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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-01-04
(45)【発行日】2022-01-20
(54)【発明の名称】反芻動物の飼育法
(51)【国際特許分類】
   A01K 1/00 20060101AFI20220113BHJP
   A23K 10/30 20160101ALI20220113BHJP
   A23K 50/10 20160101ALI20220113BHJP
【FI】
A01K1/00 A
A23K10/30
A23K50/10
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2016129701
(22)【出願日】2016-06-30
(65)【公開番号】P2018000069
(43)【公開日】2018-01-11
【審査請求日】2019-06-18
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000183484
【氏名又は名称】日本製紙株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】501203344
【氏名又は名称】国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構
(74)【代理人】
【識別番号】100118902
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 修
(74)【代理人】
【識別番号】100126985
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 充利
(74)【代理人】
【識別番号】100141265
【弁理士】
【氏名又は名称】小笠原 有紀
(74)【代理人】
【識別番号】100129311
【弁理士】
【氏名又は名称】新井 規之
(72)【発明者】
【氏名】簑原 大介
(72)【発明者】
【氏名】黒須 一博
(72)【発明者】
【氏名】飯森 武志
(72)【発明者】
【氏名】田中 正仁
【審査官】坂田 誠
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-198653(JP,A)
【文献】特開2000-4801(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01K 1/00
A23K 10/00 - 50/90
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
濃厚飼料を含むが木材パルプを含まない飼料を摂取している反芻動物に対して、1~30質量%の木材由来のクラフトパルプ、トウモロコシサイレージ、イタリアンラップサイレージ、大豆粕を含有する飼料を2週間以上摂取させることを含む、反芻動物の糞水分率を低下させる方法であって、
木材由来のクラフトパルプが、未晒クラフトパルプを酸素脱リグニン処理した酸素脱リグニンクラフトパルプであり、カッパー価が5~15である、上記方法。
【請求項2】
前記飼料の可消化養分総量が50~95%、粗タンパク質が5~40%である、請求項に記載の方法。
【請求項3】
前記飼料が3~20質量%の木材由来のクラフトパルプを含有する、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
反芻動物が牛である、請求項1~のいずれかに記載の方法。
【請求項5】
前記クラフトパルプが広葉樹由来のクラフトパルプである、請求項1~のいずれかに記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、反芻動物の飼育方法に関する。特に本発明は、反芻動物から排出される糞の水分を調整する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、牧畜分野においては、家畜の乳量の増加や増体重などを目的に、栄養価の高い濃厚飼料が牧草などの粗飼料とともに使用されることが多い。濃厚飼料は、トウモロコシ、麦類、大豆などの易消化性炭水化物(デンプンなど)を多く含む一方、粗飼料は、牧草を乾燥した干草(乾草、わら類)や、青刈りした牧草を発酵させたもの(サイレージ化したもの)などを主とする。
