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特許7001097含フッ素エーテル化合物、含フッ素エーテル組成物、コーティング液、物品およびその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2021-12-28
(45)【発行日】2022-01-19
(54)【発明の名称】含フッ素エーテル化合物、含フッ素エーテル組成物、コーティング液、物品およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08G 65/336 20060101AFI20220112BHJP
   C09D 171/02 20060101ALI20220112BHJP
   C09K 3/18 20060101ALI20220112BHJP
【FI】
C08G65/336
C09D171/02
C09K3/18 104
【請求項の数】 15
(21)【出願番号】P 2019537567
(86)(22)【出願日】2018-08-13
(86)【国際出願番号】 JP2018030221
(87)【国際公開番号】W WO2019039341
(87)【国際公開日】2019-02-28
【審査請求日】2021-02-09
(31)【優先権主張番号】P 2017159697
(32)【優先日】2017-08-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000000044
【氏名又は名称】AGC株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100103894
【弁理士】
【氏名又は名称】家入 健
(72)【発明者】
【氏名】星野 泰輝
(72)【発明者】
【氏名】室谷 英介
(72)【発明者】
【氏名】松浦 啓吾
(72)【発明者】
【氏名】宇野 誠人
【審査官】堀 洋樹
(56)【参考文献】
【文献】特開平10-237383(JP,A)
【文献】特開平07-053919(JP,A)
【文献】国際公開第2017/038832(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08G 65/00-65/48
C09D 1/00-201/10
C09K 3/18
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下式1で表される化合物である、含フッ素エーテル化合物。
【化1】
ただし、
Aは、炭素数1~20のペルフルオロアルキル基であり、
f1は、フルオロアルキレン基であり、
mは、2~500の整数であり、
(Rf1O)は、炭素数の異なる2種以上のRf1Oからなるものであってもよく、
f2は、フルオロアルキレン基であり、
は、少なくとも1個の加水分解性シリル基を有する1価の有機基であり、
は、水素原子、1価の有機基(ただし、加水分解性シリル基を有するものを除く。)または少なくとも1個の加水分解性シリル基を有する1価の有機基であり、
における加水分解性シリル基の数とRにおける加水分解性シリル基の数との合計が2以上であり、
前記少なくとも1個の加水分解性シリル基を有する1価の有機基が、下式g1で表される基であり、
-Q [-SiR 3-n 式g1
は、(p+1)価の有機基(ただし、加水分解性シリル基を有するものを除く。)であり、
は、水素原子または1価の炭化水素基であり、
Lは、加水分解性基であり、
nは、0~2の整数であり、
pは、1以上の整数であり、
pが2以上の場合、p個の[-SiR 3-n ]は、同一であっても異なっていてもよい。
【請求項2】
前記式g1で表される基が、下式g2で表される基または下式g3で表される基である、請求項に記載の含フッ素エーテル化合物。
【化2】
ただし、
およびRは、それぞれ独立に、水素原子、炭素数1~6の1価の有機基(ただし、加水分解性シリル基を有するものを除く。)または-Q-SiR 3-nであり、
qは、0~10の整数であり、
qが2以上の場合、q個の(CR)は、同一であっても異なっていてもよく、
は、炭素数1~6の1価の有機基(ただし、加水分解性シリル基を有するものを除く。)または-Z-Q-SiR 3-nであり、
rは、0~4の整数であり、
rが2以上の場合、r個のRは、同一であっても異なっていてもよく、
sは、1または2であり、
sが2の場合、2個の(φ(R)(ただし、φはベンゼン環である。)は、同一であっても異なっていてもよく、
Zは、単結合、-C(O)N(R)-または-C(O)O-であり、
は、水素原子またはアルキル基であり、
は、炭素数2~10のアルキレン基であり、
は、水素原子または1価の炭化水素基であり、
Lは、加水分解性基であり、
nは、0~2の整数であり、
複数の-Q-SiR 3-nは、同一であっても異なっていてもよい。
【請求項3】
前記Rおよび前記Rが、いずれも前記式g1で表される基(ただし、pは1~3の整数である。)である、請求項1または2に記載の含フッ素エーテル化合物。
【請求項4】
前記Rが、前記式g1で表される基(ただし、pは2または3である。)であり、
前記Rが、水素原子または1価の有機基(ただし、加水分解性シリル基を有するものを除く。)である、請求項1または2に記載の含フッ素エーテル化合物。
【請求項5】
請求項1~のいずれか一項に記載の含フッ素エーテル化合物の1種以上と、他の含フッ素エーテル化合物とを含むことを特徴とする含フッ素エーテル組成物。
【請求項6】
請求項1~のいずれか一項に記載の含フッ素エーテル化合物または請求項に記載の含フッ素エーテル組成物と、
液状媒体とを含むことを特徴とするコーティング液。
【請求項7】
請求項1~のいずれか一項に記載の含フッ素エーテル化合物または請求項に記載の含フッ素エーテル組成物から形成された表面層を基材の表面に有することを特徴とする物品。
【請求項8】
タッチパネルの指で触れる面を構成する部材の表面に前記表面層を有する、請求項に記載の物品。
【請求項9】
請求項1~のいずれか一項に記載の含フッ素エーテル化合物または請求項に記載の含フッ素エーテル組成物を用いたドライコーティング法によって基材の表面を処理して、前記含フッ素エーテル化合物または前記含フッ素エーテル組成物から形成された表面層を前記基材の表面に形成することを特徴とする物品の製造方法。
【請求項10】
ウェットコーティング法によって請求項に記載のコーティング液を基材の表面に塗布し、乾燥させて、前記含フッ素エーテル化合物または前記含フッ素エーテル組成物から形成された表面層を前記基材の表面に形成することを特徴とする物品の製造方法。
【請求項11】
下式2で表される化合物である、含フッ素エーテル化合物。
【化3】
ただし、
Aは、炭素数1~20のペルフルオロアルキル基であり、
f1は、フルオロアルキレン基であり、
mは、2~500の整数であり、
(Rf1O)は、炭素数の異なる2種以上のRf1Oからなるものであってもよく、
f2は、フルオロアルキレン基であり、
1aは、少なくとも1個のω-アルケニル基を有する1価の有機基(ただし、加水分解性シリル基を有するものを除く。)であり、
2aは、水素原子、1価の有機基(ただし、ω-アルケニル基を有するものおよび加水分解性シリル基を有するものを除く。)または少なくとも1個のω-アルケニル基を有する1価の有機基(ただし、加水分解性シリル基を有するものを除く。)であり、
1aにおけるω-アルケニル基の数とR2aにおけるω-アルケニル基の数との合計が2以上である。
【請求項12】
前記少なくとも1個のω-アルケニル基を有する1価の有機基が、下式g4で表される基である、請求項11に記載の含フッ素エーテル化合物。
-Q1a[-CH=CH 式g4
ただし、
1aは、単結合(ただし、pが1のときに限る。)または(p+1)価の有機基(ただし、加水分解性シリル基を有するものを除く。)であり、
pは、1以上の整数である。
【請求項13】
前記式g4で表される基が、下式g5で表される基または下式g6で表される基である、請求項12に記載の含フッ素エーテル化合物。
【化4】
ただし、
4aおよびR5aは、それぞれ独立に、水素原子、炭素数1~6の1価の有機基(ただし、加水分解性シリル基を有するものを除く。)または-Q2a-CH=CHであり、
qは、0~10の整数であり、
qが2以上の場合、q個の(CR4a5a)は、同一であっても異なっていてもよく、
6aは、炭素数1~6の1価の有機基(ただし、加水分解性シリル基を有するものを除く。)または-Z-Q2a-CH=CHであり、
rは、0~4の整数であり、
rが2以上の場合、r個のR6aは、同一であっても異なっていてもよく、
sは、1または2であり、
sが2の場合、2個の(φ(R6a)(ただし、φはベンゼン環である。)は、同一であっても異なっていてもよく、
Zは、単結合、-C(O)N(R)-または-C(O)O-であり、
は、水素原子またはアルキル基であり、
2aは、単結合または炭素数1~8のアルキレン基であり、
複数のQ2aは、同一であっても異なっていてもよい。
【請求項14】
前記R1aおよび前記R2aが、いずれも前記式g4で表される基(ただし、pは1~3の整数である。)である、請求項12または13に記載の含フッ素エーテル化合物。
【請求項15】
前記R1aが、前記式g4で表される基(ただし、pは2または3である。)であり、
前記R2aが、水素原子または1価の有機基(ただし、ω-アルケニル基を有するものおよび加水分解性シリル基を有するものを除く。)である、請求項12または13に記載の含フッ素エーテル化合物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、含フッ素エーテル化合物、含フッ素エーテル組成物、コーティング液、物品およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリ(オキシペルフルオロアルキレン)鎖を有する含フッ素エーテル化合物は、高い潤滑性、撥水撥油性等を示す表面層を基材の表面に形成できるため、表面処理剤に好適に用いられる。含フッ素エーテル化合物を含む表面処理剤は、表面層が指で繰り返し摩擦されても撥水撥油性が低下しにくい性能(耐摩擦性)および拭き取りによって表面層に付着した指紋を容易に除去できる性能(指紋汚れ除去性)が長期間維持されることが求められる用途、たとえば、タッチパネルの指で触れる面を構成する部材、メガネレンズ、ウェアラブル端末のディスプレイの表面処理剤として用いられる。
