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特許6999808組成物、ハードコートフィルム、ハードコートフィルムを備えた物品、及び画像表示装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2021-12-24
(45)【発行日】2022-02-10
(54)【発明の名称】組成物、ハードコートフィルム、ハードコートフィルムを備えた物品、及び画像表示装置
(51)【国際特許分類】
   C08L 83/04 20060101AFI20220203BHJP
   C08L 101/00 20060101ALI20220203BHJP
   B32B 27/00 20060101ALI20220203BHJP
   B32B 27/30 20060101ALI20220203BHJP
   B32B 27/38 20060101ALI20220203BHJP
【FI】
C08L83/04
C08L101/00
B32B27/00 101
B32B27/30 A
B32B27/38
【請求項の数】 13
(21)【出願番号】P 2020523553
(86)(22)【出願日】2019-04-15
(86)【国際出願番号】 JP2019016175
(87)【国際公開番号】W WO2019235072
(87)【国際公開日】2019-12-12
【審査請求日】2020-09-28
(31)【優先権主張番号】P 2018109085
(32)【優先日】2018-06-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2018221739
(32)【優先日】2018-11-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】306037311
【氏名又は名称】富士フイルム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002505
【氏名又は名称】特許業務法人航栄特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】福島 悠太
(72)【発明者】
【氏名】松本 彩子
(72)【発明者】
【氏名】北村 哲
(72)【発明者】
【氏名】田村 顕夫
(72)【発明者】
【氏名】植木 啓吾
【審査官】久保田 葵
(56)【参考文献】
【文献】特開平10-316932(JP,A)
【文献】特開2012-066235(JP,A)
【文献】特開2015-193747(JP,A)
【文献】特開平5-209031(JP,A)
【文献】特開2000-334881(JP,A)
【文献】特開2013-35274(JP,A)
【文献】特開2014-198818(JP,A)
【文献】国際公開第2015/129818(WO,A1)
【文献】特開2008-038117(JP,A)
【文献】特表2011-510133(JP,A)
【文献】特開平4-178411(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08K3/00-13/08
C08L1/00-101/14
C09D1/00 -10/00、101/00-201/10
C08F283/01、290/00-290/14、299/00-299/08
B32B1/00-43/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも、ラジカル重合性二重結合を有する基をつ以上有するモノマー(K1)、及び前記モノマー(K1)以外のモノマー(K2)を重合させてなる重合体と重合性基を有するポリオルガノシルセスキオキサン(A)とを含む組成物であって、
前記重合体の重量平均分子量が1000~8000であり、
前記重合体が、フッ素原子、ケイ素原子、及び炭素数が3以上の直鎖又は分岐アルキル基から選ばれる少なくともいずれか1つを有し、
前記重合体のOH含有量が、0質量%~0.002質量%であり、
前記重合体を重合する際に用いる全モノマー量に対する前記モノマー(K1)の配合量が20~85mol%であり、
前記組成物中の前記重合体の含有率が、全固形分に対して、0.001質量%以上20.0質量%以下である、組成物。
【請求項2】
前記重合体が、フッ素原子を有する請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
前記重合体が、下記一般式(s)で表される構造を有する請求項2に記載の組成物。
【化1】
一般式(s)中、R1sは水素原子又は炭素数1~20のアルキル基を表し、R2sは少なくとも1つのフッ素原子を有する炭素数1~20のアルキル基又は少なくとも1つのフッ素原子を有する炭素数1~20のアルケニル基を表す。*は結合手を表す。
【請求項4】
前記ラジカル重合性二重結合を有する基が、下記一般式(Z1)~(Z6)のいずれかで表される基である請求項1~3のいずれか1項に記載の組成物。
【化2】
一般式(Z3)中のRm1及び一般式(Z4)中のRm2は、各々独立に、水素原子又は炭素数1~20のアルキル基を表す。
【請求項5】
前記重合体が、イソシアヌル環、ウレタン結合、アミド結合、及びウレア結合から選ばれる少なくとも1つを有する請求項1~4のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項6】
前記モノマー(K1)が下記一般式(NI)~(NV)のいずれかで表される化合物である請求項1~のいずれか1項に記載の組成物。
【化3】
一般式(NI)中、L11、L12及びL13はそれぞれ独立に2価又は3価の連結基を表し、R11、R12及びR13はそれぞれ独立に水素原子又はメチル基を表し、n11~n13はそれぞれ独立に1又は2を表す。n11が2を表す場合、2つのR11は同一でも異なっていてもよい。n12が2を表す場合、2つのR12は同一でも異なっていてもよい。n13が2を表す場合、2つのR13は同一でも異なっていてもよい。
【化4】
一般式(NII)中、R21及びR22はそれぞれ独立に水素原子又はメチル基を表す。L21~6価の連結基を表す。n21は~5の整数を表す。複数のR22はそれぞれ同一であっても異なっていてもよい。
【化5】
一般式(NIII)中、L31及びL32はそれぞれ独立に2~4価の連結基を表し、L33は2価の連結基を表し、R31及びR32はそれぞれ独立に水素原子又はメチル基を表し、n31は2~3の整数を表し、n32は1~3の整数を表す。複数のR31はそれぞれ同一であっても異なっていてもよい。n32が2以上の整数を表す場合、複数のR32はそれぞれ同一であっても異なっていてもよい。
【化6】
一般式(NIV)中、Y41~6価の連結基を表し、R41は水素原子又はメチル基を表し、R42及びR43はそれぞれ独立に水素原子、ヒドロキシル基又は、炭素数1~10のアルキル基を表す。
n41は~6の整数を表す。複数のR41はそれぞれ同一であっても異なっていてもよく、複数のR42はそれぞれ同一であっても異なっていてもよく、複数のR43はそれぞれ同一であっても異なっていてもよい。
【化7】
一般式(NV)中、Y51~6価の連結基を表し、R51は水素原子又はメチル基を表し、R52、R53及びR54はそれぞれ独立に水素原子、ヒドロキシル基又は、炭素数1~10のアルキル基を表す。
n51は~6の整数を表す。複数のR51はそれぞれ同一であっても異なっていてもよく、複数のR52はそれぞれ同一であっても異なっていてもよく、複数のR53はそれぞれ同一であっても異なっていてもよく、複数のR54はそれぞれ同一であっても異なっていてもよい。
【請求項7】
前記重合性基を有するポリオルガノシルセスキオキサン(A)の前記重合性基がエポキシ基である請求項1~のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項8】
基材及びハードコート層を含む、ハードコートフィルムであって、
前記ハードコート層が、請求項1~のいずれか1項に記載の組成物の硬化物を含む、ハードコートフィルム。
【請求項9】
前記ハードコートフィルムのハードコート層の基材とは反対側に少なくとも1層の機能層を有する請求項に記載のハードコートフィルム。
【請求項10】
前記機能層として、混合層を有し、
前記混合層が、エポキシ基を有する化合物(b1)の硬化物と、1分子中に2個以上の(メタ)アクリロイル基を有する化合物(b2)の硬化物とを含む、請求項に記載のハードコートフィルム。
【請求項11】
前記機能層として、前記混合層と耐擦傷層を有し、
前記基材、前記ハードコート層、前記混合層、及び前記耐擦傷層をこの順に有し、
前記耐擦傷層は、1分子中に2個以上の(メタ)アクリロイル基を有する化合物(c1)の硬化物を含む、請求項10に記載のハードコートフィルム。
【請求項12】
請求項11のいずれか1項に記載のハードコートフィルムを備えた物品。
【請求項13】
請求項11のいずれか1項に記載のハードコートフィルムを表面保護フィルムとして備えた画像表示装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】

本発明は、組成物、ハードコートフィルム、ハードコートフィルムを備えた物品、及び画像表示装置に関する。
【背景技術】
【0002】

陰極管(CRT)を利用した表示装置、プラズマディスプレイ(PDP)、エレクトロルミネッセンスディスプレイ(ELD)、蛍光表示ディスプレイ(VFD)、フィールドエミッションディスプレイ(FED)、及び液晶ディスプレイ(LCD)のような画像表示装置では、表示面への傷付きを防止するために、基材上にハードコート層を有する光学フィルム(ハードコートフィルム)を設けることが好適である。
【0003】

特許文献1には、エポキシ基を有するケイ素化合物の自己縮合物、及び/又はエポキシ基を有するケイ素化合物とアルコキシケイ素化合物との共縮合物、カルボン酸無水物、及び溶剤を含有する熱硬化性樹脂組成物が記載されている。

特許文献2には、ポリオルガノシロキサン化合物、光酸発生剤を含有する熱硬化性樹脂組成物が記載されている。

特許文献3には、加水分解性シランの共加水分解縮合物、あるいは該共加水分解縮合物を変性した樹脂であって、重量平均分子量が500以上である有機官能性シリコーン樹脂と特定量の架橋剤、特定量の酸発生剤、特定量の増量剤又は加熱により容易に分解揮発する有機樹脂成分、及び有機溶剤を含有してなる犠牲膜形成用組成物が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】

【文献】特開2009-209260号公報
【文献】特開2009-263522号公報
【文献】特開2005-352110号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】

光学フィルムをはじめ、塗膜の積層によって作製される部材においては、塗布組成物のぬれ性、及び塗膜表面の面状を改善するために、炭化水素系、シリコーン系、フッ素系等のレベリング剤と称される界面活性剤を塗布組成物中に添加する場合がある。

しかし、レベリング剤を使用することにより、塗膜の表面張力を低下させ、塗工時における塗布組成物の基材に対するぬれ性(均質塗工性)、塗膜表面の面状が良好となる一方で、さらにその塗膜表面に上層の塗布組成物を塗布成膜して積層フィルムを作製しようとすると、レベリング剤が塗膜表面に偏在化することによって塗膜表面の撥水撥油性が高くなるため、塗膜表面で上層の塗布組成物がはじかれて塗布できない、いわゆるリコート性の悪化が問題となる場合があった。そのため、均質塗工性に優れ、良好な表面面状を与えると共に、リコート性に優れたレベリング剤が望まれている。
【0006】

また近年、たとえばスマートフォンなどにおいて、フレキシブルなディスプレイに対するニーズが高まってきており、これに伴って、繰り返し折り曲げても破断しにくい(繰り返し折り曲げ耐性に優れる)光学フィルム(フレキシブルハードコートフィルム)が求められており、このような光学フィルムのハードコート層に好適に用いられるマトリクス樹脂形成成分として、例えばポリオルガノシルセスキサンが挙げられる。
【0007】

本発明者らが検討したところ、特許文献1~3では、それぞれ、組成物はフッ素系界面活性剤を含有しても良い旨記載されているが、フッ素系界面活性剤の具体的な構造について記載されていない。

また、特許文献1~3ではリコート性について記載されていない。

本発明の課題は、表面の面状が良好で、リコート性にも優れた塗膜の形成に適した組成物、ハードコートフィルム、上記ハードコートフィルムを備えた物品及び画像表示装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは鋭意検討し、下記手段により上記課題が解消できることを見出した。
<1>
少なくとも、ラジカル重合性二重結合を有する基を3つ以上有するモノマー(K1)、及び上記モノマー(K1)以外のモノマー(K2)を重合させてなる重合体と重合性基を有するポリオルガノシルセスキオキサン(A)とを含む組成物であって、
上記重合体の重量平均分子量が1000~8000であり、
上記重合体が、フッ素原子、ケイ素原子、及び炭素数が3以上の直鎖又は分岐アルキル基から選ばれる少なくともいずれか1つを有し、
上記重合体のOH含有量が、0質量%~0.002質量%であり、
上記重合体を重合する際に用いる全モノマー量に対する上記モノマー(K1)の配合量が20~85mol%であり、
上記組成物中の上記重合体の含有率が、全固形分に対して、0.001質量%以上20.0質量%以下である、組成物。
<2>
上記重合体が、フッ素原子を有する<1>に記載の組成物。
<3>
上記重合体が、下記一般式(s)で表される構造を有する<2>に記載の組成物。
【化1】
一般式(s)中、R 1s は水素原子又は炭素数1~20のアルキル基を表し、R 2s は少なくとも1つのフッ素原子を有する炭素数1~20のアルキル基又は少なくとも1つのフッ素原子を有する炭素数1~20のアルケニル基を表す。*は結合手を表す。
<4>
上記ラジカル重合性二重結合を有する基が、下記一般式(Z1)~(Z6)のいずれかで表される基である<1>~<3>のいずれか1項に記載の組成物。
【化2】
一般式(Z3)中のR m1 及び一般式(Z4)中のR m2 は、各々独立に、水素原子又は炭素数1~20のアルキル基を表す。
<5>
上記重合体が、イソシアヌル環、ウレタン結合、アミド結合、及びウレア結合から選ばれる少なくとも1つを有する<1>~<4>のいずれか1項に記載の組成物。
<6>
上記モノマー(K1)が下記一般式(NI)~(NV)のいずれかで表される化合物である<1>~<5>のいずれか1項に記載の組成物。
【化3】
一般式(NI)中、L 11 、L 12 及びL 13 はそれぞれ独立に2価又は3価の連結基を表し、R 11 、R 12 及びR 13 はそれぞれ独立に水素原子又はメチル基を表し、n11~n13はそれぞれ独立に1又は2を表す。n11が2を表す場合、2つのR 11 は同一でも異なっていてもよい。n12が2を表す場合、2つのR 12 は同一でも異なっていてもよい。n13が2を表す場合、2つのR 13 は同一でも異なっていてもよい。
【化4】
一般式(NII)中、R 21 及びR 22 はそれぞれ独立に水素原子又はメチル基を表す。L 21 は3~6価の連結基を表す。n21は2~5の整数を表す。複数のR 22 はそれぞれ同一であっても異なっていてもよい。
【化5】
一般式(NIII)中、L 31 及びL 32 はそれぞれ独立に2~4価の連結基を表し、L 33 は2価の連結基を表し、R 31 及びR 32 はそれぞれ独立に水素原子又はメチル基を表し、n31は2~3の整数を表し、n32は1~3の整数を表す。複数のR 31 はそれぞれ同一であっても異なっていてもよい。n32が2以上の整数を表す場合、複数のR 32 はそれぞれ同一であっても異なっていてもよい。
【化6】
一般式(NIV)中、Y 41 は3~6価の連結基を表し、R 41 は水素原子又はメチル基を表し、R 42 及びR 43 はそれぞれ独立に水素原子、ヒドロキシル基又は、炭素数1~10のアルキル基を表す。
n41は3~6の整数を表す。複数のR 41 はそれぞれ同一であっても異なっていてもよく、複数のR 42 はそれぞれ同一であっても異なっていてもよく、複数のR 43 はそれぞれ同一であっても異なっていてもよい。
【化7】
一般式(NV)中、Y 51 は3~6価の連結基を表し、R 51 は水素原子又はメチル基を表し、R 52 、R 53 及びR 54 はそれぞれ独立に水素原子、ヒドロキシル基又は、炭素数1~10のアルキル基を表す。
n51は3~6の整数を表す。複数のR 51 はそれぞれ同一であっても異なっていてもよく、複数のR 52 はそれぞれ同一であっても異なっていてもよく、複数のR 53 はそれぞれ同一であっても異なっていてもよく、複数のR 54 はそれぞれ同一であっても異なっていてもよい。
<7>
上記重合性基を有するポリオルガノシルセスキオキサン(A)の上記重合性基がエポキシ基である<1>~<6>のいずれか1項に記載の組成物。
<8>
基材及びハードコート層を含む、ハードコートフィルムであって、
上記ハードコート層が、<1>~<7>のいずれか1項に記載の組成物の硬化物を含む、ハードコートフィルム。
<9>
上記ハードコートフィルムのハードコート層の基材とは反対側に少なくとも1層の機能層を有する<8>に記載のハードコートフィルム。
<10>
上記機能層として、混合層を有し、
上記混合層が、エポキシ基を有する化合物(b1)の硬化物と、1分子中に2個以上の(メタ)アクリロイル基を有する化合物(b2)の硬化物とを含む、<9>に記載のハードコートフィルム。
<11>
上記機能層として、上記混合層と耐擦傷層を有し、
上記基材、上記ハードコート層、上記混合層、及び上記耐擦傷層をこの順に有し、
上記耐擦傷層は、1分子中に2個以上の(メタ)アクリロイル基を有する化合物(c1)の硬化物を含む、<10>に記載のハードコートフィルム。
<12>
<8>~<11>のいずれか1項に記載のハードコートフィルムを備えた物品。
<13>
<8>~<11>のいずれか1項に記載のハードコートフィルムを表面保護フィルムとして備えた画像表示装置。
本発明は、上記<1>~<13>に係るものであるが、本明細書には参考のためその他の事項についても記載した。
【0009】

[1]

ラジカル重合性二重結合を有する基を2つ以上有するモノマーを重合させてなる重合体と重合性基を有するポリオルガノシルセスキオキサン(A)とを含む組成物であって、

上記重合体の重量平均分子量が1000~50000であり、上記重合体が、フッ素原子、ケイ素原子、及び炭素数が3以上の直鎖又は分岐アルキル基から選ばれる少なくともいずれか1つを有する、組成物。

[2]

上記重合体が、フッ素原子を有する[1]に記載の組成物。

[3]

上記重合体が、下記一般式(s)で表される構造を有する[2]に記載の組成物。
【0010】

【化1】
【0011】

一般式(s)中、R1sは水素原子又は炭素数1~20のアルキル基を表し、R2sは少なくとも1つのフッ素原子を有する炭素数1~20のアルキル基又は少なくとも1つのフッ素原子を有する炭素数1~20のアルケニル基を表す。*は結合手を表す。
【0012】

[4]

上記ラジカル重合性二重結合を有する基が、下記一般式(Z1)~(Z6)のいずれかで表される基である[1]~[3]のいずれか1項に記載の組成物。
【0013】

【化2】
【0014】

一般式(Z3)中のRm1及び一般式(Z4)中のRm2は、各々独立に、水素原子又は炭素数1~20のアルキル基を表す。

[5]

上記重合体が、イソシアヌル環、ウレタン結合、アミド結合、及びウレア結合から選ばれる少なくとも1つを有する[1]~[4]のいずれか1項に記載の組成物。

[6]

上記モノマーが、上記ラジカル重合性二重結合を有する基を3つ以上有する[1]~[5]のいずれか1項に記載の組成物。

[7]

上記モノマーが下記一般式(NI)~(NV)のいずれかで表される化合物である[1]~[6]のいずれか1項に記載の組成物。
【0015】

【化3】
【0016】

一般式(NI)中、L11、L12及びL13はそれぞれ独立に2価又は3価の連結基を表し、R11、R12及びR13はそれぞれ独立に水素原子又はメチル基を表し、n11~n13はそれぞれ独立に1又は2を表す。n11が2を表す場合、2つのR11は同一でも異なっていてもよい。n12が2を表す場合、2つのR12は同一でも異なっていてもよい。n13が2を表す場合、2つのR13は同一でも異なっていてもよい。
【0017】

【化4】
【0018】

一般式(NII)中、R21及びR22はそれぞれ独立に水素原子又はメチル基を表す。L21は2~6価の連結基を表す。n21は1~5の整数を表す。n21が2以上の整数を表す場合、複数のR22はそれぞれ同一であっても異なっていてもよい。
【0019】

【化5】
【0020】

一般式(NIII)中、L31及びL32はそれぞれ独立に2~4価の連結基を表し、L33は2価の連結基を表し、R31及びR32はそれぞれ独立に水素原子又はメチル基を表し、n31及びn32はそれぞれ独立に1~3の整数を表す。n31が2以上の整数を表す場合、複数のR31はそれぞれ同一であっても異なっていてもよい。n32が2以上の整数を表す場合、複数のR32はそれぞれ同一であっても異なっていてもよい。
【0021】

【化6】
【0022】

一般式(NIV)中、Y41は2~6価の連結基を表し、R41は水素原子又はメチル基を表し、R42及びR43はそれぞれ独立に水素原子、ヒドロキシル基又は、炭素数1~10のアルキル基を表す。

n41に2~6の整数を表す。n41が2以上の整数を表す場合、複数のR41はそれぞれ同一であっても異なっていてもよく、複数のR42はそれぞれ同一であっても異なっていてもよく、複数のR43はそれぞれ同一であっても異なっていてもよい。
【0023】

【化7】
【0024】

一般式(NV)中、Y51は2~6価の連結基を表し、R51は水素原子又はメチル基を表し、R52、R53及びR54はそれぞれ独立に水素原子、ヒドロキシル基又は、炭素数1~10のアルキル基を表す。

n51は2~6の整数を表す。n51が2以上の整数を表す場合、複数のR51はそれぞれ同一であっても異なっていてもよく、複数のR52はそれぞれ同一であっても異なっていてもよく、複数のR53はそれぞれ同一であっても異なっていてもよく、複数のR54はそれぞれ同一であっても異なっていてもよい。
【0025】

[8]

組成物中の上記重合体の含有率が、全固形分に対して、0.001質量%以上20.0質量%以下である請求項1~7のいずれか1項に記載の組成物。

[9]

上記重合体のOH含有量が、上記重合性基を有するポリオルガノシルセスキオキサン(A)に対して0質量%~10.0質量%である[1]~[8]のいずれか1項に記載の組成物。

[10]

上記重合性基を有するポリオルガノシルセスキオキサン(A)の重合性基がエポキシ基である[1]~[9]のいずれか1項に記載の組成物。
【0026】

[11]

基材及びハードコート層を含む、ハードコートフィルムであって、

上記ハードコート層が、[1]~[10]のいずれか1項に記載の組成物の硬化物を含む、ハードコートフィルム。

[12]

上記ハードコートフィルムのハードコート層の基材とは反対側に少なくとも1層の機能層を有する[11]に記載のハードコートフィルム。
【0027】

[13]

上記機能層として、混合層を有し、

上記混合層が、エポキシ基を有する化合物(b1)の硬化物と、1分子中に2個以上の

(メタ)アクリロイル基を有する化合物(b2)の硬化物とを含む、[12]に記載のハードコートフィルム。

[14]

上記機能層として、上記混合層と耐擦傷層を有し、

上記基材、上記ハードコート層、及び上記混合層、及び上記耐擦傷層をこの順に有し、

上記耐擦傷層は、1分子中に2個以上の(メタ)アクリロイル基を有する化合物(c1)の硬化物を含む、[13]に記載のハードコートフィルム。
【0028】

[15]

[11]~[14]のいずれか1項に記載のハードコートフィルムを備えた物品。

[16]

[11]~[14]のいずれか1項に記載のハードコートフィルムを表面保護フィルムとして備えた画像表示装置。
【発明の効果】
【0029】

本発明によれば、表面の面状が良好で、リコート性にも優れた塗膜の形成に適した組成物、ハードコートフィルム、上記ハードコートフィルムを備えた物品及び画像表示装置を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0030】

以下、本発明を実施するための形態について詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。なお、本明細書において、数値が物性値、特性値等を表す場合に、「(数値1)~(数値2)」という記載は「(数値1)以上(数値2)以下」の意味を表す。また、本明細書において、「(メタ)アクリレート」との記載は、「アクリレート及びメタクリレートの少なくともいずれか」の意味を表す。「(メタ)アクリル酸」、「(メタ)アクリロイル」等も同様である。
【0031】

本発明の組成物は、ラジカル重合性二重結合を有する基を2つ以上有するモノマーを重合させてなる重合体と重合性基を有するポリオルガノシルセスキオキサン(A)とを含む組成物であって、

上記重合体の重量平均分子量が1000~50000であり、上記重合体が、フッ素原子、ケイ素原子、及び炭素数が3以上の直鎖又は分岐アルキル基から選ばれる少なくともいずれか1つを有する、組成物である。

以下、ラジカル重合性二重結合を有する基を2つ以上有するモノマーを「モノマー(K1)」とも呼ぶ。

また、ラジカル重合性二重結合を有する基を2つ以上有するモノマー(K1)を重合させてなり、重量平均分子量が1000~50000であり、フッ素原子、ケイ素原子、及び炭素数が3以上の直鎖又は分岐アルキル基から選ばれる少なくともいずれか1つを有する重合体を「本発明の重合体」とも呼ぶ。
【0032】

