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  • 特許-医薬 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-01-04
(45)【発行日】2022-01-20
(54)【発明の名称】医薬
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/519 20060101AFI20220113BHJP
   A61P 9/12 20060101ALI20220113BHJP
   A61P 11/00 20060101ALI20220113BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20220113BHJP
【FI】
A61K31/519
A61P9/12
A61P11/00
A61P43/00 111
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2018509322
(86)(22)【出願日】2017-03-27
(86)【国際出願番号】 JP2017012305
(87)【国際公開番号】W WO2017170354
(87)【国際公開日】2017-10-05
【審査請求日】2020-03-26
【審判番号】
【審判請求日】2021-10-04
(31)【優先権主張番号】P 2016063747
(32)【優先日】2016-03-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審理対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000002934
【氏名又は名称】武田薬品工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】230104019
【弁護士】
【氏名又は名称】大野 聖二
(74)【代理人】
【識別番号】100119183
【弁理士】
【氏名又は名称】松任谷 優子
(74)【代理人】
【識別番号】100149076
【弁理士】
【氏名又は名称】梅田 慎介
(74)【代理人】
【識別番号】100173185
【弁理士】
【氏名又は名称】森田 裕
(74)【代理人】
【識別番号】100162503
【弁理士】
【氏名又は名称】今野 智介
(74)【代理人】
【識別番号】100144794
【弁理士】
【氏名又は名称】大木 信人
(72)【発明者】
【氏名】加藤 珠蘭
(72)【発明者】
【氏名】山川 弘子
(72)【発明者】
【氏名】村木 暢
(72)【発明者】
【氏名】マハナンディーシュワー ガットゥ
(72)【発明者】
【氏名】サティヤラクシュミ オルガンティー
【合議体】
【審判長】前田 佳与子
【審判官】渕野 留香
【審判官】田中 耕一郎
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-239611(JP,A)
【文献】特表2006-510582(JP,A)
【文献】Chest,2004,125,p.669-682
【文献】PLoS ONE,2015,10(9),e0138384.(doi:10.1371/journal.pone.0138384)
【文献】生化学第80巻第10号,p.925―932,2008(http://www.jbsoc.or.jp/seika/wp-content/uploads/2013/11/80-10-07.pdf)
【文献】Bioorganic & Medicinal Chemistry 19,2011,p.1881-1894
【文献】薬学雑誌,2013,133(12),p.1351-1359
【文献】Circulation Research,2012,111,p.469-481
【文献】J.Pharmacol.Exp.Ther.,2001,298(2),p.469-476
【文献】Pulm Circ.,2015,5(2),p.228-243
【文献】Am.J.Respir.Crit. Care Med.,2008,177(11),p.1276-1284
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 31/519
CAPlus,Registry(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
肺高血圧症を有する対象において肺高血圧症を治療するための、
(5R)-N-[1-エチル-1-(4-エチルフェニル)プロピル]-2,7,7-トリメチル-5-フェニル-4,5,6,7-テトラヒドロピラゾロ[1,5-a]ピリミジン-3-カルボキサミド、(5R)-N-[1-エチル-1-(4-メトキシフェニル)プロピル]-2,7,7-トリメチル-5-フェニル-4,5,6,7-テトラヒドロピラゾロ[1,5-a]ピリミジン-3-カルボキサミド、(5R)-N-[1-エチル-1-(4-エチルフェニル)プロピル]-5-(2-フルオロフェニル)-2,7,7-トリメチル-4,5,6,7-テトラヒドロピラゾロ[1,5-a]ピリミジン-3-カルボキサミド、およびそれらの塩からなる群から選ばれる化合物を含有してなる、医薬。
