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特許7002925ジナフトテトラフェニレン化合物を含む有機エレクトロルミネッセンス素子
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  • 特許-ジナフトテトラフェニレン化合物を含む有機エレクトロルミネッセンス素子 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-01-05
(45)【発行日】2022-01-20
(54)【発明の名称】ジナフトテトラフェニレン化合物を含む有機エレクトロルミネッセンス素子
(51)【国際特許分類】
   H01L 51/50 20060101AFI20220113BHJP
   C07C 13/62 20060101ALI20220113BHJP
   C09K 11/06 20060101ALI20220113BHJP
【FI】
H05B33/22 B
H05B33/14 B
C07C13/62
C09K11/06 690
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2017218021
(22)【出願日】2017-11-13
(65)【公開番号】P2019091748
(43)【公開日】2019-06-13
【審査請求日】2020-10-16
(73)【特許権者】
【識別番号】000003300
【氏名又は名称】東ソー株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】504139662
【氏名又は名称】国立大学法人東海国立大学機構
(72)【発明者】
【氏名】森中 裕太
(72)【発明者】
【氏名】田中 剛
(72)【発明者】
【氏名】伊丹 健一郎
(72)【発明者】
【氏名】村上 慧
(72)【発明者】
【氏名】古賀 義人
【審査官】倉本 勝利
(56)【参考文献】
【文献】特表2008-543086(JP,A)
【文献】特表2017-509157(JP,A)
【文献】特開2012-106979(JP,A)
【文献】特開2001-167884(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2013/0200359(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2012/0032156(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2017/0092875(US,A1)
【文献】国際公開第2012/114745(WO,A1)
【文献】国際公開第2013/128818(WO,A1)
【文献】国際公開第2000/027946(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2001/0006741(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 51/50
C07C 13/62
C09K 11/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
陽極と、
陰極と、
前記陽極および前記陰極の間に積層された複数の有機層と、を備える有機エレクトロルミネッセンス素子であって、
前記複数の有機層は、
発光層と、
該発光層および前記陰極の間に積層された1層以上の電子輸送性層と、を有し、
前記発光層は、蛍光性材料および熱活性化遅延蛍光性材料からなる群より選ばれる少なくとも1種の発光材料を含み
前記1層以上の電子輸送性層からなる群より選ばれる少なくとも1つの層は、下記式(1)で表されるジナフト[1,2,3,4-def.1’,2’,3’,4’-pqr]テトラフェニレン化合物を含むことを特徴とする、有機エレクトロルミネッセンス素子:
【化1】
式中、A~Aは、それぞれ独立して置換基を示す;
~kは、それぞれ独立して0以上3以下の整数である;
~kは、それぞれ独立して0以上4以下の整数である。
【請求項2】
前記1層以上の電子輸送性層が、電子注入層、および電子輸送層を有し
前記電子注入層、および前記電子輸送層からなる群より選ばれる少なくとも1つの層が、前記式(1)で表されるジナフト[1,2,3,4-def.1’,2’,3’,4’-pqr]テトラフェニレン化合物を含むことを特徴とする、請求項1に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項3】
前記電子輸送層が、前記式(1)で表されるジナフト[1,2,3,4-def.1’,2’,3’,4’-pqr]テトラフェニレン化合物を含むことを特徴とする、請求項2に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項4】
前記電子輸送層が、前記発光層の側から順に、第一電子輸送層と、第二電子輸送層と、を有し、
前記第一電子輸送層が、前記式(1)で表されるジナフト[1,2,3,4-def.1’,2’,3’,4’-pqr]テトラフェニレン化合物を含むことを特徴とする、請求項2に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項5】
前記式(1)において、k~kが、いずれも0であることを特徴とする、請求項1乃至4のいずれか1項に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ジナフトテトラフェニレン化合物を含む有機エレクトロルミネッセンス素子に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、有機エレクトロルミネッセンス素子を用いたスマートフォン、テレビ等の各種表示装置が広く普及し、その開発が精力的に行われている。
