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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-01-04
(45)【発行日】2022-01-20
(54)【発明の名称】熱伝導膜、熱伝導膜付きデバイス
(51)【国際特許分類】
   G02B 5/30 20060101AFI20220113BHJP
   H01L 23/373 20060101ALI20220113BHJP
   C08L 101/02 20060101ALI20220113BHJP
   C08K 3/20 20060101ALI20220113BHJP
   C08K 3/28 20060101ALI20220113BHJP
【FI】
G02B5/30
H01L23/36 M
C08L101/02
C08K3/20
C08K3/28
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2018170776
(22)【出願日】2018-09-12
(65)【公開番号】P2020042216
(43)【公開日】2020-03-19
【審査請求日】2020-07-17
(73)【特許権者】
【識別番号】306037311
【氏名又は名称】富士フイルム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100152984
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 秀明
(74)【代理人】
【識別番号】100148080
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 史生
(72)【発明者】
【氏名】人見 誠一
(72)【発明者】
【氏名】高橋 慶太
(72)【発明者】
【氏名】新居 輝樹
(72)【発明者】
【氏名】林 大介
【審査官】吉川 陽吾
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2018/147425(WO,A1)
【文献】国際公開第2018/146995(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02B 5/30
H01L 23/373
C08L 101/02
C08K 3/20
C08K 3/28
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
円盤状化合物を含有する組成物を用いて形成された熱伝導膜であって、
前記円盤状化合物が水平配向しており、
前記熱伝導膜の厚さが100μm以上であり、
前記円盤状化合物が、下記式(D4)、(D11)及び(D16)で表される化合物からなる群より選択される化合物である、熱伝導膜(ただし、前記組成物は、ボロン酸基、ボロン酸エステル基、アルデヒド基、及びピリジニウム基からなる群より選ばれる1価の置換基を有し、且つ、分子量が1000以上である化合物を含まない。)。
【化1】
【化2】
式(D4)及び(D11)中、Lは、アルキレン基、アルケニレン基、アリーレン基、-C(=O)-、-NH-、-O-、及び-S-からなる群より選ばれる基を2個以上組み合わせてなる2価の連結基を表す。Qは、水素原子又は置換基を表し、3個以上のQが、それぞれ独立に、(メタ)アクリル基、(メタ)アクリルアミド基、オキシラニル基、オキセタニル基、水酸基、アミノ基、チオール基、イソシアネート基、カルボキシル基及び無水カルボン酸基からなる群より選択される官能基を表す。
【化3】
式(D16)中、A2x、A3x及びA4xは、それぞれ独立に、-CH=又は-N=を表す。R17x、R18x及びR19xは、それぞれ独立に、*-(X211X-Z21Xn21X-L21X-Qを表す。*は、中心環との結合位置を表す。X211Xは、単結合、-O-、-C(=O)-、-NH-、-OC(=O)-、-OC(=O)O-、-OC(=O)NH-、-OC(=O)S-、-C(=O)O-、-C(=O)NH-、-C(=O)S-、-NHC(=O)NH-、-NHC(=O)S-、-S-、-SC(=O)-、-SC(=O)O-、-SC(=O)NH-、又は、-SC(=O)S-を表す。Z21Xは、5員環もしくは6員環の芳香族基、又は、5員環もしくは6員環の非芳香族基を表す。L21Xは、2価の連結基を表す。Qは、それぞれ独立に、(メタ)アクリル基、(メタ)アクリルアミド基、オキシラニル基、オキセタニル基、水酸基、アミノ基、チオール基、イソシアネート基、カルボキシル基及び無水カルボン酸基からなる群より選択される官能基を表す。n21Xは、1~3の整数を表す。n21Xが2以上の場合の複数存在する(X211X-Z21X)は同一でも異なっていてもよい。
【請求項2】
前記円盤状化合物が、前記式(D4)で表される化合物、又は、前記式(D16)で表される化合物である、請求項1に記載の熱伝導膜。
【請求項3】
厚さ方向の熱伝導率が、0.4W/mK以上である、請求項1又は2に記載の熱伝導膜。
【請求項4】
前記組成物が、無機物を更に含有する、請求項1~のいずれか一項に記載の熱伝導膜。
【請求項5】
前記無機物が、無機酸化物又は無機窒化物である、請求項に記載の熱伝導膜。
【請求項6】
前記無機物が、窒化ホウ素である、請求項4又は5に記載の熱伝導膜。
【請求項7】
デバイスと、前記デバイス上に配置された請求項1~のいずれか一項に記載の熱伝導膜とを有する、熱伝導膜付きデバイス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱伝導膜、及び、熱伝導膜付きデバイスに関する。
【背景技術】
【0002】
パーソナルコンピュータ、一般家電、及び、自動車等の様々な電気機器に用いられているパワー半導体デバイスは、近年、小型化が急速に進んでいる。小型化に伴い高密度化されたパワー半導体デバイスから発生する熱の制御が困難になっている。
このような問題に対応するため、パワー半導体デバイスからの放熱を促進する熱伝導膜が用いられている。
【0003】
特許文献1には、二色性色素組成物から形成された光吸収異方性層、及び、透明樹脂硬化層がこの順に積層されており、透明樹脂硬化層が、重合性基を有する棒状液晶性化合物または円盤状液晶性化合物を含んでなる組成物から形成されてなる、偏光素子が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2016-186647号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明者らが特許文献1で開示された技術を検討したところ、特許文献1に開示された透明樹脂硬化層の熱伝導性は、必ずしも求められる水準に達していないことを知見した。特に、膜厚方向の熱伝導性が劣ることを知見した。
【0006】
そこで、本発明は、膜厚方向の熱伝導性に優れる熱伝導膜を提供することを課題とする。
また、本発明は、上記熱伝導膜を有する熱伝導膜付きデバイスを提供することも課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、鋭意検討した結果、所定の構成の熱伝導膜により、上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成させた。
すなわち、以下の構成により上記課題を解決できることを見出した。
【0008】
(1) 円盤状化合物を含有する組成物を用いて形成された熱伝導膜であって、
円盤状化合物が水平配向しており、
熱伝導膜の厚さが30μm超である、熱伝導膜。
(2) 円盤状化合物が、後述する式(D1)~(D16)で表される化合物からなる群より選択される化合物である、(1)に記載の熱伝導膜。
(3) 円盤状化合物が、式(D4)で表される化合物、又は、式(D16)で表される化合物である、(2)に記載の熱伝導膜。
(4) 3個以上のQが、それぞれ独立に、(メタ)アクリル基、(メタ)アクリルアミド基、オキシラニル基、オキセタニル基、水酸基、アミノ基、チオール基、イソシアネート基、カルボキシル基及び無水カルボン酸基からなる群より選択される官能基を表す、(2)又は(3)に記載の熱伝導膜。
(5) 厚さ方向の熱伝導率が、0.4W/mK以上である、(1)~(4)のいずれかに記載の熱伝導膜。
(6) 組成物が、無機物を更に含有する、(1)~(5)のいずれかに記載の熱伝導膜。