【請求項2】
肺高血圧症が肺動脈性肺高血圧症である、請求項1記載の医薬。
【請求項3】
ヒトNHE1とヒトCHP1との相互作用の阻害剤であって、
(5R)-N-[1-エチル-1-(4-エチルフェニル)プロピル]-2,7,7-トリメチル-5-フェニル-4,5,6,7-テトラヒドロピラゾロ[1,5-a]ピリミジン-3-カルボキサミド、(5R)-N-[1-エチル-1-(4-メトキシフェニル)プロピル]-2,7,7-トリメチル-5-フェニル-4,5,6,7-テトラヒドロピラゾロ[1,5-a]ピリミジン-3-カルボキサミド、(5R)-N-[1-エチル-1-(4-エチルフェニル)プロピル]-5-(2-フルオロフェニル)-2,7,7-トリメチル-4,5,6,7-テトラヒドロピラゾロ[1,5-a]ピリミジン-3-カルボキサミド、およびそれらの塩からなる群から選ばれる化合物を含有してなる、
阻害剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、肺高血圧症を予防または治療するための医薬に関する。
【0002】
[発明の背景]
肺高血圧症は、心筋や、肺血管組織の異常な増殖やリモデリング、収縮などにより肺動脈圧が上昇し、病気の進行とともに右心不全を併発して死に至る、予後がきわめて不良な疾患である。現在使われている主な治療薬は、エンドセリン受容体アンタゴニスト、ホスホジエステラーゼ5阻害剤、プロスタサイクリンアナログ、可溶性グアニル酸シクラーゼ(sGC)刺激剤などであるが、一部症状の改善がみられるものの、依然予後が悪い。近年、疾患の病態に複数の分子が関与していることが明らかになり、また、現行の治療薬も単剤での効果が限定的であることから、新しい治療薬の開発が望まれている。
【0003】
カルシウム感受性受容体(CaSR)は、細胞外カルシウム濃度の変化を感知するGタンパク質共役型受容体(GPCR)であり、種々の疾患に関連していることが知られている。最近、肺高血圧症患者から単離された肺動脈平滑筋細胞(PASMC)において、CaSRが過剰発現していること、機能が亢進することで、肺血管組織の異常な増殖などが引き起こされることが報告された。また、モノクロタリン(MCT)誘発性肺高血圧症ラットおよび低酸素誘発性肺高血圧症(HPH)マウスにおいて、CaSRアンタゴニストとしての作用を有する化合物NPS-2143が心肥大、右室収縮期圧の上昇、心筋組織の繊維化、および肺血管リモデリング等を抑制することが報告された(非特許文献1~5)。また、NPS-2143およびCalhex231(negative allosteric modulator)が、既存の肺動脈性肺高血圧症(PAH)治療薬(PDE5インヒビター/sildenafil)の効果を増強することや(非特許文献7)、CaSRノックアウトマウスを用いて、血管緊張や心臓血管血圧、肺高血圧症に対するCaSRの作用についても報告されている(非特許文献8~9)。しかし、肺高血圧症に対する治療薬の医学的必要性は依然として高く、薬効、特異性、低毒性の点で優れた性質を有する、肺高血圧症の予防または治療のための医薬の開発が望まれている。
【0004】
(5R)-N-[1-エチル-1-(4-エチルフェニル)プロピル]-2,7,7-トリメチル-5-フェニル-4,5,6,7-テトラヒドロピラゾロ[1,5-a]ピリミジン-3-カルボキサミド(以下、「化合物A」ともいう)、(5R)-N-[1-エチル-1-(4-メトキシフェニル)プロピル]-2,7,7-トリメチル-5-フェニル-4,5,6,7-テトラヒドロピラゾロ[1,5-a]ピリミジン-3-カルボキサミド(以下、「化合物B」ともいう)、および(5R)-N-[1-エチル-1-(4-エチルフェニル)プロピル]-5-(2-フルオロフェニル)-2,7,7-トリメチル-4,5,6,7-テトラヒドロピラゾロ[1,5-a]ピリミジン-3-カルボキサミド(以下、「化合物C」ともいう)は、カルシウム感受性受容体(CaSR)の活性調節に関わること、および、副甲状腺ホルモン(PTH)の調節に関わることが知られている(特許文献1および特許文献2)。また、非特許文献6には、化合物Aのトシル酸塩がCaSRのアンタゴニストであることが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】WO2004/017908
【文献】特開2005-239611
【非特許文献】
【0006】
【文献】Circ. Res., 111(4): 469-481, 2012
【文献】Circ. Res., 112(4): 640-650, 2013
【文献】YAKUGAKU ZASSHI, 133(12):1351-1359, 2013
【文献】J. Smooth Muscle Res., 50: 8-17, 2014
