(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-01-05
(45)【発行日】2022-02-04
(54)【発明の名称】交差結合領域の配向性を有する二重可変領域抗体様結合タンパク質
(51)【国際特許分類】
C12N 15/13 20060101AFI20220128BHJP
C07K 16/00 20060101ALI20220128BHJP
C12N 15/63 20060101ALI20220128BHJP
C12N 5/10 20060101ALI20220128BHJP
C12P 21/02 20060101ALI20220128BHJP
C07K 16/46 20060101ALI20220128BHJP
A61K 39/395 20060101ALI20220128BHJP
A61K 47/65 20170101ALI20220128BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20220128BHJP
【FI】
C12N15/13
C07K16/00 ZNA
C12N15/63 Z
C12N5/10
C12P21/02 C
C07K16/46
A61K39/395 N
A61K47/65
A61P43/00 111
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2019224988
(22)【出願日】2019-12-13
(62)【分割の表示】P 2018014527の分割
【原出願日】2012-03-28
【審査請求日】2020-01-10
(32)【優先日】2011-03-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(32)【優先日】2011-11-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】FR
(73)【特許権者】
【識別番号】504456798
【氏名又は名称】サノフイ
【氏名又は名称原語表記】SANOFI
【住所又は居所原語表記】54 rue La Bo▲e▼tie,F-75008 Paris,France
(74)【代理人】
【識別番号】100127926
【氏名又は名称】結田 純次
(74)【代理人】
【識別番号】100140132
【氏名又は名称】竹林 則幸
(72)【発明者】
【氏名】ニコラ・ボラン
(72)【発明者】
【氏名】クリスティアン・バイル
(72)【発明者】
【氏名】カールステン・コルヴィー
(72)【発明者】
【氏名】クリスティアン・ランゲ
(72)【発明者】
【氏名】ダンシイ・リー
(72)【発明者】
【氏名】ヴァンサン・ミコル
(72)【発明者】
【氏名】アンケ・シュタインメッツ
(72)【発明者】
【氏名】エルコーレ・ラオ
【審査官】西垣 歩美
(56)【参考文献】
【文献】特表2003-531588(JP,A)
【文献】特表2011-501671(JP,A)
【文献】国際公開第2010/080538(WO,A1)
【文献】国際公開第2011/014659(WO,A2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 15/00-15/90
C07K 1/00-19/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
UniProt/GeneSeq
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
2つの抗原結合部位を形成する2つのポリペプチド鎖を含む抗体様結合タンパク質であって、ここで、第1のポリペプチド鎖は構造V
L1-L
1-V
L2-L
2-C
Lを含み、そして第2のポリペプチド鎖は構造V
H2-L
3-V
H1-L
4-C
H1を含み、
ここで:
(a)(i)V
L1は第1の免疫グロブリン重鎖可変ドメインV
Hに由来するものであり、V
L2は第2の免疫グロブリン軽鎖可変ドメインであり、V
H2は第2の免疫グロブリン重鎖可変ドメインであり、V
H1は第1の免疫グロブリン軽鎖可変ドメインV
Lに由来するものであり;又は
(ii)V
L1は第1の免疫グロブリン軽鎖可変ドメインであり、V
L2は第2の免疫グロブリン重鎖可変ドメインV
Hに由来するものであり、V
H2は第2の免疫グロブリン軽鎖可変ドメインV
Lに由来するものであり、V
H1は第1の免疫グロブリン重鎖可変ドメインであり;又は
(iii)V
L1は第1の免疫グロブリン重鎖可変ドメインV
Hに由来するものであり、V
L2は第2の免疫グロブリン重鎖可変ドメインV
Hに由来するものであり、V
H2は第2の免疫グロブリン軽鎖可変ドメインV
Lに由来するものであり、V
H1は第1の免疫グロブリン軽鎖可変ドメインV
Lに由来するものであり;
ここで、V
L1とV
H1は会合して第1の抗原結合部位を形成し、そしてV
L2とV
H2は会合して第2の抗原結合部位を形成し;
(b)C
Lは、免疫グロブリン軽鎖定常ドメインであり;
(c)C
H1は、免疫グロブリンC
H1重鎖定常ドメインであり;そして
(d)L
1、L
2、L
3及びL
4は、アミノ酸リンカーであり;
ここで、L
2は少なくとも1アミノ酸残基の長さであり、L
4は少なくとも1アミノ酸残基の長さであり;そして
ここで、前記第1及び第2のポリペプチドは、交差軽鎖-重鎖対を形成する、上記抗体様結合タンパク質。
【請求項2】
1つまたはそれ以上の抗原標的と特異的に結合することができる、請求項1に記載の抗体様結合タンパク質。
【請求項3】
前記1つ又はそれ以上の抗原標的が、B7.1、B7.2、BAFF、BlyS、C3、C5、CCL11(エオタキシン)、CCL15(MIP-1d)、CCL17(TARC)、CCL19(MIP-3b)、CCL2(MCP-1)、CCL20(MIP-3a)、CCL21(MIP-2)、SLC、CCL24(MPIF-2/エオタキシン-2)、CCL25(TECK)、CCL26(エオタキシン-3)、CCL3(MIP―1a)、CCL4(MIP-1b)、CCL5(RANTES)、CCL7(MCP-3)、CCL8(mcp-2)、CD3、CD19、CD20、CD24、CD40、CD40L、CD80、CD86、CDH1(E-カドヘリン)、キチナーゼ、CSF1(M-CSF)、CSF2(GM-CSF)、CSF3(GCSF)、CTLA4、CX3CL1(SCYD1)、CXCL12(SDF1)、CXCL13、EGFR、FCER1A、FCER2, HER2、IGF1R、IL-1、IL-12、IL13、IL15、IL17、IL18、IL1A、IL1B、IL1F10、IL1β、IL2、IL4、IL6、IL7、IL8、IL9、IL12/23、IL22、IL23、IL25、IL27、IL35、ITGB4(b4インテグリン)、LEP(レプチン)、MHCクラスII、TLR2、TLR4、TLR5、TNF、TNFα、TNFSF4(OX40リガンド)、TNFSF5(CD40リガンド)、Toll様受容体、TREM1、TSLP、TWEAK、XCR1(GPR5/CCXCR1)、DNGR-1(CLEC91)、及びHMGB1からなる群から選択される、請求項2に記載の抗体様結合タンパク質。
【請求項4】
二重特異性であり、2つの異なる抗原標的と結合することができる、請求項1に記載の抗体様結合タンパク質。
【請求項5】
前記2つの異なる抗原標的が、IL4及びIL13、IGF1R及びHER2、IGF1R及びEGFR、EGFR及びHER2、BK及びIL13、PDL-1及びCTLA-4、CTLA4及びMHCクラスII、IL-12及びIL-18、IL-1α及びIL-1β、TNFα及びIL12/23、TNFα及びIL-12p40、TNFα及びIL-1β、TNFα及びIL-23、並びにIL17及びIL23からなる群から選択される、請求項4に記載の抗体様結合タンパク質。
【請求項6】
抗原標的の1つ又はそれ以上の機能を阻害することができる、請求項1に記載の抗体様結合タンパク質。
【請求項7】
L
1、L
2、L
3及びL
4からなる群から選択される前記リンカーの少なくとも1つが少なくとも1つのシステイン残基を含む、請求項1に記載の抗体様結合タンパク質。
【請求項8】
薬学的に許容可能な担体、及び治療的に有効な量の請求項1に記載の抗体様結合タンパク質を含んでなる、医薬組成物。
【請求項9】
L
1は3~12アミノ酸残基の長さであり;
L
2は3~14アミノ酸残基の長さであり;
L
3は1~8アミノ酸残基の長さであり;そして
L
4は1~3アミノ酸残基の長さである、
請求項1に記載の抗体様結合タンパク質。
【請求項10】
L
1は1~3アミノ酸残基の長さであり;
L
2は1~4アミノ酸残基の長さであり;
L
3は2~15アミノ酸残基の長さであり;そして
L
4は2~15アミノ酸残基の長さである、
請求項1に記載の抗体様結合タンパク質。
【請求項11】
L
1は5~10アミノ酸残基の長さであり;
L
2は5~8アミノ酸残基の長さであり;
L
3は1~5アミノ酸残基の長さであり;そして
L
4は1~2アミノ酸残基の長さである、
請求項1に記載の抗体様結合タンパク質。
【請求項12】
L
1は7アミノ酸残基の長さであり;
L
2は5アミノ酸残基の長さであり;
L
3は1アミノ酸残基の長さであり;そして
L
4は2アミノ酸残基の長さである、
請求項1に記載の抗体様結合タンパク質。
【請求項13】
L
1は1~2アミノ酸残基の長さであり;
L
2は1~2アミノ酸残基の長さであり;
L
3は4~12アミノ酸残基の長さであり;そして
L
4は2~12アミノ酸残基の長さである、
請求項1に記載の抗体様結合タンパク質。
【請求項14】
L
1は1アミノ酸残基の長さであり;
L
2は2アミノ酸残基の長さであり;
L
3は7アミノ酸残基の長さであり;そして
L
4は5アミノ酸残基の長さである、
請求項1に記載の抗体様結合タンパク質。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、4つの抗原結合部位を形成する4つのポリペプチド鎖を含む抗体様結合タンパク質に関し、ここで、抗体様結合タンパク質を形成するポリペプチドのそれぞれの対は交差した配向性を有する二重可変ドメインを持つ。本発明はまた、そのような抗原様結合タンパク質を製造するための方法に関する。
【背景技術】
【0002】