(7) 無機物が、無機酸化物又は無機窒化物である、(6)に記載の熱伝導膜。
(8) 無機物が、窒化ホウ素である、(6)又は(7)に記載の熱伝導膜。
(9) デバイスと、デバイス上に配置された(1)~(8)のいずれかに記載の熱伝導膜とを有する、熱伝導膜付きデバイス。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、膜厚方向の熱伝導性に優れる熱伝導膜を提供できる。
また、本発明によれば、上記熱伝導膜を有する熱伝導膜付きデバイスを提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の熱伝導膜(以下、単に「本熱伝導膜」ともいう)、及び、熱伝導膜付きデバイスについて詳細に説明する。
以下に記載する構成要件の説明は、本発明の代表的な実施態様に基づいてなされることがあるが、本発明はそのような実施態様に制限されるものではない。
なお、本明細書において、「~」を用いて表される数値範囲は、「~」の前後に記載される数値を下限値及び上限値として含有する範囲を意味する。
本明細書において、「(メタ)アクリロイル基」との記載は、「アクリロイル基及びメタクリロイル基のいずれか一方又は双方」の意味を表す。
本明細書において、「(メタ)アクリルアミド基」との記載は、「アクリルアミド基及びメタクリルアミド基のいずれか一方又は双方」の意味を表す。
【0011】
なお、本明細書において、「置換基を有してもよい」という場合の置換基の種類、置換基の位置、及び、置換基の数は特に制限されない。置換基の数は、例えば、1個、又は、2個以上が挙げられる。置換基の例としては水素原子を除く1価の非金属原子団が挙げられ、例えば、以下の置換基群Yから選択できる。
【0012】
置換基群Y:
ハロゲン原子(-F、-Br、-Cl、-I)、水酸基、アミノ基、カルボン酸基及びその共役塩基基、無水カルボン酸基、シアネートエステル基、不飽和重合性基、オキシラニル基、オキセタニル基、アジリジニル基、チオール基、イソシアネート基、チオイソシアネート基、アルデヒド基、アルコキシ基、アリーロキシ基、アルキルチオ基、アリールチオ基、アルキルジチオ基、アリールジチオ基、N-アルキルアミノ基、N,N-ジアルキルアミノ基、N-アリールアミノ基、N,N-ジアリールアミノ基、N-アルキル-N-アリールアミノ基、アシルオキシ基、カルバモイルオキシ基、N-アルキルカルバモイルオキシ基、N-アリールカルバモイルオキシ基、N,N-ジアルキルカルバモイルオキシ基、N,N-ジアリールカルバモイルオキシ基、N-アルキル-N-アリールカルバモイルオキシ基、アルキルスルホキシ基、アリールスルホキシ基、アシルチオ基、アシルアミノ基、N-アルキルアシルアミノ基、N-アリールアシルアミノ基、ウレイド基、N’-アルキルウレイド基、N’,N’-ジアルキルウレイド基、N’-アリールウレイド基、N’,N’-ジアリールウレイド基、N’-アルキル-N’-アリールウレイド基、N-アルキルウレイド基、N-アリールウレイド基、N’-アルキル-N-アルキルウレイド基、N’-アルキル-N-アリールウレイド基、N’,N’-ジアルキル-N-アルキルウレイド基、N’,N’-ジアルキル-N-アリールウレイド基、N’-アリール-N-アルキルウレイド基、N’-アリール-N-アリールウレイド基、N’,N’-ジアリール-N-アルキルウレイド基、N’,N’-ジアリール-N-アリールウレイド基、N’-アルキル-N’-アリール-N-アルキルウレイド基、N’-アルキル-N’-アリール-N-アリールウレイド基、アルコキシカルボニルアミノ基、アリーロキシカルボニルアミノ基、N-アルキル-N-アルコキシカルボニルアミノ基、N-アルキル-N-アリーロキシカルボニルアミノ基、N-アリール-N-アルコキシカルボニルアミノ基、N-アリール-N-アリーロキシカルボニルアミノ基、ホルミル基、アシル基、アルコキシカルボニル基、アリーロキシカルボニル基、カルバモイル基、N-アルキルカルバモイル基、N,N-ジアルキルカルバモイル基、N-アリールカルバモイル基、N,N-ジアリールカルバモイル基、N-アルキル-N-アリールカルバモイル基、アルキルスルフィニル基、アリールスルフィニル基、アルキルスルホニル基、アリールスルホニル基、スルホ基(-SOH)及びその共役塩基基、アルコキシスルホニル基、アリーロキシスルホニル基、スルフィナモイル基、N-アルキルスルフィナモイル基、N,N-ジアルキルスルフィナモイル基、N-アリールスルフィナモイル基、N,N-ジアリールスルフィナモイル基、N-アルキル-N-アリールスルフィナモイル基、スルファモイル基、N-アルキルスルファモイル基、N,N-ジアルキルスルファモイル基、N-アリールスルファモイル基、N,N-ジアリールスルファモイル基、N-アルキル-N-アリールスルファモイル基、N-アシルスルファモイル基及びその共役塩基基、N-アルキルスルホニルスルファモイル基(-SONHSO(alkyl))及びその共役塩基基、N-アリールスルホニルスルファモイル基(-SONHSO(aryl))及びその共役塩基基、N-アルキルスルホニルカルバモイル基(-CONHSO(alkyl))及びその共役塩基基、N-アリールスルホニルカルバモイル基(-CONHSO(aryl))及びその共役塩基基、アルコキシシリル基(-Si(Oalkyl))、アリーロキシシリル基(-Si(Oaryl))、ヒドロキシシリル基(-Si(OH))及びその共役塩基基、ホスホノ基(-PO)及びその共役塩基基、ジアルキルホスホノ基(-PO(alkyl))、ジアリールホスホノ基(-PO(aryl))、アルキルアリールホスホノ基(-PO(alkyl)(aryl))、モノアルキルホスホノ基(-POH(alkyl))及びその共役塩基基、モノアリールホスホノ基(-POH(aryl))及びその共役塩基基、ホスホノオキシ基(-OPO)及びその共役塩基基、ジアルキルホスホノオキシ基(-OPO(alkyl))、ジアリールホスホノオキシ基(-OPO(aryl))、アルキルアリールホスホノオキシ基(-OPO(alkyl)(aryl))、モノアルキルホスホノオキシ基(-OPOH(alkyl))及びその共役塩基基、モノアリールホスホノオキシ基(-OPOH(aryl))及びその共役塩基基、シアノ基、ニトロ基、アリール基、アルケニル基、アルキニル基、並びに、アルキル基。
また、これらの置換基は、可能であるならば置換基同士、又は置換している基と結合して環を形成してもよい。
【0013】
なお、不飽和重合性基としては、(メタ)アクリロイル基、(メタ)アクリルアミド基、及び、以下Q1~Q7で示される置換基が挙げられる。
【0014】
【化1】
【0015】
本明細書において表記される2価の基の結合方向は、特に断らない限り制限されない。例えば、「L-M-N」なる一般式で表される化合物中の、Mが-C(=O)-O-である場合、L側に結合している位置を*1、N側に結合している位置を*2とすると、Mは、*1-C(=O)-O-*2であってもよく、*1-O-C(=O)-*2であってもよい。
【0016】
〔熱伝導膜〕
本発明の熱伝導膜は、円盤状化合物を含有する組成物(以下、単に「本組成物」ともいう)を用いて形成される。熱伝導膜中、上記円盤状化合物は水平配向している。熱伝導膜の厚さは30μm超である。
【0017】
本発明者らは、熱伝導膜が含有する円盤状化合物を水平配向させ、熱伝導膜の厚さを30μm超とすることにより、熱伝導膜の膜厚方向の熱伝導性を飛躍的に向上することを知見している。
【0018】
以下、本熱伝導膜を形成するために用いられる円盤状化合物について詳述する。
【0019】
[円盤状化合物]
熱伝導膜を形成するための原料として、円盤状化合物が用いられる。
本明細書において、円盤状化合物は、少なくとも部分的に円盤状構造を有する化合物を意味する。円盤状構造は、少なくとも、非芳香族環又は芳香族環を有する。特に、円盤状構造が、芳香族環を有する場合、円盤状化合物は、分子間のπ-π相互作用によるスタッキング構造の形成により柱状構造を形成しうる。
円盤状構造として、具体的には、Angew.Chem.Int.Ed.2012,51,7990-7993又は特開平7-306317号公報に記載のトリフェニレン構造、並びに、特開2007-2220号公報及び特開2010-244038号公報に記載の3置換ベンゼン構造等が挙げられる。
【0020】
円盤状化合物は、液晶性を示す液晶化合物であっても、液晶性を示さない非液晶化合物であってもよいが、熱伝導膜の熱伝導性がより優れる点から、液晶化合物が好ましい。つまり、円盤状化合物としては、円盤状液晶化合物が好ましい。
