(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2021-12-24
(45)【発行日】2022-01-18
(54)【発明の名称】リチウムイオン二次電池用正極材料、リチウムイオン二次電池用正極、リチウムイオン二次電池
(51)【国際特許分類】
H01M 4/58 20100101AFI20220111BHJP
C01B 25/45 20060101ALI20220111BHJP
H01M 4/36 20060101ALI20220111BHJP
【FI】
H01M4/58
C01B25/45 Z
H01M4/36 C
(21)【出願番号】P 2019063056
(22)【出願日】2019-03-28
【審査請求日】2019-05-15
【審判番号】
【審判請求日】2020-10-28
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000183266
【氏名又は名称】住友大阪セメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100161207
【氏名又は名称】西澤 和純
(74)【代理人】
【識別番号】100196058
【氏名又は名称】佐藤 彰雄
(74)【代理人】
【識別番号】100206999
【氏名又は名称】萩原 綾夏
(72)【発明者】
【氏名】野添 勉
(72)【発明者】
【氏名】中野 豊将
【合議体】
【審判長】井上 信一
【審判官】山田 正文
【審判官】須原 宏光
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-248378(JP,A)
【文献】特開平11-214003(JP,A)
【文献】国際公開第2018/029745(WO,A1)
【文献】国際公開第2016/158566(WO,A1)
【文献】国際公開第2013/146168(WO,A1)
【文献】特許第5997087(JP,B2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M4/58
H01M4/36
H01M4/48-4/525
H01M10/052
C01B25/45
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
X線回折測定より算出される歪が0.01%以上かつ0.1%以下である正極活物質からなる一次粒子および該一次粒子の集合体である二次粒子と、前記正極活物質の一次粒子および該一次粒子の集合体である二次粒子を被覆する炭素質被膜とを有する炭素質被覆正極活物質を含み、
前記正極活物質が、一般式Li
x
A
y
D
z
PO
4
(但し、AはCo、Mn、Ni、Fe、CuおよびCrからなる群から選択される少なくとも1種、DはMg、Ca、Sr、Ba、Ti、Zn、B、Al、Ga、In、Si、Ge、ScおよびYからなる群から選択される少なくとも1種、0.9<x<1.1、0<y≦1、0≦z<1、0.9<y+z<1.1)で表わされ、
前記炭素質被覆正極活物質のBET法により求めた比表面積から試算される平均一次粒子径A(nm)に対する、前記正極活物質の結晶子径B(nm)の比(B/A)が0.9以上かつ1.5以下であ
り、
前記一次粒子における炭素含有量が0.5質量%以上かつ3質量%以下であり、
前記一次粒子における前記炭素質被膜の被覆率が80%以上であり、
前記一次粒子における前記炭素質被膜の膜厚が0.5nm以上かつ5nm以下であることを特徴とするリチウムイオン二次電池用正極材料。
【請求項2】
前記正極活物質の結晶子径が30nm以上かつ300nm以下であることを特徴とする請求項1に記載のリチウムイオン二次電池用正極材料。
【請求項3】
電極集電体と、該電極集電体上に形成された正極合剤層と、を備えたリチウムイオン二次電池用正極であって、
前記正極合剤層は、請求項1
または2に記載のリチウムイオン二次電池用正極材料を含有することを特徴とするリチウムイオン二次電池用正極。
【請求項4】
正極と、負極と、非水電解質と、を備えるリチウムイオン二次電池であって、
前記正極として、請求項
3に記載のリチウムイオン二次電池用正極を備えることを特徴とするリチウムイオン二次電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウムイオン二次電池用正極材料、リチウムイオン二次電池用正極、リチウムイオン二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
非水電解液系の二次電池であるリチウムイオン二次電池は、小型化、軽量化、高容量化が可能であり、しかも、高出力、高エネルギー密度であるという優れた特性を有していることから、電気自動車を始め、電動工具等の高出力電源としても商品化されている。リチウムイオン二次電池用正極材料としては、例えば、電極活物質および電極活物質の表面を被覆する炭素被膜を含む一次粒子で造粒された造粒体を含有するものが知られている。
【0003】
電極活物質を構成する一次粒子の格子欠陥は、充放電時に結晶構成元素が溶出し易く、サイクル試験等の信頼性の低下を引き起こす。固相法で作製したリン酸鉄リチウム(LFP)は、格子欠陥を減らすために、高い温度での焼成が必要になる。高い温度で焼成すると、結晶子径が増加し、一次粒子の比表面積が低下する。また、一次粒子が大きくなり過ぎると、充放電時に中間層を形成しやすくなり、サイクル特性等の信頼性が低下する。
一方、特許文献1には、結晶歪が小さい電極活物質が開示されているが、結晶歪が小さ過ぎると、リチウムの平面方向の拡散が起き難く、リチウムの拡散抵抗が増加するという課題があった。
また、特許文献2には、BET径よりも結晶子径が大きく、歪が小さいリチウム二次電池用正極材料の製造方法が開示されているが、実施例における結晶子の歪は0.1よりも大きく、実際に結晶子の歪が0.1以下のリチウム二次電池用正極材料は作製できていなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2010-219065号公報