天然起源のIgG抗体は、二価で単一特異性である。2つの異なる抗原に対する結合特異性を有する二重特異性抗体は、組み換え技術を用いて産生することができ、広範な臨床用途を有すると推定される。完全なIgG抗体分子は、4つのポリペプチド鎖:即ち2つの重鎖及び2つの軽鎖、を含むY形の分子である。それぞれの軽鎖は、2つのドメイン、即ち可変又はVLドメイン(又は領域)として知られるN-末端ドメイン及び定常(又は
CL)ドメイン(定常カッパ(Cκ)又は定常ラムダ(Cλ)ドメイン)として知られる
C-末端ドメイン、から成る。それぞれの重鎖は、抗体のクラスによって4又は5つのドメインから成る。N-末端ドメインは、可変(又はVH)ドメイン(又は領域)として知
られ、その後に第1の定常(又はCH1)ドメイン、ヒンジ領域、そして次に第2及び第3の定常(又はCH2及びCH3)ドメインが続く。組み立てられた抗体では、VLとVHドメインは、一緒に会合して抗原結合部位を形成する。同様に、CLとCH1ドメインは一緒に会
合して、1つの軽鎖と結び付いた1つの重鎖を保持する。2つの重-軽鎖ヘテロ二量体は、CH2とCH3ドメインの相互作用及び2つの重鎖上のヒンジ領域間の相互作用により一緒に会合している。
【0003】
抗体のタンパク質分解的消化は、抗体フラグメント(Fab及びFab2)の生成を誘導できることが知られている。完全な抗体のそのようなフラグメントは抗原結合活性を示すことができる。抗体フラグメントはまた、組み換え的に生成させることができる。互いに結び付いた重鎖と軽鎖の可変領域だけから成るFVフラグメントが得られてもよい。こ
れらのFVフラグメントは、抗原結合に関して一価である。たいていの天然起源の抗体は
完全な結合力を保持するためには一般にVHとVLの両者を必要とするが、個々の可変ドメイン(ドメイン抗体又はdAB:非特許文献1)及び個々の相補性決定領域又はCDR(非特許文献2)のような小さなフラグメントもまた、親抗体の結合特性を保持することが示されている。
【0004】
1本鎖可変フラグメント(scFV)構成物は、単一ポリペプチド鎖に含有される抗体
のVH及びVLドメインを含み、ここでドメインは、十分な長さ(12アミノ酸残基以上)を持つ柔軟なリンカーによって分離され、そしてそれは分子内相互作用を強制し、2つのドメインの自己集合が機能的エピトープ結合部位になることを可能にする(非特許文献3)。これらの小タンパク質(MW:~25,000Da)は一般に、単一ポリペプチド内にそれらの抗原に対する特異性及び親和性を維持し、より大きな抗原特異的分子用の都合の良い構築ブロックを提供することができる。
【0005】
診断及び治療において完全な抗体よりはむしろ抗体フラグメントを使うことの利点は、その小さなサイズにある。それらは、完全抗体よりも免疫原性が少なそうであり、そして組織に、より侵入することができる。そのようなフラグメントの使用に伴う不利な点は、それらは抗原結合部位を1つしか有さず、親和力の低下につながることである。また、それらが小サイズであるため、それらは血清から非常に早く消去され、従って短いライフタイムを示す。
【0006】
1つの分子中に2つの抗体の抗原結合部位を組み合わせ、従って、2つの異なる抗原を同時に結合できる二重特異性抗体(BsAb)を作成することは興味が持たれていた。診断目的のための適用以外に、そのような分子は、例えば、強力なエフェクター系を罹患部(そこでは、しばしば癌性細胞がモノクローナル抗体によって誘発される抗体依存性細胞障害(ADCC)又は補体依存性細胞障害(CDC)のような、正常な免疫応答を抑制する機構を発現している)に向け直す、又は抗体の中和活性若しくは刺激活性を増強することによって、新しい治療への応用のための道を開く。この可能性は、初期の段階で認識され、そのような二重特異性抗体を得るための多くの取り組みをもたらした。治療を目的として異なる標的抗原に対する2つの完全抗体の結合特異性を連結する初期の試みは、化学的に融合させたヘテロコンジュゲート分子(非特許文献4)を使用した。
【0007】
二重特異性抗体は、最初、それぞれが異なる免疫グロブリンを生産できる2つのハイブリドーマ(非特許文献5)を融合させることによって作られたが、細胞培養で生産される種類(10に及ぶ異なる種類)の複雑さは精製を難しくし、費用がかかった(非特許文献6)。このフォーマットを使用し、マウスIgG2a及びラットIgG2b抗体は、同じ細胞で一緒に(例えば、 2つのハイブリドーマのクアドローマ融合として、又は遺伝子組
み換えCHO細胞のいずれかで)生産された。各抗体の軽鎖は優先的に同族種の重鎖と結び付くため、抗体の3つの主要種:即ち2つの親抗体、及びFc部を介して会合するそれぞれの1つの軽/重鎖対を含む2つの抗体のヘテロ二量体、が組み立てられる。目的とするヘテロ二量体は、プロテインAに対するその結合特性が親の抗体のそれらと異なるため、この混合物から精製できる:因みにラットIgG2bはプロテインAに結合しない、それに対してマウスIgG2aは結合する。結果的に、マウス-ラットヘテロ二量体はプロテインAに結合するが、マウスIgG2aホモ二量体よりも高いpHで溶出し、これが二重特異性ヘテロ二量体の選択的精製を可能にする (非特許文献7)。生じる二重特異性
ヘテロ二量体は完全に非ヒトであり、それ故、高度に免疫原であり、それは有害な副作用(例えば、「HAMA」又は「HARA」反応)を有する及び/又は治療を無効にするか
もしれない。哺乳類細胞培養から高収率で容易に製造できる優れた特性を備えた遺伝子工学的二重特異性物質の必要性が残る。
【0008】
前述のように、細胞融合から生産されるヘテロ複合体又は二重特異性抗体を用いて得られた結果が有望であるにもかかわらず、いくつかの要因がその大規模な治療への応用を非現実的にしている。そのような要因としては:生体内でのヘテロ複合体の急速なクリアランス、どちらかのタイプの分子を発生させるために必要な実験室集約的技術、ホモ複合体又は単一特異性抗体から離れてヘテロ複合体の大規模精製の必要性、及び一般に得られる低い収率、が挙げられる。
【0009】
遺伝子工学は、結合特性とエフェクター機能の望ましいセットを備えた抗体又は抗体誘導体を設計、変更(modify)、及び製造するために使用される頻度が高まっている。さまざまな組み換え法が、抗体フラグメント(非特許文献8、非特許文献9、非特許文献10)及び全長IgGフォーマット(非特許文献11)の両者として、BsAbを効率的に生産するために開発されている。
【0010】
2つの異なるscFvを組み合わせると、sc-BsAb又はTa-scFvと呼ばれる最小分子量のBsAbフォーマットを生じる(非特許文献12、非特許文献13)。BsAbは、2つのscFvをロイシンジッパーのような二量体化官能基と遺伝子的に融合させることによって構成された(非特許文献14、非特許文献15)。
【0011】
ディアボディ(diabody)は、小さい二価の二重特異性抗体フラグメントである。その
フラグメントは、同一鎖上で2つのドメイン間に対の形成を可能にするには寸が足りないリンカー(12アミノ酸残基未満)を用いることによって、同じポリペプチド鎖上にVL
と連結したVHを含む。ドメインは強制的に別の鎖の相補性ドメインと分子間で対にされ
、2つの抗原結合部位を作り出す。これらの二量体の抗体フラグメント、即ち「ディアボディ」、は二価であり二重特異性である(非特許文献16)。ディアボディは、Fabフラグメントと同程度のサイズである。3~12アミノ酸残基のリンカーで連結されたVH
及びVLドメインのポリペプチド鎖は主に二量体(ディアボディ)を形成するのに対して
、0~2アミノ酸残基のリンカーでは、三量体(トリアボディ)及び四量体(テトラボディ)が優位である。リンカーの長さに加えて、オリゴマー化の厳密なパターンは、可変ドメインの構成(composition)並びに配向性に依存するように見える(非特許文献17)
。ディアボディ分子の最終構造の予測可能性は、非常に乏しい。
【0012】
sc―BsAb及びディアボディをベースにした構成物は、興味深い臨床的可能性を示すが、そのような非共有的に結びついた分子は、生理的条件下では十分に安定ではない。scFvフラグメントの全体的な安定性は、VL及びVHドメインの固有の安定性、並びにドメインインターフェースの安定性に依存する。scFvフラグメントのVH-VLインターフェースの不十分な安全性は、しばしばscFvの不可逆的な不活性化の主な原因として示唆されており、 それはペプチドリンカーによって可能になるインターフェースの一
時的な開放が、凝集を好みそしてそれ故不安定性及び乏しい生産性をもたらす疎水性パッチを露出させためである(非特許文献18)。
【0013】
VH及びVLドメインから二重特異性の二価の抗原結合性タンパク質を製造する代りの方法は、特許文献1に記載されている。そのようなダブルヘッドの二重Fv立体配置は、2本のポリペプチド鎖をコードするバイシストロン性ベクターを発現させることによって得られる。二重Fv立体配置では、2つの異なる抗体の可変ドメインは2本の別々の鎖(1つの重鎖および1つの軽鎖)上にタンデム配向で発現され、ここで1本のポリペプチド鎖はペプチドリンカーで区切られたVH(VH1-リンカー-VH2)を2度連続して有し、他
のポリペプチド鎖はペプチドリンカーによって連続的に連結された相補的VLドメイン(
VL1-リンカー-VL2)から成る。交差ダブルヘッド立体配置では、2つの異なる抗体の可変ドメインが2本の別々のポリペプチド鎖(1つの重鎖および1つの軽鎖)上にタンデム配向で発現され、ここで1本のポリペプチド鎖はペプチドリンカーで区切られたVH(
VH1-リンカー-VH2)を2度連続して有し、他のポリペプチド鎖はペプチドリンカーによって逆の配向で連続的に連結された相補的VLドメイン(VL2-リンカー-VL1)から
成る。構成物の分子モデリングから、リンカーサイズは全長30~40Å(15~20アミノ酸残基)で十分な長さであることが示唆された。
【0014】
抗体の結合価を高めることは、結合力効果によってその抗体の機能的親和性を強化するので、興味深い。増加した結合価をもつ多価タンパク質複合体(PPC)は、特許文献2に記載されている。PPCは、一般に、互いに横方向に配置された2本のポリペプチド鎖を含む。それぞれのポリペプチド鎖は、通常3又は4個の「v-領域」を含み、それは反対のポリペプチド鎖上の対応するv-領域と適合したとき抗原結合部位を形成することができるアミノ酸配列を含む。それぞれのポリペプチド鎖に、約6個までの「v-領域」が使用できる。各ポリペプチド鎖のv-領域は直線的に互いに連結され、そして散在型連結
