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特許7001815有機半導体素子、組成物、化合物を精製する方法およびそれらの応用
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2021-12-28
(45)【発行日】2022-02-04
(54)【発明の名称】有機半導体素子、組成物、化合物を精製する方法およびそれらの応用
(51)【国際特許分類】
   H01L 51/05 20060101AFI20220128BHJP
   H01L 29/786 20060101ALI20220128BHJP
   C07D 495/14 20060101ALN20220128BHJP
【FI】
H01L29/28 100A
H01L29/78 618B
C07D495/14 A
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2020511680
(86)(22)【出願日】2019-03-15
(86)【国際出願番号】 JP2019010860
(87)【国際公開番号】W WO2019193953
(87)【国際公開日】2019-10-10
【審査請求日】2020-09-24
(31)【優先権主張番号】P 2018071688
(32)【優先日】2018-04-03
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】306037311
【氏名又は名称】富士フイルム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000109
【氏名又は名称】特許業務法人特許事務所サイクス
(72)【発明者】
【氏名】渡邉 哲也
(72)【発明者】
【氏名】谷 征夫
【審査官】市川 武宜
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-195361(JP,A)
【文献】国際公開第2015/133402(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2009/0224655(US,A1)
【文献】特表2008-516421(JP,A)
【文献】特開2014-177405(JP,A)
【文献】国際公開第2013/141182(WO,A1)
【文献】特開2006-328006(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 51/00
H01L 21/336
H01L 29/786
C07D 495/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
組成物を成膜して形成された有機半導体膜を含む有機半導体素子であって、
前記組成物が下記式1で表される化合物を含み、
前記組成物中のナトリウム元素、カリウム元素、ケイ素元素およびアルミニウム元素の総含有量が50ppm以下である、
有機半導体素子;
【化1】
式1中、R およびR はそれぞれ独立に置換基を有してもよい、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アルコキシ基または芳香族基を表し、R ~Rはそれぞれ独立に水素原子または置換基を表す。
【請求項2】
前記式1で表される化合物が下記式2で表される化合物である、請求項1に記載の有機半導体素子;
【化2】
式2中、RおよびRはそれぞれ独立に置換基を有してもよいアルキル基または置換基を有してもよい芳香族基を表す。
【請求項3】
前記組成物中のケイ素元素の含有量が30ppm以下である、請求項1または2に記載の有機半導体素子。
【請求項4】
前記有機半導体素子が有機トランジスタである、請求項1~3のいずれか一項に記載の有機半導体素子。
【請求項5】
下記式1で表される化合物を含む組成物であって、
前記組成物中のナトリウム元素、カリウム元素、ケイ素元素およびアルミニウム元素の総含有量が50ppm以下である、組成物;
【化3】
式1中、R およびR はそれぞれ独立に置換基を有してもよい、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アルコキシ基または芳香族基を表し、R ~Rはそれぞれ独立に水素原子または置換基を表す。
【請求項6】
前記組成物中のケイ素元素の含有量が30ppm以下である、請求項5に記載の組成物。
【請求項7】
請求項5または6に記載の組成物および溶媒を含有する、有機半導体組成物。
【請求項8】
請求項7に記載の有機半導体組成物を成膜して形成された、有機半導体膜。
【請求項9】
下記式1で表される化合物を、温度150℃以上で減圧精製、またはソックスレー抽出する工程を含む、組成物の製造方法;
【化4】
式1中、R およびR はそれぞれ独立に置換基を有してもよい、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アルコキシ基または芳香族基を表し、R ~Rはそれぞれ独立に水素原子または置換基を表す。
【請求項10】
請求項9に記載の組成物の製造方法で組成物を製造する工程と、
前記組成物および溶媒を混合して有機半導体組成物を製造する工程と、
前記有機半導体組成物を成膜して有機半導体膜を形成する工程を含む、有機半導体素子の製造方法。
【請求項11】
前記有機半導体膜を形成する工程が、前記有機半導体組成物を基板上に塗布または印刷した後、乾燥させて有機半導体膜を形成する工程を含む、請求項10に記載の有機半導体素子の製造方法。
【請求項12】
下記式1で表される化合物を、温度150℃以上で減圧精製、またはソックスレー抽出する、化合物を精製する方法;
【化5】
式1中、R およびR はそれぞれ独立に置換基を有してもよい、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アルコキシ基または芳香族基を表し、R ~Rはそれぞれ独立に水素原子または置換基を表す。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機半導体素子、組成物、有機半導体組成物、有機半導体膜、組成物の製造方法、有機半導体素子の製造方法および化合物を精製する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
有機半導体材料を用いた有機半導体素子は、従来のシリコンなどの無機半導体材料を用いた素子と比較して、様々な優位性が見込まれているため、高い関心を集めている。有機半導体材料を用いた有機半導体素子の例としては、有機半導体材料を光電変換材料として用いた有機薄膜太陽電池や固体撮像素子などの光電変換素子や、非発光性の有機トランジスタ(有機薄膜トランジスタと言われることもある)が挙げられる。有機半導体材料を用いた有機半導体素子は、無機半導体材料を用いた素子と比べて低温、低コストで大面積の素子を作製できる可能性がある。さらに分子構造を変化させることで容易に材料特性を変化させることが可能であるため材料のバリエーションが豊富であり、無機半導体材料ではなし得なかったような機能や素子を実現することができる。
【0003】
有機半導体素子である有機トランジスタ用材料としては、縮合環を有する化合物を半導体活性層に用いることで、キャリア移動度を高め、トランジスタ性能を高めることが検討されている。
ここで、有機トランジスタ用材料として、チエノ[3,2-f:4,5-f’]ビス[1]ベンゾチオフェン(以下、TBBTとも言う)構造を有する化合物が知られている。例えば、非特許文献1は、TBBTに炭素数6のアルキル基が置換した化合物C6-TBBTや、炭素数12のアルキル基が置換した化合物C12-TBBTの合成方法と物性として、吸収・発光スペクトル、CV(サイクリックボルタンメトリー)を開示している。
