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特許6999416リチウムイオン二次電池正極用バインダー
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2021-12-24
(45)【発行日】2022-02-04
(54)【発明の名称】リチウムイオン二次電池正極用バインダー
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/62 20060101AFI20220128BHJP
   H01M 4/13 20100101ALI20220128BHJP
   C08F 220/12 20060101ALN20220128BHJP
   C08F 220/06 20060101ALN20220128BHJP
【FI】
H01M4/62 Z
H01M4/13
C08F220/12
C08F220/06
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2017527164
(86)(22)【出願日】2016-06-22
(86)【国際出願番号】 JP2016068449
(87)【国際公開番号】W WO2017006760
(87)【国際公開日】2017-01-12
【審査請求日】2019-06-14
(31)【優先権主張番号】P 2015137926
(32)【優先日】2015-07-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000195661
【氏名又は名称】住友精化株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100124431
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 順也
(74)【代理人】
【識別番号】100174160
【弁理士】
【氏名又は名称】水谷 馨也
(72)【発明者】
【氏名】牛島 靖仁
(72)【発明者】
【氏名】藤重 隼一
(72)【発明者】
【氏名】橋本 瞬
(72)【発明者】
【氏名】金原 祐治
【審査官】近藤 政克
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2013/111291(WO,A1)
【文献】特開2012-014920(JP,A)
【文献】国際公開第2014/156195(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/62
H01M 4/13
C08F 220/12
C08F 220/06
JSTPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
バインダー樹脂と、500ppm以下の油溶性ラジカル開始剤とを含み、
前記バインダー樹脂が、ポリ(メタ)アクリル酸、ポリアクリロニトリル、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブタジエン、エチレン-酢酸ビニル共重合体、エチレン性不飽和カルボン酸アルカリ金属中和物とビニルアルコールを含む共重合体、及びアルキル変性カルボキシル基含有共重合体からなる群より選ばれた少なくとも1種を含有し、
前記アルキル変性カルボキシル基含有共重合体は、(メタ)アクリル酸100質量部に対して、アルキル基の炭素数が18~24である(メタ)アクリル酸アルキルエステルが0.1~10質量部の割合で共重合されてなる、リチウムイオン二次電池正極用バインダー。
【請求項2】
前記油溶性ラジカル開始剤が、有機過酸化物、アゾ化合物及びレドックス開始剤からなる群より選ばれた少なくとも1種である、請求項1に記載のリチウムイオン二次電池正極用バインダー。
【請求項3】
前記バインダー樹脂が、モノマーの懸濁重合体、乳化重合体、分散重合体、または沈殿重合体である、請求項1または2に記載のリチウムイオン二次電池正極用バインダー。
【請求項4】
活物質、導電助剤、および請求項1~のいずれかに記載のリチウムイオン二次電池正極用バインダーを含む、リチウムイオン二次電池用正極。
【請求項5】
前記活物質、前記導電助剤、及び前記バインダーの合計質量に対して、前記バインダーが、0.5~30質量%含まれている、請求項4に記載のリチウムイオン二次電池用正極。
【請求項6】
請求項4または5に記載のリチウムイオン二次電池用正極を備える、リチウムイオン二次電池。
【請求項7】
請求項6に記載のリチウムイオン二次電池を用いた電気機器。
【請求項8】
ポリ(メタ)アクリル酸、ポリアクリロニトリル、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブタジエン、エチレン-酢酸ビニル共重合体、エチレン性不飽和カルボン酸アルカリ金属中和物とビニルアルコールを含む共重合体、及びアルキル変性カルボキシル基含有共重合体からなる群より選ばれた少なくとも1種を含有するバインダー樹脂と、500ppm以下の油溶性ラジカル開始剤とを含む組成物であって、前記アルキル変性カルボキシル基含有共重合体は、(メタ)アクリル酸100質量部に対して、アルキル基の炭素数が18~24である(メタ)アクリル酸アルキルエステルが0.1~10質量部の割合で共重合されてなる組成物の、リチウムイオン二次電池正極用バインダーへの使用。
【請求項9】
ポリ(メタ)アクリル酸、ポリアクリロニトリル、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブタジエン、エチレン-酢酸ビニル共重合体、エチレン性不飽和カルボン酸アルカリ金属中和物とビニルアルコールを含む共重合体、及びアルキル変性カルボキシル基含有共重合体からなる群より選ばれた少なくとも1種を含有するバインダー樹脂と、500ppm以下の油溶性ラジカル開始剤とを混合する工程を備え、
前記アルキル変性カルボキシル基含有共重合体は、(メタ)アクリル酸100質量部に対して、アルキル基の炭素数が18~24である(メタ)アクリル酸アルキルエステルが0.1~10質量部の割合で共重合されてなる、リチウムイオン二次電池正極用バインダーの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウムイオン二次電池用正極に対して優れた高率放電特性を付与できるリチウムイオン二次電池正極用バインダー、当該バインダーを含むリチウムイオン二次電池用正極、及び当該正極を備えるリチウムイオン二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、ノートパソコン、スマートフォン、携帯ゲーム機器、PDA等の携帯電子機器の普及に伴い、これらの機器をより軽量化し、且つ、長時間の使用を可能とするため、電源として使用される二次電池の小型化及び高エネルギー密度化が要求されている。
【0003】
特に、電動自動車、電動二輪車、電気自動車等の車両用電源としての二次電池の利用が拡大している。このような車両用電源にも使用される二次電池には、高エネルギー密度化のみならず、幅広い温度域でも動作することが求められる。
