IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 日本製粉株式会社の特許一覧

特許6999359菓子類用穀粉組成物、菓子類用生地及び菓子類
<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2021-12-24
(45)【発行日】2022-01-18
(54)【発明の名称】菓子類用穀粉組成物、菓子類用生地及び菓子類
(51)【国際特許分類】
   A21D 2/38 20060101AFI20220111BHJP
   A21D 10/02 20060101ALI20220111BHJP
   A21D 13/80 20170101ALI20220111BHJP
【FI】
A21D2/38
A21D10/02
A21D13/80
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2017206904
(22)【出願日】2017-10-26
(65)【公開番号】P2019076049
(43)【公開日】2019-05-23
【審査請求日】2020-07-29
(73)【特許権者】
【識別番号】000231637
【氏名又は名称】株式会社ニップン
(74)【代理人】
【識別番号】100094569
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 伸一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100088694
【弁理士】
【氏名又は名称】弟子丸 健
(74)【代理人】
【識別番号】100103610
【弁理士】
【氏名又は名称】▲吉▼田 和彦
(74)【代理人】
【識別番号】100084663
【氏名又は名称】箱田 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100093300
【弁理士】
【氏名又は名称】浅井 賢治
(74)【代理人】
【識別番号】100119013
【弁理士】
【氏名又は名称】山崎 一夫
(74)【代理人】
【識別番号】100123777
【弁理士】
【氏名又は名称】市川 さつき
(74)【代理人】
【識別番号】100111796
【弁理士】
【氏名又は名称】服部 博信
(74)【代理人】
【識別番号】100156982
【弁理士】
【氏名又は名称】秋澤 慈
(72)【発明者】
【氏名】益田 美子
(72)【発明者】
【氏名】山本 克広
(72)【発明者】
【氏名】大楠 秀樹
【審査官】澤田 浩平
(56)【参考文献】
【文献】特開平09-187216(JP,A)
【文献】特開平09-149756(JP,A)
【文献】特開2000-184848(JP,A)
【文献】食品機械装置,2016年,53(6),pp.42-46
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A21D,A23L
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
普通小麦の薄力小麦粉とデュラム小麦セトデュールのセモリナを含むクッキー類又はバターケーキ類用穀粉組成物であって、普通小麦の薄力小麦粉とデュラム小麦セトデュールのセモリナの合計質量に対して5~25質量%のデュラム小麦セトデュールのセモリナを含むクッキー類又はバターケーキ類用穀粉組成物。
【請求項2】
普通小麦の薄力小麦粉とデュラム小麦セトデュールのセモリナを含むスポンジケーキ類用穀粉組成物であって、普通小麦の薄力小麦粉とデュラム小麦セトデュールのセモリナの合計質量に対して3~15質量%のデュラム小麦セトデュールのセモリナを含むスポンジケーキ類用穀粉組成物。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載の穀粉組成物を含む菓子類用生地。
【請求項4】
請求項3に記載の菓子類用生地を焼成する工程を含む菓子類の製造方法
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は菓子類用穀粉組成物、菓子類用生地及び菓子類に関するものである。
【背景技術】
【0002】
小麦粉を原材料とする菓子類は、植物学的分類における普通系小麦に属する軟質小麦から得られる比較的低タンパク質量である薄力小麦粉を主体として製造されている。
