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特許7000101シリカ分散液、研磨スラリーおよび研磨スラリー調製用キット
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2021-12-27
(45)【発行日】2022-01-19
(54)【発明の名称】シリカ分散液、研磨スラリーおよび研磨スラリー調製用キット
(51)【国際特許分類】
   C01B 33/14 20060101AFI20220112BHJP
   C09K 3/14 20060101ALI20220112BHJP
   C09G 1/02 20060101ALI20220112BHJP
   G11B 5/84 20060101ALI20220112BHJP
【FI】
C01B33/14
C09K3/14 550D
C09G1/02
G11B5/84 A
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2017190896
(22)【出願日】2017-09-29
(65)【公開番号】P2019064852
(43)【公開日】2019-04-25
【審査請求日】2020-06-22
(73)【特許権者】
【識別番号】000236702
【氏名又は名称】株式会社フジミインコーポレーテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100117606
【弁理士】
【氏名又は名称】安部 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100136423
【弁理士】
【氏名又は名称】大井 道子
(74)【代理人】
【識別番号】100154449
【弁理士】
【氏名又は名称】谷 征史
(72)【発明者】
【氏名】河野 智章
(72)【発明者】
【氏名】大津 平
(72)【発明者】
【氏名】横道 典孝
【審査官】印出 亮太
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-128638(JP,A)
【文献】特開平01-207228(JP,A)
【文献】特開2016-124977(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第101463225(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01B 33/00-33/193
B24B 3/00- 3/60;
21/00-39/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリカ粒子と、有機防腐剤と、水と、を含むシリカ分散液であって、
前記シリカ分散液に含まれる前記有機防腐剤の炭素重量W0と、前記シリカ分散液に遠心分離処理を施して前記シリカ粒子を沈降させた上澄みに含まれる前記有機防腐剤の炭素重量W1とから、次式:
吸着指数α=[(W0-W1)/W0]×100;
により算出される吸着指数αが5以下であり、
前記有機防腐剤として、以下の条件:
非共有電子対を有する窒素原子を含む;および
前記窒素原子とそのα位原子との間、または前記α位原子とβ位原子との間にπ結合を有する;
を満たす構造部分を有する化合物を含み、
前記シリカ粒子の濃度は5重量%以上であり、
前記有機防腐剤の濃度は0.5重量%以下である、シリカ分散液。
【請求項2】
前記シリカ粒子の濃度が20重量%以上であり、前記シリカ分散液のpHが2.0~12.0である、請求項1に記載のシリカ分散液。
【請求項3】
前記有機防腐剤の前記シリカ粒子への吸着量は、該シリカ粒子の表面積1m当たり5μg以下である、請求項1または2に記載のシリカ分散液。
【請求項4】
前記有機防腐剤の濃度が0.1重量%以下である、請求項1から3のいずれか一項に記載のシリカ分散液。
【請求項5】
前記シリカ粒子のBET径が10nm以上である、請求項1から4のいずれか一項に記載のシリカ分散液。
【請求項6】
酸と混合して研磨スラリーを調製するために用いられる、請求項1から5のいずれか一項に記載のシリカ分散液。
【請求項7】
請求項1から6のいずれか一項に記載のシリカ分散液からなる第一組成物と、
少なくとも酸を含む第二組成物と、
を含み、
前記第一組成物と前記第二組成物とは互いに分けて保管されている、研磨スラリー調製用キット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シリカ分散液、該シリカ分散液を含む研磨スラリー、および該シリカ分散液を構成要素として含む研磨スラリー調製用キットに関する。
【背景技術】
【0002】
金属や半金属、非金属、その酸化物等の材料表面に対して、研磨スラリーを用いた研磨加工が行われている。上記研磨スラリーとしては、一般に、研磨対象物の材質や研磨目的等に応じた砥粒が水を主体とする液状媒体に分散した形態のものが用いられる。例えばハードディスク用の研磨対象物としては、ニッケルリンメッキ層を有する磁気ディスク基板やガラス基板などがある。ニッケルリンメッキ層を有する磁気ディスク基板用研磨スラリーの砥粒として、粗研磨工程にアルミナやシリカを、精密研磨工程にシリカを用いられるケースがある。ガラス基板用研磨スラリーの砥粒としては、粗研磨工程にセリア、ジルコニアやシリカを、精密研磨工程にシリカを用いられるケースがある。このような研磨スラリーは、流通や保存の便宜から、研磨対象物(ワーク)に供給される研磨スラリー(ワーキングスラリー)に比べて高濃度の砥粒が水に分散した砥粒分散液と、該砥粒分散液と混合して研磨スラリーの調製に用いられる他の成分とに分けて提供され得る。例えば、砥粒としてシリカ粒子を用いる研磨スラリーは、上記砥粒分散液としてのシリカ分散液と他の成分とを混合することにより好適に調製され得る。
【0003】
上記砥粒分散液には、流通や保存の際の腐敗を防止するために、防腐剤が添加されることがある。例えば特許文献1,2には、特定の構造を有する有機防腐剤を含むシリカ分散液が開示されている。なお、特許文献3には添加剤水溶液に防腐剤を含有させ得ることが記載され、特許文献4には研磨用組成物に防腐剤を含有させ得ることが記載されているが、これらの特許文献にはシリカ分散液に有機防腐剤を含有させることの具体的開示はない。また、特許文献5は、アルミナと防腐剤とを含む研磨用組成物に関する文献であって、有機防腐剤を含むシリカ分散液を開示するものではない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2016-124743号公報
【文献】特開2016-124977号公報
【文献】特開2016-127268号公報
【文献】特開2017-11220号公報
【文献】特開2006-176733号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明者らは、研磨スラリーの調製に用いられ得るシリカ分散液の防腐について詳細に検討した結果、特許文献1,2に記載された技術では、有機防腐剤の使用による防腐性能が適切に発揮されない場合があることを見出した。有機防腐剤を用いてシリカ分散液をより効果的に防腐する技術が提供されれば有益である。
【0006】
本発明は、上記の事情に鑑みてなされたものであって、有機防腐剤を効率よく利用して良好な防腐性能を発揮し、かつ研磨性能と両立しうる研磨スラリーの構成成分として好適なシリカ分散液を提供することを目的とする。関連する他の目的は、かかるシリカ分散液を含む研磨スラリーおよび研磨スラリー調製用キットを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、シリカ粒子と有機防腐剤とを含むシリカ分散液において、該シリカ分散液の液相中および上記シリカ粒子上への上記有機防腐剤の分配比が、上記シリカ分散液の構成によって異なる点に着目した。そして、上記有機防腐剤の分配比を適切に制御することによって上記課題を解決し得ることを見出して本発明を完成した。
【0008】
この明細書により提供されるシリカ分散液は、シリカ粒子と、有機防腐剤と、水と、を含む。上記シリカ分散液は、上記シリカ分散液に含まれる上記有機防腐剤の炭素重量W0と、上記シリカ分散液に遠心分離処理を施して上記シリカ粒子を沈降させた上澄みに含まれる上記有機防腐剤の炭素重量W1とから、次式:
吸着指数α=[(W0-W1)/W0]×100;
により算出される吸着指数αが5以下であることによって特徴づけられる。
【0009】
吸着指数αがより小さいことは、上記シリカ分散液に含まれる有機防腐剤のうち、上記遠心分離処理によってシリカ粒子とともに沈降する有機防腐剤の比率が低いこと、すなわち上記シリカ分散液の液相中に存在する有機防腐剤の比率がより高いことを意味する。したがって、吸着指数が5以下に抑制されたシリカ分散液によると、該シリカ分散液に含まれる有機防腐剤を効率よく利用して良好な防腐効果を発揮することができる。かかるシリカ分散液は、良好な防腐性を示し、かつ研磨性能と両立しうる研磨スラリーの構成成分として適したものとなり得る。例えば、有機防腐剤の使用に起因する研磨レートの低下や清浄性悪化、研磨スラリーの調製過程におけるシリカ粒子の凝集起因の欠陥を生じにくいものとなり得る。吸着指数αの高い有機防腐剤にてシリカ分散液の防腐を実現するためには有機防腐剤の添加量を増やす必要があるため、上記研磨性能との両立が図りにくいものとなり、またコストや環境負荷の観点でも好ましくない。
