(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2021-12-23
(45)【発行日】2022-02-10
(54)【発明の名称】半導体レーザ素子、チップオンサブマウント、および半導体レーザモジュール
(51)【国際特許分類】
H01S 5/22 20060101AFI20220203BHJP
【FI】
H01S5/22
(21)【出願番号】P 2017561185
(86)(22)【出願日】2017-01-13
(86)【国際出願番号】 JP2017001023
(87)【国際公開番号】W WO2017122782
(87)【国際公開日】2017-07-20
【審査請求日】2019-09-24
(32)【優先日】2016-01-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】000005290
【氏名又は名称】古河電気工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】特許業務法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】鍛治 栄作
(72)【発明者】
【氏名】大木 泰
【審査官】林 祥恵
(56)【参考文献】
【文献】特開2003-031906(JP,A)
【文献】特開2011-077471(JP,A)
【文献】実開昭61-051770(JP,U)
【文献】特開2003-101139(JP,A)
【文献】特開2011-151238(JP,A)
【文献】特開2008-021905(JP,A)
【文献】特開2016-122705(JP,A)
【文献】特開2009-164389(JP,A)
【文献】特開2009-021506(JP,A)
【文献】特表2015-502051(JP,A)
【文献】国際公開第95/013639(WO,A1)
【文献】特開平01-273378(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01S 5/00-5/50
JSTPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
導波路における導波モードがマルチモードである端面発光型の半導体レーザ素子において、
出射方向前側の前記導波路の端面の水平方向の幅と出射方向後側の前記導波路の端面の水平方向の幅とが実質的に同じ第1の幅であり、
前記出射方向前側の前記導波路で幅が一定である領域の長さは、前記導波路の全長の80%以下であって、前記出射方向前側を切断する際の加工精度以上であり、
前記出射方向後側の前記導波路で幅が一定である領域の長さは、5μm以上であって、前記出射方向後側を劈開する際の加工精度以上であり、
前記出射方向前側の端面における前記導波路の幅と、前記出射方向後側の端面における前記導波路の幅とが実質的に同じであり、
前記出射方向前側の端面と前記出射方向後側の端面との間の少なくとも一部で、前記導波路の幅が前記第1の幅よりも狭くなっている、
ことを特徴とする半導体レーザ素子。
【請求項2】
前記出射方向前側の端面と前記出射方向後側の端面との間の導波路で最も狭い幅は、30μm以上75μm以下であることを特徴とする請求項
1に記載の半導体レーザ素子。
【請求項3】
前記導波路に電流を注入するための電流注入領域は、前記導波路より上面方向で前記導波路の幅方向の両端より内側に設けられ、出射方向前側の端面と出射方向後側の端面との間の少なくとも一部で、水平方向の幅が前記出射方向前側の端面における前記電流注入領域の水平方向の幅よりも狭くなっている、
ことを特徴とする請求項1
または請求項
2に記載の半導体レーザ素子。
【請求項4】
導波路における導波モードがマルチモードである端面発光型の半導体レーザ素子において、
出射方向前側の端面と出射方向後側の端面との間の少なくとも一部で、前記導波路に電流を注入するための電流注入領域は、前記導波路より上面方向で前記導波路の幅方向の両端より内側に設けられ、水平方向の幅がその他領域における電流注入領域の水平方向の幅よりも狭くなって
おり、
前記出射方向前側の前記導波路で幅が一定である領域の長さは、前記導波路の全長の80%以下であって、前記出射方向前側を切断する際の加工精度以上であり、
前記出射方向後側の前記導波路で幅が一定である領域の長さは、5μm以上であって、前記出射方向後側を劈開する際の加工精度以上であり、
前記出射方向前側の端面における前記導波路の幅と、前記出射方向後側の端面における前記導波路の幅とが実質的に同じである、
ことを特徴とする半導体レーザ素子。
【請求項5】
前記出射方向前側の端面または前記出射方向後側の端面の近傍に、前記電流注入領域が形成されていない電流非注入領域が設けられていることを特徴とする請求項
3または請求項
4に記載の半導体レーザ素子。
【請求項6】
導波路における導波モードがマルチモードである端面発光型の半導体レーザ素子において、
前記導波路に電流を注入するための電流注入領域は、前記導波路より上面方向で前記導波路の幅方向の両端より内側に設けられ、
前記導波路の水平方向の幅から前記導波路に電流を注入するための電流注入領域の水平方向の幅を引いたものを2で除した値をカバレッジ幅としたときに、
出射方向前側の端面と出射方向後側の端面との間の少なくとも一部で、前記カバレッジ幅が5μmより広い、
ことを特徴とする半導体レーザ素子。
【請求項7】
前記カバレッジ幅が23μm以下である、ことを特徴とする請求項
6に記載の半導体レーザ素子。
【請求項8】
前記カバレッジ幅が15μm以下である、ことを特徴とする請求項
6に記載の半導体レーザ素子。
【請求項9】
前記カバレッジ幅が前記導波路の幅の15.3%以下である、ことを特徴とする請求項
6に記載の半導体レーザ素子。
【請求項10】
前記カバレッジ幅が前記導波路の幅の10%以下である、ことを特徴とする請求項
6に記載の半導体レーザ素子。
【請求項11】
請求項1から請求項1
0の何れか一項に記載の半導体レーザ素子と、
前記半導体レーザ素子への電力の供給経路であり、かつ、前記半導体レーザ素子から発生する熱を放熱する、前記半導体レーザ素子を固定するためのマウントと、
を備えることを特徴とするチップオンサブマウント。
【請求項12】
請求項1
1に記載のチップオンサブマウントに備えられた前記半導体レーザ素子から出射されたレーザ光を光ファイバに結合させる光学系を備えることを特徴とする半導体レーザモジュール。
【請求項13】
前記半導体レーザ素子から前記光ファイバまでの光路の途中に、前記半導体レーザ素子の発振波長を固定するための回折格子を備えることを特徴とする請求項1
2に記載の半導体レーザモジュール。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体レーザ素子、チップオンサブマウント、および半導体レーザモジュールに関する。
【背景技術】
【0002】
半導体レーザ素子は、光通信用途や産業加工用途などのレーザ光源として広く活用されている。光通信用途では、光ファイバを介してレーザ光を長距離(例えば数百キロメートル)伝搬させる必要があり、光信号の品質劣化を抑制するためにシングルモードのレーザ光が使用されることが一般的である。一方、産業加工用途では、光通信用途のレーザ光と比較すると高出力が必要とされるが、長距離を伝搬させる必要はないので、高出力に有利なマルチモードのレーザ光が使用されるのが一般的である。マルチモードのレーザ光を発振する端面発光型の半導体レーザ素子では、導波路の幅を広く構成し、導波路内で複数モードのレーザ光の発振を許容する構成が採用されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、マルチモードのレーザ光を発振する端面発光型の半導体レーザ素子では、端面から出射されるレーザ光の放射角を小さく抑えるという課題が存在する。
【0005】
マルチモードの半導体レーザの出射方向前側端面における導波路幅を広げると、前側端面における光密度が下がるので、端面故障低減の観点から好ましい。しかし、導波路幅を広げ過ぎると、マルチモードファイバへの光結合効率が低下してしまう。光結合効率を一定にするためには、導波路幅と放射角の積を一定にすることが求められる。つまり、より広い導波路幅を実現するためには、より狭い放射角が必要となる。ちなみにシングルモードの半導体レーザでは、シングルモード性を維持する導波路幅の制限があるので、信頼性向上が顕著となるほど、導波路幅を大きく拡大することは難しい。
【0006】
