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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2021-12-23
(45)【発行日】2022-01-18
(54)【発明の名称】ベーパーチャンバ
(51)【国際特許分類】
   F28D 15/02 20060101AFI20220111BHJP
   F28D 15/04 20060101ALI20220111BHJP
   H01L 23/427 20060101ALI20220111BHJP
【FI】
F28D15/02 101H
F28D15/02 M
F28D15/04 C
F28D15/04 J
H01L23/46 B
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2020015656
(22)【出願日】2020-01-31
(65)【公開番号】P2021124210
(43)【公開日】2021-08-30
【審査請求日】2020-02-25
【審判番号】
【審判請求日】2021-04-02
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000005290
【氏名又は名称】古河電気工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【弁理士】
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(74)【代理人】
【識別番号】100116403
【弁理士】
【氏名又は名称】前川 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100135633
【弁理士】
【氏名又は名称】二宮 浩康
(74)【代理人】
【識別番号】100162880
【弁理士】
【氏名又は名称】上島 類
(74)【代理人】
【識別番号】100143959
【弁理士】
【氏名又は名称】住吉 秀一
(72)【発明者】
【氏名】稲垣 義勝
(72)【発明者】
【氏名】川畑 賢也
(72)【発明者】
【氏名】青木 博史
【合議体】
【審判長】平城 俊雅
【審判官】田村 佳孝
【審判官】山崎 勝司
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2018/199217(WO,A1)
【文献】国際公開第2012/029560(WO,A1)
【文献】特開2002-303494(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F28D15/02
F28D15/04
H01L23/46
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
一方の板状体と該一方の板状体と対向する他方の板状体とにより空洞部が形成されたコンテナと、
前記空洞部に封入された作動流体と、
前記空洞部に収容された、前記コンテナに溶接されて溶接部が形成されたウィック構造体と、
を備え、
前記ウィック構造体は前記コンテナに溶接されることで、前記ウィック構造体と前記コンテナの接触部及び前記ウィック構造体を構成する微細部材同士の接触部が溶融して前記コンテナに接合され
前記ウィック構造体が、金属製のメッシュ部材を有し、前記ウィック構造体を構成する前記微細部材である、第1の方向に延びる第1の金属細線、第2の方向に延びる第2の金属細線において、前記ウィック構造体と前記コンテナの接触部及び前記第1の金属細線と前記第2の金属細線の接触部が溶融して一体化し、
前記ウィック構造体は、溶融して一体化している前記第1の金属細線の一部の箇所が前記一方の板状体の内面と直接接触し、溶融して一体化している前記第2の金属細線の一部の箇所が前記一方の板状体の内面と直接接触していることで、前記一方の板状体の内面上に、該一方の板状体の内面と面状に接触した状態で延在し、
放熱部にて気相から液相へ相変化した前記作動流体は、前記ウィック構造体の毛細管力にて、前記放熱部から受熱部へ還流されるベーパーチャンバ。
【請求項2】
前記溶接部が、電極を当てて溶接を行う抵抗スポット溶接及びレーザを当てて溶接を行うレーザスポット溶接からなる群から選択された少なくとも1種のスポット溶接で形成された溶接部である請求項1に記載のベーパーチャンバ。
【請求項3】
前記ウィック構造体の側面が、該ウィック構造体の側面に対向する前記コンテナの内周面から距離Xに位置し、該距離Xが、該距離Xに対して平行方向の前記ウィック構造体の寸法の0%超5%以下である請求項1または2に記載のベーパーチャンバ。
