(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2021-12-27
(45)【発行日】2022-01-19
(54)【発明の名称】半導体モジュールの製造方法
(51)【国際特許分類】
H01L 23/12 20060101AFI20220112BHJP
H05K 1/03 20060101ALI20220112BHJP
H05K 1/02 20060101ALI20220112BHJP
【FI】
H01L23/12 D
H05K1/03 610C
H05K1/02 F
H05K1/02 E
H01L23/12 J
(21)【出願番号】P 2020208550
(22)【出願日】2020-12-16
(62)【分割の表示】P 2017542960の分割
【原出願日】2016-07-27
【審査請求日】2020-12-16
(31)【優先権主張番号】P 2015189991
(32)【優先日】2015-09-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003078
【氏名又は名称】株式会社東芝
(73)【特許権者】
【識別番号】303058328
【氏名又は名称】東芝マテリアル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001380
【氏名又は名称】特許業務法人東京国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】加藤 寛正
(72)【発明者】
【氏名】北森 昇
【審査官】井上 和俊
(56)【参考文献】
【文献】特開2003-309210(JP,A)
【文献】特開2007-230791(JP,A)
【文献】特開2002-305274(JP,A)
【文献】国際公開第2013/094213(WO,A1)
【文献】特開2003-273289(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2003/0173660(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 23/12
H05K 1/03
H05K 1/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面側の金属板の厚さをt1とし、裏面側の金属板の厚さをt2としたとき、厚さt1およびt2の少なくとも一方は0.6mm以上であり、関係式:0.10≦|t1-t2|≦0.30mmを満たし、
窒化珪素基板は長辺方向および短辺方向共に反り量が0.01~1.0mmの範囲内であり、かつ、前記窒化珪素基板の長辺方向の反り量をS
L1、短辺方向の反り量をS
L2としたとき、それらの比(S
L1/S
L2)は0.5~5.0であり、
窒化珪素基板は3点曲げ強度が500MPa以上、かつ、厚さが0.50mm以下である窒化珪素基板の両面に接合層を介して金属板を接合した窒化珪素回路基板を用意する工程と、
裏面側の金属板に冷却フィンを接合する工程を具備し、
冷却フィンを接合後の半導体モジュールの窒化珪素基板の長辺方向の反り量と短辺方向の反り量を0.1mm未満(0mm含む)にすることを特徴とする半導体モジュールの製造方法。
【請求項2】
前記窒化珪素回路基板と前記冷却フィンをねじ止めする工程を具備することを特徴とする請求項1記載の半導体モジュールの製造方法。
【請求項3】
前記冷却フィンは厚さ0.2mm以上であることを特徴とする請求項1ないし請求項2のいずれか1項に記載の半導体モジュールの製造方法。
【請求項4】
樹脂封止する工程を具備することを特徴とする請求項1ないし請求項3のいずれか1項に記載の半導体モジュールの製造方法。
【請求項5】
前記窒化珪素基板の縦幅(L1)が10~200mmであり、横幅(L2)が10~200mmの範囲内であることを特徴とする請求項1ないし請求項4のいずれか1項に記載の半導体モジュールの製造方法。
【請求項6】
前記窒化珪素基板の対角線の長さ方向の反り量をS
L3としたとき、0.1≦S
L3≦1.5mmであることを特徴とする請求項1ないし請求項5のいずれか1項に記載の半導体モジュールの製造方法。
【請求項7】
前記金属板の端部からはみ出した接合層のはみ出し部の長さが10~150μmの範囲内であることを特徴とする請求項1ないし請求項6のいずれか1項に記載の半導体モジュールの製造方法。
【請求項8】
前記金属板の側面において、金属板厚さの1/2の点から窒化珪素基板側の金属板の端部まで直線を引いたとき、この直線と窒化珪素基板の平面方向とがなす角度が80°以下であることを特徴とする請求項1ないし請求項7のいずれか1項に記載の半導体モジュールの製造方法。
【請求項9】
前記窒化珪素基板の熱伝導率が50W/m・K以上であることを特徴とする請求項1ないし請求項8のいずれか1項に記載の半導体モジュールの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
後述する実施形態は、概ね、窒化珪素回路基板およびそれを用いた半導体モジュールに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、ロボットやモーター等の産業機器の高性能化に伴い、大電力・高効率インバーター等の大電力モジュールの開発が進められている。この大電力モジュールの実用化に応じて、半導体素子から発生する熱も増加の一途をたどっている。この熱を効率よく放散するため、大電力モジュールでは様々な方法が採用されている。最近では、セラミックス基板の両面に金属板を接合したセラミックス回路基板が使用されている。
【0003】
セラミックス回路基板としては、WO2007/105361号公報(特許文献1)、特開2010-118682号公報(特許文献2)に記載されるような回路基板が開発されている。特許文献1は、表面側の金属板(第1の金属板)と裏面側の金属板(第2の金属板)との厚さ比を50%以上200%以下に制御することにより、TCT特性(熱サイクル試験特性)を向上させることを報告している。
【0004】