【0003】
耐摩擦性および指紋汚れ除去性に優れる表面層を基材の表面に形成できる含フッ素エーテル化合物としては、下記のものが提案されている。
ポリ(オキシペルフルオロアルキレン)鎖の一方の末端に窒素原子による分岐を介して2個の加水分解性シリル基を導入した含フッ素エーテル化合物(特許文献1、2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】国際公開第2017/038832号
【文献】特開2000-327772号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
最近では、タッチパネルの指で触れる面を構成する部材等の表面層には、さらなる耐摩擦性、耐光性および耐薬品性の向上が求められることがある。そのため、耐摩擦性、耐光性および耐薬品性がさらに優れる表面層を形成できる含フッ素エーテル化合物が必要となることがある。
【0006】
本発明は、初期の撥水撥油性、指紋汚れ除去性、耐摩擦性、耐光性および耐薬品性に優れる表面層を形成できる含フッ素エーテル化合物、含フッ素エーテル化合物を含む含フッ素エーテル組成物およびコーティング液、初期の撥水撥油性、指紋汚れ除去性、耐摩擦性、耐光性および耐薬品性に優れる表面層を有する物品およびその製造方法の提供を目的とする。
また、本発明は、表面処理剤に好適に用いられる含フッ素エーテル化合物の中間体として有用な含フッ素エーテル化合物の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、下記[1]~[16]の構成を有する含フッ素エーテル化合物、含フッ素エーテル組成物、コーティング液、物品、物品の製造方法、含フッ素エーテル化合物の他の態様を提供する。
【0008】
[1]下式1で表される化合物である、含フッ素エーテル化合物。
【化1】
ただし、Aは、炭素数1~20のペルフルオロアルキル基であり、Rf1は、フルオロアルキレン基であり、mは、2~500の整数であり、(Rf1O)は、炭素数の異なる2種以上のRf1Oからなるものであってもよく、Rf2は、フルオロアルキレン基であり、Rは、少なくとも1個の加水分解性シリル基を有する1価の有機基であり、Rは、水素原子、1価の有機基(ただし、加水分解性シリル基を有するものを除く。)または少なくとも1個の加水分解性シリル基を有する1価の有機基であり、Rにおける加水分解性シリル基の数とRにおける加水分解性シリル基の数との合計が2以上である。
[2]前記少なくとも1個の加水分解性シリル基を有する1価の有機基が、下式g1で表される基である、[1]の含フッ素エーテル化合物。
-Q[-SiR 3-n 式g1
ただし、Qは、(p+1)価の有機基(ただし、加水分解性シリル基を有するものを除く。)であり、Rは、水素原子または1価の炭化水素基であり、Lは、加水分解性基であり、nは、0~2の整数であり、pは、1以上の整数であり、pが2以上の場合、p個の[-SiR 3-n]は、同一であっても異なっていてもよい。
【0009】
[3]前記式g1で表される基が、下式g2で表される基または下式g3で表される基である、[2]の含フッ素エーテル化合物。
【化2】
ただし、RおよびRは、それぞれ独立に、水素原子、炭素数1~6の1価の有機基(ただし、加水分解性シリル基を有するものを除く。)または-Q-SiR 3-nであり、qは、0~10の整数であり、qが2以上の場合、q個の(CR)は、同一であっても異なっていてもよく、Rは、炭素数1~6の1価の有機基(ただし、加水分解性シリル基を有するものを除く。)または-Z-Q-SiR 3-nであり、rは、0~4の整数であり、rが2以上の場合、r個のRは、同一であっても異なっていてもよく、sは、1または2であり、sが2の場合、2個の(φ(R)(ただし、φはベンゼン環である。)は、同一であっても異なっていてもよく、Zは、単結合、-C(O)N(R)-または-C(O)O-であり、Rは、水素原子またはアルキル基であり、Qは、炭素数2~10のアルキレン基であり、Rは、水素原子または1価の炭化水素基であり、Lは、加水分解性基であり、nは、0~2の整数であり、複数の-Q-SiR 3-nは、同一であっても異なっていてもよい。
【0010】
[4]前記Rおよび前記Rが、いずれも前記式g1で表される基(ただし、pは1~3の整数である。)である、[2]または[3]の含フッ素エーテル化合物。
[5]前記Rが、前記式g1で表される基(ただし、pは2または3である。)であり、前記Rが、水素原子または1価の有機基(ただし、加水分解性シリル基を有するものを除く。)である、[2]または[3]の含フッ素エーテル化合物。
[6]前記[1]~[5]のいずれかの含フッ素エーテル化合物の1種以上と、他の含フッ素エーテル化合物とを含むことを特徴とする含フッ素エーテル組成物。
[7]前記[1]~[5]のいずれかの含フッ素エーテル化合物または[6]の含フッ素エーテル組成物と、液状媒体とを含むことを特徴とするコーティング液。
[8]前記[1]~[5]のいずれかの含フッ素エーテル化合物または[6]の含フッ素エーテル組成物から形成された表面層を基材の表面に有することを特徴とする物品。
[9]タッチパネルの指で触れる面を構成する部材の表面に前記表面層を有する、[8]の物品。
[10]前記[1]~[5]のいずれかの含フッ素エーテル化合物または[6]の含フッ素エーテル組成物を用いたドライコーティング法によって基材の表面を処理して、前記含フッ素エーテル化合物または前記含フッ素エーテル組成物から形成された表面層を前記基材の表面に形成することを特徴とする物品の製造方法。
[11]ウェットコーティング法によって[7]のコーティング液を基材の表面に塗布し、乾燥させて、前記含フッ素エーテル化合物または前記含フッ素エーテル組成物から形成された表面層を前記基材の表面に形成することを特徴とする物品の製造方法。
【0011】
[12]下式2で表される化合物である、含フッ素エーテル化合物。
【化3】
ただし、Aは、炭素数1~20のペルフルオロアルキル基であり、Rf1は、フルオロアルキレン基であり、mは、2~500の整数であり、(Rf1O)は、炭素数の異なる2種以上のRf1Oからなるものであってもよく、Rf2は、フルオロアルキレン基であり、R1aは、少なくとも1個のω-アルケニル基を有する1価の有機基(ただし、加水分解性シリル基を有するものを除く。)であり、R2aは、水素原子、1価の有機基(ただし、ω-アルケニル基を有するものおよび加水分解性シリル基を有するものを除く。)または少なくとも1個のω-アルケニル基を有する1価の有機基(ただし、加水分解性シリル基を有するものを除く。)であり、R1aにおけるω-アルケニル基の数とR2aにおけるω-アルケニル基の数との合計が2以上である。
[13]前記少なくとも1個のω-アルケニル基を有する1価の有機基が、下式g4で表される基である、[12]の含フッ素エーテル化合物。
-Q1a[-CH=CH 式g4
ただし、Q1aは、単結合(ただし、pが1のときに限る。)または(p+1)価の有機基(ただし、加水分解性シリル基を有するものを除く。)であり、pは、1以上の整数である。
【0012】
[14]前記式g4で表される基が、下式g5で表される基または下式g6で表される基である、[13]の含フッ素エーテル化合物。
【化4】
ただし、R4aおよびR5aは、それぞれ独立に、水素原子、炭素数1~6の1価の有機基(ただし、加水分解性シリル基を有するものを除く。)または-Q2a-CH=CHであり、qは、0~10の整数であり、qが2以上の場合、q個の(CR4a5a)は、同一であっても異なっていてもよく、R6aは、炭素数1~6の1価の有機基(ただし、加水分解性シリル基を有するものを除く。)または-Z-Q2a-CH=CHであり、rは、0~4の整数であり、rが2以上の場合、r個のR6aは、同一であっても異なっていてもよく、sは、1または2であり、sが2の場合、2個の(φ(R6a)(ただし、φはベンゼン環である。)は、同一であっても異なっていてもよく、Zは、単結合、-C(O)N(R)-または-C(O)O-であり、Rは、水素原子またはアルキル基であり、Q2aは、単結合または炭素数1~8のアルキレン基であり、複数のQ2aは、同一であっても異なっていてもよい。
[15]前記R1aおよび前記R2aが、いずれも前記式g4で表される基(ただし、pは1~3の整数である。)である、[13]または[14]の含フッ素エーテル化合物。
[16]前記R1aが、前記式g4で表される基(ただし、pは2または3である。)であり、前記R2aが、水素原子または1価の有機基(ただし、ω-アルケニル基を有するものおよび加水分解性シリル基を有するものを除く。)である、[13]または[14]の含フッ素エーテル化合物。
【発明の効果】
【0013】
本発明の含フッ素エーテル化合物によれば、初期の撥水撥油性、指紋汚れ除去性、耐摩擦性、耐光性および耐薬品性に優れる表面層を形成できる。
本発明の含フッ素エーテル組成物によれば、初期の撥水撥油性、指紋汚れ除去性、耐摩擦性、耐光性および耐薬品性に優れる表面層を形成できる。
本発明のコーティング液によれば、初期の撥水撥油性、指紋汚れ除去性、耐摩擦性、耐光性および耐薬品性に優れる表面層を形成できる。
本発明の物品は、初期の撥水撥油性、指紋汚れ除去性、耐摩擦性、耐光性および耐薬品性に優れる表面層を有する。
本発明の物品の製造方法によれば、初期の撥水撥油性、指紋汚れ除去性、耐摩擦性、耐光性および耐薬品性に優れる表面層を有する物品を製造できる。