【0021】
円盤状化合物の具体例としては、C. Destrade et al.,Mol.Crysr.Liq.Cryst.,vol.71,page 111(1981);日本化学会編、季刊化学総説、No.22、液晶の化学、第5章、第10章第2節(1994);B. Kohne et al.,Angew,Chem.Int.Ed.,23,82(1984);J. Zhang et al.,J.Am.Chem.Soc.,vol.116,2655(1994)、及び、特許第4592225号に記載されている化合物が挙げられる。
【0022】
円盤状化合物は、フッ素原子を有さないことが好ましい。特に、円盤状化合物は、分子末端にフッ素原子を有さないことが好ましい。
また、円盤状化合物は、炭素数10以上のアルキル基を有さないことが好ましい。特に、円盤状化合物は、分子末端に炭素数10以上のアルキル基を有さないことが好ましい。
【0023】
円盤状化合物としては、熱伝導膜の熱伝導性がより優れる点で、以下に示す式(D1)~(D16)で表される化合物からなる群より選択される化合物が好ましく、式(D4)で表される化合物又は式(D16)で表される化合物がより好ましい。
なお、以下の式中、「-LQ」は「-L-Q」を表し、「QL-」は「Q-L-」を表す。
以下に、まず、式(D1)~(D15)について説明する。
【0024】
【化2】
【0025】
【化3】
【0026】
【化4】
【0027】
【化5】
【0028】
式(D1)~(D15)中、Lは2価の連結基を表す。なお、複数のLは、同一であっても異なっていてもよい。
熱伝導膜の熱伝導性がより優れる点で、Lは、アルキレン基、アルケニレン基、アリーレン基、-C(=O)-、-NH-、-O-、-S-、及びこれらの組み合わせからなる群より選ばれる基であることが好ましく、アルキレン基、アルケニレン基、アリーレン基、-C(=O)-、-NH-、-O-、及び-S-からなる群より選ばれる基を2個以上組み合わせた基であることがより好ましい。なお、Lとしては、-C(=O)-O-を含有する2価の連結基がより好ましい。
上記アルキレン基の炭素数としては、1~12が好ましい。上記アルケニレン基の炭素数としては、2~12が好ましい。上記アリーレン基の炭素数としては、10以下が好ましい。なお、上記アルキレン基、上記アルケニレン基、及び上記アリーレン基は、更に置換基を有していてもよい。上記置換基としては特に制限されないが、例えば、アルキル基(炭素数1~6が好ましい)、ハロゲン原子、シアノ、アルコキシ基(炭素数1~6が好ましい)、及びアシルオキシ基(炭素数1~6が好ましい)等が挙げられる。
【0029】
Lの例を以下に示す。以下の例では、左側の結合手が式(D1)~(D15)のいずれかで表される化合物の中心核(以下、単に「中心環」ともいう)に結合し、右側の結合手がQに結合する。
ALはアルキレン基又はアルケニレン基を意味し、ARはアリーレン基を意味する。
【0030】
L101:-AL-C(=O)-O-AL-
L102:-AL-C(=O)-O-AL-O-
L103:-AL-C(=O)-O-AL-O-AL-
L104:-C(=O)-AR-O-AL-
L105:-C(=O)-AR-O-AL-O-
L106:-NH-AL-O-
L107:-AL-C(=O)-O-AL-AR-
L108:-AL-C(=O)-O-AR-
L109:-O-AL-NH-AR-
【0031】
L110:-O-AL-O-C(=O)-NH-AL-
L111:-O-AL-S-AL-
L112:-O-C(=O)-AL-AR-O-AL-
L113:-O-C(=O)-AL-AR-O-AL-O-
L114:-O-C(=O)-AR-O-AL-C(=O)-
L115:-O-C(=O)-AR-O-AL-
L116:-O-C(=O)-AR-O-AL-O-
L117:-O-C(=O)-AR-O-AL-O-AL-
L118:-O-C(=O)-AR-O-AL-O-AL-O-
L119:-O-C(=O)-AR-O-AL-O-AL-O-AL-
L120:-O-C(=O)-AR-O-AL-O-AL-O-AL-O-
L121:-S-AL-
L122:-S-AL-O-
L123:-S-AL-S-AL-
L124:-S-AR-AL-
L125:-O-C(=O)-AL-
L126:-O-C(=O)-AL-O-
L127:-O-C(=O)-AR-O-AL-
L128:-O-C(=O)-AR-O-AL-O-C(=O)-AL-S-AR-
L129:-O-C(=O)-AL-S-AR-
L130:-O-C(=O)-AR-O-AL-O-C(=O)-AL-S-AL-
L131:-O-C(=O)-AL-S-AR-
L132:-O-AL-S-AR-
L133:-AL-C(=O)-O-AL-O-C(=O)-AL-S-AR-
L134:-AL-C(=O)-O-AL-O-C(=O)-AL-S-AL-
L135:-AL-C(=O)-O-AL-O-AR-
L136:-O-AL-O-C(=O)-AR-
L137:-O-C(=O)-AL-O-AR-
L138:-O-C(=O)-AR-O-AL-O-AR-
【0032】
式(D1)~(D15)中、Qは、水素原子又は置換基を表す。なお、複数のQは、同一であっても異なっていてもよい。
置換基としては、上述した置換基群Yで例示される基が挙げられる。より具体的には、置換基としては、水酸基(-OH)、カルボン酸基(-COOH)、無水カルボン酸基、アミノ基(-NH)、シアネートエステル基(-O-C≡N)、ハロゲン原子、イソシアネート基、シアノ基、上記不飽和重合性基、オキシラニル基、オキセタニル基、アジリジニル基、チオール基、チオイソシアネート基、アルデヒド基、及び、スルホ基が挙げられる。
【0033】
中でも、熱伝導膜の熱伝導性がより優れる点から、式(D1)~(D15)中、3個以上のQが、それぞれ独立に、(メタ)アクリル基、(メタ)アクリルアミド基、オキシラニル基、オキセタニル基、水酸基、アミノ基、チオール基、イソシアネート基、カルボキシル基、及び、無水カルボン酸基からなる群より選択される官能基を表すことが好ましい。3個以上の上記官能基を含有する円盤状化合物を用いて形成される熱伝導膜は、ガラス転移温度が高く、耐熱性が高い傾向がある。棒状化合物と比較すると、円盤状化合物は3個以上の上記官能基を含有していてもメソゲン部分の特性に対する影響を受けにくいためである。
式(D1)~(D15)中、8個以下のQが上記官能基を表すことが好ましく、6個以下のQが上記官能基を表すことがより好ましい。
【0034】
なお、Qが水酸基を表す場合、Lが単結合であり、Qが中心環に直接結合している水酸基を表すことが好ましい。
また、無水カルボン酸基とは、無水マレイン酸、無水フタル酸、無水ピロメリット酸、及び、無水トリメリット酸等の酸無水物から任意の水素原子を除いて得られる1価の置換基を意味する。
【0035】
なお、式(D1)~(D15)で表される化合物は、フッ素原子を有さないことが好ましい。つまり、LおよびQは、フッ素原子を有さないことが好ましい。なかでも、Qはフッ素原子を有さないことが好ましく、言い換えれば、Qは、フッ素原子を有さない置換基、または、水素原子を表すことが好ましい。
なお、式(D1)~(D15)で表される化合物は、炭素数10以上のアルキル基を有さないことが好ましい。つまり、LおよびQは、炭素数10以上のアルキル基を有さないことが好ましい。なかでも、Qは炭素数10以上のアルキル基を有さないことが好ましく、言い換えれば、Qは、炭素数10以上のアルキル基を有さない置換基、または、水素原子を表すことが好ましい。
【0036】
式(D1)~(D15)で表される化合物の中でも、熱伝導膜の熱伝導性がより優れる点から、式(D4)で表される化合物が好ましい。
式(D4)で表される化合物としては、熱伝導膜の熱伝導性がより優れる点から、式(XI)で表される化合物が好ましい。
【0037】
【化6】
【0038】
式(XI)中、R11、R12、R13、R14、R15、及びR16は、それぞれ独立に、*-X11-L11-P11、又は*-X12-L12-Y12を表す。
なお、*はトリフェニレン環との結合位置を表す。
11、R12、R13、R14、R15、及びR16のうち、2個以上は、*-X11-L11-P11であり、3個以上が*-X11-L11-P11であることが好ましい。
