体的には、基材シートは、例えば、(1)空隙率が5%以上90%以下となるように複数本のカーボンナノチューブのみを絡み合わせてなる構造、或いは、(2)空隙率が5%以上90%以下となるように繊維状基材にカーボンナノチューブを付着させた構造、などの構造を有している。なお、上記(1)の構造を有する基材シートを用いると、スズ粒子担持シートを軽量化および薄層化できるため、リチウムイオン二次電池の軽量化および薄層化が可能となる。一方、上記(2)の構造を有する基材シートを用いると、基材シートの空隙率がさらに高まり、リチウムイオンの挿入、脱離の効率を上げることができるため、リチウムイオン二次電池の充電量および放電量をさらに高めることができる。
【0017】
[基材シートの性状]
また、基材シートは所定の空隙率を有することを必要とする。そして、基材シートは、更に以下の性状を有していることが好ましい。
【0018】
―空隙率―
基材シートの空隙率は5%以上であることが必要であり、40%以上であることが好ましく、70%以上であることがより好ましい。また、当該空隙率は90%以下である必要がある。基材シートにおける空隙率が5%以上であれば、基材シート内部において、スズ粒子を良好に担持すると共に、スズ粒子(負極活物質)の膨張および収縮によるスズ粒子担持シート(負極)の劣化を防止するための空隙を十分に確保できるため、リチウムイオン二次電池の容量およびサイクル特性を高めることができる。また、当該空隙率が90%以下であれば、スズ粒子担持シートの自立性を十分に保つことができる。
【0019】
基材シートの空隙率は、例えば、シートの断面を集束イオンビーム(FIB)で加工し、その断面をエネルギー分散型X線分光法(SEM-EDX)で観察し、得られたC元素の可視化像からSEM観察画像中のC元素の位置を特定し、視野全体におけるC元素の占有率(A)を算出して、下記式により求めることができる。
空隙率(%)=100-A
【0020】
なお、基材シートにスズ粒子を担持したシート(スズ粒子担持シート)の状態で、基材シートの空隙率を求める場合、スズ粒子の存在領域は空隙として扱うものとする。
また、繊維状基材を有する基材シートの空隙率を求める場合は、当該繊維状基材の存在領域は空隙として扱わないものとする。
【0021】
―厚さ―
基材シートの厚みは、2μm以上であることが好ましく、5μm以上であることがより好ましく、10μm以上であることが更に好ましく、200μm以下であることが好ましく、100μm以下であることがより好ましく、60μm以下であることが更に好ましい。基材シートの厚みが2μm以上であれば、得られるスズ粒子担持シートの強度を確保することができる。その結果、スズ粒子担持シートの加工性を高めることができる。一方、基材シートの厚みが200μm以下であれば、得られるスズ粒子担持シートの取り扱い性を良好に保つことができる。
【0022】
―密度―
また、基材シートの密度は、0.01g/cm以上であることが好ましく、0.1g/cm以上であることがより好ましく、0.50g/cm以上であることが更に好ましく、また、1.80g/cm以下であることが好ましく、1.50g/cm以下であることがより好ましく、1.20g/cm以下であることが更に好ましい。基材シートの密度が0.01g/cm以上であれば、得られるスズ粒子担持シートの強度を確保することができる。その結果、スズ粒子担持シートの加工性を高めることができる。一方、基材シートの密度が1.80g/cm以下であれば、基材シートの空隙率をさらに高め、リチウムイオンの挿入、脱離の効率を上げることができるため、二次電池の充電量および放電量をさらに高めることができる。
【0023】
[カーボンナノチューブ]
基材シートに含まれるカーボンナノチューブとしては、特に限定されることはなく、単層カーボンナノチューブおよび/または多層カーボンナノチューブを用いることができるが、CNTは単層から5層までのCNTであることが好ましく、単層CNTがより好ましい。単層CNTを使用すれば、多層CNTを使用した場合と比較して、リチウムイオン二次電池のサイクル特性を向上させることができる。
【0024】
なお、CNTの平均直径は、0.5nm以上であることが好ましく、1nm以上であることがより好ましく、15nm以下であることが好ましく、10nm以下であることがより好ましい。CNTの平均直径が0.5nm以上であれば、スズ粒子担持シートを調製する際、複数のCNT間に空間が十分に確保される。そのため、CNTにスズ粒子が良好に担持されたスズ粒子担持シートとすることができる。また、CNTの平均直径が15nm以下であれば、スズ粒子担持シートの導電性などの物性を高めることができる。従って、CNTの平均直径が上述の範囲内であれば、リチウムイオン二次電池に優れたサイクル特性を発揮させることができる。
また、「CNTの平均直径」は、透過型電子顕微鏡を用いて無作為に選択したCNT100本の直径(外径)を測定して求めることができる。そして、CNTの平均直径は、CNTの製造方法や製造条件を変更することにより調整してもよいし、異なる製法で得られたCNTを複数種類組み合わせることにより調整してもよい。
【0025】
そして、CNTのアスペクト比(長さ/直径)は、10を超えることが好ましい。なお、CNTのアスペクト比は、透過型電子顕微鏡を用いて無作為に選択したCNT100本の直径および長さを測定し、直径と長さとの比(長さ/直径)の平均値を算出することにより求めることができる。
【0026】
ここで、CNTのBET比表面積は、600m/g以上であることが好ましく、800m/g以上であることがより好ましく、2500m/g以下であることが好ましく、1200m/g以下であることがより好ましい。CNTのBET比表面積が600m/g以上であれば、スズ粒子担持シートの導電性などの物性を高めることができる。また、CNTのBET比表面積が2500m/g以下であれば、CNTの過度な密集を抑制して、CNTに微小なスズ粒子が良好に担持されたスズ粒子担持シートを得ることができる。従って、CNTのBET比表面積が上述の範囲内であれば、リチウムイオン二次電池に優れたサイクル特性を発揮させることができる。