また、特許文献1には、TBBT構造を有する化合物と沸点100℃以上の溶媒を含む非発光性有機半導体デバイス用塗布液が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2015-195361号公報
【非特許文献】
【0005】
【文献】Tetrahedron 66 (2010) 8778-8784
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
近年、有機薄膜トランジスタの性能向上の観点から、有機薄膜トランジスタのキャリア移動度のより一層の向上が求められている実情がある。特に有機半導体膜のパターニングのために用いるフォトレジストの加熱条件での加熱をされた後にキャリア移動度を高く維持できること、すなわちキャリア移動度の耐熱性が求められている。
本発明者らが、特許文献1および非特許文献1にしたがってTBBT構造を有する化合物を調製し、成膜して有機半導体膜を形成して有機半導体素子を製造したところ、キャリア移動度の耐熱性の観点ではさらに改善が求められることがわかった。
【0007】
本発明が解決しようとする課題は、キャリア移動度の耐熱性が高い有機半導体素子を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の課題を解決するために鋭意検討を行った結果、TBBT構造を有する化合物を精製し、特定のイオン含量を低くした組成物を用いた膜は、有機半導体素子とした場合のキャリア移動度の耐熱性が高いことを見出し、本発明に至った。
上記課題を解決するための具体的な手段である本発明は、以下の構成を有する。
【0009】
[1] 組成物を成膜して形成された有機半導体膜を含む有機半導体素子であって、
組成物が下記式1で表される化合物を含み、
組成物中のナトリウム元素、カリウム元素、ケイ素元素およびアルミニウム元素の総含有量が50ppm(ppmは、parts per million)以下である、
有機半導体素子;
【化1】
式1中、R~Rはそれぞれ独立に水素原子または置換基を表す。
[2] 式1で表される化合物が下記式2で表される化合物である[1]に記載の有機半導体素子;
【化2】
式2中、RおよびRはそれぞれ独立に置換基を有してもよいアルキル基または置換基を有してもよい芳香族基を表す。
[3] 組成物中のケイ素元素の含有量が30ppm以下である[1]または[2]に記載の有機半導体素子。
[4] 有機半導体素子が有機トランジスタである[1]~[3]のいずれか一つに記載の有機半導体素子。
[5] 下記式1で表される化合物を含む組成物であって、
組成物中のナトリウム元素、カリウム元素、ケイ素元素およびアルミニウム元素の総含有量が50ppm以下である、組成物;
【化3】
式1中、R~Rはそれぞれ独立に水素原子または置換基を表す。
[6] 組成物中のケイ素元素の含有量が30ppm以下である[5]に記載の組成物。
[7] [5]または[6]に記載の組成物および溶媒を含有する、有機半導体組成物。
[8] [7]に記載の有機半導体組成物を成膜して形成された、有機半導体膜。
[9] 下記式1で表される化合物を、温度150℃以上で減圧精製、またはソックスレー抽出する工程を含む、組成物の製造方法;
【化4】
式1中、R~Rはそれぞれ独立に水素原子または置換基を表す。
[10] [9]に記載の組成物の製造方法で組成物を製造する工程と、
組成物および溶媒を混合して有機半導体組成物を製造する工程と、
有機半導体組成物を成膜して有機半導体膜を形成する工程を含む、有機半導体素子の製造方法。
[11] 有機半導体膜を形成する工程が、有機半導体組成物を基板上に塗布または印刷した後、乾燥させて有機半導体膜を形成する工程を含む[10]に記載の有機半導体素子の製造方法。
[12] 下記式1で表される化合物を、温度150℃以上で減圧精製、またはソックスレー抽出する、化合物を精製する方法;
【化5】
式1中、R~Rはそれぞれ独立に水素原子または置換基を表す。
【0010】
[101] 下記式1で表される化合物を、温度150℃以上で減圧精製、またはソックスレー抽出した組成物であって、
組成物中のナトリウム元素、カリウム元素、ケイ素元素およびアルミニウム元素の総含有量が50ppm以下である、組成物;
【化6】
式1中、R~Rはそれぞれ独立に水素原子または置換基を表す。
[102] 下記式1で表される化合物を、温度150℃以上で減圧精製、またはソックスレー抽出した組成物を成膜して形成された有機半導体膜を含む有機半導体素子であって、
組成物中のナトリウム元素、カリウム元素、ケイ素元素およびアルミニウム元素の総含有量が50ppm以下である、有機半導体素子;
【化7】
式1中、R~Rはそれぞれ独立に水素原子または置換基を表す。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、キャリア移動度の耐熱性が高い有機半導体素子を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1図1は、ボトムゲート・トップコンタクト型素子である有機トランジスタの一例の構造の断面を示す概略図である。
図2図2は、ボトムゲート・ボトムコンタクト型素子である有機トランジスタの一例の断面を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下において、本発明について詳細に説明する。以下に記載する構成要件の説明は、代表的な実施形態や具体例に基づいてなされることがあるが、本発明はそのような実施形態に限定されるものではない。なお、本明細書において「~」を用いて表される数値範囲は「~」前後に記載される数値を下限値および上限値として含む範囲を意味する。
本発明において、各一般式の説明において特に区別されずに用いられている場合における水素原子は同位体(重水素原子等)も含んでいることを表す。さらに、置換基を構成する原子は、その同位体も含んでいることを表す。
【0014】
[有機半導体素子、組成物、有機半導体組成物および有機半導体膜]
本発明の有機半導体素子は、組成物を成膜して形成された有機半導体膜を含む有機半導体素子であって、
組成物が下記式1で表される化合物を含み、
組成物中のナトリウム元素、カリウム元素、ケイ素元素およびアルミニウム元素の総含有量が50ppm以下である。
【化8】
式1中、R~Rはそれぞれ独立に水素原子または置換基を表す。
【0015】
これらの構成により、本発明の有機半導体素子は、キャリア移動度の耐熱性が高い。
いかなる理論にも拘泥するものでもないが、ナトリウム元素、カリウム元素、ケイ素元素およびアルミニウム元素(以下、特定元素と言う)、特にこれらのイオンが組成物中に存在すると、有機半導体膜を形成した場合の結晶配列の乱れにつながる。結晶配列の乱れが起点となり、有機半導体膜のパターニングのために用いるフォトレジストの加熱条件での加熱により有機半導体膜にヒビが入り、キャリア移動度が低下すると考えられる。
一方、WO2015/133402の表19に記載の化合物や特開2003-347624号公報に記載のペンタセンなどの式1を満たさない化合物を用いた場合は、特定元素の総含有量を少なくしても、キャリア移動度の耐熱性を高めることはできなかった。
これに対し、本発明では、特定元素の総含有量を少なくし、かつ、式1で表される化合物を選択することにより、両者の相乗効果によって、有機半導体膜を形成した場合の結晶配列の乱れを減らし、キャリア移動度の耐熱性を高くできる。
以下、本発明の有機半導体素子、組成物、有機半導体組成物および有機半導体膜の好ましい態様を説明する。
【0016】
一方、本発明の組成物は、式1で表される化合物を含む組成物であって、組成物中のナトリウム元素、カリウム元素、ケイ素元素およびアルミニウム元素の総含有量が50ppm以下である。