本発明の含フッ素エーテル化合物の他の態様は、表面処理剤に好適に用いられる含フッ素エーテル化合物の中間体として有用である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本明細書において、式1で表される化合物を化合物1と記す。他の式で表される化合物も同様に記す。
また、式g1で表される基を基g1と記す。他の式で表される基も同様に記す。
本明細書における以下の用語の意味は、以下の通りである。
オキシフルオロアルキレン単位の化学式は、その酸素原子をフルオロアルキレン基の右側に記載して表すものとする。
「加水分解性シリル基」とは、加水分解反応してシラノール基(Si-OH)を形成し得る基を意味し、式g1中のSiR 3-nである。
「表面層」とは、基材の表面に形成される層を意味する。
含フッ素エーテル化合物の「数平均分子量」は、H-NMRおよび19F-NMRによって、末端基を基準にしてオキシペルフルオロアルキレン単位の数(平均値)を求めて算出される。末端基は、たとえば式1中のAまたは加水分解性シリル基である。
【0015】
[含フッ素エーテル化合物]
本発明の含フッ素エーテル化合物は、化合物1である。
【0016】
【化5】
【0017】
ただし、Aは、炭素数1~20のペルフルオロアルキル基であり、Rf1は、フルオロアルキレン基であり、mは、2~500の整数であり、(Rf1O)は、炭素数の異なる2種以上のRf1Oからなるものであってもよく、Rf2は、フルオロアルキレン基であり、Rは、少なくとも1個の加水分解性シリル基を有する1価の有機基であり、Rは、水素原子、1価の有機基(ただし、加水分解性シリル基を有するものを除く。)または少なくとも1個の加水分解性シリル基を有する1価の有機基であり、Rにおける加水分解性シリル基の数とRにおける加水分解性シリル基の数との合計が2以上である。
【0018】
Aの炭素数は、化合物1によって形成される表面層の潤滑性および耐摩擦性がさらに優れる点から、1~10が好ましく、1~6がより好ましく、1~3が特に好ましい。
【0019】
f1の炭素数は、表面層の耐摩擦性および指紋汚れ除去性がさらに優れる点から、1~6が好ましい。
f1としては、表面層の耐摩擦性および潤滑性がさらに優れる点から、直鎖のフルオロアルキレン基が好ましい。
f1としては、表面層の耐摩擦性および潤滑性がさらに優れる点から、ペルフルオロアルキレン基が好ましい。ペルフルオロアルキレン基以外のRf1としては、水素原子を1~4個とフッ素原子を2個以上とを有する炭素数2~6のポリフルオロアルキレン基が好ましく、水素原子を1または2個とフッ素原子を2個以上とを有する炭素数2~6のポリフルオロアルキレン基がより好ましい。
全Rf1のうちのペルフルオロアルキレン基の割合は、表面層の耐摩擦性および潤滑性がさらに優れる点から、60モル%以上が好ましく、80モル%以上がより好ましく、100モル%が特に好ましい。
【0020】
mは、2~200が好ましく、5~150の整数がより好ましく、10~100の整数が特に好ましい。mが前記範囲の下限値以上であれば、表面層の撥水撥油性がさらに優れる。mが前記範囲の上限値以下であれば、表面層の耐摩擦性がさらに優れる。すなわち、化合物1の数平均分子量が大きすぎると、単位分子量あたりに存在する加水分解性シリル基の数が減少し、表面層の耐摩擦性が低下する。
【0021】
(Rf1O)において、2種以上のRf1Oが存在する場合、各Rf1Oの結合順序は限定されない。たとえば、CFOとCFCFOが存在する場合、CFOとCFCFOがランダム、交互、ブロックに配置されてもよい。
2種以上のRf1Oが存在するとは、炭素数の異なる2種以上のRf1Oが存在すること、水素原子数が異なる2種以上のRf1Oが存在すること、水素原子の位置が異なる2種以上のRf1Oが存在すること、および炭素数が同一であっても側鎖の有無や側鎖の種類(側鎖の数や側鎖の炭素数等)が異なる2種以上のRf1Oが存在することをいう。
2種以上のRf1Oの配置については、たとえば、{(CFO)m1(CFCFO)m2}で表される構造は、m1個の(CFO)とm2個の(CFCFO)とがランダムに配置されていることを表す。また、(CFCFO-CFCFCFCFO)m5で表される構造は、m5個の(CFCFO)とm5個の(CFCFCFCFO)とが交互に配置されていることを表す。
【0022】
(Rf1O)としては、(Rf1O)の少なくとも一部に下記の構造を有するものが好ましい。
{(CFO)m1(CFCFO)m2
(CFCFO)m3
(CFCFCFO)m4
(CFCFO-CFCFCFCFO)m5
(CFCFCFCFCFO)m6(CFO)m7
(CFCFCFCFCFO)m6(CFCFO)m7
(CFCFCFCFCFCFO)m6(CFO)m7
(CFCFCFCFCFCFO)m6(CFCFO)m7
(CFCFCFCFCFO-CFO)m8
(CFCFCFCFCFO-CFCFO)m8
(CFCFCFCFCFCFO-CFO)m8
(CFCFCFCFCFCFO-CFCFO)m8
(CFO-CFCFCFCFCFO)m8
(CFO-CFCFCFCFCFCFO)m8
(CFCFO-CFCFCFCFCFO)m8
(CFCFO-CFCFCFCFCFCFO)m8
ただし、m1は1以上の整数であり、m2は1以上の整数であり、m1+m2は2~500の整数であり、m3およびm4は、それぞれ、2~500の整数であり、m5は、1~250の整数であり、m6およびm7は、それぞれ1以上の整数であり、m6+m7は、2~500の整数であり、m8は、1~250の整数である。
【0023】
(Rf1O)としては、化合物1を製造しやすい点から、下記のものが好ましい。
{(CFO)m1(CFCFO)m2-3}CFCHO-CFCHFO-CFCF(CF)O
{(CFO)m1(CFCFO)m2-3}CFCFO-CFCFO-CFCF(CF)O
{(CFO)m1(CFCFO)m2-2}CFCHO-CFCHFCF
{(CFO)m1(CFCFO)m2-2}CFCFO-CFCFCF
{(CFO)m1(CFCFO)m2-2}CFCHO-CFCHFO
{(CFO)m1(CFCFO)m2-2}CFCFO-CFCF
(CFCFCFO)m4-3CFCFCHO-CFCHFO-CFCF(CF)O
(CFCFCFO)m4-3CFCFCFO-CFCFO-CFCF(CF)O
(CFCFCFO)m4-2CFCFCHO-CFCHFCF
(CFCFCFO)m4-2CFCFCFO-CFCFCF
(CFCFCFO)m4-2CFCFCHO-CFCHFO
(CFCFCFO)m4-2CFCFCFO-CFCF
(CFCFO-CFCFCFCFO)m5-2CFCFO-CFCFCFCHO-CFCHFO-CFCF(CF)O
(CFCFO-CFCFCFCFO)m5-2CFCFO-CFCFCFCFO-CFCFO-CFCF(CF)O
(CFCFO-CFCFCFCFO)m5-2CFCFO-CFCFCFCHO-CFCHFCF
(CFCFO-CFCFCFCFO)m5-2CFCFO-CFCFCFCFO-CFCFCF
(CFCFO-CFCFCFCFO)m5-2CFCFO-CFCFCFCHO-CFCHFO
(CFCFO-CFCFCFCFO)m5-2CFCFO-CFCFCFCFO-CFCF
ただし、m2-3、m2-2、m4-3、m4-2およびm5-2が1以上の整数となるように、m2、m4およびm5の数は選択される。
【0024】
f2の炭素数は、表面層の耐摩擦性および指紋汚れ除去性がさらに優れる点から、1~8が好ましく、1~6がより好ましく、1~4が特に好ましい。
f2としては、表面層の耐摩擦性および潤滑性がさらに優れる点から、ペルフルオロアルキレン基が好ましい。
f2の構造は、化合物1を製造する際の原料および合成方法に依存する。Rf2としては、原料を入手しやすい点から、-CFCF-が好ましい。
【0025】
における加水分解性シリル基の数とRにおける加水分解性シリル基の数との合計は、化合物1を製造しやすい点および表面層の耐摩擦性、耐光性および耐薬品性がさらに優れる点から、2~6が好ましく、2~4がより好ましく、2または3が特に好ましい。加水分解性シリル基の数が前記範囲の下限値以上であれば、化合物1が強固に基材の表面に結合し、表面層の耐摩擦性、耐光性および耐薬品性がさらに優れる。加水分解性シリル基の数が前記範囲の上限値以下であれば、原料を入手しやすくなり、化合物1を製造しやすい。また、化合物1の加水分解性シリル基側の末端が嵩高くならないため、基材の表面における化合物1の密度が比較的高くなる。その結果、表面層の耐摩擦性、耐光性および耐薬品性がさらに優れる。
【0026】
における1価の有機基(ただし、加水分解性シリル基を有するものを除く。)の炭素数は、1~8が好ましく、1~6がより好ましく、1~4が特に好ましい。
が少なくとも1個の加水分解性シリル基を有する1価の有機基でない場合、Rとしては、原料を入手しやすい点から、水素原子または炭素数1~4のアルキル基が好ましく、水素原子およびメチル基が特に好ましい。
【0027】
少なくとも1個の加水分解性シリル基を有する1価の有機基としては、本発明の効果が発揮されやすい点から、基g1が好ましい。
-Q[-SiR 3-n 式g1
ただし、Qは、(p+1)価の有機基(ただし、加水分解性シリル基を有するものを除く。)であり、Rは、水素原子または1価の炭化水素基であり、Lは、加水分解性基であり、nは、0~2の整数であり、pは、1以上の整数であり、pが2以上の場合、p個の[-SiR 3-n]は、同一であっても異なっていてもよい。
【0028】
pは、化合物1を製造しやすい点および表面層の耐摩擦性、耐光性および耐薬品性がさらに優れる点から、1~3が好ましい。
における有機基としては、表面層の耐光性および耐薬品性がさらに優れる点から、飽和炭化水素基もしくは芳香族炭化水素基、またはこれらを組み合わせた基が好ましい。Qの炭素数は、2~20が好ましく、2~12が特に好ましい。
【0029】
SiR 3-nは、加水分解性シリル基である。