【文献】特許第5997087号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであって、リチウムの拡散抵抗が低いリチウムイオン二次電池用正極材料、リチウムイオン二次電池用正極、リチウムイオン二次電池を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者等は、上記課題を解決するために鋭意研究を行った結果、X線回折測定より算出される歪が0.01%以上かつ0.1%以下である正極活物質からなる一次粒子および該一次粒子の集合体である二次粒子と、前記正極活物質の一次粒子および該一次粒子の集合体である二次粒子を被覆する炭素質被膜とを有する炭素質被覆正極活物質を含み、前記正極活物質が、一般式Li
x
A
y
D
z
PO
4
(但し、AはCo、Mn、Ni、Fe、CuおよびCrからなる群から選択される少なくとも1種、DはMg、Ca、Sr、Ba、Ti、Zn、B、Al、Ga、In、Si、Ge、ScおよびYからなる群から選択される少なくとも1種、0.9<x<1.1、0<y≦1、0≦z<1、0.9<y+z<1.1)で表わされ、前記炭素質被覆正極活物質のBET法により求めた比表面積から試算される平均一次粒子径A(nm)に対する、前記正極活物質の結晶子径B(nm)の比(B/A)が0.9以上かつ1.5以下であり、前記一次粒子における炭素含有量が0.5質量%以上かつ3質量%以下であり、前記一次粒子における前記炭素質被膜の被覆率が80%以上であり、前記一次粒子における前記炭素質被膜の膜厚が0.5nm以上かつ5nm以下であることにより、リチウムの拡散抵抗が低いリチウムイオン二次電池用正極材料が得られることができることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0007】
本発明のリチウムイオン二次電池用正極材料は、X線回折測定より算出される歪が0.01%以上かつ0.1%以下である正極活物質からなる一次粒子および該一次粒子の集合体である二次粒子と、前記正極活物質の一次粒子および該一次粒子の集合体である二次粒子を被覆する炭素質被膜とを有する炭素質被覆正極活物質を含み、前記正極活物質が、一般式Li
x
A
y
D
z
PO
4
(但し、AはCo、Mn、Ni、Fe、CuおよびCrからなる群から選択される少なくとも1種、DはMg、Ca、Sr、Ba、Ti、Zn、B、Al、Ga、In、Si、Ge、ScおよびYからなる群から選択される少なくとも1種、0.9<x<1.1、0<y≦1、0≦z<1、0.9<y+z<1.1)で表わされ、前記炭素質被覆正極活物質のBET法により求めた比表面積から試算される平均一次粒子径A(nm)に対する、前記正極活物質の結晶子径B(nm)の比(B/A)が0.9以上かつ1.5以下であり、前記一次粒子における炭素含有量が0.5質量%以上かつ3質量%以下であり、前記一次粒子における前記炭素質被膜の被覆率が80%以上であり、前記一次粒子における前記炭素質被膜の膜厚が0.5nm以上かつ5nm以下である。
【0008】
本発明のリチウムイオン二次電池用正極は、電極集電体と、該電極集電体上に形成された正極合剤層と、を備えたリチウムイオン二次電池用正極であって、前記正極合剤層は、本発明のリチウムイオン二次電池用正極材料を含有する。
【0009】
本発明のリチウムイオン二次電池は、正極と、負極と、非水電解質と、を備えるリチウムイオン二次電池であって、前記正極として、本発明のリチウムイオン二次電池用正極を備える。
【発明の効果】
【0010】
本発明のリチウムイオン二次電池用正極材料によれば、リチウムの拡散抵抗を低くすることができる。
【0011】
本発明のリチウムイオン二次電池用正極によれば、本発明のリチウムイオン二次電池用正極材料を含有しているため、リチウムの拡散抵抗が低いリチウムイオン二次電池用正極を提供することができる。
【0012】
本発明のリチウムイオン二次電池によれば、本発明のリチウムイオン二次電池用正極を備えるため、放電容量が大きく、かつ、充放電の直流抵抗が低いリチウムイオン二次電池を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明のリチウムイオン二次電池用正極材料、リチウムイオン二次電池用正極、リチウムイオン二次電池の実施の形態について説明する。
なお、本実施の形態は、発明の趣旨をより良く理解させるために具体的に説明するものであり、特に指定のない限り、本発明を限定するものではない。
【0014】
[リチウムイオン二次電池用正極材料]
本実施形態に係るリチウムイオン二次電池用正極材料は、X線回折測定より算出される歪が0.01%以上かつ0.1%以下である正極活物質からなる一次粒子および該一次粒子の集合体である二次粒子と、前記正極活物質の一次粒子および該一次粒子の集合体である二次粒子を被覆する炭素質被膜とを有する炭素質被覆正極活物質を含み、前記炭素質被覆正極活物質のBET法により求めた比表面積から試算される平均一次粒子径A(nm)に対する、前記正極活物質の結晶子径B(nm)の比(B/A)が0.9以上かつ1.5以下である。
結晶中の歪となる点欠陥は、通常一軸方向にのみしか拡散しないリチウム拡散の平面方向への拡散の起点となり、拡散抵抗を下げる効果がある。しかし、結晶の歪が大きい場合、充放電を繰り返すことで、歪がある領域の結晶構成元素が溶出し、電池の容量が低下することで、サイクル特性に対し、電池の容量が低下するといった悪影響を与えてしまう。一方、結晶の歪が小さい場合、リチウムの平面拡散が起き難いため、拡散抵抗が上昇してしまう。
【0015】
