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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2021-12-28
(45)【発行日】2022-02-03
(54)【発明の名称】イオン液体修飾基板
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/04 20060101AFI20220127BHJP
   H01M 4/02 20060101ALI20220127BHJP
   H01M 4/86 20060101ALN20220127BHJP
   C25B 11/04 20210101ALN20220127BHJP
   C25B 1/02 20060101ALN20220127BHJP
【FI】
H01M4/04 Z
H01M4/02 Z
H01M4/86 B
C25B11/04
C25B1/02
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2017084167
(22)【出願日】2017-04-21
(65)【公開番号】P2018181784
(43)【公開日】2018-11-15
【審査請求日】2020-03-12
(73)【特許権者】
【識別番号】304021277
【氏名又は名称】国立大学法人 名古屋工業大学
(72)【発明者】
【氏名】猪股 智彦
(72)【発明者】
【氏名】小澤 智宏
(72)【発明者】
【氏名】北川 竜也
(72)【発明者】
【氏名】増田 秀樹
【審査官】前田 寛之
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-132012(JP,A)
【文献】特開2017-057491(JP,A)
【文献】特開2018-119181(JP,A)
【文献】特開2018-043172(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M4/00-4/62
H01M4/86-4/98
C25B1/00-15/08
C01B3/00-6/34
C01C1/00-3/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
化学式[Z-R-X][A]([Z-R-X]は陽イオン、[A]は陰イオン、Zは原子または有機化合物、Xは結合性置換基)で表されるイオン液体において、前記[Z-R-X]は、一般式(1)~(10)(ただし、一般式(1)中のR~Rの少なくとも1つ、一般式(2)中のR~R の少なくとも1つ、一般式(3)中のR~Rの少なくとも1つ、一般式(4)中のR~R10 の少なくとも1つ、一般式(5)中のR~Rの少なくとも1つ、一般式(6)中のR~R12 の少なくとも1つ、一般式(7)中のR~Rの少なくとも1つ、一般式(8)中のR~R の少なくとも1つ、一般式(9)中のR~Rの少なくとも1つ、一般式(10)中のR~R の少なくとも1つは、それぞれ結合性置換基Xを有する)で示されるイオン液体修飾基板により前記イオン液体間に外来性分子を固定化することを特徴とする外来性分子の固定化方法。
【化1】

一般式(1)について、R~Rは、それぞれ独立に、水素原子、炭素数1~30のアルキル基、炭素数2~30のアルケニル基、炭素数2~30のアルキニル基、炭素数1~30のアルコキシアルキル基、炭素数1~30のアミノアルキル基、炭素数1~30のパ-フルオロアルキル基、炭素数6~30のアリ-ル基、炭素数7~30のアラルキル基、またはカルボニル基を有するアルキル基、アルケニル基、アリ-ル基もしくはアラルキル基を表し、またはRとRn+1(nは1~5の整数)が結合して環状構造を有していても良い。
【化2】

一般式(2)について、R~Rは、それぞれ独立に、水素原子、炭素数1~30のアルキル基、炭素数2~30のアルケニル基、炭素数2~30のアルキニル基、炭素数1~30のアルコキシアルキル基、炭素数1~30のアミノアルキル基、炭素数1~30のパ-フルオロアルキル基、炭素数6~30のアリ-ル基、炭素数7~30のアラルキル基、またはカルボニル基を有するアルキル基、アルケニル基、アリ-ル基もしくはアラルキル基を表し、またはRとRn+1(nは1~4の整数)が結合して環状構造を有していても良い。
【化3】

