(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2021-12-27
(45)【発行日】2022-02-04
(54)【発明の名称】マラリア伝播阻止型ワクチン
(51)【国際特許分類】
A61K 39/015 20060101AFI20220128BHJP
A61P 33/06 20060101ALI20220128BHJP
C12N 1/19 20060101ALI20220128BHJP
C12N 1/21 20060101ALI20220128BHJP
C12N 5/10 20060101ALI20220128BHJP
C12N 5/14 20060101ALI20220128BHJP
C12N 5/16 20060101ALI20220128BHJP
C07K 14/445 20060101ALN20220128BHJP
C12N 15/30 20060101ALN20220128BHJP
【FI】
A61K39/015 ZNA
A61P33/06
C12N1/19
C12N1/21
C12N5/10
C12N5/14
C12N5/16
C07K14/445
C12N15/30
(21)【出願番号】P 2018537586
(86)(22)【出願日】2017-09-04
(86)【国際出願番号】 JP2017031784
(87)【国際公開番号】W WO2018043741
(87)【国際公開日】2018-03-08
【審査請求日】2020-09-01
(31)【優先権主張番号】P 2016173018
(32)【優先日】2016-09-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】391011076
【氏名又は名称】ホクサン株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】301021533
【氏名又は名称】国立研究開発法人産業技術総合研究所
(73)【特許権者】
【識別番号】598041566
【氏名又は名称】学校法人北里研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100102842
【氏名又は名称】葛和 清司
(72)【発明者】
【氏名】田林 紀子
(72)【発明者】
【氏名】五反田 亨
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 英恵
(72)【発明者】
【氏名】一町田 紀子
(72)【発明者】
【氏名】加賀谷 羽衣子
(72)【発明者】
【氏名】松村 健
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 亮
(72)【発明者】
【氏名】筏井 宏実
【審査官】佐々木 大輔
(56)【参考文献】
【文献】特開2003-277292(JP,A)
【文献】国際公開第2012/170125(WO,A1)
【文献】OTTO, T.D., et al.,' conserved Plasmodium protein, unknown function [Plasmodium berghei ANKA]' DATABASE NCBI Protein [online] accession No.CDS46529, 23-Nov-2015, <URL:https://www.ncbi.nlm.nih.gov/protein/675226330>,https://www.ncbi.nlm.nih.gov/protein/675226330
【文献】OTTO, T.D., et al.,' conserved Plasmodium protein, unknown function [Plasmodium berghei ANKA]' DATABASE NCBI Protein [online] accession No.CDU21322, 23-Nov-2015, <URL:https://www.ncbi.nlm.nih.gov/protein/675226971>,https://www.ncbi.nlm.nih.gov/protein/675226971
【文献】Cellular Microbiology, 2008, Vol.10, No.6, pp.1304-1312
【文献】日本生物工学会大会講演要旨集, 2015, Vol.67, p.326
【文献】第159回日本獣医学会学術集会講演要旨集, 2016.08.30, p.333
【文献】Malaria Journal, 2010, Vol.9, No.158, pp.1-7
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 39/00-39/44
C12N 1/00- 1/38
C12N 5/00- 5/28
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
マラリア原虫のオーシスト期に特異的に発現するマラリア原虫由来の免疫原性タンパク質のペプチド断片であるポリペプチドを含むマラリア伝播阻止型ワクチンであって、
該ポリペプチドが、
(a1)配列番号3に記載のアミノ酸配列からなるポリペプチド
、
(a2)配列番号
4に記載のアミノ酸配列からなるポリペプチド、
および/または、
(a3)配列番号5および6に記載のアミノ酸配列からなるポリペプチド
である、前記マラリア伝播阻止型ワクチン。
【請求項2】
経口用である、請求項
1に記載のマラリア伝播阻止型ワクチン。
【請求項3】
マラリア原虫由来の免疫原性タンパク
質のペプチド断片