【請求項4】
前記溶接部が、複数、形成されている請求項1乃至3のいずれか1項に記載のベーパーチャンバ。
【請求項5】
前記一方の板状体の前記空洞部の外方に位置する周縁部と前記他方の板状体の前記空洞部の外方に位置する周縁部とが、ファイバレーザによる溶接にて接合されてコンテナが形成されている請求項1乃至4のいずれか1項に記載のベーパーチャンバ。
【請求項6】
前記メッシュ部材が、ステンレス製のメッシュ部材である請求項1乃至のいずれか1項に記載のベーパーチャンバ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ウィック構造体が所定の位置に安定して固定され、さらに、ウィック構造体の毛細管力が優れることで、液相の作動流体の流通性に優れたベーパーチャンバに関するものである。
【背景技術】
【0002】
電気・電子機器に搭載されている半導体素子等の電子部品は、高機能化に伴う高密度搭載等により、発熱量が増大し、近年、その冷却がより重要となっている。また、電子部品等の発熱体は、電子機器の小型化から、狭小空間に配置されることがある。狭小空間に配置された電子部品等の発熱体の冷却方法として、ベーパーチャンバ、平面型ヒートパイプ等が使用されることがある。また、電子機器の高機能化から、冷却を要する部位の面積が増大化する場合があり、これに応じて、ベーパーチャンバ、平面型ヒートパイプ等の面積の増大化が要求される場合がある。
【0003】
作動流体の流通性が円滑化された、ウィック構造体を備えたベーパーチャンバとして、上板と、下板と、前記上板と前記下板との間に配置された複数の側壁と、前記上板、前記下板、および複数の前記側壁によって密閉されたコンテナと、該コンテナ内に収容され、前記上板および前記下板に接するウィック構造体を備え、前記ウィック構造体は、蒸発部に位置するそれぞれの第1終端から前記側壁に向けて延び、直線部を有する複数の第1ウィック部と、複数の第1ウィック部の第2終端同士を接続する第2ウィック部と、を有したベーパーチャンバが提案されている(特許文献1)。特許文献1では、複数の第1ウィック部が直線部を有することで、気相の作動流体の流路が蒸発部から離れた低温領域まで真っ直ぐに延び、蒸発部から低温領域に向かう気相の作動流体が通る経路を短くして、気相の作動流体が速やかに低温領域まで移動できることで、熱輸送効率を高めるものである。
【0004】
しかし、特許文献1では、ウィック構造体はコンテナの上板と下板に狭持されることで、コンテナ内に固定されている。従って、ベーパーチャンバの設置姿勢等によっては、ウィック構造体の位置がコンテナの受熱部からずれてしまうことがあった。ウィック構造体の位置がコンテナの受熱部からずれてしまうと、液相の作動流体がコンテナの受熱部に十分に還流されず、ベーパーチャンバが十分な熱輸送特性を発揮できなくなる場合があった。特に、ベーパーチャンバの面積の増大化が要求される場合には、ウィック構造体の位置ずれ防止、すなわち、ウィック構造体の固定安定性に改善の余地があった。
【0005】
そこで、コンテナ内部におけるウィック構造体の位置ずれを防止するために、ろう材やはんだ等の接合用材料でウィック構造体をコンテナに接合することも行われている。しかし、接合用材料を用いてウィック構造体をコンテナに接合すると、接合用材料がウィック構造体の毛細管構造に浸入してウィック構造体の毛細管力が低下してしまうので、ウィック構造体の還流特性に改善の余地があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】国際公開第2017/104819号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記事情に鑑み、本発明は、ウィック構造体のコンテナ内部における固定安定性に優れ、さらに、ウィック構造体の毛細管力が優れることで液相の作動流体の還流特性に優れたベーパーチャンバを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の構成の要旨は、以下の通りである。
[1]一方の板状体と該一方の板状体と対向する他方の板状体とにより空洞部が形成されたコンテナと、
前記空洞部に封入された作動流体と、
前記空洞部に収容された、前記コンテナに溶接されて溶接部が形成されたウィック構造体と、
を備えるベーパーチャンバ。
[2]前記溶接部が、電極を当てて溶接を行う抵抗スポット溶接及びレーザを当てて溶接を行うレーザスポット溶接からなる群から選択された少なくとも1種のスポット溶接で形成された溶接部である[1]に記載のベーパーチャンバ。
