(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-01-04
(45)【発行日】2022-02-04
(54)【発明の名称】電解スライム回収装置及び電解スライム回収方法
(51)【国際特許分類】
C25C 1/00 20060101AFI20220128BHJP
C25C 7/06 20060101ALI20220128BHJP
C25C 1/12 20060101ALN20220128BHJP
【FI】
C25C1/00 303Z
C25C7/06 301Z
C25C7/06 301A
C25C1/12
(21)【出願番号】P 2018079380
(22)【出願日】2018-04-17
【審査請求日】2020-10-29
(73)【特許権者】
【識別番号】000183303
【氏名又は名称】住友金属鉱山株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100123869
【氏名又は名称】押田 良隆
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 健司
【審査官】池ノ谷 秀行
(56)【参考文献】
【文献】特開昭58-006994(JP,A)
【文献】特開平05-065685(JP,A)
【文献】特開2003-221692(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C25C 1/00-7/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属の電解精製時に、カソードと前記カソード表面と対向して配置されるアノードと、前記カソード及びアノードが浸漬している電解液を貯留した電解槽における前記アノード表面に発生する電解スライムの回収装置であって、
前記アノード表面の前記電解スライムを、前記アノード表面から
掻き取って除去する
スクレイバー部を有する電解スライム除去部を備え、
前記スクレイバー部が、前記アノード表面と接触状態を維持しながら、前記アノード表面から前記電解スライムを掻き取り、前記アノード表面から浮かせる除去具と、
前記除去具と一体若しくは隣接して設けられ、
前記アノード表面から掻き取られてアノード表面に浮いた電解スライムを前記電解液と一緒に吸引する吸引口を有する吸引部を含むことを特徴とする電解スライム回収装置。
【請求項2】
金属の電解精製時に、カソードと前記カソード表面と対向して配置されるアノードと、前記カソード及びアノードが浸漬している電解液を貯留した電解槽における前記アノード表面に発生する電解スライムの回収装置であって、
前記アノード表面の前記電解スライムを、前記アノード表面から掻き取って除去するスクレイバー部を有する電解スライム除去部を備え、
前記スクレイバー部が、前記アノード表面と接触状態を維持しながら、前記アノード表面から前記電解スライムを掻き取り、前記アノード表面から浮かせる除去具と、
前記除去具と一体若しくは隣接して設けられ、前記アノード表面から掻き取られてアノード表面に浮いた電解スライムを前記電解液と一緒に吸引する吸引口を有する吸引部と、
前記除去具が配置されたアノードと対向した位置のカソードの表面に近接した位置、且つ略平行な位置に配置される隔壁を有
し、
前記隔壁が、電解液中に浮遊状態の電解スライムが、カソード表面に付着して汚染するのを防ぐ役割を果たし、前記電解槽に貯留された電解液に浸漬された後、前記スクレイバー部が備える前記除去具及び吸引口が、前記電解液に全没することを特徴とする電解スライム回収装置。
【請求項3】
前記吸引部により吸引された電解スライムを含んだ電解液から、前記電解スライムを分離して濾過後電解液を生成し、分離した前記電解スライムを回収する電解スライム回収部と、
前記濾過後電解液を、前記電解槽に循環供給する供給部を備え
、
前記電解スライム回収部が、電解スライムを含んだ電解液から、前記電解スライムを濾し取り、回収電解スライムと濾過後電解液に分離する浄液フィルタを有することを特徴とする請求項1に記載の電解スライム回収装置。
