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特許69991122,5-ビス(アミノメチル)フラン二ハロゲン化水素塩及びその製造方法並びに2,5-ビス(アミノメチル)フランの製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2021-12-24
(45)【発行日】2022-02-04
(54)【発明の名称】2,5-ビス(アミノメチル)フラン二ハロゲン化水素塩及びその製造方法並びに2,5-ビス(アミノメチル)フランの製造方法
(51)【国際特許分類】
   C07D 307/52 20060101AFI20220128BHJP
   C07B 61/00 20060101ALN20220128BHJP
【FI】
C07D307/52
C07B61/00 300
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2017225330
(22)【出願日】2017-11-24
(65)【公開番号】P2018090571
(43)【公開日】2018-06-14
【審査請求日】2020-10-22
(31)【優先権主張番号】P 2016230846
(32)【優先日】2016-11-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成29年度 国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構「非可食性植物由来化学品製造プロセス技術開発/研究開発項目2.木質系バイオマスから化学品までの一貫製造プロセスの開発/木質バイオマスから各種化学品原料の一貫製造プロセスの開発」委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】301021533
【氏名又は名称】国立研究開発法人産業技術総合研究所
(73)【特許権者】
【識別番号】000004503
【氏名又は名称】ユニチカ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100140198
【弁理士】
【氏名又は名称】江藤 保子
(74)【代理人】
【識別番号】100127513
【弁理士】
【氏名又は名称】松本 悟
(74)【代理人】
【識別番号】100158665
【弁理士】
【氏名又は名称】奥井 正樹
(74)【代理人】
【識別番号】100199691
【弁理士】
【氏名又は名称】吉水 純子
(74)【代理人】
【識別番号】100206829
【弁理士】
【氏名又は名称】相田 悟
(72)【発明者】
【氏名】川波 肇
(72)【発明者】
【氏名】小川 佳代子
(72)【発明者】
【氏名】石坂 孝之
(72)【発明者】
【氏名】長尾 育弘
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 拓馬
(72)【発明者】
【氏名】小林 亮介
(72)【発明者】
【氏名】秋月 隆昌
【審査官】三木 寛
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2016/0264733(US,A1)
【文献】国際公開第2012/004069(WO,A1)
【文献】国際公開第2016/150901(WO,A1)
【文献】特開2005-263639(JP,A)
【文献】特表2004-506713(JP,A)
【文献】米国特許第03978066(US,A)
【文献】Bulletin de la Societe Chimique de France,1987年,Vol.5,p.855-860
【文献】化学工学会年会研究発表講演要旨集,2017年03月03日,Vol.82,p.G122
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07D 307/52
C07B 61/00
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記の式
【化2】
(式中、Yは、I、Br、Cl又はFのいずれかを表す。)
で表される2,5-ビス(アミノメチル)フラン二ハロゲン化水素酸塩の製造方法であって、
下記の式
【化3】
で表されるフラン-2,5-ジオキシムを、触媒及び2当量以上のハロゲン化水素酸の存在下で水素化還元することを特徴とする2,5-ビス(アミノメチル)フラン二ハロゲン化水素酸塩の製造方法。
【請求項2】
前記フラン-2,5-ジオキシムが、糖類由来のフラン-2,5-ジオキシムである請求項に記載の、2,5-ビス(アミノメチル)フラン二ハロゲン化水素酸塩の製造方法。