[3]前記ウィック構造体の側面が、該ウィック構造体の側面に対向する前記コンテナの内周面から距離Xに位置し、該距離Xが、該距離Xに対して平行方向の前記ウィック構造体の寸法の0%超5%以下である[1]または[2]に記載のベーパーチャンバ。
[4]前記溶接部が、複数、形成されている[1]乃至[3]のいずれか1つに記載のベーパーチャンバ。
[5]前記一方の板状体の前記空洞部の外方に位置する周縁部と前記他方の板状体の前記空洞部の外方に位置する周縁部とが、ファイバレーザによる溶接にて接合されてコンテナが形成されている[1]乃至[4]のいずれか1つに記載のベーパーチャンバ。
[6]前記ウィック構造体が、金属製のメッシュ部材を有する[1]乃至[5]のいずれか1つに記載のベーパーチャンバ。
[7]前記メッシュ部材が、ステンレス製のメッシュ部材である[1]乃至[6]のいずれか1つに記載のベーパーチャンバ。
【0009】
本発明のベーパーチャンバでは、ウィック構造体はコンテナに溶接されることでコンテナに接合、固定されている。上記から、ウィック構造体には溶接部が形成され、該溶接部は溶接痕としてウィック構造体に現れている。ウィック構造体はコンテナに溶接されることで、ウィック構造体とコンテナの接触部及びウィック構造体を構成する微細部材同士の接触部が溶融してコンテナに接合される。ウィック構造体がコンテナに接合されるにあたり、上記各接触部以外の部位では、ウィック構造体を構成する微細部材の溶融が抑制され、またコンテナの溶融が抑制されている。
【0010】
本明細書中、「ウィック構造体の主表面」とは、コンテナの平面方向、すなわち、一方の板状体と他方の板状体の平面方向に沿って延在した表面を意味する。また、「ウィック構造体の側面」とは、ウィック構造体の厚さ方向の表面を意味する。
【発明の効果】
【0011】
本発明の態様によれば、ウィック構造体がコンテナに溶接にて接合されていることにより、コンテナ内部におけるウィック構造体の固定安定性に優れたベーパーチャンバを得ることができる。従って、本発明のベーパーチャンバによれば、ウィック構造体がコンテナの受熱部から位置ずれすることを防止できる。また、本発明の態様によれば、ウィック構造体がコンテナに溶接にて接合されていることにより、ウィック構造体とコンテナの接触部及びウィック構造体を構成する微細部材同士の接触部が溶融し、上記各接触部以外の部位はウィック構造体の溶融もコンテナの溶融も抑制された状態で、ウィック構造体がコンテナに接合されている。また、ウィック構造体をコンテナに接合するにあたり、接合用材料を用いる必要はない。従って、本発明のベーパーチャンバによれば、接合時に、毛細管力を生じさせるウィック構造体の多孔質構造に、ろう材やはんだ等の接合用材料が浸入することを防止できるので、ウィック構造体がコンテナに接合されていても、優れた毛細管力を有し、液相の作動流体の還流特性に優れている。
【0012】
本発明の態様によれば、溶接部が、抵抗スポット溶接及びレーザスポット溶接からなる群から選択された少なくとも1種のスポット溶接で形成された溶接部であることにより、毛細管力を生じさせるウィック構造体の多孔質構造に、ろう材やはんだ等の接合用材料が浸入することをより確実に防止できるので、ウィック構造体の、液相の作動流体の還流特性が確実に向上する。
【0013】
本発明の態様によれば、ウィック構造体の側面が、該側面に対向するコンテナの内周面から距離Xに位置し、該距離Xが、該距離Xに対して平行方向の前記ウィック構造体の寸法の0%超5%以下であることにより、ウィック構造体によって、一方の板状体と他方の板状体との間の封止性が損なわれることを防止しつつ、液相の作動流体を受熱部に十分に還流させてベーパーチャンバのドライアウトを確実に防止できるので、ベーパーチャンバの冷却特性及び液相の作動流体の還流特性が確実に向上する。
【0014】
本発明の態様によれば、溶接部が、複数、形成されていることにより、コンテナ内部におけるウィック構造体の固定安定性がさらに向上し、また、コンテナ内部におけるウィック構造体の位置精度も向上する。
【0015】
コンテナの周縁部が、ファイバレーザ溶接にて封止されていることにより、一方の板状体と他方の板状体間の接合強度が向上してコンテナに優れた封止性を付与でき、また、一方の板状体と他方の板状体の接合時におけるコンテナへの熱負荷を防止できるので、コンテナに優れた機械的強度を付与できる。
【0016】