であるポリペプチドを発現する形質転換体を含有する、請求項1
または2に記載のマラリア伝播阻止型ワクチン。
【請求項4】
マラリア原虫由来の免疫原性タンパク
質のペプチド断片
であるポリペプチドを発現する形質転換体の可食性組織を含有する、請求項1
または2に記載のマラリア伝播阻止型ワクチン。
【請求項5】
可食性組織が、生食可能である、請求項
4に記載のマラリア伝播阻止型ワクチン。
【請求項6】
形質転換体が、形質転換植物である、請求項
3~
5のいずれか一項に記載のマラリア伝播阻止型ワクチン。
【請求項7】
形質転換植物がイチゴであり、可食性組織がイチゴ果実である、請求項
6に記載のマラリア伝播阻止型ワクチン。
【請求項8】
形質転換体が、
配列番号
3に記載のアミノ酸配列からなる
ポリペプチ
ド、
配列番号
4に記載のアミノ酸配列からなる
ポリペプチド
、および/または、
配列番号5および6に記載のアミノ酸配列からなるポリペプチド
をコードするDNAを発現する、請求項
3~
7のいずれか一項に記載のマラリア伝播阻止型ワクチン。
【請求項9】
発現するDNAが、
(a1)配列番号
9に記載の塩基配列からなるDNA、
(a2)配列番号
10に記載の塩基配列からなるDNA、
および/または、
(a3)配列番号11および12に記載の塩基配列からなるDNA
を発現する、請求項
8に記載のマラリア伝播阻止型ワクチン。
【請求項10】
マラリア原虫由来の免疫原性タンパク
質のペプチド断片
であるポリペプチドを発現する形質転換体であって、
配列番号
3に記載のアミノ酸配列からなる
ポリペプチ
ド、
配列番号
4に記載のアミノ酸配列からなる
ポリペプチド
、および/または、
配列番号5および6に記載のアミノ酸配列からなるポリペプチド
をコードするDNAを発現可能に導入してなる、前記形質転換体。
【請求項11】
導入したDNAが、
(a1)配列番号
9に記載の塩基配列からなるDNA、
(a2)配列番号
10に記載の塩基配列からなるDNA、
および/または、
(a3)配列番号11および12に記載の塩基配列からなるDNA
を発現可能に導入してなる、請求項10に記載の形質転換体。
【請求項12】
マラリアの伝播を阻止する方法における使用のための、請求項1~
9のいずれか一項に記載のマラリア伝播阻止型ワクチン
を含む組成物であって、
前記方法が、前記組成物を家畜または野生動物へ投与することを含む、
前記組成物。
【請求項13】
投与が、経口投与である、請求項
12に記載の
組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マラリアの伝播を阻止するためのマラリア伝播阻止型ワクチンに関し、とくに経口用の前記ワクチンに関する。
【背景技術】
【0002】
マラリアは、熱帯から亜熱帯に広く分布する感染症であり、主に、ハマダラ蚊(Anopheles gambiae)によって媒介されるマラリア原虫(Plasmodium falciparum)の感染によって引き起こされる。マラリア原虫は、ハマダラ蚊の消化管内で有性生殖を行い、次の感染型へ発育する生活環を有する(非特許文献1)。ハマダラ蚊における原虫発育を阻止することにより、マラリアの伝播を抑制するのが伝播阻止型ワクチンであり、かかる伝播阻止型ワクチンの有効成分としてマラリア原虫の発育段階のうちガメートやオーキネートで発現される抗原が検討されてきたが(特許文献1)、未だ十分なものではなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【非特許文献】
【0004】
【文献】Crompton P. D. et al., "Advances and challenges in malaria vaccine development"(2010) J Clin Invest. 120(12):4168-78.
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明者らは、従来、マラリア原虫の生活環におけるオーキネートやガメートをワクチンの標的とすることが検討されているものの、ハマダラ蚊の中腸内に形成されるオーシストをワクチンの標的とした研究がされていなかったことから、このオーシストをワクチンの標的とすれば、マラリア原虫の新たな発育段階を標的とした全く新しいワクチンを開発できると考えた。
【0006】
すなわち、オーシストは、ハマダラ蚊の体内において、比較的長期にわたり存在すること、オーシスト形成初期に、原虫数が最も減少するため非常に弱い発育段階であると推察されること、分裂増殖によるスポロゾイト原虫の抗原変異と異なり、変異が起こりにくいことなどの特徴を有していることから、本発明者らは、かかる発育段階を標的とする伝播阻止型ワクチンは、極めて高い潜在能力を有すると考え、研究を進めた。
【0007】
また、これまで伝播阻止型ワクチンで経口用のものについて提唱されていたが(特許文献1)、経口用で伝播阻止効果が確認されたものはなかった。伝播阻止型ワクチンを実効性のあるものとするためには、ヒトだけでなく、マラリアの感染環に関与する多種多様な動物に、免疫する必要があるため、経口ワクチンを実現することは、野生動物を含めた多種多様な動物に給餌することにより免疫し得る極めて実効的な形態である。
【0008】