また、特許文献2には、表面側の金属板(金属回路板側)が凸状に反ったセラミックス回路基板が報告されている。特許文献2では、このような構造を採用することにより、はんだフロー性を改善している。特許文献1や特許文献2のようなセラミックス回路基板とすることにより、TCT特性やはんだフロー性が改善されることが報告されている。
【0005】
近年、半導体素子の大電力化に伴って、更なる放熱性の改善が要請されている。半導体モジュールは、はんだ層を介して半導体素子をセラミックス回路基板に実装している。このようなモジュール構造の熱伝達経路は、半導体素子→はんだ層→金属板(表面側の金属板)→セラミックス基板→金属板(裏面側の金属板)となる。
【0006】
セラミックス回路基板の放熱性を示す指標として熱抵抗がある。熱抵抗が小さいと放熱性が良いことを示している。また、熱抵抗(Rth)は、Rth=H/(k×A)で求められる。ここで、Hは熱伝達経路、kは熱伝導率、Aは放熱面積である。熱抵抗(Rth)を小さくするには、熱伝達経路(H)を短くすること、熱伝導率(k)を大きくすること、または放熱面積(A)を大きくすることが必要である。
【0007】
また、セラミックス回路基板にはTCT特性(熱サイクル試験特性)の向上も求められている。特許第3797905号公報(特許文献3)には、3点曲げ強度が500MPa以上である窒化珪素基板が開発されていることが報告されている。このような機械的強度が高い窒化珪素基板を使用することにより、TCT特性の向上を図ることができる。
【0008】
前述したモジュールの大電力化に対応するためには、放熱性とTCT特性との更なる改善が求められている。強度が高い窒化珪素基板を活かして放熱性を向上させるには、放熱面積(A)を大きくすることが有効である。一方、熱伝達経路(H)を短くするには、金属回路板およびセラミックス基板を薄くすることが有効である。しかしながら、金属回路板を薄くし過ぎると大電流を流し難くなる。また、セラミックス基板を薄くし過ぎると絶縁性に不安がある。また、熱伝導率(k)に関しては、窒化アルミニウム基板では熱伝導率250W/m・Kクラスのものが開発されているが、強度が250MPa程度であるため、TCT特性が悪いという難点がある。
【0009】
放熱面積(A)を大きくする方法としては、セラミックス基板に接合する金属板を大きくする方法や、リードフレーム、冷却フィンなどを接合する方法が有効である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【文献】国際公開番号第2007/105361号公報
【文献】特開2010-118682号公報
【文献】特許第3797905号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
特許文献1では、[表1]に示すように、セラミックス基板の表面側と裏面側とに接合する金属板の厚さ比を50~250%の範囲に変えている。一方、従来の半導体モジュールは窒化珪素回路基板の裏面にベース板を接合し、ベース板を介して冷却フィンに接合していた。また、併せて窒化珪素回路基板と冷却フィンとは、ねじ止め構造で一体的に接合していた。
【0012】
上記のベース板を介して冷却フィンに接合した場合には、熱伝達経路(H)が大きくなり、熱抵抗(Rth)が高くなる。このため、ベース板を用いず、窒化珪素回路基板の裏面を冷却フィンに直接接合してねじ止めする構造が試みられている。特許文献1の窒化珪素回路基板にて、冷却フィンに直接接合してねじ止めする構造を採用すると、窒化珪素回路基板の反りが発生していた。また、放熱性を改善するために、リードフレームを接合した場合も、同様に窒化珪素回路基板に反りが発生する問題点があった。
【0013】
このように、従来の窒化珪素回路基板においては、表面側または裏面側に設けた金属板に直接、リードフレームまたは冷却フィンを設けた場合、窒化珪素基板の反りが大きくなるという不具合が発生していた。
【課題を解決するための手段】
【0014】
実施形態に係る窒化珪素回路基板は、3点曲げ強度500MPa以上の窒化珪素基板の両面に金属板を接合した窒化珪素回路基板において、表面側の金属板の厚さをt1とし、裏面側の金属板の厚さをt2としたときに、厚さt1またはt2の少なくとも一方は0.6mm以上であり、関係式0.10≦|t1-t2|≦0.30mmを満たし、窒化珪素基板は長辺方向および短辺方向の反り量が、共に0.01~1.0mmの範囲内であることを特徴とするものである。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】実施形態に係る窒化珪素回路基板の一構成例を示す上面図である。
【
図2】実施形態に係る窒化珪素回路基板の一構成例を示す側断面図である。
【
図3】実施形態に係る窒化珪素回路基板の他の一構成例を示す側断面図である。
【
図4】実施形態に係る窒化珪素回路基板のさらに別の一構成例を示す側断面図である。
【
図5】実施形態に係る半導体モジュールの一構成例を示す側断面図である。
【
図6】実施形態に係る半導体モジュールの別の一構成例を示す側断面図である。
【
図7】実施形態に係る窒化珪素回路基板の金属板側面の一構成例を示す側断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
実施形態に係る窒化珪素回路基板は、3点曲げ強度が500MPa以上である窒化珪素基板の両面に金属板を接合した窒化珪素回路基板において、表面側の金属板の厚さをt1、裏面側の金属板の厚さをt2としたとき、厚さt1またはt2の少なくとも一方は0.6mm以上であり、関係式:0.10≦|t1-t2|≦0.30mmを満たし、上記窒化珪素基板は長辺方向および短辺方向の反り量が共に0.01~1.0mmの範囲内であることを特徴とするものである。
【0017】
窒化珪素基板は3点曲げ強度が500MPa以上のものである。3点曲げ強度が500MPa未満と低いと、TCT特性が低下する。3点曲げ強度は500MPa以上、さらには600MPa以上であることが好ましい。また、窒化珪素基板は、破壊靭性値が6.0MPa・m1/2以上であることが好ましい。
【0018】
また、窒化珪素基板は熱伝導率が50W/m・K以上であることが好ましい。さらに熱伝導率は60W/m・K以上、さらには80W/m・K以上と高いことが好ましい。窒化珪素基板の熱伝導率を高くすることにより、窒化珪素回路基板の全体の熱抵抗を小さくすることができる。