本発明の組成物が、表面の面状が良好で、リコート性にも優れた塗膜の形成に適しているメカニズムについては定かではないが、本発明者らは以下のように推察している。

モノマー(K1)がラジカル重合性二重結合を有する基を2つ以上有しているため、モノマー(K1)を重合して成る重合体は、分岐構造を有するものとなる。本発明の組成物中の、典型的には、マトリクス樹脂形成成分(硬化性成分)としての重合性基を有するポリオルガノシルセスキオキサンは、プレポリマー化しているため、分子量が大きくなり、一般的にはレベリング剤との絡み合いが起きやすくなる。しかし、上述の通り、本発明における重合体が分岐構造を有することで、重合性基を有するポリオルガノシルセスキオキサンとの絡み合いが抑えられる。

さらに分子量を50,000以下とすることによって、本発明の組成物中の重合性基を有するポリオルガノシルセスキオキサンや各種添加剤との相溶性、有機溶剤への溶解性が向上するため、本発明の組成物中での上記重合体の凝集が生じにくくなる。

重合体の分岐構造に由来して、このような絡み合いが抑えられるとともに、重合体の塗膜表面への移行性が向上する。このような重合体を組成物中に添加することで、塗膜の表面張力を低下させ、塗工時における組成物の基材に対するぬれ性(均質塗工性)、塗膜表面の面状を良好なものとできると考えている。

本発明における重合体は、フッ素原子、ケイ素原子、及び炭素数が3以上の直鎖又は分岐アルキル基から選ばれる少なくともいずれか1つを有する。このため、組成物を塗布した際の塗膜の表面張力がより低下し、重合体の塗膜表面への移行性がより向上し、塗膜表面の面状もより良好となると考えている。

また、塗膜表面に上層形成用組成物を塗布した際に、重合体と上層形成用組成物中の溶剤との相溶性が良好であることに起因して、重合体が塗膜表面から上層に抽出されやすく(塗膜表面から上層に抽出される性質を、「溶剤抽出性」とも呼ぶ。)、塗膜表面に残存しにくくなるため、塗膜表面で上層形成用組成物をはじくことなく、リコート性が良好となるものと推察している。
【0033】

[重合体]

本発明の組成物は、本発明の重合体を含む。以下、モノマー(K1)について述べる。
【0034】

<モノマー(K1)>

-ラジカル重合性二重結合を有する基-

モノマー(K1)はラジカル重合性二重結合を有する基を2つ以上含有する。前述のように、モノマー(K1)がラジカル重合性二重結合を有する基を2つ以上含有することにより、本発明の重合体が分岐構造をとり、重合体を含む組成物中に含まれる硬化性成分(重合性基を有するポリオルガノシルセスキオキサン)等との相溶性が向上する。
【0035】

モノマー(K1)が有するラジカル重合性二重結合を有する基は特に限定されない。また、モノマー(K1)が有する2つ以上のラジカル重合性二重結合を有する基は同一であっても異なっても良い。
【0036】

モノマー(K1)が有するラジカル重合性二重結合を有する基の数は、3つ以上であることが好ましく、3つ以上9つ以下であることがより好ましく、3つ以上6つ以下であることが更に好ましい。ラジカル重合性二重結合を有する基を3つ以上とすることで、重合体が有する分岐構造が高分岐構造となり、重合体の分子鎖間の絡み合いが少なく、硬化性成分との相溶性や各種有機溶剤への溶解性が向上し、組成物の均質塗工性や得られる塗膜の表面面状が向上する。また、ラジカル重合性二重結合を有する基を9つ以下とすることで高分子量となりすぎることを防ぎ、溶剤への溶解性を保つことができる。
【0037】

ラジカル重合性二重結合を有する基としては、下記一般式(Z1)~(Z6)で表される基のいずれかであることが好ましい。なお、モノマー(K1)中に含まれる複数のラジカル重合性二重結合を有する基は、それぞれ同じでも異なっていてもよい。
【0038】

【化8】
【0039】

一般式(Z3)中のRm1及び一般式(Z4)中のRm2は、各々独立に、水素原子又は炭素数1~20のアルキル基を表す。
【0040】

一般式(Z3)中のRm1及び一般式(Z4)中のRm2は、水素原子又は炭素数1~7のアルキル基であることが好ましく、水素原子又は炭素数1~4のアルキル基であることがより好ましく、水素原子、メチル基、又はエチル基であることが更に好ましい。
【0041】

ラジカル重合性二重結合を有する基は、一般式(Z1)、(Z2)、(Z3)又は(Z4)で表される基であることが好ましく、一般式(Z1)又は(Z2)で表される基であることがより好ましい。
【0042】

なお、上記一般式(Z3)又は(Z4)で表される基は、ラジカル重合性二重結合を含むと同時に、窒素原子を含む基である。
【0043】

-窒素原子-
【0044】

モノマー(K1)は窒素原子を少なくとも1つ含有することが好ましい。モノマー(K1)が窒素原子を含有することにより、重合体も窒素原子を有するものとなり、重合体と、重合体を含む組成物中に含まれる硬化性成分等との相溶性が向上する。特に、重合体が窒素原子を有することで、重合性基を有するポリオルガノシルセスキオキサン(A)との相溶性が向上する。
【0045】

窒素原子は、イソシアヌル環、ウレタン結合、アミド結合、及びウレア結合から選ばれる少なくとも1つの構造として重合体中に含まれることが好ましく、イソシアヌル環、ウレタン結合、又はアミド結合として重合体中に含まれることがより好ましく、イソシアヌル環として重合体中に含まれることが更に好ましい。

すなわち、重合体は、イソシアヌル環、ウレタン結合、アミド結合、及びウレア結合から選ばれる少なくとも1つを有することが好ましく、イソシアヌル環、ウレタン結合、又はアミド結合を有することがより好ましく、イソシアヌル環を有することが更に好ましい。
【0046】

モノマー(K1)中に含まれる窒素原子の数としては、硬化性成分等との相溶性向上の観点から2以上であることが好ましく、3以上であることがさらに好ましい。
【0047】

モノマー(K1)は、下記一般式(NI)~(NV)のいずれかで表される化合物であることが好ましい。
【0048】

【化9】
【0049】

一般式(NI)中、L11、L12及びL13はそれぞれ独立に2価又は3価の連結基を表し、R11、R12及びR13はそれぞれ独立に水素原子又はメチル基を表し、n11~n13はそれぞれ独立に1又は2を表す。n11が2を表す場合、2つのR11は同一でも異なっていてもよい。n12が2を表す場合、2つのR12は同一でも異なっていてもよい。n13が2を表す場合、2つのR13は同一でも異なっていてもよい。
【0050】

【化10】
【0051】

一般式(NII)中、R21及びR22はそれぞれ独立に水素原子又はメチル基を表す。L21は2~6価の連結基を表す。n21は1~5の整数を表す。n21が2以上の整数を表す場合、複数のR22はそれぞれ同一であっても異なっていてもよい。
【0052】

【化11】
【0053】

一般式(NIII)中、L31及びL32はそれぞれ独立に2~4価の連結基を表し、L33は2価の連結基を表し、R31及びR32はそれぞれ独立に水素原子又はメチル基を表し、n31及びn32はそれぞれ独立に1~3の整数を表す。n31が2以上の整数を表す場合、複数のR31はそれぞれ同一であっても異なっていてもよい。n32が2以上の整数を表す場合、複数のR32はそれぞれ同一であっても異なっていてもよい。
【0054】

【化12】
【0055】

一般式(NIV)中、Y41は2~6価の連結基を表し、R41は水素原子又はメチル基を表し、R42及びR43はそれぞれ独立に水素原子、ヒドロキシル基又は、炭素数1~10のアルキル基を表す。

n41に2~6の整数を表す。n41が2以上の整数を表す場合、複数のR41はそれぞれ同一であっても異なっていてもよく、複数のR42はそれぞれ同一であっても異なっていてもよく、複数のR43はそれぞれ同一であっても異なっていてもよい。
【0056】

【化13】
【0057】

一般式(NV)中、Y51は2~6価の連結基を表し、R51は水素原子又はメチル基を表し、R52、R53及びR54はそれぞれ独立に水素原子、ヒドロキシル基又は、炭素数1~10のアルキル基を表す。

n51は2~6の整数を表す。n51が2以上の整数を表す場合、複数のR51はそれぞれ同一であっても異なっていてもよく、複数のR52はそれぞれ同一であっても異なっていてもよく、複数のR53はそれぞれ同一であっても異なっていてもよく、複数のR54はそれぞれ同一であっても異なっていてもよい。
【0058】

一般式(NI)中、L11、L12及びL13はそれぞれ独立に2価又は3価の連結基を表す。

11、L12及びL13が表す2価の連結基としては、アルキレン基、シクロアルキレン基、アリーレン基、-O-、-S-、-CO-、-COO-、-NH-、-NHCO-、-NHCOO-又はこれらの基を組み合わせた2価の連結基が挙げられる。

アルキレン基としては、炭素数1~20のアルキレン基が好ましく、炭素数1~10のアルキレン基がより好ましく、例えば、エチレン基、n-プロピレン基、i-プロピレン基、n-ブチレン基、n-ヘキシレン基等が挙げられる。アルキレン基は直鎖状でも分岐状でも良い。

シクロアルキレン基としては、炭素数6~20のシクロアルキレン基が好ましく、炭素数6~10のシクロアルキレン基がより好ましく、例えば、シクロへキシレン基、シクロへプチレン基等が挙げられる。

アリーレン基としては、炭素数6~20のアリーレン基が好ましく、炭素数6~10のアリーレン基がより好ましく、例えば、フェニレン基、ナフチレン基等が挙げられる。

上記アルキレン基、シクロアルキレン基又はアリーレン基は置換基を有していても良く、置換基としては、例えばヒドロキシル基、カルボキシル基、アミノ基、シアノ基、ニトロ基、ハロゲン原子、アルキル基、シクロアルキル基、アリール基、アルコキシ基、アシル基等が挙げられる。
【0059】

11、L12及びL13が表す2価の連結基は、アルキレン基、又は、アルキレン基と-O-、-S-、-CO-、-COO-、-NH-、-NHCO-、-NHCOO-から選ばれる少なくとも1つの基とを組み合わせた2価の連結基であることが好ましく、アルキレン基であることがより好ましい。
【0060】

11、L12及びL13が表す3価の連結基としては、上述のL11、L12及びL13が表す2価の連結基から、任意の水素原子を1つ除してなる連結基が挙げられる。
【0061】

一般式(NI)中、R11、R12及びR13はそれぞれ独立に水素原子又はメチル基を表し、水素原子を表すことが好ましい。
【0062】

一般式(NI)中、n11~n13はそれぞれ独立に1又は2を表す。n11~n13は1を表すことが好ましい。
【0063】

一般式(NI)で表される化合物は、特開2004-141732号公報に記載の方法に従って合成することができる。
【0064】

次に、上記一般式(NII)で表される化合物について説明する。
【0065】

一般式(NII)中、R21及びR22はそれぞれ独立に水素原子又はメチル基を表し、水素原子を表すことが好ましい。

21は2~6価の連結基を表し、2価の連結基としては、前述のL11、L12及びL13が表す2価の連結基と同様である。また、L21が3~6価の連結基を表す場合は、それぞれ前述のL11、L12及びL13が表す2価の連結基から任意の水素原子を1~4つ除してなる連結基が挙げられる。

n21は1~5の整数を表し、1~3の整数を表すことが好ましい。
【0066】

上記一般式(II)で表される化合物は、特開2012-206992号公報に記載の方法に従って合成することができる。
【0067】

次に、上記一般式(NIII)で表される化合物について説明する。
【0068】

一般式(NIII)中、R31及びR32はそれぞれ独立に水素原子又はメチル基を表し、水素原子を表すことが好ましい。

31及びL32はそれぞれ独立に2~4価の連結基を表し、2価の連結基としては、前述のL11、L12及びL13が表す2価の連結基と同様である。また、L31及びL32が3価又は4価の連結基を表す場合は、それぞれ前述のL11、L12及びL13が表す2価の連結基から任意の水素原子を1つ又は2つ除してなる連結基が挙げられる。

33は2価の連結基を表し、前述のL11、L12及びL13が表す2価の連結基と同様である。

n31及びn32はそれぞれ独立に1~3の整数を表し、1又は2を表すことが好ましい。
【0069】

上記一般式(NIII)で表される化合物は、特開2016-65199号公報に記載の方法に従って合成することができる。
【0070】

【化14】
【0071】

一般式(NIV)中、Y41に2~6価の連結基を表し、R41は水素原子又はメチル基を表し、R42及びR43はそれぞれ独立に水素原子、ヒドロキシル基又は、炭素数1~10のアルキル基を表す。

n41は1~6の整数を表す。n41が2以上の整数を表す場合、複数のR41はそれぞれ同一であっても異なっていてもよく、複数のR42はそれぞれ同一であっても異なっていてもよく、複数のR43はそれぞれ同一であっても異なっていてもよい。
【0072】

41が表す2価の連結基としては、アルキレン基、シクロアルキレン基、アリーレン基、-CO-、又はこれらの基を組み合わせた2価の連結基が挙げられる。
【0073】

アルキレン基としては、炭素数1~20のアルキレン基が好ましく、炭素数1~10のアルキレン基がより好ましく、例えば、エチレン基、n-プロピレン基、i-プロピレン基、n-ブチレン基、n-ヘキシレン基等が挙げられる。アルキレン基は直鎖状でも分岐状でも良い。

シクロアルキレン基としては、炭素数6~20のシクロアルキレン基が好ましく、炭素数6~10のシクロアルキレン基がより好ましく、例えば、シクロへキシレン基、シクロへプチレン基等が挙げられる。

アリーレン基としては、炭素数6~20のアリーレン基が好ましく、炭素数6~10のアリーレン基がより好ましく、例えば、フェニレン基、ナフチレン基等が挙げられる。
【0074】

上記アルキレン基、シクロアルキレン基又はアリーレン基は置換基を有していても良く、置換基としては、例えばヒドロキシル基、カルボキシル基、アミノ基、シアノ基、ニトロ基、ハロゲン原子、アルキル基、シクロアルキル基、アリール基、アルコキシ基、アシル基等が挙げられる。
【0075】

41が表す2価の連結基は、アルキレン基であることが好ましい。
【0076】

また、Y41が3~6価の連結基を表す場合は、それぞれ前述のY41が表す2価の連結基から任意の水素原子を1~4つ除してなる連結基が挙げられる。
【0077】

41は、水素原子またはメチル基を表す。R41は水素原子であることが好ましい。
【0078】

42及びR43はそれぞれ独立に水素原子、ヒドロキシル基又は、炭素数1~10のアルキル基を表す。

炭素数1~10のアルキル基としては、炭素数1~6のアルキル基が好ましく、炭素数1~4のアルキル基がより好ましい。

42及びR43は水素原子を表すことが好ましい。
【0079】

n41は1~6の整数を表す。n41は、1~4の整数であることが好ましい。
【0080】

上記一般式(NIV)で表されるモノマーは、国際公開2016/92844号公報に記載の方法に従って合成することができる。
【0081】

【化15】
【0082】

一般式(NV)中、Y51に2~6価の連結基を表し、R51は水素原子又はメチル基を表し、R52、R53及びR54はそれぞれ独立に水素原子、ヒドロキシル基又は、炭素数1~10のアルキル基を表す。

n51に1~6の整数を表す。n51が2以上の整数を表す場合、複数のR51はそれぞれ同一であっても異なっていてもよく、複数のR52はそれぞれ同一であっても異なっていてもよく、複数のR53はそれぞれ同一であっても異なっていてもよく、複数のR54はそれぞれ同一であっても異なっていてもよい。
【0083】

51が表す2価の連結基としては、アルキレン基、シクロアルキレン基、アリーレン基、-CO-、又はこれらの基を組み合わせた2価の連結基が挙げられる。
【0084】

アルキレン基としては、炭素数1~20のアルキレン基が好ましく、炭素数1~10のアルキレン基がより好ましく、例えば、エチレン基、n-プロピレン基、i-プロピレン基、n-ブチレン基、n-ヘキシレン基等が挙げられる。アルキレン基は直鎖状でも分岐状でも良い。

シクロアルキレン基としては、炭素数6~20のシクロアルキレン基が好ましく、炭素数6~10のシクロアルキレン基がより好ましく、例えば、シクロへキシレン基、シクロへプチレン基等が挙げられる。

アリーレン基としては、炭素数6~20のアリーレン基が好ましく、炭素数6~10のアリーレン基がより好ましく、例えば、フェニレン基、ナフチレン基等が挙げられる。
【0085】

上記アルキレン基、シクロアルキレン基又はアリーレン基は置換基を有していても良く、置換基としては、例えばヒドロキシル基、カルボキシル基、アミノ基、シアノ基、ニトロ基、ハロゲン原子、アルキル基、シクロアルキル基、アリール基、アルコキシ基、アシル基等が挙げられる。
【0086】

51が表す2価の連結基は、アルキレン基であることが好ましい。
【0087】

また、Y51が3~6価の連結基を表す場合は、それぞれ前述のY51が表す2価の連結基から任意の水素原子を1~4つ除してなる連結基が挙げられる。
【0088】

51は、水素原子またはメチル基を表す。R51は水素原子であることが好ましい。
【0089】

52、R53及びR54はそれぞれ独立に水素原子、ヒドロキシル基又は、炭素数1~10のアルキル基を表す。

炭素数1~10のアルキル基としては、炭素数1~6のアルキル基が好ましく、炭素数1~4のアルキル基がより好ましい。

52、R53及びR54は好ましくは、水素原子である。
【0090】

n51は1~6の整数を表す。n51は、1~4の整数であることが好ましい。
【0091】

上記一般式(NV)で表されるモノマーは、国際公開2016/92844号公報に記載の方法に従って合成することができる。
【0092】

上記モノマー(K1)は、上記一般式(NI)で表されるモノマーであることがより好ましい。
【0093】

モノマー(K1)としては市販品を用いてもよく、例えば窒素原子をウレタン結合として含むモノマー(K1)としては、共栄社化学社製UA-306H、UA-306I、UA-306T、UA-510H、UF-8001G、UA-101I、UA-101T、AT-600、AH-600、AI-600、新中村化学社製U-4HA、U-6HA、U-6LPA、UA-32P、U-15HA、UA-1100H、A-9300、A-9200、A-9300-1CL、A-9300-3CL、日本合成化学工業社製紫光UV-1400B、同UV-1700B、同UV-6300B、同UV-7550B、同UV-7600B、同UV-7605B、同UV-7610B、同UV-7620EA、同UV-7630B、同UV-7640B、同UV-6630B、同UV-7000B、同UV-7510B、同UV-7461TE、同UV-3000B、同UV-3200B、同UV-3210EA、同UV-3310EA、同UV-3310B、同UV-3500BA、同UV-3520TL、同UV-3700B、同UV-6100B、同UV-6640B、同UV-2000B、同UV-2010B、同UV-2250EAを挙げることができる。また、日本合成化学工業社製紫光UV-2750B、共栄社化学社製UL-503LN、大日本インキ化学工業社製ユニディック17-806、同17-813、同V-4030、同V-4000BA、ダイセルUCB社製EB-1290K、トクシキ製ハイコープAU-2010、同AU-2020等も挙げられる。
【0094】

以下にモノマー(K1)の具体例を示すが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0095】

【化16】
【0096】

【化17】
【0097】

【化18】
【0098】

【化19】
【0099】

【化20】
【0100】

【化21】
【0101】

【化22】
【0102】

【化23】
【0103】

【化24】
【0104】

【化25】
【0105】

本発明の重合体は、フッ素原子、ケイ素原子、及び炭素数が3以上の直鎖又は分岐アルキル基から選ばれる少なくともいずれか1つを有する。

重合体中にフッ素原子、ケイ素原子、又は炭素数が3以上の直鎖若しくは分岐アルキル基を含むことにより、重合体を含む組成物を塗布した際の塗膜の表面張力がより低下し、均質塗工性がより良好となる。また、重合体の塗膜表面への移行性がより向上し、塗膜表面の面状も良好となる。
【0106】

炭素数が3以上の直鎖又は分岐アルキル基としては、炭素数3以上30以下の直鎖又は分岐アルキル基が好ましく、炭素数4以上20以下の直鎖又は分岐アルキル基がより好ましい。
【0107】

本発明の重合体は、フッ素原子を含有することがより好ましい。
【0108】

本発明の重合体中にフッ素原子、ケイ素原子、及び炭素数が3以上の直鎖又は分岐アルキル基から選ばれる少なくともいずれか1つを導入するには、上述のモノマー(K1)中にフッ素原子、ケイ素原子、及び炭素数が3以上の直鎖又は分岐アルキル基から選ばれる少なくともいずれか1つを導入してモノマー(K1)を重合することで導入してもよい。

また、モノマー(K1)以外の原料モノマー(モノマー(K2)と呼ぶ。)にフッ素原子、ケイ素原子、及び炭素数が3以上の直鎖又は分岐アルキル基から選ばれる少なくともいずれか1つを導入し、モノマー(K1)とモノマー(K2)を共重合することで、重合体中にフッ素原子、ケイ素原子、及び炭素数が3以上の直鎖又は分岐アルキル基から選ばれる少なくともいずれか1つを導入してもよい。

本発明の重合体は、モノマー(K1)とモノマー(K2)を共重合することでフッ素原子、ケイ素原子、及び炭素数が3以上の直鎖又は分岐アルキル基から選ばれる少なくともいずれか1つを導入することが塗膜表面の面状良化の観点から好ましい。
【0109】

<モノマー(K2)>

モノマー(K2)は、フッ素原子、ケイ素原子、及び炭素数が3以上の直鎖又は分岐アルキル基から選ばれる少なくとも1つを有することが好ましい。

フッ素原子は、少なくとも1つのフッ素原子を有する炭素数1~20のアルキル基又は少なくとも1つのフッ素原子を有する炭素数2~20のアルケニル基として、モノマー(K2)中に含まれることが好ましい。

ケイ素原子は、シロキサン結合としてモノマー(K2)中に含まれることが好ましく、ポリシロキサン構造としてモノマー(K2)中に含まれることがより好ましい。
【0110】

モノマー(K2)は(メタ)アクリロイル基を有する化合物であることが好ましく、下記一般式(s1)~(s3)で表されるいずれかの化合物であることがより好ましい。
【0111】

【化26】
【0112】

一般式(s1)中、R1sは水素原子又は炭素数1~20のアルキル基を表し、R2sは少なくとも1つのフッ素原子を有する炭素数1~20のアルキル基又は少なくとも1つのフッ素原子を有する炭素数2~20のアルケニル基を表す。
【0113】

1sは水素原子又は炭素数1~10のアルキル基を表すことが好ましく、水素原子又は炭素数1~6のアルキル基を表すことがより好ましく、水素原子、メチル基、エチル基、又はn-プロピル基を表すことが更に好ましく、水素原子又はメチル基を表すことが特に好ましい。
【0114】

2aが表すアルキル基又はアルケニル基の炭素数は、1~15が好ましく、1~10がより好ましい。

2aが表すアルキル基又はアルケニル基が有するフッ素原子の数は、1~20が好ましく、3~17がより好ましい。
【0115】

本発明の重合体を含む組成物の表面エネルギーを低下させ、均質塗工性を高め、表面面状を良化するという観点から、一般式(s1)において、R2sは少なくとも1つのフッ素原子を有する炭素数1~10のアルキル基又は少なくとも1つのフッ素原子を有する炭素数2~10のアルケニル基が好ましく、少なくとも1つのフッ素原子を有する炭素数1~10のアルキル基であることがより好ましく、R2sに含まれる半数以上の炭素原子がフッ素原子を置換基として有することが特に好ましい。
【0116】

