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特許7000652フレキシブルディスプレイ製造用積層体及びそれを用いたフレキシブルディスプレイの製造方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2021-12-28
(45)【発行日】2022-02-10
(54)【発明の名称】フレキシブルディスプレイ製造用積層体及びそれを用いたフレキシブルディスプレイの製造方法
(51)【国際特許分類】
   B32B 7/06 20190101AFI20220203BHJP
   B32B 7/027 20190101ALI20220203BHJP
   B32B 27/34 20060101ALI20220203BHJP
   C08G 73/10 20060101ALI20220203BHJP
   G09F 9/00 20060101ALI20220203BHJP
   G09F 9/30 20060101ALI20220203BHJP
【FI】
B32B7/06
B32B7/027
B32B27/34
C08G73/10
G09F9/00 342
G09F9/30 308Z
【請求項の数】 13
(21)【出願番号】P 2020529564
(86)(22)【出願日】2019-09-11
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2021-02-18
(86)【国際出願番号】 KR2019011859
(87)【国際公開番号】W WO2020055182
(87)【国際公開日】2020-03-19
【審査請求日】2020-06-02
(31)【優先権主張番号】10-2018-0108219
(32)【優先日】2018-09-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(73)【特許権者】
【識別番号】500239823
【氏名又は名称】エルジー・ケム・リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110000877
【氏名又は名称】龍華国際特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】パク、ジンヨン
(72)【発明者】
【氏名】リー、ジンホ
(72)【発明者】
【氏名】パク、 チェ ウォン
【審査官】弘實 由美子
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-099800(JP,A)
【文献】特表2015-530283(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B 7/06
B32B 7/027
B32B 27/34
C08G 73/10
G09F 9/00
G09F 9/30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
キャリア基板と、
前記キャリア基板上に形成されており、350℃以上の温度で熱膨張係数(CTE)が負数値を有するポリイミドを含むデボンディング層と、
前記デボンディング層上に形成された可撓性基板層と、
を備え、
前記デボンディング層は、第1面積を有し、
前記可撓性基板層は、前記第1面積よりも大きな第2面積を有しながら、前記デボンディング層を完全に覆っており、
前記デボンディング層に含まれたポリイミドは、ジアミンと二無水物とが、二無水物に比べて、ジアミンが当量比よりも過量である条件で重合及び硬化された生成物を含む、
フレキシブルディスプレイ製造用積層体。
【請求項2】
前記デボンディング層は、ビフェニルテトラカルボン酸二無水物(BPDA)を含む二無水物と、フェニレンジアミン(PDA)を含むジアミンとの重合及び硬化生成物を含む請求項1記載のフレキシブルディスプレイ製造用積層体。
【請求項3】
前記二無水物は、ピロメリット酸二無水物(PMDA)をさらに含むものであり、前記ジアミンは、2,2'-ビス(トリフルオロメチル)ベンジジン(TFMB)をさらに含む請求項に記載のフレキシブルディスプレイ製造用積層体。
【請求項4】
前記二無水物とジアミンとの組合わせは、BPDA-PDA、BPDA-PMDA-PDA及びBPDA-PDA-TFMBのうちから選択される請求項に記載のフレキシブルディスプレイ製造用積層体。
【請求項5】
前記二無水物とジアミンとの組合わせが、BPDA-PDA-TFMBであり、TFMBがジアミン全体のうち、5mol%以上である請求項に記載のフレキシブルディスプレイ製造用積層体。
【請求項6】
前記二無水物とジアミンとの組合わせが、BPDA-PMDA-PDAであり、PMDAが二無水物全体のうち、5mol%以上である請求項に記載のフレキシブルディスプレイ製造用積層体。
【請求項7】
前記デボンディング層の厚さが、50nm以上1μm以下である請求項1からの何れか一項に記載のフレキシブルディスプレイ製造用積層体。
【請求項8】
前記可撓性基板層が、350℃以上の温度でCTEが正数値を有するポリイミドを含む請求項1からの何れか一項に記載のフレキシブルディスプレイ製造用積層体。
【請求項9】
請求項1から請求項のうち何れか一項に記載のフレキシブルディスプレイ製造用積層体に含まれた可撓性基板層上に素子を形成する段階と、
前記素子が形成された可撓性基板層をデボンディング層から剥離する段階と、
を含むフレキシブルディスプレイの製造方法。
【請求項10】
前記デボンディング層は、第1面積を有するようにキャリア基板上に形成され、
前記可撓性基板層は、前記第1面積よりも大きな第2面積を有しながら、前記デボンディング層を完全に覆うように形成され、
前記素子は、前記デボンディング層と前記可撓性基板層とが重なる領域で前記可撓性基板層上に形成される請求項に記載のフレキシブルディスプレイの製造方法。
【請求項11】
前記可撓性基板層を剥離する段階は、前記デボンディング層と前記可撓性基板層とが重なる領域の内側縁部で前記キャリア基板に垂直方向に切断して、前記デボンディング層と前記可撓性基板層とが分離する請求項1に記載のフレキシブルディスプレイの製造方法。
【請求項12】
前記剥離する段階において可撓性基板層がデボンディング層から剥離される剥離強度が、0.05N/cm以下である請求項から11の何れか一項に記載のフレキシブルディスプレイの製造方法。