【0003】
例えば特許文献1には、燐光性の発光層を備える有機エレクトロルミネッセンス素子用のホスト材料として、2,2-ビストリフェニレン、ヘキサフェニルトリフェニレンなどのトリフェニレン化合物を用いた、高効率および高安定の有機エレクトロルミネッセンス素子が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特許第5778046号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、有機エレクトロルミネッセンス素子の素子寿命や電荷輸送特性に対する市場からの要求は益々高くなり、特許文献1にかかる有機エレクトロルミネッセンス素子についてもさらなる改善が求められている。
【0006】
そこで、本発明の目的は、素子寿命および電荷輸送特性に優れる有機エレクトロルミネッセンス素子を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一実施形態にかかる有機エレクトロルミネッセンス素子は、
陽極と、
陰極と、
前記陽極および前記陰極の間に積層された複数の有機層と、を備える有機エレクトロルミネッセンス素子であって、
前記複数の有機層は、
発光層と、
該発光層および前記陰極の間に積層された1層以上の電子輸送性層と、を有し、
前記発光層は、蛍光性材料および熱活性化遅延蛍光性材料からなる群より選ばれる少なくとも1種の発光材料を含み、
前記発光層および前記1層以上の電子輸送性層からなる群より選ばれる少なくとも1つの層は、下記式(1)で表されるジナフト[1,2,3,4-def.1’,2’,3’,4’-pqr]テトラフェニレン化合物を含むことを特徴とする、有機エレクトロルミネッセンス素子:
【0008】
【化1】
【0009】
式中、A~Aは、それぞれ独立して置換基を示す;
~kは、それぞれ独立して0以上3以下の整数である;
~kは、それぞれ独立して0以上4以下の整数である。
【発明の効果】
【0010】
本発明の一実施形態によれば、素子寿命および電荷輸送特性に優れる有機エレクトロルミネッセンス素子を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明の一実施形態にかかる有機エレクトロルミネッセンス素子の積層構成の一例を示す概略断面図である。
図2】本発明の一実施形態にかかる有機エレクトロルミネッセンス素子の他の積層構成の例(素子実施例-1の構成)を示す概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
特許文献1は、燐光性の発光層を備える有機エレクトロルミネッセンス素子用のホスト材料として、ジナフト[1,2,3,4-def.1’,2’,3’,4’-pqr]テトラフェニレンを用い得ることについて示唆している。しかしながら、特許文献1は、ジナフト[1,2,3,4-def.1’,2’,3’,4’-pqr]テトラフェニレンを燐光性の発光層のホスト材料以外に用いることについて何ら示唆していない。
【0013】
本発明者等は鋭意検討を重ねた結果、驚くべきことに、本発明の一実施形態にかかるジナフト[1,2,3,4-def.1’,2’,3’,4’-pqr]テトラフェニレン化合物を、蛍光性の発光層を備える有機エレクトロルミネッセンス素子の発光層または電子輸送性層に用いると、極めて高次元に素子寿命と電荷輸送特性とを達成し得ることを初めて知見した。
【0014】
しかして本発明者等は本発明の一実施形態にかかる有機エレクトロルミネッセンス素子を完成するに至った。
【0015】
以下、本発明の各実施形態をさらに詳細に説明する。
【0016】
本発明の一実施形態にかかる有機エレクトロルミネッセンス素子は、陽極と、陰極と、前記陽極および前記陰極の間に積層された複数の有機層と、を備える有機エレクトロルミネッセンス素子であって、前記複数の有機層は、発光層と、該発光層および前記陰極の間に積層された1層以上の電子輸送性層とを有し、前記発光層は、蛍光性材料および熱活性化遅延蛍光性材料からなる群より選ばれる少なくとも1種の発光材料を含み、前記発光層および前記1層以上の電子輸送性層からなる群より選ばれる少なくとも1つの層は、下記式(1)で表されるジナフト[1,2,3,4-def.1’,2’,3’,4’-pqr]テトラフェニレン化合物を含むことを特徴とする:
【0017】
【化2】
【0018】
式中、A~Aは、それぞれ独立して置換基を示す;
~kは、それぞれ独立して0以上3以下の整数である;
~kは、それぞれ独立して0以上4以下の整数である。
【0019】
上記式(1)で表される多環性芳香族化合物において、A~Aは、それぞれ独立して置換基を示す。
【0020】
~kは、それぞれ独立して0以上3以下の整数である。k~kは、原料入手性、および式(1)で表されるジナフト[1,2,3,4-def.1’,2’,3’,4’-pqr]テトラフェニレン化合物を収率良く製造する観点から、同一の整数であることが好ましく、全て0であることがより好ましい。
およびkは、それぞれ独立して0以上4以下の整数である。kおよびkは、原料入手性、および式(1)で表されるジナフト[1,2,3,4-def.1’,2’,3’,4’-pqr]テトラフェニレン化合物を収率良く製造する観点から、同一の整数であることが好ましく、全て0であることがより好ましい。
したがって、k~kが、いずれも0であることが特に好ましい。
【0021】