マルチモードの半導体レーザの光は、一般的に、マルチモードファイバに結合して利用される。後述するように、マルチモードファイバに対しては、複数のマルチモードの半導体レーザからの出射光をまとめて結合させることができる。マルチモードの半導体レーザの放射角が小さいと、より多数のマルチモードの半導体レーザからの出射光を結合させることができる。つまり1つのマルチモードファイバからの光出力が向上するので好ましい。
【0007】
この課題につき、例えば、導波路ストライプの外側にanti-waveguiding layerを設けることによって、高次のモードを抑制し、放射角を小さくする方法などの試みが知られている(例えば特許文献1参照)。
【0008】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであって、その目的は、導波モードがマルチモードの端面発光型の半導体レーザ素子において、端面から出射されるレーザ光の放射角を抑制することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本発明の一態様に係る半導体レーザ素子は、導波路における導波モードがマルチモードである端面発光型の半導体レーザ素子において、出射方向前側の前記導波路の端面の水平方向の幅と出射方向後側の前記導波路の端面の水平方向の幅とが実質的に同じ第1の幅であり、前記出射方向前側の端面と前記出射方向後側の端面との間の少なくとも一部で、前記導波路の幅が前記第1の幅よりも狭くなっている、ことを特徴とする。
【0010】
また、本発明の一態様に係る半導体レーザ素子は、前記出射方向前側における導波路領域の幅が一定である範囲の長さと前記出射方向前側の端面から前記出射方向後側の端面までの全長との比が、20%以上56%以下である、ことを特徴とする。
【0011】
また、本発明の一態様に係る半導体レーザ素子は、前記出射方向前側の端面と前記出射方向後側の端面との間の導波路で最も狭い幅は、30μm以上75μm以下であることを特徴とする。
【0012】
また、本発明の一態様に係る半導体レーザ素子は、前記導波路に電流を注入するための電流注入領域は、出射方向前側の端面と出射方向後側の端面との間の少なくとも一部で、水平方向の幅が前記出射方向前側の端面における前記電流注入領域の水平方向の幅よりも狭くなっている、ことを特徴とする。
【0013】
また、本発明の一態様に係る半導体レーザ素子は、導波路における導波モードがマルチモードである端面発光型の半導体レーザ素子において、出射方向前側の端面と出射方向後側の端面との間の少なくとも一部で、前記導波路に電流を注入するための電流注入領域の水平方向の幅がその他領域における電流注入領域の水平方向の幅よりも狭くなっている、ことを特徴とする。
【0014】
また、本発明の一態様に係る半導体レーザ素子は、前記出射方向前側の端面または前記出射方向後側の端面の近傍に、前記電流注入領域が形成されていない電流非注入領域が設けられていることを特徴とする。
【0015】
また、本発明の一態様に係る半導体レーザ素子は、導波路における導波モードがマルチモードである端面発光型の半導体レーザ素子において、前記導波路の水平方向の幅から前記導波路に電流を注入するための電流注入領域の水平方向の幅を引いたものを2で除した値をカバレッジ幅としたときに、出射方向前側の端面と出射方向後側の端面との間の少なくとも一部で、前記カバレッジ幅が5μmより広い、ことを特徴とする。
【0016】
また、本発明の一態様に係る半導体レーザ素子は、前記カバレッジ幅が23μm以下である、ことを特徴とする。
【0017】
また、本発明の一態様に係る半導体レーザ素子は、前記カバレッジ幅が15μm以下である、ことを特徴とする。
【0018】
また、本発明の一態様に係る半導体レーザ素子は、前記カバレッジ幅が前記導波路の幅の15.3%以下である、ことを特徴とする。
【0019】
また、本発明の一態様に係る半導体レーザ素子は、前記カバレッジ幅が前記導波路の幅の10%以下である、ことを特徴とする。
【0020】
また、本発明の一態様に係るチップオンサブマウントは、上記記載の半導体レーザ素子と、前記半導体レーザ素子への電力の供給経路であり、かつ、前記半導体レーザ素子から発生する熱を放熱する、前記半導体レーザ素子を固定するためのマウントと、を備えることを特徴とする。
【0021】
また、本発明の一態様に係る半導体レーザモジュールは、上記記載のチップオンサブマウントに備えられた前記半導体レーザ素子から出射されたレーザ光を光ファイバに結合させる光学系を備えることを特徴とする。
【0022】
また、本発明の一態様に係る半導体レーザモジュールは、前記半導体レーザ素子から前記光ファイバまでの光路の途中に、前記半導体レーザ素子の発振波長を固定するための回折格子を備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0023】
本発明に係る半導体レーザ素子、チップオンサブマウント、および半導体レーザモジュールは、半導体レーザ素子の端面から出射されるレーザ光の放射角を抑制することができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【
図1】
図1は、比較例に係る半導体レーザ素子の構成を概略的に示した上面図である。
【
図2】
図2は、比較例に係る半導体レーザ素子の構成を概略的に示したB線断面図である。
【
図3】
図3は、第1実施形態に係る半導体レーザ素子の構成を概略的に示した上面図である。
【
図4】
図4は、半導体ウエハから各半導体レーザ素子を切り出す工程の一部を模式的に示した図である。
【
図5】
図5は、半導体ウエハから各半導体レーザ素子を切り出す工程の一部の比較例を模式的に示した図である。
【
図6】
図6は、半導体ウエハから各半導体レーザ素子を切り出す工程の一部のもう一つの比較例を模式的に示した図である。
【
図7】
図7は、第2実施形態に係る半導体レーザ素子の構成を概略的に示した上面図である。
【
図8】
図8は、第3実施形態に係る半導体レーザ素子の構成を概略的に示した上面図である。
【
図9】
図9は、第4実施形態に係る半導体レーザ素子の構成を概略的に示した上面図である。
【
図10】
図10は、第5実施形態に係る半導体レーザ素子の構成を概略的に示した上面図である。
【
図11】
図11は、第6実施形態に係る半導体レーザ素子の構成を概略的に示した上面図である。
【
図12】
図12は、第7実施形態に係る半導体レーザモジュールの平面図である。
【
図13】
図13は、第7実施形態に係る半導体レーザモジュールの一部切欠側面図である。
【
図14】
図14は、長さLに対する長さL
b1の割合とFFPhとのグラフを示す図である。
【
図15】
図15は、幅W
nとFFPhの変化とのグラフを示す図である。
【
図16】
図16は、カバレッジ幅とFFPhの変化とのグラフを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、添付図面を参照しながら、本発明の実施形態に係る半導体レーザ素子および半導体レーザモジュールを詳細に説明する。なお、以下に説明する実施形態により本発明が限定されるものではない。また、図面は模式的なものであり、各要素の寸法の関係、各要素の比率などは、現実と異なる場合があることに留意する必要がある。図面の相互間においても、互いの寸法の関係や比率が異なる部分が含まれている場合がある。
【0026】
(比較例)
後に説明する本発明の実施形態の理解を容易ならしめるために、ここで比較例に係る半導体レーザ素子の構成を例示する。
図1は、比較例に係る半導体レーザ素子の構成を概略的に示した上面図であり、
図2は、比較例に係る半導体レーザ素子の構成を概略的に示したB線断面図である。
図1および
図2を参照しながら説明する半導体レーザ素子の一般的構成および用語の定義は、後に説明する本発明の実施形態に係る半導体レーザ素子においても断りなく利用するものとする。
【0027】
図1に示すように、比較例に係る半導体レーザ素子1は、出射方向前側端面S
fと出射方向後側端面S
bとを共振器とする端面発光型の半導体レーザ素子である。ここで、出射方向前側とは、図中Z軸の正方向であり、出射方向後側とは、図中Z軸の負方向である。また、上面方向とは、半導体レーザ素子1における半導体層の積層方向であり、図中Y軸方向であり、幅方向とは、出射方向に直交する水平方向であり、図中X軸方向をいう。
【0028】
図1に示すように、比較例に係る半導体レーザ素子1では、導波路領域R
1の上に電流注入領域R
2が形成されている。後に
図2を参照しながら説明するように、電流注入領域R
2は、電極が取り付けられ、導波路領域R
1に電流を注入するための領域である。ここで導波路領域R
1とは、後に
図2を参照しながら例示するような構造を有することにより、導波路層にレーザ光を閉じ込める作用を有する領域であり、機能的に定めることにする。なぜなら、