【請求項4】
前記吸引部により吸引された電解スライムを含んだ電解液から、前記電解スライムを分離して濾過後電解液を生成し、分離した前記電解スライムを回収する電解スライム回収部と、
前記濾過後電解液を、前記電解槽に循環供給する供給部を備え、
前記電解スライム回収部が、電解スライムを含んだ電解液から、前記電解スライムを濾し取り、回収電解スライムと濾過後電解液に分離する浄液フィルタを有することを特徴とする請求項
2に記載の電解スライム回収装置。
【請求項5】
前記供給部が、前記除去具が配置されたアノードと対向した位置のカソードの表面に近接した位置、且つ略平行な位置に配置される隔壁とカソード間に、前記濾過後電解液を放出する供給口を有することを特徴とする請求項
4に記載の電解スライム回収装置。
【請求項6】
前記除去
具が、逆V字構造であることを特徴とする請求項1乃至5のいずれか1項に記載の電解スライム回収装置。
【請求項7】
請求項1乃至6のいずれか1項に記載の電解スライム回収装置
の電解スライム除去部を構成するスクレイバー部を、電解槽上方に吊り下げた状態から、電解槽内における前記回収装置の
スクレイバー部の設置箇所に配置する際に、前記電解槽に貯留された電解液に前記
スクレイバー部の吸引部が浸漬した時点から順次、
アノード表面の電解スライムの除去処理と、
前記除去処理により前記アノード表面より除去され、アノード表面近傍の電解スライム
と前記電解液を前記吸引部の吸引口からの吸引、
並びにカソード表面近傍への電解液の供給を開始することを特徴とする電解スライム回収方法。
【請求項8】
偶数基の請求項1乃至6のいずれかに記載の電解スライム回収装置を用い、
前記電解スライム回収装置をナンバリングし、
前記電解スライム回収装置の2基を対とし、アノード両面に各1基
の電解スライム回収装置のスクレイバー部が備える除去具及び吸引口を有する吸引部が設置されるように配置し、
前記
スクレイバー部の除去具及び吸引口を前記電解液中に液没させながら、
前記除去具による電解スライムの除去処理と、
前記除去処理により前記アノード表面より除去され、アノード表面近傍の電解スライム
と前記電解液の吸引口からの吸引、並びに、カソード表面近傍への電解液の供給を、奇数番
目の電解スライム回収装置
を用いて行い、次いで、偶数番目の電解スライム回収装置を用いて行う交互動作により行い、
アノード表面に発生する電解スライム
と前記電解液を回収することを特徴とする電解スライム回収方法。
【請求項9】
前記スクレイバー部の除去具を電解槽上部に、除去具部分を下方に向けて吊り下げた状態から、前記除去具を電解槽底方向に移動させ、前記除去具が電解槽に貯留された電解液中に全没した後に、奇数番目と偶数番目の電解スライム回収装置の交互動作を開始することを特徴とする請求項8に記載の電解スライム回収方法。
【請求項10】
電解精製の稼働中に前記電解スライム回収装置を用いてアノード表面に発生する電解スライムを回収することを特徴とする請求項7乃至9のいずれか1項に記載の電解スライム回収方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、銅等の金属を電解精製する際に発生する電解スライムを効率的に回収するための装置におよび電解スライム回収装置を用いた電解スライム回収方法に関する。
【背景技術】
【0002】
金属の精製法として電解精製法が広く用いられている。
例えば、銅の電解精製においては、銅品位99.5%程度に粗精製された銅をアノード(陽極)とし、銅品位99.99%の銅母板やステンレス母板をカソード(陰極)として、両極間に電気を通じることにより、カソード(陰極)側に銅を電着させている。
【0003】
銅アノード中には、金、銀、鉛、ビスマスなど、銅電解における目的外金属が含まれている場合が多く、銅アノードの電解が進むにつれ、アノード表面に目的外金属が現れ、個々の溶出率に従って電解液中に溶出したり、銅アノード表面に泥状に残ったり、電解槽底に沈んで泥状の沈殿物として堆積する。前記泥状の沈殿物が電解スライムと呼ばれている。