【0019】
また、窒化珪素基板は、厚さが0.50mm以下であることが好ましい。さらに0.33mm以下、0.26mm以下と薄型化することが好ましい。窒化珪素基板は高強度で絶縁性も優れていることから基板の薄型化が可能である。また、基板の薄型化により回路基板の熱抵抗を下げることができる。なお、窒化珪素基板の厚さの下限としては0.10mm以上が好ましい。基板厚さが0.10mm未満と薄くなると、強度や絶縁性の確保が困難になるおそれがある。
【0020】
また、窒化珪素基板の両面には金属板が接合されている。金属板は、銅板、アルミニウム板、銅合金板、アルミニウム合金板が好ましい。また、接合方法は、接合層を介した接合方法、接合層を介さずに直接接合する接合方法のどちらでもよい。接合層を介した接合方法としては活性金属ろう材を用いた活性金属接合法が好ましい。活性金属ろう材は、銀(Ag)、銅(Cu)、チタン(Ti)からなるものが好ましい。また、必要に応じ、錫(Sn)、インジウム(In)を添加するものとする。活性金属ろう材としては、Agを40~80質量%、Cuを20~60質量%、Tiを0.1~12質量%、Snを20質量%以下(0含む)、Inを20質量%以下(0含む)から成るろう材が例示できる。金属板が銅板または銅合金板であれば活性金属接合法によって接合し易い利点がある。
【0021】
また、金属板がAl板またはAl合金板の場合、活性金属は、Al(アルミニウム)である。活性金属以外の成分としてはSi(珪素)が挙げられる。活性金属ろう材としては、Siが0.01~10質量%、Alが残部であるろう材が例示できる。
【0022】
両面に接合された金属板のうち、表面側の金属板の厚さをt1とし、裏面側の金属板の厚さをt2としたとき、関係式0.10≦|t1-t2|≦0.30mmを満たすものとする。0.10≦|t1-t2|≦0.30mmを満たすということは、表面側の金属板と裏面側の金属板との厚さの差が、0.10mm以上0.30mm以下であるということを示している。また、表面側の金属板と裏面側の金属板との厚さの差が0.10mm以上0.25mm以下がさらに好ましい。厚さの差をこの範囲に規定することにより、各方向の反り量SL1、SL2、SL3を所定の範囲に制御し易くなる。
【0023】
また、表面側と裏面側の金属板は、どちらが厚くても良い。また、表面側の金属板は半導体素子を搭載する金属板であり、裏面側の金属板は放熱板であることが好ましい。また、通電容量を稼ぎたいときは表面側の金属板の方を厚くすることが好ましい。また、放熱性を良好にしたいときは、裏面側の金属板を厚くすることが好ましい。
【0024】
また、表金属板の厚さt1または裏金属板の厚さt2の少なくとも一方の厚さが0.6mm以上とすることが必要である。また、t1またはt2の少なくとも一方の厚さが0.8mm以上であることが好ましい。なお、金属板の板厚の厚さの上限は特に限定されるものではないが、5.00mm以下であることが好ましい。金属板の厚さが5.00mmを超えると金属板の熱膨張により変化する体積が大きくなるため、後述する反り量の制御が困難になる。
【0025】
また、窒化珪素基板は長辺方向および短辺方向における反り量が、共に0.01~1.0mmの範囲内であることを特徴とする。
【0026】
図1、
図2および
図3に実施形態に係る窒化珪素回路基板の一構成例を示す。
図1は上面図、
図2および
図3は側面図である。図中、符号1は窒化珪素回路基板であり、2は窒化珪素基板であり、3は表面側の金属板(表金属板)であり、4は裏面側の金属板(裏金属板)である。また、L1は窒化珪素基板2の長手方向の長さ(縦幅)、L2は窒化珪素基板2の短辺方向の長さ(横幅)、Sは窒化珪素基板2の反り量である。また、窒化珪素基板2の長手方向の反り量をS
L1、短辺方向の反り量をS
L2とする。
図1に示すように、L3は窒化珪素基板2の対角線の長さである。また図示していないが、S
L3は窒化珪素基板の対角線方向の反り量である。
【0027】
反り量Sの測定方法は、まず窒化珪素基板2の一端からもう一方の他端まで直線を引く。その直線に対し、窒化珪素基板2が最も離れている距離を反り量Sとする。実施形態に係る窒化珪素回路基板1は、長手方向の反り量SL1と短辺方向の反り量SL2が共に0.01~1.0mmの範囲内となる。また、反り量SL1と反り量SL2は0.1~0.5mmであることが好ましい。
【0028】
また、窒化珪素基板2の対角線方向の反り量SL3は、0.1≦SL3≦1.5mmの範囲内であることが好ましい。また、反り量SL3は0.2≦SL3≦0.7mmの範囲であることが好ましい。
【0029】
リードフレームは、主に半導体素子の導通のために接合される。そのため、リードフレームは窒化珪素回路基板1の外側まで延在させることが多い。ヒートシンクや冷却フィンは、窒化珪素回路基板1の裏面側に接合される。ヒートシンクや冷却フィンは裏面側に均等に接合される。それに対し、リードフレームは導通したい箇所に接合される。
【0030】
そのため、リードフレームは、必ずしも均等に配置されるものではない。対角線の反り量SL3を0.1~1.5mmにしておけば、リードフレームが不均等な配置であっても、電子部品モジュールにおける窒化珪素基板2の反り量を0.1mm未満(0mm含む)にすることができる。言い換えると、0.1≦SL3≦1.5mmの範囲にした窒化珪素回路基板1は、リードフレームを接合するものに好適である。なお、均等配置とは、左右対称になるように配置することを意味する。
【0031】
図2は裏金属板側が凹状になるように窒化珪素基板が反った構造である。このような構造を有する回路基板を第一の窒化珪素回路基板と呼ぶ。第一の窒化珪素回路基板はt1>t2であることが好ましい。
【0032】
また、
図3は表金属板側が凸状になるように窒化珪素基板が反った構造である。このような構造を有するものを第二の窒化珪素回路基板と呼ぶ。また、図中、1aを第一の窒化珪素回路基板とし、1bを第二の窒化珪素回路基板、とする。また、第二の窒化珪素回路基板1bはt1<t2であることが好ましい。言い換えれば、t1>t2であれば裏金属板側が凹状になるように反った構造に制御し易い。同様に、t1<t2であれば表金属板側が凸状になるように反った構造に制御し易い。