【0010】
ここに開示されるシリカ分散液は、上記シリカ粒子の濃度が15重量%以上であることが好ましい。以下、シリカ粒子の濃度のことを、略して「シリカ濃度」ともいう。シリカ濃度の高いシリカ分散液では、シリカ粒子上に存在する有機防腐剤が該シリカ粒子の凝集を引き起こす要因となりやすい。したがって、シリカ分散液の吸着指数αを5以下に抑えることが特に有意義である。
【0011】
ここに開示されるシリカ分散液は、pHが2.0~12.0であることが好ましい。このようなpHを有するシリカ分散液は、より強酸性またはより強アルカリ性のシリカ分散液に比べて腐敗しやすいため、ここに開示される技術を適用する意義が大きい。
【0012】
ここに開示されるシリカ分散液のいくつかの態様において、上記有機防腐剤の上記シリカ粒子への吸着量は、該シリカ粒子の表面積1m当たり5μg以下であることが好ましい。シリカ粒子の表面積当たりの有機防腐剤の吸着量が少ないことは、研磨レートの低下抑制や清浄性悪化抑制やシリカ粒子の凝集起因の欠陥発生抑制の観点から、研磨スラリーの構成成分としての利用において有利となり得る。
【0013】
ここに開示されるシリカ分散液のいくつかの態様において、上記有機防腐剤の濃度は0.1重量%以下であり得る。有機防腐剤の濃度を0.1重量%以下に制限することは、研磨レートの低下抑制や清浄性悪化抑制、欠陥抑制、コストの低減や環境負荷軽減の観点から有利となり得る。ここに開示されるシリカ分散液は、上記吸着指数αが5以下であることにより、該シリカ分散液中の有機防腐剤を有効に利用することができる。したがって、吸着指数αが5より大きいシリカ分散液に比べて、より低い有機防腐剤濃度においても良好な防腐性を示すものとなり得る。
【0014】
ここに開示されるシリカ分散液は、上記シリカ粒子のBET径が10nm以上であることが好ましい。このようなシリカ粒子は、研磨レートが重視される研磨スラリーの砥粒成分として好ましく用いられ得る。したがって、ここに開示される技術を適用して研磨レートの低下抑制と良好な防腐効果とを両立する意義が大きい。
【0015】
上記有機防腐剤としては、以下の条件:
(A)非共有電子対を有する窒素原子を含む;および
(B)上記窒素原子とそのα位原子との間、または上記α位原子とβ位原子との間にπ結合を有する;
を満たす構造部分を有する化合物を好ましく使用し得る。ここに開示される技術は、上記条件(A),(B)を満たす有機防腐剤を用いて好適に実施され得る。
【0016】
ここに開示されるシリカ分散液は、研磨スラリーを調製するために好ましく用いられ得る。なかでも、少なくともpH調整剤と上記シリカ分散液とを混合することにより、該混合前における上記シリカ分散液とはpHの異なる研磨スラリーを調製する用途に適用することができる。有機防腐剤のシリカ粒子への吸着状態は、pHによって変動し得る。上記吸着状態の変動は、シリカ粒子の凝集を引き起こす要因となり得る。有機防腐剤のシリカ粒子上への分配比の低いシリカ分散液、すなわち吸着指数αの小さいシリカ分散液によると、シリカ分散液の良好な防腐効果とpH変動などに対する分散安定性とを好適に両立させやすい。
【0017】
ここに開示されるシリカ分散液は、例えば、酸と混合して研磨スラリーを調製するためのシリカ分散液として適用することができる。この明細書により、ここに開示されるいずれかのシリカ分散液と、酸と、が含まれる研磨スラリーを提供可能である。かかる研磨スラリーは、シリカ分散液の防腐効果に優れ、かつ良好な研磨レートを示すものとなり得る。
【0018】
ここに開示される研磨スラリーの好適な用途として、磁気ディスク基板を研磨する用途が挙げられる。なかでも、ガラス基板や表面にニッケルリンメッキ層を有する磁気ディスク基板の研磨に有用である。以下、表面にニッケルリンメッキ層を有する磁気ディスク基板のことを略して「Ni-P基板」ともいう。ここに開示される研磨スラリーは、例えば、磁気ディスク基板の研磨に好ましく用いられ得る。
【0019】
この明細書によると、例えば、ここに開示されるいずれかのシリカ分散液からなる第一組成物と、少なくとも酸を含む第二組成物と、を含む、研磨スラリー調製用キットが提供可能である。上記キットにおいて、上記第一組成物と上記第二組成物とは、互いに分けて保管されている。このように構成された研磨スラリー調製用キットは、該キットの流通時や保存時において上記第一組成物の防腐性がよく、かつ該キットを用いて調製される研磨スラリーにおいて良好な研磨レートを発揮し得る。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の好適な実施形態を説明する。なお、本明細書において特に言及している事項以外の事柄であって本発明の実施に必要な事柄は、当該分野における従来技術に基づく当業者の設計事項として把握され得る。本発明は、本明細書に開示されている内容と当該分野における技術常識とに基づいて実施することができる。なお、この明細書において「重量」と「質量」とは互換的に用いられる。
【0021】
<シリカ分散液>
(吸着指数α)
この明細書により開示されるシリカ分散液は、シリカ粒子と有機防腐剤と水とを含む。上記シリカ分散液の吸着指数αは5以下である。ここで、吸着指数αは、上記シリカ分散液に含まれる上記有機防腐剤の炭素重量W0と、上記シリカ分散液に遠心分離処理を施して上記シリカ粒子を沈降させた上澄みに含まれる上記有機防腐剤の炭素重量W1とから、次式:
吸着指数α=[(W0-W1)/W0]×100;
により算出される。上記遠心分離処理は、室温(20~30℃、例えば25℃)において、シリカ粒子を沈降させることが可能な条件で行うことができ、例えば後述する実施例に記載の条件で行うことができる。上記上澄みに含まれる有機防腐剤の炭素重量W1は、例えば、該上澄みの全有機炭素量(TOC)を測定し、その測定結果に基づいて求めることができる。また、シリカ分散液に含まれる前記有機防腐剤の炭素重量W0は、該シリカ分散液に含まれる有機防腐剤と同種の有機防腐剤を等濃度で純水に混合して防腐剤希釈水溶液を調製し、同様にTOCを測定し、その測定値に基づいて求めることができる。W1およびW0は、具体的には次式により算出することができる。
【0022】
W1=[TOC1×Vu]
W0=[TOC0×Vs]
Vs=Ws/ρs
Vu=Vs-(Wsilica/ρsilica
TOC1:シリカ分散液の上澄みについて測定されたTOC(mg/l)
TOC0:シリカ分散液の防腐剤と同濃度となるよう希釈された防腐剤希釈水溶液のTOC(mg/l)
Vu:シリカ分散液の上澄みの体積(ml)
Vs:シリカ分散液の体積(ml)
Ws:シリカ分散液の質量(g)
ρs:シリカ分散液の密度(g/ml)
silica:シリカの質量(g)
ρsilica:シリカの密度(典型的には2.2g/mlを用いる。)
【0023】
TOCの測定は、例えば島津製作所社製の全有機体炭素計(燃焼触媒酸化方式、型式「TOC-5000A」)またはその相当品を用いて行うことができる。より具体的には、例えば、後述する実施例に記載の手順で、シリカ分散液の吸着指数αを求めることができる。なお、測定対象のシリカ分散液が有機防腐剤以外の有機化合物を含む場合は、例えば、該シリカ分散液から有機防腐剤を除いた組成の参照液を調製し、該参照液を遠心分離して得られた上澄みのTOCを測定し、この参照液の上澄みのTOCを利用して上記測定対象のシリカ分散液の上澄みのTOCを補正することにより、有機防腐剤由来のTOCを求めることができる。
【0024】
吸着指数αが5以下のシリカ分散液によると、該シリカ分散液に含まれる有機防腐剤を効率よく利用して良好な防腐効果を発揮することができる。かかるシリカ分散液は、該シリカ分散液を用いて調製される研磨スラリーにおいて、有機防腐剤の存在に起因する弊害、例えば研磨レートの低下を抑制しやすいので好ましい。
【0025】
ここに開示されるシリカ分散液のいくつかの態様において、上記吸着指数αは、例えば4.5以下であってよく、4以下でもよく、3.5以下でもよい。吸着指数αの減少により、シリカ分散液に含まれる有機防腐剤の利用効率がさらに上昇する傾向にある。シリカ分散液の吸着指数αが小さいことは、研磨レートの低下抑制、清浄性悪化抑制、酸との混合等のpH変化に対する凝集防止性の向上、凝集起因の欠陥抑制等の研磨性能との両立の観点からも、コストや環境負荷の観点からも有利となり得る。ここに開示される技術は、吸着指数αが3.0以下、2.5以下、1.5以下、または1.0以下のシリカ分散液の態様でも好適に実施され得る。吸着指数αの下限は特に限定されず、例えば0であってもよい。吸着指数αは、例えば、シリカ分散液に含まれる有機防腐剤の種類および濃度の選択、シリカ分散液に含まれるシリカ粒子の種類、形状および濃度の選択、シリカ分散液のpHの選択、等により調節することができる。
【0026】
(シリカ粒子)
シリカ粒子の種類や性状等は特に限定されず、使用目的や使用態様等に応じて、該シリカ粒子を含むシリカ分散液において所望の吸着指数αが得られるように適宜選択することができる。なお、ここでシリカ粒子とは、シリカを主成分とする粒子をいい、実質的にシリカからなる粒子のほか、例えば、該粒子の90重量%以上、95重量%以上、または98重量%以上がシリカからなる粒子を包含し得る。
【0027】