領域(linking region)によって連結されればよい。PPCの形で配置されるとき、各ポリペプチド鎖上のv-領域は個別の抗原結合部位を形成する。複合体は、1つ又は複数の結合特異性を含んでもよい。
【0015】
FcのCH3ドメインに一連の「ノブ-イントゥ-ホール(knob-into-hole)」突然変異を用いて、Fcヘテロ二量体を作り出すための戦略がCarterらによって提案された(非特許文献19、非特許文献20)。これらの突然変異は構造的に保存された疎水性コアの中のCH3ドメインの間に残基パッキング相補性の変化をもたらし、その結果、ホモ二量体と比較してヘテロ二量体の形成が促進され、それが哺乳動物細胞培養からの優れたヘ
テロ二量体発現を達成する。その戦略は高いヘテロ二量体生産をもたらしたが、ホモ二量体は完全には抑えられなかった(非特許文献21)。
【0016】
Gunasekaranらは、Fcヘテロ二量体の形成を推進すると同時に、CH3ドメインインターフェースの荷電相補性を変えることによって疎水性コアの完全性を維持できる可能性を検討した(非特許文献22)。静電学的操縦メカニズムをうまく利用すると、これらの構成物は、末梢部に位置する二対の荷電残基の突然変異によって、ホモ二量体の混入が最小のFcヘテロ二量体形成を効率的に推進した。ノブ-イントウ-ホールの設計とは対照的に、静電反発機構の性質のためにホモ二量体は均等に抑制されたが、完全には排除されなかった。
【0017】
Davisらは、ヒトIgG及びIgAのCH3ドメインのβ-ストランド部分を互いに組み合わせることによって余分な鎖間ジスルフィド結合を導入すること無しに、Fcホモ二量体をヘテロ二量体に変換するための抗体工学的方法について記載している(非特許文献23)。哺乳動物細胞によるSEEDbody(Sb)融合タンパク質の発現は、Sbヘテロ二量体を高収率に生み出し、それは容易に精製されて微量の副生成物を除去する。
【0018】
特許文献3は、CH3ドメインのヘテロ二量体化に基づく二重特異性抗体を記載しており、CH3ドメイン内の1つの重鎖に突然変異H95R及びY96Fを導入している。これら
のアミノ酸置換は、IgG3サブタイプのCH3ドメインで生じ、IgG1バックボーンとヘテロ二量体化する。全ての重鎖と対になる傾向がある共通の軽鎖は、CH3ドメインを介するヘテロ二量体化に基づく全てのフォーマットが必要条件である。合計3種類の抗体:即ち、純粋なIgG1バックボーンを有するもの50%、純粋なH95R及び突然変異されたY96Fバックボーンを有するもの3分の1、及び2つの異なる重鎖を有する(二重特異性の)もの3分の1、が生産される。目的のヘテロ二量体は、そのプロテインAに対する結合特性が親抗体のそれと異なるため、この混合物から生成することができる:即ち、IgG3由来のCH3ドメインはプロテインAに結合しないが、それに対してIgG1は結合する。結果的に、ヘテロ二量体はプロテインAに結合するが、純粋なIgG1ホモ二量体よりも高いpHで溶出し、そしてこれが二重特異性ヘテロ二量体の選択的精製を可能にする。
【0019】
特許文献4は、特許文献1に記載された二重Fvフォーマットを基にした二重可変ドメインIgG(DVD-IgG)二重特異性抗体を記載している。同様の二重特異性フォーマットは、特許文献5にも記載された。二重Fvのそれぞれの鎖への定常ドメインの追加(重鎖へのCH1-Fc及び軽鎖へのカッパ又はラムダ定常ドメイン)は、さらに何の修正を必要とすることなく機能的二重特異性抗体をもたらした(即ち、明白な、安定性を高めるための定常ドメインの付加)。DVD-Ig/TBTIフォーマットで発現されるいくつかの抗体は、第2(すなわち最も内側)の抗原結合位置(Fv2)に対して位置効果を示す。Fv2 位置によって認識される抗原の配列及び性質によって、この抗体ドメイン
はその抗原に対する親和性の減少(即ち、親抗体と比較しテオンレート(on-rate)の喪
失)を示す。この観察に対する1つの可能な説明は、VL1とVL2の間のリンカーがFv2
のCDR領域に突き出し、Fv2がより大きな抗原に対して多少アクセスできなくさせている、というものである。
【0020】
特許文献1に記載された二重特異性抗体フラグメントの第2の立体配置は、交差ダブルヘッド(CODH)であり、2つの鎖上に発現された可変ドメインが次の配向性を有する:
軽鎖に関して、VL1-リンカー-VL2;
重鎖に関して、VH2-リンカー-VH2
特許文献1は、二重特異性交差ダブルヘッド抗体フラグメント(構成物GOSA.E)
は、二重Fvよりも高い結合活性を保持することを開示し(特許文献1の20ページ、20~50行を参照)、そしてさらに、このフォーマットは、可変ドメイン間に使われるリンカーによる影響が少ないことを開示している(特許文献1の20~21ページを参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0021】
【文献】米国特許第5,989,830号
【文献】米国特許第2005/0003403 A1号
【文献】米国特許第2010/331527 A1号
【文献】米国特許第7,612,181号
【文献】米国特許第2010/0226923 A1号
【非特許文献】
【0022】
【文献】Ward et al., 1989, Nature 341(6242): 544-46
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【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0023】
本発明は、4つの抗原結合部位を形成する4つのポリペプチド鎖を含む抗体様結合タンパク質を提供し、ここで2つのポリペプチド鎖は式:
VL1-L1―VL2-L2-CL [I]
で表わされる構造を有し、
そして2つのポリペプチド鎖は式:
VH2-L3-VH1-L4-CH1-Fc [II]
で表わされる構造を有し、
ここで、
VL1は、第1の免疫グロブリン軽鎖可変ドメインであり;
VL2は、第2の免疫グロブリン軽鎖可変ドメインであり;
VH1は、第1の免疫グロブリン重鎖可変ドメインであり;
VH2は、第2の免疫グロブリン重鎖可変ドメインであり;
CLは、免疫グロブリン軽鎖の定常ドメインであり;
CH1は、免疫グロブリンのCH1重鎖定常ドメインであり;
Fcは、免疫グロブリンのヒンジ領域、及びCH2、CH3免疫グロブリン重鎖の定常ドメインであり;
L1、L2、L3及びL4は、アミノ酸リンカーであり;
そしてここで、式Iのポリペプチド及び式IIのポリペプチドは、交差軽鎖-重鎖対(cross-over light chain-heavy chain pair)を形成する。
【0024】
本発明はまた、2つの抗原結合部位を形成する2つのポリペプチド鎖を含む抗体様結合タンパク質を提供し、ここで第1のポリペプチド鎖は式:
VL1-L1―VL2-L2-CL [I]
で表わされる構造を有し、
そして第2のポリペプチド鎖は式:
VH2-L3-VH1-L4-CH1 [II]
で表わされる構造を有し、
ここで、
VL1は、第1の免疫グロブリン軽鎖可変ドメインであり;
VL2は、第2の免疫グロブリン軽鎖可変ドメインであり;
VH1は、第1の免疫グロブリン重鎖可変ドメインであり;
VH2は、第2の免疫グロブリン重鎖可変ドメインであり;
CLは、免疫グロブリン軽鎖の定常ドメインであり;
CH1は、免疫グロブリンのCH1重鎖定常ドメインであり;
L1、L2、L3及びL4は、アミノ酸リンカーであり;
そしてここで、第1及び第2のポリペプチドは、交差軽鎖-重鎖対を形成する。
【0025】
本発明はさらに、4つの抗原結合部位を形成する4つのポリペプチド鎖を含む抗体様結合タンパク質を作成する方法を提供し、それぞれがVL及びVHを含有する、第1の標的抗原と結合する第1の抗体可変ドメイン及び第2の標的抗原と結合する第2の抗体可変ドメインを特定し;軽鎖又は重鎖のいずれかをテンプレート鎖として割り当て;第1の抗体可変ドメイン又は第2の抗体可変ドメインのVLをVL1として割り当て;VL2,VH1及びVH2を下記の式[I]及び[II]:
VL1-L1―VL2-L2-CL [I]
VH2-L3-VH1-L4-CH1-Fc [II]
に従って割り当て;L1、L2、L3及びL4のための最大及び最小の長さを決定し;式I及びIIのポリペプチド構造を作り出し;組み合わせたとき第1の標的抗原及び第2の標的抗原と結合する、式I及びIIのポリペプチド構造を選択して、抗体様結合タンパク質を形成する;
ことを含んでなり;
ここで、
VL1は、第1の免疫グロブリン軽鎖可変ドメインであり;
VL2は、第2の免疫グロブリン軽鎖可変ドメインであり;
VH1は、第1の免疫グロブリン重鎖可変ドメインであり;
VH2は、第2の免疫グロブリン重鎖可変ドメインであり;
CLは、免疫グロブリン軽鎖の定常ドメインであり;
CH1は、免疫グロブリンのCH1重鎖定常ドメインであり;
Fcは、免疫グロブリンのヒンジ領域及びCH2、CH3は免疫グロブリン重鎖の定常ドメインであり;及び
L1、L2、L3及びL4は、アミノ酸リンカーであり;
そしてここで、式Iのポリペプチド及び式IIのポリペプチドは、交差軽鎖-重鎖対を形成する。
【0026】
本発明はさらに、4つの抗原結合部位を形成する4つのポリペプチド鎖を含む抗体様結合タンパク質を作成する方法を提供し、それぞれがVL及びVHを含む、第1の標的抗原と結合する第1の抗体可変ドメイン及び第2の標的抗原と結合する第2の抗体可変ドメインを特定し;軽鎖又は重鎖のいずれかをテンプレート鎖として割り当て;第1の抗体可変ドメイン又は第2の抗体可変ドメインのVLをVL1として割り当て;VL2,VH1及びVH2を
以下の式[I]及び[II]:
VL1-L1―VL2-L2-CL [I]
VH2-L3-VH1-L4-CH1 [II]
に従って割り当て;L1、L2、L3及びL4のための最大及び最小の長さを決定し;式I及びIIのポリペプチド構造を作り出し;組み合わせたとき第1の標的抗原及び第2の標的抗原と結合する、式I及びIIのポリペプチド構造を選択して、抗体様結合タンパク質を形成する;
ここで、
VL1は、第1の免疫グロブリン軽鎖可変ドメインであり;
VL2は、第2の免疫グロブリン軽鎖可変ドメインであり;
VH1は、第1の免疫グロブリン重鎖可変ドメインであり;
VH2は、第2の免疫グロブリン重鎖可変ドメインであり;
CLは、免疫グロブリン軽鎖の定常ドメインであり;