化合物1は、末端に加水分解性シリル基を2個以上有する。末端に加水分解性シリル基を2個以上有する化合物1は基材と強固に化学結合するため、表面層は耐摩擦性に優れる。
また、化合物1は、一方の末端のみに加水分解性シリル基を有する。一方の末端のみに加水分解性シリル基を有する化合物1は凝集しにくいため、表面層は外観に優れる。
【0030】
Lは、加水分解性基である。加水分解性基は、加水分解反応によって水酸基となる基である。すなわち、化合物1の末端のSi-Lは、加水分解反応によってシラノール基(Si-OH)となる。シラノール基は、さらに分子間で反応してSi-O-Si結合を形成する。また、シラノール基は、基材の表面の水酸基(基材-OH)と脱水縮合反応して、化学結合(基材-O-Si)を形成する。
【0031】
Lとしては、アルコキシ基、ハロゲン原子、アシル基、アシルオキシ基、イソシアナート基等が挙げられる。アルコキシ基としては、炭素数1~4のアルコキシ基が好ましい。ハロゲン原子としては、塩素原子が特に好ましい。
Lとしては、化合物1の製造をしやすい点から、アルコキシ基またはハロゲン原子が好ましい。Lとしては、塗布時のアウトガスが少なく、化合物1の保存安定性に優れる点から、炭素数1~4のアルコキシ基が好ましく、化合物1の長期の保存安定性が必要な場合にはエトキシ基が特に好ましく、塗布後の反応時間を短時間とする場合にはメトキシ基が特に好ましい。
【0032】
は、水素原子または1価の炭化水素基である。1価の炭化水素基としては、アルキル基、シクロアルキル基、アルケニル基、アリール基等が挙げられる。
としては、1価の炭化水素基が好ましく、1価の飽和炭化水素基が特に好ましい。1価の飽和炭化水素基の炭素数は、1~6が好ましく、1~3がより好ましく、1~2が特に好ましい。Rの炭素数がこの範囲であると、化合物1を製造しやすい。
【0033】
nは、0または1が好ましく、0が特に好ましい。1個の加水分解性シリル基にLが複数存在することによって、基材との密着性がより強固になる。
【0034】
SiR 3-nとしては、Si(OCH、SiCH(OCH、Si(OCHCH、SiCl、Si(OCOCH、Si(NCO)が好ましい。工業的な製造における取扱いやすさの点から、Si(OCHが特に好ましい。
化合物1中の2個以上のSiR 3-nは、同一であっても異なっていてもよい。化合物1を製造しやすい点から、同一の基であることが好ましい。
【0035】
基g1としては、化合物1を製造しやすい点および表面層の耐摩擦性、耐光性および耐薬品性がさらに優れる点から、基g2または基g3が好ましい。
【0036】
【化6】
【0037】
ただし、RおよびRは、それぞれ独立に、水素原子、炭素数1~6の1価の有機基(ただし、加水分解性シリル基を有するものを除く。)または-Q-SiR 3-nであり、qは、0~10の整数であり、qが2以上の場合、q個の(CR)は、同一であっても異なっていてもよく、Rは、炭素数1~6の1価の有機基(ただし、加水分解性シリル基を有するものを除く。)または-Z-Q-SiR 3-nであり、rは、0~4の整数であり、rが2以上の場合、r個のRは、同一であっても異なっていてもよく、sは、1または2であり、sが2の場合、2個の(φ(R)(ただし、φはベンゼン環である。)は、同一であっても異なっていてもよく、Zは、単結合、-C(O)N(R)-または-C(O)O-であり、Rは、水素原子またはアルキル基であり、Qは、炭素数2~10のアルキレン基であり、Rは、水素原子または1価の炭化水素基であり、Lは、加水分解性基であり、nは、0~2の整数であり、複数の-Q-SiR 3-nは、同一であっても異なっていてもよい。
【0038】
およびRにおける1価の有機基としては、炭素数1~4の1価の有機基が特に好ましい。
-Q-SiR 3-nでない場合のRおよびRとしては、原料を入手しやすい点から、それぞれ独立に、水素原子および炭素数1~4のアルキル基が好ましく、水素原子およびメチル基が特に好ましい。
qは、化合物1を製造しやすい点および表面層の耐摩擦性、耐光性および耐薬品性がさらに優れる点から、0~2の整数が好ましい。
【0039】
における1価の有機基としては、炭素数1~4の1価の有機基が特に好ましい。
-Z-Q-SiR 3-nでない場合のRとしては、原料を入手しやすい点から、炭素数1~4のアルキル基が好ましく、メチル基が特に好ましい。
rは、化合物1を製造しやすい点および表面層の耐摩擦性、耐光性および耐薬品性がさらに優れる点から、0~2の整数が好ましく、0または1がより好ましく、0が特に好ましい。
sは、化合物1を製造しやすい点および表面層の耐摩擦性、耐光性および耐薬品性がさらに優れる点から、1が好ましい。
【0040】
Zは、表面層の耐摩擦性、耐光性および耐薬品性がさらに優れる点から、単結合が好ましい。
としては、化合物1を製造しやすい点から、水素原子が好ましい。Rのアルキル基の炭素数は、1~3が好ましく、1が特に好ましい。
の炭素数は、2~6が好ましく、2~4が特に好ましい。
【0041】
基g2としては、たとえば、下式の基が挙げられる。ただし、式中の*は、結合手を示す。
【0042】
【化7】
【0043】
基g3としては、たとえば、下式の基が挙げられる。ただし、式中の*は、結合手を示す。
【0044】
【化8】
【0045】
およびRとの組み合わせとしては、表面層の耐摩擦性、耐光性および耐薬品性がさらに優れる点から、下記の組み合わせが好ましい。
・RおよびRが、いずれも基g1(ただし、式g1中のpは1~3の整数である。)である。
・Rが、基g1(ただし、式g1中のpは2または3である。)であり、Rが、水素原子または1価の有機基(ただし、加水分解性シリル基を有するものを除く。)である。
【0046】
化合物1としては、たとえば、下式の化合物が挙げられる。下式の化合物は、工業的に製造しやすく、取扱いやすく、表面層の撥水撥油性、耐摩擦性、指紋汚れ除去性、潤滑性、耐薬品性、耐光性および耐薬品性がさらに優れる点から好ましい。
【0047】
【化9】
【0048】
ただし、Gはポリフルオロポリエーテル鎖、すなわちA-O-(Rf1O)-Rf2-である。Gの好ましい形態は、上述した好ましいA、(Rf1O)およびRf2を組み合わせたものとなる。
【0049】
(化合物1の製造方法)
化合物1は、化合物2とHSiR 3-nとをヒドロシリル化反応させる方法によって製造できる。
【0050】
【化10】
【0051】
ただし、R1aは、少なくとも1個のω-アルケニル基を有する1価の有機基(ただし、加水分解性シリル基を有するものを除く。)であり、R2aは、水素原子、1価の有機基(ただし、ω-アルケニル基を有するものおよび加水分解性シリル基を有するものを除く。)または少なくとも1個のω-アルケニル基を有する1価の有機基(ただし、加水分解性シリル基を有するものを除く。)であり、R1aにおけるω-アルケニル基の数とR2aにおけるω-アルケニル基の数との合計が2以上である。R1aおよびR2aは、ヒドロシリル化後に化合物1におけるRおよびRとなる。
A、(Rf1O)およびRf2は、化合物1で説明したA、(Rf1O)およびRf2と同じであり、好ましい形態も同様である。
【0052】
1aにおけるω-アルケニル基の数とR2aにおけるω-アルケニル基の数との合計は、化合物1を製造しやすい点および表面層の耐摩擦性、耐光性および耐薬品性がさらに優れる点から、2~6が好ましく、2~4がより好ましく、2または3が特に好ましい。ω-アルケニル基の数が前記範囲の下限値以上であれば、化合物2から得られる化合物1が強固に基材の表面に結合し、表面層の耐摩擦性、耐光性および耐薬品性がさらに優れる。ω-アルケニル基の数が前記範囲の上限値以下であれば、原料を入手しやすくなり、化合物2を製造しやすい。また、化合物2から得られる化合物1の加水分解性シリル基側の末端が嵩高くならないため、基材の表面における化合物1の密度が比較的高くなる。その結果、表面層の耐摩擦性、耐光性および耐薬品性がさらに優れる。
【0053】
少なくとも1個のω-アルケニル基を有する1価の有機基としては、好ましい化合物1が得られる点から、基g4が好ましい。
-Q1a[-CH=CH 式g4
ただし、Q1aは、単結合(ただし、pが1のときに限る。)または(p+1)価の有機基(ただし、加水分解性シリル基を有するものを除く。)である。基g4は、ヒドロシリル化後に基g1におけるQとなる。
pは、基g1で説明したpと同じであり、好ましい形態も同様である。
【0054】
基g4としては、好ましい化合物1が得られる点から、基g5または基g6が好ましい。
【0055】
【化11】
【0056】
ただし、R4aおよびR5aは、それぞれ独立に、水素原子、炭素数1~6の1価の有機基(ただし、加水分解性シリル基を有するものを除く。)または-Q2a-CH=CHであり、qが2以上の場合、q個の(CR4a5a)は、同一であっても異なっていてもよく、R6aは、炭素数1~6の1価の有機基(ただし、加水分解性シリル基を有するものを除く。)または-Z-Q2a-CH=CHであり、rが2以上の場合、r個のR6aは、同一であっても異なっていてもよく、sが2の場合、2個の(φ(R6a)(ただし、φはベンゼン環である。)は、同一であっても異なっていてもよく、Q2aは、単結合または炭素数1~8のアルキレン基であり、複数のQ2aは、同一であっても異なっていてもよい。
4a、R5aおよびR6aは、ヒドロシリル化後に基g2または基g3におけるR、RおよびRとなる。-Q2a-CH=CHは、ヒドロシリル化後に基g2または基g3におけるQとなる。
q、r、sおよびZは、基g2または基g3で説明したq、r、sおよびZと同じであり、好ましい形態も同様である。
【0057】
1aおよびR2aとの組み合わせとしては、好ましい化合物1が得られる点から、下記の組み合わせが好ましい。
・R1aおよびR2aが、いずれも基g4(ただし、式g4中のpは1~3の整数である。)である。