使用し得るシリカ粒子の例としては、特に限定されないが、コロイダルシリカ、沈降シリカ、ケイ酸ソーダ法シリカ、アルコキシド法シリカ、フュームドシリカ、乾燥シリカ、爆発法シリカ等が挙げられる。使用し得るシリカ粒子の例には、さらに、上記シリカ粒子を原材料として得られたシリカ粒子が挙げられる。そのようなシリカ粒子の例には、上記原材料のシリカ粒子(以下「原料シリカ」ともいう。)に、加温、乾燥、焼成等の熱処理、オートクレーブ処理等の加圧処理、解砕や粉砕等の機械的処理、表面改質等から選択される1または2以上の処理を適用して得られたシリカ粒子が含まれ得る。表面改質としては、例えば、官能基の導入、金属修飾等の化学的修飾が挙げられる。ここに開示されるシリカ分散液は、このようなシリカ粒子の1種を単独でまたは2種以上を組み合わせて含むものであり得る。
【0028】
ここに開示されるシリカ分散液の構成成分として使用し得るシリカ粒子の一好適例として、コロイダルシリカが挙げられる。なかでも、ケイ酸ソーダ法シリカやアルコキシド法シリカのように、水相での粒子成長を経て合成されたコロイダルシリカの使用が好ましい。この種のコロイダルシリカを含むシリカ分散液によると、高い研磨レートと良好な面精度とを両立する研磨スラリーが好適に達成され得る。ここに開示されるシリカ分散液がコロイダルシリカを含む場合、該コロイダルシリカは、1種であってもよく、製造条件および/または物性の異なる2種以上であってもよい。また、上記シリカ分散液は、シリカ粒子として1種または2種以上のコロイダルシリカのみを含む構成であってもよく、コロイダルシリカと、他のシリカ粒子すなわちコロイダルシリカ以外のシリカ粒子とを組み合わせて含む構成であってもよい。好ましい一態様に係るシリカ分散液は、シリカ粒子として1種または2種以上のコロイダルシリカのみを含む。シリカ粒子としてコロイダルシリカのみを用いることにより、高い研磨レートを保ちつつ、より良好な面精度(例えばうねりの低減された表面)が実現され得る。
【0029】
コロイダルシリカの粒子形状は特に限定されず、例えば球形であってもよく、非球形であってもよい。非球形の具体例としては、ピーナッツ形状、繭形状、突起付き形状、ラグビーボール形状等が挙げられる。ピーナッツ形状は、例えば落花生の殻の形状であり得る。突起付き形状は、例えば金平糖形状であり得る。
【0030】
シリカ粒子の他の例として、例えば、原料シリカに対して熱処理を施して得られたシリカ粒子(以下「熱処理シリカ」ともいう。)、具体的には加温されたシリカ粒子、乾燥されたシリカ粒子、焼成されたシリカ粒子等が挙げられる。ここで、加温されたシリカ粒子とは、典型的には、60℃以上110℃未満の環境下に一定時間以上、例えば15分以上、典型的には30分以上保持する処理を経て得られたシリカ粒子をいう。また、乾燥されたシリカ粒子とは、典型的には、110℃以上500℃未満、好ましくは300℃以上500℃未満の環境下に一定時間以上、例えば15分以上、典型的には30分以上保持する処理を経て得られたシリカ粒子をいう。そして、焼成されたシリカ粒子(以下「焼成シリカ」ともいう。)とは、典型的には500℃以上、好ましくは700℃以上、さらに好ましくは900℃以上の環境下に一定時間以上、例えば15分以上、典型的には30分以上保持する処理を経て得られたシリカ粒子をいう。上述したいずれかの原料シリカ、すなわち、沈降シリカ、ケイ酸ソーダ法シリカ、アルコキシド法シリカ、フュームドシリカ、乾燥シリカ、爆発法シリカ等を熱処理する過程を経て得られたシリカ粒子は、ここでいう熱処理シリカの概念に包含される典型例である。シリカ分散液が熱処理シリカを含む場合、該熱処理シリカは、1種であってもよく、製造条件および/または物性の異なる2種以上であってもよい。また、上記シリカ分散液は、シリカ粒子として、1種または2種以上の熱処理シリカのみを含む構成であってもよく、熱処理シリカと、他のシリカ粒子すなわち熱処理されていないシリカ粒子とを組み合わせて含む構成であってもよい。かかる態様において、シリカ分散液に含まれるシリカ粒子全体に占める熱処理シリカの割合は、特に限定されず、例えば10~90重量%、20~80重量%、または30~70重量%であり得る。熱処理シリカと組み合わせて用いられるシリカ粒子は、例えば、コロイダルシリカであり得る。熱処理シリカに加えてコロイダルシリカを含むシリカ分散液を用いることにより、より高い面精度が実現され得る。
【0031】
ここに開示される技術において、シリカ粒子のBET径は、該シリカ粒子を含むシリカ分散液において所望の吸着指数αが得られる限り特に限定されず、上記シリカ分散液の使用目的等に応じて選択し得る。シリカ粒子のBET径は、例えば、10nm~500nm程度であり得る。研磨効率等の観点から、いくつかの態様において、上記BET径は、例えば15nm以上であってよく、20nm以上であってもよい。BET径の増大により、研磨レートが向上する傾向にある。また、同程度のシリカ濃度を有するシリカ分散液において、BET径が大きくなると、吸着指数αは概して小さくなる傾向にある。ここに開示される技術は、シリカ粒子のBET径が25nm以上、30nm以上、または40nm以上である態様でも好適に実施され得る。一方、研磨後基板表面の面精度を高める観点から、上記BET径は、通常、300nm以下が適当であり、200nm以下でもよく、150nm以下でもよく、120nm以下でもよい。より研磨後基板表面の面精度を求められるプロセスにおいては、さらに小さなシリカ粒子のBET径を好適に実施され、50nm以下であってもよい。同程度のシリカ濃度を有するシリカ分散液において、BET径が小さくなると、研磨レートの低下を抑えつつ良好な防腐効果を得ることの困難性が増す傾向にあるため、ここに開示される技術を適用する意義が大きくなる。いくつかの態様において、上記BET径は、例えば100nm以下であってよく、80nm以下でもよく、60nm以下でもよい。上述したBET径は、例えば、研磨スラリーの調製に用いられるシリカ分散液に適用され得る。なかでも、Ni-P基板やガラス基板等の磁気ディスク基板の研磨スラリーの調製に用いられるシリカ分散液に好ましく適用され得る。上記のなかでもBET径の大きな粒子を適用した研磨スラリーに用いられるシリカ分散液について、例えばBET径が25nm以上の砥粒を適用したシリカ分散液は、特に一次研磨用に好ましく適用され得る。
【0032】
ここで、BET径とは、BET法により測定される比表面積(BET値)から、BET径(nm)=6000/(真密度(g/cm)×BET値(m/g))の式により算出される粒子径をいう。比表面積換算粒子径ともいう。例えばシリカ粒子の場合、シリカの真密度の値として2.2を用い、BET径(nm)=2727/BET値(m/g)の式によりBET径を算出することができる。比表面積の測定は、例えば、マイクロメリテックス社製の表面積測定装置、商品名「Flow Sorb II 2300」を用いて行うことができる。
【0033】
ここに開示されるシリカ分散液のシリカ濃度は、特に限定されず、例えば5重量%~70重量%程度であり得る。シリカ分散液の流通や保存をコンパクトに行い得ることから、上記シリカ濃度は、通常、10重量%が適当であり、15重量%以上が好ましい。シリカ濃度の高いシリカ分散液では、シリカ粒子上に存在する有機防腐剤が凝集等の分散不良を引き起こすきっかけとなりやすい。したがって、ここに開示される技術を適用して吸着指数αを抑制することが特に有意義である。かかる観点から、いくつかの好適な態様において、上記シリカ濃度は、20重量%以上でもよく、23重量%以上でもよい。一方、当該シリカ分散液を含む研磨スラリーの調製容易性や分散安定性の観点から、上記シリカ濃度は、通常、50重量%以下であることが適当であり、40重量%以下でもよく、35重量%以下でもよく、30重量%以下でもよい。シリカ濃度の低いシリカ分散液は、よりシリカ濃度の高いシリカ分散液に比べて、該シリカ分散液から研磨スラリーを調製する際の希釈倍率が低いため、上記シリカ分散液に由来する有機防腐剤が研磨スラリーの性能、例えば研磨レートに及ぼす影響が大きくなることがあり得る。したがって、ここに開示される技術を利用して、シリカ分散液に含まれる有機防腐剤を効率よく利用する意義が大きい。
【0034】
(有機防腐剤)
シリカ分散液に含有させる有機防腐剤の種類は特に限定されず、防腐効果を発揮し得ることが知られている各種の有機防腐剤のなかから、シリカ分散液の吸着指数αを5以下とし得る材料を選択して用いることができる。ここでいう有機防腐剤の非限定的な例には、イミダゾール系化合物、グアニジン系化合物、トリアゾール系化合物、イソチアゾリン系化合物、ニトロアルコール系化合物、ジチオール系化合物、チオフェン系化合物、ハロアセチレン系化合物、フタルイミド系化合物、ハロアルキルチオ系化合物、ピリチオン系化合物、フェニルウレア系化合物、トリアジン系化合物、キノロン系化合物、四級アンモニウム塩系化合物等が含まれ得る。例えば、イミダゾール系化合物およびグアニジン系化合物からなる群から選択される一種または二種以上の化合物を用いることができる。イミダゾール系化合物の例としては、ベンゾイミダゾール、チアベンダゾール、フベリダゾール、メベンダゾール、アルベンダゾール、フェンベンダゾール、フルベンダゾール、オクスフェンダゾール、オキシベンダゾール、パーベンダゾール、カンベンダゾール、ルクサベンダゾール、リコベンダゾール等の、ベンゾイミダゾール系化合物が挙げられる。グアニジン系化合物の例としては、ポリヘキサメチレンビグアニジン等のポリアルキレンビグアニジン、ポリヘキサメチレングアニジン等のポリアルキレングアニジン、1,6-ジ-(4’-クロロフェニルジグアニド)-ヘキサン、ドデシルグアニジン、これらの塩、等が挙げられる。上記塩は、例えば、塩酸塩やリン酸塩等であり得る。有機防腐剤は、一種を単独でまたは二種以上を組み合わせて用いることができる。