本発明の有機半導体組成物は、本発明の組成物および溶媒を含有する。
本発明の有機半導体膜は、本発明の有機半導体組成物を成膜して形成されたものである。
これらの本発明の組成物、有機半導体組成物および有機半導体膜は、有機半導体材料として用いることができ、また、本発明の有機半導体素子の製造に用いることができる。本明細書において、「有機半導体材料」とは、半導体の特性を示す有機材料のことである。無機材料からなる半導体と同様に、正孔をキャリアとして伝導するp型(ホール輸送性)有機半導体材料と、電子をキャリアとして伝導するn型(電子輸送性)有機半導体材料がある。式1で表される化合物は、p型有機半導体材料、n型の有機半導体材料のどちらとして用いてもよいが、p型として用いることがより好ましい。有機半導体中のキャリアの流れやすさはキャリア移動度μで表される。キャリア移動度μは高い方がよい。
【0017】
<組成物>
本発明の組成物は、式1で表される化合物を含む組成物であって、組成物中のナトリウム元素、カリウム元素、ケイ素元素およびアルミニウム元素の総含有量が50ppm以下である。
【0018】
(式1で表される化合物)
本発明では、組成物が下記式1で表される化合物を含む。
【化9】
式1中、R~Rはそれぞれ独立に水素原子または置換基を表す。
【0019】
およびRはそれぞれ独立に置換基であることが好ましい。RおよびRが置換基である場合、好ましい置換基はアルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アルコキシ基または芳香族基であり、より好ましい置換基はアルキル基または芳香族基であり、特に好ましい置換基はアルキル基である。
およびRが表すアルキル基は、特に制限はないが、炭素数1~30のアルキル基が好ましく、直鎖であっても、分岐であっても、環状であってもよい。キャリア移動度の耐熱性を高める観点からは、RおよびRが表すアルキル基は、炭素数2~15の直鎖のアルキル基であることが好ましく、炭素数2~5および7~10の直鎖のアルキル基であることがより好ましい。
特定のアルキル鎖長または形状を選択することにより、分子間の軌道の重なりが大きくなり、よりキャリア移動度を高めることができる。
およびRが表すアルケニル基は、特に制限はないが、炭素数2~30のアルケニル基が好ましく、炭素数3~18のアルケニル基がより好ましく、炭素数5~13のアルケニル基が特に好ましい。
およびRが表すアルキニル基は、特に制限はないが、炭素数2~30のアルキニル基が好ましく、炭素数3~18のアルキニル基がより好ましく、炭素数5~13のアルキニル基が特に好ましい。
およびRが表すアルコキシ基は、特に制限はないが、炭素数1~30のアルコキシ基が好ましく、炭素数3~18のアルコキシ基がより好ましく、炭素数5~13のアルコキシ基が特に好ましい。
およびRが表す芳香族基は、特に制限はないが、炭素数6~30の芳香族基が好ましく、炭素数6~14の芳香族基がより好ましく、炭素数6の芳香族基が特に好ましい。
およびRが表す置換基がさらに置換基を有する場合、その置換基の好ましい範囲は、特開2015-195361号公報の[0018]に記載の範囲と同様である。例えば、アルキル基やアルコキシ基を置換基のさらなる置換基として有することが好ましい。
【0020】
~Rはそれぞれ独立に水素原子またはハロゲン原子であることが好ましい。R~Rが表すハロゲン原子としては、フッ素原子が好ましい。R~R中のハロゲン原子の個数は0~6個であることが好ましく、0~4個であることがより好ましく、0~2個であることが特に好ましく、0個であることがより特に好ましい。
【0021】
本発明では、式1で表される化合物が下記式2で表される化合物であることが好ましい。
【化10】
式2中、RおよびRはそれぞれ独立に置換基を有してもよいアルキル基または置換基を有してもよい芳香族基を表し、好ましい範囲は式1と同様である。
【0022】
およびRの総炭素数は、それぞれ独立に3~30であることが好ましく、7~30であることがより好ましく、7~20であることが特に好ましく、7~15であることがより特に好ましく、7~11であることがさらにより特に好ましく、9~11であることがさらに特により特に好ましい。RおよびRの総炭素数は、それぞれ独立に上記範囲の下限値以上であると、キャリア移動度が高くなる。RおよびRの総炭素数が上記範囲の上限値以下であると、有機溶媒に対する溶解性が高くなる。
【0023】
式1で表される化合物の具体例、特にRおよびRの組み合わせ、あるいは、R~Rの組み合わせの具体例を以下に示す。本発明で用いられる式1で表される化合物は、これらの具体例により限定的に解釈されるべきものではない。下記表1~3中のPhはフェニル基を表す。また、特に明記していない場合、アルキル基は直鎖アルキル基を表す。
【0024】
【表1】
【0025】
【表2】
【0026】
【表3】
【0027】
式1で表される化合物は、分子量が3000以下であることが好ましく、2000以下であることがより好ましく、1000以下であることがさらに好ましく、850以下であることが特に好ましい。分子量を上記上限値以下とすることにより、溶媒への溶解性を高めることができるため好ましい。
一方で、膜の膜質安定性の観点からは、分子量は250以上であることが好ましく、300以上であることがより好ましく、350以上であることがさらに好ましい。
【0028】
式1で表される化合物は、特開2015-195361号公報およびTetrahedron 66 (2010) 8778-8784に記載の方法または後述の実施例記載の方法を参考に合成することができる。
式1で表される化合物の合成において、いかなる反応条件を用いてもよい。反応溶媒としては、いかなる溶媒を用いてもよい。また、環形成反応促進のために、酸または塩基を用いることが好ましく、特に酸を用いることが好ましい。最適な反応条件は、目的とする化合物の構造により異なるが、上記の文献に記載された具体的な反応条件または後述の実施例記載の方法を参考に設定することができる。
【0029】
各置換基を有する合成中間体は公知の反応を組み合わせて合成することができる。また、各置換基はいずれの中間体の段階で導入してもよい。中間体の合成後は、カラムクロマトグラフィー、再結晶等による精製を行った後、昇華精製により精製する事が好ましい。昇華精製により、有機不純物を分離できるだけでなく、無機塩や残留溶媒等を効果的に取り除くことができる。
【0030】
(特定元素の含有量)
本発明では、組成物中のナトリウム元素、カリウム元素、ケイ素元素およびアルミニウム元素の総含有量が50ppm以下である。キャリア移動度の耐熱性を高める観点から、組成物中のナトリウム元素、カリウム元素、ケイ素元素およびアルミニウム元素の総含有量が20ppm以下であることが好ましく、10ppm以下であることがより好ましく、5ppm以下であることが特に好ましい。
本発明では、キャリア移動度の耐熱性をより高める観点から、組成物中のケイ素元素の含有量が30ppm以下であることが好ましく、5ppm以下であることがより好ましく、1ppm未満であることが特に好ましい。
なお、特定元素は、組成物中でイオンとして存在していてもよい。
【0031】
<有機半導体組成物>
本発明の有機半導体組成物は、本発明の組成物および溶媒を含有する。
【0032】
(溶媒)
有機半導体組成物に用いられる溶媒について説明する。
溶液プロセスを用いて本発明の組成物を基板上に成膜する場合、本発明の組成物を溶媒に溶解、または分散させて有機半導体組成物を調製したものを塗布液とし、塗布法により膜を形成することができる。溶媒は単独で用いてもよく、複数組み合わせて用いてもよい。溶媒は、有機溶媒または水であることが好ましい。有機溶媒の好ましい態様は、特開2015-195361号公報の[0043]に記載の有機溶媒の好ましい態様と同じであり、この公報は参照して本明細書に組み込まれる。