【文献】Hypertens Res. 37(2): 116-124, 2014
【文献】Bioorganic & Medicinal Chemistry 19: 1881-1894, 2011
【文献】Eur. J. Pharmacol. 784:15-21, 2016
【文献】Am. J. Physiol. Lung Cell Mol. Physiol. 310: 846-859, 2016
【文献】Am. J. Physiol. Cell Physiol. 310: 193-204, 2016
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、肺高血圧症を予防または治療するための医薬を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、化合物A、化合物B、化合物C、およびそれらの塩からなる群から選ばれる化合物が肺高血圧症を予防または治療することに有効であることを見出した。本発明は上記知見に基づいてなされた発明である。
【0009】
すなわち、本発明によれば以下の発明が提供される。
[1]肺高血圧症を予防または治療するための、
(5R)-N-[1-エチル-1-(4-エチルフェニル)プロピル]-2,7,7-トリメチル-5-フェニル-4,5,6,7-テトラヒドロピラゾロ[1,5-a]ピリミジン-3-カルボキサミド、(5R)-N-[1-エチル-1-(4-メトキシフェニル)プロピル]-2,7,7-トリメチル-5-フェニル-4,5,6,7-テトラヒドロピラゾロ[1,5-a]ピリミジン-3-カルボキサミド、(5R)-N-[1-エチル-1-(4-エチルフェニル)プロピル]-5-(2-フルオロフェニル)-2,7,7-トリメチル-4,5,6,7-テトラヒドロピラゾロ[1,5-a]ピリミジン-3-カルボキサミド、およびそれらの塩からなる群から選ばれる化合物を含有してなる、医薬。
[2]肺高血圧症が肺動脈性肺高血圧症である、上記[1]記載の医薬。
[3]哺乳動物に対して(5R)-N-[1-エチル-1-(4-エチルフェニル)プロピル]-2,7,7-トリメチル-5-フェニル-4,5,6,7-テトラヒドロピラゾロ[1,5-a]ピリミジン-3-カルボキサミド、(5R)-N-[1-エチル-1-(4-メトキシフェニル)プロピル]-2,7,7-トリメチル-5-フェニル-4,5,6,7-テトラヒドロピラゾロ[1,5-a]ピリミジン-3-カルボキサミド、(5R)-N-[1-エチル-1-(4-エチルフェニル)プロピル]-5-(2-フルオロフェニル)-2,7,7-トリメチル-4,5,6,7-テトラヒドロピラゾロ[1,5-a]ピリミジン-3-カルボキサミド、およびそれらの塩からなる群から選ばれる化合物を投与することを特徴とする、該哺乳動物における肺高血圧症の予防または治療方法。
[4]肺高血圧症が肺動脈性肺高血圧症である、上記[3]記載の方法。
[5]肺高血圧症を予防または治療するための、(5R)-N-[1-エチル-1-(4-エチルフェニル)プロピル]-2,7,7-トリメチル-5-フェニル-4,5,6,7-テトラヒドロピラゾロ[1,5-a]ピリミジン-3-カルボキサミド、(5R)-N-[1-エチル-1-(4-メトキシフェニル)プロピル]-2,7,7-トリメチル-5-フェニル-4,5,6,7-テトラヒドロピラゾロ[1,5-a]ピリミジン-3-カルボキサミド、(5R)-N-[1-エチル-1-(4-エチルフェニル)プロピル]-5-(2-フルオロフェニル)-2,7,7-トリメチル-4,5,6,7-テトラヒドロピラゾロ[1,5-a]ピリミジン-3-カルボキサミド、およびそれらの塩からなる群から選ばれる化合物。
[6]肺高血圧症が肺動脈性肺高血圧症である、上記[5]記載の化合物。
[7]肺高血圧症の予防または治療剤を製造するための、(5R)-N-[1-エチル-1-(4-エチルフェニル)プロピル]-2,7,7-トリメチル-5-フェニル-4,5,6,7-テトラヒドロピラゾロ[1,5-a]ピリミジン-3-カルボキサミド、(5R)-N-[1-エチル-1-(4-メトキシフェニル)プロピル]-2,7,7-トリメチル-5-フェニル-4,5,6,7-テトラヒドロピラゾロ[1,5-a]ピリミジン-3-カルボキサミド、(5R)-N-[1-エチル-1-(4-エチルフェニル)プロピル]-5-(2-フルオロフェニル)-2,7,7-トリメチル-4,5,6,7-テトラヒドロピラゾロ[1,5-a]ピリミジン-3-カルボキサミド、およびそれらの塩からなる群から選ばれる化合物の使用。