【0035】
ここに開示されるシリカ分散液のいくつかの態様において、上記有機防腐剤としては、以下の条件:
(A)非共有電子対を有する窒素原子を含む;および
(B)上記窒素原子とそのα位原子との間、または上記α位原子とβ位原子との間にπ結合を有する;
を満たす構造部分を有する化合物を好ましく使用し得る。かかる構造部分を有する有機防腐剤によると、吸着指数αの値が小さく、良好な防腐性を示し、かつ研磨性能と両立しうる研磨スラリーの構成成分としての利用に適したシリカ分散液、例えば、有機防腐剤の使用に起因する研磨レートの低下や清浄性悪化、研磨スラリーの調製過程におけるシリカ粒子の凝集起因の欠陥を生じにくいシリカ分散液が得られやすい。
【0036】
上記(A)および(B)を満たす構造部分を有する有機防腐剤としては、例えば、以下の一般式(I)または(II)によりで表される化合物を採用し得る。
【0037】
【化1】
【0038】
上記一般式(I)、(II)の各々において、R1,R2およびR3は、原子価を満たす任意の基であり、R1,R2およびR3のうちの2つ以上が一緒になって環構造を形成していてもよい。上記任意の基は、例えば、アルキル基やアルキレン基等の、直鎖状または分岐状の炭化水素基;シクロアルキル基、アリール基、アリールアルキル基等の、環状構造を含む炭化水素基;ヘテロ原子を含む直鎖状または分岐状の有機基;ヘテロ環構造を含む有機基;原子価により許容され得る原子、例えば水素原子、酸素原子、硫黄原子、ハロゲン原子等;アミノ基、モノアルキルアミノ基、ジアルキルアミノ基等の、置換されていてもよいアミノ基;イミノ基およびアルキルイミノ基等の、置換されていてもよいイミノ基;等であり得る。
【0039】
理論により拘束されることを望むものではないが、上記(A)および(B)を満たす構造部分を有する有機防腐剤(例えば、上記一般式(I)または(II)で表される有機防腐剤)により好適な結果が得られる理由は、例えば以下のように考えられる。すなわち、例えば上記一般式(I)のように、非共有電子対を有する窒素原子を含み、上記窒素原子のα位原子(好ましくは炭素原子)とβ位原子との間にπ結合を有する構造部分を有する化合物では、上記窒素原子上の非共有電子対は共鳴効果を受ける。また、上記一般式(II)のように、窒素原子とそのα位原子(好ましくは炭素原子)との間にπ結合をもつ化合物では、上記窒素原子上の非共有電子対にプロトンが結合し該窒素原子周りがカチオン性の電荷を帯びた際、上記窒素原子とそのα位原子との間のπ結合上の電子が電荷を非局在化させる。その結果、上記非共有電子対が上記窒素原子上において局在または孤立する性質が弱まる。
一般に、上記窒素原子上の非共有電子対は、シリカ粒子の表面に存在するシラノール基との水素結合の形成に寄与し得る。上述のように窒素原子上の非共有電子対を非局在化し得る構造の有機防腐剤によると、有機防腐剤のシリカ粒子への吸着性が弱まり、吸着指数αの低いシリカ分散液が得られやすくなる。このことによって、シリカ分散液中の有機防腐剤を効果的に利用することで良好な防腐性を示し、かつ研磨性能と両立しうる研磨スラリーの構成成分としての利用に適したシリカ分散液が実現されるものと考えられる。ただし、本発明はこのメカニズムに限定されるものではない。
【0040】
好適な有機防腐剤として、チアベンダゾール、炭素原子数1~6または1~3の炭化水素基を置換基として有するチアベンダゾール、N,OおよびSからなる群から選択される一または二以上のヘテロ原子を含む炭素原子数1~6または1~3の有機基を置換基として有するチアベンダゾール等のチアベンダゾール系化合物;ポリC1-8アルキレンビグアニジン、ポリC1-8アルキレンアルキレングアニジン、これらの塩酸塩またはリン酸塩、等のグアニジン系化合物;等が挙げられる。上記グアニジン系化合物において、「C1-8アルキレン」とは、炭素原子数1~8のアルキレン基を表す。炭素原子数4~8の直鎖アルキレン基が好ましく、なかでもヘキサメチレン基が好ましい。ここに開示されるシリカ分散液のいくつかの態様において、酸素原子を含まない化学構造の上記有機防腐剤を好ましく採用し得る。
【0041】
有機防腐剤の濃度は、特に限定されず、有機防腐剤の種類やシリカ分散液の用途に応じて選択し得る。上記有機防腐剤の濃度は、例えば0.0001重量%~1重量%程度であり得る。研磨レートの低下抑制や、酸との混合に対する凝集防止の観点から、いくつかの好適な態様において、上記有機防腐剤の濃度は、例えば0.5重量%以下であってよく、0.1重量%以下でもよく、0.05重量%以下でもよい。ここに開示されるシリカ分散液は、有機防腐剤の濃度が0.02重量%以下、0.01重量%以下、または0.005重量%以下である態様でも好適に実施することができ、かかる有機防腐剤濃度においても良好な防腐性を発揮し得る。有機防腐剤濃度の下限は特に制限されず、所望の防腐性が得られるように設定することができる。いくつかの態様において、上記有機防腐剤濃度は、例えば0.0005重量%以上であってよく、0.001重量%以上でもよい。有機防腐剤による防腐作用を好適に発現する観点から、配合量を各種防腐剤と対象菌種に応じて、一般的指標であるMIC(最小発育阻止濃度)と近しい添加量以上を配合することが好ましく、上記濃度が例示される。また、有機防腐剤濃度の下限が高くなると、吸着指数αを抑制する意義はより大きくなる傾向にある。
【0042】
(表面積当たり吸着量)
ここに開示されるシリカ分散液は、該シリカ分散液に含まれるシリカ粒子の表面積1m当たりの有機防腐剤吸着量(以下「表面積当たり吸着量」ともいう。)が、例えば10μg未満であり得る。上記表面積当たり吸着量は、シリカ分散液に含まれる有機防腐剤の炭素重量W0、該シリカ分散液に含まれるシリカ粒子の表面積、および該シリカ分散液の吸着指数αに基づいて算出することができる。いくつかの態様において、上記表面積当たり吸着量は、例えば5μg/m以下であってよく、2μg/m以下でもよく、1μg/m以下でもよい。表面積当たり吸着量が少ないことは、有機防腐剤の使用に起因する研磨レートの低下を抑制する観点から有利となり得る。また、表面積当たり吸着量の抑制により、酸の混合等のpH変化に対する耐性が増し、シリカ粒子の凝集防止性が向上する傾向にある。表面積当たり吸着量の下限は特に制限されず、実質的に0μg/mでもよい。
【0043】
(水)
シリカ分散液に含まれる水としては、イオン交換水、蒸留水、純水、超純水、逆浸透圧水、濾過水、工業用水等を利用することができ、例えばイオン交換水、純水、超純水、蒸留水等を好ましく使用し得る。イオン交換水は、典型的には脱イオン水であり得る。
【0044】
(シリカ分散液のpH)
シリカ分散液のpHは、特に制限されず、該シリカ分散液の用途等に応じて選択し得る。上記シリカ分散液のpHは、例えば2.0~12.5の範囲から選択し得る。いくつかの態様において、シリカ分散液のpHは、例えば5.0以上であってよく、7.0以上であってもよく、8.0以上であってもよく、9.0以上であってもよい。シリカ分散液のpHが高くなると、該シリカ分散液の分散安定性が向上する傾向にある。また、シリカ粒子の溶解を防ぐ観点から、シリカ分散液のpHは、通常、12.0以下であることが適当であり、11.0以下であることが好ましく、10.5以下であってもよく、例えば10.0以下であってもよい。シリカ分散液のpHは、必要に応じてpH調整剤を添加することにより調整することができる。pH調整剤としては、後述する研磨スラリーに用いられ得るものとして例示されている塩基性化合物や酸を、一種を単独でまたは二種以上を組み合わせて用いることができる。いくつかの態様において、上記pH調整剤としては、水酸化カリウム等の無機の塩基性化合物を好ましく採用し得る。
なお、ここに開示される技術において、シリカ分散液のpHは、pHメーターを用いて3点校正した後で、ガラス電極を測定対象の液に入れて測定することにより把握することができる。標準緩衝液は、例えば、フタル酸塩pH緩衝液:pH4.01(25℃)、中性リン酸塩pH緩衝液:pH6.86(25℃)、炭酸塩pH緩衝液:pH10.01(25℃)である。
【0045】
その他、ここに開示されるシリカ分散液は、本発明の効果を著しく損なわない範囲で、研磨スラリー(例えば、Ni-P基板やガラス基板等のような磁気ディスク基板用の研磨スラリー)を調製するためのシリカ分散液に用いられ得る公知の添加剤を、必要に応じて含有することができる。そのような添加剤の例には、分散剤、界面活性剤、水溶性高分子、キレート剤、等が含まれ得る。
【0046】
<研磨スラリー>
ここに開示されるシリカ分散液は、研磨スラリーの調製に好ましく用いられ得る。上記シリカ分散液を用いて調製される研磨スラリーは、該シリカ分散液を構成成分として含む研磨スラリーとして把握され得る。かかる研磨スラリーは、シリカ分散液に由来する成分として、あるいはシリカ分散液に対して新たに混合される成分として、例えば、以下に例示する成分の1種または2種以上を必要に応じて含有し得る。
【0047】
(酸)