一般式(3)について、R~Rは、それぞれ独立に、水素原子、炭素数1~30のアルキル基、炭素数2~30のアルケニル基、炭素数2~30のアルキニル基、炭素数1~30のアルコキシアルキル基、炭素数1~30のアミノアルキル基、炭素数1~30のパ-フルオロアルキル基、炭素数6~30のアリ-ル基、炭素数7~30のアラルキル基、またはカルボニル基を有するアルキル基、アルケニル基、アリ-ル基もしくはアラルキル基を表し、またはRとRn+1(nは1~5の整数)が結合して環状構造を有していても良い。
【化4】

一般式(4)について、R~R10は、それぞれ独立に、水素原子、炭素数1~30のアルキル基、炭素数2~30のアルケニル基、炭素数2~30のアルキニル基、炭素数1~30のアルコキシアルキル基、炭素数1~30のアミノアルキル基、炭素数1~30のパ-フルオロアルキル基、炭素数6~30のアリ-ル基、炭素数7~30のアラルキル基、またはカルボニル基を有するアルキル基、アルケニル基、アリ-ル基もしくはアラルキル基を表し、またはRとRn+1(nは1~9の整数)が結合して環状構造を有していても良い。
【化5】

一般式(5)について、R~Rは、それぞれ独立に、水素原子、炭素数1~30のアルキル基、炭素数2~30のアルケニル基、炭素数2~30のアルキニル基、炭素数1~30のアルコキシアルキル基、炭素数1~30のアミノアルキル基、炭素数1~30のパ-フルオロアルキル基、炭素数6~30のアリ-ル基、炭素数7~30のアラルキル基、またはカルボニル基を有するアルキル基、アルケニル基、アリ-ル基もしくはアラルキル基を表し、またはRとRn+1(nは1~3の整数)が結合して環状構造を有していても良い。
【化6】

一般式(6)について、R~R12は、それぞれ独立に、水素原子、炭素数1~30のアルキル基、炭素数2~30のアルケニル基、炭素数2~30のアルキニル基、炭素数1~30のアルコキシアルキル基、炭素数1~30のアミノアルキル基、炭素数1~30のパ-フルオロアルキル基、炭素数6~30のアリ-ル基、炭素数7~30のアラルキル基、またはカルボニル基を有するアルキル基、アルケニル基、アリ-ル基もしくはアラルキル基を表し、またはRとRn+1(nは1~11の整数)が結合して環状構造を有していても良い。
【化7】

一般式(7)について、R~Rは、それぞれ独立に、水素原子、炭素数1~30のアルキル基、炭素数2~30のアルケニル基、炭素数2~30のアルキニル基、炭素数1~30のアルコキシアルキル基、炭素数1~30のアミノアルキル基、炭素数1~30のパ-フルオロアルキル基、炭素数6~30のアリ-ル基、炭素数7~30のアラルキル基、またはカルボニル基を有するアルキル基、アルケニル基、アリ-ル基もしくはアラルキル基を表し、またはRとRn+1(nは1~5の整数)が結合して環状構造を有していても良い。
【化8】

一般式(8)について、R~Rは、それぞれ独立に、水素原子、炭素数1~30のアルキル基、炭素数2~30のアルケニル基、炭素数2~30のアルキニル基、炭素数1~30のアルコキシアルキル基、炭素数1~30のアミノアルキル基、炭素数1~30のパ-フルオロアルキル基、炭素数6~30のアリ-ル基、炭素数7~30のアラルキル基、またはカルボニル基を有するアルキル基、アルケニル基、アリ-ル基もしくはアラルキル基を表し、またはRとRn+1(nは1~2の整数)が結合して環状構造を有していても良い。
【化9】

一般式(9)について、R~Rは、それぞれ独立に、水素原子、炭素数1~30のアルキル基、炭素数2~30のアルケニル基、炭素数2~30のアルキニル基、炭素数1~30のアルコキシアルキル基、炭素数1~30のアミノアルキル基、炭素数1~30のパ-フルオロアルキル基、炭素数6~30のアリ-ル基、炭素数7~30のアラルキル基、またはカルボニル基を有するアルキル基、アルケニル基、アリ-ル基もしくはアラルキル基を表し、またはRとRn+1(nは1~3の整数)が結合して環状構造を有していても良い。ただし、R~Rの少なくとも一つは水素原子である。また、R~Rに水素原子が存在しない場合は、置換基Xはアルデヒド基に限定される。
【化10】

