(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2021-12-23
(45)【発行日】2022-01-18
(54)【発明の名称】積層体及びこれを含むデバイス
(51)【国際特許分類】
B32B 7/06 20190101AFI20220111BHJP
B32B 9/00 20060101ALI20220111BHJP
B32B 27/00 20060101ALI20220111BHJP
C09J 7/00 20180101ALI20220111BHJP
【FI】
B32B7/06
B32B9/00 A
B32B27/00 L
C09J7/00
(21)【出願番号】P 2017214929
(22)【出願日】2017-11-07
【審査請求日】2020-07-30
(31)【優先権主張番号】P 2016231686
(32)【優先日】2016-11-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000002093
【氏名又は名称】住友化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106518
【氏名又は名称】松谷 道子
(74)【代理人】
【識別番号】100104592
【氏名又は名称】森住 憲一
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 豊
(72)【発明者】
【氏名】山下 恭弘
【審査官】石塚 寛和
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2013/018602(WO,A1)
【文献】特開2016-064647(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B 1/00-43/00
C09J 7/00-7/50
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガスバリア性フィルムと、該ガスバリア性フィルムの一方の表面に粘着剤層と、該ガスバリア性フィルムの他方の表面に
粘着層を有する剥離性フィルム1と、該粘着剤層のガスバリア性フィルム側と反対側の表面に
離型処理を施した剥離性フィルム2とを有する積層体であって、
前記ガスバリア性フィルムは、可撓性基材を少なくとも含む基材層と、該基材層の一方の表面に無機薄膜層とを有し、
式(1):
F1≧F2 (1)
(式(1)中、F1は剥離性フィルム1とガスバリア性フィルムとの間の剥離強度を表し
0.1N/cm以上、1.0N/cm以下であり、F2は剥離性フィルム2と粘着剤層との間の剥離強度を表
し0.05N/cm以上、0.5N/cm以下である)
及び、式(2):
G1/G2≧0.4 (2)
(式(2)中、G1は剥離性フィルム1の剛性を表し、G2は剥離性フィルム2の剛性を表す)
を満たす、積層体。
【請求項2】
前記無機薄膜層は、珪素原子、酸素原子及び炭素原子を含有する、請求項
1に記載の積層体。
【請求項3】
前記基材層は、有機層Aを可撓性基材の少なくとも一方の表面に有する、請求項1
又は2に記載の積層体。
【請求項4】
前記無機薄膜層に含まれる珪素原子、酸素原子及び炭素原子の合計数に対する炭素原子の原子数比が、無機薄膜層の厚さ方向において連続的に変化する、請求項
2又は
3に記載の積層体。
【請求項5】
前記無機薄膜層は、無機薄膜層中の珪素原子(Si)に対する炭素原子(C)の平均原子数比が式(4):
0.10<C/Si<0.50 (4)
の範囲にある、請求項
2~
4のいずれかに記載の積層体。
【請求項6】
前記無機薄膜層の膜厚方向における、前記無機薄膜層の表面からの距離と、各距離における前記無機薄膜層に含まれる珪素原子、酸素原子及び炭素原子の合計数に対する珪素の原子数比、酸素の原子数比及び炭素の原子数比との関係をそれぞれ示す、珪素分布曲線、酸素分布曲線及び炭素分布曲線において、条件(i)及び(ii):
(i)珪素の原子数比、酸素の原子数比及び炭素の原子数比が、前記無機薄膜層の膜厚方向における90%以上の領域において、式(8)で表される条件を満たす、
酸素の原子数比>珪素の原子数比>炭素の原子数比 (8)
(ii)前記炭素分布曲線が少なくとも1つの極値を有する
を満たす、請求項
2~
5のいずれかに記載の積層体。
【請求項7】
請求項1~
6のいずれかに記載の積層体を含むデバイス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、積層体、詳しくはデバイスに用いられるガスバリア性フィルムと粘着剤層とを含む積層体に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ガスバリア層及び粘着剤層を有するガスバリア性粘着シートが提案されている(特許文献1)。また、積層フィルムと積層フィルムの一面側に形成された接着層とを有する積層体の製造方法が知られている(特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】WO2013/018602
【文献】特開2016-78237
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ガスバリア性フィルムと粘着剤層とが形成された積層フィルムを含む積層体は、その両方の表面に表面保護等を目的として粘着剤層上に剥離性フィルムを有することがある。積層体は、デバイスとの貼合工程において、剥離性フィルムを剥離し、露出させた粘着剤層を介してデバイスと貼り合わされる。しかしながら、剥離性フィルムを剥離する際に、粘着剤層側とは反対側の剥離性フィルムが剥がれたり、気泡が生じたり、ガスバリア性フィルムの破断が生じたりすることで、デバイス不良が生じることがある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、上記課題を解決するために、ガスバリア性フィルムを有する積層体について詳細に検討を重ねたところ、本発明を完成させるに至った。
【0006】
すなわち、本発明は、以下の好適な態様を包含する。
[1]ガスバリア性フィルムと、該ガスバリア性フィルムの一方の表面に粘着剤層と、該ガスバリア性フィルムの他方の表面に剥離性フィルム1と、該粘着剤層のガスバリア性フィルム側と反対側の表面に剥離性フィルム2とを有する積層体であって、
前記ガスバリア性フィルムは、可撓性基材を少なくとも含む基材層と、該基材層の一方の表面に無機薄膜層とを有し、
式(1):
F1≧F2 (1)
(式(1)中、F1は剥離性フィルム1とガスバリア性フィルムとの間の剥離強度を表し、F2は剥離性フィルム2と粘着剤層との間の剥離強度を表す)
及び式(2):
G1/G2≧0.4 (2)
(式(2)中、G1は剥離性フィルム1の剛性を表し、G2は剥離性フィルム2の剛性を表す)
を満たす、積層体。
[2]前記式(1)においてF1は0.1N/cm以上である、[1]に記載の積層体。
[3]前記無機薄膜層は、珪素原子、酸素原子及び炭素原子を含有する、[1]又は[2]に記載の積層体。
[4]前記基材層は、有機層Aを可撓性基材の少なくとも一方の表面に有する、[1]~[3]のいずれかに記載の積層体。
[5]前記無機薄膜層に含まれる珪素原子、酸素原子及び炭素原子の合計数に対する炭素原子の原子数比が、厚さ方向において連続的に変化する、[3]又は[4]に記載の積層体。
[6]前記無機薄膜層は、無機薄膜層中の珪素原子(Si)に対する炭素原子(C)の平均原子数比が式(4):
0.10<C/Si<0.50 (4)
の範囲にある、[3]~[5]のいずれかに記載の積層体。
[7]前記無機薄膜層の膜厚方向における、前記無機薄膜層の表面からの距離と、前記無機薄膜層に含まれる珪素原子、酸素原子及び炭素原子の合計数に対する、珪素の原子数比、酸素の原子数比及び炭素の原子数比との関係をそれぞれ示す、珪素分布曲線、酸素分布曲線及び炭素分布曲線において、条件(i)及び(ii):
(i)珪素の原子数比、酸素の原子数比及び炭素の原子数比が、前記無機薄膜層の膜厚方向における90%以上の領域において、式(8)で表される条件を満たす、
酸素の原子数比>珪素の原子数比>炭素の原子数比 (8)
(ii)前記炭素分布曲線が少なくとも1つの極値を有する
を満たす、[3]~[6]のいずれかに記載の積層体。
[8][1]~[7]のいずれかに記載の積層体を含むデバイス。
【発明の効果】
【0007】
表示装置とガスバリア性フィルムを有する積層体との貼合工程における歩留まりを向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】本発明の積層体の一形態の模式的断面図を示す。
【
図2】実施例におけるガスバリア性フィルムを製造するための製造装置を示す模式図である。
【
図3】製造例1で得られるガスバリア性フィルムにおける無機薄膜層のXPSデプスプロファイル測定結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明の積層体は、ガスバリア性フィルムと、該ガスバリア性フィルムの一方の表面に粘着剤層と、該ガスバリア性フィルムの他方の表面に剥離性フィルム1と、該粘着剤層のガスバリア性フィルム側と反対側の表面に剥離性フィルム2とを有し、上記ガスバリア性フィルムは、可撓性基材を少なくとも含む基材層と、該基材層の一方の表面に無機薄膜層とを有する積層体である。
【0010】
(ガスバリア性フィルム)
ガスバリア性フィルムは、可撓性基材を少なくとも含む基材層と、該基材層の一方の表面に無機薄膜層とを有する。無機薄膜層は、可撓性基材に対して剥離性フィルム1の側または剥離性フィルム2の側のいずれに配置されてもよいが、剥離性フィルム2の側に配置することが封止性能の点から好ましい。
【0011】
(基材層)
基材層は、可撓性基材を少なくとも含むものであればよい。
【0012】
(可撓性基材)
可撓性基材としては、樹脂成分として少なくとも1種の樹脂を含む樹脂フィルムを用いることができ、無色透明な樹脂フィルムが好ましい。樹脂フィルムに用い得る樹脂としては、例えばポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)等のポリエステル樹脂;ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、環状ポリオレフィン等のポリオレフィン樹脂;ポリアミド樹脂;ポリカーボネート樹脂;ポリスチレン樹脂;ポリビニルアルコール樹脂;エチレン-酢酸ビニル共重合体のケン化物;ポリアクリロニトリル樹脂;アセタール樹脂;ポリイミド樹脂;ポリエーテルサルファイド(PES)が挙げられ、必要に応じてそれらの2種以上を組合せて用いることもできる。これらの中でも、透明性、耐熱性、線膨張性等の必要な特性に合せて、ポリエステル樹脂、ポリオレフィン樹脂の中から選択して用いることが好ましく、PET、PEN、環状ポリオレフィンを用いることがより好ましい。
【0013】