【請求項3】
請求項又はに記載の製造方法で2,5-ビス(アミノメチル)フラン二ハロゲン化水素酸塩を製造した後、塩基を加えることにより対応するジアミンを得ることを特徴とする2,5-ビス(アミノメチル)フランの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、2,5-ビス(アミノメチル)フラン二ハロゲン化水素塩及びその製造方法並びに2,5-ビス(アミノメチル)フランの製造方法に関し、特に、糖類由来のフラン-2,5-ジオキシムを原料とした2,5-ビス(アミノメチル)フラン二ハロゲン化水素酸塩の製造方法と、該方法で得られた二ハロゲン化水素酸塩から2,5-ビス(アミノメチル)フランを製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、地球温暖化が世界的な問題となっている中、カーボンニュートラル資源、再生可能資源としてバイオマスを活用する技術の開発が活発に進められている。
【0003】
バイオマス由来の物質の中でも、ヘキソース(フルクトースやグルコース)の脱水反応により得られるフラン誘導体である5-ヒドロキシメチルフルフラール(HMF)は、ヒドロキシル基とホルミル基を有しており、容易に化学変換できるため、石油代替物質としてフラン系樹脂の原料や反応溶媒、接着剤などへの利用が期待される重要な化合物である。
【0004】
HMFは、水素化、水素化分解、エステル化等の反応により、種々の有用な化合物へ変換することができるが、その中の1つである2,5-ビス(アミノメチル)フランは、2つのアミノ基を有していることから、ポリマー原料などに用いることができる(特許文献1)。
【0005】
この2,5-ビス(アミノメチル)フランの合成方法としては、例えば、HMFを出発原料として、水素化により2,5-ビス(ヒドロキシメチル)フラン(BHMF)(特許文献2)へと誘導し、これをさらに特定の錯体触媒(特許文献3)等を用いて直接アミノ化する方法がある。
【0006】
【化3】
【0007】
また、HMFを酸化して得られたフラン-2,5-ジカルボアルデヒドとヒドロキシルアミンから生成したフラン-2,5-ジオキシムを水素化反応により2,5-ビス(アミノメチル)フランへ誘導する方法もある(特許文献4)。
【0008】
【化4】
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】米国特許出願公開第2016/0096928号明細書
【文献】特開2015-229657号公報
【文献】米国特許出願公開第2012/0232294号明細書
【文献】米国特許出願公開第2016/0264733号明細書
【非特許文献】
【0010】
【文献】Toni EL Hajj , Antoine Masroua, Jean-Claude Martin, Gerard Descotes, Bulletin de la Societe Chimique de France, 5, 855-860, 1987.
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかし、得られた2,5-ビス(アミノメチル)フランは、分子内に2つの1級アミノ基を有するため脱アンモニア等によって容易に重合しやすい。そのため、濃縮された状態または単品の状態で保存することが難しいことから、合成された2,5-ビス(アミノメチル)フランは精製後、直ちに重合反応に供されることが好ましい。
【0012】
そこで、非特許文献1では合成時に得られた2,5-ビス(アミノメチル)フランの重縮合を抑制するために、対応する二臭化水素酸塩に変換している。しかし、この手法は、2,5-ビス(アミノメチル)フランを合成する際、反応終了までに20時間以上を要することにより、反応生成物の重合を完全に抑制することができないため、目的とする2,5-ビス(アミノメチル)フラン二臭化水素酸塩の収率は51%に留まっている。また、臭化水素ガスは塩化水素ガスに比べて高価であるうえに、本手法は2段階に分けて行う必要があり取り扱いが困難である。
【0013】