このような電解スライムはアノード表面で層を形成することにより、目的金属の電気抵抗を高め、消費電力の増加を招き、電解効率を下げるという問題や、アノード表面から剥離された電解スライムがカソードへ付着してしまい電解後の銅の純度が低下したり、カソード表面に凹凸等の欠陥が生じる事により電気ショートが発生し生産性が低下するという問題があった。
【0004】
上記の問題を解決するため、例えば特許文献1では陽極の表面に発生したアノード(陽極)スライムが陽極の表面から剥離する前に、陽極を電解槽から引き揚げ、アノードスライムを陽極の表面から除去した後、再び電解槽へ陽極を挿入し、電解精製を継続する電解精製方法が開示されている。
【0005】
また、特許文献2には電解精製中に、電解液に浸漬するように支持された陽極と陰極との間において、前記電解液が前記陽極の表面に対して垂直な流れを形成するように前記電解液の撹拌を実施する電解精製装置が開示されている。
特許文献2の発明では極板間において陽極に向かう電解液が陽極表面に対して垂直な流れを形成することにより、陰極へのスライムへの付着を抑制しつつ、陽極表面における銅イオンの溶出を促進することができる。
【0006】
特許文献3では電解槽中に吊り下げられたカソードの下端よりも下方の供給口から各カソードへ向けてそれぞれ電解液を供給するとともに、前記電解槽の上部に設けた電解液排出口からオーバーフローする電解液を排出して、前記電解槽内の電解液を循環させる電解精製方法が開示されている。
特許文献3の発明ではカソードにスライムが付着することを抑止するとともに、各カソードに対する添加剤の供給のばらつきを無くして、凹凸の少ない高品位の金属を精製できるとされている。
【0007】
これらの特許文献1~3に記載の方法では、アノード表面で発生する電解スライム、そのものを、電解槽から排除するものではなく、発生した電解スライムは、アノード表面から剥離して電解槽底面に堆積した後は、可能な限り電解液内を舞い上がらせずに電解精製終了まで維持することが行われてきていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開2005-187833号公報
【文献】特開2017-048438号公報
【文献】特開2017-057508号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、本発明では、上記のような従来事情に鑑み、電解槽から積極的に、この電解スライムを、その電解精製稼働中においても、電解液を必要以上には撹乱せずに、且つカソード表面の清浄性を維持しながら、排除することに着目し、本発明に至ったものである。
本発明は、電解精製において発生する電解スライムを効率的に回収するための装置及び電解スライム回収方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の第1の発明は、金属の電解精製時に、カソードと前記カソード表面と対向して配置されるアノードと、前記カソード及びアノードが浸漬している電解液を貯留した電解槽における前記アノード表面に発生する電解スライムの回収装置であって、前記アノード表面の前記電解スライムを、前記アノード表面から掻き取って除去するスクレイバー部を有する電解スライム除去部を備え、前記スクレイバー部が、前記アノード表面と接触状態を維持しながら、前記アノード表面から前記電解スライムを掻き取り、前記アノード表面から浮かせる除去具と、前記除去具と一体若しくは隣接して設けられ、前記アノード表面から掻き取られてアノード表面に浮いた電解スライムを前記電解液と一緒に吸引する吸引口を有する吸引部を含むことを特徴とする電解スライム回収装置である。
【0011】