一般式(10)について、R~Rは、それぞれ独立に、水素原子、炭素数1~30のアルキル基、炭素数2~30のアルケニル基、炭素数2~30のアルキニル基、炭素数1~30のアルコキシアルキル基、炭素数1~30のアミノアルキル基、炭素数1~30のパ-フルオロアルキル基、炭素数6~30のアリ-ル基、炭素数7~30のアラルキル基、またはカルボニル基を有するアルキル基、アルケニル基、アリ-ル基もしくはアラルキル基を表し、またはRとRn+1(nは1~3の整数)が結合して環状構造を有していても良い。ただし、R~Rの少なくとも一つは水素原子である。また、R~Rに水素原子が存在しない場合は、置換基Xはアルデヒド基に限定される。
【請求項2】
前記イオン液体修飾基板は、一般式(1)~(10)で示されるイオン液体の複数の置換基Rにより、基板上に修飾されたイオン液体間の距離を厳密に制御することが可能である請求項1に記載の外来性分子の固定化方法。
【請求項3】
前記イオン液体修飾基板は、一般式(1)~(10)で示されるイオン液体の複数の置換基Rのうち、少なくとも一つの端部に結合性置換基Xを有するRにより、Zと基板からの距離を厳密に制御することが可能である請求項1又は2に記載の外来性分子の固定化方法。
【請求項4】
前記外来性分子は、金属錯体、有機化合物、タンパク質の生体分子、又は金属微粒子である請求項1~3の何れか1項に記載の外来性分子の固定化方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、イオン液体を用い外来性分子を基板に固定させたイオン液体修飾基板に関する。
【背景技術】
【0002】
電極やセンサーなどの基板表面を合目的に化合物で修飾する技術は、これまでに様々な方法が提案されている。特に自己組織化単分子膜を利用した基板表面への化合物の修飾方法は、その簡便性などから非常に多くの研究が行われている。ただし、この方法では、化合物自身に何らかの結合性の官能基を導入することが必要であり、それら官能基を通して直接基板表面と、あるいは基板表面に別途修飾した化合物と結合させることで、化合物の基板表面への固定化を実現している。そのため、基板表面に修飾したい分子に官能基を導入する必要があり、そのため、化合物構造の再設計や、官能基の導入による性質が大きく変化することがしばしば報告されている。
【0003】
上記の様な問題点を克服するために、発明者等の研究グル-プは導入する分子を改変することなく、基板表面に固定化する技術を開発した(特許文献1、非特許文献1)。この発明は、基板表面へ修飾可能な4級アンモニウムまたは4級ホスホニウ型イオン液体の合成法、およびそれらイオン液体を修飾した基板の作製法を示したものである。基板に修飾されたイオン液体はその立体障害から基板上では疎らに修飾され、イオン液体間に空間が生成する。そこに機能性分子をトラップすることが可能な技術である。
【0004】
しかし、この先願では、必ずしも目的の化合物を固定化することが出来ず、基板に修飾されたイオン液体隙間からトラップした分子が漏れ出すなどの問題があった。また、導入する分子の性質によっては、基板上に生成した空間に固定化できないものも存在した。また、近年イオン液体そのものが不安定化合物を安定化する、あるいは触媒反応を促進させることが報告されているが、従来の技術は機能性分子をトラップすることに止まり、そのままでは固定化した化合物の安定化、および活性化を行うことはできなかった(非特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特願2012-167045号公報
【非特許文献】
【0006】
【文献】Chem.Commun.49,10184-10186(2013)
【文献】Bull.Korean.Chem.Soc.,25,1531―1537(2004)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の課題は上記のような先願のイオン液体を用いた外来化合物の固定化方法の問題を解決し、様々な外来性分子を基板表面に漏出することなく固定化し、イオン液体により外来性分子を安定化、および活性化することが可能なイオン液体修飾基板を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者等は、従来のイオン液体修飾電極やこれまでに報告されているイオン液体の構造・性質を幅広く検討した結果、本発明に到達した。
【発明の効果】
【0009】