・R1aが、基g4(ただし、式g4中のpは2または3である。)であり、R2aが、水素原子または1価の有機基(ただし、ω-アルケニル基を有するものおよび加水分解性シリル基を有するものを除く。)である。
【0058】
(化合物2の製造方法)
方法i:化合物2は、たとえば、下記のようにして製造できる。
【0059】
アミンの存在下に、化合物3と-SOFの保護基となる化合物(たとえば、p-ニトロフェノール)とを反応させて化合物4を得る。
CF=CF(CFO-(Rf1O)-Rf2-SOF 式3
CF=CF(CFO-(Rf1O)-Rf2-SO-OPhNO 式4
ただし、Phは、フェニレン基であり、tは、0または1であり、uは、0~5の整数であり、uが2以上の場合、(Rf1O)は、炭素数の異なる2種以上のRf1Oからなるものであってもよい。
【0060】
化合物3としては、反応性および入手性の点から、下式の化合物が好ましい。
CF=CFO-CFCF(CF)O-CFCF-SOF、
CF=CFCFO-CFCF-SOF、
CF=CFO-CFCF-SOF。
化合物3は、D.J.Vaugham著,”Du Pont Inovation”,第43巻、第3号,1973年、p.10に記載の方法、米国特許第4358412号明細書の実施例に記載の方法等によって製造できる。
【0061】
塩基性化合物の存在下に、化合物4と化合物5を反応させて化合物6を得る。
A-O-(Rf1O)-Rf11CHOH 式5
A-O-(Rf1O)-Rf11CHO-CFCHF(CFO-(Rf1O)-Rf2-SO-OPhNO 式6
ただし、xは1以上の整数であり、x+2+uは、500以下の整数であり、Rf11は、炭素数1~5のペルフルオロアルキレン基であり、xが2以上の場合、(Rf1O)は、炭素数の異なる2種以上のRf1Oからなるものであってもよい。
【0062】
化合物5は、国際公開第2009/008380号、国際公開第2013/121984号、国際公開第2013/121986号、国際公開第2015/087902号、国際公開第2017/038830号、国際公開第2017/038832号等に記載の方法によって製造できる。
【0063】
化合物6と化合物7とを反応させて化合物21を得る。
HN(R1a)(R2a) 式7
A-O-(Rf1O)-Rf11CHO-CFCHF(CFO-(Rf1O)-Rf2-SON(R1a)(R2a) 式21
式21は、オキシフルオロアルキレン基を一つにまとめると、式2に書き換えることができる。
化合物7としては、たとえば、下式の化合物が挙げられる。
【0064】
【化12】
【0065】
方法ii:化合物2は、Rf1およびRf2がペルフルオロアルキレン基である場合、たとえば、下記のようにして製造できる。
【0066】
化合物6とKFとを反応させて化合物8を得る。
A-O-(Rf1O)-Rf11CHO-CFCHF(CFO-(Rf1O)-Rf2-SOF 式8
【0067】
化合物8をフッ素化処理して化合物9を得る。
A-O-(Rf1O)-Rf11CFO-CFCF(CFO-(Rf1O)-Rf2-SOF 式9
ただし、Rf1、Rf11およびRf2は、ペルフルオロアルキレン基である。
【0068】
アミンの存在下に、化合物9と化合物7とを反応させて化合物22を得る。
A-O-(Rf1O)-Rf11CFO-CFCF(CFO-(Rf1O)-Rf2-SON(R1a)(R2a) 式22
式22は、オキシペルフルオロアルキレン基を一つにまとめると、式2に書き換えることができる。
【0069】
方法iii:化合物2は、下記の合成ルートでも製造できる。
Journal of Fluorine Chemistry,第125巻,2004年,p.1231に記載の方法にしたがい、化合物3から化合物11を得る。
CFBrCFBr(CFO-(Rf1O)-Rf2-SOF 式11
【0070】
化合物11と化合物7とを反応させて化合物12を得る。
CFBrCFBr(CFO-(Rf1O)-Rf2-SON(R1a)(R2a) 式12
【0071】
化合物12から脱臭素によって化合物13を得る。
CF=CF(CFO-(Rf1O)-Rf2-SON(R1a)(R2a) 式13
塩基性化合物の存在下に、化合物13と化合物5を反応させて化合物21を得る。
【0072】
以上説明した化合物1にあっては、下記の理由から、初期の撥水撥油性、指紋汚れ除去性、耐摩擦性、耐光性および耐薬品性に優れる表面層を形成できる。
化合物1は、Aが末端にCF-を有するため、化合物1の一方の末端がCF-となり、他方の末端が加水分解性シリル基となる。一方の末端がCF-であり、他方の末端が加水分解性シリル基である化合物1によれば、低表面エネルギーの表面層を形成できるため、表面層は潤滑性および耐摩擦性に優れる。一方、両末端に加水分解性シリル基を有する含フッ素エーテル化合物では、表面層の潤滑性および耐摩擦性が不充分である。
化合物1は、(Rf1O)を有するため、フッ素原子の含有量が多い。そのため、化合物1は、初期撥水撥油性、耐摩擦性、指紋汚れ除去性に優れる表面層を形成できる。
化合物1は、ポリフルオロポリエーテル鎖の一方の末端にSONを有する連結基を介して複数の加水分解性シリル基が導入されているため、ポリフルオロポリエーテル鎖と加水分解性シリル基との間の結合が摩擦、光、薬品等によって切断されにくい。そのため、化合物1は、耐摩擦性、耐光性および耐薬品性に優れる表面層を形成できる。
【0073】
[含フッ素エーテル組成物]
本発明の含フッ素エーテル組成物(以下、「本組成物」とも記す。)は、化合物1の1種以上と、他の含フッ素エーテル化合物とを含む。
【0074】
他の含フッ素エーテル化合物としては、化合物1の製造工程で副生する含フッ素エーテル化合物(以下、「副生含フッ素エーテル化合物」とも記す。)、化合物1と同様の用途に用いられる公知の含フッ素エーテル化合物等が挙げられる。
他の含フッ素エーテル化合物としては、化合物1の特性を低下させるおそれが少ない化合物が好ましい。
【0075】
副生含フッ素エーテル化合物としては、未反応の化合物2、化合物5~8、および、化合物1の製造におけるヒドロシリル化の際に、アリル基の一部がインナーオレフィンに異性化した含フッ素エーテル化合物等が挙げられる。
公知の含フッ素エーテル化合物としては、市販の含フッ素エーテル化合物等が挙げられる。本組成物が公知の含フッ素エーテル化合物を含む場合、化合物1の特性を補う等の新たな作用効果が発揮される場合がある。
【0076】
化合物1の含有量は、本組成物のうち、60質量%以上100質量%未満が好ましく、70質量%以上100質量%未満がより好ましく、80質量%以上100質量%未満が特に好ましい。
他の含フッ素エーテル化合物の含有量は、本組成物のうち、0質量%超40質量%以下が好ましく、0質量%超30質量%以下がより好ましく、0質量%超20質量%以下が特に好ましい。
化合物1の含有量および他の含フッ素エーテル化合物の含有量の合計は、本組成物のうち、80~100質量%が好ましく、85~100質量%が特に好ましい。
化合物1の含有量および他の含フッ素エーテル化合物の含有量が前記範囲内であれば、表面層の初期の撥水撥油性、耐摩擦性、指紋汚れ除去性、耐光性および耐薬品性がさらに優れる。
【0077】
本組成物は、本発明の効果を損なわない範囲において、化合物1および他の含フッ素エーテル化合物以外の成分を含んでいてもよい。
他の成分としては、化合物1や公知の含フッ素エーテル化合物の製造工程で生成した副生物(ただし、副生含フッ素エーテル化合物を除く。)、未反応の原料等の製造上不可避の化合物が挙げられる。
また、加水分解性シリル基の加水分解と縮合反応を促進する酸触媒や塩基性触媒等の添加剤が挙げられる。酸触媒としては、塩酸、硝酸、酢酸、硫酸、燐酸、スルホン酸、メタンスルホン酸、p-トルエンスルホン酸等が挙げられる。塩基性触媒としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、アンモニア等が挙げられる。
他の成分の含有量は、本組成物のうち、0~10質量%が好ましく、0~1質量%が特に好ましい。
【0078】
[コーティング液]
本発明のコーティング液(以下、「本コーティング液」とも記す。)は、化合物1または本組成物と液状媒体とを含む。本コーティング液は、溶液であっても分散液であってもよい。
【0079】
液状媒体としては、有機溶媒が好ましい。有機溶媒は、含フッ素有機溶媒でも非フッ素有機溶媒でもよく、両溶媒を含んでもよい。
含フッ素有機溶媒としては、フッ素化アルカン、フッ素化芳香族化合物、フルオロアルキルエーテル、フッ素化アルキルアミン、フルオロアルコール等が挙げられる。
フッ素化アルカンとしては、炭素数4~8の化合物が好ましい。市販品としては、C13H(旭硝子社製、アサヒクリン(登録商標)AC-2000)、C13(旭硝子社製、アサヒクリン(登録商標)AC-6000)、CCHFCHFCF(ケマーズ社製、バートレル(登録商標)XF)等が挙げられる。
フッ素化芳香族化合物としては、ヘキサフルオロベンゼン、トリフルオロメチルベンゼン、ペルフルオロトルエン、ビス(トリフルオロメチル)ベンゼン等が挙げられる。
フルオロアルキルエーテルとしては、炭素数4~12の化合物が好ましい。市販品としては、CFCHOCFCFH(旭硝子社製、アサヒクリン(登録商標)AE-3000)、COCH(3M社製、ノベック(登録商標)7100)、COC(3M社製、ノベック(登録商標)7200)、CCF(OCH)C(3M社製、ノベック(登録商標)7300)等が挙げられる。
フッ素化アルキルアミンとしては、ペルフルオロトリプロピルアミン、ペルフルオロトリブチルアミン等が挙げられる。
フルオロアルコールとしては、2,2,3,3-テトラフルオロプロパノール、2,2,2-トリフルオロエタノール、ヘキサフルオロイソプロパノール等が挙げられる。
非フッ素有機溶媒としては、水素原子および炭素原子のみからなる化合物と、水素原子、炭素原子および酸素原子のみからなる化合物が好ましく、炭化水素、アルコール、ケトン、エーテル、エステルが挙げられる。
液状媒体は、2種以上を混合した混合媒体であってもよい。