なお、本発明において、「BET比表面積」とは、BET法を用いて測定した窒素吸着比表面積を指す。
【0027】
そして、上述した性状を有するCNTは、例えば、カーボンナノチューブ製造用の触媒層を表面に有する基材上に、原料化合物およびキャリアガスを供給して、化学的気相成長法(CVD法)によりCNTを合成する際に、系内に微量の酸化剤(触媒賦活物質)を存在させることで、触媒層の触媒活性を飛躍的に向上させるという方法(スーパーグロース法;国際公開第2006/011655号参照)に準じて、効率的に製造することができる。なお、以下では、スーパーグロース法により得られるカーボンナノチューブを「SGCNT」と称することがある。
【0028】
[繊維状基材]
繊維状基材の空隙率は、特に限定されることはないが、製造される基材シートの空隙率を高める観点からは、5%以上であることが好ましく、40%以上であることがより好ましく、70%以上であることが更に好ましい。また、当該空隙率は90%以下であることが好ましい。
【0029】
繊維状基材を構成する繊維としては、特に限定はされず、導電性繊維または非導電性繊維のいずれであってもよいが、リチウムイオン二次電池のサイクル特性向上の観点からは、導電性繊維であることが好ましい。
そして、導電性繊維としては、炭素繊維、および電気化学的に耐久性のある金属(例えば、鉄、銅、アルミニウム、ニッケル、ステンレス鋼、チタン、タンタル、金、白金など)からなる金属繊維などが挙げられる。中でも、炭素繊維を用いることが好ましい。
なお、本明細書において、「炭素繊維」は、通常、外径(繊維径)が1μm以上の繊維状の炭素材料を指す。
また、非導電性繊維としては、セルロース、キチン、キトサンなどの多糖類から構成される繊維、合成高分子から構成される繊維(例えば、ポリエステル繊維、ポリアクリロニトリル繊維、ポリアラミド繊維、ポリアミドイミド繊維、ポリイミド繊維など)、ガラス繊維などが挙げられる。
これらは1種類のみを単独で用いてもよいし、2種類以上を混合して用いてもよい。
【0030】
上述した繊維状基材の具体例としては、カーボンペーパー、セルロース不織布、ポリエステル不織布などが挙げられる。中でも、カーボンペーパーなどの炭素製の繊維状基材が特に好ましい。
【0031】
[その他の成分]
基材シートは、上述したCNTおよび繊維状基材以外の成分を含んでいてもよい。その他の成分としては特に限定されず、例えば、基材シート形成に用いる繊維状基材の調製や、一般的な負極活物質層の調製の際に使用しうる既知の添加剤(分散剤、負極用結着材など)が挙げられる。なお、基材シート中に占めるその他の成分の割合は、基材シート中の固形分(残留溶媒を除く)の質量を100質量%として、5質量%以下であることが好ましく、3質量%以下であることがより好ましく、1質量%以下であることが更に好ましい。
【0032】
[基材シートの作製方法]
上述した基材シートの作製方法としては、特に限定はされないが、例えば、上記(1)の構造を有する基材シートの作製方法としては以下の方法1)が挙げられ、上記(2)の構造を有する基材シートの作製方法としては以下の方法2)が挙げられる。
1)CNTと、スペーサー粒子と、溶媒とを含む分散液から溶媒を除去して一次シートを取得し、次いで、前記一次シートから前記スペーサー粒子を除去する方法;
2)CNTと溶媒とを含む分散液を繊維状基材に含浸させた後、溶媒を除去する方法;
スズ粒子担持シートの軽量化および薄層化の観点からは、CNTのみで構成されている基材シートが得られる前記1)の方法(以下、「基材シート作製方法1」と称することがある。)を用いることが好ましい。
一方、リチウムイオン二次電池の高容量化およびサイクル特性向上の観点からは、より高い空隙率の基材シートが得られる前記2)の方法(以下、「基材シート作製方法2」と称することがある。)を用いることが好ましい。
【0033】
―基材シート作製方法1―
基材シート作製方法1は、詳細には、CNTと、スペーサー粒子と、溶媒とを含む分散液から溶媒を除去して、CNTと、スペーサー粒子とを含む一次シートを取得する工程(一次シート調製工程)、および、前記一次シートからスペーサー粒子を除去する工程(スペーサー粒子除去工程)を備える。
【0034】
―一次シート調製工程
一次シート調製工程では、カーボンナノチューブと、スペーサー粒子と、溶媒とを含む分散液から溶媒を除去することで、前記カーボンナノチューブおよび前記スペーサー粒子を含む一次シートが得られる。
【0035】
――分散液の成分および性状
一次シートの調製に用いる分散液としては、特に限定されることなく、既知の分散処理方法を用いてCNTの集合体およびスペーサー粒子を溶媒に分散させてなる分散液を用いることができる。具体的には、分散液としては、CNTと、スペーサー粒子と、溶媒とを含み、任意に分散剤などの分散液用添加剤を更に含有する分散液を用いることができる。
【0036】
CNTとしては、上述したCNTを用いることができる。
【0037】
スペーサー粒子としては、分散液中で良好に分散し、スペーサー粒子除去工程で効率良く除去され、且つ、除去されずに残存したとしても所望の効果を得られる範囲内であれば、特に限定されることはない。
スペーサー粒子の種類としては、カーボンブラック、ガラス粒子、酸化チタン粒子、酸化アルミニウム粒子、樹脂粒子などが挙げられる。スペーサー粒子除去工程が加熱処理によるものである場合、スペーサー粒子を加熱により効率良く除去する観点から、樹脂粒子を用いることが好ましく、中空の樹脂粒子を用いることが更に好ましい。