【0004】
二次電池としては、従来、ニッケル-カドミウム電池、ニッケル-水素電池等が主流であったが、上記した小型化及び高エネルギー密度化の要請から、リチウムイオン二次電池の使用が増大する傾向にある。
【0005】
二次電池の電極は、通常、電極用バインダー(以下、単にバインダーということがある)を溶媒に溶解させたバインダー溶液、または分散媒に分散させた分散液に対して、活物質及び導電助剤を混合した電極用合剤スラリー(以下、単にスラリーということがある)を集電体に塗布し、溶媒や分散媒を乾燥などの方法で除去して、活物質、導電助剤及び集電体の各間を結着させて製造される。
【0006】
電極用バインダーとしては従来、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)のようなフッ素系樹脂が用いられてきたが、有機溶媒を用いた溶液の形状で使用するものであり、有機溶媒使用に伴う環境負荷の増大という問題がある。
【0007】
そこで、水に溶解又は分散することができ、安価で環境負荷が少ない、カルボキシメチルセルロース(CMC)及びスチレン-ブタジエンゴムラテックス(SBR)やアルカリ陽イオンで置換されたポリアクリル酸とポリビニルアルコールとの架橋化合物などのリチウムイオン二次電池用バインダー組成物が提案されている(特許文献1及び特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開2010-146871号公報
【文献】特開2008-204829号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
ところが、本発明者らが検討したところ、例えば、特許文献1または特許文献2に開示されたリチウムイオン二次電池用バインダー組成物を用いた場合などにおいて、電極の内部抵抗が大きくなる場合があることを見出した。
【0010】
本発明者らがさらに検討を重ねたところ、バインダー組成物に含まれるバインダー樹脂を重合によって製造する際に使用される油溶性ラジカル開始剤がバインダー組成物中に残存しており、この油溶性ラジカル開始剤や、油溶性ラジカル開始剤が電解液などと反応して生成した副生成物が内部抵抗上昇の要因となり、これによって電池の高率放電特性が劣化することを見出した。
【0011】
このような状況下、本発明は、リチウムイオン二次電池の内部抵抗上昇を抑制し、高率放電特性を付与できるリチウムイオン二次電池正極用バインダー、当該バインダーを用いた正極、リチウムイオン二次電池、及び電気機器を提供することを主な目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討した。その結果、リチウムイオン二次電池正極用バインダー中の油溶性ラジカル開始剤の含有量を所定値以下に設定することにより、電極の内部抵抗が小さくなり、高率放電特性に優れたリチウムイオン二次電池が得られることを見出し、本発明を完成するに至った。すなわち、本発明は、下記に挙げる態様の発明を提供する。
項1. バインダー樹脂と、500ppm以下の油溶性ラジカル開始剤とを含む、リチウムイオン二次電池正極用バインダー。
項2. 前記油溶性ラジカル開始剤が、有機過酸化物、アゾ化合物及びレドックス開始剤からなる群より選ばれた少なくとも1種である、項1に記載のリチウムイオン二次電池正極用バインダー。
項3. 前記バインダー樹脂が、モノマーの懸濁重合体、乳化重合体、分散重合体、または沈殿重合体である、項1または2に記載のリチウムイオン二次電池正極用バインダー。
項4. 前記バインダー樹脂が、ポリ(メタ)アクリル酸、ポリオキシエチレン、ポリビニルアルコール、スチレン-ブタジエンゴムラテックス、ポリアクリロニトリル、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブタジエン、ポリテトラフルオロエチレン、エチレン-酢酸ビニル共重合体、エチレン性不飽和カルボン酸アルカリ金属中和物とビニルアルコールを含む共重合体、及びアルキル変性カルボキシル基含有共重合体からなる群より選ばれた少なくとも1種を含有する、項1~3のいずれかに記載のリチウムイオン二次電池正極用バインダー。
項5. 前記アルキル変性カルボキシル基含有共重合体は、(メタ)アクリル酸100質量部に対して、アルキル基の炭素数が18~24である(メタ)アクリル酸アルキルエステルが0.1~10質量部の割合で共重合されてなる、項4に記載のリチウムイオン二次電池正極用バインダー。
項6. 活物質、導電助剤、および項1~5のいずれかに記載のリチウムイオン二次電池正極用バインダーを含む、リチウムイオン二次電池用正極。
項7. 前記活物質、前記導電助剤、及び前記バインダーの合計質量に対して、前記バインダーが、0.5~30質量%含まれている、項6に記載のリチウムイオン二次電池用正極。
項8. 項6または7に記載のリチウムイオン二次電池用正極を備える、リチウムイオン二次電池。
項9. 項8に記載のリチウムイオン二次電池を用いた電気機器。
項10. バインダー樹脂と、500ppm以下の油溶性ラジカル開始剤とを含む組成物の、リチウムイオン二次電池正極用バインダーへの使用。
項11. バインダー樹脂と、500ppm以下の油溶性ラジカル開始剤とを混合する工程を備える、リチウムイオン二次電池正極用バインダーの製造方法。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、リチウムイオン二次電池正極用バインダー中の油溶性ラジカル開始剤の含有量が所定値以下に設定されている。このため、本発明のリチウムイオン二次電池正極用バインダーは、電極の内部抵抗を小さくすることができ、リチウムイオン二次電池に対して優れた高率放電特性を付与することができる。さらに、本発明によれば、当該バインダーを用いたリチウムイオン二次電池用正極、リチウムイオン二次電池、及び電気機器を提供することができる。本発明に係るリチウムイオン二次電池は、従来のリチウムイオン二次電池と比べて優れた高率放電特性を有しており、電池の高機能化と低コスト化を両立させることが可能であり、利用用途を拡大することが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明のリチウムイオン二次電池正極用バインダー、当該バインダーを用いたリチウムイオン二次電池用正極、リチウムイオン二次電池、及び電気機器について詳述する。
【0015】
<リチウムイオン二次電池正極用バインダー>
本発明のリチウムイオン二次電池正極用バインダーは、バインダー樹脂と、500ppm以下の油溶性ラジカル開始剤とを含むことを特徴とする。
【0016】
本発明のリチウムイオン二次電池正極用バインダーにおいて、油溶性ラジカル開始剤は、モノマーのフリーラジカル重合によりバインダー樹脂を製造するために使用されたものである。油溶性ラジカル開始剤としては、特に制限されないが、好ましくは、有機過酸化物、アゾ化合物、レドックス開始剤などが挙げられる。油溶性ラジカル開始剤は、1種類単独で使用してもよいし、2種類以上を組み合わせて使用してもよい。なお、本発明において、油溶性ラジカル開始剤を2種類以上含有する場合においても、バインダー中の油溶性ラジカル開始剤の含有量は500ppm以下である。
