(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2021-12-28
(45)【発行日】2022-01-19
(54)【発明の名称】渦電流式金属センサ及び渦電流検出方法
(51)【国際特許分類】
G01N 27/90 20210101AFI20220112BHJP
【FI】
G01N27/90
(21)【出願番号】P 2018029114
(22)【出願日】2018-02-21
【審査請求日】2021-01-15
(73)【特許権者】
【識別番号】000005083
【氏名又は名称】日立金属株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100114557
【氏名又は名称】河野 英仁
(74)【代理人】
【識別番号】100078868
【氏名又は名称】河野 登夫
(72)【発明者】
【氏名】大隅 和彦
【審査官】村田 顕一郎
(56)【参考文献】
【文献】実開平05-059305(JP,U)
【文献】特開2009-192385(JP,A)
【文献】特開平02-240560(JP,A)
【文献】特開2017-111051(JP,A)
【文献】特開2017-194404(JP,A)
【文献】特開2003-021501(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2002/0047705(US,A1)
【文献】特開2008-175833(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 27/72-27/9093
G01B 7/00-7/34
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属からなる被検出物の渦電流を検出する渦電流式金属センサにおいて、
第1コイルを含んで発振する第1発振回路と、
第2コイルを含んで発振する第2発振回路と、
前記第1発振回路及び第2発振回路夫々における発振パルス数を計測する計測部と、
前記計測部による前記第1発振回路における発振パルス数の計測時間、及び、前記計測部による前記第2発振回路における発振パルス数の計測時間の少なくとも一方を調整する調整部と、
該計測部にて計測したパルス数の差分を算出する算出部と、
該算出部にて算出した差分を前記被検出物の渦電流に変換する変換部と
を備えることを特徴とする渦電流式金属センサ。
【請求項2】
前記計測部は、前記第1発振回路における発振パルス数と、前記第2発振回路における発振パルス数とを交互に計測するように構成してあることを特徴とする請求項1に記載の渦電流式金属センサ。
【請求項3】
前記第1コイル及び第2コイルは、同軸状に配されていることを特徴とする請求項1又は2に記載の渦電流式金属センサ。
【請求項4】
前記第1発振回路及び第2発振回路の構成部材は、前記第1コイル及び第2コイルを除いて共通であることを特徴とする請求項1から3のいずれか一項に記載の渦電流式金属センサ。
【請求項5】
その一面に前記第1コイルが配され、その他面に前記第2コイルが配されている基板を備えることを特徴とする請求項1から4のいずれか一項に記載の渦電流式金属センサ。
【請求項6】
金属からなる被検出物の渦電流を検出する渦電流検出方法において、
前記被検出物からの距離が互いに異なる第1コイル及び第2コイルを含む組コイルを配置し、
前記第1コイルを含んで発振する第1発振回路の発振パルス数、及び、前記第2コイルを含んで発振する第2発振回路の発振パルス数を夫々計測し、
前記第1発振回路の発振パルス数を計測する第1計測時間、及び、前記第2発振回路の発振パルス数を計測する第2計測時間の少なくとも一方を調整し、
計測した発振パルス数の差分を算出し、
算出した差分を前記被検出物の渦電流に変換することを特徴とする渦電流検出方法。
【請求項7】
前記第2コイルの前記被検出物からの距離が前記第1コイルの前記被検出物からの距離より短い場合に、前記第2計測時間が前記第1計測時間より相対的に長くなるように前記第1計測時間及び前記第2計測時間の少なくとも一方を調整することを特徴とする請求項6に記載の渦電流検出方法。
【請求項8】
金属からなる被検出物の渦電流を検出する渦電流式金属センサにおいて、
前記被検出物の渦電流によりインダクタンスが変化する第1コイルを含んで発振する第1発振回路と、
前記被検出物の渦電流によりインダクタンスが変化する第2コイルを含んで発振する第2発振回路と、
前記第1発振回路及び第2発振回路夫々における発振パルス数を計測する計測部と、
前記計測部による前記第1発振回路における発振パルス数が所定値となるように計測時間を調整する第1調整部と、
前記第1調整部で調整した前記第1発振回路における発振パルス数の計測時間、及び、前記第2発振回路における発振パルス数の計測時間の少なくとも一方を、所定の環境下にて計測したそれぞれの発振パルス数に基づいて調整する第2調整部と、
前記第1調整部及び前記第2調整部による調整後の計測時間で、前記計測部にて計測した発振パルス数の差分を算出する算出部と、
前記算出部にて算出した差分を前記被検出物の渦電流に変換する変換部と
を備えることを特徴とする渦電流式金属センサ。
【請求項9】
前記第2調整部は前記第2発振回路における発振パルス数の計測時間を調整することを特徴とする請求項8に記載の渦電流式金属センサ。
【請求項10】
前記算出部は、前記第1調整部及び前記第2調整部による計測時間の調整後、所定の環境下で、前記計測部にて、前記第1調整部及び前記第2調整部による調整後の計測時間で計測した発振パルス数の差分を算出し、
前記算出部が算出した差分により、前記第1発振回路における発振パルス数、及び、前記第2発振回路における発振パルス数の少なくとも一方を調整する第3調整部
をさらに備えることを特徴とする請求項8又は請求項9に記載の渦電流式金属センサ。
【請求項11】
前記第3調整部は前記第2発振回路における発振パルス数を調整することを特徴とする請求項10に記載の渦電流式金属センサ。
【請求項12】
上記所定の環境下は基準金属板を用いて、実現すること
を特徴とする請求項8から請求項11のいずれか一項に記載の渦電流式金属センサ。
【請求項13】
金属からなる被検出物の渦電流を検出する渦電流検出方法において、