前記式(1)で表されるジナフト[1,2,3,4-def.1’,2’,3’,4’-pqr]テトラフェニレン化合物は、金属錯体の原料を用いる公知の方法(例えば、T.V.V.Ramakrishna et al.,“Carbon-Carbon Bond Formation and Cleavage in the Dimerization of a Nickelacycle”,Organometallics,2004年,23号,3079-3081頁.)で合成することもできるが、より好ましくは、金属の使用が触媒量であり、生成物中の残留金属成分が少ない下記のルートによって合成することが、素子の長寿命性の観点から望ましい。
【0022】
即ち、式(1)で表されるジナフト[1,2,3,4-def.1’,2’,3’,4’-pqr]テトラフェニレン化合物は、式(2)で表されるテルフェニル化合物と、式(2’)で表されるテルフェニル化合物とを、塩基の存在下、パラジウム触媒を用いて反応させることによって合成することができる。式(2)と式(2’)とは、同一であってもよく、異なっていてもよいが、反応選択性の観点から、同一であることが好ましい。
【0023】
【化3】
【0024】
(式中、A~A、およびk~kは、前記式(1)と同じ定義を表わす。X~Xは、それぞれ独立にハロゲン原子(ヨウ素原子、臭素原子、または塩素原子)を表す。)
式(2)および式(2’)で表される化合物は、公知の方法に基づいて合成してもよく、市販されている化合物を用いてもよい。
【0025】
<有機エレクトロルミネッセンス素子用材料>
式(1)で表されるジナフト[1,2,3,4-def.1’,2’,3’,4’-pqr]テトラフェニレン化合物は、有機エレクトロルミネッセンス素子用材料として使用することができる。したがって、本発明の一実施形態にかかる有機エレクトロルミネッセンス素子用材料は、式(1)で表されるジナフト[1,2,3,4-def.1’,2’,3’,4’-pqr]テトラフェニレン化合物を含む。なお、式(1)で表されるジナフト[1,2,3,4-def.1’,2’,3’,4’-pqr]テトラフェニレン化合物は、電子輸送特性や素子寿命の点で、高純度であることが好ましい。具体的には、ハロゲン原子や遷移金属元素による不純物や、製造原料や副生成物等の不純物が極力少ないものが好ましい。
【0026】
式(1)で表されるジナフト[1,2,3,4-def.1’,2’,3’,4’-pqr]テトラフェニレン化合物を含む有機エレクトロルミネッセンス素子用材料は、電子輸送性層(陰極と発光層との間の電子輸送性を有する各層であり、具体的には、電子注入層、電子輸送層等が挙げられる)、または発光層を形成する材料として用いることができる。これらの中でも、電子輸送層の材料として用いることが特に好ましい。なお、電子輸送層が第一電子輸送層と第二電子輸送層とからなる2層に機能分離された構成である場合、式(1)で表されるジナフト[1,2,3,4-def.1’,2’,3’,4’-pqr]テトラフェニレン化合物が第一電子輸送層(陽極側)の材料として用いられることが特に好ましい。
【0027】
式(1)で表されるジナフト[1,2,3,4-def.1’,2’,3’,4’-pqr]テトラフェニレン化合物を、有機エレクトロルミネッセンス素子の電子輸送性層の材料として、または発光層の材料として使用する際には、従来から使用されている公知の蛍光発光材料、および熱活性化遅延蛍光発光材料から選ばれる少なくとも1種の発光材料を発光層に使用することができる。発光層は1種類の発光材料のみで形成されていてもよく、ホスト材料中に1種類以上の発光材料がドープされていてもよい。
【0028】
式(1)で表されるジナフト[1,2,3,4-def.1’,2’,3’,4’-pqr]テトラフェニレン化合物を含む電子輸送性層は、単層であってもよく、複数の層からなる積層構成であってもよい。単層の場合、電子輸送性層は式(1)で表されるジナフト[1,2,3,4-def.1’,2’,3’,4’-pqr]テトラフェニレン化合物からなっていてもよいし、該ジナフト[1,2,3,4-def.1’,2’,3’,4’-pqr]テトラフェニレン化合物に加えてさらに1種類以上の公知の材料を含有していてもよい。積層構成である場合は、1種類以上の公知の材料を含む層が前述した単層上にさらに積層されてなる。当該公知の材料としては、例えば、BCP(2,9-ジメチル-4,7-ジフェニル-1,10-フェナントロリン)、Bphen(4,7-ジフェニル-1,10-フェナントロリン)、BAlq(ビス(2-メチル-8-キノリノラート)-4-(フェニルフェノラート)アルミニウム)、およびビス(10-ヒドロキシベンゾ[h]キノリナート)ベリリウム)、8-ヒドロキシキノリナートリチウム(Liq)、ビス(8-ヒドロキシキノリナート)亜鉛、ビス(8-ヒドロキシキノリナート)銅、ビス(8-ヒドロキシキノリナート)マンガン、トリス(8-ヒドロキシキノリナート)アルミニウム、トリス(2-メチル-8-ヒドロキシキノリナート)アルミニウム、トリス(8-ヒドロキシキノリナート)ガリウム、ビス(10-ヒドロキシベンゾ[h]キノリナート)ベリリウム、ビス(10-ヒドロキシベンゾ[h]キノリナート)亜鉛、ビス(2-メチル-8-キノリナート)クロロガリウム、ビス(2-メチル-8-キノリナート)(o-クレゾラート)ガリウム、ビス(2-メチル-8-キノリナート)-1-ナフトラートアルミニウム、またはビス(2-メチル-8-キノリナート)-2-ナフトラートガリウム、2-[3-(9-フェナントレニル)-5-(3-ピリジニル)フェニル]-4,6-ジフェニル-1,3,5-トリアジン、および2-(4,’’-ジ-2-ピリジニル[1,1’:3’,1’’-テルフェニル]-5-イル)-4,6-ジフェニル-1,3,5-トリアジン等の公知の電子受容性材料が挙げられる。