【0017】
油溶性ラジカル開始剤の具体例としては、α、α’-アゾイソブチロニトリル、2,2'-アゾビス-2,4-ジメチルバレロニトリル、2,2'-アゾビスメチルイソブチレート、過酸化ベンゾイル、ラウロイルパーオキサイド、クメンハイドロパーオキサイド、第三級ブチルハイドロパーオキサイド等が挙げられる。中でも、取り扱いやすく、安定性に優れている観点から、α、α’-アゾイソブチロニトリルが好ましい。
【0018】
バインダー樹脂は、モノマーのフリーラジカル重合体であり、前述の油溶性ラジカル開始剤を用いたフリーラジカル重合により製造される。バインダー樹脂の具体例としては、モノマーの懸濁重合体、乳化重合体、分散重合体、沈殿重合体などが挙げられる。
【0019】
バインダー樹脂としては、例えば、ポリ(メタ)アクリル酸、ポリオキシエチレン、ポリビニルアルコール、スチレン-ブタジエンゴムラテックス、ポリアクリロニトリル、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブタジエン、ポリテトラフルオロエチレン、エチレン-酢酸ビニル共重合体、エチレン性不飽和カルボン酸アルカリ金属中和物とビニルアルコールを含む共重合体、アルキル変性カルボキシル基含有共重合体などが挙げられる。これらの中でも材料の入手のしやすさ、導電助剤との親和性による結着性などの観点から、アルキル変性カルボキシル基含有共重合体が好ましく用いられる。バインダー樹脂は、1種類単独で使用してもよいし、2種類以上を組み合わせて使用してもよい。
【0020】
以下、本発明において、バインダー樹脂として好適なアルキル変性カルボキシル基含有共重合体について詳しく説明する。本発明において、アルキル変性カルボキシル基含有共重合体は、(メタ)アクリル酸100質量部に対して、アルキル基の炭素数が18~24である(メタ)アクリル酸アルキルエステルが0.1~10質量部程度の割合で共重合されてなることが好ましい。なお、本発明において、「(メタ)アクリル酸」とは、「アクリル酸及びメタクリル酸」の総称であり、これと類似するものについても同様である。
【0021】
本発明において、(メタ)アクリル酸としては、アクリル酸、β-メチルアクリル酸、メタクリル酸などが挙げられ、アクリル酸、メタクリル酸が好適に用いられる。(メタ)アクリル酸は、1種類単独で使用してもよいし、2種類以上を組み合わせて使用してもよい。
【0022】
本発明において、アルキル基の炭素数が18~24である(メタ)アクリル酸アルキルエステルとは、(メタ)アクリル酸と、アルキル基の炭素数が18~24である高級アルコールとのエステルをいい、例えば、アクリル酸ステアリル、アクリル酸エイコサニル、アクリル酸ベへニル、アクリル酸テトラコサニル、メタクリル酸ステアリル、メタクリル酸エイコサニル、メタクリル酸ベへニル、メタクリル酸テトラコサニル等が挙げられる。これらの中でも、安価で入手が容易であり、しかも得られる共重合体からなるバインダーの塗工性が優れている観点、及び結着強度の観点から、(メタ)アクリル酸ステアリル、(メタ)アクリル酸エイコサニル、(メタ)アクリル酸ベヘニル、及び(メタ)アクリル酸テトラコサニルが好適に用いられる。なお、アルキル基の炭素数が18~24である(メタ)アクリル酸アルキルエステルとしては、例えば日本油脂株式会社製の商品名ブレンマーVMA70等の市販品を用いてもよい。アルキル基の炭素数が18~24である(メタ)アクリル酸アルキルエステルは、1種類単独で使用してもよいし、2種類以上を組み合わせて使用してもよい。
【0023】
本発明において、アルキル変性カルボキシル基含有共重合体を構成する(メタ)アクリル酸と、アルキル基の炭素数が18~24である(メタ)アクリル酸アルキルエステルとの組合せは、それぞれ単独のものを組み合わせてもよいし、どちらか一方または両者について2種以上のものを併用して組み合わせてもよい。
【0024】
本発明のリチウムイオン二次電池正極用バインダーにおいて、アルキル基の炭素数が18~24である(メタ)アクリル酸アルキルエステルの割合としては、特に制限されないが、集電体からの電極用合剤の剥離や活物質の脱離を防ぎ、充放電の繰り返しに対する優れた結着持続性を付与する観点からは、好ましくは、(メタ)アクリル酸100質量部に対して0.1~10質量部程度、より好ましくは0.1~5質量部程度が挙げられる。アルキル基の炭素数が18~24である(メタ)アクリル酸アルキルエステルの割合が、(メタ)アクリル酸100質量部に対して0.1質量部未満であると、アルキル基による疎水性相互作用が弱くバインダーとしての結着力が不足する場合がある。一方、10質量部を超えると、疎水性が強くなり、後述の水などの液状媒体への均一分散が困難となる場合がある。
【0025】
本発明においては、上記の(メタ)アクリル酸と、アルキル基の炭素数が18~24である(メタ)アクリル酸アルキルエステルに加えて、さらにエチレン性不飽和基を2個以上有する化合物が共重合されていてもよい。エチレン性不飽和基を2個以上有する化合物としては、特に制限されないが、集電体からの電極用合剤の剥離や活物質の脱離を防ぎ、充放電の繰り返しに対する優れた結着持続性を付与する観点からは、エチレン性不飽和基がアリル基である化合物が好ましい。さらに、これらの中でも、活物質、炭素繊維などの導電助剤、アルミや銅などの集電体との結着性を高める観点からは、ペンタエリトリトールジアリルエーテル、ペンタエリトリトールトリアリルエーテル、ペンタエリトリトールテトラアリルエーテル等のペンタエリトリトールアリルエーテルや、ジエチレングリコールジアリルエーテル、ポリエチレングリコールジアリルエーテル、及びポリアリルサッカロースなどがさらに好ましい。なお、これらエチレン性不飽和基を2個以上有する化合物は、それぞれ単独で、あるいは2種以上を併用してもよい。
【0026】
本発明において、エチレン性不飽和基を2個以上有する化合物を使用する場合の割合としては、(メタ)アクリル酸100質量部に対して0.5質量部以下であることが好ましく、より好ましくは0.001~0.5質量部程度、さらに好ましくは0.01~0.2質量部程度が挙げられる。エチレン性不飽和基を2個以上有する化合物の割合が0.5質量部以下であれば、バインダーを含むスラリーが均一となり、電池性能が低下するおそれがない。
【0027】
本発明のバインダーに含まれるアルキル変性カルボキシル基含有共重合体の重量平均分子量としては、特に制限されないが、例えば、10000~10000000程度が挙げられる。なお、重量平均分子量は、標準ポリスチレンスチレンを用いたゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)で測定して得られた値である。
【0028】