本実施形態に係るリチウムイオン二次電池用正極材料は、正極活物質(一次粒子)と、一次粒子の集合体である二次粒子と、一次粒子(正極活物質)の表面および二次粒子の表面を被覆する炭素質被膜(熱分解炭素質被膜)と、を有する炭素質被覆正極活物質を含む。また、本実施形態に係るリチウムイオン二次電池用正極材料は、炭素質被覆正極活物質の一次粒子で造粒された造粒体を含む。
【0016】
本実施形態に係るリチウムイオン二次電池用正極材料は、炭素質被覆正極活物質の一次粒子の平均粒子径が、20nm以上かつ350nm以下であることが好ましく、30nm以上かつ300nm以下であることがより好ましく、40nm以上かつ250nm以下であることがさらに好ましい。
炭素質被覆正極活物質の平均一次粒子径が20nm以上であると、比表面積が大きくなり過ぎることによる、炭素量の増加を抑制することができる。一方、炭素質被覆正極活物質の平均一次粒子径が350nm以下であると、比表面積の大きさから電子伝導性とイオン拡散性が向上することができる。
【0017】
本実施形態に係るリチウムイオン二次電池用正極材料における炭素質被覆正極活物質の一次粒子の平均粒子径は、比表面積計を用いて、窒素(N2)吸着によるBET法により求めた炭素質被覆正極活物質の比表面積から試算される。
【0018】
本実施形態に係るリチウムイオン二次電池用正極材料における炭素質被覆正極活物質の比表面積は、5m2/g以上かつ80m2/g以下であることが好ましく、7m2/g以上かつ40m2/g以下であることがより好ましい。
炭素質被覆正極活物質の比表面積が5m2/g以上であれば、正極材料内のリチウムイオンの拡散速度を高くすることができ、リチウムイオン二次電池の電池特性を改善することができる。一方、炭素質被覆正極活物質の比表面積が80m2/gを以下であれば、電子伝導性を高めることができる。
【0019】
本実施形態に係るリチウムイオン二次電池用正極材料は、炭素質被覆正極活物質の一次粒子で造粒された造粒体の平均粒子径が、2μm以上かつ30μm以下であることが好ましく、2.5μm以上かつ20μm以下であることがより好ましく、3μm以上かつ20μm以下であることがさらに好ましい。
造粒体の平均粒子径が2μm以上であると、正極材料、導電助剤、バインダー樹脂(結着剤)および溶剤を混合して、リチウムイオン二次電池用正極材料ペーストを調製する際の導電助剤および結着剤の配合量を抑えることができ、リチウムイオン二次電池用正極合剤層の単位質量当たりのリチウムイオン二次電池の電池容量を大きくすることができる。一方、造粒体の平均粒子径が30μm以下であると、リチウムイオン二次電池用正極合剤層に含まれる導電助剤や結着剤の分散性、均一性を高めることができる。その結果、本実施形態に係るリチウムイオン二次電池用正極材料を用いたリチウムイオン二次電池は、高速充放電における放電容量を大きくすることができる。
【0020】
造粒体の平均粒子径は、ポリビニルピロリドン0.1質量%を水に溶解した分散媒に、本実施形態に係るリチウムイオン二次電池用正極材料を懸濁させて、レーザ回折式粒度分析装置を用いて測定される。
【0021】
本実施形態に係るリチウムイオン二次電池用正極材料は、炭素質被覆正極活物質のBET法により求めた比表面積から試算される平均一次粒子径A(nm)に対する、正極活物質(一次粒子)の結晶子径B(nm)の比(B/A)が0.9以上かつ1.5以下であり、0.95以上かつ1.45以下であることが好ましく、1.0以上かつ1.4以下であることがより好ましい。
比(B/A)が0.9未満では、一次粒子中に多量の結晶相が存在することになり、リチウムの拡散性が悪くなることで、抵抗が増加する。一方、比(B/A)が1.5を超えると、一次粒子表面が多量の多孔質の被覆物に覆われていることになり、一次粒子の界面抵抗が増加してしまう。
【0022】
本実施形態に係るリチウムイオン二次電池用正極材料は、炭素質被覆正極活物質の一次粒子における炭素含有量が0.5質量%以上かつ3質量%以下であることが好ましく、0.8質量%以上かつ2質量%以下であることがより好ましく、1質量%以上かつ2質量%以下であることがさらに好ましい。
炭素質被覆正極活物質の一次粒子における炭素含有量が0.5質量%以上であれば、電子伝導性を充分に高めることができる。一方、炭素質被覆正極活物質の一次粒子における炭素含有量が3質量%以下であれば、電極密度を高めることができる。
【0023】
炭素質被覆正極活物質の一次粒子における炭素含有量は、炭素分析計(炭素硫黄分析装置:EMIA-810W(商品名)、堀場製作所社製)を用いて、測定される。
【0024】
本実施形態に係るリチウムイオン二次電池用正極材料は、炭素質被覆正極活物質の一次粒子における炭素被膜の被覆率が80%以上であることが好ましく、85%以上であることがより好ましく、90%以上であることがさらに好ましい。
炭素質被覆正極活物質の一次粒子における炭素被膜の被覆率が80%以上であれば、炭素質被覆の被覆効果が充分に得られる。
【0025】
炭素質被覆正極活物質の一次粒子における炭素被膜の被覆率は、透過型電子顕微鏡(Transmission Electron Microscope、TEM)、エネルギー分散型X線分析装置(Energy Dispersive X-ray microanalyzer、EDX)等を用いて測定される。
【0026】
本実施形態に係るリチウムイオン二次電池用正極材料は、炭素質被覆正極活物質の一次粒子における炭素被膜の膜厚が0.5nm以上かつ5nm以下であることが好ましく、0.7nm以上かつ4nm以下であることがより好ましく、1nm以上かつ3nm以下であることがさらに好ましい。
炭素質被覆正極活物質の一次粒子における炭素被膜の膜厚が0.5nm以上であれば、炭素被膜の厚みが薄過ぎるために、所望の抵抗値を有する炭素被膜を形成することができなくなることを抑制できる。一方、炭素質被覆正極活物質の一次粒子における炭素被膜の膜厚が5nm以下であれば、電極材料の単位質量当たりの電池容量が低下することを抑制できる。
【0027】
