(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2021-12-24
(45)【発行日】2022-01-19
(54)【発明の名称】光学フィルムおよび光学フィルムの製造方法
(51)【国際特許分類】
G02B 5/30 20060101AFI20220112BHJP
G02F 1/1337 20060101ALI20220112BHJP
【FI】
G02B5/30
G02F1/1337 525
(21)【出願番号】P 2020510486
(86)(22)【出願日】2019-02-28
(86)【国際出願番号】 JP2019007789
(87)【国際公開番号】W WO2019187951
(87)【国際公開日】2019-10-03
【審査請求日】2020-08-28
(31)【優先権主張番号】P 2018062557
(32)【優先日】2018-03-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】306037311
【氏名又は名称】富士フイルム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100152984
【氏名又は名称】伊東 秀明
(74)【代理人】
【識別番号】100148080
【氏名又は名称】三橋 史生
(72)【発明者】
【氏名】二村 恵朗
(72)【発明者】
【氏名】森嶌 慎一
【審査官】酒井 康博
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-219814(JP,A)
【文献】特開2007-271808(JP,A)
【文献】特開2016-012084(JP,A)
【文献】特開2005-215631(JP,A)
【文献】特表2008-505369(JP,A)
【文献】特開2005-196117(JP,A)
【文献】国際公開第2005/026830(WO,A1)
【文献】特開2006-145952(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02B 5/30
G02F 1/1337
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
液晶化合物、および、キラル剤を用いて形成された光学フィルムであって、
前記液晶化合物は、重合性液晶化合物であり、
前記液晶化合物由来の分子軸は、螺旋軸に沿って捩れ配向しており、
前記螺旋軸は、前記光学フィルムの厚み方向と直交しており、
フィルム面内の遅相軸方向の屈折率nxと、前記フィルム面内の進相軸方向の屈折率nyと、前記光学フィルムの厚み方向の屈折率nzとが、nx>nz>nyを満
し、
前記螺旋軸に沿って捩れ配向した前記液晶化合物由来の前記分子軸の角度が90°変化する長さを1/4ピッチとした際に、
前記1/4ピッチの中で、単位長さ当たりの回転角が異なる領域を有する光学フィルム。
【請求項2】
前記液晶化合物由来の前記分子軸が前記光学フィルムの厚み方向と平行な位置から、前記液晶化合物由来の前記分子軸が前記光学フィルムの厚み方向に対して90°回転した位置までの前記1/4ピッチの中で、前記単位長さ当たりの回転角が小さくなる請求項
1に記載の光学フィルム。
【請求項3】
前記キラル剤が、光照射によって螺旋誘起力が変化するキラル剤である請求項1
または2に記載の光学フィルム。
【請求項4】
二色性の重合開始剤を用いて形成された請求項1~
3のいずれか一項に記載の光学フィルム。
【請求項5】
波長550nmのRthは±20nmの範囲である請求項1~
4のいずれか一項に記載の光学フィルム。
【請求項6】
波長550nmのRthは±5nmの範囲である請求項1~
5のいずれか一項に記載の光学フィルム。
【請求項7】
位相差フィルムである請求項1~
6のいずれか一項に記載の光学フィルム。
【請求項8】
重合性の液晶化合物、少なくとも一種の二色性の重合開始剤、および、キラル剤を含有する塗膜を形成する塗膜形成工程と、
前記塗膜中の前記液晶化合物を前記塗膜の厚み方向と直交する螺旋軸に沿って捩れ配向させてコレステリック液晶相を形成するCL液晶相形成工程と、
前記コレステリック液晶相に、前記螺旋軸と直交する方向の偏光を照射する偏光照射工程とを有する光学フィルムの製造方法。
【請求項9】
前記偏光照射工程の後に、液晶相を固定する硬化工程を有する請求項
8に記載の光学フィルムの製造方法。
【請求項10】
前記CL液晶相形成工程は、前記塗膜を冷却するものである請求項
8または
9に記載の光学フィルムの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光学フィルムおよび光学フィルムの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
液晶表示装置等において、視野角およびコントラスト比等の光学特性を改善するために光学異方性膜が補償板として用いられている。特に二軸性光学異方性膜は、光学補償に有用である。
【0003】
二軸性光学異方性膜として、コレステリック液晶相のねじれ構造に異方性を持たせることで二軸性を付与した光学異方性膜が知られている。
【0004】
例えば、特許文献1には、重合性液晶化合物とオキシムエステル化合物を含む重合開始剤とを含む液晶組成物に偏光を照射することで作製される、変形したねじれらせん構造の二軸性光学異方性膜が記載されている。
【0005】
また、特許文献2には、コレステリック構造および楕円状の屈折率楕円体を有する変形螺旋を有する二軸性フィルムであって、380nm未満の波長を有する光を反射する二軸性フィルムが記載されている。
【0006】
また、特許文献3には、変形したらせん、およびらせん軸の方向で周期的に変化する局所複屈折を有する、らせんねじれ構造の異方性材料を含むことを特徴とする、光学的二軸性フィルムが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2011-008207号公報
【文献】特表2005-513241号公報
【文献】特表2008-505369号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明者らの検討によれば、特許文献1~3に記載される二軸性光学異方性膜では、位相差の視野角依存性が大きくなるという問題があることがわかった。
【0009】