本発明は、上記のような問題点を解決するため、2,5-ビス(アミノメチル)フランを安定に供給するための技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記の課題を解決するために鋭意検討した結果、本発明者らは、反応時にハロゲン化水素酸を加えて、2,5-ビス(アミノメチル)フランの合成と同時にそれを二ハロゲン化水素酸塩とすることで、フラン-2,5-ジオキシムから2,5-ビス(アミノメチル)フラン二ハロゲン化水素酸塩を1段階で簡便に合成することを見出し、結果、より安価で安定して合成・精製、そして保存することが可能であることが分かった。更に二臭化水素酸塩と比較して再結晶時の精製が容易であり、更に2,5-ビス(アミノメチル)フランが必要な時は、塩基処理後に蒸留または抽出することにより、即座にかつ容易にアミンを単離できることが分かり、上記目的を達成できることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0015】
すなわち、本発明は以下のとおりである。
]下記の式
【化2】
(式中、Yは、I、Br、Cl又はFのいずれかを表す。)
で表される2,5-ビス(アミノメチル)フラン二ハロゲン化水素酸塩の製造方法であって、
下記の式
【化3】

で表されるフラン-2,5-ジオキシムを、触媒及び2当量以上のハロゲン化水素酸の存在下で水素化還元することを特徴とする2,5-ビス(アミノメチル)フラン二ハロゲン化水素酸塩の製造方法。
]前記のフラン-2,5-ジオキシムが、糖類由来のフラン-2,5-ジオキシムである[]に記載の、2,5-ビス(アミノメチル)フラン二ハロゲン化水素酸塩の製造方法。
][]又は[]に記載の製造方法で2,5-ビス(アミノメチル)フラン二ハロゲン化水素酸塩を製造した後、塩基を加えることにより対応するジアミンを得ることを特徴とする2,5-ビス(アミノメチル)フランの製造方法。
【発明の効果】
【0016】
本発明の製造方法によれば、フラン-2,5-ジオキシムの水素化反応によって2,5-ビス(アミノメチル)フランを合成する際に、ハロゲン化水素酸を予め添加しておくことで、水素化還元と同時にハロゲン化水素酸が反応し、2,5-ビス(アミノメチル)フラン二ハロゲン化水素酸塩を1段階で簡便に合成することができる。特に、ハロゲン化水素酸として塩酸を、特定量用いて、特定の反応時間反応させることで、高選択的に2,5-ビス(アミノメチル)フラン二ハロゲン化水素酸塩を得ることができる。
この2,5-ビス(アミノメチル)フラン二ハロゲン化水素酸塩は、不純物由来のその他のハロゲン化水素酸塩との溶解度が大きく異なるため、容易に精製可能であり、また、重縮合することなく安定で保存が容易である。さらに、得られた2,5-ビス(アミノメチル)フラン二ハロゲン化水素酸塩を塩基処理することで2,5-ビス(アミノメチル)フランを遊離させることができ、続く蒸留または抽出によって高収率で単離することができる。これにより、2,5-ビス(アミノメチル)フランを効率的に高分子材料等の原料として用いることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】内部標準のピラジンのH-NMR(DO)スペクトルチャート
図2】内部標準のピラジンに、2,5-ビス(アミノメチル)フランを加えたH-NMR(DO)スペクトルチャート
図3】実施例1で得られた2,5-ビス(アミノメチル)フラン二塩酸塩のH-NMR(DO)スペクトルチャート
図4】実施例1で得られた2,5-ビス(アミノメチル)フラン二塩酸塩の13C-NMR(DO)スペクトルチャート
図5】実施例1で得られた2,5-ビス(アミノメチル)フラン二塩酸塩のIR(KBrペレット法)スペクトルチャート
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明について説明する。
以下の式は、本発明の2,5-ビス(アミノメチル)フラン二ハロゲン化水素酸塩の製造方法を示すものである。
【0019】
【化5】
(式中、Yは、I、Br、Cl又はFのいずれかを表す。)
【0020】
原料であるフラン-2,5-ジオキシムは、特に限定されないが、好ましくは、バイオマスであるセルロースやでんぷん等の糖類から得られる5-ヒドロキシメチルフルフラール(HMF)を出発原料としたものを用いることが好ましい。以下に、その1例を示す。
【0021】
【化6】
【0022】
本発明は、上記の水素化還元反応において、ハロゲン化水素酸を存在させることにより、高選択的に2,5-ビス(アミノメチル)フラン二ハロゲン化水素酸塩を製造することができる。2,5-ビス(アミノメチル)フランを安定な二ハロゲン化水素酸塩として単離することで、収率が向上するとともに、簡便に取り扱うことができる。本発明において、用いるハロゲン化水素酸の量は、目的生成物が2,5-ビス(アミノメチル)フラン二ハロゲン化水素酸塩であることから、反応基質であるフラン-2,5-ジオキシムに対して2当量以上必要であり、2当量以上60当量以下であることが好ましく、20当量以上60当量以下であることがより好ましい。
【0023】