中でも、熱伝導膜の熱伝導性がより優れる点で、R11及びR12のいずれか1個以上、R13及びR14のいずれか1個以上、並びに、R15及びR16のいずれか1個以上が、*-X11-L11-P11であることが好ましく、R11、R12、R13、R14、R15、及びR16の全てが、*-X11-L11-P11であることがより好ましい。加えて、R11、R12、R13、R14、R15、及びR16が、全て同一であることが更に好ましい。
【0039】
11は、単結合、-O-、-C(=O)-、-NH-、-OC(=O)-、-OC(=O)O-、-OC(=O)NH-、-OC(=O)S-、-C(=O)O-、-C(=O)NH-、-C(=O)S-、-NHC(=O)NH-、-NHC(=O)S-、-S-、-SC(=O)-、-SC(=O)O-、-SC(=O)NH-、又は-SC(=O)S-を表す。
中でも、X11は、-O-、-OC(=O)-、-OC(=O)O-、-OC(=O)NH-、-C(=O)O-、又は-C(=O)NH-が好ましく、-O-、-OC(=O)-、-C(=O)O-、-OC(=O)NH-、又は-C(=O)NH-がより好ましく、-C(=O)O-が更に好ましい。
【0040】
11は、単結合又は2価の連結基を表す。
2価の連結基の例としては、-O-、-C(=O)-、-C(=O)O-、-S-、-NH-、アルキレン基(炭素数は、1~10が好ましく、1~8がより好ましく、1~7が更に好ましい。)、アリーレン基(炭素数は、6~20が好ましく、6~14がより好ましく、6~10が更に好ましい。)、及びこれらの組み合わせからなる基等が挙げられる。
上記アルキレン基としては、メチレン基、エチレン基、プロピレン基、ブチレン基、ペンチレン基、ヘキシレン基、及びヘプチレン基等が挙げられる。
上記アリーレン基としては、1,4-フェニレン基、1,3-フェニレン基、1,4-ナフチレン基、1,5-ナフチレン基、及びアントラセニレン基等が挙げられ、1,4-フェニレン基が好ましい。
【0041】
上記アルキレン基及び上記アリーレン基はそれぞれ置換基を有していてもよい。置換基の数は、1~3が好ましく、1がより好ましい。置換基の置換位置は特に制限されない。置換基としては、ハロゲン原子又は炭素数1~3のアルキル基が好ましく、メチル基がより好ましい。
上記アルキレン基及び上記アリーレン基は無置換であることも好ましい。中でも、アルキレン基は無置換であることが好ましい。
【0042】
-X11-L11-の例として、上述のLの例であるL101~L138が挙げられる。
【0043】
11は、水酸基、カルボン酸基、無水カルボン酸基、アミノ基、シアネートエステル基、又は上記不飽和重合性基を表す。
なお、P11が水酸基である場合、L11はアリーレン基を含み、このアリーレン基はP11と結合していることが好ましい。
【0044】
12は、X11と同様であり、好適な条件も同様である。
12は、L11と同様であり、好適な条件も同様である。
-X12-L12-の例として、上述のLの例であるL101~L138が挙げられる。
【0045】
12は、水素原子、炭素数1~20の直鎖状、分岐鎖状、もしくは環状のアルキル基、又は、炭素数1~20の直鎖状、分岐鎖状、もしくは環状のアルキル基において1個又は2個以上のメチレン基が-O-、-S-、-NH-、-N(CH)-、-C(=O)-、又は-OC(=O)-で置換された基を表す。
【0046】
12が、炭素数1~20の直鎖状、分岐鎖状、もしくは環状のアルキル基、又は、炭素数1~20の直鎖状、分岐鎖状、もしくは環状のアルキル基において1個又は2個以上のメチレン基が-O-、-S-、-NH-、-N(CH)-、-C(=O)-、又は-OC(=O)-で置換された基の場合、Y12に含まれる水素原子の1個以上がハロゲン原子で置換されていてもよい。
12は、水素原子、炭素数1~20の直鎖状、分岐鎖状、もしくは環状のアルキル基、又は、炭素数1~20のアルキレンオキシド基が好ましく、炭素数1~12の直鎖状もしくは分岐鎖状のアルキル基、又は炭素数1~20のエチレンオキシド基もしくはプロピレンオキシド基がより好ましい。
【0047】
式(XI)で表される化合物の具体例としては、特開平7-281028号公報の段落0028~0036、特開平7-306317号公報、特開2005-156822号公報の段落0016~0018、特開2006-301614号公報の段落0067~0072、及び液晶便覧(平成12年丸善株式会社発刊)330頁~333頁に記載の化合物が挙げられる。
【0048】
式(XI)で表される化合物は、特開平7-306317号公報、特開平7-281028号公報、特開2005-156822号公報、及び特開2006-301614号公報に記載の方法に準じて合成できる。
【0049】
次に、式(D16)について説明する。
【0050】
【化7】
【0051】
式(D16)中、A2X、A3X、及びA4Xは、それぞれ独立に、-CH=又は-N=を表す。中でも、A2X、A3X、及びA4Xは、-CH=が好ましい。
17X、R18X、及びR19Xは、それぞれ独立に、*-(X211X-Z21Xn21X-L21X-Qを表す。*は、中心環との結合位置を表す。
211Xは、単結合、-O-、-C(=O)-、-NH-、-OC(=O)-、-OC(=O)O-、-OC(=O)NH-、-OC(=O)S-、-C(=O)O-、-C(=O)NH-、-C(=O)S-、-NHC(=O)NH-、-NHC(=O)S-、-S-、-SC(=O)-、-SC(=O)O-、-SC(=O)NH-、又は-SC(=O)S-を表す。
21Xは、5員環もしくは6員環の芳香族環基、又は5員環もしくは6員環の非芳香族環基を表す。
21Xは、単結合又は2価の連結基を表す。
Qは、式(D1)~(D15)におけるQと同義であり、好適態様も同じである。
n21Xは、0~3の整数を表す。n21Xが2以上の場合、複数存在する(X211X-Z21X)は、同一でも異なっていてもよい。
【0052】
なお、式(D16)で表される化合物は、フッ素原子を有さないことが好ましい。なかでも、Qはフッ素原子を有さないことが好ましく、言い換えれば、Qは、フッ素原子を有さない置換基、または、水素原子を表すことが好ましい。
なお、式(D16)で表される化合物は、炭素数10以上のアルキル基を有さないことが好ましい。なかでも、Qは炭素数10以上のアルキル基を有さないことが好ましく、言い換えれば、Qは、炭素数10以上のアルキル基を有さない置換基、または、水素原子を表すことが好ましい。
【0053】
式(D16)で表される化合物としては、式(XII)で表される化合物が好ましい。
【0054】
【化8】
【0055】
式(XII)中、A、A、及びAは、それぞれ独立に、-CH=又は-N=を表す。中でも、A、A、及びAは、-CH=が好ましい。言い換えると、円盤状化合物の中心環はベンゼン環であることが好ましい。
【0056】
17、R18、及びR19は、それぞれ独立に、*-(X211-Z21n21-L21-P21、又は*-(X221-Z22n22-Y22を表す。*は中心環との結合位置を表す。
17、R18、及びR19のうち2個以上は、*-(X211-Z21n21-L21-P21である。熱伝導膜の熱伝導性がより優れる点で、R17、R18、及びR19は全てが、*-(X211-Z21n21-L21-P21であることが好ましい。加えて、R17、R18、及びR19が、全て同一であることが好ましい。
【0057】
211及びX221は、それぞれ独立に、単結合、-O-、-C(=O)-、-NH-、-OC(=O)-、-OC(=O)O-、-OC(=O)NH-、-OC(=O)S-、-C(=O)O-、-C(=O)NH-、-C(=O)S-、-NHC(=O)NH-、-NHC(=O)S-、-S-、-SC(=O)-、-SC(=O)O-、-SC(=O)NH-、又は-SC(=O)S-を表す。
中でも、X211及びX221としては、それぞれ独立に、単結合、-O-、-C(=O)O-、又は-OC(=O)-が好ましい。
【0058】
21及びZ22は、それぞれ独立に、5員環もしくは6員環の芳香族環基、又は5員環もしくは6員環の非芳香族環基を表し、例えば、1,4-フェニレン基、1,3-フェニレン基、及び芳香族複素環基等が挙げられる。
【0059】
上記芳香族環基及び上記非芳香族環基は、置換基を有してもよい。置換基の数は1又は2が好ましく、1がより好ましい。置換基の置換位置は、特に制限されない。置換基としては、ハロゲン原子又はメチル基が好ましい。上記芳香族環基及び上記非芳香族環基は無置換であることも好ましい。
【0060】
芳香族複素環基としては、例えば、以下の芳香族複素環基等が挙げられる。
【0061】
【化9】