【0033】
(式1で表される化合物の濃度)
有機半導体組成物に用いられる本発明の組成物は、式1で表される化合物を含む。有機半導体組成物中の式1で表される化合物の濃度は、好ましくは、0.005~5質量%、より好ましくは0.01~3質量%、特に好ましくは0.1~2質量%である。この範囲とすることにより、任意の厚さの膜を形成しやすい。さらに、有機半導体組成物中の式1で表される化合物の濃度が0.4質量%以上であることが結晶サイズの大きな有機半導体膜を形成させやすく、特に好ましい。
有機半導体組成物は、式1で表される化合物を1種類のみ含んでもよく、2種類以上含んでもよい。
【0034】
(添加剤)
有機半導体組成物は、界面活性剤、酸化防止剤、結晶化制御剤、結晶配向制御剤、ポリマーバインダーなどの添加剤を含有してもよい。界面活性剤、酸化防止剤、ポリマーバインダーの好ましい態様は、特開2015-195361号公報の[0050]、[0051]および[0088]に記載の好ましい態様と同じであり、この公報は参照して本明細書に組み込まれる。
【0035】
<有機半導体素子の用途>
有機半導体素子の用途は特に制限はない。例えば、非発光性有機半導体素子に用いることが好ましい。本明細書において、「非発光性有機半導体素子」とは、発光することを目的としない素子を意味する。特に「非発光性有機半導体素子」とは、可視光を発光することを目的としない素子を意味する。本明細書中、「非発光性」とは、室温、大気下0.1mW/cmの電流密度で素子に電流を流した場合に、1lm/W以下の発光効率のことを言う。非発光性有機半導体素子と言えば、有機電界発光素子などの発光性有機半導体素子を除く有機半導体素子を意味する。
非発光性有機半導体素子は、膜の層構造を有するエレクトロニクス要素を用いた非発光性有機半導体素子とすることが好ましい。非発光性有機半導体素子には、有機トランジスタ、有機光電変換素子(光センサ用途の固体撮像素子、エネルギー変換用途の太陽電池等)、ガスセンサ、有機整流素子、有機インバータ、情報記録素子などが包含される。有機光電変換素子は光センサ用途(固体撮像素子)、エネルギー変換用途(太陽電池)のいずれにも用いることができる。好ましくは、有機光電変換素子、有機トランジスタであり、さらに好ましくは有機トランジスタである。すなわち、本発明の有機半導体素子が有機トランジスタであることが好ましい。
【0036】
なお、有機EL(Electro Luminescence)素子材料として有用なものが、ただちに有機トランジスタ用半導体材料として有用であると言うことはできない。これは、有機EL素子と有機トランジスタでは、有機化合物に求められる特性が異なるためである。有機EL素子を駆動するには10-3cm/Vs程度の移動度があれば十分であり、有機EL特性向上には電子輸送性よりもむしろ発光効率を高めることが重要であり、発光効率が高く、面内での発光が均一な素子が求められている。通常、結晶性の高い(移動度が高い)有機化合物は、面内の電界強度不均一、発光不均一、発光クエンチ等、発光欠陥を生じさせる原因となるため、有機EL素子材料は結晶性を低くし、アモルファス性の高い材料(低い移動度)が望まれる。一方、有機トランジスタ用半導体材料では、求められる移動度が格段に高いため、分子の配列秩序が高い、結晶性が高い有機化合物が求められている。また、高い移動度発現のため、π共役平面は基板に対して直立していることが好ましい。
【0037】
<有機半導体素子の構造>
本発明の有機半導体素子の構造の好ましい態様を、本発明の有機半導体素子が有機トランジスタである場合を例に挙げて説明する。
有機トランジスタは、有機半導体膜を半導体活性層に含むことが好ましい。
有機トランジスタは、さらに半導体活性層以外にその他の層を含んでいてもよい。
有機トランジスタは、有機電界効果トランジスタ(Field Effect Transistor、FET)として用いられることが好ましく、ゲート-チャンネル間が絶縁されている絶縁ゲート型FETとして用いられることがより好ましい。
以下、有機トランジスタの好ましい構造の態様について、図面を用いて詳しく説明するが、本発明はこれらの態様に限定されるものではない。
【0038】
(積層構造)
有機電界効果トランジスタの積層構造としては特に制限はなく、公知の構造とすることができる。
有機トランジスタの構造の一例としては、最下層の基板の上面に、電極、絶縁体層、半導体活性層(有機半導体膜)、2つの電極を順に配置した構造(ボトムゲート・トップコンタクト型)を挙げることができる。この構造では、最下層の基板の上面の電極は基板の一部に設けられ、絶縁体層は、電極以外の部分で基板と接するように配置される。また、半導体活性層の上面に設けられる2つの電極は、互いに隔離して配置される。
ボトムゲート・トップコンタクト型素子である有機トランジスタの一例の構造の断面を示す概略図を図1に示す。図1の有機トランジスタは、最下層に基板11を配置し、その上面の一部に電極12を設け、さらに電極12を覆い、かつ電極12以外の部分で基板11と接するように絶縁体層13を設けている。さらに絶縁体層13の上面に半導体活性層14を設け、その上面の一部に2つの電極15aと15bとを隔離して配置している。
図1に示した有機トランジスタは、電極12がゲートであり、電極15aと電極15bはそれぞれドレインまたはソースである。また、図1に示した有機トランジスタは、ドレイン-ソース間の電流通路であるチャンネルと、ゲートとの間が絶縁されている絶縁ゲート型FETである。
【0039】
有機トランジスタの構造の別の例としては、ボトムゲート・ボトムコンタクト型素子を挙げることができる。
ボトムゲート・ボトムコンタクト型素子である有機トランジスタの一例の断面を示す概略図を図2に示す。図2の有機トランジスタは、最下層に基板31を配置し、その上面の一部に電極32を設け、さらに電極32を覆い、かつ電極32以外の部分で基板31と接するように絶縁体層33を設けている。さらに絶縁体層33の上面に半導体活性層35を設け、電極34aと34bが半導体活性層35の下部にある。
図2に示した有機トランジスタは、電極32がゲートであり、電極34aと電極34bはそれぞれドレインまたはソースである。また、図2に示した有機トランジスタは、ドレイン-ソース間の電流通路であるチャンネルと、ゲートとの間が絶縁されている絶縁ゲート型FETである。
【0040】
有機トランジスタの構造としては、その他、絶縁体、ゲート電極が半導体活性層の上部にあるトップゲート・トップコンタクト型素子や、トップゲート・ボトムコンタクト型素子も好ましく用いることができる。
【0041】
(厚さ)
有機トランジスタは、より薄いトランジスタとする必要がある場合には、例えばトランジスタ全体の厚さを0.1~0.5μmとすることが好ましい。
【0042】
(封止)
有機トランジスタ素子を大気や水分から遮断し、有機トランジスタ素子の保存性を高めるために、有機トランジスタ素子全体を金属の封止缶やガラス、窒化ケイ素などの無機材料、パリレンなどの高分子材料や、低分子材料などで封止してもよい。
以下、有機トランジスタの各層の好ましい態様について説明するが、本発明はこれらの態様に限定されるものではない。
【0043】
(基板)
有機トランジスタは、基板を含むことが好ましい。
基板の材料としては特に制限はなく、公知の材料を用いることができ、例えば、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリエチレンテレフタレート(PET)などのポリエステルフィルム、シクロオレフィンポリマーフィルム、ポリカーボネートフィルム、トリアセチルセルロース(TAC)フィルム、ポリイミドフィルム、およびこれらポリマーフィルムを極薄ガラスに貼り合わせたもの、セラミック、シリコン、石英、ガラスなどを挙げることができ、シリコンが好ましい。