【請求項13】
前記剥離する段階において、前記デボンディング層と可撓性基板層との間に化学的または物理的変化を引き起こす工程を経ない請求項から1の何れか一項に記載のフレキシブルディスプレイの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願は、2018年9月11日付の大韓民国特許出願10-2018-0108219号に基づいた優先権の利益を主張し、当該韓国大韓民国特許出願の文献に開示されたあらゆる内容は、本明細書の一部として含まれる。
【0002】
本発明は、キャリア基板から可撓性基板を容易に分離することができるデボンディング層を備えた積層体及びそれを用いたフレキシブルディスプレイの製造方法に関する。
【背景技術】
【0003】
表示装置市場は、大面積が容易であり、薄型及び軽量化が可能な平板ディスプレイ(Flat Panel Display;FPD)中心に急速に変化している。このような平板ディスプレイには、液晶表示装置(Liquid Crystal Display;LCD)、有機発光表示装置(Organic Light Emitting Display;OLED)または電気泳動素子などがある。
【0004】
特に、最近、このような平板ディスプレイの応用と用途とをさらに拡張するために、前記平板ディスプレイに可撓性基板を適用した、いわゆるフレキシブルディスプレイ素子などに関する関心が集中されている。このようなフレキシブルディスプレイ素子は、主にスマートフォンなどモバイル機器を中心に適用が検討されており、次第にその応用分野が拡張して考慮されている。
【0005】
ところで、プラスチック基板上に薄膜トランジスタ(TFTs on Plastic:TOP)などのディスプレイ素子構造を形成及びハンドリングする工程は、フレキシブルディスプレイ素子の製造において重要な核心工程である。しかし、このようなフレキシブルディスプレイ素子が備えた基板の可撓性のために、既存のガラス基板用素子の製造工程に直接可撓性プラスチック基板を代替適用して、素子構造を形成するに当っては、まだ多くの工程上の問題がある。
【0006】
特に、可撓性基板内に含まれる薄膜ガラスの場合、衝撃によって容易に割れるために、支持ガラス(carrier glass)上に薄膜ガラスが載せられた状態でディスプレイ用基板の製造工程が実施される。従来、ガラス基板などのキャリア基板上にa-シリコンなどからなる犠牲層を形成した後、その上に可撓性基板を形成した。以後、キャリア基板によって支持される可撓性基板上に既存のガラス基板用素子の製造工程を通じて薄膜トランジスタなどの素子構造を形成した。そして、キャリア基板などをレーザまたは光を照射することにより、前記犠牲層を破壊し、前記素子構造が形成された可撓性基板を分離して、最終的にフレキシブルディスプレイ素子などの可撓性基板を有する素子を製造した。
【0007】
ところで、このような従来技術による製造方法では、前記レーザまたは光を照射する過程で素子構造が影響を受けて不良などが発生する恐れがあるだけではなく、前記レーザまたは光照射のための装備及び別途の工程進行が必要であって、全体的な素子製造工程が複雑になり、製造コストも、大きく高くなる短所があった。
【0008】
その上に、a-Siなどからなる犠牲層と、可撓性基板間の接着力が十分ではなくて、前記犠牲層と可撓性基板との間に別途の接着層などの形成が必要な場合が多く、これは、全体工程をさらに複雑にするだけではなく、さらに苛酷な条件下にレーザまたは光照射が必要になって、素子の信頼性に悪影響を及ぼしうる恐れがさらに増加した。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明が解決しようとする課題は、可撓性基板との分離が容易なデボンディング層を備えるフレキシブルディスプレイ製造用積層体を提供するところにある。
【0010】
本発明のさらなる課題は、前記積層体を用いるフレキシブルディスプレイの製造方法を提供するところにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、前述した課題を解決するために、キャリア基板;前記キャリア基板上にコーティングされ、350℃以上の温度でCTEが負数値を有するポリイミドを含むdeta;及び前記デボンディング層上に形成された可撓性基板層;を備えるフレキシブルディスプレイ製造用積層体を提供する。
【0012】
一実施例によれば、前記デボンディング層は、第1面積を有し、前記可撓性基板層は、前記第1面積よりも大きな第2面積を有しながら、前記デボンディング層を完全に覆っている。
【0013】
一実施例によれば、前記デボンディング層に含まれたポリイミドは、重合成分としてビフェニルテトラカルボン酸二無水物(BPDA)を含む二無水物とフェニレンジアミン(PDA)を含むジアミンとの重合及び硬化生成物を含むものである。
【0014】
また、前記二無水物は、ピロメリット酸二無水物(PMDA)をさらに含むものであり、前記ジアミンは、2,2'-ビス(トリフルオロメチル)ベンジジン(TFMB)をさらに含むものである。
【0015】
一実施例によれば、前記二無水物とジアミンとの組合わせは、BPDA-PDA、BPDA-PMDA-PDA及びBPDA-PDA-TFMBのうちから選択されるものである。
【0016】
一実施例によれば、前記デボンディング層に含まれたポリイミドが、ジアミンと二無水物とを、二無水物に比べて、ジアミンが当量比よりも過量である条件で重合及び硬化させて製造されたものである。
【0017】
一実施例によれば、前記二無水物とジアミンとの組合わせが、BPDA-PDA-TFMBであり、TFMBがジアミン全体のうち、5mol%以上であるものである。
【0018】
一実施例によれば、前記二無水物とジアミンとの組合わせが、BPDA-PMDA-PDAであり、PMDAが二無水物全体のうち、5mol%以上であるものである。
【0019】
一実施例によれば、前記デボンディング層に含まれたポリイミドの熱分解温度が、560℃以上である。
一実施例によれば、前記デボンディング層の厚さが、50nm以上1μm以下である。
【0020】
一実施例によれば、前記可撓性基板層が、350℃以上の温度でCTEが正数値を有するポリイミドを含むものである。
【0021】