一般式(s1)で表される化合物は、下記一般式(s11)で表される化合物であることがより好ましい。
【0117】

【化27】
【0118】

一般式(s11)中、R1sは水素原子又は炭素数1~20のアルキル基を表し、ma及びnaはそれぞれ独立に0以上の整数を表し、Xは水素原子又はフッ素原子を表す。
【0119】

一般式(s11)中のR1sは、一般式(s1)中のR1sと同義であり、好ましい例も同様である。

ma及びnaはそれぞれ独立に0以上の整数を表す。

maは1~10の整数であることが好ましく、1~5の整数であることがより好ましい。

naは4~12の整数であることが好ましく、4~10の整数であることがより好ましい。

Xは水素原子又はフッ素原子を表し、フッ素原子であることが好ましい。
【0120】

一般式(s1)で表されるモノマーとしては、例えば2,2,2-トリフルオロエチル(メタ)アクリレート、2,2,3,3,3-ペンタフルオロプロピル(メタ)アクリレート、2-(パーフルオロブチル)エチル(メタ)アクリレート、2-(パーフルオロヘキシル)エチル(メタ)アクリレート、2-(パーフルオロオクチル)エチル(メタ)アクリレート、2-(パーフルオロデシル)エチル(メタ)アクリレート、2-(パーフルオロ-3-メチルブチル)エチル(メタ)アクリレート、2-(パーフルオロ-5-メチルヘキシル)エチル(メタ)アクリレート、2-(パーフルオロ-7-メチルオクチル)エチル(メタ)アクリレート、1H,1H,3H-テトラフルオロプロピル(メタ)アクリレート、1H,1H,5H-オクタフルオロペンチル(メタ)アクリレート、1H,1H,7H-ドデカフルオロヘプチル(メタ)アクリレート、1H,1H,9H-ヘキサデカフルオロノニル(メタ)アクリレート、1H-1-(トリフオロメチル)トリフルオロエチル(メタ)アクリレート、1H,1H,3H-ヘキサフルオロブチル(メタ)アクリレート、3-パーフルオロブチル-2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、3-パーフルオロヘキシル-2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、3-パーフルオロオクチル-2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、3-(パーフルオロ-3-メチルブチル)-2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、3-(パーフルオロ-5-メチルヘキシル)-2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、3-(パーフルオロ-7-メチルオクチル)-2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0121】

【化28】
【0122】

一般式(s2)中、R1sは水素原子又は炭素数1~20のアルキル基を表し、R3s、R4s、R6s及びR7sはそれぞれ独立に、炭素数1~20のアルキル基、炭素数1~20のハロアルキル基、又は炭素数6~20のアリール基を表し、R5sは炭素数1~20のアルキル基を表し、mmは1~10の整数を表し、nnは1以上の整数を表す。複数のR3s及びR4sはそれぞれ同じでも異なっていてもよい。
【0123】

一般式(s2)中のR1sは、一般式(s1)中のR1sと同義であり、好ましい例も同様である。

3s、R4s、R6s及びR7sが表す炭素数1~20のアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、ヘキシル基等を挙げることができる。R3s、R4s、R6s及びR7sが表すアルキル基としては、炭素数1~10のアルキル基が好ましい。

3s、R4s、R6s及びR7sが表す炭素数1~20のハロアルキル基としては、例えば、トリフルオロメチル基、ペンタフルオロエチル基を挙げることができる。R3s、R4s、R6s及びR7sが表すハロアルキル基としては、炭素数1~10のフッ素化アルキル基が好ましい。

3s、R4s、R6s及びR7sが表す炭素数6~20のアリール基としては、例えばフェニル基、ナフチル基を挙げることができる。R3s、R4s、R6s及びR7sが表すアリール基としては、炭素数6~20のアリール基が好ましい。

3s、R4s、R6s及びR7sは、メチル基、トリフルオロメチル基、又はフェニル基が好ましく、メチル基がより好ましい。

5sが表す炭素数1~20のアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、ヘキシル基等を挙げることができる。R5sが表すアルキル基としては、炭素数1~12のアルキル基が好ましく、炭素数1~8のアルキル基がより好ましい。
【0124】

mmは1~10の整数を表す。mmは1~6の整数が好ましい。

nnは1~1000の整数が好ましく、20~500の整数がより好ましく、30~200の整数がさらに好ましい。
【0125】

一般式(s2)で表されるモノマーとしては、市販品を用いてもよく、片末端(メタ)アクリロイル基含有ポリシロキサンマクロマー(例えば、サイラプレーンFM-0721、同0725、同0711(以上、商品名、JNC(株)製)、AK-5、AK-30、AK-32(以上、商品名、東亜合成(株)製)、KF-100T、X-22-169AS、KF-102、X-22-3701IE、X-22-164B、X-22-164C、X-22―5002、X-22-173B、X-22-174D、X-22-167B、X-22-161AS(以上、商品名、信越化学工業(株)製)等を挙げることができる。
【0126】

【化29】
【0127】

一般式(s3)中、R1sは水素原子又は炭素数1~20のアルキル基を表し、R8sは炭素数が3以上の直鎖又は分岐アルキル基を表す。
【0128】

一般式(s3)中のR1sは、一般式(s1)中のR1sと同義であり、好ましい例も同様である。

8sが表す炭素数が3以上の直鎖又は分岐アルキル基としては、炭素数3以上30以下の直鎖又は分岐アルキル基が好ましく、炭素数6以上20以下の直鎖又は分岐アルキル基がより好ましい。
【0129】

モノマー(K2)は、上記一般式(s1)で表されるモノマーであることが好ましい。

すなわち、本発明の重合体は、下記一般式(s)で表される構造を有することが好ましい。
【0130】

【化30】
【0131】

一般式(s)中、R1sは水素原子又は炭素数1~20のアルキル基を表し、R2sは少なくとも1つのフッ素原子を有する炭素数1~20のアルキル基又は少なくとも1つのフッ素原子を有する炭素数1~20のアルケニル基を表す。*は結合手を表す。
【0132】

一般式(s)中、R1s及びR2sは、上記一般式(s1)中のR1s及びR2sと同義であり、好ましい例も同様である。*は結合手を表す。
【0133】

本発明の重合体中の、フッ素原子、ケイ素原子、及び炭素数が3以上の直鎖又は分岐アルキル基から選ばれる構造の含有量としては、用いる構造により適宜調整することが可能であるが、1~99モル%が好ましく、10~90モル%がより好ましい。
【0134】

本発明の重合体は、上述のように、モノマー(K1)の単独重合体であってもよく、モノマー(K1)とモノマー(K2)の共重合体であってもよい。

本発明の重合体がモノマー(K1)とモノマー(K2)の共重合体である場合、両者の比率は使用するモノマー種によって適宜調整することが可能であるが、表面面状の良化と溶剤抽出性の観点から、全モノマー量に対するモノマー(K2)の含有量としては、20~90モル%が好ましく、40~80モル%がより好ましい。20モル%以上とすることで表面面状を良好に保つことが可能となり、90モル%以下とすることで溶剤抽出性を良好に保つことができる。40~80モル%とすることで重合体の表面面状良化と溶剤抽出性とのバランスを良好に保つことができる。
【0135】

また、本発明の重合体は、モノマー(K1)及びモノマー(K2)以外の原料モノマーを併用して重合した重合体であってもよい。
【0136】

<重量平均分子量(Mw)>

本発明の重合体の重量平均分子量は、1000~50000である。重量平均分子量を50000以下とすることで、汎用の有機溶剤に対して可溶となるため、有機溶剤に重合体が溶解した溶液としてハードコート層形成用組成物を調製することができ、トリアセチルセルロース(TAC)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリカーボネート(PC)、ポリメタクリル酸メチル樹脂(PMMA)等、種々の汎用基材へ均一な塗布面状でコーティングすることが可能となる。また、Mwを1000以上とすることで、表面面状を良化させる効果が大きくなる。

なお、本発明において、重合体が有機溶剤に可溶であるとは、重合体/有機溶剤(25°C)が1/4(質量比)となるように混和して5分間静置した後の溶液濁度が1.0ppm(parts per million)以下であることを示す。
【0137】

本発明の重合体の重量平均分子量は、1000~30000であることがより好ましく、1000~8000であることが更に好ましく、1000~5000であることが特に好ましい。
【0138】

本発明の重合体の分子量分布(Mw/Mn)は、1.00~5.00であることが好ましく、1.00~3.00であることがより好ましい。
【0139】

本発明の重合体の重量平均分子量(Mw)、数平均分子量(Mn)及び分子量分布は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィ(GPC)によって下記の条件で測定された値である。

[溶離液]:テトラヒドロフラン(THF)

[装置名]:Ecosec HLC-8220GPC(東ソー株式会社製)

[カラム]:TSKgel SuperHZM-H、TSKgel SuperHZ4000、TSKgel SuperHZM200(東ソー株式会社製)

[カラム温度]:40℃

[流速]:50ml/min

[分子量]:標準ポリスチレン換算
【0140】

重合体中のヒドロキシル基の含有量としては、下記式から導かれる、組成物中の重合性基を有するポリオルガノシルセスキオキサン(A)の添加量に対する、重合体中のヒドロキシル基の含有量(OH含有量ともいう)が、0質量%~10質量%であることが好ましい。
【0141】

(重合体添加量/重合性基を有するポリオルガノシルセスキオキサン添加量)×(重合体中のOH含有率)×100 (%)
【0142】

例えば、本発明の重合体が、モノマー(K1)と、モノマー(K2)とを重合させてなり、モノマー(K1)にヒドロキシル基が含まれる場合の、重合体中のOH含有量は、下記の式から導かれる。
【0143】

[重合体の含有量(g)/重合性基を有するポリオルガノシルセスキオキサンの含有量(g)]×(モノマー(K1)の重合体中の含有比(質量比))×[(OHの分子量)×(モノマー(K1)中のOHの個数)/(モノマー(K1)の分子量)]
【0144】

上記式から導かれるOH含有量は、0~0.006質量%であることが好ましく、0~0.002質量%がより好ましく、0~0.0001質量%がさらに好ましい。OH量が少ないことで重合性基を有するポリオルガノシルセスキオキサン(A)中のOH基との相互作用が小さくなり、重合体の溶剤抽出性が良好となる。
【0145】

<合成方法>

本発明の重合体の合成手法としては、溶液、懸濁、乳化などのラジカル重合が分子量の制御の観点で好ましく、溶液重合が特に好ましい。
【0146】

反応に用いる重合溶媒に関しては、種々の有機溶剤を好適に用いることができる。係る有機溶剤としては、例えばジブチルエーテル、ジメトキシエタン、ジエトキシエタン、プロピレンオキシド、1,4-ジオキサン、1,3-ジオキソラン、1,3,5-トリオキサン、テトラヒドロフラン、アニソール、フェネトール、炭酸ジメチル、炭酸メチルエチル、炭酸ジエチル、アセトン、メチルエチルケトン(MEK)、ジエチルケトン、ジプロピルケトン、ジイソブチルケトン、シクロペンタノン、シクロヘキサノン、メチルシクロヘキサノン、蟻酸エチル、蟻酸プロピル、蟻酸ペンチル、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸プロピル、プロピオン酸メチル、プロピオン酸エチル、γ-プチロラクトン、2-メトキシ酢酸メチル、2-エトキシ酢酸メチル、2-エトキシ酢酸エチル、2-エトキシプロピオン酸エチル、2-メトキシエタノール、2-プロポキシエタノール、2-ブトキシエタノール、1,2-ジアセトキシアセトン、アセチルアセトン、ジアセトンアルコール、アセト酢酸メチル、アセト酢酸エチル、メチルアルコール、エチルアルコール、イソプロピルアルコール、n-ブチルアルコール、t-アミルアルコール、シクロヘキシルアルコール、酢酸イソブチル、メチルイソブチルケトン(MIBK)、2-オクタノン、2-ペンタノン、2-ヘキサノン、エチレングリコールエチルエーテル、エチレングリコールイソプロピルエーテル、エチレングリコールブチルエーテル、プロピレングリコールメチルエーテル、エチルカルビトール、ブチルカルビトール、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、エチルシクロヘキサン、ベンゼン、トルエン、キシレン等が挙げられ、1種単独であるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0147】

ラジカル重合開始剤としては、公知のラジカル重合開始剤を、何ら制限なく用いることができる。
【0148】

ここで、ラジカル溶液重合において、得られる重合体の数平均分子量(Mn)は以下の式(1)で表される。
【0149】

【数1】
【0150】

上記式(1)中の各パラメーターは以下のとおりである。

[I]、[M]、[S]:それぞれ開始剤、モノマー、溶媒の濃度(mol/L)、

:開始剤分解速度定数、

:停止反応速度定数、

:生長反応速度定数、

Cs(=ktrs/k):溶媒の連鎖移動定数(ktrs:溶媒への連鎖移動反応速度定数)、

(=ktrM/k):モノマーの連鎖移動定数(ktrM:モノマーへの連鎖移動反応速度定数)、

f:開始剤効率、

:モノマーの分子量
【0151】

溶液ラジカル重合によって合成される重合体の分子量に影響を与える因子として、モノマー/開始剤濃度比[M]/[I]とモノマー/溶媒濃度比[M]/[S]がある。すなわち、モノマー濃度を下げる、及び/または、開始剤濃度の調整により、重合体分子量が制御できる。
【0152】

本発明の重合体は、重合反応における化合物(M)の濃度、及び/または開始剤濃度の調整で汎用有機溶剤(例えばMEKなど)へ可溶化できる。
【0153】

ラジカル重合濃度(ラジカル溶液重合時の溶媒に対するモノマー濃度)としては、3~40質量%が好ましく、5~35質量%が更に好ましい。
【0154】

また、有機溶剤に対する溶解性の観点から、ラジカル重合開始剤の量は対2(多)官能モノマー比で250モル%以上が好ましい。
【0155】

以下に本発明の重合体の具体例を示すが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0156】

【化31】
【0157】

【化32】
【0158】

【化33】
【0159】

[重合性基を有するポリオルガノシルセスキオキサン(A)]

重合性基を有するポリオルガノシルセスキオキサン(A)については後述する。
【0160】

[組成物]

本発明の組成物は上述の本発明の重合体及び重合性基を有するポリオルガノシルセスキオキサン(A)を含む。

本発明の組成物は、半導体部品、光学部材、液晶関連部材等、塗膜の積層によって作製される部材の形成に好適に用いることができる。

本発明の組成物は、その用途に応じ、硬化性成分、溶剤、及び各種添加剤等を含むことができる。
【0161】

本発明の組成物は、ハードコートフィルムにおけるハードコート層を形成するための、ハードコート層形成用組成物として好適に用いることができる。
【0162】

本発明の重合体を含むハードコート層形成用組成物は、塗工時の基材に対するぬれ性(均質塗工性)に優れ、ハードコート層表面の面状を良好なものとできる。また、ハードコート層表面に上層形成用組成物を塗布した際のリコート性にも優れる。
【0163】

本発明の組成物をハードコート層形成用組成物として用いる場合、組成物中に、重合性基を有するポリオルガノシルセスキオキサン(A)とは異なる硬化性成分をさらに含んでいても良い。硬化性成分としては、1分子中に2個以上の(メタ)アクリロイル基を有する化合物(a2)等が挙げられる。
【0164】

1分子中に2個以上の(メタ)アクリロイル基を有する化合物(a2)としては、後述する1分子中に2個以上の(メタ)アクリロイル基を有する化合物(b2)と同様の化合物が挙げられる。
【0165】

重合性基を有するポリオルガノシルセスキオキサン(A)を含む本発明の組成物は、フレキシブルハードコートフィルム中のハードコート層を形成するための組成物として好ましく用いられる。
【0166】

ハードコート層形成用組成物は、通常、液の形態をとる。また、ハードコート層形成用組成物は、本発明の改質剤、硬化性成分、並びに、必要に応じて各種添加剤及び重合開始剤を適当な溶剤に溶解又は分散して調製されることが好ましい。
【0167】

ハードコート層形成用組成物中に含みうる本発明の改質剤以外の成分の詳細、及び各成分の含有量については、後述するものとする。
【0168】

[ハードコートフィルム]

本発明のハードコートフィルムは、

基材及びハードコート層を含む、ハードコートフィルムであって、

上記ハードコート層は、本発明の組成物の硬化物を含む、ハードコートフィルムである。

また、上記ハードコート層は、重合体と重合性基を有するポリオルガノシルセスキオキサン(A)の硬化物を含む。
【0169】

さらに、本発明のハードコートフィルムは、上記ハードコートフィルムのハードコート層の基材とは反対側に少なくとも1層の機能層を有することが好ましい。
【0170】

機能層としては、特に限定されるものではなく、例えば、ハードコート層、低屈折率層、高屈折率層、混合層、耐擦傷層、低反射率層、防汚層、無機酸化物層(AR層)、バリア層及びこれらの組み合わせなどが挙げられる。
【0171】

本発明のハードコートフィルムは、機能層として、混合層を有し、

上記基材、上記ハードコート層、及び上記混合層をこの順に有し、

上記混合層が、エポキシ基を有する化合物の硬化物(b1)と、1分子中に2個以上の(メタ)アクリロイル基を有する化合物(b2)の硬化物とを含む、ハードコートフィルムであることが好ましい。
【0172】

なお、本発明のハードコートフィルムが機能層として、混合層を有する場合は、上記ハードコート層における、上記硬化物における本発明の組成物に含まれる重合性基を有するポリオルガノシルセスキオキサン(A)の重合性基はエポキシ基であることが好ましい。
【0173】

また、本発明のハードコートフィルムは、機能層として、上記混合層と耐擦傷層を有し、

上記基材、上記ハードコート層、上記混合層、及び上記耐擦傷層をこの順に有し、

上記耐擦傷層は、1分子中に2個以上の(メタ)アクリロイル基を有する化合物(c1)の硬化物を含む、ハードコートフィルムであることが好ましい。
【0174】

<基材>

本発明のハードコートフィルムの基材について説明する。

基材は、可視光領域の透過率が70%以上であることが好ましく、80%以上であることがより好ましく、90%以上であることが更に好ましい。基材はポリマーを含むことが好ましい。
【0175】

(ポリマー)

ポリマーとしては、光学的な透明性、機械的強度、熱安定性などに優れるポリマーが好ましい。
【0176】

ポリマーとしては、例えば、ポリカーボネート系ポリマー、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)等のポリエステル系ポリマー、ポリスチレン、アクリロニトリル・スチレン共重合体(AS樹脂)等のスチレン系ポリマーなどが挙げられる。また、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン、ノルボルネン系樹脂、エチレン・プロピレン共重合体などのポリオレフィン系ポリマー、ポリメチルメタクリレート等の(メタ)アクリル系ポリマー、塩化ビニル系ポリマー、ナイロン、芳香族ポリアミド等のアミド系ポリマー、イミド系ポリマー、スルホン系ポリマー、ポリエーテルスルホン系ポリマー、ポリエーテルエーテルケトン系ポリマー、ポリフェニレンスルフィド系ポリマー、塩化ビニリデン系ポリマー、ビニルアルコール系ポリマー、ビニルブチラール系ポリマー、アリレート系ポリマー、ポリオキシメチレン系ポリマー、エポキシ系ポリマー、トリアセチルセルロースに代表されるセルロース系ポリマー、又は上記ポリマー同士の共重合体、上記ポリマー同士を混合したポリマーも挙げられる。
【0177】

特に、芳香族ポリアミド等のアミド系ポリマー及びイミド系ポリマーは、JIS(日本工業規格) P8115(2001)に従いMIT試験機によって測定した破断折り曲げ回数が大きく、硬度も比較的高いことから、基材として好ましく用いることができる。例えば、特許第5699454号公報の実施例1にあるような芳香族ポリアミド、特表2015-508345号公報、特表2016-521216号公報、及びWO2017/014287号公報に記載のポリイミドを基材として好ましく用いることができる。
【0178】

また、基材は、アクリル系、ウレタン系、アクリルウレタン系、エポキシ系、シリコーン系等の紫外線硬化型、熱硬化型の樹脂の硬化層として形成することもできる。
【0179】

(柔軟化素材)

基材は、上記のポリマーを更に柔軟化する素材を含有しても良い。柔軟化素材とは、破断折り曲げ回数を向上させる化合物を指し、柔軟化素材としては、ゴム質弾性体、脆性改良剤、可塑剤、スライドリングポリマー等を用いることが出来る。

柔軟化素材として具体的には、特開2016-167043号公報における段落番号<0051>~<0114>に記載の柔軟化素材を好適に用いることができる。
【0180】

柔軟化素材は、ポリマーに単独で混合しても良いし、複数を適宜併用して混合しても良いし、また、ポリマーと混合せずに、柔軟化素材のみを単独又は複数併用で用いて基材としても良い。
【0181】

これらの柔軟化素材を混合する量は、とくに制限はなく、単独で十分な破断折り曲げ回数を持つポリマーを単独でフィルムの基材としても良いし、柔軟化素材を混合しても良いし、すべてを柔軟化素材(100%)として十分な破断折り曲げ回数を持たせても良い。
【0182】

(その他の添加剤)

基材には、用途に応じた種々の添加剤(例えば、紫外線吸収剤、マット剤、酸化防止剤、剥離促進剤、レターデーション(光学異方性)調節剤、など)を添加できる。それらは固体でもよく油状物でもよい。すなわち、その融点又は沸点において特に限定されるものではない。また添加剤を添加する時期は基材を作製する工程において何れの時点で添加しても良く、素材調製工程に添加剤を添加し調製する工程を加えて行ってもよい。更にまた、各素材の添加量は機能が発現する限りにおいて特に限定されない。

その他の添加剤としては、特開2016-167043号公報における段落番号[0117]~<0122>に記載の添加剤を好適に用いることができる。
【0183】

以上の添加剤は、1種類を単独で使用してもよいし、2種類以上を組み合わせて使用してもよい。
【0184】

(紫外線吸収剤)

紫外線吸収剤としては、例えば、ベンゾトリアゾール化合物、トリアジン化合物、ベンゾオキサジン化合物を挙げることができる。ここでベンゾトリアゾール化合物とは、ベンゾトリアゾール環を有する化合物であり、具体例としては、例えば特開2013-111835号公報段落0033に記載されている各種ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤を挙げることができる。トリアジン化合物とは、トリアジン環を有する化合物であり、具体例としては、例えば特開2013-111835号公報段落0033に記載されている各種トリアジン系紫外線吸収剤を挙げることができる。ベンゾオキサジン化合物としては、例えば特開2014-209162号公報段落0031に記載されているものを用いることができる。基材中の紫外線吸収剤の含有量は、例えば基材に含まれるポリマー100質量部に対して0.1~10質量部程度であるが、特に限定されるものではない。また、紫外線吸収剤については、特開2013-111835号公報段落0032も参照できる。なお、本発明においては、耐熱性が高く揮散性の低い紫外線吸収剤が好ましい。かかる紫外線吸収剤としては、例えば、UVSORB101(富士フイルムファインケミカルズ株式会社製)、TINUVIN 360、TINUVIN 460、TINUVIN 1577(BASF社製)、LA-F70、LA-31、LA-46(ADEKA社製)などが挙げられる。
【0185】

基材は、透明性の観点から、基材に用いる柔軟性素材及び各種添加剤と、ポリマーとの屈折率の差が小さいことが好ましい。
【0186】

(イミド系ポリマーを含む基材)

基材として、イミド系ポリマーを含む基材を好ましく用いることができる。本明細書において、イミド系ポリマーとは、式(PI)、式(a)、式(a’)及び式(b)で表される繰り返し構造単位を少なくとも1種以上含む重合体を意味する。なかでも、式(PI)で表される繰り返し構造単位が、イミド系ポリマーの主な構造単位であると、フィルムの強度及び透明性の観点で好ましい。式(PI)で表される繰り返し構造単位は、イミド系ポリマーの全繰り返し構造単位に対し、好ましくは40モル%以上であり、より好ましくは50モル%以上であり、さらに好ましくは70モル%以上であり、殊更好ましくは90モル%以上であり、殊更さらに好ましくは98モル%である。
【0187】

