(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2021-12-28
(45)【発行日】2022-02-04
(54)【発明の名称】鉛成分及び水銀成分を含有する重金属含有灰の処理方法、及び重金属含有灰に含まれる水銀成分の溶出抑制剤
(51)【国際特許分類】
B09B 3/70 20220101AFI20220128BHJP
A62D 3/33 20070101ALI20220128BHJP
A62D 101/43 20070101ALN20220128BHJP
【FI】
B09B3/00 304G
A62D3/33 ZAB
A62D101:43
(21)【出願番号】P 2017221477
(22)【出願日】2017-11-17
【審査請求日】2020-09-04
(73)【特許権者】
【識別番号】000001063
【氏名又は名称】栗田工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100120891
【氏名又は名称】林 一好
(74)【代理人】
【識別番号】100131705
【氏名又は名称】新山 雄一
(72)【発明者】
【氏名】米山 健太郎
(72)【発明者】
【氏名】水品 恵一
【審査官】上坊寺 宏枝
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第106955451(CN,A)
【文献】特開2004-016866(JP,A)
【文献】特開昭53-025287(JP,A)
【文献】特開2004-148279(JP,A)
【文献】特開平07-284748(JP,A)
【文献】特開2006-136805(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B09B 1/00-5/00
A62D 3/33
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉛成分及び水銀成分を含有する重金属含有灰の処理方法であって、
前記重金属含有灰と、鉛成分及び水銀成分を固定化する重金属固定化剤とを混合する工程を含み、
前記重金属固定化剤は、
ジチオカルバミン酸基を有する有機化合物又はその塩を含むキレート系重金属固定化剤と、
水溶性の亜鉛化合物と
を含有し、
前記キレート系重金属固定化剤及び前記亜鉛化合物は、一緒にあるいは個別に前記重金属含有灰と混合される、重金属含有灰の処理方法。
【請求項2】
前記
ジチオカルバミン酸基を有する有機化合物又はその塩は、ジチオカルバミン酸又はその塩、ジアルキルジチオカルバミン酸又はその塩、シクロアルキルジチオカルバミン酸又はその塩、ピペラジンジチオカルバミン酸又はその塩、テトラエチレンペンタミンジチオカルバミン酸又はその塩、ポリアミンのジチオカルバミン酸又は塩である、請求項1に記載の
重金属含有灰の処理方法。
【請求項3】
前記亜鉛化合物は、塩化亜鉛、酢酸亜鉛、硫酸亜鉛、亜硫酸亜鉛、
及び硝酸亜鉛
よりなる群から選ばれる1種以上を含む、請求項1又は2に記載の
重金属含有灰の処理方法。
【請求項4】
鉛成分及び水銀成分を含有する重金属含有灰中の前記鉛成分及び前記水銀成分を固定化する重金属固定化剤であって、
ジチオカルバミン酸基を有する有機化合物又はその塩を含むキレート系重金属固定化剤と、
水溶性の亜鉛化合物
と
を含有する、重金属固定化剤。
【請求項5】
前記ジチオカルバミン酸基を有する有機化合物又はその塩は、ジチオカルバミン酸又はその塩、ジアルキルジチオカルバミン酸又はその塩、シクロアルキルジチオカルバミン酸又はその塩、ピペラジンジチオカルバミン酸又はその塩、テトラエチレンペンタミンジチオカルバミン酸又はその塩、ポリアミンのジチオカルバミン酸又は塩である、請求項4に記載の