可撓性基材は、未延伸の樹脂フィルムであってもよく、未延伸の樹脂基材を一軸延伸、テンター式逐次二軸延伸、テンター式同時二軸延伸、チューブラー式同時二軸延伸などの公知の方法により、樹脂基材の流れ方向(MD方向)、及び/又は樹脂基材の流れ方向と直角方向(TD方向)に延伸した樹脂フィルムであってもよい。
【0014】
可撓性基材の厚みは、安定した積層体の製造を考慮して適宜設定できる。例えば、真空中においてもフィルムの搬送ができるという観点から、5~500μmであることが好ましく、10~200μmであることがより好ましく、50~100μmであることがさらに好ましい。
【0015】
可撓性基材を構成する層は、λ/4位相差フィルム、λ/2位相差フィルムなどの、面内における直交2成分の屈折率が互いに異なる位相差フィルムであってもよい。位相差フィルムの材料としては、セルロース系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリアリレート系樹脂、ポリエステル系樹脂、アクリル系樹脂、ポリサルホン系樹脂、ポリエーテルサルホン系樹脂、環状オレフィン系樹脂、液晶化合物の配向固化層などを例示することができる。中でもポリカーボネート系樹脂フィルムが、コスト的に安価で均一なフィルムが入手可能であるため好ましく用いられる。製膜方法としては、溶剤キャスト法やフィルムの残留応力を小さくできる精密押出法などを用いることができるが、均一性の点で溶剤キャスト法が好ましく用いられる。延伸方法は、特に制限なく、均一な光学特性が得られるロール間縦一軸延伸、テンター横一軸延伸などを適用できる。
【0016】
可撓性基材を構成する層がλ/4位相差フィルムである場合の波長550nmでの面内位相差Re(550)は、100~180nmであることができ、好ましくは110~170nmであり、さらに好ましくは120~160nmである。
【0017】
可撓性基材を構成する層がλ/2位相差フィルムである場合の波長550nmでの面内位相差Re(550)は、220~320nmであることができ、好ましくは240~300nmであり、さらに好ましくは250~280nmである。
【0018】
可撓性基材が位相差フィルムである場合に、位相差値が測定光の波長に応じて大きくなる逆波長分散性を示してもよく、位相差値が測定光の波長に応じて小さくなる正の波長分散特性を示してもよく、位相差値が測定光の波長によってもほとんど変化しないフラットな波長分散特性を示してもよい。
【0019】
可撓性基材が逆波長分散性を示す位相差フィルムである場合、可撓性基材の波長λでの位相差をRe(λ)と表記したときに、可撓性基材10は、Re(450)/Re(550)<1及びRe(650)/Re(550)>1を満たすことができる。
【0020】
可撓性基材は、光を透過させたり吸収させたりすることができるという観点から、無色透明であることが好ましい。より具体的には、全光線透過率が80%以上であることが好ましく、85%以上であることがより好ましい。また、曇価(ヘイズ)が5%以下であることが好ましく、3%以下であることがより好ましく、1%以下であることがさらに好ましい。
【0021】
可撓性基材は、有機やエネルギーデバイスの基材で使用できるという観点から、絶縁性であることが好ましく、電気抵抗率が106Ωcm以上であることが好ましい。
【0022】
(有機層A)
基材層は、無機薄膜層との密着性及び/又は平坦性を向上させることを目的として、可撓性基材の少なくとも一方の表面に同一の又は異なった種類の有機層Aを含んでもよい。有機層Aとしては、例えば平坦化層、易滑層及びアンチブロッキング層が挙げられる。
【0023】
基材層が有機層Aを含む場合、基材層は、可撓性基材の一方の表面にのみ有機層を有するものであったり、可撓性基材の両方の表面に異なった種類の有機層を有するもの、例えば一方の表面に平坦層を有し、他方の表面に易滑層を有するものであったりしてよい。
【0024】
有機層Aは、通常、紫外線もしくは電子線硬化性樹脂のような光硬化性樹脂のモノマー及び/又はオリゴマーを含む樹脂組成物を可撓性基材上に塗布し、必要に応じて乾燥後、紫外線もしくは電子線の照射により硬化させて形成することができる。樹脂組成物は、必要に応じて、溶剤、光重合開始剤、熱重合開始剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、可塑剤等の添加剤を含んでもよい。
【0025】
塗布による方法の例としては、従来用いられる種々の塗布方法、例えば、スプレー塗布、スピン塗布、バーコート、カーテンコート、浸漬法、エアーナイフ法、スライド塗布、ホッパー塗布、リバースロール塗布、グラビア塗布、エクストリュージョン塗布等の方法が挙げられる。
【0026】
平坦化層には、例えばアクリレート樹脂を用いることができる。前記アクリレート樹脂は、光硬化性樹脂であることが好ましい。光硬化性樹脂は、紫外線や電子線等により重合が開始し、硬化が進行する樹脂である。さらに、効果を損なわない程度に、アクリレート樹脂以外の樹脂を含んでもよい。具体的には、ポリエステル樹脂、イソシアネート樹脂、エチレンビニルアルコール樹脂、ビニル変性樹脂、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、尿素メラミン樹脂、スチレン樹脂及びアルキルチタネート等が挙げられ、これらを1又は2種以上併せて含んでもよい。また、平坦化層の乾燥条件や硬化条件を変更することで、表面の平坦性を改良し、易滑層やアンチブロッキング層として用いることもできる。
【0027】
平坦化層としては、剛体振り子型物性試験機(例えばエー・アンド・デイ(株)製RPT-3000W等)により前記平坦化層表面の弾性率の温度変化を評価した場合、前記平坦化層表面の弾性率が50%以上低下する温度が150℃以上であるものが好ましい。
【0028】
易滑層には、例えば無機粒子を含有する樹脂組成物を用いることができる。無機粒子としては、例えばシリカ、アルミナ、タルク、クレイ、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、硫酸バリウム、水酸化アルミニウム、二酸化チタン、酸化ジルコニウム等が挙げられる。有機層Aが易滑層である場合、積層体をロール搬送し易くすることができる。
【0029】
アンチブロッキング層には、例えば無機粒子を含有する樹脂組成物を用いることができる。無機粒子としては、例えばシリカ、アルミナ、タルク、クレイ、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、硫酸バリウム、水酸化アルミニウム、二酸化チタン、酸化ジルコニウム等が挙げられる。有機層Aがアンチブロッキング層である場合、積層体同士の接触による密着(ブロッキング)を防止し易くすることができる。
【0030】
(無機薄膜層)
無機薄膜層としては、公知のガスバリア性を有する無機材料の層を適宜利用することができる。無機材料の例は、金属酸化物、金属窒化物、金属酸窒化物、金属酸炭化物、及び、これらのうちの少なくとも2種を含む混合物である。また、無機材料層としては、上述した無機薄膜層を2層以上積層した多層膜を用いることもできる。また、無機薄膜層を形成する工程は、1回でもよいし、複数回行われてもよい。複数回行う場合は、同一条件下で行われてもよいし、異なる条件下で行われてもよい。また、無機薄膜層は、基材層の一方又は両方の表面に設けることができる。
【0031】
中でも、無機薄膜層は、より高度な水蒸気透過防止性能を発揮できるといった観点、並びに、耐屈曲性、製造の容易性及び低製造コストといった観点から、少なくとも珪素原子(Si)、酸素原子(O)、及び炭素原子(C)を含有することが好ましい。
【0032】
この場合、無機薄膜層は、一般式がSiOαCβ[式中、α及びβは、互いに独立に、2未満の正の数を表す]で表される化合物が主成分であることができる。ここで、「主成分である」とは、無機薄膜層を構成する全成分の質量に対してその成分の含有量が50質量%以上、好ましくは70質量%以上、より好ましくは90質量%以上であることをいう。無機薄膜層は一般式SiOαCβで表される1種類の化合物を含有してもよいし、一般式SiOαCβで表される2種以上の化合物を含有してもよい。前記一般式におけるα及びβの一以上は、無機薄膜層の厚さ方向において一定の値でもよいし、変化していてもよい。
【0033】
さらに無機薄膜層は珪素原子、酸素原子及び炭素原子以外の元素、例えば、水素原子、窒素原子、ホウ素原子、アルミニウム原子、リン原子、イオウ原子、フッ素原子及び塩素原子のうちの一以上の原子を含有していてもよい。
【0034】
無機薄膜層は、無機薄膜層中の珪素原子(Si)に対する炭素原子(C)の平均原子数比をC/Siで表した場合に、緻密性を高くし、微細な空隙やクラック等の欠陥を少なくする観点から、C/Siの範囲は式(4)を満たすことが好ましい。
0.10<C/Si<0.50 (4)
また、0.15<C/Si<0.45の範囲にあるとより好ましく、0.20<C/Si<0.40の範囲にあるとさらに好ましく、0.25<C/Si<0.35の範囲にあると特に好ましい。
【0035】
また、無機薄膜層は、無機薄膜層中の珪素原子(Si)に対する酸素原子(O)の平均原子数比をO/Siで表した場合に、緻密性を高くし、微細な空隙やクラック等の欠陥を少なくする観点から、1.50<O/Si<1.90の範囲にあると好ましく、1.55<O/Si<1.85の範囲にあるとより好ましく、1.60<O/Si<1.80の範囲にあるとさらに好ましく、1.65<O/Si<1.75の範囲にあると特に好ましい。
【0036】
なお、平均原子数比C/Si及びO/Siは、下記条件にてXPSデプスプロファイル測定を行い、得られた珪素原子、酸素原子及び炭素原子の分布曲線から、それぞれの原子の厚み方向における平均原子濃度を求めた後、平均原子数比C/Si及びO/Siを算出できる。
<XPSデプスプロファイル測定>
エッチングイオン種:アルゴン(Ar+)
エッチングレート(SiO2熱酸化膜換算値):0.027nm/sec
スパッタ時間:0.5min
X線光電子分光装置:アルバックファイ社製、機種名「Quantera SXM」
照射X線:単結晶分光AlKα(1486.6eV)
X線のスポット及びそのサイズ:100μm
検出器:Pass Energy 69eV,Step size 0.125eV
帯電補正:中和電子銃(1eV)、低速Arイオン銃(10V)
【0037】
無機薄膜層は、無機薄膜層表面に対して赤外分光測定(ATR法)を行った場合、950~1050cm-1に存在するピーク強度(I1)と、1240~1290cm-1に存在するピーク強度(I2)との強度比が式(5)を満たす範囲にあってもよい。
0.01≦I2/I1<0.05 (5)
【0038】
赤外分光測定(ATR法)から算出したピーク強度比I2/I1は、無機薄膜層中のSi-O-Siに対するSi-CH3の相対的な割合を表すと考えられる。式(5)で表される関係を満たす無機薄膜層は、緻密性が高く、微細な空隙やクラック等の欠陥が少なくなるため、ガスバリア性に優れ、かつ耐衝撃性に優れたものとなると考えられる。ピーク強度比I2/I1の範囲について、無機薄膜層の緻密性を高く保持する観点から、0.02≦I2/I1<0.04の範囲が好ましい。