[8]肺高血圧症が肺動脈性肺高血圧症である、上記[7]記載の使用。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、肺高血圧症を予防または治療することができる。また、本発明の医薬は、経口投与が可能であり、経口投与した場合には非経口投与用医薬と比較して副作用(例えば、感染)が少なく、肺高血圧症に対して優れた治療効果および予後改善効果が期待され、また、既存薬と併用する場合に、患者や医療従事者、関係者が扱いやすい利点をも有する。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1図1は、モノクロタリン誘導肺高血圧症ラットモデルにおける各投与群のカプランマイヤー生存曲線を示す。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本明細書では、用語「対象」とは、ほ乳動物であり、例えば、ヒトである。本明細書では、「肺高血圧症の対象」とは、肺高血圧症を患っている対象を意味する。対象がヒトである場合、該対象は「患者」と呼ばれる。肺高血圧症を患っている対象がヒトである場合、該対象は「肺高血圧症患者」と呼ばれる。
【0013】
本明細書では、用語「薬学的に許容し得る塩」とは、生体に投与した場合に許容される酸付加塩または塩基付加塩を意味する。
【0014】
本明細書では、用語「治療上有効量」とは、対象に治療効果をもたらす量を意味し、例えば、この量を投与された対象において、この量を投与されなかった対象と比較して、疾患の症状または状態が緩和され、軽減され、若しくは除去され、またはその進展が遅延若しくは抑制されることを意味する。治療上有効量は、医師が対象の年齢、体重、性別および症状の重さなどに応じて適宜決定することができる。
【0015】
本明細書では、用語「肺高血圧症」とは、肺動脈圧が上昇した状態を意味する。一般的な「高血圧症」は、左心室から大動脈を通って体内に送り出される血液の血管内の圧力が高まった状態を意味するのに対して、「肺高血圧症」は、右心室から肺へとつながる肺動脈が高血圧となった状態である。また、肺高血圧症は一般的な高血圧症とは独立して発症する。肺側の安静時の肺動脈圧の正常値は、ヒトでは収縮期圧が約20mmHg~約30mmHgであり、拡張期圧が約7mmHg~約12mmHgであり、平均圧が約10mmHg~約15mmHgである。
【0016】
肺高血圧症の判定基準については、例えば、日本循環器学会による肺高血圧症治療ガイドライン(2012年改訂版)に記載されている。
ヒトにおける肺高血圧症の診断は、通常は、安静時に右心カテーテル検査により実測した肺動脈平均圧(mean PAP)に基づきなされ、肺動脈平均圧が25mmHg以上である場合に肺高血圧症と診断することができる。近年の心エコーの発展により、非観血的に肺動脈圧を推定することが可能になり、肺動脈圧の推定値に基づいて肺高血圧症の診断を行うこともある。
【0017】
肺高血圧症は、ダナポイント分類により第1群から第5群までの5つに臨床学的に分類される。第1群は、肺動脈性肺高血圧症(PAH)、第2群は、左心室性心疾患に伴う肺高血圧症、第3群は、肺疾患および/または低酸素血症に伴う肺高血圧症、第4群は、慢性血栓塞栓性肺高血圧症、および第5群は、詳細不明な複合的要因による肺高血圧症である。また、第1群の亜型として、第1’群(肺静脈塞栓性疾患および/または肺毛細血管腫症)と第1’’群(新生児遷延性肺高血圧症)が知られる。
【0018】
第1群の肺動脈性肺高血圧症は、もっとも典型的な肺高血圧症であり、特発性PAHと遺伝性PAH、薬物・毒物誘発性PAH、各疾患に伴うPAHに大別される。
【0019】
本発明では、化合物A、BおよびC、並びにそれらの塩からなる群から選ばれる化合物を対象に投与することで、例えば、対象において肺動脈圧を低下させるなど、肺高血圧症に付随する種々の症状(右心室圧の上昇など)を改善させることができる。
【0020】
従って、本発明によれば、化合物A、BおよびC並びにそれらの塩から選ばれる化合物を含む、肺高血圧症を予防または治療するための医薬が提供される。
【0021】
化合物Aは以下の式により示される。
【化1】
【0022】
化合物Bは以下の式により示される。
【化2】
【0023】
化合物Cは以下の式により示される。
【化3】
【0024】
本発明の特定の態様では、本発明の医薬は、以下の肺高血圧症:肺動脈性肺高血圧症;肺静脈塞栓性疾患による肺高血圧症;肺毛細血管腫症による肺高血圧症;新生児遷延性肺高血圧症;左室収縮不全、左室拡張不全、弁膜疾患、または先天性/後天性の左心流入路/流出路閉塞を伴う肺高血圧症;慢性閉塞性肺疾患、間質性肺疾患、拘束性と閉塞性の混合障害を伴う他の肺疾患、睡眠呼吸障害、肺胞低換気障害、高所における慢性暴露、または発育障害による肺高血圧症;慢性血栓塞栓性肺高血圧症;血液疾患(慢性溶血性貧血、骨髄増殖性疾患または脾摘出)、全身性疾患(サルコイドーシス、肺ランゲルハンス細胞組織球症、リンパ脈管筋腫症、神経線維腫症、または血管炎)、代謝性疾患(糖原病、ゴーシェ病(Gaucher病)、または甲状腺疾患)、またはその他肺血管の圧迫(腫瘍塞栓、線維性縦隔炎、または慢性腎不全)を伴う肺高血圧症;から選択される肺高血圧症の予防または治療に用いることができる。本発明の医薬は、好ましくは、肺動脈性肺高血圧症の予防または治療に用いられる。
【0025】
化合物A、BおよびC並びにこれらの塩は、無溶媒和物であっても、溶媒和物であってもよい。溶媒和物は、エタノールや水などの溶媒により形成され得る。取り込まれる溶媒が水である溶媒和物は、水和物である。水和物には、化学量論的な水和物に加えて、様々な量の水を含むものが包含される。