本発明の他の課題を解決するために、キャリア基板上に350℃以上でCTEが負数であるポリイミドを含むデボンディング層を形成する段階;前記デボンディング層上に可撓性基板層を形成する段階;前記可撓性基板層上に素子を形成する段階;及び前記素子が形成された基板を前記デボンディング層から剥離する段階;を含むフレキシブルディスプレイの製造方法を提供する。
【0022】
一実施例によれば、前記デボンディング層は、第1面積を有するようにキャリア基板上に形成され、前記可撓性基板層は、前記第1面積よりも大きな第2面積を有しながら、前記デボンディング層を完全に覆うように形成され、前記素子は、前記デボンディング層と前記可撓性基板とが重なる領域で前記可撓性基板層上に形成されるものである。
【0023】
一実施例によれば、前記可撓性基板層を剥離する段階は、前記デボンディング層と前記可撓性基板とが重なる領域の内側縁部で前記キャリア基板に垂直方向に切断して、前記デボンディング層と前記可撓性基板層とを分離するものである。
【0024】
一実施例において、前記剥離する段階において、可撓性基板層をデボンディング層から剥離する剥離強度が、0.05N/cm以下である。
【0025】
一実施例において、前記剥離する段階において、前記デボンディング層と可撓性基板層との間に化学的または物理的変化を引き起こす工程を経ないものである。
【発明の効果】
【0026】
本発明によるフレキシブルディスプレイ製造用積層体は、350℃以上の温度でCTE(熱膨張係数)が負数であるポリイミドを可撓性基板とキャリア基板とを分離するためのデボンディング層に使用することにより、可撓性基板上に素子形成のための高温工程を経ながら可撓性基板とデボンディング層との残留応力の差による浮き上がり(Detach)現象を用いて可撓性基板をキャリア基板から容易に分離することができる。これにより、可撓性基板上に形成された素子に化学的または物理的損傷を与えずに、可撓性基板を分離することができて、剥離工程時に発生する問題を最小化することができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
図1A】デボンディング層のCTEが正数である場合、温度変化による寸法変化及び残留応力変化を示すグラフ(図1A)と、積層体の反り変化を示す概略図(図1B)である。
図1B】デボンディング層のCTEが正数である場合、温度変化による寸法変化及び残留応力変化を示すグラフ(図1A)と、積層体の反り変化を示す概略図(図1B)である。
図2A】デボンディング層のCTEが負数である場合、温度変化による寸法変化及び残留応力変化を示すグラフ(図2A)と、積層体の反り変化を示す概略図(図2B)である。
図2B】デボンディング層のCTEが負数である場合、温度変化による寸法変化及び残留応力変化を示すグラフ(図2A)と、積層体の反り変化を示す概略図(図2B)である。
図3A】本発明の一実施例によるフレキシブル基板製造用積層体から素子が形成された可撓性基板を剥離する工程を説明する平面図(図3A)、及び断面図(図3B)である。
図3B】本発明の一実施例によるフレキシブル基板製造用積層体から素子が形成された可撓性基板を剥離する工程を説明する平面図(図3A)、及び断面図(図3B)である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
本発明は、多様な変換を加え、さまざまな実施例を有することができるので、特定実施例を図面に例示し、詳細な説明で詳細に説明する。しかし、これは、本発明を特定の実施形態に対して限定しようとするものではなく、本発明の思想及び技術範囲に含まれる、あらゆる変換、均等物または代替物を含むものと理解しなければならない。本発明を説明するに当って、関連した公知技術についての具体的な説明が、本発明の要旨を不明にする恐れがあると判断される場合、その詳細な説明を省略する。
【0029】
本明細書において、あらゆる化合物または有機基は、特別な言及がない限り、置換または非置換のものである。ここで、「置換」とは、化合物または有機基に含まれた少なくとも1つの水素がハロゲン原子、炭素数1~10のアルキル基、ハロゲン化アルキル基、炭素数3~30のシクロアルキル基、炭素数6~30のアリール基、ヒドロキシ基、炭素数1~10のアルコキシ基、カルボン酸基、アルデヒド基、エポキシ基、シアノ基、ニトロ基、アミノ基、スルホン酸基、及びこれらの誘導体からなる群から選択される置換基に置き換えられたことを意味する。
【0030】
フレキシブルディスプレイは、自在な形態が可能であり、軽くて薄く、割れない特性のために、市場の需要が増加している。このようなフレキシブルディスプレイを具現するに当って、耐熱性に優れたBPDA-PDAで構成されるポリイミドが可撓性基板として主に用いられている。
【0031】
このようなフレキシブルディスプレイを形成する工程では、支持基板であるガラス基板上にポリイミドのような高分子素材の可撓性基板を形成し、その上に素子を形成した後、レーザ(laser)を照射して、前記ガラス基板と可撓性基板との間を分離する方法が主に使われている。
【0032】
しかし、このようなレーザ剥離(laser detach)技術の場合、装備投資のコスト増加及びレーザがプラスチック基板に透過される場合、TFT素子に損傷を与えて、収率低下が発生する。
【0033】
本発明は、このような従来の問題を解決するために、キャリア基板;前記キャリア基板上に形成された350℃以上の温度でCTEが負数値を有するポリイミドを含むデボンディング層;及び前記デボンディング層上に形成された可撓性基板層;を備えるフレキシブルディスプレイ製造用積層体を提供する。
【0034】
本発明は、また、キャリア基板上に350℃以上でCTEが負数であるポリイミドを含むデボンディング層を形成する段階;前記デボンディング層上に可撓性基板層を形成する段階;前記可撓性基板層上に素子を形成する段階;及び前記デボンディング層が形成されたキャリア基板から前記可撓性基板層を剥離する段階;を含むフレキシブルディスプレイの製造方法を提供する。
【0035】
可撓性基板として使われるポリイミドフィルムが高温でのCTEが負数である場合、すなわち、高温で収縮する挙動を示せば、高温の熱処理工程などで問題が発生する。本発明によれば、このような高温での収縮挙動を示すポリイミドを可撓性基板ではないデボンディング層として使用することにより、素子形成工程のような高温工程を経ながら収縮によって可撓性基板とデボンディング層とを自然に剥離させることにより、レーザ工程のような別途の処理なしでも、可撓性基板をキャリア基板から容易に分離することができる。