【0003】
反芻動物が粗飼料を摂取し消化することが可能であるのは、ルーメン(第一胃)を有するためである。ルーメンは、反芻動物が有する複数の胃のうち最大の容積を占め、粗飼料中のセルロースやヘミセルロースなどの難消化性の多糖類を分解(ルーメン発酵)し得る微生物群(ルーメン微生物)が豊富に含まれている。
【0004】
しかし、粗飼料中のセルロースやヘミセルロースは、リグニン類と結合し、それぞれリグニン-セルロース複合体やリグニン-ヘミセルロース複合体として存在している場合が多い。このような複合体は、ルーメン発酵において十分に分解されないおそれがあり、粗飼料は、飼料効率が不十分になりやすいという問題点があった。また、未消化物が多くなると糞量の増加を引き起こすため、環境面においても望ましくないとされていた。
【0005】
さらに、粗飼料は、牧草の収穫量や作柄により影響を受けやすく、供給量が不安定である。特にわが国では粗飼料の多くを輸入に頼っているため、概して価格変動が大きく、また、輸出国の諸事情により輸入困難になる場合もあり、牧場経営を圧迫する場合がある。
【0006】
このため、牧草に代替でき、飼料効率に優れ、安価であり、且つ安定的に入手可能な反芻動物用飼料が望まれている。
【0007】
ここで、飼料中の栄養濃度を高めるため、易消化性の炭水化物(デンプン)を多く含む濃厚飼料を粗飼料に配合することが一般に行われている。乳用家畜の乳量を維持し、或いは、肉用家畜の増体を維持するためは、飼料摂取量をも増加させる必要があるが、乳量の増加や体格の増強にともなうエネルギー要求量の増加率は、摂取飼料量の増加率を超えるためである。ところが、濃厚飼料中のデンプンなどの炭水化物は、ルーメンのpHを急激に低下させることがあり、結果としてルーメンアシドーシスが発生することがある。ルーメンアシドーシスとは、反芻動物の疾病の一種であり、炭水化物に富む穀物、濃厚飼料、果実類などを急激に摂取することにより引き起こされる。ルーメンアシドーシスにおいては、ルーメン内において、グラム陽性乳酸生成菌、特にStreptcoccus bovisおよびLactobacillus属微生物が増加し、乳酸あるいは揮発性脂肪酸(VFA:Volatile Fatty Acid)の異常な蓄積が生じ、ルーメン内のpHが低下する(pH5以下)。その結果、ルーメン内のプロトゾア(原生動物)、及びある種の細菌の減少あるいは消滅を引き起こす。特に急性アシドーシスは、ルーメンの鬱血や脱水症(胃内容浸透圧の上昇に伴い体液が大量に胃内に移動)、さらには昏睡や死をもたらすため、極めて危険である。
【0008】
ルーメンアシドーシスの予防には、飼料配合の急激な変化を避け、ルーメン発酵を安定化させ、pHの変動を少なくすることが重要である。また、唾液には重曹が含まれpH調節に寄与するため、十分な反芻により唾液分泌のできる飼料を給与することも重要である。ただし、ルーメンアシドーシスを恐れ、飼料の栄養価を低くすると、エネルギーが不足して乳生産量が低下してしまうという懸念もある。
【0009】
ルーメンアシドーシスを予防する飼料として、特許文献1には、木質原料に高衝撃力を与えて粉砕し微粒子化した家畜飼料が開示されている。また、ペレット化した飼料に関して、特許文献2に、加工食品残渣をペレット化して飼料を製造すること、特許文献3(特表2013-518880号公報)には、リグノセルロースバイオマスをペレット化することが提案されている。
【0010】
さらに、特許文献4には、中性デタージェンド繊維、デンプン及びりんごジュース粕を含む飼料をルーメンが未発達な仔牛に与えることにより、ルーメンアシドーシスを緩和して糞便性状を改善することが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【文献】特開2011-83281号公報
【文献】特開平10-75719号公報
【文献】国際公開WO2011/097075
【文献】特開2013-255433号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