研磨スラリーには、研磨促進剤として酸を含有させることができる。酸としては、無機酸および有機酸のいずれも使用可能である。酸は、1種を単独でまたは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0048】
無機酸の具体例としては、リン酸(オルトリン酸)、硝酸、硫酸、塩酸、ホウ酸、スルファミン酸、ホスフィン酸、ホスホン酸、ピロリン酸、トリポリリン酸、テトラポリリン酸、ヘキサメタリン酸、炭酸、フッ化水素酸、亜硫酸、チオ硫酸、塩素酸、過塩素酸、亜塩素酸、ヨウ化水素酸、過ヨウ素酸、ヨウ素酸、臭化水素酸、過臭素酸、臭素酸、クロム酸、亜硝酸等が挙げられる。
【0049】
有機酸の例としては、有機カルボン酸、有機ホスホン酸、有機スルホン酸、アミノ酸等が挙げられる。有機酸の具体例としては、クエン酸、マレイン酸、リンゴ酸、グリコール酸、コハク酸、イタコン酸、マロン酸、イミノ二酢酸、グルコン酸、乳酸、マンデル酸、酒石酸、ギ酸、酢酸、プロピオン酸、酪酸、アジピン酸、シュウ酸、吉草酸、エナント酸、カプロン酸、カプリル酸、ペラルゴン酸、カプリン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、マルガリン酸、ステアリン酸、シクロヘキサンカルボン酸、フェニル酢酸、安息香酸、クロトン酸、オレイン酸、リノール酸、リノレン酸、リシノレン酸、メタクリル酸、グルタル酸、フマル酸、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、タルトロン酸、グリセリン酸、ヒドロキシ酪酸、ヒドロキシ酢酸、ヒドロキシ安息香酸、サリチル酸、イソクエン酸、メチレンコハク酸、没食子酸、アスコルビン酸、ニトロ酢酸、オキサロ酢酸、クロロ酢酸、ジクロロ酢酸、トリクロロ酢酸等の有機カルボン酸;グリシン、アラニン、グルタミン酸、アスパラギン酸、バリン、ロイシン、イソロイシン、セリン、トレオニン、システイン、メチオニン、フェニルアラニン、トリプトファン、チロシン、プロリン、シスチン、グルタミン、アスパラギン、リシン、アルギニン等のアミノ酸;ニコチン酸;ピクリン酸;ピコリン酸;メチルアシッドホスフェート、エチルアシッドホスフェート、エチルグリコールアシッドホスフェート、イソプロピルアシッドホスフェート、フィチン酸、1-ヒドロキシエチリデン-1,1-ジホスホン酸、アミノトリ(メチレンホスホン酸)、エチレンジアミンテトラ(メチレンホスホン酸)、ジエチレントリアミンペンタ(メチレンホスホン酸)、エタン-1,1-ジホスホン酸、エタン-1,1,2-トリホスホン酸、エタン-1-ヒドロキシ-1,1-ジホスホン酸、エタンヒドロキシ-1,1,2-トリホスホン酸、エタン-1,2-ジカルボキシ-1,2-ジホスホン酸、メタンヒドロキシホスホン酸、2-ホスホノブタン-1,2-ジカルボン酸、1-ホスホノブタン-2,3,4-トリカルボン酸、α-メチルホスホノコハク酸、アミノポリ(メチレンホスホン酸)等の有機ホスホン酸;メタンスルホン酸、エタンスルホン酸、アミノエタンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、p-トルエンスルホン酸、2-ナフタレンスルホン酸、スルホコハク酸、10-カンファースルホン酸、イセチオン酸、タウリン等の有機スルホン酸;等が挙げられる。有機酸としては、炭素原子数が1~18程度、例えば1~10程度のものを好ましく採用し得る。
【0050】
研磨効率の観点から好ましい酸として、リン酸、ホスホン酸、マレイン酸、塩酸、硝酸、硫酸、スルファミン酸、フィチン酸、1-ヒドロキシエチリデン-1,1-ジホスホン酸、メタンスルホン酸等が例示される。なかでも好ましい例として、リン酸、ホスホン酸、マレイン酸、塩酸、硝酸、硫酸が挙げられる。
【0051】
酸は、該酸の塩の形態で用いられてもよい。塩の例としては、上述した無機酸や有機酸の、金属塩、アンモニウム塩、アルカノールアミン塩等が挙げられる。金属塩としては、例えば、リチウム塩、ナトリウム塩、カリウム塩等のアルカリ金属塩が挙げられる。アンモニウム塩としては、例えば、テトラメチルアンモニウム塩、テトラエチルアンモニウム塩等の第四級アンモニウム塩が挙げられる。アルカノールアミン塩としては、例えば、モノエタノールアミン塩、ジエタノールアミン塩、トリエタノールアミン塩が挙げられる。
塩の具体例としては、リン酸三カリウム、リン酸水素二カリウム、リン酸二水素カリウム、リン酸三ナトリウム、リン酸水素二ナトリウム、リン酸二水素ナトリウム等のアルカリ金属リン酸塩およびアルカリ金属リン酸水素塩;上記で例示した有機酸のアルカリ金属塩;その他、グルタミン酸二酢酸のアルカリ金属塩、ジエチレントリアミン五酢酸のアルカリ金属塩、ヒドロキシエチルエチレンジアミン三酢酸のアルカリ金属塩、トリエチレンテトラミン六酢酸のアルカリ金属塩;等が挙げられる。これらのアルカリ金属塩におけるアルカリ金属は、例えば、リチウム、ナトリウム、カリウム等であり得る。
【0052】
ここに開示される研磨スラリーに含まれ得る塩としては、無機酸の塩、例えば、アルカリ金属塩やアンモニウム塩を好ましく採用し得る。例えば、塩化カリウム、塩化ナトリウム、塩化アンモニウム、硝酸カリウム、硝酸ナトリウム、硝酸アンモニウム、リン酸カリウム等を好ましく使用し得る。
【0053】
酸およびその塩は、1種を単独でまたは2種以上を組み合わせて用いることができる。いくつかの態様において、酸と、該酸とは異なる酸の塩とを組み合わせて用いることができる。上記酸は、好ましくは無機酸である。上記酸とは異なる酸の塩は、好ましくは無機酸の塩である。
【0054】
研磨スラリー中に酸を含む場合、その含有量は特に限定されない。酸の含有量は、通常、0.1重量%以上が適当であり、0.3重量%以上が好ましく、0.5重量%以上、例えば1.0重量%以上がより好ましい。酸の含有量が少なすぎると、研磨レートが不足しやすくなり、実用上好ましくない場合がある。酸の含有量は、通常、20.0重量%以下が適当であり、10.0重量%以下が好ましく、5.0重量%以下、例えば3.0重量%以下がより好ましい。酸の含有量が多すぎると、研磨対象物の面精度が低下しやすくなり、実用上好ましくない場合がある。
【0055】
(酸化剤)
ここに開示される研磨スラリーには、必要に応じて酸化剤を含有させることができる。酸化剤の例としては、過酸化物、硝酸またはその塩、過ヨウ素酸またはその塩、ペルオキソ酸またはその塩、過マンガン酸またはその塩、クロム酸またはその塩、酸素酸またはその塩、金属塩類、硫酸類等が挙げられるが、これらに限定されない。酸化剤は、1種を単独でまたは2種以上を組み合わせて用いることができる。酸化剤の具体例としては、過酸化水素、過酸化ナトリウム、過酸化バリウム、硝酸、硝酸鉄、硝酸アルミニウム、硝酸アンモニウム、ペルオキソ一硫酸、ペルオキソ一硫酸アンモニウム、ペルオキソ一硫酸金属塩、ペルオキソ二硫酸、ペルオキソ二硫酸アンモニウム、ペルオキソ二硫酸金属塩、ペルオキソリン酸、ペルオキソ硫酸、ペルオキソホウ酸ナトリウム、過ギ酸、過酢酸、過安息香酸、過フタル酸、次亜臭素酸、次亜ヨウ素酸、塩素酸、臭素酸、ヨウ素酸、過ヨウ素酸、過塩素酸、次亜塩素酸、次亜塩素酸ナトリウム、次亜塩素酸カルシウム、過マンガン酸カリウム、クロム酸金属塩、重クロム酸金属塩、塩化鉄、硫酸鉄、クエン酸鉄、硫酸アンモニウム鉄等が挙げられる。好ましい酸化剤として、過酸化水素、硝酸鉄、過ヨウ素酸、ペルオキソ一硫酸、ペルオキソ二硫酸および硝酸が例示される。少なくとも過酸化水素を含むことが好ましく、過酸化水素からなることがより好ましい。
【0056】
研磨スラリー中に酸化剤を含む場合、その含有量は、有効成分量基準で0.01重量%以上であってよく、通常は0.1重量%以上が好ましく、0.3重量%以上でもよく、0.4重量%以上でもよい。酸化剤の含有量が少なすぎると、研磨対象物を酸化する速度が遅くなり、研磨レートが低下するため、実用上好ましくない場合がある。また、酸化剤の含有量が多すぎると、研磨対象物の面精度が低下しやすくなり、実用上好ましくない場合がある。かかる観点から、酸化剤の含有量は、通常、有効成分量基準で15重量%以下が適当であり、10重量%以下でもよく、5重量%以下でもよく、3重量%以下でもよい。いくつかの態様において、研磨スラリーにおける酸化剤の含有量は、例えば2重量%以下であってよく、1.5重量%以下でもよい。
【0057】
(塩基性化合物)
研磨スラリーには、必要に応じて塩基性化合物を含有させることができる。ここで塩基性化合物とは、添加によりpHを上昇させる機能を有する化合物を指す。塩基性化合物の例としては、アルカリ金属水酸化物、炭酸塩や炭酸水素塩、第四級アンモニウムまたはその塩、アンモニア、アミン、リン酸塩やリン酸水素塩、有機酸塩等が挙げられる。塩基性化合物は、1種を単独でまたは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0058】
アルカリ金属水酸化物の具体例としては、水酸化カリウム、水酸化ナトリウム等が挙げられる。
炭酸塩や炭酸水素塩の具体例としては、炭酸水素アンモニウム、炭酸アンモニウム、炭酸水素カリウム、炭酸カリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸ナトリウム等が挙げられる。
第四級アンモニウムまたはその塩の具体例としては、水酸化テトラメチルアンモニウム、水酸化テトラエチルアンモニウム、水酸化テトラブチルアンモニウム等の水酸化第四級アンモニウム;このような水酸化第四級アンモニウムのアルカリ金属塩;等が挙げられる。上記アルカリ金属塩としては、例えばナトリウム塩、カリウム塩が挙げられる。