【化34】
【0188】

式(PI)中のGは4価の有機基を表し、Aは2価の有機基を表す。式(a)中のGは3価の有機基を表し、Aは2価の有機基を表す。式(a’)中のGは4価の有機基を表し、Aは2価の有機基を表す。式(b)中のG及びAは、それぞれ2価の有機基を表す。
【0189】

式(PI)中、Gで表される4価の有機基の有機基(以下、Gの有機基ということがある)としては、非環式脂肪族基、環式脂肪族基及び芳香族基からなる群から選ばれる基が挙げられる。Gの有機基は、イミド系ポリマーを含む基材の透明性及び屈曲性の観点から、4価の環式脂肪族基又は4価の芳香族基であることが好ましい。芳香族基としては、単環式芳香族基、縮合多環式芳香族基及び2以上の芳香族環を有しそれらが直接または結合基により相互に連結された非縮合多環式芳香族基等が挙げられる。樹脂フィルムの透明性及び着色の抑制の観点から、Gの有機基は、環式脂肪族基、フッ素系置換基を有する環式脂肪族基、フッ素系置換基を有する単環式芳香族基、フッ素系置換基を有する縮合多環式芳香族基又はフッ素系置換基を有する非縮合多環式芳香族基であることが好ましい。本明細書においてフッ素系置換基とは、フッ素原子を含む基を意味する。フッ素系置換基は、好ましくはフルオロ基(フッ素原子,-F)及びパーフルオロアルキル基であり、さらに好ましくはフルオロ基及びトリフルオロメチル基である。
【0190】

より具体的には、Gの有機基は、例えば、飽和又は不飽和シクロアルキル基、飽和又は不飽和へテロシクロアルキル基、アリール基、ヘテロアリール基、アリールアルキル基、アルキルアリール基、ヘテロアルキルアリール基、及び、これらのうちの任意の2つの基(同一でもよい)を有しこれらが直接又は結合基により相互に連結された基から選ばれる。結合基としては、-O-、炭素数1~10のアルキレン基、-SO-、-CO-又は-CO-NR-(Rは、メチル基、エチル基、プロピル基等の炭素数1~3のアルキル基又は水素原子を表す)が挙げられる。
【0191】

Gで表される4価の有機基の炭素数は通常2~32であり、好ましくは4~15であり、より好ましくは5~10であり、さらに好ましくは6~8である。Gの有機基が環式脂肪族基又は芳香族基である場合、これらの基を構成する炭素原子のうちの少なくとも1つがヘテロ原子で置き換えられていてもよい。ヘテロ原子としては、O、N又はSが挙げられる。
【0192】

Gの具体例としては、以下の式(20)、式(21)、式(22)、式(23)、式(24)、式(25)又は式(26)で表される基が挙げられる。式中の*は結合手を示す。式(26)中のZは、単結合、-O-、-CH-、-C(CH-、-Ar-O-Ar-、-Ar-CH-Ar-、-Ar-C(CH-Ar-又は-Ar-SO-Ar-を表す。Arは炭素数6~20のアリール基を表し、例えば、フェニレン基であってもよい。これらの基の水素原子のうち少なくとも1つが、フッ素系置換基で置換されていてもよい。
【0193】

【化35】
【0194】

式(PI)中、Aで表される2価の有機基の有機基(以下、Aの有機基ということがある)としては、非環式脂肪族基、環式脂肪族基及び芳香族基からなる群から選択される基が挙げられる。Aで表される2価の有機基は、2価の環式脂肪族基及び2価の芳香族基から選ばれることが好ましい。芳香族基としては、単環式芳香族基、縮合多環式芳香族基、及び2以上の芳香族環を有しそれらが直接または結合基により相互に連結された非縮合多環式芳香族基が挙げられる。樹脂フィルムの透明性、及び着色の抑制の観点から、Aの有機基には、フッ素系置換基が導入されていることが好ましい。
【0195】

より具体的には、Aの有機基は、例えば、飽和又は不飽和シクロアルキル基、飽和又は不飽和へテロシクロアルキル基、アリール基、ヘテロアリール基、アリールアルキル基、アルキルアリール基、ヘテロアルキルアリール基、及びこれらの内の任意の2つの基(同一でもよい)を有しそれらが直接又は結合基により相互に連結された基から選ばれる。ヘテロ原子としては、O、N又はSが挙げられ、結合基としては、-O-、炭素数1~10のアルキレン基、-SO-、-CO-又は-CO-NR-(Rはメチル基、エチル基、プロピル基等の炭素数1~3のアルキル基又は水素原子を含む)が挙げられる。
【0196】

Aで表される2価の有機基の炭素数は、通常2~40であり、好ましくは5~32であり、より好ましくは12~28であり、さらに好ましくは24~27である。
【0197】

Aの具体例としては、以下の式(30)、式(31)、式(32)、式(33)又は式(34)で表される基が挙げられる。式中の*は結合手を示す。Z~Zは、それぞれ独立して、単結合、-O-、-CH-、-C(CH-、-SO-、-CO-又は―CO―NR-(Rはメチル基、エチル基、プロピル基等の炭素数1~3のアルキル基又は水素原子を表す)を表す。下記の基において、ZとZ、及び、ZとZは、それぞれ、各環に対してメタ位又はパラ位にあることが好ましい。また、Zと末端の単結合、Zと末端の単結合、及び、Zと末端の単結合とは、それぞれメタ位又はパラ位にあることが好ましい。Aの1つの例において、Z及びZが-O-であり、かつ、Zが-CH-、-C(CH-又は-SO-である。これらの基の水素原子の1つ又は2つ以上が、フッ素系置換基で置換されていてもよい。
【0198】

【化36】
【0199】

A及びGの少なくとも一方を構成する水素原子のうちの少なくとも1つの水素原子が、フッ素系置換基、水酸基、スルホン基及び炭素数1~10のアルキル基等からなる群から選ばれる少なくとも1種の官能基で置換されていてもよい。また、Aの有機基及びGの有機基がそれぞれ環式脂肪族基又は芳香族基である場合に、A及びGの少なくとも一方がフッ素系置換基を有することが好ましく、A及びGの両方がフッ素系置換基を有することがより好ましい。
【0200】

式(a)中のGは、3価の有機基である。この有機基は、3価の基である点以外は、式(PI)中のGの有機基と同様の基から選択することができる。Gの例としては、Gの具体例として挙げられた式(20)~式(26)で表される基の4つの結合手のうち、いずれか1つが水素原子に置き換わった基を挙げることができる。式(a)中のA2は式(PI)中のAと同様の基から選択することができる。
【0201】

式(a’)中のGは、式(PI)中のGと同様の基から選択することができる。式(a’)中のAは、式(PI)中のAと同様の基から選択することができる。
【0202】

式(b)中のGは、2価の有機基である。この有機基は、2価の基である点以外は、式(PI)中のGの有機基と同様の基から選択することができる。Gの例としては、Gの具体例として挙げられた式(20)~式(26)で表される基の4つの結合手のうち、いずれか2つが水素原子に置き換わった基を挙げることができる。式(b)中のAは、式(PI)中のAと同様の基から選択することができる。
【0203】

イミド系ポリマーを含む基材に含まれるイミド系ポリマーは、ジアミン類と、テトラカルボン酸化合物(酸クロライド化合物およびテトラカルボン酸二無水物などのテトラカルボン酸化合物類縁体を含む)又はトリカルボン酸化合物(酸クロライド化合物及びトリカルボン酸無水物などのトリカルボン酸化合物類縁体を含む)の少なくとも1種類とを重縮合することによって得られる縮合型高分子であってもよい。さらにジカルボン酸化合物(酸クロライド化合物などの類縁体を含む)を重縮合させてもよい。式(PI)又は式(a’)で表される繰り返し構造単位は、通常、ジアミン類及びテトラカルボン酸化合物から誘導される。式(a)で表される繰り返し構造単位は、通常、ジアミン類及びトリカルボン酸化合物から誘導される。式(b)で表される繰り返し構造単位は、通常、ジアミン類及びジカルボン酸化合物から誘導される。
【0204】

テトラカルボン酸化合物としては、芳香族テトラカルボン酸化合物、脂環式テトラカルボン酸化合物及び非環式脂肪族テトラカルボン酸化合物等が挙げられる。これらは、2種以上を併用してもよい。テトラカルボン酸化合物は、好ましくはテトラカルボン酸二無水物である。テトラカルボン酸二無水物としては、芳香族テトラカルボン酸二無水物、脂環式テトラカルボン酸二無水物、非環式脂肪族テトラカルボン酸二無水物が挙げられる。
【0205】

イミド系ポリマーの溶媒に対する溶解性、並びに基材を形成した場合の透明性及び屈曲性の観点から、テトラカルボン酸化合物は、脂環式テトラカルボン化合物又は芳香族テトラカルボン酸化合物等であることが好ましい。イミド系ポリマーを含む基材の透明性及び着色の抑制の観点から、テトラカルボン酸化合物は、フッ素系置換基を有する脂環式テトラカルボン酸化合物及びフッ素系置換基を有する芳香族テトラカルボン酸化合物から選ばれることが好ましく、フッ素系置換基を有する脂環式テトラカルボン酸化合物であることがさらに好ましい。
【0206】

トリカルボン酸化合物としては、芳香族トリカルボン酸、脂環式トリカルボン酸、非環式脂肪族トリカルボン酸及びそれらの類縁の酸クロライド化合物、酸無水物等が挙げられる。トリカルボン酸化合物は、好ましくは芳香族トリカルボン酸、脂環式トリカルボン酸、非環式脂肪族トリカルボン酸及びそれらの類縁の酸クロライド化合物から選ばれる。トリカルボン酸化合物は、2種以上を併用してもよい。
【0207】

イミド系ポリマーの溶媒に対する溶解性、並びにイミド系ポリマーを含む基材を形成した場合の透明性及び屈曲性の観点から、トリカルボン酸化合物は、脂環式トリカルボン酸化合物又は芳香族トリカルボン酸化合物であることが好ましい。イミド系ポリマーを含む基材の透明性及び着色の抑制の観点から、トリカルボン酸化合物は、フッ素系置換基を有する脂環式トリカルボン酸化合物又はフッ素系置換基を有する芳香族トリカルボン酸化合物であることがより好ましい。
【0208】

ジカルボン酸化合物としては、芳香族ジカルボン酸、脂環式ジカルボン酸、非環式脂肪族ジカルボン酸及びそれらの類縁の酸クロライド化合物、酸無水物等が挙げられる。ジカルボン酸化合物は、好ましくは芳香族ジカルボン酸、脂環式ジカルボン酸、非環式脂肪族ジカルボン酸及びそれらの類縁の酸クロライド化合物から選ばれる。ジカルボン酸化合物は、2種以上併用してもよい。
【0209】

イミド系ポリマーの溶媒に対する溶解性、並びにイミド系ポリマーを含む基材を形成した場合の透明性及び屈曲性の観点から、ジカルボン酸化合物は、脂環式ジカルボン酸化合物又は芳香族ジカルボン酸化合物であることが好ましい。イミド系ポリマーを含む基材の透明性及び着色の抑制の観点から、ジカルボン酸化合物は、フッ素系置換基を有する脂環式ジカルボン酸化合物又はフッ素系置換基を有する芳香族ジカルボン酸化合物であることがさらに好ましい。
【0210】

ジアミン類としては、芳香族ジアミン、脂環式ジアミン及び脂肪族ジアミンが挙げられ、これらは2種以上併用してもよい。イミド系ポリマーの溶媒に対する溶解性、並びにイミド系ポリマーを含む基材を形成した場合の透明性及び屈曲性の観点から、ジアミン類は、脂環式ジアミン及びフッ素系置換基を有する芳香族ジアミンから選ばれることが好ましい。
【0211】

このようなイミド系ポリマーを使用すれば、特に優れた屈曲性を有し、高い光透過率(例えば、550nmの光に対して85%以上、好ましくは88%以上)、低い黄色度(YI値、5以下、好ましくは3以下)、及び低いヘイズ(1.5%以下、好ましくは1.0%以下)を有する樹脂フィルムが得られ易い。
【0212】

イミド系ポリマーは、異なる複数の種類の上記の繰り返し構造単位を含む共重合体でもよい。ポリイミド系高分子の重量平均分子量は、通常10,000~500,000である。イミド系ポリマーの重量平均分子量は、好ましくは、50,000~500,000であり、さらに好ましくは70,000~400,000である。重量平均分子量は、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)で測定した標準ポリスチレン換算分子量である。イミド系ポリマーの重量平均分子量が大きいと高い屈曲性を得られやすい傾向があるが、イミド系ポリマーの重量平均分子量が大きすぎると、ワニスの粘度が高くなり、加工性が低下する傾向がある。
【0213】

イミド系ポリマーは、上述のフッ素系置換基等によって導入できるフッ素原子等のハロゲン原子を含んでいてもよい。ポリイミド系高分子がハロゲン原子を含むことにより、イミド系ポリマーを含む基材の弾性率を向上させ且つ黄色度を低減させることができる。これにより、樹脂フィルムに発生するキズ及びシワ等が抑制され、且つ、イミド系ポリマーを含む基材の透明性を向上させることができる。ハロゲン原子として好ましくは、フッ素原子である。ポリイミド系高分子におけるハロゲン原子の含有量は、ポリイミド系高分子の質量を基準として、1~40質量%であることが好ましく、1~30質量%であることがより好ましい。
【0214】

イミド系ポリマーを含む基材は、1種又は2種以上の紫外線吸収剤を含有していてもよい。紫外線吸収剤は、樹脂材料の分野で紫外線吸収剤として通常用いられているものから、適宜選択することができる。紫外線吸収剤は、400nm以下の波長の光を吸収する化合物を含んでいてもよい。イミド系ポリマーと適切に組み合わせることのできる紫外線吸収剤は、例えば、ベンゾフェノン系化合物、サリシレート系化合物、ベンゾトリアゾール系化合物及びトリアジン系化合物からなる群より選ばれる少なくとも1種の化合物が挙げられる。

本明細書において、「系化合物」とは、「系化合物」が付される化合物の誘導体を指す。例えば、「ベンゾフェノン系化合物」とは、母体骨格としてのベンゾフェノンと、ベンゾフェノンに結合している置換基とを有する化合物を指す。
【0215】

紫外線吸収剤の含有量は、樹脂フィルムの全体質量に対して、通常1質量%以上であり、好ましくは2質量%以上であり、より好ましくは3質量%以上であり、通常10質量%以下であり、好ましくは8質量%以下であり、より好ましくは6質量%以下である。紫外線吸収剤がこれらの量で含まれることで、樹脂フィルム10の耐候性を高めることができる。
【0216】

イミド系ポリマーを含む基材は、無機粒子等の無機材料を更に含有していてもよい。無機材料は、ケイ素原子を含むケイ素材料が好ましい。イミド系ポリマーを含む基材がケイ素材料等の無機材料を含有することで、イミド系ポリマーを含む基材の引張弾性率を容易に4.0GPa以上とすることができる。ただし、イミド系ポリマーを含む基材の引張弾性率を制御する方法は、無機材料の配合に限られない。
【0217】

ケイ素原子を含むケイ素材料としては、シリカ粒子、オルトケイ酸テトラエチル(TEOS)等の4級アルコキシシラン、シルセスキオキサン誘導体等のケイ素化合物が挙げられる。これらのケイ素材料の中でも、イミド系ポリマーを含む基材の透明性及び屈曲性の観点から、シリカ粒子が好ましい。
【0218】

シリカ粒子の平均一次粒子径は、通常、100nm以下である。シリカ粒子の平均一次粒子径が100nm以下であると透明性が向上する傾向がある。
【0219】

イミド系ポリマーを含む基材中のシリカ粒子の平均一次粒子径は、透過型電子顕微鏡(TEM)による観察で求めることができる。シリカ粒子の一次粒子径は、透過型電子顕微鏡(TEM)による定方向径とすることができる。平均一次粒子径は、TEM観察により一次粒子径を10点測定し、それらの平均値として求めることができる。イミド系ポリマーを含む基材を形成する前のシリカ粒子の粒子分布は、市販のレーザー回折式粒度分布計により求めることができる。
【0220】

イミド系ポリマーを含む基材において、イミド系ポリマーと無機材料との配合比は、両者の合計を10として、質量比で、1:9~10:0であることが好ましく、3:7~10:0であることがより好ましく、3:7~8:2であることがさらに好ましく、3:7~7:3であることがよりさらに好ましい。イミド系ポリマー及び無機材料の合計質量に対する無機材料の割合は、通常20質量%以上であり、好ましくは30質量%以上であり、通常90質量%以下であり、好ましくは70質量%以下である。イミド系ポリマーと無機材料(ケイ素材料)との配合比が上記の範囲内であると、イミド系ポリマーを含む基材の透明性及び機械的強度が向上する傾向がある。また、イミド系ポリマーを含む基材の引張弾性率を容易に4.0GPa以上とすることができる。
【0221】

イミド系ポリマーを含む基材は、透明性及び屈曲性を著しく損なわない範囲で、イミド系ポリマー及び無機材料以外の成分を更に含有していてもよい。イミド系ポリマー及び無機材料以外の成分としては、例えば、酸化防止剤、離型剤、安定剤、ブルーイング剤等の着色剤、難燃剤、滑剤、増粘剤及びレベリング剤が挙げられる。イミド系ポリマー及び無機材料以外の成分の割合は、樹脂フィルム10の質量に対して、0%を超えて20質量%以下であることが好ましく、さらに好ましくは0%を超えて10質量%以下である。
【0222】

イミド系ポリマーを含む基材がイミド系ポリマー及びケイ素材料を含有するとき、少なくとも一方の主面10aにおける、窒素原子に対するケイ素原子の原子数比であるSi/Nが8以上であることが好ましい。この原子数比Si/Nは、X線光電子分光(X-ray Photoelectron Spectroscopy、XPS)によって、イミド系ポリマーを含む基材の組成を評価し、これによって得られたケイ素原子の存在量と窒素原子の存在量から算出される値である。
【0223】

イミド系ポリマーを含む基材の主面10aにおけるSi/Nが8以上であることにより、後述する機能層20との充分な密着性が得られる。密着性の観点から、Si/Nは、9以上であることがより好ましく、10以上であることがさらに好ましく、50以下であることが好ましく、40以下であることがより好ましい。
【0224】

(基材の厚み)

基材の厚みは、100μm以下であることがより好ましく、80μm以下であることが更に好ましく、50μm以下が最も好ましい。基材の厚みが薄くなれば、折れ曲げ時の表面と裏面の曲率差が小さくなり、クラック等が発生し難くなり、複数回の折れ曲げでも、基材の破断が生じなくなる。一方、基材取り扱いの容易さの観点から基材の厚みは3μm以上であることが好ましく、5μm以上であることがより好ましく、15μm以上が最も好ましい。
【0225】

(基材の作製方法)

基材は、熱可塑性のポリマーを熱溶融して製膜しても良いし、ポリマーを均一に溶解した溶液から溶液製膜(ソルベントキャスト法)によって製膜しても良い。熱溶融製膜の場合は、上述の柔軟化素材及び種々の添加剤を、熱溶融時に加えることができる。一方、基材を溶液製膜法で作製する場合は、ポリマー溶液(以下、ドープともいう)には、各調製工程において上述の柔軟化素材及び種々の添加剤を加えることができる。またその添加する時期はドープ作製工程において何れでも添加しても良いが、ドープ調製工程の最後の調製工程に添加剤を添加し調製する工程を加えて行ってもよい。
【0226】

塗膜の乾燥、及び/又はベーキングのために、塗膜を加熱してもよい。塗膜の加熱温度は、通常50~350℃である。塗膜の加熱は、不活性雰囲気下又は減圧下で行ってもよい。塗膜を加熱することにより溶媒を蒸発させ、除去することができる。樹脂フィルムは、塗膜を50~150℃で乾燥する工程と、乾燥後の塗膜を180~350℃でベーキングする工程とを含む方法により、形成されてもよい。
【0227】

基材の少なくとも一方の主面には、表面処理を施してもよい。
【0228】

基材の片面または両面には、表面保護または基材の平滑性を維持するために保護フィルムを貼合しても良い。保護フィルムとしては、帯電防止剤を含有する粘着剤が支持体の片面に積層された保護フィルムが好ましい。このような保護フィルムを用いることで、保護フィルムを剥離し、ハードコート層を形成する際に塵埃の付着を防止することができる。
【0229】

<ハードコート層>

本発明のハードコートフィルムのハードコート層について説明する。

本発明におけるハードコート層は、本発明の組成物の硬化物からなることが好ましい。

本発明におけるハードコート層は、重合体と重合性基を有するポリオルガノシルセスキオキサン(A)の硬化物を含むことがより好ましい。
【0230】

重合性基を有するポリオルガノシルセスキオキサン(A)における重合性基としては、特に限定されないが、ラジカル重合又はカチオン重合可能な重合性基が好ましい。ラジカル重合性基としては、一般に知られているラジカル重合性基を用いることができ、好適なものとして、(メタ)アクリレート基を挙げることができる。カチオン重合性基としては、一般に知られているカチオン重合性を用いることができ、具体的には、脂環式エーテル基、環状アセタール基、環状ラクトン基、環状チオエーテル基、スピロオルソエステル基、ビニルオキシ基などを挙げることができる。中でも、脂環式エーテル基、ビニルオキシ基が好適であり、エポキシ基、オキセタニル基、ビニルオキシ基が特に好ましく、エポキシ基を用いることが最も好ましい。
【0231】

重合性基を有するポリオルガノシルセスキオキサン(A)は、エポキシ基を有するポリオルガノシルセスキオキサン(a1)であることが好ましい。
【0232】

本発明におけるハードコート層は、本発明の重合体及びエポキシ基を有するポリオルガノシルセスキオキサン(a1)を含有する硬化性組成物を加熱及び/又は電離放射線の照射により硬化させてなるものであることが好ましい。
【0233】

(エポキシ基を有するポリオルガノシルセスキオキサン(a1))

エポキシ基を有するポリオルガノシルセスキオキサン(a1)(「ポリオルガノシルセスキオキサン(a1)」ともいう。)は、少なくとも、エポキシ基を含有するシロキサン構成単位を有し、下記一般式(1)で表されるポリオルガノシルセスキオキサンであることが好ましい。
【0234】

【化37】
【0235】

一般式(1)中、Rbは、エポキシ基を含有する基を表し、Rcは1価の基を表す。q及びrは、一般式(1)中のRbおよびRcの比率を表し、q+r=100であり、qは0超、rは0以上である。一般式(1)中に複数のRb及びRcがある場合、複数のRb及びRcはそれぞれ同一であっても異なっていてもよい。一般式(1)中に複数のRcがある場合、複数のRcは、互いに結合を形成してもよい。
【0236】

一般式(1)中の[SiO1.5]は、ポリオルガノシルセスキオキサン中、シロキサン結合(Si-O-Si)により構成される構造部分を表す。

ポリオルガノシルセスキオキサンとは、加水分解性三官能シラン化合物に由来するシロキサン構成単位を有するネットワーク型ポリマー又は多面体クラスターであり、シロキサン結合によって、ランダム構造、ラダー構造、ケージ構造などを形成し得る。本発明において、[SiO1.5]が表す構造部分は、上記のいずれの構造であってもよいが、ラダー構造を多く含有していることが好ましい。ラダー構造を形成していることにより、ハードコートフィルムの変形回復性を良好に保つことができる。ラダー構造の形成は、FT-IR(Fourier Transform Infrared Spectroscopy)を測定した際、1020-1050cm-1付近に現れるラダー構造に特徴的なSi-O-Si伸縮に由来する吸収の有無によって定性的に確認することができる。
【0237】