検知コイル及び基準コイルを同軸上、又は互いの軸が平行でかつ軸方向で重なるようにした組コイルを配置し、
前記基準コイルを含んで発振する基準発振回路の発振パルス数を、予め定めた初期計測時間で計測し、
計測した発振パルス数が所定値となるように、前記初期計測時間を調整した第1計測時間を求め、
求めた前記第1計測時間と同じ時間を第2計測時間に設定し、基準金属板を検知コイル近傍所定位置に配置した後、
前記第1計測時間で前記基準発振回路の発振パルス数、及び前記第2計測時間で前記検知コイルを含んで発振する検知発振回路の発振パルス数をそれぞれ計測し、
計測した2つの発振パルス数に基づいて、前記第1計測時間及び前記第2計測時間の少なくとも一方を調整し、
前記基準金属板が除かれ前記被検出物が存在する環境下で、前記第1計測時間で前記基準発振回路の発振パルス数、及び前記第2計測時間で前記検知発振回路の発振パルス数をそれぞれ計測し、
計測した発振パルス数の差分を算出し、
算出した差分を前記被検出物の渦電流に変換することを特徴とする渦電流検出方法。
【請求項14】
前記第2計測時間を調整することを特徴とする請求項13に記載の渦電流検出方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属からなる被検出物の渦電流を検出する渦電流式金属センサ及び渦電流検出方法に関する。
【背景技術】
【0002】
金属からなる被検出物に対して、該被検出物に生じる渦電流を利用して、種々の検出・検知処理を行う装置が提案されている(特許文献1-3)。
【0003】
特許文献1には、回転体と一体に回転する突起部の通過を検出する渦電流式のセンサを設け、センサのコイルで発生する磁界の変化に基づいて回転体の回転数を検出する装置が開示されている。特許文献2には、コイルに高周波電流を流し、近接する金属に発生する渦電流によるコイルのインピーダンスの変化から、金属の有無を検知する渦電流式変位センサが開示されている。特許文献3には、渦電流センサを用いて、摩擦材に異物として混入されている金属を検知する装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2016-8929号公報
【文献】特開平8-271204号公報
【文献】特開2014-130075号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
渦電流式センサにあって、コイルを単体で使用する場合には、渦電流の検出精度が低くなる問題があり、また、温度等の外部環境による検出結果の変動が大きいという問題もある。そして、正確な渦電流が検出できないことにより、検出した渦電流に基づいた金属の検知も精度良く行えなくなる。
【0006】
本発明は斯かる事情に鑑みてなされたものであり、小型かつ簡単な構成であっても、外部環境の影響を受けることなく、金属からなる被検出物の渦電流を正確に検出して、金属の有無の検知、金属までの距離の測定などを高精度に行える渦電流式金属センサ、及び、金属からなる被検出物の渦電流を正確に検出できる渦電流検出方法等を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る渦電流式金属センサは、金属からなる被検出物の渦電流を検出する渦電流式金属センサにおいて、第1コイルを含んで発振する第1発振回路と、第2コイルを含んで発振する第2発振回路と、前記第1発振回路及び第2発振回路夫々における発振パルス数を計測する計測部と、前記計測部による前記第1発振回路における発振パルス数の計測時間、及び、前記計測部による前記第2発振回路における発振パルス数の計測時間の少なくとも一方を調整する調整部と、該計測部にて計測した発振パルス数の差分を算出する算出部と、該算出部にて算出した差分を前記被検出物の渦電流に変換する変換部とを備えることを特徴とする。
【0008】
本発明において発振パルス数とは、夫々の発振回路において発振したそれぞれ発振周波数における定められた計測時間内のパルス数を言う。よって計測時間が同じであれば発振パルス数の差は発振周波数の差と同義ととらえることができる。
【0009】
本発明の渦電流式金属センサにあっては、被検出物の近傍に配した第1コイルを含む第1発振回路の発振パルス数と、被検出物の近傍に第1コイルとは被検出物への距離を異ならせて配した第2コイルを含む第2発振回路の発振パルス数とを、計測部で計測する。算出部は、計測部が計測した両発振パルスの差分を算出し、変換部は、算出部が算出した差分を被検出物の渦電流に変換する。被検出物の渦電流が大きくなるとコイルのインダクタンスが減って、そのコイルを含む発振回路の発振パルス数は増加する。ここで、被検出物に近い方のコイルは渦電流の変化に応じたインダクタンスの変化量が大きくなるので、発振回路での発振パルス数の変動も大きくなる。よって、被検出物からの距離を異ならせて配した2つのコイルを用いて、夫々の発振回路による発振パルス数の差分から渦電流を検出することができる。また、検出した渦電流に基づいて、被検出物の有無の検知、被検出物までの距離の測定などを行うことができる。
【0010】
ここで、第1発振回路の発振パルス数を計測した第1計測時間と第2発振回路の発振パルス数を計測した第2計測時間との少なくとも一方を、調整部により調整しておく。具体的には、被検出物からの距離が第2コイルより第1コイルの方が短い場合、第1コイルのインダクタンスは第2コイルのインダクタンスより大きくなって、第1発振回路の発振パルス数が第2発振回路の発振パルス数より小さくなるため、第1計測時間が第2計測時間より相対的に長くなるように調整し発振パルス数が同じになるように調整しておく。このような調整を行っておくことにより、実際の検出時における温度変動の影響が少なくなる。
【0011】
この際、2つのコイルとして、基板へのパターニング印刷により形成されたコイルなどの扁平コイルを使用でき、構成は小型化する。扁平コイル等、インダクタンスが小さいコイルの場合には発振周波数が高い(一定時間内のパルス数が多い)。結果としてコンピュータの一定時間内のクロック数が発振パルス数より少ないので、発振パルス数測定の場合には同じ分解能を得るための測定時間を短くし、さらに測定時間を一定とすることができる。
【0012】