炭素質被覆正極活物質の一次粒子における炭素被膜の膜厚は、透過型電子顕微鏡(Transmission Electron Microscope、TEM)、エネルギー分散型X線分析装置(Energy Dispersive X-ray microanalyzer、EDX)等を用いて測定される。
【0028】
なお、本実施形態に係るリチウムイオン二次電池用正極材料は、上記の造粒体以外の成分を含んでいてもよい。造粒体以外の成分としては、例えば、バインダー樹脂からなる結着剤、カーボンブラック、アセチレンブラック、グラファイト、ケッチェンブラック、天然黒鉛、人造黒鉛等の導電助剤等が挙げられる。
【0029】
「正極活物質」
本実施形態に係るリチウムイオン二次電池用正極材料は、正極活物質として、X線回折(X-ray Diffraction:XRD)測定より算出される歪が0.01%以上かつ0.1%以下である物質を含む。
正極活物質がXRD測定より算出される歪が0.01%未満の物質であると、リチウムの拡散が一軸方向にのみに限られてしまうため、拡散抵抗が増加してしまう。一方、正極活物質がXRD測定より算出される歪が0.1%を超える物質であると、充放電を繰り返すと歪部分において、結晶構成元素が溶出し、容量が劣化してしまう。
【0030】
XRD測定より、正極活物質の歪みを算出する方法としては、ウィリアムソン-ホール法が挙げられ、各回折ピークの積分幅を推定し、結晶子サイズおよび格子歪みを決定することが実行可能である。
【0031】
正極活物質としては、オリビン系正極活物質を含むことが好ましい。
オリビン系正極活物質は、一般式LixAyDzPO4(但し、AはCo、Mn、Ni、Fe、CuおよびCrからなる群から選択される少なくとも1種、DはMg、Ca、Sr、Ba、Ti、Zn、B、Al、Ga、In、Si、Ge、ScおよびYからなる群から選択される少なくとも1種、0.9<x<1.1、0<y≦1、0≦z<1、0.9<y+z<1.1)で表わされる化合物からなる。
【0032】
LixAyDzPO4において、0.9<x<1.1、0<y≦1、0≦z<1、0.9<y+z<1.1を満たす正極活物質であることが、高放電容量、高エネルギー密度の観点から好ましい。
【0033】
Aについては、Co、Mn、Ni、Feが、Dは、Mg、Ca、Sr、Ba、Ti、Zn、Alが、高い放電電位、高い安全性を実現可能な正極合剤層とすることができる点から好ましい。
【0034】
オリビン系正極活物質の結晶子径が、30nm以上かつ300nm以下であることが好ましく、50nm以上かつ250nm以下であることがより好ましい。
オリビン系正極活物質の結晶子径が30nm未満であると、正極活物質の表面を熱分解炭素被膜で充分に被覆するためには多くの炭素を必要とし、また、大量の結着剤が必要となるために、正極中の正極活物質量が低下し、電池の容量が低下することがある。同様に、結着力不足により炭素被膜が剥離することがある。一方、オリビン系正極活物質の結晶子径が300nmを超えると、正極活物質の内部抵抗が大きくなり、電池を形成した場合に、高速充放電レートにおける放電容量を低下させることがある。また、充放電を繰り返す際に、中間相を形成しやすく、そこから構成元素が溶出することで、容量が低下してしまう。
【0035】
オリビン系正極活物質の結晶子径の算出方法としては、X線回折測定により測定した粉末X線回折図形をウィリアムソン-ホール法により解析することで、結晶子径を決定することが実行可能である。
【0036】
「炭素被膜」
炭素被膜は、原料となる有機化合物が炭化することにより得られる熱分解炭素被膜である。炭素被膜の原料となる炭素源は、炭素の純度が40.00%以上かつ60.00%以下の有機化合物由来であることが好ましい。
【0037】
本実施形態に係るリチウムイオン二次電池用正極材料における炭素被膜の原料となる炭素源の「炭素の純度」の算出方法としては、複数種類の有機化合物を用いる場合、各有機化合物の配合量(質量%)と既知の炭素の純度(%)から、各有機化合物の配合量中の炭素量(質量%)を算出、合算し、その有機化合物の総配合量(質量%)と総炭素量(質量%)から、下記の式(1)に従って算出する方法が用いられる。
炭素の純度(%)=総炭素量(質量%)/総配合量(質量%)×100・・・(1)
【0038】
本実施形態に係るリチウムイオン二次電池用正極材料によれば、X線回折測定より算出される歪が0.01%以上かつ0.1%以下である正極活物質からなる一次粒子および該一次粒子の集合体である二次粒子と、前記正極活物質の一次粒子および該一次粒子の集合体である二次粒子を被覆する炭素質被膜とを有する炭素質被覆正極活物質を含み、前記炭素質被覆正極活物質のBET法により求めた比表面積から試算される平均一次粒子径A(nm)に対する、前記正極活物質の結晶子径B(nm)の比(B/A)が0.9以上かつ1.5以下であるため、リチウムの拡散抵抗が低いリチウムイオン二次電池を提供することができる。
【0039】
[リチウムイオン二次電池用電極材料の製造方法]
本実施形態に係るリチウムイオン二次電池用電極材料の製造方法は特に限定されないが、例えば、LixAyDzPO4粒子と、有機化合物とを混合して分散処理して分散体を作製する工程と、この分散体を乾燥して乾燥体とする工程と、この乾燥体を非酸化性雰囲気下で焼成し、炭素質被覆電極活物質の一次粒子で造粒された造粒体を得る工程と、得られた造粒体と酸化物系電極活物質を混合する工程と、を有する方法が挙げられる。
【0040】
LixAyDzPO4粒子は特に限定されないが、例えば、Li源、A源、D源、およびPO4源を、これらのモル比がx:y+z=1:1となるように水に投入し、撹拌してLixAyDzPO4の前駆体溶液とし、さらにこの前駆体溶液を15℃以上かつ70℃以下の状態で1時間以上かつ20時間以下、撹拌混合し、水和前駆体溶液を作製し、この水和前駆体溶液を耐圧容器に入れ、高温、高圧下、例えば、130℃以上かつ190℃以下、0.2MPa以上にて、1時間以上かつ20時間以下、水熱処理を行うことにより得られた粒子が好ましい。