【0044】
(電極)
有機トランジスタは、電極を含むことが好ましい。
電極の構成材料としては、例えば、Cr、Al、Ta、Mo、Nb、Cu、Ag、Au、Pt、Pd、In、NiあるいはNdなどの金属材料やこれらの合金材料、あるいはカーボン材料、導電性高分子などの既知の導電性材料であれば特に制限することなく使用できる。
電極の厚さは特に制限はないが、10~50nmとすることが好ましい。
ゲート幅(またはチャンネル幅)Wとゲート長(またはチャンネル長)Lに特に制限はないが、これらの比W/Lが10以上であることが好ましく、20以上であることがより好ましい。
【0045】
(アクセプター)
有機トランジスタは、キャリア注入を促進するためのアクセプターを含むことが好ましい。材料としては公知の2,3,5,6-テトラフルオロ-7,7,8,8-テトラシアノキノジメタン(F4-TCNQ)等が好ましく挙げられる。
アクセプターの厚さは特に制限はないが、5nm以下とすることが好ましい。
【0046】
(絶縁体層)
絶縁体層を構成する材料は必要な絶縁効果が得られれば特に制限はないが、例えば、二酸化ケイ素、窒化ケイ素、PTFE(polytetrafluoroethylene)、CYTOP(サイトップ)等のフッ素ポリマー系絶縁材料、ポリエステル絶縁材料、ポリカーボネート絶縁材料、アクリルポリマー系絶縁材料、エポキシ樹脂系絶縁材料、ポリイミド絶縁材料、ポリビニルフェノール樹脂系絶縁材料、ポリパラキシリレン樹脂系絶縁材料などが挙げられる。
絶縁体層の上面は表面処理がなされていてもよく、例えば、二酸化ケイ素表面をヘキサメチルジシラザン(HMDS)やオクタデシルトリクロロシラン(OTS)やβ-フェニチルトリメトキシシランの塗布により表面処理した絶縁体層を好ましく用いることができ、β-フェニチルトリメトキシシランの塗布により表面処理した絶縁体層をより好ましく用いることができる。
絶縁体層の厚さに特に制限はないが、薄膜化が求められる場合は厚さを10~500nmとすることが好ましく、20~200nmとすることがより好ましく、50~200nmとすることが特に好ましい。
【0047】
(半導体活性層)
有機トランジスタは、半導体活性層が本発明の組成物を成膜して形成された有機半導体膜を含むことが好ましい。
半導体活性層は、ポリマーバインダーがさらに含まれた層であってもよい。また、成膜時の残留溶媒が含まれていてもよい。
半導体活性層の厚さに特に制限はないが、薄膜化が求められる場合は厚さを10~400nmとすることが好ましく、10~200nmとすることがより好ましく、10~100nmとすることが特に好ましい。
【0048】
[組成物の製造方法、化合物を精製する方法]
本発明の組成物の製造方法は、式1で表される化合物を、温度150℃以上で減圧精製、またはソックスレー抽出する工程を含む。
また、本発明の化合物を精製する方法は、式1で表される化合物を、温度150℃以上で減圧精製、またはソックスレー抽出する。
これらの処理により、式1で表される化合物を含む組成物中の特定元素の含有量を少なくすることができ、本発明の組成物を製造することができる。
本発明によれば、特にシリカゲルやシリカゲルカラムクロマトグラフィーを使用した精製と比較して、特定元素の含有量を少なくすることができ、その中でもケイ素元素の含有量(特にケイ素イオンの含有量)を少なくすることができる。
なお、特開2012-43912号公報の請求項1で規定する前駆体(合成前の原料)の昇華精製では、本発明で規定する特定元素の含有量の範囲に到達できなかった。
【0049】
<減圧精製またはソックスレー抽出>
本発明では、式1で表される化合物を、温度150℃以上で減圧精製、またはソックスレー抽出する。
減圧精製またはソックスレー抽出では、特にシリカゲルやシリカゲルカラムを用いないことが、好ましい。
減圧精製またはソックスレー抽出は、これらの処理のうちの1種類のみ行えばよいが、2種類以上を組み合わせてもよい。
減圧精製またはソックスレー抽出を、式1で表される化合物の精製の最終ステップで行うことが、特定元素の含有量を少なくする観点から好ましい。なお、減圧精製またはソックスレー抽出の前処理として、その他の精製方法を行ってもよい。
【0050】
(減圧精製)
減圧精製は、少なくとも温度150℃以上で行い、170~400℃で行うことが好ましく、190~350℃で行うことがより好ましく、200~300℃で行うことが特に好ましい。上記の下限値以上の温度で行うことが、不純物との分離の観点から好ましい。上記の上限値以下の温度で行うことが、熱分解抑制の観点から好ましい。
減圧精製は、1~30時間行うことが好ましく、4~20時間行うことがより好ましく、7~15時間行うことが特に好ましい。
減圧精製は、昇温しながら行ってもよく、昇温しない段階における温度および時間が上記の好ましい範囲であることが、好ましい。昇温速度は、特に制限はないが、例えば1~10℃/10分間とすることができる。
減圧精製は、不活性ガスを流しながら行うことが不純物との分離の観点から好ましい。不活性ガスとしては、例えばアルゴンガスなどを挙げることができる。
減圧精製は、0.01~100mPaの圧力条件下で行うことが好ましく、0.1~10mPaの圧力条件下で行うことがより好ましく、1~3mPaの圧力条件下で行うことが特に好ましい。
減圧精製における式1で表される化合物の状態としては特に制限はないが、固体であることが好ましい。すなわち、減圧精製は固体からの昇華精製であることが好ましい。減圧精製における式1で表される化合物の状態の選択は、式1で表される化合物によって、適宜選択することができる。
【0051】
(ソックスレー抽出)
ソックスレー抽出は、公知のソックスレー抽出器を用いて行うことができる。
ソックスレー抽出に用いる溶媒としては特に制限はなく、有機溶媒を用いることができる。好ましい有機溶媒としては、低極性である酢酸エチルなどのエステル類、ヘキサンやトルエンなどの炭化水素類を挙げることができる。その中でも、芳香族炭化水素類がより好ましい。
溶媒は1種類のみを用いてもよく、2種類以上を用いてもよい。2種類以上を用いる場合、溶媒の90質量%以上が炭化水素類であることが好ましい。
【0052】
[有機半導体素子の製造方法]
本発明の有機半導体素子の製造方法は、本発明の組成物の製造方法で組成物を製造する工程と、
組成物および溶媒を混合して有機半導体組成物を製造する工程と、
有機半導体組成物を成膜して有機半導体膜を形成する工程を含む。
本発明の有機半導体素子は、溶媒を含む有機半導体組成物を用いた、溶液プロセスによる成膜を用いる本発明の製造方法により、容易に製造することができる。溶液プロセスによる成膜とは、本明細書では有機化合物を溶解させることができる溶媒中に溶解させ、その溶液を用いて成膜する方法を指す。
ただし、本発明の有機半導体素子は、上記の製造方法以外で製造してもよい。例えば、本発明の組成物を溶媒と混合せず、真空プロセス(真空蒸着法、スパッタリング法、イオンプレーティング法、分子ビームエピタキシー法などの物理気相成長法あるいはプラズマ重合などの化学気相蒸着法)により式1で表される化合物を基板上に成膜してもよい。
【0053】
<有機半導体組成物の製造>
本発明では、本発明の組成物の製造方法で製造された組成物(本発明の組成物)および溶媒を混合して有機半導体組成物を製造する。
混合方法としては特に制限はなく、公知の方法で混合することができる。
混合後の有機半導体組成物は、加熱してから成膜に用いることが好ましい。混合後の有機半導体組成物の温度としては特に制限はないが、0~200℃であることが好ましく、15~120℃であることがより好ましく、20~100℃であることが特に好ましい。
【0054】
<成膜>