【0039】
さらに、上記ピーク強度比I2/I1の範囲を満たす場合には、ガスバリア性フィルムが適度に滑りやすくなり、よりブロッキングしにくくなる。逆にI2/I1が大きい、すなわちSi-Cが余りに多い場合には屈曲性が悪く、かつ滑りにくくなる傾向がある。また、I2/I1が小さい、すなわちSi-Cが余りに少ない場合でも屈曲性が低下する傾向がある。
【0040】
無機薄膜層の表面の赤外分光測定は、プリズムにゲルマニウム結晶を用いたATRアタッチメント(PIKE MIRacle)を備えたフーリエ変換型赤外分光光度計(日本分光(株)製、FT/IR-460Plus)によって測定することができる。
【0041】
無機薄膜層は、無機薄膜層表面に対して赤外分光測定(ATR法)を行った場合、950~1050cm-1に存在するピーク強度(I1)と、770~830cm-1に存在するピーク強度(I3)との強度比が式(6)の範囲にあってもよい。
0.25≦I3/I1≦0.50 (6)
【0042】
赤外分光測定(ATR法)から算出したピーク強度比I3/I1は、無機薄膜層中のSi-O-Siに対するSi-CやSi-O等の相対的な割合を表すと考えられる。式(6)で表される関係を満たす無機薄膜層は、高い緻密性を保持しつつ、炭素が導入されることから耐屈曲性に優れ、かつ耐衝撃性に優れたものとなると考えられる。ピーク強度比I3/I1の範囲について、無機薄膜層の緻密性と耐屈曲性のバランスを保つ観点から、0.25≦I3/I1≦0.50の範囲が好ましく、0.30≦I3/I1≦0.45の範囲がより好ましい。
【0043】
前記薄膜層は、無機薄膜層表面に対して赤外分光測定(ATR法)を行った場合、770~830cm-1に存在するピーク強度(I3)と、870~910cm-1に存在するピーク強度(I4)との強度比が式(7)の範囲にあってもよい。
0.70≦I4/I3<1.00 (7)
【0044】
赤外分光測定(ATR法)から算出したピーク強度比I4/I3は、無機薄膜層中のSi-Cに関連するピーク同士の比率を表すと考えられる。式(7)で表される関係を満たす無機薄膜層は、高い緻密性を保持しつつ、炭素が導入されることから耐屈曲性に優れ、かつ耐衝撃性に優れたものとなると考えられる。ピーク強度比I4/I3の範囲について、無機薄膜層の緻密性と耐屈曲性のバランスを保つ観点から、0.70≦I4/I3<1.00の範囲が好ましく、0.80≦I4/I3<0.95の範囲がより好ましい。
【0045】
無機薄膜層の厚さは、無機薄膜層を曲げた時に割れ難くするという観点から、5~3000nmであることが好ましい。さらに、グロー放電プラズマを用いて、プラズマCVD法により無機薄膜層を形成する場合には、基材を通して放電しつつ前記無機薄膜層を形成することから、10~2000nmであることがより好ましく、100~1000nmであることがさらに好ましい。
【0046】
無機薄膜層の平均密度は、1.8g/cm3以上であってもよい。なお、無機薄膜層の「平均密度」は、ラザフォード後方散乱法(Rutherford Backscattering Spectrometry:RBS)で求めた珪素の原子数、炭素の原子数及び酸素の原子数と、水素前方散乱法(Hydrogen Forward scattering Spectrometry:HFS)で求めた水素の原子数とから測定範囲の無機薄膜層の重さを計算し、測定範囲の無機薄膜層の体積(イオンビームの照射面積と膜厚との積)で除することで求められる。無機薄膜層の平均密度が1.8g/cm3以上であることにより、無機薄膜層は、緻密性が高く、微細な空隙やクラック等の欠陥を少ない構造を有する。さらに、無機薄膜層が珪素原子、酸素原子、炭素原子及び水素原子からなる場合には、無機薄膜層の平均密度は2.22g/cm3未満であることが好ましい。
【0047】
無機薄膜層の膜厚方向における該無機薄膜層表面からの距離と、各距離における珪素原子の原子数比との関係を示す曲線を珪素分布曲線という。同様に、膜厚方向における該無機薄膜層表面からの距離と、各距離における酸素原子の原子数比との関係を示す曲線を酸素分布曲線という。また、膜厚方向における該無機薄膜層表面からの距離と、各距離における炭素原子の原子数比との関係を示す曲線を炭素分布曲線という。ここで、珪素原子の原子数比、酸素原子の原子数比及び炭素原子の原子数比とは、無機薄膜層に含まれる珪素原子、酸素原子及び炭素原子の合計数に対する無機薄膜層表面からの各距離におけるそれぞれの原子数の比率を意味する。
【0048】
屈曲によるガスバリア性の低下を抑制しやすい観点からは、無機薄膜層に含まれる珪素原子、酸素原子及び炭素原子の合計数に対する炭素原子の原子数比が、無機薄膜層の厚さ方向において連続的に変化することが好ましい。ここで、上記炭素原子の原子数比が、厚さ方向において連続的に変化するとは、例えば上記の炭素分布曲線において、炭素原子の原子数比が所定の変位幅の範囲内で複数の極値を与える増加及び減少を連続的に繰り返すことを表し、不連続に変化する部分を含まないこと、すなわち炭素原子の原子数比が単調に増加又は減少しないことを表す。原子数比が、厚さ方向において連続的に変化する例として、後述する製造例1で得られるガスバリア性フィルムにおける無機薄膜層のXPSデプスプロファイル測定結果を示すグラフ(
図3)が参照される。
【0049】
前記無機薄膜層における珪素分布曲線、酸素分布曲線及び炭素分布曲線から得られる原子数比ならびに炭素分布曲線が、条件(i)及び(ii)を満たすことが、ガスバリア性や屈曲性の観点から好ましい。
(i)珪素の原子数比、酸素の原子数比及び炭素の原子数比が、前記無機薄膜層の膜厚方向における90%以上の領域において、式(8)で表される条件を満たす、
(酸素の原子数比)>(珪素の原子数比)>(炭素の原子数比) (8)(ii)前記炭素分布曲線が少なくとも1つの極値を有する。
【0050】
無機薄膜層の炭素分布曲線は、実質的に連続であることが好ましい。炭素分布曲線が実質的に連続とは、炭素分布曲線における炭素の原子数比が不連続に変化する部分を含まないことである。具体的には、膜厚方向における前記薄膜層表面からの距離をx[nm]、炭素の原子数比をCとしたときに、式(9)を満たすことが好ましい。
|dC/dx|≦0.01 (9)
【0051】
また、無機薄膜層の炭素分布曲線は少なくとも1つの極値を有することが好ましい。ここでいう極値は、膜厚方向における前記無機薄膜層表面からの距離に対する各元素の原子数比の極大値又は極小値である。極値は、膜厚方向における前記無機薄膜層表面からの距離を変化させたときに、元素の原子数比が増加から減少に転じる点、又は元素の原子数比が減少から増加に転じる点での原子数比の値である。極値は、例えば、膜厚方向において複数の測定位置において、測定された原子数比に基づいて求めることができる。原子数比の測定位置は、膜厚方向の間隔が、例えば20nm以下に設定される。膜厚方向において極値を示す位置は、各測定位置での測定結果を含んだ離散的なデータ群について、例えば互いに異なる3以上の測定位置での測定結果を比較し、測定結果が増加から減少に転じる位置又は減少から増加に転じる位置を求めることによって得ることができる。極値を示す位置は、例えば、前記の離散的なデータ群から求めた近似曲線を微分することによって、得ることもできる。極値を示す位置から、原子数比が単調増加又は単調減少する区間が例えば20nm以上である場合に、極値を示す位置から膜厚方向に20nmだけ移動した位置での原子数比と、極値との差の絶対値は例えば0.03以上である。
【0052】
前記のように炭素分布曲線が少なくとも1つの極値を有する条件を満たすように形成された前記無機薄膜層は、屈曲前のガス透過率に対する屈曲後のガス透過率の増加量が、前記条件を満たさない場合と比較して少なくなる。すなわち、前記条件を満たすことにより、屈曲によるガスバリア性の低下を抑制する効果が得られる。炭素分布曲線の極値の数が2つ以上になるように前記無機薄膜層を形成すると、炭素分布曲線の極値の数が1つである場合と比較して、前記の増加量が少なくなる。また、炭素分布曲線の極値の数が3つ以上になるように前記無機薄膜層を形成すると、炭素分布曲線の極値の数が2つである場合と比較して、前記の増加量が少なくなる。炭素分布曲線が2つ以上の極値を有する場合に、第1の極値を示す位置の膜厚方向における前記無機薄膜層表面からの距離と、第1の極値と隣接する第2の極値を示す位置の膜厚方向における前記無機薄膜層表面からの距離との差の絶対値が、1nm以上200nm以下の範囲内であることが好ましく、1nm以上100nm以下の範囲内であることがさらに好ましい。
【0053】
また、前記無機薄膜層の炭素分布曲線における炭素の原子数比の最大値及び最小値の差の絶対値が0.01以上であることが好ましい。前記条件を満たすように形成された前記無機薄膜層は、屈曲前のガス透過率に対する屈曲後のガス透過率の増加量が、前記条件を満たさない場合と比較して少なくなる。すなわち、前記条件を満たすことにより、屈曲によるガスバリア性の低下を抑制する効果が得られる。炭素の原子数比の最大値及び最小値の差の絶対値が0.02以上であると前記の効果が高くなり、0.03以上であると前記の効果がさらに高くなる。
【0054】
珪素分布曲線における珪素の原子数比の最大値及び最小値の差の絶対値が低くなるほど、前記無機薄膜層のガスバリア性が向上する傾向がある。このような観点で、前記の絶対値は、0.05未満(5at%未満)であることが好ましく、0.04未満(4at%未満)であることがより好ましく、0.03未満(3at%未満)であることが特に好ましい。
【0055】
また、酸素炭素分布曲線において、各距離における酸素原子の原子数比及び炭素原子の原子数比の合計を「合計原子数比」としたときに、合計原子数比の最大値及び最小値の差の絶対値が低くなるほど、前記無機薄膜層のガスバリア性が向上する傾向がある。このような観点で、前記の合計原子数比は、0.05未満であることが好ましく、0.04未満であることがより好ましく、0.03未満であることが特に好ましい。
【0056】
前記無機薄膜層表面方向において、前記無機薄膜層を実質的に一様な組成にすると、前記無機薄膜層のガスバリア性を均一にするとともに向上させることができる。実質的に一様な組成であるとは、酸素分布曲線、炭素分布曲線及び酸素炭素分布曲線において、前記無機薄膜層表面の任意の2点で、それぞれの膜厚方向に存在する極値の数が同じであり、それぞれの炭素分布曲線における炭素の原子数比の最大値及び最小値の差の絶対値が、互いに同じであるかもしくは0.05以内の差であることをいう。
【0057】
前記条件を満たすように形成された無機薄膜層は、例えば有機EL素子を用いたフレキシブル電子デバイスなどに要求されるガスバリア性を発現することができる。
【0058】
このような珪素原子、酸素原子及び炭素原子を含む無機薄膜層は、化学気相成長法(CVD法)で形成されることが好ましく、中でも、グロー放電プラズマなどを用いたプラズマ化学気相成長法(PECVD法)で形成されることがより好ましい。