したがって、本発明の課題は、これまで検討されてこなかったマラリア原虫のオーシスト期に特異的に発現する免疫原性タンパク質を用いた全く新しい伝播阻止型ワクチンと、かかるワクチンをマラリア感染環に関与する多様な動物に免疫し得る経口用の伝播阻止型ワクチンを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題を解決すため鋭意研究を重ねる中で、オーシスト期にマラリア原虫において特異的に発現するタンパク質が、オーシストの発育を抑制する伝播阻止型ワクチンとして有効に機能することを見出し、さらに、かかるタンパク質またはその一部をコードするDNAを発現可能に組み込んだ形質転換植物を作出し、これを利用した経口用伝播阻止型ワクチンとしてのワクチン効果を確認し、さらに研究を進めた結果、本発明を完成するに至った。
【0010】
すなわち本発明は、以下に関する。
[1] マラリア原虫のオーシスト期に特異的に発現するマラリア原虫由来の免疫原性タンパク質を含むマラリア伝播阻止型ワクチンであって、
マラリア原虫由来の免疫原性タンパク質が、
(a1)配列番号1に記載のアミノ酸配列からなるタンパク質、
(b1)配列番号1に記載のアミノ酸配列に90%以上の同一性を有するアミノ酸配列からなり、かつ、免疫原性を有するタンパク質、
(a2)配列番号2に記載のアミノ酸配列からなるタンパク質、または、
(b2)配列番号2に記載のアミノ酸配列に90%以上の同一性を有するアミノ酸配列からなり、かつ、免疫原性を有するタンパク質
である、前記マラリア伝播阻止型ワクチン。
[2] マラリア原虫のオーシスト期に特異的に発現するマラリア原虫由来の免疫原性タンパク質のペプチド断片であるポリペプチドを含むマラリア伝播阻止型ワクチンであって、該ポリペプチドが、
(a1)配列番号3に記載のアミノ酸配列からなるポリペプチド、
(b1)配列番号3に記載のアミノ酸配列に90%以上の同一性を有するアミノ酸配列からなり、かつ、免疫原性を有するポリペプチド、
(a2)配列番号4、5または6に記載のアミノ酸配列からなるポリペプチド、または、
(b2)配列番号4、5または6に記載のアミノ酸配列に90%以上の同一性を有するアミノ酸配列からなり、かつ、免疫原性を有するポリペプチド
である、前記マラリア伝播阻止型ワクチン。
[3] 経口用である、前記[1]または[2]に記載のマラリア伝播阻止型ワクチン。
【0011】
[4] マラリア原虫のオーシスト期に特異的に発現するマラリア原虫由来の免疫原性タンパク質またはそのペプチド断片を含む、経口用のマラリア伝播阻止型ワクチン。
[5] マラリア原虫由来の免疫原性タンパク質またはそのペプチド断片を発現する形質転換体を含有する、前記[1]~[4]のいずれか一項に記載のマラリア伝播阻止型ワクチン。
[6] マラリア原虫由来の免疫原性タンパク質またはそのペプチド断片を発現する形質転換体の可食性組織を含有する、前記[1]~[4]のいずれか一項に記載のマラリア伝播阻止型ワクチン。
[7] 可食性組織が、生食可能である、前記[6]に記載のマラリア伝播阻止型ワクチン。
[8] 形質転換体が、形質転換植物である、前記[5]~[7]のいずれか一項に記載のマラリア伝播阻止型ワクチン。
[9] 形質転換植物がイチゴであり、可食性組織がイチゴ果実である、前記[8]に記載のマラリア伝播阻止型ワクチン。
【0012】
[10] 形質転換体が、配列番号1に記載のアミノ酸配列からなるタンパク質もしくはそのペプチド断片、または、配列番号2に記載のアミノ酸配列からなるタンパク質もしくはそのペプチド断片をコードするDNAを発現する、前記[5]~[9]のいずれか一項に記載のマラリア伝播阻止型ワクチン。
[11] 発現するDNAが、
(a1)配列番号7または8に記載の塩基配列からなるDNA、
(b1)(a1)に記載の塩基配列からなるDNAと相補的な塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつ、免疫原性を有するタンパク質をコードするDNA、
(a2)配列番号9、10、11または12に記載の塩基配列からなるDNA、または、
(b2)(a2)に記載の塩基配列からなるDNAと相補的な塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつ、免疫原性を有するペプチド断片をコードするDNA、
を発現する、前記[10]に記載のマラリア伝播阻止型ワクチン。
【0013】
[12] マラリア原虫由来の免疫原性タンパク質またはそのペプチド断片を発現する形質転換体であって、配列番号1に記載のアミノ酸配列からなるタンパク質もしくはそのペプチド断片、または、配列番号2に記載のアミノ酸配列からなるタンパク質もしくはそのペプチド断片をコードするDNAを発現可能に導入してなる、前記形質転換体。
[13] 導入したDNAが、
(a1)配列番号7または8に記載の塩基配列からなるDNA、
(b1)(a1)に記載の塩基配列からなるDNAと相補的な塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつ、免疫原性を有するタンパク質をコードするDNA、
(a2)配列番号9、10、11または12に記載の塩基配列からなるDNA、または、
(b2)(a2)に記載の塩基配列からなるDNAと相補的な塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつ、免疫原性を有するペプチド断片をコードするDNA、
を発現可能に導入してなる、前記[12]に記載の形質転換体。
[14] 前記[1]~[11]のいずれか一項に記載のマラリア伝播阻止型ワクチンを家畜または野生動物へ投与することを含む、マラリアの伝播を阻止する方法。
[15] 投与が、経口投与である、前記[14]に記載の方法。
【発明の効果】
【0014】