【0033】
実施形態に係る窒化珪素回路基板は長手方向と短辺方向の両方に所定の反り量を有している。このような構造とすることにより、表裏の金属板の厚さの差が0.10mm以上0.30mm以下の場合であっても、優れたTCT特性を示す。
【0034】
また、第一の窒化珪素回路基板1aおよび第二の窒化珪素回路基板1bは、少なくとも一方の面に複数の金属板を接合しても良い。
図4に表面側に2つの金属板3,3を接合した窒化珪素回路基板1aを示す。図中、符号1は窒化珪素回路基板であり、2は窒化珪素基板であり、3は表金属板であり、4は裏金属板であり、Sは窒化珪素基板2の反り量、である。
図4は第一の窒化珪素回路基板1aを例示したが、第二の窒化珪素回路基板1bであってもよい。また、金属回路板(表金属板)3,3が2つのものを例示したが、3個以上の複数の金属回路板を設けても良いものとする。
【0035】
また、第一の窒化珪素回路基板1aは、裏金属板に冷却フィンを接合した半導体モジュールに好適である。
図5に半導体モジュールの一例を示す。図中、符号10は半導体モジュールであり、1aは第一の窒化珪素回路基板であり、4は放熱板(裏金属板)であり、5は半導体素子であり、7は冷却フィンであり、8はねじであり、9はねじ受け部である。また、第一の窒化珪素回路基板1aを用いた半導体モジュール10は、第一の半導体モジュール10aと呼ぶ。
【0036】
窒化珪素回路基板1aの反り方向を裏金属板側に凸状にした上で、長辺方向の反り量SL1と短辺方向の反り量SL2を共に0.01~1.0mmにしている。このような構造とすることにより、後述するように冷却フィンを接合したとしても窒化珪素基板2の反り量を低減することができる。
【0037】
また、第二の窒化珪素回路基板1bは、表金属板3,3にリードフレーム6,6を接合した半導体モジュールに好適である。
図6に、半導体モジュールの一構成例を示す。図中、符号10は半導体モジュールであり、1bは第二の窒化珪素回路基板であり、3は表金属板(金属回路板)であり、5は半導体素子であり、6はリードフレームである。また、第二の窒化珪素回路基板1bを用いた半導体モジュール10は、第二の半導体モジュール10bと呼ぶ。
【0038】
窒化珪素回路基板1bの反り方向を表金属板側に凸状にした上で、長辺方向の反り量SL1と短辺方向の反り量SL2を共に0.01~1.0mmにしている。このような構造とすることにより、後述するように厚さ0.2mm以上のリードフレームを接合したとしても窒化珪素基板2の反り量を低減することができる。
【0039】
また、窒化珪素基板2の縦幅L1は10~200mmであることが好ましい。また、窒化珪素基板の横幅L2は10~200mmであることが好ましい。縦幅(L1)または横幅(L2)が10mm未満と小さいと、表面側の金属板の半導体素子の実装面積が小さくなるため設計の自由度が下がる。また、後述する接合層のはみ出し領域を設ける面積を形成し難くなる。一方、縦幅(L1)または横幅(L2)が200mmを超えて大きいと反り量(S)を範囲内に制御し難くなる。
【0040】
また、長辺方向の反り量(SL1)と短辺方向の反り量(SL2)の比(SL1/SL2)が0.5~5.0の範囲内であることが好ましい。比(SL1/SL2)が0.5~5.0の範囲内であるということは、長手方向と短辺方向との反り量が近似していることを示している。このような構造とすることにより、表裏の金属板の厚さの差が0.10mm以上0.30mm以下と大きくなっても、TCT特性を向上させることができる。
【0041】
また、金属板は活性金属を含む接合層を介して窒化珪素基板に接合されたものであることが好ましい。活性金属とは、Ti(チタン)、Zr(ジルコニウム)、Hf(ハフニウム)、Nb(ニオブ)、Al(アルミニウム)から選択される少なくとも1種の元素を示す。これらの活性金属の中で、前述のようにTiを使用することが好ましい。また、活性金属を含む接合層は、Agを40~80質量%と、Cuを20~60質量%と、Tiを0.1~12質量%と、Snを20質量%以下(0含むと)、Inを20質量%以下(0含む)とから成る活性金属ろう材を使用して形成したものが好ましい。また、窒化珪素基板と金属板との間に活性金属ろう材層を設けて熱処理することにより接合される。接合後においては、接合層中に含有される活性金属は主に活性金属窒化物となっていることが好ましい。
【0042】
また、接合層は金属板端部からはみ出して形成されることが好ましい。また、金属板端部からはみ出した接合層のはみ出し量が10~150μmであることが好ましい。
図7に接合層がはみ出し部を有する窒化珪素回路基板の一構成例の部分断面図を示す。図中、符号2は窒化珪素基板であり、3は金属板であり、11は接合層のはみ出し部である。また、Wは接合層のはみ出し部の長さである。はみ出し部11を設けることにより、金属板3と窒化珪素基板2の熱応力を緩和することができる。
【0043】
また、金属板3の側面において、金属板厚さの1/2の点から窒化珪素基板2側の金属板の端部まで直線を引いたときの角度θが80°以下であることが好ましい。
図7に実施形態に係る窒化珪素回路基板の金属板3の側面の一例を示す。図中、符号2は窒化珪素基板であり、3は金属板であり、11は接合層のはみ出し部、である。
【0044】
金属板3の側面の角度θは、窒化珪素回路基板を長手方向に垂直に切断し、切断面の研磨加工を行った後に、走査型電子顕微鏡(SEM)あるいは金属顕微鏡やCCDカメラを用いて、金属板の厚さが全て確認できる倍率で観察することにより確認できる。観察画像あるいは観察写真において、金属板3の厚さの1/2の点から窒化珪素基板側の金属板の端部まで直線を引き、直線と窒化珪素基板との角度θを測定する。
【0045】
この角度θが80°以下であるということは、金属板の側面が窒化珪素基板側方向に伸びている形状を示している。この断面形状により、金属板と窒化珪素基板の熱応力を緩和することができる。そのため、直線の角度θは80°以下、さらには60°以下であることが好ましい。
【0046】
なお、角度θの下限は特に限定されるものではないが、30°以上であることが好ましい。この角度θが30°未満であると金属板の側面が長くなり過ぎる。長くなり過ぎると、金属板サイズが同じとき、金属板表面の平坦面積が小さくなる。平坦面積が小さくなると半導体素子を搭載できる面積が小さくなる。また、平坦面積を同じにすると金属板を大きく形成する必要がある。