さらに、樹脂粒子に用いられる樹脂の具体例としては、プラスチック(ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、ABS樹脂、メタクリル樹脂、ポリ塩化ビニル、ポリアミド、ポリアセタール、ポリカーボネート、ポリブチレンテレフタラート、ポリエチレンテレフタラート、ポリフェニレンオキシド、ポリアミドイミド、ポリエーテルエーテルケトン、ポリフェニレン・スルフィド、ポリテトラフルオロエチレン、フェノール樹脂、ユリア樹脂、メラミン樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、エポキシ樹脂など)、合成ゴム(イソプレンゴム、ブタジエンゴム、スチレン・ブタジエンゴム、クロロプレンゴム、ニトリルゴム、ポリイソブチレンゴム、エチレンプロピレンゴム、クロロスルホン化ポリエチレン、アクリルゴム、フッ素ゴム、エピクロルヒドリンゴム、ウレタンゴム、シリコーンゴムなど)、および天然ゴムなどが挙げられる。
これらは1種類のみを単独で用いてもよいし、2種類以上を混合して用いてもよい。
【0038】
また、スペーサー粒子の粒子径は、一次シートおよび基材シートがシート形状になるのを妨げなければ、特に限定されないが、5nm以上であることが好ましく、10nm以上であることがより好ましく、100nm以上であることが更に好ましく、1000nm以下であることが好ましく、800nm以下であることがより好ましく、600nm以下であることが更に好ましい。
また、スペーサー粒子の内部構造としては、特に限定はされず、中実構造、中空構造、多孔質構造などが挙げられる。スペーサー粒子除去工程が加熱処理によるものである場合、スペーサー粒子を加熱により効率良く除去する観点から、中空構造のスペーサー粒子を用いることが特に好ましい。
【0039】
また、分散液の溶媒(CNTおよびスペーサー粒子の分散媒)としては、特に限定されることなく、例えば、水;メタノール、エタノール、n-プロパノール、イソプロパノール、n-ブタノール、イソブタノール、t-ブタノール、ペンタノール、ヘキサノール、ヘプタノール、オクタノール、ノナノール、デカノール、アミルアルコールなどのアルコール類;アセトン、メチルエチルケトン、シクロヘキサノンなどのケトン類;酢酸エチル、酢酸ブチルなどのエステル類;ジエチルエーテル、ジオキサン、テトラヒドロフランなどのエーテル類;N,N-ジメチルホルムアミド、N-メチルピロリドンなどのアミド系極性有機溶媒;トルエン、キシレン、クロロベンゼン、オルトジクロロベンゼン、パラジクロロベンゼンなどの芳香族炭化水素類;などが挙げられる。これらは1種類のみを単独で用いてもよいし、2種類以上を混合して用いてもよい。
【0040】
更に、分散液に任意に配合される分散液用添加剤としては、特に限定されることなく、分散剤などの分散液の調製に一般に使用される添加剤が挙げられる。
なお、例えばろ過により分散液から溶媒を除去する際にろ紙が目詰まりするのを防止する観点、および、得られるスズ粒子担持シートの物性(例えば、導電性)の低下を抑制する観点からは、分散剤などの分散液用添加剤の添加量は少量であることが好ましい。
【0041】
そして、分散液の調製に用いる分散剤としては、CNTおよびスペーサー粒子を分散可能であり、前述した溶媒に溶解可能であれば、特に限定されることなく、界面活性剤、合成高分子または天然高分子を用いることができる。
【0042】
ここで、界面活性剤としては、ドデシルスルホン酸ナトリウム、デオキシコール酸ナトリウム、コール酸ナトリウム、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウムなどが挙げられる。
また、合成高分子としては、例えば、ポリエーテルジオール、ポリエステルジオール、ポリカーボネートジオール、ポリビニルアルコール、部分けん化ポリビニルアルコール、アセトアセチル基変性ポリビニルアルコール、アセタール基変性ポリビニルアルコール、ブチラール基変性ポリビニルアルコール、シラノール基変性ポリビニルアルコール、エチレン-ビニルアルコール共重合体、エチレン-ビニルアルコール-酢酸ビニル共重合樹脂、ジメチルアミノエチルアクリレート、ジメチルアミノエチルメタクリレート、アクリル系樹脂、エポキシ樹脂、変性エポキシ系樹脂、フェノキシ樹脂、変性フェノキシ系樹脂、フェノキシエーテル樹脂、フェノキシエステル樹脂、フッ素系樹脂、メラミン樹脂、アルキッド樹脂、フェノール樹脂、ポリアクリルアミド、ポリアクリル酸、ポリスチレンスルホン酸、ポリエチレングリコール、ポリビニルピロリドンなどが挙げられる。
更に、天然高分子としては、例えば、多糖類であるデンプン、プルラン、デキストラン、デキストリン、グアーガム、キサンタンガム、アミロース、アミロペクチン、アルギン酸、アラビアガム、カラギーナン、コンドロイチン硫酸、ヒアルロン酸、カードラン、キチン、キトサン、セルロース、並びに、その塩または誘導体が挙げられる。
そして、これらの分散剤は、1種または2種以上を混合して用いることができる。
【0043】
分散液のCNTの濃度は、CNTの種類にもよるが、0.001質量%以上5質量%以下が好ましい。CNTの濃度が0.001質量%未満の場合、溶媒およびスペーサー粒子を除去して得られる基材シートの量が少なくなり、製造効率を十分に高めることができない虞がある。また、CNTの濃度が5質量%超の場合、分散液中でのCNTの分散性が低下する虞があると共に、分散液の粘度が増加し、流動性が低下する。
【0044】
――分散液の調製
分散液は、超音波による分散処理、ジェットミルによる分散処理および高剪断撹拌による分散処理、製品名「BERYU SYSTEM PRO」(株式会社美粒製)を用いた分散処理等の既知の分散処理方法を用いて調製することができる。
【0045】
なお、分散液へのスペーサー粒子の添加は、分散液中のCNTやスペーサー粒子の分散に悪影響を及ぼさなければ、特に限定されることなく、任意のタイミングで行うことができる。例えば、溶媒中にCNTを添加して粗分散液を調製する際にスペーサー粒子も添加することができる。
【0046】
――溶媒の除去
分散液から溶媒を除去する方法としては、特に限定されることなく、乾燥やろ過などの既知の溶媒除去方法を用いることができる。中でも、効率的に溶媒を除去する観点からは、溶媒除去方法としては、減圧乾燥、真空乾燥またはろ過を用いることが好ましい。更に、容易かつ迅速に溶媒を除去する観点からは、溶媒除去方法としては、ろ過を用いることが好ましく、減圧ろ過を用いることが更に好ましい。迅速かつ効率的に溶媒を除去すれば、一度分散させたCNTおよびスペーサー粒子が再び凝集するのを抑制し、得られる基材シートの密度むらを抑制することができる。