【0080】
化合物1または本組成物の含有量は、本コーティング液のうち、0.001~10質量%が好ましく、0.01~1質量%が特に好ましい。
液状媒体の含有量は、本コーティング液のうち、90~99.999質量%が好ましく、99~99.99質量%が特に好ましい。
【0081】
[物品]
本発明の物品(以下、「本物品」とも記す。)は、化合物1または本組成物から形成された表面層を基材の表面に有する。
表面層は、化合物1を、化合物1の加水分解性シリル基の一部または全部が加水分解反応し、かつ脱水縮合反応した状態で含む。
【0082】
表面層の厚さは、1~100nmが好ましく、1~50nmが特に好ましい。表面層の厚さが前記範囲の下限値以上であれば、表面処理による効果が充分に得られやすい。表面層の厚さが前記範囲の上限値以下であれば、利用効率が高い。表面層の厚さは、薄膜解析用X線回折計(RIGAKU社製、ATX-G)を用いて、X線反射率法によって反射X線の干渉パターンを得て、干渉パターンの振動周期から算出できる。
【0083】
基材としては、撥水撥油性の付与が求められている基材が挙げられる。基材の材料としては、金属、樹脂、ガラス、サファイア、セラミック、石、これらの複合材料が挙げられる。ガラスは化学強化されていてもよい。基材の表面にはSiO膜等の下地膜が形成されていてもよい。
基材としては、タッチパネル用基材、ディスプレイ用基材、メガネレンズが好適であり、タッチパネル用基材が特に好適である。タッチパネル用基材の材料としては、ガラスまたは透明樹脂が好ましい。
【0084】
[物品の製造方法]
本物品は、たとえば、下記の方法で製造できる。
・化合物1または本組成物を用いたドライコーティング法によって基材の表面を処理して、化合物1または本組成物から形成された表面層を基材の表面に形成する方法。
・ウェットコーティング法によって本コーティング液を基材の表面に塗布し、乾燥させて、化合物1または本組成物から形成された表面層を基材の表面に形成する方法。
【0085】
ドライコーティング法としては、真空蒸着、CVD、スパッタリング等の手法が挙げられる。化合物1の分解を抑える点、および装置の簡便さの点から、真空蒸着法が好ましい。真空蒸着時には、鉄、鋼等の金属多孔体に化合物1または本組成物を含浸させたペレット状物質を用いてもよい。本コーティング液を鉄、鋼等の金属多孔体に含浸させ、液状媒体を乾燥させて、化合物1または本組成物が含浸したペレット状物質を用いてもよい。
【0086】
ウェットコーティング法としては、スピンコート法、ワイプコート法、スプレーコート法、スキージーコート法、ディップコート法、ダイコート法、インクジェット法、フローコート法、ロールコート法、キャスト法、ラングミュア・ブロジェット法、グラビアコート法等が挙げられる。
【実施例
【0087】
以下に実施例を用いて本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。以下において「%」は特に断りのない限り「質量%」である。なお、例1~5、8~11は実施例であり、例6、7、12、13は比較例である。
【0088】
[例1]
(例1-1)
1,000mLのナスフラスコに、p-ニトロフェノールの16.4g、トリエチルアミンの16.2g、ジメチルアミノピリジンの0.066g、ジクロロペンタフルオロプロパン(旭硝子社製、AK-225)の300mLを入れ、氷冷下撹拌した。その後、国際公開第2011/013577号の実施例に記載の化合物3-1の50gをゆっくり添加し、25℃で5時間撹拌した。トリエチルアミンの16.2gをさらに添加し、15時間撹拌した。溶媒を留去し、シリカゲルカラムクロマトグラフィで精製した。化合物4-1の39g(収率65%)を得た。
CF=CFO-CFCF(CF)O-CFCF-SOF 式3-1
CF=CFO-CFCF(CF)O-CFCF-SO-OPhNO 式4-1
【0089】
化合物4-1のNMRスペクトル;
H-NMR(300.4MHz、溶媒:CDCl、基準:テトラメチルシラン(TMS)) δ(ppm):7.5(2H)、8.4(2H)。
19F-NMR(282.7MHz、溶媒:CDCl、基準:CFCl) δ(ppm):-78(2F)、-79(3F)、-84(2F)、-112(3F)、-121(1F)、-134(1F)、-144(1F)。
【0090】
(例1-2)
国際公開第2017/038832号の実施例の例3に記載の方法にしたがって化合物5-1を得た。
CF-O-(CFCFO-CFCFCFCFO)x3CFCFO-CFCFCFCHOH 式5-1
単位数x3の平均値:12、化合物5-1の数平均分子量:3,800。
【0091】
(例1-3)
500mLのナスフラスコに、例1-2で得た化合物5-1の100g、例1-1で得た化合物4-1の15.0g、2-メチル-2-プロパノールの11.7g、48質量%の水酸化カリウム水溶液の3.4g、水の3.4gを入れ、70℃で20時間撹拌した。25℃に冷却し、メタノールを入れ、充分に撹拌した後、AC-6000を入れ、充分に撹拌した。AC-6000層を回収し、溶媒を留去した後、シリカゲルカラムクロマトグラフィで精製した。化合物6-1の8.44g(収率7.4%)を得た。
CF-O-(CFCFO-CFCFCFCFO)x3CFCFO-CFCFCFCHO-CFCHFO-CFCF(CF)O-CFCF-SO-OPhNO 式6-1
【0092】
化合物6-1のNMRスペクトル;
H-NMR(300.4MHz、溶媒:CDCl、基準:TMS) δ(ppm):7.5(2H)、8.4(2H)、6.0(1H)、4.5(2H)。
19F-NMR(282.7MHz、溶媒:CDCl、基準:CFCl) δ(ppm):-55(3F)、-78(2F)、-79(3F)、-83(50F)、-85(1F)、-88(50F)、-90(4F)、-112(2F)、-120(2F)、-125(48F)、-126(2F)、-144(2F)。
単位数x3の平均値:12。
【0093】
(例1-4)
100mLのナスフラスコに、例1-3で得た化合物6-1の5.0g、1,3-ジ(トリフルオロメチル)ベンゼンの6mL、化合物7-1の0.37gを入れ、加熱還流で一晩撹拌した。25℃に冷却し、メタノールを入れ、充分に撹拌した後、AC-6000を入れ、充分に撹拌した。AC-6000層を回収し、溶媒を留去した後、シリカゲルカラムクロマトグラフィで精製した。化合物2-1の4.6g(収率92%)を得た。
N-CH-C[-CH-CH=CH 式7-1
CF-O-(CFCFO-CFCFCFCFO)x3CFCFO-CFCFCFCHO-CFCHFO-CFCF(CF)O-CFCF-SONH-CH-C[-CH-CH=CH 式2-1
【0094】
化合物2-1のNMRスペクトル;
H-NMR(300.4MHz、溶媒:CDCl、基準:TMS) δ(ppm):6.0(4H)、5.0(6H)、4.5(2H)、2.6(2H)、1.9(6H)。
19F-NMR(282.7MHz、溶媒:CDCl、基準:CFCl) δ(ppm):-55(3F)、-78(2F)、-79(3F)、-83(50F)、-85(1F)、-88(50F)、-90(4F)、-116(2F)、-120(2F)、-125(48F)、-126(2F)、-144(2F)。
単位数x3の平均値:12。
【0095】
(例1-5)
50mLのナスフラスコに、例1-4で得た化合物2-1の1.0g、トリメトキシシランの0.11g、アニリンの0.0011g、AC-6000の1.0g、白金/1,3-ジビニル-1,1,3,3-テトラメチルジシロキサン錯体の0.0033gを入れ、25℃で一晩撹拌した。その後濃縮し、化合物1-1の1.0g(収率100%)を得た。
CF-O-(CFCFO-CFCFCFCFO)x3CFCFO-CFCFCFCHO-CFCHFO-CFCF(CF)O-CFCF-SONH-CH-C[-CHCHCH-Si(OCH 式1-1
【0096】
化合物1-1のNMRスペクトル;
H-NMR(300.4MHz、溶媒:CDCl、基準:TMS) δ(ppm):6.0(1H)、4.5(2H)、4.0(27H)、2.6(2H)、1.3(12H)、0.7(6H)。
19F-NMR(282.7MHz、溶媒:CDCl、基準:CFCl) δ(ppm):-55(3F)、-78(2F)、-79(3F)、-83(50F)、-85(1F)、-88(50F)、-90(4F)、-116(2F)、-120(2F)、-125(48F)、-126(2F)、-144(2F)。
単位数x3の平均値:12、化合物1-1の数平均分子量:4,700。
【0097】
[例2]
(例2-1)
Journal of Fluorine Chemistry,第125巻,2004年,p.1231に記載の方法にしたがい、化合物11-1を得た。
CFBrCFBrO-CFCF(CF)O-CFCF-SOF 式11-1
【0098】
(例2-2)
100mLのナスフラスコに、例2-1で得た化合物11-1の10g、ピリジンの13g、例1-4でも使用した化合物7-1の3gを入れ、100℃で20時間撹拌した。その後水を添加し、10分間撹拌した後に塩化メチレンで2層分離し、有機層を回収し、溶媒を留去した。得られた粗液をシリカゲルカラムクロマトグラフィで精製し、化合物12-1の4.2g(収率34%)を得た。
CFBrCFBrO-CFCF(CF)O-CFCF-SONH-CH-C[CHCH=CH 式12-1
【0099】
化合物12-1のNMRスペクトル;
H-NMR(300.4MHz、溶媒:CDCl、基準:TMS) δ(ppm):6.0(3H)、5.1(6H)、3.2(2H)、2.1(6H)。
19F-NMR(282.7MHz、溶媒:CDCl、基準:CFCl) δ(ppm):-70(1F)、-78(5F)、-81(1F)、-116(2F)、-145(1F)。
【0100】
(例2-3)
100mLのナスフラスコに、亜鉛粉末の0.70g、例2-2で得た化合物12-1の4.28g、アセトニトリルの16gを入れ、60℃で2時間撹拌した。その後固体をろ過し、溶媒を留去し、化合物13-1の3.3g(収率99%)を得た。