重金属固定化剤。
【請求項6】
前記亜鉛化合物は、塩化亜鉛、酢酸亜鉛、硫酸亜鉛、亜硫酸亜鉛、及び硝酸亜鉛よりなる群から選ばれる1種以上を含む、請求項4又は5に記載の重金属固定化剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鉛成分及び水銀成分を含有する重金属含有灰の処理方法、並びに重金属含有灰に含まれる水銀成分の溶出抑制剤及び溶出抑制力補強剤に関する。より詳しくは、本発明は、都市ごみ廃棄物焼却炉、産業廃棄物焼却炉、発電ボイラ、炭化炉、及び民間工場等の燃焼施設において発生する飛灰に含まれる、鉛成分及び水銀成分を含有する重金属の固定化方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般的に、焼却設備より発生する煤塵及び排ガス処理残渣は、集塵機により分離される。これらは、総じて飛灰と呼ばれる。飛灰には、排ガス中の酸性ガス成分を中和処理することを目的として噴霧された強アルカリ性の消石灰が混入される。その結果、生成する飛灰は、強アルカリ性となる。このため、飛灰が水と接触したときに生じる溶出水のpHは高くなり、両性金属である鉛が高濃度で溶出し易い。そのため、飛灰の埋立処理を行うにあたって、鉛は、重金属不溶化の処理対象金属となっている。そこで、ジチオカルバミン酸系等のキレート系重金属固定剤を用いて鉛成分の不溶化処理を行い、その後、管理型埋立処分場において、飛灰の埋立処理がなされる。
【0003】
ところで、焼却対象物に水銀成分が含まれることがある。水銀の融点は、-38.8℃であり、沸点は、356.7℃である。水銀の融点及び沸点は、他の金属の融点及び沸点に比べて低いことから、焼却設備を用いて焼却対象物を焼却すると、焼却対象物に含まれる水銀成分は、排ガス及び飛灰に移行する。焼却設備において、集塵機が設置されている温度帯においては、ダスト状の水銀成分とガス状の水銀成分が混在している状態である。ダスト状の水銀成分は、飛灰とともに捕集、集塵される。また、ガス状の水銀成分は、活性炭等で吸着を行うことで、排ガスからの除去を行う。結果として、吸着により除去されたガス状の水銀成分も、飛灰とともに捕集、集塵される。
【0004】
2013年10月に、水銀に関する水俣条約の採択及び署名が行われた。この条約は、水銀の一次採掘から貿易、水銀添加製品や製造工程での水銀利用、大気への排出や水・土壌への放出、水銀廃棄物に至るまで、水銀が人の健康や環境に与えるリスクを低減するための包括的な規制を定めた条約である。この条約が発効されることによる、排ガス中の水銀濃度の規制強化に伴い、排ガスの水銀除去を目的とした活性炭噴霧量の増加等が見込まれ、飛灰中の水銀含有量も増加することが見込まれる。
【0005】
ジチオカルバミン酸系等のキレート剤に代表される、鉛成分をはじめとした重金属の固定化剤の適用にあたっては、(i)焼却物中の重金属含有量が実際に処理を行う時点では不明であること、また、(ii)鉛成分の不溶化処理においては、キレート剤を過剰添加しても特段問題が生じないことから、想定される必要量よりもキレート剤を余剰に添加することが一般的である。
【0006】
キレート剤の過剰添加を抑え、処理効果と処理コストを最適化する観点から、飛灰に含まれる重金属の固定化処理を行う前に、あらかじめ飛灰を分析し、薬剤添加量を調整する管理手法が提案されている(特許文献1及び2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特許第3968986号公報
【文献】特許第5962722号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、処理現場における分析の実施にあたっては、専用の薬注管理機器や分析室での実験操作を要することから、実用面においてなおいっそうの課題がある。