この場合、水和前駆体溶液撹拌時の温度及び時間と水熱処理時の温度、圧力及び時間を調整することにより、LixAyDzPO4粒子の粒子径を所望の大きさに制御することが可能である。
【0041】
この場合、Li源としては、例えば、水酸化リチウム(LiOH)、炭酸リチウム(Li2CO3)、塩化リチウム(LiCl)、リン酸リチウム(Li3PO4)等のリチウム無機酸塩、酢酸リチウム(LiCH3COO)、蓚酸リチウム((COOLi)2)等のリチウム有機酸塩の群から選択される少なくとも1種が好適に用いられる。
これらの中でも、塩化リチウムと酢酸リチウムは、均一な溶液相が得られやすいため好ましい。
【0042】
ここで、A源としては、コバルト化合物からなるCo源、マンガン化合物からなるMn源、ニッケル化合物からなるNi源、鉄化合物からなるFe源、銅化合物からなるCu源、および、クロム化合物からなるCr源の群から選択される少なくとも1種が好ましい。また、D源としては、マグネシウム化合物からなるMg源、カルシウム化合物からなるCa源、ストロンチウム化合物からなるSr源、バリウム化合物からなるBa源、チタン化合物からなるTi源、亜鉛化合物からなるZn源、ホウ素化合物からなるB源、アルミニウム化合物からなるAl源、ガリウム化合物からなるGa源、インジウム化合物からなるIn源、ケイ素化合物からなるSi源、ゲルマニウム化合物からなるGe源、スカンジウムム化合物からなるSc源、および、イットリウム化合物からなるY源の群から選択される少なくとも1種が好ましい。
【0043】
PO4源としては、例えば、オルトリン酸(H3PO4)、メタリン酸(HPO3)等のリン酸、リン酸二水素アンモニウム(NH4H2PO4)、リン酸水素二アンモニウム((NH4)2HPO4)、リン酸アンモニウム((NH4)3PO4)、リン酸リチウム(Li3PO4)、リン酸水素二リチウム(Li2HPO4)、リン酸二水素リチウム(LiH2PO4)およびこれらの水和物の中から選択される少なくとも1種が好ましい。
特に、オルトリン酸は、均一な溶液相を形成しやすいので好ましい。
【0044】
有機化合物としては、例えば、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、セルロース、デンプン、ゼラチン、カルボキシメチルセルロース、メチルセルロース、ヒドロキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ポリアクリル酸、ポリスチレンスルホン酸、ポリアクリルアミド、ポリ酢酸ビニル、グルコース、フルクトース、ガラクトース、マンノース、マルトース、スクロース、ラクトース、グリコーゲン、ペクチン、アルギン酸、グルコマンナン、キチン、ヒアルロン酸、コンドロイチン、アガロース、ポリエーテル、多価アルコール等が挙げられる。
多価アルコールとしては、例えば、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリグリセリン、グリセリン等が挙げられる。
【0045】
有機化合物は、有機化合物中の炭素が、LixAyDzPO4粒子100質量部に対して0.5質量部以上かつ2.5質量部以下となるように混合すればよい。
【0046】
次いで、得られた混合液を分散して分散体とする。
分散方法は、特に限定されないが、LixAyDzPO4粒子の凝集状態をほぐすことができる装置を用いることが好ましい。このような分散装置としては、例えば、ボールミル、サンドミル、プラネタリー(遊星式)ミキサー等が挙げられる。特に連続式の分散装置を用いることで、分散処理中にサンプリングすることが可能となり、スパン値による終点判断が容易となる。
【0047】
次いで、上記の分散体を乾燥して乾燥体とする。
本工程では、分散体から溶媒(水)を散逸させることができれば乾燥方法は特に限定されない。
なお、凝集粒子を作製する場合には、噴霧乾燥法を用いて乾燥すればよい。例えば、分散体を100℃以上かつ300℃以下の高温雰囲気中に噴霧し、乾燥させ、粒子状乾燥体または造粒状乾燥体とする方法が挙げられる。
【0048】
次いで、上記乾燥体を、非酸化性雰囲気下、700℃以上かつ1000℃以下、好ましくは800℃以上かつ900℃以下の範囲内の温度にて焼成する。
この非酸化性雰囲気としては、窒素(N2)、アルゴン(Ar)等の不活性雰囲気が好ましく、より酸化を抑えたい場合には水素(H2)等の還元性ガスを含む還元性雰囲気が好ましい。
【0049】
ここで、乾燥体の焼成温度を700℃以上かつ1000℃以下とした理由は、焼成温度が700℃未満では、乾燥体に含まれる有機化合物の分解・反応が充分に進行せず、有機化合物の炭化が不充分なものとなり、生成する分解・反応物が高抵抗の有機物分解物となるので好ましくないからである。一方、焼成温度が1000℃を超えると、乾燥体を構成する成分、例えば、リチウム(Li)が蒸発して組成にずれが生じるだけでなく、この乾燥体にて粒成長が促進し、高速充放電レートにおける放電容量が低くなり、充分な充放電レート性能を実現することが困難となる。また、不純物が生成され、この不純物が由来となり充放電を繰り返した際に容量の劣化を起こす。
【0050】
焼成時間は、有機化合物が充分に炭化される時間であればよく、特に制限されないが、0.1時間以上かつ10時間以下とする。
【0051】
この焼成により、炭素質被覆電極活物質の一次粒子で造粒された造粒体が得られる。
【0052】
次いで、得られた造粒体と酸化物系電極活物質を所定の比率で混合し、本実施形態に係るリチウムイオン二次電池用電極材料を得る。
【0053】
造粒体と酸化物系電極活物質の混合方法は、特に限定されないが、造粒体と酸化物系電極活物質を均一に混合できる装置を用いることが好ましい。このような装置としては、例えば、ボールミル、サンドミル、プラネタリー(遊星式)ミキサー等が挙げられる。
【0054】