アミンの具体例としては、メチルアミン、ジメチルアミン、トリメチルアミン、エチルアミン、ジエチルアミン、トリエチルアミン、エチレンジアミン、モノエタノールアミン、N-(β-アミノエチル)エタノールアミン、ヘキサメチレンジアミン、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、無水ピペラジン、ピペラジン六水和物、1-(2-アミノエチル)ピペラジン、N-メチルピペラジン、グアニジン、イミダゾールやトリアゾール等のアゾール類、等が挙げられる。
リン酸塩やリン酸水素塩の具体例としては、リン酸三カリウム、リン酸水素二カリウム、リン酸二水素カリウム、リン酸三ナトリウム、リン酸水素二ナトリウム、リン酸二水素ナトリウム等のアルカリ金属塩が挙げられる。
有機酸塩の具体例としては、クエン酸カリウム、シュウ酸カリウム、酒石酸カリウム、酒石酸カリウムナトリウム、酒石酸アンモニウム等が挙げられる。
【0059】
(その他の成分)
ここに開示される研磨スラリーは、本発明の効果が著しく妨げられない範囲で、界面活性剤、水溶性高分子、分散剤、キレート剤等の、研磨スラリーに使用され得る公知の添加剤を、必要に応じてさらに含有してもよい。
【0060】
界面活性剤としては、特に限定されず、アニオン性界面活性剤、ノニオン性界面活性剤、カチオン性界面活性剤、両性界面活性剤のいずれも使用可能である。界面活性剤の使用により、研磨スラリーの分散安定性が向上し得る。界面活性剤は、1種を単独でまたは2種以上を組み合わせて用いることができる。上記界面活性剤は、典型的には、分子量1×10未満の水溶性有機化合物であり得る。
アニオン性界面活性剤の具体例としては、ポリオキシエチレンアルキルエーテル酢酸、ポリオキシエチレンアルキル硫酸エステル、アルキル硫酸エステル、ポリオキシエチレンアルキル硫酸、アルキル硫酸、アルキルベンゼンスルホン酸、アルキルリン酸エステル、ポリオキシエチレンアルキルリン酸エステル、ポリオキシエチレンスルホコハク酸、アルキルスルホコハク酸、アルキルナフタレンスルホン酸、アルキルジフェニルエーテルジスルホン酸、ポリアクリル酸、ラウリル硫酸ナトリウム、ラウリル硫酸アンモニウム、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸ナトリウム、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル硫酸アンモニウム、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル硫酸ナトリウム、およびこれらの塩等が挙げられる。
アニオン性界面活性剤の他の具体例としては、ナフタレンスルホン酸ホルムアルデヒド縮合物、メチルナフタレンスルホン酸ホルムアルデヒド縮合物、アントラセンスルホン酸ホルムアルデヒド縮合物、ベンゼンスルホン酸ホルムアルデヒド縮合物等のポリアルキルアリールスルホン酸系化合物;メラミンスルホン酸ホルムアルデヒド縮合物等のメラミンホルマリン樹脂スルホン酸系化合物;リグニンスルホン酸、変成リグニンスルホン酸等のリグニンスルホン酸系化合物;アミノアリールスルホン酸-フェノール-ホルムアルデヒド縮合物等の芳香族アミノスルホン酸系化合物;その他、ポリイソプレンスルホン酸、ポリビニルスルホン酸、ポリアリルスルホン酸、ポリイソアミレンスルホン酸、ポリスチレンスルホン酸;およびこれらの塩等が挙げられる。塩としては、ナトリウム塩、カリウム塩等のアルカリ金属塩が好ましい。
ノニオン性界面活性剤の具体例としては、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシアルキレンアルキルエーテル、ソルビタン脂肪酸エステル、グリセリン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンアルキルアミン、アルキルアルカノールアミド等が挙げられる。
カチオン性界面活性剤の具体例としては、アルキルトリメチルアンモニウム塩、アルキルジメチルアンモニウム塩、アルキルベンジルジメチルアンモニウム塩、アルキルアミン塩等が挙げられる。
両性界面活性剤の具体例としては、アルキルベタイン型、脂肪酸アミドプロピルベタイン型、アルキルイミダゾール型、アミノ酸型、アルキルアミンオキシド型等が挙げられる。
【0061】
界面活性剤を含む態様の研磨スラリーでは、界面活性剤の含有量を、例えば0.0005重量%以上とすることが適当である。上記含有量は、研磨後の表面の平滑性等の観点から、好ましくは0.001重量%以上、より好ましくは0.002重量%以上である。また、研磨レート等の観点から、上記含有量は、3.0重量%以下とすることが適当であり、好ましくは0.5重量%以下、例えば0.1重量%以下である。
【0062】
ここに開示される研磨スラリーには、水溶性高分子を含有させてもよい。水溶性高分子を含有させることにより、研磨後の面精度が向上し得る。水溶性高分子の例としては、ナフタレンスルホン酸ホルムアルデヒド縮合物、メチルナフタレンスルホン酸ホルムアルデヒド縮合物、アントラセンスルホン酸ホルムアルデヒド等のポリアルキルアリールスルホン酸系化合物;メラミンスルホン酸ホルムアルデヒド縮合物等のメラミンホルマリン樹脂スルホン酸系化合物;リグニンスルホン酸、変成リグニンスルホン酸等のリグニンスルホン酸系化合物;アミノアリールスルホン酸-フェノール-ホルムアルデヒド縮合物等の芳香族アミノスルホン酸系化合物;その他、ポリイソプレンスルホン酸、ポリビニルスルホン酸、ポリアリルスルホン酸、ポリイソアミレンスルホン酸、ポリスチレンスルホン酸塩、ポリアクリル酸塩、ポリ酢酸ビニル、ポリマレイン酸、ポリイタコン酸、ポリビニルアルコール、ポリグリセリン、ポリビニルピロリドン、イソプレンスルホン酸とアクリル酸の共重合体、ポリビニルピロリドンポリアクリル酸共重合体、ポリビニルピロリドン酢酸ビニル共重合体、ジアリルアミン塩酸塩二酸化硫黄共重合体、カルボキシメチルセルロース、カルボキシメチルセルロースの塩、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、プルラン、キトサン、キトサン塩類等が挙げられる。水溶性高分子は、1種を単独でまたは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0063】
水溶性高分子を含む態様の研磨スラリーでは、研磨スラリー中における該水溶性高分子の含有量を、例えば0.001重量%以上とすることが適当である。上記含有量は、複数の水溶性高分子を含む態様では、それらの合計含有量である。上記含有量は、研磨後の研磨対象物の表面平滑性等の観点から、好ましくは0.003重量%以上、より好ましくは0.005重量%以上、さらに好ましくは0.007重量%以上である。また、研磨レート等の観点から、上記含有量は、1.0重量%以下とすることが適当であり、好ましくは0.5重量%以下、例えば0.1重量%以下である。なお、ここに開示される技術は、研磨スラリーが水溶性高分子を実質的に含まない態様でも好ましく実施され得る。
【0064】
分散剤の例としては、ポリカルボン酸ナトリウム塩、ポリカルボン酸アンモニウム塩等のポリカルボン酸系分散剤;ナフタレンスルホン酸ナトリウム塩、ナフタレンスルホン酸アンモニウム塩等のナフタレンスルホン酸系分散剤;アルキルスルホン酸系分散剤;ポリリン酸系分散剤;ポリアルキレンポリアミン系分散剤;第四級アンモニウム系分散剤;アルキルポリアミン系分散剤;アルキレンオキサイド系分散剤;多価アルコールエステル系分散剤;等が挙げられる。
【0065】
キレート剤の例としては、アミノカルボン酸系キレート剤および有機ホスホン酸系キレート剤が挙げられる。アミノカルボン酸系キレート剤の例には、エチレンジアミン四酢酸、エチレンジアミン四酢酸ナトリウム、ニトリロ三酢酸、ニトリロ三酢酸ナトリウム、ニトリロ三酢酸アンモニウム、ヒドロキシエチルエチレンジアミン三酢酸、ヒドロキシエチルエチレンジアミン三酢酸ナトリウム、ジエチレントリアミン五酢酸、ジエチレントリアミン五酢酸ナトリウム、トリエチレンテトラミン六酢酸およびトリエチレンテトラミン六酢酸ナトリウムが含まれる。有機ホスホン酸系キレート剤の例には、2-アミノエチルホスホン酸、1-ヒドロキシエチリデン-1,1-ジホスホン酸、アミノトリ(メチレンホスホン酸)、エチレンジアミンテトラキス(メチレンホスホン酸)、ジエチレントリアミンペンタ(メチレンホスホン酸)、エタン-1,1-ジホスホン酸、エタン-1,1,2-トリホスホン酸、エタン-1-ヒドロキシ-1,1-ジホスホン酸、エタン-1-ヒドロキシ-1,1,2-トリホスホン酸、エタン-1,2-ジカルボキシ-1,2-ジホスホン酸、メタンヒドロキシホスホン酸、2-ホスホノブタン-1,2-ジカルボン酸、1-ホスホノブタン-2,3,4-トリカルボン酸およびα-メチルホスホノコハク酸が含まれる。これらのうち有機ホスホン酸系キレート剤がより好ましく、なかでも好ましいものとしてエチレンジアミンテトラキス(メチレンホスホン酸)およびジエチレントリアミンペンタ(メチレンホスホン酸)が挙げられる。特に好ましいキレート剤として、エチレンジアミンテトラキス(メチレンホスホン酸)が挙げられる。
【0066】