本発明において、(メタ)アクリル酸と、アルキル基の炭素数が18~24である(メタ)アクリル酸アルキルエステルと、必要に応じて使用されるエチレン性不飽和基を2個以上有する化合物とを共重合させてアルキル変性カルボキシル基含有共重合体を得る方法としては、特に限定されず、これらの原料を不活性ガス雰囲気下、溶媒中で攪拌し、油溶性ラジカル開始剤を用いて重合させる方法等の通常の方法を用いることができる。重合方法としては、特に制限されず、通常の乳化重合、懸濁重合、分散重合、溶液重合、沈殿重合などを用いることができ、好ましくは乳化重合、懸濁重合、分散重合法、沈殿重合を用いることができる。不活性ガスとしては、例えば、窒素ガス、アルゴンガス等が挙げられる。
【0029】
また、共重合に用いる溶媒としては、(メタ)アクリル酸、アルキル基の炭素数が18~24である(メタ)アクリル酸アルキルエステル、及び必要に応じて使用されるエチレン性不飽和基を2個以上有する化合物を溶解するが、共重合によって生成するアルキル変性カルボキシル基含有共重合体を溶解しないものであって、当該反応を阻害しないものであれば特に限定されない。溶媒の具体例としては、ノルマルペンタン、ノルマルヘキサン、イソヘキサン、ノルマルヘプタン、ノルマルオクタン、イソオクタン等の鎖状炭化水素;シクロペンタン、メチルシクロペンタン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン等の脂環式炭化水素;ベンゼン、トルエン、キシレン、クロロベンゼン等の芳香族炭化水素;エチレンジクロライド等のハロゲン化炭化水素;酢酸エチル、酢酸イソプロピル等のエステル類;メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン等のケトン類等が挙げられる。溶媒は、1種類単独で使用してもよいし、2種類以上を組み合わせて使用してもよい。
【0030】
共重合に用いる油溶性ラジカル開始剤としては、油溶性のラジカル油溶性ラジカル開始剤であれば、特に限定されない。例えば、α、α’-アゾイソブチロニトリル、2,2'-アゾビス-2,4-ジメチルバレロニトリル、2,2'-アゾビスメチルイソブチレート、過酸化ベンゾイル、ラウロイルパーオキサイド、クメンハイドロパーオキサイド、第三級ブチルハイドロパーオキサイド等が挙げられる。中でも、取り扱いやすく、安定性に優れている観点から、α、α’-アゾイソブチロニトリルが好ましい。
【0031】
油溶性ラジカル開始剤の使用量としては、特に制限されないが、例えば(メタ)アクリル酸1モルに対して0.00003~0.002モル程度であることが望ましい。油溶性ラジカル開始剤の使用量が0.00003モル未満の場合、反応速度が遅くなるため経済的でなくなる場合がある。また、油溶性ラジカル開始剤の使用量が0.002モルを超える場合、重合が急激に進行するため除熱が困難となり、反応の制御が難しくなる場合がある。
【0032】
本発明のリチウムイオン二次電池正極用バインダーにおいて、残存する油溶性ラジカル開始剤(残存開始剤)が当該バインダー中に500ppm以下、好ましく300ppm以下、さらに好ましくは200ppm以下である。即ち、バインダー中に含まれるバインダー樹脂に対する、バインダー中に含まれる油溶性ラジカル開始剤の割合が、質量比で500ppm以下程度である。残存開始剤量を500ppm以下とすることにより、電池の内部抵抗上昇を抑制することができ、電池の高率放電特性を向上させることができる。
【0033】
残存開始剤の低減方法としては、特に制限されず、例えば、油溶性ラジカル開始剤の使用量を減らす方法、過熱する方法、反応停止剤を添加する方法、油溶性ラジカル開始剤と相溶性のある溶媒で洗浄する方法等があるが、以下に述べる、油溶性ラジカル開始剤と相溶性のある溶媒で洗浄する方法が好ましい。また、これらの方法のうち1つを実施してもよく、2以上を組み合わせて実施してもよい。
【0034】
反応温度としては、特に制限されないが、好ましくは50~90℃程度、より好ましくは55℃~75℃程度が挙げられる。反応温度が50℃未満である場合、反応溶液の粘度が上昇し、均一に攪拌することができなくなる場合がある。また、反応温度が90℃を超える場合、反応が急激に進行し、反応の制御ができなくなる場合がある。反応時間は、反応温度によって異なるので一概には決定することができないが、通常、0.5~5時間程度である。
【0035】
反応終了後、遠心ろ過により溶媒を脱液し、再度、新しい溶媒を加え、攪拌し、遠心ろ過により溶媒を脱液する。これにより、樹脂中に含まれる残存開始剤を低減することができる。
【0036】
反応溶液を例えば80~130℃程度に加熱し、溶媒を留去することにより、アルキル変性カルボキシル基含有共重合体を得ることができる。加熱温度が80℃未満の場合、乾燥に長時間を要する場合がある。また、加熱温度が130℃を超える場合、得られるアルキル変性カルボキシル基含有共重合体の水などの液状媒体への溶解性が悪化する場合がある。
【0037】
かくして得られるアルキル変性カルボキシル基含有共重合体の体積平均粒子径としては、特に制限されないが、0.1~50μm程度であることが好ましく、0.5~30μm程度であることがより好ましく、1~20μm程度であることがさらに好ましい。体積平均粒子径が0.1μm未満であると、電極中において、活物質を十分結着するために必要なバインダー量が多くなり、その結果、バインダーが活物質の表面を被覆してレート特性が低下する場合がある。逆に、共重合体の体積平均粒子径が50μmを超えると、導電助剤の分散が不均一となり抵抗が大きくなる可能性がある。なお、これら粒子は加水等により凝集させることができ、その場合、体積平均粒子径が100~1000μmとなってもよい。なお、アルキル変性カルボキシル基含有共重合体の体積平均粒子径は、レーザー回折式粒度分布測定装置(島津製作所社製SALD-7100)にて分散剤としてノルマルヘキサンを用いることによって測定して得られた値である。
【0038】
本発明のアルキル変性カルボキシル基含有共重合体からなるバインダーを電極に用いる場合、通常、後述する水などの液状媒体に溶解または分散させて用いられる。
【0039】
<正極>
上記のとおり、本発明のリチウムイオン二次電池正極用バインダーを正極に用いることにより、リチウムイオン二次電池用正極に対して優れた高率放電特性を付与できる。
【0040】
本発明における正極は、例えば次のようにして製造されるものである。正極活物質、導電助剤、本発明のバインダー、水などの液状媒体を混合してペースト状のスラリーを正極合剤とする。この正極合剤を正極集電体に塗布することによって、本発明のリチウムイオン二次電池用正極とすることができる。本発明のバインダーは、予め液状媒体に溶かして用いてもよいし、粉末状の本発明のバインダーと正極活物質とを予め混合し、その後に液状媒体を加えて用いてもよい。
【0041】
(正極活物質)