【0047】
また、接合層のはみ出し部と角度θとの適正な組合せにより、さらに熱応力を緩和することができる。
【0048】
このため、金属板の厚さを厚くしたり、表裏面の金属板の厚さの差(|t1-t2|)を設けたりしても、TCT特性を向上させることができる。また。はみ出し部11の長さWが10μm未満では、はみ出し部を設ける効果が不十分である。また、はみ出し部11の長さWが150μmを超えて大きいと、作製が容易ではあるものの、それ以上の効果が少ない。また、隣接する金属回路板間の絶縁距離が短くなり導通不良を起こす原因となる恐れがある。また、十分な絶縁距離を確保するために、回路基板全体の大きさを大きくする必要が生じるため、特性やコスト面での悪化要因となり得る。このため、はみ出し部11の長さWは10~150μm、さらには15~60μmであることが好ましい。また、角度θは80°以下、さらには60°以下であることが好ましい。これにより熱応力緩和が達成されるので、TCT特性が向上する。
【0049】
熱抵抗(Rth)は、Rth=H/(k×A)の計算式で求められる。ここでHは熱伝達経路であり、kは熱伝導率であり、Aは放熱面積である。熱抵抗(Rth)を小さくするには、熱伝達経路(H)を短くすること、熱伝導率(k)を大きくすること、放熱面積(A)を大きくすることが上げられる。実施形態に係る窒化珪素回路基板は、窒化珪素基板を薄型化することにより、熱伝導率の低い部分の熱伝達経路を短くすることができる。また、金属板を厚くすることや金属板のサイズを大きくすることにより、窒化珪素回路基板の熱伝導率(k)および放熱面積(A)を大きくすることができる。この結果、熱抵抗(Rth)を小さくすることができる。
【0050】
また、関係式:0.10mm≦|t1-t2|≦0.30mmを満たすように、表面側または裏面側の金属板の厚さの差を規定している。表面側の金属板を厚くすることにより通電容量を稼ぐことができる。また、裏面側の金属板を厚くすることにより、熱の逃げ道を広くとることができるので放熱性を向上させることができる。
【0051】
以上のような窒化珪素回路基板は、高出力の半導体素子を実装した半導体モジュールに好適である。実施形態に係る窒化珪素回路基板は、熱抵抗を低減し、TCT特性を向上させているためジャンクション温度が高い半導体素子に好適である。SiC素子やGaN素子はジャンクション温度が175℃以上と高くなる。言い換えると、本実施形態に係る窒化珪素回路基板は、SiC素子またはGaN素子を実装した半導体モジュールに好適である。
【0052】
また、第二の窒化珪素回路基板1bを用いた第二の半導体モジュール10bは、表金属板にリードフレーム6,6を接合している。また、リードフレーム6は、厚さが0.2mm以上であることが好ましい。さらには、リードフレーム6の厚さは0.4mm以上であることが好ましい。また、リードフレームの厚さを0.2mm以上と厚くすることにより、通電容量を稼ぐと共に放熱性を向上させることができる。なお、リードフレーム6の厚さの上限は特に限定されるものではないが、5mm以下であることが好ましい。また、リードフレームは、銅板などの金属板で構成されることが好ましい。
【0053】
第二の窒化珪素回路基板1bは長辺方向の反り量SL1および短辺方向の反り量SL2を0.01~1.0mmの範囲に規定している。そのため、表金属板に厚さ0.2mm以上のリードフレームを接合したとしても窒化珪素基板の反り量を0.1mm未満(0mm含む)にすることができる。従来のように、長辺方向のみの反り量(SL1)のみを制御したものでは、リードフレームを接合した際に窒化珪素基板が湾曲し易くなる。
【0054】
リードフレームを接合した第二の半導体モジュール10bを作製したとき、窒化珪素基板2が湾曲せず、反り量が小さくなる。半導体モジュールの窒化珪素基板の反り量が低減されることにより、半導体モジュールとしてのTCT特性を向上させることができる。また、半導体モジュール自体を実装する際の実装不良の発生を防ぐことができる。
【0055】
また、対角線方向の反り量SL3を0.1~1.5mmの範囲に制御することにより、リードフレームを不均等な配置で固定しても、窒化珪素基板の反り量を0.1mm未満(0mm含む)に制御し易くなる。
【0056】
また、このような構造とすることにより、ワイヤボンディングを実施しない構造とすることもできる。ワイヤボンディング構造を採用しないことにより、トランスファーモールド法による樹脂封止を実施した際に、ワイヤが断線することを防止することができる。言い換えると、本実施形態に係る窒化珪素回路基板は、トランスファーモールド法などの樹脂封止する半導体モジュールに好適である。
【0057】
トランスファーモールド法は、加熱された金型内に半導体モジュールを配置する。半導体モジュールは、キャビティと呼ばれる空間に配置される。また、金型は上下1セットになってキャビティを構成する。次に、樹脂タブレット(樹脂を固めたもの)をポットと呼ばれる空間に投入する。ポットに投入された樹脂タブレットは徐々に溶け始め、キャビティ内に投入される。液状となった樹脂は、電子部品を周りの空間に充填される。充填された樹脂が固まることにより、モールドされた状態となる。
【0058】
トランスファーモールド法は、金型サイズを大きくすることにより、一度に多くののモールド処理を実施することができるため、量産性に優れた樹脂封止方法である。一方、トランスファーモールド法は、ワイヤの変形や断線が起きやすい製法である。そのため、ワイヤボンディングを実施しない構造とすることにより、トランスファーモールド法により樹脂封止した際にワイヤの断線不良や変形不良を無くすことができる。なお、ワイヤボンディングを実施しないメリットを説明したが、ワイヤボンディングにより半導体素子の導通を行っても良いものとする。
【0059】
また、第一の窒化珪素回路基板1aを用いた第一の半導体モジュール10aは、裏金属板に冷却フィンを接合したものである。冷却フィンは厚さが0.2mm以上であることが好ましい。また、冷却フィンは厚さが0.4mm以上であることが、さらに好ましい。また、冷却フィンの厚さの上限は特に限定されるものではないが、厚さは20mm以下であることが好ましい。また、冷却フィンの形状は、板状、くし歯状、溝型やピン型など様々な形状であってもよい。