当該手法においては、ハロゲン化水素酸としては、フッ化水素酸、塩酸、臭化水素酸、ヨウ化水素酸を用いることが可能である。好適には塩酸を用いることで最も収率良く対応する二ハロゲン水素酸塩を得ることができる。
【0024】
塩酸としては、塩化水素ガスでも濃塩酸でも希塩酸でも任意の濃度の塩酸を用いることができるが、反応後に溶媒を留去させて塩を結晶として得る必要があるため、高濃度の塩酸を用いることが好ましい。好適には1wt%以上38wt%以下の塩酸を用いることで水素化反応と同時に二ハロゲン化水素酸塩を得ることができるが、更に好適には10wt%以上38wt%以下の塩酸を用いることができ、最も好適には20wt%以上38wt%以下の塩酸を用いることで効率的に二ハロゲン化水素酸塩を得ることができる。
【0025】
本発明では、ハロゲン化水素酸とともに溶媒を用いてもよい。原料のフラン-2,5-ジオキシムは種々の溶媒への溶解度が低いため、適切な溶媒を用いる必要がある。溶媒はアルコールを用いることで好適に二ハロゲン化水素酸塩を合成することができ、メタノール、エタノール、プロパノール(異性体を含む)、ブタノール(異性体を含む)などの炭素数1~4のアルコールまたは、エチレングリコール、プロパンジオール(異性体を含む)、ブタンジオール(異性体を含む)などのジオール類なども用いることができるが、反応後に溶媒を留去する必要があることから、沸点が100℃以下の、メタノール、エタノール、プロパノール(異性体を含む)を好適に用いることができるが、更にはエタノールを用いることで最も好適に二ハロゲン化水素酸塩を合成することができる。なお、これらアルコールには、水を含んでいても、含んでいなくても反応に影響することは無いが、反応後に溶媒を留去する必要があることから、水の含有量は50wt%以下であることが好ましく、更に20wt%以下であれば好適に二ハロゲン化水素酸塩を合成することが可能で、更には10wt%以下であれば最も好適に二ハロゲン化水素酸塩を合成することができる。
【0026】
本発明の二ハロゲン化水素酸塩は、水素を還元剤とする水素化還元反応と同時に合成されることを特徴とするが、その際の触媒は、均一系触媒あるいは不均一系触媒の何れを用いてもよい。特に不均一系触媒は、反応後の分離が容易であることから好適に用いることができる。不均一系触媒は、オキシムを水素化還元する触媒であれば何れの公知の不均一系触媒であっても用いることができ、多くはラネーニッケルなどを用いることができるが、炭素を担体とするパラジウムなどの金属を担持した触媒を用いることで好適に二ハロゲン化水素酸塩を合成することができる。なお、炭素の種類は反応に影響することもあるが、概して目的物を得るには影響は少なく、活性炭やカーボンナノチューブ、フラーレンナノ結晶、グラフェンなどの各種炭素系材料を担体に用いることができる。
【0027】
本発明における反応時間は、2,5-ビス(アミノメチル)フランが生成すると同時に二ハロゲン化水素酸塩が生成することから、水素化還元反応に依存する。大方の水素化還元は48時間以内で完了するが、長時間水素化させるとフラン環が還元されて、2,5-ビス(アミノメチル)テトラヒドロフラン二ハロゲン化水素酸塩が得られてしまう。そのため、1時間以上48時間未満であれば選択性良く2,5-ビス(アミノメチル)フラン二ハロゲン化水素酸塩を合成することができる。適宜反応時間を調整する必要があり、好ましくは1時間以上24時間未満、更に好ましくは1時間以上12時間未満、最も好ましくは1時間以上6時間未満にすることで収率良く二ハロゲン化水素酸塩を得ることができる。
【0028】
【化7】
(式中、Yは、I、Br、Cl又はFのいずれかを表す。)
【0029】
本発明における反応温度は、室温でも水素化還元反応は十分進むが、温度が高すぎる場合、反応が進みすぎる可能性がある。そのため転化率、選択率、収率を鑑みながら適宜調整する必要があるが、通常は0℃以上から溶媒の沸点以下の範囲で行うことができ、好適には0℃以上80℃以下、更に好適には5℃以上60℃以下、最も好適には10℃以上40℃以下の範囲で適宜調整することで収率良く二ハロゲン化水素酸塩を得ることができる。
【0030】
以上のとおり、本発明においては、ハロゲン化水素酸の添加量、触媒、溶媒、反応時間、及び反応温度を最適化することで、高収率を達成することができる。
【0031】