【0036】
図1Aは、350℃以上でCTEが正数値を有するポリイミドフィルムの温度による寸法変化(dimension change)と残留応力(stress)変化とを示すグラフである。
【0037】
図1Aから見るように、350℃以上でCTEが正数であるポリイミドをデボンディング層として使用する場合、昇温過程で応力が減少し((i))、350℃以上では応力が減少または保持される傾向を示し((ii)、(iii))、以後、降温過程で応力が再び増加する態様を示し((iv))、このようなストレス変化態様は、一般的な可撓性基板の温度変化による反り変化態様と同一である(但し、i~ivは図中の丸付き数字1~4に対応する)。したがって、350℃以上でCTEが正数であるポリイミドをデボンディング層として使用する場合には、図1Bに示したように、応力変化による反り変化態様が可撓性基板とデボンディング層とが同一であって、可撓性基板とデボンディング層との間に浮き上がりが発生しない。
【0038】
一方、図2Aは、350℃以上でCTEが負数値を有するポリイミドフィルムの温度による寸法変化と残留応力変化とを示すグラフである。図2A及び図2Bから見るように、350℃以上でCTEが負数であるポリイミドをデボンディング層の場合、350℃以下の温度では応力が減少して((i))、可撓性基板と同じ反り変化を示すが、以後、350℃以上の温度で応力が増加して((ii))、可撓性基板と逆方向に反りが発生し、このような過程で可撓性基板とデボンディング層との間に浮き上がりが発生する。以後、降温過程で応力が再び減少するが((iii))、浮き上がりは、依然として保持された状態であるが、これは、昇温時の応力曲線と降温時の応力曲線との差が大きいことから分かる。したがって、350℃以下で応力が増加して((iv))、再び可撓性基板と同じ方向への反りが発生しても、発生した浮き上がりが依然として存在することにより、可撓性基板との接着力が低下する。このような方式で発生した浮き上がりは、以後工程でさらに大きくなるか、保持され、可撓性基板との接着力が低下することにより、剥離が容易になる。
【0039】
本発明において、前記CTE(熱膨張係数)は、Thermomechanical Analyzer(熱機械分析器)を用いて測定され、例えば、100~460℃の温度範囲で4℃の昇温速度で1次昇温工程を進行した後、460~100℃の温度範囲で5℃の冷却速度で冷却(cooling)させた後、冷却されたサンプルを100~460℃で4℃の昇温させながら測定された値である。350℃以上の温度範囲のCTE値が負数を有するということは、前記350℃以上の温度範囲で、温度変化による試片の寸法変化(μm)を示すグラフの傾きが負数を示すことを意味する。
【0040】
前記デボンディング層に使われるポリイミドは、ビフェニルテトラカルボン酸二無水物(BPDA)を含む二無水物とフェニレンジアミン(PDA)を含むジアミンとの重合及び硬化生成物を含むものである。
【0041】
また、前記二無水物は、ピロメリット酸二無水物(PMDA)をさらに含むものであり、前記ジアミンは、2,2'-ビス(トリフルオロメチル)ベンジジン(TFMB)をさらに含むものである。
【0042】
一実施例によれば、前記酸二無水物とジアミンとの組合わせは、BPDA-PDA、BPDA-PMDA-PDA及びBPDA-PDA-TFMBのうちから選択されるものである。ここで、略語は、次を意味する。
【0043】
BPDA:biphenyl-tetracarboxylic acid dianhydride
PDA:phenylene diamine
PMDA:pyromellitic dianhydride
TFMB:2,2'-bis(trifluoromethyl)benzidine
【0044】
前記ポリイミドは、ジアミンが二無水物に比べて、当量比よりも過量である条件で重合されたものである。例えば、BPDA-PDAは、ジアミンであるPDAをBPDAに比べて、当量比よりも過量にして重合されたものである。
【0045】
BPDA-PMDA-PDAは、PDAをBPDAとPMDAとを合わせたものの当量比よりも過量で、BPDA-PDA-TFMBは、PDAとTFMBとを合わせたものがPDAの当量比よりも過量で重合されたものである。
【0046】
ジアミンが二無水物に比べて、当量比よりも過量である条件は、例えば、二無水物とジアミンとが0.9:1~0.99:1のmol比で重合されるものである。ジアミン1molに比べて、二無水物のmol比は、0.95~0.99または0.97~0.99または0.98~0.99または0.985~0.99でもある。
【0047】
一般的に、ジアミンを二無水物の当量比よりさらに過量にする重合及び硬化して製造されたポリイミドを可撓性基板として使用する場合、粘度及び分子量の安定性においては有利であるが、高温でのCTEが負数、すなわち、収縮する挙動を示して、高温の熱処理工程などで不良を起こしうる問題を有している。例えば、高温の熱処理工程以後、残留応力を誘発して可撓性基板上に形成された無機膜のクラック、フィルムの浮き上がりのような各種の不良を発生させる問題点がある。本発明によれば、このようなジアミン過量のポリイミドの高温収縮挙動を用いてキャリア基板と可撓性基板との分離のためのデボンディング層として適用することにより、高温工程で素子が形成された可撓性基板を、レーザ照射工程または犠牲層形成及び除去工程のような化学的または物理的変化を引き起こす工程を経ずに、損傷なしにキャリア基板から分離することができる。
【0048】
一実施例によれば、BPDA-PMDA-PDAポリイミド重合時に、PMDAは、二無水物含量全体のうち、5mol%以上または8mol%以上または10mol%以上、そして、18mol%以下または15mol%以下含まれうる。
【0049】
さらに他の実施例によれば、BPDA-PDA-TFMBポリイミド重合時に、TFMBは、ジアミン全体の含量のうち、5mol%以上または8mol%以上または10mol%以上、そして、18mol%以下または15mol%以下含まれうる。
【0050】