図2に例示するようなリッジ構造の導波路では、導波路層自体には境界が存在していない一方、例えば埋め込み型の導波路では、導波路層自体に境界が存在するというように、導波路構造の種類を超えて、導波路領域R
1を画一的に規定することは困難であるからである。
【0029】
図2に示すように、比較例に係る半導体レーザ素子1は、リッジ構造を有する半導体レーザ素子を例示している。説明のために具体的構成を例示すれば、比較例に係る半導体レーザ素子1は、例えば、上部電極5と、下面に形成された下部電極6と、n型のGaAsからなる基板7と、基板7上に形成された半導体積層部2と、パッシベーション膜15とを備えている。そして、半導体積層部2は、基板7上に順次形成された、n型バッファ層8、n型クラッド層9、n型ガイド層10、活性層11、p型ガイド層12、p型クラッド層13、p型コンタクト層14を含むものとする。
【0030】
n型バッファ層8は、GaAsからなり、基板7上に高品質のエピタキシャル層の積層構造を成長するための緩衝層である。n型クラッド層9とn型ガイド層10とは、積層方向に対する所望の光閉じ込め状態を実現するように、屈折率と厚さとが設定されたAlGaAsからなる。なお、n型ガイド層10のAl組成は、例えば15%以上40%未満である。また、n型クラッド層9は、n型ガイド層10よりも屈折率が小さくなっている。また、n型ガイド層10の厚さは、50nm以上、例えば1000nm程度であることが好ましい。n型クラッド層9の厚さは、1μm~3μm程度が好ましい。また、これらのn型半導体層は、n型ドーパントとして例えば珪素(Si)を含む。
【0031】
活性層11は、下部バリア層、量子井戸層、上部バリア層を備え、単一の量子井戸(SQW)構造を有する。下部バリア層および上部バリア層は、量子井戸層にキャリアを閉じ込める障壁の機能を有し、故意にドーピングをしない高純度のAlGaAsからなる。量子井戸層は、故意にドーピングをしない高純度のInGaAsからなる。量子井戸層のIn組成および膜厚、下部バリア層および上部バリア層の組成は、所望の発光中心波長(例えば900nm~1080nm)に応じて設定される。なお、活性層11の構造は、量子井戸層とその上下に形成されたバリア層の積層構造を所望の数だけ繰り返した多重量子井戸(MQW)構造でもよいし、単一量子井戸構造でもよい。また、上記では、故意にドーピングをしない高純度層での構成を説明したが、量子井戸層、下部バリア層および上部バリア層に故意にドナーやアクセプタが添加される場合もある。
【0032】
p型ガイド層12およびp型クラッド層13は、上述のn型クラッド層9およびn型ガイド層10と対になり、積層方向に対する所望の光閉じ込め状態を実現するように、屈折率と厚さとが設定されたAlGaAsからなる。p型ガイド層12のAl組成は、例えば15%以上40%未満である。p型クラッド層13は、p型ガイド層12よりも屈折率が小さくなっている。層中の光のフィールドをn型クラッド層9の方向にずらして導波路損失を小さくするために、p型クラッド層13のAl組成はn型クラッド層9に比べて若干大きめに設定される。そして、p型ガイド層12のAl組成は、p型クラッド層13のAl組成に比べて小さく設定される。また、p型ガイド層12の厚さは、50nm以上、例えば1000nm程度であることが好ましい。p型クラッド層13の厚さは、1μm~3μm程度が好ましい。また、これらのp型半導体層は、p型ドーパントとして炭素(C)を含む。p型ガイド層12のC濃度は、例えば0.1~1.0×1017cm-3に設定され、0.5~1.0×1017cm-3程度が好適である。p型クラッド層13のC濃度は、例えば1.0×1017cm-3以上に設定される。また、p型コンタクト層14は、ZnまたはCが高濃度にドーピングされたGaAsからなる。半導体レーザ素子1の光は、積層方向であるY軸方向には主にn型ガイド層10、活性層11、p型ガイド層12の領域に存在する。よってこれらの層を合わせて導波路層とも呼ぶことができる。
【0033】
パッシベーション膜15は、例えばSiNxからなる絶縁膜であり、開口部Aを有する。また、リッジ構造を有する比較例に係る半導体レーザ素子1では、開口部Aの直下のp型クラッド層13の少なくとも一部にX軸方向においてレーザ光を閉じ込めるためのリッジ構造が形成されている。
【0034】
ここで、リッジ構造を有するレーザ素子における導波路領域の水平方向の幅(図中では導波路幅と表記)とは、
図2に示されるように、開口部Aの直下に設けられたリッジ構造のX方向の幅であり、電流注入領域の水平方向の幅(図中では電流注入幅と表記)とは、開口部AのX方向の幅である。
【0035】
また、カバレッジ幅とは、導波路領域の水平方向の幅から電流注入領域の水平方向の幅を引いたものを2で除した値であり、計算式は以下の通りである。
カバレッジ幅=(導波路幅-電流注入幅)/2
なお、導波路の左右におけるカバレッジ幅は、必ずしも同じ幅である必要はないが、素子から出射されるレーザ光の放射角などの対称性を考慮すると、左右が同じカバレッジ幅となることが好ましい。
【0036】
以下、各実施形態においても、導波路領域の水平方向の幅および電流注入領域の水平方向の幅を同様に定義するものとする。また、本発明の実施はリッジ構造を有するレーザ素子に限定されるものではないが、以下に説明する各実施形態のレーザ素子は、断面構造の説明を省略するが、
図2に示した断面構造と同様の構造を有しているものとする。
【0037】
(第1実施形態)
図3は、第1実施形態に係る半導体レーザ素子の構成を概略的に示した上面図である。
図3に示すように、第1実施形態に係る半導体レーザ素子100は、導波路における導波モードがマルチモードである端面発光型の半導体レーザ素子である。また、第1実施形態に係る半導体レーザ素子100は、出射方向前側端面S
fにおける導波路領域R
1の幅と出射方向後側端面S
bにおける導波路領域R
1の幅とが実質的に同じ幅W
bであり、一方で、出射方向前側端面S
fと出射方向後側端面S
bとの間の少なくとも一部で、導波路領域R
1の幅W
nが幅W
bよりも狭くなっている。
【0038】
また、
図3に示すように、第1実施形態に係る半導体レーザ素子100は、電流注入領域R
2の両端に一定のマージンを設けるようにして、導波路領域R
1の上に電流注入領域R
2を形成しているので、結果的に、出射方向前側端面S
fと出射方向後側端面S
bとの間の少なくとも一部で、電流注入領域R
2の幅が出射方向前側端面S
fにおける電流注入領域R
2の幅よりも狭くなっている。
【0039】
ここで、第1実施形態に係る半導体レーザ素子100の形状についてさらに詳しく例示する。出射方向前側端面Sfと出射方向後側端面Sbとの間の距離(つまり全長)Lは、いわゆる共振器長であり、例えば800μm~6mmであることが好ましく、3mm~5mmであることがさらに好ましい。なお、半導体レーザ素子100の幅Wは、幅Wbと比較して十分に広く設定されていれば特に限定されるものではない。
【0040】
図3に示すように、第1実施形態に係る半導体レーザ素子100では、出射方向前側の導波路領域R
1に幅がW
bで一定(つまり平行)である部分が設けられている。この幅が一定である導波路領域R
1の長さL
b1は、全長Lの80%以下であることが好ましく、50%以下であることが更に好ましい。また、長さL
b1は、例えば5μm以上であることが好ましく、出射方向前側端面S
fを切断する際の加工精度以上とすることも可能である。長さL
b1が長いほど、幅が狭くなっている導波路領域R
1が一部にとどまっているので、導波路領域R
1に電流を注入する際の電圧の上昇を抑えることができ好適である。一方、長さL
b1が長すぎると、出射方向前側端面S
fから射出される際の放射角を抑制する効果が薄れてしまうからである。
【0041】
また、
図3に示すように、第1実施形態に係る半導体レーザ素子100では、出射方向後側の導波路領域R
1にも幅がW
bで一定(つまり平行)である部分が設けられている。この幅が一定である導波路領域R
1の長さL
b2は、全長Lの10%以下であることが好ましく、1%以下であることが更に好ましい。また、長さL
b2は、例えば5μm以上であることが好ましく、出射方向後側端面S
bを劈開する際の加工精度以上とすることも可能である。なお、長さL
b2は、長さL
b1よりも短いことが好ましい。
【0042】
幅Wbは、例えば20μm~400μmであることが好ましく、30μm~200μmであることが更に好ましい。具体的な値を例示するならば、幅Wbは100μmとすることが好ましい。半導体レーザ素子100の出射光を後段の光ファイバに結合させることを考慮すると、幅Wbを後段の光ファイバのコア径の±50μm以内の値とすることが、光結合の観点から好適だからである。一般に、幅Wbを広げると、出射方向前側端面Sfにおける光密度が下がるので、端面故障の信頼性向上の観点から好ましい。しかし、幅Wbが広いと光結合効率が低下してしまう。光結合効率を一定にするためには、おおまかには幅Wbと放射角の積を一定にする必要がある。本発明によれば、放射角を小さくすることができるため、より信頼性が高い広いWbを持った半導体レーザ素子でも同じ光結合効率が実現できる。