【0009】
そのため、依然として、鉛成分等の重金属を固定化するに際し、想定される必要量よりも多くのキレート剤を添加する場面が存在する。しかしながら、本発明者は、ジチオカルバミン酸系をはじめとした従来から知られたキレート剤を過剰に添加して飛灰中の鉛成分の不溶化処理を行うと、キレート剤と水銀成分とが反応していったん不溶性の錯体が形成されても、キレート剤の過剰添加によって水銀成分が再び溶出し得るとの知見を得た。
【0010】
キレート剤の過剰添加による水銀成分の溶出に関し、明確な機構は、不明であるものの、キレート剤と水銀成分との間では容易に不溶性の錯体が形成されるが、過剰なキレートの存在下においては、過剰なキレート剤と水銀成分の間で可溶性の錯体が新たに形成されるものと推察される。硫化ナトリウムと水銀成分の間でも類似の現象が起こることが一般的に知られており、本現象も同様のものと推察される。
【0011】
一般に、飛灰中の鉛成分の不溶化に要するキレート剤の添加量は、水銀成分の不溶化に要するキレート剤の添加量よりも多い。また、鉛成分の不溶化においては、キレート剤の過剰添加による弊害はないことから、飛灰に含まれる鉛成分の負荷変動を想定し、大きく過剰に添加している場合も散見される。こういった場合において、いったん不溶化した水銀成分の再溶出を防ぐことが課題となる。
【0012】
本発明は、このような問題に鑑みてなされたものであり、その課題は、専用の薬注管理機器や、分析室での実験操作を用いた薬注管理を必要とせず、飛灰に含まれる鉛成分の不溶化とともに、不溶化した水銀成分が再び溶出するのを抑えることが可能な方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは、上記の課題を達成するために鋭意研究を重ねた結果、キレート系重金属固定化剤に、いったん不溶化した水銀成分の再溶出を防ぐための特定の化合物を加えることで、上記の課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。具体的に、本発明では、以下のようなものを提供する。
【0014】
(1)本発明は、鉛成分及び水銀成分を含有する重金属含有灰の処理方法であって、前記重金属含有灰と、鉛成分及び水銀成分を固定化する重金属固定化剤とを混合する工程を含み、前記重金属固定化剤は、キレート系重金属固定化剤と、亜鉛化合物とを含有し、前記キレート系重金属固定化剤及び前記亜鉛化合物は、一緒にあるいは個別に前記重金属含有灰と混合される、重金属含有灰の処理方法である。
【0015】
(2)また、本発明は、前記キレート系重金属固定化剤がジチオカルバミン酸基を有する有機化合物を含む、(1)に記載の処理方法である。
【0016】
(3)また、本発明は、前記亜鉛化合物が、塩化亜鉛、酢酸亜鉛、硫酸亜鉛、亜硫酸亜鉛、硝酸亜鉛、酸化亜鉛、水酸化亜鉛、炭酸亜鉛、塩基性炭酸亜鉛、炭酸亜鉛、及びリン酸亜鉛よりなる群から選ばれる1種以上を含む、(1)又は(2)に記載の処理方法である。
【0017】
(4)また、本発明は、亜鉛化合物からなる、重金属含有灰に含まれる水銀成分の溶出抑制剤である。
【発明の効果】
【0018】
本発明によると、専用の薬注管理機器や、分析室での実験操作を用いた薬注管理を必要とせず、飛灰に含まれる鉛成分の不溶化とともに、不溶化した水銀成分が再び溶出するのを抑えることが可能な方法を提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の具体的な実施形態について、詳細に説明するが、本発明は、以下の実施形態に何ら限定されるものではなく、本発明の目的の範囲内において、適宜変更を加えて実施することができる。