【0059】
原料ガスの例としては、珪素原子及び炭素原子を含有する有機ケイ素化合物が挙げられる。有機ケイ素化合物の例としては、ヘキサメチルジシロキサン、1,1,3,3-テトラメチルジシロキサン、ビニルトリメチルシラン、メチルトリメチルシラン、ヘキサメチルジシラン、メチルシラン、ジメチルシラン、トリメチルシラン、ジエチルシラン、プロピルシラン、フェニルシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、オクタメチルシクロテトラシロキサンが挙げられる。これらの有機ケイ素化合物の中でも、化合物の取り扱い性及び得られる無機薄膜層のガスバリア性等の特性の観点から、ヘキサメチルジシロキサン、1,1,3,3-テトラメチルジシロキサンが好ましい。また、これらの有機ケイ素化合物は、1種を単独で又は2種以上を組合せて使用することができる。
【0060】
また、上記原料ガスに対して、上記原料ガスと反応して酸化物、窒化物等の無機化合物を形成可能とする反応ガスを適宜選択して混合することができる。酸化物を形成するための反応ガスとしては、例えば、酸素、オゾンを用いることができる。また、窒化物を形成するための反応ガスとしては、例えば、窒素、アンモニアを用いることができる。これらの反応ガスは、1種を単独で又は2種以上を組合せて使用することができ、例えば酸窒化物を形成する場合には、酸化物を形成するための反応ガスと窒化物を形成するための反応ガスとを組合せて使用することができる。原料ガスと反応ガスの流量比は、成膜する無機材料の原子数比に応じて適宜調節できる。
【0061】
原料ガス及び反応ガスの流量比を調節することにより、前記C/Siの値を制御することができる。例えば、原料ガスとしてヘキサメチルジシロキサン(HMDSO)を、反応ガスとして酸素をそれぞれ用いる場合は、HMDSO流量に対する酸素流量の比O2/HMDSOを5~25の範囲にすると、C/Siの値を前記した範囲に制御することができる。
【0062】
上記原料ガスを真空チャンバー内に供給するために、必要に応じて、キャリアガスを用いてもよい。さらに、プラズマ放電を発生させるために、必要に応じて、放電用ガスを用いてもよい。このようなキャリアガス及び放電用ガスとしては、適宜公知のものを使用することができ、例えば、ヘリウム、アルゴン、ネオン、キセノン等の希ガス;水素を用いることができる。
【0063】
また、真空チャンバー内の圧力(真空度)は、原料ガスの種類等に応じて適宜調整することができるが、0.5~50Paの範囲とすることが好ましい。
【0064】
図2は、ガスバリア性フィルムに含まれる無機薄膜層の製造に用いられる製造装置の一例を示す模式図であり、プラズマ化学気相成長法により無機薄膜層を形成する装置の模式図である。
図2は、図面を見やすくするため、各構成要素の寸法や比率などは適宜異ならせてある。
図2に示す製造装置は、送り出しロール11、巻き取りロール71、搬送ロール21~24、ガス供給管41、プラズマ発生用電源51、成膜ロール31及び32の内部にそれぞれ設置された磁場形成装置61及び62を有している。
図2の装置において、成膜ロール31及び32は、電極も兼ねており、後述のロール状電極となっている。
【0065】
製造装置の構成要素のうち、少なくとも成膜ロール、ガス供給管、磁場形成装置は、無機薄膜層を形成するときに、真空チャンバー(図示せず)内に配置される。この真空チャンバーは、真空ポンプ(図示せず)に接続される。真空チャンバーの内部の圧力は、真空ポンプの動作により調整される。
【0066】
この装置を用いると、プラズマ発生用電源を制御することにより、2つの成膜ロールの間の空間に、ガス供給管から供給される成膜ガスの放電プラズマを発生させることができ、発生する放電プラズマを用いて連続的な成膜プロセスでプラズマCVD成膜を行うことができる。
【0067】
送り出しロールには、成膜前のフィルム100が巻き取られた状態で設置され、フィルムを長尺方向に巻き出しながら送り出しする。また、フィルムの端部側には巻取りロールが設けられ、成膜が行われた後のフィルムを牽引しながら巻き取り、ロール状に収容する。
【0068】
前記2つの成膜ロールは、平行に延在して対向配置されていることが好ましい。両ロールは導電性材料で形成され、それぞれ回転しながらフィルムを搬送する。2つの成膜ロールは、直径が同じものを用いることが好ましく、例えば、5cm以上100cm以下のものを用いることが好ましい。
【0069】
無機薄膜層は、形成する際に一対のロール状電極の表面にそれぞれ基材層を密接させながら搬送し、一対の電極間でプラズマを発生させて、原料をプラズマ中で分解させて可撓性基材上に無機薄膜層を形成させることが好ましい。前記の一対の電極は、磁束密度が電極及び可撓性基材表面で高くなるように電極内部に磁石が配置されることが好ましい。これにより、プラズマ発生時に電極及び可撓性基材上でプラズマが高密度に拘束される傾向にある。
【0070】
(有機層B)
ガスバリア性フィルムは、ガスバリア性フィルムの最外層に有機層Bを有してもよい。
有機層Bとしては、紫外線遮断層、マット剤層、保護層、帯電防止層、平滑化層、密着改良層、遮光層、反射防止層、ハードコート層、応力緩和層、防曇層、防汚層、被印刷層、及び易接着層等ハードコート層等が挙げられる。有機層Bは、例えば無機薄膜層の基材層とは反対側の表面に積層されていてよいし、無機薄膜層上に積層されていてもよい。本発明のガスバリア性フィルムは、水蒸気バリア性の観点から、無機薄膜層の基材層とは反対側の表面に有機層Bをさらに有することが好ましい。
【0071】
有機層Bとしては、例えば上記において有機層Aについて記載した樹脂から構成される層や有機層Aについて記載した樹脂にそれぞれの機能を出すための添加剤が含有された層等が挙げられ、ガスバリア性フィルムの用途や用いられ方により適宜選択される。
【0072】
有機層Bを積層させる方法としては、例えば上記において有機層Aについて記載した方法が挙げられる。
【0073】
さらに、有機層Bとしては、ポリシラザン等の無機ポリマーを含む組成物を用いて形成される層であってもよい。無機ポリマー層を形成することで、水蒸気の透過を高水準で防止することができるとともに、有機EL素子等の電子デバイスに適用した場合に、ダークスポットの発生を長期間に亘って抑制することができる。
【0074】
無機ポリマー層は、一回の塗布で所望の膜厚に調整することもできるし、複数回塗布し所望の膜厚に調整することもできる。複数回塗布する場合には、一回の塗布ごとに硬化処理を実施するほうが、硬化により発生するガスの拡散経路の確保やクラック等の欠陥を補う観点から効果的である。
【0075】
無機ポリマー層は、無機薄膜層上に、ポリシラザン等の無機ポリマーを含む塗布液を塗布し、乾燥した後、形成した塗膜を硬化処理することにより形成することができる。塗布液としては、無機ポリマーを溶媒に溶解又は分散させたものを用いることができる。塗布液中の無機ポリマーの濃度は、無機ポリマー層の厚み及び塗布液のポットライフの要求に応じて適宜調整すればよいが、通常、0.2~35質量%とされる。
【0076】
無機ポリマーであるポリシラザンとしてより具体的には、パーヒドロポリシラザン(PHPS)等が挙げられる。
【0077】
溶媒としては、使用する無機ポリマーと反応せず、無機ポリマーを溶解又は分散させるのに適切であり、且つ、無機薄膜層に悪影響のない溶媒を適宜選択して用いることができる。溶媒の例としては、脂肪族炭化水素、脂環式炭化水素、芳香族炭化水素等の炭化水素溶媒、ハロゲン化炭化水素溶媒、脂肪族エーテル、脂環式エーテル等のエーテル類が挙げられる。溶媒の例としてより具体的には、ペンタン、ヘキサン、シクロヘキサン、トルエン、キシレン等の炭化水素、塩化メチレン、トリクロロエタン等のハロゲン炭化水素、ジブチルエーテル、ジオキサン、テトラヒドロフラン等のエーテル類等が挙げられる。これらの溶媒は、2種以上を混合して用いてもよい。
【0078】
無機ポリマーとしてポリシラザンを用いる場合、酸窒化ケイ素への変性を促進するため、塗布液にアミン触媒、Ptアセチルアセトナート等のPt化合物、プロピオン酸Pd等のPd化合物、Rhアセチルアセトナート等のRh化合物等の金属触媒を添加することもできる。
【0079】
ポリシラザンに対する触媒の添加量は、塗布液全量を基準として0.1~10質量%であることが好ましく、0.2~5質量%であることがより好ましく、0.5~2質量%であることが更に好ましい。触媒添加量を上記範囲内とすることにより、反応の急激な進行よる過剰なシラノール形成、膜密度の低下、膜欠陥の増大などを抑制することができる。
【0080】
乾燥は、塗布液中の溶媒を除去できる条件で行えばよい。また、例えば、加熱したホットプレート上で塗布液の塗布及び乾燥を同時に行ってもよい。
【0081】
形成した塗膜の硬化処理方法としては、例えば、プラズマCVD法、イオン注入処理法、紫外線照射法、真空紫外線照射法、酸素プラズマ照射法、加熱処理法等、塗膜中の無機ポリマーを硬化することができる方法を用いることができる。これらの中でも、硬化処理方法としては、波長200nm以下の真空紫外光(VUV光)を塗膜に照射する方法を用いることが好ましい。また、真空紫外光を塗膜に照射する方法は、無機ポリマーとしてポリシラザンを用いた場合により好ましい。
【0082】
ポリシラザンを含む塗膜の硬化処理方法として真空紫外線照射法を用いた場合、塗膜に真空紫外線を照射すると、ポリシラザンの少なくとも一部がSiOxNyで表される酸窒化ケイ素へと改質される。ここで、ポリシラザンとして-(SiH2-NH-)n-で表される構造を有するパーヒドロポリシラザンを用いた場合、SiOxNyへの改質の際にx>0となるためには酸素源が必要となるが、製造過程において塗膜中に取り込まれた酸素及び水分等が酸素源となる。
【0083】
SiOxNyの組成において、Si、O、Nの結合手の関係から、基本的には、x及びyは、2x+3y=4の範囲内となる。酸化が完全に進んだy=0の状態においては、塗膜中にシラノール基を含有するようになり、2<x<2.5の範囲となる場合もある。なお、Siの酸化よりも窒化が進行することは通常考えにくいことから、yは基本的には1以下である。
【0084】
真空紫外線の照射により、パーヒドロポリシラザンから酸窒化ケイ素が生じ、さらには酸化ケイ素が生じる反応機構は、以下のように考えられる。
【0085】
(1)脱水素、それに伴うSi-N結合の形成
パーヒドロポリシラザン中のSi-H結合及びN-H結合は、真空紫外線照射による励起等で比較的容易に切断され、不活性雰囲気下ではSi-Nとして再結合すると考えられる(Siの未結合手が形成される場合もある)。すなわち、パーヒドロポリシラザンは、酸化することなくSiNy組成として硬化する。この場合は、ポリマー主鎖の切断は生じない。Si-H結合やN-H結合の切断は、触媒の存在や加熱によって促進される。切断されたHは、H2として膜外に放出される。
【0086】
(2)加水分解及び脱水縮合によるSi-O-Si結合の形成