本発明の第2の発明は、金属の電解精製時に、カソードと前記カソード表面と対向して配置されるアノードと、前記カソード及びアノードが浸漬している電解液を貯留した電解槽における前記アノード表面に発生する電解スライムの回収装置であって、前記アノード表面の前記電解スライムを、前記アノード表面から掻き取って除去するスクレイバー部を有する電解スライム除去部を備え、前記スクレイバー部が、前記アノード表面と接触状態を維持しながら、前記アノード表面から前記電解スライムを掻き取り、前記アノード表面から浮かせる除去具と、前記除去具と一体若しくは隣接して設けられ、前記アノード表面から掻き取られてアノード表面に浮いた電解スライムを前記電解液と一緒に吸引する吸引口を有する吸引部と、前記除去具が配置されたアノードと対向した位置のカソードの表面に近接した位置、且つ略平行な位置に配置される隔壁を有し、前記隔壁が、電解液中に浮遊状態の電解スライムが、カソード表面に付着して汚染するのを防ぐ役割を果たし、前記電解槽に貯留された電解液に浸漬された後、前記スクレイバー部が備える前記除去具及び吸引口が、前記電解液に全没することを特徴とする電解スライム回収装置である。
【0012】
本発明の第3の発明は、第1の発明における吸引部により吸引された電解スライムを含んだ電解液から、前記電解スライムを分離して濾過後電解液を生成し、分離した前記電解スライムを回収する電解スライム回収部と、前記濾過後電解液を、前記電解槽に循環供給する供給部を備え、前記電解スライム回収部が、電解スライムを含んだ電解液から、前記電解スライムを濾し取り、回収電解スライムと濾過後電解液に分離する浄液フィルタを有することを特徴とする電解スライム回収装置である。
【0013】
本発明の第4の発明は、第2の発明における吸引部により吸引された電解スライムを含んだ電解液から、前記電解スライムを分離して濾過後電解液を生成し、分離した前記電解スライムを回収する電解スライム回収部と、前記濾過後電解液を、前記電解槽に循環供給する供給部を備え、前記電解スライム回収部が、電解スライムを含んだ電解液から、前記電解スライムを濾し取り、回収電解スライムと濾過後電解液に分離する浄液フィルタを有することを特徴とする電解スライム回収装置である。
【0014】
本発明の第5の発明は、第4の発明における供給部が、前記除去具が配置されたアノードと対向した位置のカソードの表面に近接した位置、且つ略平行な位置に配置される隔壁とカソード間に、前記濾過後電解液を放出する供給口を有することを特徴とする電解スライム回収装置である。
【0015】
本発明の第6の発明は、第1から第5の発明における除去具が、逆V字構造であることを特徴とする電解スライム回収装置である。
【0016】
本発明の第7の発明は、第1から第6の発明における電解スライム回収装置の電解スライム除去部構成するスクレイバー部を、電解槽上方に吊り下げた状態から、電解槽内における前記回収装置のスクレイバー部の設置箇所に配置する際に、前記電解槽に貯留された電解液に前記スクレイバー部の吸引部が浸漬した時点から順次、アノード表面の電解スライムの除去処理と、前記除去処理により前記アノード表面より除去され、アノード表面近傍の電解スライムと前記電解液を前記吸引部の吸引口からの吸引、並びにカソード表面近傍への電解液の供給を開始することを特徴とする電解スライム回収方法である。
【0017】
本発明の第8の発明は、偶数基の第1から第6の発明における電解スライム回収装置を用い、前記電解スライム回収装置をナンバリングし、前記電解スライム回収装置の2基を対とし、アノード両面に各1基の電解スライム回収装置のスクレイバー部が備える除去具及び吸引口を有する吸引部が設置されるように配置し、前記スクレイバー部の除去具及び吸引口を前記電解液中に液没させながら、前記除去具による電解スライムの除去処理と、前記除去処理により前記アノード表面より除去され、アノード表面近傍の電解スライムと前記電解液の吸引口からの吸引、並びに、カソード表面近傍への電解液の供給を、奇数番目の電解スライム回収装置を用いて行い、次いで、偶数番目の電解スライム回収装置を用いて行う交互動作により行い、アノード表面に発生する電解スライムと前記電解液を回収することを特徴とする電解スライム回収方法。
【0018】
本発明の第9の発明は、第8の発明におけるスクレイバー部の除去具を電解槽上部に、除去具部分を下方に向けて吊り下げた状態から、前記除去具を電解槽底方向に移動させ、前記除去具が電解槽に貯留された電解液中に全没した後に、奇数番目と偶数番目の電解スライム回収装置の交互動作を開始することを特徴とする電解スライム回収方法である。
【0019】