本発明では、有機半導体組成物を成膜して有機半導体膜を形成する。形成された有機半導体膜は、半導体活性層などとして有機半導体素子に用いることができる。
有機トランジスタの製造方法では、有機半導体組成物を成膜して有機半導体膜を形成する方法はいかなる方法でもよい。基板上に有機半導体組成物を成膜して有機半導体膜を形成することが好ましい。
成膜の際、基板を加熱または冷却してもよく、基板の温度を変化させることで膜質や膜中での分子のパッキングを制御することが可能である。基板の温度としては特に制限はないが、0~200℃であることが好ましく、15~120℃であることがより好ましく、20~100℃であることが特に好ましい。
【0055】
有機半導体膜を形成する工程としては、ドロップキャスト法、キャスト法、ディップコート法、ダイコーター法、ロールコーター法、バーコーター法、スピンコート法などの塗布法;インクジェット法、スクリーン印刷法、グラビア印刷法、フレキソグラフィー印刷法、オフセット印刷法、マイクロコンタクト印刷法などの印刷法;Langmuir-Blodgett(LB)法などの通常の方法を用いることができる。
【0056】
(塗布、印刷)
本発明では、有機半導体組成物を基板上に適用する方法として、塗布法または印刷法を用いることが好ましい。特に、有機半導体膜を形成する工程が、有機半導体組成物を基板上に塗布または印刷した後、乾燥させて有機半導体膜を形成する工程を含むことが好ましい。
塗布または印刷の中でも、ドロップキャスト法、キャスト法、スピンコート法、インクジェット法、グラビア印刷法、フレキソグラフィー印刷法、オフセット印刷法、マイクロコンタクト印刷法を用いることがより好ましい。
本発明では、塗布法を用いることが特に好ましい。
【0057】
塗布法の中でも、特に好ましいドロップキャスト法について説明する。
ドロップキャスト法を用いる有機半導体膜の製造方法では、有機半導体組成物を塗布液とし、基板Aの面内の一部に塗布液を滴下し、滴下した塗布液を徐々に乾燥させることにより式1で表される化合物の結晶を析出させて半導体活性層を形成することが好ましい。
【0058】
ドロップキャスト法を用いる有機半導体膜の製造方法に用いられる基板Aとしては、有機トランジスタの基板として用いられるものを挙げることができ、有機トランジスタの基板の上に絶縁体層が形成されたものが好ましい。
【0059】
(乾燥)
ドロップキャスト法を用いる有機半導体膜の製造方法では、滴下した塗布液を徐々に乾燥させることにより式1で表される化合物の結晶を析出させて半導体活性層を形成することが好ましい。
加熱した基板A上で、自然乾燥させてから、減圧乾燥することが膜質の観点から好ましい。
自然乾燥時の基板Aの温度は、20~140℃であることが好ましく、20~120℃であることがより好ましい。
自然乾燥時間は5分間~20時間であることが好ましく、10分間~10時間であることがより好ましい。
有機半導体膜の製造方法では、式1で表される化合物の結晶を析出させることが好ましい。結晶が析出したか否かは、偏光顕微鏡による観察によって確認することができる。
【実施例
【0060】
以下に実施例と比較例を挙げて本発明の特徴をさらに具体的に説明する。以下の実施例に示す材料、使用量、割合、処理内容、処理手順等は、本発明の趣旨を逸脱しない限り適宜変更することができる。したがって、本発明の範囲は以下に示す具体例により限定的に解釈されるべきものではない。実施例10は参考例である。
【0061】
各実施例および比較例の組成物では、式1を満たす以下の化合物1~8および式1を満たさない以下の化合物9~12を用いた。なお、各化合物にアラビア数字で付した番号の隣に、表1~3における化合物の「No.」を併記した。
【化11】
【0062】
[実施例1~3、比較例1~9]
化合物1を用いて、各実施例および比較例の組成物を調製した。なお、化合物1は、特開2015-195361号公報における化合物4に相当する。
【0063】
<化合物1の合成および比較例1の組成物の調製>
化合物1の合成および再結晶による精製を特開2015-195361号公報の[0092]~[0095]に記載の方法、特に[0094]に記載の精製方法にしたがって行い、比較例1の組成物を調製した。
具体的には、合成反応終了後、室温まで冷却し、メタノールを50ml加えて、析出した固体をろ別した。固体を加熱したO-ジクロロベンゼンに溶かし、熱いままセライトおよびシリカゲルに通し、加熱したO-ジクロロベンゼンで溶離させた。得られた溶液をエバポレーターで濃縮した後に、加熱したO-ジクロロベンゼンから再結晶し、白色固体である比較例1の組成物を得た。
【0064】
特開2015-195361号公報の[0094]に記載の再結晶により精製して得られた比較例1の組成物を用い、比較例1の組成物を後述の方法でさらに精製して、実施例1~3および比較例2~10の組成物を調製した。
【0065】
<温度150℃以上の昇華精製による実施例1の組成物の調製>
比較例1の組成物(14g)をボートにセットし、アルゴンガスを流しながら2.0mPa条件下、150℃から190℃まで10℃/10分で昇温した後、200℃で80分間、215℃~220℃で10時間の条件にて昇華精製を行い、実施例1の組成物を得た。
なお、下記表4および表5に昇温しない段階における温度を、昇華精製の温度として記載した。
【0066】
<ソックスレー抽出による実施例2の組成物の調製>
比較例1の組成物(1g)をソックスレー抽出器にセットして、トルエン50mlにて抽出および濃縮をした後、減圧乾燥し、実施例2の組成物を得た。この精製方法を「ソックスレー抽出A」とした。
【0067】
<ソックスレー抽出による実施例3の組成物の調製>
比較例1の組成物(1g)をソックスレー抽出器にセットして、トルエン50mlおよびメタノール10mlの混合溶媒にて抽出および濃縮をした後、減圧乾燥し、実施例3の組成物を得た。この精製方法を「ソックスレー抽出B」とした。
【0068】
<水分散1回による比較例2の組成物の調製>
100mlフラスコに比較例1の組成物(1g)および蒸留水50mlを入れ、1時間攪拌し、ろ過した。その後、ろ物を減圧乾燥し、比較例2の組成物を得た。
【0069】
<水分散2回による比較例3の組成物の調製>
100mlフラスコに、水分散1回を行った比較例2の組成物(0.6g)および蒸留水30mlを入れ、1時間攪拌し、ろ過した。その後、ろ物を減圧乾燥し、比較例3の組成物を得た。
【0070】
<水分散3回による比較例4の組成物の調製>
100mlフラスコに、水分散2回を行った比較例3の組成物(0.3g)および蒸留水25mlを入れ、1時間攪拌し、ろ過した。その後、ろ物を減圧乾燥し、比較例4の組成物を得た。
【0071】
<再結晶1回による比較例5の組成物の調製>
100mlフラスコに比較例1の組成物(1g)およびオルトジクロロベンゼン20mlを入れ、加熱して溶解し、水冷し、ろ過した。その後、ろ物を減圧乾燥し、比較例5の組成物を得た。
【0072】
<再結晶2回による比較例6の組成物の調製>
100mlフラスコに、再結晶1回を行った比較例5の組成物(0.6g)およびオルトジクロロベンゼン12mlを入れ、加熱して溶解し、水冷し、ろ過した。その後、ろ物を減圧乾燥し、比較例6の組成物を得た。
【0073】
<再結晶3回による比較例7の組成物の調製>
100mlフラスコに、再結晶2回を行った比較例6の組成物(0.3g)およびオルトジクロロベンゼン6mlを入れ、加熱して溶解し、水冷し、ろ過した。その後、ろ物を減圧乾燥し、比較例7の組成物を得た。
【0074】
<シリカゲルクロマトグラフィー1回による比較例8の組成物の調製>
比較例1の組成物(2g)をクロロホルムに溶解し、シリカゲルクロマトグラフィーを施した。得られた分画を減圧濃縮し、減圧乾燥し、比較例8の組成物を得た。
【0075】
<シリカゲルクロマトグラフィー2回による比較例9の組成物の調製>