パーヒドロポリシラザン中のSi-N結合は水により加水分解され、ポリマー主鎖が切断されてSi-OHを形成する。二つのSi-OHが脱水縮合してSi-O-Si結合を形成して硬化する。これは大気中でも生じる反応であるが、不活性雰囲気下での真空紫外線照射中では、照射の熱によって樹脂基材からアウトガスとして生じる水蒸気が主な水分源となると考えられる。水分が過剰になると、脱水縮合しきれないSi-OHが残存し、SiO2.1~SiO2.3の組成で示されるガスバリア性の低い硬化膜となる。
【0087】
(3)一重項酸素による直接酸化、Si-O-Si結合の形成
真空紫外線照射中、雰囲気下に適当量の酸素が存在すると、酸化力の非常に強い一重項酸素が形成される。パーヒドロポリシラザン中のH及びNは、Oと置き換わってSi-O-Si結合を形成して硬化する。ポリマー主鎖の切断により結合の組み換えが生じる場合もあると考えられる。
【0088】
(4)真空紫外線照射及び励起によるSi-N結合切断を伴う酸化
真空紫外線のエネルギーは、パーヒドロポリシラザン中のSi-Nの結合エネルギーよりも高いため、Si-N結合は切断され、周囲に酸素、オゾン、水等の酸素源が存在すると、酸化されてSi-O-Si結合又はSi-O-N結合が生じると考えられる。ポリマー主鎖の切断により、結合の組み換えが生じる場合もあると考えられる。
【0089】
ポリシラザンを含有する塗膜に真空紫外線照射を施して得られた層の酸窒化ケイ素の組成の調整は、上述の(1)~(4)の酸化機構を適宜組合せて酸化状態を制御することで行うことができる。
【0090】
真空紫外線照射において、ポリシラザンを含有する塗膜が受ける塗膜面での真空紫外線の照度は、1~100000mW/cm2の範囲内であることが好ましく、30~200mW/cm2の範囲内であることがより好ましい。この照度が1mW/cm2以上であれば、改質効率の低下の懸念がなく、100000mW/cm2以下であれば、塗膜にアブレーションを生じることがなく、可撓性基材にダメージを与えないため好ましい。
【0091】
真空紫外線照射において、ポリシラザンを含有する塗膜に照射される真空紫外線の積算光量(積算照射エネルギー量)は、無機ポリマー層の膜厚で規格化された以下の式において、1.0~100mJ/cm
2/nmの範囲内であることが好ましく、1.5~30mJ/cm
2/nmの範囲内であることがより好ましく、2.0~20mJ/cm
2/nmの範囲であることがさらに好ましく、5.0~20mJ/cm
2/nmの範囲であることがとりわけ好ましい。この規格化積算光量が1.0mJ/cm
2/nm以上であると、改質を充分に行うことができる。一方、この規格化積算光量が100mJ/cm
2/nm以下であると、過剰改質条件とはならず、無機ポリマー層へのクラック発生を防止することができる。所望の膜厚にするに当たり、複数回にわたって無機ポリマー層を硬化させる場合にも、各層に対して、上記規格化積算光量の範囲となることが好ましい。
【数1】
【0092】
真空紫外光源としては、希ガスエキシマランプが好ましく用いられる。Xe、Kr、Ar、Neなどの希ガスの原子は、化学的に結合して分子を作らないため、不活性ガスと呼ばれる。
【0093】
しかし、放電などによりエネルギーを得た希ガスの励起原子は他の原子と結合して分子を作ることができる。希ガスがキセノンの場合には、
e+Xe→Xe*
Xe*+2Xe→Xe2
*+Xe
Xe2
*→Xe+Xe+hν(172nm)
となり、励起されたエキシマ分子であるXe2
*が基底状態に遷移するときに、波長172nmのエキシマ光を発光する。
【0094】
エキシマランプの特徴としては、放射が一つの波長に集中し、必要な光以外がほとんど放射されないので効率が高いことが挙げられる。また、余分な光が放射されないので、対象物の温度を低く保つことができる。さらには始動及び再始動に時間を要さないので、瞬時の点灯点滅が可能である。
【0095】
エキシマ光を得るには、誘電体バリア放電を用いる方法が知られている。誘電体バリア放電とは、両電極間に透明石英などの誘電体を介してガス空間を配し、電極に数10kHzの高周波高電圧を印加することによりガス空間に生じ、雷に似た非常に細いマイクロ・ディスチャージ(micro discharge)と呼ばれる放電であり、マイクロ・ディスチャージのストリーマが管壁(誘導体)に達すると誘電体表面に電荷が溜まるため、マイクロ・ディスチャージは消滅する。
【0096】
このマイクロ・ディスチャージが管壁全体に広がり、生成・消滅を繰り返している放電である。このため、肉眼でも確認できる光のチラツキを生じる。また、非常に温度の高いストリーマが局所的に直接管壁に達するため、管壁の劣化を早める可能性もある。
【0097】
効率よくエキシマ発光を得る方法としては、誘電体バリア放電以外に、無電極電界放電でも可能である。容量性結合による無電極電界放電で、別名RF放電とも呼ばれる。ランプと電極及びその配置は基本的には誘電体バリア放電と同じでよいが、両極間に印加される高周波は数MHzで点灯される。無電極電界放電はこのように空間的にまた時間的に一様な放電が得られるため、チラツキが無い長寿命のランプが得られる。
【0098】
誘電体バリア放電の場合は、マイクロ・ディスチャージが電極間のみで生じるため、放電空間全体で放電を行わせるには外側の電極は外表面全体を覆い、且つ外部に光を取り出すために光を透過するものでなければならない。
【0099】
このため、細い金属線を網状にした電極が用いられる。この電極は、光を遮らないようにできるだけ細い線が用いられるため、酸素雰囲気中では真空紫外光により発生するオゾンなどにより損傷しやすい。これを防ぐためには、ランプの周囲、すなわち照射装置内を窒素などの不活性ガスの雰囲気にし、合成石英の窓を設けて照射光を取り出す必要が生じる。合成石英の窓は高価な消耗品であるばかりでなく、光の損失も生じる。
【0100】
二重円筒型ランプは外径が25mm程度であるため、ランプ軸の直下とランプ側面では照射面までの距離の差が無視できず、照度に大きな差を生じる。したがって、仮にランプを密着して並べても、一様な照度分布が得られない。合成石英の窓を設けた照射装置にすれば、酸素雰囲気中の距離を一様にでき、一様な照度分布が得られる。
【0101】
無電極電界放電を用いた場合には、外部電極を網状にする必要は無い。ランプ外面の一部に外部電極を設けるだけでグロー放電は放電空間全体に広がる。外部電極には通常アルミのブロックで作られた光の反射板を兼ねた電極がランプ背面に使用される。しかし、ランプの外径は誘電体バリア放電の場合と同様に大きいため一様な照度分布にするためには合成石英が必要となる。
【0102】
細管エキシマランプの最大の特徴は、構造がシンプルなことにある。石英管の両端を閉じ、内部にエキシマ発光を行うためのガスを封入しているだけである。
【0103】
細管ランプの管の外径は6~12mm程度で、あまり太いと始動に高い電圧が必要になる。
【0104】
放電の形態は、誘電体バリア放電及び無電極電界放電のいずれも使用できる。電極の形状は、ランプに接する面が平面であってもよいが、ランプの曲面に合わせた形状とすることにより、ランプをしっかり固定できるとともに、電極がランプに密着することで放電がより安定する。また、アルミで曲面を鏡面にすれば、光の反射板にもなる。
【0105】
Xeエキシマランプは、波長の短い172nmの紫外線を単一波長で放射することから、発光効率に優れている。このエキシマ光は、酸素の吸収係数が大きいため、微量な酸素でラジカルな酸素原子種やオゾンを、高濃度で発生することができる。
【0106】
また、波長の短い172nmの光のエネルギーは、有機物の結合を解離させる能力が高いことが知られている。この活性酸素やオゾンと、紫外線放射が持つ高いエネルギーによって、短時間でポリシラザン層の改質を実現することができる。
【0107】
したがって、波長185nm、254nmの発する低圧水銀ランプやプラズマ洗浄と比べ、高スループットに伴うプロセス時間の短縮や設備面積の縮小、熱によるダメージを受けやすい有機材料やプラスチック基板などへの照射を可能としている。
【0108】
エキシマランプは光の発生効率が高いため、低い電力の投入で点灯させることが可能である。また、光照射による温度上昇の要因となる長い波長の光は発せず、紫外線領域、すなわち、短い波長範囲でエネルギーを照射するため、照射対象物の表面温度の上昇が抑えられる特徴を持っている。このため、熱の影響を受けやすいとされるPETなどの可とう性フィルムを有する材料の改質処理に適している。
【0109】
真空紫外線は、酸素が存在すると、酸素による吸収があるため、紫外線照射工程での効率が低下しやすいことから、真空紫外線照射時は、可能な限り酸素濃度の低い状態で行うことが好ましい。すなわち、真空紫外線照射時の酸素濃度は、好ましくは10~100000体積ppmの範囲内であり、より好ましくは50~50000体積ppmの範囲内であり、更に好ましくは100~10000体積ppmの範囲内である。
【0110】
真空紫外線照射時に、照射環境を満たすガスとしては、乾燥した不活性ガスを用いることが好ましく、中でも、コストの観点から乾燥窒素ガスを用いることが好ましい。酸素濃度の調整は、照射環境内へ導入する酸素ガス、不活性ガスの流量を計測し、流量比を変えることで調整可能である。
【0111】
(静止摩擦係数)
ガスバリア性フィルムは、ガスバリア性フィルムの一方の表面と他方の表面との間の静止摩擦係数は、0.30以上2.0以下である。
【0112】
静止摩擦係数は、上面及び下面を有するガスバリア性フィルムを2枚に分割し、1枚目のガスバリア性フィルムの上面と、2枚目のガスバリア性フィルムの下面とを接触させるようにして、静止摩擦係数を測定すればよい。静止摩擦係数は、JIS P 8147の傾斜法に準拠し、温度23℃、湿度50RH%の環境下にて測定することができる。
【0113】
静止摩擦係数を調整するには、ガスバリア性フィルムの両面の表面粗さを調節すればよい。たとえば、無機薄膜層が基材層の一方面のみに設けられている場合には、無機薄膜層の露出面の表面粗さと、基材層の露出面の表面粗さとを調節すればよい。無機薄膜層が基材層の両方面に設けられている場合には、一方の無機薄膜層の露出面の表面粗さと、他方の無機薄膜層の露出面の表面粗さとを調節すればよい。ガスバリア性フィルムの少なくとも一方の面の表面粗さを大きくすると、表裏面間の静止摩擦係数は小さくなる傾向がある。
【0114】
(表面粗さ)
無機薄膜層の表面粗さは、たとえば、無機薄膜層の成膜条件における真空チャンバー内の圧力(真空度)や成膜厚み等の条件や、無機成膜層の組成に応じて変更できる。また、無機薄膜層の表面粗さは、下地となる可撓性基材の表面粗さや、無機薄膜層と可撓性基材との間に配置される中間層の表面粗さを調節することによっても調節できる。
【0115】
可撓性基材の表面粗さを調節するには、コロナ処理等の処理をすればよい。
【0116】