また、発振パルス数の計測、発振パルス数の差分の算出、差分から渦電流への変換の一連の処理を、マイクロコンピュータなどを用いてソフトウェアにて行えて部品点数を削減できるとともに、部品における特性のばらつきを受けることが少なく、検出精度は高い。
【0013】
本発明に係る渦電流式金属センサは、前記計測部は、前記第1発振回路における発振パルス数と、前記第2発振回路における発振パルス数とを交互に計測するように構成してあることを特徴とする。
【0014】
本発明の渦電流式金属センサにあっては、第1発振回路における発振パルス数の計測と、第2発振回路における発振パルス数の計測とを、切り替えながら交互に行う。よって、一方の発振回路における発振パルス数の計測時に、他方の発振回路は発振していないので、一方の発振回路における発振パルス数の計測値は、他方の発振回路の発振の影響を受けない。したがって、両発振回路における正確な発振パルス数を計測でき、渦電流の検出精度は高い。
【0015】
本発明に係る渦電流式金属センサは、前記第1コイル及び第2コイルは、同軸状に配されていることを特徴とする。
【0016】
本発明の渦電流式金属センサにあっては、第1コイル及び第2コイルが同軸状に配されている。よって、コイルの配置に要する面積は小さくて済み、渦電流式金属センサの小型化を図れる。
【0017】
本発明に係る渦電流式金属センサは、前記第1発振回路及び第2発振回路の構成部材は、前記第1コイル及び第2コイルを除いて共通であることを特徴とする。
【0018】
本発明の渦電流式金属センサにあっては、第1発振回路と第2発振回路とにおいて、第1コイル及び第2コイルを除く他の構成部材は共通としている。よって、第1発振回路及び第2発振回路夫々で計測される発振パルス数は、コイル以外の異なる構成部材による特性のばらつきの影響を受けず、正確な値が計測される。よって、渦電流の検出精度は高い。
【0019】
本発明に係る渦電流式金属センサは、その一面に前記第1コイルが配され、その他面に前記第2コイルが配されている基板を備えることを特徴とする。
【0020】
本発明の渦電流式金属センサにあっては、基板の一面に第1コイルが形成され、基板の他面に第2コイルが形成されている。よって、簡単な構成にて、第1コイル及び第2コイルの同軸状配置を実現できる。
【0021】
本発明に係る渦電流検出方法は、金属からなる被検出物の渦電流を検出する渦電流検出方法において、前記被検出物からの距離が互いに異なる第1コイル及び第2コイルを含む組コイルを配置し、前記第1コイルを含んで発振する第1発振回路の発振パルス数、及び、前記第2コイルを含んで発振する第2発振回路の発振パルス数を夫々計測し、前記第1発振回路の発振パルス数を計測する第1計測時間、及び、前記第2発振回路の発振パルス数を計測する第2計測時間の少なくとも一方を調整し、計測した発振パルス数の差分を算出し、算出した差分を前記被検出物の渦電流に変換することを特徴とする。
【0022】
本発明にあっては、2つのコイル(第1コイルと第2コイルと)を用いて、夫々の発振回路による発振パルス数の差分から渦電流を検出し、検出した渦電流に基づいて、被検出物の有無の検知、被検出物までの距離の測定などを行うことができる。
【0023】
本発明に係る渦電流検出方法は、前記第2コイルの前記被検出物からの距離が前記第1コイルの前記被検出物からの距離より短い場合に、前記第2計測時間が前記第1計測時間より相対的に長くなるように前記第1計測時間及び前記第2計測時間の少なくとも一方を調整することを特徴とする。
【0024】
本発明にあっては、第1計測時間が第2計測時間より相対的に長くなるように調整し発振パルス数が同じになるように調整しておく。このような調整を行っておくことにより、実際の検出時における温度変動の影響が少なくなる。
【0025】
本発明に係る渦電流式金属センサは、金属からなる被検出物の渦電流を検出する渦電流式金属センサにおいて、前記被検出物の渦電流によりインダクタンスが変化する第1コイルを含んで発振する第1発振回路と、前記被検出物の渦電流によりインダクタンスが変化する第2コイルを含んで発振する第2発振回路と、前記第1発振回路及び第2発振回路夫々における発振パルス数を計測する計測部と、前記計測部による前記第1発振回路における発振パルス数が所定値となるように計測時間を調整する第1調整部と、前記第1調整部で調整した前記第1発振回路における発振パルス数の計測時間、及び、前記第2発振回路における発振パルス数の計測時間の少なくとも一方を、所定の環境下にて計測したそれぞれの発振パルス数に基づいて調整する第2調整部と、前記第1調整部及び前記第2調整部による調整後の計測時間で、前記計測部にて計測した発振パルス数の差分を算出する算出部と、前記算出部にて算出した差分を前記被検出物の渦電流に変換する変換部とを備えることを特徴とする。
【0026】
本発明にあっては、2つのコイル(第1コイルと第2コイルと)を用いて、夫々の発振回路による発振パルス数の差分から渦電流を検出し、検出した渦電流に基づいて、被検出物の有無の検知、被検出物までの距離の測定などを行うことができる。
【0027】
本発明に係る渦電流式金属センサは、前記第2調整部は前記第2発振回路における発振パルス数の計測時間を調整することを特徴とする。
【0028】
本発明にあっては、第1発振回路を基準として動作させることが可能となる。
【0029】
本発明に係る渦電流式金属センサは、前記算出部は、前記第1調整部及び前記第2調整部による計測時間の調整後、所定の環境下で、前記計測部にて、前記第1調整部及び前記第2調整部による調整後の計測時間で計測した発振パルス数の差分を算出し、前記算出部が算出した差分により、前記第1発振回路における発振パルス数、及び、前記第2発振回路における発振パルス数の少なくとも一方を調整する第3調整部をさらに備えることを特徴とする。
【0030】
本発明にあっては、第1調整部及び第2調整部による調整後の計測時間で計測した発振パルス数の差分を算出し、算出した差分により、第1発振回路における発振パルス数、及び、第2発振回路における発振パルス数の少なくとも一方を調整するので、計測中心とすべき所定の環境下で渦電流の差分を0とすることが可能となる。
【0031】
本発明に係る渦電流式金属センサは、前記第3調整部は前記第2発振回路における発振パルス数を調整することを特徴とする。
【0032】
本発明にあっては、第1発振回路を基準として動作させることが可能となる。
【0033】