【0026】
化合物A、BおよびC並びにそれらの塩は、同位元素(例、3H、13C、14C、18F、35S、125I)等で標識されていてもよい。
さらに、HをH(D)に変換した重水素変換体も、化合物A、BおよびC並びにこれらの塩に包含される。
【0027】
化合物A、BおよびCの塩としては、例えば、無機塩基との塩、アンモニウム塩、有機塩基との塩、無機酸との塩、有機酸との塩、塩基性または酸性アミノ酸との塩などが挙げられる。
無機塩基との塩の好適な例としては、ナトリウム塩、カリウム塩などのアルカリ金属塩;カルシウム塩、マグネシウム塩、バリウム塩などのアルカリ土類金属塩;アルミニウム塩などが挙げられる。
有機塩基との塩の好適な例としては、トリメチルアミン、トリエチルアミン、ピリジン、ピコリン、エタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、ジシクロヘキシルアミン、N,N’-ジベンジルエチレンジアミンなどとの塩が挙げられる。
無機酸との塩の好適な例としては、塩酸、臭化水素酸、硝酸、硫酸、リン酸などとの塩が挙げられる。
有機酸との塩の好適な例としては、ギ酸、酢酸、トリフルオロ酢酸、フマル酸、シュウ酸、酒石酸、マレイン酸、クエン酸、コハク酸、リンゴ酸、メタンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、p-トルエンスルホン酸などとの塩が挙げられる。
塩基性アミノ酸との塩の好適な例としては、アルギニン、リジン、オルニチンなどとの塩が挙げられる。
酸性アミノ酸との塩の好適な例としては、アスパラギン酸、グルタミン酸などとの塩が挙げられる。
これらの塩のなかでも、薬学的に許容し得る塩が好ましい。
【0028】
本発明の特定の態様では、化合物Aの塩は、p-トルエンスルホン酸塩(トシル酸塩)(以下、「化合物A’」ともいう)とすることができる。本発明の特定の態様では、化合物Bの塩は、塩酸塩(以下、「化合物B’」ともいう)とすることができる。本発明の特定の態様では、化合物Cの塩は、p-トルエンスルホン酸塩(トシル酸塩)(以下、「化合物C’」ともいう)とすることができる。
【0029】
本発明の特定の態様では、化合物A、化合物A’、化合物B、化合物B’、化合物Cおよび化合物C’から選ばれる化合物を、肺高血圧症の予防または治療に用いることができる。従って、本発明によれば、化合物A、化合物A’、化合物B、化合物B’、化合物Cおよび化合物C’から選ばれる化合物を含む、肺高血圧症を予防または治療するための医薬が提供される。この特定の態様において、肺高血圧症は、肺動脈性肺高血圧症とすることができる。
本発明の特定の態様では、化合物Aまたは化合物A’を肺高血圧症の予防または治療に用いることができる。従って、本発明によれば、化合物Aまたは化合物A’を含む、肺高血圧症を予防または治療するための医薬が提供される。この特定の態様において、肺高血圧症は、肺動脈性肺高血圧症とすることができる。
本発明の特定の態様では、化合物A’を肺高血圧症の予防または治療に用いることができる。従って、本発明によれば、化合物A’を含む、肺高血圧症を予防または治療するための医薬が提供される。この特定の態様において、肺高血圧症は、肺動脈性肺高血圧症とすることができる。
【0030】
本発明のさらなる特定の態様では、化合物A、BおよびC並びにそれらの塩から選ばれる化合物を含む、肺高血圧症の対象において右心室圧、右心室収縮圧、生存率、および心肥大からなる群から選ばれる1以上の状態を改善するための医薬が提供される。
本発明の特定の態様では、化合物Aまたは化合物Aの塩を含む、肺高血圧症の対象において右心室圧、右心室収縮圧、生存率、および心肥大からなる群から選ばれる1以上の状態を改善するための医薬が提供される。
本発明の特定の態様では、化合物A’を含む、肺高血圧症の対象において右心室圧、右心室収縮圧、生存率、および心肥大からなる群から選ばれる1以上の状態を改善するための医薬が提供される。
【0031】
化合物A、BおよびC並びにそれらの塩は、自体公知の方法(例えば、WO2004/017908およびYoshida M. et al., Bioorg. Med. Chem., 19: 1881-1894, 2011に記載の方法)により調製することができる。
【0032】
投与量は、投与対象、投与ルート、疾患、症状などにより異なるが、例えば、ヒト(体重約50kg)に経口投与する場合、化合物A、BまたはCとして約0.1mg~約500mgの範囲、好ましくは約1mg~約100mgの範囲、非経口投与の場合、約0.01mg~約100mgの範囲、好ましくは約0.1mg~約10mgの範囲から選択できる。この量を1日1ないし数回(例、1日1ないし3回)に分けて投与することができる。
【0033】
本発明の医薬は、化合物A、BおよびC並びにそれらの塩から選ばれる化合物と薬学的に許容し得る担体とを含んでいてもよい。