無機薄膜層の表面の算術平均粗さRaは、3nm以下であることができる。算術平均粗さRaは、ガスバリア性フィルムを粘着剤付きエポキシ板に貼りつけた後、その表面を白色干渉顕微鏡で観察することにより得ることができる。算術平均粗さRaとは、JIS B 0601:2001による算術平均粗さである。
【0117】
(反り)
また、本実施形態にかかるガスバリア性フィルムにおいて、ガスバリア性フィルムから切り出した50mm四方の部分を当該部分の中央部が水平面に接するように載置したとき、水平面から反り上がった四隅までの距離の平均値が2mm以下である。
【0118】
この平均値は以下のようにして測定できる。まず、ガスバリア性フィルムを温度23℃、湿度50RH%の条件に48時間保持する。次に、当該ガスバリア性フィルムから50mm四方の部分を切り出してサンプルを得る。サンプルの中央部が水平面に接するようにサンプルを水平面上に載置して、水平面から4隅までの距離を合計4点得る。最後に、これら4点の平均値を得る。
【0119】
ガスバリア性フィルムの反りを低減して平面性を向上させるには、表裏面の各無機薄膜層の応力をバランスさせたり、片方の面の無機薄膜層とその下のコーティング層との応力をバランスさせたり、無機薄膜層自体の残留応力を低減したり、またこれらを組み合わせて両面の応力をバランスさせればよい。応力は、無機薄膜層形成時の成膜圧力、膜厚、コーティング層形成時の硬化収縮度合等により調整することができる。
【0120】
(水蒸気透過度)
ガスバリア性フィルムの40℃90%RHにおける水蒸気透過度は、0.1g/m2/day以下であることができ、0.001g/m2/day以下であってもよい。水蒸気透過度は、ISO/WD 15106-7(Annex C)に準拠してCa腐食試験法で測定することができる。
【0121】
(ガスバリア性フィルムの製造)
ガスバリア性フィルムは、基材層及び無機薄膜層を別々に製造し貼り合わせる方法や、基材層上に無機薄膜層を形成させる方法などにより製造することができる。無機薄膜層は、可撓性基材上又は可撓性基材の表面に積層された有機層A上に、グロー放電プラズマを用いて、CVD法等の公知の真空成膜手法で形成させて製造することが好ましい。このようにして得た積層フィルムに、公知の方法で有機層Bを形成させてもよい。無機薄膜層は、連続的な成膜プロセスで形成させることが好ましく、例えば、長尺の基材を連続的に搬送しながら、その上に連続的に無機薄膜層を形成させることがより好ましい。具体的には、可撓性基材を送り出しロールから巻き取りロールへ搬送しながら無機薄膜層を形成させてよい。その後、送り出しロール及び巻き取りロールを反転させて、逆向きに基材を搬送させることで、さらに上から無機薄膜層を形成させてもよい。
【0122】
(粘着剤層)
粘着剤層は、ガスバリア性フィルムの一方の表面に配置される。粘着剤層は、ガスバリア性フィルムを他の部材に接着させる機能を発揮することができるものであれば特に限定されないが、通常知られた接着剤や粘着剤等の他に、接着剤や粘着剤中に吸湿剤や反応により水分を消費する成分を含む、もしくは反応により水分を消費する成分そのものを接着剤や粘着剤等として用いることが出来る。さらに、粘着剤層は、乾燥により吸着した水分を除くことも出来、その場合、乾燥した状態で使用されることが好ましい、粘着剤層の表面には、使用に供されるまで、後述する剥離性フィルム2が貼り合わされる。ガスバリア性フィルムには、粘着剤層を介して剥離性フィルム2が配置される。ガスバリア性フィルムを他の部材に接着させる際には、剥離性フィルム2を剥離し、他の部材は、ガスバリア性フィルムの表面上に配置された粘着剤層に接着される。このとき粘着剤層は、剥離性フィルム2を剥離する際にガスバリア性フィルムからは剥離しない。
【0123】
粘着剤層は、感圧型接着剤(Pressure Sensitive Adhesive、PSA)と呼ばれる押圧により対象物に貼着される構成としてもよい。
【0124】
感圧型接着剤としては、公知の感圧型接着剤を用いることができ、「常温で粘着性を有し、軽い圧力で被着材に接着する物質」(JIS K 6800)である粘着剤を用いてもよく、「特定成分を保護被膜(マイクロカプセル)に内容し、適当な手段(圧力、熱など)によって被膜を破壊するまでは安定性を保持できる接着剤」(JIS K 6800)であるカプセル型接着剤を用いてもよい。
【0125】
粘着剤層は、構成する樹脂組成物に重合性官能基が残存しており、ガスバリア性フィルムを他の部材に密着させた後に粘着剤層を構成する樹脂組成物を更に重合させることにより、強固な接着を実現する構成としてもよい。
【0126】
また、粘着剤層は、熱硬化性樹脂組成物や光硬化性樹脂組成物を材料として用い、事後的にエネルギーを供給することで樹脂を高分子化し硬化させる構成としてもよい。
【0127】
粘着剤層の厚みとしては、100μm以下とすることができる。また、粘着剤層の厚みが10μm未満となると、耐衝撃性の低下や、皺が発生しやすくなることが想定されるため、10μm以上であると好ましい。
【0128】
粘着剤層は、1層で構成されていてもよく、いわゆる両面テープのように基材となるフィルムの両面に接着層が設けられることにより、両面で接着可能な積層構造を有してもよい。
【0129】
(剥離性フィルム1)
剥離性フィルム1は、本発明の積層体のガスバリア性フィルム側の最外層に剥離可能に貼着されている。剥離性フィルム1は、積層体を保存、運搬等する際にガスバリア性フィルムやその他の層を保護する保護フィルムとしての役割や、積層体に支持性を付与する役割を有する。
【0130】
剥離性フィルム1は、積層体の表面の保護性を高めやすい観点から、プラスチックフィルムであることが好ましく、例えば、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、アクリル樹脂、ポリカーボネート(PC)等の樹脂を樹脂成分として含有する樹脂フィルムであってよい。これらの樹脂は単独で又は2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0131】
剥離性フィルム1は、積層体の表面に静電引力等により貼り合わされていてもよいし、粘着剤を介して積層体の表面に貼り合わされていてもよい。
【0132】
保護フィルムの粘着剤は、例えばアクリル系樹脂、ゴム系樹脂、エチレン酢酸ビニル共重合体系樹脂、ポリエステル系樹脂、アセテート系樹脂、ポリエーテルサルホン系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリイミド系樹脂、ポリオレフィン系樹脂などを粘着剤として含有することが好ましい。また、保護フィルムの粘着剤は、粘着剤の他の成分、例えば帯電防止剤、着色剤、紫外線吸収剤などを含んでいてもよい。
【0133】
剥離性フィルム1は、例えば製造過程や流通過程等においてガスバリア性フィルムの表面に剥離性フィルム1が貼り合わされた状態を維持するのに十分な粘着性と、積層体の表面から剥離性フィルム1を除去しやすい剥離性とを兼ね備えることが求められる。樹脂積層体の表面に剥離性フィルム1が貼り合わされた状態を維持しやすい観点から、剥離性フィルム1とガスバリア性フィルムとの間の剥離強度F1は、好ましくは0.1N/cm以上、より好ましくは0.1N/cmを超え、さらに好ましくは0.15N/cm以上、よりさらに好ましくは0.2N/cm以上の剥離強度である。また、剥離性フィルム1はガスバリア性フィルムの表面から剥離する際に粘着剤層の剥離を防止する観点から、剥離性フィルム1とガスバリア性フィルムとの間の剥離強度F1は、好ましくは1.0N/cm以下、より好ましくは0.7N/cm以下、さらに好ましくは0.5N/cm以下である。剥離性フィルム1とガスバリア性フィルムとの間の剥離強度測定は、JIS K 6854-2に準拠して実施した。
【0134】
剥離性フィルム1は、積層体の表面の保護性を高めやすい観点から、好ましくは100MPa以上、より好ましくは150MPa以上、さらにより好ましくは200MPa以上の引張弾性率を有する。また、剥離性フィルム1の引張弾性率は、貼合の容易性の観点から、好ましくは5,000MPa以下、より好ましくは4,500MPa以下、さらにより好ましくは4,200MPa以下である。剥離性フィルムの引張弾性率は、インストロン社製電気機械式万能試験機を用い、JIS K 7127に準じて、試験速度5mm/min、ロードセル5kNを用いて引張試験を行うことにより測定することができる。
【0135】
剥離性フィルム1の膜厚の平均値は、積層体の表面の保護性を高めやすい観点から、好ましくは10μm以上、より好ましくは20μm以上、さらに好ましくは30μm以上である。また、剥離性フィルム1の膜厚の平均値は、貼合の容易性の観点から、好ましくは100μm以下、より好ましくは80μm以下、さらに好ましくは60μm以下である。
剥離性フィルム1の膜厚の平均値は、デジタルマイクロメーターにより測定され、任意の10点における測定値の平均値を膜厚の平均値とする。
【0136】
(剥離性フィルム2)
剥離性フィルム2は、本発明の積層体の粘着剤層の表面に剥離可能に貼着されている。
剥離性フィルム2は、積層体を保存、運搬等する際に粘着剤層やその他の層を保護する保護フィルムとしての役割や、積層体に支持性を付与する役割を有する。剥離性フィルム2は、表示装置の製造工程等において、積層体の粘着剤層の表面から剥がされ、積層体が粘着剤層を介して表示装置に貼合され、表示装置の構成部品として組み込まれる。
【0137】
剥離性フィルム2は、紙やプラスチックフィルム等であってよい。剥離性を高めるためにその表面に剥離剤が塗布されたものであってもよい。
剥離性フィルム2は、粘着剤層の表面の保護性を高めやすい観点から、プラスチックフィルムであることが好ましく、例えば、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、アクリル樹脂、ポリカーボネート(PC)等の樹脂を樹脂成分として含有する樹脂フィルムであってよい。これらの樹脂は単独で又は2種以上を組み合わせ用いてもよい。
【0138】
剥離性フィルム2は、例えば製造過程や流通過程等において粘着剤層の表面に剥離性フィルム2が貼り合わされた状態を維持するのに十分な粘着性と、粘着剤層の表面から剥離性フィルム2を除去しやすい剥離性とを兼ね備えることが求められる。粘着剤層の表面に剥離性フィルム2が貼り合わされた状態を維持しやすい観点から、剥離性フィルム2と粘着剤層との間の剥離強度F2は、好ましくは0.05N/cm以上、より好ましくは0.0.7N/cm以上、さらに好ましくは0.1N/cm以上の剥離強度である。また、剥離性フィルム2は粘着剤層の表面からの剥離が容易であることが好ましい観点から、剥離性フィルム2と粘着剤層との間の剥離強度F2は、好ましくは0.5N/cm以下、より好ましくは0.4N/cm以下、さらに好ましくは0.3N/cm以下である。剥離強度F2は、表示装置との貼合わせ工程において剥離性フィルム2を剥離した際に剥離性フィルム1が剥離することがないようにするために剥離強度F1より低くすることが好ましい。剥離性フィルム2と粘着剤層との間の剥離強度測定は、JIS K 6854-2に準拠して実施した。
【0139】