本発明は、環境下は基準金属板を用いて、実現することを特徴とする。
【0034】
本発明にあっては、基準金属板を用いることにより、所定の渦電流を計測範囲の中心とすることが可能となる。
【0035】
本発明に係る渦電流検出方法は、検知コイル及び基準コイルを同軸上、又は互いの軸が平行でかつ軸方向で重なるようにした組コイルを配置し、前記基準コイルを含んで発振する基準発振回路の発振パルス数を、予め定めた初期計測時間で計測し、計測した発振パルス数が所定値となるように、前記初期計測時間を調整した第1計測時間を求め、求めた前記第1計測時間と同じ時間を第2計測時間に設定し、基準金属板を検知コイル近傍所定位置に配置した後、前記第1計測時間で前記基準発振回路の発振パルス数、及び前記第2計測時間で前記検知コイルを含んで発振する検知発振回路の発振パルス数をそれぞれ計測し、計測した2つの発振パルス数に基づいて、前記第1計測時間及び前記第2計測時間の少なくとも一方を調整し、前記基準金属板が除かれ前記被検出物が存在する環境下で、前記第1計測時間で前記基準発振回路の発振パルス数、及び前記第2計測時間で前記検知発振回路の発振パルス数をそれぞれ計測し、計測した発振パルス数の差分を算出し、算出した差分を前記被検出物の渦電流に変換することを特徴とする渦電流検出方法。
【0036】
本発明にあっては、2つのコイル(第1コイルと第2コイルと)を用いて、夫々の発振回路による発振パルス数の差分から渦電流を検出し、検出した渦電流に基づいて、被検出物の有無の検知、被検出物までの距離の測定などを行うことができる。
【0037】
本発明に係る渦電流検出方法は、前記第2計測時間を調整することを特徴とする。
【0038】
本発明にあっては、第1発振回路を基準として動作させることが可能となる。
【発明の効果】
【0039】
本発明では、小型かつ簡単な構成であるにもかかわらず、温度等の外部環境の変動があっても正確に被検出物(金属)の渦電流を検出することができ、渦電流の検出結果に基づいて、金属の有無を正しく検知したり、金属までの距離を高精度に測定したりすることが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【
図1】渦電流式金属センサの構成を示す斜視図である。
【
図2】渦電流式金属センサの構成を示す断面図である。
【
図3】渦電流式金属センサと被検出物である金属との位置関係を示す断面図である。
【
図4】渦電流式金属センサの機能構成を示すブロック図である。
【
図5】渦電流式金属センサの一構成例を示す回路図である。
【
図6】渦電流式金属センサの動作を説明するためのタイミングチャートである。
【
図7】計測時間調整処理の処理手順例を示すフローチャートである。
【
図8】初期補正処理の処理手順例を示すフローチャートである。
【
図9】補正処理の処理手順例を示すフローチャートである。
【
図10】強制補正処理の処理手順例を示すフローチャートである。
【
図11】補正処理の補正後から強制補正の処理手順例を示すフローチャートである。
【
図12】第1変形例における渦電流式金属センサの構成を示す断面図である。
【
図13】第2変形例における渦電流式金属センサの構成を示す断面図である。
【
図14】第3変形例における渦電流式金属センサの構成を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0041】
以下、実施の形態を図面に基づき具体的に説明する。
図1及び
図2は、渦電流式金属センサの構成を示す斜視図及び断面図である。
【0042】
図1及び
図2において、10は扁平矩形状の基板である。基板10の一端部の一面(上面)には第1コイル1が形成されている。また、基板10の一端部の他面(下面)には、第1コイル1と同軸をなして、第2コイル2が形成されている(
図2参照)。これらの第1コイル1及び第2コイル2は、例えば、基板10への銅箔パターンの印刷により形成される。第1コイル1と第2コイル2とで組コイルを構成する。
【0043】
基板10の他端部の上面には、他端から一部を突出させてコネクタ3が実装されている。基板10の中央部の上面には、後述する各種の処理を行うマイクロコンピュータからなる電子チップ4が実装されている。さらに、電子チップ4の近傍には、回路部品5が実装されている。回路部品5は、第1コイル1又は第2コイル2と発振回路を構成するためのコンデンサなどを含んでいる。本実施の形態の渦電流式金属センサ20は、以上のような構成をなす。
【0044】
図3は、本実施の形態の渦電流式金属センサ20と被検出物である金属との位置関係を示す断面図である。基板10の一面(下面)側に、渦電流式金属センサ20と対向して検出対象である金属30が配置されている。この配置例では、第2コイル2が第1コイル1よりも、金属30(被検出物)に近い位置に配されることになる。
【0045】
図4は、渦電流式金属センサ20の機能構成を示すブロック図である。
図4において、
図1及び
図2と同一又は同様な部分には同一の符号を付している。
【0046】
第1コイル1と回路部品5の一部とにより、第1発振回路6が構成されており、第2コイル2と回路部品5の一部とにより、第2発振回路7が構成されている。本実施の形態の渦電流式金属センサ20にあっては、第1発振回路6と第2発振回路7とにおいて、第1コイル1及び第2コイル2を除く他の構成部材は共通としている。よって、第1発振回路6及び第2発振回路7夫々で計測される発振パルス数は、異なる構成部材による特性のばらつきの影響を受けず、正確な値が計測される。よって、金属30の渦電流の検出精度は高い。
【0047】
また、電子チップ4は、第1発振回路6及び第2発振回路7夫々における発振パルス数を計測する計測部41と、計測部41での第1発振回路6における発振パルス数の計測時間(第1計測時間)及び第2発振回路7における発振パルス数の計測時間(第2計測時間)の少なくとも一方を調整する調整部(第1調整部、第2調整部、第3調整部)42と、計測部41で計測した発振パルス数の差分を算出する算出部43と、算出部43にて算出した差分を金属30(被検出物)の渦電流に変換する変換部44とを機能的に有している。
【0048】
図5は、渦電流式金属センサ20の一構成例を示す回路図である。
図5において、コイルL1及びコイルL2は夫々、前述した第1コイル1及び第2コイル2に該当する。また、マイクロコンピュータU1は、前述した電子チップ4に相当する。