本発明の目的は、このような従来技術の問題点を解決することにあり、位相差の視野角依存性が小さい光学フィルム、および、光学フィルムの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
この課題を解決するために、本発明は、以下の構成を有する。
[1] 液晶化合物、および、キラル剤を用いて形成された光学フィルムであって、
液晶化合物は、重合性液晶化合物であり、
液晶化合物由来の分子軸は、螺旋軸に沿って捩れ配向しており、
螺旋軸は、光学フィルムの厚み方向と直交しており、
フィルム面内の遅相軸方向の屈折率nxと、フィルム面内の進相軸方向の屈折率nyと、光学フィルムの厚み方向の屈折率nzとが、nx>nz>nyを満たす光学フィルム。
[2] 螺旋軸に沿って捩れ配向した液晶化合物由来の分子軸の角度が90°変化する長さを1/4ピッチとした際に、
1/4ピッチの中で、単位長さ当たりの回転角が異なる領域を有する[1]に記載の光学フィルム。
[3] 液晶化合物由来の分子軸が光学フィルムの厚み方向と平行な位置から、液晶化合物由来の分子軸が光学フィルムの厚み方向に対して90°回転した位置までの1/4ピッチの中で、単位長さ当たりの回転角が小さくなる[2]に記載の光学フィルム。
[4] キラル剤が、光照射によって螺旋誘起力が変化するキラル剤である[1]~[3]のいずれかに記載の光学フィルム。
[5] 二色性の重合開始剤を用いて形成された[1]~[4]のいずれかに記載の光学フィルム。
[6] 波長550nmのRthは±20nmである[1]~[5]のいずれかに記載の光学フィルム。
[7] 波長550nmのRthは±5nmである[1]~[6]のいずれかに記載の光学フィルム。
[8] 位相差フィルムである[1]~[7]のいずれかに記載の光学フィルム。
[9] 重合性の液晶化合物、少なくとも一種の二色性の重合開始剤、および、キラル剤を含有する塗膜を形成する塗膜形成工程と、
塗膜中の液晶化合物を塗膜の厚み方向と直交する螺旋軸に沿って捩れ配向させてコレステリック液晶相を形成するCL液晶相形成工程と、
コレステリック液晶相に、螺旋軸と直交する方向の偏光を照射する偏光照射工程とを有する光学フィルムの製造方法。
[10] 偏光照射工程の後に、液晶相を固定する硬化工程を有する[9]に記載の光学フィルムの製造方法。
[11] CL液晶相形成工程は、塗膜を冷却するものである[9]または[10]に記載の光学フィルムの製造方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、位相差の視野角依存性が小さい光学フィルム、および、光学フィルムの製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本発明の光学フィルムの一例を概念的に示す断面図である。
【
図3】螺旋軸Sに沿って捩れ配向された複数の液晶化合物の一部を螺旋軸方向から見た図である。
【
図4】本発明の光学フィルムにおいて、螺旋軸方向から見た液晶化合物の存在確率を概念的に示す図である。
【
図5】偏光を照射する前のコレステリック液晶相において、螺旋軸方向から見た液晶化合物の存在確率を概念的に示す図である。
【
図6】光学フィルムの製造方法を説明するための概念的な断面図である。
【
図7】光学フィルムの製造方法を説明するための概念的な断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の光学フィルムおよび光学フィルムの製造方法について、添付の図面に示される好適実施形態を基に詳細に説明する。
【0014】
本明細書において「~」を用いて表される数値範囲は、「~」の前後に記載される数値を下限値および上限値として含む範囲を意味する。
本明細書において、「(メタ)アクリレート」は、「アクリレートおよびメタクリレートのいずれか一方または双方」の意味で使用される。
【0015】
本明細書において、「直交」および「平行」とは、本発明が属する技術分野において許容される誤差の範囲を含むものとする。例えば、「直交」および「平行」とは、厳密な直交あるいは平行に対して±10°未満の範囲内であることなどを意味し、厳密な直交あるいは平行に対しての誤差は、5°以下であることが好ましく、3°以下であることがより好ましい。
また、「直交」および「平行」以外で表される角度、例えば、15°や45°等の具体的な角度についても、本発明が属する技術分野において許容される誤差の範囲を含むものとする。例えば、本発明においては、角度は、具体的に示された厳密な角度に対して、±5°未満であることなどを意味し、示された厳密な角度に対する誤差は、±3°以下であるのが好ましく、±1°以下であるのが好ましい。
【0016】
可視光は電磁波のうち、ヒトの目で見える波長の光であり、380nm~780nmの波長域の光を示す。非可視光は、380nm未満の波長域または780nmを超える波長域の光である。
またこれに限定されるものではないが、可視光のうち、420nm~490nmの波長域の光は、青色光であり、495nm~570nmの波長域の光は、緑色光であり、620nm~750nmの波長域の光は、赤色光である。
赤外光のうち、近赤外光は780nm~2500nmの波長域の電磁波である。紫外光は波長10nm~380nmの範囲の光である。
【0017】
本明細書において、屈折率は、波長589.3nmの光に対する屈折率である。
【0018】
本明細書において、Re(λ)、Rth(λ)は、各々、波長λにおける面内のレターデーション、および、厚さ方向のレターデーションを表す。特に記載がないときは、波長λは、550nmとする。
本明細書において、Re(λ)、Rth(λ)は、AxoScan OPMF-1(オプトサイエンス社製)において、波長λで測定した値である。AxoScanにて平均屈折率((nx+ny+nz)/3)と膜厚(d(μm))を入力することにより、
遅相軸方向(°)
Re(λ)=R0(λ)
Rth(λ)=((nx+ny)/2-nz)×dが算出される。
なお、R0(λ)は、AxoScanで算出される数値として表示されるものであるが、Re(λ)を意味している。
また、本明細書において、Re(θ)は、AxoScan OPMF-1(オプトサイエンス社製)において、入射角θとなる方向から波長550nmで測定した値である。
また、本明細書において、Re(θ,λ)は、AxoScan OPMF-1(オプトサイエンス社製)において、入射角θとなる方向から波長λで測定した値である。
【0019】
本明細書において、屈折率nx、ny、nzは、アッベ屈折計(NAR-4T、アタゴ(株)製)を使用し、光源にナトリウムランプ(λ=589nm)を用いて測定する。また波長依存性を測定する場合は、多波長アッベ屈折計DR-M2(アタゴ(株)製)にて、干渉フィルタとの組み合わせで測定できる。