すなわち、本発明の第一の特徴は、先願のように単に嵩高いだけのイオン液体ではなく、イオン液体の大きさを厳密に制御することにより、イオン液体を基板表面に修飾した際に生じるイオン液体間の空間の大きさを規定できることである。これにより、基板表面にトラップしたい機能性分子の大きさに合わせて、イオン液体間の空間の大きさを厳密に制御することが可能となり、トラップした分子漏出を防ぐことが可能となる。
【0010】
第二の特徴は、基板表面に修飾されるイオン液体の有する性質(極性、粘性、疎水性、親水性など)を基板表面に生じたイオン液体間の空間の性質に反映させることができることである。これにより、イオン液体間に生じた空間に様々な性質を付与することが可能になり、固定化する機能性分子の安定性や反応性に影響を及ぼすことが可能となる。また上記の第一の特徴により、修飾されたイオン液体と機能性分子の距離を最適化することで、空間内にトラップされた分子の安定性や反応性を制御することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】イオン液体の構造を示す概念図。
図2】イオン液体と基板で形成される空間と外来性因子の関係を示す概念図。
図3】外来性因子の種類を示す概念図。(a)単核金属錯体、(b)多核金属錯体、(c)有機分子、(d)タンパク質、(e)ナノ微粒子
図4】イオン液体修飾基板に固定化されたコバルト錯体の概念図とその水中でのサイクリックボルタンメトリー測定の結果を示した図。
図5】イオン液体修飾基板に固定化された鉄複核錯体の概念図とその回転ディスク電極による酸素活性化能力の測定結果を示した図。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、図面を参照しつつ本発明の実施の形態について説明する。本発明は、以下の実施形態に限定されるものではなく、発明の範囲を逸脱しない限りにおいて、変更、修正、改良を加え得るものである。
【0013】
(第1実施形態)
本発明で用いるイオン液体は、図1のような構造を有する、化学式[Z-R-X][A](式中[Z-R-X]は陽イオン、[A]は陰イオン)で表される(ただしnは1~12までの整数)。
【0014】
基板上に修飾されたイオン液体間の距離を制御する複数の置換基Rは、基板上に修飾された嵩高いイオン液体分子間の距離を制御する。置換基Rの長さにより、基板表面に嵩高いイオン液体分子が修飾される際の分子間の距離が確定する。つまり基板上に修飾された嵩高いイオン液体がお互いにぶつからない範囲(置換基Rの長さのおよそ2倍)がイオン液体間の距離となり、基板上に形成される空間の水平方向の大きさとなる。
【0015】
置換基Rの少なくとも1つの末端には、嵩高いイオン液体を基板へ固定化し、嵩高いイオン液体の中心部分と修飾された基板との距離を制御する置換基Xが存在する。置換基Xは、チオール基、ジスルフィド基、チオエーテル基、カルボキシル基、アルデヒド基、-アミノ基、シラノ-ル基、リン酸基、アルケニル基、アルキニル基、またはアジ基の1つが選択され結合されている。また式中のZは様々な原子や比較的小さな有機化合物を示す。ただし、一般式(9)と(10)のZにおいて、P原子およびN原子は除き、更に、置換基Rおいて水素原子、および/または置換基Xおいてアルデヒド基を含む。イオン液体の中心部分と置換基Xの間の距離が、基板上に形成される空間の垂直方向の大きさを規定する。また置換基Xが存在しない残りの置換基Rの長さが、基板上に形成される空間の水平方向の大きさを規定する。
【0016】
陰イオン[A]としては、一価あるいはそれ以上の価数を有する陰イオンであり、公知の陰イオンを利用することができる。各種ハロゲンイオン、BF 、PF 、CFSO (略称TfO)、(CFSO(略称Tf)などが好適に用いられる。
【0017】
[Z-R-X]は、以下の一般式(1)~(10)で示される
一般式(1)について、R~Rは、それぞれ独立に、水素原子、炭素数1~30のアルキル基、炭素数2~30のアルケニル基、炭素数2~30のアルキニル基、炭素数1~30のアルコキシアルキル基、炭素数1~30のアミノアルキル基、炭素数1~30のパ-フルオロアルキル基、炭素数6~30のアリ-ル基、炭素数7~30のアラルキル基、またはカルボニル基を有するアルキル基、アルケニル基、アリ-ル基もしくはアラルキル基を表し、またはRとRn+1(nは1~5の整数)が結合して環状構造を有していても良い。
【化1】
【0018】