ここに開示される研磨スラリーは、本発明の効果が著しく妨げられない範囲で、シリカ粒子以外の粒子を含んでもよい。シリカ粒子以外の粒子としては、無機粒子、有機粒子、および有機無機複合粒子のいずれも利用可能である。無機粒子の具体例としては、アルミナ粒子、酸化セリウム粒子、酸化クロム粒子、二酸化チタン粒子、酸化ジルコニウム粒子、酸化マグネシウム粒子、二酸化マンガン粒子、酸化亜鉛粒子、ベンガラ粒子等の酸化物粒子;窒化ケイ素粒子、窒化ホウ素粒子等の窒化物粒子;炭化ケイ素粒子、炭化ホウ素粒子等の炭化物粒子;ダイヤモンド粒子;炭酸カルシウムや炭酸バリウム等の炭酸塩;等が挙げられる。上記アルミナ粒子としては、α-アルミナ、α-アルミナ以外の中間アルミナおよびこれらの複合物が挙げられる。中間アルミナとは、α-アルミナ以外のアルミナ粒子の総称であり、具体例としてはγ-アルミナ、δ-アルミナ、θ-アルミナ、η-アルミナ、κ-アルミナおよびこれらの複合物が挙げられる。有機粒子の具体例としては、ポリメタクリル酸メチル(PMMA)粒子やポリ(メタ)アクリル酸粒子、ポリアクリロニトリル粒子等が挙げられる。ここで(メタ)アクリル酸とは、アクリル酸およびメタクリル酸を包括的に指す意味である。これらシリカ粒子以外の粒子は、1種を単独でまたは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0067】
ここに開示される研磨スラリーは、アルミナ粒子を実質的に含まない態様で好ましく実施され得る。アルミナ粒子としては、例えばα-アルミナ粒子が挙げられる。かかる研磨スラリーによると、アルミナ粒子の使用に起因する品質低下が防止される。ここでいう品質低下としては、例えば、スクラッチや窪みの発生、アルミナの残留、アルミナ粒子の突き刺さり欠陥等が挙げられる。なお、本明細書において、アルミナ粒子を実質的に含まないとは、研磨スラリーに含まれる粒子全体のうちアルミナ粒子の割合が1重量%以下、より好ましくは0.5重量%以下、典型的には0.1重量%以下であることをいう。アルミナ粒子の割合が0重量%である研磨スラリー、すなわちアルミナ粒子を含まない研磨スラリーが特に好ましい。また、ここに開示される研磨スラリーは、α-アルミナ粒子を実質的に含まない態様で好ましく実施され得る。
【0068】
ここに開示される研磨スラリーは、シリカ粒子以外の粒子、すなわち非シリカ粒子を実質的に含まない態様でも好ましく実施され得る。ここで、非シリカ粒子を実質的に含まないとは、研磨スラリーに含まれる粒子全体のうち非シリカ粒子の割合が1重量%以下、より好ましくは0.5重量%以下、典型的には0.1重量%以下であることをいう。このような態様において、ここに開示される技術の適用効果が好適に発揮され得る。
【0069】
研磨スラリーのシリカ濃度は特に制限されない。上記シリカ濃度は、典型的には0.1重量%以上であり、0.5重量%以上であることが好ましく、1重量%以上であることがより好ましい。いくつかの態様において、上記シリカ濃度は、例えば2重量%以上であってよく、3重量%以上でもよく、4重量%以上でもよい。シリカ濃度の増大により、より高い研磨レートが実現される傾向にある。一方、研磨スラリーの安定性や研磨の安定性の観点から、通常、上記シリカ濃度は、30重量%以下が適当であり、好ましくは25重量%以下、より好ましくは15重量%以下、さらに好ましくは10重量%以下である。
【0070】
(研磨スラリーのpH)
研磨スラリーのpHは、特に制限されない。上記pHは、例えば、12.0以下であってよく、10.0以下でもよい。研磨レートや面精度等の観点から、研磨スラリーのpHは、例えば7.0以下であってよく、好ましくは5.0以下、より好ましくは4.0以下であり、3.0以下であってもよい。また、研磨装置に与える損傷を抑制する等の観点から研磨スラリーのpHは、例えば0.5以上であってよく、1.0以上でもよい。いくつかの態様において、研磨スラリーのpHは、例えば0.5~3.0の範囲であってよく、1.0~2.0の範囲でもよく、1.0~1.8の範囲でもよい。研磨対象物に供給される研磨スラリー(ワーキングスラリー)において上記pHが実現されるように、必要に応じて有機酸、無機酸、塩基性化合物等のpH調整剤を含有させることができる。上記pHは、例えば、ニッケルリン基板の研磨に用いられる研磨スラリーに好ましく適用され得る。特に、ニッケルリン基板の一次研磨用の研磨スラリーに好ましく適用され得る。
また、ガラス磁気ディスク基板の研磨に用いられる研磨スラリーのpHは、例えば1.5以上であってよく、2.0以上でもよく、2.5以上でもよい。上記研磨スラリーのpHは、例えば1.5~5.5程度であってよく、2.5~4.3程度でもよく、2.5~4.0程度でもよい。特に、ガラス磁気ディスク基板の一次研磨用の研磨スラリーに好ましく適用され得る。
なお、ここに開示される技術において、研磨スラリーのpHは、pHメーターを用いて3点校正した後で、ガラス電極を測定対象の液に入れて測定することにより把握することができる。標準緩衝液は、例えば、蓚酸塩pH緩衝液:pH1.68(25℃)、フタル酸塩pH緩衝液:pH4.01(25℃)、中性リン酸塩pH緩衝液:pH6.86(25℃)である。
【0071】
ここに開示されるシリカ分散液は、該シリカ分散液より低pHの研磨スラリーを調製するために用いることができる。すなわち、上記シリカ分散液のpHをpHとし、該シリカ分散液を用いて調製される研磨スラリーのpHをpHとした場合、pH<pHを満たす研磨スラリーを調製するために用いられ得る。このような研磨スラリーは、通常、上記シリカ分散液に少なくとも酸を混合することにより調製され得る。ここに開示されるシリカ分散液は、有効量の有機防腐剤を含む組成でありながら、吸着指数αが5以下であることにより、酸との混合によりpHが低下してもシリカ粒子の凝集を生じにくい。ここに開示されるシリカ分散液は、pHとpHとの差(pH-pH)が1.0以上、より好ましくは2.0以上となる態様で好ましく用いられ得る。いくつかの態様において、pH-pHは、例えば3.0以上であってよく、4.0以上でもよく、5.0以上でもよい。pH-pHの上限は特に制限されないが、通常は11以下が適当であり、10以下が好ましい。
【0072】
ここに開示される研磨スラリーは、一剤型であってもよいし、二剤型を始めとする多剤型であってもよい。例えば、上記シリカ分散液を含むパートAと、上記研磨スラリーに含まれる成分のうち水およびシリカ粒子以外の成分を含むパートBと、水と、を混合することによって研磨スラリーが調製されるように構成され得る。
【0073】
ここに開示されるシリカ分散液は、研磨スラリー調製用キットの構成要素として好ましく用いられ得る。なかでも、上記シリカ分散液と酸とを混合して研磨スラリーを調製するためのキットの構成要素として好適である。かかるキットは、ここに開示されるいずれかのシリカ分散液からなる第一組成物と、少なくとも酸を含む第二組成物と、を少なくとも備える構成とすることができる。ここで、上記第一組成物と上記第二組成物とは、互いに分けて保管されていることが好ましい。
【0074】
ここに開示されるシリカ分散液を含む研磨スラリーは、例えば、ニッケルリン基板、ガラス基板、カーボン製基板等の研磨に好ましく適用され得る。また、めっき材質として、基材ディスクの表面にニッケルリンめっき層以外の金属層または金属化合物層を備えたディスク基板であってもよい。なかでも、アルミニウム合金製の基材ディスク上にニッケルリンめっき層を有するニッケルリンめっき基板用の研磨スラリーとして好適である。かかる用途では、ここに開示される技術を適用することが特に有意義である。
【0075】
ここに開示される研磨スラリーは、高い研磨効率が要求される用途において、特に有意義に使用され得る。そのような用途の一好適例として、仕上げ研磨工程後において高精度な表面が要求される磁気ディスク基板の製造プロセスにおいて、上記仕上げ研磨工程の前工程として行われる予備研磨工程が挙げられる。仕上げ研磨工程の前工程として複数の予備研磨工程を有する場合は、いずれの予備研磨工程にも使用可能であり、これらの予備研磨工程において同一のまたは異なる研磨スラリーを用いることができる。ここに開示される研磨スラリーは、例えば、磁気ディスク基板の一次研磨工程すなわち最初のポリシング工程に用いられる研磨スラリーとして好適である。なかでも、ニッケルリン基板の製造プロセスにおいて、ニッケルリンめっき後の最初の研磨工程すなわち一次研磨工程において好ましく使用され得る。
【0076】
ここに開示される研磨スラリーは、例えば、Schmitt Measurement System Inc.社製レーザースキャン式表面粗さ計「TMS-3000WRC」により測定される表面粗さが20Å~300Å程度の磁気ディスク基板を研磨して、該磁気ディスク基板を10Å以下の表面粗さに調整する用途に好適である。かかる用途では、ここに開示される技術を適用することが特に有意義である。ここでいう表面粗さとは、算術平均粗さ(Ra)のことをいう。
【0077】
ここに開示される研磨スラリーは、例えば以下の操作を含む態様で、研磨対象物の研磨に好適に使用することができる。すなわち、ここに開示されるいずれかのシリカ分散液を含む組成の研磨スラリー(ワーキングスラリー)を用意する。次いで、その研磨スラリーを研磨対象物に供給し、常法により研磨する。例えば、一般的な研磨装置に研磨対象物をセットし、該研磨装置の研磨パッドを通じて上記研磨対象物の表面すなわち研磨対象面に研磨スラリーを供給する。典型的には、上記研磨スラリーを連続的に供給しつつ、研磨対象物の表面に研磨パッドを押しつけて両者を相対的に移動させる。上記移動は、例えば回転移動であり得る。かかる研磨工程を経て研磨対象物の研磨が完了する。