また、ポリマーハンドブック(JOHN WILEY&SONS,INC)、各種光学フィルムのカタログの値を使用することもできる。主な光学フィルムの平均屈折率の値を以下に例示する:セルロースアシレート(1.48)、シクロオレフィンポリマー(1.52)、ポリカーボネート(1.59)、ポリメチルメタクリレート(1.49)、ポリスチレン(1.59)である。
【0020】
[光学フィルム]
本発明の光学フィルムは、
液晶化合物、および、キラル剤を用いて形成された光学フィルムであって、
前記液晶化合物は、重合性液晶化合物であり、
液晶化合物由来の分子軸は、螺旋軸に沿って捩れ配向しており、
螺旋軸は、光学フィルムの厚み方向と直交しており、
フィルム面内の遅相軸方向の屈折率nxと、フィルム面内の進相軸方向の屈折率nyと、光学フィルムの厚み方向の屈折率nzとが、nx>nz>nyを満たす光学フィルムである。
【0021】
図1は、本発明の光学フィルムの一例を概念的に表す断面図であり、
図2は、
図1の平面図である。
図1および
図2に示す光学フィルム10は、液晶化合物12を用いて形成された光学フィルムである。光学フィルム10において、液晶化合物12由来の分子軸は、螺旋軸Sに沿ってねじれ配向している。
図1に示す例においては、液晶化合物12は、棒状液晶化合物であって、液晶化合物由来の分子軸の方向は液晶化合物12の長手方向に一致する。螺旋軸Sは、光学フィルムの厚み方向(
図1中上下方向)と直交している。
【0022】
以下の説明では、光学フィルム10の厚み方向(
図1中上下方向、
図2の紙面に垂直な方向)をz方向とし、厚み方向に直交する面方向のうち、螺旋軸Sに平行な方向(
図1中左右方向、
図2中左右方向)をy方向とし、螺旋軸Sに直交する方向(
図1の紙面に垂直な方向、
図2中上下方向)をx方向とする。また、光学フィルム10の
図1上面側の表面を上面11aといい、
図1下面側の表面を下面11bともいう。
すなわち、
図1は、z方向およびy方向に平行な断面で見た図であり、
図2は、z方向から見た平面図である。
【0023】
本発明の光学フィルム10は、フィルム面内のx方向の屈折率nxと、フィルム面内のy方向の屈折率nyと、光学フィルム10の厚み方向(z方向)の屈折率nzとが、nx>nz>nyを満たす。屈折率nxは、フィルム面内の遅相軸方向の屈折率であり、屈折率nyは、フィルム面内の進相軸方向の屈折率である。
【0024】
本発明の光学フィルム10は、厚み方向と直交する螺旋軸に沿って捩れ配向した液晶化合物を有し、フィルム面内の遅相軸方向の屈折率nxと、フィルム面内の進相軸方向の屈折率nyと、光学フィルムの厚み方向の屈折率nzとが、nx>nz>nyを満たすことによって、位相差の視野角依存性を小さくすることができる。
具体的には、厚み方向の屈折率nzを遅相軸方向の屈折率nxと進相軸方向の屈折率nyとの間の値とすることによって、Nz係数=(nx-nz)/(nx-ny)で表されるNz係数を0.5程度に調整することが可能となる。Nz係数は、Rth/Re+0.5とも表されるため、Nz係数を0.5と調整可能とは、いいかえれば、厚さ方向のレターデーションRthを0近傍に調整可能であることを意味する。厚さ方向のレターデーションRthが0に近い位相差膜は位相差の視野角依存性を小さくすることができる。位相差の視野角依存性とは、光学フィルムを鉛直方向に対して種々の角度から見た際に、透過光の輝度および色味が変化することをいう。すなわち、位相差の視野角依存性が小さいとは、光学フィルムを鉛直方向に対して種々の角度から見た際に、透過光の輝度および色味が変化が少ないことを意味する。
位相差の視野角依存性を小さくすることができる点から、Rthは、±20nmの範囲(-20nm~20nm)であるのが好ましく、±5nmの範囲(-5nm~5nm)であるのが好ましい。
【0025】
図1および
図2に示す光学フィルム10において、フィルム面内の遅相軸方向の屈折率nxと、フィルム面内の進相軸方向の屈折率nyと、光学フィルムの厚み方向の屈折率nzとの関係をnx>nz>nyとするために、螺旋軸Sに沿って捩れ配向した液晶化合物12由来の分子軸の角度が90°変化する長さを1/4ピッチ(
図1中「P/4」で表す)とした際に、1/4ピッチの中で、単位長さ当たりの回転角が異なる領域を有する構成を有する。
さらに、
図1および
図2に示す光学フィルム10は、液晶化合物12由来の分子軸が光学フィルム10の厚み方向と平行な位置から、液晶化合物12由来の分子軸が光学フィルム10の厚み方向に対して90°回転した位置までの1/4ピッチの中で、単位長さ当たりの回転角が減少している構成を有する。
【0026】
より具体的に、
図1~
図4を用いて説明する。
図3は、螺旋軸Sに沿って捩れ配向された複数の液晶化合物の一部(1/4ピッチ分)を螺旋軸方向(y方向)から見た図であり、
図4は、螺旋軸方向から見た液晶化合物の存在確率を概念的に示す図である。
【0027】
図1~
図3に示すように、分子軸が厚み方向(z方向)と平行な液晶化合物をc1とし、分子軸が厚み方向に対して直交する、すなわち、x方向と平行な液晶化合物をc7とし、c1とc7との間の液晶化合物を液晶化合物c1側から液晶化合物c7側に向かってc2~c6とする。液晶化合物c1~c7は、螺旋軸Sに沿って捩れ配向されており、液晶化合物c1から液晶化合物c7の間で90°回転している。捩れ配向された液晶化合物の角度が360°変化する液晶化合物間の長さを1ピッチ(
図1中「P」で表す)とすると、液晶化合物c1から液晶化合物c7までの長さは1/4ピッチである。
【0028】
図3に示すように、液晶化合物c1から液晶化合物c7までの1/4ピッチの中で、y方向(螺旋軸方向)から見た、隣接する液晶化合物の分子軸がなす角度が異なっている。
図3に示す例では、液晶化合物c1と液晶化合物c2とのなす角度θ
1は、液晶化合物c2と液晶化合物c3とのなす角度θ
2よりも大きく、液晶化合物c2と液晶化合物c3とのなす角度θ
2は、液晶化合物c3と液晶化合物c4とのなす角度θ
3よりも大きく、液晶化合物c3と液晶化合物c4とのなす角度θ
3は、液晶化合物c4と液晶化合物c5とのなす角度θ
4よりも大きく、液晶化合物c4と液晶化合物c5とのなす角度θ
4は、液晶化合物c5と液晶化合物c6とのなす角度θ
5よりも大きく、液晶化合物c5と液晶化合物c6とのなす角度θ
5は、液晶化合物c6と液晶化合物c7とのなす角度θ