一実施例によれば、前記デボンディング層として使われるポリイミドの熱分解温度は、フレキシブルディスプレイ素子工程の温度よりも高くなければならず、例えば、500℃に達する高温工程でも分解されてはならないので、望ましくは、560℃以上の熱分解温度を有するものである。
【0051】
一実施例によれば、前記デボンディング層の硬化温度は、350℃以上であり、望ましくは、400℃以上の温度で硬化されるものである。350℃以上の温度で硬化されることにより、可撓性基板と異なる収縮現象を有するデボンディング層を形成して、剥離をさらに容易にする。
【0052】
前記デボンディング層の厚さは、50nm以上1μm以下であり、デボンディング層の厚さが50nmよりも薄いか、1μmよりも厚い場合、温度変化による収縮現象が十分に発現されず、剥離が難しい。デボンディング層の厚さは、70nm以上、80nm以上、または90nm以上であり、800nm以下、600 nm以下、400nm以下、200nm以下でもある。
【0053】
一実施例によれば、前記剥離工程でデボンディング層と可撓性基板層とを剥離する剥離強度は、0.05N/cm以下または0.04N/cm以下または0.03N/cm以下でもある。
【0054】
前記デボンディング層上に可撓性基板層を形成するために、可撓性基板用ポリイミド前駆体をコーティングし、硬化する工程でデボンディング層と可撓性基板層との浮き上がりが発生し、素子を形成するための熱処理工程が反復されることによって、前記浮き上がりが増加することにより、可撓性基板層とデボンディング層との接着力が低下する。この際、前記熱処理工程は、350℃以上であり、前記反復的な熱処理工程以後、デボンディング層と可撓性基板層との接着力(または、剥離強度)は、0.05N/m以下である。
【0055】
一実施例によれば、前記デボンディング層上に形成されるポリイミド可撓性基板層は、350℃以上の温度でCTEが正数値を有するが、望ましくは、7ppm/℃以下であり、より望ましくは、4ppm/℃以下でもある。前記可撓性基板層が、350℃以上の温度でCTEが正数である値を有し、温度変化によるフィルムの変化態様がデボンディング層と異なって浮き上がりが発生することにより、デボンディング層と可撓性基板層との剥離が容易に発生する。
【0056】
本発明の一実施例によるフレキシブルディスプレイ製造用積層体は、キャリア基板層;前記キャリア基板層上に形成され、第1面積を有する前記デボンディング層;及び前記第1面積よりも大きな第2面積を有して、前記デボンディング層を完全に覆う可撓性基板層;を含みうる。
【0057】
図3A及び図3Bは、一具現例による積層体の平面図及び断面図を示す。
図3A図3Bとを参照すれば、キャリア基板上にデボンディング層が形成され、この際、デボンディング層の面積を第1面積と称する。前記デボンディング層上に可撓性基板層が形成されるが、可撓性基板層は、前記デボンディング層の第1面積よりも広い第2面積に形成される。すなわち、前記可撓性基板層は、デボンディング層を完全に覆う形態に形成されることにより、前記キャリア基板と前記可撓性基板層とが直接接する領域(A)が存在する。
【0058】
この際、前記キャリア基板と可撓性基板層との接着力は、前記可撓性基板とデボンディング層との接着力よりも大きいために、前記接着力は、素子形成工程が進行する過程でも工程安定性を提供することができる。
【0059】
すなわち、350℃以上の高温である工程温度でデボンディング層のCTE変化による反り発生によって、可撓性基板層とデボンディング層との間の接着力が低下しても、前記可撓性基板層とキャリア基板とが接着されている領域(A)によって、素子形成工程中に可撓性基板層とデボンディング層とが分離及び移動が発生しないことにより、高温の工程温度でも、素子形成工程を安定して行うことができる。
【0060】
本発明によるフレキシブルディスプレイの製造方法は、キャリア基板上に第1面積を有するデボンディング層を形成する段階;前記デボンディング層の第1面積よりも大きな第2面積を有しながら、デボンディング層を完全に覆うように可撓性基板層を形成する段階;前記前記可撓性基板層上に素子を形成する段階;及び素子が形成された可撓性基板をデボンディング層から剥離する段階;を含む。
【0061】
前記可撓性基板層を剥離する段階は、前記デボンディング層と前記可撓性基板とが重なる領域の内側縁部で前記キャリア基板に垂直方向に切断して、前記デボンディング層と前記可撓性基板層とが分離するものである。
【0062】
前記可撓性基板層上に形成される素子は、デボンディング層と前記可撓性基板とが重なる領域で可撓性基板層上に形成されることが工程効率性の側面において望ましい。
【0063】
前記可撓性基板層として使われるポリイミドは、例えば、下記化学式1の構造を有するテトラカルボン酸二無水物1種以上と化学式2の構造を有するジアミン1種以上とを重合及び硬化して製造されたものである。
【0064】
【化1】
【0065】
【化2】
【0066】
前記化学式1のXは、炭素数3~24の脂肪族環または炭素数6~30の芳香族環を含む4価の有機基であり、具体的には、芳香族環または脂肪族構造がそれぞれの環構造が剛直(rigid)な構造、すなわち、単一環構造、それぞれの環が単一結合で結合された構造またはそれぞれの環が直接連結された複素環構造を含む4価の有機基であり、例えば、下記化学式3aから化学式3kの4価の有機基が挙げられるが、これに限定されるものではない。
【0067】
【化3】
【0068】
前記化学式3aから化学式3kの4価の官能基内の1以上の水素原子は、炭素数1~10のアルキル基(例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、t-ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基など)、炭素数1~10のフルオロアルキル基(例えば、フルオロメチル基、パーフルオロエチル基、トリフルオロメチル基など)、炭素数6~12のアリール基(例えば、フェニル基、ナフタレニル基など)、スルホン酸基、及びカルボン酸基からなる群から選択される置換基に置換されてもよく、望ましくは、炭素数1~10のフルオロアルキル基に置換される。
化学式3aから化学式3kにおいて、は、連結部位を示す。
【0069】