【0062】
式中、*はX211又はX221に結合する側の部位を表す。**はL21又はY22に結合する側の部位を表す。A41及びA42は、それぞれ独立に、メチン基又は窒素原子を表す。Xは、酸素原子、硫黄原子、メチレン基、又はイミノ基を表す。
41及びA42は、少なくとも一方が窒素原子であることが好ましく、両方が窒素原子であることがより好ましい。また、Xは、酸素原子であることが好ましい。
【0063】
後述するn21及びn22が2以上の場合、複数存在する(X211-Z21)及び(X221-Z22)は、それぞれ同一でも異なっていてもよい。
【0064】
21は、単結合又は2価の連結基を表し、上述した式(XI)におけるL11と同義である。L21としては、-O-、-OC(=O)-、-S-、-NH-、アルキレン基(炭素数は、1~10が好ましく、1~8がより好ましく、1~7が更に好ましい。)、アリーレン基(炭素数は、6~20が好ましく、6~14がより好ましく、6~10が更に好ましい。)、又はこれらの組み合わせからなる基が好ましい。
【0065】
後述するn22が1以上の場合において、-L21-の例としては、上述の式(D1)~(D15)におけるLの例であるL101~L138が同様に挙げられる。
【0066】
21は、水酸基、カルボン酸基、無水カルボン酸基、アミノ基、シアネートエステル基、又は上記不飽和重合性基を表す。
【0067】
22は、水素原子、炭素数1~20の直鎖状、分岐鎖状、もしくは環状のアルキル基、又は、炭素数1~20の直鎖状、分岐鎖状、もしくは環状のアルキル基において1個又は2個以上のメチレン基が-O-、-S-、-NH-、-N(CH)-、-C(=O)-、又は-OC(=O)-で置換された基を表す。Y22の好適態様としては、式(XI)におけるY12の好適態様と同じである。
【0068】
n21及びn22はそれぞれ独立に、0~3の整数を表し、熱伝導膜の熱伝導性がより優れる点から、1~3の整数が好ましく、2又は3がより好ましい。
【0069】
式(XII)で表される化合物の好ましい例としては、以下の化合物が挙げられる。
なお、下記構造式中、Rは、-L21-P21を表す。
【0070】
【化10】
【0071】
式(XII)で表される化合物の詳細、及び具体例については、特開2010-244038号公報の段落0013~0077の記載を参照でき、その内容は本明細書に組み込まれる。
【0072】
式(XII)で表される化合物は、特開2010-244038号公報、特開2006-76992号公報、及び特開2007-2220号公報に記載の方法に準じて合成できる。
【0073】
電子密度を減らすことでスタッキングを強くし、カラム状集合体を形成しやすくなる点から、円盤状化合物は、水素結合性官能基を有する化合物であることが好ましい。水素結合性官能基としては、-OC(=O)NH-、-C(=O)NH-、-NHC(=O)NH-、又は-NHC(=O)S-等が挙げられる。
【0074】
後述するように、円盤状化合物を含有する組成物を用いて形成される熱伝導膜が、円盤状化合物を含有する組成物を硬化させてなる硬化物を含有する場合、上記組成物は、円盤状化合物を主剤として含有してもよいし、硬化剤として含有してもよい。また、上記組成物は主剤及び硬化剤の双方として円盤状化合物を含有してもよい。上記組成物は、円盤状化合物を少なくとも主剤として含有することが好ましい。
【0075】
式(D1)~(D16)で表される円盤状化合物が主剤であるとき、1個以上のQが、(メタ)アクリル基、(メタ)アクリルアミド基、オキシラニル基、及びオキセタニル基からなる群より選択される反応性基であることが好ましい。中でも、熱伝導膜の熱伝導性がより優れる点で、2個以上のQが上記反応性基であることがより好ましく、3個以上のQが上記反応性基であることが更に好ましい。上記反応性基としては、オキシラニル基又はオキセタニル基がより好ましく、オキシラニル基が更に好ましい。
【0076】
式(D1)~(D16)で表される円盤状化合物が硬化剤であるとき、1個以上のQが、水酸基、アミノ基、チオール基、イソシアネート基、カルボキシル基及び無水カルボン酸基からなる群より選択される活性水素含有官能基であることが好ましい。中でも、熱伝導膜の熱伝導性がより優れる点で、2個以上のQが上記活性水素含有官能基であることがより好ましく、3個以上のQが上記活性水素含有官能基であることが更に好ましい。上記活性水素含有官能基としては、水酸基、アミノ基、又は無水カルボン酸基がより好ましく、アミノ基が更に好ましい。
【0077】
円盤状化合物は1種のみを使用してもよいし、2種以上を使用してもよい。
【0078】
[組成物(熱伝導膜形成用組成物)]
本熱伝導膜は、円盤状化合物を含有する組成物(本組成物)を用いて形成される。
円盤状化合物の定義は、上述した通りである。
本明細書において、「円盤状化合物を含有する組成物」は、円盤状化合物と円盤状化合物以外の成分とを含有する組成物、及び、円盤状化合物のみからなる組成物の両者を包含する。
【0079】
本組成物中の円盤状化合物の含有量は、本組成物の全固形体積に対して、10~100体積%が好ましく、30~99.99体積%がより好ましい。
なお、固形分とは、熱伝導膜を形成する成分を意味し、溶媒は含まれない。固形分は、その性状が液状であっても、固形分として計算する。
【0080】
本組成物が含有してもよい円盤状化合物以外の他の成分としては、例えば、後述する円盤状化合物を水平配向させるために使用される水平配向剤、無機物、及び、溶媒等が挙げられる。
また、本熱伝導膜が本組成物の硬化物を含有する場合、本組成物が含有してもよい円盤状化合物以外の他の成分としては、円盤状化合物以外の硬化剤及び主剤、硬化促進剤、並びに、重合開始剤が挙げられる。
【0081】
なお、本明細書において、「硬化剤」とは、水酸基、アミノ基、チオール基、イソシアネート基、チオイソシアネート基、アルデヒド基、カルボキシル基、無水カルボン酸基、及びスルホ基からなる群より選択される官能基を有する化合物を意味する。
また、本明細書において、「主剤」とは、不飽和重合性基((メタ)アクリル基、(メタ)アクリルアミド基等)、オキシラニル基、オキセタニル基、及び、アジリジニル基からなる群より選択される官能基を有する化合物を意味する。
本熱伝導膜が本組成物を硬化してなる硬化物を含有する場合、本組成物は、硬化剤を含有してもよいし、硬化剤を含有していなくてもよい。
また、本熱伝導膜は、未硬化の円盤状化合物を含有してもよい。
【0082】
<水平配向剤>
本熱伝導膜は、水平配向剤を含有することが好ましい。水平配向剤とは、上述した円盤状化合物を水平に配向させる機能を有する化合物である。
水平配向剤としては、公知の化合物が使用できる。なかでも、水平配向剤は、フッ素原子又は炭素数10以上のアルキル基を有することが好ましく、分子末端にフッ素原子又は炭素数10以上のアルキル基を有することが好ましい。水平配向剤がフッ素原子を有する場合は、パーフルオロアルキル基を有することが好ましく、分子末端にパーフルオロ基を有することがより好ましい。
水平配向剤は、円盤状構造を有していてもよい。
水平配向剤としては、例えば、特開2011-237513号の段落0253~0292に記載されている一般式(1)~(3)で表される化合物が挙げられ、これらの内容は本明細書中に引用するものとする。
円盤状化合物を含有する本組成物に水平配向剤を添加することで、本組成物を用いて形成された熱伝導膜中において、円盤状化合物を水平配向させることができる。
【0083】
なお、本明細書において、「水平配向」とは、熱伝導膜の水平面(主面)に対して、円盤状化合物が有する円盤状構造が平行であることを意味するが、厳密に平行であることを要求するものではない。
熱伝導膜中における円盤状化合物の配向性は、後述の通り、ATR-IR法(減衰全反射赤外分光法)を用いて測定される。
【0084】
本組成物中において水平配向剤の含有量は、本組成物の全固形体積に対して、0.001~10体積%が好ましく、0.005~10体積%がより好ましく、0.01~5体積%が更に好ましい。
また、本熱伝導膜中の水平配向剤の含有量は、本熱伝導膜全体積に対して、0.001~10体積%が好ましく、0.005~10体積%がより好ましく、0.01~5体積%が更に好ましい。
水平配向剤は、1種のみを使用してもよいし、2種以上を使用してもよい。
【0085】
<無機物>
本発明の熱伝導膜は、熱伝導性がより優れる点から、無機物を含有することが好ましい。
【0086】