【0049】
コイルL1の一端は、マイクロコンピュータU1の第6端子に接続され、コイルL2の一端は、マイクロコンピュータU1の第3端子に接続されている。コイルL1の他端及びコイルL2の他端はコンデンサC1を介してトランジスタQ1のベースに接続されている。トランジスタQ1のベース、コレクタ間には抵抗R2が設けられ、トランジスタQ1のベース、エミッタ間にはコンデンサC2が設けられている。トランジスタQ1のコレクタは、マイクロコンピュータU1の第2端子に接続されているとともに、抵抗R3を介して接地されている。
【0050】
マイクロコンピュータU1の第1端子には、電源電圧Vddの入力端子が接続されている。電源電圧Vddの入力端子は、抵抗R1を介してトランジスタQ1のエミッタに接続されている。抵抗R1とトランジスタQ1のエミッタとの間にはコンデンサC3の一端が接続され、コンデンサC3の他端は接地されている。電源電圧Vddの入力端子と前記第1端子との間にはコンデンサC6の一端が接続され、コンデンサC6の他端は接地されている。マイクロコンピュータU1の第8端子には、接地用の端子が接続されている。
【0051】
マイクロコンピュータU1の第7端子には、抵抗R4を介して、渦電流に相当する検出電圧Voutを出力する出力端子が接続されている。該出力端子と抵抗R4との間にはコンデンサC7の一端が接続され、コンデンサC7の他端は接地されている。マイクロコンピュータU1の第5端子には、抵抗R6を介して、オフセット制御を行うための制御電圧Vcontを入力する入力端子が接続されている。マイクロコンピュータU1の第5端子と抵抗R6との間にはコンデンサC4の一端が接続され、コンデンサC4の他端は接地されている。
【0052】
コイルL1、2個のコンデンサC2及びC3並びにトランジスタQ1にて、前述した第1発振回路6(コルピッツ発振回路)が構成され、コイルL2、2個のコンデンサC2及びC3並びにトランジスタQ1にて、前述した第2発振回路7(コルピッツ発振回路)が構成されている。そして、マイクロコンピュータU1の切り替え動作(マイクロコンピュータU1の第3端子及び第6端子で切り替え動作を行っている)により、第1発振回路6と第2発振回路7とが所定時間ずつ交互に発振するようになっている。
【0053】
次に、本実施の形態の渦電流式金属センサ20の動作について説明する。
図6は、本実施の形態の渦電流式金属センサ20の動作を説明するためのタイミングチャートである。
図6の横軸は時間である。横軸の単位は例えば秒又はミリ秒である。縦軸は上段では電圧である。上段の単位は例えばミリボルトである。縦軸は下段では渦電流値である。下段の単位は例えばミリアンペアである。
【0054】
調整部42にて調整された第1計測時間に亘って、第1発振回路6を発振させてその発振パルス数を計測部41にて計測する処理と、調整部42にて調整された第2計測時間に亘って、第2発振回路7を発振させてその発振パルス数を計測部41にて計測する処理とを交互に行う。この際、
図6に示すように、第1発振回路6を発振させてその発振パルス数を計測する期間では第2発振回路7を発振させず、また、第2発振回路7を発振させてその発振パルス数を計測する期間では第1発振回路6を発振させない。よって、互いに発振の影響を受けることなく、発振パルス数を計測するので、その計測値は精度が高い。
【0055】
所定時間(第1計測時間及び第2計測時間)ずつの発振パルス数の計測を終了すると、第1発振回路6における(第1コイル1に由来する)計測された発振パルス数と、第2発振回路7における(第2コイル2に由来する)計測された発振パルス数との差分を、算出部43にて算出する。そして、変換部44により、算出した差分を渦電流に変換し、渦電流の変化量を求める。
【0056】
また、第1発振回路6を発振させて、その発振パルス数を計測する期間では、それ以前の第1発振回路6と第2発振回路7の計測値(例えばA′とB′)の差分を、算出部43にて算出し、変換部44により、算出した差分を渦電流に変換し、渦電流の変化量を求めるので、各発振回路の発振パルス数の計測開始のタイミングで渦電流の変化量の更新が順次行われる。
図6において、時刻0を跨いで、第2発振回路7の計測が行われ、発振パルス数B’が得られている。さらにその前には、第1発振回路6の計測が行われ、発振パルス数A’が得られている。したがって、第2発振回路7の発振パルス数B’が得られた時点以降で、発振パルス数の差分(A’-B’)から渦電流値を算出する。続いて、第1発振回路6の次の計測が行われ、発振パルス数Aが得られている。そして、発振パルス数の差分(B’-A)から渦電流値を算出する。引き続き、第2発振回路7の次の計測が行われ、発振パルス数Bが得られている。そして、発振パルス数の差分(A-B)から渦電流値を算出する。さらに、第1発振回路6の計測が行われ、発振パルス数A*が得られている。そして、発振パルス数の差分(B-A*)から渦電流値を算出する。以上のような計測及び渦電流値の算出を繰り返し行う。
【0057】
本実施の形態において下記のような利点があげられる。検出対象である金属30の種類に応じて、渦電流の大きさは変化する。この場合、例えばマイクロコンピュータU1の未使用端子を利用して、この未使用端子の電圧レベルを外部から制御することで、感度を調節するオフセット機能を与えることができる。
【0058】
なお、
図5には一例として端子を8個有するマイクロコンピュータを記載したが、この構成に限定されるものではない。必要な場合には異なる端子数のマイクロコンピュータを使用し渦電流の変化などの情報をシリアル通信などの手段で、上位の制御側に伝達し、また上位側からの制御信号を受けることも可能である。
【0059】
以下、上述したような手順により、渦電流を検出できる原理を説明する。また、渦電流の検出結果に基づいて被検出物(金属30)の有無の検知、被検出物(金属30)までの距離の測定を行える。
【0060】