一般式(1)中、Rbは、エポキシ基を含有する基を表す。

エポキシ基を含有する基としては、オキシラン環を有する公知の基が挙げられる。

Rbは、下記式(1b)~(4b)で表される基であることが好ましい。
【0238】

【化38】
【0239】

上記式(1b)~(4b)中、**は一般式(1)中のSiとの連結部分を表し、R1b、R2b、R3b及びR4bは、置換又は無置換のアルキレン基を表す。

1b、R2b、R3b及びR4bが表すアルキレン基としては、炭素数1~10の直鎖又は分岐鎖状のアルキレン基が好ましく、例えば、メチレン基、メチルメチレン基、ジメチルメチレン基、エチレン基、i-プロピレン基、n-プロピレン基、n-ブチレン基、n-ペンチレン基、n-ヘキシレン基、n-デシレン基等が挙げられる。

1b、R2b、R3b及びR4bが表すアルキレン基が置換基を有する場合の置換基としては、ヒドロキシル基、カルボキシル基、アルコキシ基、アリール基、ヘテロアリール基、ハロゲン原子、ニトロ基、シアノ基、シリル基等が挙げられる。

1b、R2b、R3b及びR4bとしては、無置換の炭素数1~4の直鎖状のアルキレン基、無置換の炭素数3又は4の分岐鎖状のアルキレン基が好ましく、エチレン基、n-プロピレン基、又はi-プロピレン基がより好ましく、さらに好ましくはエチレン基、又はn-プロピレン基である。
【0240】

ポリオルガノシルセスキオキサン(a1)は、脂環式エポキシ基(エポキシ基と脂環基の縮環構造を有する基)を有することが好ましい。一般式(1)中のRbは、脂環式エポキシ基であることが好ましく、エポキシシクロヘキシル基を有する基であることがより好ましく、上記式(1b)で表される基であることがさらに好ましい。
【0241】

なお、一般式(1)中のRbは、ポリオルガノシルセスキオキサンの原料として使用する加水分解性三官能シラン化合物におけるケイ素原子に結合した基(アルコキシ基及びハロゲン原子以外の基;例えば、後述の式(B)で表される加水分解性シラン化合物におけるRb等)に由来する。
【0242】

以下にRbの具体例を示すが、本発明はこれらに限定されるものではない。下記具体例において、**は一般式(1)中のSiとの連結部分を表す。
【0243】

【化39】
【0244】

一般式(1)中、Rcは1価の基を表す。

Rcが表す1価の基としては、水素原子、置換若しくは無置換のアルキル基、置換若しくは無置換のシクロアルキル基、置換若しくは無置換のアルケニル基、置換若しくは無置換のアリール基、又は置換若しくは無置換のアラルキル基が挙げられる。
【0245】

Rcが表すアルキル基としては、炭素数1~10のアルキル基が挙げられ、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、n-ブチル基、イソプロピル基、イソブチル基、s-ブチル基、t-ブチル基、イソペンチル基等の直鎖又は分岐鎖状のアルキル基が挙げられる。

Rcが表すシクロアルキル基としては、炭素数3~15のシクロアルキル基が挙げられ、例えば、シクロブチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基等が挙げられる。

Rcが表すアルケニル基としては、炭素数2~10のアルケニル基が挙げられ、例えば、ビニル基、アリル基、イソプロペニル基等の直鎖又は分岐鎖状のアルケニル基が挙げられる。

Rcが表すアリール基としては、炭素数6~15のアリール基が挙げられ、例えば、フェニル基、トリル基、ナフチル基等が挙げられる。

Rcが表すアラルキル基としては、炭素数7~20のアラルキル基が挙げられ、例えば、ベンジル基、フェネチル基等が挙げられる。
【0246】

上述の置換アルキル基、置換シクロアルキル基、置換アルケニル基、置換アリール基、置換アラルキル基としては、上述のアルキル基、シクロアルキル基、アルケニル基、アリール基、アラルキル基のそれぞれにおける水素原子又は主鎖骨格の一部若しくは全部が、エーテル基、エステル基、カルボニル基、ハロゲン原子(フッ素原子等)、アクリル基、メタクリル基、メルカプト基、及びヒドロキシ基(水酸基)からなる群より選択された少なくとも1種で置換された基等が挙げられる。
【0247】

Rcは、置換又は無置換のアルキル基が好ましく、無置換の炭素数1~10のアルキル基であることがより好ましい。
【0248】

一般式(1)中に複数のRcがある場合、複数のRcは互いに結合を形成していてもよい。2つ又は3つのRcが互いに結合を形成していることが好ましく、2つのRcが互いに結合を形成していることがより好ましい。
【0249】

2つのRcが互いに結合して形成される基(Rc)としては、上述のRcが表す置換又は無置換のアルキル基が結合して形成されるアルキレン基であることが好ましい。
【0250】

Rcが表すアルキレン基としては、例えば、メチレン基、エチレン基、プロピレン基、イソプロピレン基、n-ブチレン基、イソブチレン基、s-ブチレン基、t-ブチレン基、n-ペンチレン基、イソペンチレン基、s-ペンチレン基、t-ペンチレン基、n-ヘキシレン基、イソヘキシレン基、s-ヘキシレン基、t-ヘキシレン基、n-ヘプチレン基、イソヘプチレン基、s-ヘプチレン基、t-ヘプチレン基、n-オクチレン基、イソオクチレン基、s-オクチレン基、t-オクチレン基等の直鎖又は分岐鎖状のアルキレン基が挙げられる。
【0251】

Rcが表すアルキレン基としては、無置換の炭素数2~20のアルキレン基が好ましく、より好ましくは無置換の炭素数2~20のアルキレン基、さらに好ましくは無置換の炭素数2~8のアルキレン基であり、特に好ましくはn-ブチレン基、n-ペンチレン基、n-ヘキシレン基、n-ヘプチレン基、n-オクチレン基である。
【0252】

3つのRcが互いに結合して形成される基(Rc)としては、上述のRcが表すアルキレン基において、アルキレン基中の任意の水素原子をひとつ減らした3価の基であることが好ましい。
【0253】

なお、一般式(1)中のRcは、ポリオルガノシルセスキオキサンの原料として使用する加水分解性シラン化合物におけるケイ素原子に結合した基(アルコキシ基及びハロゲン原子以外の基;例えば、後述の式(C1)~(C3)で表される加水分解性シラン化合物におけるRc~Rc等)に由来する。
【0254】

一般式(1)中、qは0超であり、rは0以上である。

q/(q+r)は0.5~1.0であることが好ましい。ポリオルガノシルセスキオキサン(a1)に含まれるRb又はRcで表される基全量に対して、Rbで表される基を半数以上とすることで、有機架橋基が作るネットワークが十分に形成されるため、硬度、繰り返し折り曲げ耐性の各性能を良好に保つことができる。

q/(q+r)は0.7~1.0であることがより好ましく、0.9~1.0がさらに好ましく、0.95~1.0であることが特に好ましい。
【0255】

一般式(1)中、複数のRcがあり、複数のRcが互いに結合を形成していることも好ましい。この場合、r/(q+r)が0.005~0.20であることが好ましい。

r/(q+r)は0.005~0.10がより好ましく、0.005~0.05がさらに好ましく、0.005~0.025であることが特に好ましい。
【0256】

ポリオルガノシルセスキオキサン(a1)のゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)による標準ポリスチレン換算の数平均分子量(Mn)は、好ましくは500~6000であり、より好ましくは1000~4500であり、更に好ましくは1500~3000である。
【0257】

ポリオルガノシルセスキオキサン(a1)のGPCによる標準ポリスチレン換算の分子量分散度(Mw/Mn)は、例えば1.0~4.0であり、好ましくは1.1~3.7であり、より好ましくは1.2~3.0であり、さらに好ましくは1.3~2.5である。なお、Mnは数平均分子量を表す。
【0258】

ポリオルガノシルセスキオキサン(a1)の重量平均分子量、分子量分散度は、下記の装置及び条件により測定した。

測定装置:商品名「LC-20AD」((株)島津製作所製)

カラム:Shodex KF-801×2本、KF-802、及びKF-803(昭和電工(株)製)

測定温度:40℃

溶離液:テトラヒドロフラン(THF)、試料濃度0.1~0.2質量%

流量:1mL/分

検出器:UV-VIS検出器(商品名「SPD-20A」、(株)島津製作所製)

分子量:標準ポリスチレン換算
【0259】

<ポリオルガノシルセスキオキサン(a1)の製造方法>

ポリオルガノシルセスキオキサン(a1)は、公知の製造方法により製造することができ、特に限定されないが、1種又は2種以上の加水分解性シラン化合物を加水分解及び縮合させる方法により製造できる。上記加水分解性シラン化合物としては、エポキシ基を含有するシロキサン構成単位を形成するための加水分解性三官能シラン化合物(下記式(B)で表される化合物)を加水分解性シラン化合物として使用することが好ましい。

一般式(1)中のrが0超である場合には、加水分解性シラン化合物として、下記式(C1)、(C2)又は(C3)で表される化合物を併用することが好ましい。
【0260】

【化40】
【0261】

式(B)中のRbは、上記一般式(1)中のRbと同義であり、好ましい例も同様である。
【0262】

式(B)中のXは、アルコキシ基又はハロゲン原子を示す。

におけるアルコキシ基としては、例えば、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、イソプロピルオキシ基、ブトキシ基、イソブチルオキシ基等の炭素数1~4のアルコキシ基等が挙げられる。

におけるハロゲン原子としては、例えば、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子等が挙げられる。

としては、アルコキシ基が好ましく、メトキシ基、エトキシ基がより好ましい。なお、3つのXは、それぞれ同一であっても、異なっていてもよい。
【0263】

上記式(B)で表される化合物は、Rbを有するシロキサン構成単位を形成する化合物である。
【0264】

【化41】
【0265】

【化42】
【0266】

【化43】
【0267】

式(C1)中のRcは、上記一般式(1)中のRcと同義であり、好ましい例も同様である。

式(C2)中のRcは、上記一般式(1)中の2つのRcが互いに結合することにより形成される基(Rc)と同義であり、好ましい例も同様である。

式(C3)中のRcは、上記一般式(1)中の3つのRcが互いに結合することにより形成される基(Rc)と同義であり、好ましい例も同様である。
【0268】

上記式(C1)~(C3)中のXは、上記式(B)中のXと同義であり、好ましい例も同様である。複数のXは、それぞれ同一であっても、異なっていてもよい。
【0269】

上記加水分解性シラン化合物としては、上記式(B)、(C1)~(C3)で表される化合物以外の加水分解性シラン化合物を併用してもよい。例えば、上記式(B)、(C1)~(C3)で表される化合物以外の加水分解性三官能シラン化合物、加水分解性単官能シラン化合物、加水分解性二官能シラン化合物等が挙げられる。
【0270】

Rcが上記式(C1)~(C3)で表される加水分解性シラン化合物におけるRc~Rcに由来する場合、一般式(1)中のq/(q+r)を調整するには、上記式(B)、(C1)~(C3)で表される化合物の配合比(モル比)を調整すれはよい。

具体的には、例えば、q/(q+r)を0.5~1.0とするには、下記(Z2)で表される値を0.5~1.0とし、これらの化合物を加水分解及び縮合させる方法により製造すればよい。

(Z2)=式(B)で表される化合物(モル量)/{式(B)で表される化合物(モル量)+式(C1)で表される化合物(モル量)+式(C2)で表される化合物(モル量)×2+式(C3)で表される化合物(モル量)×3}
【0271】

上記加水分解性シラン化合物の使用量及び組成は、所望するポリオルガノシルセスキオキサン(a1)の構造に応じて適宜調整できる。
【0272】

また、上記加水分解性シラン化合物の加水分解及び縮合反応は、同時に行うことも、逐次行うこともできる。上記反応を逐次行う場合、反応を行う順序は特に限定されない。
【0273】

上記加水分解性シラン化合物の加水分解及び縮合反応は、溶媒の存在下で行うことも、非存在下で行うこともでき、溶媒の存在下で行うことが好ましい。

上記溶媒としては、例えば、ベンゼン、トルエン、キシレン、エチルベンゼン等の芳香族炭化水素;ジエチルエーテル、ジメトキシエタン、テトラヒドロフラン、ジオキサン等のエーテル;アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン等のケトン;酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸イソプロピル、酢酸ブチル等のエステル;N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド等のアミド;アセトニトリル、プロピオニトリル、ベンゾニトリル等のニトリル;メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、ブタノール等のアルコール等が挙げられる。

上記溶媒としては、ケトン又はエーテルが好ましい。なお、溶媒は1種を単独で使用することも、2種以上を組み合わせて使用することもできる。
【0274】

溶媒の使用量は、特に限定されず、加水分解性シラン化合物の全量100質量部に対して、0~2000質量部の範囲内で、所望の反応時間等に応じて、適宜調整することができる。
【0275】

上記加水分解性シラン化合物の加水分解及び縮合反応は、触媒及び水の存在下で進行させることが好ましい。上記触媒は、酸触媒であってもアルカリ触媒であってもよい。

上記酸触媒としては、例えば、塩酸、硫酸、硝酸、リン酸、ホウ酸等の鉱酸;リン酸エステル;酢酸、蟻酸、トリフルオロ酢酸等のカルボン酸;メタンスルホン酸、トリフルオロメタンスルホン酸、p-トルエンスルホン酸等のスルホン酸;活性白土等の固体酸;塩化鉄等のルイス酸等が挙げられる。

上記アルカリ触媒としては、例えば、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化セシウム等のアルカリ金属の水酸化物;水酸化マグネシウム、水酸化カルシウム、水酸化バリウム等のアルカリ土類金属の水酸化物;炭酸リチウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸セシウム等のアルカリ金属の炭酸塩;炭酸マグネシウム等のアルカリ土類金属の炭酸塩;炭酸水素リチウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウム、炭酸水素セシウム等のアルカリ金属の炭酸水素塩;酢酸リチウム、酢酸ナトリウム、酢酸カリウム、酢酸セシウム等のアルカリ金属の有機酸塩(例えば、酢酸塩);酢酸マグネシウム等のアルカリ土類金属の有機酸塩(例えば、酢酸塩);リチウムメトキシド、ナトリウムメトキシド、ナトリウムエトキシド、ナトリウムイソプロポキシド、カリウムエトキシド、カリウムt-ブトキシド等のアルカリ金属のアルコキシド;ナトリウムフェノキシド等のアルカリ金属のフェノキシド;トリエチルアミン、N-メチルピペリジン、1,8-ジアザビシクロ[5.4.0]ウンデカ-7-エン、1,5-ジアザビシクロ[4.3.0]ノナ-5-エン等のアミン類(第3級アミン等);ピリジン、2,2'-ビピリジル、1,10-フェナントロリン等の含窒素芳香族複素環化合物等が挙げられる。

なお、触媒は1種を単独で使用することもできるし、2種以上を組み合わせて使用することもできる。また、触媒は、水又は溶媒等に溶解又は分散させた状態で使用することもできる。
【0276】

上記触媒の使用量は、特に限定されず、加水分解性シラン化合物の全量1モルに対して、0.002~0.200モルの範囲内で、適宜調整することができる。
【0277】

上記加水分解及び縮合反応に際しての水の使用量は、特に限定されず、加水分解性シラン化合物の全量1モルに対して、0.5~20モルの範囲内で、適宜調整することができる。
【0278】

上記水の添加方法は、特に限定されず、使用する水の全量(全使用量)を一括で添加しても、逐次的に添加してもよい。逐次的に添加する際には、連続的に添加しても、間欠的に添加してもよい。
【0279】

上記加水分解性シラン化合物の加水分解及び縮合反応を行う際の反応条件としては、特に、ポリオルガノシルセスキオキサン(a1)の縮合率が80%以上となるような反応条件を選択することが重要である。上記加水分解及び縮合反応の反応温度は、例えば40~100℃であり、好ましくは45~80℃である。反応温度を上記範囲に制御することにより、上記縮合率を80%以上に制御できる傾向がある。また、上記加水分解及び縮合反応の反応時間は、例えば0.1~10時間であり、好ましくは1.5~8時間である。また、上記加水分解及び縮合反応は、常圧下で行うこともできるし、加圧下又は減圧下で行うこともできる。なお、上記加水分解及び縮合反応を行う際の雰囲気は、例えば、窒素雰囲気、アルゴン雰囲気等の不活性ガス雰囲気下、空気下等の酸素存在下等のいずれであってもよいが、不活性ガス雰囲気下が好ましい。
【0280】

上記加水分解性シラン化合物の加水分解及び縮合反応により、ポリオルガノシルセスキオキサン(a1)が得られる。上記加水分解及び縮合反応の終了後には、エポキシ基の開環を抑制するために触媒を中和することが好ましい。また、ポリオルガノシルセスキオキサン(a1)を、例えば、水洗、酸洗浄、アルカリ洗浄、濾過、濃縮、蒸留、抽出、晶析、再結晶、カラムクロマトグラフィー等の分離手段や、これらを組み合わせた分離手段等により分離精製してもよい。
【0281】

本発明のハードコートフィルムのハードコート層において、ポリオルガノシルセスキオキサン(a1)の縮合率としては、80%以上であることがフィルムの硬度の観点から好ましい。縮合率は、90%以上がより好ましく、95%以上であることがさらに好ましい。

上記縮合率は、ポリオルガノシルセスキオキサン(a1)の硬化物を含むハードコート層を有するハードコートフィルム試料について29Si NMR(nuclear magnetic resonance)スペクトル測定を行い、その測定結果を用いて算出することが可能である。
【0282】

エポキシ基を有するポリオルガノシルセスキオキサン(a1)の硬化物は、エポキシ基が重合反応により開環していることが好ましい。

本発明のハードコートフィルムのハードコート層において、ポリオルガノシルセスキオキサン(a1)の硬化物のエポキシ基の開環率としては、40%以上であることがフィルムの硬度の観点から好ましい。開環率は、50%以上がより好ましく、60%以上であることがさらに好ましい。

上記開環率は、ポリオルガノシルセスキオキサン(a1)を含むハードコート層形成用組成物を完全硬化及び熱処理する前後の試料についてFT-IR(Fourier Transform Infrared Spectroscopy)一回反射ATR(Attenuated Total Reflection)測定を行い、エポキシ基に由来するピーク高さの変化から、算出することが可能である。
【0283】

ポリオルガノシルセスキオキサン(a1)は一種のみ用いてもよく、構造の異なる二種以上を併用してもよい。
【0284】

ポリオルガノシルセスキオキサン(a1)の硬化物の含有率は、ハードコート層の全質量に対して50質量%以上であることが好ましく、70質量%以上がより好ましく、80質量%以上が更に好ましい。
【0285】

ハードコート層形成用組成物中、本発明の重合体は一種のみ用いてもよく、構造の異なる二種以上を併用してもよい。
【0286】

ハードコート層形成用組成物中の本発明の重合体の含有率は、塗布量や重合体の表面面状を良化させる効果によって適宜調整することができるが、全固形分に対して0.001質量%以上20質量%以下であることが好ましく、0.005質量%以上10質量%以下がより好ましく、0.01質量%以上1質量%以下が更に好ましい。固形分とは、溶剤以外の成分をいう。
【0287】

(その他添加剤)

ハードコート層は、上記以外の成分を含有していてもよく、たとえば、分散剤、防汚剤、帯電防止剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤等を含有していてもよい。

なお、ハードコート層は、(メタ)アクリロイル基を有する化合物の硬化物を含有してもよいし、含有しなくてもよい。ハードコート層は、(メタ)アクリロイル基を有する化合物の硬化物を含有しないか、又は(メタ)アクリロイル基を有する化合物の硬化物の含有率が、重合性基を有するポリオルガノシルセスキオキサン(A)と(メタ)アクリレート化合物の硬化物の総量に対して、10質量%未満であることが好ましい。ハードコート層中の(メタ)アクリレート化合物の硬化物の含有率を10質量%未満にすることで、ハードコートフィルムの変形回復性が向上し、その結果、硬度が高くなる。

また、帯電防止剤の種類は特に限定されず、イオン伝導性または電子伝導性の帯電防止剤を好ましく用いることができる。電子伝導性の帯電防止剤の具体例としては、ポリチオフェン導電性高分子を用いたセプルジーダ(信越ポリマー(株)製)等を好ましく用いることができる。
【0288】

(膜厚)

ハードコート層の膜厚は特に限定されないが、1~100μmであることが好ましく、5~50μmであることがより好ましく、10~20μmであることが更に好ましい。

ハードコート層の厚みは、ハードコートフィルムの断面を光学顕微鏡で観察して算出する。断面試料は、断面切削装置ウルトラミクロトームを用いたミクロトーム法や、集束イオンビーム(FIB)装置を用いた断面加工法などにより作成できる。
【0289】

<混合層>

本発明のハードコートフィルムは、ハードコート層の基材側とは反対側の面に、混合層を有することが好ましい態様として挙げられる。混合層は、エポキシ基を有する化合物(b1)の硬化物と、1分子中に2個以上の(メタ)アクリロイル基を有する化合物(b2)の硬化物とを含有することが好ましい。

エポキシ基を有する化合物(b1)の硬化物及び1分子中に2個以上の(メタ)アクリロイル基を有する化合物(b2)の硬化物は、エポキシ基を有する化合物(b1)及び1分子中に2個以上の(メタ)アクリロイル基を有する化合物(b2)を含有する硬化性組成物を加熱及び/又は電離放射線の照射により硬化させてなるものであることが好ましい。
【0290】

(エポキシ基を有する化合物(b1))

エポキシ基を有する化合物(b1)(「エポキシ化合物(b1)」ともいう)としては、分子内に1以上のエポキシ基(オキシラン環)を有する化合物を使用することができ、特に限定されないが、脂環を含むエポキシ化合物、芳香族エポキシ化合物、脂肪族エポキシ化合物、上述のハードコート層の形成に用いるエポキシ基を有するポリオルガノシルセスキオキサン(a1)等が挙げられる。
【0291】

脂環を含むエポキシ化合物としては、分子内に1個以上の脂環と1個以上のエポキシ基とを有する公知の化合物が挙げられ、特に限定されないが、

(1)脂環式エポキシ基を有する化合物;

(2)脂環にエポキシ基が直接単結合で結合している化合物;

(3)分子内に脂環及びグリシジルエーテル基を有する化合物(グリシジルエーテル型エポキシ化合物)等が挙げられる。
【0292】

上記(1)脂環式エポキシ基を有する化合物としては、下記式(i)で表される化合物が挙げられる。
【0293】

【化44】
【0294】

上記式(i)中、Yは単結合又は連結基(1以上の原子を有する二価の基)を示す。上記連結基としては、例えば、二価の炭化水素基、炭素-炭素二重結合の一部又は全部がエポキシ化されたアルケニレン基、カルボニル基、エーテル結合、エステル結合、カーボネート基、アミド基、及びこれらが複数個連結した基等が挙げられる。
【0295】

上記二価の炭化水素基としては、置換又は無置換の炭素数が1~18の直鎖又は分岐鎖状のアルキレン基、二価の置換又は無置換の脂環式炭化水素基等が挙げられる。炭素数が1~18のアルキレン基としては、例えば、メチレン基、メチルメチレン基、ジメチルメチレン基、エチレン基、i-プロピレン基、n-プロピレン基等が挙げられる。上記二価の脂環式炭化水素基としては、例えば、1,2-シクロペンチレン基、1,3-シクロペンチレン基、シクロペンチリデン基、1,2-シクロヘキシレン基、1,3-シクロヘキシレン基、1,4-シクロヘキシレン基、シクロヘキシリデン基等の二価のシクロアルキレン基(シクロアルキリデン基を含む)等が挙げられる。
【0296】

上記炭素-炭素二重結合の一部又は全部がエポキシ化されたアルケニレン基(「エポキシ化アルケニレン基」と称する場合がある)におけるアルケニレン基としては、例えば、ビニレン基、プロペニレン基、1-ブテニレン基、2-ブテニレン基、ブタジエニレン基、ペンテニレン基、ヘキセニレン基、ヘプテニレン基、オクテニレン基等の炭素数2~8の直鎖又は分岐鎖状のアルケニレン基等が挙げられる。特に、上記エポキシ化アルケニレン基としては、炭素-炭素二重結合の全部がエポキシ化されたアルケニレン基が好ましく、より好ましくは炭素-炭素二重結合の全部がエポキシ化された炭素数2~4のアルケニレン基である。
【0297】