植物学的分類における二粒系小麦に属するデュラム小麦は、カロテノイド色素の含量が高く、高タンパク質含量、高硬度等の特性から、硬く弾力のある食感が求められるパスタ類の製造に使用される。一般に、タンパク質含量が少ない薄力小麦粉を主体として製造する菓子類に、普通小麦から得られるパン用小麦粉(強力小麦粉)と同程度の高タンパク質含量を有するデュラム小麦を使用すると、硬い製品となったりザラついた食感になったりするため、菓子類の製造には適さないとされてきた。デュラム小麦のセモリナを、マフィンなどをどっしりした食感にするために使用したり、海外ではスージーケーキ(シンガポール)、セモリナケーキ(イタリア)などに使用する例があるが、軽い食感が好まれる菓子類に使うことは一般にはほとんどない。
デュラム小麦セモリナを菓子類に使用した例として、特許文献1には、粒径が350μm以上のデュラム小麦セモリナを30重量%以上の割合で含有する穀類粉砕物を用いて菓子類を製造することにより、通常よりも油脂含量を低減させた配合で菓子類を製造しても、過度の粘りがなく、歯切れのよい軽い良好な食感、および変化に富む、良好な刺激のある歯ごたえを有し、風味にも優れる菓子類を製造することが記載されている。しかしながらこの方法では製品のボリュームやしっとり感の点でその効果は十分とはいえなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開平9-187216
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
良好な生地性、食感及び製品外観を有する菓子類の提供を課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは上記課題を解決するため鋭意検討を行った。その結果、クッキー類及びバターケーキ類において、普通小麦の薄力小麦粉とデュラム小麦セトデュールのセモリナの合計質量に対して5~25質量%のセトデュールのセモリナを使用することで作業時の生地性が良好で、優れた食感を有する製品が得られることを見いだし、また、スポンジケーキ類においても、普通小麦の薄力小麦粉とデュラム小麦セトデュールのセモリナの合計質量に対して3~15質量%のセトデュールのセモリナを使用することで同様の製品が得られることを見いだし、本発明を完成するに至った。
すなわち本発明は以下の通りである。
[1]普通小麦の薄力小麦粉とデュラム小麦セトデュールのセモリナを含むクッキー類又はバターケーキ類用穀粉組成物であって、普通小麦の薄力小麦粉とデュラム小麦セトデュールのセモリナの合計質量に対して5~25質量%のデュラム小麦セトデュールのセモリナを含むクッキー類又はバターケーキ類用穀粉組成物。
[2]普通小麦の薄力小麦粉とデュラム小麦セトデュールのセモリナを含むスポンジケーキ類用穀粉組成物であって、普通小麦の薄力小麦粉とデュラム小麦セトデュールのセモリナの合計質量に対して3~15質量%のデュラム小麦セトデュールのセモリナを含むスポンジケーキ類用穀粉組成物。
[3]前記[1]又は前記[2]に記載の穀粉組成物を含む菓子類用生地。
[4]前記[3]に記載の菓子類用生地を焼成してなる菓子類。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、製造作業時の生地性・作業性が良好で、食感や製品外観が優れた菓子類を得ることが出来る。
【発明を実施するための形態】
【0007】
本発明において菓子類とは薄力小麦粉を代表とする穀粉などの澱粉含有物、油脂、砂糖、鶏卵など含む生地を混合しオーブンにて焼成した食品である。
本発明においてクッキー類とは薄力小麦粉を主原料とする小型の焼き菓子であり、例えば、クッキー、サブレ、ビスケット、クラッカー等が挙げられる。
本発明においてバターケーキ類とは、主原料の1つとしてバターを用いたケーキであり、主な原料としてバター、砂糖、卵、薄力小麦粉、必要によりベーキングパウダー等の化学気泡剤から作られる。例えばパウンドケーキ、バターケーキ、カップケーキ、マドレーヌ、バウムクーヘンが挙げられる。バターについては、食感などを考慮し、マーガリンやショートニングなど他の油脂を使用してもかまわない。
本発明においてスポンジケーキ類とは卵、砂糖、薄力小麦粉を基本材料として、卵の気泡性を利用した生地を使用して作られる。例えば、スポンジケーキ、シフォンケーキ、カステラ、ブッセが挙げられる。
【0008】
本発明の穀粉組成物は普通小麦の薄力小麦粉とデュラム小麦セトデュールのセモリナを含む。