剥離性フィルム2は、積層体の表面の保護性を高めやすい観点から、好ましくは100MPa以上、より好ましくは150MPa以上、さらにより好ましくは200MPa以上の引張弾性率を有する。また、剥離性フィルム2の引張弾性率は、貼合の容易性の観点から、好ましくは5,000MPa以下、より好ましくは4,500MPa以下、さらにより好ましくは4,000MPa以下である。剥離性フィルムの引張弾性率は、インストロン社製電気機械式万能試験機を用い、JIS K 7127に準じて、試験速度5mm/min、ロードセル5kNを用いて引張試験を行うことにより測定することができる。
【0140】
剥離性フィルム2の膜厚の平均値は、積層体の表面の保護性を高めやすい観点から、好ましくは10μm以上、より好ましくは20μm以上、さらに好ましくは30μm以上である。また、剥離性フィルム2の膜厚の平均値は、貼合の容易性の観点から、好ましくは100μm以下、より好ましくは80μm以下、さらに好ましくは60μm以下である。
剥離性フィルム2の膜厚の平均値は、デジタルマイクロメーターにより測定され、任意の10点における測定値の平均値を膜厚の平均値とする。
【0141】
(積層体)
本発明の積層体は、式(1)及び式(2)を満たす。
F1≧F2 (1)
(式(1)中、F1は剥離性フィルム1とガスバリア性フィルムとの間の剥離強度を表し、F2は剥離性フィルム2と粘着剤層との間の剥離強度を表す。)
G1/G2≧0.4 (2)
(式(2)中、G1は剥離性フィルム1の剛性を表し、G2は剥離性フィルム2の剛性を表す。)
ここで、剥離性フィルムの剛性は、式(a)で表される。
G∝E×T3 (a)
(式(a)中、Eは剥離性フィルムの弾性率(MD方向)を表し、Tは剥離性フィルムの厚みを表す。)
また、式(1)においてF1とF2とが等しく、かつ式(2)においてG1とG2とが等しい場合、式(3)を満たす。
T1>T2 (3)
(式(3)中、T1は剥離性フィルム1の厚みを表し、T2は剥離性フィルム2の厚みを表す。)
本発明の積層体は、式(1)及び式(2)、必要な場合には式(3)を満たすことにより、表示装置等との貼合わせ工程において、剥離強度F2を剥離強度F1より低くすることにより、表示装置等に貼り合わせる際に生じる不具合、例えばガスバリア性フィルムと剥離性フィルム1との間に気泡や、ガスバリア性フィルムにクラックを生じさせることなく高い歩留まりを達成することができる。式(1)において、F1=F2の場合には、ガスバリア性フィルムと粘着剤層との間には、通常、剥離は生じない。
G1/G2は、好ましくは0.6以上、より好ましくは0.7以上、さらに好ましくは0.8以上、特に好ましくは0.9以上である。G1/G2は、好ましくは4.5以下、より好ましくは4.0以下、さらに好ましくは3.5以下、特に好ましくは3.0以下である。
【0142】
本発明の積層体は、ロール状に巻き取られた形態であっても、所定の寸法に断裁されたシート状の形態であってもよい。
【0143】
本発明の積層体は、表示装置との貼合工程において、剥離性フィルム2を剥離し、粘着剤層を露出させ、粘着剤層を介して表示装置と貼り合わせることができる。
【0144】
図1に、本発明の樹脂積層体の一形態を模式的断面図で示す。この積層体(10)は、有機層A(2)を有する可撓性基材(1)上に無機薄膜層(3)が形成されたガスバリア性フィルム(4)に粘着剤層(5)が積層され、無機薄膜層(3)とは反対面に剥離性フィルム1(6)が貼着され、粘着剤層(5)上に剥離性フィルム2(7)が貼着されている。なお、
図1は、本発明の積層体の一例であり、本発明の積層体はこの構成に限られるものではない。本発明の積層体の層構成の例としては、剥離性フィルム2/粘着剤層/無機薄膜層/有機層A/可撓性基材/剥離性フィルム1の層構成、剥離性フィルム2/粘着剤層/無機薄膜層/可撓性基材/有機層A/剥離性フィルム1の層構成、剥離性フィルム2/粘着剤層/有機層A/可撓性基材/無機薄膜層/剥離性フィルム1の層構成、剥離性フィルム2/粘着剤層/可撓性基材/有機層A/無機薄膜層/剥離性フィルム1の層構成、剥離性フィルム2/粘着剤層/無機薄膜層/有機層A/可撓性基材/有機層A/剥離性フィルム1の層構成、剥離性フィルム2/粘着剤層/有機層B/無機薄膜層/有機層A/可撓性基材/有機層A/剥離性フィルム1の層構成等であってもよい。
【0145】
(積層体の製造方法)
本発明の積層体は、公知の製造方法により製造することができる。製造方法の例としては、剥離性フィルム1を有するガスバリア性フィルムと剥離性フィルム2を有する粘着剤層とを貼合わせる方法や、ガスバリア性フィルムと、剥離性フィルム2を有する粘着剤層とを貼り合わせ、次いで剥離性フィルム1をガスバリア性フィルム上に貼着する方法、剥離性フィルム1を有するガスバリア性フィルム上に粘着剤層を形成し、次いで粘着剤層に剥離性フィルム2を貼着させる方法、ガスバリア性フィルム上に粘着剤層を形成し、次いで剥離性フィルム1と剥離性フィルム2とを貼着する方法等が挙げられる。
【0146】
本発明では、剥離性フィルム1を有するガスバリア性フィルムと剥離性フィルム2を有する粘着剤層とを貼合わせる方法、ガスバリア性フィルムと、剥離性フィルム2を有する粘着剤層とを貼り合わせ、次いで剥離性フィルム1をガスバリア性フィルム上に貼着する方法及び剥離性フィルム1を有するガスバリア性フィルム上に粘着剤層を形成し、次いで粘着剤層に剥離性フィルム2を貼着させる方法が好ましい。
【0147】
剥離性フィルム1を有するガスバリア性フィルムは、粘着剤層と貼り合わせる前に、剥離性フィルム1に加えて、剥離性フィルム1とは異なった他の剥離性フィルム(以下、他の剥離性フィルムともいう)を更に有していてもよい。他の剥離性フィルムは、ガスバリア性フィルムと粘着剤層とを貼り合わせる前に剥離することにより、露出したガスバリア性フィルムの表面と粘着剤層とを貼り合わせることができる。
【0148】
他の剥離性フィルムとガスバリア性フィルムとは粘着剤を介して貼着されていてもよい。剥離性フィルム1を有するガスバリア性フィルムに用い得る他の剥離性フィルム及び粘着剤としては、剥離性フィルム1について上で例示したものを用いることができる。
【0149】
剥離性フィルム1を有するガスバリア性フィルムが他の剥離性フィルムを有する場合、他の剥離性フィルムとガスバリア性フィルムとの間の剥離強度F1’は、剥離性フィルム1とガスバリア性フィルムとの間の剥離強度F1より小さいことが好ましい。F1’がF1より小さいことにより、他の剥離性フィルムをガスバリア性フィルムから剥離する際に、剥離性フィルム1が剥がれたり、気泡が生じたり、ガスバリア性フィルムの破断が生じたりすることを抑制することができる。
【0150】
剥離性フィルム2を有する粘着剤層は、ガスバリア性フィルムと貼り合わせる前に、剥離性フィルム2に加えて、剥離性フィルム2とは異なった他の剥離性フィルムを更に有していてもよい。他の剥離性フィルムは、ガスバリア性フィルムと粘着剤層とを貼り合わせる前に剥離することにより、露出した粘着剤層の表面とガスバリア性フィルムとを貼り合わせることができる。
【0151】
剥離性フィルム2を有する粘着剤層に用い得る他の剥離性フィルムは、剥離性フィルム2について上で例示したものを用いることができる。
【0152】
剥離性フィルム2を有する粘着剤層が他の剥離性フィルムを有する場合、他の剥離性フィルムと粘着剤層との間の剥離強度F2’は、剥離性フィルム2と粘着剤層との間の剥離強度F2より小さいことが好ましい。F2’がF2より小さいことにより、他の剥離性フィルムを粘着剤層から剥離する際に、剥離性フィルム2が剥がれたり、気泡が生じたりすることを抑制することができる。
【0153】
剥離性フィルム1及び2はそれぞれ、所望の剥離強度が得られるように公知の剥離処理が施されていてもよい。剥離処理を施す方法としては、例えば剥離剤を剥離性フィルムの表面に塗布する方法等が挙げられる。
【0154】
ガスバリア性フィルムと粘着剤層との貼り合わせは、ロール状に巻き取られたガスバリア性フィルムとロール状に巻き取られた粘着剤層とをそれぞれ巻き出しながら貼り合わせた後、ロール状に巻き取るロールツーロール形式で行うこともできるし、貼り合わせた後、ロール状に巻き取らずに所望の寸法に断裁することもできる。
【0155】
また、ロール状に巻き取られたガスバリア性フィルムを巻き出した後、その表面に粘着剤層を形成する粘着剤をコーティングし、剥離性フィルム2を貼り合わせた後、ロールツーロール形式でロール状に巻き取ることもできるし、又は所望の寸法に断裁することもできる。
【0156】
(積層体を有するデバイス)
本発明は、本発明の積層体を有するデバイス、例えばフレキシブル電子デバイスも提供する。本発明の積層体は、液晶表示素子、太陽電池及び有機ELディスプレイ等のフレキシブル電子デバイス(例えばフレキシブルディスプレイ)のフレキシブル基板としても用いることができる。
【0157】
以下、具体的実施例により、本発明についてさらに詳しく説明する。
【実施例】
【0158】
<無機薄膜層の膜厚>
可撓性基材上に無機薄膜層を形成し、(株)小坂研究所製サーフコーダET200を用いて、無成膜部と成膜部の段差測定を行い、無機薄膜層の膜厚(T)を求めた。
【0159】
<無機薄膜層表面のX線光電子分光測定>
ガスバリア性フィルムの無機薄膜層表面の原子数比は、X線光電子分光法(ULVAC PHI社製、QuanteraSXM)によって測定した。X線源としてはAlKα線(1486.6eV、X線スポット100μm)を用い、また、測定時の帯電補正のために、中和電子銃(1eV)、低速Arイオン銃(10V)を使用した。測定後の解析は、MultiPak V6.1A(アルバックファイ社)を用いてスペクトル解析を行い、測定したワイドスキャンスペクトルから得られるSiの2p、Oの1s、Nの1s、およびCの1sそれぞれのバインディングエネルギーに相当するピークを用いて、Siに対するCの表面原子数比を算出した。表面原子数比としては、5回測定した値の平均値を採用した。
【0160】
<無機薄膜層表面の赤外分光測定(ATR法)>
積層フィルムの無機薄膜層表面の赤外分光測定は、プリズムにゲルマニウム結晶を用いたATRアタッチメント(PIKE MIRacle)を備えたフーリエ変換型赤外分光光度計(日本分光(株)製、FT/IR-460Plus)によって測定した。なお、可とう性基材として環状シクロオレフィンフィルム(日本ゼオン(株)製、ゼオノア(登録商標) ZF16)を基材として用い、前記基材上に無機薄膜層を形成することで赤外分光測定用の積層フィルムを得た。
【0161】
<積層フィルムの光学特性>
積層フィルムの全光線透過率は、スガ試験機(株)製の直読ヘーズコンピュータ(型式HGM-2DP)によって測定した。サンプルがない状態でバックグランド測定を行った後、積層フィルムをサンプルホルダーにセットして測定を行い、全光線透過率を求めた。
【0162】
<積層フィルムのガスバリア性>
積層フィルムのガスバリア性は、温度40℃、湿度90%RHの条件において、ISO/WD 15106-7(Annex C)に準拠してCa腐食試験法によって測定し、積層フィルムの水蒸気透過度を求めた。