上記式(i)で表される脂環式エポキシ化合物の代表的な例としては、3,4,3’,4’-ジエポキシビシクロヘキサン、下記式(i-1)~(i-10)で表される化合物等が挙げられる。なお、下記式(i-5)、(i-7)中のl、mは、それぞれ1~30の整数を表す。下記式(i-5)中のR’は炭素数1~8のアルキレン基であり、なかでも、メチレン基、エチレン基、n-プロピレン基、i-プロピレン基等の炭素数1~3の直鎖又は分岐鎖状のアルキレン基が好ましい。下記式(i-9)、(i-10)中のn1~n6は、それぞれ1~30の整数を示す。また、上記式(i)で表される脂環式エポキシ化合物としては、その他、例えば、2,2-ビス(3,4-エポキシシクロヘキシル)プロパン、1,2-ビス(3,4-エポキシシクロヘキシル)エタン、2,3-ビス(3,4-エポキシシクロヘキシル)オキシラン、ビス(3,4-エポキシシクロヘキシルメチル)エーテル等が挙げられる。
【0298】

【化45】
【0299】

【化46】
【0300】

上述の(2)脂環にエポキシ基が直接単結合で結合している化合物としては、例えば、下記式(ii)で表される化合物等が挙げられる。
【0301】

【化47】
【0302】

式(ii)中、R”は、p価のアルコールの構造式からp個の水酸基(-OH)を除いた基(p価の有機基)であり、p、nはそれぞれ自然数を表す。p価のアルコール[R”(OH)p]としては、2,2-ビス(ヒドロキシメチル)-1-ブタノール等の多価アルコール(炭素数1~15のアルコール等)等が挙げられる。pは1~6が好ましく、nは1~30が好ましい。pが2以上の場合、それぞれの( )内(外側の括弧内)の基におけるnは同一でもよく異なっていてもよい。上記式(ii)で表される化合物としては、具体的には、2,2-ビス(ヒドロキシメチル)-1-ブタノールの1,2-エポキシ-4-(2-オキシラニル)シクロヘキサン付加物[例えば、商品名「EHPE3150」((株)ダイセル製)等]等が挙げられる。
【0303】

上述の(3)分子内に脂環及びグリシジルエーテル基を有する化合物としては、例えば、脂環式アルコール(特に、脂環式多価アルコール)のグリシジルエーテルが挙げられる。より詳しくは、例えば、2,2-ビス[4-(2,3-エポキシプロポキシ)シクロへキシル]プロパン、2,2-ビス[3,5-ジメチル-4-(2,3-エポキシプロポキシ)シクロへキシル]プロパンなどのビスフェノールA型エポキシ化合物を水素化した化合物(水素化ビスフェノールA型エポキシ化合物);ビス[o,o-(2,3-エポキシプロポキシ)シクロへキシル]メタン、ビス[o,p-(2,3-エポキシプロポキシ)シクロへキシル]メタン、ビス[p,p-(2,3-エポキシプロポキシ)シクロへキシル]メタン、ビス[3,5-ジメチル-4-(2,3-エポキシプロポキシ)シクロへキシル]メタンなどのビスフェノールF型エポキシ化合物を水素化した化合物(水素化ビスフェノールF型エポキシ化合物);水素化ビフェノール型エポキシ化合物;水素化フェノールノボラック型エポキシ化合物;水素化クレゾールノボラック型エポキシ化合物;ビスフェノールAの水素化クレゾールノボラック型エポキシ化合物;水素化ナフタレン型エポキシ化合物;トリスフェノールメタンから得られるエポキシ化合物の水素化エポキシ化合物;下記芳香族エポキシ化合物の水素化エポキシ化合物等が挙げられる。
【0304】

上記芳香族エポキシ化合物としては、例えば、ビスフェノール類[例えば、ビスフェノールA、ビスフェノールF、ビスフェノールS、フルオレンビスフェノール等]と、エピハロヒドリンとの縮合反応により得られるエピビスタイプグリシジルエーテル型エポキシ樹脂;これらのエピビスタイプグリシジルエーテル型エポキシ樹脂を上記ビスフェノール類とさらに付加反応させることにより得られる高分子量エピビスタイプグリシジルエーテル型エポキシ樹脂;フェノール類[例えば、フェノール、クレゾール、キシレノール、レゾルシン、カテコール、ビスフェノールA、ビスフェノールF、ビスフェノールS等]とアルデヒド[例えば、ホルムアルデヒド、アセトアルデヒド、ベンズアルデヒド、ヒドロキシベンズアルデヒド、サリチルアルデヒド等]とを縮合反応させて得られる多価アルコール類を、さらにエピハロヒドリンと縮合反応させることにより得られるノボラック・アルキルタイプグリシジルエーテル型エポキシ樹脂;フルオレン環の9位に2つのフェノール骨格が結合し、かつこれらフェノール骨格のヒドロキシ基から水素原子を除いた酸素原子に、それぞれ、直接又はアルキレンオキシ基を介してグリシジル基が結合しているエポキシ化合物等が挙げられる。
【0305】

上記脂肪族エポキシ化合物としては、例えば、s価の環状構造を有しないアルコール(sは自然数である)のグリシジルエーテル;一価又は多価カルボン酸[例えば、酢酸、プロピオン酸、酪酸、ステアリン酸、アジピン酸、セバシン酸、マレイン酸、イタコン酸等]のグリシジルエステル;エポキシ化亜麻仁油、エポキシ化大豆油、エポキシ化ひまし油等の二重結合を有する油脂のエポキシ化物;エポキシ化ポリブタジエン等のポリオレフィン(ポリアルカジエンを含む)のエポキシ化物等が挙げられる。なお、上記s価の環状構造を有しないアルコールとしては、例えば、メタノール、エタノール、1-プロピルアルコール、イソプロピルアルコール、1-ブタノール等の一価のアルコール;エチレングリコール、1,2-プロパンジオール、1,3-プロパンジオール、1,4-ブタンジオール、ネオペンチルグリコール、1,6-ヘキサンジオール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、ジプロピレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール等の二価のアルコール;グリセリン、ジグリセリン、エリスリトール、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール、ジペンタエリスリトール、ソルビトール等の三価以上の多価アルコール等が挙げられる。また、s価のアルコールは、ポリエーテルポリオール、ポリエステルポリオール、ポリカーボネートポリオール、ポリオレフィンポリオール等であってもよい。
【0306】

エポキシ化合物(b1)は、エポキシ基を有するポリオルガノシルセスキオキサンであることが好ましく、好ましい範囲としては前述のハードコート層のエポキシ基を有するポリオルガノシルセスキオキサン(a1)と同様である。
【0307】

エポキシ化合物(b1)は一種のみ用いてもよく、構造の異なる二種以上を併用してもよい。
【0308】

エポキシ化合物(b1)の硬化物の含有率は、混合層の全質量に対して10質量%以上90質量%以下であることが好ましく、20質量%以上80質量%以下がより好ましく、25質量%以上75質量%以下が更に好ましい。
【0309】

(1分子中に2個以上の(メタ)アクリロイル基を有する化合物(b2))

1分子中に2個以上の(メタ)アクリロイル基を有する化合物(b2)(「多官能(メタ)アクリレート化合物(b2)」ともいう)は、1分子中に3個以上の(メタ)アクリロイル基を有する化合物であることが好ましい。

多官能(メタ)アクリレート化合物(b2)は、架橋性モノマーであっても、架橋性オリゴマーであっても、架橋性ポリマーであってもよい。
【0310】

多官能(メタ)アクリレート化合物(b2)としては、多価アルコールと(メタ)アクリル酸とのエステルが挙げられる。具体的には、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート,ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、トリメチロールエタントリ(メタ)アクリレート、ジトリメチロールプロパンテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールペンタアクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート,ペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレートなどが挙げられるが、高架橋という点ではペンタエリスリトールトリアクリレート、ペンタエリスリトールテトラアクリレート、もしくはジペンタエリスリトールペンタアクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート、又はこれらの混合物が好ましい。
【0311】

多官能(メタ)アクリレート化合物(b2)は一種のみ用いてもよく、構造の異なる二種以上を併用してもよい。
【0312】

混合層における多官能(メタ)アクリレート化合物(b2)の硬化物の含有率は、エポキシ化合物(b1)の硬化物と多官能(メタ)アクリレート化合物(b2)の硬化物の総量に対して10質量%以上であることが好ましい。混合層における多官能(メタ)アクリレート化合物(b2)の硬化物の含有率を上記範囲とすることで、ハードコートフィルムの耐擦傷性を向上させることができる。

混合層における多官能(メタ)アクリレート化合物(b2)の硬化物の含有率は、エポキシ化合物(b1)の硬化物と多官能(メタ)アクリレート化合物(b2)の硬化物の総量に対して、10質量%~90質量%が好ましく、20質量%~80質量%がより好ましい。
【0313】

(その他添加剤)

混合層は、上記以外の成分を含有していてもよく、たとえば、分散剤、レベリング剤、防汚剤、帯電防止剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、他の重合性化合物の硬化物等を含有していてもよい。

帯電防止剤の種類は特に限定されず、イオン伝導性または電子伝導性の帯電防止剤を好ましく用いることができる。電子伝導性の帯電防止剤の具体例としては、ポリチオフェン導電性高分子を用いたセプルジーダ(信越ポリマー(株)製)等を好ましく用いることができる。

レベリング剤としては、汎用のレベリング剤が使用できるが、本発明の改質剤を用いることも好ましい。

他の重合性化合物の硬化物としては、例えば1分子中にエポキシ基と(メタ)アクリロイル基とを有する化合物の硬化物などが挙げられる。具体的な化合物としては、ダイセル製サイクロマーM100、共栄社化学社製の商品名ライトエステルG、日本化成製の4HBAGE、昭和高分子製の商品名SPシリーズ、例えばSP-1506、500、SP-1507、480、VRシリーズ、例えばVR-77、新中村化学工業製の商品名EA-1010/ECA、EA-11020、EA-1025、EA-6310/ECA等の硬化物が挙げられる。
【0314】

(膜厚)

混合層の膜厚は0.05μm~10μmであることが好ましい。0.05μm以上とすることによって、フィルムの耐擦傷性が良化し、10μm以下とすることで、硬度及び繰り返し折り曲げ耐性が良好となる。

混合層の膜厚は0.1μm~5μmがより好ましく、0.1μm~3μmがさらに好ましい。

本発明のハードコートフィルムが後述の耐擦傷層をさらに有する場合においては、混合層と耐擦傷層の合計の厚みが上記範囲となることが好ましい。
【0315】

本発明のハードコートフィルムにおいて、ハードコート層と混合層とは、共有結合で結合されていることが好ましい。特に好ましい態様としては、ハードコート層中のポリオルガノシルセスキオキサン(a1)のエポキシ基と、混合層中のエポキシ化合物(b1)のエポキシ基とが両層の界面において結合を形成することで、密着性の高い積層構造となり、より高い耐擦傷性を発揮することが可能となる。
【0316】

<その他の層>

本発明のハードコートフィルムは、ハードコート層及び混合層に加えて、更にその他の層を有してもよい。例えば、基材の両面にハードコート層を有する態様、基材とハードコート層との間に密着性を向上させるための易接着層を有する態様、帯電防止性を付与するための帯電防止層を有する態様、混合層の上に、防汚性を付与するための防汚層や耐擦傷性を付与するための耐擦傷層を有する態様などが好ましく挙げられ、これらを複数備えていても良い。

本発明のハードコートフィルムは、混合層のハードコート層とは反対側の面に、耐擦傷層を有することが好ましく、これにより耐擦傷性をより向上することができる。
【0317】

(耐擦傷層)

耐擦傷層は、1分子中に2個以上の(メタ)アクリロイル基を有する化合物(c1)(「多官能(メタ)アクリレート化合物(c1)」ともいう)の硬化物を含むことが好ましい。

多官能(メタ)アクリレート化合物(c1)は、前述の多官能(メタ)アクリレート化合物(b2)と同様であり、好ましい範囲も同様である。
【0318】

多官能(メタ)アクリレート化合物(c1)は一種のみ用いてもよく、構造の異なる二種以上を併用してもよい。
【0319】

多官能(メタ)アクリレート化合物(c1)の硬化物の含有率は、耐擦傷層の全質量に対して80質量%以上であることが好ましく、85質量%以上がより好ましく、90質量%以上が更に好ましい。
【0320】

(その他添加剤)

耐擦傷層は、上記以外の成分を含有していてもよく、たとえば、無機粒子、レベリング剤、防汚剤、帯電防止剤、滑り剤、酸化防止剤等を含有していてもよい。

特に、滑り剤として下記の含フッ素化合物を含有することが好ましい。

また、帯電防止剤の種類は特に限定されず、イオン伝導性または電子伝導性の帯電防止剤を好ましく用いることができる。電子伝導性の帯電防止剤の具体例としては、ポリチオフェン導電性高分子を用いたセプルジーダ(信越ポリマー(株)製)等を好ましく用いることができる。
【0321】

[含フッ素化合物]

含フッ素化合物は、モノマー、オリゴマー、ポリマーいずれでもよい。含フッ素化合物は、耐擦傷層中で多官能(メタ)アクリレート化合物(c1)との結合形成あるいは相溶性に寄与する置換基を有していることが好ましい。この置換基は同一であっても異なっていてもよく、複数個あることが好ましい。

この置換基は重合性基が好ましく、ラジカル重合性、カチオン重合性、アニオン重合性、縮重合性及び付加重合性のうちいずれかを示す重合性反応基であればよく、好ましい置換基の例としては、アクリロイル基、メタクリロイル基、ビニル基、アリル基、シンナモイル基、エポキシ基、オキセタニル基、水酸基、ポリオキシアルキレン基、カルボキシル基、アミノ基が挙げられる。その中でもラジカル重合性基が好ましく、中でもアクリロイル基、メタクリロイル基が特に好ましい。

含フッ素化合物はフッ素原子を含まない化合物とのポリマーであってもオリゴマーであってもよい。
【0322】

上記含フッ素化合物は、下記一般式(F)で表されるフッ素系化合物が好ましい。

一般式(F): (R)-[(W)-(Rnfmf

(式中、Rは(パー)フルオロアルキル基又は(パー)フルオロポリエーテル基、Wは単結合又は連結基、Rは重合性不飽和基を表す。nfは1~3の整数を表す。mfは1~3の整数を表す。)
【0323】

一般式(F)において、Rは重合性不飽和基を表す。重合性不飽和基は、紫外線や電子線などの活性エネルギー線を照射することによりラジカル重合反応を起こしうる不飽和結合を有する基(すなわち、ラジカル重合性基)であることが好ましく、(メタ)アクリロイル基、(メタ)アクリロイルオキシ基、ビニル基、アリル基などが挙げられ、(メタ)アクリロイル基、(メタ)アクリロイルオキシ基、及びこれらの基における任意の水素原子がフッ素原子に置換された基が好ましく用いられる。
【0324】

一般式(F)において、Rは(パー)フルオロアルキル基又は(パー)フルオロポリエーテル基を表す。

ここで、(パー)フルオロアルキル基は、フルオロアルキル基及びパーフルオロアルキル基のうち少なくとも1種を表し、(パー)フルオロポリエーテル基は、フルオロポリエーテル基及びパーフルオロポリエーテル基のうち少なくとも1種を表す。耐擦傷性の観点では、R中のフッ素含有率は高いほうが好ましい。
【0325】

(パー)フルオロアルキル基は、炭素数1~20の基が好ましく、より好ましくは炭素数1~10の基である。

(パー)フルオロアルキル基は、直鎖構造(例えば-CFCF、-CH(CFH、-CH(CFCF、-CHCH(CFH)であっても、分岐構造(例えば-CH(CF、-CHCF(CF、-CH(CH)CFCF、-CH(CH)(CFCFH)であっても、脂環式構造(好ましくは5員環又は6員環で、例えばパーフルオロシクロへキシル基及びパーフルオロシクロペンチル基並びにこれらの基で置換されたアルキル基)であってもよい。
【0326】

(パー)フルオロポリエーテル基は、(パー)フルオロアルキル基がエーテル結合を有している場合を指し、1価でも2価以上の基であってもよい。フルオロポリエーテル基としては、例えば-CHOCHCFCF、-CHCHOCHH、-CHCHOCHCH17、-CHCHOCFCFOCFCFH、フッ素原子を4個以上有する炭素数4~20のフルオロシクロアルキル基等が挙げられる。また、パーフルオロポリエーテル基としては、例えば、-(CFO)pf-(CFCFO)qf-、-[CF(CF)CFO]pf―[CF(CF)]qf-、-(CFCFCFO)pf-、-(CFCFO)pf-などが挙げられる。

上記pf及びqfはそれぞれ独立に0~20の整数を表す。ただしpf+qfは1以上の整数である。

pf及びqfの総計は1~83が好ましく、1~43がより好ましく、5~23がさらに好ましい。

上記含フッ素化合物は、耐擦傷性に優れるという観点から-(CFO)pf-(CFCFO)qf-で表されるパーフルオロポリエーテル基を有することが特に好ましい。
【0327】

本発明においては、含フッ素化合物は、パーフルオロポリエーテル基を有し、かつ重合性不飽和基を一分子中に複数有することが好ましい。
【0328】

一般式(F)において、Wは連結基を表す。Wとしては、例えばアルキレン基、アリーレン基及びヘテロアルキレン基、並びにこれらの基が組み合わさった連結基が挙げられる。これらの連結基は、更に、オキシ基、カルボニル基、カルボニルオキシ基、カルボニルイミノ基及びスルホンアミド基等、並びにこれらの基が組み合わさった官能基を有してもよい。

Wとして、好ましくは、エチレン基、より好ましくは、カルボニルイミノ基と結合したエチレン基である。
【0329】

含フッ素化合物のフッ素原子含有量には特に制限は無いが、20質量%以上が好ましく、30~70質量%がより好ましく、40~70質量%がさらに好ましい。
【0330】

好ましい含フッ素化合物の例としては、ダイキン化学工業(株)製のR-2020、M-2020、R-3833、M-3833及びオプツールDAC(以上商品名)、DIC社製のメガファックF-171、F-172、F-179A、RS-78、RS-90、ディフェンサMCF-300及びMCF-323(以上商品名)が挙げられるがこれらに限定されるものではない。
【0331】

耐擦傷性の観点から、一般式(F)において、nfとmfの積(nf×mf)は2以上が好ましく、4以上がより好ましい。
【0332】

(含フッ素化合物の分子量)

重合性不飽和基を有する含フッ素化合物の重量平均分子量(Mw)は、分子排斥クロマトグラフィー、例えばゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)を用いて測定できる。

本発明で用いられる含フッ素化合物のMwは400以上50000未満が好ましく、400以上30000未満がより好ましく、400以上25000未満が更に好ましい。
【0333】

(含フッ素化合物の添加量)

含フッ素化合物の添加量は、耐擦傷層の全質量に対して、0.01~5質量%が好ましく、0.1~5質量%がより好ましく、0.5~5質量%が更に好ましく、0.5~2質量%が特に好ましい。
【0334】

耐擦傷層の膜厚は、0.1μm~4μmが好ましく、0.1μm~2μmがさらに好ましく、0.1μm~1μmが特に好ましい。

また、上述の混合層と耐擦傷層の合計の厚みが0.1μm~10μmであることが好ましい。
【0335】

〔ハードコートフィルムの製造方法〕

本発明のハードコートフィルムの製造方法は、特に制限されるものではない。

例えば、ハードコートフィルムが基材上にハードコート層を有するハードコートフィルムである場合には、基材上にハードコート層形成用組成物を塗布後、ハードコート層を全硬化する方法が挙げられる。

ハードコートフィルムが基材、ハードコート層、及び混合層をこの順に有するハードコートフィルムである場合の好ましい態様の一つとして、基材上にハードコート層形成用組成物を塗布及び半硬化し、半硬化したハードコート層上に混合層形成用組成物を塗布後、各層を全硬化する方法(態様A)が挙げられる。態様Aにおいて、本発明のハードコートフィルムがさらに耐擦傷層を有する場合は、混合層形成用組成物を塗布後、半硬化し、半硬化した混合層上に耐擦傷層形成用組成物を塗布後、各層を全硬化することが好ましい。

別の好ましい態様としては、ハードコートフィルム中の混合層を形成するための手段として、基材上に未硬化または半硬化状態のハードコート層と耐擦傷層とを積層させ、両者の界面における界面混合により混合層を形成した後、各層を全硬化する方法を取り入れた態様が挙げられる。例えば、基材上に未硬化状態のハードコート層を形成し、別途、仮支持体上に未硬化状態の耐擦傷層を形成した積層物を作製し、上記積層物の耐擦傷層側が上記ハードコート層に接するように貼合わせることで、貼合わせ面において界面混合による混合層形成を行い、各層を全硬化した後に上記仮支持体を取り除く方法(態様B)が挙げられる。また、基材上にハードコート形成用組成物と耐擦傷層形成用組成物を重層塗布し、両者の界面において混合層形成を行った後、各層を全硬化する方法(態様C)なども挙げられる。さらに、基材上にハードコート層形成用組成物を塗布及び半硬化し、半硬化したハードコート層上に耐擦傷層形成用組成物を塗布して染み込ませることで、混合層を形成した後、各層を全硬化する方法(態様D)なども挙げられる。
【0336】

以下、上記態様Aと態様Dについて詳述する。
【0337】

(態様A)
【0338】

以下、ハードコート層形成用組成物として、本発明の重合体、及びエポキシ基を含むポリオルガノシルセスキオキサン(a1)を含む組成物、混合層形成用組成物として、エポキシ化合物(b1)との多官能(メタ)アクリレート化合物(b2)を含む組成物、をそれぞれ用いた場合を具体例に挙げ、上記態様Aについて詳述する。態様Aは具体的には、下記工程(I)~(IV)を含む製造方法である。

(I)基材上に、前述の重合体及びエポキシ基を含むポリオルガノシルセスキオキサン

(a1)を含むハードコート層形成用組成物を塗布して塗膜(i)を形成する工程

(II)上記塗膜(i)を半硬化処理する工程

(III)上記半硬化した塗膜(i)上に、前述のエポキシ化合物(b1)と前述の多官能(メタ)アクリレート化合物(b2)を含む混合層形成用組成物を塗布して塗膜(ii)を形成する工程

(IV)上記塗膜(i)及び塗膜(ii)を全硬化処理する工程
【0339】

<工程(I)>

工程(I)は、基材上に前述のエポキシ基を含むポリオルガノシルセスキオキサン(a1)を含むハードコート層形成用組成物を塗布して塗膜を設ける工程である。

基材については前述したとおりである。

ハードコート層形成用組成物は、前述のハードコート層を形成するための組成物である。

ハードコート層形成用組成物は、通常、液の形態をとる。また、ハードコート層形成用組成物は、重合体、エポキシ基を含むポリオルガノシルセスキオキサン(a1)、並びに、必要に応じて各種添加剤および重合開始剤を適当な溶剤に溶解又は分散して調製されることが好ましい。この際固形分の濃度は、一般的には10~90質量%程度であり、好ましくは20~80質量%、特に好ましくは40~70質量%程度である。
【0340】

<重合開始剤>

上記ポリオルガノシルセスキオキサン(a1)は、カチオン重合性基(エポキシ基)を含む。ハードコート層形成用組成物は、上記ポリオルガノシルセスキオキサン(a1)の重合反応を光照射により開始し進行させるために、カチオン光重合開始剤を含むことが好ましい。なおカチオン光重合開始剤は一種のみ用いてもよく、構造の異なる二種以上を併用してもよい。

以下、カチオン光重合開始剤について、説明する。
【0341】

(カチオン光重合開始剤)