6よりも大きく、液晶化合物c6と液晶化合物c7とのなす角度θ
6は最も小さい。
【0029】
すなわち、液晶化合物c1~c7は、液晶化合物c1側から液晶化合物c7側に向かうに従って、隣接する液晶化合物の分子軸がなす角度が小さくなるように捩れ配向されている。
図1~
図3に示す例においては、液晶化合物12間の間隔は一定であるため、液晶化合物c1から液晶化合物c7までの1/4ピッチの中で、液晶化合物c1側から液晶化合物c7側に向かうに従って、単位長さ当たりの回転角が減少する構成となる。
本発明の光学フィルムにおいては、このように、1/4ピッチの中で、単位長さ当たりの回転角が変化する構成が繰り返されて、液晶化合物が捩れ配向されている。
【0030】
ここで、単位長さ当たりの回転角が一定の場合には、隣接する液晶化合物の分子軸がなす角度が一定であるため、
図5に概念的に示すように、螺旋軸方向から見た液晶化合物の存在確率はどの方向でも同じになる。
これに対して、上述のように、液晶化合物c1から液晶化合物c7までの1/4ピッチの中で、液晶化合物c1側から液晶化合物c7側に向かうに従って、単位長さ当たりの回転角が減少する構成とすることで、螺旋軸S方向から見た液晶化合物の存在確率は、
図4に概念的に示すように、z方向(厚み方向)に比べてx方向(螺旋軸Sと直交する面方向)が高くなる。x方向とz方向とで液晶化合物の存在確率が異なるものとなることで、x方向とz方向とで屈折率が異なるものとなり、屈折率異方性が生じる。言い換えると、螺旋軸Sに垂直な面内において屈折率異方性が生じる。
【0031】
液晶化合物の存在確率が高くなるx方向の屈折率nxは、液晶化合物の存在確率が低くなるz方向の屈折率nzよりも高くなる。また、螺旋軸Sと直交する方向の屈折率nxおよび屈折率nzは、螺旋軸S方向の屈折率nyよりも高くなる。従って、屈折率nx、屈折率ny、および、屈折率nzは、nx>nz>nyを満たすことができる。
【0032】
このように、液晶化合物の捩れ配向において、1/4ピッチの中で単位長さ当たりの回転角が変化する構成は、コレステリック液晶相を固定する前に、コレステリック液晶相に、螺旋軸と直交する方向の偏光を照射することで形成することができる。
この点については後に詳述する。
【0033】
前述のとおり、特許文献1~3では、光学異方性膜において、液晶組成物に偏光を照射することで液晶化合粒の捩れ構造に異方性を持たせた構造として二軸性を付与することが記載されている。
しかしながら、特許文献1~3に記載された光学異方性膜は、螺旋軸が厚み方向と平行である。そのため、厚み方向の屈折率nzが、面内方向の屈折率nxおよびnyよりも小さくなるため、nx>nz>nyを満たすものとすることができない。そのため、Nz係数を0.5程度にすることができず、厚さ方向のレターデーションRth=0とすることができない。従って、位相差の視野角依存性を小さくすることができない。
【0034】
これに対して、本発明の光学フィルムは、前述のとおり、螺旋軸は、光学フィルムの厚み方向と直交しており、屈折率nx、屈折率ny、および、屈折率nzが、nx>nz>nyを満たす構成とすることができるため、Nz係数を0.5程度、いいかえれば、波長550nmにおける厚さ方向のレターデーションRth=0とすることができ、位相差の視野角依存性を小さくすることができる。
【0035】
屈折率nx、屈折率ny、および、屈折率nzは、アッベ屈折計(NAR-4T、アタゴ(株)製)を使用し、光源にナトリウムランプ(λ=589nm)を用いて測定する。また波長依存性を測定する場合は、多波長アッベ屈折計DR-M2(アタゴ(株)製)にて、干渉フィルタとの組み合わせで測定できる。
【0036】
螺旋軸の方向は、光学測定時の進相軸方位(と一致する)によって決定できる。
【0037】
このような本発明の光学フィルムは、視野角依存性の小さい位相差フィルムとして利用可能である。また、ピッチを調整することによって直線偏光板としても利用可能である。
【0038】
ここで、
図1に示す例においては、光学フィルム10は、液晶化合物12が捩れ配向された層を厚み方向に3層有する構成としたが、これに限定はされず、液晶化合物が捩れ配向された層を厚み方向に1層有する構成であってもよいし、2層有する構成であってもよいし、4層以上有する構成であってもよい。
【0039】
また、
図1に示す例では、液晶化合物は棒状液晶化合物としたが、これに限定はされず、円盤状液晶化合物であってもよい。液晶化合物は棒状液晶化合物であるのが好ましい。
円盤状液晶化合物の場合は、分子短軸が分子軸となる。
【0040】
また、
図1に示す例においては、6つ離間した位置の液晶化合物までの長さを1/4ピッチ(24個離間した位置の液晶化合物までの長さを1ピッチ)としたが、これに限定はされず、少なくとも2つ離間した位置の液晶化合物までの長さを1/4ピッチとすればよい。
【0041】
また、捩れ配向された複数の液晶化合物由来の分子軸が360°変化する1ピッチの長さは、260nm以下であるのが好ましく、100nm以上260nm以下であるのがより好ましく、150nm以上260nm以下であるのが更に好ましい。
1ピッチの長さを260nm以下とすることで、可視光に反射が無く可視光に対する位相差フィルムとすることができる。
なお、1ピッチの長さは、キラル剤の種類、添加量等によって調整することができる。
【0042】
また、
図1に示す例では、隣接する液晶化合物の間隔は略一定としたがこれに限定はされず互いに異なっていてもよい。
【0043】
また、
図3に示す例では、液晶化合物c1側から液晶化合物c7側に向かうに従って、単位長さ当たりの回転角が小さくなる(漸減する)構成としたが、液晶化合物の存在確率(屈折率)に異方性を持たせることができれば、これに限定はされず、単位長さ当たりの回転角は不規則に変化していてもよい。
【0044】
光学フィルム10の厚さにも、特に制限はなく、1~100μmが好ましく、1~50μmがより好ましい。光学フィルム10の厚さは、Rthが所望の範囲となるように選択するのが好ましい。
【0045】
また、
図1に示す例では、光学フィルム10は、液晶化合物を用いて形成されたフィルム単体としたが、これに限定はされず、支持体上に積層された構成としてもよい。また、他の光学機能層を積層されてもよい。
【0046】
なお、光学フィルム10において、捩れ配向を固定した構造においては、捩れ配向の光学的性質が保持されていれば十分であり、光学フィルム10において、液晶化合物12は液晶性を示さなくてもよい。例えば、重合性液晶化合物は、硬化反応により高分子量化して、液晶性を失っていてもよい。
