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  • 特許-銅スラグの評価方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-01-04
(45)【発行日】2022-02-04
(54)【発明の名称】銅スラグの評価方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 33/24 20060101AFI20220128BHJP
   C22B 7/04 20060101ALI20220128BHJP
   C22B 15/00 20060101ALN20220128BHJP
【FI】
G01N33/24 A
C22B7/04 Z
C22B15/00 102
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2018059158
(22)【出願日】2018-03-27
(65)【公開番号】P2019174132
(43)【公開日】2019-10-10
【審査請求日】2021-01-05
(73)【特許権者】
【識別番号】000183303
【氏名又は名称】住友金属鉱山株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100134979
【弁理士】
【氏名又は名称】中井 博
(74)【代理人】
【識別番号】100167427
【弁理士】
【氏名又は名称】岡本 茂樹
(72)【発明者】
【氏名】加地 伸行
(72)【発明者】
【氏名】竹之内 宏
(72)【発明者】
【氏名】竹田 賢二
(72)【発明者】
【氏名】浅野 聡
【審査官】西浦 昌哉
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-193422(JP,A)
【文献】特開2011-226811(JP,A)
【文献】特開2008-232699(JP,A)
【文献】米国特許第5285679(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 33/24
C22B 1/00-61/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
銅スラグを粉砕した銅スラグ粉を酸性溶液と混合してスラリーを形成し、該スラリー中に溶出した砒素の濃度に基づいて銅スラグの溶出性を評価する方法であって、
銅スラグ粉の粒度が0.15mmより小さい
ことを特徴とする銅スラグの評価方法。
【請求項2】
銅スラグ粉が、
目開きが0.15mmの篩を通過した粉である
ことを特徴とする請求項1記載の銅スラグの評価方法。
【請求項3】
銅スラグを粉砕した銅スラグ粉を酸性溶液と混合してスラリーを形成し、該スラリー中に溶出した鉛の濃度に基づいて銅スラグの溶出性を評価する方法であって、
銅スラグ粉の粒度が0.105mmより小さい
ことを特徴とする銅スラグの評価方法。
【請求項4】
銅スラグ粉の粒度が、
目開きが0.105mmの篩を通過した粉である
ことを特徴とする請求項3記載の銅スラグの評価方法。
【請求項5】
酸性溶液が塩酸である
ことを特徴とする請求項1、2、3または4記載の銅スラグの評価方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、銅スラグの評価方法に関する。さらに詳しくは、銅スラグからの砒素や鉛の溶出特性を高精度に評価するための銅スラグの評価方法に関する。
【背景技術】
【0002】
銅は、一般的には、銅を含有する採掘された鉱石(硫化鉱石)から以下のような方法によって製造されている。
【0003】
まず、硫化鉱石を破砕・粉砕した後、浮遊選鉱などの方法によって有価成分と脈石成分とを分離して銅精鉱を得る。この銅精鉱を自熔炉などの高温の炉に投入して熔解し次いで転炉に装入して残存する脈石成分や一部の不純物を転炉スラグとして分離し、99%程度の銅品位の粗銅を得る。そして、得られた粗銅を電解精製することによって、純度が99.99%程度の電気銅を得る。なお、硫化鉱石には、銅以外にも金や銀などの有価成分が含まれており、これらの成分も銅を製造する工程において回収される。
【0004】