CH1は、免疫グロブリンのCH1重鎖定常ドメインであり;及び
L1、L2、L3及びL4は、アミノ酸リンカーであり;
そしてここで、式Iのポリペプチド及び式IIのポリペプチドは、交差軽鎖-重鎖対を形成する。
【0027】
本発明の具体的な実施態様は、以下の幾つかの実施態様のより詳細な説明及び請求項から明らかになるだろう。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【
図1】二重V領域立体配置内の抗原結合ドメインF
V1及びF
V2、並びにTBTIフォーマットにおけるそれらそれぞれのペプチドリンカーL
L及びL
Hの配置の略図である。
【
図2】交差二重可変(CODV)立体配置内の抗原結合ドメインF
V1(抗IL4)及びF
V2(抗IL13)、並びにそれらそれぞれのペプチドリンカーの配置の概念図(2D)である。
【
図3】抗IL4のF
Vと抗IL13のF
Vのタンパク質-タンパク質結合によって得られる1つの可能性のある空間的配置を示すF
V抗IL4及びFab抗IL13の略図である。
【
図4】2つの抗原をDVD-Igタンパク質被覆チップ上に逐次的又は同時に注入することによるBIACOREアッセイにおける、CODVタンパク質の四価の二重特異的結合能力の評価である。逐次的注入によって観察された最大シグナルは、2つの抗原の同時注入によって得ることができ、全ての結合部位の飽和を証明している。
【
図5】CODV構成内の抗原結合ドメイン並びにそれらのそれぞれのペプチドリンカーL
L(L
1及びL
2)及びL
H(L
3及びL
4)の概念図(2D)である。パネルAで、軽鎖は「線状又はテンプレート」配列に保たれるのに対して、重鎖は「交差」立体配置を取る。パネルBで、重鎖は「線状又はテンプレート」配列に保たれ、軽鎖は「交差」立体配置を取る。
【
図6】「テンプレート」として軽鎖を使うか重鎖を使うかを基にしたCODV-Ig設計の略図である。
【
図7】抗IL4及び抗IL13配列が組み込まれたTBTI/DVD-Ig又はCODV-IGの比較である。
【
図8】NALM-6細胞を用いた細胞傷害性アッセイでのCODV-FabとB-Fabの比較である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
本発明は、4つの抗原結合部位を形成する4つのポリペプチド鎖を含む抗体様結合タンパク質を提供し、ここで抗体様結合タンパク質を形成する各ポリペプチドの対は、交差した配向性を有する二重可変ドメイン持つ。本発明はまた、そのような抗原様結合タンパク質を製造するための方法を提供する。
【0030】
コンピューターモデリングは、米国特許第5,989,830号の交差ダブルヘッド(CODH)設計が、米国特許第7,612,181号の二重Fv立体配置に対して示唆された制限を受けることなく、両者の結合部位が反対の方向を向いた複合体を生じ得る可能性を予測した。特に、コンピューターモデリングは、可変ドメイン間のアミノ酸リンカーの長さはCODH設計のために重要ではないが、二重Fv設計における両者の抗原結合部位への完全接近を可能にするために重要であることを示した。DVD-Ig/TBTIフォーマットと同様に、4つの抗原結合部位を形成する4つのポリペプチド鎖を含む抗体様結合タンパク質を形成するために、定常ドメインがCODH立体配置に付けられた抗体様結合タンパク質構成物が調製され、ここで、抗体様結合タンパク質を形成するポリペプチドのそれぞれの対は交差した配向性を有する二重可変ドメイン(即ち、CODH-Ig)を持つ。CODH-Ig分子は、CODH分子と比較して有意に改善された安定性を有することが予想される(DVD-Ig/TBTIが二重Fv分子よりも改善された安定性を有したように)。
【0031】
上記の仮説を検証するために、米国特許出願公開第2010/0226923A1号に記載の抗IL4および抗IL13抗体配列を使用し、CODH-Ig分子を作成した。CODH-Ig分子は、米国特許第2010/0226923号のCODH分子とは、それぞれのポリペプチド鎖上の可変ドメインを分離しているアミノ酸リンカーの長さに関して異なっていた。CODH-Ig分子は、一過性トランスフェクション後の細胞内で発現させ、次いでプロテインAクロマトグラフィーで精製した。それらのサイズ排除クロマトグラフィー(SEC)プロファイルは5~10%の凝集レベルを示したが、CODH-Ig分子のいずれも機能的でなく、従ってその標的抗原の全てと結合できるCODH-Ig分子はなかった。抗原結合活性の欠如は、正確な抗原結合部位の形成を損なう不適切なリンカー長による重鎖及び軽鎖のFv領域の混乱した二量体化によるものであった可能性がある。その結果、抗体様結合タンパク質の重及び軽ポリペプチド両者上の2つの可変ドメインの間、並びに第2の可変ドメインと定常ドメインの間に挿入するための好適なアミノ酸リンカーを特定するために、プロトコルが開発された。このプロトコルは、相同性のタンパク質-タンパク質結合及びFvIL4とFvIL13領域の実験モデル、それぞれ、Fc1ドメインのモデルへの内包、及びFvIL4とFvIL13領域の間並びにFvと定常Fc1領域の間の適切なリンカーの構成に基づいた。
【0032】
本発明の抗体様結合タンパク質を形成するポリペプチドをコードするポリヌクレオチドを構成し、これらのポリヌクレオチドを組み換え体発現ベクターに組み込み、そしてそのようなベクターを宿主細胞に導入するために、標準的な組み換えDNA技術の方法論を用
いた。例えば、Sambrook et al., 2001, MOLECULAR CLONING: A LABORATORY MANUAL (Cold Spring Harbor Laboratory, 3rd ed.)を参照されたい。酵素反応及び精製技術は、一般に業界で成し遂げられたようにメーカーの仕様に従って、又は本明細書に記載されるように実施すればよい。特定の定義が示されない限り、本明細書に記載される分析化学、合成有機化学、並びに医薬及び薬化学に関連して用いられる命名法並びに検査法及び技術は、業界で良く知られ一般に用いられるものである。同様に、化学合成、化学分析、医薬製造、製剤化、送達、及び患者の処置のためには、従来の技術が使われればよい。
【0033】
1.一般的定義
本開示によって使用されるように、以下の用語は、指示されない限り以下の意味を有すると理解される。文脈によって要求されない限り、単数の表現は複数を含有し、複数の表現は単数を含むものとする。
【0034】
本明細書で使用される「ポリヌクレオチド」という用語は、長さが少なくとも10ヌクレオチドの一本鎖又は二本鎖の核酸ポリマーを指す。或る実施態様では、ポリヌクレオチドを含むヌクレオチドは、リボヌクレオチド又はデオキシリボヌクレオチド又は修飾された形態のいずれかのタイプのヌクレオチドであればよい。そのような修飾としては、ブロモウリジンのような塩基修飾、アラビノシド及び2’,3’-ジデオキシリボースのようなリボース修飾、及びホスホロチオエート、ホスホロジチオエート、ホスホロセレノエート、ホスホロジセレノエート、ホスホロアニロチオエート、ホスホロアニラデート及びホスホロアミデートのようなヌクレオチド間連結修飾(linkage modification)が挙げられる。「ポリヌクレオチド」という用語は、具体的には一本鎖及び二本鎖の形態のDNAを含む。
【0035】
「単離されたポリヌクレオチド」は、ゲノム、cDNA又は合成由来若しくはそれらのある組み合わせのポリヌクレオチドであり、それらはその起源によって、単離されたポリヌクレオチドは:(1)単離されたポリヌクレオチドが自然界に見出されるポリヌクレオチドの全部又は一部分と結び付かない、(2)自然界では連結しないポリヌクレオチドに連結する、又は(3)より大きな配列の一部分として自然界に存在しない。
【0036】
「単離されたポリペプチド」は:(1)少なくとも通常一緒に見出される幾つかの他の
ポリペプチドを含まない、(2)同じ源、例えば同一種由来の他のポリペプチドを基本的に含まない、(3)異なった種由来の細胞によって発現される、(4)自然界でそれと関係するポリヌクレオチド、脂質、炭水化物又は他の物質の少なくとも50%から分離されている、(5)「単離されたポリペプチド」が自然界で結びついているポリペプチドの部分と(共有又は非共有によって)結びつかない、(6)自然界で結びつかないポリペプチドと(共有又は非共有によって)操作可能に結びつく、又は(7)自然界には存在しない、ものである。そのような単離されたポリペプチドは、ゲノムDNA、cDNA、mRNA若しくは他の合成起源のRNA、又はそれらの任意の組み合わせによってコード化され得る。好ましくは、単離されたポリペプチドは、その使用(治療、診断、予防、研究又はその他)を妨害する自然環境に見い出されるポリペプチド又は他の汚染物質を実質的に含まない。
【0037】
本明細書で用いる「ヒト抗体」という用語は、実質的に人間の生殖細胞系免疫グロブリン配列に対応する可変及び定常領域を有する抗体を含む。いくつかの実施態様では、ヒト抗体は、マウス及びラット等のげっ歯類、そしてウサギなどのウサギ目の動物を含むがこれに限定されない非ヒト哺乳動物で生産される。別の実施態様では、ヒト抗体はハイブリドーマ細胞で産生される。さらに別の実施態様では、ヒト抗体は遺伝子組み換え的に産生される。
【0038】
天然起源の抗体は、通常四量体を含む。それぞれのそのような四量体は、通常2つの同じポリペプチド鎖の対から成り、それぞれの対は1つの全長「軽」鎖(一般に約25kDaの分子量を有す)及び1つの全長「重」鎖(一般に約50~70kDaの分子量を有す)を有す。本明細書に使用される用語の「重鎖」及び「軽鎖」は、標的抗原に対する特異性を与えるために十分な可変ドメイン配列を有する任意の免疫グロブリンポリペプチドを指す。軽及び重鎖それぞれのアミノ末端部分は、通常抗原認識に関与する約100~110又はそれ以上のアミノ酸の可変ドメインを含む。それぞれの鎖のカルボキシ末端部分は、通常エフェクター機能に関与する定常ドメインを規定する。従って、天然起源の抗体では、全長重鎖免疫グロブリンポリペプチドは、可変ドメイン(VH)及び3つの定常ドメ
イン(CH1、CH2及びCH3)を含み、ここで、VHドメインはポリペプチドのアミノ末端
に存在し、CH3ドメインはカルボキシル末端に存在し、そして全長軽鎖免疫グロブリンポリペプチドは、可変ドメイン(VL)及び定常ドメイン(CL)を含み、ここで、VLドメ