【0043】
既に述べたように、第1実施形態に係る半導体レーザ素子100では、出射方向前側端面S
fと出射方向後側端面S
bとの間の少なくとも一部に導波路領域R
1の幅W
nが幅W
bよりも狭くなっている部分がある。特に、
図3に図示の形状例では、当該部分に幅がW
nで一定(つまり平行)となっている。この幅がW
nである導波路領域R
1の長さL
nは、0以上で全長Lの40%以下とすることが好ましい。長さL
nが長すぎると、電圧上昇が大きくなる一方、出射方向前側端面S
fと出射方向後側端面S
bとの間の少なくとも一部に導波路領域R
1の幅W
nが幅W
bよりも狭くなっている部分があれば、後述する理由により、出射方向前側端面S
fから射出される際の放射角を抑制する効果が得られるからである。
【0044】
幅Wnは、例えば幅Wbの5%~95%とすることが好ましい。幅Wnが狭すぎると電圧が上昇してしまう一方、広すぎると、出射方向前側端面Sfから射出される際の放射角を抑制する効果が少なくなってしまうからである。なお、幅Wnは、導波路領域R1を導波するレーザ光の導波モードがシングルモードとなるほど狭くする必要はない。
【0045】
幅がWnである導波路領域R1と幅がWbである導波路領域R1とをつなぐ導波路領域R1では、幅を直線的に変化させても、曲線的に変化させても、階段状に変化させてもよい。また、幅の変化は、必ずしも単調増加または単調減少である必要はないが、単調増加または単調減少で連続的に変化させると、形状がシンプルとなるので製造が容易である。逆に言えば、幅Wbは必ずしも導波路領域R1の最大幅ではなく、他の箇所で最大幅となる形状を許容する。一方、幅Wnは、導波路領域R1の最小幅を採用すればよく、その最小幅が、出射方向前側端面Sfおよび出射方向後側端面Sbにおける導波路領域R1の幅よりも狭くなっていればよい。
【0046】
出射方向後側端面Sbに近い側における、幅がWnである導波路領域R1と幅がWbである導波路領域R1とをつなぐ導波路領域R1の長さLt2は、例えば、ゼロより大きく、全長Lの10%以下とするのが好ましく、全長Lの3%以下とするのが更に好ましい。長さLt2が長すぎると、電圧上昇に加え、電流-光出力特性が劣化するからである。
【0047】
出射方向前側端面Sfに近い側における、幅がWnである導波路領域R1と幅がWbである導波路領域R1とをつなぐ導波路領域R1の長さLt1は、例えば、ゼロより大きく、長さLt2よりも長いことが好ましい。長さLt1が長過ぎると電圧上昇が大きくなり、短すぎると、導波路のロスが増えるからである。長さLt1は、全長Lからその他の長さLb1,Ln,Lt2,Lb2の和を引いたものとして設定すればよい。
【0048】
ここで、以上の構成の半導体レーザ素子100における製造工程上のメリットの説明を説明する。
【0049】
図4は、半導体ウエハから各半導体レーザ素子を切り出す工程の一部を模式的に示した図である。
図4に示すように、半導体ウエハから各半導体レーザ素子を切り出す途中にはバー化と呼ばれる工程が存在する。バー化とは、半導体レーザ素子が複数並んだバー状に半導体ウエハを劈開することをいう。
図4に示される例では、半導体レーザ素子100
n,i,・・・,100
n,mが並んだ番号nのバーと、半導体レーザ素子100
n+1,i,・・・,100
n+1,mが並んだ番号n+1のバーとが劈開され、バー化される状況を示している。なお、ここで、各半導体レーザ素子100
n,i,・・・,100
n,m,100
n+1,i,・・・,100
n+1,mは、第1実施形態に係る半導体レーザ素子100と同一の構成であるものとし、記載を容易にするために、導波路領域R
1の形状のみを図示している。
【0050】
図4に示すように、番号nのバーと番号n+1のバーとをバー化する際に、狙いのバー化位置で劈開することができずに、ずれたバー化位置1やずれたバー化位置2で劈開されてしまうことも起こり得る。このような場合でも、半導体レーザ素子100では、出射方向前側端面S
fにおける導波路領域R
1の幅と出射方向後側端面S
bにおける導波路領域R
1の幅とが実質的に同じ幅W
bであるので、劈開位置に誤差があっても、製造される半導体レーザ素子100における導波路領域R
1の形状に影響を与える心配が少ない。上記説明した長さL
b2の下限としての出射方向後側端面S
bを劈開する際の加工精度以上とは、このような効果を狙ったものである。
【0051】
図5は、半導体ウエハから各半導体レーザ素子を切り出す工程の一部の比較例を模式的に示した図である。
図5に示される例では、半導体レーザ素子101
n,i,・・・,101
n,mが並んだ番号nのバーと、半導体レーザ素子101
n+1,i,・・・,101
n+1,mが並んだ番号n+1のバーとが劈開され、バー化される状況を示している。なお、ここで、各半導体レーザ素子101
n,i,・・・,101
n,m,101
n+1,i,・・・,101
n+1,mは、第1実施形態に係る半導体レーザ素子100の構成から長さL
b2とL
t2をゼロにした変形例であるものとし、導波路領域R
1の形状のみを図示している。
【0052】
ここでも、番号nのバーと番号n+1のバーとをバー化する際に、狙いのバー化位置で劈開することができずに、ずれたバー化位置1やずれたバー化位置2で劈開されてしまう状況を考える。すると、比較例に係る半導体レーザ素子の場合、出射方向前側端面S
fにおける導波路領域R
1の幅と出射方向後側端面S
bにおける導波路領域R
1の幅とが異なっているので、バー化位置の誤差によって、意図しない不連続な形状が形成されてしまうことがある。この点につき、
図5に示される比較例と比較すると、第1実施形態に係る半導体レーザ素子100は、製造ばらつきを考慮しても簡便に製造できるのでより好適である。
【0053】
図6は、半導体ウエハから各半導体レーザ素子を切り出す工程の一部のもう一つの比較例を模式的に示した図である。
図6に示される例では、半導体レーザ素子101
n,i-2,・・・,101
n,mが並んだ番号nのバーと、半導体レーザ素子101
n+1,i,・・・,101
n+1,mが並んだ番号n+1のバーとが劈開され、バー化される状況を示している。なお、ここで、各半導体レーザ素子101
n,i-2,・・・,101
n,m,101
n+1,i,・・・,101
n+1,mは、第1実施形態に係る半導体レーザ素子100の構成から長さL
b2とL
t2をゼロにした変形例であるものとし、導波路領域R
1の形状のみを図示している。
【0054】
図6に示すように、番号nのバーと番号n+1のバーとの出射方向前側端面S
fが相対するように配置すると、バー化位置の誤差によって、意図しない不連続な形状が形成されてしまうことを回避することができる。なお、
図6には省略しているが、番号n-1のバーと番号nのバーとの出射方向後側端面S
bなども相対するように配置され、順次互い違いに配置されているものとする。しかし、このように互い違いに配置した場合、
図6に示すように、番号nのバーと番号n+1のバーとで、半導体レーザ素子の番号の並び順が反転してしまい、半導体レーザ素子のトレーサビリティや管理の観点からは好ましくない。この点につき、
図5に示される比較例と比較すると、第1実施形態に係る半導体レーザ素子100は、トレーサビリティや管理の観点からも好適である。
【0055】
以上の構成の半導体レーザ素子100は、導波路領域R1における導波モードがマルチモードである端面発光型の半導体レーザ素子であるので、複数の導波モードのレーザ光が発振している。しかしながら、出射方向前側端面Sfと出射方向後側端面Sbとの間の少なくとも一部で、導波路領域R1の幅がWnに狭くなっているので、高次の導波モードの数が適切に抑制される。結果、高次モードのレーザ光の方が放射角は大きくなる傾向があるので、本構成の半導体レーザ素子100では、出射方向前側端面Sfから出射されるレーザ光の放射角を抑制することができるという効果を奏することになる。
【0056】
また、本構成の半導体レーザ素子100では、出射方向前側端面Sfと出射方向後側端面Sbとの間の少なくとも一部で、導波路領域R1の幅が狭くなっているものの、幅が狭くなっている導波路領域R1が一部にとどまっているので、導波路領域R1に電流を注入する際の電圧の上昇を抑えることができる。
【0057】