CF=CFO-CFCF(CF)O-CFCF-SONH-CH-C[CHCH=CH 式13-1
【0101】
化合物13-1のNMRスペクトル;
H-NMR(300.4MHz、溶媒:CDCl、基準:TMS) δ(ppm):6.0(3H)、5.1(6H)、3.2(2H)、2.1(6H)。
19F-NMR(282.7MHz、溶媒:CDCl、基準:CFCl) δ(ppm):-78(2F)、-79(3F)、-84(2F)、-113(1F)、-116(2F)、-122(1F)、-135(1F)、-145(1F)
【0102】
(例2-4)
50mLのナスフラスコに、例1-2で得た化合物5-1の2.46g、例2-3で得た化合物13-1の0.37g、2-メチル-2-プロパノールの0.23g、48質量%の水酸化カリウム水溶液の0.08g、水の0.08gを入れ、70℃で48時間撹拌した。25℃に冷却し、メタノールを入れ、充分に撹拌した後、AC-6000を入れ、充分に撹拌した。AC-6000層を回収し、溶媒を留去した後、シリカゲルカラムクロマトグラフィで精製した。化合物2-1の2.55g(収率91%)を得た。
以下、例2-4で得た化合物2-1を用いても、例1-5と同様にして化合物1-1を得ることができる。
【0103】
[例3]
(例3-1)
50mLのナスフラスコに、例1-3と同様にして得た化合物6-1の15g、KFの0.40g、N,N-ジメチルホルムアミドの10mLを入れ、80℃で8時間撹拌した。固体をろ別し、シリカゲルカラムクロマトグラフィで精製し、化合物8-1の12.1g(収率85%)を得た。
CF-O-(CFCFO-CFCFCFCFO)x3CFCFO-CFCFCFCHO-CFCHFO-CFCF(CF)O-CFCF-SOF 式8-1
【0104】
化合物8-1のNMRスペクトル;
H-NMR(300.4MHz、溶媒:CDCl、基準:TMS) δ(ppm):6.0(1H)、4.5(2H)。
19F-NMR(282.7MHz、溶媒:CDCl、基準:CFCl) δ(ppm):+45(1F)、-55(3F)、-78(2F)、-79(3F)、-83(50F)、-85(1F)、-88(50F)、-90(4F)、-112(2F)、-120(2F)、-125(48F)、-126(2F)、-144(2F)。
単位数x3の平均値:12。
【0105】
(例3-2)
500mLのニッケル製反応器に、ClCFCFClCFOCFCFCl(CFE-419)の250mLを入れ、窒素をバブリングした。酸素濃度が充分に下がった後、20%フッ素ガス(窒素で希釈)を1時間バブリングした。排ガスはアルカリで中和した。例3-1で得た化合物8-1のCFE-419溶液(20質量%、化合物8-1の質量12g)を2時間かけて添加した。フッ素導入速度(mol/時間)と化合物8-1中のH原子導入速度(mol/時間)との比は2:1になるように制御した。化合物8-1の添加が終わった後、ベンゼン0.5gのCFE-419溶液(0.1質量%)を断続的に投入した。ベンゼンの投入が終わった後、フッ素ガスを1時間バブリングし、最後に窒素ガスで反応容器内を充分に置換した。溶媒を留去し、化合物9-1の10.5g得た。
CF-O-(CFCFO-CFCFCFCFO)x3CFCFO-CFCFCFCFO-CFCFO-CFCF(CF)O-CFCF-SOF 式9-1
【0106】
化合物9-1のNMRスペクトル;
19F-NMR(282.7MHz、溶媒:CDCl、基準:CFCl) δ(ppm):+45(1F)、-55(3F)、-78(2F)、-79(3F)、-83(50F)、-85(1F)、-88(50F)、-90(4F)、-112(2F)、-125(48F)、-126(2F)、-144(1F)。
単位数x3の平均値:12。
【0107】
(例3-3)
50mLのナスフラスコに、例3-2で得た化合物9-1の6.0g、1,3-ジ(トリフルオロメチル)ベンゼンの7.0mL、トリエチルアミンの0.45g、化合物7-1の0.45gを入れ、加熱還流で一晩撹拌した。メタノールを入れ、充分に撹拌した後、AC-6000を入れ、充分に撹拌した。AC-6000層を回収し、溶媒を留去した後、シリカゲルカラムクロマトグラフィで精製した。化合物2-2の5.4g(収率90%)を得た。
CF-O-(CFCFO-CFCFCFCFO)x3CFCFO-CFCFCFCFO-CFCFO-CFCF(CF)O-CFCF-SONH-CH-C[-CH-CH=CH 式2-2
【0108】
化合物2-2のNMRスペクトル;
H-NMR(300.4MHz、溶媒:CDCl、基準:TMS) δ(ppm):6.0(3H)、5.0(6H)、2.6(2H)、1.9(6H)。
19F-NMR(282.7MHz、溶媒:CDCl、基準:CFCl) δ(ppm):-55(3F)、-78(2F)、-79(3F)、-83(50F)、-85(1F)、-88(50F)、-90(4F)、-116(2F)、-125(48F)、-126(2F)、-144(1F)。
単位数x3の平均値:12。
【0109】
(例3-4)
50mLのナスフラスコに、例3-3で得た化合物2-2の1g、トリメトキシシランの0.11g、アニリンの0.0011g、AC-6000の1.0g、白金/1,3-ジビニル-1,1,3,3-テトラメチルジシロキサン錯体の0.0033gを入れ、25℃で一晩撹拌した。その後濃縮し、化合物1-2の1.0g(収率100%)得た。
CF-O-(CFCFO-CFCFCFCFO)x3CFCFO-CFCFCFCFO-CFCFO-CFCF(CF)O-CFCF-SONH-CH-C[-CHCHCH-Si(OCH 式1-2
【0110】
化合物1-2のNMRスペクトル;
H-NMR(300.4MHz、溶媒:CDCl、基準:TMS) δ(ppm):4.0(27H)2.6(2H)、1.3(12H)、0.7(6H)。
19F-NMR(282.7MHz、溶媒:CDCl、基準:CFCl) δ(ppm):-55(3F)、-78(2F)、-79(3F)、-83(50F)、-85(1F)、-88(50F)、-90(4F)、-116(2F)、-125(48F)、-126(2F)、-144(1F)。
単位数x3の平均値:12、化合物1-2の数平均分子量:4,700。
【0111】
[例4]
(例4-1)
100mLのナスフラスコに、例1-3と同様にして得た化合物6-1の4.0g、1,3-ジ(トリフルオロメチル)ベンゼンの5.0mL、化合物7-2(東京化成工業社製、D0069)の0.18gを入れ、加熱還流で一晩撹拌した。25℃に冷却し、メタノールを入れ、充分に撹拌した後、AC-6000を入れ、充分に撹拌した。AC-6000層を回収し、溶媒を留去した後、シリカゲルカラムクロマトグラフィで精製した。化合物2-3の3.5g(収率90%)を得た。
HN[-CH-CH=CH 式7-2
CF-O-(CFCFO-CFCFCFCFO)x3CFCFO-CFCFCFCHO-CFCHFO-CFCF(CF)O-CFCF-SON[-CH-CH=CH 式2-3
【0112】
化合物2-3のNMRスペクトル;
H-NMR(300.4MHz、溶媒:CDCl、基準:TMS) δ(ppm):6.0(3H)、5.2(4H)、4.5(2H)、3.3(4H)。
19F-NMR(282.7MHz、溶媒:CDCl、基準:CFCl) δ(ppm):-55(3F)、-78(2F)、-79(3F)、-83(50F)、-85(1F)、-88(50F)、-90(4F)、-116(2F)、-120(2F)、-125(48F)、-126(2F)、-144(2F)。
単位数x3の平均値:12。
【0113】
(例4-2)
50mLのナスフラスコに、例4-1で得た化合物2-3の1.0g、トリメトキシシランの0.083g、アニリンの0.001g、AC-6000の1.0g、白金/1,3-ジビニル-1,1,3,3-テトラメチルジシロキサン錯体の0.0033gを入れ、25℃で一晩撹拌した。その後濃縮し、化合物1-3の1.0g(収率100%)を得た。
CF-O-(CFCFO-CFCFCFCFO)x3CFCFO-CFCFCFCHO-CFCHFO-CFCF(CF)O-CFCF-SON[-CHCHCH-Si(OCH 式1-3
【0114】
化合物1-3のNMRスペクトル;
H-NMR(300.4MHz、溶媒:CDCl、基準:TMS) δ(ppm):6.0(1H)、4.5(2H)、4.0(18H)、3.3(4H)、1.5(4H)、0.7(4H)。
19F-NMR(282.7MHz、溶媒:CDCl、基準:CFCl) δ(ppm):-55(3F)、-78(2F)、-79(3F)、-83(50F)、-85(1F)、-88(50F)、-90(4F)、-116(2F)、-120(2F)、-125(48F)、-126(2F)、-144(2F)。
単位数x3の平均値:12、化合物1-3の数平均分子量:4,700。
【0115】
[例5]
(例5-1)
50mLのナスフラスコに、例3-2と同様にして得た化合物9-1の3.0g、1,3-ジ(トリフルオロメチル)ベンゼンの3.5mL、トリエチルアミンの0.21g、化合物7-2の0.14gを入れ、加熱還流で一晩撹拌した。メタノールを入れ、充分に撹拌した後、AC-6000を入れ、充分に撹拌した。AC-6000層を回収し、溶媒を留去した後、シリカゲルカラムクロマトグラフィで精製した。化合物2-4の2.6g(収率90%)を得た。
CF-O-(CFCFO-CFCFCFCFO)x3CFCFO-CFCFCFCFO-CFCFO-CFCF(CF)O-CFCF-SON[-CH-CH=CH 式2-4
【0116】
化合物2-4のNMRスペクトル;
H-NMR(300.4MHz、溶媒:CDCl、基準:TMS) δ(ppm):6.0(2H)、5.0(4H)、1.9(4H)。