本発明の態様によれば、ウィック構造体が金属製のメッシュ部材を有することにより、ウィック構造体を構成する微細部材である細線状部材同士の接触部及び細線状部材とコンテナの接触部のみの溶融が円滑化されるので、コンテナ内部におけるウィック構造体の固定安定性を得つつ、ウィック構造体はさらに優れた毛細管力を発揮することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本発明の実施形態例に係るベーパーチャンバの側面断面の説明図である。
図2】本発明の実施形態例に係るベーパーチャンバの内部を説明する平面図である。
図3】本発明の実施形態例に係るベーパーチャンバのウィック構造体の溶接部の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下に、本発明の実施形態例に係るベーパーチャンバについて、図面を用いながら説明する。図1は、本発明の実施形態例に係るベーパーチャンバの側面断面の説明図である。図2は、本発明の実施形態例に係るベーパーチャンバの内部を説明する平面図である。図3は、本発明の実施形態例に係るベーパーチャンバのウィック構造体の溶接部の説明図である。
【0019】
図1に示すように、本発明の実施形態例に係るベーパーチャンバ1は、対向する2枚の板状体、すなわち、一方の板状体11と一方の板状体11と対向する他方の板状体12とを重ねることにより空洞部13が形成された、平面型であるコンテナ10と、空洞部13内に封入された作動流体(図示せず)と、を有している。また、空洞部13の内部空間には、毛細管構造を有するウィック構造体15が収容されている。また、他方の板状体12の内面とウィック構造体15との間の空間部が、気相の作動流体が流通する蒸気流路18となっている。
【0020】
一方の板状体11は、中央部31と中央部31の外方に位置する周縁部32を含めて全体が平坦な平板状である。他方の板状体12も平板状であるが、周縁部42を除いた中央部41が凸状に塑性変形されている。また、他方の板状体12では、中央部41は平坦な平板状となっており、中央部41の外方に位置する周縁部42も平坦な平板状となっている。他方の板状体12の、外側に向かって突出し、凸状に塑性変形された中央部41が、コンテナ10の凸部14であり、凸部14の内部が空洞部13となっている。従って、空洞部13の外方に、コンテナ10の周縁部位置が位置し、一方の板状体11の周縁部32と他方の板状体12の周縁部42が位置している。空洞部13は、脱気処理により減圧されている。
【0021】
ウィック構造体15は、空洞部13に収容された、毛細管力を生じる部材である。ウィック構造体15は、多孔質であることで毛細管構造を有している。また、ウィック構造体15は、平面状の部材であり、平面型であるコンテナ10の平面に沿って延在している。ベーパーチャンバ1では、ウィック構造体15は、コンテナ10とは別体、すなわち、コンテナ10とは別の部材である。ウィック構造体15は、一方の板状体11の内面上に、一方の板状体11の内面と面状に接触した状態で延在している。ウィック構造体15の主表面50は、空洞部13に対して露出している。
【0022】
ウィック構造体15は、毛細管力を生じる構造であれば、特に限定されず、例えば、金属製のメッシュ、金属細線の編組体、金属細線の線条体等の部材を有する構造体を挙げることができる。ウィック構造体15の材質は、使用状況に応じて適宜選択可能であり、ステンレス、銅、銅合金、鉄、鉄合金、アルミニウム、アルミニウム合金、ニッケル、ニッケル合金等をあげることができる。このうち、軽量性と機械的強度を有し、コンテナ10への溶接が容易な点から、ステンレスが好ましい。なお、ベーパーチャンバ1では、ウィック構造体15として、ステンレス製のメッシュ部材が用いられている。
【0023】
図1、2に示すように、ウィック構造体15は、コンテナ10の内面に溶接されている。ベーパーチャンバ1では、ウィック構造体15は、一方の板状体11の内面に溶接されている。また、一方の板状体11の外面には、ベーパーチャンバ1の冷却対象である発熱体100が熱的に接続される。図2では、一方の板状体11の外面の中央部に発熱体100が熱的に接続されている。
【0024】
ウィック構造体15は一方の板状体11の内面に溶接されているので、ウィック構造体15には、溶接痕である溶接部20が形成されている。溶接部20は、ウィック構造体15の厚さ方向に延在し、主表面50から一方の板状体11の内面まで達している。ウィック構造体15は、コンテナ10の内面に溶接されることで、コンテナ10の内部に、接合、固定されている。ベーパーチャンバ1では、ウィック構造体15は、コンテナ10の内面に複数箇所(図2では、2箇所)にて溶接されている。従って、ウィック構造体15は、主表面50に複数箇所(図2では、2箇所)の溶接部20が現れている。溶接部20の位置は、特に限定されないが、ベーパーチャンバ1では、ウィック構造体15の周縁部に形成されている。すなわち、平面視において、発熱体100が熱的に接続されている部位と重なり合わない部位に、溶接部20が形成されている。なお、本明細書中、「平面視」とは、ベーパーチャンバ1の平面に対して鉛直方向から視認した状態を意味する。