被検出物の渦電流が大きくなった場合、被検出物の近傍に配されたコイルのインダクタンスは、この渦電流の変動に応じて低下する。この結果、そのコイルを含む発振回路の発振パルス数は増加する。ここで、被検出物からの距離を異ならせて2個のコイルを配置している場合、いずれのコイルもインダクタンスが低下して、いずれの発振回路も発振パルス数は増加する。但し、被検出物に近い方のコイルは、遠い方のコイルに比べて、渦電流の変化の影響を強く受けるので、上記の場合、インダクタンスの低下量が大きくなり、発振パルス数の増加量も大きくなる。よって、2個のコイル夫々を含む2つの発振回路における発振パルス数には、渦電流の変化の程度に応じた分の差異が生じることになる。このように、両発振パルス数の差分と渦電流との間には相関関係が存在するので、本実施の形態では、両発振回路の発振パルス数の差分に基づいて被検出物の渦電流を検出することが可能である。そして、検出した被検出物の渦電流に基づき、被検出物(金属30)の有無を検知したり、被検出物(金属30)までの距離を測定したりすることが可能である。
【0061】
前述した実施の形態における渦電流式金属センサ20にあっては、第1コイル1が上記の被検出物(金属30)に遠い方のコイルに該当し、第2コイル2が上記の被検出物(金属30)に近い方のコイルに該当する。本実施の形態においては被検出物に近い方のコイルを検知コイル、遠い方のコイルを基準コイルとする。
【0062】
本実施の形態に係る渦電流式金属センサ20によれば、金属に発生する渦電流を検知することができる。よって金属の有無を検知する有無センサとして使用することができる。また、金属との距離を測定する距離センサとして使用することができる。また、回転数検出センサ、近接スイッチとしても使用できる。
【0063】
ここで、調整部42における第1計測時間及び第2計測時間の少なくとも一方の調整処理について説明する。
【0064】
被検出物に近い第1コイル1と被検出物から遠い第2コイル2とでは使用環境が異なるため、渦電流式金属センサの検出特性は、温度変動の影響を受け易い。また、第1コイル1及び第2コイル2は、前述したように、基板10への銅箔パターンの印刷により形成されるため、形成条件の違いに起因する第1コイル1及び第2コイル2の特性の差異は避けられない。
【0065】
本実施の形態の渦電流式金属センサ20は、このような課題を解決するために、第1計測時間及び第2計測時間の少なくとも一方の調整を行う。この調整処理は、渦電流式金属センサ20の出荷時、又は渦電流式金属センサ20を備えた距離センサの使用時など、実際の渦電流検出処理が実行される前に行われる。所望の検出範囲の中央値の状況にあって、第1コイル1及び第2コイル2での1回の計測期間内のパルス数に差がないように、これらの計測時間の調整を行う。なお、この検出範囲の中央値の状況を作り出すために、上記中央値とする大きさの金属板を使用する。このときの環境温度については常温とする。
【0066】
被検出物に近い位置に配される第2コイル2は、被検出物の影響を大きく受けてインダクタンスは大きくなる。一方、被検出物から遠い位置に配される第1コイル1は、被検出物の影響をほとんど受けずにインダクタンスもあまり大きくならない。発振周波数はインダクタンスにほぼ反比例するため、第2発振回路7の発振パルス数は第1発振回路6の発振パルス数より少なくなる。そこで、このような被検出物の影響の大小による差を補償する分だけ、第2計測時間が第1計測時間より相対的に長くなるような調整を行っている。具体的には第1発振回路6の発振パルス数と、第2発振回路7の発振パルス数が同じになるように計測時間を調整する。
【0067】
このような第2計測時間が第1計測時間より相対的に長くなる調整を行う場合、第2計測時間は変更せずに第1計測時間を短くする調整、第1計測時間は変更せずに第2計測時間を長くする調整、第1計測時間を短くして第2計測時間を長くする調整のいずれであっても良い。
【0068】
計測時間の調整は、計測にあたってはまず、夫々の計測時間は同じとし、第1発振回路6による発振パルス数の計測と第2発振回路7による発振パルス数の計測を行った後、その差分を測定し差分が無くなるようにどちらか一方の計測時間を調整する。この場合、1回の計測時間の調整で同じ発振パルス数にならない場合がありその場合には以下のように調整する。具体的には、調整された計測時間で再度第1発振回路6による発振パルス数と、第2発振回路7による発振パルス数を計測し、発振パルス数の差分を計算し、差分が無くなるようにどちらか一方の計測時間を調整する。最終的には、第1発振回路6による発振パルス数と第2発振回路7による発振パルス数の差が最も小さい状態を初期値と設定し(検出範囲の中央値と設定し)、実際の測定を行っても良い。この補正は後述のステップ2(補正処理)に該当している。
【0069】
以上の計測時間調整の全体について、フローチャートを用いて、説明する。
図7は計測時間調整処理の処理手順例を示すフローチャートである。計測時間調整処理は電子チップ4の調整部42が主体となって行う処理である。調整部42は初期補正処理を行う(ステップS1)。初期補正処理は主として電子チップ4のクロックの誤差を補正することを目的とする処理である。調整部42は補正処理を行う(ステップS2)。補正処理は主として測定範囲の中央値と想定する環境で第1発振回路6と第2発振回路7との計測パルス数の差分を最小値(0を含む)にすることを目的とする処理である。調整部42は強制補正処理を行う(ステップS3)。強制補正処理は主として測定範囲の中央値と想定する環境で第1発振回路6と第2発振回路7との計測パルス数の差分を強制的に0にする処理である。強制補正処理は補正処理にて得られた差分の最小値を強制的に0とする処理であり、補正処理にて差分が最小値となったことを確認する意味を含む処理である。調整部42は計測時間調整処理を終了する。
その後、
図6に示す手順にて渦電流の測定を繰り返し行う(ステップS4)。
【0070】