さらに、本構成の半導体レーザ素子100では、出射方向前側端面Sfにおける導波路領域R1の幅と出射方向後側端面Sbにおける導波路領域R1の幅とが実質的に同じ幅Wbであるので、半導体ウエハから各半導体レーザ素子を切り出す際の、製造誤差に対する許容性およびトレーサビリティや管理性も優れている。
【0058】
(第2実施形態)
図7は、第2実施形態に係る半導体レーザ素子の構成を概略的に示した上面図である。
図7に示すように、第2実施形態に係る半導体レーザ素子200は、導波路における導波モードがマルチモードである端面発光型の半導体レーザ素子である。また、第2実施形態に係る半導体レーザ素子200は、出射方向前側端面S
fにおける導波路領域R
1の幅と出射方向後側端面S
bにおける導波路領域R
1の幅とが実質的に同じ幅W
bであり、一方で、出射方向前側端面S
fと出射方向後側端面S
bとの間の少なくとも一部で、導波路領域R
1の幅W
nが幅W
bよりも狭くなっている。
【0059】
さらに、
図7に示すように、第2実施形態に係る半導体レーザ素子200は、出射方向前側端面S
fから長さL
i1の範囲および出射方向後側端面S
bから長さL
i2の範囲に電流注入領域R
2が設けられていない。電流注入領域R
2が設けられていない長さL
i1または長さL
i2の範囲を電流非注入領域ともいう。なお、
図7に例示される第2実施形態に係る半導体レーザ素子200は出射方向前側端面S
fから長さL
i1の範囲および出射方向後側端面S
bから長さL
i2の範囲の両方に電流非注入領域を設けているが、いずれか一方に設ける構成としても構わない。出射方向前側端面S
fまたは出射方向後側端面S
bの近傍に電流非注入領域を設けると、出射方向前側端面S
fまたは出射方向後側端面S
bにおけるレーザ光の電流注入を抑制できるので、出射方向前側端面S
fまたは出射方向後側端面S
bがレーザ光のエネルギーによって損傷する可能性が低下する。その結果、半導体レーザ素子200の信頼性が向上するという効果が得られる。なお、
図7に例示される第2実施形態に係る半導体レーザ素子200では、電流非注入領域からは電流が注入されないが、導波路領域R
1は形成されている。
【0060】
電流注入領域R
2の実体は、すでに
図2を参照しながら説明したように、例えばSiN
xからなるパッシベーション膜15に形成された開口部である。したがって、出射方向前側端面S
fから長さL
i1の範囲および出射方向後側端面S
bから長さL
i2の範囲に電流非注入領域を設ける方法は、当該電流非注入領域においてパッシベーション膜15の除去を行わないことにすればよい。
【0061】
電流非注入領域を設ける範囲である出射方向前側端面Sfからの長さLi1は、例えば5μm以上300μm以下とすることが好ましく、5μm以上150μm以下とすることが更に好ましい。一方、電流非注入領域を設ける範囲である出射方向後側端面Sbからの長さLi2は、例えば5μm以上300μm以下とすることが好ましく、5μm以上100μm以下とすることが更に好ましい。長さLi1と長さLi2の関係としては、長さLi1は長さLi2以上とすることが好ましい。
【0062】
また、長さLt2および長さLb2が長すぎると、半導体レーザ素子200の電流-光出力の特性が劣化することがある。そこで、長さLi2を長さLt2および長さLb2の和よりも長くすると、出射方向後側端面Sbから長さLt2+Lb2の範囲には電流が注入されないので、半導体レーザ素子200の電流-光出力の特性劣化が抑制され、より一層好適である。
【0063】
その他、半導体レーザ素子200の全長Lおよび幅Wや長さLb1,Ln,Lt1,Lt2,Lb2の好適な範囲は、第1実施形態に係る半導体レーザ素子100と同様に設定することができる。
【0064】
以上の構成の半導体レーザ素子200は、導波路領域R1における導波モードがマルチモードである端面発光型の半導体レーザ素子であるので、複数の導波モードのレーザ光が発振している。しかしながら、出射方向前側端面Sfと出射方向後側端面Sbとの間の少なくとも一部で、導波路領域R1の幅がWnに狭くなっているので、高次の導波モードの数が適切に抑制される。結果、高次モードのレーザ光の方が放射角は大きくなる傾向があるので、本構成の半導体レーザ素子200では、出射方向前側端面Sfから出射されるレーザ光の放射角を抑制することができるという効果を奏することになる。
【0065】
また、本構成の半導体レーザ素子200では、出射方向前側端面Sfと出射方向後側端面Sbとの間の少なくとも一部で、導波路領域R1の幅が狭くなっているものの、幅が狭くなっている導波路領域R1が一部にとどまっているので、導波路領域R1に電流を注入する際の電圧の上昇を抑えることができる。
【0066】
さらに、本構成の半導体レーザ素子200では、出射方向前側端面Sfにおける導波路領域R1の幅と出射方向後側端面Sbにおける導波路領域R1の幅とが実質的に同じ幅Wbであるので、半導体ウエハから各半導体レーザ素子を切り出す際の、製造誤差に対する許容性およびトレーサビリティや管理性も優れている。
【0067】
加えて、本構成の半導体レーザ素子200では、出射方向前側端面Sfまたは出射方向後側端面Sbの近傍に電流非注入領域が設けられているので、半導体レーザ素子200の信頼性が向上するという効果が得られる。
【0068】
(第3実施形態)
図8は、第3実施形態に係る半導体レーザ素子の構成を概略的に示した上面図である。
図8に示すように、第3実施形態に係る半導体レーザ素子300は、導波路における導波モードがマルチモードである端面発光型の半導体レーザ素子である。第3実施形態に係る半導体レーザ素子300は、出射方向前側端面S
fから出射方向後側端面S
bの間の導波路領域R
1の幅が実質的に同じ幅W
bであるが、出射方向前側端面S
fと出射方向後側端面S
bとの間の少なくとも一部で、電流注入領域R
2の幅が出射方向前側端面S
fにおける電流注入領域R
2の幅よりも狭くなっている。
【0069】
上記のような構成の半導体レーザ素子300であっても、電流注入領域R2の幅が狭くなっている部分が、より高次の導波モードのレーザ光の導波を抑制することによって、高次の導波モードの数を適切に抑制することができる。
【0070】
図8に示される半導体レーザ素子300の例では、出射方向前側端面S
fから出射方向後側端面S
bの間の導波路領域R
1の幅であるW
bは、例えば100μmである。電流注入領域R
2の幅が広い部分となる、出射方向前側端面S
fから長さL
b1までの範囲における電流注入領域R
2の幅は、例えば導波路領域R
1の幅から10μm狭く設計することが好ましい。つまり、例えば導波路領域R
1の幅W
bが100μmであれば、電流注入領域R
2の幅は、90μmとなる。一方、電流注入領域R
2の幅が狭い部分となる、中央の長さL
nの範囲における電流注入領域R
2の幅は、例えば導波路領域R
1の幅から70μm狭く設計することが好ましい。つまり、例えば導波路領域R
1の幅W
bが100μmであれば、電流注入領域R
2の幅は、30μmとなる。
【0071】
また、出射方向後側端面S
bから電流注入領域R
2の幅が広い部分となる範囲の長さL
b2は、例えばゼロ以上であり全長Lの10%以下にすることが好ましい。なお、長さL
b2がゼロになったとしても、導波路領域R
1の幅はW
bであるので、
図4~
図6を参照しながら説明したバー化位置の誤差の問題は、本実施形態に係る半導体レーザ素子300でも発生することはない。
【0072】
その他、半導体レーザ素子300の全長Lおよび幅Wや長さLb1,Ln,Lt1,Lt2,Lb2の好適な範囲は、第1実施形態に係る半導体レーザ素子100と同様に設定することができる。
【0073】
また、本実施形態に係る半導体レーザ素子300でも、第2実施形態に係る半導体レーザ素子200と同様に、出射方向前側端面Sfまたは出射方向後側端面Sbの近傍に電流非注入領域を設けてもよい。
【0074】
以上の構成の半導体レーザ素子300は、導波路領域R1における導波モードがマルチモードである端面発光型の半導体レーザ素子であるので、複数の導波モードのレーザ光が発振している。しかしながら、出射方向前側端面Sfと出射方向後側端面Sbとの間の少なくとも一部で、電流注入領域R2の幅が狭くなっているので、高次の導波モードの数が適切に抑制される。結果、高次モードのレーザ光の方が放射角は大きくなる傾向があるので、本構成の半導体レーザ素子300では、出射方向前側端面Sfから出射されるレーザ光の放射角を抑制することができるという効果を奏することになる。
【0075】
また、本構成の半導体レーザ素子300では、出射方向前側端面Sfと出射方向後側端面Sbとの間の少なくとも一部で、電流注入領域R2の幅が狭くなっているものの、幅が狭くなっている電流注入領域R2が一部にとどまっているので、電流注入領域R2に電流を注入する際の電圧の上昇を抑えることができる。