一般に、牛などの反芻動物から排泄される糞は水分が多く、堆肥化などの処理を直接行うことが難しい。特に、反芻動物に濃厚飼料を与えた場合、排泄される糞は水分が多くなる。そのため、反芻動物の糞は、圧搾機などによる濃縮や副資材(オガコなど)の混合による水分調整などを行う必要があり、多くのコストを要してしまう。特に環境温度が高い夏季には、糞の水分が通常よりも高くなり、害虫が発生するなど、衛生面での問題も生じる。
【0013】
そこで本発明の課題は、反芻動物から排出される糞の水分を低減させる技術を開発することである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明の発明者らは、上記課題について鋭意検討したところ、木材パルプを含む飼料を反芻動物に給与することで糞中の水分含量を低下できることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0015】
これに限定されるものではないが、本発明は、以下の態様を包含する。
(1) 1~30質量%の木材パルプを含有する飼料を反芻動物に摂取させることを含む、反芻動物の糞水分率を低下させる方法。
(2) 1~30質量%の木材パルプを含有する飼料を反芻動物に摂取させることと、反芻動物の糞を回収することと、を含む、反芻動物の飼育方法。
(3) 木材パルプを含有する前記飼料を摂取させる前、濃厚飼料を含むが木材パルプを含まない飼料を反芻動物に摂取させている、(1)または(2)に記載の方法。
(4) 木材パルプを含まない前記飼料を摂取させていた時期の糞水分率と比較して、木材パルプを含有する前記飼料を摂取させた時期の糞水分率が1%以上低い、(3)に記載の方法。
(5) 木材パルプを含有する前記飼料を摂取させた時期の糞水分率が75~87%である、(1)~(4)のいずれかに記載の方法。
(6) 反芻動物が牛である、(1)~(5)のいずれかに記載の方法。
(7) 木材パルプがクラフトパルプである、(1)~(6)のいずれかに記載の方法。
(8) 木材パルプのカッパー価が5以上である、(1)~(7)のいずれかに記載の方法。
(9) 木材パルプが酸素脱リグニン処理したパルプである、(1)~(8)のいずれかに記載の方法。
(10) 木材パルプが、未晒クラフトパルプを酸素脱リグニン処理した酸素脱リグニンクラフトパルプであり、カッパー価が5~15である、(1)~(9)のいずれかに記載の方法。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、牛などの反芻動物から排出される糞の水分率を低下させることができる。したがって、本発明によれば、堆肥などを製造するために要する処理にかかる労力やコストを低減できる。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明は、1~30質量%の木材パルプを含有する飼料を反芻動物に摂取させることにより反芻動物の糞水分率を低下させる。本発明は、1~30質量%の木材パルプを含有する飼料を摂取させる前、濃厚飼料を含むが木材パルプを含まない飼料を摂取している反芻動物に適用することが好ましい。また、木材パルプを含まない前記飼料を摂取させていた時期の糞水分率と比較して、木材パルプを含有する前記飼料を摂取させた時期の糞水分率が1%以上低くなることが好ましい。
【0018】
本発明の反芻動物用飼料は、反芻動物に適用される。反芻動物としては、例えば、乳牛及び肥育牛などの牛、羊、山羊などが挙げられる。本発明の飼料を反芻動物に給与する場合、適用対象である反芻動物の年齢、体格、健康状態等には特に制限はなく、例えば、哺乳期の仔牛から成牛まで用いることができる。
【0019】
本発明の飼料は、木材由来のパルプである木材パルプを含有するが、乾物基準で木材パルプを1~30質量%含有することが好ましく、2~25質量%含有することがより好ましく、3~20質量%含有することがさらに好ましい。
【0020】