【0047】
光学フィルム10を形成する液晶組成物は、液晶化合物、キラル剤、および、重合開始剤を含む。
液晶化合物は、重合性液晶化合物である。
キラル剤は光照射によって螺旋誘起力が変化するキラル剤であるのが好ましい。
重合開始剤は、二色性の重合開始剤である。
また、液晶組成物は界面活性剤(水平配向剤)を含んでいてもよい。
以下、光学フィルム10を形成する液晶組成物に含まれる材料について詳細に説明する。
【0048】
--重合性液晶化合物--
重合性液晶化合物は、棒状液晶化合物であっても、円盤状液晶化合物であってもよいが、棒状液晶化合物であるのが好ましい。
光学フィルム10を形成する棒状の重合性液晶化合物の例としては、棒状ネマチック液晶化合物が挙げられる。棒状ネマチック液晶化合物としては、アゾメチン類、アゾキシ類、シアノビフェニル類、シアノフェニルエステル類、安息香酸エステル類、シクロヘキサンカルボン酸フェニルエステル類、シアノフェニルシクロヘキサン類、シアノ置換フェニルピリミジン類、アルコキシ置換フェニルピリミジン類、フェニルジオキサン類、トラン類、および、アルケニルシクロヘキシルベンゾニトリル類等が好ましく用いられる。低分子液晶化合物だけではなく、高分子液晶化合物も用いることができる。
【0049】
重合性液晶化合物は、重合性基を液晶化合物に導入することで得られる。重合性基の例には、不飽和重合性基、エポキシ基、およびアジリジニル基が含まれ、不飽和重合性基が好ましく、エチレン性不飽和重合性基がより好ましい。重合性基は種々の方法で、液晶化合物の分子中に導入できる。重合性液晶化合物が有する重合性基の個数は、好ましくは1~6個、より好ましくは1~3個である。
重合性液晶化合物の例は、Makromol.Chem.,190巻、2255頁(1989年)、Advanced Materials 5巻、107頁(1993年)、米国特許第4683327号明細書、米国特許第5622648号明細書、米国特許第5770107号明細書、国際公開第95/22586号、国際公開第95/24455号、国際公開第97/00600号、国際公開第98/23580号、国際公開第98/52905号、特開平1-272551号公報、特開平6-16616号公報、特開平7-110469号公報、特開平11-80081号公報、および、特開2001-328973号公報等に記載の化合物が含まれる。2種類以上の重合性液晶化合物を併用してもよい。2種類以上の重合性液晶化合物を併用すると、配向温度を低下させることができる。
【0050】
また、上記以外の重合性液晶化合物としては、特開昭57-165480号公報に開示されているようなコレステリック相を有する環式オルガノポリシロキサン化合物等を用いることができる。さらに、前述の高分子液晶化合物としては、液晶を呈するメソゲン基を主鎖、側鎖、あるいは主鎖および側鎖の両方の位置に導入した高分子、コレステリル基を側鎖に導入した高分子コレステリック液晶、特開平9-133810号公報に開示されているような液晶性高分子、および、特開平11-293252号公報に開示されているような液晶性高分子等を用いることができる。
【0051】
また、液晶組成物中の重合性液晶化合物の添加量は、液晶組成物の固形分質量(溶媒を除いた質量)に対して、75~99.9質量%であるのが好ましく、80~99質量%であるのがより好ましく、85~90質量%であるのがさらに好ましい。
【0052】
--キラル剤(光学活性化合物)--
キラル剤(カイラル剤)は光学フィルム10の螺旋構造を誘起する機能を有する。キラル剤は、化合物によって誘起する螺旋の捩れ方向または螺旋ピッチが異なるため、目的に応じて選択すればよい。
キラル剤としては、特に制限はなく、公知の化合物(例えば、液晶デバイスハンドブック、第3章4-3項、TN(twisted nematic)、STN(Super Twisted Nematic)用カイラル剤、199頁、日本学術振興会第142委員会編、1989に記載)、イソソルビド、および、イソマンニド誘導体等を用いることができる。
【0053】
中でも、光の照射によって、螺旋誘起力(HTP((Helical Twisting Power)))が変化するキラル剤は、好ましく利用される。
光の照射によってHTPが変化するキラル剤を用いることにより、例えば、マスクを介して液晶組成物を露光することによって、部分的にキラル剤のHTPを変化させることができる。これにより、光学フィルム10の面内に、捩れ配向された液晶化合物12の捩れ角が異なる、複数の領域を形成できる。
なお、光照射によってHTPが変化するキラル剤は、光照射によってHTPが低下するキラル剤でも、光照射によってHTPが増加するキラル剤でもよい。
【0054】
キラル剤は、一般に不斉炭素原子を含むが、不斉炭素原子を含まない軸性不斉化合物または面性不斉化合物もキラル剤として用いることができる。軸性不斉化合物または面性不斉化合物の例には、ビナフチル、ヘリセン、パラシクロファン、および、これらの誘導体が含まれる。キラル剤は、重合性基を有していてもよい。キラル剤と液晶化合物とがいずれも重合性基を有する場合は、重合性キラル剤と重合性液晶化合物との重合反応により、重合性液晶化合物から誘導される繰り返し単位と、キラル剤から誘導される繰り返し単位とを有するポリマーを形成することができる。この態様では、重合性キラル剤が有する重合性基は、重合性液晶化合物が有する重合性基と、同種の基であるのが好ましい。従って、キラル剤の重合性基も、不飽和重合性基、エポキシ基またはアジリジニル基であるのが好ましく、不飽和重合性基であるのがより好ましく、エチレン性不飽和重合性基であるのがさらに好ましい。
また、キラル剤は、液晶化合物であってもよい。
【0055】
キラル剤は、光異性化基を有してもよい。キラル剤が光異性化基を有する場合には、光の照射によってキラル剤のHTPを変更することができるので、好ましい。
光異性化基としては、フォトクロッミック性を示す化合物の異性化部位、アゾ基、アゾキシ基、または、シンナモイル基が好ましい。具体的な化合物として、特開2002-80478号公報、特開2002-80851号公報、特開2002-179668号公報、特開2002-179669号公報、特開2002-179670号公報、特開2002-179681号公報、特開2002-179682号公報、特開2002-338575号公報、特開2002-338668号公報、特開2003-313189号公報、および、特開2003-313292号公報等に記載の化合物を用いることができる。
【0056】