インはポリペプチドのアミノ末端に存在し、CLドメインはカルボキシル末端に存在する
。
【0039】
ヒト軽鎖は、通常カッパ及びラムダ軽鎖に分類され、ヒト重鎖は通常ミュー、デルタ、ガンマ、アルファ、又はイプシロンに分類され、抗体のアイソタイプをそれぞれIgM、IgD、IgG、IgA及びIgEと定義する。IgGは、IgG1、IgG2、IgG3及びIgG4を含むがこれに限定されないいくつかのサブクラス有する。IgMは、IgM1及びIgM2を含むがこれに限定されないサブクラス有する。IgAは同様に、IgA1及びIgA2含むが、これに限定されないサブクラスに細分化される。全長の軽及び重鎖中で、可変及び定常ドメインは通常約12又はそれ以上のアミノ酸の「J」 領域
によって接合(joined)され、重鎖もまた約10又はそれ以上のアミノ酸の「D」領域を含む。例えば、すべての目的のための参照によって全部が組み込まれるFUNDAMENTAL IMMUNOLOGY (Paul, W., ed., Raven Press, 2nd ed., 1989)を参照されたい。それぞれの軽/重鎖対の可変領域は、通常、抗原結合部位を形成する。天然起源抗体の可変ドメインは、通常、相補性決定領域又はCDRとも呼ばれる3つの超可変領域によって接合された比較的保存されたフレームワーク(FR)の同じ一般構造を示す。それぞれの対の2つの鎖由来のCDRは、通常、フレームワーク領域によって整列され、それは特定のエピトープとの結合を可能にしてもよい。アミノ末端からカルボキシル末端まで、軽及び重鎖可変領域の両者は、通常、FR1、CDR1、FR2、CDR2、FR3、CDR3及びFR4のドメインを含む。
【0040】
本明細書で用いる「天然Fc」という用語は、単量体であろうと多量体の形態であろうと、抗体の消化によって生じる又は他の手段によって産生される非抗原結合フラグメント配列を含み、そしてヒンジ領域を含むことができる分子を指す。天然Fcの最初の免疫グロブリン源は、好ましくはヒト由来のもので、IgG1及びIgG2が望ましいが、いかなる免疫グロブリンも可能である。天然Fc分子は、共有結合(即ち、ジスルフィド結合)及び非共有結合で二量体又は多量体形に連結できる単量体ポリペプチドで構成される。天然Fc分子の単量体サブユニット間の分子間ジスルフィド結合の数は、クラス(例えば、IgG、IgA、及びIgE)又はサブクラス(例えば、IgG1、IgG2、IgG3、IgA1、及びIgGA2)に依存して1~4の範囲である。天然Fcの1つの例は、IgGのパパイン消化によって生じるジスルフィド結合した二量体である。本明細書で用いる「天然Fc」という用語は、単量体、二量体及び多量体形を指す総称である。
【0041】
本明細書で用いる「Fc変異体」という用語は、天然Fcから変更されるが、それでもサルベージ受容体FcRn(新生児Fc受容体)に対する結合部位を含む分子又は配列を指す。典型的なFc変異体及びそれらのサルベージ受容体との相互作用は、業界に知られている。従って、用語の「Fc変異体」は、非ヒト天然Fcからヒト化された分子又は配列を含むことができる。さらに、天然Fcは、本発明の抗体様結合タンパク質にとって必
要でない構造的特徴又は生物学的活性をもたらす理由で除去することができる領域を含む。従って、用語の「Fc変異体」は、1つ又はそれ以上の天然Fcの部位又は残基が欠如した、又は以下の:(1)ジスルフィド結合形成、(2)選択された宿主細胞との不適合性、(3)N-末端の不均一性、(4)グリコシル化、(5)補体との相互作用、(6)サルベージ受容体以外のFc受容体との結合、若しくは(7)抗体依存性細胞傷害(ADCC)に影響又は関係する1つ又はそれ以上のFcの部位又は残基が修飾された、分子又は配列を含む。
【0042】
本明細書で用いる「Fcドメイン」という用語は、天然Fc及びFc変異体並びに上記定義の配列を包含する。Fc変異体および天然Fc分子と同様に、「Fcドメイン」という用語は、それが完全抗体から消化されたものであろうと他の手段によって製造されたものであろうと、単量体又は多量体形の分子を含む。
【0043】
本明細書で用いる「抗体様結合タンパク質」という用語は、少なくとも1つの標的抗原と特異的に結合する非天然起源の(又は組み換え)分子を指し、そしてそれは4つの抗原結合部位を形成する4つのポリペプチド鎖を含み、ここで2つのポリペプチド鎖は式:
VL1-L1―VL2-L2-CL [I]
で表わされる構造を有し、
そして2つのポリペプチド鎖は式:
VH2-L3-VH1-L4-CH1-Fc [II]
で表わされる構造を有し、
ここで、
VL1は、第1の免疫グロブリン軽鎖可変ドメインであり;
VL2は、第2の免疫グロブリン軽鎖可変ドメインであり;
VH1は、第1の免疫グロブリン重鎖可変ドメインであり;
VH2は、第2の免疫グロブリン重鎖可変ドメインであり;
CLは、免疫グロブリン軽鎖の定常ドメインであり;
CH1は、免疫グロブリンのCH1重鎖定常ドメインであり;
Fcは、免疫グロブリンのヒンジ領域、及びCH2、CH3免疫グロブリン重鎖の定常ドメインであり;
L1、L2、L3及びL4は、アミノ酸リンカーであり;
そしてここで、式Iのポリペプチド及び式IIのポリペプチドは、交差軽鎖-重鎖対を形成する。本明細書で用いる「抗体様結合タンパク質」という用語はまた、少なくとも1つの標的抗原と特異的に結合する非天然起源の(又は組み換え)分子を指し、そしてそれは2つの抗原結合部位を形成する2つのポリペプチド鎖を含み、ここで第1のポリペプチド鎖は式:
VL1-L1―VL2-L2-CL [I]
で表わされる構造を有し、
そして第2のポリペプチド鎖は式:
VH2-L3-VH1-L4-CH1 [II]
で表わされる構造を有し、
ここで、
VL1は、第1の免疫グロブリン軽鎖可変ドメインであり;
VL2は、第2の免疫グロブリン軽鎖可変ドメインであり;
VH1は、第1の免疫グロブリン重鎖可変ドメインであり;
VH2は、第2の免疫グロブリン重鎖可変ドメインであり;;
CLは、免疫グロブリン軽鎖の定常ドメインであり;
CH1は、免疫グロブリンのCH1重鎖定常ドメインであり;
L1、L2、L3及びL4は、アミノ酸リンカーであり;
そしてここで、第1及び第2のポリペプチドは、交差軽鎖-重鎖対を形成する。「組み換
え」分子は、組み換え方法によって、調製された、発現された、生成された、又は分離されたものである。
【0044】
本発明の1つの実施態様は、1~4つの標的抗原に対する生物学的及び免疫学的特異性を有する抗体様結合タンパク質を提供する。本発明の別の実施態様は、そのような抗体様結合タンパク質を形成するポリペプチド鎖をコードするヌクレオチド配列を含む核酸分子を提供する。本発明の別の実施態様は、そのような抗体様結合タンパク質を形成するポリペプチド鎖をコードするヌクレオチド配列を含む核酸分子を含む発現ベクターを提供する。本発明のさらに別の実施態様は、そのような抗体様結合タンパク質を発現する(即ち、そのような抗体様結合タンパク質を形成するポリペプチド鎖をコードする核酸分子又はベクターを含む)宿主細胞を提供する。
【0045】
本明細書で用いる「交換可能性(swapability)」という用語は、折り畳み及び最高の
結合親和性を保持したままの、CODVフォーマット中の可変ドメインの互換性を指す。「完全交換可能性」とは、CODV-Ig又はCODV-Fab中のVH1とVH2ドメインの順序そしてそれ故にVL1とVL2ドメインの順序の両者を、結合親和性の保持によって証明されるような抗体様結合タンパク質の全機能を維持しながら交換(即ち、順序を逆に)する能力を指す。さらに、注意すべきは、特定のCODV-Ig又はCODV-Fab内の表示のVH及びVLは、単に最終フォーマットにおける特定のタンパク質鎖上のドメインの位置を指すだけである。例えば、VH1及びVH2は親抗体の中のVL1及びVL2ドメインから誘導され、抗体様結合タンパク質のVH1及びVH2の位置に置かれ得る。同様に、VL1及びVL2は親抗体の中のVH1及びVH2ドメインから誘導され、抗体様結合タンパク質のVH1及びVH2の位置に置かれ得る。従って、VH及びVLの表示は、現在の位置を指すのであって、親抗体中の元の位置ではない。VHドメインとVLドメインは、それ故「交換可能」である。
【0046】
「単離された」抗体様結合タンパク質は、その自然環境の成分から、確認そして分離及び/又は回収されたものである。その自然環境の汚染物質成分は、抗体様結合タンパク質の診断的又は治療的使用を妨害するだろう物質であり、酵素、ホルモン、及び他のタンパク質性又は非タンパク質性の溶質を含んでもよい。好ましい実施態様では、抗体様結合タンパク質は、以下の:(1)ローリー法による測定として、抗体重量の95%を超すように、最も好ましくは99%を上回るように、(2)スピニングカップ(spinning cup)配列決定装置の使用で、少なくとも15残基のN-末端又は内部のアミノ酸配列を得るのに十分な程度に、又は(3)クマシーブルー又は好ましくは銀染色を用いた還元又は非還元下でのSDS-PAGEで均質であるように、精製される。単離された抗体様結合タンパク質は、抗体様結合タンパク質の自然環境のただ1つしか存在しない成分になるので、組換え細胞の内で、元の位置で、抗体様結合タンパク質を含む。
【0047】
本明細書で用いる「実質的に純粋な」又は「実質的に精製された」という用語は、存在する主たる(即ち、モル基準で、組成物中の他のいかなる個々の種よりも豊富な)種である化合物又は種を指す。幾つかの実施態様では、実質的に精製されたフラクションは、その種が存在する全ての高分子種の少なくとも約50%(モル基準で)を含む組成物である。別の実施形態では、実質的に純粋な組成物は、組成物中に存在するすべての高分子種の約80%、85%、90%、95%又は99%超を含むようになる。さらに別の実施態様では、組成物が基本的に単一の高分子種から成る本質的な均質性(従来の検出法で組成物中に汚染物質種が検出されない)にまで精製される。
【0048】
本明細書で用いる「抗原」又は「標的抗原」という用語は、抗体様結合タンパク質によって結合され、そしてさらにその抗原のエピトープに結合できる抗体を産生するために動物に使用することができる分子又は分子の部分を指す。標的抗原は、1つ又はそれ以上の
エピトープを有してもよい。抗体様結合タンパク質によって認識される各標的抗原に対して、抗体様結合タンパク質は、標的抗原を認識する無傷の抗体と競合することができる。「二価の」抗体様結合タンパク質は、「多重特異性」又は「多機能」抗体様結合タンパク質以外に、同一の抗原特異性を有する抗原結合部位を含むと考えられる。