一方、上述したような工程で銅を製造した場合、自熔炉や転炉からは不純物を含有する自熔炉スラグや転炉スラグ(以下まとめて銅スラグと称する)が発生する。硫化鉱石には、例えば、上述した有価成分以外に、硫黄など鉱石を構成する成分や、ケイ素、鉄、カルシウムなどの脈石成分が含有されており、鉛やアンチモン、ヒ素などの不純物成分も微量ではあるが硫化鉱石に含まれている。これらの成分の一部は、銅スラグに含有されることになる。
【0005】
銅スラグは、ケイ素や鉄、カルシウムが安定したガラス質の構造となっており、不純物成分はそのガラス質の構造の中に安定して取り込まれている。このため、銅スラグは酸性などの雰囲気下であっても化学変化を示すことがほとんどなく、不純物成分の溶出などが生じにくく環境的な問題が少ない特徴がある。加えて、銅スラグは、比重が砂よりも大きい特徴があるので、銅スラグを海砂の代替え品として着目し、骨材として有効に再利用することが進んでいる。
【0006】
上述したように、銅スラグは安定した構造を有しているが、海砂の代替え品などとして使用する場合には、環境への影響を考慮して、不純物成分の溶出が評価される。
【0007】
例えば、銅スラグを骨材に用いる場合、その品質は銅スラグ骨材に関するJIS規格、JIS A5011-3により、粒度、アルカリシリカ反応性が規定されており、この規定を満たす必要がある。
【0008】
また、銅スラグに関する環境安全品質のうち、工業的には鉛及びヒ素の品位が重要である。銅スラグ中の鉛及びヒ素の含有量に関する評価は、スラグ類の化学物質試験方法に関するJISにおいて、第2部:含有量試験方法としてJIS K0058-2に規定されている方法に準拠して評価するのが一般である。
【0009】
骨材などとして銅スラグを使用するには上述したような規格を満たす品質を維持しなければならない。そして、品質を維持するためには、銅スラグから鉛及びヒ素の溶出特性を正確に評価することが重要である。
【0010】
銅スラグから鉛及びヒ素などの成分(対象成分)の溶出特性を評価する方法として、以下のような方法がある。
【0011】
まず、銅スラグを粉砕するなどして、2mm目のふるいを全量通過する銅スラグ粉を調製する。ついで、溶媒として濃度が1mol/Lの塩酸溶液と質量体積比が3%となるように銅スラグ粉を混合して銅スラグスラリーを形成し、この銅スラグスラリーを振とう容器に加える。
【0012】
ついで、銅スラグスラリーを入れた振とう容器を振とう機にセットし、振とう幅が4~5cmとなる大きさで毎分約200回を2時間かけて振とうする。
【0013】
振とう終了後、必要に応じて毎分3000回転の遠心分離機で20分間遠心分離し、得た上澄み液をフィルターでろ過する。そして、ろ過したろ液に含まれる対象成分濃度をJIS K0102又は公的に確立された方法であるICP発光分析法等の方法で測定し、対象成分の含有量濃度を算出し、対象成分の溶出特性の評価値とする。
【0014】
得られた対象成分の溶出特性の評価値は、銅スラグにおける対象成分の含有量や溶出性を改善する方法を検討するために使用される。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0015】
【文献】JIS K0058-2
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
しかしながら、上記の方法によって得られた対象成分の溶出特性の評価値を求めた場合、同じロットの試料からでも得られる評価値にばらつきが多く、安定して溶出特性を評価することが難しい。銅スラグにおける対象成分の含有量や溶出性の改善方法を検討する際には、改善方法の評価に対象成分の溶出特性の評価値を利用するが、同一ロットであっても評価値にバラツキが有れば溶出特性改善方法の評価を適切に行うことが困難である。
【0017】
本発明は上記事情に鑑み、銅スラグからの砒素や鉛の溶出を適切に評価できる銅スラグの評価方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0018】
第1発明の銅スラグの評価方法は、銅スラグを粉砕した銅スラグ粉を酸性溶液と混合してスラリーを形成し、該スラリー中に溶出した砒素の濃度に基づいて銅スラグの溶出性を評価する方法であって、銅スラグ粉の粒度が0.15mmより小さいことを特徴とする。