本発明において「セモリナ」とはデュラム小麦などの硬質小麦の製粉工程において得られる比較的粒度の粗い状態の胚乳の粉砕物を指し、一般に目開き約300μmの篩を抜けない程度の粗さのものをいう。
また本発明において「小麦粉」は小麦の胚乳部分を製粉したものであってセモリナよりも粒度が細かいものを意味し、セモリナとは区別される。なお、食品の安全性に関する国際規格であるコーデックス規格では、規格178-1991において、粒度に関して、目開き315μmの篩を最大で79%抜けるものをデュラム小麦セモリナと定義している。同規格152-1985では目開き212μmの篩を98%以上抜けるものを小麦粉と定義している。
【0009】
本発明において「薄力小麦粉」は、軟質小麦を製粉して得られる小麦粉であって比較的低いタンパク質含有量のものを言う。薄力小麦粉のタンパク質含有量は、目安として6.5~9.5質量%程度であるがこれに限定されない。
本発明において「デュラム小麦」は、植物学的分類における二粒系小麦に属し、カロテノイド色素の含量が高く、高タンパク質含量、高硬度等の特性を有する。
本発明においてセモリナの原料となるデュラム小麦は、日本初のデュラム小麦品種である「セトデュール」のものに限定される。外国産デュラム小麦を菓子類に使用すると、硬い製品となったりザラついた食感になったりするため、菓子類の製造には適さないとされてきた。実際に外国産デュラム小麦のセモリナを使用した場合、生地がベタついて作業性が悪化し、また硬い食感の製品となり、本発明の効果を得ることが出来ない。
本発明において、「普通小麦」とは上記デュラム小麦と異なる、植物学的分類における普通系小麦に属する小麦をいう。
本発明において薄力小麦粉の原料となる普通小麦は、菓子類に適した軟質小麦品種であれば特に限定されず、例えばWW(ウェスタン・ホワイト)や国内産普通小麦であるシロガネコムギ、さとのそら、などが挙げられる。
【0010】
本発明のクッキー類又はバターケーキ類用穀粉組成物において、デュラム小麦セトデュールのセモリナの配合割合は、普通小麦の薄力小麦粉とデュラム小麦セトデュールのセモリナの合計質量に対して5~25質量%であり、好ましくは10~25質量%、より好ましくは15~20質量%である。
本発明のスポンジケーキ類用穀粉組成物において、デュラム小麦セトデュールのセモリナの配合割合は、普通小麦の薄力小麦粉とデュラム小麦セトデュールのセモリナの合計質量に対して3~15質量%であり、好ましくは5~15質量%、より好ましくは5~10質量%である。
【0011】
本発明の菓子類用生地は、前記クッキー類又はバターケーキ類用穀粉組成物もしくはスポンジケーキ類用穀粉組成物を含む。また本発明の菓子類は本発明の菓子類用生地を焼成して成る。
本発明の菓子類用生地及び菓子類の製造においては、所定量の穀粉組成物以外に、強力小麦粉、中力小麦粉、ライ麦粉、コーンフラワー、大麦粉、米粉などの穀粉;イースト、イーストフード;タピオカ澱粉、馬鈴薯澱粉、コーンスターチ、ワキシーコーンスターチ、小麦澱粉など及びこれらにα化、エーテル化、エステル化、アセチル化、架橋処理等を行った加工澱粉類;ブドウ糖、果糖、乳糖、砂糖、イソマルトースなどの糖類;卵黄、卵白、全卵その他の卵に由来する成分である卵成分;粉乳、脱脂粉乳、大豆粉乳等の乳成分;ショートニング、ラード、マーガリン、バター、液状油等の油脂類;乳化剤;食塩等の無機塩類;保存料;ビタミン;カルシウム等の強化剤等の通常菓子類の製造に用いる副原料を使用することができる。
【0012】
本発明の菓子類は、所定量の普通小麦の薄力小麦粉とデュラム小麦セトデュールのセモリナを含む、前記穀粉組成物を含む以外は常法に従って製造することが出来る。例えばシュガーバッター法や共立て法やオールイン法やフラワーバッター法や別立て法が挙げられる。
【0013】
シュガーバッター法は、砂糖と油脂をよくすり混ぜ、分離しないように数回に分けて卵を加えながら都度混合した後、小麦粉と、必要に応じてベーキングパウダーを加えて生地を作り、型などを適宜使用して焼成する。
【0014】
共立て法は、全卵と砂糖をじゅうぶんに泡立てた後、小麦粉と、必要に応じてベーキングパウダーを加えて生地を作り、型などを適宜使用して焼成する。口溶けをよくするため、小麦粉を加えた後に、液状の油脂類を加える場合もある。
【0015】
オールイン法は、卵と砂糖と起泡性乳化油脂と、必要に応じて液状の油脂類を加えてじゅうぶんに泡立てた後、小麦粉を加えて生地を作り、型などを適宜使用して焼成する。
【0016】