【0078】
上述のような研磨工程は、磁気ディスク基板、例えばニッケルリン基板の製造プロセスの一部であり得る。したがって、この明細書によると、上記研磨工程を含む磁気ディスク基板の製造方法および研磨方法が提供される。
【実施例
【0079】
以下、本発明に関するいくつかの実施例を説明するが、本発明をかかる実施例に示すものに限定することを意図したものではない。
【0080】
実験例1
<シリカ分散液の調製>
(実施例1)
水中にBET径50nmのシリカ粒子(コロイダルシリカ)を25重量%の濃度で含み、さらに有機防腐剤としてのチアベンダゾールを0.0035重量%の濃度で含むシリカ分散液を調製した。
(実施例2~4および比較例1~7)
シリカ分散液に含有させる有機防腐剤の種類と濃度を表1に示すように変更した他は実施例1と同様にして、実施例2~4および比較例1~7に係るシリカ分散液を調製した。
なお、実施例1~4および比較例1~7に係るシリカ分散液のpHは、いずれも、水酸化カリウム(KOH)を用いて約9.0に調整した。
また、各例に係るシリカ分散液の有機防腐剤濃度は以下の方法で設定した。具体的には、有機防腐剤を任意の濃度で加えた純水10mLに、フザリウム属の菌液を、1×10CFU/mLとなるように接種し、室温で15時間静置した後、その0.1mLを採取して駒田培地に塗布し、30℃で3日間培養し、コロニーが観察されない濃度とした。
【0081】
<評価>
(吸着指数αの測定)
各例に係るシリカ分散液の吸着指数αを、以下の手順で測定し、結果を表1に示した。
すなわち、各例に係るシリカ分散液から100mL以上の所定体積(ここでは約30mLとした。)を分取し、25℃における体積と重量を記録した。このシリカ分散液に対し、ベックマン・コールター社製の遠心分離器、型式「Avanti HP-30I」により、ローター「JA-30.50」を使用して、26,000rpmで60分、温度25℃の条件で遠心分離処理を行うことにより、シリカ粒子を沈降させた。その上澄みを採取し、島津製作所社製の全有機体炭素計(燃焼触媒酸化方式、型式「TOC-5000A」)を用いて、上記上澄みの全有機炭素量(TOC)を測定した。その結果から上記上澄みに含まれる有機防腐剤の炭素重量W1を求めた。また、シリカ分散液に含まれる有機防腐剤と同種の有機防腐剤を等濃度で純水に混合して防腐剤希釈水溶液を調製し、同様にTOCを測定し、その測定値に基づいて炭素重量W0を求めた。具体的には、次式に基づいて炭素重量W0および炭素重量W1を求めた。
【0082】
W1=[TOC1×Vu]
W0=[TOC0×Vs]
Vs=Ws/ρs
Vu=Vs-(Wsilica/ρsilica
TOC1:シリカ分散液の上澄みについて測定されたTOC(mg/l)
TOC0:シリカ分散液の防腐剤と同濃度となるよう希釈された防腐剤希釈水溶液のTOC(mg/l)
Vu:シリカ分散液の上澄みの体積(ml)
Vs:シリカ分散液の体積(ml)
Ws:シリカ分散液の質量(g)
ρs:シリカ分散液の密度(g/ml)
silica:シリカの質量(g)
ρsilica:シリカの密度(ここでは2.2g/mlを用いた。)
【0083】
上記シリカ分散液に含まれる有機防腐剤の炭素重量W0と、上記上澄みに含まれる有機防腐剤の炭素重量W1とから、以下の式により吸着指数αを算出した。
吸着指数α=[(W0-W1)/W0]×100;
【0084】
また、上記シリカ分散液に含まれる有機防腐剤の吸着指数αと、有機防腐剤の濃度Ca(質量%)、該シリカ分散液に含まれるシリカ粒子のBET値Sa(m/g)およびシリカ粒子の濃度Cs(質量%)とから、シリカ粒子の表面積当たりの有機防腐剤吸着量[μg/m]を下記の式により算出した。
有機防腐剤吸着量[μg/m]=[(α/100)*(Ca/100)*10]/[Sa*(Cs/100)]
【0085】
(シリカ分散液の防腐性評価)
各例に係るシリカ分散液に対し、上記吸着指数αの測定と同じ条件で遠心分離処理を行い、上澄みを採取した。この上澄み10mLに、フザリウム属の菌液を、1×10CFU/mLとなるように接種し、室温で15時間静置した後、その0.1mLを採取して駒田培地に塗布し、30℃で3日間培養した。その結果、コロニーが観察されなかった場合は「防腐性良好」と評価し、表1に「G」(Good)と表示した。コロニーが観察された場合には「防腐性に乏しい」と評価し、表1に「P」(Poor)と表示した。
【0086】
(研磨スラリーの調製)
各例に係るシリカ分散液を、リン酸、過酸化水素、および希釈用の水と混合して、上記シリカ分散液中における濃度の0.176倍の濃度(すなわち4.4重量%)のシリカ粒子と、上記シリカ分散液中における濃度の0.176倍の濃度(例えば、実施例1では0.000616重量%)の有機防腐剤と、1重量%のリン酸と、1重量%の過酸化水素と、を含む研磨スラリーを調製した。各例に係る研磨スラリーのpHは、いずれも1.3~1.8の範囲にあった。
【0087】
(研磨試験)
上記研磨スラリーを用いて、下記の条件で、研磨対象物の研磨を行った。研磨対象物としては、表面に無電解ニッケルリンめっき層を備えたハードディスク用アルミニウム基板を使用した。上記基板は、直径3.5インチ、外径約95mm、内径約25mmのドーナツ型、厚さは1.75mmであり、上記ニッケルリンめっき層の比重は約7.9であり、該ニッケルリンめっき層の研磨前における表面粗さRaは130Åであった。上記表面粗さRaは、Schmitt Measurement System Inc.社製レーザースキャン式表面粗さ計「TMS-3000WRC」により測定したニッケルリンめっき層の算術平均粗さである。
【0088】
[研磨条件]
研磨装置:システム精工社製の両面研磨機、型式「9.5B-5P」
研磨パッド:FILWEL社製のポリウレタンパッド、商品名「CR200」、溝あり
研磨対象物の投入枚数:15枚(3枚/キャリア ×5キャリア)
研磨スラリーの供給レート:135mL/分
研磨荷重:120g/cm
上定盤回転数:27rpm
下定盤回転数:36rpm
サンギヤ(太陽ギヤ)回転数:8rpm
研磨時間:5分
【0089】
上記研磨試験における研磨レートを、以下の計算式に基づいて算出した。
研磨レート[μm/min]=研磨による基板の重量減少量[g]/(基板の面積[cm]×ニッケルリンめっき層の密度[g/cm]×研磨時間[min])×10
得られた値を、実施例1の研磨レートを100とする相対値(相対研磨レート)に換算し、上記相対研磨レートが90以上110以下である場合は「A」、上記相対研磨レートが80以上90未満である場合は「B」、上記相対研磨レートが80未満である場合は「C」と評価した。結果を表1に示した。
【0090】
【表1】
【0091】
表1に示されるように、吸着指数αが5以下である実施例1~4のシリカ分散液は、より吸着指数αが大きい比較例1,2,4~7のシリカ分散液に比べて、各シリカ分散液を用いて調製された研磨スラリーの研磨レートは概ね同等でありながら、該シリカ分散液の防腐性の点で明らかに優れることが確認された。
【0092】
実験例2
<シリカ分散液の調製>
(実施例5)
BET径91nmのシリカ粒子(コロイダルシリカ)を用いた他は実施例1と同様にして、実施例5に係るシリカ分散液を調製した。
(実施例6)
シリカ粒子の濃度を15重量%に変更した他は実施例1と同様にして、実施例6に係るシリカ分散液を調製した。
なお、実施例5,6に係るシリカ分散液のpHは、いずれも、水酸化カリウム(KOH)を用いて約9.0に調整した。
【0093】
<評価>
実験例1と同様にして、実施例5,6に係るシリカ分散液の吸着指数αを測定し、上澄みの防腐性を評価した。
【0094】
実施例5に係るシリカ分散液を、リン酸、過酸化水素、および希釈用の水と混合して、上記シリカ分散液中における濃度の0.176倍の濃度(すなわち4.4重量%)のシリカ粒子と、上記シリカ分散液中における濃度の0.176倍の濃度の有機防腐剤と、1重量%のリン酸と、1重量%の過酸化水素と、を含む研磨スラリーを調製した。また、実施例6に係るシリカ分散液を、リン酸、過酸化水素、および希釈用の水と混合して、上記シリカ分散液中における濃度の0.176倍の濃度(すなわち2.6重量%)のシリカ粒子と、上記シリカ分散液中における濃度の0.176倍の濃度の有機防腐剤と、1重量%のリン酸と、1重量%の過酸化水素と、を含む研磨スラリーを調製した。各例に係る研磨スラリーのpHは、いずれも1.3~1.8の範囲にあった。
【0095】
これらの研磨スラリーを用いて、実験例1と同様に研磨試験を行って研磨レートを求めた。得られた結果を、実験例1と同様に相対研磨レートに換算し、同様の評価基準により表2に示した。この表2には、対比の便宜のため、実験例1の結果を再掲している。
【0096】
【表2】
【0097】
表2に示されるように、実施例1とはシリカ粒子のBET径や濃度が異なる実施例5,6においても、吸着指数αを5以下とすることにより、研磨レートの低下を抑えつつ良好な防腐性を示すシリカ分散液が得られることが確認された。
【0098】
以上、本発明の具体例を詳細に説明したが、これらは例示にすぎず、特許請求の範囲を限定するものではない。特許請求の範囲に記載の技術には、以上に例示した具体例を様々に変形、変更したものが含まれる。