【0029】
式(1)で表されるジナフト[1,2,3,4-def.1’,2’,3’,4’-pqr]テトラフェニレン化合物を有機エレクトロルミネッセンス素子の発光層の材料として使用する場合には、該ジナフト[1,2,3,4-def.1’,2’,3’,4’-pqr]テトラフェニレン化合物を単独で使用してもよいし、公知の発光ホスト材料にドープして使用してもよいし、公知の発光ドーパントをドープして使用してもよい。
【0030】
式(1)で表されるジナフト[1,2,3,4-def.1’,2’,3’,4’-pqr]テトラフェニレン化合物を含有する電子注入層、電子輸送層、発光層を形成する方法としては、例えば、真空蒸着法、スピンコート法、キャスト法等の公知の方法を適用することができる。
【0031】
スピンコート法、キャスト法等の塗布法に用いられる有機エレクトロルミネッセンス素子用材料は、式(1)で表されるジナフト[1,2,3,4-def.1’,2’,3’,4’-pqr]テトラフェニレン化合物に加えて、有機溶媒を含む。有機溶媒としては特に制限はないが、例えば、モノクロロベンゼンおよびオルトジクロロベンゼンなどが挙げられる。有機溶媒はこれらを2種以上組み合わせたものであってもよい。所望の塗工性能を発揮するべく有機溶媒が選択されて、有機エレクトロルミネッセンス素子用材料の粘度や濃度が調整されていることが好ましい。
【0032】
<有機エレクトロルミネッセンス素子>
本発明の一実施形態にかかる有機エレクトロルミネッセンス素子は、陽極と、陰極と、前記陽極および前記陰極の間に積層された複数の有機層と、を備える。前記複数の有機層は、発光層と、該発光層および前記陰極の間に積層された1層以上の電子輸送性層と、を有する。前記発光層は、蛍光性材料および熱活性化遅延蛍光性材料からなる群より選ばれる少なくとも1種の発光材料を含む。そして、前記発光層および前記1層以上の電子輸送性層からなる群より選ばれる少なくとも1つの層は、上記した式(1)で表されるジナフト[1,2,3,4-def.1’,2’,3’,4’-pqr]テトラフェニレン化合物を含む。
【0033】
図1は、本発明の一実施形態にかかる有機エレクトロルミネッセンス素子の積層構成の一例を示す概略断面図である。以下、図1を参照しながら本実施形態にかかる有機エレクトロルミネッセンス素子の一例についてより詳細に説明する。
【0034】
有機エレクトロルミネッセンス素子100の基本的な構造としては、基板1、陽極2、正孔注入層3、電荷発生層4、正孔輸送層5、発光層6、電子輸送層7、電子注入層8、および陰極9をこの順で含む。ただし、これらの層のうちの一部の層が省略されていてもよく、また逆に他の層が追加されていてもよい。例えば、電荷発生層4が省略され、正孔注入層3上に正孔輸送層5が直接設けられていてもよく、発光層6と正孔輸送層5との間に電子阻止層(不図示)が設けられていてもよい。また、例えば電子注入層の機能と電子輸送層の機能とを単一の層で併せ持つ電子注入・輸送層のような、複数の層が有する機能を併せ持った単一の層を、当該複数の層の代わりに備えた構成であってもよい。
【0035】
有機エレクトロルミネッセンス素子100の陽極2および陰極9は、電気的な導体を介して電源に接続されている。陽極2と陰極9との間に電圧を印加することにより、有機エレクトロルミネッセンス素子100は作動、発光する。
【0036】
正孔は陽極2で有機エレクトロルミネッセンス素子100内に注入され、電子は陰極9で有機エレクトロルミネッセンス素子100内に注入される。
【0037】
なお、本実施形態にかかる有機エレクトロルミネッセンス素子100は、陽極2が基板1に接して設けられている。基板と接触する電極は便宜上、下側電極と呼ばれる。ただし、本発明はかかる実施形態に限定されるものではなく、陽極に代えて陰極が基板に接して設けられて下側電極となっていてもよく、基板と陽極または陰極とが接しておらず、陽極または陰極が他の層を介して基板上に積層されていてもよい。
【0038】
<<基板1>>
基板は、意図される有機エレクトロルミネッセンス素子の発光方向(光が取り出される方向)に応じて光透過性を適宜選択すればよい。すなわち、基板は光透過性を有していてもよく、有していなくても(所定の波長を有する光に対して不透明であっても)よい。基板が光透過性を有するか否かは、例えば、当該基板から有機エレクトロルミネッセンス素子の発光に由来する光が所望の量以上観察されるか否かにより確認できる。
【0039】
光透過性を有する基板として、透明ガラス板またはプラスチック板が一般的に採用される。ただし、基板はこれらに何ら限定されるものではない。基板は、例えば、多重の材料層を含む複合構造であってもよい。
【0040】
<<陽極2>>
基板1上には陽極2が設けられている。
発光が陽極を通過して取り出される構成の有機エレクトロルミネッセンス素子の場合、陽極は当該発光を通すかまたは実質的に通す材料で形成される。
【0041】
陽極に用いられる透明材料としては、特に限定されるものではないが、例えば、インジウム-錫酸化物(ITO;Indium Tin Oxide)、インジウム-亜鉛酸化物(IZO;Indium Zinc Oxide)、酸化錫、アルミニウム・ドープ型酸化錫、マグネシウム-インジウム酸化物、ニッケル-タングステン酸化物、その他の金属酸化物、窒化ガリウム等の金属窒化物、セレン化亜鉛等の金属セレン化物、および硫化亜鉛等の金属硫化物などが挙げられる。
【0042】
陽極は、プラズマ蒸着されたフルオロカーボンで改質することができる。
【0043】
なお、陰極側のみから光を取り出す構成の有機エレクトロルミネッセンス素子の場合、陽極の透過特性は重要ではなく、基板の材料として透明、不透明または反射性の任意の導電性材料を使用することができる。したがって、この場合の陽極に用いられる材料の一例としては、金、イリジウム、モリブデン、パラジウム、白金等が挙げられる。