マラリアの伝播阻止型ワクチンは、これまでは、オーキネートやガメートにおいて特異的に発現する抗原が利用されてきたところ、本発明においてマラリア原虫のオーシスト期に特異的に発現するマラリア原虫由来の免疫原性タンパク質またはその一部が伝播阻止型ワクチンとして有効であることを見出した。さらに、かかるタンパク質またはその一部をコードするDNAを発現可能に組み込んだ形質転換植物は、経口ワクチンとして感染環に関与する多様な動物に免疫可能であるため、マラリアの感染環を断絶し得る。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】
図1は、抗PbCap93-1抗体および抗PbCap494-1抗体のオーシストに対する蛍光抗体染色の結果を示す。
【
図2】
図2は、ポリペプチドPbCap494-1の免疫により得られたウサギ抗体(抗PbCap494-1抗体)を使用した受動免疫によるオーシスト形成阻害を示す。
【
図3】
図3は、ポリペプチドPbCap494-2およびポリペプチドPbCap494-3の2領域を合わせたポリペプチドPbCap494-2,3の免疫により得られたウサギ抗体(抗PbCap494-2,3抗体)、ならびに、抗PbCap494-1抗体を混合して使用した受動免疫によるオーシスト形成阻害を示す。
【
図4】
図4は、ポリペプチドPbCap93-1の免疫により得られたウサギ抗体を使用した受動免疫によるオーシスト形成阻害を示す。
【
図5】
図5は、免疫をしていないウサギ抗体を使用した受動免疫によるオーシスト形成阻害を示す。
【
図6】
図6は、ポリペプチドPbCap93-1をコードするDNAを組み込んだ植物発現コンストラクトを示す。
【
図7】
図7は、ゲノミックPCRによるイチゴ形質転換株におけるポリペプチドPbCap93-1をコードするDNAの導入を確認した電気泳動図である。
【
図8】
図8は、形質転換イチゴを利用した経口ワクチンの投与による抗体価の上昇を示す。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明の一態様において、本発明のマラリア伝播阻止型ワクチンは、マラリア原虫のオーシスト期に特異的に発現するマラリア原虫由来の免疫原性タンパク質またはそのペプチド断片を含む。ここでペプチド断片は、免疫原性を有していれば、構成するアミノ酸の種類や数は特に限定されず、例えば、10程度のアミノ酸からなるオリゴペプチドや20以上のアミノ酸からなるペプチドを含む。本明細書では、とくに言及しない限り、2以上のアミノ酸からなるペプチドについて、ポリペプチドという。
【0017】
本発明の一態様において、マラリア原虫由来の免疫原性タンパク質は、マウスマラリア原虫(Plasmodium berghei)のタンパク質PbCap93またはタンパク質PbCap494であるか、これらに相当する各種のマラリア原虫由来のタンパク質、または、それらのアミノ酸配列に90%以上、好ましくは95%以上の同一性を有するアミノ酸配列からなる、免疫原性を有するタンパク質である。
【0018】
本発明における免疫原性タンパク質は、(1)配列番号1に記載のアミノ酸配列からなるタンパク質PbCap93、(2)配列番号1に記載のアミノ酸配列に90%以上、好ましくは95%以上の同一性を有するアミノ酸配列からなり、かつ、免疫原性を有するタンパク質、(3)配列番号2に記載のアミノ酸配列からなるタンパク質PbCap494、および、(4)配列番号2に記載のアミノ酸配列に90%以上、好ましくは95%以上の同一性を有するアミノ酸配列からなり、かつ、免疫原性を有するタンパク質などを包含する。
【0019】
本発明の一態様において、免疫原性ポリペプチドは、タンパク質PbCap93のペプチド断片またはタンパク質PbCap494のペプチド断片であってもよい。さらに、タンパク質PbCap93またはタンパク質PbCap494に相当する各種のマラリア原虫由来のタンパク質のペプチド断片であってもよい。
【0020】
本発明の免疫原性ポリペプチドは、(a1)配列番号3に記載のアミノ酸配列からなるポリペプチドPbCap93-1、(a2)配列番号3に記載のアミノ酸配列に90%以上、好ましくは95%以上の同一性を有するアミノ酸配列からなり、かつ、免疫原性を有するポリペプチド、(b1)配列番号4に記載のアミノ酸配列からなるポリペプチドPbCap494-1、(b2)配列番号4に記載のアミノ酸配列に90%以上、好ましくは95%以上の同一性を有するアミノ酸配列からなり、かつ、免疫原性を有するポリペプチド、(c1)配列番号5に記載のアミノ酸配列からなるポリペプチドPbCap494-2、(c2)配列番号5に記載のアミノ酸配列に90%以上、好ましくは95%以上の同一性を有するアミノ酸配列からなり、かつ、免疫原性を有するポリペプチド、(d1)配列番号6に記載のアミノ酸配列からなるポリペプチドPbCap494-3、(d2)配列番号6に記載のアミノ酸配列に90%以上、好ましくは95%以上の同一性を有するアミノ酸配列からなり、かつ、免疫原性を有するポリペプチドなどを包含する。
【0021】
本発明の一態様において、前記の(a1)~(d2)のポリペプチドの少なくとも1つを含む免疫原性タンパク質を含むマラリア伝播阻止型ワクチンである。(a1)~(d2)のポリペプチドの少なくとも1つを含む免疫原性タンパク質は、配列番号1に記載のアミノ酸配列からなるタンパク質PbCap93や、配列番号2に記載のアミノ酸配列からなるタンパク質PbCap494のほか、これらのアミノ酸配列に90%以上、好ましくは95%以上の同一性を有するアミノ酸配列からなり、かつ、免疫原性を有するタンパク質などを包含する。
【0022】
さらに本発明の免疫原性ポリペプチドは、前記の(a1)~(d2)のポリペプチドを構成単位として、例えば、
(a1)-(a2)-(a1)-(a2)-・・・-(a1)-(a2)や、