一般式(2)について、R~Rは、それぞれ独立に、水素原子、炭素数1~30のアルキル基、炭素数2~30のアルケニル基、炭素数2~30のアルキニル基、炭素数1~30のアルコキシアルキル基、炭素数1~30のアミノアルキル基、炭素数1~30のパ-フルオロアルキル基、炭素数6~30のアリ-ル基、炭素数7~30のアラルキル基、またはカルボニル基を有するアルキル基、アルケニル基、アリ-ル基もしくはアラルキル基を表し、またはRとRn+1(nは1~4の整数)が結合して環状構造を有していても良い。
【化2】
【0019】
一般式(3)について、R~Rは、それぞれ独立に、水素原子、炭素数1~30のアルキル基、炭素数2~30のアルケニル基、炭素数2~30のアルキニル基、炭素数1~30のアルコキシアルキル基、炭素数1~30のアミノアルキル基、炭素数1~30のパ-フルオロアルキル基、炭素数6~30のアリ-ル基、炭素数7~30のアラルキル基、またはカルボニル基を有するアルキル基、アルケニル基、アリ-ル基もしくはアラルキル基を表し、またはRとRn+1(nは1~5の整数)が結合して環状構造を有していても良い。
【化3】
【0020】
一般式(4)について、R~R10は、それぞれ独立に、水素原子、炭素数1~30のアルキル基、炭素数2~30のアルケニル基、炭素数2~30のアルキニル基、炭素数1~30のアルコキシアルキル基、炭素数1~30のアミノアルキル基、炭素数1~30のパ-フルオロアルキル基、炭素数6~30のアリ-ル基、炭素数7~30のアラルキル基、またはカルボニル基を有するアルキル基、アルケニル基、アリ-ル基もしくはアラルキル基を表し、またはRとRn+1(nは1~9の整数)が結合して環状構造を有していても良い。
【化4】
【0021】
一般式(5)について、R~Rは、それぞれ独立に、水素原子、炭素数1~30のアルキル基、炭素数2~30のアルケニル基、炭素数2~30のアルキニル基、炭素数1~30のアルコキシアルキル基、炭素数1~30のアミノアルキル基、炭素数1~30のパ-フルオロアルキル基、炭素数6~30のアリ-ル基、炭素数7~30のアラルキル基、またはカルボニル基を有するアルキル基、アルケニル基、アリ-ル基もしくはアラルキル基を表し、またはRとRn+1(nは1~3の整数)が結合して環状構造を有していても良い。
【化5】
【0022】
一般式(6)について、R~R12は、それぞれ独立に、水素原子、炭素数1~30のアルキル基、炭素数2~30のアルケニル基、炭素数2~30のアルキニル基、炭素数1~30のアルコキシアルキル基、炭素数1~30のアミノアルキル基、炭素数1~30のパ-フルオロアルキル基、炭素数6~30のアリ-ル基、炭素数7~30のアラルキル基、またはカルボニル基を有するアルキル基、アルケニル基、アリ-ル基もしくはアラルキル基を表し、またはRとRn+1(nは1~11の整数)が結合して環状構造を有していても良い。
【化6】
【0023】
一般式(7)について、R~Rは、それぞれ独立に、水素原子、炭素数1~30のアルキル基、炭素数2~30のアルケニル基、炭素数2~30のアルキニル基、炭素数1~30のアルコキシアルキル基、炭素数1~30のアミノアルキル基、炭素数1~30のパ-フルオロアルキル基、炭素数6~30のアリ-ル基、炭素数7~30のアラルキル基、またはカルボニル基を有するアルキル基、アルケニル基、アリ-ル基もしくはアラルキル基を表し、またはRとRn+1(nは1~5の整数)が結合して環状構造を有していても良い。
【化7】
【0024】
一般式(8)について、R~Rは、それぞれ独立に、水素原子、炭素数1~30のアルキル基、炭素数2~30のアルケニル基、炭素数2~30のアルキニル基、炭素数1~30のアルコキシアルキル基、炭素数1~30のアミノアルキル基、炭素数1~30のパ-フルオロアルキル基、炭素数6~30のアリ-ル基、炭素数7~30のアラルキル基、またはカルボニル基を有するアルキル基、アルケニル基、アリ-ル基もしくはアラルキル基を表し、またはRとRn+1(nは1~2の整数)が結合して環状構造を有していても良い
【化8】
【0025】
一般式(9)について、R~Rは、それぞれ独立に、水素原子、炭素数1~30のアルキル基、炭素数2~30のアルケニル基、炭素数2~30のアルキニル基、炭素数1~30のアルコキシアルキル基、炭素数1~30のアミノアルキル基、炭素数1~30のパ-フルオロアルキル基、炭素数6~30のアリ-ル基、炭素数7~30のアラルキル基、またはカルボニル基を有するアルキル基、アルケニル基、アリ-ル基もしくはアラルキル基を表し、またはRとRn+1(nは1~3の整数)が結合して環状構造を有していても良い。ただし、R~Rの少なくとも一つは水素原子である。また、R~Rに水素原子が存在しない場合は、置換基Xはアルデヒド基に限定される。