【0044】
<<正孔輸送性層(正孔注入層3、正孔輸送層5)>>
陽極2と発光層6との間には、正孔輸送性層が設けられている。
正孔輸送性層とは、陽極と発光層との間に設けられた正孔輸送性を有する層であり、正孔注入層、正孔輸送層等である。図1に示す例では、陽極2上(発光層6側)に設けられた正孔注入層3と、後述する電荷発生層4上(発光層6側)に設けられた正孔輸送層5と、が正孔輸送性層である。
【0045】
正孔輸送性層が陽極と発光層との間に複数設けられていてもよい。正孔注入層や正孔輸送層は、陽極より注入された正孔を発光層に伝達する機能を有する。これらの層を陽極と発光層との間に介在させることにより、正孔がより低い電界で発光層に注入される。
【0046】
なお、正孔輸送層は、図1に示す実施形態においては単層からなっているが、複数層、例えば、陽極側の第一正孔輸送層と、陰極側の第二正孔輸送層とからなっていてもよい。この2層構成の正孔輸送層の場合、第一正孔輸送層が第二正孔輸送層と比較して正孔輸送能に優れた層であり、第二正孔輸送層が第一正孔輸送層と比較して電子阻止能に優れた層であることが好ましい。第二正孔輸送層は、一般に電子阻止層と称されることもある。
【0047】
正孔輸送性層の材料(正孔注入材料、正孔輸送材料、電子阻止材料等を含む)としては特に限定されるものではないが、例えば、トリアゾール誘導体、オキサジアゾール誘導体、イミダゾール誘導体、ポリアリールアルカン誘導体、ピラゾリン誘導体、ピラゾロン誘導体、フェニレンジアミン誘導体、アリールアミン誘導体、アミノ置換カルコン誘導体、オキサゾール誘導体、スチリルアントラセン誘導体、フルオレノン誘導体、ヒドラゾン誘導体、スチルベン誘導体、シラザン誘導体、アニリン系共重合体、および、導電性高分子オリゴマー、特にチオフェンオリゴマーなどが挙げられる。これらのうち、ポルフィリン化合物、芳香族第三級アミン化合物およびスチリルアミン化合物が好ましく、特に芳香族第三級アミン化合物が好ましい。
【0048】
上記芳香族第三級アミン化合物およびスチリルアミン化合物の代表例としては、N,N,N’,N’-テトラフェニル-4,4’-ジアミノフェニル、N,N’-ジフェニル-N,N’-ビス(3-メチルフェニル)-〔1,1’-ビフェニル〕-4,4’-ジアミン(TPD)、2,2-ビス(4-ジ-p-トリルアミノフェニル)プロパン、1,1-ビス(4-ジ-p-トリルアミノフェニル)シクロヘキサン、N,N,N’,N’-テトラ-p-トリル-4,4’-ジアミノビフェニル、1,1-ビス(4-ジ-p-トリルアミノフェニル)-4-フェニルシクロヘキサン、ビス(4-ジメチルアミノ-2-メチルフェニル)フェニルメタン、ビス(4-ジ-p-トリルアミノフェニル)フェニルメタン、N,N’-ジフェニル-N,N’-ジ(4-メトキシフェニル)-4,4’-ジアミノビフェニル、N,N,N’,N’-テトラフェニル-4,4’-ジアミノジフェニルエーテル、4,4’-ビス(ジフェニルアミノ)クオードリフェニル、N,N,N-トリ(p-トリル)アミン、4-(ジ-p-トリルアミノ)-4’-〔4-(ジ-p-トリルアミノ)スチリル〕スチルベン、4-N,N-ジフェニルアミノ-(2-ジフェニルビニル)ベンゼン、3-メトキシ-4’-N,N-ジフェニルアミノスチルベンゼン、N-フェニルカルバゾール、4,4’-ビス〔N-(1-ナフチル)-N-フェニルアミノ〕ビフェニル(NPD)、4,4’,4’’-トリス〔N-(3-メチルフェニル)-N-フェニルアミノ〕トリフェニルアミン(MTDATA)、3-[4-[1,1’-ビフェニル-4-イル](9,9-ジメチルフルオレン-2-イル)アミノ]フェニル]-9-フェニル-9H-カルバゾール、および4,4’-ビス[N-フェニル-N-(9-フェニルカルバゾール-3-イル)アミノ]-1,1’-ビフェニル]、N,N-ビス[4-(ジベンゾフラン-4-イル)フェニル]-N-(p-テルフェニル-4-イル)アミン等が挙げられる。
【0049】
また、p型-Si、p型-SiCなどの無機化合物も正孔注入材料、正孔輸送材料として使用することができる。
【0050】
正孔注入層および正孔輸送層は、上記材料から選ばれる1種以上からなる単層構造であってもよく、同一組成または異種組成の複数層からなる積層構造であってもよい。
【0051】
<<電荷発生層4>>
正孔注入層3と正孔輸送層5との間には、電荷発生層4が設けられていてもよい。
電荷発生層の材料としては特に制限はないが、例えば、ジピラジノ[2,3-f:2’,3’-h]キノキサリン-2,3,6,7,10,11-ヘキサカルボニトリル(HAT-CN)が挙げられる。
【0052】
<<発光層6>>
正孔輸送層5と電子輸送層7または後述する第一電子輸送層(不図示)との間には、発光層6が設けられている。
発光層は、蛍光発光材料および熱活性化遅延蛍光発光材料からなる群より選ばれる少なくとも1種の発光材料を含み、この領域で電子・正孔対が再結合された結果として発光を生ずる。
【0053】
発光層は、低分子およびポリマー双方を含む単一材料からなっていてもよいが、より一般的には、ゲスト化合物でドーピングされたホスト材料からなっている。発光は主としてドーパントから生じ、任意の色を有することができる。
【0054】
本実施形態にかかる有機EL素子において、発光層、および電子輸送性層からなる群より選ばれる1つ以上は、式(1)で表されるジナフト[1,2,3,4-def.1’,2’,3’,4’-pqr]テトラフェニレン化合物を含むものである。電子輸送層は、後述する機能分離された第一電子輸送層および第二電子輸送層であってもよい。電子輸送性層については後述する。