ここで、分散液中の溶媒は完全に除去する必要はなく、溶媒の除去後に残ったCNTおよびスペーサー粒子が集合体(一次シート)としてハンドリング可能な状態であれば、多少の溶媒が残留していても問題はない。
【0047】
―スペーサー粒子除去工程
スペーサー粒子除去工程では、上述した一次シート調製工程により得られた一次シートからスペーサー粒子を除去することで、基材シートが得られる。
スペーサー粒子除去工程としては、特に限定されることはなく、基材からスペーサー粒子を除去するための既知の方法を用いることができる。
具体例としては、一次シートに物理的衝撃を与え、スペーサー粒子を脱離させる方法や、加熱処理によりスペーサー粒子を除去する方法などが挙げられる。中でも、効率的にスペーサー粒子を除去し、基材シートの内部の空隙率を高める観点から、加熱処理によりスペーサー粒子を除去する方法が好ましい。
なお、当該加熱処理による方法を用いる場合、使用するスペーサー粒子は、中空樹脂粒子等の加熱処理により容易に除去される材質であることが好ましい。
【0048】
なお、一次シート中のスペーサー粒子は完全に除去する必要はなく、スペーサー粒子の除去後に得られた基材シートおよびスズ粒子担持シートの性能に影響が無ければ、少量のスペーサー粒子が残留していても問題はない。
【0049】
―基材シート作製方法2―
基材シート作製方法2は、詳細には、CNTと溶媒とを含む分散液を繊維状基材に含浸させる工程(分散液含浸工程)、および、前記分散液含浸繊維状基材から溶媒を除去する工程(溶媒除去工程)を備える。また、当該作製方法2は、前記溶媒除去工程の前および/または後に、洗浄工程を任意で1回または複数回備えていてもよい。そして、前記溶媒除去工程の後に洗浄工程を実施する場合は、前記洗浄工程後に再び溶媒除去工程を実施してもよい。さらに、基材シート作製方法2では、洗浄工程と溶媒除去工程とを複数回繰り返して実施することもできる。
【0050】
―分散液含浸工程
分散液含浸工程では、カーボンナノチューブと溶媒とを含む分散液を繊維状基材に含浸させることで、前記分散液含浸繊維状基材が得られる。
【0051】
――分散液
分散液含浸工程に用いる分散液としては、特に限定されることなく、既知の分散処理方法を用いてCNTの集合体を溶媒に分散させてなる分散液を用いることができる。具体的には、分散液としては、CNTと溶媒とを含み、任意に分散剤などの分散液用添加剤を更に含有する分散液を用いることができる。
【0052】
分散液に用いるCNT、溶媒および分散液用添加剤としては、上記の基材シート作製方法1で用いる分散液に使用し得るものと同じものが挙げられる。また、分散液の性状および調製方法も上記の基材シート作製方法1で用いる分散液と同じものが挙げられる。
【0053】
――繊維状基材
分散液含浸工程に用いる繊維状基材としては、上述した繊維状基材を用いることができる。
【0054】
――分散液を繊維状基材に含浸させる方法
分散液を繊維状基材に含浸させる方法としては、分散液を繊維状基材に均一に含浸させることができれば、特に限定はされず、既知の方法を用いることができる。具体的には、分散液を繊維状基材上に塗布する方法、分散液を繊維状基材に噴霧する方法、分散液中に繊維状基材を浸漬させる方法などが挙げられる。
【0055】
―溶媒除去工程
溶媒除去工程では、上述した分散液含浸繊維状基材から溶媒を除去することで、基材シートが得られる。
分散液含浸繊維状基材から溶媒を除去する方法としては、特に限定されることなく、乾燥などの既知の溶媒除去方法を用いることができる。中でも、効率的に溶媒を除去する観点から、溶媒除去方法としては、減圧乾燥または真空乾燥を用いることが好ましい。効率的に溶媒を除去すれば、一度分散させたCNTが再び凝集するのを抑制し、得られる基材シートの密度むらを抑制することができる。
【0056】
―洗浄工程
基材シート作製方法2は、上述した溶媒除去工程の前および/または後に、洗浄工程を任意で1回または複数回備えていてもよい。
洗浄工程では、上述した分散液含浸工程で得られた分散液含浸繊維状基材、または、上記溶媒除去工程で得られた基材シートを洗浄することで、前記分散液含浸繊維状基材または基材シートから分散液由来の分散剤が除去される。
【0057】
具体的な洗浄方法としては、分散液含浸繊維状基材または基材シートから分散剤を適切に除去することができ、且つ、繊維状基材に付着したCNTを脱離させることがなければ、特に限定されることはなく、既知の洗浄方法を用いることができる。具体的には、分散液含浸繊維状基材または基材シートを洗浄液で濯ぐ方法、および分散液含浸繊維状基材または基材シートを洗浄液に浸漬させる方法などが挙げられる。
【0058】
上述した洗浄工程に用いられる洗浄液としては、特に限定されることはなく、例えば、上述した分散液の溶媒を洗浄液として用いることができる。
なお、分散液含浸繊維状基材または基材シートに含まれる分散剤は完全に除去する必要はなく、所望の効果を得られる範囲内であれば、分散剤が残留していても問題はない。
【0059】
<スズ粒子>
本発明のスズ粒子担持シートは、上述した基材シートに加え、前記基材シートに担持されたスズ粒子を有する。スズ粒子は、本発明のスズ粒子担持シートをリチウムイオン二次電池用負極として用いた場合、リチウムイオンを吸蔵および放出する負極活物質としての役割を果たす。そして、負極活物質としてのスズ粒子と、上述したCNTが導通可能な状態で結合することで、スズ粒子担持シートは負極活物質層として良好に機能し、リチウムイオン二次電池の容量およびサイクル特性の向上に資することができる。
また、スズ粒子の形状は特に限定されず、例えば、球状、立方体、長方形、板状(六角板状など)、柱状、棒状(六角棒状など)が挙げられる。
【0060】