前記化学式2のYは、それぞれ独立して炭素数4~30の脂肪族、脂環族または炭素数6~30の芳香族の2価の有機基であるか、またはこれらの組合わせ基であって、脂肪族、脂環族または芳香族の2価の有機基が直接連結されるか、または架橋構造を通じて互いに連結された2価の有機基から選択される構造を含むジアミンから誘導されたものである。例えば、前記Yは、炭素数6~30の単環式または多環式芳香族、炭素数6~30の単環式または多環式脂環族、またはこれらのうち2つ以上が単一結合で連結された構造であり、より具体的に、前記Yは、芳香族環または脂肪族構造が剛直な鎖構造を形成するものであり、例えば、単一環構造、それぞれの環が単一結合で結合された構造またはそれぞれの環が直接連結された複素環構造を含む2価の有機基であり、例えば、下記化学式4aから化学式4kの2価の有機基であるが、これに限定されるものではない。
【0070】
【化4】
【0071】
前記化学式4aから化学式4kの2価の官能基内の1以上の水素原子は、炭素数1~10のアルキル基(例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、t-ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基など)、炭素数1~10のフルオロアルキル基(例えば、フルオロメチル基、パーフルオロエチル基、トリフルオロメチル基など)、炭素数6~12のアリール基(例えば、フェニル基、ナフタレニル基など)、スルホン酸基、及びカルボン酸基からなる群から選択される置換基に置換されてもよく、望ましくは、炭素数1~10のフルオロアルキル基に置換される。
化学式4aから化学式4kにおいて、は、連結部位を示す。
【0072】
一実施例によれば、前記可撓性基板用ポリイミドは、前記化学式1の構造を有する酸二無水物の総mol量が化学式2のジアミンの総mol量に比べて、過量で重合させて得た前駆体を硬化させて得たものである。
【0073】
前記デボンディング層及び可撓性基板用ポリイミドを製造するための酸二無水物とジアミン化合物との重合反応は、溶液重合など通常のポリイミドまたはその前駆体の重合方法によって実施される。
【0074】
前記反応は、無水条件で実施され、前記重合反応時に、温度は、-75~50℃、望ましくは、0~40℃で実施される。ジアミン系化合物が有機溶媒に溶解された状態で酸二無水物を投入する方式で実施される。
【0075】
また、前記重合反応に使われる有機溶媒としては、具体的に、γ-ブチロラクトン、1,3-ジメチル-イミダゾリジノン、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン、シクロペンタノン、4-ヒドロキシ-4-メチル-2-ペンタノンなどのケトン類;トルエン、キシレン、テトラメチルベンゼンなどの芳香族炭化水素類;エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、ジプロピレングリコールルジエチルエーテル、トリエチレングリコールモノエチルエーテルなどのグリコールエーテル類(セロソルブ);酢酸エチル、酢酸ブチル、エチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、エチレングリコールモノブチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、ジプロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、エタノール、プロパノール、エチレングリコール、プロピレングリコール、カルビトール、ジメチルアセトアミド(DMAc)、N、N-ジエチルアセトアミド(DEAc)、ジメチルホルムアミド(DMF)、ジエチルホルムアミド(DEF)、N-メチルピロリドン(NMP)、N-エチルピロリドン(NEP)、N-ビニルピロリドン、1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノン、N、N-ジメチルメトキシアセトアミド、ジメチルスルホキシド、ピリジン、ジメチルスルホン、ヘキサメチルホスホルアミド、テトラメチルウレア、N-メチルカプロラクタム、テトラヒドロフラン、m-ジオキサン、P-ジオキサン、1,2-ジメトキシエタン、ビス(2-メトキシエチル)エーテル、1,2-ビス(2-メトキシエトキシ)エタン、ビス[2-(2-メトキシエトキシ)]エーテル、及びこれらの混合物からなる群から選択されうる。
【0076】
また、ポリアミド酸またはポリイミドを合成する場合、過剰のポリアミノ基または酸無水物基を不活性化するために、分子末端をジカルボン酸無水物またはモノアミンを反応させて、ポリイミドの末端を封止する末端封止剤をさらに添加することができる。
【0077】
前記製造されたポリイミド前駆体組成物を用いてポリイミドを製造する方法は、前記ポリイミド前駆体組成物を基板の一面に塗布し、熱処理してイミド化する硬化段階を含む。
【0078】
具体的に、ポリイミド前駆体組成物は、前記有機溶媒中にポリイミド前駆体が溶解された溶液の形態であり、例えば、ポリイミド前駆体を有機溶媒中で合成した場合には、ポリイミド前駆体組成物は、重合後、得られるポリイミド前駆体溶液のそれ自体または同一溶液をさらに添加したものであっても良く、または、前記重合後、得られたポリイミド前駆体溶液を他の溶媒で希釈したものであっても良い。
【0079】
前記ポリイミド前駆体組成物は、フィルム形成工程時の塗布性などの工程性を考慮して、適切な粘度を有させる量で固形分を含むことが望ましく、前記固形分は、ポリイミド前駆体組成物総重量に対して5~20重量%に含まれうる。または、前記ポリイミド前駆体組成物が、400~50,000cPの粘度を有するように調節することが望ましい。ここで、粘度は、ASTM D4287、ISO2884の標準方法で測定される。ポリイミド前駆体組成物の粘度が400cP未満であり、ポリイミド前駆体組成物の粘度が50,000cPを超過する場合、前記ポリイミド前駆体組成物を利用したディスプレイ基板の製造時に、流動性が低下して、コーティング時に均一に塗布にならないなどの製造工程上の問題点を引き起こし得る。
【0080】
前記キャリア基板としては、ガラス、金属基板またはプラスチック基板などが特に制限なしに使われ、そのうちでも、ポリイミド前駆体に対するイミド化及び硬化工程のうち、熱及び化学的安定性に優れ、別途の離型剤処理なしでも、硬化後、形成されたポリイミド系フィルムに対して損傷なしに容易に分離されるガラス基板が望ましい。
【0081】