【0055】
式(1)で表されるジナフト[1,2,3,4-def.1’,2’,3’,4’-pqr]テトラフェニレン化合物を含む発光層、電子輸送性層は、該ジナフト[1,2,3,4-def.1’,2’,3’,4’-pqr]テトラフェニレン化合物と共に、公知の材料の中から選択される任意の1種以上を含有していてもよい。また、式(1)で表されるジナフト[1,2,3,4-def.1’,2’,3’,4’-pqr]テトラフェニレン化合物を含まない発光層、電子輸送性層は、公知の材料の中から選択される任意の1種以上を含有することが好ましい。
【0056】
公知の発光層のホスト材料としては、例えば、ビフェニル基、フルオレニル基、トリフェニルシリル基、カルバゾール基、ピレニル基、またはアントラニル基を有する化合物が挙げられる。より具体的には、DPVBi(4,4’-ビス(2,2-ジフェニルビニル)-1,1’-ビフェニル)、BCzVBi(4,4’-ビス(9-エチル-3-カルバゾビニレン)1,1’-ビフェニル)、TBADN(2-ターシャルブチル-9,10-ジ(2-ナフチル)アントラセン)、ADN(9,10-ジ(2-ナフチル)アントラセン)、CBP(4,4’-ビス(カルバゾール-9-イル)ビフェニル)、CDBP(4,4’-ビス(カルバゾール-9-イル)-2,2’-ジメチルビフェニル)、2-(9-フェニルカルバゾール-3-イル)-9-[4-(4-フェニルフェニルキナゾリン-2-イル)カルバゾール、および9,10-ビス(ビフェニル)アントラセン、2-(10-フェニル-9-アントラセニル)ベンゾ[b]ナフト[2,3-d]フラン等が挙げられる。
【0057】
発光層のホスト材料としては、後述する電子輸送材料、前述した正孔輸送性を有する材料、正孔・電子再結合を助ける(サポート)別の材料、またはこれら材料の組み合わせであってもよい。
【0058】
蛍光ドーパントとしては、例えば、アントラセン、ピレン、テトラセン、キサンテン、ペリレン、ルブレン、クマリン、ローダミン、キナクリドン、ジシアノメチレンピラン化合物、チオピラン化合物、ポリメチン化合物、ピリリウム、チアピリリウム化合物、フルオレン誘導体、ペリフランテン誘導体、インデノペリレン誘導体、ビス(アジニル)アミンホウ素化合物、ビス(アジニル)メタン化合物、カルボスチリル化合物、式(1)表されるジナフト[1,2,3,4-def.1’,2’,3’,4’-pqr]テトラフェニレン化合物等が挙げられる。蛍光ドーパントはこれらから選ばれる2種以上を組み合わせたものであってもよい。
【0059】
蛍光ドーパントの具体例としては、Alq3(トリス(8-ヒドロキシキノリン)アルミニウム)、DPAVBi(4,4’-ビス[4-(ジ-p-トリルアミノ)スチリル]ビフェニル)、ペリレン、1,6-ピレンジアミン,N,N-ビス([1,1’-ビフェニル]-3-イル)-N,N-ビス(4-ジベンゾフラニル)-等が挙げられる。
【0060】
発光層は単層構造であってもよく、同一組成または異種組成の複数層からなる積層構造であってもよい。
【0061】
<<電子輸送性層(電子輸送層7、電子注入層8、第一および第二電子輸送層(不図示))>>
電子輸送層7は、電子注入層8と、発光層6との間に設けられている。また、電子注入層8は電子輸送層7と陰極9との間に設けられている。
電子輸送層は、電子注入層より注入された電子を発光層に伝達する機能を有する。電子輸送層を電子注入層と発光層との間に介在させることにより、電子がより低い電界で発光層に注入される。
【0062】
なお、電子輸送層は、図1に示す例においては単層からなっているが、複数層、例えば、陽極側の第一電子輸送層と、陰極側の第二電子輸送層とからなっていてもよい。この2層構成の電子輸送層の場合、第二電子輸送層が第一電子輸送層と比較して電子輸送能に優れた層であり、第一電子輸送層が第二電子輸送層と比較して正孔阻止能に優れた層であることが好ましい。第一電子輸送層は、一般に正孔阻止層と称されることもある。第一電子輸送層(正孔阻止層)は、キャリアバランスを改善させることができる。
【0063】
電子輸送性層は、単一の層であってもよいが、電子注入層と、電子輸送層と、を有することが好ましい。そして、発光層、電子注入層、および電子輸送層からなる群より選ばれる少なくとも1つの層が、式(1)で表されるジナフト[1,2,3,4-def.1’,2’,3’,4’-pqr]テトラフェニレン化合物を含むことが好ましい。電子輸送層が式(1)で表されるジナフト[1,2,3,4-def.1’,2’,3’,4’-pqr]テトラフェニレン化合物を含むことがより好ましい。
【0064】
また、電子輸送層は、単層であってもよいが、発光層の側から順に第一電子輸送層と、第二電子輸送層と、に機能分離された2層の積層構造であってもよい。このとき、第一電子輸送層が、式(1)で表されるジナフト[1,2,3,4-def.1’,2’,3’,4’-pqr]テトラフェニレン化合物を含むことがより好ましい。
【0065】
電子輸送層は電子輸送性材料を含む。公知の電子輸送性材料としては、8-ヒドロキシキノリナートリチウム(Liq)、ビス(8-ヒドロキシキノリナート)亜鉛、ビス(8-ヒドロキシキノリナート)銅、ビス(8-ヒドロキシキノリナート)マンガン、トリス(8-ヒドロキシキノリナート)アルミニウム、トリス(2-メチル-8-ヒドロキシキノリナート)アルミニウム、トリス(8-ヒドロキシキノリナート)ガリウム、ビス(10-ヒドロキシベンゾ[h]キノリナート)ベリリウム、ビス(10-ヒドロキシベンゾ[h]キノリナート)亜鉛、ビス(2-メチル-8-キノリナート)クロロガリウム、ビス(2-メチル-8-キノリナート)(o-クレゾラート)ガリウム、ビス(2-メチル-8-キノリナート)-1-ナフトラートアルミニウム、またはビス(2-メチル-8-キノリナート)-2-ナフトラートガリウム、2-[3-(9-フェナントレニル)-5-(3-ピリジニル)フェニル]-4,6-ジフェニル-1,3,5-トリアジン、および2-(4,’’-ジ-2-ピリジニル[1,1’:3’,1’’-テルフェニル]-5-イル)-4,6-ジフェニル-1,3,5-トリアジン、BCP(2,9-ジメチル-4,7-ジフェニル-1,10-フェナントロリン)、Bphen(4,7-ジフェニル-1,10-フェナントロリン)、BAlq(ビス(2-メチル-8-キノリノラート)-4-(フェニルフェノラート)アルミニウム)、およびビス(10-ヒドロキシベンゾ[h]キノリナート)ベリリウム)等が挙げられる。