液晶組成物における、キラル剤の含有量は、捩れ配向される液晶化合物12の最大の捩れ角を実現できる量を、キラル剤の種類等に応じて、適宜、設定すればよい。
キラル剤の含有量は、液晶化合物の含有モル量に対して0.01~10モル%が好ましく、0.01~5モル%がより好ましい。
【0057】
--重合開始剤--
液晶組成物が重合性化合物を含む場合は、重合開始剤を含有しているのが好ましい。紫外線照射により重合反応を進行させる態様では、使用する重合開始剤は、紫外線照射によって重合反応を開始可能な光重合開始剤であるのが好ましい。
光重合開始剤の例には、α-カルボニル化合物(米国特許第2367661号、米国特許第2367670号の各明細書記載)、アシロインエーテル(米国特許第2448828号明細書記載)、α-炭化水素置換芳香族アシロイン化合物(米国特許第2722512号明細書記載)、多核キノン化合物(米国特許第3046127号、米国特許第2951758号の各明細書記載)、トリアリールイミダゾールダイマーとp-アミノフェニルケトンとの組み合わせ(米国特許第3549367号明細書記載)、アクリジンおよびフェナジン化合物(特開昭60-105667号公報、米国特許第4239850号明細書記載)、ならびに、オキサジアゾール化合物(米国特許第4212970号明細書記載)等が挙げられる。
【0058】
中でも、重合開始剤は、二色性の重合開始剤であることが好ましい。
二色性の重合開始剤とは、光重合開始剤のうち、特定の偏光方向の光に対して吸収選択性を有し、その偏光により励起されてフリーラジカルを発生させるものをいう。つまり、二色性の重合開始剤とは、特定の偏光方向の光と、上記特定の偏光方向の光と直交する偏光方向の光とで、異なる吸収選択性を有する重合開始剤である。
その詳細及び具体例については、WO2003/054111号パンフレットに記載がある
二色性の重合開始剤の具体例としては、下記化学式の重合開始剤が挙げられる。また、二色性の重合開始剤としては、特表2016-535863号公報の段落[0046]~[0097]に記載の重合開始剤を用いることができる。
【0059】
【0060】
液晶組成物中の光重合開始剤の含有量は、液晶化合物の含有量に対して0.1~20質量%であるのが好ましく、0.5~12質量%であるのがより好ましい。
【0061】
--架橋剤--
液晶組成物は、硬化後の膜強度向上、耐久性向上のため、任意に架橋剤を含有していてもよい。架橋剤としては、紫外線、熱、および、湿気等で硬化するものが好適に使用できる。
架橋剤としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えばトリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレートおよびペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート等の多官能アクリレート化合物;グリシジル(メタ)アクリレートおよびエチレングリコールジグリシジルエーテル等のエポキシ化合物;2,2-ビスヒドロキシメチルブタノール-トリス[3-(1-アジリジニル)プロピオネート]および4,4-ビス(エチレンイミノカルボニルアミノ)ジフェニルメタン等のアジリジン化合物;ヘキサメチレンジイソシアネートおよびビウレット型イソシアネート等のイソシアネート化合物;オキサゾリン基を側鎖に有するポリオキサゾリン化合物;ならびに、ビニルトリメトキシシラン、N-(2-アミノエチル)3-アミノプロピルトリメトキシシラン等のアルコキシシラン化合物などが挙げられる。また、架橋剤の反応性に応じて公知の触媒を用いることができ、膜強度および耐久性向上に加えて生産性を向上させることができる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
架橋剤の含有量は、液晶組成物の固形分質量に対して、1~20質量%が好ましく、3~10質量%がより好ましい。架橋剤の含有量が上記範囲内であれば、架橋密度向上の効果が得られやすく、光学フィルム10の安定性がより向上する。
【0062】
--界面活性剤--
光学フィルム10を形成する際に用いる液晶組成物は、界面活性剤を含有してもよい。
界面活性剤は、液晶化合物を安定的にまたは迅速にプレーナー配向とする効果を寄与する、配向制御剤(水平配向剤)として機能できる化合物が好ましい。
界面活性剤としては、例えば、シリコ-ン系界面活性剤およびフッ素系界面活性剤が挙げられ、フッ素系界面活性剤が好ましく例示される。
【0063】
界面活性剤の具体例としては、特開2014-119605号公報の段落[0082]~[0090]に記載の化合物、特開2012-203237号公報の段落[0031]~[0034]に記載の化合物、特開2005-99248号公報の段落[0092]および[0093]中に例示されている化合物、特開2002-129162号公報の段落[0076]~[0078]および段落[0082]~[0085]中に例示されている化合物、ならびに、特開2007-272185号公報の段落[0018]~[0043]等に記載のフッ素(メタ)アクリレート系ポリマー、などが挙げられる。
なお、界面活性剤は、1種を単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
フッ素系界面活性剤として、特開2014-119605号公報の段落[0082]~[0090]に記載の化合物が好ましい。
【0064】
液晶組成物中における、界面活性剤の添加量は、液晶化合物の全質量に対して0.01~10質量%が好ましく、0.01~5質量%がより好ましく、0.02~1質量%がさらに好ましい。
【0065】
--その他の添加剤--
液晶組成物中には、必要に応じて、さらに重合禁止剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、光安定化剤、色材、および、金属酸化物微粒子等を、光学的性能等を低下させない範囲で添加することができる。
【0066】
液晶組成物は、光学フィルム10を形成する際には、液体として用いられるのが好ましい。
液晶組成物は溶媒を含んでいてもよい。溶媒には、制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、有機溶媒が好ましい。
有機溶媒には、制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、ケトン類、アルキルハライド類、アミド類、スルホキシド類、ヘテロ環化合物、炭化水素類、エステル類、および、エーテル類などが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。これらの中でも、環境への負荷を考慮した場合にはケトン類が好ましい。