また、前記塗布及びコーティング工程は、通常の塗布方法によって実施され、具体的には、スピンコーティング法、バーコーティング法、ロールコーティング法、エアナイフ法、グラビア法、リバースロール法、キスロール法、ドクターブレード法、スプレー法、浸漬法またはブラシ法などが用いられうる。そのうちでも、連続工程が可能であり、ポリイミド系樹脂のイミド化率を増加させることができるキャスティング法によって実施されることがより望ましい。
【0082】
また、前記ポリイミド前駆体溶液は、最終的に製造されるポリイミド系フィルムがデボンディング層またはディスプレイ基板用として適した厚さを有させる厚さの範囲で基板上に塗布されうる。
【0083】
前記ポリイミド前駆体組成物塗布後、硬化工程に先立って、ポリイミド前駆体組成物内に存在する溶媒を除去するための乾燥工程が選択的にさらに実施される。
【0084】
前記乾燥工程は、通常の方法によって実施され、具体的に、140℃以下、あるいは80~140℃の温度で実施される。乾燥工程の実施温度が80℃未満であれば、乾燥工程が長くなり、140℃を超過する場合、イミド化が急激に進行して、均一な厚さのポリイミドフィルムの形成が難しい。
【0085】
引き続き、前記硬化工程は、80~450℃の温度での熱処理によって進行しうる。前記硬化工程は、前記温度範囲内で多様な温度での多段階加熱処理で進行することもできる。また、前記硬化工程時に、硬化時間は特に限定されず、一例として、3~30分間実施される。
【0086】
また、前記硬化工程後にポリイミドフィルム内ポリイミド樹脂のイミド化率を高めて、前述した物性的特徴を有するポリイミド系フィルムを形成するために、後続の熱処理工程が選択的にさらに実施することもできる。
【0087】
前記熱処理工程は、200℃以上、あるいは200~450℃で1~30分間実施されることが望ましい。また、前記後続の熱処理工程は、1回実施することもでき、または、2回以上多段階で実施することもできる。具体的には、200~220℃での第1熱処理、300~380℃での第2熱処理及び400~450℃での第3熱処理を含む3段階で実施される。
【0088】
前記可撓性基板層に含まれるポリイミドは、約360℃以上のガラス転移温度を有するものである。このように優れた耐熱性を有するために、前記ポリイミドを含むフィルムは、素子製造工程中に付加される高温の熱に対しても優れた耐熱性及び機械的特性を保持することができる。
【0089】
以下、当業者が容易に実施できるように、本発明の実施例について詳しく説明する。しかし、本発明は、さまざまな異なる形態として具現可能であり、ここで説明する実施例に限定されるものではない。
【0090】
<製造例1>BPDA-pPDA(98.9:100)ポリイミド重合
窒素気流が流れる攪拌機内に有機溶媒NMP(N-メチル-2-ピロリドン)100gを満たした後、反応器の温度を25℃に保持した状態でパラフェニレンジアミン(p-PDA)6.243g(57.726mmol)を溶解させた。前記p-PDA溶液に3,3',4,4'-ビフェニルカルボン酸二無水物(s-BPDA)16.797g(57.091mmol)とNMP 56.96gとを同じ温度で添加し、一定時間溶解しながら撹拌して、ポリアミド酸を重合することにより、ポリイミド前駆体を製造した。
【0091】
前記反応から製造されたポリイミド前駆体を固形分濃度を12.8重量%になるように、前記有機溶媒を添加して、ポリイミド前駆体溶液を製造した。
【0092】
<製造例2>BPDA-PMDA-pPDA(88.9:10:100)ポリイミド重合
窒素気流が流れる攪拌機内に有機溶媒NMP(N-メチル-2-ピロリドン)100gを満たした後、反応器の温度を25℃に保持した状態でパラフェニレンジアミン(p-PDA)6.364g(58.849mmol)を溶解させた。前記p-PDA溶液に3,3',4,4'-ビフェニルカルボン酸二無水物(s-BPDA)15.393g(52.316mmol)、ピロメリット酸二無水物(PMDA)1.289g(5.885mmol)とNMP 56.96gとを同じ温度で添加し、一定時間溶解しながら撹拌して、ポリアミド酸を重合することにより、ポリイミド前駆体を製造した。
【0093】
前記反応から製造されたポリイミド前駆体を固形分濃度を12.8重量%になるように、前記有機溶媒を添加して、ポリイミド前駆体溶液を製造した。
【0094】
<製造例3>BPDA-pPDA-TFMB(98.9:90:10)ポリイミド重合
窒素気流が流れる攪拌機内に有機溶媒NMP(N-メチル-2-ピロリドン)100gを満たした後、反応器の温度を25℃に保持した状態でパラフェニレンジアミン(p-PDA)5.335g(49.332mmol)とビストリフルオロメチルベンジジン(TFMB)1.775g(5.481mmol)とを溶解させた。前記p-PDAとTFMB溶液に3,3',4,4'-ビフェニルカルボン酸二無水物(s-BPDA)15.950g(54.221mmol)とNMP 56.96gとを同じ温度で添加し、一定時間溶解しながら撹拌して、ポリアミド酸を重合することにより、ポリイミド前駆体を製造した。
【0095】
前記反応から製造されたポリイミド前駆体の固形分濃度が12.8重量%になるように、前記有機溶媒を添加して、ポリイミド前駆体溶液を製造した。
【0096】
<製造例4>BPDA-pPDA(100:98.9)ポリイミド重合
窒素気流が流れる攪拌機内に有機溶媒NMP(N-メチル-2-ピロリドン)100gを満たした後、反応器の温度を25℃に保持した状態でパラフェニレンジアミン(p-PDA)6.142g(56.800mmol)を溶解させた。前記p-PDA溶液に3,3',4,4'-ビフェニルカルボン酸二無水物(s-BPDA)16.898g(57.432mmol)とNMP 56.96gとを同じ温度で添加して、一定時間溶解しながら撹拌して、ポリアミド酸を重合することにより、ポリイミド前駆体を製造した。
【0097】
前記反応から製造されたポリイミド前駆体の固形分濃度が12.8重量%になるように、前記有機溶媒を添加して、ポリイミド前駆体溶液を製造した。
【0098】
<製造例5>BPDA-pPDA/PA(98.9:100:2.2)ポリイミド重合