スズ粒子の平均粒径は、サイクル特性の向上の観点から、5μm以下であることが好ましく、100nm以下であることがより好ましく、50nm以下であることが更に好ましい。ここで、スズ粒子の平均粒径は、スズ粒子の調製方法や調製条件を変更することにより調整することができる。例えば、スズ粒子の調製に、後述するめっき処理を用いるスズ粒子担持方法を使用すれば、粒径の小さいスズ粒子を容易に析出させることができる。
なお、リチウムイオン二次電池におけるサイクル特性などの特性向上という観点からは、スズ粒子の平均粒径はできるだけ小さいことが好ましく、その下限は特に限定されないが、スズ粒子の平均粒径は、例えば10nm以上とすることができる。
【0061】
本発明のスズ粒子担持シートにおいて、スズ粒子の少なくとも一部は上述した基材シートの内部に存在することが好ましく、スズ粒子の大部分、例えば90%以上が基材シートの内部に存在すること(すなわち、基材シートの内部に存在するスズ粒子の割合が90%以上であること)がより好ましい。そして、基材シートの内部に存在するスズ粒子の割合は、100%であることが更に好ましい。スズ粒子の少なくとも一部が上述した基材シートの内部に存在するスズ粒子担持シートを負極として用いれば、リチウムイオン二次電池に一層優れたサイクル特性を発揮させることができる。基材シートの内部に存在するスズ粒子は、スズ粒子担持シート表面に存在するスズ粒子に比して、リチウムイオン二次電池の充放電を繰り返した場合であっても、集電体上の負極活物質層から脱離し難い。従って、基材シートの内部にスズ粒子が存在するスズ粒子担持シートを負極として用いれば、リチウムイオン二次電池に一層優れたサイクル特性を発揮させることができる。
【0062】
そして、本発明のスズ粒子担持シートにおいて、少なくとも一部のスズ粒子は、CNTおよび繊維状基材の内部に存在することが好ましく、スズ粒子の大部分、例えば90%以上がCNTおよび繊維状基材の内部に存在すること(すなわち、CNTおよび繊維状基材の内部に存在するスズ粒子の割合が90%以上であること)がより好ましい。そして、CNTおよび繊維状基材の内部に存在するスズ粒子の割合は、100%であることが更に好ましい。CNTおよび繊維状基材の内部に存在するスズ粒子は、スズ粒子担持シート表面に存在するスズ粒子に比して、リチウムイオン二次電池の充放電を繰り返した場合であっても、集電体上の負極活物質層から脱離し難い。従って、CNTおよび繊維状基材の内部にスズ粒子が存在するスズ粒子担持シートを負極として用いれば、リチウムイオン二次電池に一層優れたサイクル特性を発揮させることができる。
なお、本発明において、「CNTおよび繊維状基材の内部に存在するスズ粒子の割合」は、例えばFE-SEM等でスズ粒子担持シートの断面を観察して全スズ粒子とCNTおよび繊維状基材の内部に存在するスズ粒子の数を数え、全スズ粒子に占める炭素マトリックスの内部に存在するスズ粒子の割合(%)として算出することができる。
【0063】
[スズ粒子の担持方法]
基材シートにスズ粒子を担持させる方法としては、特に限定されることはなく、
例えばめっき処理などの、基材にスズ粒子を担持させるための既知の方法を用いることができる。
具体的には、上述した基材シートに対して、めっき液を用いて電界めっき処理または無電解めっき処理、好ましくは電解めっき処理を施すことにより、基材シートの表面および内部にスズ粒子を析出させることで、スズ粒子担持シートを得ることができる。
【0064】
―めっき液―
めっき処理に用いるめっき液は、溶媒中に、スズ含有化合物を含み、任意に、めっき液用添加剤(溶解補助剤およびノニオン系界面活性剤、並びにその他めっき液に一般に添加される添加剤)を更に含む。
【0065】
―スズ含有化合物
スズ含有化合物としては、めっき処理を経て、基材シートの表面および内部に、これら化合物に由来してスズ粒子(スズめっき)を析出させることが可能であれば特に限定されない。スズ含有化合物としては、特に限定されるものではないが、ピロリン酸スズ、リン酸スズ、硫酸スズ(II)、硫酸スズ(IV)、塩化スズ(II)、塩化スズ(IV)、酢酸スズ(II)、および酢酸スズ(IV)、並びにこれらの水和物などが挙げられる。これらは、1種類のみを単独で用いてもよいし、2種類以上を併用してもよい。また、めっき液中におけるスズ含有化合物の濃度は、スズ微粒子を析出させることが可能であれば特に限定されず、適宜調整することができるが、例えば、0.01mol/L以上3.0mol/L以下であることが好ましい。
【0066】
―溶解補助剤
溶解補助剤は、上述したスズ含有化合物の、溶媒(例えば水)への溶解性を確保する目的で添加される。このような溶解補助剤は、上述したスズ含有化合物以外のイオン性化合物であり、例えば、ピロリン酸金属塩、リン酸金属塩、硫酸金属塩、金属塩化物、酢酸金属塩などが挙げられる。そして、溶解補助剤としてのイオン性化合物を用いる場合、溶解補助剤中に含まれる陰イオン成分は、スズ含有化合物中に含まれる陰イオン成分と同一であることが好ましい。例えば、スズ含有化合物としてピロリン酸スズを用いる場合は、溶解補助剤としてピロリン酸金属塩(ピロリン酸カリウムなど)を用いることが好ましい。
なお、スズ含有化合物の溶解性を十分に向上させる観点から、めっき液中における溶解補助剤の濃度は、スズ含有化合物の濃度の2倍以上であることが好ましい。また、めっき液中における溶解補助剤の濃度の上限は特に限定されないが、通常スズ含有化合物の濃度の100倍以下である。そして、めっき液中における溶解補助剤の濃度は、例えば、0.04mol/L以上12.0mol/L以下であることが好ましい。
【0067】
―ノニオン系界面活性剤
めっき液は、ノニオン系界面活性剤を含むことが好ましい。ノニオン系界面活性剤を含むめっき液は、ノニオン系界面活性剤がCNTとの親和性に優れるためと推察されるが、基材シート内部に容易に浸透することができる。そのため、ノニオン系界面活性剤を含むめっき液を用いれば、CNTおよび繊維状基材の内部にスズ粒子が存在するスズ粒子担持シートを効率良く得ることができる。そして、当該スズ粒子担持シートを負極活物質層として用いれば、リチウムイオン二次電池に一層優れたサイクル特性を発揮させることができる。