【0020】
<重金属含有灰の処理方法>
本実施形態の処理方法は、鉛成分及び水銀成分を含有する重金属含有灰と、鉛成分及び水銀成分を固定化する重金属固定化剤とを混合する工程を含む。そして、重金属固定化剤は、キレート系重金属固定化剤と、亜鉛化合物とを含有する。
【0021】
混合する手法は特に限定されないが、例えば、上記重金属固定化剤を加湿水とともに飛灰(重金属含有灰)に対して混練することが挙げられる。その際、キレート系重金属固定化剤及び亜鉛化合物は、一緒に使用してもよいし、あるいは個別に使用してもよい。
【0022】
加湿水の添加順序については、特に制限はない。上記重金属固定化剤を加湿水と事前混合した後に、混合物を飛灰(重金属含有灰)に添加してもよいし、上記重金属固定化剤と加湿水とを、それぞれ個別に飛灰(重金属含有灰)に添加してもよい。また、上記重金属固定化剤を飛灰と事前に混合し、その後、混合物に加湿水を添加して混練してもよい。特に、飛灰と亜鉛化合物の混合については、飛灰が集塵機で集塵される過程において混合し、その後、混練機にてキレート系重金属固定剤及び加湿水と混合しても構わない。
【0023】
以下、重金属固定化剤に含まれる成分について、より詳しく説明する。
【0024】
〔重金属固定化剤〕
重金属固定化剤は、重金属含有灰に含まれる鉛成分及び水銀成分を固定化する機能を有する。この重金属固定化剤は、キレート系重金属固定化剤と、亜鉛化合物とを含有する。
【0025】
[キレート系重金属固定化剤]
本実施形態で使用されるキレート系重金属固定剤の種類は特に限定されるものでないが、重金属と好適に反応し、重金属を好適に不溶化できる点で、キレート系重金属固定剤は、ジチオカルバミン酸系キレート剤であることが好ましい。
【0026】
本実施形態において、ジチオカルバミン酸系キレート剤とは、ジチオカルバミン酸基を有する化合物又はその塩をいう。ジチオカルバミン酸基を有する化合物又はその塩として、ジエチルアミン等の脂肪族アミン化合物又はその塩、ピペラジン等の芳香族アミン化合物から誘導されるジチオカルバミン酸又はその塩が挙げられる。中でも、ジチオカルバミン酸系キレート剤として、ジチオカルバミン酸又はその塩、ジアルキルジチオカルバミン酸又はその塩、シクロアルキルジチオカルバミン酸又はその塩、ピペラジンジチオカルバミン酸又はその塩、テトラエチレンペンタミンジチオカルバミン酸又はその塩、ポリアミンのジチオカルバミン酸又は塩であることがより好ましい。
【0027】
ジチオカルバミン酸系キレート剤の種類によって、キレート剤1分子に含まれるジチオカルバミン酸基の数が異なり、例えば1、2、3等であってよい。そして、キレート剤1分子に含まれるジチオカルバミン酸基の数によって、亜鉛1分子に結合するキレート剤の分子数が異なる。
【0028】
汎用的なキレート剤を例にすると、例えば、ジチオカルバミン酸系キレート剤がジエチルジチオカルバミン酸カリウムである場合、ジエチルジチオカルバミン酸カリウム1分子に対してジチオカルバミン酸基を1つ有する。分子内ジチオカルバミン酸基が1である場合、ジチオカルバミン酸系キレート剤2分子で亜鉛化合物1分子と結合する。
【0029】
また、例えば、ジチオカルバミン酸系キレート剤がピペラジンジチオカルバミン酸カリウムである場合、ピペラジンジチオカルバミン酸カリウム1分子に対してジチオカルバミン酸基を2つ有する。分子内ジチオカルバミン酸基が2である場合、ジチオカルバミン酸系キレート剤1分子で亜鉛化合物1分子と結合する。
【0030】
キレート系重金属固定剤は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0031】