【0076】
さらに、本構成の半導体レーザ素子300では、出射方向前側端面Sfにおける導波路領域R1の幅と出射方向後側端面Sbにおける導波路領域R1の幅とが実質的に同じ幅Wbであるので、半導体ウエハから各半導体レーザ素子を切り出す際の、製造誤差に対する許容性およびトレーサビリティや管理性も優れている。
【0077】
(第4実施形態)
図9は、第4実施形態に係る半導体レーザ素子の構成を概略的に示した上面図である。
図9に示すように、第4実施形態に係る半導体レーザ素子400は、導波路における導波モードがマルチモードである端面発光型の半導体レーザ素子であり、出射方向前側端面S
fと出射方向後側端面S
bとの間の少なくとも一部で、電流注入領域R
2の幅が出射方向後側端面S
bにおける電流注入領域R
2の幅よりも狭くなっている。つまり、第3実施形態に係る半導体レーザ素子300は出射方向前側端面S
fにおける電流注入領域R
2の幅が最大となっていたが、第4実施形態に係る半導体レーザ素子400は、出射方向前側端面S
fにおける電流注入領域R
2の幅が、その他領域における電流注入領域R
2の幅よりも狭くなっている。
【0078】
上記のような構成の半導体レーザ素子400であっても、電流注入領域R2の幅が狭くなっている部分が、より高次の導波モードのレーザ光の導波を抑制することによって、高次の導波モードの数を適切に抑制することができる。また、出射方向前側端面Sfの近傍で電流注入領域R2の幅が狭くなっていると、出射方向前側端面Sfの近傍における光エネルギーの強度が高いことによっておこるホールバーニングの抑制にも効果がある。
【0079】
図9に示される半導体レーザ素子400の例では、出射方向前側端面S
fから出射方向後側端面S
bの間の導波路領域R
1の幅であるW
bは、例えば100μmである。電流注入領域R
2の幅が広い部分となる、出射方向後側端面S
bから長さL
b2までの範囲における電流注入領域R
2の幅は、例えば導波路領域R
1の幅から10μm狭く設計することが好ましい。つまり、例えば導波路領域R
1の幅W
bが100μmであれば、電流注入領域R
2の幅は、90μmとなる。一方、電流注入領域R
2の幅が狭い部分となる、出射方向前側端面S
fから長さL
nの範囲における電流注入領域R
2の幅は、例えば導波路領域R
1の幅から70μm狭く設計することが好ましい。つまり、例えば導波路領域R
1の幅W
bが100μmであれば、電流注入領域R
2の幅は、30μmとなる。
【0080】
なお、長さL
b2がゼロになったとしても、導波路領域R
1の幅はW
bであるので、
図4~
図6を参照しながら説明したバー化位置の誤差の問題は、本実施形態に係る半導体レーザ素子400でも発生することはない。
【0081】
その他、半導体レーザ素子400の全長Lおよび幅Wや長さLn,Lt2,Lb2の好適な範囲は、第1実施形態に係る半導体レーザ素子100と同様に設定することができる。
【0082】
また、本実施形態に係る半導体レーザ素子400でも、第2実施形態に係る半導体レーザ素子200と同様に、出射方向前側端面Sfまたは出射方向後側端面Sbの近傍に電流非注入領域を設けてもよい。
【0083】
以上の構成の半導体レーザ素子400は、導波路領域R1における導波モードがマルチモードである端面発光型の半導体レーザ素子であるので、複数の導波モードのレーザ光が発振している。しかしながら、出射方向前側端面Sfと出射方向後側端面Sbとの間の少なくとも一部で、電流注入領域R2の幅が狭くなっているので、高次の導波モードの数が適切に抑制される。結果、高次モードのレーザ光の方が放射角は大きくなる傾向があるので、本構成の半導体レーザ素子400では、出射方向前側端面Sfから出射されるレーザ光の放射角を抑制することができるという効果を奏することになる。
【0084】
また、本構成の半導体レーザ素子400では、出射方向前側端面Sfと出射方向後側端面Sbとの間の少なくとも一部で、電流注入領域R2の幅が狭くなっているものの、幅が狭くなっている電流注入領域R2が一部にとどまっているので、電流注入領域R2に電流を注入する際の電圧の上昇を抑えることができる。
【0085】
さらに、本構成の半導体レーザ素子400では、出射方向前側端面Sfにおける導波路領域R1の幅と出射方向後側端面Sbにおける導波路領域R1の幅とが実質的に同じ幅Wbであるので、半導体ウエハから各半導体レーザ素子を切り出す際の、製造誤差に対する許容性およびトレーサビリティや管理性も優れている。
【0086】
(第5実施形態)
図10は、第5実施形態に係る半導体レーザ素子の構成を概略的に示した上面図である。
図10に示すように、第5実施形態に係る半導体レーザ素子500は、導波路における導波モードがマルチモードである端面発光型の半導体レーザ素子であり、先述定義したカバレッジ幅W
cが従来の半導体レーザ素子よりも広い。
【0087】
従来、導波路領域R1と電流注入領域R2とのミスマッチをなるべく少なくするという観点から、導波路領域R1と電流注入領域R2との水平方向の幅は、なるべく近くなるよう設計されていた。また、導波路領域R1の幅が同じであれば、電流注入領域R2の幅を狭くすることは、電流注入領域R2の面積を小さくすることになり、印加する電圧が上昇してしまうことになる。結果、従来の半導体レーザ素子では、カバレッジ幅を狭くする方向に志向されており、製造プロセスにおけるアライメント精度の観点から、カバレッジ幅が0μmより広く5μm以下となっていた。
【0088】
一方、第5実施形態に係る半導体レーザ素子500のカバレッジ幅Wcは、従来の半導体レーザ素子よりも広く、例えば5μmより広い。第5実施形態に係る半導体レーザ素子500では、このようにカバレッジ幅Wcが従来の半導体レーザ素子よりも広く構成されている理由は、以下のようなものである。
【0089】
カバレッジ領域は、導波路領域R1の外側に位置しているので、カバレッジ幅を広げると、高次の導波モードほど発振が抑制されることになる。高次モードのレーザ光の方が放射角は大きくなる傾向があるので、結果、本構成の半導体レーザ素子500でも、出射方向前側端面Sfから出射されるレーザ光の放射角を抑制することができるという効果を奏することになる。
【0090】
なお、
図10に示される半導体レーザ素子500では、出射方向前側端面S
fから出射方向後側端面S
bに亘り導波路領域R
1の幅が一定(いわゆるストレート導波路)であり、かつ、一定のカバレッジ幅を有する構成であるが、出射方向前側端面S
fと出射方向後側端面S
bとの間の少なくとも一部でカバレッジ幅を広げる構成とすれば、高次の導波モードの発振が抑制される作用を有し、出射方向前側端面S
fから出射されるレーザ光の放射角を抑制することができるという効果を奏することになる。
【0091】
また、カバレッジ幅を広げると出射方向前側端面Sfから出射されるレーザ光の放射角を抑制することができるという効果を得られる一方で、印加する電圧が上昇してしまうことになる。したがって、カバレッジ幅Wcは、23μm以下であることが好ましく、15μm以下であることがより好ましい。導波路領域R1の幅との相対的な基準で考えれば、カバレッジ幅Wcは、導波路領域R1の幅の15.3%以下であることが好ましく、10%以下であることがより好ましい。
【0092】
(第6実施形態)
図11は、第6実施形態に係る半導体レーザ素子の構成を概略的に示した上面図である。
図11に示すように、第6実施形態に係る半導体レーザ素子600は、導波路における導波モードがマルチモードである端面発光型の半導体レーザ素子である。また、第6実施形態に係る半導体レーザ素子600は、出射方向前側端面S
fにおける導波路領域R
1の幅と出射方向後側端面S
bにおける導波路領域R
1の幅とが実質的に同じ幅W
bであり、一方で、出射方向前側端面S
fと出射方向後側端面S
bとの間の少なくとも一部で、導波路領域R
1の幅W
nが幅W
bよりも狭くなっている。
【0093】
一方、第6実施形態に係る半導体レーザ素子600では、導波路領域R
1が幅W
bである領域と幅W
nである領域とを非単調に接続している。
図11に示される半導体レーザ素子600の例では、出射方向前側端面S
fの近傍における導波路領域R
1が幅W
bである領域と、中央付近における導波路領域R
1が幅W
nである領域との間に、導波路領域R
1の一部が狭くなった窪み形状Hが配置されている。このように、導波路領域R
1の一部が狭くなった窪み形状Hを配置することによって、出射方向前側端面S
fと出射方向後側端面S
bとの間の少なくとも一部で導波路領域R
1の幅を狭くしても、高次の導波モードの数を適切に抑制することができる。しかも、半導体レーザ素子600は、マルチモードの半導体レーザ素子であるので、導波路領域R