本実施形態のリチウムイオン二次電池用正極材料の製造方法によれば、歪の状態は、正極活物質の水熱合成における溶解、再析出の状態で制御することができる。溶解、再析出の状態は前駆体の水和状態、水熱合成時の温度、時間により制御可能であり、反応物を適した温度で撹拌することで、水和状態を変化させて、水熱合成時に歪が適した正極活物質の一次粒子を形成することが可能となり、電極材料として加工した場合にも、その歪を保持した粒子とすることができる。
【0055】
[リチウムイオン二次電池用正極]
本実施形態に係るリチウムイオン二次電池用正極は、電極集電体と、その電極集電体上に形成された正極合剤層(電極)と、を備え、正極合剤層が、本実施形態に係るリチウムイオン二次電池用正極材料を含有するものである。
すなわち、本実施形態に係るリチウムイオン二次電池用正極は、本実施形態に係るリチウムイオン二次電池用正極材料を用いて、電極集電体の一主面に正極合剤層が形成されてなるものである。
【0056】
本実施形態に係るリチウムイオン二次電池用正極の製造方法は、本実施形態に係るリチウムイオン二次電池用正極材料を用いて、電極集電体の一主面に正極合剤層を形成できる方法であれば特に限定されない。本実施形態に係るリチウムイオン二次電池用正極の製造方法としては、例えば、以下の方法が挙げられる。
まず、本実施形態に係るリチウムイオン二次電池用正極材料と、結着剤と、導電助剤と、溶媒とを混合してなる、リチウムイオン二次電池用正極材料ペーストを調製する。
【0057】
「結着剤」
結着剤、すなわちバインダー樹脂としては、例えば、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)樹脂、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)樹脂、フッ素ゴム等が好適に用いられる。
【0058】
リチウムイオン二次電池用正極材料ペーストにおける結着剤の含有率は、本実施形態に係るリチウムイオン二次電池用正極材料と結着剤と導電助剤の合計質量を100質量%とした場合に、1質量%以上かつ10質量%以下であることが好ましく、2質量%以上かつ6質量%以下であることがより好ましい。
【0059】
「導電助剤」
導電助剤としては、特に限定されるものではないが、例えば、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、ファーネスブラック、気相成長炭素繊維(VGCF)、カーボンナノチューブ等の繊維状炭素の群から選択される少なくとも1種が用いられる。
【0060】
リチウムイオン二次電池用正極材料ペーストにおける導電助剤の含有率は、本実施形態に係るリチウムイオン二次電池用正極材料と結着剤と導電助剤の合計質量を100質量%とした場合に、1質量%以上かつ15質量%以下であることが好ましく、3質量%以上かつ10質量%以下であることがより好ましい。
【0061】
「溶媒」
本実施形態に係るリチウムイオン二次電池用正極材料を含むリチウムイオン二次電池用正極材料ペーストでは、電極集電体等の被塗布物に対して塗布し易くするために、溶媒を適宜添加してもよい。
電極形成用塗料または電極形成用ペーストに用いる溶媒としては、バインダー樹脂の性質に合わせて適宜選択すればよい。
溶媒としては、例えば、水、メタノール、エタノール、1-プロパノール、2-プロパノール(イソプロピルアルコール:IPA)、ブタノール、ペンタノール、ヘキサノール、オクタノール、ジアセトンアルコール等のアルコール類、酢酸エチル、酢酸ブチル、乳酸エチル、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノエチルエーテルアセテート、γ-ブチロラクトン等のエステル類、ジエチルエーテル、エチレングルコールモノメチルエーテル(メチルセロソルブ)、エチレングルコールモノエチルエーテル(エチルセロソルブ)、エチレングルコールモノブチルエーテル(ブチルセロソルブ)、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル等のエーテル類、アセトン、メチルエチルケトン(MEK)、メチルイソブチルケトン(MIBK)、アセチルアセトン、シクロヘキサノン等のケトン類、ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアセトアミド、N-メチルピロリドン等のアミド類、エチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール等のグリコール類等を挙げることができる。これらは、1種のみを用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
【0062】
リチウムイオン二次電池用正極材料ペーストにおける溶媒の含有率は、本実施形態に係るリチウムイオン二次電池用正極材料と結着剤と溶媒の合計質量を100質量部とした場合に、60質量部以上かつ400質量部以下であることが好ましく、80質量部以上かつ300質量部以下であることがより好ましい。
上記の範囲で溶媒が含有されることにより、電極形成性に優れ、かつ電池特性に優れた、リチウムイオン二次電池用正極材料ペーストを得ることができる。
【0063】
本実施形態に係るリチウムイオン二次電池用正極材料と、結着剤と、導電助剤と、溶媒とを混合する方法としては、これらの成分を均一に混合できる方法であれば特に限定されない。例えば、ボールミル、サンドミル、プラネタリー(遊星式)ミキサー、ペイントシェーカー、ホモジナイザー等の混錬機を用いた方法が挙げられる。
【0064】
次いで、リチウムイオン二次電池用正極材料ペーストを、電極集電体の一主面に塗布して塗膜とし、この塗膜を乾燥し、次いで、加圧圧着することにより、電極集電体の一主面に正極合剤層が形成されたリチウムイオン二次電池用正極を得ることができる。
【0065】