【0067】
[光学フィルムの製造方法]
本発明の光学フィルムの製造方法は、
液晶化合物、二色性の重合開始剤、および、キラル剤を含有する塗膜を形成する塗膜形成工程と、
塗膜中の液晶化合物を塗膜の厚み方向と直交する螺旋軸に沿って捩れ配向させてコレステリック液晶相を形成するCL液晶相形成工程と、
コレステリック液晶相に、螺旋軸と直交する方向の偏光を照射する偏光照射工程とを有する光学フィルムの製造方法である。
以下、
図6~
図7を用いて光学フィルムの製造方法について説明する。
【0068】
<塗膜形成工程>
塗膜形成工程は、液晶化合物、二色性の重合開始剤、および、キラル剤を含有する塗膜を形成する工程である。
具体的には、液晶化合物、二色性の重合開始剤、および、キラル剤等を含有する液晶組成物を支持体(仮支持体)上に塗布して、支持体14上に液晶化合物12を含む液晶組成物の塗膜16を形成する。
【0069】
液晶組成物の塗布方法は、バーコート、グラビアコート、および、スプレー塗布等の液体の塗布に用いられている公知の各種の方法が利用可能である。また、液晶組成物の塗布厚(塗膜厚)は、液晶組成物の組成等に応じて、目的とする厚さの光学フィルムが得られる塗布厚を、適宜、設定すればよい。
【0070】
また、塗布した液晶化合物12に配向性を付与してもよい。
液晶化合物12の配向性の付与方法としては特に限定はなく、公知の方法で行なえばよい。一例として、支持体14の塗膜16形成面にラビング等によって配向制御力を付与すればよい。
【0071】
なお、配向性の付与方法は、ラビングに制限はされず、公知の方法が利用可能である。一例として、光配向性の材料に偏光または非偏光を照射して配向膜とした、いわゆる光配向膜による配向性の付与も用いることができる。すなわち、本発明の光学フィルムの製造方法では、光学フィルムを形成する支持体16の表面に、光配向膜を有してもよい。
光配向膜に用いられる光配向材料としては、例えば、特開2006-285197号公報、特開2007-76839号公報、特開2007-138138号公報、特開2007-94071号公報、特開2007-121721号公報、特開2007-140465号公報、特開2007-156439号公報、特開2007-133184号公報、特開2009-109831号公報、特許第3883848号、特許第4151746号に記載のアゾ化合物、特開2002-229039号公報に記載の芳香族エステル化合物、特開2002-265541号公報、特開2002-317013号公報に記載の光配向性単位を有するマレイミドおよび/またはアルケニル置換ナジイミド化合物、特許第4205195号、特許第4205198号に記載の光架橋性シラン誘導体、特表2003-520878号公報、特表2004-529220号公報、特許第4162850号に記載の光架橋性ポリイミド、ポリアミド、またはエステル、特開平9-118717号公報、特表平10-506420号公報、特表2003-505561号公報、WO2010/150748号公報、特開2013-177561号公報、特開2014-12823号公報に記載の光二量化可能な化合物、特にシンナメート化合物、カルコン化合物、クマリン化合物が好ましい例として挙げられる。
【0072】
利用可能な支持体14としては、トリアセチルセルロース(TAC)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリカーボネート、ポリ塩化ビニル、アクリル、および、ポリオレフィン等の樹脂フィルムが例示される。また、光学フィルム10を、支持体14に積層した状態で使用する場合には、支持体14は、ヘイズが低く、十分な透明性を有するものを用いるのが好ましい。
【0073】
<CL液晶相形成工程>
CL液晶相形成工程は、
図6に示すように、塗膜16中の液晶化合物12を塗膜16の厚み方向と直交する螺旋軸Sに沿って捩れ配向させてコレステリック液晶相を形成する工程である。
コレステリック液晶相の形成は、塗膜の冷却、加熱等(熟成ともいう)により行なうことができる。
【0074】
CL液晶相形成工程によって、液晶化合物12は、塗膜の厚み方向と直交する螺旋軸に沿って捩れ配向する。このとき、隣接する液晶化合物12の分子軸が成す角度は略一定となるように捩れ配向されている。
【0075】
<偏光照射工程>
偏光照射工程は、CL液晶相形成工程で形成したコレステリック液晶相を有する塗膜16に、螺旋軸Sと直交する方向の偏光を照射する工程である。
具体的には、塗膜16の表面(
図6中塗膜の上側)側から、螺旋軸Sと直交する方向、すなわち、x方向の偏光を塗膜16に照射することで、偏光方向と合致するx方向に分子軸を有する液晶化合物12の重合が進行する。すなわち、
図1~
図3においてc7に相当する液晶化合物、および、これに近い位置に存在する液晶化合物の重合が進行する。このとき、一部の液晶化合物のみが重合するため、この位置に存在したキラル剤が排除されて他の位置(c1側)に移動する。
【0076】
従って、液晶化合物の分子軸の方向がx方向に近い位置(c7近傍)では、キラル剤の量が少なくなり、捩れ配向の回転角が小さくなる。一方、液晶化合物の分子軸の方向がz方向に近い位置(c1近傍)では、キラル剤の量が多くなり、捩れ配向の回転角が大きくなる。
これによって、
図7に示すように、螺旋軸Sに沿って捩れ配向された液晶化合物において、分子軸がz方向(厚み方向)と平行な液晶化合物から、x方向と平行な液晶化合物までの1/4ピッチの中で、z方向に平行な液晶化合物c1側からx方向に平行な液晶化合物c7側に向かうに従って、隣接する液晶化合物の分子軸がなす角度が小さくなる構成を有する光学フィルムを得ることができる。すなわち、作製した光学フィルムは、1/4ピッチの中で、液晶化合物c1側から液晶化合物c7側に向かうに従って、単位長さ当たりの回転角が減少する構成を有する光学フィルムとなる。
【0077】
以上のとおり、偏光照射工程において、コレステリック液晶相に偏光を照射することで、x方向とz方向とで液晶化合物の存在確率が異なるものとなり、x方向とz方向とで屈折率が異なる、屈折率異方性が生じる。これによって、光学フィルム10の屈折率nx、屈折率ny、および、屈折率nzは、nx>nz>nyを満たすものとすることができる。
【0078】