【0060】
また、
図5に例示したように、第一の窒化珪素回路基板1aは、冷却フィン7にねじ止めする構造に適している。第一の窒化珪素回路基板1aは裏金属板側に凸状に反り量を設けている。このような構造にすることにより、第一の半導体モジュール10aの窒化珪素基板2の反り量を低減できる。このため、窒化珪素基板2の裏金属板4と冷却フィン7との密着性を向上させることができる。
【0061】
この密着性の向上により、放熱性を向上させることができる。また、ねじ止め構造をとったときに窒化珪素基板が湾曲するのを防止することができる。第一の窒化珪素回路基板1aは長辺方向の反り量(SL1)と短辺方向の反り量(SL2)を制御しているので、冷却フィン7を接合したり、ねじ止めしたりする構造に適している。また、第一の半導体モジュール10aの窒化珪素基板2の反り量を0.1mm未満(0mm含む)とすることができる。従来のように、長辺方向のみの反り量(SL1)のみを制御したものでは、冷却フィンの接合やねじ止め構造をとったときに窒化珪素基板が湾曲し易い。
【0062】
また、第二の半導体モジュール10bの場合、(リードフレームの表金属板への接合部分の体積+表金属板の体積)/(裏金属板の体積)の体積比が0.6~1.5の範囲内であることが好ましい。この範囲を外れると、半導体モジュールとしたときの窒化珪素基板の反り量を0.1mm未満(0mm含む)と小さくすることが困難になるおそれがある。
【0063】
例えば、縦30mm×横10mm×厚さ0.5mmのリードフレームにおいて、表金属板への接合部分を縦10mm×横10mmとする。リードフレームの表金属板への接合部分の体積は、縦10mm×横10mm×厚さ0.5mm=50mm3となる。
【0064】
複数のリードフレームを接合する場合は、それぞれの接合部分の体積を求めて合計した値を「リードフレームの表金属板への接合部分の体積」とする。また、表金属板の体積は、複数の表金属板を接合した場合は、それぞれの表金属板の体積を合計した値を「表金属板の体積」とする。同様に、裏金属板の体積は、複数の裏金属板を接合した場合は、それぞれの裏金属板の体積を合計した値を「裏金属板の体積」とする。
【0065】
また、第一の半導体モジュール10aの場合、(表金属板の体積)/(裏金属板の体積+冷却フィンの裏金属板への接合部分の体積)の体積比が0.3~1.5の範囲内であることが好ましい。この範囲を外れると、半導体モジュールとなったときの窒化珪素基板の反り量を0.1mm未満(0mm含む)と小さくすることが困難になるおそれがある。
【0066】
例えば、裏金属板が縦30mm×横30mm、冷却フィンのサイズが縦50mm×横50mm×厚さ2mmとする。冷却フィンの裏金属板への接合部分の体積は、縦30mm×横30mm×厚さ2mm=1800mm3となる。このように冷却フィン全体の体積ではなく、裏金属板の接合部分の体積を使って求めるものとする。また、複数の表金属板を使うときは、それぞれの表金属板の接合部分の体積の合計を求めて「表金属板の体積」とする。
【0067】
また、リードフレームと冷却フィンとの両方を接合する場合、(リードフレームの表金属板への接合部分の体積+表金属板の体積)≧(裏金属板の体積+冷却フィンの裏金属板への接合部分の体積)の場合は第一の窒化珪素回路基板1aを用いるものとする。また、(リードフレームの表金属板への接合部分の体積+表金属板の体積)<(裏金属板の体積+冷却フィンの裏金属板への接合部分の体積)の場合は、第二の窒化珪素回路基板1bを用いるものとする。
【0068】
次に、窒化珪素回路基板の製造方法について説明する。実施形態に係る窒化珪素回路基板は前述の構造を有していれば、その製造方法は特に限定されるものではないが効率よく得るための方法として次の方法が挙げられる。
【0069】
まず、窒化珪素基板を用意する。窒化珪素基板は3点曲げ強度が500MPa以上のものとする。また、窒化珪素基板は、破壊靭性値が6.0MPa・m1/2以上であることが好ましい。また、窒化珪素基板は熱伝導率が50W/m・K以上であることが好ましい。熱伝導率を50W/m・K以上、さらには80W/m・K以上と高いことが好ましい。また、窒化珪素基板は厚さが0.1mm以上、0.50mm以下であることが好ましい。さらに0.33mm以下、0.26mm以下と薄型化することが好ましい。
【0070】
また、窒化珪素基板の反り量は、長辺方向側の反り量SL1および短辺方向の反り量SL2が共に0.1mm未満のものを用意するものとする。
【0071】
次に金属板を用意する。金属板は、銅板、銅合金、Al板、Al合金板から選択される1種であることが好ましい。金属板の厚さは、表面側金属板の厚さt1と、裏面側金属板の厚さt2との関係が0.10 ≦|t1-t2|≦0.30mmとなるように規定される。第一の窒化珪素回路基板1aとするときはt1>t2とし、第二の窒化珪素回路基板1bとするときはt1<t2とする。
【0072】
次に窒化珪素基板と金属板を接合する工程を行う。接合工程は、活性金属ろう材を用いて実施する。金属板が銅板または銅合金板の場合、活性金属は、Ti(チタン)、Zr(ジルコニウム)、Hf(ハフニウム)、Nb(ニオブ)から選択される1種を含むものとする。活性金属としてはTiが最も好ましい。また、活性金属以外の成分としては、Ag,Cu,In,Snが挙げられる。
【0073】
活性金属ろう材の組成としては、Agを40~80質量%と、Cuを20~60質量%と、Tiを0.1~12質量%と、Snを20質量%以下(0含む)と、Inを20質量%以下(0含む)とから成るろう材が好ましい。
【0074】
また、金属板がAl板またはAl合金板の場合、活性金属は、Al(アルミニウム)である。活性金属以外の成分としてはSi(珪素)が挙げられる。活性金属ろう材の組成としては、Siが0.01~10質量%、Alが残部のろう材が例示できる。
【0075】
また、金属板の側面は、予め金属板の厚さの1/2の点から窒化珪素基板側の金属板の端部まで直線を引いたときの角度θが80 °以下になるように加工するとよい。また、金属板を接合後に、エッチング処理を実施することにより、金属板の厚さの1/2の点から窒化珪素基板側の金属板の端部まで直線を引いたときの角度θが80°以下になるように加工してもよい。