本発明の第10の発明は、第7から第9の発明における電解精製の稼働中に前記電解スライム回収装置を用いてアノード表面に発生する電解スライムを回収することを特徴とする電解スライム回収方法である。
【発明の効果】
【0020】
本発明の電解スライム回収装置を用いた電解スライム回収方法によれば、アノード表面に残存する電解スライムを効率的に回収できると共に、カソード表面の清浄性を維持しつつ、電解精製の効率を著しく向上することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図2】本発明に係る電解スライムの回収装置の概略構成図である。
【
図3】(a)本発明に係る除去部の一実施例を示す構成図で、(b)本発明の他の実施例を示す構成図で、(c)本発明の他の実施例を示す構成図である。
【
図4】本発明に係る吸引部の他の例を示す概略構成図である。
【
図5】本発明に係るスクレイバー部を示す概略模式図で、(a)はブラシ型の除去具を持つ別体型のスクレイバー部の一例、(b)はブラシ型の除去具を持つ一体型のスクレイバー部の一例、(c)は、たわし型の除去具を持つ別体型のスクレイバー部の例、(d)はヘラ型の除去具を持つ一体型のスクレイバー部の一例を示す図である。
【
図6】本発明に係る供給部の概略構成図で、(a)は側面側からの供給部の電解液に浸漬された直後の状態を示す図、(b)は上方からの図、(c)は回収作業中の供給部の状態を示す図である。
【
図7】本発明に係る電解スライム回収方法の説明図で、(a)は、回収装置の電解液浸漬直後の状態を示す図で、(b)は、電解スライム回収中の図である。(c)は、回収装置を上下に交互動作される運転機構の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本発明の実施形態について図面を参照しながら説明する。
図1は本発明の電解スライム回収装置が用いられる電解槽の構成を説明する側面断面図である。
電解槽1内には、電解液2が溜められ、その電解液2中にアノード3とカソード4が一定の間隔で交互に浸漬されている。
通常、使用するアノード3としては精製する金属の原料金属が用いられる。例えば銅精製の場合は銅品位99.5%程度の粗銅が用いられる。
一方、カソード4としては、純銅板やステンレス板が用いられる。
電解液2として硫酸酸性の硫酸銅水溶液が用いられている。
【0023】
電解精製が行われている間、アノード表面には電解スライムと呼ばれるアノードに含まれる不純物を主とする流動性の塊、ノロが発生し、電解液中に拡散すると、電解液を汚すことになり、結果として電解精製の生成物であるカソードの品質を低下させてしまうと同時に、電解効率を低下させる原因となっている。そこで、従来は、その電解スライムが発生した後は、電解液内で静置状態を維持する方策がおこなわれてきたが、本発明では、そのような電解スライムをアノード表面から積極的に除去する方策を見出し、完成に至ったものが、本発明に係る電解スライム回収装置である。
【0024】
図2は本発明に係る電解スライム回収装置の構成を説明する図で、100は本発明に係る電解スライム回収装置で、Aは電解スライム除去部、Bは電解スライム回収部、Cは供給部、Sはスクレイバー部、5は電解スライムの除去具、6は吸引口、7は吸引部、8は浄液フィルタ、8aは濾過ポット、9は輸送管、10は供給口、bは開閉弁、hは隔壁、P
1は送液ポンプである。
【0025】
図2に示す電解スライム回収装置100は、電解スライムを掻き取る除去具5(例えば図中のブラシなど)と、その除去具により掻き取られた電解スライムを電解液と共に吸引する吸引口6と電解スライム吸引時にカソード表面への影響を抑える隔壁hを有する吸引部7からなるスクレイバー部Sと輸送管などの付帯設備で構成される電解スライム除去部Aと、吸引された電解スライムを含んだ電解液から、電解スライムを分離して濾過後電解液を生成し、分離した電解スライムを回収する電解スライム回収部Bと、濾過後電解液を送液ポンプで電解槽に電解液として循環供給する供給部Cとに大別される。
以下、各部を順に説明する。なお、
図2において、黒矢印は電解スライムを含む電解液、破線矢印は濾過後の電界液の流れを示すものである。