窒素気流が流れる攪拌機内に有機溶媒NMP(N-メチル-2-ピロリドン)100gを満たした後、反応器の温度を25℃に保持した状態でパラフェニレンジアミン(p-PDA)6.192g(57.259mmol)を溶解させた。前記p-PDA溶液に3,3',4,4'-ビフェニルカルボン酸二無水物(s-BPDA)16.661g(56.629mmol)とNMP 56.96gとを同じ温度で添加して、一定時間溶解しながら撹拌して、ポリアミド酸を重合することにより、ポリイミド前駆体を製造した。以後、前記ポリアミド酸溶液に無水フタル酸(PA)0.187g(1.260mmol)を投入し、一定時間撹拌して、ポリイミド前駆体を製造した。
【0099】
前記反応から製造されたポリイミド前駆体の固形分濃度が12.8重量%になるように、前記有機溶媒を添加して、ポリイミド前駆体溶液を製造した。
【0100】
<製造例6>BPDA-PMDA-pPDA(90:10:98.9)ポリイミド重合
BPDA-PMDA-pPDAのmol比を変化させて、二無水物が当量比よりも過量になるようにしたことを除いては、製造例2と同じ方法でポリイミド前駆体溶液を製造した。
【0101】
<製造例7>BPDA-pPDA-TFMB(100:88.9:10)ポリイミド重合
BPDA-pPDA-TFMBのmol比を変化させて、二無水物が当量比よりも過量になるようにしたことを除いては、製造例3と同じ方法でポリイミド前駆体溶液を製造した。
【0102】
<実験例1>
製造例1から製造例7から製造されたそれぞれのポリイミド前駆体溶液をガラス基板にスピンコーティングした。ポリイミド前駆体溶液が塗布されたガラス基板をオーブンに入れ、6℃/minの速度で加熱し、400℃で10分を保持して硬化工程を進行した。硬化工程完了後に、ガラス基板を水に浸してガラス基板上に形成されたフィルムを取り外した後、オーブンで100℃に乾燥して、厚さが6μmであるポリイミドのフィルムを製造した。
【0103】
製造されたポリイミドフィルムに対して、下記のような方法で熱膨張係数(CTE)及び熱分解温度を測定して、表1に示した。
【0104】
<熱膨張係数の測定>
それぞれのポリイミドフィルムを5x20mmのサイズに準備した後、アクセサリーを用いてTA社のQ400装備に試料をローディングする。実際に測定されるフィルムの長さは、16mmに同様にした。フィルムを引っ張る力を0.02Nに設定し、100~460℃の温度範囲で4℃/minの昇温速度で1次昇温工程を進行した後、460~100℃の温度範囲で5℃/minの冷却速度で冷却させた。以後、前記冷却されたそれぞれのサンプルを100~460℃で4℃/minの昇温速度で加熱(heating)させながら、サンプルの熱膨張変化をTMAで測定した。前記加熱による温度変化によるサンプルの寸法変化の態様を図1Aに示し、前記温度範囲で測定された熱膨張係数を下記表1に示した。
【0105】
<熱分解温度の測定>
TA instruments社のDiscovery TGAを用いて窒素雰囲気で重合体の重量減少率1%である時の温度を測定した。
【0106】
【表1】
【0107】
前記表1の結果から、ジアミンが二無水物に比べて、過量である製造例1から製造例3のポリイミドフィルムは、CTEが負数であるが、製造例4から製造例7のフィルムは、CTEが正数として表われることが分かる。製造例4、製造例6及び製造例7の場合には、ジアミンに比べて、二無水物が過量であり、製造例5の場合には、二無水物(BPDA)に比べて、ジアミン(pPDA)は過量であるが、末端封止剤(PA)が添加されて、結果として酸性分がジアミンの含量に比べて多い。
【0108】
<実施例1>
製造例1から製造されたポリイミド前駆体溶液を固形分濃度3wt%になるように溶媒で希釈した後、ガラス基板の一部にスピンコーティングした。ポリイミド前駆体溶液が塗布されたガラス基板をオーブンに入れ、常温から6℃/minの速度で加熱し(200℃、350℃及び400℃)、最終硬化温度で10分を保持して、最終厚さ0.1μmであるデボンディング層を形成した。
【0109】
可撓性基板層の形成のために、製造例4のポリイミド前駆体溶液をガラス基板に形成されたデボンディング層を完全に覆うようにスピンコーティングした。ポリイミド前駆体溶液が塗布されたガラス基板をオーブンに入れ、6℃/minの速度で加熱し、120℃で10分、400℃で55分を保持して、厚さ10μmである可撓性基板層を形成して、積層体を得た。
【0110】
<実施例2及び実施例3>
製造例2及び製造例3で製造したポリイミド前駆体溶液でデボンディング層をそれぞれ形成したことを除いては、実施例1と同じ方法で積層体を製造した。
【0111】
<比較例1から比較例4>
製造例4から製造例7で製造したポリイミド前駆体溶液でデボンディング層をそれぞれ形成したことを除いては、実施例1と同じ方法で積層体を製造した。
【0112】
<剥離力テスト>
実施例及び比較例で製造した積層体に対して、デボンディング層を完全に覆っている可撓性基板層を幅10mm及び長さ100mmの長方形状にカッティング後、カッティングした可撓性基板の端部を握って50mm/minの速度で取り外す時に入る力をTexture Analyzer(TA、XT plus、Stable microsystems)を用いて測定した。
測定結果は、表2に示した。
【0113】
【表2】
【0114】
以上の結果から、ジアミンを二無水物の当量比よりも過量で使用して製造したポリイミド前駆体で形成されたデボンディング層を備えた実施例による積層体は、比較例の積層体とは異なって、最終硬化温度を350℃以上に高めた場合、0.05N/cm以下の低い剥離力を示すことが分かる。また、比較例1の積層体は、デボンディング層と可撓性基板層とを同じ製造例4のポリイミド前駆体組成物で製造したが、最終硬化温度が350℃以上である場合にも、非常に高い接着力を保持することが分かる。これにより、デボンディング層よりも可撓性基板層のコーティング面積をデボンディング層を完全に覆うように大きくする場合、可撓性基板層が支持基板(ガラス基板)と直接接触して、高い熱処理工程でも、可撓性基板層の浮き上がり現象なしに安定した工程が可能であることが分かる。
【0115】
以上、本発明の内容の特定の部分を詳しく記述したところ、当業者において、このような具体的な記述は、単に望ましい実施形態であり、これにより、本発明の範囲が制限されるものではないという点は明白である。したがって、本発明の実質的な範囲は、下記の特許請求の範囲とそれらの等価物とによって定義される。
図1A
図1B
図2A
図2B
図3A
図3B