本発明の飼料は、木材パルプを含有するものであるが、公知のパルプ化法によって製造されたパルプを制限なく使用することができる。例えば、機械パルプ、化学パルプのいずれもが適用可能である。機械パルプとしては、砕木パルプ(GP)、リファイナーグラウンドウッドパルプ(RGP)、サーモメカニカルパルプ(TMP)、ケミサーモメカニカルパルプ(CTMP)等が挙げられる。化学パルプとしては、クラフトパルプ(KP)、溶解クラフトパルプ(DKP)、サルファイトパルプ(SP)、溶解サルファイトパルプ(DSP)等が挙げられる。また、漂白パルプ、未漂白パルプのいずれも使用できる。これらの中では、酸素脱リグニン処理した化学パルプ、漂白化学パルプなどが好ましい。また、カッパー価が5~15であるパルプや、クラフトパルプがさらに好ましく、カッパー価が5~15である酸素脱リグニン処理したクラフトパルプが特に好ましい。
【0021】
本発明の反芻動物用飼料において、パルプは1種類のものから成るものでもよく、複数のパルプを混合したものでもよい。例えば、原料や製造方法の異なる化学パルプ(広葉樹クラフトパルプ、針葉樹クラフトパルプ、溶解広葉樹クラフトパルプ、溶解針葉樹クラフトパルプ)、あるいは機械パルプ(砕木パルプ、リファイナーグラウンドウッドパルプ、サーモメカニカルパルプ、ケミサーモメカニカルパルプ)、を2種以上混合して使用してもよい。
【0022】
原料の木材としては、例えば、広葉樹、針葉樹、雑木、タケ、ケナフ、バガス、パーム油搾油後の空房が使用できる。具体的には、広葉樹としては、ブナ、シナ、シラカバ、ポプラ、ユーカリ、アカシア、ナラ、イタヤカエデ、センノキ、ニレ、キリ、ホオノキ、ヤナギ、セン、ウバメガシ、コナラ、クヌギ、トチノキ、ケヤキ、ミズメ、ミズキ、アオダモ等が例示される。針葉樹としては、スギ、エゾマツ、カラマツ、クロマツ、トドマツ、ヒメコマツ、イチイ、ネズコ、ハリモミ、イラモミ、イヌマキ、モミ、サワラ、トガサワラ、アスナロ、ヒバ、ツガ、コメツガ、ヒノキ、イチイ、イヌガヤ、トウヒ、イエローシーダー(ベイヒバ)、ロウソンヒノキ(ベイヒ)、ダグラスファー(ベイマツ)、シトカスプルース(ベイトウヒ)、ラジアータマツ、イースタンスプルース、イースタンホワイトパイン、ウェスタンラーチ、ウェスタンファー、ウェスタンヘムロック、タマラック等が例示される。
【0023】
クラフトパルプ
木材チップからクラフトパルプを製造する場合、木材チップは蒸解液と共に蒸解釜へ投入され、クラフト蒸解に供する。また、MCC、EMCC、ITC、Lo-solidなどの修正クラフト法の蒸解に供しても良い。また、1ベッセル液相型、1ベッセル気相/液相型、2ベッセル液相/気相型、2ベッセル液相型などの蒸解型式なども特に限定はない。すなわち、本願のアルカリ性水溶液を含浸し、これを保持する工程は、従来の蒸解液の浸透処理を目的とした装置や部位とは別個に設置してもよい。好ましくは、蒸解を終えた未晒パルプは蒸解液を抽出後、ディフュージョンウォッシャーなどの洗浄装置で洗浄する。木材チップと薬液の液比は、例えば、1.0~5.0L/kgとすることができ、1.5~4.5L/kgが好ましく、2.0~4.0L/kgがさらに好ましい。
【0024】
また、本発明においては、絶乾チップ当たり0.01~1.5質量%のキノン化合物を含むアルカリ性蒸解液を蒸解釜に添加してもよい。キノン化合物の添加量が0.01質量%未満であると添加量が少なすぎて蒸解後のパルプのカッパー価が低減されず、カッパー価とパルプ収率の関係が改善されない。さらに、粕の低減、粘度の低下の抑制も不十分である。また、キノン化合物の添加量が1.5質量%を超えてもさらなる蒸解後のパルプのカッパー価の低減、及びカッパー価とパルプ収率の関係の改善は認められない。
【0025】
使用されるキノン化合物はいわゆる公知の蒸解助剤としてのキノン化合物、ヒドロキノン化合物又はこれらの前駆体であり、これらから選ばれた少なくとも1種の化合物を使用することができる。