【0076】
一方、活性金属ろう材に樹脂バインダを添加し、活性金属ろう材ペーストを調製する。活性金属ろう材ペーストを窒化珪素基板上に塗布し、活性金属ろう材ペースト層を形成する。その上に金属板を配置する。接合層のはみ出し部を設ける場合は、活性金属ろう材ペースト層を金属板の縦横サイズより広めに設けるものとする。
【0077】
活性金属ろう材ペースト層の塗布厚さは10~40μmの範囲であることが好ましい。活性金属ろう材層ペースト層の厚さが10μm未満では十分な接合強度が得られないおそれがある。また、厚さが40μmを超えて厚くしても、接合強度にそれ以上の向上がみられないだけでなくコストアップの要因となる。そのため、活性金属ろう材ペースト層の厚さは10~40μm、さらには15~25μmの範囲であることが好ましい。
【0078】
次に、加熱工程を行う。加熱温度は600~900℃の範囲であることが好ましい。活性金属ろう材が、Ti、Zr、Hf、Nbから選択される1種を含有する場合は、接合温度が750~900℃の範囲であることが好ましい。また、活性金属ろう材がAlを含有する場合は接合温度が600~750℃の範囲であることが好ましい。また、加熱工程は真空雰囲気中で実施することが好ましい。真空度としては、1×10-2Pa以下、さらには4×10-3Pa以下であることが好ましい。真空雰囲気中で加熱工程を実施することにより、銅板や活性金属ろう材が酸化することや窒化することを防止することができる。
【0079】
このような工程を実施することにより、長辺方向側の反り量SL1および短辺方向の反り量SL2が0.01~1.0mmの範囲内である窒化珪素回路基板を作製することができる。また、必要に応じ、応力を加えた状態で加熱して所定の反り量を付与しても良い。
【0080】
また、必要に応じて、エッチング加工によりパターニングを実施する。また、エッチング工程により、ろう材のはみ出し部の長さWおよび金属板側面の角度θを調整するものとする。
【0081】
また、半導体モジュールとするときには、リードフレームまたは冷却フィンを接合する。また、必要に応じて、ねじ止め構造を採用する。
【0082】
次に、表面側の金属板(表金属板)に半導体素子を実装する。また、リードフレームなどの放熱部材の接合と半導体素子の接合は、同一工程で実施してもよいし、別々の工程で実施してもよい。また、その順番は特に限定されるものではない。
【0083】
また、表金属板にリードフレームを接合し、裏金属板に冷却フィンの両方を接合する場合は、接合する順番に応じて第一または第二の窒化珪素回路基板を使用する。先にリードフレームを接合する場合は、表金属板側に凸状となった第二の窒化珪素回路基板を用いることが好ましい。また、先に冷却フィンを接合する場合は、裏金属板側に凹状となった第二の窒化珪素回路基板1bを使用することが好ましい。
【0084】
また、必要に応じ、樹脂封止工程を実施する。樹脂封止工程は、トランスファーモールド法で製造することが好ましい。トランスファーモールド法は量産性に優れた方法である。実施形態に係る窒化珪素回路基板であれば、トランスファーモールド法により樹脂封止したとしても反り量を小さくすることができる。
【0085】
(実施例)
(実施例1~6、比較例1~3および参考例1~2)
窒化珪素基板として、厚さが0.32mmであり、長手方向(L1)の長さが60mmであり、短辺方向(L2)の長さが40mmである基板を用意した。この窒化珪素基板は、3点曲げ強度が600MPaであり、熱伝導率が90W/m・Kであり、破壊靭性値が6.5MPa・m1/2である。また、銅板を接合する前の窒化珪素基板の反り量は、長辺方向側の反り量SL1=0.02mm、短辺方向の反り量SL2=0.01mmである基板を用いた。
【0086】
次に、金属板としての銅板を用意した。また、活性金属ろう材原料として、Ag(60wt%)と、Cu(30wt%)と、In(8wt%)と、Ti(2wt%)とから成る原料混合体を用意した。この原料混合体を樹脂バインダと混合して活性金属ろう材ペーストを調製した。窒化珪素基板の両面に上記活性金属ろう材ペーストを塗布し、銅板を配置し、1×10-3Pa以下の真空雰囲気中で、温度780~830℃に加熱し銅板を接合する加熱工程を実施した。
【0087】
また、加熱接合した窒化珪素/銅回路基板の表金属板をエッチング加工してパターニングを実施した。また、表金属板および裏金属板の側面をエッチングして、ろう材のはみ出し部の長さWおよび金属板の側面の傾斜角度θを制御した。その後、応力を負荷しながら加熱して所定の反り量を得るように調整した。
【0088】
表面側の銅板のサイズ、裏面側の銅板のサイズ、金属板の側面の傾斜角度θ、活性金属ろう材のはみ出し量は表1に示す通りである。なお、金属板の側面の角度は、
図7に示したように、金属板の厚さの1/2の点から窒化珪素基板側の金属板の端部まで直線を引いたときの角度θとした。また、複数の銅板を接合したものは、銅板同士の間隔を1.2mmに統一した。
【0089】
【0090】
上記製造方法で得られた窒化珪素回路基板について、長辺方向側の反り量S
L1、短辺方向の反り量S
L2および反りの方向を測定した。反り量の測定は、
図2に示したように、窒化珪素基板の一端から他端まで直線を引き、基板がその直線から最も離れた距離を反り量とした。また、対角線方向の反り量S
L3も測定した。その結果を表2に示す。
【0091】
【0092】
実施例1~3は第一の窒化珪素回路基板に係るものである。また、実施例4~6は第二の窒化珪素回路基板に係るものである。また、比較例1は反りが無いものである。また、比較例2および比較例3は反り量が大きなものとした。参考例1は金属板端部の角度が過大である場合を示し、参考例2はろう材のはみ出し部の長さが過少である場合を示すものである。
【0093】
(実施例7~10)
窒化珪素基板として表3に示す仕様を有する基板をそれぞれ用意した。反り量は、長辺方向側の反り量を0.02mm以下であり、短辺側の反り量も0.02mm以下である基板を用意した。金属板の接合工程は実施例1と同様である。
【0094】
【0095】