無機物としては、従来から熱伝導膜の無機フィラーとして用いられているいずれの無機物を用いてもよい。無機物としては、無機酸化物又は無機窒化物が好ましい。無機物は、無機酸化窒化物であってもよい。無機物の形状は特に制限されず、粒子状であってもよく、フィルム状であってもよく、又は、平板状であってもよい。粒子状無機物の形状としては、米粒状、球形状、立方体状、紡錘形状、鱗片状、凝集状、及び、不定形状が挙げられる。
【0087】
無機酸化物としては、例えば、酸化ジルコニウム(ZrO)、酸化チタン(TiO)、酸化ケイ素(SiO)、酸化アルミニウム(Al)、酸化鉄(Fe、FeO、Fe)、酸化銅(CuO、CuO)、酸化亜鉛(ZnO)、酸化イットリウム(Y)、酸化ニオブ(Nb)、酸化モリブデン(MoO)、酸化インジウム(In、InO)、酸化スズ(SnO)、酸化タンタル(Ta)、酸化タングステン(WO、W)、酸化鉛(PbO、PbO)、酸化ビスマス(Bi)、酸化セリウム(CeO、Ce)、酸化アンチモン(Sb、Sb)、酸化ゲルマニウム(GeO、GeO)、酸化ランタン(La)、及び、酸化ルテニウム(RuO)が挙げられる。
上記の無機酸化物は、1種のみを使用してもよいし、2種以上を使用してもよい。
無機酸化物は、酸化チタン、酸化アルミニウム、又は、酸化亜鉛が好ましい。
無機酸化物は、非酸化物として用意された金属が、環境下等で酸化したことにより生じた酸化物であってもよい。
【0088】
無機窒化物としては、例えば、窒化ホウ素(BN)、窒化炭素(C)、窒化ケイ素(Si)、窒化ガリウム(GaN)、窒化インジウム(InN)、窒化アルミニウム(AlN)、窒化クロム(CrN)、窒化銅(CuN)、窒化鉄(FeN)、窒化鉄(FeN)、窒化ランタン(LaN)、窒化リチウム(LiN)、窒化マグネシウム(Mg)、窒化モリブデン(MoN)、窒化ニオブ(NbN)、窒化タンタル(TaN)、窒化チタン(TiN)、窒化タングステン(WN)、窒化タングステン(WN)、窒化イットリウム(YN)、及び、窒化ジルコニウム(ZrN)が挙げられる。
上記の無機窒化物は、1種のみを使用してもよいし、2種以上を使用してもよい。
無機窒化物は、アルミニウム原子、ホウ素原子、又は、珪素原子を含有することが好ましく、窒化アルミニウム、窒化ホウ素、又は、窒化珪素であることがより好ましく、窒化アルミニウム又は窒化ホウ素であることが更に好ましく、窒化ホウ素が特に好ましい。
【0089】
無機物の大きさは特に制限されないが、無機物の分散性がより優れる点で、無機物の平均粒径は500μm以下が好ましく、300μm以下がより好ましく、200μm以下が更に好ましい。下限は特に制限されないが、取り扱い性の点で、10nm以上が好ましく、100nm以上がより好ましい。
無機物の平均粒径は、電子顕微鏡を用いて、100個の無機物を無作為に選択して、それぞれの無機物の粒径(長径)を測定し、それらを算術平均することにより、求められる。なお、無機物の市販品を用いる場合、カタログ値を用いてもよい。
【0090】
無機物は、1種のみを使用してもよいし、2種以上を使用してもよい。平均粒径の異なる2種以上の無機物を使用することが好ましく、平均粒径の異なる3種以上の無機物を使用することがより好ましい。
本組成物中の無機物の含有量は、組成物の全固形分体積に対して、30~95体積%が好ましく、35~90体積%がより好ましく、40~90体積%がさらに好ましい。
本熱伝導膜中の無機物の含有量は、本熱伝導膜全体積に対して、1~95体積%が好ましく、5~95体積%がより好ましく、30~90体積%が更に好ましく、40~90体積%が特に好ましい。
【0091】
<溶媒>
本組成物は、溶媒を更に含有してもよい。
溶媒の種類は特に制限されず、有機溶媒が好ましい。有機溶媒としては、例えば、酢酸エチル、メチルエチルケトン(MEK)、ジクロロメタン、テトラヒドロフラン(THF)、及び、ヘキサンが挙げられる。
本組成物における溶媒の含有量は、本組成物の全質量に対する本組成物中の全固形分の質量の合計(固形分濃度)が、1~90質量%となる量が好ましく、5~85質量%となる量がより好ましく、10~80質量%となる量が更に好ましい。
【0092】
<その他の硬化剤及び主剤>
本組成物は円盤状化合物に該当しないその他の硬化剤又は主剤を含有してもよい。
硬化剤としては、水酸基、アミノ基、チオール基、イソシアネート基、チオイソシアネート基、アルデヒド基、カルボキシル基、無水カルボン酸基、及びスルホ基から選択される官能基を有する化合物であれば特に制限されないが、主剤として用いられる化合物に適合した硬化剤を用いることが好ましい。例えば、本組成物が、オキシラニル基を有する円盤状化合物を主剤として含有する場合、水酸基、アミノ基、又は無水カルボン酸基を有する硬化剤を用いることが好ましい。
また、硬化剤が有する上記官能基の個数は、特に制限されないが、2個以上が好ましい。
【0093】
円盤状化合物ではない硬化剤の例としては、特許第4118691号の段落0028に記載のエポキシ樹脂用硬化剤、特開2008-13759号公報の段落0016~0018に記載のアミン系硬化剤、フェノール系硬化剤及び酸無水物系硬化剤、並びに、特開2013-227451号公報の段落0101~0150に記載のアミン系硬化剤及びフェノール系硬化剤が挙げられる。
【0094】
主剤としては、(メタ)アクリル基、(メタ)アクリルアミド基、オキシラニル基、オキセタニル基、及びアジリジニル基からなる群より選択される官能基を有する化合物であれば特に制限されないが、硬化剤として用いられる化合物に適合した主剤を用いることが好ましい。例えば、本組成物が、官能基として水酸基、アミノ基、又は無水カルボン酸基を有する円盤状化合物を硬化剤として含有する場合、オキシラニル基を有する主剤を用いることが好ましい。
また、主剤が有する上記官能基の個数は、特に制限されないが、2個以上が好ましい。
【0095】
円盤状化合物ではない主剤の例としては、公知の各種エポキシ樹脂モノマー又はアクリル樹脂モノマーが挙げられる。例えば、特許第4118691号の段落0028に記載のエポキシ樹脂モノマー及びアクリル樹脂モノマー、特開2008-13759号公報の段落0006~0011に記載のエポキシ化合物、並びに、特開2013-227451号公報の段落0032~0100に記載のエポキシ樹脂混合物が挙げられる。
【0096】
本組成物中の、円盤状化合物ではない硬化剤の含有量は、組成物の全固形分に対して、10~90質量%が好ましく、30~80質量%がより好ましい。
本組成物中の、円盤状化合物ではない主剤の含有量は、組成物の全固形分に対して、1~50質量%が好ましく、1~30質量%がより好ましい。
【0097】
<硬化促進剤>
硬化促進剤としては、トリフェニルホスフィン、2-エチル-4-メチルイミダゾール、三フッ化ホウ素アミン錯体、1-ベンジル-2-メチルイミダゾール、及び、特開2012-67225号の段落0052に記載の硬化促進剤が挙げられる。中でも、トリフェニルホスフィンが好ましい。
本組成物中の硬化促進剤の含有量は、組成物の全固形分に対して、0.01~30質量%が好ましく、0.01~20質量%がより好ましく、0.01~10質量%が更に好ましい。
【0098】
<重合開始剤>
重合開始剤としては、特開2010-125782の段落0062及び特開2015-052710の段落0054に記載の重合開始剤が挙げられる。本組成物が、(メタ)アクリル基又は(メタ)アクリルアミド基を有する円盤状化合物、又は、その他の主剤を含有する場合、本組成物が上記の重合開始剤を含有することが好ましい。
本組成物中の重合開始剤の含有量は、組成物の全固形分に対して、0.01~30質量%が好ましく、0.01~20質量%がより好ましく、0.01~10質量%が更に好ましい。
【0099】
<組成物の製造方法>
本組成物の製造方法は特に制限されず、公知の方法を採用できる。例えば、上述した各種成分(円盤状化合物、水平配向剤、無機物及び溶媒等)を、公知の方法で混合することにより製造できる。混合する際には、各種成分を一括で混合しても、順次混合してもよい。
【0100】
[熱伝導膜の製造方法]
本発明の熱伝導膜の製造方法は特に制限されないが、例えば、円盤状化合物を含有する本組成物を硬化させて、上記硬化物を含有する熱伝導膜を得ることが好ましい。本組成物の硬化方法としては、円盤状化合物の種類及び組成物に含有される他の成分に適する方法を適宜選択すればよいが、熱硬化反応が好ましい。