【0068】
そして、ノニオン系界面活性剤としては、ポリエーテル系界面活性剤、アルキルフェノール系界面活性剤、ポリエステル系界面活性剤、ソルビタンエステルエーテル系界面活性剤、アルキルアミン系界面活性剤等が挙げられる。これらの中でも、スズ粒子担持シートの物性を高めてリチウムイオン二次電池のサイクル特性をより一層向上させる観点からは、ポリエーテル系界面活性剤が好ましい。ポリエーテル系界面活性剤としては、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリテトラメチレングリコール、ポリオキシエチレンオレイルエーテル、ポリオキシエチレンステアリルエーテル、ポリオキシエチレンラウリルエーテル、ポリオキシエチレンドデシルエーテル、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンオクチルフェニルエーテル、ポリオキシエチレン・ポリオキシプロピレンブロック共重合体が挙げられる。これらの中でもポリエチレングリコールが特に好ましい。なお、ノニオン系界面活性剤は1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0069】
ノニオン系界面活性剤の重量平均分子量は、特に限定されないが、500以上であることが好ましく、また20000以下であることが好ましく、10000以下であることがより好ましく、5000以下であることが更に好ましく、4000以下であることが特に好ましい。ノニオン系界面活性剤の重量平均分子量が上述の範囲内であれば、スズ粒子をCNTに一層良好に担持させることができ、スズ粒子担持シートの物性を更に高めることができる。
なお、ノニオン系界面活性剤の重量平均分子量(Mw)は、テトラヒドロフランを溶離液とするゲルパーミエーションクロマトグラフィーにより、標準ポリスチレン換算で求めることができる。
【0070】
―その他のめっき液用添加剤
めっき液は、本発明の効果を損なわない範囲で、上述したスズ含有化合物、溶解補助剤、およびノニオン性界面活性剤以外に、光沢剤などの既知のめっき液用添加剤を含有していてもよい
【0071】
―めっき液の製造方法
めっき液は、上述した成分を水などの既知の溶媒中に溶解または分散させることにより調製することができる。
【0072】
―めっき処理の方法―
基材シートにめっき処理を施す方法は、スズ粒子を析出させうる方法であれば特に限定されない。例えば、電解めっき処理を行う場合、陰極として、基材シートのみを使用してもよいし、基板表面にカーボンテープ等を介して基材シートを接着してなる積層体を使用してもよい。中でも、陰極としては、基材シート内部へのめっき液の浸透を容易として、CNTおよび繊維状基材の内部にスズ粒子が存在するスズ粒子担持シートを効率良く製造する観点からは、基材シートのみからなる陰極を使用することが好ましい。また、基材シートの両側に、この基材シートと接しないように二枚の陽極を配置した状態で電解めっき処理を行うことで、基材シートの両面から基材シートの内部にかけて、スズ粒子を満遍なく析出させることもできる。
まためっき処理としては、電解めっきに限らず、無電解めっきを採用することもできる。電解めっきの場合、直流めっきに限定されることはなく、電流反転めっき法やパルスめっき法も採用することができる。
なお、めっき処理中、例えばスターラー等でめっき液を撹拌してもよい。
そして基材シートにめっき処理を行うに際し、めっき液中に基材シートを浸漬させてからめっき処理を開始(例えば、電解めっき処理の場合においては通電を開始)するまでの待ち時間(めっき処理前待ち時間)を設けるのが好ましい。めっき処理前待ち時間は、好ましくは5分以上、より好ましくは10分以上である。めっき処理前待ち時間が5分以上であれば、基材シート表面がめっき液に十分に濡れた状態(基材シート表面とめっき液とが馴染んだ状態)となり、基材シート内部にまで、めっき液の浸透を促すことができる。また、めっき処理前待ち時間は、処理の効率等を考慮すれば、好ましくは60分以下、より好ましくは30分以下とすることができる。
さらに、電解めっき処理の場合、通電量は、基材シートのサイズ(面積および厚み)に応じて適宜調整することができ、通電量を適切に調整することで、基材シート内部にスズ粒子を好適な状態で担持させることができる。
なお、めっき処理時間は、特に限定されないが、通常10分以上である。
【0073】
<その他の成分>
なお、スズ粒子担持シートは、上述した基材シートおよびスズ粒子以外の成分を含んでいてもよい。その他の成分としては特に限定されず、例えば、基材シートにスズ粒子を担持させるための処理(例えば、めっき処理など)や、一般的な負極活物質層の調製の際に使用しうる既知の添加剤(分散剤、負極用結着材など)が挙げられる。なお、スズ粒子担持シート中に占めるその他の成分の割合は、スズ粒子担持シート中の固形分(残留溶媒を除く)の質量を100質量%として、5質量%以下であることが好ましく、3質量%以下であることがより好ましく、1質量%以下であることが更に好ましい。
【0074】
(リチウムイオン二次電池用負極)
本発明のリチウムイオン二次電池用負極は、集電体を備えることなく、上述した本発明のスズ粒子担持シートのみで構成されていてもよい。本発明のスズ粒子担持シートは導電性および自立性に優れるため、当該スズ粒子担持シートを負極として用いたリチウムイオン二次電池は集電体を備える必要がないからである。スズ粒子担持シートのみで構成されるリチウムイオン二次電池用負極を用いると、リチウムイオン二次電池を高容量化すると共に、当該リチウムイオン二次電池に十分に優れたサイクル特性を発揮させることができる。さらに、当該負極は集電体を備えていないため、リチウムイオン二次電池を軽量化および薄型化することができる。
【0075】
なお、本発明のスズ粒子担持シートは、リチウムイオン二次電池用負極の作製に用いることもできる。具体的には、集電体上に負極活物質層として本発明のスズ粒子担持シートを備えるリチウムイオン二次電池用負極を作製することもできる。当該リチウムイオン二次電池用負極は、負極活物質層として本発明のスズ粒子担持シートを用いているので、リチウムイオン二次電池を高容量化すると共に、当該リチウムイオン二次電池に十分に優れたサイクル特性を発揮させることができる。