【0025】
溶接部20は、例えば、スポット溶接で形成された溶接部である。スポット溶接による溶接部20の形成方法としては、例えば、一方の板状体11とウィック構造体15を重ね合わせて積層体を形成し、該積層体の両側から電極を当てて溶接を行う抵抗スポット溶接、該積層体の片側からレーザを当てて溶接を行うレーザスポット溶接が挙げられる。
【0026】
図3に示すように、ベーパーチャンバ1では、抵抗スポット溶接、レーザスポット溶接等の溶接にて、ウィック構造体15に溶接部20を形成することにより、ウィック構造体15とコンテナ10の接触部21及びウィック構造体15を構成する第1の方向に延びる金属細線15-1と第2の方向に延びる金属細線15-2の接触部21’が溶融して一体化している。一方で、接触部21、21’以外の部位は金属細線15-1、15-2の溶融もコンテナ10の溶融も抑制された状態で、ウィック構造体15がコンテナ10に接合されている。また、ベーパーチャンバ1では、ウィック構造体15をコンテナ10に接合するにあたり、別途、ろう材やはんだ等の接合用材料を用いる必要はない。従って、ベーパーチャンバ1では、毛細管力を生じさせるウィック構造体15の微細空隙16に、ろう材やはんだ等の接合用材料が浸入することを防止できる。上記から、ベーパーチャンバ1では、ウィック構造体15がコンテナ10に接合されていても、ウィック構造体15の溶接部20における毛細管力の低下を防止できる。
【0027】
また、ベーパーチャンバ1では、抵抗スポット溶接、レーザスポット溶接等の溶接にて、ウィック構造体15に溶接部20を形成することにより、ウィック構造体15とコンテナ10間に、優れた接合強度を付与することができる。なお、ベーパーチャンバ1では、抵抗スポット溶接にて溶接部20を形成している。
【0028】
図1に示すように、ウィック構造体15の固定位置は、特に限定されないが、例えば、ウィック構造体15の側面51が、ウィック構造体15の側面51に対向するコンテナ10の内周面から所定の距離Xの間隔を有することが好ましい。ウィック構造体15の側面51とコンテナ10の内周面が所定の距離Xの間隔を有することにより、一方の板状体11の周縁部32と他方の板状体12の周縁部42を接合して空洞部13を封止するにあたり、ウィック構造体15の存在によって空洞部13の封止性が損なわれることを防止できる。距離Xの下限値としては、空洞部13の封止作業を確実に容易化する点から、距離Xに対して平行方向のウィック構造体15の寸法の0%超好ましく、1%が特に好ましい。一方で、距離Xの上限値は、液相の作動流体を受熱部に十分に還流させてベーパーチャンバ1のドライアウトを確実に防止する点から、距離Xに対して平行方向のウィック構造体15の寸法の5%が好ましく、4%が特に好ましい。
【0029】
また、ウィック構造体15の平均厚さは、特に限定されないが、例えば、ウィック構造体15の、空洞部13に露出した主表面50が、主表面50に対向するコンテナ10の内面から所定の距離Yの間隔を有することが好ましい。ウィック構造体15の主表面50とコンテナ10の内面が所定の距離Yの間隔を有することにより、気相の作動流体の蒸気流路18を確実に確保することができ、結果、気相の作動流体の流通特性が向上する。距離Yの下限値としては、気相の作動流体の蒸気流路18をより確実に確保して、気相の作動流体の流通特性をさらに向上させる点から、0.7mmが好ましく、0.9mmが特に好ましい。一方で、一方で、距離Yの上限値は、ウィック構造体15の容積を十分に確保して液相の作動流体を受熱部に円滑に還流させる点から、1.3mmが好ましく、1.1mmが特に好ましい。なお、ベーパーチャンバ1では、Yの値は約1.0mmとなっている。
【0030】
ウィック構造体15の厚さは、例えば、0.02mm~0.20mmを挙げることができる。ウィック構造体15としてメッシュ部材を用いる場合、ウィック構造体15の厚さは、例えば、必要に応じて、複数のシート状のメッシュ部材を積み重ねたり、1枚のシート状のメッシュ部材を折り曲げたりして、シート状を厚さ方向に重ねることで調整することができる。ベーパーチャンバ1では、ウィック構造体15として、一方の板状体11の中央部31内面の略全体にわたって、1枚のシート状のメッシュ部材を平面状に敷いている。