【0049】
通常、二重特異性又は二機能性抗体は、通常、2つの異なる重鎖/軽鎖対及び2つの異なる結合部位又はエピトープを有する人工のハイブリッド抗体である。二重特異性抗体は、ハイブリドーマの融合又はF(ab’)フラグメントの連結を含むがこれに限定されない、さまざまな方法によって産生されればよい。
【0050】
通常、F(ab)フラグメントは、1つの軽鎖並びに1つの重鎖のVH及びCH1ドメイ
ンを含み、ここでF(ab)フラグメントのVH-CH1重鎖部分は別の重鎖ポリペプチド
とジスルフィド結合を形成できない。本明細書で用いるF(ab)もまた、アミノ酸リンカーによって離てられた2つの可変ドメインを含む1つの軽鎖、及びアミノ酸リンカーによって離てられた2つの可変ドメイン及びCH1ドメインを含む1つの重鎖を含むことができる。
【0051】
通常、F(ab’)フラグメントは、1つの軽鎖及び、F(ab’)2分子を形成する
ために2つの重鎖間に鎖間ジスルフィド結合が形成できるように、より多くの定常領域(CH1とCH2ドメインの間に)を含有する1つの重鎖の部分を含む。
【0052】
本発明の抗体様結合タンパク質に関連して、「生物学的特性」、「生物学的特徴」という語句及び「活性」という用語は本明細書では互換的に使われ、エピトープ親和性及び特異性、抗原標的(又は、標的ポリペプチド)の活性をアンタゴマイズする能力、生体内での抗体様結合タンパク質の安定性、及び抗体様結合タンパク質の免疫原性を含むが、これらに限定されない。抗体様結合タンパク質の識別可能な他の生物学的特性又は特徴としては、例えば、交差反応性(即ち、抗原標的の非ヒト同族体に対する、又は一般的に他の抗原標的若しくは組織に対する)、及び哺乳類細胞にタンパク質の高い発現レベルを保存する能力が挙げられる。前述の特性又は特徴は、ELISA、競合ELISA、表面プラズモン共鳴解析、生体外及び生体内中和アッセイ、及びヒト、霊長類又は必要に応じて任意の他の供給源を含む異なるソース由来の組織切片を用いた免疫組織化学を含むがこれらに限定されない、当該技術分野で承認されている技術を用いて観察又は測定することができる。
【0053】
本明細書で用いる「免疫学的に機能的な免疫グロブリンフラグメント」という用語は、少なくともポリペプチドフラグメントが誘導された免疫グロブリン重又は軽鎖のCDRを含有するポリペプチドフラグメントを指す。免疫学的に機能的な免疫グロブリンフラグメントは、標的抗原と結合することができる。
【0054】
本明細書で用いる「中和」抗体様結合タンパク質とは、それが結合する標的抗原のエフェクター機能をブロック又は実質的に低下させることができる分子を指す。本明細書で用いる「実質的に低下させる」とは、標的抗原のエフェクター機能の少なくとも約60%、好ましくは少なくとも約70%、より好ましくは少なくとも約75%、なおより好ましくは少なくとも約80%、さらにより好ましくは少なくとも約85%、最も好ましくは少なくとも約90%低下させることを意味する。
【0055】
「エピトープ」という用語は、任意の決定基、好ましくは免疫グロブリン又はT細胞受容体と特異的に結合することができるポリペプチド決定基を含む。或る実施態様では、エピトープ決定基は、アミノ酸、糖側鎖、ホスホリル基、又はスルホニル基のような分子の、化学的に活性な表面基を含み、そして或る実施態様では、特異的な三次元構造特性及び
/又は特異的な電荷特性を有してもよい。エピトープは、抗体又は抗体様結合タンパク質によって結合される抗原の領域である。或る実施態様では、抗体様結合タンパク質は、それがタンパク質及び/又は高分子の複雑な混合物中にその標的抗原を選択的に認識するとき、抗原を特異的に結合すると言われる。好ましい実施態様では、抗体様結合タンパク質は、平衡解離定数が≦10-8Mであるとき、より好ましくは平衡解離定数が≦10-9Mであるとき、そして最も好ましくは平衡解離定数が≦10-10Mであるとき、抗原と特異的
に結合すると言われる。
【0056】
抗体様結合タンパク質の解離定数(KD)は、例えば、表面プラズモン共鳴によって決
定することができる。一般に、表面プラズモン共鳴分析は、リガンド(バイオセンサマトリックス上の標的抗原)と被検体(溶液中の抗体様結合タンパク質)の間の結合相互作用を、BIAcoreシステム(Pharmacia Biosensor; Piscataway, NJ)を用いた表面プ
ラズモン共鳴(SPR)によってリアルタイムに測定する。表面プラズモン共鳴分析はまた、被検体を(抗体様結合タンパク質をバイオセンサマトリックス上に)固定化し、リガンド(標的抗原)を提示することによっても実施できる。本明細書で用いる「KD」とい
う用語は、特定の抗体様結合タンパク質と標的抗原間の相互作用の解離定数を指す。
【0057】
本明細書で用いる「特異的に結合する」という用語は、抗体様結合タンパク質又はその抗原結合フラグメントが、エピトープを含む抗原と少なくとも約1×10-6M、1×10-7M、1×10-8M、1×10-9M、1×10-10M、1×10-11M、1×10-12M、
又はそれ以上のKdで結合する、及び/又は非特異的な抗原に対する親和性より少なくとも2倍大きい親和性でエピトープに結合する能力を指す。
【0058】
本明細書で用いる「リンカー」という用語は、交差した二重可変領域免疫グロブリンに折り畳まれるように、軽及び重鎖のドメインに十分な可動性を与えるために免疫グロブリンのドメイン間に挿入される1つ又はそれ以上のアミノ酸残基を指す。リンカーは、それぞれ配列レベルで可変ドメイン間又は可変ドメインと定常ドメインの間の遷移部に挿入される。可変ドメイン間の遷移部は、およそのサイズがよく理解されているので識別することができる。ドメイン遷移部の正確な位置は、実験データで証明されるように又はモデリング若しくは二次構造予測の技術によって推定できるように、βシート又はαヘリックスのような二次構造の要素を形成しないペプチド伸長の位置決めをすることによって決定できる。本明細書に記載されるリンカーは、軽鎖上のN末端のVL1とVL2ドメインの間に位置するL1;また軽鎖上のVL2とC末端のCLドメインの間に位置するL2と呼ばれる。重
鎖リンカーは、N末端VH2とVH1ドメインの間に位置するL3;及びVH1とCH1-Fcド
メインの間に位置するL4として知られる。リンカーのL1、L2、L3及びL4は独立して
いるが、それらは場合によっては同じ配列及び/又は長さを有してもよい。
【0059】
本明細書で用いる「ベクター」という用語は、暗号情報を細胞に移送するために用いられるいかなる分子(例えば、核酸、プラスミド、又はウイルス)も指す。「ベクター」という用語は、それに連結されていた別の核酸を移送することができる核酸分子を含む。ベクターの1つの種類は、「プラスミド」であり、付加的なDNAセグメントが挿入されてもよい環状の二本鎖DNA分子を指す。別の種類のベクターは、ウイルスベクターであり、付加的なDNAセグメントはウイルスゲノムに挿入されてもよい。或るベクターは、それらが導入される宿主細胞内で自己複製することができる、(例えば、細菌の複製起点を有する細菌ベクター及びエピソーム性哺乳類ベクター)。他のベクター(例えば、 非エ
ピソーム性哺乳類ベクター)は、宿主細胞に導入されると宿主細胞のゲノムに組み込まれ、それによって宿主ゲノムとともに複製される。また、或るベクターは、それが操作可能に連結される遺伝子の発現を指令することができる。そのようなベクターは、本明細書では「組換え体発現ベクター」(又は単に、「発現ベクター」)と呼ばれる。一般に、組換えDNA技術における実用的な発現ベクターは、多くの場合プラスミドの形態である。プ
ラスミドが最も一般的に使用されるベクターの形態であるので、「プラスミド」及び「ベクター」という用語は本明細書では互換可能に使われてもよい。しかし、本発明は、同等の機能を果たすウイルスベクター(例えば、複製欠損のレトロウイルス、アデノウイルス、及びアデノ随伴ウイルス)のような他の形態の発現ベクターを含むことを意図する。
【0060】
用語の「操作可能に連結した」は、本明細書ではフランキング配列の配置を指し、本明細書にそう記載されたフランキング配列は、その通常の機能を遂行するように構成又は組み立てられる。従って、操作可能にコード配列に連結したフランキング配列は、コード配列の複製、転写及び/又は翻訳の達成を可能にしてもよい。例えば、プロモータがそのコード配列の転写を指令することができる場合、コード配列は、操作可能にプロモータに連結される。フランキング配列は、それが正しく機能する限りコード配列と隣接する必要はない。従って、例えば、介在する転写されたが未翻訳の配列は、プロモータ配列とコード配列の間に存在することができ、そのプロモータ配列は、コード配列に対して未だに「操作可能に連結した」と考えることができる。
【0061】
本明細書で用いる「組み換え宿主細胞」(又は「宿主細胞」)という語句は、組換え体発現ベクターが導入された細胞を指す。組換え宿主細胞又は宿主細胞は、特定の対象細胞だけでなくそのような細胞の子孫も指すことを意図する。突然変異又は環境の影響の何れかによって、或る変化が後世に生ずる可能性があるため、そのような子孫は、実際には親細胞と同一でない可能性はあるが、それでもそのような細胞は本明細書で使用する「宿主細胞」という用語の範囲内に含まれる。本発明の抗体様結合タンパク質を発現するために、細菌、酵母、バキュロウイルス、及び哺乳類の発現系(並びにファージディスプレイ発現系)を含む、多種多様の宿主細胞発現系を使用することができる。好適な細菌発現ベクターの例は、pUC19である。抗体様結合タンパク質を組み換え的に発現させるために、ポリペプチド鎖が宿主細胞で発現され、そして好ましくは宿主細胞が培養される培地中に分泌され、その培地から抗体様結合タンパク質を回収できるように、宿主細胞は、抗体様結合タンパク質のポリペプチド鎖をコードするDNA断片を担持した1つ又はそれ以上の組換え体発現ベクターで形質転換又は形質移入される。
【0062】