【0066】
電子注入層は、電子注入性を向上させ、素子特性(例えば、発光効率、低電圧駆動、高耐久性)を向上させることができる。
【0067】
電子注入層の公知の材料として望ましい化合物としては、フルオレノン、アントラキノジメタン、ジフェノキノン、チオピランジオキシド、オキサゾール、オキサジアゾール、トリアゾール、イミダゾール、ペリレンテトラカルボン酸、フレオレニリデンメタン、アントラキノジメタン、アントロン等が挙げられる。また、上記した金属錯体やアルカリ金属酸化物、アルカリ土類酸化物、希土類酸化物、アルカリ金属ハロゲン化物、アルカリ土類ハロゲン化物、希土類ハロゲン化物、SiO、AlO、SiN、SiON、AlON、GeO、LiO、LiON、TiO、TiON、TaO、TaON、TaN、Cなどの各種酸化物、窒化物、または酸化窒化物のような無機化合物等も使用できる。
【0068】
<<陰極9>>
電子注入層8上には陰極9が設けられている。
陽極を通過した発光のみが取り出される構成の有機エレクトロルミネッセンス素子の場合、前述したように陰極は任意の導電性材料から形成することができる。望ましい陰極材料としては、ナトリウム、ナトリウム-カリウム合金、マグネシウム、リチウム、マグネシウム/銅混合物、マグネシウム/銀混合物、マグネシウム/アルミニウム混合物、マグネシウム/インジウム混合物、アルミニウム/酸化アルミニウム(Al)混合物、インジウム、リチウム/アルミニウム混合物、希土類金属等が挙げられる。
【0069】
式(1)で表されるジナフト[1,2,3,4-def.1’,2’,3’,4’-pqr]テトラフェニレン化合物は、2つのトリフェニレン部位を、8員環構造で縮環したことで、各トリフェニレン部位がねじれた構造を有する。そのため、式(1)で表されるジナフト[1,2,3,4-def.1’,2’,3’,4’-pqr]テトラフェニレン化合物は、通常の平面性のトリフェニレン化合物と比較して、電子受容性が高い。
【0070】
また、式(1)で表されるジナフト[1,2,3,4-def.1’,2’,3’,4’-pqr]テトラフェニレン化合物は、従来公知の電子輸送性の化合物(例えば、特許文献1に記載の化合物)と比較して、有機EL素子、特に蛍光発光性の有機EL素子における電子輸送性層に用いた場合、素子寿命が向上した有機EL素子が得られる。
したがって、本発明の他の実施形態によれば、素子寿命に優れた有機エレクトロルミネッセンス素子を提供することができる。
また、本発明のさらに他の実施形態によれば、電子輸送材料として用いたときに、素子寿命に優れた有機エレクトロルミネッセンス素子の作製に資する有機エレクトロルミネッセンス素子用材料を提供することができる。
【実施例
【0071】
以下、本発明を実施例に基づき、さらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に何ら限定されて解釈されるものではない。
[材料純度測定(HPLC分析)]
測定装置:東ソー製 マルチステーションLC-8020
測定条件:カラム ジーエルサイエンス社製 Inertsil ODS-3V (4.6mmΦ×250mm)
検出器 UV検出(波長 254nm)
溶離液 メタノール/テトラヒドロフラン=9/1(Vol/Vol比)
[有機EL素子の発光特性]
測定装置:TOPCON社製LUMINANCE METER(BM-9)。
【0072】
[合成例-1 (ジナフト[1,2,3,4-def.1’,2’,3’,4’-pqr]テトラフェニレン(D1)の合成)]
【0073】
【化4】
【0074】
外気中で、炭酸セシウム 495mg(1.50mmol)をシュレンクチューブに投入した後、減圧下、ヒートガンで加熱することで、炭酸セシウムを乾燥させた。チューブを窒素気流下にした後、塩化パラジウム 4.8mg(0.027mmol)およびビス(1-アダマンチル)ブチルホスフィン 18.7mg(0.052mmol)、2,2''-ジクロロ-1,1':2',1''-ターフェニル 149.6 mg(0.50mmol)のシクロペンチルメチルエーテル(CPME)溶液(0.5mL)を添加して140℃で18時間攪拌して混合液を得た。得られた混合液を室温まで冷却後、純水を添加してさらに攪拌した。攪拌後の混合液の水層と有機層とを、ジクロロメタン 20mLを3回用いて分液した後、減圧下に濃縮した。残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィーで精製することにより、ジナフト[1,2,3,4-def.1’,2’,3’,4’-pqr]テトラフェニレン(D1)の無色粉末を75.6mg(0.167mmol)単離した(収率67%)。得られたジナフト[1,2,3,4-def.1’,2’,3’,4’-pqr]テトラフェニレン(D1)の昇華温度は、290℃であった。また、昇華品のジナフト[1,2,3,4-def.1’,2’,3’,4’-pqr]テトラフェニレン(D1)は粉末状であることを確認した(HPLC純度99.79%)。