ここで、負極活物質層としての本発明のスズ粒子担持シートは、集電体に接して配置されていてもよいが、当該スズ粒子担持シートは、接着層などの他の層を介して集電体上に配置されていてもよい。
また、集電体としては、電気導電性を有し、かつ、電気化学的に耐久性のある材料が用いられる。具体的には、集電体としては、例えば、鉄、銅、アルミニウム、ニッケル、ステンレス鋼、チタン、タンタル、金、白金などの金属材料からなる集電体を用い得る。中でも、負極の集電体としては、銅からなる薄膜が好ましい。
また、集電体と負極活物質層の間に任意に配置される接着層は、電気伝導性が確保され、且つ集電体と負極活物質層を接着可能であれば特に限定されない。接着層は、例えば、導電性カーボン等の導電材と、結着材とを含む層であることが好ましい。
そして、上述したリチウムイオン二次電池用負極の製造方法は特に限定されない。例えば、負極活物質層と集電体との間に接着層が存在するリチウムイオン二次電池用負極は、スズ粒子担持シートの一方の表面に、結着材と、溶剤とを含む接着層用ペーストを塗布する工程、接着層用ペーストが塗布されたスズ粒子担持シートの表面に集電体を積層する工程、および、接着層用ペースト中の溶剤を乾燥などにより除去する工程を経て製造することができる。
【0076】
(リチウムイオン二次電池)
上述した本発明のリチウムイオン二次電池用負極は、リチウムイオン二次電池に組み込んで使用される。具体的には、リチウムイオン二次電池は、正極と、負極と、電解液と、セパレータを備え、前記負極を本発明のリチウムイオン二次電池用負極とする。なお、正極、電解液、およびセパレータは、いずれも既知のものを使用することができる。
本発明のリチウムイオン二次電池用負極を備えるリチウムイオン二次電池は、高容量であると共に、十分に優れたサイクル特性を発揮する。
【実施例
【0077】
以下、本発明について実施例に基づき具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
なお、基材シートの空隙率、スズ粒子担持シートにおけるスズ粒子の平均粒径、リチウムイオン二次電池の初期容量、およびサイクル特性の評価は、以下の方法を使用して行った。
【0078】
<基材シートの空隙率>
作製した基材シートの断面を集束イオンビーム(FIB)で加工した。その後、当該断面をエネルギー分散型X線分光法(SEM-EDX)で観察し、得られたC元素の可視化像からSEM観察画像中のC元素の位置を特定した。SEM観察画像の視野全体におけるC元素の占有率(A)を測定し、下記式で算出することにより、空隙率を測定した。
空隙率(%)=100-A
【0079】
<スズ粒子の平均粒径>
作製したスズ粒子担持シートを電界放出形走査電子顕微鏡(FE-SEM)で観察し、観察画像中において任意に選択した1個のスズ粒子について、外縁上の2点を結ぶ線分の長さのうち最大の長さを測定して、当該スズ粒子の粒径とした。上述した方法により、無作為に選択した100個のスズ粒子の粒径を測定し、得られた値から平均値を算出して、当該スズ粒子担持シートにおけるスズ粒子の「平均粒径」とした。
【0080】
<リチウムイオン二次電池の初期容量>
製造したリチウム二次電池について、充電レート0.2Cとした定電流法により4.3Vまで充電を行ない、次いで、放電レート0.2Cにて3.0Vまで放電することにより、0.2C放電時の電池容量を求めた。そして、得られた電池容量から、負極活物質層の単位重量当たりの容量を算出し、これを初期容量とした。初期容量が高いほど、リチウム二次電池の電池容量が高くなるため、好ましい。
【0081】
<リチウムイオン二次電池のサイクル特性>
製造したリチウムイオン二次電池を、25℃の環境下で24時間静置した。次に、25℃の環境下で、4.3V、0.2Cの充電、3.0V、0.2Cの放電にて充放電の操作を行い、初期容量C0を測定した。その後、さらに、25℃の環境下で、同様の充放電の操作を繰り返し、100サイクル後の容量C1を測定した。そして、サイクル前後での容量維持率ΔC(%)=C1/C0×100を算出し、下記の基準で評価した。容量維持率ΔCの値が大きいほど、サイクル特性に優れていることを示す。
A:容量維持率ΔCが80%以上
B:容量維持率ΔCが80%未満
【0082】
(実施例1)
<基材シートの調製>
CNT(ゼオンナノテクノロジー社製、ZEONNANO(登録商標)SG101、比表面積:1,000m/g以上)を400mg、およびスペーサー粒子として中空ラテックス(日本ゼオン社製、「Nipol MH5055」、平均粒子径:500nm)を固形分が200mgになるように量り取り、溶媒としてのメチルエチルケトン2L中に混ぜ、ホモジナイザーにより2分間撹拌し、粗分散液を得た。湿式ジェットミル(株式会社常光製、JN-20)を使用し、得られた粗分散液を湿式ジェットミルの0.5mmの流路に100MPaの圧力で2サイクル通過させて、CNTをメチルエチルケトンに分散させ、分散液Aを得た。得られた分散液Aをキリヤマろ紙(No.5A)を用いて減圧ろ過し、一次シートを得た。
取得した一次シートを350℃で12時間加熱処理し、中空ラテックス粒子を除去し、厚みが40μm、密度が0.85g/cmである基材シートを得た。
得られた基材シートを用いて、空隙率を評価した。結果を表1に示す。
【0083】
<スズ粒子担持シート(負極)の作製>
上述した基材シートを陰極、純スズ板を陽極として、スズめっき浴中で以下の条件で電解めっきを行うことでスズ粒子担持シートを作製した。なお、陽極としての純スズ板は、陰極としての基材シートの表裏両側に、それぞれ1枚ずつ合計2枚を、基材シートとは接しないように配置した。
[スズめっきのめっき液組成(溶媒:水)]
スズ含有化合物:ピロリン酸スズ(Sn)、濃度0.25mol/L
溶解補助剤:ピロリン酸カリウム(K)、濃度1.0mol/L