次に表4の左欄に示す銅板を各窒化珪素基板の表面側及び裏面側に接合した。また、エッチング加工により、金属板側面の角度θ、ろう材のはみ出し部の長さWを制御した。また、複数の銅板を接合したものは隣接する銅板間の距離を1.2mmに統一した。その後、応力を負荷しながら加熱して所定の反り量を付与した。
【0096】
【0097】
得られた窒化珪素回路基板の長辺方向側の反り量S
L1、短辺方向の反り量S
L2、対角線方向の反り量S
L3、および反りの方向を測定した。反り量の測定は、
図2に示すように、窒化珪素基板の一端から他端まで直線を引き、窒化珪素基板がその直線から最も離れた距離を反り量とした。その結果を下記表5に示す。
【0098】
【0099】
実施例8は第一の窒化珪素回路基板1aの実施例である。また、実施例7,9,10は第二の窒化珪素回路基板1bの実施例である。
【0100】
次に、実施例1~10、比較例1~3および参考例1~2に係る窒化珪素回路基板のTCT特性を測定した。TCT試験は、温度-40℃×30分保持→室温(25℃)×10分保持→温度175℃×30分保持→室温(25℃)×10分保持の熱サイクルを1サイクルとし、500サイクルと1500サイクル後における金属板のはがれや窒化珪素基板のクラックの発生の有無を測定した。その結果を下記表6に示す。
【0101】
【0102】
表6に示す結果から明らかなように、各実施例および比較例に係る窒化珪素回路基板はTCT特性が優れていた。また、特に1500サイクルの長期に渡って、回路基板の耐久性を十分に発揮させるためには、金属板の側面角度θやろう材のはみ出し部の長さWを制御することが必要であることが判明した。
【0103】
(実施例1A~3A、実施例8A、比較例1A、比較例2Aおよび参考例4)
第一の窒化珪素回路基板(実施例1~3、8)の裏金属板に冷却フィンを接合することにより実施例1A~3A、実施例8Aに係る第二の半導体モジュール10bを作製した。また、比較例1および比較例2についても冷却フィンを接合して比較例1A、比較例2Aに係る半導体モジュールを作成した。また、参考例4として第一の窒化珪素回路基板(実施例4)に冷却フィンを接合して半導体モジュールを作製した。なお、冷却フィンは銅板で作製した。
【0104】
それぞれの半導体モジュールにおいて窒化珪素基板の反り量を測定した。また、半導体モジュールのTCT特性を測定した。また、TCT特性は、温度-40℃×30分保持→室温(25℃)×10分保持→温度200℃×30分保持 →室温(25℃)×10分保持を1サイクルとし、1000サイクル実施した後における金属板のはがれやクラックの発生などの不具合の有無を調査した。その結果を下記表7に示す。
【0105】
【0106】
上記表7に示す結果から明らかなように、各実施例に係る半導体モジュールは、冷却フィンを接合した後において窒化珪素基板の反り量が0.10mm未満になった。その結果、TCT特性も優れていた。一方、比較例1および比較例2では、反り量が大きくなりTCT特性が悪化した。また、参考例4のように反り方向が逆のものでは反って裏基板側への反りが大きくなった(反り量マイナス表示)。この場合もTCT特性は悪化した。比較例や参考例のように、反りが大きなものではねじ止め構造を行ったとき、窒化珪素基板に応力が作用し、さらにTCT特性が悪化することが判明した。
【0107】
このため、第一の窒化珪素回路基板は表金属板に冷却フィンを接合した構造に有効であることが分かる。
【0108】
(実施例4B~6B、7B、9B、10B、比較例1B、3B、参考例3)
第二の窒化珪素回路基板(実施例4~6、7,9,10)の表金属板にリードフレームを接合して実施例4B~6B,7B,9B,10Bに係る半導体モジュールを作製した。また、比較例1,3に係る窒化珪素回路基板についてもリードフレームを接合して比較例1B、3Bに係る半導体モジュールを作製した。さらに、参考例3として第一の窒化珪素回路基板(実施例1)にリードフレームを接合して半導体モジュールを作製した。なお、リードフレームは銅板で作製した。
【0109】
それぞれの半導体モジュールにおいて窒化珪素基板の反り量を測定した。また、半導体モジュールのTCT特性を測定した。ここで、TCT特性は、温度-40℃×30分保持→室温(25℃)×10分保持→温度200℃×30分保持→室温(25℃)×10分保持を1サイクルとし、1000サイクル実施した後において金属板のはがれやクラックの発生の有無を調査した。その結果を下記表8に示す。
【0110】
【0111】
上記表8に示す結果から明らかなように、各実施例に係る半導体モジュールはリードフレームを接合した後に窒化珪素基板の反り量が0.10mm未満になった。その結果、TCT特性も優れていた。一方、比較例1および比較例3では反り量が大きくなり、TCT特性が悪化した。また、参考例3のように反り方向が逆のものでは、反って裏基板側への反りが大きくなった(反り量マイナス表示)。この場合もTCT特性は悪化した。このため、第二の窒化珪素回路基板は表金属板にリードフレームを接合したモジュール構造に有効であることが判明した。
【0112】
以上、本発明のいくつかの実施形態を例示したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更などを行うことができる。これら実施形態やその変形例は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。また、前述の各実施形態は、相互に組み合わせて実施することができる。
【符号の説明】
【0113】
1…窒化珪素回路基板
1a…第一の窒化珪素回路基板
1b…第二の窒化珪素回路基板
2…窒化珪素基板
3…表面側の金属板
L1…窒化珪素基板の長辺方向の長さ
L2…窒化珪素基板の短辺方向の長さ
L3…窒化珪素基板の対角線の長さ
4…裏面側の金属板
S…窒化珪素基板の反り量
SL1…窒化珪素基板の長辺方向の反り量
SL2…窒化珪素基板の短辺方向の反り量
SL3…窒化珪素基板の対角線方向の反り量
5…半導体素子
6…リードフレーム
7…冷却フィン
8…ねじ
9…ねじ受け部
10…半導体モジュール
10a…第一の半導体モジュール
10b…第二の半導体モジュール
11…接合層(ろう材)のはみ出し部
θ…金属板側面の角度
W…接合層のはみ出し部の長さ