正極活物質としては、特に制限されず、リチウムイオン二次電池で使用される公知の正極活物質が使用できる。正極活物質の具体例としては、リン酸鉄リチウム(LiFePO4)、リン酸マンガンリチウム(LiMnPO4)、リン酸コバルトリチウム(LiCoPO4)、ピロリン酸リチウム鉄(Li2FeP27)、コバルト酸リチウム複合酸化物(LiCoO2)、スピネル型マンガン酸リチウム複合酸化物(LiMn24)、マンガン酸リチウム複合酸化物(LiMnO2)、ニッケル酸リチウム複合酸化物(LiNiO2)、ニオブ酸リチウム複合酸化物(LiNbO2)、鉄酸リチウム複合酸化物(LiFeO2)、マグネシウム酸リチウム複合酸化物(LiMgO2)、カルシウム酸リチウム複合酸化物(LiCaO2)、銅酸リチウム複合酸化物(LiCuO2)、亜鉛酸リチウム複合酸化物(LiZnO2)、モリブデン酸リチウム複合酸化物(LiMoO2)、タンタル酸リチウム複合酸化物(LiTaO2)、タングステン酸リチウム複合酸化物(LiWO2)、リチウム-ニッケル-コバルト-アルミニウム複合酸化物(LiNi0.8Co0.15Al0.052)、リチウム-ニッケル-コバルト-マンガン複合酸化物(LiNi0.33Co0.33Mn0.332)、Li過剰系ニッケル-コバルト-マンガン複合酸化物、酸化マンガンニッケル(LiNi0.5Mn1.54)、酸化マンガン(MnO2)、バナジウム系酸化物、硫黄系酸化物、シリケート系酸化物などが挙げられる。正極活物質は、1種類単独で使用してもよいし、2種類以上を組み合わせて使用してもよい。
【0042】
(導電助剤)
導電助剤は、導電性を有していれば、特に制限されないが、炭素粉末が好ましい。炭素粉末としては、通常用いられているもの、例えば、アセチレンブラック(AB)、ケッチェンブラック(KB)、黒鉛、カーボンファイバー、カーボンチューブ、グラフェン、非晶質炭素、ハードカーボン、ソフトカーボン、グラッシーカーボン、カーボンナノファイバー、カーボンナノチューブ等の炭素材料が挙げられる。導電助剤は、1種類単独で使用してもよいし、2種類以上を組み合わせて使用してもよい。
【0043】
導電助剤としては、これらの中でも導電性向上の観点から、カーボンナノファイバー及びカーボンナノチューブが好ましく、カーボンナノチューブがより好ましい。導電助剤としてカーボンナノチューブを使用する場合、その使用量については、特に制限されないが、例えば、導電助剤全体の30~100質量%程度が好ましく、40~100質量%程度がより好ましい。カーボンナノチューブの使用量が30質量%未満では正極活物質と正極集電体の間に十分な導電経路が確保されず、特に高速充放電において十分な導電経路を形成することができない場合がある。なお、カーボンナノファイバーとは、太さが数nm~数百nmの繊維状材料をいい、中空構造を有するものを特にカーボンナノチューブという。カーボンナノチューブには、単層カーボンナノチューブ、多層カーボンナノチューブなどの種類がある。これらは気相成長法、アーク放電法、レーザー蒸発法などの種々方法により製造されるが、製造方法は特に制限されない。
【0044】
正極における導電助剤の使用量については、特に制限されないが、例えば、正極活物質、導電助剤、及びバインダーの合計を100質量%とした場合、好ましくは1.5~20質量%程度、より好ましくは2.0~10質量%程度が挙げられる。なお、導電助剤の使用量が1.5質量%未満であると、正極の導電性を十分に向上させることができない場合がある。また、導電助剤の使用量が20質量%を超えると、正極活物質の割合が相対的に減少するため、電池の充放電時に高容量が得られにくいこと、液状媒体として水を用いる場合には、導電助剤の炭素粉末が水を弾くため均一分散することが難しく正極活物質の凝集を招くこと、正極活物質と比較して小さいため表面積が大きくなり使用するバインダーの量が増えることなどの点で好ましくない。
【0045】
正極における本発明のバインダーの使用量については、特に制限されないが、例えば、正極活物質、導電助剤、及びバインダーの合計を100質量%とした場合、好ましくは0.5質量%以上30質量%以下、より好ましくは1質量%以上20質量%以下、さらに好ましくは2質量%以上8質量%以下が挙げられる。バインダーが多すぎると正極の電極内抵抗が大きくなり高率放電特性の悪化を招く場合がある。また、バインダーが少なすぎると充放電サイクル特性が低下する場合がある。
【0046】
(液状媒体)
液状媒体としては、水や、非水系媒体が挙げられる。非水系媒体としては、例えば、n-オクタン、イソオクタン、ノナン、デカン、デカリン、ピネン、クロロドデカンなどの脂肪族炭化水素類;シクロペンタン、シクロヘキサン、シクロヘプタン、メチルシクロペンタンなどの環状脂肪族炭化水素類;スチレン、クロロベンゼン、クロロトルエン、エチルベンゼン、ジイソプロピルベンゼン、クメンなどの芳香族炭化水素類;メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、ブタノール、ベンジルアルコール、グリセリンなどのアルコール類;アセトン、メチルエチルケトン、シクロペンタノン、イソホロンなどのケトン類;メチルエチルエーテル、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、ジオキサンなどのエーテル類; γ-ブチロラクトン、δ-ブチロラクトンなどのラクトン類;β-ラクタムなどのラクタム類;ジメチルホルムアミド、N-メチルピロリドン、ジメチルアセトアミドなどの鎖状・環状のアミド類;メチレンシアノヒドリン、エチレンシアノヒドリン、3,3'-チオジプロピオニトリル、アセトニトリルなどのニトリル基含有化合物類;ピリジン、ピロールなどの含窒素複素環系化合物;エチレングリコール、プロピレングリコールなどのグリコール類;ジエチレングリコール、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールエチルブチルエーテルなどのジエチレングリコール類;ギ酸エチル、乳酸エチル、乳酸プロピル、安息香酸メチル、酢酸メチル、アクリル酸メチルなどのエステル類などが例示される。また、非水系媒体としては、ラッカー、ガソリン、ナフサ、ケロシンなどの混合物を用いることができる。上記液状媒体の中でも溶解性及び経済性の観点から水が好ましく、水酸化ナトリウム等のアルカリ成分を用いて溶液のpHを6~8に調整して用いるのが好ましい。
【0047】
本発明のアルキル変性カルボキシル基含有共重合体を含有するバインダーを、液状媒体に溶解または分散させて用いる場合、溶解液又は分散液全体における当該共重合体の含有量としては、好ましくは0.2~70質量%程度、より好ましくは0.5~60質量%程度、さらに好ましくは0.5~50質量%程度、特に好ましくは2~35質量%程度が挙げられる。
【0048】
スラリーのpHは4~10が好ましく、pH5~9がより好ましく、pH6~8がさらに好ましい。pHが4以下になると、正極集電体の腐食や、電解液、正極活物質の劣化などによる電池性能が低下する恐れがある。また、pHが10以上になると、アルミニウムなどの金属により構成される正極集電体が腐食され、電池性能が低下する恐れがある。
【0049】
スラリーのpHを調整することを目的として、pH調整剤を用いてもよい。pH調整剤としては、pHの酸調整剤、pHのアルカリ調整剤が挙げられる。pHの酸調整剤としては、例えば、塩酸、硫酸、りん酸、硝酸などの無機酸類;ギ酸、酢酸、プロピオン酸、クエン酸などの有機酸が挙げられる。また、pHのアルカリ調整剤としては、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウムなどの無機アルカリ類;アンモニア、メチルアミン、エチルアミンなどの有機アルカリ類などが挙げられる。