(a1)-(b1)-(c1)-(d1)-・・・-(c1)-(d1)などのように規則的に反復しているものや、例えば、
(a1)-(b2)-(b1)-(b2)-・・・-(a2)-(a2)や、
(a2)-(b1)-(c1)-(b2)-・・・-(d2)-(b2)などのように不規則に反復しているものも包含する。
構成単位を反復して含む場合は、その反復数はとくに限定されない。
【0023】
本発明のワクチンは、経口用であってもよい。
また本発明は一態様において、マラリア原虫のオーシスト期に特異的に発現するマラリア原虫由来の免疫原性ポリペプチドを含む、経口用のマラリア伝播阻止型ワクチンであってもよい。
なお、本発明において、「マラリア伝播阻止型ワクチン」は、マラリアが伝播するのを阻止するワクチンであればよい。例えば、マラリア原虫の媒介蚊の体内の発育段階においてマラリア原虫において発現する抗原を含むワクチンであってもよい。
【0024】
本発明のワクチンによって伝播を阻止する対象となるマラリアは、オーシスト期に免疫原性タンパク質を特異的に発現するマラリア原虫に媒介されるものであれば、とくに限定されない。例えば、熱帯熱マラリア原虫(Plasmodium falciparum)、三日熱マラリア原虫(Plasmodium vivax)、四日熱マラリア原虫(Plasmodium malariae)、サルマラリア原虫(Plasmodium knowlesi)、マウスマラリア原虫(Plasmodium berghei)などに限らず、既知のマラリア原虫に媒介されるマラリアの伝播を阻止することができる。とくに、マウスマラリア原虫(Plasmodium berghei)のタンパク質PbCap93またはタンパク質PbCap494に相当するタンパク質を発現するマラリア原虫に媒介されるマラリアの伝播を好適に阻止することができる。
【0025】
マラリア原虫は、ハマダラ蚊の体内において、所定の発育段階を有する。すなわち、マラリア原虫は、ハマダラ蚊の吸血行為によりハマダラ蚊内に侵入し、その消化管内で雌雄の生殖体に変化し、雌雄で接合体となり、オーキネートからオーシストに分化する。
【0026】
ポリペプチドは、常法に従い、合成してもよく、例えば、形質転換された宿主細胞を培養し、発現ベクターに組込まれた目的DNAを発現させ、タンパク質精製することによって得ることができる。例えば、超音波処理、ホモジナイザー処理および高圧圧縮処理等により宿主細胞を破壊して抽出液を得、この抽出液から、溶媒抽出、塩析、脱塩、有機溶媒沈殿、限外濾過、イオン交換、疎水性相互作用、HPLC、ゲル濾過およびアフィニティークロマトグラフィー、電気泳動、等電点電気泳動などの方法を組合せることによって、分離・精製することができる。
【0027】
形質転換に用いる宿主細胞には、例えば原核生物としてエシェリシア属、バチルス属などの微生物、真核生物としてサッカロマイセス属、シゾサッカロマイセス属、ピチア属などの酵母類、ヒト胎児腎細胞チャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞などの哺乳動物細胞、バキュロウイルス感受性昆虫細胞および昆虫体を用いることができる。
【0028】
本発明のワクチンを経口用とする場合、例えば、「第15改正日本薬局方 製剤総則」に記載の方法に従った製剤の常法によって調製されるもので、経口用に適したものを用いることができる。剤型は、カプセル剤、顆粒剤、丸剤、散剤、錠剤などをあげることができる他、経口用の剤型に応じて、各種の添加剤、例えば、賦形剤、結合剤、崩壊剤、コーティング剤などを配合してもよい。また、経口用摂食調整剤は、人為的に配合した組成物だけに限定されるものではなく、例えば、食品用に用いられる各種の組成物はもちろん、葉、根、果実などの野菜や果物などの食品素材、餌素材、飲食料などの加工した最終製品(食品)をも含み、およそ摂食または給餌の対象となる任意のものを包含する概念を示している。
【0029】
本発明のワクチンは、マラリア原虫由来の免疫原性ポリペプチドを発現する形質転換体を含有してもよい。前記形質転換体は、摂食に問題がなく、形質転換により前記ポリペプチドが発現して経口にて免疫可能であれば、とくに限定されない。例えば、納豆菌、乳酸菌、酢酸菌、酵母、担子菌などの従来から食品に用いられる微生物の形質転換体や、前記ポリペプチドを高発現する形質転換動物であってもよいが、とくに経口で摂取することや、動物に感染性を有する病原体(ウイルス、菌類、細菌類、寄生生物等)の汚染の危険性を回避することが可能であるため、イネ、コムギ、オオムギ、トウモロコシ、イチゴ、トマト、ジャガイモ、レタス、ダイズ、アズキなどの形質転換植物が好ましい。
【0030】
また、前記形質転換体は可食性組織を有していることが好ましい。かかる可食性組織としては、例えば、担子菌の子実体(キノコ)、植物の果実(例えば、イチゴ果実、トマト)、根(大根、ジャガイモ)、葉(キャベツ、レタス)、種子(イネ、オオムギ、コムギ、トウモロコシなど穀物およびダイズ、アズキなど豆類)などが挙げられる。なかでも、加熱などの調理によって免疫原性が失活しないことや摂食または給餌が簡便であることから、生食が可能な可食性組織が好ましい。
【0031】
形質転換体の作成方法は、とくに限定されず、一般によく知られる方法で作出することができる。例えば、カルシウム法によるコンピテント化を利用する方法(主に細菌)、ファージやプラスミドなどのベクターを用いる方法(主に細菌)、プロトプラスト-PEG法(主に糸状菌)、リチウム法(主に酵母)、エレクトロポレーション法、パーティクルガンによる方法、アグロバクテリウム法(植物)など、各種の対象に適した形質転換法を用いることができる。
【0032】