【化9】
【0026】
一般式(10)について、R~Rは、それぞれ独立に、水素原子、炭素数1~30のアルキル基、炭素数2~30のアルケニル基、炭素数2~30のアルキニル基、炭素数1~30のアルコキシアルキル基、炭素数1~30のアミノアルキル基、炭素数1~30のパ-フルオロアルキル基、炭素数6~30のアリ-ル基、炭素数7~30のアラルキル基、またはカルボニル基を有するアルキル基、アルケニル基、アリ-ル基もしくはアラルキル基を表し、またはRとRn+1(nは1~3の整数)が結合して環状構造を有していても良い。ただし、R~Rの少なくとも一つは水素原子である。また、R~Rに水素原子が存在しない場合は、置換基Xはアルデヒド基に限定される。
【化10】
【0027】
(第2実施形態)
イオン液体の置換基Rの少なくとも1つの末端には、嵩高いイオン液体を基板へ固定化し、嵩高いイオン液体の中心部分と修飾された基板との距離を制御する置換基Xが存在する。置換基Xはイオン液体を修飾する基板と強固に結合し、イオン液体を基板に固定する役割を有する。置換基Xとしては、チオール基、ジスルフィド基、チオエーテル基、カルボキシル基、アルデヒド基、-アミノ基、シラノ-ル基、リン酸基、アルケニル基、アルキニル基、アジ基、またはフェニル基、ナフチル基、ピレニル基などの芳香族性を有する置換基の1つが選択され結合されている。ただし、一般式(9)と(10)において、置換基Rの少なくとも一つは水素原子である。また、一般式(9)と(10)において、置換基Rに水素原子が含まれない場合は、置換基Xはアルデヒド基に限定される。
置換基Xが存在する置換基Rとイオン液体の中心部分の長さが、基板上に構築される空間の垂直方向の大きさを規定する。具体的には、各イオン液体のカチオン部位と置換基Xの間を結ぶR置換基の実際の長さが、基板修飾されたイオン液体により生じる空間の垂直方向の大きさとなる。R置換基が折れ曲がることなく、完全に伸張した状態の配向をとる場合が、生じる空間の垂直方向の大きさが最大となる。
置換基Xが存在しない残りの置換基Rとイオン液体の中心部分の長さが、基板上に構築される空間の水平方向の大きさを規定する。具体的には、各イオン液体の置換基R同士が折れ曲がることなく、完全に伸張した状態で、お互いに接触せずに表面上に配向した状態をとる場合、基板上に修飾されたイオン液体間の中心部位の間の距離が、生じる空間の水平方向の大きさとなる。
各R置換基の疎水性、親水性、粘性などの性質が、基板上に構築される空間の性質を規定する。例えば、R置換基が疎水性の高いアルキル基の場合は、そのイオン液体が修飾された基板に構築される空間の性質は疎水的になる。また粘性の高いイオン液体が修飾された基板に構築される空間に閉じ込められた外来成分子は、空間を構築するイオン液体の粘度の影響を受けて、空間内での分子運動が遅くなる。
【0028】
本発明によるイオン液体修飾基板の概念図を図2に示す。
基板上にイオン液体を修飾する場合、基板の種類、導入する外来性分子の大きさ、性質などに合わせて使用するイオン液体を選択する必要がある。
修飾する基板としては、各種金属、各種金属酸化物、ガラス、シリコン、無機カーボン材料などが好適に用いられる。修飾する基板の種類に合わせてイオン液体の置換基Xを選択する必要がある。例えば、金や銅などの金属基板には置換基Xとして硫黄原子を含有する置換基であるチオール基、ジスルフィド基、チオエーテル基、酸化チタンなどの金属酸化物にはカルボキシル基、ガラス、シリコンにはシラノール基、カーボン材料にはフェニル基、ナフチル基、ピレニル基などの芳香族性置換基が好適に用いられる。
修飾する基板の性質は、イオン液体の修飾により基板上に構築される空間の性質に影響する。イオン液体の修飾により基板上に構築される空間は基板表面と表面に修飾されたイオン液体分子に取り囲まれた空間であるため、基板表面の物性は直接的・間接的に基板上に構築された空間の性質、例えば疎水性・親水性、反応性、安定性、伝導性などに影響を及ぼす。
【0029】
本発明におけるイオン液体修飾基板へ固定化する外来性分子の概念図を図3に示す。