【0026】
[電解スライム除去部]
この電解スライム除去部Aにおける主要部位であるスクレイバー部Sは、アノード表面に接触するように配置され、電解精製中にアノード表面に発生する電解スライムをアノード表面から掻き取るためのブラシのような除去具5と、その除去具5の上方に除去具5によって掻き取られた電解スライムを電解液と一緒に吸引するための吸引口6を有する吸引部7が、除去具5と一体若しくは連結して設けられている。この除去具5と吸引部7は一体となって、除去具5がアノード表面と接触状態を維持しながら、移動することで、除去具5がアノード表面の電解スライムを掻き取り、アノード表面から浮かせ、その浮いた電解スライムを吸引口6から吸い取り、アノード表面から除去する役割を有している。
さらに、アノード表面から掻き取られ、電解液中に浮遊状態の電解スライムが、カソード表面に付着して汚染するのを防ぐ役割を果たす隔壁hが、掻き取り作業が行われているアノード3の表面と、そのアノード3の表面に対向した位置にあるカソード4の表面に近接した位置、且つ略平行な位置に配置されている。
【0027】
その形態は、
図3(a)~(c)に示されるような構造を採用することができる。
図3(a)は、アノードの幅より短い長さ(例えば、1/10~1/5程度)を持つ除去具5とその上方に設置された吸引口6を備える吸引部7からなるユニットを単独で装備する形態のものである。なお、本ユニットを複数用い、アノード幅一杯に配置して用いても良い。なお、図中の黒矢印は、スクレイバー部の動作軌跡を示している。
図3(b)は、アノード幅とほぼ同じ長さを持つ除去具5を有し、その上方に吸引口6を配置した構成の吸引部7からなるユニットを装備した形態のものである。なお図中の白抜き矢印は、スクレイバー部の動作軌跡を示している。
図3(c)は、逆V字状の除去具5を単独又は複数有し、その上方に吸引口6を備えた吸引部からなるユニットを装備した形態を示している。なお図中の白抜き矢印は、スクレイバー部の動作軌跡を示している。
また、
図3(a)~(c)は、いずれもアノードからカソード方向を視認した場合の各構成要素の配置を示した図となっている。
【0028】
なお、吸引部は除去具に向かって末広がりの開口(吸引口)を持つラッパ状の筐体を持ち、通常吸引口と対向した位置に、吸引した電解スライムを含んだ電解液を回収部に運ぶ輸送管9を備え、この輸送管9は送液ポンプP
1と繋がっている(
図2参照)。
また、
図4に見られるように、上下に少なくとも2個のスクレイバー部S
1、S
2を備える構成であっても良い。
複数のスクレイバー部S
1、S
2を吸引部が備える場合、各スクレイバー部から吸引部への輸送管9、9に、開閉弁b
1、b
2を設けることで、電解スライムの掻き取り作業及び吸引作業をスクレイバー部毎に独立して制御可能となり、例えば、電解液に浸漬する際には、電解液への浸漬タイミングにより開閉弁b
2を開位置とし、開閉弁b
1を閉位置として、スクレイバー部S
2を先ず稼働させ、電解スライムの回収作業を行いながら、電解槽底部方向に移動していく。
さらに、スクレイバー部S
1の電解液への浸漬と同期して、開閉弁b
1が開位置となり、スクレイバー部S
1による電解スライムの回収作業が開始される。このスクレイバー部S
1が稼働した状態では、開閉弁b
2を閉じて、スクレイバー部S
2の動作を中断しても、そのままの継続状態であっても良く、電解液の状態や電解スライム発生状況やカソード表面状態などを考慮して判断する。
【0029】
除去具5の形態は、一般的なデッキブラシ、洗車ブラシ、整髪ブラシのような毛先の一端が拘束されたブラシ形状のものを想定しているが、コイル形態やたわし形態などの、アノード表面の電解スライムを、アノード表面を傷付けずに掻き取ることが可能な形態であることが重要であり、さらには、ブラシの柄を中空とし、ブラシの毛先基部の柄部分に電解スライムを吸い取り可能な程度の空孔を設けたブラシでは、吸引口を併せて備えることが可能な形態である。さらに、ガラスワイパーのようなT字形形状で、且つ先端のT字部が樹脂で構成され、その部位で電解スライムを掻き取るタイプの除去具も使用可能である。