本発明のワクチンに用いることができる形質転換体は、マラリア原虫のオーシスト期に特異的に発現するマラリア原虫由来の免疫原性タンパク質またはそのペプチド断片をコードするDNA、とくにタンパク質PbCap93もしくはそのペプチド断片をコードするDNA、タンパク質PbCap494もしくはそのペプチド断片をコードするDNAなどが発現可能に導入されている。
【0033】
本発明は、一態様において、発現するDNAが、
(a1)配列番号7に記載の塩基配列からなるDNA(タンパク質PbCap93をコードするDNA)、または、配列番号8に記載の塩基配列からなるDNA(タンパク質PbCap494をコードするDNA)
(b1)(a1)に記載の塩基配列からなるDNAと相補的な塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつ、免疫原性を有するタンパク質をコードするDNA、
(a2)配列番号9に記載の塩基配列からなるDNA(ポリペプチドPbCap93-1をコードするDNA)、配列番号10に記載の塩基配列からなるDNA(ポリペプチドPbCap494-1をコードするDNA)、配列番号11に記載の塩基配列からなるDNA(ポリペプチドPbCap494-2をコードするDNA)、もしくは、配列番号12に記載の塩基配列からなるDNA(ポリペプチドPbCap494-3をコードするDNA)、または、
(b2)(a2)に記載の塩基配列からなるDNAと相補的な塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつ、免疫原性を有するペプチド断片をコードするDNA
である。
【0034】
本発明は、一態様において、マラリア原虫由来の免疫原性ポリペプチドを発現する形質転換体に関する。
本発明の形質転換体は、上記の本発明のワクチンに用いることができる形質転換体であり、例えば、配列番号1に記載のアミノ酸配列からなるタンパク質PbCap93もしくはそのペプチド断片、または、配列番号2に記載のアミノ酸配列からなるタンパク質PbCap494もしくはそのペプチド断片をコードするDNAを発現可能に導入してなる。
【0035】
本発明の一態様において、形質転換体は、
(a1)配列番号7または8に記載の塩基配列からなるDNA、
(b1)(a1)に記載の塩基配列からなるDNAと相補的な塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつ、免疫原性を有するタンパク質をコードするDNA、
(a2)配列番号9、10、11または12に記載の塩基配列からなるDNA、または、
(b2)(a2)に記載の塩基配列からなるDNAと相補的な塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつ、免疫原性を有するペプチド断片をコードするDNA、
を発現可能に導入してなる。
【0036】
ここでいう「ストリンジェントな条件」とは、特異的なハイブリッドが形成され、非特異的なハイブリッドが形成されない条件をいう。かかる条件は、当業者が理解するものであるが、例えば、99.5%以上であるような相同性が高い核酸同士はハイブリダイズするが、それより相同性が低いDNA同士はハイブリダイズしないような条件が挙げられる。
【0037】
本発明は、一態様において、マラリアの伝播を阻止する方法に関し、本発明の方法は、例えば、本発明のマラリア伝播阻止型ワクチンを家畜または野生動物へ投与することを含む。
【0038】
本発明における、家畜または野生動物への投与は、非経口投与でもよいが、経口での投与が好ましい。非経口投与としては、注射剤による投与、経皮、経粘膜、経鼻あるいは経肺での投与が挙げられる。経口投与は、例えば、形質転換体の可食性組織を家畜や野生動物へ給餌することにより、投与してよい。給餌は、飼育環境中における家畜の給餌だけでなく、野生動物が食餌可能なように前記可食性組織を野生環境中に撒くことを含む。
【0039】
本明細書において、免疫原性とは、免疫反応を誘起する性質をいう。かかる性質には、例えば、免疫により抗体を産生する生体反応を惹き起こす抗原性や、サイトカインや炎症性因子などの免疫関連物質を変調させる性質などが含まれる。
【0040】
本発明のワクチンは、アジュバントを加えていてもよく、アジュバントとしては、例えば、水酸化アルミニウムゲル、リン酸アルミニウムゲル、植物性または鉱物性油脂と界面活性剤との混合物等を使用することができる。また、その配合量は、それぞれのアジュバントの特性に従った免疫刺激が可能な量であれば、とくに限定されない。
【0041】
本発明のワクチンは、通常のワクチンとして用いることができ、例えば、複数回投与し、ブースター効果を得ることが可能である。また、他のワクチンを投与した後の、ブースター用として利用することができる。例えば、本発明のワクチンと同種または異種のワクチンを予め投与した個体に、経口で投与し、ブースター効果を得ることができる。予め投与するワクチンは、投与形態はとくに限定されず、注射剤による投与、経皮、経粘膜、経鼻あるいは経肺での投与、経口投与であってよい。
【0042】
以下に、本発明に係る方法を実施例、試験例に基づき、さらに詳しく説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【実施例】
【0043】
(a)オーシスト発現タンパク質に関する候補遺伝子の選抜