図8は初期補正処理の処理手順例を示すフローチャートである。第1発振回路6を構成するコイルを基準コイル、第2発振回路7を構成するコイルを検知コイルとし、また第1発振回路6を基準発振回路、第2発振回路7を検知発振回路とする。調整部42は予め定めた初期計測時間(t0)で第1発振回路6の発振パルス数を、計測部41で計測する(ステップS11)。調整部42は算出部43により計測したパルス数と所定値との差分を算出する(ステップS12)。所定値に基づき、第1発振回路6の発振パルス数が所定値となるように、第1発振回路6の計測時間を補正する(ステップS13)。調整部42は初期補正処理を終了し、処理を呼び出し元に戻す。補正後の計測時間は例えば、t0+αとする。ステップ13で初期補正は完了する。なお、ステップS13の後に、計測時間t0+αで、計測部41により第1発振回路6の発振パルス数を計測し、計測した発振パルス数が所定値となる否かを確認する処理を行う。計測時間t0+αで、第1発振回路6の発振パルス数を計測する(ステップS14)。調整部42は発振パルス数が所定値となったか否かを判定する(ステップS15)。調整部42は発振パルス数が所定値となっていないと判定した場合(ステップS15でNO)、処理をステップS12に戻す。調整部42は発振パルス数が所定値となっていると判定した場合(ステップS15でYES)、処理を終了し呼び出し元に戻す。なお、発振パルス数が所定値とならない場合やαが収束しない場合は、発振パルス数と所定値の差分が最も小さくなる値をαに設定する。なお、処理を簡略化するため、ステップS14、S15の処理を省略してもよい。
【0071】
例えば、第1発振回路6が10MHzで発振する設計とする。そして、発振パルス数を3万回、計測するものとする。この場合、初期計測時間t0を3msとする。計測部41で3ms間、第1発振回路6の発振パルス数を計測する。計測した発振パルス数が3万を下回る場合は下回るパルス数の分、計測時間を長くする。すなわち、αを正の値とする。計測した発振パルス数が3万を上回る場合は上回るパルス数の分、計測時間を短くする。すなわち、αを負の値とする。計測した発振パルス数が3万となった場合は、αを0とする。
【0072】
図9は補正処理の処理手順例を示すフローチャートである。補正処理は測定範囲の中心となる渦電流が測定されるような環境で行う。例えば、そのような環境を作り出す基準金属板を用いる。例えば、渦電流式金属センサを距離センサとして使う場合は、想定する金属で作成した基準金属板を測定範囲の中心としたい距離に配置する。調整部42は初期補正処理で求めた計測時間t0+αで、計測部41により第1発振回路6の発振パルス数を計測する(ステップS21)。調整部42は計測した第1発振回路6の発振パルス数を記憶する(ステップS22)。調整部42は初期補正処理で求めた計測時間t0+αで、計測部41により第2発振回路7の発振パルス数を計測する(ステップS23)。調整部42は算出部43により計測した第2発振回路7の発振パルス数と記憶した第1発振回路6の発振パルス数との差分を算出する(ステップS24)。調整部42は補正処理を終了し、処理を呼び出し元に戻す。差分が0となるように、第2発振回路7の計測時間を補正する(ステップS25)。調整部42は補正後の計測時間は例えば、t0+α+βとする。第2発振回路7のパルス数が第1発振回路6の発振パルス数よりも小さい場合は、βを正の値とする。第2発振回路7のパルス数が第1発振回路6の発振パルス数よりも大きい場合は、βを負の値とする。第2発振回路7のパルス数が第1発振回路6の発振パルス数と等しい場合は、βは0とする。ステップS25の後に、計測時間t0+αで第1発振回路6の発振パルス数を計測し、計測時間t0+α+βで第2発振回路7のパルス数を計測し、両パルス数が等しいか否かを確認する処理を行ってもよい。等しくない場合には、再度、βを設定し直す。βが収束しない場合は、発振パルス数と所定値の差分が最も小さくなる値とする。具体的にはステップS25の後に、調整部42は計測した第1発振回路6の発振パルス数と第2発振回路7のパルス数とが一致するかを判定する。調整部42は両パルス数が一致すると判定した場合、補正処理を終了する。調整部42は両パルス数が一致しないと判定した場合、S21へ戻り、ステップS21以降を繰り返す工程となる。この際の計測時間は第1発振回路6ではt0+αであり(ステップS21)、第2発振回路7ではt0+α+βとする(ステップS23)。同様の要領で第2発振回路7の時間を補正しながら発振パルス数が同じになるように補正する。また、第2発振回路7の計測時間を補正するのではなく、第1発振回路6の計測時間を補正してもよい。
【0073】
図10は強制補正処理の処理手順例を示すフローチャートである。強制補正処理は補正処理にて設定した計測時間での発振パルス数も差分を最終確認し差分を強制的に0とする処理である。強制補正処理も補正処理と同様に基準金属板を用い測定範囲の中心となる渦電流が測定されるような環境で行う。調整部42はt0+αで、計測部41により第1発振回路6の発振パルス数を計測する(ステップS31)。調整部42は計測した第1発振回路6の発振パルス数を記憶する(ステップS32)。調整部42はt0+α+βで、計測部41により第2発振回路7の発振パルス数を計測する(ステップS33)。調整部42は計測した第2発振回路7の発振パルス数を記憶する(ステップS34)。調整部42は算出部43により、第1発振回路6の発振パルス数と第2発振回路7の発振パルス数との差分を算出する(ステップS35)。その後差分を強制的に0とする。この処理により基準金属板で測定した値を渦電流の中央値と設定することとなる(ステップS36)。この工程は後述のS52からS57を示している。
【0074】
補正処理の一連の流れ(補正後から強制補正)について、フローチャートを用いて、説明する。
図11は補正処理の補正後から強制補正の処理手順例を示すフローチャートである。調整部42は第1発振回路6の計測時間(第1計測時間t1)をt0+αとする。調整部42は第2発振回路7の計測時間(第2計測時間t2)をt0+α+βとする(ステップS51)。計測部41は第1計測時間t1で第1発振回路6の発振パルス数を計測する(ステップS52)。計測部41は計測した第1発振回路6の発振パルス数を記憶する(ステップS53)。計測部41は第2計測時間t2で第2発振回路7の発振パルス数を計測する(ステップS54)。計測部41は計測した第2発振回路7の発振パルス数を記憶する(ステップS55)。調整部42は強制補正処理で求めた差分(強制差分)で、第1発振回路6の発振パルス数又は第2発振回路7の発振パルス数を補正する。強制補正処理で、第1発振回路6の発振パルス数が第2発振回路7の発振パルス数より大きかった場合、第2発振回路7の発振パルス数の値に強制差分を足す。第1発振回路6の発振パルス数が第2発振回路7の発振パルス数より小さかった場合、第2発振回路7の発振パルス数の値に強制差分を引く(差分を強制的に0とする)ことで補正は完了する(ステップS56、S57)。この処理により、基準金属板での測定値が渦電流の中央値として設定される。