【0030】
図5に、上記除去具を含めたスクレイバー部の実施例を示す。
図5(a)のスクレイバー部Saは、ブラシ型の除去具5aと、吸引口6及び吸引部7が隣接した別体のスクレイバー部を構成している。
図5(b)は、柄が中空の洗車ブラシ型のスクレイバー部Sbで、ブラシ型の除去具5aと吸引口6、吸引部7が一体の構成物の例である。
図5(c)は、除去具がたわし型の除去具5bを備えた別体型のスクレイバー部Scである。
図5(d)は、T字形のガラスワイパーのような形状を持つスクレイバー部Sdで、除去具は樹脂製のへら5cをT字部に備え、T字形部材を吸引部7とし、その吸引部6に吸引口6が設けられた一体型のスクレイバー部Sdである。
なお、
図5内の白抜き矢印は、吸引された電解スライムを含んだ電解液の流れる方向を示している。
【0031】
このような除去具5の材質は、アノード表面を深く傷つけず、且つ電解液に侵されない材質であれば金属、卑金属の区別なく種々の材質を用いることができるが、例えば、耐酸性を有し、アノード表面を傷つけない材質としてはポリプロピレン(PP)や塩化ビニル(PVC)等の有機高分子材料が好適に用いることができる。
【0032】
[電解スライム回収部]
この電解スライム回収部Bでは、吸引された電解スライムを含んだ電解液を、電解スライム(若干の電解液を含む)と、濾過後電解液として汚れの少ない電解液に分離し、電解スライムの回収と、濾過後電解液を供給部に送液する役割を担っている。
【0033】
図2に示す、その具体的な構成は、電解スライムを含んだ電解液から、電解スライムを濾し取り、回収電解スライムと濾過後電解液に分離する浄液フィルタ8と、濾過後電解液を一時的に貯留する濾過ポット8aからなる。なお、浄液フィルタ8で分離された電解スライムは、浄液フィルタ8にある程度貯まった状態で、浄液フィルタの交換や電解スライムの除去作業などの廃棄処理が行われて電解槽内から系外に排出される。
【0034】
[供給部]
供給部Cは、
図2又は
図6に示すように、アノード3とはスクレイバー部Sを介して対向した位置で、そのアノード3の隣り合うカソード4の表面に近接した位置、且つ略平行な位置に配置される隔壁hとカソード4間に、濾過後電解液を放出する供給口10を有している。また、その供給口10は輸送管9を通じて浄液フィルタ8の濾過後電解液側に繋がり、送液ポンプP
1により濾過後電解液が、電解スライムの除去を行っているアノード近傍のカソード表面に向かって送液され、供給口10から電解槽に循環されている。なお、隔壁hを用いない場合には、濾過後電解液の供給口10は、カソード上部の表面近傍で、濾過後電解液を緩やかに放出できる、即ち、カソード表面に対して層流の性質を有する流れになるように放出可能な位置、及び条件で放出される。
【0035】
図6に、電解槽内での供給部Cの形態を示す。(a)は側面側からの供給部の電解液に浸漬された直後の状態を示す側面模式図で、(b)は上方から電解槽上面の状態を示す上面模式図で、(c)は回収作業中の供給部の状態を示す側面模式図で、スクレイバー部Sがアノードの電解槽底方向の先端部にある場合を示している。なお、
図6では電解槽における電解精製の一ユニットを示して説明しているもので、電解槽内では複数の
図6に示す状態が設定されている。
【0036】
通常、電解スライム回収装置は、その2基のスクレイバー部Sn(奇数基)と、Sn+1(偶数基)を、電解スライムの除去処理を行うアノード3を介して、その表面に設置される。また、そのアノード3と隣り合うカソード4、4との間には、掻き取った電解スライムで汚された電解液による悪影響を避けるための隔壁h、hが設けられる。その隔壁hとカソード4との間には、電解液の汚れの影響を極力抑えるために放出される濾過後電解液の供給口10が設置されている。この供給口10は、電解液が放出されることで電解スライムがカソード表面側に寄りつくのを防ぐために、少なくともカソードの電解槽底方向における中央部位置以下には配置されないように、回収部Bとは同期しながら別個に制御されている。図中の破線矢印は放出される電解液の流れの一部を示している。また、実線矢印は、吸引された電解スライムを含む電解液の流れ方向を示している。