1の一部に窪み形状Hが配置されても、電流-光出力特性が大きく劣化することはない。
【0094】
図11に示される半導体レーザ素子600の例において、出射方向後側端面S
bに最も近い窪み形状Hの幅をL
nとし、当該窪み形状Hから出射方向前側端面S
fの方向に窪み形状Hが配列されている導波路領域R
1の長さをL
t1とし、出射方向前側端面S
fの近傍の導波路領域R
1が幅W
bである範囲の長さをL
b1とし、出射方向後側端面S
bの近傍の導波路領域R
1が幅W
bである範囲の長さをL
b2とすると、
図11に示される他のパラメータを含め、半導体レーザ素子600の全長Lおよび幅Wや長さL
b1,L
n,L
t1,L
b2の好適な範囲は、第1実施形態に係る半導体レーザ素子100と同様に設定することができる。なお、長さL
b1と長さL
b2の関係としては、長さL
b2よりも長さL
b1の方が長い方が好ましい。
【0095】
図11に示される窪み形状Hの深さをW
dとすると、深さW
dはすべての窪み形状Hにおいて同じ値としてもよいし、出射方向前側端面S
fに向かうにつれて徐々に深さW
dを小さくしてもよい。窪み形状Hの幅に関しても、すべての窪み形状Hにおいて同じ値としてもよいし、出射方向前側端面S
fに向かうにつれて徐々に狭くしてもよい。窪み形状Hの配置間隔は、均等としてもよいし、出射方向後側端面S
bに向かうにつれて徐々に間隔を狭くしてもよい。また、窪み形状Hの配置は、半導体レーザ素子600の出射方向の中心軸に関して対象としてもよいし、左右の配置が互い違いとなってもよい。
【0096】
また、本実施形態に係る半導体レーザ素子600でも、第2実施形態に係る半導体レーザ素子200と同様に、出射方向前側端面Sfまたは出射方向後側端面Sbの近傍に電流非注入領域を設けてもよい。
【0097】
以上の構成の半導体レーザ素子600は、導波路領域R1における導波モードがマルチモードである端面発光型の半導体レーザ素子であるので、複数の導波モードのレーザ光が発振している。しかしながら、出射方向前側端面Sfと出射方向後側端面Sbとの間の少なくとも一部で、導波路領域R1の幅がWnに狭くなっているので、高次の導波モードの数が適切に抑制される。結果、高次モードのレーザ光の方が放射角は大きくなる傾向があるので、本構成の半導体レーザ素子600では、出射方向前側端面Sfから出射されるレーザ光の放射角を抑制することができるという効果を奏することになる。
【0098】
また、本構成の半導体レーザ素子600では、出射方向前側端面Sfと出射方向後側端面Sbとの間の少なくとも一部で、導波路領域R1の幅が狭くなっているものの、幅が狭くなっている導波路領域R1が一部にとどまっているので、導波路領域R1に電流を注入する際の電圧の上昇を抑えることができる。
【0099】
さらに、本構成の半導体レーザ素子600では、出射方向前側端面Sfにおける導波路領域R1の幅と出射方向後側端面Sbにおける導波路領域R1の幅とが実質的に同じ幅Wbであるので、半導体ウエハから各半導体レーザ素子を切り出す際の、製造誤差に対する許容性およびトレーサビリティや管理性も優れている。
【0100】
(第7実施形態)
ここで、上記説明した第1実施形態から第6実施形態に係る半導体レーザ素子を利用した半導体レーザモジュールの実施形態について説明する。
図12は、第7実施形態に係る半導体レーザモジュールの平面図であり、
図13は、第7実施形態に係る半導体レーザモジュールの一部切欠側面図である。
【0101】
半導体レーザモジュール700は、蓋701aと底板部701bとを有する、金属からなる筐体701と、底板部701b上に順に実装された、金属からなり、階段形状を有する基台であるLD高さ調整板702と、直方体形状を有する6つのサブマウント703と、略直方体形状を有する半導体素子である6つの半導体レーザ素子704とを備える。なお、
図12では、説明のために蓋701aの図示を省略している。
【0102】
筐体701やLD高さ調整板702は銅(Cu)からなり、半導体レーザ素子704から発生する熱を放熱する放熱板としても機能する。Cuの線膨張係数は17×10-6(1/K)である。なお、筐体701やLD高さ調整板702は鉄(Fe)からなるものでもよい。Feの線膨張係数は12×10-6(1/K)である。また、底板部701bの厚さは例えば1~5mm程度、LD高さ調整板702の厚さは例えば1~10mm程度であるが、特に限定はされない。
【0103】
また、半導体レーザモジュール700は、各半導体レーザ素子704に、サブマウント703及び不図示のボンディングワイヤを介して電気的に接続され、各半導体レーザ素子704に電力を供給するための2つのリードピン705を備える。さらに、半導体レーザモジュール700は、6つの第1レンズ706と、6つの第2レンズ707と、6つのミラー708と、回折格子710と、第3レンズ709と、第4レンズ711とを備える。ここで、回折格子710は、半導体レーザ素子704の発振波長を固定するためのものであり、例えばVBG(Volume Bragg Grating)または、VHG(Volume Holographic Grating)を用いることができる。
【0104】
各第1レンズ706、各第2レンズ707、各ミラー708、回折格子710、第3レンズ709、および第4レンズ711は、各半導体レーザ素子704が出力するレーザ光の光路上に、光路に沿って順に配置されている。さらに、半導体レーザモジュール700は、第4レンズ711と対向して配置された光ファイバ712を備える。光ファイバ712のレーザ光が入射される側の一端は、筐体701の内部に収容され、支持部材713により支持されている。なお、光ファイバ712は、伝搬モードが複数であるマルチモード光ファイバが用いられている。
【0105】
各半導体レーザ素子704は、上記説明した第1実施形態から第6実施形態に係る半導体レーザ素子と同様の構造のものであり、例えばヒ化ガリウム(GaAs)又はリン化インジウム(InP)を主材料として構成されている。なお、GaAsの線膨張係数は5.9×10
-6(1/K)であり、InPの線膨張係数は4.5×10
-6(1/K)である。各半導体レーザ素子704の厚さは例えば0.1mm程度である。各半導体レーザ素子704は、
図13に示すように、各サブマウント703に固定され、かつ各サブマウント703は、LD高さ調整板702に、互いに高さが異なるように固定されている。さらに、各第1レンズ706、各第2レンズ707、各ミラー708は、それぞれ対応する半導体レーザ素子704に対応する高さに配置されている。ここで、サブマウント703とサブマウント703に固定された半導体レーザ素子704とを備える構成物を、半導体素子搭載サブマウントとしてのチップオンサブマウント716と呼ぶこととする。
【0106】
また、光ファイバ712の筐体701への挿入部には、ルースチューブ715が設けられ、ルースチューブ715の一部と挿入部を覆うように、筐体701の一部にブーツ714が外嵌されている。
【0107】
この半導体レーザモジュール700の動作について説明する。各半導体レーザ素子704は、リードピン705を介し、サブマウント703を供給経路として電力を供給され、レーザ光を出力する。各半導体レーザ素子704から出力された各レーザ光は、対応する各第1レンズ706、各第2レンズ707により略コリメート光とされて、対応する各ミラー708により第3レンズ709に向けて反射される。さらに各レーザ光は、第3レンズ709、第4レンズ711により集光され、光ファイバ712の端面に入射され、光ファイバ712中を伝搬する。すなわち、各第1レンズ706、各第2レンズ707、各ミラー708、第3レンズ709、および第4レンズ711は、半導体レーザ素子704から出射されたレーザ光を光ファイバに結合させる光学系であり、半導体レーザモジュール700は、当該光学系を備えていることになる。
【0108】
(効果の検証)
ここで、上記説明した実施形態に係る半導体レーザ素子における出射方向前側端面Sfから出射されるレーザ光の放射角を抑制する効果について検証する。
【0109】
図14は、長さLに対する長さL
b1の割合とFFPhとのグラフを示す図である。
図14のグラフに示される実験データは、第2実施形態に係る半導体レーザ素子200を用いて取得されたものであり、その半導体レーザ素子200のパラメータは以下の通りである。
【0110】
幅Wb=100,130,150,190μm(4つの実験サンプル)
幅Wn=50μm(以下、4つの実験サンプルで共通)
電流注入領域R2の幅=導波路領域R1の幅―10μm
(導波路領域の両端から片側5μmずつ均等に狭くしている)
長さの比Ln/L=0.22%
長さの比Lt2/L=0.89%
長さの比Lb2/L=0.22%
発振波長=900~1080nm