偏光照射工程において照射する光は、紫外線でも、可視光でも、赤外線でもよい。すなわち、塗膜16が含有する液晶化合物および重合開始剤等に応じて、液晶化合物が重合できる光を、適宜、選択すればよい。
【0079】
また、重合開始剤として二色性の重合開始剤を用いることによって、塗膜に偏光を照射した際に、偏光方向と合致する方向に分子軸を有する液晶化合物の重合をより好適に進行させることができる。
【0080】
<硬化工程>
本発明の光学フィルムの製造方法は、偏光照射工程の後に、液晶相を固定する硬化工程を有していてもよい。
液晶相を固定化する方法としては限定はなく、紫外光照射、加熱等の公知の方法を用いることができる。液晶組成物の硬化は、光照射が好ましく、中でも、紫外線照射による硬化が好ましい。また、照射する光は非偏光の光である。
【0081】
作製した光学フィルム10は、一例として、支持体14から剥離される。あるいは、支持体16と積層された状態で使用されてもよい。
【0082】
また、本発明の光学フィルムの製造方法は、長尺な支持体を長手方向に搬送しつつ各種の処理を行う、いわゆるロール・トゥ・ロール(以下、「RtoR」ともいう)によって製造するものであってもよいし、いわゆる枚葉式で製造するものであってもよい。生産性等を考慮するとロール・トゥ・ロールによって製造するのが好ましい。
周知のように、RtoRとは、長尺な被処理材料を巻回してなるロールから、被処理材料を送り出して、長手方向に搬送しつつ、各種の処理を行い、処理済の被処理材料を、再度、ロール状に巻回する製造方法である。RtoRを利用することにより、高い生産性で、効率よく光学フィルム10を作製できる。
【0083】
以上、本発明の光学フィルムおよび光学フィルムの製造方法について詳細に説明したが、本発明は上述の例に限定はされず、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、各種の改良や変更を行ってもよいのは、もちろんである。
【実施例】
【0084】
以下に実施例を挙げて本発明の特徴をさらに具体的に説明する。以下の実施例に示す材料、試薬、使用量、物質量、割合、処理内容、および、処理手順等は、本発明の趣旨を逸脱しない限り適宜変更することができる。したがって、本発明の範囲は以下に示す具体例により限定的に解釈されるべきものではない。
【0085】
[実施例1]
<液晶組成物の調製>
以下に示す各成分を混合し、液晶組成物を調製した。
・重合性液晶化合物1 0.7g
・重合性液晶化合物2 0.3g
・キラル剤 0.3g
・二色性重合開始剤A(光重合開始剤) 40mg
・メチルエチルケトン(MEK) 1.6g
【0086】
【0087】
【0088】
【0089】
【0090】
(塗膜形成工程)
ガラス上配向膜(SE-7511L(日産化学工業))を形成し、レーヨン布によってラビング処理を施した。ラビング処理の条件は、圧力:0.1kgf(0.98N)、回転数:1000rpm、搬送速度:10m/min、回数:1往復、とした。
【0091】
ラビング処理面に、ワイヤーバーを用いて、液晶組成物を室温にて塗布し、塗膜を形成した。
なお、塗膜の厚さは乾燥膜厚が1μmとなるように調節した。
【0092】
(CL液晶相形成工程)
次いで、形成した塗膜を昇温後90度で熟成しコレステリック液晶相を形成した。
【0093】
(偏光照射工程)
次いで、コレステリック液晶相を有する塗膜に、螺旋軸Sと直交する方向の偏光を照射した。
光源は、UV照射装置(Light Hammer 10、240W/cm、Fusion UV Systems社製)を用い、波長は350~400nmとし、露光量は100mJ/cm2とした。また、ワイヤグリッド偏光フィルタ(ProFlux PPL04C,Moxtek社)を用いることで偏光を照射した。
【0094】
(硬化工程)
その後、偏光照射を行った塗膜に対し、窒素雰囲気下(酸素濃度500ppm以下)、80℃で、500mJ/cm2、紫外線を照射して液晶組成物の塗膜を硬化することにより、光学フィルムを作製した。なお、紫外線の光源は、HOYA CANDEO OPTRONICS社製の『EXECURE3000-W』を用いた。なお、照射した光は非偏光である。
その後、支持体を剥離して、光学フィルムとした。
【0095】
(屈折率の測定)
作製した光学フィルムの屈折率nx、ny、nzを、アッベ屈折計(NAR-4T、アタゴ(株)製)を使用し、光源にナトリウムランプ(λ=589nm)を用いて測定した。また、Rthの値をRth=((nx+ny)/2-nz)×dから算出した。
測定した結果を表1に表す。
【0096】
[実施例2]
塗膜形成工程において、1μmの層を2回塗布して積層し全体で2μの積層体とした以外は実施例1と同様に光学フィルムを作製した。
【0097】
[実施例3]
液晶組成物の調製において、重合性液晶化合物2を重合性液晶化合物3に変更し、さらに、塗膜形成工程において、塗膜の厚みを1.5μmとした以外は実施例1と同様に光学フィルムを作製した。
【0098】
【0099】
[実施例4]
重合開始剤として上記二色性重合開始剤Aと下記重合開始剤1(光ラジカル開始剤 BASF社製 IRGACURE907)とを8:2の割合で用いた以外は実施例3と同様に光学フィルムを作製した。
下記重合開始剤1は、二色性の重合開始剤ではない。
【0100】
【0101】
[比較例1]
重合開始剤を上記構造の重合開始剤1に変更した以外は実施例1と同様に光学フィルムを作製した。
【0102】
[評価]
<位相差の視野角依存性>
作製した光学フィルムについて、位相差の視野角依存性を以下の方法で測定し評価した。
光学フィルムをクロスニコルの偏光板の間に遅相軸が45°になるように挿入した構成としたとき、光学フィルムの鉛直方向から見た場合と、鉛直方向から斜め60°方向から見た場合とでの透過光の輝度および色味の変化を目視で観察し以下の基準で評価した。
A:輝度および色味の変化が感じられない。
B:輝度および/または色味の変化が若干あるが気にならない。
C:輝度および/または色味の変化が大きい。
結果を下記の表1に示す。
【0103】
【0104】
表1に示されるように、本発明の光学フィルムは、nx>nz>nyを満たさない比較例1に比べて位相差の視野角依存性が少ないことがわかる。
また、実施例1~4の対比から、Rthが±5nm以下の場合に位相差の視野角依存性がより少なくなり好ましいことがわかる。
以上の結果より、本発明の効果は明らかである。
【符号の説明】
【0105】
10 光学フィルム
11a、11b 表面
12 液晶化合物
14 支持体
16 塗膜
c1~c7 液晶化合物
P ピッチ
S 螺旋軸