薬学的に許容し得る担体としては、製剤素材として慣用の各種有機あるいは無機担体物質が用いられ得、固形製剤における賦形剤、滑沢剤、結合剤、崩壊剤;液状製剤における溶剤、溶解補助剤、懸濁化剤、等張化剤、緩衝剤、無痛化剤などとして配合され得る。また必要に応じて、防腐剤、抗酸化剤、安定化剤、着色剤、甘味剤などの製剤添加物を用いることもできる。
【0034】
本発明の医薬は、ある態様では、非経口投与用または経口投与用の医薬とすることができる。本発明の医薬はまた、経口投与用の医薬とすることができる。
【0035】
本発明の医薬は、他の肺高血圧症治療薬などの薬物と併用することができ、例えば、以下の薬物と併用することができる。
(1)エンドセリン受容体拮抗薬
マシテンタン、ボセンタン、アンブリセンタンなどのエンドセリン受容体拮抗薬
(2)プロスタグランジン製剤
エポプロステノール、ベラプロスト、トレプロスチニル、イロプロスト、セレキシパグなどのプロスタグランジン製剤(またはプロスタサイクリン製剤)
(3)ホスホジエステラーゼ-5阻害剤
シルデナフィル、タダラフィルなどのホスホジエステラーゼ-5阻害剤
(4)可溶性アデニル酸シクラーゼ刺激剤
リオシグアトなどの可溶性アデニル酸シクラーゼ刺激剤
(5)カルシウムチャネル拮抗剤
ニフェジピン、ジルチアゼム、アムロジピンなどのカルシウムチャネル拮抗剤
(6)Rhoキナーゼ阻害剤
ファスジルなどのRhoキナーゼ阻害剤
(7)その他
イマニチブ、ソラフェニブなどのチロシンキナーゼ阻害剤、ワーファリン、アスピリンなどの抗凝固剤、フロセミド、スピロノラクトンなどの利尿剤、ドーパミン、ジゴキシンなどの強心薬など
【0036】
本発明の医薬と配合又は併用する医薬には、化合物A、BおよびC並びにそれらの塩から選ばれる化合物と併用薬物を含有する医薬として単一に製剤化されたもの、および化合物A、BおよびC並びにそれらの塩から選ばれる化合物と併用薬物とが別個に製剤化されたもののいずれもが含まれる。以下、これらを総称して本発明の併用剤と略記する。
【0037】
本発明の併用剤は、化合物A、BおよびC並びにそれらの塩から選ばれる化合物及び併用薬物を、別々にあるいは同時に、そのまま若しくは薬学的に許容され得る担体などと混合し、上述した化合物A、BおよびC並びにそれらの塩から選ばれる化合物を含む医薬と同様の方法により製剤化することができる。本発明の併用剤の一日投与量は、症状の程度;投与対象の年齢、性別、体重、感受性差;投与の時期、間隔;医薬の性質、調剤、種類;有効成分の種類などによって異なり、特に限定されない。
【0038】
本発明の併用剤を投与するに際しては、化合物A、BおよびC並びにそれらの塩から選ばれる化合物と併用薬物とを同時期に投与してもよいが、併用薬物を先に投与した後、化合物A、BおよびC並びにそれらの塩から選ばれる化合物を投与してもよいし、化合物A、BおよびC並びにそれらの塩から選ばれる化合物を先に投与し、その後で併用薬物を投与してもよい。時間差をおいて投与する場合、時間差は投与する有効成分、剤形、投与方法により異なるが、例えば、併用薬物を先に投与する場合、併用薬物を投与した後1分~3日以内、好ましくは10分~1日以内、より好ましくは15分~1時間以内に化合物A、BおよびC並びにそれらの塩から選ばれる化合物を投与する方法が挙げられる。化合物A、BおよびC並びにそれらの塩から選ばれる化合物を先に投与する場合、該化合物を投与した後、1分~1日以内、好ましくは10分~6時間以内、より好ましくは15分から1時間以内に併用薬物を投与する方法が挙げられる。
【0039】
化合物A、BおよびC並びにそれらの塩から選ばれる化合物と併用薬物とを同時に含む本発明の併用剤において、化合物A、BおよびC並びにそれらの塩から選ばれる化合物および併用薬物のそれぞれの含有量は、製剤の形態によって相違するが、通常、製剤全体に対して約0.01~90重量%、好ましくは約0.1~50重量%、さらに好ましくは約0.5~20重量%程度である。
【0040】
該併用剤における担体の含有量は、通常、製剤全体に対して、約0~99.8重量%、好ましくは約10~99.8重量%、さらに好ましくは約10~90重量%程度である。
【0041】
また、化合物A、BおよびC並びにそれらの塩から選ばれる化合物と併用薬物とを別個に含む併用剤において、併用薬物を含む併用剤は、化合物A、BおよびC並びにそれらの塩から選ばれる化合物と同様にして製造して用いることができる。
【0042】
本発明の医薬は、散剤、顆粒剤、錠剤若しくはカプセル剤などの固形製剤、または、シロップ剤若しくは乳剤などの液剤のいずれであってもよい。
本発明の医薬は、製剤の形態に応じて、例えば、混和、混練、造粒、打錠、コーティング、滅菌処理、乳化などの慣用の方法で製造できる。なお、製剤の製造に関して、例えば第十六改正日本薬局方製剤総則の各項などを参照できる。また本発明の医薬は、有効成分と生体内分解性高分子化合物とを含む徐放剤に成形してもよい。
【0043】