Plasmo DB(http://plasmodb.org/plasmo/)のIdentify Genes based on P.b. life cycle MassSpec.Evidence(http://plasmodb.org/a/showQuestion.do?questionFullName=GeneQuestions.GenesByProteomicsProfile)を利用してオーシスト期にのみ発現する65遺伝子のうちトランスメンブレン領域を持つ14遺伝子を選択し、そのなかから新規タンパク質であるPBCAP93およびPBCAP494を含む5遺伝子を候補遺伝子とした。表1に記載のペプチドを、マレイミド法を用いてKLHにコンジュゲートし、それぞれ、日本白色種の家兎に免疫した。なお、抗体作製は、eurofins operon社の抗体作製サービスを用いて実施した。
【0044】
【0045】
(b)PbCap93-1の大腸菌発現
表1に記載の各アミノ酸領域をコードするDNAを12回反復させたコンストラクトをそれぞれ作製し、pCold IIIベクター系(TAKARA)で発現させた。
下記に記載のプライマーを用いて獲得したPCR増幅断片を、それぞれプラスミドベクターを制限酵素(Nde I/Pst I)処理後、プラスミドに導入し、これを用いて発現用大腸菌BL21(Agilent Technoligies Cat.230245)形質転換株を得た。
FW Primer: 5'-GAATTCCATATGATGATTTCCCATAACCACAACGACCAT-3'(配列番号13)
RV Primer: 5'-GAACTGCAGTCAAAGTTCATCCTTATGATGATGGTGGTG-3'(配列番号14)
【0046】
次いで形質転換大腸菌株を、アンピシリン100μg/mlが含まれたLB培地(10ml)にプラスミドが挿入された大腸菌を植菌し30℃で一晩振とう培養した。アンピシリン 100μg/mlが含まれたLB培地(200ml×2)にプラスミドが挿入された大腸菌を植菌し37℃で振とう培養し、培養液のOD600値が0.4~0.5となった時点で速やかに15℃に冷却し、30分間放置した。最終濃度が1.0mMとなるようにIPTGを添加し、15℃で一晩振とう培養した。
【0047】
(c)発現タンパク質の精製
IPTG発現誘導後の大腸菌(400ml)を集菌し、B/W Bufferを加え、超音破砕にて破砕する。その後、遠心分離(9800×g、10分)をして上清をNi-NTA Agarose (QIAGEN Cat.1018240) 4ml(Bed Volume)に混合し、シェーカーを用いて4℃で一晩吸着させた。一晩吸着をさせた後、遠心分離(2000×g、2分)をして上清は捨て、Ni-NTA AgaroseをB/W Bufferにて遠心洗浄(2000×g、2分×2回)をした。Poly-Prep(登録商標) Cromatography Columns (BIO RAD Cat.731-1550) にNi-NTA Agaroseを充填し、B/W Bufferにて洗浄した(10ml×4回)。付属のElution Buffer1~5を5mlずつ順にPoly-Prep(登録商標) Cromatography Columnsに通し、各フラクションを回収した。
【0048】
(d)発現タンパク質を用いたELISAによる抗体価の確認
PBSに溶解した精製した発現タンパクを96ウェルプレートに添加し、一晩4℃で固相化した。ブロッキング後、抗PbCap93-1抗体を100μl添加し、4℃で2時間反応させた。PBSで洗浄後、ペルオキシダーゼコンジュゲート抗ウサギIgGを添加し、4℃で2時間反応させ、洗浄、発色後、吸光度を測定することで(a)において作製した抗体の抗体価を確認した。
【0049】
(e)ペプチド抗体のオーシスト発現タンパク質の認識確認
P. berghei感染吸血後15日目のA. gambiae (Keele strain)の中腸をスライドグラスに塗抹・風乾後、メタノールで固定した。風乾後、Liquid Blocker (Daido Sangyo,Japan)で中腸塗抹部を囲み、Image-iT(商標) FX Signal Enhancer (Invitrogen USA)を1滴垂らし、37度で30分静置した。PBSで洗浄後、1次抗体として抗PbCap93-1および抗PbCap494-1抗体含ウサギ血清を4℃で2時間反応させ、2、3回PBSで洗浄し、2次抗体としてAlexa Fluor 488 抗ウサギIgG(Molecular Probes, USA)(1:800倍希釈)を4℃で1時間反応させ、2、3回PBSで洗浄した。さらに1次抗体として抗PbCap380ウサギ血清(1:1000倍希釈)を4度で1時間反応させ、2、3回PBSで洗浄し、2次抗体としてAlexa Fluor 568 抗ウサギIgG(Molecular Probes, USA)(1:800倍希釈)を4℃で1時間反応させ、2、3回PBSで洗浄した。核の染色にはHoechest 33258 (Polysciences,USA)を最終濃度5μg/mlとなるように2次抗体に添加して用いた。Fluoromount/Plus Sample(Diagnostic Bio System,USA)をスライドグラスに1滴垂らし、カバーガラスを被せて、蛍光顕微鏡下で観察した結果を
図2に示す。これらの抗体がオーシストを認識すること、ならびに、PbCap93およびPbCap494がオーシスト壁の外側に局在することが明らかになった。
【0050】
(f)受動免疫によるオーシスト形成阻害
PbCap494-1~3
Plasmodium berghei(1×10