カチオン光重合開始剤としては、光照射により活性種としてカチオンを発生することができるものであればよく、公知のカチオン光重合開始剤を、何ら制限なく用いることができる。具体例としては、公知のスルホニウム塩、アンモニウム塩、ヨードニウム塩(例えばジアリールヨードニウム塩)、トリアリールスルホニウム塩、ジアゾニウム塩、イミニウム塩などが挙げられる。より具体的には、例えば、特開平8-143806号公報段落0050~0053に示されている式(25)~(28)で表されるカチオン光重合開始剤、特開平8-283320号公報段落0020にカチオン重合触媒として例示されているもの等を挙げることができる。また、カチオン光重合開始剤は、公知の方法で合成可能であり、市販品としても入手可能である。市販品としては、例えば、日本曹達社製CI-1370、CI-2064、CI-2397、CI-2624、CI-2639、CI-2734、CI-2758、CI-2823、CI-2855およびCI-5102等、ローディア社製PHOTOINITIATOR2047等、ユニオンカーバイド社製UVI-6974、UVI-6990、サンアプロ社製CPI-10P等を挙げることができる。
【0342】

カチオン光重合開始剤としては、光重合開始剤の光に対する感度、化合物の安定性等の点からは、ジアゾニウム塩、ヨードニウム塩、スルホニウム塩、イミニウム塩が好ましい。また、耐候性の点からは、ヨードニウム塩が最も好ましい。
【0343】

ヨードニウム塩系のカチオン光重合開始剤の具体的な市販品としては、例えば、東京化成社製B2380、みどり化学社製BBI-102、和光純薬工業社製WPI-113、和光純薬工業社製WPI-124、和光純薬工業社製WPI-169、和光純薬工業社製WPI-170、東洋合成化学社製DTBPI-PFBSを挙げることができる。
【0344】

また、カチオン光重合開始剤として使用可能なヨードニウム塩化合物の具体例としては、下記化合物FK-1、FK-2を挙げることもできる。
【0345】

【化48】
【0346】

【化49】
【0347】

ハードコート層形成用組成物中の重合開始剤の含有量は、上記ポリオルガノシルセスキオキサン(a1)の重合反応(カチオン重合)を良好に進行させる範囲で適宜調整すればよく、特に限定されるものではない。上記ポリオルガノシルセスキオキサン(a1)100質量部に対して、例えば0.1~200質量部の範囲であり、好ましくは1~20質量部、より好ましくは1~5質量部の範囲である。
【0348】

<任意成分>

ハードコート層形成用組成物は、上記重合体、ポリオルガノシルセスキオキサン(a1)、重合開始剤以外に、一種以上の任意成分を更に含むこともできる。任意成分の具体例としては、溶媒および各種添加剤を挙げることができる。
【0349】

(溶媒)

任意成分として含まれ得る溶媒としては、有機溶媒が好ましく、有機溶媒の一種または二種以上を任意の割合で混合して用いることができる。有機溶媒の具体例としては、例えば、メタノール、エタノール、プロパノール、n-ブタノール、i-ブタノール等のアルコール類;アセトン、メチルイソブチルケトン、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン類;エチルセロソルブ等のセロソルブ類;トルエン、キシレン等の芳香族類;プロピレングリコールモノメチルエーテル等のグリコールエーテル類;酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸ブチル等の酢酸エステル類;ジアセトンアルコール等が挙げられる。上記組成物中の溶媒量は、組成物の塗布適性を確保できる範囲で適宜調整することができる。例えば、上記改質剤、ポリオルガノシルセスキオキサン(a1)および重合開始剤の合計量100質量部に対して、50~500質量部とすることができ、好ましくは80~200質量部とすることができる。
【0350】

(添加剤)

上記組成物は、更に必要に応じて、公知の添加剤の一種以上を任意に含むことができる。そのような添加剤としては、分散剤、防汚剤、帯電防止剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤等を挙げることができる。それらの詳細については、例えば特開2012-229412号公報段落0032~0034を参照できる。ただしこれらに限らず、重合性組成物に一般に使用され得る各種添加剤を用いることができる。また、組成物への添加剤の添加量は適宜調整すればよく、特に限定されるものではない。
【0351】

<組成物の調製方法>

本発明に用いるハードコート層形成用組成物は、以上説明した各種成分を同時に、または任意の順序で順次混合することにより調製することができる。調製方法は特に限定されるものではなく、調製には公知の攪拌機等を用いることができる。
【0352】

ハードコート層形成用組成物の塗布方法としては、特に限定されず公知の方法を用いることができる。例えば、ディップコート法、エアーナイフコート法、カーテンコート法、ローラーコート法、ワイヤーバーコート法、グラビアコート法、ダイコート法等が挙げられる。
【0353】

<工程(II)>

工程(II)は、上記塗膜(i)を半硬化処理する工程である。

電離放射線の種類については、特に制限はなく、X線、電子線、紫外線、可視光、赤外線などが挙げられるが、紫外線が好ましく用いられる。例えば塗膜が紫外線硬化性であれば、紫外線ランプにより2mJ/cm~1000mJ/cmの照射量の紫外線を照射して硬化性化合物を硬化するのが好ましい。2mJ/cm~100mJ/cmであることがより好ましく、5mJ/cm~50mJ/cmであることが更に好ましい。紫外線ランプ種としては、メタルハライドランプや高圧水銀ランプ等が好適に用いられる。
【0354】

硬化時の酸素濃度は特に制限されないが、硬化阻害を受けやすい成分((メタ)アクリロイル基を有する化合物)を含有する場合には、酸素濃度を0.1~2.0体積%に調整することで表面官能を残存させた半硬化状態を形成することができるため好ましい。また、硬化阻害を受けやすい成分((メタ)アクリロイル基を有する化合物)を含有しない場合には、硬化時の雰囲気を乾燥窒素で置換することで、エポキシ基が空気中の水蒸気と反応する影響を取り除くことができるため好ましい。
【0355】

工程(I)後、工程(II)の前に、若しくは工程(II)後、工程(III)の前に、又はその両方において、必要に応じて乾燥処理を行ってもよい。乾燥処理は、温風の吹き付け、加熱炉内への配置、加熱炉内での搬送等により行うことができる。加熱温度は、溶媒を乾燥除去できる温度に設定すればよく、特に限定されるものではない。ここで加熱温度とは、温風の温度または加熱炉内の雰囲気温度をいうものとする。
【0356】

工程(II)における塗膜(i)の硬化を半硬化とすることにより、ハードコート層形成用組成物に含まれるポリオルガノシルセスキオキサン(a1)中の未反応エポキシ基と、混合層形成用組成物に含まれるエポキシ化合物(b1)とが後述の工程(IV)において結合を形成する。上記結合形成により、本発明のハードコートフィルムは密着性の高い積層構造となり、より高い耐擦傷性を発揮することが可能となる。
【0357】

<工程(III)>

工程(III)は、上記半硬化した塗膜(i)上に、上記エポキシ化合物(b1)と上記多官能(メタ)アクリレート化合物(b2)を含む混合層形成用組成物を塗布して塗膜(ii)を形成する工程である。

混合層形成用組成物は、前述の混合層を形成するための組成物である。

混合層形成用組成物は、通常、液の形態をとる。また、混合層形成用組成物は、上記エポキシ化合物(b1)と上記多官能(メタ)アクリレート化合物(b2)と、必要に応じて各種添加剤および重合開始剤を適当な溶剤に溶解又は分散して調製されることが好ましい。この際固形分の濃度は、一般的には2~90質量%程度であり、好ましくは2~80質量%、特に好ましくは2~70質量%程度である。
【0358】

(重合開始剤)

混合層形成用組成物は、エポキシ化合物(b1)(カチオン重合性化合物)及び多官能(メタ)アクリレート化合物(b2)(ラジカル重合性化合物)を含む。重合形式の異なるこれらの重合性化合物の重合反応をそれぞれ光照射により開始し進行させるために、混合層形成用組成物は、ラジカル光重合開始剤およびカチオン光重合開始剤を含むことが好ましい。なおラジカル光重合開始剤は一種のみ用いてもよく、構造の異なる二種以上を併用してもよい。この点は、カチオン光重合開始剤についても同様である。

以下、各光重合開始剤について、順次説明する。
【0359】

(ラジカル光重合開始剤)

ラジカル光重合開始剤としては、光照射により活性種としてラジカルを発生することができるものであればよく、公知のラジカル光重合開始剤を、何ら制限なく用いることができる。具体例としては、例えば、ジエトキシアセトフェノン、2-ヒドロキシ-2-メチル-1-フェニルプロパン-1-オン、ベンジルジメチルケタール、4-(2-ヒドロキシエトキシ)フェニル-(2-ヒドロキシ-2-プロピル)ケトン、1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、2-メチル-2-モルホリノ(4-チオメチルフェニル)プロパン-1-オン、2-ベンジル-2-ジメチルアミノ-1-(4-モルホリノフェニル)ブタノン、2-ヒドロキシ-2-メチル-1-[4-(1-メチルビニル)フェニル]プロパノンオリゴマー、2-ヒドロキシ-1-{4-[4-(2-ヒドロキシ-2-メチル-プロピオニル)-ベンジル]フェニル}-2-メチル-プロパン-1-オン等のアセトフェノン類;1,2-オクタンジオン、1-[4-(フェニルチオ)-,2-(O-ベンゾイルオキシム)]、エタノン,1-[9-エチル-6-(2-メチルベンゾイル)-9H-カルバゾール-3-イル]-,1-(0-アセチルオキシム)等のオキシムエステル類;ベンゾイン、ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインエチルエーテル、ベンゾインイソプロピルエーテル、ベンゾインイソブチルエーテル等のベンゾイン類;ベンゾフェノン、o-ベンゾイル安息香酸メチル、4-フェニルベンゾフェノン、4-ベンゾイル-4′-メチル-ジフェニルサルファイド、3,3′,4,4′-テトラ(t-ブチルパーオキシカルボニル)ベンゾフェノン、2,4,6-トリメチルベンゾフェノン、4-ベンゾイル-N,N-ジメチル-N-[2-(1-オキソ-2-プロペニルオキシ)エチル]ベンゼンメタナミニウムブロミド、(4-ベンゾイルベンジル)トリメチルアンモニウムクロリド等のベンゾフェノン類;2-イソプロピルチオキサントン、4-イソプロピルチオキサントン、2,4-ジエチルチオキサントン、2,4-ジクロロチオキサントン、1-クロロ-4-プロポキシチオキサントン、2-(3-ジメチルアミノ-2-ヒドロキシ)-3,4-ジメチル-9H-チオキサントン-9-オンメソクロリド等のチオキサントン類;2,4,6-トリメチルベンゾイル-ジフェニルフォスフィンオキサイド、ビス(2,6-ジメトキシベンゾイル)-2,4,4-トリメチル-ペンチルフォスフィンオキサイド、ビス(2,4,6-トリメチルベンゾイル)-フェニルフォスフィンオキサイド等のアシルフォスフィンオキサイド類;等が挙げられる。また、ラジカル光重合開始剤の助剤として、トリエタノールアミン、トリイソプロパノールアミン、4,4′-ジメチルアミノベンゾフェノン(ミヒラーケトン)、4,4′-ジエチルアミノベンゾフェノン、2-ジメチルアミノエチル安息香酸、4-ジメチルアミノ安息香酸エチル、4-ジメチルアミノ安息香酸(n-ブトキシ)エチル、4-ジメチルアミノ安息香酸イソアミル、4-ジメチルアミノ安息香酸2-エチルヘキシル、2,4-ジエチルチオキサントン、2,4-ジイソプロピルチオキサンソンチオキサントン等を併用してもよい。

以上のラジカル光重合開始剤および助剤は、公知の方法で合成可能であり、市販品として入手も可能である。
【0360】

上記混合層形成用組成物中のラジカル光重合開始剤の含有量は、ラジカル重合性化合物の重合反応(ラジカル重合)を良好に進行させる範囲で適宜調整すればよく、特に限定されるものではない。上記組成物に含まれるラジカル重合性化合物100質量部に対して、例えば0.1~20質量部の範囲であり、好ましくは0.5~10質量部、より好ましくは1~10質量部の範囲である。
【0361】

カチオン光重合開始剤としては、上述のハードコート層形成用組成物中に含みうるカチオン光重合開始剤が挙げられる。

上記混合層形成用組成物中のカチオン光重合開始剤の含有量は、カチオン重合性化合物の重合反応(カチオン重合)を良好に進行させる範囲で適宜調整すればよく、特に限定されるものではない。カチオン重合性化合物100質量部に対して、例えば0.1~200質量部の範囲であり、好ましくは1~150質量部、より好ましくは1~100質量部の範囲である。
【0362】

<任意成分>

上記混合層形成用組成物は、上記のエポキシ化合物(b1)、多官能(メタ)アクリレート化合物(b2)、重合開始剤以外に、一種以上の任意成分を更に含むこともできる。任意成分の具体例としては、上記ハードコート層形成用組成物中に用い得る溶媒および各種添加剤を挙げることができる。
【0363】

<組成物の調製方法>

本発明に用いる混合層形成用組成物は、以上説明した各種成分を同時に、または任意の順序で順次混合することにより調製することができる。調製方法は特に限定されるものではなく、調製には公知の攪拌機等を用いることができる。
【0364】

混合層形成用組成物の塗布方法としては、特に限定されず公知の方法を用いることができる。
【0365】

<工程(IV)>

工程(IV)は、上記塗膜(i)及び塗膜(ii)を全硬化処理する工程である。
【0366】

塗膜の硬化は、電離放射線を塗膜側から照射して硬化させることが好ましい。
【0367】

電離放射線の種類については、上記工程(II)において、塗膜(i)を硬化させるための電離放射線を好適に用いることができる。

電離放射線の照射量としては、例えば塗膜が紫外線硬化性であれば、紫外線ランプにより10mJ/cm~6000mJ/cmの照射量の紫外線を照射して硬化性化合物を硬化するのが好ましい。50mJ/cm~6000mJ/cmであることがより好ましく、100mJ/cm~6000mJ/cmであることが更に好ましい。また、塗膜の硬化を促進するために電離放射線照射時に加熱を組み合わせることも好ましい。加熱の温度としては40℃以上140℃以下が好ましく、60℃以上140℃以下が好ましい。また電離放射線は複数回照射することも好ましい。
【0368】

硬化時の酸素濃度は0~1.0体積%であることが好ましく、0~0.1体積%であることが更に好ましく、0~0.05体積%であることが最も好ましい。硬化時の酸素濃度を1.0体積%よりも小さくすることで、酸素による硬化阻害の影響を受けにくくなり、強固な膜となる。
【0369】

工程(III)後、工程(IV)の前に、若しくは工程(IV)の後に、又はその両方において、必要に応じて乾燥処理を行ってもよい。
【0370】

上記ハードコートフィルムの製造方法においては、ハードコート層、混合層以外の層、例えば耐擦傷層を設ける工程を含むことも好ましい。

耐擦傷層を設ける場合は、上記工程(I)~(III)の後、下記の工程(IV’)~

(VI)を含むことが好ましい。

(IV’)上記工程(III)で形成した塗膜(ii)を半硬化処理する工程

(V)上記半硬化した塗膜(ii)上に、多官能(メタ)アクリレート化合物(c1)

を含む耐擦傷層形成用組成物を塗布して塗膜(iii)を形成する工程

(VI)上記塗膜(i)、塗膜(ii)、及び塗膜(iii)を全硬化処理する工程
【0371】

<工程(IV’)>

工程(IV’)は、上記工程(III)で形成した塗膜(ii)を半硬化処理する工程である。
【0372】

塗膜の硬化は、電離放射線を塗膜側から照射して硬化させることが好ましい。
【0373】

電離放射線の種類及び照射量については、上記工程(II)において、塗膜(i)を半硬化させるための電離放射線及び照射量を好適に用いることができる。
【0374】

工程(III)後、工程(IV’)の前に、若しくは工程(IV’)後、工程(V)の前に、又はその両方において、必要に応じて乾燥処理を行ってもよい。
【0375】

工程(IV’)における塗膜(ii)の硬化を半硬化とすることにより、混合層形成用組成物に含まれる多官能(メタ)アクリレート化合物(b2)中の未反応(メタ)アクリロイル基と、耐擦傷層形成用組成物に含まれる多官能(メタ)アクリレート化合物(c1)中の(メタ)アクリロイル基とが後述の工程(VI)において結合を形成する。上記結合形成により、本発明のハードコートフィルムは密着性の高い積層構造となり、より高い耐擦傷性を発揮することが可能となる。

硬化時の酸素濃度は特に制限されないが、酸素濃度を0.1~2.0体積%に調整することが好ましい。酸素濃度を上記範囲に設定することにより、上記半硬化を調整することができる。
【0376】

<工程(V)>

工程(V)は、上記半硬化した塗膜(ii)上に、上記多官能(メタ)アクリレート化合物(c1)を含む耐擦傷層形成用組成物を塗布して塗膜(iii)を形成する工程である。

耐擦傷層形成用組成物は、前述の耐擦傷層を形成するための組成物である。

耐擦傷層形成用組成物は、通常、液の形態をとる。また、耐擦傷層形成用組成物は、上記多官能(メタ)アクリレート化合物(c1)と、必要に応じて各種添加剤および重合開始剤を適当な溶剤に溶解又は分散して調製されることが好ましい。この際固形分の濃度は、一般的には2~90質量%程度であり、好ましくは2~80質量%、特に好ましくは2~70質量%程度である。
【0377】

(重合開始剤)

耐擦傷層形成用組成物は、多官能(メタ)アクリレート化合物(c1)(ラジカル重合性化合物)を含む。多官能アクリレート化合物の重合反応を光照射により開始し進行させるために、耐擦傷層形成用組成物は、ラジカル光重合開始剤を含むことが好ましい。なおラジカル光重合開始剤は一種のみ用いてもよく、構造の異なる二種以上を併用してもよい。ラジカル光重合開始剤としては、上述の混合層形成用組成物中に含みうるラジカル光重合開始剤が挙げられる。
【0378】

耐擦傷層形成用組成物中のラジカル光重合開始剤の含有量は、ラジカル重合性化合物の重合反応(ラジカル重合)を良好に進行させる範囲で適宜調整すればよく、特に限定されるものではない。上記組成物に含まれるラジカル重合性化合物100質量部に対して、例えば0.1~20質量部の範囲であり、好ましくは0.5~10質量部、より好ましくは1~10質量部の範囲である。
【0379】

<任意成分>

上記混合層形成用組成物は、上記多官能(メタ)アクリレート化合物(c1)、重合開始剤以外に、一種以上の任意成分を更に含むこともできる。任意成分の具体例としては、上記含フッ素化合物の他、上記ハードコート層形成用組成物中に用い得る溶媒および各種添加剤を挙げることができる。
【0380】

<組成物の調製方法>

本発明に用いる耐擦傷層形成用組成物は、以上説明した各種成分を同時に、または任意の順序で順次混合することにより調製することができる。調製方法は特に限定されるものではなく、調製には公知の攪拌機等を用いることができる。
【0381】

耐擦傷層形成用組成物の塗布方法としては、特に限定されず公知の方法を用いることができる。
【0382】

<工程(VI)>

工程(VI)は、上記塗膜(i)、塗膜(ii)、及び塗膜(iii)を全硬化処理する工程である。
【0383】

塗膜の硬化は、電離放射線を塗膜側から照射して硬化させることが好ましい。
【0384】

電離放射線の種類及び照射量については、上記工程(IV)において、塗膜(i)及び塗膜(ii)を硬化させるための電離放射線及び照射量を好適に用いることができる。
【0385】

工程(V)後、工程(VI)の前に、若しくは工程(VI)の後に、又はその両方において、必要に応じて乾燥処理を行ってもよい。
【0386】

(態様D)

態様Dは具体的には、下記工程(I)~(IV’’)を含む製造方法である。

(I)基材上に、前述の重合体及びエポキシ基を含むポリオルガノシルセスキオキサン(a1)を含むハードコート層形成用組成物を塗布して塗膜(i)を形成する工程

(II)上記塗膜(i)を半硬化処理する工程

(III’)上記半硬化した塗膜(i)上に、多官能(メタ)アクリレート化合物(c1)を含む耐擦傷層形成用組成物を塗布して染み込ませることにより、混合層(ii)と塗膜(iii)を形成する工程

(IV’’)上記塗膜(i)、染み込みにより形成した混合層(ii)、及び塗膜(iii)を全硬化処理する工程
【0387】

<工程(I)>

工程(I)は、基材上に、前述の重合体及びエポキシ基を含むポリオルガノシルセスキオキサン(a1)を含むハードコート層形成用組成物を塗布して塗膜(i)を形成する工程である。工程(I)の詳細は、態様Aの工程(I)にて前述したとおりである。
【0388】

<工程(II)>

工程(II)は、上記塗膜(i)を半硬化処理する工程である。工程(II)の硬化条件や乾燥処理については、態様Aの工程(II)にて前述したとおりである。
【0389】

態様Dにおいても、態様Aと同様に工程(II)における塗膜(i)の硬化を半硬化とすることが好ましい。塗膜(i)の硬化を半硬化とすることで、工程(III’)において、多官能(メタ)アクリレート化合物(c1)を含む耐擦傷層形成用組成物が染み込みやすくなり、混合層を形成しやすくなる。上記染み込みによる混合層形成により、本発明のハードコートフィルムは層間密着性の高い積層構造となり、より高い耐擦傷性を発揮することが可能となる。
【0390】

<工程(III’)>

工程(III’)は、上記半硬化した塗膜(i)上に、多官能(メタ)アクリレート化合物(c1)を含む耐擦傷層形成用組成物を塗布して染み込ませることにより、混合層(ii)と塗膜(iii)を形成する工程である。耐擦傷層形成用組成物は、前述の耐擦傷層を形成するための組成物である。

工程(III’)の耐擦傷層形成用組成物における多官能(メタ)アクリレート化合物(c1)、溶剤、固形分については態様Aとは異なるため詳細を後述する。重合開始剤や任意成分、組成物の調整方法については、態様Aの工程(V)にて前述したとおりである。
【0391】

(多官能(メタ)アクリレート化合物(c1))

態様Dにおける多官能(メタ)アクリレート化合物(c1)は、分子量400以下の多官能(メタ)アクリレート化合物を20%以上含有することが好ましい。分子量400以下の化合物を20%以上含有することで、耐擦傷層形成用組成物が染み込みやすくなり混合層を形成しやすい。分子量400以下の多官能(メタ)アクリレート化合物は特に限定されないが、具体例としては、KAYARAD PET-30(日本化薬(株)製)、KAYARAD TMPTA(日本化薬(株)製)、ペンタエリスリトールテトラアクリレート(新中村化学工業(株)製)等が挙げられる。
【0392】

(溶剤)

態様Dにおける溶剤は、多官能(メタ)アクリレート化合物(c1)を染み込ませて混合層を形成しやすくする観点から、ハードコート層と親和性の高い溶剤を使用することが好ましい。溶剤とハードコート層との親和性は、ハードコート層を各種溶剤に浸漬した際のハードコート層のヘイズ上昇値から判断することができる。すなわち、ヘイズの上昇値が大きいほど、溶剤のハードコート層への親和性が高いと判断することができる。特に、ハードコート層が、脂環式エポキシ基含有ポリオルガノシルセスキオキサンである場合には、上記ハードコート層との親和性が高い溶剤として酢酸メチル、トルエン、メチルエチルケトンを用いることが好ましく、酢酸メチル、トルエンがより好ましい。
【0393】

(固形分濃度)

態様Dにおける耐擦傷層形成用組成物の固形分は、ハードコート層形成用組成物や多官能(メタ)アクリレート化合物(c1)により適宜調整することができるが、40%以下であることが好ましく、20%以下であることがより好ましい。固形分濃度を40%以下とすることで耐擦傷層形成用組成物がハードコート層中に染み込みやすくなり、混合層(ii)が形成しやすくなる。また、固形分濃度を20%以下とすることで本発明のハードコートフィルムは層間密着性の高い積層構造となりやすく、より高い耐擦傷性が得られやすくなる。
【0394】