本発明のある態様では、肺高血圧症をその必要のある対象において予防または治療するための医薬であって、化合物A、BおよびC並びにそれらの塩から選ばれる化合物を含み、かつ、併用薬物と併用することに用いられる、医薬が提供される。
【0044】
本発明の別の側面では、肺高血圧症をその必要のある対象において予防または治療する方法であって、化合物A、BおよびC並びにそれらの塩から選ばれる化合物を該対象に投与することを含む方法が提供される。本発明の方法において、治療対象となる肺高血圧症は、本発明の医薬についての治療対象として説明した疾患または状態のいずれかとすることができる。本発明の方法では、対象には治療上有効量の化合物が投与されうる。本発明の方法において、化合物A、BおよびC並びにそれらの塩から選ばれる化合物を投与する場合、化合物A、BおよびC並びにそれらの塩から選ばれる化合物を含む医薬を投与してもよい。
【0045】
本発明の別の側面では、肺高血圧症をその必要のある対象において予防または治療するための医薬を製造するための、またはその医薬の製造における、化合物A、BおよびC並びにそれらの塩から選ばれる化合物の使用が提供される。上記医薬の治療対象となる肺高血圧症は、本発明の医薬についての治療対象として説明した疾患または状態のいずれかとすることができる。
【0046】
本発明の別の側面では、肺高血圧症の予防または治療することに用いるための、化合物A、BおよびC並びにそれらの塩からなる群から選ばれる化合物が提供される。上記化合物の治療対象となる肺高血圧症は、本発明の医薬についての治療対象として説明した疾患または状態のいずれかとすることができる。
【0047】
本発明のある特定の態様では、投与される化合物または医薬に含まれる化合物は、化合物Aのトシル酸塩である。
【実施例
【0048】
化合物A’は、WO2004/017908およびYoshida M. et al., Bioorg. Med. Chem., 19: 1881-1894, 2011に記載される公知の方法で調製した。
【0049】
実施例1:肺高血圧症モデル動物における肺高血圧に対する化合物A’の治療効果(右室圧、右室収縮期圧、右心肥大、肺動脈中膜肥厚、肺動脈閉塞)
【0050】
(1)実験方法
体重(250g±10%)の雄性Sprague-Dawleyラットに、モノクロタリン(MCT) 50 mg/kg(50% ジメチルスルホキシド溶液)を皮下注射して肺高血圧症ラットモデルを作製した。MCT投与後14日目より14日間にわたり、化合物A’投与群 (投与用量:1 mg/kg, 3 mg/kg, または10 mg/kg)、または対照群として同量の溶媒を連日経口投与した。この実験は各群9匹で実施した(溶媒対照群のみ、12匹用いた)。
【0051】
(2)右心室圧(RVP)に対する効果
MCT投与後28日の時点で生存していたラット(負対照群(モノクロタリン非投与群)、9匹、溶媒対照群、8匹、化合物A' 1 mg/kg投与群、9匹、化合物A' 3 mg/kg投与群、5匹、化合物A' 10 mg/kg投与群、9匹。合計40匹)について、カテーテル検査により、右心室圧(RVP)を測定した。結果を表1に示す。
【0052】
【表1】
【0053】
表中のデータは、平均±標準偏差を示す。
【0054】
表1に示されるように、MCT投与後28日において、化合物A’は右心室圧を顕著に改善した。
【0055】
(3)右室収縮期圧(RVSP)に対する効果
MCT投与後28日の時点で生存していたラット((負対照群(モノクロタリン非投与群)、9匹、溶媒対照群、8匹、化合物A' 1 mg/kg投与群、9匹、化合物A' 3 mg/kg投与群、5匹、化合物A' 10 mg/kg投与群、9匹。合計40匹))について、カテーテル検査により、右室収縮期圧(RVSP)を測定した。結果を表2に示す。
【0056】
【表2】
【0057】
表中のデータは、平均±標準偏差を示す。
【0058】
表2に示されるように、MCT投与後28日において、化合物A’は右室収縮期圧(RVSP)を顕著に改善した。
【0059】
(4)右心肥大に対する効果
MCT投与後28日の時点で生存していたラット(負対照群(モノクロタリン非投与群)、9匹、溶媒対照群、8匹、化合物A' 1 mg/kg投与群、9匹、化合物A' 3 mg/kg投与群、5匹、化合物A' 10 mg/kg投与群、9匹。合計40匹))について、肺高血圧症モデルラットの右心室重量(RV)、左心室重量(LV)、および心室中隔重量(S)を測定し、右心肥大の指標としてRV/(LV+S)を求めた。結果を表3に示す。
【0060】
【表3】
【0061】
表中のデータは、平均±標準偏差を示す。
【0062】
表3に示されるように、MCT投与後28日において、化合物A’は右心肥大を顕著に改善した。
【0063】
(5)肺動脈中膜肥厚に対する効果
MCT投与後28日の時点で生存していたラット(負対照群(モノクロタリン非投与群)、9匹、溶媒対照群、8匹、化合物A' 10 mg/kg投与群、9匹)のうち、各群5匹(合計15匹)について、肺高血圧症モデルラットの肺組織切片の組織標本をエラスチカワンギーソン染色法にて調製し、肺動脈の中膜の肥厚を測定した。結果を表4に示す。