【0031】
コンテナ10の平面視の形状は、特に限定されず、ベーパーチャンバ1の使用条件等により、円形状、長柵状、多角形状等、適宜選択可能である。なお、図2に示すように、ベーパーチャンバ1では、四角形状となっている。
【0032】
コンテナ10の材料としては、例えば、ステンレス、銅、アルミニウム、チタン、銅合金、アルミニウム合金、チタン合金等を挙げることができる。これらは、単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。また、コンテナ10の材料は、ウィック構造体15の材料と同じでもよく、異なっていてもよい。コンテナ10の材料とウィック構造体15の材料が同じ場合、例えば、ウィック構造体15の材料をステンレス、コンテナ10の材料もステンレスとしてもよい。
【0033】
ベーパーチャンバ1の厚さとしては、例えば、0.2mm~1.0mmを挙げることができる。また、一方の板状体11と他方の板状体12の平均厚さは、同じでもよく、例えば、それぞれ、0.05mm~0.1mmを挙げることができる。また、一方の板状体11の平均厚さと他方の板状体12の平均厚さは、異なっていてもよい。なお、一方の板状体11の平均厚さが、他方の板状体12の平均厚さよりも肉厚化されることで、一方の板状体11の変形が防止されて、コンテナ10と発熱体100との熱的接続性が向上する。
【0034】
また、一方の板状体11の周縁部32と他方の板状体12の周縁部42を重ね合わせた状態で、周縁部32、42の全周を接合することで、密閉容器であるコンテナ10が形成され、空洞部13が封止される。周縁部32、42の接合方法としては、特に限定されず、例えば、拡散接合、ろう付け、レーザ溶接、超音波溶接、摩擦接合、圧接接合等を挙げることができる。このうち、優れた生産性とコンテナ10の封止性の点から、レーザ溶接が好ましい。また、一方の板状体11と他方の板状体12間の接合強度が向上してコンテナ10に優れた封止性を付与しつつ、一方の板状体11と他方の板状体12の接合時におけるコンテナ10への熱負荷を防止してコンテナ10に優れた機械的強度を付与できる点から、ファイバレーザによるレーザ溶接が特に好ましい。
【0035】
周縁部32、42の接合幅としては、特に限定されないが、例えば、1.0mm~4.0mmを挙げることができる。
【0036】
空洞部13に封入される作動流体としては、コンテナ10の材料との適合性に応じて、適宜選択可能であり、例えば、水を挙げることができ、その他に、代替フロン、フルオロカーボン類、シクロペンタン、エチレングリコール、これらと水との混合物等を挙げることができる。
【0037】
次に、本発明の実施形態例に係るベーパーチャンバ1の動作について、図1、2を用いながら説明する。ベーパーチャンバ1のうち、発熱体100と熱的に接続された部位(発熱体100とコンテナ10が接触している部位)が受熱部として機能する。ベーパーチャンバ1が発熱体100から受熱すると、空洞部13に封入された液相の作動流体が、受熱部にて液相から気相へ相変化し、相変化した気相の作動流体が、蒸気流路18を流通してベーパーチャンバ1の受熱部から放熱部(発熱体100とコンテナ10の接触部から所定距離離れた部位)へ移動する。受熱部から放熱部へ移動した気相の作動流体は、放熱部にて潜熱を放熱して、気相から液相へ相変化する。放熱部にて放出された潜熱は、さらにベーパーチャンバ1の外部環境へ放出される。放熱部にて気相から液相へ相変化した作動流体は、コンテナ10に溶接されたウィック構造体15の毛細管力にて、放熱部から受熱部へ還流される。
【0038】
次に、本発明の実施形態例に係るベーパーチャンバ1の製造方法について説明する。ベーパーチャンバ1では、先ず、一方の板状体11の内面中央部にウィック構造体15を載置し、スポット溶接等の溶接手段にて、ウィック構造体15を一方の板状体11の内面に溶接して固定する。次に、ウィック構造体15を搭載した一方の板状体11と、周縁部42を除いた中央部41が凸状に塑性変形されている他方の板状体12と、を重ね合わせて、一方の板状体11の周縁部32と他方の板状体12の周縁部42を積層させる。このとき、ウィック構造体15が凸状に塑性変形されている他方の板状体12の中央部41に収容されるように、一方の板状体11と他方の板状体12を重ね合わせる。その後、一方の板状体11の周縁部32と他方の板状体12の周縁部42を、注液口となる部位を除いて周方向に溶接して、空洞部13を有するコンテナ10を形成する。次に、注液口から、作動流体を空洞部13へ注入し、空洞部13を脱気して減圧処理後、注液口を封止することで、ベーパーチャンバ1を製造することができる。