出射前端面の反射率=0.1~7%
後端面の反射率=95%
出射前端面からの光出力=8W以上
半導体基板の材料:GaAs
量子井戸層の材料:InGaAs
【0111】
グラフ横軸のLb1/Lとは、半導体レーザ素子200の全長Lと出射方向前側における導波路領域R1の幅Wbが一定である範囲の長さLb1との比である。なお、長さLt1は、全長Lから各長さLn,Lt2,Lb1,Lb2を引いたものとして定義する。Lb1/L=100%とは、全長Lに亘って幅Wbが一定であるストレート導波路のことを意味し、この場合の長さLn,Lt2,Lb2は0と考える。
【0112】
また、グラフ縦軸のFFPhとは、水平方向のFar Field Patternのことであり、出射端面から射出されるレーザ光の水平方向の広がり角を意味し、電流値14Aで駆動した際の、1/e2の位置の全幅を測定している。
【0113】
図14に示されるグラフから読み取れるように、長さL
b1が半導体レーザ素子200の全長Lの56%以下である場合、FFPhの低減効果を得ることができる。逆に言えば、長さL
b1が大きすぎると、ストレート導波路と同じような形状になり、FFPhの低減効果が少なくなってしまう。また長さL
b1が全長Lの20%より小さいとFFPh低減効果が飽和している。L
b1が小さすぎると、電気抵抗が上昇してしまう。以上より、L
b1は全長Lの20%以上56%以下が好ましい。
【0114】
また、
図14に示されるグラフから読み取れるように、幅W
bが異なる4つの実験サンプルであっても、L
b1/LとFFPhの関係は同じ傾向を有する。ここで、留意すべきは、幅W
nは4つの実験サンプルで共通しているのであるから、幅W
nが幅W
bへ変化する際の角度が異なるにもかかわらず、同じ傾向を有するということである。このことは、導波路領域R
1の形状は、FFPhに大きな影響を与えず、導波路領域R
1の幅がW
nとなっている部分が存在していることがFFPhの低減効果に大きく寄与していることを意味する。すなわち、既に説明したように、実施形態に係る半導体レーザ素子は、導波路領域R
1の幅が狭くなっているので、高次の導波モードの数が適切に抑制され、その結果、出射方向前側端面から出射されるレーザ光の放射角を抑制することができるという効果を奏するという作用原理が実験によっても確認されたことになる。
【0115】
図15は、幅W
nとFFPhの変化とのグラフを示す図である。
図15のグラフに示される実験データは、
図14の実験と同様に第2実施形態に係る半導体レーザ素子200を用いて取得されたものであるが、この実験では幅W
bを100μmに固定し、幅W
nを変化させた場合におけるFFPhの変化を調べたものである。FFPhの変化とは、ストレート導波路(W
n=100μmに相当)との差分を意味している。なお、電流値は6Aとしている。
【0116】
図15に示されるグラフから読み取れるように、幅W
nが30μmより小さい範囲では、幅W
nが小さいほどFFPhが増加する傾向がある。これは、幅W
nが狭いと電流注入領域の面積が狭くなり、半導体レーザの電気抵抗が上昇し、その結果、半導体レーザ素子における発熱が大きくなるからである。発熱が大きくなると、導波路領域の屈折率が上昇し、FFPhが増加してしまうことになる。本実施形態に係る半導体レーザ素子のようなマルチモードの半導体レーザ素子は、溶接などの加工にも用いられることを想定しており、本実験でも6Aという非常に大きな値を使っている。そのため、電気抵抗が少しでも余計に大きくなると、大きな発熱の原因となってしまい、FFPhの低減の効果を阻害することになってしまう。
【0117】
一方、幅W
nが30μm以上の範囲では、抵抗上昇の影響が少なく、好適なFFPhの低減の効果を得られる。
図15に示されるグラフからは、幅W
nが30~75μmの範囲で、-0.5度の効果が認められており、特に好適なFFPhの低減が認められる。幅W
bの値によって、熱の影響が顕著となり始める幅W
nの下限値は異なる。最終的に重要なのは、電流注入領域R
2の面積である。
【0118】
なお、好適なFFPhの低減の効果を得るためには、幅Wnを90μm以下とすることが好ましい。幅Wnが90μmを超えると、実質的にストレート導波路と同じ形状となってしまい、ストレート導波路との比較において優位性を得難くなってしまうからである。
【0119】
図16は、カバレッジ幅とFFPhの変化とのグラフを示す図である。
図16のグラフに示される実験データは、第5実施形態に係る半導体レーザ素子500を用いて取得されたものであり、その半導体レーザ素子500のパラメータは以下の通りである。
【0120】
導波路の幅Wb=150μm(全長に亘り一定)
発振波長=900~1080nm
出射前端面の反射率=0.1~7%
後端面の反射率=95%
出射前端面からの光出力=8W以上
半導体基板の材料:GaAs
量子井戸層の材料:InGaAs
駆動電流=12、14、18A(3パターン)
【0121】
グラフ横軸のカバレッジ幅とは、先述した導波路領域の水平方向の幅から電流注入領域の水平方向の幅を引いたものを2で除した値である。
【0122】
また、グラフ縦軸のFFPhとは、水平方向のFar Field Patternのことであり、出射端面から射出されるレーザ光の水平方向の広がり角を意味し1/e2の位置の全幅を測定している。FFPhの変化とは、カバレッジ幅が5μmである場合を基準とした差を意味している。先述したように、従来の半導体レーザ素子では、カバレッジ幅が0μmより広く5μm以下となっていたが(図中矢印の範囲)、ここでは、カバレッジ幅が5μmである場合を基準として採用した。
【0123】
なお、グラフ中の点線は、実験データを2次曲線でフィッティングしたものである。
【0124】
図16に示されるグラフから読み取れるように、各電流値で、カバレッジ幅を広くするとFFPhが低減される。一方、カバレッジ幅が広くなり過ぎると、印加すべき電圧が高くなり、発熱によってFFPhが逆に大きくなるという傾向が見える。また、駆動電流を大きくしていくと、駆動電流による発熱も加わるため、比較的カバレッジ幅が狭い段階でもFFPhが大きくなり始める。
【0125】
駆動電流14Aは、約13Wの光出力を得るのに十分な駆動電流である。この駆動電流14Aでは、カバレッジ幅が23μm以下で、従来例のFFPh以下のFFPhとなっている(グラフ中では縦軸の値が0以下)。高出力が必要な場合に相当する駆動電流18Aでは、カバレッジ幅が15μm以下で、従来例のFFPh以下のFFPhとなっている(グラフ中では縦軸の値が0以下)。
【0126】
この結果から、カバレッジ幅は、23μm以下であることが好ましく、15μm以下であることがより好ましいことが導かれる。また、導波路領域の幅との相対的な基準で考えれば、カバレッジ幅Wcは、導波路領域R1の幅の15.3%以下であることが好ましく、10%以下であることがより好ましい。
【0127】
以上、本発明を実施形態に基づいて説明してきたが、上記実施形態により本発明が限定されるものではない。例えば、上記実施形態に係る半導体レーザ素子の導波路はリッジ構造を採用しているが、これに限定されず、SAS構造(Self-Aligned Structure)やBH構造(Buried-Hetero structure)などの導波路構造を採用することも可能である。また、量子井戸を混晶化することによって、導波路を形成する技術を採用してもよい。上記実施形態は、屈折率導波路型の半導体レーザ素子の例であるが、屈折率導波路型に限らず、利得導波路型の半導体レーザに対しても本発明を実施することが可能である。また、リッジ構造の導波路の場合、リッジ構造の外側に当該リッジ構造とほぼ同じ高さの半導体層の部分があっても、導波路としての機能は変わらない。
【産業上の利用可能性】
【0128】
以上のように、本発明に係る半導体レーザ素子、チップオンサブマウント、および半導体レーザモジュールは、高出力の半導体レーザ機器に有用であり、特に、産業用の半導体レーザ機器に適している。
【符号の説明】
【0129】
1,100,200,300,400,500,600,704 半導体レーザ素子
2 半導体積層部
5 上部電極
6 下部電極
7 基板
8 n型バッファ層
9 n型クラッド層
10 n型ガイド層
11 活性層
12 p型ガイド層
13 p型クラッド層
14 p型コンタクト層
15 パッシベーション膜
700 半導体レーザモジュール
701 筐体
701a 蓋
701b 底板部
702 LD高さ調整板
703 サブマウント
705 リードピン
706 第1レンズ
707 第2レンズ
708 ミラー
709 第3レンズ
710 回折格子
711 第4レンズ
712 光ファイバ
713 支持部材
714 ブーツ
715 ルースチューブ
716 チップオンサブマウント