本発明の方法で得られた2,5-ビス(アミノメチル)フラン二ハロゲン化水素酸塩は安定で保存が容易である。また、他の不純物由来のハロゲン化水素酸塩との溶解性が異なるため、再結晶等で容易に精製することができる。再結晶溶媒は、特に限定されないが、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール等のアルコールやクロロホルム、ジクロロメタン、テトラヒドロフラン、酢酸エチル等から選択し、これらを単独あるいは混合して用いてもよい。特にエタノール、1-プロパノール、2-プロパノール、酢酸エチル、クロロホルムとメタノールの混合溶媒等を用いることで好適に再結晶を行うことができ、目的の二ハロゲン化水素酸塩を高純度で得ることができる。特に、不純物に2,5-ビス(アミノメチル)テトラヒドロフラン二ハロゲン化水素酸塩が含まれる場合は、エタノールもしくは酢酸エチルに対する溶解度の違いから、洗浄もしくは再結晶により2,5-ビス(アミノメチル)フラン二ハロゲン化水素酸塩のみを得ることができる。
【0032】
更に、得られた2,5-ビス(アミノメチル)フラン二ハロゲン化水素酸塩を、水酸化カリウム、水酸化ナトリウム、炭酸ナトリウムなどの塩基で処理することにより2,5-ビス(アミノメチル)フランを遊離させることができる。遊離した2,5-ビス(アミノメチル)フランは、蒸留もしくは酢酸メチル、酢酸エチル、ジエチルエーテル、塩化メチレン、クロロホルム、ジメチルスルホキシド、N,N-ジメチルホルムアミド、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサン、ヘキサン、N-メチル-2-ピロリドン、テトラヒドロフラン、ベンゼン、トルエン、キシレン、クロロベンゼン、フルオロベンゼンなどの各種溶媒あるいは、これらの混合溶媒で抽出することで容易に単離できる。
【0033】
水素化還元反応が終了した後であれば、塩基を加えるタイミングは制約されない。例えば反応終了後の反応液に直接加えてもよく、精製された2,5-ビス(アミノメチル)フラン二ハロゲン化水素酸塩に加えてもよい。その後酢酸エチルやジクロロメタン等で抽出することにより2,5-ビス(アミノメチル)フランを得ることができ、溶媒留去後そのまま続く反応に供することもできる。
【実施例
【0034】
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0035】
(実施例1)
本実施例においては、以下のようにして、塩酸の添加により、高選択的にジアミンを合成しうることを確認した。
触媒として、東京化成工業株式会社製の10wt%炭素担持パラジウム触媒(以下、「10%Pd/C」とする。)を用い、溶媒にエタノールを用いた。300mLの三ツ口フラスコに、フラン-2,5-ジオキシム(110mg、0.71ミリモル)、エタノール30mL、塩酸3.0mL(濃度37wt%、36ミリモル、50当量)、触媒25mg(10%Pd/C)を入れ、細管を介して溶液に水素ガスを10mL/分の流速でバブリングさせながら、室温(25℃)で、マグネチックスターラーで攪拌しながら反応させた。5時間後、ろ過により触媒を除去し、ロータリーエバポレーターで反応液を留去後、酢酸エチルを50mL加えることで、2,5-ビス(アミノメチル)フラン二塩酸塩を含む固体が得られた。これをH-NMR(溶媒:DO、内部標準物質:ピラジン)で定量することにより、2,5-ビス(アミノメチル)フラン二塩酸塩のNMR収率は97%、2,5-ビス(アミノメチル)テトラヒドロフラン二塩酸塩のNMR収率は<1%、フラン-2,5-ジオキシムのNMR原料回収率は0%と決定された。さらに得られた固体を、エタノールおよび酢酸エチルで洗浄後、乾燥することで、単離収率97%で137mgの2,5-ビス(アミノメチル)フラン二塩酸塩を得た。
【0036】
なお、同様の反応を、水素バブリングを実施せず、風船等でフラスコ内を常圧水素雰囲気にして、室温で24時間反応させた場合、NMR収率94%で2,5-ビス(アミノメチル)フラン二塩酸塩が得られたことから、必ずしもバブリングしなくても合成可能であることもわかった。更に、このときに、2,5-ビス(アミノメチル)テトラヒドロフラン二塩酸塩がNMR収率2%で得られてきていることが分かったが、エタノールから再結晶することにより、目的の2,5-ビス(アミノメチル)フラン二塩酸塩のみに精製可能であることを確認した。
【0037】
図1に内部標準のピラジンのH-NMR(DO)スペクトルチャート、図2に、内部標準のピラジンに2,5-ビス(アミノメチル)フランを加えたH-NMR(DO)スペクトルチャート、図3に2,5-ビス(アミノメチル)フラン二塩酸塩のH-NMR(DO)スペクトルチャート、図4に2,5-ビス(アミノメチル)フラン二塩酸塩の13C-NMR(DO)スペクトルチャート、図5に2,5-ビス(アミノメチル)フラン二塩酸塩のIR(KBrペレット法)スペクトルチャートをそれぞれ示す。
また、2,5-ビス(アミノメチル)フラン二塩酸塩の塩素の元素分析結果を以下に示す。