第2発明の銅スラグの評価方法は、第1発明において、銅スラグ粉が、目開きが0.15mmの篩を通過した粉であることを特徴とする。
第3発明の銅スラグの評価方法は、銅スラグを粉砕した銅スラグ粉を酸性溶液と混合してスラリーを形成し、該スラリー中に溶出した鉛の濃度に基づいて銅スラグの溶出性を評価する方法であって、銅スラグ粉の粒度が0.105mmより小さいことを特徴とする。
第4発明の銅スラグの評価方法は、第3発明において、銅スラグ粉が、目開きが0.105mmの篩を通過した粉であることを特徴とする。
第5発明の銅スラグの評価方法は、第1、第2、第3または第4発明において、酸性溶液が塩酸であることを特徴とする請。
【発明の効果】
【0019】
第1または第2発明によれば、銅スラグ粉から溶出する砒素の濃度のバラつきを小さくできるので、銅スラグ粉からの砒素の溶出を適切に評価できる。
第3または第4発明によれば、銅スラグ粉から溶出する鉛の濃度のバラつきを小さくできるので、銅スラグ粉からの鉛の溶出を適切に評価できる。
第5発明によれば、銅スラグ粉からの砒素や鉛の溶出を適切に評価できる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】(A)は銅スラグ粉を篩分けする目開きが2mm以下の場合におけるろ過液に含まれる砒素および鉛の濃度に対する、目開きを変化させた場合に各目開きでろ過液に含まれる砒素および鉛の濃度の割合を示したグラフであり、(B)は銅スラグ粉の粒径とろ過液に含まれる砒素および鉛の濃度との関係を示したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本実施形態の銅スラグの評価方法は、銅スラグからの不純物の溶出を評価する方法であって、評価値のバラつきを抑制することができるようにしたことに特徴を有している。
【0022】
本実施形態の銅スラグの評価方法によって得られた評価値は、銅スラグを骨材に用いる場合における銅スラグの品質の評価や、銅スラグ中の鉛及びヒ素の含有量に関する評価、銅スラグからの鉛及びヒ素の溶出性の評価に使用することができる。
【0023】
<本実施形態の銅スラグの評価方法>
本実施形態の銅スラグの評価方法を説明する。
まず、本実施形態の銅スラグの評価方法の概略を説明する。
【0024】
まず、評価対象となる銅スラグを、ボールミルや振動ディスクミルなどを使用して粉砕して銅スラグ粉を調製する。このとき、銅スラグ粉が所定の目開きのふるいを全量通過するように銅スラグ粉を調製する。
【0025】
ついで、銅スラグ粉を溶媒と混合して銅スラグスラリーを形成し、この銅スラグスラリーを振とう容器に加える。例えば、溶媒として濃度が、0.5~2.0mol/L、好ましは1mol/Lの塩酸溶液と銅スラグ粉を、銅スラグ粉の質量体積比が1~5%、好ましくは3%となるように銅スラグスラリーを調製し、この銅スラグスラリーを振とう容器に加える。
【0026】
ついで、銅スラグスラリーを入れた振とう容器を振とう機にセットし、振とう容器を振とうする。例えば、振とう容器を、振とう幅が4~5cmとなるように、毎分約200回の周期で2時間かけて振とうする。すると、銅スラグスラリーに含まれる成分が溶媒に溶出する。
【0027】
振とう終了後、銅スラグスラリーを上澄み液と固形分に分離する。例えば、銅スラグスラリーを必要に応じて毎分3000回転の遠心分離機で20分間遠心分離して上澄み液と固形分に分離する。
【0028】
得られた上澄み液をフィルターでろ過すれば分析用液が得られるので、この分析用液に含まれる対象成分の濃度を測定する。例えば、JIS K0102の方法や、公的に確立された方法であるICP発光分析法等の方法によって分析用液に含まれる対象成分の濃度を測定する。そして、分析用液に含まれる対象成分の含有量濃度を算出すれば、銅スラグスラリーから溶媒に溶出した量(以下溶出量という場合がある)を把握できるので、対象成分の溶出特性の評価値として使用することができる。
【0029】
<砒素の分析>
ここで、銅スラグ粉を調製する際に使用するふるいの目開きが大きい場合には、粒径の大きい粉が含まれる。すると、銅スラグスラリーを振とうした際に、銅スラグ粉と溶媒との接触が不十分となり、溶出する成分の量が安定しない。つまり、同時に調製した銅スラグスラリーであっても、銅スラグスラリーから溶媒に溶出した量のバラつきが大きくなる。