6)をBalb/cマウスに尾静脈投与した。使用した蚊(Anopheles stephensi)は血清投与前(Pre)と血清投与後(Post)の2つのBoxに分け、各Boxに蚊100匹(雌雄含む)ずつ準備した。赤血球寄生(パラシテミア)率(感染赤血球/全赤血球)10%前後になったら蚊に10分間吸血感染させた(Pre感染蚊)。その後、PbCap494-1のペプチドの免疫および、PbCap494-2およびp3の2領域を合わせたペプチドの免疫による(抗PbCap494-1抗体、および、抗PbCap494-2,3抗体)抗PbCap494ウサギ抗体をマラリア感染マウスに尾静脈投与した。尾静脈投与から5分後に蚊に10分間吸血感染させる(Post感染蚊)。吸血感染後15日後にPre感染蚊/Post感染蚊それぞれを解剖(30匹以上)し、蚊中腸内に形成されたオーシスト数をカウントし比較した。尾静脈にPbCap494-1抗体を10μg/匹(マウス)、および、200μg/匹(マウス)を投与したものの結果を
図2に示す。10μg投与、および、200μg投与ともにオーシスト数が有意に減少し、抗体量が多いほうがよりオーシスト数の減少傾向がみられた。また、抗PbCap494-1抗体および抗PbCap494-2,3抗体を100μgずつ混合して200/匹(マウス)を投与したものの結果を
図3に示す。投与群においてオーシスト数が有意に減少した。
【0051】
PbCap93-1
Plasmodium berghei(1×10
7)をBalb/cマウスに腹腔内投与した。使用した蚊(Anopheles stephensi )は血清投与前(Pre)と血清投与後(Post)の2つのBoxに分け、各Boxに蚊100匹(雌雄含む)ずつ準備した。前記マウスの赤血球寄生(パラシテミア)率(感染赤血球/全赤血球)10%前後になったら蚊に10分間吸血感染させた(Pre感染蚊)。その後、抗PbCap93-1ウサギ血清をマラリア感染マウスに尾静脈投与(100μl)した。尾静脈投与から5分後に蚊に10分間吸血感染させる(Post感染蚊)。吸血感染後7日後にPre感染蚊/Post感染蚊それぞれを解剖(30匹以上)し、蚊中腸内に形成されたオーシスト数をカウントし比較した。結果を
図4に示す。投与群においてオーシスト数が有意に減少した。
また、コントロール用ウサギ抗体を同じように投与したものの結果を
図5に示す。投与によるオーシスト数の減少は見られなかった。
【0052】
(g)抗原発現イチゴの作出
植物発現用のベクターの作製
PbCap93-1に関する植物発現用のコンストラクトを
図6に示す。なお、
図6中の各略号は、次のとおりであるCaMV P35S 836bp:転写促進因子、Ω:TMVオメガ配列、pRI 201 AN DNA(TAKARA)のAN配列をΩ配列で置換したもの、SP of Tobacco PR1:タバコPR1由来シグナルペプチド配列、Pb ANKA 090520/12rpt:Pbcap93エピトープ配列、T hsp 250bp:シロイヌナズナHSP遺伝子由来ターミネーター配列、His tag:ヒスチジン・タグ、KDEL:小胞体保留シグナル、FW Primer:順方向プライマー、RV Primer:逆方向プライマーである。なお、上記のpRI 201 AN DNAは、国立大学法人奈良先端科学技術大学院大学より技術および試料の提供を受けて、TAKARAが製品化したものである。
【0053】
プラスミド構築方法
In Fusion HD PCR Cloning Kit(TAKARA)を使用しNde IとSac Iで線状化したベクターに下記プライマーでPCR増幅した遺伝子を導入し、HB101を形質転換して回収した。
FW Primer: ttctacaactacacatATGGGATTCGTGCTTTTCTCTC(配列番号15)
RV Primer: cttcatcttcataagagctcTCAAAGTTCATCCTTATG(配列番号16)
なお、上記プライマーにおいて小文字部分は、ベクター由来の塩基配列である。
【0054】
形質転換イチゴ形質転換
アグロバクテリウム法により前記プラスミドを導入した菌株を使用し形質転換を実施した。
下記の遺伝子両端部に設定した特異的FW Primer(順方向プライマー)とRV Primer(逆方向プライマー)を用い、ゲノミックPCRを行った。ゲノムDNAの抽出には核酸抽出キットMagExtractor-Plant Genome-(TOYOBO)を用い、核酸精製システムMagExtractor MFX-6100 (TOYOBO)を使用するプロトコールに準じて行った。PCR産物は、1.5%TBEアガロースゲルを用いた電気泳動により検出した(
図7)。
FW Primer: CTCTCACTCTTGCAGGGCTATTTCCCATAACCAC(配列番号17)
RV Primer: cttcatcttcataagagctcTCAAAGTTCATCCTTATG(配列番号18)
なお、上記プライマーにおいて小文字部分は、ベクター由来の塩基配列である。
【0055】
(f)形質転換イチゴを利用した経口ワクチンの免疫学的評価
Balb/cマウスに、10μgのPbCap93をアジュバンド(Titer Max Gold(フナコシ))と混ぜ(抗原:アジュバンド=1:1)、筋肉注射で10μg/100μl/匹で免疫した。これらのマウスに、初回免疫から2、16、20、24日目に経口投与(凍結乾燥した形質転換イチゴの粉末を約0.1~0.15g/1回投与)により、追加免疫を行った。同様に、初回免疫から2日目、28日目に、筋肉注射により、追加免疫を行った。pre、11、15、25、41日目に、マウスの採血し、得られた血清のPbCap93-1に対する抗体価をELISAにより測定した。形質転換イチゴにて追加免疫したマウスにおいて、25日目以降に抗体価の上昇が観察された。結果を
図9に示す。
【0056】
本明細書に記載の配列番号と配列について、表2に示す。
【表2】
【配列表】