本明細書で用いる「形質転換」という用語は、細胞の遺伝的特徴の変化を意味し、新しいDNAを含有するように変更されたとき細胞は形質転換されている。例えば、細胞は、その本来の状態から遺伝学的に変更される場合、形質転換される。形質転換後、形質転換DNAは、細胞の染色体に物理的に組み込まれることによって細胞のDNAと再結合してもよく、又は複製されること無しにエピソーム因子として一過性に維持されてもよく、又はプラスミドとして独立に複製してもよい。DNAが細胞分裂とともに複製される場合、細胞は安定して形質転換されたと見なされる。本明細書で用いる「形質移入」という用語は、細胞による外来又は外因性のDNAの取り込みを意味し、外因性のDNAが細胞膜の内側に導入されたとき細胞は形質移入されている。多数の形質移入技術が、業界によく知られている。そのような技術は、1つ又はそれ以上の外因性のDNA分子を好適な宿主細胞に導入するために使用することができる。
【0063】
本明細書で用いられそして物に適用される「天然起源」という用語は、その物が自然界に見出すことができ人間によって処理されていないことを指す。例えば、自然源から分離することができ、人間によって意図的に変更されていない、生物(ウイルスを含む)に存在するポリヌクレオチド又はポリペプチドは天然起源である。同様に、本明細書で用いる「非天然起源」は、自然界に認められないか、人間によって構造的に変更されたか、又は合成されたものを指す。
【0064】
本明細書で用いるように、従来の20のアミノ酸とその略語は、慣例的用法に従う。従来型の20のアミノ酸の立体異性体(例えば、D-アミノ酸); (、(-二置換アミノ酸
、N-アルキルアミノ酸、乳酸、及び他の非従来型アミノ酸などの非天然のアミノ酸もまた、本発明の抗体様結合タンパク質の好適な成分であり得る。非従来型アミノ酸の例としては、4-ヒドロキシプロリン、(-カルボキシグルタメート、(-N、N、N-トリメチルリジン、(-N-アセチルリジン、O-ホスホセリン、N-アセチルセリン、N-ホル
ミルメチオニン、3-メチルヒスチジン、5-ヒドロキシリジン、(-N-メチルアルギ
ニン、並びに他の類似のアミノ酸及びイミノ酸(例えば、4-ヒドロキシプロリン)が挙げられる。本明細書で用いるポリペプチド表記法では、標準的な用法及び慣習に従って、左側の方向がアミノ末端方向であり、右側方向はカルボキシル末端方向である。
【0065】
天然起源の残基は、共通の側鎖の特性に基づいて、以下のようにクラスに分けられてもよい:
(1)疎水性:Met、Ala、Val、Leu、Ile、Phe、Trp、Tyr、Pro;
(2)極性親水性:Arg、Asn、Asp、Gln、Glu、His、Lys、Ser、Thr;
(3)脂肪族:Ala、Gly、Ile、Leu、Val、Pro;
(4)脂肪族疎水性:Ala、Ile、Leu、Val、Pro;
(5)中性親水性:Cys、Ser、Thr、Asn、Gln;
(6)酸性:Asp、Glu;
(7)塩基性:His、Lys、Arg;
(8)鎖の配向性に影響を及ぼす残基;Gly、Pro;
(9)芳香族:His、Trp、Tyl、Phe;及び
(10)芳香族疎水性:Phe、Trp、Tyl。
【0066】
同類アミノ酸置換は、これらの1つのクラスの中のメンバーと同じクラスの別のメンバーの交換を含み得る。同類アミノ酸置換は、非天然起源のアミノ酸残基を包含してもよく、それは一般に生体系での合成よりはむしろ化学的ペプチド合成によって組み込まれる。これらは、ペプチド模倣体及び他のアミノ酸残基の反転又は逆転した形態を含む。非同類置換は、これらの1つのクラスの中のメンバーと別のクラス由来のメンバーの交換が関与すればよい。
【0067】
熟練の職人は、従来の技術を用いて、本発明の抗体様結合タンパク質のポリペプチド鎖の好適な変異形を決定することができよう。例えば、当業者は、活性に重要でないと思われる領域を標的にすることによって、活性を破壊すること無しに変えられてもよいポリペプチド鎖の好適な領域を特定すればよい。或いは、当業者は、同じようなポリペプチドの中で保存される分子の残基及び部分を特定することができる。また、生物学的活性又は構造に対して重要である可能性のある区域でも、生物学的活性を破壊すること無く又はポリペプチドの構造に悪影響を及ぼすこと無しに、同類アミノ酸置換を受けてもよい。
【0068】
本明細書で使用される「患者」という用語は、ヒト及び動物の被験者を含む。
【0069】
「疾患」は、本発明の抗体様結合タンパク質を用いた処置によって恩恵を受けるだろう任意の状態である。「疾患」及び「状態」は本明細書では互換的に使われ、患者を問題の疾患に罹りやすくする病理学的状態を含む、慢性及び急性疾患又は病気を含む。
【0070】
本明細書で用いる「処置」又は「処置する」という用語は、治療的処置及び予防的又は防止的手段の両者を指す。治療を必要としている人々には、疾患を有する人並びに疾患を患いやすい人又は疾患が阻止されるべき人が含有される。
【0071】
本明細書で用いる「医薬組成物」又は「治療用組成物」という用語は、患者に適切に投
与されたとき、所望の治療効果をもたらすことができる化合物又は組成物を指す。
【0072】
本明細書で用いる「薬学的に許容可能な担体」又は「生理学的に許容可能な担体」という用語は、抗体様結合タンパク質の送達を遂行する又は促進するために好適な1つ又はそれ以上の製剤材料を指す。
【0073】
1つ又はそれ以上の抗体様結合タンパク質を含む医薬組成物に関して使われるときの「有効量」及び「治療的有効量」とは、所望の治療結果を生むために十分な量又は投与量を指す。より具体的には、治療的有効量は、治療している状態に関する臨床的に定義された病理学的過程の1つ又はそれ以上を、ある期間阻止するのに十分な抗体様結合タンパク質の量である。有効量は、使用される特定の抗体様結合タンパク質によって異なってもよく、また処置される患者に関するさまざまな要因及び状態、並びに疾患の重篤度に依存する。例えば、もし抗体様結合タンパク質を生体内に投与しようとするなら、年齢、体重、及び患者の健康状態などの要因、並びに前臨床動物研究で得られる用量反応曲線及び毒性データは、考えられるそれらの要因に入るだろう。所定の医薬組成物の有効量又は治療的有効量の決定は、十分に当業者の能力の範囲内である。
【0074】
本発明の1つの実施態様は、薬学的に許容される担体及び治療的に有効な量の抗体様結合タンパク質を含む医薬組成物を提供する。
【0075】
2.抗体様結合タンパク質
本発明の1つの実施態様では、抗体様結合タンパク質は4つの抗原結合部位を形成する4つのポリペプチド鎖を含み、ここで2つのポリペプチド鎖は式:
VL1-L1―VL2-L2-CL [I]
で表わされる構造を有し、
そして2つのポリペプチド鎖は式:
VH2-L3-VH1-L4-CH1-Fc [II]
で表わされる構造を有し、
ここで、
VL1は、第1の免疫グロブリン軽鎖可変ドメインであり;
VL2は、第2の免疫グロブリン軽鎖可変ドメインであり;
VH1は、第1の免疫グロブリン重鎖可変ドメインであり;
VH2は、第2の免疫グロブリン重鎖可変ドメインであり;
CLは、免疫グロブリン軽鎖の定常ドメインであり;
CH1は、免疫グロブリンのCH1重鎖定常ドメインであり;
Fcは、免疫グロブリンのヒンジ領域、及びCH2、CH3免疫グロブリン重鎖の定常ドメインであり;
L1、L2、L3及びL4は、アミノ酸リンカーであり;
そしてここで、式Iのポリペプチド及び式IIのポリペプチドは、交差軽鎖-重鎖対を形成する。
【0076】
本発明の別の実施態様では、抗体様結合タンパク質は、2つの抗原結合部位を形成する2つのポリペプチド鎖を含み、ここで第1のポリペプチド鎖は式:
VL1-L1―VL2-L2-CL [I]
で表わされる構造を有し、
そして第2のポリペプチド鎖は式:
VH2-L3-VH1-L4-CH1 [II]
で表わされる構造を有し、
ここで、
VL1は、第1の免疫グロブリン軽鎖可変ドメインであり;
VL2は、第2の免疫グロブリン軽鎖可変ドメインであり;
VH1は、第1の免疫グロブリン重鎖可変ドメインであり;
VH2は、第2の免疫グロブリン重鎖可変ドメインであり;
CLは、免疫グロブリン軽鎖の定常ドメインであり;
CH1は、免疫グロブリンのCH1重鎖定常ドメインであり;
L1、L2、L3及びL4は、アミノ酸リンカーであり;
そしてここで、第1及び第2のポリペプチドは、交差軽鎖-重鎖対を形成する。
【0077】
本発明の抗体様結合タンパク質は、例えば、ヒト、ネズミ、又はヒト化抗体を含む任意のヒト又は非ヒト抗体から得られた又は誘導されたドメイン又は配列を用いて製造されればよい。
【0078】
本発明の幾つかの抗体様結合タンパク質では、L3の長さはL1の長さの少なくとも2倍である。本発明の別の抗体様結合タンパク質では、L4の長さはL2の長さの少なくとも2倍である。本発明の幾つかの抗体様結合タンパク質では、L1の長さはL3の長さの少なくとも2倍である。本発明の別の抗体様結合タンパク質では、L2の長さはL4の長さの少なくとも2倍である。
【0079】
本発明の幾つかの抗体様結合タンパク質では、L1は3~12アミノ酸残基の長さであ
り、L2は3~14アミノ酸残基の長さであり、L3は1~8アミノ酸残基の長さであり、そしてL4は1~3アミノ酸残基の長さである。別の抗体様結合タンパク質では、L1は5~10アミノ酸残基の長さであり、L2は5~8アミノ酸残基の長さであり、L3は1~5アミノ酸残基の長さであり、そしてL4は1~2アミノ酸残基の長さである。好ましい抗
体様結合タンパク質では、L1は7アミノ酸残基の長さであり、L2は5アミノ酸残基の長さであり、L3は1アミノ酸残基の長さであり、そしてL4は2アミノ酸残基の長さである。
【0080】
本発明の幾つかの抗体様結合タンパク質では、L1は1~3アミノ酸残基の長さであり
、L2は1~4アミノ酸残基の長さであり、L3は2~15アミノ酸残基の長さであり、そしてL4は2~15アミノ酸残基の長さである。別の抗体様結合タンパク質では、L1は1~2アミノ酸残基の長さであり、L2は1~2アミノ酸残基の長さであり、L3は4~12アミノ酸残基の長さであり、そしてL4は2~12アミノ酸残基の長さである。好ましい
抗体様結合タンパク質では、L1は1アミノ酸残基の長さであり、L2は2アミノ酸残基の長さであり、L3は7アミノ酸残基の長さであり、そしてL4は5アミノ酸残基の長さである。
【0081】
本発明の幾つかの抗体様結合タンパク質では、L1、L3、又はL4はゼロに相当しても
よい。しかし、L1、L3、又はL4がゼロに相当する抗体様結合タンパク質では、可変領
域と定常領域の間、又は別の鎖上の二重可変ドメインの間の対応する遷移部のリンカーはゼロであり得ない。幾つかの実施態様では、L1がゼロに相当しそしてL3は2又はそれ以上のアミノ酸残基、L3がゼロに相当しそしてL1は1又はそれ以上のアミノ酸残基に相当、又はL4がゼロに相当しそしてL2は3又はそれ以上のアミノ酸残基である。
【0082】