なお、各部に設けられた送液用のポンプの形態は、図に示す構成に拘束されるものではなく、適宜望ましい構成を採用することができる。また、図中の白抜き矢印は、電解スライム除去部の上下動の動作を示すもので、横動の動作は紙面垂直方向になる。
【0037】
次に、本発明の電解スライムの回収装置を用いた電解スライムの回収方法を説明する。
図7は本発明に係る電解スライム回収方法の説明図で、(a)は、回収装置の電解液浸漬直後の状態を示す図で、(b)は、電解スライム回収中の図である。(c)は、回収装置を上下に交互動作される運転機構の一例を示す図である。
本発明に係る電解スライム回収装置を、電解槽上方に吊り下げた状態から、電解槽内の回収装置設置位置に配置する際に、
図7(a)に示されるように、先ず隔壁hが電解槽に貯留された電解液2に浸漬された後、隔壁hを他の部位より先行させて電解槽底部方向に配置して他の部位の浸漬、電解スライムの回収作業を行う、或いは隔壁配置位置(通常アノードの電解槽底側先端部より電解槽底部側に設定されている)に、他の部位に先行して配置した後に、回収装置の他の部位の浸漬した部分から順次、電解スライムの回収作業であるアノード表面近傍の電解スライムを含む電解液の吸引と、カソード表面近傍への電解液の供給を開始する。
【0038】
その際には、少なくとも2基のナンバリングした電解スライム回収装置を用い、その電解スライム回収装置の2基を対とし、アノード両面に各1基が設置されるように電解槽上方に配置し、電解スライムの除去と、その電解スライムを含む電解液の吸引と、濾過後電解液の供給を、電解液への浸漬と同期しながら、スクレイバー部Sを電解液に全没させる(
図7(b)参照)。なお、カソードの純度を維持、向上させるためには、この電解液の供給は、濾過後電解液のみの供給に限らず、別途供給装置を準備、使用して不純物の少ない清浄な電解液(例えば、未使用の電解液など)を供給しても良い。
【0039】
次に、
図7(c)のようなクランクシャフト21を使用した運転機構を用い、奇数番目と偶数番目の電解スライム回収装置を交互動作させ、スクレイバー部S及び供給部Cを、
図3に示すスクレイバー部Sの除去具5の形態に沿った動作、即ち、上下動又は横動、或いはそれらの組み合わせの動作により、アノード表面に発生する電解スライムの除去と、その電解スライムを含む電解液の吸引による回収作業を実施する。通常、電解槽底方向への動作(上下動)と、横方向への動作(横動)を組み合わせたパターンにより電解スライムの回収作業が行われる。Mはモーター、20は軸受を示す。
なお、本発明においては、この回収装置の稼働は、電解精製の稼働中でもアノード表面に発生する電解スライムを回収することが可能である。
電解スライムの除去が終了した時点で、運転を止め、回収装置を電解液内から電解槽上方に引き上げて終了する。
【0040】
なお、本発明に係る電解スライムの回収装置は、使用する電解槽のアノード全数に設置可能な数を準備し、一度に全数のアノード表面の電解スライムを回収しても良く、電解槽を区画化し、その区画に所属する全てのアノードから電解スライムを回収する方法を採用しても良い。
本発明に係る電解スライムの回収装置は電解中に電解スライムが増えると、アノードとカソード間の電圧が上昇するので電圧に閾値を設定し、閾値を超えた電解槽に対して上述の電解スライムを回収する方法を行うことで、高効率な操業を維持することができるようになる。
【符号の説明】
【0041】
1 電解槽
2 電解液
2’ 電解液の液面
3 アノード
4 カソード
5 除去具
5a ブラシ型除去具
5b たわし型除去具
5c ヘラ型除去具
6 吸引口
7 吸引部
8 浄液フィルタ
8a 濾過ポット
9 輸送管
10 供給口
100 本発明に係る電解スライム回収装置
20 軸受
21 クランクシャフト
A 電解スライム除去部
B 電解スライム回収部
C 供給部
M モーター
P1 送液ポンプ
S、S1、S2、Sn、Sn+1 スクレイバー部
Sa、Sc 別体型スクレイバー部
Sb、Sd 一体型スクレイバー部
b 開閉弁
h 隔壁