(元素分析)組成C12ClO、計算値Cl35.61、分析値Cl35.62
【0038】
(実施例2~10)
表1に記載の通りに、酸と酸添加量と溶媒と反応時間を変更する以外は、実施例1と同様にして2,5-ビス(アミノメチル)フラン二ハロゲン化水素酸塩を合成した後、H-NMR(溶媒:DOまたはジメチルスルホキシド-d6、内部標準物質:ピラジン)で定量することにより、2,5-ビス(アミノメチル)フラン二ハロゲン化水素酸塩、2,5-ビス(アミノメチル)テトラヒドロフラン二ハロゲン化水素酸塩のNMR収率およびフラン-2,5-ジオキシムのNMR原料回収率を決定した。その後、エタノールおよび酢酸エチルで洗浄もしくは再結晶することにより、目的の2,5-ビス(アミノメチル)フラン二ハロゲン化水素酸塩を単離精製した。
【0039】
(比較例1)
表1に記載の通りに、酸と酸添加量と溶媒と反応時間を変更する以外は、実施例1と同様にして2,5-ビス(アミノメチル)フランを合成した後、H-NMR(溶媒:ジメチルスルホキシド-d6、内部標準物質:ピラジン)で定量することにより、2,5-ビス(アミノメチル)フラン、2,5-ビス(アミノメチル)テトラヒドロフランのNMR収率およびフラン-2,5-ジオキシムのNMR原料回収率を決定した。
【0040】
上記実施例1~10、比較例1において得られた2,5-ビス(アミノメチル)フラン二ハロゲン化水素酸塩、2,5-ビス(アミノメチル)テトラヒドロフラン二ハロゲン化水素酸塩、2,5-ビス(アミノメチル)フラン、2,5-ビス(アミノメチル)フランのNMR収率、フラン-2,5-ジオキシムのNMR原料回収率を表1に示す。
【0041】
【表1】
【0042】
実施例1~10のいずれにおいても、2,5-ビス(アミノメチル)フラン二ハロゲン化水素酸塩を1段階で簡便に合成することができた。
そして、実施例1~10と比較例1との対比から明らかなように、本発明のハロゲン化水素酸を添加する方法によれば、副反応であるフラン環の水素還元が抑制されることがわかる。
なお、副生成物の2,5-ビス(アミノメチル)テトラヒドロフラン二ハロゲン化水素酸塩は、エタノール等への溶媒に対する溶解性の違いから、目的物である2,5-ビス(アミノメチル)フラン二ハロゲン化水素酸塩と容易に分離することができる。
また、実施例1と実施例9で得られたものから2,5-ビス(アミノメチル)フラン二ハロゲン化水素酸塩を分離して対比したところ、実施例1から得られた2,5-ビス(アミノメチル)フラン二塩酸塩はさらさらしており、実施例9から得られた2,5-ビス(アミノメチル)フラン二臭化水素酸塩は粘稠な固体であり、塩酸塩の方が取扱い性に優れていた。
【0043】
また、実施例1、8~10の対比から、ハロゲン化水素酸として塩酸を用いると、2,5-ビス(アミノメチル)フラン二ハロゲン化水素酸塩の収率が向上することがわかる。
また、実施例1~3の対比から、反応時間を長くすることにより、原料回収率が低下し、2,5-ビス(アミノメチル)フラン二ハロゲン化水素酸塩の収率が向上することがわかる。
また、実施例1、4~6の対比より、塩酸の添加量を増やすことにより2,5-ビス(アミノメチル)テトラヒドロフラン二ハロゲン化水素酸塩の生成を抑えることができることがわかる。
また、実施例1、7の対比より、溶媒としてエタノールを用いた方が、2,5-ビス(アミノメチル)フラン二ハロゲン化水素酸塩の収率が向上することがわかる。
【0044】
(実施例11)
本実施例では、合成および単離精製した2,5-ビス(アミノメチル)フラン二塩酸塩に塩基を加え、2,5-ビス(アミノメチル)フランを得る方法について検討を行った。
2,5-ビス(アミノメチル)フラン二塩酸塩(220mg、1.1ミリモル)に1M水酸化カリウム水溶液3.0mLを加え、1時間室温で攪拌し、二塩酸塩からジアミンを遊離させた(次式参照)。その後、ジクロロメタン:メタノール=9:1の混合溶媒で抽出することで2,5-ビス(アミノメチル)フランが89%の収率、99%以上の純度で得られた。
また、加える1M水酸化カリウム水溶液を22mLとした以外は同様にして2,5-ビス(アミノメチル)フランを得たところ、収率が63%に減少し、塩基の量が多いと抽出時のロスが大きいことがわかった。
【0045】
【化8】
【0046】
さらに、2,5-ビス(アミノメチル)フラン二塩酸塩と2,5-ビス(アミノメチル)テトラヒドロフラン二塩酸塩の混合物から1M水酸化カリウム水溶液を使って、対応するジアミンの混合物が得られたが(次式参照)、抽出、蒸留等の操作ではそれぞれを精製することが難しいことがわかった。
【0047】
【化9】
図1
図2
図3
図4
図5