【0075】
[素子実施例-1 (ジナフト[1,2,3,4-def.1’,2’,3’,4’-pqr]テトラフェニレン(D1)の素子評価)]
次に、得られたジナフト[1,2,3,4-def.1’,2’,3’,4’-pqr]テトラフェニレン(D1)を用いて、図2に示す積層構成を有する有機エレクトロルミネッセンス素子を作製した。図2は本発明の一実施形態にかかるエレクトロルミネッセンス素子の他の積層構成の例を示す概略断面図である。有機エレクトロルミネッセンス素子の作製に用いた化合物の構造式およびその略称は以下のとおりである。
【0076】
【化5】
【0077】
(基板1、陽極2の作製)
陽極をその表面に備えた基板として、2mm幅の酸化インジウム-スズ(ITO)膜(膜厚110nm)がストライプ状にパターンされたITO透明電極付きガラス基板を用意した。ついで、この基板をイソプロピルアルコールで洗浄した後、オゾン紫外線洗浄により表面処理を行った。
【0078】
(真空蒸着の準備)
洗浄後の表面処理が施された基板上に、真空蒸着法で各層の真空蒸着を行い、各層を積層形成した。各有機材料および金属材料は抵抗加熱方式により成膜した。
【0079】
まず、真空蒸着槽内に前記ガラス基板を導入し、1.0×10-4Paまで減圧した。そして、以下の順で、各層の成膜条件に従ってそれぞれ作製した。
【0080】
(正孔注入層3の作製)
昇華精製したHILを0.15nm/秒の速度で55nm成膜し、正孔注入層を作製した。
【0081】
(電荷発生層4の作製)
昇華精製したHATを0.05nm/秒の速度で5nm成膜し、電荷発生層を作製した。
【0082】
(第一正孔輸送層51の作製)
HTL-1を0.15nm/秒の速度で10nm成膜し、第一正孔輸送層を作製した。
【0083】
(第二正孔輸送層52の作製)
HTL-2を0.15nm/秒の速度で10nm成膜し、第二正孔輸送層(電子阻止層)を作製した。この第二正孔輸送層は、電子の流入を阻止する電子阻止層としても機能する層である。
【0084】
(発光層6の作製)
EML-1およびEML-2を95:5(質量比)の割合で25nm成膜し、発光層を作製した。成膜速度は0.18nm/秒であった。
【0085】
(第一電子輸送層71の作製)
ジナフト[1,2,3,4-def.1’,2’,3’,4’-pqr]テトラフェニレン(D1)を0.15nm/秒の速度で5nm成膜し、第一電子輸送層(正孔阻止層)を作製した。この第一電子輸送層は、正孔の流入を阻止する正孔阻止層としても機能する層である。
【0086】
(第二電子輸送層72の作製)
ETL-1およびLiqを50:50(質量比)の割合で25nm成膜し、第二電子輸送層を作製した。成膜速度は0.15nm/秒であった。
【0087】
(電子注入層8の作製)
Liqを0.01nm/秒の速度で1nm成膜し、電子注入層を作製した。
【0088】
(陰極9の作製)
最後に、基板上のITOストライプと直行するようにメタルマスクを配し、陰極(陰極層)を成膜した。陰極は、銀/マグネシウム(質量比1/10)と銀とを、この順番で、それぞれ80nmと20nmとで成膜し、2層構造とした。銀/マグネシウムの成膜速度は0.5nm/秒、銀の成膜速度は0.2nm/秒であった。
【0089】
以上により、図2に示すような積層構成を有する発光面積4mm有機エレクトロルミネッセンス素子を作製した。なお、それぞれの膜厚は、触針式膜厚測定計(Bruker社製DEKTAK)で測定した。
【0090】
さらに、この素子を酸素および水分濃度1ppm以下の窒素雰囲気のグローブボックス内で封止した。封止は、ガラス製の封止キャップと成膜基板(素子)とを、ビスフェノールF型液状エポキシ樹脂(ナガセケムテックス社製)を用いて行った。
【0091】
上記のようにして作製した有機エレクトロルミネッセンス素子に直流電流を印加し、輝度計(TOPCON社製LUMINANCE METER BM-9)を用いて発光特性を評価した。発光特性として、電流密度1mA/cmを流した時の電圧(V)、電流効率(cd/A)を測定した。素子寿命(h)は、作製した有機エレクトロルミネッセンス素子を初期輝度1000cd/mで駆動したときの連続点灯時の輝度減衰時間を測定し、輝度(cd/m)が3%減じるまでに要した時間を測定した。得られた測定結果を表1に示す。なお、電圧、電流効率、および素子寿命は、後述の素子比較例-1における結果を基準値(100)とした相対値である。
【0092】
[素子比較例-1]
素子実施例-1において、ジナフト[1,2,3,4-def.1’,2’,3’,4’-pqr]テトラフェニレン(D1)の代わりに、韓国公開特許第10-2016-0085603号公報に記載の化合物(X1)を用いた以外は、素子実施例-1と同じ方法で有機エレクトロルミネッセンス素子を作製し、評価した。得られた測定結果を表1に示す。
【0093】
【化6】
【0094】
【表1】
【0095】
電流効率は実用上何ら問題ない数値であるのに対して、素子寿命が飛躍的に向上していることが確認できた。
【0096】
本発明の一実施形態にかかる有機エレクトロルミネッセンス素子は、式(1)で表されるジナフト[1,2,3,4-def.1’,2’,3’,4’-pqr]テトラフェニレン化合物を含むことで、従来公知材料を用いた有機エレクトロルミネッセンス素子と比較して、素子寿命および電荷輸送特性を極めて高次元に両立できることがわかった。
【符号の説明】
【0097】
1.基板
2.陽極
3.正孔注入層
4.電荷発生層
5.正孔輸送層
6.発光層
7.電子輸送層
8.電子注入層
9.陰極
51.第一正孔輸送層
52.第二正孔輸送層
71.第一電子輸送層
72.第二電子輸送層
100.有機エレクトロルミネッセンス素子
図1
図2