【0050】
また、本発明においては、スラリーの塗工性を向上させたり、充放電特性を向上させるために添加剤を用いてもよい。これらの添加剤としては、例えば、カルボキシメチルセルロース、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロースなどのセルロース系ポリマー、ポリアクリル酸ナトリウムなどのポリアクリル酸塩、ポリビニルアルコール、ポリエチレンオキシド、ポリビニルピロリドン、(メタ)アクリル酸-ビニルアルコール共重合体、マレイン酸-ビニルアルコール共重合体、変性ポリビニルアルコール、ポリエチレングリコール、エチレン-ビニルアルコール共重合体、ポリ酢酸ビニル部分ケン化物などが挙げられる。添加剤は、1種類単独で使用してもよいし、2種類以上を組み合わせて使用してもよい。
【0051】
これらの添加剤の使用割合としては、特に制限されないが、バインダーを構成するアルキル変性カルボキシル基含有共重合体100質量部に対して、好ましくは300質量部未満、より好ましくは30質量部以上250質量部以下、さらに好ましくは40質量部以上200質量部以下が挙げられる。このような範囲であれば、平滑性が優れた電極を得ることができる。なお、このような添加剤は、バインダーに添加して用いてもよいし、上記のスラリーに添加して用いてもよい。
【0052】
なお、正極において、本発明の目的を阻害しない範囲であれば、本発明のバインダーに加えて、アクリル酸、アクリル酸金属中和塩、メタクリル酸、メタクリル酸金属中和塩、カルボキシルメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロースなどの水溶性化合物や、スチレンブタジエン共重合体含有エマルジョン、ブタジエンアクリロニトリル共重合体含有エマルジョン、PVdF含有エマルジョン、ポリテトラフルオロエタン重合体含有エマルジョンなどの従来のバインダーを併用してもよい。
【0053】
(正極集電体)
正極集電体の材料は、電子伝導性を有し、保持した正極材料に通電し得るものであれば、特に制限されない。正極集電体の材料としては、例えば、C、Ti、Cr、Mo、Ru、Rh、Ta、W、Os、Ir、Pt、Au、Al等の導電性物質、これら導電性物質の二種類以上を含有する合金(例えば、ステンレス鋼)などが挙げられる。電気伝導性が高く、電解液中の安定性と耐酸化性がよい観点から、正極集電体の材料としてはC、Al、ステンレス鋼等が好ましく、さらに材料コストの観点からAl等が好ましい。
【0054】
正極集電体の形状としては、特に制限されないが、例えば、箔状、三次元形状などが挙げられる。なお、三次元形状(発泡メタル、メッシュ、織布、不織布、エキスパンド等)とすると、正極集電体との密着性が低いバインダーであっても高い容量密度の電極が得られ、高率充放電特性も良好になる。
【0055】
なお、箔状の正極集電体であっても、予め集電体表面上にプライマー層を形成することにより高容量化を図ることができる。プライマー層としては、正極活物質層と正極集電体との密着性が良好で、かつ、導電性を有しているものを用いることができる。例えば、炭素系導電助剤を混ぜ合わせたバインダーを正極集電体上に0.1μm~50μmの厚みで塗布することでプライマー層を形成できる。
【0056】
プライマー層用の導電助剤としては、炭素粉末が好ましい。金属系の導電助剤であると、容量密度を上げることは可能であるが、入出力特性が悪くなる場合がある。導電助剤が炭素系であれば、入出力特性が向上しやすくなる。炭素系導電助剤としては、例えば、KB、AB、VGCF、グラファイト、グラフェン、カーボンチューブ等が挙げられる。導電助剤は、1種類単独で使用してもよいし、2種類以上を組み合わせて使用してもよい。プライマー層用の導電助剤としては、導電性とコストの観点から、KBまたはABが好ましい。
【0057】
プライマー層用のバインダーとしては、炭素系導電助剤を結着できるものであれば、その種類は問わない。ただし、本発明のバインダー、PVA、CMC、アルギン酸ナトリウム等の水系バインダーを用いてプライマー層を形成すると、活物質層を形成する際に、プライマー層が溶け、効果が顕著に発揮されない場合がある。そのため、このような水系バインダーを用いる際は、あらかじめプライマー層を架橋するとよい。架橋材としては、例えば、ジルコニア化合物、ホウ素化合物、チタン化合物などが挙げられ、プライマー層用スラリー形成時にバインダー量に対して0.1~20質量%程度添加するとよい。このようにして作製されたプライマー層は、箔状の正極集電体において、水系バインダーを用いて容量密度を向上させることができる。さらに、高い電流で充放電を行っても分極が小さいため、高率充放電特性が良好になる。なお、プライマー層は、箔状の正極集電体だけでなく、三次元形状の正極集電体においても同様の効果を奏する。
【0058】
本発明のリチウムイオン二次電池用の正極は、例えば、下記組成式1で表される金属酸化物を活物質粒子表面に備える正極活物質と、本発明のバインダーとを用いたリチウムイオン二次電池用正極であってもよい。
【0059】
組成式1:LiαMβOγ
【0060】
組成式1中、Mは、Al、Ti、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Zr、Nb、Mo、Ag、Ta、W、Irからなる群から選択された少なくとも1種の金属元素であり、0≦α≦6、1≦β≦5、0<γ≦12である。このうち、耐熱性の観点から、Mは、Zrが好ましい。
【0061】
なお、本明細書において、「金属酸化物を活物質粒子表面に備える正極活物質」とは、金属酸化物が正極の電極表面にオーバーコート層として備えていること、金属酸化物が正極活物質の粒子表面に被覆されていること、及びその両方が実施されていることを含む。
【0062】
正極活物質において、活物質粒子表面に金属酸化物を備えることにより、本発明のような水系バインダーを用いる際の懸念である、正極活物質のリチウムの溶け出しによる正極活物質容量の低下、及び充電の際の水系バインダーの酸化分解を防止することができ、高率放電特性をさらに向上させることができる。
【0063】
さらに、活物質粒子表面に金属酸化物を備えることにより、動作電圧が4Vを超えるような正極活物質を、従来の電解液で使用することができる。例えば遷移金属がNiやCoであるリン酸遷移金属リチウム化合物の2価から4価または4価から2価のレドックス電位は非常に高いため、電解液から電子を奪い、酸化分解するおそれがあるが、活物質粒子表面に耐酸化性のリチウム遷移金属酸化物を備えていることにより、正極活物質が直接電解液に触れることを防ぐことができる。
【0064】
金属酸化物が正極の電極表面にオーバーコート層として備えられ、かつ、金属酸化物が活物質粒子表面に被覆されていることにより、この効果はより一層高められる。
【0065】
金属酸化物を活物質粒子表面に被覆する方法としては、特に制限されず、金属酸化物を含む所定量のコーティング液に所定量の活物質粉末を添加した後、混合する浸漬法等、従来行われている方法を用いることができる。より簡便な方法としては、金属酸化物微粒子をスプレーで活物質粒子に吹きかける方法が挙げられる。この方法によれば、活物質粒子表面に金属酸化物を好適に被覆させることができる。スプレーによるコーティング法は、簡単に行うことができ、コストの面でも有利である。電極表面への金属酸化物のコーティングにおいても、同様の方法を用いることができる。