熱硬化反応の際の加熱温度は、特に制限されない。例えば、50~250℃の範囲で熱硬化反応を行えばよい。また、熱硬化反応を行う際に、温度の異なる加熱処理を複数回にわたって実施してもよい。
硬化処理は、フィルム状、シート状又は板状とした本組成物に対して行うことが好ましい。具体的には、例えば、本組成物を塗布成膜し、得られた塗膜に対して硬化処理を行えばよい。その際、プレス加工を行ってもよい。
【0101】
また、硬化処理は、本組成物を半硬化状態にした時点で終了してもよい。半硬化状態の本熱伝導膜を、使用されるデバイス等に接触するように配置した後、本熱伝導膜の硬化を更に進行させる本硬化を、加熱等により実施してもよい。上記本硬化として実施する加熱等によって、デバイスと本熱伝導膜とを接着することも、好ましい。
硬化反応を利用した熱伝導膜の作製方法については、「高熱伝導性コンポジット材料」(シーエムシー出版、竹澤由高著)p63-78を参照できる。
【0102】
〔熱伝導膜の特性〕
本熱伝導膜は、円盤状化合物を含有する本組成物を用いて形成される。
本熱伝導膜の形状は、面状の広がりを有する形状であり、フィルム状、シート状又は板状等と称されるような形状が挙げられるが、特に制限されない。
本熱伝導膜は、熱伝導性に優れており、本熱伝導膜の両主面に接触した物体間の熱移動の効率を向上させることができる。
本熱伝導膜の膜厚方向(水平面に垂直な方向)の熱伝導率は、特に制限されないが、0.4W/mK以上であることが好ましく、0.5W/mK以上であることがより好ましく、0.6W/mK以上であることが更に好ましい。上限は特に制限されないが、2W/mK以下の場合が多い。
熱伝導膜の膜厚方向の熱伝導率は、熱伝導膜について、膜厚方向の熱拡散率、比重及び比熱を、公知の測定装置を用いて測定し、これらを乗じることにより算出できる。
【0103】
[熱伝導膜の厚さ]
本熱伝導膜の厚さは、30μm超であり、膜厚方向の熱伝導率がより優れる点から、本熱伝導膜の厚さは、60μm以上が好ましく、100μm以上がより好ましく、150μm以上が更に好ましい。
また、熱伝導膜の厚さが30μm以下である場合、熱伝導膜の膜厚方向の絶縁性について、所望の基準を満足し得ない可能性がある。膜厚方向の絶縁性がより優れる点からも、本熱伝導膜の厚さが上記範囲にあることが好ましい。
【0104】
本熱伝導膜の厚さの上限は、特に制限されないが、5000μm以下が好ましく、3000μm以下がより好ましい。
上記熱伝導膜の厚さは平均厚さであり、熱伝導膜の厚さの測定方法は特に制限されず、公知の膜厚測定器を用いて熱伝導膜の任意の数点の厚さを測定し、それらの平均値を算出する方法が挙げられる。
【0105】
[熱伝導膜中での円盤状化合物の配向性]
本熱伝導膜中、円盤状化合物は水平配向している。
本明細書において、円盤状化合物が「水平配向している」とは、円盤状化合物が有する円盤状構造が、熱伝導膜の水平面(主面)に対して平行であることを意味する。しかしながら、厳密に平行であることは要求されない。
【0106】
熱伝導膜中における円盤状化合物の配向性は、ATR-IR法(減衰全反射赤外分光法)を用いて測定される。
熱伝導膜の表面に偏光された光を入射して、反射光の赤外吸収スペクトルを測定する。得られた測定データから、円盤状化合物の構造に由来する特徴的な吸収ピークに基づいて、熱伝導膜の膜厚方向(z方向)の吸収係数kzを算出する。
例えば、熱伝導膜の膜厚方向をz方向と設定し、z方向に対して垂直であって、面内の互いに垂直な2方向をx方向及びy方向と設定する。次に、入射面(zx平面又はxy平面)に対して垂直又は平行に偏光された光を熱伝導膜の表面に入射し、反射光の赤外吸収スペクトルを測定する。円盤状化合物の芳香環CH面外変角に帰属する688cm-1近傍の吸収ピークに基づいて、得られた4つの測定データから吸収係数kx+吸収係数ky+吸収係数kz=1の連立方程式を解くことで、熱伝導膜の膜厚方向(z方向)の吸収係数kzを算出する。上記のような計算方法は、特開2007-031701号公報の段落0019~0024の記載を参照できる。
このようにして得られた吸収係数kzは、0~1.0の数値範囲を取り得、吸収係数kzが1に近づくほど、熱伝導膜中において、円盤状化合物がより水平に配向している傾向を示し、吸収係数kzが0に近づくほど、熱伝導膜中において、円盤状化合物がより垂直に配向している傾向を示す。
本明細書においては、上記吸収係数kzが0.6以上1.0以下である場合、円盤状化合物が水平配向していると評価し、上記吸収係数kzが0.4以上0.6未満である場合、円盤状化合物がランダムに配向していると評価し、上記吸収係数kzが0以上0.4未満である場合、円盤状化合物が垂直に配向していると評価する。
【0107】
熱伝導膜中の円盤状化合物を水平配向させる方法は、膜厚方向の吸収係数kzが上記の範囲となる方法であれば特に制限されない。例えば、上述の通り、熱伝導膜の形成に用いる組成物に水平配向剤を添加する方法が挙げられる。
【0108】
[熱伝導膜の用途]
本熱伝導膜は放熱シート等の放熱材として用いることができ、各種デバイスの放熱用途に用いることができる。より具体的には、デバイス上に本熱伝導膜を配置して熱伝導膜付きデバイスを作製することにより、デバイスからの発熱を熱伝導膜を介して効率的に放熱できる。
本発明の熱伝導膜は十分な熱伝導性を有するとともに、高い耐熱性を有しているため、パーソナルコンピュータ、一般家電、及び、自動車等の様々な電気機器に用いられているパワー半導体デバイスの放熱用途に適している。
更に、本熱伝導膜は、半硬化状態であっても十分な熱伝導性を有するため、各種装置の部材の隙間等の、光硬化のための光を到達させることが困難な部位に配置する放熱材としても使用できる。また、熱伝導性を有する接着剤層としての使用も可能である。
【0109】
本熱伝導膜は、本組成物から形成される部材以外の、他の部材と組み合わせて使用されてもよい。
例えば、本熱伝導膜は、本熱伝導膜以外のシート状の支持体と組み合わせられていてもよい。
シート状の支持体としては、プラスチックフィルム、金属フィルム、又は、ガラス板が挙げられる。プラスチックフィルムの材料としては、例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)等のポリエステル、ポリカーボネート、アクリル樹脂、エポキシ樹脂、ポリウレタン、ポリアミド、ポリオレフィン、セルロース誘導体、及び、シリコーンが挙げられる。金属フィルムとしては、銅フィルムが挙げられる。
【実施例
【0110】
以下に実施例に基づいて本発明を更に詳細に説明する。以下の実施例に示す材料、使用量、割合、処理内容、及び、処理手順等は、本発明の趣旨を逸脱しない限り適宜変更できる。したがって、本発明の範囲は以下に示す実施例により制限的に解釈されるべきではない。
【0111】
〔熱伝導膜の作製及び評価〕
[各種成分]
以下に、実施例及び比較例で使用した各種成分を示す。
【0112】
<円盤状化合物又は棒状化合物>
(円盤状化合物A-1)
特許5620129号公報に記載の実施例14の方法に従い、下記の円盤状化合物A-1を合成した。
【0113】
【化11】
【0114】
(円盤状化合物A-2)
有機合成化学協会誌2002年12月号1190頁に記載の方法に従い、下記の円盤状化合物A-2を合成した。
【0115】
【化12】
【0116】
(円盤状化合物A-3)
Organic Chemistry,2004,vol.69,♯7,p.2487-2497及び有機合成化学協会誌2002年12月号1190頁に記載の方法を参照して、下記の円盤状化合物A-3を合成した。
【0117】
【化13】
【0118】
(棒状化合物C-1)
Makromol.Chem. 190, 59頁(1991年)に記載の方法に従って、下記化合物C-1を合成した。
【化14】
【0119】
<水平配向剤>
特開2011-237513号公報のI-6に記載の方法に従い、下記式で表される水平配向剤を合成した。
【0120】
【化15】
【0121】
<無機物>
以下に、実施例で使用した無機物を示す。
「PTX-60」:凝集状窒化ホウ素(平均粒径:60μm、モーメンティブ製)
「PT-110」:平板状窒化ホウ素(平均粒径:45μm、モーメンティブ製)
「S-50」:窒化アルミニウム(平均粒径:55μm、MARUWA製)
「AA-3」:アルミナ(平均粒径:3μm、住友化学製)
「AA-04」:アルミナ(平均粒径:0.4μm、住友化学製)
【0122】
[実施例1]
下記表1に示す配合に基づいて、円盤状化合物及び水平配向剤をテトラヒドロフランに溶解させ、溶液を得た。次いで、上記溶液を、撹拌しているヘキサンに滴下した。その後、溶液をろ過して、組成物1を得た。