イオン液体が修飾されたことで基板上に構築される空間に固定される外来成分子は、その空間に固定可能なものであれば、どのような分子も固定することが可能である。具体的には、各種金属錯体、各種有機化合物、タンパク質などの生体分子、および金属微粒子などが好適に用いられる。ただし、基板上に構築された空間が、外来性分子を固定することが可能な十分な大きさを有していることが必要であるが、固定する際に完全に外来性分子を内包可能な空間である必要はない。空間が極端に小さい場合は外来性分子を空間内に固定化することはできないが、ある程度、例えば外来性分子の半分程度の空間であっても、外来性分子の固定化は可能である。その場合、基板上に修飾されたイオン液体分子から、外来性分子がどの程度露出しているかによって、例えば、電子移動反応や触媒反応などの外来性分子の反応性や反応速度が制御可能である。
【0030】
外来性分子をイオン液体が修飾された基板上に構築される空間に固定する方法は様々なものが挙げられる。最も簡便な方法は、イオン液体が修飾された基板を外来成分子が含まれる溶液に浸漬することである。平衡により溶液中の分子がイオン液体間の空間に移動することで、分子を固定化することが可能である。またイオン液体を基板に修飾する際に、外来性分子を共存させ、イオン液体を基板に修飾しながら外来性分子を固定する方法も可能である。修飾するイオン液体自身に外来性分子を溶解させて基板を浸漬、あるいは基板上に滴下することでも作製可能である。またイオン液体を修飾した基板を外来性分子を含む溶液に浸し、外部から電位や磁場などを加えることで、強制的に外来性分子を基板近傍まで移動させ、基板上に固定化することも可能である。
【0031】
(第3実施形態)
本発明によりイオン液体修飾基板上の空間に固定化された外来性分子は、イオン液体および基板からの相互作用、あるいはその空間に分子が孤立したことによる効果により、様々な性質および反応性の変化が起こる。
例えば、水に不溶な外来性分子の場合、本発明によりイオン液体修飾基板上に固定化することで、水中においてもその反応性を利用することが可能である(図4)。図4(1)は本発明によるイオン液体修飾基板に固定化されたコバルト錯体の概念図である。図4(2)aはコバルト錯体の水中での電気化学測定結果、図4(2)bはイオン液体修飾基板により固定化されたコバルト錯体の水中での電気化学測定結果を示す。この錯体は水に不溶のため水中での性質を確認することができなかったが、本発明により水中での性質や反応性が明らかとなった。
また水中で極端に不安定な外来性分子の場合、その分子の構造に合わせたイオン液体修飾基板を用いて固定化することで、大きな安定化効果を受ける。その結果、水中においてもその電気化学的挙動の観測が可能となる(図5)。図5(1)は本発明によるイオン液体修飾基板に固定化された鉄複核錯体の概念図である。本錯体は水分によって簡単に分解するため、通常水中での測定は困難であるが、本発明によりイオン液体修飾基板に固定化されたことで、水中での電気化学測定が可能となった。
また反応性の変化という点では、特にイオン液体修飾基板上の空間の大きさを制御することにより、空間中に固定化された外来性分子の分子運動や他の分子との反応性を抑制し、その安定性や電子移動反応速度を規定することが可能である。このような外来性分子の反応性の制御により、例えば、電気化学触媒反応における大幅な過電圧の低下を引き起こすことが可能である。また反応性の向上を引き起こすことも可能である。図5(2)は本発明によるイオン液体修飾基板に固定化された鉄複核錯体を用いた回転ディスク電極の測定家かである。各プロットから求められた直線の傾きから、本錯体はイオン液体修飾基板に固定化されることで、通常2電子還元過程であった酸素還元反応が、4電子過程で進行すること、つまりイオン液体修飾基板により反応性が向上したことを示している。
【産業上の利用可能性】
【0032】
本出願記載の技術により、様々な分子性触媒材料を基板表面に固定化することが可能となり、その触媒反応の効率や触媒自体の耐久性の向上が可能となる。具体的な用途としては、燃料電池、二次電池などの各種電極触媒材料、電気分解水素製造装置、アンモニア製造装置などの電極材料などへの利用が挙げられる。また二酸化炭素還元やC1化学における物質変換触媒の担体としての利用も可能である。
【符号の説明】
【0033】
1 イオン液体
2 基板
3 外来性分子
4 イオン液体修飾基板上の空間
図1
図2
図3
図4
図5