フラワーバッター法は、油脂をクリーム状になるまで練り、小麦粉と、必要に応じてベーキングパウダーを加えて撹拌したところに、予め混ぜておいた卵と砂糖を分離しないように数回に分けて加えながら都度混合して生地を作り、型などを適宜使用して焼成する。
【0017】
別立て法は、卵黄と砂糖をよくすり混ぜたところに、卵白と砂糖で予め作っておいたメレンゲを数回に分けて加えながら都度混合後、小麦粉と、必要に応じてベーキングパウダーを加えて生地を作り、型などを適宜使用して焼成する。
【実施例
【0018】
以下本発明を具体的に説明する為に実施例を示すが、本発明は以下の実施例のみに限定されるものではない。
【0019】
製造例1 スポンジケーキの製造
(1)乳化剤(三菱ケミカルフーズ株式会社製:商品名 リョートーエステルSP-A)5質量部、水25質量部、上白糖120質量部、全卵110質量部、サラダ油10質量部を加え、低速1分間ミキシングする。
(2)上記に、普通小麦の薄力小麦粉(日本製粉株式会社製:商品名 ハート)100質量部を加え、低速1分、高速1分、中速3分間ミキシングし、生地を得た。
(3)スポンジ型に350g流し込み、170℃、30分間焼成し、スポンジケーキを得た。
【0020】
試験1 スポンジケーキの生地性と食感に与えるセトデュールの影響
普通小麦の薄力小麦粉とデュラム小麦のセモリナの添加量を表2記載の割合にした以外は製造例1に従ってスポンジケーキを製造した。
【0021】
官能評価
それぞれのスポンジケーキについて、生地性及び食感を、熟練パネラー10名により表1の評価基準に従って評価した。なお、セトデュールのセモリナを使用せず普通小麦の薄力小麦粉100%で製造した比較例1を3点とした。
【0022】
評価基準表
【表1】
【0023】
【表2】
【0024】
実施例1及び2では、生地性及び食感とも良好であった。セトデュールを20%にした比較例2では生地性及び食感ともに劣る結果となった。外国産デュラムを使用した比較例3では、生地性及び食感ともに好ましくなかった。
【0025】
製造例2 パウンドケーキの製造
(1)上白糖90質量部、バター90質量部を中速5分間すりあわせる。ついで全卵90質量部を添加し、低速2分間ミキシングする。更に、普通小麦の薄力小麦粉(日本製粉株式会社製:商品名 ハート)100質量部、ベーキングパウダー2質量部を加え、低速1分間ミキシングし、生地を得た。
(2)パウンド型に得られた生地を350g入れ、180℃、30分間焼成しパウンドケーキを得た。
【0026】
試験2 パウンドケーキの製品外観と食感に与えるセトデュールの影響
普通小麦の薄力小麦粉とデュラム小麦のセモリナの添加量を表3記載の割合にした以外は製造例2に従ってパウンドケーキを製造した。
それぞれのパウンドケーキについて、製品外観及び食感を、熟練パネラー10名により表1の評価基準に従って評価した。なお、セトデュールのセモリナを使用せず普通小麦の薄力小麦粉100%で製造した比較例4を3点とした。
【0027】
【表3】
【0028】
実施例3及び4では、製品外観及び食感とも良好であった。セトデュールを30%にした比較例5では製品外観及び食感ともに劣る結果となった。外国産デュラムを使用した比較例6では、製品外観及び食感ともに好ましくなかった。
【0029】
製造例3 クッキーの製造
(1)上白糖50質量部、バター70質量部、塩0.5質量部を中速5分間すりあわせる。ついで全卵10質量部を添加し、低速2分間ミキシングする。更に、普通小麦の薄力小麦粉(日本製粉株式会社製:商品名 ハート)100質量部、ベーキングパウダー0.3質量部を加え、低速1分間ミキシングし、生地を得た。
(2)冷蔵庫にて1時間休ませた前記生地を直径約3cmの棒状に成形し、再び冷蔵庫で休ませた後、厚さ約1cmにスライスし、170℃、15分間焼成しクッキーを得た。
【0030】
試験3 クッキーの製品外観と食感に与えるセトデュールの影響
普通小麦の薄力小麦粉とデュラム小麦のセモリナの添加量を表5記載の割合にした以外は製造例3に従ってクッキーを製造した。
それぞれのクッキーについて、製品外観及び食感を、熟練パネラー10名により下記の表4の評価基準に従って評価した。なお、セトデュールのセモリナを使用せず普通小麦の薄力小麦粉100%で製造した比較例7を3点とした。
【0031】
評価基準表
【表4】
【0032】
【表5】
実施例5及び6では、製品外観及び食感とも良好であった。セトデュールを30%にした比較例8では製品外観及び食感ともに劣る結果となった。外国産デュラムを使用した比較例9では、製品外観及び食感ともに好ましくないものであった。