【0064】
【表4】
【0065】
表中のデータは、平均±標準誤差を示す。
【0066】
表4に示されるように、MCT投与後28日において、化合物A’は肺動脈中膜の肥厚を顕著に改善した。
【0067】
(6)肺動脈閉塞に対する効果
MCT投与後28日の時点で生存していたラット(負対照群(モノクロタリン非投与群)9匹、溶媒対照群8匹、化合物A' 10 mg/kg投与群9匹)のうち、各群5匹(合計15匹)について、肺高血圧症モデルラットの肺組織切片の組織標本をエラスチカワンギーソン染色法にて調製し、肺動脈の閉塞を測定した。閉塞の指標には、肺動脈中膜の厚みの2倍を肺動脈の径で割った値を用いた。結果を表5に示す。
【0068】
【表5】
【0069】
表中のデータは、平均±標準誤差を示す。
【0070】
表5に示されるように、MCT投与後28日において、化合物A’は肺動脈の閉塞を顕著に改善した。
【0071】
実施例2:肺高血圧症モデル動物における肺高血圧に対する化合物A’の治療効果(生存率)
【0072】
(1)実験方法
体重(230g±10g)の雄性Sprague-Dawleyラットに、モノクロタリン(MCT) 50 mg/kg (50% ジメチルスルホキシド溶液)を皮下注射して肺高血圧症ラットモデルを作製した。MCT投与後14日目より14日間にわたり、化合物A’投与群 (投与用量:1 mg/kg, 3 mg/kg, または10 mg/kg)、または対照群として同量の溶媒を一日一回、連日経口投与した。この実験は各群12匹で実施した。
【0073】
(2)生存率に対する効果
図1に上記実験から得られたカプランマイヤー生存曲線を示す。
【0074】
図1に示されるように、化合物A’は投与後、動物の生存率を顕著に改善した。
【0075】
実施例3:CHP1-NHE1相互作用に対する効果
【0076】
CaSRのほかに、NHE(Na+-H+ exchange)タンパク質が肺高血圧症の病態に関与する重要な分子であることが、モノクロタリンや低酸素などによって誘導される様々な肺高血圧病態動物への種々のNHE阻害化合物の投与やNHEのノックアウト動物を用いた実験などで示されている(Chen et al., 2001; Huetsch et al., 2016; Huetsch and Shimoda, 2015; Yu et al., 2008)。NHEの細胞膜への局在と、その機能にはCHPがコファクターとして必須である(Matsushita et al., 2007; Mishima et al., 2007; Pang et al., 2001)。そこで、化合物A'がNHE1-CHP1の相互作用を阻害するかどうか、検討を行った。
【0077】
(1)実験方法
ヒトNHE1とヒトCHP1との相互作用に対する化合物A'の阻害活性の評価は、化学増幅型ルミネッセンスプロキシミティホモジニアスアッセイ(AlphaScreenTM (PerkinElmer))を用いたタンパク質相互作用の測定系で行った。FLAGタグ付きの全長ヒトNHE1 (Accession No. NM_003047)のミクロソーム画分は、ヒト胎児腎細胞由来FreeStyleTM 293細胞で発現させて調製した。また、ビオチン化した全長のヒト CHP1 (Accession No. NM_007236)は、小麦胚芽無細胞翻訳系で発現させて精製した。このNHE1ミクロソーム画分とCHP1とをアッセイバッファー(25 mM Tris-HCl (pH7.4), 137 mM NaCl, 2.7 mM KCl, 0.1 % BSA, 1mM DTT)にて希釈し、そこに化合物A'を添加した。そして、これをAlpha Plate-384 Shallow well(PerkinElmer)に2 μL/wellずつ添加して60分間室温で反応させた。そこにAlphaScreen FLAG(M2) Detection Kit(PerkinElmer)付属のAcceptor BeadsおよびDonor Beadsを各2μL/wellずつ添加して60分間室温で反応させた。その後、EnSpire Multi-label reader(PerkinElmer)を用いてApphaScreenシグナル強度を測定した。この試験系で異なる濃度の化合物A'(濃度:50.0 nM~0.8 nM)を評価した。
【0078】
(2)結果
表6に結果を示す。
【0079】
【表6】
【0080】
表6に示されるように、化合物A’は、顕著なCHP1-NHE1阻害活性を示した。
【産業上の利用可能性】
【0081】
本発明によれば、肺高血圧症を予防または治療するための医薬が提供され、有用である。
【0082】
本明細書において引用された、学術文献、特許、特許出願などの参考文献は、その全体が、各々具体的に記載されたのと同じ程度に本明細書において参考として援用される。
本出願は、日本特許出願2016-063747号(2016年3月28日出願)に基づく優先権を主張しており、この内容はその全体が本明細書に参照として取り込まれる。

図1