本実施形態に係るリチウムイオン二次電池用正極によれば、本実施形態に係るリチウムイオン二次電池用正極材料を含有しているため、リチウムイオン二次電池用正極に含まれる造粒体内に電解液を侵入し易く、電子伝導性とイオン伝導性を両立し、エネルギー密度を向上したリチウムイオン二次電池用正極を提供することができる。
【0066】
[リチウムイオン二次電池]
本実施形態に係るリチウムイオン二次電池は、正極と、負極と、非水電解質と、を備え、正極として、本実施形態に係るリチウムイオン二次電池用正極を備える。
【0067】
本実施形態に係るリチウムイオン二次電池では、負極、非水電解質、セパレータ等は特に限定されない。
負極としては、例えば、金属Li、炭素材料、Li合金、Li4Ti5O12等の負極材料を用いることができる。
また、非水電解質とセパレータの代わりに、固体電解質を用いてもよい。
【0068】
非水電解質は、例えば、エチレンカーボネート(EC)と、エチルメチルカーボネート(EMC)とを、体積比で1:1となるように混合し、得られた混合溶媒に六フッ化リン酸リチウム(LiPF6)を、例えば、濃度1モル/dm3となるように溶解することで作製することができる。
セパレータとしては、例えば、多孔質プロピレンを用いることができる。
【0069】
本実施形態に係るリチウムイオン二次電池では、本実施形態に係るリチウムイオン二次電池用正極を備えるため、放電容量が大きく、かつ、充放電の直流抵抗が低い。
【実施例】
【0070】
以下、実施例および比較例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0071】
[製造例1]
「正極活物質(LiFePO4)の製造」
Li源として水酸化リチウム(LiOH)、P源としてリン酸二水素アンモニウム(NH4H2PO4)、Fe源として硫酸鉄(II)七水和物(FeSO4・7H2O)を用いた。
純水に、水酸化リチウム、リン酸二水素アンモニウム、硫酸鉄(II)七水和物を、質量比でLi:Fe:P=3:1:1となるように、かつ全体量が200mLになるように混合し、均一なスラリー状の混合物を調製した。
次いで、この混合液を35℃にて10時間撹拌し、スラリー状の混合物を十分水和させた。
次いで、この混合物を容量500mLの耐圧密閉容器に収容し、170℃にて12時間、水熱合成を行った。
この反応後、反応液を室温(25℃)になるまで冷却し、沈殿しているケーキ状の反応生成物を得た。
次いで、この沈殿物(反応生成物)を蒸留水で複数回、充分に水洗し、乾燥しないように純水を添加しつつ、含水率を30%に保持し、ケーキ状物質とした。
このケーキ状物質を若干量採取し、70℃にて2時間真空乾燥させて得られた粉末を、X線回折測定(X線回折装置:RINT2000、RIGAKU社製)により分析したところ、単相のLiFePO4が形成されていることが確認された。
【0072】
[製造例2]
「正極活物質(LiFePO4)の製造」
スラリー状の混合物の水和温度を80℃としたこと以外は製造例1と同様にして、電極活物質を合成した。
【0073】
[製造例3]
「正極活物質(LiFePO4)の製造」
スラリー状の混合物の水和温度を5℃としたこと以外は製造例1と同様にして、電極活物質を合成した。
【0074】
[製造例4]
「正極活物質(LiFePO4)の製造」
スラリー状の混合物の水熱合成温度を200℃としたこと以外は製造例1と同様にして、電極活物質を合成した。
【0075】
[製造例5]
「正極活物質(LiFePO4)の製造」
スラリー状の混合物の水熱合成温度を110℃としたこと以外は製造例1と同様にして、電極活物質を合成した。
【0076】
[実施例1]
製造例1で得られたLiFePO4(電極活物質)20gと、炭素源としてスクロース0.73gとを、総量で100gとなるように水に混合して混合液を調製し、その混合液に、媒体粒子としての直径0.1mmのジルコニアビーズ150gを加えて、ビーズミルにて分散処理を行い、スラリー(混合物)を得た。
次いで、得られたスラリーを、スプレードライヤーを用いて、乾燥出口温度が60℃となる温度で乾燥、造粒して、造粒粉を得た。
その後、管状炉を用い、造粒粉を、温度770℃にて2時間、熱処理を行い、炭素質被覆電極活物質からなる実施例1の正極材料を得た。
【0077】
[実施例2]
熱処理に造粒粉100質量部に対して0.5質量部となるポリビニルアルコールを添加し、撹拌、混合したこと以外は実施例1と同様にして、炭素質被覆電極活物質からなる実施例2の電極材料を得た。
【0078】
[実施例3]
熱処理温度を700℃としたこと以外は実施例1と同様にして、炭素質被覆電極活物質からなる実施例3の電極材料を得た。
【0079】
[実施例4]
熱処理温度を825℃としたこと以外は実施例1と同様にして、炭素質被覆電極活物質からなる実施例4の電極材料を得た。
【0080】
[比較例1]
製造例2で得られたLiFePO4(電極活物質)を用いたこと以外は実施例1と同様にして、炭素質被覆電極活物質からなる比較例1の電極材料を得た。
【0081】
[比較例2]
製造例3で得られたLiFePO4(電極活物質)を用いたこと以外は実施例1と同様にして、炭素質被覆電極活物質からなる比較例2の電極材料を得た。
【0082】
[比較例3]
製造例4で得られたLiFePO4(電極活物質)を用いたこと以外は実施例1と同様にして、炭素質被覆電極活物質からなる比較例3の電極材料を得た。
【0083】
[比較例4]
製造例5で得られたLiFePO4(電極活物質)を用いたこと以外は実施例1と同様にして、炭素質被覆電極活物質からなる比較例4の電極材料を得た。
【0084】
[リチウムイオン電池の作製]
N-メチル-2-ピロリジノン(NMP)に、実施例1~実施例4および比較例1~比較例4で得られた正極材料と、結着材としてポリフッ化ビニリデン(PVdF)と、導電助剤としてアセチレンブラック(AB)とを、ペースト中の質量比で、正極材料:AB:PVdF=90:5:5となるように加えて、これらを混合し、正極材料ペーストを調製した。