19F-NMR(282.7MHz、溶媒:CDCl、基準:CFCl) δ(ppm):-55(3F)、-78(2F)、-79(3F)、-83(50F)、-85(1F)、-88(50F)、-90(4F)、-116(2F)、-125(48F)、-126(2F)、-144(1F)。
単位数x3の平均値:12。
【0117】
(例5-2)
50mLのナスフラスコに、例5-1で得た化合物2-4の1.0g、トリメトキシシランの0.084g、アニリンの0.0010g、AC-6000の1.0g、白金/1,3-ジビニル-1,1,3,3-テトラメチルジシロキサン錯体の0.0033gを入れ、25℃で一晩撹拌した。その後濃縮し、化合物1-4の1.0g(収率100%)を得た。
CF-O-(CFCFO-CFCFCFCFO)x3CFCFO-CFCFCFCFO-CFCFO-CFCF(CF)O-CFCF-SON[-CHCHCH-Si(OCH 式1-4
【0118】
化合物1-4のNMRスペクトル;
H-NMR(300.4MHz、溶媒:CDCl、基準:TMS) δ(ppm):4.0(18H)、3.3(4H)、1.5(4H)、0.7(4H)。
19F-NMR(282.7MHz、溶媒:CDCl、基準:CFCl) δ(ppm):-55(3F)、-78(2F)、-79(3F)、-83(50F)、-85(1F)、-88(50F)、-90(4F)、-116(2F)、-125(48F)、-126(2F)、-144(1F)。
単位数x3の平均値:12、化合物1-4の数平均分子量:4,700。
【0119】
[例6]
国際公開第2017/038832号の実施例の例3に記載の方法にしたがって化合物10-1を得た。
CF-O-(CFCFO-CFCFCFCFO)x3CFCFO-CFCFCF-CH-N[-CHCHCH-Si(OCH 式10-1
【0120】
[例7]
国際公開第2013/121984号の実施例6に記載の方法にしたがって化合物10-2を得た。
CF-O-(CFCFO-CFCFCFCFO)x3CFCFO-CFCFCF-C(O)NH-CHCHCH-Si(OCH 式10-2
【0121】
[例8~13:物品の製造および評価]
例1および3~7で得た各化合物を用いて基材を表面処理し、例8~13の物品を得た。表面処理方法として、各例について下記のドライコーティング法およびウェットコーティング法をそれぞれ用いた。基材としては化学強化ガラスを用いた。得られた物品について、下記の方法で評価した。結果を表1に示す。
【0122】
(ドライコーティング法)
ドライコーティングは、真空蒸着装置(ULVAC社製、VTR-350M)を用いて行った(真空蒸着法)。例1および3~7で得た各化合物の0.5gを真空蒸着装置のモリブデン製ボートに充填し、真空蒸着装置内を1×10-3Pa以下に排気した。化合物を配置したボートを昇温速度10℃/分以下の速度で加熱し、水晶発振式膜厚計による蒸着速度が1nm/秒を超えた時点でシャッターを開けて基材の表面への製膜を開始させた。膜厚が約50nmとなった時点でシャッターを閉じて基材の表面への製膜を終了させた。化合物が堆積された基材を、200℃で30分間加熱処理し、AK-225にて洗浄して基材の表面に表面層を有する物品を得た。
【0123】
(ウェットコーティング法)
例1および3~7で得た各化合物と、媒体としてのCOC(3M社製、ノベック(登録商標)7200)とを混合して、固形分濃度0.05%のコーティング液を調製した。コーティング液に基材をディッピングし、30分間放置後、基材を引き上げた(ディップコート法)。塗膜を200℃で30分間乾燥させ、AK-225にて洗浄して基材の表面に表面層を有する物品を得た。
【0124】
(評価方法)
<接触角の測定方法>
表面層の表面に置いた、約2μLの蒸留水またはn-ヘキサデカンの接触角を、接触角測定装置(協和界面科学社製、DM-500)を用いて測定した。表面層の表面における異なる5箇所で測定し、その平均値を算出した。接触角の算出には2θ法を用いた。
【0125】
<初期接触角>
表面層について、初期水接触角および初期n-ヘキサデカン接触角を前記測定方法で測定した。評価基準は下記のとおりである。
初期水接触角:
◎(優) :115度以上。
○(良) :110度以上115度未満。
△(可) :100度以上110度未満。
×(不可):100度未満。
初期n-ヘキサデカン接触角:
◎(優) :66度以上。
○(良) :65度以上66度未満。
△(可) :63度以上65度未満。
×(不可):63度未満。
【0126】
<耐光性>
表面層に対し、卓上型キセノンアークランプ式促進耐光性試験機(東洋精機社製、SUNTEST XLS+)を用いて、ブラックパネル温度:63℃にて、光線(650W/m、300~700nm)を1,000時間照射した後、水接触角を測定した。促進耐光試験後の水接触角の低下が小さいほど光による性能の低下が小さく、耐光性に優れる。評価基準は下記のとおりである。
◎(優) :促進耐光試験後の水接触角の変化が2度以下。
○(良) :促進耐光試験後の水接触角の変化が2度超5度以下。
△(可) :促進耐光試験後の水接触角の変化が5度超10度以下。
×(不可):促進耐光試験後の水接触角の変化が10度超。
【0127】
<耐摩擦性(スチールウール)>
表面層について、JIS L0849:2013(ISO 105-X12:2001)に準拠して往復式トラバース試験機(ケイエヌテー社製)を用い、スチールウールボンスター(♯0000)を圧力:98.07kPa、速度:320cm/分で1万回往復させた後、水接触角を測定した。摩擦後の撥水性(水接触角)の低下が小さいほど摩擦による性能の低下が小さく、耐摩擦性に優れる。評価基準は下記のとおりである。
◎(優) :1万回往復後の水接触角の変化が2度以下。
○(良) :1万回往復後の水接触角の変化が2度超5度以下。
△(可) :1万回往復後の水接触角の変化が5度超10度以下。
×(不可):1万回往復後の水接触角の変化が10度超。
【0128】
<耐薬品性(耐アルカリ性)>
物品を、1規定の水酸化ナトリウム水溶液(pH=14)に5時間浸漬した後、水洗、風乾し、水接触角を測定した。試験後における水接触角の低下が小さいほどアルカリによる性能の低下が小さく、耐アルカリ性に優れる。評価基準は下記のとおりである。
◎(優) :耐アルカリ性試験後の水接触角の変化が2度以下。
〇(良) :耐アルカリ性試験後の水接触角の変化が2度超5度以下。
△(可) :耐アルカリ性試験後の水接触角の変化が5度超10度以下。
×(不可):耐アルカリ性試験後の水接触角の変化が10度超。
【0129】
<耐薬品性(耐塩水性)>
JIS H8502に準拠して塩水噴霧試験を行った。すなわち、物品を、塩水噴霧試験機(スガ試験機社製)内で300時間塩水雰囲気に暴露した後、水接触角を測定した。試験後における水接触角の低下が小さいほど塩水による性能の低下が小さく、耐塩水性に優れる。評価基準は下記のとおりである。
◎(優) :塩水噴霧試験後の水接触角の変化が2度以下。
○(良) :塩水噴霧試験後の水接触角の変化が2度超5度以下。
△(可) :塩水噴霧試験後の水接触角の変化が5度超10度以下。
×(不可):塩水噴霧試験後の水接触角の変化が10度超。
【0130】
<指紋汚れ除去性>
人工指紋液(オレイン酸とスクアレンとからなる液)を、シリコンゴム栓の平坦面に付着させた後、余分な油分を不織布(旭化成社製、ベンコット(登録商標)M-3)にて拭き取って、指紋のスタンプを準備した。指紋スタンプを表面層上に乗せ、荷重:9.8Nにて10秒間押しつけた。指紋が付着した箇所のヘーズをヘーズメータにて測定し、初期値とした。指紋が付着した箇所について、ティッシュペーパーを取り付けた往復式トラバース試験機(ケイエヌテー社製)を用い、荷重:4.9Nにて拭き取った。拭き取り一往復毎にヘーズの値を測定し、ヘーズが初期値から10%以下になる拭き取り回数を測定した。拭き取り回数が少ないほど指紋汚れを容易に除去でき、指紋汚れ拭き取り性に優れる。評価基準は下記のとおりである。
◎(優) :拭き取り回数が3回以下。
○(良) :拭き取り回数が4~5回。
△(可) :拭き取り回数が6~8回。
×(不可):拭き取り回数が9回以上。
【0131】
【表1】
【0132】
化合物1を用いた例8~11は、初期の撥水撥油性、耐摩擦性、指紋汚れ除去性、耐光性および耐薬品性に優れていることを確認した。
従来の含フッ素エーテル化合物を用いた例12、13は、耐摩擦性、耐光性および耐薬品性に劣っていた。
【産業上の利用可能性】
【0133】
本発明の含フッ素エーテル化合物は、潤滑性や撥水撥油性の付与が求められている各種の用途に用いることができる。たとえばタッチパネル等の表示入力装置、透明なガラス製または透明なプラスチック製部材の表面保護コート、キッチン用防汚コート、電子機器、熱交換器、電池等の撥水防湿コートや防汚コート、トイレタリー用防汚コート、導通しながら撥液が必要な部材へのコート、熱交換機の撥水・防水・滑水コート、振動ふるいやシリンダ内部等の表面低摩擦コート等に用いることができる。より具体的な使用例としては、ディスプレイの前面保護板、反射防止板、偏光板、アンチグレア板、あるいはそれらの表面に反射防止膜処理を施したもの、携帯電話、携帯情報端末等の機器のタッチパネルシートやタッチパネルディスプレイ等人の指あるいは手のひらで画面上の操作を行う表示入力装置を有する各種機器、トイレ、風呂、洗面所、キッチン等の水周りの装飾建材、配線板用防水コーティング熱交換機の撥水・防水コート、太陽電池の撥水コート、プリント配線板の防水・撥水コート、電子機器筐体や電子部品用の防水・撥水コート、送電線の絶縁性向上コート、各種フィルタの防水・撥水コート、電波吸収材や吸音材の防水性コート、風呂、厨房機器、トイレタリー用防汚コート、熱交換機の撥水・防水・滑水コート、振動ふるいやシリンダ内部等の表面低摩擦コート、機械部品、真空機器部品、ベアリング部品、自動車部品、工具等の表面保護コートが挙げられる。
なお、2017年08月22日に出願された日本特許出願2017-159697号の明細書、特許請求の範囲および要約書の全内容をここに引用し、本発明の明細書の開示として、取り入れるものである。