これらの化合物としては、例えば、アントラキノン、ジヒドロアントラキノン(例えば、1,4-ジヒドロアントラキノン)、テトラヒドロアントラキノン(例えば、1,4,4a,9a-テトラヒドロアントラキノン、1,2,3,4-テトラヒドロアントラキノン)、メチルアントラキノン(例えば、1-メチルアントラキノン、2-メチルアントラキノン)、メチルジヒドロアントラキノン(例えば、2-メチル-1,4-ジヒドロアントラキノン)、メチルテトラヒドロアントラキノン(例えば、1-メチル-1,4,4a,9a-テトラヒドロアントラキノン、2-メチル-1,4,4a,9a-テトラヒドロアントラキノン)等のキノン化合物であり、アントラヒドロキノン(一般に、9,10-ジヒドロキシアントラセン)、メチルアントラヒドロキノン(例えば、2-メチルアントラヒドロキノン)、ジヒドロアントラヒドロアントラキノン(例えば、1,4-ジヒドロ-9,10-ジヒドロキシアントラセン)又はそのアルカリ金属塩等(例えば、アントラヒドロキノンのジナトリウム塩、1,4-ジヒドロ-9,10-ジヒドロキシアントラセンのジナトリウム塩)等のヒドロキノン化合物であり、アントロン、アントラノール、メチルアントロン、メチルアントラノール等の前駆体が挙げられる。これら前駆体は蒸解条件下ではキノン化合物又はヒドロキノン化合物に変換する可能性を有している。
【0026】
蒸解液は、対絶乾木材チップ重量当たりの活性アルカリ添加率(AA)を10~35質量%とすることが好ましい。活性アルカリ添加率が10質量%未満であるとリグニンやヘミルロースの除去が不十分となり、35質量%を超えると収率の低下や品質の低下が起こる。ここで活性アルカリ添加率とは、NaOHとNaSの合計の添加率をNaOの添加率として換算したもので、NaOHには0.775を、NaSには0.795を乗じることでNaOの添加率に換算できる。また、硫化度は20~35%の範囲が好ましい。硫化度20%未満の領域においては、脱リグニン性の低下、パルプ粘度の低下、粕率の増加を招く。
【0027】
クラフト蒸解は、120~180℃の温度範囲で行うことが好ましく、140~160℃がより好ましい。温度が低すぎると脱リグニン(カッパー価の低下)が不十分である一方、温度が高すぎるとセルロースの重合度(粘度)が低下する。また、本発明における蒸解時間とは、蒸解温度が最高温度に達してから温度が下降し始めるまでの時間であるが、蒸解時間は、60分以上600分以下が好ましく、120分以上360分以下がさらに好ましい。蒸解時間が60分未満ではパルプ化が進行せず、600分を超えるとパルプ生産効率が悪化するために好ましくない。
【0028】
また、本発明におけるクラフト蒸解は、Hファクター(Hf)を指標として、処理温度及び処理時間を設定することができる。Hファクターとは、蒸解過程で反応系に与えられた熱の総量を表す目安であり、下記の式によって表わされる。Hファクターは、チップと水が混ざった時点から蒸解終了時点まで時間積分することで算出する。Hファクターとしては、300~2000が好ましい。
【0029】
Hf=∫exp(43.20-16113/T)dt
[式中、Tはある時点の絶対温度を表す]
本発明においては、蒸解後得られた未漂白(未晒)パルプは、必要に応じて、種々の処理に供することができる。例えば、クラフト蒸解後に得られた未漂白パルプに対して、漂白処理を行うことができる。
【0030】
クラフト蒸解で得られたパルプについて、酸素脱リグニン処理を行うことができる。本発明に使用される酸素脱リグニンは、公知の中濃度法あるいは高濃度法がそのまま適用できる。中濃度法の場合はパルプ濃度が8~15質量%、高濃度法の場合は20~35質量%で行われることが好ましい。酸素脱リグニンにおけるアルカリとしては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムを使用することができ、酸素ガスとしては、深冷分離法からの酸素、PSA(Pressure Swing Adsorption)からの酸素、VSA(Vacuum Swing Adsorption)からの酸素等が使用できる。
【0031】
酸素脱リグニン処理の反応条件は、特に限定はないが、酸素圧は3~9kg/cm、より好ましくは4~7kg/cm、アルカリ添加率はパルプ絶乾重量当たり0.5~4質量%、処理温度80~140℃、処理時間20~180分、この他の条件は公知のものが適用できる。なお、本発明において、酸素脱リグニン処理は、複数回行ってもよい。また、酸素脱リグニン処理などを施した後のクラフトパルプのカッパー価は5~15であることが好ましい。
【0032】