次いで、この正極材料ペーストを、厚さ30μmのアルミニウム箔(電極集電体)の表面に塗布して塗膜を形成し、その塗膜を乾燥し、アルミニウム箔の表面に正極合剤層を形成した後、所定の密度となるように正極合剤層を圧着して正極用電極板とした。
得られた正極用電極板を、成形機を用いて、縦3cm×横3cmの正方形状(電極面積9cm2)の正極合剤層とタブしろからなる板状に打ち抜いた。
次いで、その電極板のタブしろに電極タブを溶接して、試験電極(正極)を作製した。
一方、対極には同様にカーボンを塗布した塗布電極を用いた。
セパレータとしては、多孔質ポリプロピレン膜を採用した。
また、非水電解液(非水電解質溶液)として1mol/Lのヘキサフルオロリン酸リチウム(LiPF6)溶液を用いた。なお、このLiPF6溶液に用いられる溶媒としては、炭酸エチレンと炭酸ジエチルを体積%で1:1に混合し、添加剤として炭酸ビニレン2%を加えたものを用いた。
そして、以上のようにして作製した試験電極、対極および非水電解液を用いて、ラミネ
ート型のセルを作製し、実施例1~実施例4および比較例1~比較例4の電池とした。
【0085】
[正極材料の評価]
実施例1~実施例4および比較例1~比較例4で得られた正極材料、並びに、これらの正極材料が含む成分について評価した。評価方法は、以下の通りである。結果を表1に示す。
【0086】
(1)正極活物質の歪、正極活物質の結晶子径
正極活物質の歪を、XRD測定より算出した。
以下、正極活物質の歪みの測定方法の詳細を示す。
「Acta Metallurgica,1,22~31(1953)」において、ウィリアムソンおよびホールが、X線回折の回折ピークの積分幅から、結晶子の大きさ(結晶子径)および歪みの情報を抽出する方法を提案した。この方法は、ブラッグ角(θ)と結晶子の大きさおよび格子歪みから生じるピークのブロード化との間の近似的関係に基づくものである。前記の近似関係は、下記の式(1)で表される。
βcosθ=Cεsinθ+Kλ/L (1)
上記の式(1)中、βはピークの積分幅を表し、εは格子歪みであり、Lは結晶子の大きさであり、λは放射波長であり、CおよびKは、多くの場合それぞれ4および0.9となる定数である。
積分幅(β)とcosθとの積をsinθの関数として見ることによって、格子歪みおよび結晶子の大きさは、それぞれ、上記の式(1)に適合する線の勾配および切片から推定することができる。積分幅(β)は、選択された回折ピークの同じ高さ(最大強度)および面積(積分強度)を有する長方形の幅である。この面積は、台形法則によって近似的に積分されることができ、高さは、回折パターンの生データから容易に得ることができる。そのため、このウィリアムソン-ホール(W-H)法によって、各回折ピークの積分幅を推定し、結晶子サイズおよび格子歪みをさらに決定することが実行可能である。
W-H法を用いて2θ=15°~75°の範囲にて検出されたピークを活用し、電極活物質の結晶子径と歪を算出した。
【0087】
(2)炭素質被覆正極活物質の比表面積
正極活物質の比表面積は、比表面積/細孔分布測定装置(商品名:BELSORP-mini、マイクロトラック・ベル社製)を用いガス吸着法により測定した。
【0088】
(3)炭素質被覆正極活物質の平均一次粒子径
炭素質被覆正極活物質の平均一次粒子径Aを、下記の式(2)より算出した。
一次粒子径A(nm)=6/〔(炭素質被覆正極活物質の真比重(g/m3))×(炭素質被覆正極活物質のBET比表面積(m2/g))〕×109 (2)
なお、炭素質被覆正極活物質の真比重を、3600000g/m3とした。
BET比表面積は、BET法により、比表面積計(例えば、マイクロトラック・ベル株式会社製、商品名:BELSORP-mini)を用いて測定した。
【0089】
(4)炭素質被覆正極活物質の平均一次粒子径A(nm)に対する正極活物質の結晶子径B(nm)の比(B/A)
上記(1)と(3)の結果から、比(B/A)を算出した。
【0090】
[リチウムイオン二次電池の評価]
実施例1~実施例4および比較例1~比較例4で得られたリチウムイオン二次電池を用いて、放電容量とサイクル保持率を測定した。評価方法は、以下の通りである。結果を表1に示す。
【0091】
(1)放電容量
環境温度25℃にて、カットオフ電圧を2.5V-3.7V(vs炭素負極)とし、充電電流を1C、放電電流を3Cとして、定電流充放電により、リチウムイオン二次電池の放電容量を測定した。
【0092】
(2)サイクル特性
環境温度60℃にて、カットオフ電圧を2.5V-3.7V(vs炭素負極)とし、充電電流を1C、放電電流を1Cとして、定電流充放電を500サイクル繰り返し、サイクル保持率=(500回目の放電容量/1回目の放電容量)としてサイクル特性を測定した。
【0093】
【0094】
表1の結果から、実施例1~実施例4では、放電容量が大きくなり、また、サイクル保持率も向上した。
一方、比較例1~比較例4では、放電容量が低下し、サイクル保持率が小さくなった。
すなわち、実施例1~実施例4は、比較例1~比較例4と比較すると、放電容量が大きく、かつ、サイクル保持率が高いことが分かった。
【産業上の利用可能性】
【0095】
本発明のリチウムイオン二次電池用正極材料は、X線回折測定より算出される歪が0.01%以上かつ0.1%以下である正極活物質からなる一次粒子および該一次粒子の集合体である二次粒子と、正極活物質の一次粒子および該一次粒子の集合体である二次粒子を被覆する炭素質被膜とを有する炭素質被覆正極活物質を含み、炭素質被覆正極活物質のBET法により求めた比表面積から試算される平均一次粒子径A(nm)に対する、正極活物質の結晶子径B(nm)の比(B/A)が0.9以上かつ1.5以下であるため、より高電圧、高エネルギー密度、高負荷特性および高速充放電特性が期待される次世代の二次電池に対しても適用することが可能であり、次世代の二次電池の場合、その効果は非常に大きなものである。