【0163】
<剥離強度>
剥離強度測定を、JIS Z 0237:2000に準拠して実施した。剥離性シートと被着体を、気泡が入らないようにして貼りつけて、剥離シート/被着体の積層体を得た。この積層体を、温度23℃、湿度50%RHの環境下で24hr静置した。その後、被着体を20mm幅に裁断し、SUS板に接着剤で面固定して引張試験機の下側に固定し、剥離シートを90度折り曲げて、引張試験機の上側のチャックに固定し、温度23℃、湿度50%RHの環境下にて、引張速度0.3m/minで剥離して剥離強度を測定した。
【0164】
<厚み>
剥離性フィルムの厚みは、デジタルマイクロメーターにより任意の10点における測定値の平均値とした。
【0165】
<引張弾性率>
インストロン社製電気機械式万能試験機を用い、JIS K 7127に準じて、試験速度5mm/min、ロードセル5kNを用いて引張試験を行うことにより測定した。
【0166】
〔製造例1〕
図2に示す製造装置を用いてガスバリア性フィルムを製造した。すなわち、樹脂フィルム基材を送り出しロ-ル11に装着した。そして、成膜ロール31と成膜ロール32との間に磁場を印加すると共に、成膜ロール31と成膜ロール32にそれぞれ電力を供給して、成膜ロール31と成膜ロール32との間に放電してプラズマを発生させ、このような放電領域に、成膜ガス(原料ガスとしてのヘキサメチルジシロキサン(HMDSO)と反応ガスとしての酸素ガス(放電ガスとしても機能する)の混合ガス)を供給して、下記条件にてプラズマCVD法による無機薄膜形成を行い、ガスバリア性フィルムを得た。
〈成膜条件〉
原料ガスの供給量:50sccm(Standard Cubic Centimeter per Minute)
酸素ガスの供給量:500sccm
真空チャンバー内の真空度:1Pa
プラズマ発生用電源からの印加電力:0.4kW
プラズマ発生用電源の周波数:70kHz
フィルムの搬送速度:0.6m/min
パス回数:6回
【0167】
得られたガスバリア性フィルムの無機薄膜層について、前記条件にて赤外分光測定を行った。得られた赤外吸収スペクトルから、950~1050cm-1に存在するピーク強度(I1)と、1240~1290cm-1に存在するピーク強度(I2)との吸収強度比(I2/I1)を求めると、I2/I1=0.03であった。また、950~1050cm-1に存在するピーク強度(I1)と、770~830cm-1に存在するピーク強度(I3)との吸収強度比(I3/I1)を求めると、I3/I1=0.36であった。
また、770~830cm-1に存在するピーク強度(I3)と、870~910cm-1に存在するピーク強度(I4)との吸収強度比(I4/I3)を求めると、I4/I3=0.84であった。
【0168】
なお、赤外吸収スペクトルは、後述のUV-O3処理や大気圧プラズマ処理を施しても変化なく、前記の吸収強度比を示した。得られた積層フィルム1は、無機薄膜層の膜厚方向における90%以上の領域において、原子数比が大きい方から酸素、珪素及び炭素の順となっており、また膜厚方向の炭素分布曲線の極値を10以上有し、さらに炭素分布曲線における炭素の原子数比の最大値及び最小値の差の絶対値が0.15以上であった。
【0169】
得られたガスバリア性フィルムにおける無機薄膜層のXPSデプスプロファイル測定結果を
図3に示す。また、XPSデプスプロファイル測定を行い、得られた珪素原子、酸素原子及び炭素原子の分布曲線から、それぞれの原子の厚み方向における平均原子濃度を求めた後、平均原子数比C/Si及びO/Siを算出した結果、平均原子数比C/Si=0.30、O/Si=1.73であった。
【0170】
得られたガスバリア性フィルムにおける無機薄膜層の厚みは0.7μmであった。また、得られたガスバリア性フィルムにおいて、温度40℃、湿度90%RHの条件における水蒸気透過度は5.0×10-5g/(m2・day)であった。
【0171】
[無機薄膜層の製造例2]
電極ロール間に供給する交流電力を0.6kWとし、真空チャンバー内の圧力を3Paになるように排気量を調節し、パス回数を2回としたこと以外は、製造例1と同様にして、基材層上に無機薄膜層を形成した。
【0172】
〔剥離工程〕
積層体を剥離性フィルム1面が吸着板面となる様に吸引固定した。固定された積層体の隅部において剥離性フィルム2と粘着剤層との界面にナイフ位置を調整後、差し入れ剥離開始部を作製した。続いて、剥離装置を用いて剥離開始部から対角に位置する隅部に向けて剥離性フィルム2の剥離を行った。剥離工程において剥離性フィルム1と基材界面で剥離が生じたり、剥離中に剥離性フィルム1と基材間に気泡が入ったり、ガスバリア性フィルムにクラックが生じた場合を工程不良としてカウントした。
【0173】
実施例1
可撓性基材であるシクロオレフィンポリマーフィルム(COPフィルム、厚み:50μm、幅:350mm、日本ゼオン(株)製、商品名「ゼオノア(登録商標)フィルム、ZF-16」)の片面にコロナ処理を施した後、コーティング剤1(トーヨーケム(株)製、リオデュラスTYAB500LC3NS、粒子入り)をグラビアコーティング法にて塗布し、100℃で3分乾燥させた後、高圧水銀ランプを用いて、積算光量500mJ/cm2の条件で紫外線照射し、厚み1.5μmの有機層A1(易滑層)を積層させた。次いで、COPフィルムのもう一方の面にコロナ処理を施した後、コーティング剤2(東亜合成(株)製、アロニックス(登録商標) UV3701)をグラビアコーティング法にて塗布し、100℃で3分乾燥させた後、高圧水銀ランプを用いて、積算光量500mJ/cm2の条件で紫外線照射し、厚み1.8μmの有機層A2(平坦化層)を積層させて、基材層となる積層フィルムを得た。このようにして得た積層フィルムの有機層A2側の表面に、製造例1の条件で、無機薄膜層2を積層させ、さらに有機層A1側の表面に、製造例2の条件で、無機薄膜層1を積層させ、ガスバリア性フィルムを製造した。次いで、ガスバリア性フィルムの無機薄膜層2の表面に、粘着剤層として透明両面粘着テープ1(リンテック(株)製、TL-430S-6、30μm厚)を貼合した。続いて、剥離性フィルム2として、PETフィルム(東洋紡(株)製、E5100、厚み:38μm)に粘着層との剥離強度が0.2N/20mmとなるように離形処理を行い、離形処理した面を粘着剤層に貼合した。さらに、無機薄膜層1の表面に剥離性フィルム1として保護フィルム1((株)サンエー化研製、SAT106T-JSL、PET38μm)を貼合した。剥離強度F1及びF2、基材の厚み及び基材の引張弾性率(MD方向)を測定した結果を表1に示す。得られた積層体を用いて剥離工程を実施したところ、工程不良を生じずに得られた製品の割合(歩留り)は95%であった。
【0174】
実施例2
保護フィルム1に代えて、無機薄膜層1との剥離力が0.4N/20mmとなるように調整したアクリル系粘着層をPETフィルム(東洋紡(株)製、E5100、厚み:50μm)上に形成した保護フィルム2を用いたこと以外は、実施例1と同様にして積層体を製造した。剥離強度F1及びF2、基材の厚み及び基材の引張弾性率(MD方向)を測定した結果を表1に示す。得られた積層体を用いて剥離工程を実施したところ、工程不良を生じずに得られた製品の割合(歩留り)は100%であった。
【0175】
実施例3
保護フィルム1に代えて保護フィルム3((株)サンエー化研製、NSA-35H、PET50μm)を用いたこと以外は、実施例1と同様にして積層体を製造した。剥離強度F1及びF2、基材の厚み及び基材の引張弾性率(MD方向)を測定した結果を表1に示す。得られた積層体を用いて剥離工程を実施したところ、工程不良を生じずに得られた製品の割合(歩留り)は90%であった。
【0176】
比較例1
剥離性フィルム2として、粘着層との剥離力が0.2N/20mmとなるように離型処理したPETフィルム(東洋紡(株)製、E5100、厚み:100μm)を粘着剤層に貼合したこと以外は、実施例1と同様にして積層体を製造した。剥離強度F1及びF2、基材の厚み及び基材の引張弾性率(MD方向)を測定した結果を表1に示す。得られた積層体を用いて剥離工程を実施したところ、工程不良を生じずに得られた製品の割合(歩留り)は30%であった。
【0177】
比較例2
保護フィルム1に代えて保護フィルム4((株)サンエー化研製、NSA-33T、PET38μm)を用い、及び剥離性フィルム2として、粘着層との剥離力が0.4N/20mmとなるように離型処理したPETフィルム(東洋紡(株)製、E5100、厚み:38μm)を粘着剤層に貼合したこと以外は、実施例1と同様にして積層体を製造した。剥離強度F1及びF2、基材の厚み及び基材の引張弾性率(MD方向)を測定した結果を表1に示す。得られた積層体を用いて剥離工程を実施したところ、工程不良を生じずに得られた製品の割合(歩留り)は0%であった。
【0178】
比較例3
保護フィルム1に代えて無機薄膜層1との剥離力が0.1N/20mmとなるように調整したアクリル系粘着層をPETフィルム(東洋紡(株)製、E5100、厚み:38μm)上に形成した保護フィルム5を用いたこと以外は、実施例1と同様にして積層体を製造した。剥離強度F1及びF2、基材の厚み及び基材の引張弾性率(MD方向)を測定した結果を表1に示す。得られた積層体を用いて剥離工程を実施したところ、工程不良を生じずに得られた製品の割合(歩留り)は0%であった。
【0179】
比較例4
保護フィルム1に代えて保護フィルム6(東レフィルム加工(株)製、7332、PE、50μm)を用い、及び剥離性フィルム2として、粘着層との剥離力が0.4N/20mmとなるように離型処理したPETフィルム(東洋紡(株)製、E5100、厚み:38μm)を粘着剤層に貼合したこと以外は、実施例1と同様にして積層体を製造した。剥離強度F1及びF2、基材の厚み及び基材の引張弾性率(MD方向)を測定した結果を表1に示す。得られた積層体を用いて剥離工程を実施したところ、工程不良を生じずに得られた製品の割合(歩留り)は0%であった。
【0180】
【0181】
表1に示す通り、実施例1~3に示す本発明の積層体は、剥離性フィルム1とガスバリア性フィルムとの間の剥離強度F1が剥離性フィルム2と粘着剤層との間の剥離強度F2以上であり、かつ剥離性フィルム1の剛性G1が剥離性フィルム2の剛性G2以上であることにより、剥離工程においてガスバリア性フィルムと剥離性フィルム1との間に気泡や、ガスバリア性フィルムにクラックが生じるといった工程不良が抑制され、製品の歩留まりが高いことが確認された。したがって、本発明の積層体は、表示装置等において好適に使用されることが理解される。
【符号の説明】
【0182】
1 可撓性基材
2 有機層A
3 無機薄膜層
4 ガスバリア性フィルム
5 粘着剤層
6 剥離性フィルム1
7 剥離性フィルム2
10 積層体
11 送り出しロール
21、22、23、24 搬送ロール
31、32 成膜ロール
41 ガス供給管
51 プラズマ発生用電源
61、62 磁場発生装置
71 巻取りロール
100 フィルム