さらなるカッパー価の低下、白色度の向上を目的とする場合、酸素脱リグニン処理が施されたパルプは、例えば、次いで洗浄工程へ送られ、洗浄後、多段漂白工程へ送られ、多段漂白処理を行うことができる。本発明の多段漂白処理は、特に限定されるものではないが、酸(A)、二酸化塩素(D)、アルカリ(E)、酸素(O)、過酸化水素(P)、オゾン(Z)、過酸等の公知の漂白剤と漂白助剤を組み合わせるのが好適である。例えば、多段漂白処理の初段は二酸化塩素漂白段(D)やオゾン漂白段(Z)を用い、二段目にはアルカリ抽出段(E)や過酸化水素段(P)、三段目以降には、二酸化塩素や過酸化水素を用いた漂白シーケンスが好適に用いられる。三段目以降の段数も特に限定されるわけではないが、エネルギー効率、生産性等を考慮すると、合計で三段あるいは四段で終了するのが好適である。また、多段漂白処理中にエチレンジアミンテトラ酢酸(EDTA)、ジエチレントリアミンペンタ酢酸(DTPA)等によるキレート剤処理段を挿入してもよい。
【0033】
飼料の調製と給餌
本発明の飼料は、木材パルプを他の飼料成分と併せて調製すればよく、調製した配合飼料を反芻動物に給与することができる。他の飼料成分としては、粗飼料(例えば牧草)、濃厚飼料(例えばトウモロコシ、麦などの穀類、大豆などの豆類)、ふすま、米糠、おから、蛋白質、脂質、ビタミン、ミネラルなどや添加剤(保存料、着色料、香料等)、等が挙げられる。
【0034】
本発明の飼料に濃厚飼料を配合する場合、例えば、とうもろこし、小麦、大麦、精白米などの穀物を用いることができる。本発明の飼料においては、例えば、米、小麦、大麦、えん麦、マイロ、とうもろこしなどの穀物を主なデンプン源として用いることができる。
【0035】
本発明においては、粗飼料を一定レベルで配合することが好ましく、例えば、乾物換算で5~50質量%含むことが好ましく、15~48質量%含むことがより好ましく、25~45質量%としてもよい。粗飼料の原料としては、例えば、大豆、大豆粕(加糖加熱処理又は加湿加熱処理等を施した大豆粕を含む)、菜種粕、アマニ粕、コーングルテンミール、濃縮大豆蛋白、小麦グルテン、小麦グルテン酵素分解物などを挙げることができる。特に、大豆粕などの大豆由来粗蛋白質供給原料(ただし、加糖加熱処理又は加湿加熱処理を施したものを除く)は、溶解性蛋白質を多く給与してルーメン内での繊維の消化率を高め、子牛の成育を向上させるといった観点や、DDGS等の粗脂肪の含有量が比較的高いNDF供給原料などの配合により飼料中の粗脂肪の含有量が過度に多くなるのを抑制するため、飼料に配合することが好ましい。
【0036】
本発明においては、飼料に糖類を配合してもよく、例えば、グルコース、フルクトース、スクロース、ラクトース、及びマルトースなどを好適に配合することができる。
【0037】
本発明の飼料は、上述した原料の他に、呈味料、ミネラル、ビタミン、有機ミネラル、牧草、イネ科の植物の飼料原料、結晶アミノ酸、油脂、脂肪酸、脂肪酸カルシウム、吸着材、鉱物、植物抽出物、発酵物、着香料、有機酸、抗生物質、動物質性飼料、微生物成分、漢方薬、酵素剤、オリゴ糖、木質系飼料、粘結剤、他の植物体加工副産物などを含んでもよい。
【0038】
牧草としては、例えば、オーチャードグラス、チモシー、オーツヘイ、アルファルファ、イタリアンライグラス、アカクローバー等を挙げることができ、イネ科の植物に由来する飼料原料としては、例えば、ソルガム、小麦ストロー、稲わら等を挙げることができる。もっとも、牧草やイネ科の植物に由来する飼料原料は、例えば、生後3ヶ月齢以下の子牛にとっては消化が容易でないので、ルーメンの胃壁を刺激する目的で必要に応じて粗飼料として供給し、本発明の子牛用飼料には、含有させないか、含有させるとしても少量とすることが好ましい。
【0039】
好ましい態様において、木材パルプと他の飼料成分を圧縮成型してペレットのような形態にしてもよい。本発明の飼料ペレットと併用する飼料は、パルプ状、紛体状、フラッフ化の形態でもよいが、キューブ状又はペレット状などに圧縮成型するか、断裁したシート状の形態とすることが、トウモロコシや牧草などの他の飼料と混合することが容易となり、さらに運搬や取扱いが容易となるので好ましい。
【0040】
キューブ状に圧縮成型する場合、縦5~50mm×横5~50mm×高さ5~50mmのキューブとすることが好ましい。ペレット状に圧縮成型する場合、直径5~50mm×長さ5~80mmの円筒状とすることが好ましい。圧縮成型を行うための装置は特に限定されていないが、ブリケッター(北川鉄工所製)、リングダイ式ペレタイザー(CPM製)、フラットダイ式ペレタイザー(ダルトン製)等が望ましい。