【0066】
金属酸化物が正極の電極表面にオーバーコート層として備えられる場合、電極表面の金属酸化物のオーバーコート層の厚みとしては、0.1~10μm程度であることが好ましい。厚みが0.1μm未満であると、正極活物質容量の低下と充電の際の水系バインダーの酸化分解を十分に防止することができない場合がある。また、厚みが10μmを超えると、電極厚みが増し、電池容量が低下するだけでなく、電池のインピーダンスを向上させるため高率放電特性が悪くなる傾向がある。
【0067】
正極活物質は、金属酸化物と導電助剤との混合物を活物質粒子表面に備えることができる。この場合、例えば、予め金属酸化物と炭素前躯体との混合物を粒子表面に備え、これを加熱処理法により炭化する方法を採用してもよい。なお、加熱処理法とは、非酸化性雰囲気(還元雰囲気、不活性雰囲気、減圧雰囲気など酸化されにくい状態)で、600~4,000℃程度で加熱処理を施して炭素前躯体を炭化させ、導電性を発現させる方法である。
【0068】
炭素前躯体としては、加熱処理により炭素材料となりえるものであれば、特に制限されず、例えば、グルコース、クエン酸、ピッチ、タール、電極に用いられるバインダー材料等が挙げられる。
【0069】
金属酸化物と炭素前躯体との合計を100質量%とした場合、炭素前躯体の割合は0.5~20質量%程度であることが好ましい。炭素前躯体の割合が0.5質量%未満であると、正極の導電性を十分に向上させることができない場合がある。また、炭素前躯体の割合が20質量%を超えると、水系スラリーの作製の際、カーボンが水を弾くため、均一分散することが難しく、正極活物質の凝集を招く可能性が高くなる傾向がある。正極活物質が、炭素被覆されたような粉末である場合や、カーボン系の導電助剤を用いる場合は、水系スラリーの作製の際、カーボンが水を弾くため、正極活物質をスラリー中に均一分散することが難しく、正極活物質の凝集を招く可能性が高くなる。その場合は、スラリーに界面活性剤を添加することが好ましい。界面活性剤としては、サポニン、リン脂質、ペプチド、トリトンなどが有効であり、スラリー全体に対して界面活性剤を0.01~0.1質量%程度を添加すればよい。
【0070】
<電池>
本発明のリチウムイオン二次電池用正極を用い、本発明のリチウムイオン二次電池とすることができる。
【0071】
負極としては、リチウムイオン二次電池で通常用いられる材料を用いることができる。例えば、Li、Na、C、Mg、Al、Si、P、K、Ca、Sc、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、Ga、Ge、Y、Zr、Nb、Mo、Pd、Ag、Cd、In、Sn、Sb、W、Pb及びBiよりなる群から選ばれた少なくとも一種以上の元素、これらの元素を用いた合金、酸化物、カルコゲン化物又はハロゲン化物であればよい。
【0072】
これらのなかでも、放電プラトーの領域が0~1V(対リチウム電位)の範囲内に観測できる観点から、Li、C、Mg、Al、Si、Ti、Zn、Ge、Ag、Cu、In、Sn及びPbよりなる群から選ばれた少なくとも一種以上の元素、これらの元素を用いた合金又は酸化物が好ましい。さらにエネルギー密度の観点から、元素としては、Al、Si、Zn、Ge、Ag、Sn等が好ましく、合金としては、Si-Al、Al-Zn、Si-Mg、Al-Ge、Si-Ge、Si-Ag、Zn-Sn、Ge-Ag、Ge-Sn、Ge-Sb、Ag-Sn、Ag-Ge、Sn-Sb等の各組み合わせ等が好ましく、酸化物としては、SiO、SnO、SnO2、CuO、Li4Ti512等が好ましい。
【0073】
このうち、Si系材料を用いることで、エネルギー密度だけでなく、高率放電特性を向上させることができるので、より好ましい。ただし、多くのSi系材料は充放電に伴う体積変化が激しいため、サイクル特性が十分に発揮されない。そのため、初期の充電でリチウムイオン導電性を有する固体電解質と、リチウムを可逆的に吸蔵・放出することが可能な材料の2成分に分解するSiOを用いることが好ましい。
【0074】
なお、これらのリチウムを可逆的に吸蔵・放出することが可能な材料は、2種以上使用しても何ら問題ない。
【0075】
また、本発明の正極を用いるリチウムイオン二次電池は、リチウムイオンを含有する必要があることから、電解質塩としてはリチウム塩が好ましい。このリチウム塩としては特に制限されないが、具体例としては、ヘキサフルオロリン酸リチウム、過塩素酸リチウム、テトラフルオロホウ酸リチウム、トリフルオロメタンスルホン酸リチウム、トリフルオロメタンスルホン酸イミドリチウムなどを挙げることができる。これらのリチウム塩は、1種単独又は2種以上混合して用いることができる。上記のリチウム塩は、電気的陰性度が高くイオン化しやすいことから、充放電サイクル特性に優れ、二次電池の充放電容量を向上させることができる。
【0076】
上記電解質の溶媒としては、例えば、プロピレンカーボネート、エチレンカーボネート、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、γ-ブチロラクトン等を用いることができ、これらの溶媒を1種単独又は2種以上混合して用いることができる。特に、プロピレンカーボネート単体、エチレンカーボネートとジエチルカーボネートとの混合物又はγ-ブチロラクトン単体が好適である。なお、上記エチレンカーボネートとジエチルカーボネートとの混合物の混合比は、一方の成分が10体積%以上90体積%以下となる範囲で任意に調整することができる。
【0077】
また、本発明のリチウムイオン二次電池の電解質は、固体電解質やイオン性液体であっても構わない。上述の構造のリチウムイオン二次電池によれば、高率放電特性に優れるリチウムイオン二次電池として機能することができる。
【0078】
リチウムイオン二次電池の構造としては、特に限定されないが、積層式電池、捲回式電池などの既存の電池形態・構造に適用できる。
【0079】
<電気機器>
本発明の正極を具備したリチウムイオン二次電池は、安全性が良好であることから、様々な電気機器(電気を使用する乗り物を含む)の電源として利用することができる。
【0080】