【0039】
ベーパーチャンバ1では、ウィック構造体15がコンテナ10に溶接にて接合されていることにより、コンテナ10の内部におけるウィック構造体15の固定安定性に優れている。従って、ベーパーチャンバ1によれば、ウィック構造体15がコンテナ10の受熱部から位置ずれすることを防止できるので、十分な量の液相の作動流体を受熱部に確実に還流させることができる。また、ベーパーチャンバ1では、ウィック構造体15がコンテナ10に溶接にて接合されていることにより、接合時にウィック構造体15の毛細管構造にろう材やはんだ等の接合用材料が浸入することを防止できるので、ウィック構造体がコンテナに接合されても、優れた毛細管力を有し、液相の作動流体の還流特性に優れている。
【0040】
また、ベーパーチャンバ1では、溶接部20が、抵抗スポット溶接及びレーザスポット溶接からなる群から選択された少なくとも1種のスポット溶接で形成された溶接部であることにより、接合時に、毛細管力を生じさせるウィック構造体15の毛細管構造に、ろう材やはんだ等の接合用材料が浸入することをより確実に防止できるので、ウィック構造体15の、液相の作動流体の還流特性がさらに向上する。また、ベーパーチャンバ1では、溶接部20が、複数、形成されていることにより、コンテナ10の内部におけるウィック構造体15の固定安定性がさらに向上し、また、コンテナ10の内部におけるウィック構造体の位置精度も向上する。
【0041】
また、ベーパーチャンバ1では、ウィック構造体15が金属製のメッシュ部材であることにより、ウィック構造体15を構成する微細部材である金属細線15-1、15-2の接触部及び金属細線15-1、15-2とコンテナ10の接触部のみの溶融が円滑化される。従って、コンテナ10の内部におけるウィック構造体15の固定安定性を得つつ、ウィック構造体15はさらに優れた毛細管力を発揮することができる。
【0042】
次に、本発明のベーパーチャンバの他の実施形態例について説明する。ベーパーチャンバ1では、他方の板状体12の中央部41は平坦な平板状となっていたが、これに代えて、他方の板状体12外面に複数の凹部を設けることで、減圧されている空洞部13の内部空間を維持する複数の支持部が形成されていてもよい。この場合、空洞部13側に相当する他方の板状体12の内面に、複数の支持部が凸設されていることとなる。また、支持部の先端部は、空洞部13の内部空間を確実に維持する点から、ウィック構造体15の主表面50と接していることが好ましい。
【0043】
また、ベーパーチャンバ1では、ウィック構造体15として、一方の板状体11の中央部31内面21の略全体にわたって、1枚のシート状のメッシュ部材を平面状に敷いていた。これに代えて、発熱体100が熱的に接続される一方の板状体11の受熱部では、ウィック構造体15として、複数枚のシート状のメッシュ部材が重ね合わされて積層された態様としてもよい。この場合、受熱部以外の部位では、ウィック構造体15は1枚のシート状のメッシュ部材としてもよい。すなわち、受熱部におけるウィック構造体15の厚さが、受熱部以外の部位におけるウィック構造体15の厚さよりも厚い態様としてもよい。一方の板状体11の受熱部では複数枚のシート状のメッシュ部材が重ね合わされていることにより、受熱部におけるウィック構造体15の毛細管力及び液相の作動流体の貯留量がさらに向上して、発熱体100の発熱量が増大しても、受熱部におけるドライアウトを確実に防止できる。
【0044】
また、ベーパーチャンバ1では、ウィック構造体15は2箇所でコンテナ10に溶接され、溶接部20が2箇所に形成されていたが、これに代えて、ウィック構造体15は3箇所以上でコンテナ10に溶接されて溶接部20が3箇所以上形成されていてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0045】
本発明のベーパーチャンバは、ウィック構造体のコンテナ内部における固定安定性に優れ、さらに、ウィック構造体の毛細管力が優れることで液相の作動流体の還流特性に優れるので、広汎な分野で利用可能であり、例えば、携帯用の情報端末や2in1タブレット等のパーソナルコンピュータなどの高機能化された電子機器に搭載された電子部品を冷却する分野で利用価値が高い。
【符号の説明】
【0046】
1 ベーパーチャンバ
10 コンテナ
11 一方の板状体
12 他方の板状体
13 空洞部
15 ウィック構造体
20 溶接部
図1
図2
図3