シリカゲルクロマトグラフィー1回を行った比較例8の組成物(1g)をクロロホルムに溶解し、シリカゲルクロマトグラフィーを施した。得られた分画を減圧濃縮し、減圧乾燥し、比較例9の組成物を得た。
【0076】
[実施例4~6および比較例10~13]
化合物2を用いて、各実施例および比較例の組成物を調製した。なお、化合物2は、Tetrahedron 66(2010)8778-8784におけるCompound 1aに相当する。
【0077】
<化合物2の合成および比較例10の組成物の調製>
化合物2の合成およびカラムクロマトグラフィーによる精製をTetrahedron 66(2010)8778-8784に記載の方法、特に3.2.11.に記載の精製方法で行い、比較例10の組成物を調製した。
【0078】
<実施例4~6および比較例11~13の組成物の調製>
Tetrahedron 66(2010)8778-8784に記載のカラムクロマトグラフィーにより精製して得られた比較例2の組成物を用い、比較例2の組成物を加熱条件以外は実施例1と同様の方法でさらに精製して、実施例4の組成物を調製した。実施例4では減圧精製における昇温後の加熱条件を210℃~240℃で10時間に変更した。
また、比較例2の組成物をそれぞれ実施例2、3および比較例2~4と同様の方法でさらに精製して、実施例5、6および比較例11~13の組成物を調製した。
【0079】
[実施例7および比較例14]
化合物3を用いて、各実施例および比較例の組成物を調製した。なお、化合物3は、特開2015-195361号公報における化合物1に相当する。
【0080】
<化合物3の合成および比較例14の組成物の調製>
化合物3の合成および再結晶による精製を特開2015-195361号公報の[0092]~[0094]に記載の方法、特に[0094]に記載の精製方法にしたがって行い、比較例14の組成物を調製した。具体的には、比較例1と同様にO-ジクロロベンゼンから再結晶し、白色固体である比較例14の組成物を得た。
【0081】
<実施例7の組成物の調製>
特開2015-195361号公報の[0094]に記載の再結晶により精製して得られた比較例14の組成物を用い、比較例14の組成物を実施例2と同様の方法でさらに精製して、実施例7の組成物を調製した。
【0082】
[実施例8および比較例15]
化合物4を用いて、各実施例および比較例の組成物を調製した。
【0083】
<化合物4の合成および比較例15の組成物の調製>
特開2015-195361号公報に記載の方法を参考にし、以下のスキームにて化合物4を合成した。
【化12】
合成反応後の再結晶による精製を、特開2015-195361号公報の[0094]に記載の精製方法にしたがって行い、比較例15の組成物を調製した。具体的には、比較例1と同様にO-ジクロロベンゼンから再結晶し、白色固体である比較例15の組成物を得た。
【0084】
<実施例8の組成物の調製>
特開2015-195361号公報の[0094]に記載の再結晶により精製して得られた比較例15の組成物を用い、比較例15の組成物を加熱条件以外は実施例1と同様の方法でさらに精製して、実施例8の組成物を調製した。実施例8では減圧精製における昇温後の加熱条件を230℃~260℃で10時間に変更した。
【0085】
[実施例9および比較例16]
化合物5を用いて、各実施例および比較例の組成物を調製した。なお、化合物1は、特開2015-195361号公報における化合物18に相当する。
【0086】
<化合物5の合成および比較例16の組成物の調製>
化合物5の合成およびカラムクロマトグラフィーによる精製を特開2015-195361号公報の[0099]に記載の方法にしたがって行い、比較例16の組成物を調製した。
具体的には、合成反応終了後、反応液を室温まで冷却し、クロロホルム、純水を用いて分液を行った。有機層を減圧蒸留により濃縮した後、カラムクロマトグラフィー(シリカゲル、ヘキサン:酢酸エチル=3:1、ヘキサン:酢酸エチル=2:1、ヘキサン:酢酸エチル=1:1で順次展開)により精製し、白色固体である比較例16の組成物を得た。
【0087】
<実施例9の組成物の調製>
特開2015-195361号公報の[0099]に記載のカラムクロマトグラフィーにより精製して得られた比較例16の組成物を用い、比較例16の組成物を実施例4と同様の方法でさらに精製して、実施例7の組成物を調製した。
【0088】
[実施例10および比較例17]
化合物6を用いて、各実施例および比較例の組成物を調製した。
【0089】
<化合物6の合成および比較例17の組成物の調製>
特開2015-195361号公報に記載の方法を参考にし、以下のスキームにて化合物6を合成した。
【化13】
合成反応後の再結晶による精製を、特開2015-195361号公報の[0094]に記載の精製方法にしたがって行い、比較例17の組成物を調製した。具体的には、比較例1と同様にO-ジクロロベンゼンから再結晶し、白色固体である比較例17の組成物を得た。
【0090】
<実施例10の組成物の調製>
特開2015-195361号公報の[0094]に記載の再結晶により精製して得られた比較例17の組成物を用い、比較例17の組成物を加熱条件以外は実施例1と同様の方法でさらに精製して、実施例10の組成物を調製した。実施例10では減圧精製における昇温後の加熱条件を190℃~220℃で10時間に変更した。
【0091】
[実施例11および比較例18]
化合物7を用いて、各実施例および比較例の組成物を調製した。
【0092】
<化合物7の合成および比較例18の組成物の調製>
特開2015-195361号公報の[0092]~[0095]に記載の方法を参照して、化合物7の合成を行った。その後、化合物7の再結晶による精製を、特開2015-195361号公報の[0094]に記載の精製方法にしたがって行い、比較例18の組成物を調製した。具体的には、比較例1と同様にO-ジクロロベンゼンから再結晶し、白色固体である比較例18の組成物を得た。
【0093】
<実施例11の組成物の調製>
特開2015-195361号公報の[0094]に記載の再結晶により精製して得られた比較例18の組成物を用い、比較例18の組成物を加熱条件以外は実施例1と同様の方法でさらに精製して、実施例11の組成物を調製した。実施例11では減圧精製における昇温後の加熱条件を190℃~220℃で10時間に変更した。
【0094】
[実施例12および比較例19]
化合物8を用いて、各実施例および比較例の組成物を調製した。なお、化合物8は、Tetrahedron 66(2010)8778-8784におけるCompound 1bに相当する。
【0095】
<化合物8の合成および比較例19の組成物の調製>
化合物8の合成およびカラムクロマトグラフィーによる精製をTetrahedron 66(2010)8778-8784に記載の方法、特に3.2.13.で引用する3.2.11.に記載の精製方法で行い、比較例10の組成物を調製した。
【0096】
<実施例12の組成物の調製>
Tetrahedron 66(2010)8778-8784に記載のカラムクロマトグラフィーにより精製して得られた比較例19の組成物を用い、比較例19の組成物を実施例2と同様の方法でさらに精製して、実施例12の組成物を調製した。
【0097】
[比較例101および比較例102]
化合物9を用いて、各比較例の組成物を調製した。なお、化合物9は、WO2015/133402 A1における化合物1に相当する。
化合物9を含む組成物としてシグマアルドリッチ社製の商品名C8-BTBT(商品番号747092)を購入し、比較例101の組成物とした。
比較例101の組成物を加熱条件以外は実施例1と同様の方法でさらに精製して、比較例102の組成物を調製した。比較例102では減圧精製における昇温後の加熱条件を180℃~240℃で10時間に変更した。
【0098】