【0041】
シート状の形態とする場合、坪量が300~2000g/mで、5~50mm×5~50mmのシート片とすることが好ましい。
【0042】
本発明の反芻動物用飼料は、水分含有率を15%以下とすることが好ましい。水分含有率を15%以下とすることで、運搬性が向上し、微生物による腐敗を軽減できる。飼料の水分含有率は、例えば、1質量%以上としてもよく、5質量%以上に調整してもよい。
【0043】
本発明の反芻動物用飼料は、例えば、可消化養分総量(TDN:Total Digestible Nutrients)を50~95%とすることができるが、60~85%、さらには65~80%としてもよい。粗タンパク質(CP:Crude Protein)は、例えば、5~40%とすることができるが、10~30%、さらには13~25%としてもよい。
【実施例
【0044】
具体的な例を挙げて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は下記の具体例によって何ら限定されるものではない。なお、本明細書において、濃度や%は特に断らない限り質量基準であり、数値範囲はその端点を含むものとして記載される。
【0045】
実験1:木材パルプを含む飼料の製造
下表に示す配合に基づいて、対照区と試験区で用いる飼料を調製した。対照区の飼料と試験区の飼料(広葉樹クラフトパルプを乾燥重量で10%配合)は、乾物中の可消化養分総量(TDN)および粗タンパク質(CP)がほぼ同様になるように配合した(TDN:約71kg、CP:約13kg)。
【0046】
(粗飼料)
・トウモロコシサイレージ(九州沖縄農業研究センターにて自家生産)
・イタリアンラップサイレージ(九州沖縄農業研究センターにて自家生産)
(濃厚飼料)
・トウモロコシ(熊本県酪連および畜産連合会より購入)
・大豆粕(熊本県酪連および畜産連合会より購入)
・配合飼料(熊本県酪連製、熊酪P&F74C)
・木材パルプ
ユーカリチップを活性アルカリ添加率16.0%、硫化度25%、Hファクター800にてクラフト蒸解を行い、未晒クラフトパルプを得た(カッパー価:21.1、ISO白色度:24.8%)。
上記未晒クラフトパルプを水道水で洗浄し濃度10%に調製後、酸素添加率2.1%(絶乾パルプ重量当たり)、水酸化ナトリウム1.4%(絶乾パルプ重量当たり)、100℃、60分にて酸素脱リグニン処理を行い、酸素脱リグニンクラフトパルプを得た(カッパー価:8.6、ISO白色度:47.3%)。
得られた酸素脱リグニンクラフトパルプを水道水で洗浄した後、スクリュープレス(SHX-200型、富国工業製)で脱水し、水分率を28.8質量%に調整した。
【0047】
(添加剤)
・飼料用リン酸カルシウム(小野田化学工業製)
・飼料用炭酸カルシウム(飯田工業所製)
・飼料用食塩(ダイヤソルト製)
【0048】
【表1】
【0049】
実験2:反芻動物への給餌試験
九州沖縄農業研究センター(熊本県合志市)において、実験1で製造した配合飼料を泌乳牛14頭に給餌した。試験は5月下旬から実施し、まず対照区の配合飼料を給与した後、試験区の配合飼料を2週間給与した。また、配合飼料を給与した泌乳牛の詳細は下記のとおりである。なお、一般に牛は、分娩後、泌乳量が徐々に増加し、泌乳開始後3ヶ月程度でピーク乳量に達する。
【0050】
本実験では、泌乳牛の肛門から直腸糞を回収し、回収した直腸糞について、その水分含有量を測定した。具体的には、回収した直腸糞のサンプル(約50グラム)を55℃にて3~4日間乾燥し、半日以上経過しても重量が変化しなくなった時点で乾燥重量と見なし、下記の式にて直腸糞の水分率を算出した。
・直腸糞水分率(%)=(乾燥前糞重量-乾燥後糞重量)/乾燥前糞重量×100
【0051】
【表2】
【0052】
表に示すように、対照区(パルプ含有飼料給与前)における直腸糞の水分含量(14頭の平均値)が87.6±1.1%であったのに対し、パルプ含有飼料給与後2週間の段階での直腸糞の水分含量は85.3±1.7%であり、本発明によって糞の水分率を有意に低下させることができた(p<0.05)。