【0075】
上述したような調整を行っておくことにより、温度変動による検出出力の変動を抑えることができる。また、上述したような形成時における第1コイル1及び第2コイル2の特性の差異分などの補償も結果的に行えていることになる。したがって、本実施の形態の渦電流式金属センサ20では、温度変動の影響を抑制して高精度に渦電流を検出することが可能である。
なおステップS1の初期補正、ステップS3の強制補正は必須ではなく、要求される仕様に応じて適宜組み合わせても良い。
初期補正を行ったのちに補正及び強制補正を行う場合には、基準コイル(本明細書では第1コイル1)の計測時間を一定とし検知コイル(本明細書では第2コイル2)の計測時間を調整するのが望ましい。
【0076】
上述した実施の形態では、同軸状に基板10に配した2個のコイル(第1コイル1及び第2コイル2)のインダクタンスの変化を、マイクロコンピュータ(電子チップ4)に内蔵された発振器の正確なクロック信号で駆動される2つの発振回路(第1発振回路6及び第2発振回路7)における発振パルス数の差分として検出し、その差分(発振パルス数の変化量)をマイクロコンピュータにて演算処理して渦電流の変化を検出している。ここで、2個のコイル夫々を交互に発振回路に接続させて、夫々所定時間に亘って交互にマイクロコンピュータにて発振パルス数を計測し、その差分を算出して渦電流の変化を検出している。
【0077】
本実施の形態では、第1コイル1及び第2コイル2を基板10の上下面に同軸状に配しているので、コイルの配置に必要な面積を低減でき、水平方向での狭小化を図れる。また、基板10に導体パターンを印刷してコイルを形成するようにしたので、高さ方向における低背化を図れる。さらに、マイクロコンピュータを用いて各種の処理を行うようにしたので、部品点数を低減できて、回路部品を実装する面積は少なくて済む。以上のことから、渦電流式金属センサの大幅な小型化を実現できる。
【0078】
2つの発振回路における発振パルス数の計測を交互に行うようにしているので、一方のコイルを含む発振回路の計測が他方のコイルで発生する磁束(他方のコイルでのインダクタンス変化)の影響を受けないため、正確な発振パルス数を計測することができ、この結果、高い精度にて渦電流を検出することが可能である。
【0079】
本実施の形態では、2つの発振回路を構成するトランジスタとコンデンサを共通とし、コイルを発振回路それぞれに配置したので、部品の数を少なくすることができて、コストダウンが図れる。又部品数が少ないため部品特性のばらつきを低減でき、さらに温度変化、ノイズといった外乱の影響を受け難く、正確な測定が可能となる。
【0080】
マイクロコンピュータを用いてソフトウェアにより種々の処理を行うようにしたので、ハードウェアとしての回路部品の点数を減少できて、回路部品における特性のばらつきの影響を受けることが少なくなる。また、ソフトウェアにて処理するので、環境(温度、湿度など)の影響を受けにくくなる。よって、検出される渦電流の精度を高めることができる。
【0081】
また、検出する金属30の種類が異なる場合でも、ソフトウェアの内容を変更するのみで簡単に対応できる。よって、大量生産が容易となって、低コスト化を図ることができる。
【0082】
上述した実施の形態では、基板10の上面及び下面に夫々導体パターンを印刷して、第1コイル1及び第2コイル2を同軸状に形成するようにしたが、第1コイル1及び第2コイル2の形成手法は、これに限らず、他の手法であっても良い。以下、これらの他の手法について変形例として説明する。
【0083】
(第1変形例)
図12は、第1変形例における渦電流式金属センサの構成を示す断面図である。
図12において、
図1及び
図2と同一又は同様な部材には同一番号を付している。第1変形例では、基板10の下面に、例えば銅箔のパターン印刷により、第1コイル1と第2コイル2とを、絶縁層を挟んで同軸状に積層させて形成している。また、基板10の上面には、コイルは形成されておらず、上述した実施の形態と同様な電子チップ4、回路部品5及びコネクタ3が実装されている。第1コイル1及び第2コイル2は、電子チップ4及び回路部品5の実装位置の直下に形成されている。よって、渦電流式金属センサの構成の更なる小型化を図ることができる。
【0084】
(第2変形例)
図13は、第2変形例における渦電流式金属センサの構成を示す断面図である。
図13において、
図1及び
図2と同一又は同様な部材には同一番号を付している。第2変形例では、基板10の一端部の上面に、別部品の空心コイルを実装して第1コイル1を形成し、基板10の一端部の下面に、第1コイル1と同軸をなして、別部品の空心コイルを実装して第2コイル2を形成している。基板10の上面の残りの領域には、上述した実施の形態と同様な電子チップ4、回路部品5及びコネクタ3が実装されている。
【0085】
(第3変形例)
図14は、第3変形例における渦電流式金属センサの構成を示す断面図である。
図14において、
図1及び
図2と同一又は同様な部材には同一番号を付している。第3変形例では、基板10の一端部の上面に、別部品の2個の空心コイルを積層実装して第1コイル1及び第2コイル2を形成している。2個の空心コイルは基板上に第2コイル2、第1コイル1の順に積層する。第2コイル2と第1コイル1との間には絶縁層を設ける。基板10の上面の残りの領域には、上述した実施の形態と同様な電子チップ4、回路部品5及びコネクタ3が実装されている。なお、
図13に示す構成とは異なり、基板10の下面に、上記のような2個の空心コイルの積層構成をなす第1コイル1及び第2コイル2を形成するようにしても良い。
【0086】
なお、開示された実施の形態は、全ての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上述の説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味及び範囲内での全ての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0087】
1 第1コイル
2 第2コイル
3 コネクタ
4 電子チップ
5 回路部品
6 第1発振回路
7 第2発振回路
10 基板
20 渦電流式金属センサ
30 金属(被検出物)
41 計測部
42 調整部
43 算出部
44 変換部