ジチオカルバミン酸基を有する化合物の塩として、当該化合物のアルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩、アンモニウム塩が挙げられる。上記化合物のアルカリ金属塩である場合、アルカリ金属は、リチウム、ナトリウム又はカリウムであることが好ましい。上記化合物のアルカリ土類金属塩である場合、アルカリ土類金属は、マグネシム、カルシウム、バリウムであることが好ましい。
【0032】
キレート系重金属固定剤は、通常、二硫化炭素とアミン化合物をアルカリ存在下に反応させることによって得られる。
【0033】
[亜鉛化合物]
本実施形態において、亜鉛化合物は、重金属含有灰に含まれる水銀成分の溶出抑制剤として機能する。飛灰に対してキレート系重金属固定化剤が過剰に添加されると、重金属固定化剤と水銀成分との間でいったんは不溶性の錯体が形成されたにも関わらず、再び溶出し得る。本実施形態では、亜鉛化合物が、過剰なキレート系重金属固定化剤と結合することで、水銀成分が再び溶出するのを防止できる。
【0034】
あるいは、亜鉛化合物は、キレート系重金属固定化剤と一緒にあるいは別々に重金属含有灰と混合して用いられる、重金属含有灰に含まれる水銀成分の溶出抑制力補強剤としても機能する。
【0035】
亜鉛化合物の種類は特に限定されないが、亜鉛化合物は、前記亜鉛化合物は、塩化亜鉛、酢酸亜鉛、硫酸亜鉛、亜硫酸亜鉛、硝酸亜鉛、酸化亜鉛、水酸化亜鉛、炭酸亜鉛、塩基性炭酸亜鉛、炭酸亜鉛、及びリン酸亜鉛よりなる群から選ばれる1種以上を含むことが好ましい。
【0036】
中でも、飛灰と加湿混練する工程でのハンドリングと、作用機構として亜鉛イオンと余剰のキレート化合物が結合する必要があると想定されるため、亜鉛化合物は、水溶性の亜鉛化合物であることがより好ましい。具体的に、亜鉛化合物は、塩化亜鉛、酢酸亜鉛、硫酸亜鉛、亜硫酸亜鉛、及び硝酸亜鉛よりなる群から選ばれる1種以上を含むことがより好ましい。
【0037】
[キレート系重金属固定化剤の添加量]
キレート系重金属固定化剤の添加量の下限の目安として、飛灰の組成の影響は受けるものの(飛灰のアルカリ度や活性炭の含有量など)飛灰中に含まれる水銀、銅、鉛の各々のmolの合計値に対して0.5倍以上であることが好ましく、1.0倍以上であることがより好ましい。キレート系重金属固定化剤の添加量が少ないと、飛灰に含まれる鉛成分を十分に固定化できない可能性がある。
【0038】
本実施形態は、専用の薬注管理機器や、分析室での実験操作を用いた薬注管理を用いず、キレート系重金属固定化剤の使用量が過剰であっても、鉛成分及び水銀成分の溶出量を一挙に陸上埋立基準値以下に抑えられることを特徴とする。そのため、キレート系重金属固定化剤の添加量の上限は、特に限定されない。処理効果と処理コストを最適化する観点から、飛灰の組成の影響は受けるものの(飛灰のアルカリ度や活性炭の含有量など)、飛灰中に含まれる水銀、銅、鉛の各々のmolの合計値に対して1.5倍以下が好ましく、1.2倍以下がより好ましい。
【0039】
[亜鉛化合物の添加量]
亜鉛化合物の添加量は、飛灰に対して過剰に添加された重金属固定化剤のモル濃度に依存する。重金属固定化剤と亜鉛の結合形態によるが、例えば、重金属固定化剤がピペラジンジチオカルバミン酸カリウムである場合、理論的にはピペラジンジチオカルバミン酸カリウム1分子に対して亜鉛1分子が結合するため、亜鉛のモル濃度が、過剰となるピペラジンジチオカルバミン酸カリウムのモル濃度と同等以上であることが好ましく、1.5倍以上であることがより好ましい。
【0040】
亜鉛化合物の添加量の下限は、モル比で、過剰に添加したキレート化合物に含まれるジチオカルバミン酸基1に対して亜鉛化合物0.25であり、1.0以上が好ましく、さらに2.0以上が好ましい。