電気機器としては、例えば、エアコン、洗濯機、テレビ、冷蔵庫、冷凍庫、冷房機器、ノートパソコン、タブレット、スマートフォン、パソコンキーボード、パソコン用ディスプレイ、デスクトップ型パソコン、CRTモニター、プリンター、一体型パソコン、マウス、ハードディスク、パソコン周辺機器、アイロン、衣類乾燥機、ウインドウファン、トランシーバー、送風機、換気扇、テレビ、音楽レコーダー、音楽プレーヤー、オーブン、レンジ、洗浄機能付便座、温風ヒーター、カーコンポ、カーナビ、懐中電灯、加湿器、携帯カラオケ機、換気扇、乾燥機、空気清浄器、携帯電話、非常用電灯、ゲーム機、血圧計、コーヒーミル、コーヒーメーカー、こたつ、コピー機、ディスクチェンジャー、ラジオ、シェーバー、ジューサー、シュレッダー、浄水器、照明器具、除湿器、食器乾燥機、炊飯器、ステレオ、ストーブ、スピーカー、ズボンプレッサー、掃除機、体脂肪計、体重計、ヘルスメーター、ムービープレーヤー、電気カーペット、電気釜、電気スタンド、電気ポット、電子ゲーム機、携帯ゲーム機、電子辞書、電子手帳、電子レンジ、電磁調理器、電卓、電動カート、電動車椅子、電動工具、電動歯ブラシ、あんか、散髪器具、電話機、時計、インターホン、エアサーキュレーター、電撃殺虫器、ホットプレート、トースター、ドライヤー、電動ドリル、給湯器、パネルヒーター、粉砕機、はんだごて、ビデオカメラ、ビデオデッキ、ファクシミリ、フードプロセッサー、布団乾燥機、ヘッドホン、マイク、マッサージ機、ミキサー、ミシン、もちつき機、床暖房パネル、ランタン、リモコン、冷温庫、冷水器、冷風器、ワープロ、泡だて器、電子楽器、オートバイ、おもちゃ類、芝刈り機、うき、自転車、自動車、ハイブリッド自動車、プラグインハイブリッド自動車、電気自動車、鉄道、船、飛行機、非常用蓄電池などが挙げられる。
【実施例
【0081】
以下、実施例により本発明を更に具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に何ら限定されるものではない。
【0082】
<バインダーの作製>
(実施例1)
撹拌機、温度計、窒素吹き込み管及び冷却管を備えた500mL容の四つ口フラスコに、アクリル酸45g(0.625モル)、アルキル基の炭素数が18~24である(メタ)アクリル酸アルキルエステルとしてのブレンマーVMA70(日本油脂株式会社製、メタクリル酸ステアリル10~20質量部、メタクリル酸エイコサニル10~20質量部、メタクリル酸ベヘニル59~80質量部、メタクリル酸テトラコサニルの含有量が1質量部以下の混合物)0.45g、ノルマルヘキサン150g、及び2,2'-アゾビスメチルイソブチレート0.081g(0.00035モル)を仕込んだ。次いで、均一に撹拌、混合した後、反応容器の上部空間、原料及び溶媒中に存在している酸素を除去するために、溶液中に窒素ガスを吹き込んだ。次いで、窒素雰囲気下、60~65℃に保持して4時間反応させた。反応終了後、冷却し、遠心ろ過により脱液した。脱液したポリマーにノルマルヘキサン100gを加え、攪拌し、遠心ろ過で脱液することにより洗浄を行った。得られたポリマーを90℃に加熱して、残存ノルマルヘキサンを留去し、さらに、110℃、10mmHgにて8時間減圧乾燥することにより、白色微粉末状のアルキル変性カルボキシル基含有共重合体(a)を43g得た。得られたアルキル変性カルボキシル基含有共重合体(a)について以下の方法により残存する開始剤量を評価した。結果を表1に示す。
【0083】
残存する開始剤量はガスクロマトグラフィー(カラム:キャピラリーカラムRtx-200、長さ30m×内径0.53mm、島津製作所(株)製、カラム温度:160℃、検出器:FID)にて測定した。
【0084】
(比較例1)
撹拌機、温度計、窒素吹き込み管及び冷却管を備えた500mL容の四つ口フラスコに、アクリル酸45g(0.625モル)、アルキル基の炭素数が18~24である(メタ)アクリル酸アルキルエステルとしてのブレンマーVMA70(日本油脂株式会社製、メタクリル酸ステアリル10~20質量部、メタクリル酸エイコサニル10~20質量部、メタクリル酸ベヘニル59~80質量部、メタクリル酸テトラコサニルの含有量が1質量部以下の混合物)0.45g、ノルマルヘキサン150g、及び開始剤としての2,2'-アゾビスメチルイソブチレート0.081g(0.00035モル)を仕込んだ。次いで、均一に撹拌、混合した後、反応容器の上部空間、原料及び溶媒中に存在している酸素を除去するために、溶液中に窒素ガスを吹き込んだ。次いで、窒素雰囲気下、60~65℃に保持して4時間反応させた。反応終了後、生成したスラリーを70℃に加熱して、ノルマルヘキサンを留去し、白色微粉末状のアルキル変性カルボキシル基含有共重合体(b)を42g得た。得られたアルキル変性カルボキシル基含有共重合体(b)について実施例1と同様の操作を行い、残存する開始剤量を評価した。結果を表1に示す。
【0085】
【表1】
【0086】
<LiFePO4正極の作製>
(実施例2)
実施例1で得られたアルキル変性カルボキシル基含有共重合体(a)1gを水に溶解し、6質量%水酸化ナトリウム水溶液を用いpHを6~8に調整して10質量%のバインダー水溶液を作製した。得られたバインダー水溶液60質量部、正極活物質としてリン酸鉄リチウム90質量部、導電助剤としてカーボンナノチューブ2質量部、ケッチェンブラック2質量部に対して水を加えて撹拌し、固形分濃度が40質量%のスラリー状の正極合剤を調製した。厚さ20μmのアルミニウム箔上に前記合剤を塗布・乾燥後、ロールプレス機(大野ロール株式会社製)により、アルミニウム箔と塗膜とを密着接合させ、次に、加熱処理(減圧中、180℃、3時間以上)して、試験正極を作製した。表2に試験正極の組成を示した。本試験正極においての、正極容量密度は0.7mAh/cm2(活物質物質層の平均厚み:35μm)とした。
【0087】
(比較例2)
実施例2において、アルキル変性カルボキシル基含有共重合体(a)に代えて、アルキル変性カルボキシル基含有共重合体(b)に変更した以外は実施例2と同様の操作にて比較用の正極を作製し、評価した。表2に比較用正極の組成を示した。
【表2】
【0088】
表2において、LFPは、りん酸鉄リチウム、CNTは、カーボンナノチューブ、KBは、ケッチェンブラックを意味する。
【0089】
電池の組立
(実施例3)
実施例2で得られた試験正極と、対極に金属リチウムを用い、セパレータとしてガラスフィルター(アドバンテック製 GA-100)、電解液としてエチレンカーボネート(EC)とジエチルカーボネート(DEC)とを体積比1:1で混合した溶媒にLiPF6を1mol/Lの濃度で溶解し、電解液用添加剤ビニレンカーボネート(VC)を1質量%添加した溶液を具備したコインセル(CR2032)を作製し、30℃の環境下で0.2Cで2サイクルのエージング処理を行った。
【0090】
高率放電試験
実施例3のコインセルについて、30℃環境下で高率放電試験を行った。高率放電試験の条件としては、0.5Cで充電し、0.5C、1C、3C、5C、10C、30Cの各レートで放電を行った。なお、カットオフ電位は、4.2-2.0V(vs.Li+/Li)に設定した。表3に高率放電試験結果の各放電レートにおける活物質容量を示す。表4に高率放電試験結果の各放電レートにおける平均電位(V vs.Li+/Li)を示す。活物質容量が0mAh/gの際は放電時の平均電位が測定出来ないため、-で示す。
【0091】
(比較例3)
比較例2で得られた比較用正極を用いた以外は、実施例3と同様にして電池組み立て、高率放電試験を実施した。結果を表3及び4に示す。
【0092】
【表3】
【0093】
【表4】
【0094】
一般的に高いレートになるほど内部抵抗が大きくなり活物質容量と平均電位が下がる傾向を示すが、表3および表4で示すように、実施例2の正極を用いた場合、30Cの高レートにおいても高い放電容量と高い放電電位が得られることが明らかとなった。