<工程(IV’’>

工程(IV’’)は、上記塗膜(i)、染み込みにより形成した混合層(ii)、及び塗膜(iii)を全硬化処理する工程である。工程(IV’’)の硬化条件や乾燥処理については、態様Aの工程(IV)にて前述したとおりである。
【0395】

態様Aと同様に態様Dにおいても、工程(III’)後、工程(IV‘)の前に、若しくは工程(IV)の後に、又はその両方において、必要に応じて乾燥処理を行ってもよい。
【0396】

本発明は、上記の本発明のハードコートフィルムを備えた物品、上記の本発明のハードコートフィルムを表面保護フィルムとして備えた画像表示装置にも関する。本発明のハードコートフィルムは、特に、スマートフォンなどにおけるフレキシブルディスプレイに好ましく適用される。
【実施例
【0397】
以下に実施例を挙げて本発明をさらに具体的に説明する。以下の実施例に示す材料、試薬、物質量とその割合、操作等は本発明の趣旨から逸脱しない限り適宜変更することができる。従って、本発明の範囲は以下の実施例に限定されるものではない。
実施例5、6、8~10は、「実施例」とあるのを「参考例」と読み替えるものとする。
【0398】

<合成例1>

(重合体(1-1)の合成)
【0399】

攪拌機、温度計、還流冷却管、及び窒素ガス導入管を備えた200ミリリットル三口フラスコに、t-アミルアルコール25.0gを仕込んで、120℃まで昇温した。次いで、2-(パーフルオロヘキシル)エチルアクリレート{モノマー(K2)に相当}3.25g(7.8ミリモル)、下記構造を有する化合物(I-1){モノマー(K1)に相当}2.26g(4.7ミリモル)、シクロヘキサノン25.0g及び「V-601」(和光純薬(株)製)4.7gからなる混合溶液を120分で滴下が完了するように等速で滴下した。滴下完了後、さらに3.5時間攪拌を続け、重合体(1-1)5.5g(固形分換算値)を得た。この重合体の重量平均分子量(Mw)は1,600であった。
【0400】

【化50】
【0401】

<合成例2~12>

原料モノマーの種類及び配合比率、並びに重合開始剤の使用量を表1に示すように変更したこと以外は、合成例1と同様にして重合体2~12を合成した。
【0402】

合成例2~12において使用したモノマー(K1)の構造を以下に示す。
【0403】

【化51】
【0404】

重合体の構造及び重量平均分子量(Mw)は下記表1のとおりである。表1中の組成比は、重合体の合成に用いた各原料モノマーの仕込み比を質量比で表したものである。下記表1には、合成に用いた重合開始剤の種類及び使用量(モノマー(K1)に対するモル比率)についても記載する。
【0405】

【表1】
【0406】

なお、表1中の略記号が表すモノマー(K2)は、以下のとおりである。

C6F13:2-(パーフルオロヘキシル)エチルアクリレート

FM-0711:サイラプレーンFM-0711(JNC(株)製、反応性シリコーン)

C12H25:n-ドデシルアクリレート
【0407】

各重合体の構造1~6は以下のとおりである。なお、下記各構造において、左より順に、モノマー(K2)に由来する構造、モノマー(K1)に由来する構造となる。
【0408】

【化52】
【0409】

<基材の作製>

(ポリイミド粉末の製造)

攪拌器、窒素注入装置、滴下漏斗、温度調節器及び冷却器を取り付けた1Lの反応器に、窒素気流下、N,N-ジメチルアセトアミド(DMAc)832gを加えた後、反応器の温度を25℃にした。ここに、ビストリフルオロメチルベンジジン(TFDB)64.046g(0.2mol)を加えて溶解した。得られた溶液を25℃に維持しながら、2,2-ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)ヘキサフルオロプロパン二無水物(6FDA)31.09g(0.07mol)とビフェニルテトラカルボン酸二無水物(BPDA)8.83g(0.03mol)を投入し、一定時間撹拌して反応させた。その後、塩化テレフタロイル(TPC)20.302g(0.1mol)を添加して、固形分濃度13質量%のポリアミック酸溶液を得た。次いで、このポリアミック酸溶液にピリジン25.6g、無水酢酸33.1gを投入して30分撹拌し、さらに70℃で1時間撹拌した後、常温に冷却した。ここにメタノール20Lを加え、沈澱した固形分を濾過して粉砕した。その後、100℃下、真空で6時間乾燥させて、111gのポリイミド粉末を得た。
【0410】

(基材S-1の作製)

100gのポリイミド粉末を670gのN,N-ジメチルアセトアミド(DMAc)に溶かして13質量%の溶液を得た。得られた溶液をステンレス板に流延し、130℃の熱風で30分乾燥させた。その後フィルムをステンレス板から剥離して、フレームにピンで固定し、フィルムが固定されたフレームを真空オーブンに入れ、100℃から300℃まで加熱温度を徐々に上げながら2時間加熱し、その後、徐々に冷却した。冷却後のフィルムをフレームから分離した後、最終熱処理工程として、さらに300℃で30分間熱処理して、ポリイミドフィルムからなる、厚み30μmの基材S-1を得た。
【0411】

(基材S-2の作製)

窒素置換した重合槽に、式(1)で表される化合物、式(2)で表される化合物、式(3)で表される化合物、触媒及び溶媒(γブチロラクトン及びジメチルアセトアミド)を仕込んだ。仕込み量は、式(1)で表される化合物75.0g、式(2)で表される化合物36.5g、式(3)で表される化合物76.4g、触媒1.5g、γブチロラクトン438.4g、ジメチルアセトアミド313.1gとした。式(2)で表される化合物と式(3)で表される化合物とのモル比は3:7、式(2)で表される化合物及び式(3)で表される化合物の合計と式(1)で表される化合物とのモル比は、1.00:1.02であった。
【0412】

【化53】
【0413】

重合槽内の混合物を攪拌して原料を溶媒に溶解させた後、混合物を100℃まで昇温し、その後、200℃まで昇温し、4時間保温して、ポリイミドを重合した。この加熱中に、液中の水を除去した。その後、精製及び乾燥により、ポリイミドを得た。
【0414】

次に、濃度20質量%に調整したポリイミドのγブチロラクトン溶液、γブチロラクトンに固形分濃度30質量%のシリカ粒子を分散した分散液、アミノ基を有するアルコキシシランのジメチルアセトアミド溶液、及び、水を混合し、30分間攪拌した。これらの攪拌は、米国特許番号US8,207,256B2に記載の方法に準拠して行った。
【0415】

ここで、シリカ粒子とポリイミドの質量比を60:40、アミノ基を有するアルコキシシランの量をシリカ粒子及びポリイミドの合計100質量部に対して1.67質量部、水の量をシリカ粒子及びポリイミドの合計100質量部に対して10質量部とした。
【0416】

混合溶液を、ガラス基板に塗布し、50℃で30分、140℃で10分加熱して乾燥した。その後、フィルムをガラス基板から剥離し、金枠を取り付けて210℃で1時間加熱し、厚み80μmの基材S-2を得た。この樹脂フィルムにおけるシリカ粒子の含有量は60質量%である。得られた樹脂フィルムの黄色度(YI値)は、2.3であった。
【0417】

<重合性を有するポリオルガノシルセスキオキサンの合成>

(化合物(A)の合成)

温度計、攪拌装置、還流冷却器、及び窒素導入管を取り付けた1000ミリリットルのフラスコ(反応容器)に、窒素気流下で2-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン297ミリモル(73.2g)およびメチルトリメトキシシラン3ミリモル(409mg)、トリエチルアミン7.39g、及びMIBK(メチルイソブチルケトン)370gを混合し、純水73.9gを、滴下ロートを使用して30分かけて滴下した。この反応液を80℃に加熱し、重縮合反応を窒素気流下で10時間行った。

その後、反応溶液を冷却し、5質量%食塩水300gを添加し、有機層を抽出した。有機層を5質量%食塩水300g、純水300gで2回、順次洗浄した後、1mmHg、50℃の条件で濃縮し、固形分濃度59.8質量%のMIBK溶液として無色透明の液状の生成物{脂環式エポキシ基を有するポリオルガノシルセスキオキサンである化合物(A)(一般式(1)中のRb:2-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチル基、Rc:メチル基、q=99、r=1である化合物)を固形分濃度として59.0質量%含有するメチルイソブチルケトン(MIBK)溶液を得た。

得られた化合物(A)の数平均分子量(Mn)は2310、分散度(Mw/Mn)は2.1であった。

なお、1mmHgは約133.322Paである。
【0418】

[実施例1]

<ハードコート層形成用組成物の調製>

(ハードコート層形成用組成物HC-1)

上記化合物(A)を含有するMIBK溶液に、CPI-100P、重合体(1-1)及びMIBK(メチルイソブチルケトン)を添加し、各含有成分の濃度が下記の濃度となるように調整し、ミキシングタンクに投入、攪拌した。得られた組成物を孔径0.4μmのポリプロピレン製フィルターで濾過し、ハードコート層形成用組成物HC-1とした。
【0419】

化合物(A) 98.6質量部

CPI-100P 1.3質量部

重合体(1-1) 0.1質量部

メチルイソブチルケトン 100.0質量部
【0420】

なお、ハードコート層形成用組成物中に用いた化合物は以下のとおりである。

CPI-100P:カチオン光重合開始剤、サンアプロ(株)製
【0421】

<混合層形成用組成物の調製>

(混合層形成用組成物M-1)

上記化合物(A)を含有するMIBK溶液をMEK(メチルエチルケトン)溶液に溶剤置換し、DPHA、CPI-100P、イルガキュア127、レベリング剤-1及びMEKを添加し、各含有成分の濃度が下記の濃度となるように調整し、ミキシングタンクに投入、攪拌した。得られた組成物を孔径0.4μmのポリプロピレン製フィルターで濾過し、混合層形成用組成物M-1とした。混合層形成用組成物M-1中、化合物(A)とDPHAの混合比は、化合物(A)/DPHA=50質量%/50質量%である。
【0422】

化合物(A) 42.85質量部

DPHA 42.85質量部

CPI-100P 1.3質量部

イルガキュア127 5.0質量部

レベリング剤-1 8.0質量部

メチルエチルケトン 500.0質量部
【0423】

なお、混合層形成用組成物中に用いた化合物は以下のとおりである。

DPHA:ジペンタエリスリトールペンタアクリレートとジペンタエリスリトールヘキサアクリレートの混合物、日本化薬(株)製

イルガキュア127:ラジカル光重合開始剤、BASF社製

レベリング剤-1:下記構造のポリマー(Mw=20000、下記繰り返し単位の組成比は質量比)
【0424】

【化54】
【0425】

<耐擦傷層形成用組成物の調製>

(耐擦傷層形成用組成物SR-1)

下記に記載の組成で各成分をミキシングタンクに投入、攪拌し、孔径0.4μmのポリプロピレン製フィルターで濾過して耐擦傷層形成用組成物SR-1とした。
【0426】

DPHA 96.2質量部

イルガキュア127 2.8質量部

RS-90 1.0質量部

メチルエチルケトン 300.0質量部

(耐擦傷層形成用組成物SR-2)

下記に記載の組成で各成分をミキシングタンクに投入、攪拌し、孔径0.4μmのポリプロピレン製フィルターで濾過して耐擦傷層形成用組成物SR-2とした。
【0427】

DPHA 50.0質量部

PET30 46.2質量部

イルガキュア127 2.8質量部

RS-90 1.0質量部

酢酸メチル 300.0質量部

(耐擦傷層形成用組成物SR-3)

下記に記載の組成で各成分をミキシングタンクに投入、攪拌し、孔径0.4μmのポリプロピレン製フィルターで濾過して耐擦傷層形成用組成物SR-3とした。
【0428】

DPHA 50.0質量部

PET30 46.2質量部

イルガキュア127 2.8質量部

RS-90 1.0質量部

メチルエチルケトン 300.0質量部

(耐擦傷層形成用組成物SR-4)

下記に記載の組成で各成分をミキシングタンクに投入、攪拌し、孔径0.4μmのポリプロピレン製フィルターで濾過して耐擦傷層形成用組成物SR-4とした。
【0429】

DPHA 50.0質量部

PET30 46.2質量部

イルガキュア127 2.8質量部

RS-90 1.0質量部

メチルエチルケトン 900.0質量部

(耐擦傷層形成用組成物SR-5)

下記に記載の組成で各成分をミキシングタンクに投入、攪拌し、孔径0.4μmのポリプロピレン製フィルターで濾過して耐擦傷層形成用組成物SR-5とした。
【0430】

DPHA 96.2質量部

イルガキュア127 2.8質量部

RS-90 1.0質量部

メチルエチルケトン 900.0質量部
【0431】

なお、耐擦傷層形成用組成物中に用いた化合物は以下のとおりである。

RS-90:滑り剤、DIC(株)製

PET-30:ペンタエリスリトールトリアクリレートとペンタエリスリトールテトラアクリレートの混合物、日本化薬(株)製
【0432】

<ハードコートフィルムの作製>

基材S-1上にハードコート層形成用組成物HC-1をダイコーターを用いて塗布した。120℃で1分間乾燥した後、25℃の条件にて空冷水銀ランプを用いて、照度18mW/cm、照射量10mJ/cmの紫外線を照射してハードコート層を半硬化させた。

混合層形成用組成物M-1にMEKを添加して固形分濃度を1/10に希釈した混合層形成用組成物を準備し、半硬化させたハードコート層上にダイコーターを用いて塗布した。120℃で1分間乾燥した後、25℃、酸素濃度1%の条件にて空冷水銀ランプを用いて、照度18mW/cm、照射量10mJ/cmの紫外線を照射して混合層を半硬化させ、ハードコート層上に混合層を設けた。

半硬化させた混合層上に、耐擦傷層形成用組成物SR-1をダイコーターを用いて塗布した。120℃で1分間乾燥した後、25℃、酸素濃度100ppmの条件にて空冷水銀ランプを用いて、照度60mW/cm、照射量800mJ/cmの紫外線を照射した後、さらに80℃、酸素濃度100ppmの条件にて空冷水銀ランプを用いて、照度60mW/cm、照射量800mJ/cmの紫外線を照射することでハードコート層、混合層、耐擦傷層を完全硬化させた。その後得られたフィルムを120℃1時間熱処理することで、厚さ11.0μmのハードコート層上に、厚さ0.1μmの混合層、及び、厚さ1.0μmの耐擦傷層を有するハードコートフィルム1を得た。なお、ハードコート層、混合層、耐擦傷層の厚みは、断面切削装置ウルトラミクロトームを用いてハードコートフィルムの断面試料を作製し、SEMを用いて断面観察することにより算出した。
【0433】

[実施例2~12]

ハードコート層形成用組成物HC-1中の重合体の種類及び混合層の膜厚を表2に示すように変更した以外は、実施例1と同様にしてハードコートフィルム2~12を得た。
【0434】

[実施例13]

基材の種類、及び混合層の膜厚を表2に示すように変更した以外は、実施例1と同様にしてハードコートフィルム13を得た。
【0435】

[実施例14]

<ハードコートフィルムの作製>

基材S-1上にハードコート層形成用組成物HC-1をダイコーターを用いて塗布した。120℃で1分間乾燥した後、25℃の条件にて空冷水銀ランプを用いて、照度18mW/cm、照射量10mJ/cmの紫外線を照射してハードコート層を半硬化させた。
【0436】

半硬化させたハードコート層上に耐擦傷層形成用組成物SR-2をダイコーターを用いて塗布した。120℃で1分間乾燥した後、25℃、酸素濃度100ppmの条件にて空冷水銀ランプを用いて、照度60mW/cm、照射量600mJ/cmの紫外線を照射した後、さらに80℃、酸素濃度100ppmの条件にて空冷水銀ランプを用いて、照度60mW/cm、照射量600mJ/cmの紫外線を照射することでハードコート層、染み込みにより形成した混合層、及び耐擦傷層を完全硬化させた。その後得られたフィルムを120℃1時間熱処理することで、厚さ1.0μmの耐擦傷層を有するハードコートフィルム14を得た。
【0437】

[実施例15~17]

耐擦傷層形成用組成物を表2に記載の組成物に変更した以外は、実施例14と同様にしてハードコートフィルム15~17を得た。
【0438】

[比較例1~4]

ハードコート層形成用組成物HC-1中の重合体を重合体1C~3Cに変更し、混合層の膜厚を表2に示す膜厚に変更した以外は、実施例1と同様にして比較ハードコートフィルム1~4を得た。
【0439】

なお、重合体1C~3Cは以下のとおりである。
【0440】

重合体1C-1:(下記構造のポリマー、下記繰り返し単位の組成比は質量比、重量平均分子量(Mw)=21000)
【0441】

【化55】
【0442】

重合体1C-2:(下記構造のポリマー、下記繰り返し単位の組成比は質量比、重量平均分子量(Mw)=3000)
【0443】

【化56】
【0444】

重合体2C:(下記構造のポリマー、下記繰り返し単位の組成比は質量比、重量平均分子量(Mw)=3000)
【0445】

【化57】
【0446】

重合体3C:(下記構造のポリマー、下記繰り返し単位の組成比は質量比、重量平均分子量(Mw)=3000)
【0447】

【化58】
【0448】

[比較例5]

ハードコート層形成用組成物HC-1中の重合体を添加しなかったこと以外は、実施例1と同様にして比較ハードコートフィルム5を得た。
【0449】

<染み込みにより形成した混合層の厚みの解析>

上記実施例14~17で得られたハードコートフィルムの混合層の厚みは、Ulvac-PHI社製質量分析装置「TRIFT V Nano TOF(一次イオンBi ++、加速電圧30kV)」を用いて、ハードコートフィルムの耐擦傷層側からAr-GCIB銃(15kV、2.5nA、500 μm四方)でエッチングしながらフラグメントイオンを解析することで求めた。混合層は、耐擦傷層成分由来のフラグメントとハードコート層成分由来のフラグメントイオンの両方が検出される領域とした。混合層が検出された時間と、事前に求めた耐擦傷層の単位時間あたりのエッチング深さから混合層の厚みを算出した。実施例14~17で得られたハードコートフィルムの混合層の厚みは、それぞれ0.15μm、0.08μm、0.12μm、0.10μmであった。
【0450】

[評価]

(ハードコート層表面面状)

上記ハードコートフィルムの作製において、ハードコート層形成用組成物を塗布した後、乾燥、半硬化させたハードコート層について、層の面状を目視にて確認し、以下の基準にて評価した。

A:乾燥ムラやシワの無い面状である

B:乾燥ムラがわずかに見られるが問題なく使用できる

C:乾燥ムラや凹凸がBに比べ多いが問題なく使用できる

D:乾燥ムラに起因する明らかな凹凸が見られ、使用に適さない
【0451】

(溶剤抽出性)

上記ハードコートフィルムの作製において、ハードコート層形成用組成物を塗布した後、乾燥、半硬化させたハードコートフィルム(A)を用いて溶剤抽出性の評価を行った。

ハードコートフィルム(A)と、ハードコートフィルム(A)のハードコート層表面をMEKで洗い流したハードコートフィルム(B)(MEK洗浄後)の2種類のフィルムを準備した。

Ulvac-PHI社製、Quantera SXM型ESCA(Electron Spectroscopy for Chemical Analysis)を用いて、光電子取出角度45°、測定範囲:300μm角の条件でハードコートフィルム(A)及び(B)のハードコート層表面の元素量を測定し、下記式により溶剤抽出性を算出した。

[{(MEK洗浄前の共重合体由来の元素[%])-(MEK洗浄後の共重合体由来の元素[%])}/(MEK洗浄後の共重合体由来の元素[%])]×100[%]

なお、共重合体由来の元素[%]とは全検出元素に対する共重合体のみが有する元素の含有率[%]を表し、実施例1~10、13、及び比較例1~4はF、実施例11~12はNを共重合体のみが有する元素として含有率[%]を算出した。
【0452】

(リコート性)

上記ハードコートフィルムの作製において、ハードコート層形成用組成物を塗布した後、乾燥、半硬化させたハードコートフィルムに対し、混合層形成用組成物M-1の厚みを変更して塗布、乾燥した後、硬化させたハードコートフィルムのハジキを下記基準で評価した。なお、厚みが0.1、0.5μmのときは混合層形成用組成物M-1にMEKを添加して固形分濃度を1/10に希釈した混合層形成用組成物を準備して使用し、厚みが3.0μmのときは混合層形成用組成物M-1を希釈せずに用いた。なお、本評価においてAの場合は混合層の厚みを0.1μmとし、BとCの場合は混合層の厚みを3.0μmとし、Dの場合は混合層の厚みを6.0μmとしてハードコーティングフィルムの評価を行った。

A:混合層厚み0.1μmでハジキがない

B:混合層厚み0.1μmでハジキが認められるが、0.5μmでハジキがない

C:混合層厚み0.5μmでハジキが認められるが、3μmでハジキがない

D:混合層厚み3μmでハジキが認められる
【0453】

作製したハードコートフィルムに対して、以下の性能評価を行った。
【0454】

(鉛筆硬度)

JIS K 5600-5-4(1999)に準拠して測定し、以下の3段階で評価した。

A:鉛筆硬度が6H以上である。

B:鉛筆硬度が5Hである。

C:鉛筆硬度が4H以下である。
【0455】

(繰り返し折り曲げ耐性)

各実施例及び比較例により製造されたハードコートフィルムから幅15mm、長さ150mmの試料フィルムを切り出し、温度25℃、相対湿度65%の状態に1時間以上静置させた。その後、耐折度試験機((株)井元製作所製、IMC-0755型、折り曲げ曲率半径1.0mm)を用いて、基材が外側になるようにして繰り返しの耐屈曲性試験を行った。試料フィルムに割れまたは破断が生じるまでの回数により、以下の基準で評価した。

A:50万回以上

B:10万回以上、50万回未満

C:10万回未満
【0456】

(耐擦傷性)

各実施例及び比較例により製造されたハードコートフィルムの基材とは反対側の表面を、ラビングテスターを用いて、以下の条件で擦りテストを行うことで、耐擦傷性の指標とした。

評価環境条件:25℃、相対湿度60%

こすり材:スチールウール(日本スチールウール(株)製、グレードNo.0000)

試料と接触するテスターのこすり先端部(1cm×1cm)に巻いて、バンド固定

移動距離(片道):13cm、

こすり速度:13cm/秒、

荷重:1000g/cm

先端部接触面積:1cm×1cm、

こすり回数:1000往復、2000往復、5000往復、10000往復

試験後の各実施例および比較例のハードコートフィルムのこすった面とは逆側の面に油性黒インキを塗り、反射光で目視観察して、スチールウールと接触していた部分に傷が入ったときの擦り回数を計測し、以下の5段階で評価した。

A:10000回擦っても傷が付かない。

B:5000回擦っても傷が付かないが、10000回擦るまでに傷が付く。

C:2000回擦っても傷が付かないが、5000回擦るまでに傷が付く。

D:1000回擦っても傷が付かないが、2000回擦るまでに傷が付く。

E:1000回擦るまでに傷が付く。
【0457】

評価結果を下記表2に示す。ハードコート層形成用組成物における重合体のOH含有量も示す。なお、重合体の配合量は、ハードコート層の固形分の全質量に対する含有比率を表す。
【0458】

【表2】


【0459】

本発明の重合体を含むハードコート層形成用組成物は、基材上に問題なく塗布が可能であり、表2に示したように、ハードコート層表面面状が良好であった。また、ハードコート層上に更に別の層を形成した際のリコート性に優れていた。

なお、ハードコート層形成用組成物に用いた重合体(レベリング剤)は、溶剤抽出性にも優れており、混合層と耐擦層を設けたハードコートフィルムの耐擦傷性が良好であった。

一方、分岐構造を有するレベリング剤を含まない比較例においては、ハードコート層表面面状が悪い、又はハードコート層上に混合層形成用組成物を塗布した際にハジキが生じ、混合層を形成できないという結果となった。

さらに、実施例は、鉛筆硬度、耐擦傷性、及び繰り返し折り曲げ耐性に優れ、フレキシブルハードコートフィルムとしての性能にも優れることが分かった。