【0030】
そこで、対象成分が砒素の場合には、銅スラグ粉を調製する際に、目開きが0.15mmのふるいを全量通過するように銅スラグ粉を調製する。すると、同時に調製した銅スラグスラリーであれば、銅スラグスラリーから溶媒に溶出する砒素の量のバラつきを無くすことができる(または非常に小さくできる)。すると、上記方法で得られた分析用液における砒素の溶出量が安定するので、得られた砒素の溶出量を、銅スラグにおける砒素の溶出特性の評価値として使用することができる。
【0031】
<鉛の分析>
一方、対象成分が鉛の場合には、銅スラグ粉を調製する際に、目開きが0.105mmのふるいを全量通過するように銅スラグ粉を調製する。すると、同時に調製した銅スラグスラリーであれば、銅スラグスラリーから溶媒に溶出する鉛の量のバラつきを無くすことができる(または非常に小さくできる)。すると、上記方法で得られた分析用液における鉛の溶出量が安定するので、得られた鉛の溶出量を、銅スラグにおける鉛の溶出特性の評価値として使用することができる。
【0032】
<溶媒について>
なお、銅スラグスラリーを形成する塩酸溶液の濃度や、銅スラグスラリーにおける銅スラグ粉と塩酸溶液との質量体積比もとくに限定されない。しかし、上述した濃度や質量体積比とすれば、銅スラグスラリーからの砒素や鉛の溶出量を安定させることができる。
【0033】
また、銅スラグスラリーを形成する溶媒は、塩酸溶液に限られず他の酸も使用できる。例えば、硝酸溶液などを使用することもできる。
【0034】
<振とうについて>
銅スラグスラリーを入れた振とう容器を振とうする際に、振とう幅や振とう周期、振とう時間は上記記載に限定されず、適宜設定すればよい。
【実施例
【0035】
本実施形態の銅スラグの評価方法の有効性を実験により確認した。
【0036】
<実施例>
実施例では、銅製錬の転炉工程で生成した銅スラグを採取し、これを目開きが0.15mmのふるいを全量通過するように粉砕して銅スラグ粉を調製した。この銅スラグ粉について、46μmから2mmまで粒度別に鉛と砒素の溶出量を測定した。
【0037】
鉛と砒素の溶出量の測定は以下のようにして行った。
【0038】
まず、調製した銅スラグ粉を4.8g分取して容積250mlのビーカーに入れ、このビーカー内に1mol/L濃度の塩酸溶液を160ml添加し銅スラグスラリーとした。
【0039】
この銅スラグスラリーを入れたビーカーをトーマス科学機器社製のTS-12H型振とう機を用いて振とうした。ビーカーを振とうした条件は、振とう幅が4.5cmであり、毎分約200回の速度で2時間振とうした。
【0040】
振とう終了後、振とう後の銅スラグスラリーを遠心分離機(KUBOTA-5200型)に入れ、毎分3000回転の速度で20分間遠心分離した。
【0041】
遠心分離後の銅スラグスラリーを、孔径0.45μmサイズのフィルターを用いて濾過して固液分離し、得られた濾液をJIS K0102に定められたICP発光分析法により成分を測定し、得られた測定値から砒素および鉛の含有量濃度を算出した。
【0042】
<比較例>
なお、比較例として、従来採用されている目開きが2mmのふるいを全量通過するように粉砕して調製した銅スラグ粉を使用した以外は実施例と同様にして、砒素および鉛の含有量濃度を算出した。
【0043】
結果を図1に示す。
図1に示すように、実施例では、粒径が小さくなるほど比較例に対して溶出量が増加している。しかも、砒素では0.150mmより小さくなると、粒径に係らず溶出量は一定となり、鉛では0.105mmより小さくなると、粒径に係らず溶出量は一定となった。
また、同一試料における評価値のバラツキ(変動係数)は、比較例では、鉛11重量%、ヒ素7.3重量%であるが、実施例では、鉛3.3重量%、ヒ素3.7重量%となりバラつきが小さくなっている。
【0044】
以上の結果より、本実施形態の銅スラグの評価方法を使用すれば、銅スラグからの砒素や鉛の溶出量のバラツキを少なくでき、銅スラグから溶出特性を精度よく評価できることが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0045】
本発明の銅スラグの評価方法は、銅スラグからの鉛や砒素が酸と接触した際の溶出を評価する方法として適している。
図1