[比較例103および比較例104]
化合物10を用いて、各比較例の組成物を調製した。なお、化合物10は、特開2003-347624号公報の[0073]に記載された、精製前のペンタセンに相当する。
化合物9を含む組成物としてシグマアルドリッチ社製の商品名ペンタセン(商品番号P1802)を購入し、比較例103の組成物とした。
比較例103の組成物を比較例102と同様の方法でさらに精製して、比較例104の組成物を調製した。
【0099】
[比較例105および比較例106]
化合物11を用いて、各実施例および比較例の組成物を調製した。なお、化合物11は、WO2015/133402 A1における化合物2に相当する。
【0100】
<化合物11の合成および比較例105の組成物の調製>
化合物11の合成およびシリカゲルカラムクロマトグラフィーによる精製をWO2015/133402 A1の[0097]に記載の方法で行い、比較例105の組成物を調製した。精製方法は、具体的には、反応液を水洗、濃縮後シリカゲルカラムクロマトグラフィー(塩化メチレン-へキサン混合溶媒)により精製し、固体を得た。このうち一部を、Pd/C、トルエン-酢酸混合溶媒に加え、水素雰囲気下で、14時間攪拌した。反応液をろ過、濃縮、シリカゲルカラムクロマトグラフィー(塩化メチレン-ヘキサン混合溶媒)により精製した。
【0101】
<比較例106の組成物の調製>
比較例105の組成物を実施例2と同様の方法でさらに精製して、比較例106の組成物を調製した。
【0102】
[比較例107および比較例108]
化合物12を用いて、各実施例および比較例の組成物を調製した。なお、化合物12は、WO2015/133402 A1における化合物4に相当する。
【0103】
<化合物12の合成および比較例107の組成物の調製>
化合物12の合成およびシリカゲルカラムクロマトグラフィーによる精製をWO2015/133402 A1の[0099]および[0097]に記載の方法で行い、比較例107の組成物を調製した。具体的には、比較例105と同様にシリカゲルカラムクロマトグラフィーによる精製を行い、比較例107の組成物を得た。
【0104】
<比較例108の組成物の調製>
比較例107の組成物を実施例2と同様の方法でさらに精製して、比較例108の組成物を調製した。
【0105】
[有機半導体素子の作製]
有機半導体素子の作製に用いた材料は、高速液体クロマトグラフィーにより純度(254nmの吸収強度面積比)が99.0%以上であることを確認した。
【0106】
<有機半導体組成物の調製>
各実施例および比較例の組成物のいずれかをアニソールを溶媒として溶解させた0.1質量%溶液を調製し、50℃に加熱したものを、各実施例および比較例の有機半導体組成物とした。
【0107】
<有機半導体膜の成膜>
基板上に、ドロップキャスト法により有機半導体組成物を塗布し、乾燥して、有機半導体膜を成膜して形成した。
n型シリコン基板(0.4mm厚さ)の表面に、SiOの熱酸化膜200nmを形成した、25mmx25mm基板を基板Aとして使用した。基板Aの熱酸化膜の表面は、UV-オゾン洗浄した後、β-フェニチルトリメトキシシラン処理を行った。
【0108】
基板Aのフェニチルトリメトキシシラン処理面の上に、各実施例および比較例の有機半導体組成物をドロップキャストした後、ホットプレート上で100℃10分間乾燥することで有機半導体膜を形成した。
【0109】
得られた有機半導体膜を半導体活性層として用い、さらにマスクをつけて電荷注入アクセプターとしてF4-TCNQ 1nmと金電極40nmをそれぞれ蒸着することによりFET特性測定用のボトムゲート・トップコンタクト型の有機トランジスタ素子を得た。得られた有機トランジスタ素子を、各実施例および比較例の有機半導体素子とした。
【0110】
[評価]
<元素の含有量>
各実施例および比較例の組成物を灰化および酸溶解し、アジレント社製ICP-MS HP7700を用いてナトリウム元素、カリウム元素、ケイ素元素およびアルミニウム元素の含有量をそれぞれppm単位で定量した。
ナトリウム元素、カリウム元素、ケイ素元素およびアルミニウム元素の総含有量と、ケイ素元素の含有量をそれぞれ算出し、下記表4および5に記載した。
なお、有機半導体素子中の有機半導体膜の特定元素の定量は、同様にして測定可能である。
【0111】
<キャリア移動度の耐熱性>
(a)加熱前のキャリア移動度
有機半導体素子のFET特性は、セミオートプローバー(ベクターセミコン製、AX-2000)を接続した半導体パラメーターアナライザー(Agilent製、4156C)を用いて常圧・大気下で評価した。
各実施例および比較例の有機半導体素子(FET素子)のソース電極-ドレイン電極間に-80Vの電圧を印加し、ゲート電圧を20V~-100Vの範囲で変化させ、ドレイン電流Iを表わす式I=(w/2L)μC(V-Vthを用いてキャリア移動度μを算出した。式中、Lはゲート長、Wはゲート幅、Cは絶縁体層の単位面積当たりの容量、Vはゲート電圧、Vthは閾値電圧を表す。
【0112】
(b)加熱後のキャリア移動度
各実施例および比較例の有機半導体素子を、大気下120℃にて10分間の条件で加熱した後に、加熱前のキャリア移動度と同様の方法でキャリア移動度μを測定した。この加熱の条件は、有機半導体膜のパターニングのために用いるフォトレジスト、例えばShipley社製の製品名 MICROPOSIT S1828 PHOTO RESISTの加熱条件として想定される。
【0113】
(c)キャリア移動度の耐熱性の評価
下記式より、加熱後のキャリア移動度維持率を算出した。
加熱後のキャリア移動度維持率(%)=100%×加熱後のキャリア移動度/加熱前のキャリア移動度
算出した加熱後のキャリア移動度維持率を以下の評価基準にしたがって評価し、キャリア移動度の耐熱性を評価した。実用上はAA、AまたはBであることが好ましく、AAまたはAであることがより好ましく、AAであることが特に好ましい。得られた結果を下記表4および5に記載した。
-評価基準-
AA:95%以上。
A:80%以上、95%未満。
B:65%以上、80%未満。
C:50%以上、65%未満。
D:35%以上、50%未満。
E:25%以上、35%未満。
F:15%以上、25%未満。
G:15%未満。
【0114】
【表4】
【0115】
【表5】
【0116】
上記表4および表5より、本発明の組成物を用いた有機半導体素子は、キャリア移動度の耐熱性が高いことがわかった。
一方、比較例の組成物を用いた有機半導体素子は、キャリア移動度の耐熱性が低いことがわかった。特に、比較例1~19の組成物は、ナトリウム元素、カリウム元素、ケイ素元素およびアルミニウム元素の総含有量が本発明で規定する上限値を超えるものであり、キャリア移動度の耐熱性が低かった。
比較例101、103、105および107の組成物は、式1を満たさない化合物を含み、かつ、ナトリウム元素、カリウム元素、ケイ素元素およびアルミニウム元素の総含有量が本発明で規定する上限値を超えるものであり、キャリア移動度の耐熱性が低かった。比較例102、104、106および108の組成物は、式1を満たさない化合物を含むものであり、キャリア移動度の耐熱性が低かった。
以上より、ナトリウム元素、カリウム元素、ケイ素元素およびアルミニウム元素の総含有量を少なくするだけではキャリア移動度の耐熱性を高くできないことがわかった。そして、ナトリウム元素、カリウム元素、ケイ素元素およびアルミニウム元素の総含有量を少なくし、かつ、式1で表される化合物を選択する場合に、キャリア移動度の耐熱性を高くできることがわかった。
【符号の説明】
【0117】
11 基板
12 電極
13 絶縁体層
14 半導体活性層(有機半導体膜)
15a、15b 電極
31 基板
32 電極
33 絶縁体層
34a、34b 電極
35 半導体活性層(有機半導体膜)
図1
図2