また、組成物1の最終的な固形分は、固形分濃度が40体積%になるように、メチルエチルケトンで調整した。
【0123】
次に、アプリケーターを用いて、ポリエステルフィルム(NP-100A パナック社製、膜厚100μm)の離型面上に組成物1を均一に塗布し、空気下で1時間放置することで塗膜1を得た。
次に、塗膜1の塗膜面を別のポリエステルフィルムで覆い、2枚のポリエステルフィルムで挟まれた塗膜1を空気下で熱プレス(熱板温度160℃、圧力12MPaで30分間、更に、190℃、圧力12MPaで2時間)で処理することにより塗膜を硬化し、樹脂膜を得た。樹脂膜の両面にあるポリエステルフィルムを剥がし、熱伝導膜1を得た。
【0124】
<配向性評価>
熱伝導膜1中の円盤状化合物の配向性を、ATR-IR法(減衰全反射赤外分光法)により測定されたデータを用いて評価した。
熱伝導膜1の膜厚方向をz方向と設定し、z方向に対して垂直であって、面内の互いに垂直な2方向をx方向及びy方向と設定した。
後述する測定条件に基づいて、入射面(zx平面又はxy平面)に対して垂直又は平行に偏光された光(垂直な偏光、または、平行な偏光)を熱伝導膜1の表面に入射し、反射光の赤外吸収スペクトルを測定した。得られた測定データから、円盤状化合物又は棒状化合物の芳香環CH面外変角に帰属する688cm-1近傍の吸収ピークにつき、熱伝導膜1の膜厚方向(z方向)の吸収係数kzを算出した。
得られた吸収係数kzから、下記の基準に従って、熱伝導膜1中の円盤状化合物A-1の配向性を評価した。配向性の評価結果を表1に示す。
なお、吸収係数kzが0.6以上1以下である場合、熱伝導膜中で円盤状化合物又は棒状化合物が水平配向していると評価され、吸収係数kzが0.4以上0.6未満である場合、円盤状化合物又は棒状化合物がランダムに配向していると評価され、吸収係数kzが0以上0.4未満である場合、円盤状化合物又は棒状化合物が垂直に配向していると評価される。
【0125】
(測定条件)
測定装置:VERTEX70(Bruker社製)
プリズム:ゲルマニウム
プリズムと熱伝導膜1間のトルク:30cN・m
熱伝導膜1をプリズムに押しつける冶具の面積:0.34cm
入射角:45°
反射回数:1回
分解能:4cm-1
吸収係数kzの計算において、熱伝導膜1の屈折率を1.50とし、プリズム(ゲルマニウム)の屈折率を4.00とした。
【0126】
(評価基準)
「A」: 吸収係数kzが0.8以上
「B」: 吸収係数kzが0.7以上0.8未満
「C」: 吸収係数kzが0.6以上0.7未満
「D」: 吸収係数kzが0.4以上0.6未満
「E」: 吸収係数kzが0.4未満
【0127】
<厚さ評価>
公知の膜厚測定器を用いて熱伝導膜1の任意の5点の厚さを測定し、それらの平均値を算出することにより、熱伝導膜1の厚さ(平均厚さ)を得た。得られた熱伝導膜1の厚さを、下記の基準に従って評価した。厚さの評価結果を表1に示す。
【0128】
(評価基準)
「A」: 150μm以上5000μm未満
「B」: 100μm以上150μm未満
「C」: 30μm超100μm未満
「D」: 30μm以下
【0129】
<熱伝導性評価>
下記の方法で熱伝導膜1の熱伝導率を測定した。測定された熱伝導率から、下記の基準に従って、熱伝導膜1の熱伝導性を評価した。熱伝導性の評価結果を表1に示す。
【0130】
(熱伝導率(W/m・K)の測定)
(1)アイフェイズ社製の「アイフェイズ・モバイル1u」を用いて、熱伝導膜1の膜厚方向の熱拡散率を測定した。
(2)メトラー・トレド社製の天秤「XS204」を用いて、熱伝導膜1の比重をアルキメデス法(「固体比重測定キット」使用)で測定した。
(3)セイコーインスツル社製の「DSC320/6200」を用い、10℃/分の昇温条件の下、25℃における熱伝導膜1の比熱を求めた。
(4)得られた熱拡散率に比重及び比熱を乗じることで、熱伝導膜1の熱伝導率を算出した。
【0131】
(評価基準)
「A」: 0.6W/m・K以上
「B」: 0.5W/m・K以上0.6W/m・K未満
「C」: 0.4W/m・K以上0.5W/m・K未満
「D」: 0.4W/m・K未満
【0132】
<絶縁性評価>
下記の方法で熱伝導膜1の電気抵抗率を測定した。測定された電気抵抗率から、下記の基準に従って、熱伝導膜1の絶縁性を評価した。絶縁性の評価結果を表1に示す。
【0133】
(電気抵抗率の測定)
抵抗率計ハイレスタMCP-HT450(三菱化学アナリテック社製)を用いて、熱伝導膜1の表面抵抗率(単位:Ω/□)を測定した。得られた表面抵抗率と、上記の熱伝導膜1の厚さから、下記式より電気抵抗率(Ω・cm)を算出した。
(電気抵抗率)=((表面抵抗)×(厚さ))
【0134】
(評価基準)
「A」: 1014Ω・cm以上
「B」: 1012Ω・cm以上1014Ω・cm未満
「C」: 1010Ω・cm以上1012Ω・cm未満
「D」: 1010Ω・cm未満
【0135】
[実施例2~6、比較例1~3]
実施例1と同様の手順により、下記表1に示す実施例及び比較例の各組成物を得た。
なお、実施例2、4及び6、並びに比較例1~2では、ポリエステルフィルムの離型面上に塗布する組成物1の塗布量を調整し、それぞれの厚さを有する塗膜を形成した。
また、比較例1においては、円盤状化合物ではなく、棒状化合物C-1を使用した。
また、比較例3においては、水平配向剤を配合せずに、比較用組成物3を調製した。
得られた各組成物から熱伝導膜2~6、比較用熱伝導膜1~3を作製し、実施例1と同様に、配向性評価試験、厚さ評価、熱伝導性評価試験及び絶縁性評価試験を実施した。結果を表1に示す。
【0136】
表1中、円盤状化合物の「構造式」欄は、上記式(D1)~(D16)のうち、使用した円盤状化合物が該当する構造式を意味する。
表1中、各種組成物の成分欄に記載される「含有量(体積%)」は、組成物中の全固形分に対する各種成分の含有量(体積%)を意味する。
【0137】
【表1】
【0138】
表1の結果から、本発明の熱伝導膜は、膜厚方向の熱伝導性及び絶縁性に優れることが確認された。
また、表1の結果から、熱伝導膜の厚さが100μm以上である場合、膜厚方向の熱伝導性及び絶縁性がより優れることが確認された(実施例1~5と実施例6との比較)。
また、表1の結果から、円盤状化合物が上記式(D4)又は上記式(D16)で表される化合物である場合、熱伝導性がより優れることが確認された(実施例1~4と実施例5との比較)。
【0139】
[実施例7~14]
下記表2に示す配合に基づいて、円盤状化合物及び水平配向剤をテトラヒドロフランに溶解させ、溶液を得た後、得られた溶液に無機物を添加した。次いで、得られた混合物を、自転公転ミキサー(THINKY社製、あわとり練太郎ARE-310)で5分間処理することで組成物を得た。
また、組成物の最終的な固形分は、固形分濃度が40体積%になるように、メチルエチルケトンで調整した。
【0140】
得られた組成物を用いること以外は実施例1と同様にして、円盤状化合物が水平配向している熱伝導膜を得た。
得られた熱伝導膜を用いて、実施例1と同様に、配向性評価試験、厚さ評価、熱伝導性評価試験及び絶縁性評価試験を実施した。なお、実施例7~14については、下記の評価基準に基づいて熱伝導性を評価した。結果を表2に示す。
なお、配向性評価に関しては、実施例12の結果のみ示す。
【0141】
(熱伝導性の評価基準)
「A」: 10W/m・K以上
「B」: 8W/m・K以上10W/m・K未満
「C」: 5W/m・K以上8W/m・K未満
「D」: 5W/m・K未満
【0142】
表2中、無機物の「構成」欄は、実施例7~14で使用した無機物が、下記のいずれかの構成を有する混合物であったことを意味する。
「A」: PTX-60/AA-3/AA-04=60/30/10(体積比)
「B」: PT-110/AA-3/AA-04=60/30/10(体積比)
「C」: S-50/AA-3/AA-04=60/30/10(体積比)
【0143】
【表2】
【0144】
表2の結果から、本発明の熱伝導膜は、膜厚方向の熱伝導性及び絶縁性に優れることが確認された。
また、無機物の含有量が熱伝導膜の5体積%超である場合、熱伝導性がより優れることが確認された(実施例12と、他の実施例との比較)。
また、円盤状化合物が、上記式(D4)又は上記式(D16)で表される化合物である場合、熱伝導性がより優れることが確認された(実施例7及び9と、実施例11との比較)。