【0041】
上述したように、キレート系重金属固定剤がジエチルジチオカルバミン酸カリウムのように、分子内ジチオカルバミン酸基が1である場合、ジチオカルバミン酸系キレート剤2分子で亜鉛化合物1分子と結合する。したがって、亜鉛化合物の添加量の下限は、モル比で、過剰に添加したジエチルジチオカルバミン酸カリウム1に対して亜鉛化合物0.25であり、1.0以上が好ましく、さらに2.0以上が好ましい。
【0042】
また、例えば、キレート系重金属固定剤がピペラジンジチオカルバミン酸カリウムのように、分子内ジチオカルバミン酸基が2である場合、ジチオカルバミン酸系キレート剤1分子で亜鉛化合物1分子と結合する。したがって、亜鉛化合物の添加量の下限は、モル比で、過剰に添加したピペラジンジチオカルバミン酸カリウム1に対して亜鉛化合物0.125であり、0.5以上が好ましく、さらに1.0以上が好ましい。
【実施例】
【0043】
以下、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるもので
はない。
【0044】
<試験方法>
〔サンプル採取〕
以下の条件の都市ごみ焼却場において、本試験で使用する飛灰を採取した。
形式:ストーカ炉
酸性ガス処理方式:乾式酸性ガス処理(消石灰噴霧)
集塵方式:バグフィルター方式
【0045】
なお、底質調査法にしたがって飛灰に含まれる水銀、銅、鉛成分の含有量を測定したところ、以下の通りであった。
水銀含有量 28.5mg/kg-灰
銅含有量 535mg/kg-灰
鉛含有量 1120mg/kg-灰
【0046】
各々の値をモル換算し、合計すると以下の通りであった。
水銀、銅、鉛のモル換算の含有量合計値 0.0197mmol/g-灰
【0047】
〔試験〕
上記の飛灰に対して、重金属固定化剤と加湿水とを混練した。重金属固定化剤の組成は、表1に記載のとおりである。
【0048】
なお、表1において、1)は、キレート系重金属固定化剤に相当し、40%ピペラジンジチオカルバミン酸カリウム水溶液である。2)は、亜鉛化合物に相当し、塩化亜鉛40%水溶液である。
【0049】
そして、混練後、環境庁告知13号溶出試験を実施し、溶出後液のpH、水銀濃度、鉛濃度を測定した。結果を表1に示す。
【0050】
【0051】
鉛成分及び水銀成分を含有する重金属含有灰の重金属固定化剤として、キレート系重金属固定化剤と、亜鉛化合物とを使用すると、専用の薬注管理機器や、分析室での実験操作を用いた薬注管理を用いず、キレート系重金属固定化剤の使用量が過剰であっても、鉛成分及び水銀成分の溶出量を一挙に陸上埋立基準値以下に抑えられることが確認された(実施例1~6)。その理由は、亜鉛化合物が過剰なキレート系重金属固定化剤に結合して、水銀成分が再溶出するのを防いだためと予想される。
【0052】
それに対し、重金属固定化剤が亜鉛化合物を含有しない場合、キレート系重金属固定化剤の含有量が少なすぎると、飛灰に含まれる鉛成分を十分に固定化できないことが確認された(比較例1)。また、キレート系重金属固定化剤の含有量が過剰であると、飛灰に含まれる水銀成分をいったん固定化しても、その後、水銀成分が再溶出することが確認された(比較例3~6)。特に、比較例6においては、陸上埋立基準値である水銀溶出値0.0050mg/Lを上回る、0.0056mg/Lの値を示した。
【0053】
重金属固定化剤がピペラジンジチオカルバミン酸カリウムである場合、理論的にはピペラジンジチオカルバミン酸カリウム1分子に対して亜鉛1分子が結合する。そのため、亜鉛のモル濃度が、過剰となるジチオカルバミン酸カリウムのモル濃度とほぼ同量である実施例5が最も好ましい。また、亜鉛のモル濃度がほぼ倍量である実施例6は、水銀溶出値が<0.0005mg/L以下となった。