ノニオン系界面活性剤:ポリエチレングリコール(重量平均分子量600)、濃度0.002mol/L
光沢剤:ホルムアルデヒド、濃度0.005mol/L
[電析条件]
電析モード:電流規制法
電流密度:0.05A/dm
通電量:96C
めっき処理前待ち時間:30分
【0084】
得られたスズ粒子担持シートの断面をFE-SEMにて観察したところ、CNTの内部にスズ粒子が均一に析出している様子が観察された。なお、スズ粒子の平均粒径は50nmであった。また、スズ粒子の90%以上がCNTの内部に存在することを確認した。
また、当該スズ粒子担持シートを用いて、スズ粒子の平均粒径を測定した。結果を表1に示す。
なお、作製されたスズ粒子担持シートは、後述するリチウムイオン二次電池の負極として使用するものとした。
【0085】
<正極の作製>
正極活物質としてのLiCoO(体積平均粒子径D50:12μm)を100質量部、導電材としてのアセチレンブラック(電気化学工業社製、「HS-100」)を2質量部、正極用結着材としてのポリフッ化ビニリデン(クレハ社製、「#7208」)を固形分相当で2質量部、およびN-メチルピロリドンを混合し、全固形分濃度を70%とした。これらをプラネタリーミキサーにより混合し、正極用スラリー組成物を調製した。
上述のようにして得られた正極用スラリー組成物を、コンマコーターで、集電体である厚み20μmのアルミ箔の上に、乾燥後の膜厚が150μm程度になるように塗布し、乾燥させた。この乾燥は、アルミ箔を0.5m/分の速度で60℃のオーブン内を2分間かけて搬送することにより行った。その後、120℃にて2分間加熱処理して、正極原反を得た。このプレス前の正極原反をロールプレスで圧延して、厚みが80μmのプレス後の正極を得た。
【0086】
<リチウムイオン二次電池の製造>
上記にて得られた正極を直径13mmの円盤状に、また、上記にて得られた負極(スズ粒子担持シート)を直径14mmの円盤状に、それぞれ切り抜いた。そして、13mmの円盤状の正極上に、直径18mm、厚さ25μmの円盤状のポリプロピレン製多孔膜からなるセパレータ、直径14mmの円盤状の負極をこの順に積層し、これをポリプロピレン製パッキンを設置したステンレス鋼製のコイン型外装容器(直径20mm、高さ1.8mm、ステンレス鋼厚さ0.25mm)中に収納した。次いで、この容器中に電解液(溶媒:エチレンカーボネート/ジエチルカーボネート=1/1(20℃での容積比)、電解質:1MのLiPF)を空気が残らないように注入し、ポリプロピレン製パッキンを介して外装容器に厚さ0.2mmのステンレス鋼のキャップをかぶせて固定し、電池缶を封止して、直径20mm、厚さ約2mmのコイン型のリチウムイオン二次電池(コインセルCR2032)を製造した。得られたリチウムイオン二次電池を用いて、初期容量およびサイクル特性を評価した。結果を表1に示す。
【0087】
(実施例2、3)
スペーサー粒子の添加量を変更して基材シートの空隙率を表1に示す値にした以外は実施例1と同様にして、基材シート、スズ粒子担持シート、およびリチウムイオン二次電池を作製し、同様の項目について評価をした。結果を表1に示す。
【0088】
(実施例4)
<基材シートの調製>
CNT(ゼオンナノテクノロジー社製、ZEONNANO(登録商標)SG101、比表面積:1,000m/g以上)を1.0g量り取り、分散剤を含む溶媒としてのドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム(SDBS)1質量%水溶液500mL中に混ぜ、粗分散液を得た。
得られた粗分散液を、分散時に背圧を負荷する多段圧力制御装置(多段降圧器)を有する高圧ホモジナイザー(株式会社美粒製、製品名「BERYU SYSTEM PRO」)に充填し、100MPaの圧力で粗分散液への分散処理を行った。具体的には、背圧を負荷しつつ、粗分散液にせん断力を与えてCNTを分散させた。なお、分散処理は、高圧ホモジナイザーから流出した分散液を再び高圧ホモジナイザーに返送しつつ、10分間実施した。上述した分散処理により、分散液Bを得た。
得られた分散液Bを、繊維状基材としてのカーボンペーパー(東レ製、TGP-090)に含浸させた後に、当該分散液B含浸カーボンペーパーをイソプロピルアルコール(IPA)および純水の順で洗浄し、分散剤であるSDBSを除去した。その後、80℃、24時間真空乾燥を実施し、基材シートを得た。
得られた基材シートを用いて、それ以外は実施例1と同様にして、スズ粒子担持シートおよびリチウムイオン二次電池を作製し、同様の項目を評価した。結果を表1に示す。なお、得られたスズ粒子担持シートの断面をFE-SEMにて観察したところ、CNTおよび繊維状基材の内部にスズ粒子が均一に析出している様子が観察された。なお、スズ粒子の平均粒径は50nmであった。また、スズ粒子の90%以上がCNTおよび繊維状基材の内部に存在することを確認した。
【0089】
(比較例1)
スペーサー粒子を添加しなかったこと以外は実施例1と同様にして、基材シート、スズ粒子担持シート、およびリチウムイオン二次電池を作製し、同様の項目について評価をした。結果を表1に示す。
【0090】
【表1】
【0091】
表1より、カーボンナノチューブを含有し、且つ、空隙率が5%以上90%以下であるシートと、前記シートに担持されたスズ粒子とを有するスズ粒子担持シートを用いれば、高容量かつサイクル特性に優れたリチウムイオン二次電池が得られることがわかる。また、空隙率が所定の範囲に満たない比較例1では、実施例1~4に比して、リチウムイオン二次電池の容量およびサイクル特性に劣ることがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0092】
本発明のスズ粒子担持シートによれば、高容量かつサイクル特性に優れたリチウムイオン二次電池を実現可能なリチウムイオン二次電池用負極を提供することができる。
そして、本発明のリチウムイオン二次電池用負極によれば、高容量かつサイクル特性に優れたリチウムイオン二次電池を提供することができる。