本発明の幾つかの抗体様結合タンパク質では、L1、L2、L3及びL4から成るグループから選択されるリンカーの少なくとも1つは、少なくとも1つのシステイン残基を含有する。
【0083】
好適なリンカーの例としては、単一グリシン(Gly)残基;ジグリシンペプチド(Gly-Gly);トリペプチド(Gly-Gly-Gly);4つのグリシン残基を持つペプチド(Gly-Gly-Gly-Gly;配列番号25);5つのグリシン残基を持
つペプチド(Gly-Gly-Gly-Gly-Gly;配列番号26);6つのグリシン残基を持つペプチド(Gly-Gly-Gly-Gly-Gly-Gly;配列番号27);7つのグリシン残基を持つペプチド(Gly-Gly-Gly-Gly-Gly-Gly-Gly;配列番号28);8つのグリシン残基を持つペプチド(Gly-Gly-Gly-Gly-Gly-Gly-Gly-Gly;配列番号29)が挙げられる。例えばペプチドのGly-Gly-Gly-Gly-Ser(配列番号30)及びペプチドのGly-Gly-Gly-Gly-Ser-Gly-Gly-Gly-Gly-Ser(配列番号31)のような、他のアミノ酸残基の組み合わせが使われてもよい。他の好適なリンカーとしては、単一のSer、及びVal残基;ジペプチドのArg-Thr、Gln-Pro、Ser-Ser、Thr-Lys、及びSer-Leu;Thr-Lys-Gly-Pro-Ser(配列番号52)、Thr-Val-Ala-Ala-Pro(配列番号53)、Gln-Pro-Lys-Ala-Ala(配列番号54)、Gln-Arg-Ile-Glu-Gly(配列番号55);Ala-Ser-Thr-Lys-Gly-Pro-Ser(配列番号48)、Arg-Thr-Val-Ala-Ala-Pro-Ser(配列番号49)、Gly-Gln-Pro-Lys-Ala-Ala-Pro(配列番号50)、及びHis-Ile-Asp-Ser-Pro-Asn-Lys(配列番号51)、が挙げられる。上掲の例は本発明の範囲を何ら制限しようとするものではなく、バリン、ロイシン、イソロイシン、セリン、スレオニン、リジン、アルギニン、ヒスチジン、アスパラギン酸、グルタミン酸、アスパラギン、グルタミン、グリシン、及びプロリンから成るグループから選択された無作為に選択されたアミノ酸を含むリンカーは、本発明の抗体様結合タンパク質に好適であることが示された(実施例12を参照)。
【0084】
リンカーのアミノ酸残基の同一性及び配列は、リンカーで達成するために必要な二次構造の要素の種類によって異なってもよい。例えば、グリシン、セリン及びアラニンは、最大の柔軟性を有するリンカーにとって最良である。グリシン、プロリン、スレオニン及びセリンの幾つかの組合せは、より硬く伸長したリンカーが必要な場合に有用である。所望する特性によって、必要に応じてより大きなペプチドリンカーを構成するために、いかなるアミノ酸残基も他のアミノ酸残基と組み合わせてリンカーとして考えてもよい。
【0085】
本発明の幾つかの抗体様結合タンパク質では、VL1は配列番号1のアミノ酸配列を含み;VL2は配列番号3のアミノ酸配列を含み;VH1は配列番号2のアミノ酸配列を含み;VH2は配列番号4のアミノ酸配列を含む。
【0086】
本発明の幾つかの実施態様では、抗体様結合タンパク質は、1つ又はそれ以上の抗原標的と特異的に結合することができる。本発明の好ましい実施態様では、抗体様結合タンパク質は、B7.1、B7.2、BAFF、BlyS、C3、C5、CCL11(エオタキシン)、CCL15(MIP-1d)、CCL17(TARC)、CCL19(MIP-3b)、CCL2(MCP-1)、CCL20(MIP-3a)、CCL21(MIP-2)、SLC、CCL24(MPIF-2/エオタキシン-2)、CCL25(TECK)、CCL26(エオタキシン-3)、CCL3(MIP―1a)、CCL4(MIP-
1b)、CCL5(RANTES)、CCL7(MCP-3)、CCL8(mcp-2)
、CD3、CD19、CD20、CD24、CD40、CD40L、CD80、CD86、CDH1(E-カドヘリン)、キチナーゼ、CSF1(M-CSF)、CSF2(GM-CSF)、CSF3(GCSF)、CTLA4、CX3CL1(SCYD1)、CXCL12(SDF1)、CXCL13、EGFR、FCER1A、FCER2, HER2、IGF1R、IL-1、IL-12、IL13、IL15、IL17、IL18、IL1A、IL1B、IL1F10、IL1β、IL2、IL4、IL6、IL7、IL8、IL9、IL12/23、IL22、IL23、IL25、IL27、IL35、ITGB4(b4インテグリン)、LEP(レプチン)、MHCクラスII、TLR2、TLR4
、TLR5、TNF、TNF-a、TNFSF4(OX40リガンド)、TNFSF5(
CD40リガンド)、Toll様受容体、TREM1、TSLP、TWEAK、XCR1(GPR5/CCXCR1)、DNGR-1(CLEC91)、及びHMGB1、から成るグループから選択される少なくとも1つの抗原標的と特異的に結合することができる。本発明の別の実施態様では、抗体様結合タンパク質は、抗原標的の1つ又はそれ以上の機能を阻害することができる。
【0087】
本発明の幾つかの実施態様では、抗体様結合タンパク質は二重特異性であり、2つの異なる抗原標的又はエピトープと結合することができる。本発明の好ましい実施態様では、抗体様結合タンパク質は二重特異性であり、各軽鎖-重鎖対は2つの異なる抗原標的又はエピトープと結合することができる。より好ましい実施態様では、抗体様結合タンパク質は、IL4及びIL13、IGF1R及びHER2、IGF1R及びEGFR、EGFR及びHER2、BK及びIL13、PDL-1及びCTLA-4、CTLA4及びMHCクラスII、IL-12及びIL-18、IL-1α及びIL-1β、TNFα及びIL12/23、TNFα及びIL-12p40、TNFα及びIL-1β、TNFα及びIL-23、そしてIL17及びIL23、から成るグループから選択される2つの異なる抗原標的と結合することができる。さらにより好ましい実施態様では、抗体様結合タンパク質は、抗原標的のIL4及びIL13と結合することができる。
【0088】
本発明の幾つかの実施態様では、抗体様結合タンパク質は、2.97E+07のオンレート及び3.0E-04のオフレート(off-rate)で特異的にIL4と結合し、そして1.39E+06のオンレート及び1.63E-04のオフレートで特異的にIL13と結合する。本発明の別の実施態様では、抗体様結合タンパク質は、3.16E+07のオンレート及び2.89E-04のオフレートで特異的にIL4と結合し、そして1.20E+06のオンレート及び1.12E-04のオフレートで特異的にIL13と結合する。
【0089】
本発明の1つの実施態様では、4つの抗原結合部位を形成する4つのポリペプチド鎖を含む抗体様結合タンパク質は、それぞれがVL及びVHを含む第1の標的抗原と結合する第1の抗体可変ドメイン及び第2の標的抗原と結合する第2の抗体可変ドメインを特定し;軽鎖又は重鎖のいずれかをテンプレート鎖として割り当て;第1の抗体可変ドメイン又は第2の抗体可変ドメインのVLをVL1として割り当て;VL2、VH1、及びVH2を下記の式
[I]及び[II]:
VL1-L1―VL2-L2-CL [I]
VH2-L3-VH1-L4-CH1-Fc [II]
に従って割り当て;L1、L2、L3、及びL4のための最大及び最小の長さを決定し;式I及びIIのポリペプチド構造を作り出し;組み合わせたとき第1の標的抗原及び第2の標的抗原と結合する、式I及びIIのポリペプチド構造を選択して、抗体様結合タンパク質を形成する;
ここで、
VL1は、第1の免疫グロブリン軽鎖可変ドメインであり;
VL2は、第2の免疫グロブリン軽鎖可変ドメインであり;
VH1は、第1の免疫グロブリン重鎖可変ドメインであり;
VH2は、第2の免疫グロブリン重鎖可変ドメインであり;
CLは、免疫グロブリン軽鎖の定常ドメインであり;
CH1は、免疫グロブリンのCH1重鎖定常ドメインであり;
Fcは、免疫グロブリンのヒンジ領域及びCH2、CH3は免疫グロブリン重鎖の定常ドメインであり;及び
L1、L2、L3、及びL4は、アミノ酸リンカーであり;
そしてここで、式Iのポリペプチド及び式IIのポリペプチドは、交差軽鎖-重鎖対を形成する;ことによって製造される。
【0090】
本発明の別の実施態様では、4つの抗原結合部位を形成する4つのポリペプチド鎖を含む抗体様結合タンパク質は、それぞれがVL及びVHを含む第1の標的抗原と結合する第1の抗体可変ドメイン及び第2の標的抗原と結合する第2の抗体可変ドメインを特定し;軽鎖又は重鎖のいずれかをテンプレート鎖として割り当て;第1の抗体可変ドメイン又は第2の抗体可変ドメインのVLをVL1として割り当て;VL2,VH1及びVH2を下記の式[
I]及び[II]:
VL1-L1―VL2-L2-CL [I]
VH2-L3-VH1-L4-CH1 [II]
に従って割り当て;L1、L2、L3及びL4のための最大及び最小の長さを決定し;式I及びIIのポリペプチド構造を作り出し;組み合わせたとき第1の標的抗原及び第2の標的抗原と結合する、式I及びIIのポリペプチド構造を選択して、抗体様結合タンパク質を形成する;
ここで、
VL1は、第1の免疫グロブリン軽鎖可変ドメインであり;
VL2は、第2の免疫グロブリン軽鎖可変ドメインであり;
VH1は、第1の免疫グロブリン重鎖可変ドメインであり;
VH2は、第2の免疫グロブリン重鎖可変ドメインであり;
CLは、免疫グロブリン軽鎖の定常ドメインであり;
CH1は、免疫グロブリンのCH1重鎖定常ドメインであり;及び
L1、L2、L3及びL4は、アミノ酸リンカーであり;
そしてここで、式Iのポリペプチド及び式IIのポリペプチドは、交差軽鎖-重鎖対を形成する;ことによって製造される。
【0091】
本発明の別の実施態様では、第1の抗体可変ドメインと第2の抗体可変ドメインが同一である抗体様結合タンパク質が製造される。
【0092】
本発明の1つの実施態様は、下記の式[I]及び[II]:
VL1-L1―VL2-L2-CL [I]
VH2-L3-VH1-L4-CH1-Fc [II]
ここで、
VL1は、第1の免疫グロブリン軽鎖可変ドメインであり;
VL2は、第2の免疫グロブリン軽鎖可変ドメインであり;
VH1は、第1の免疫グロブリン重鎖可変ドメインであり;
VH2は、第2の免疫グロブリン重鎖可変ドメインであり;
CLは、免疫グロブリン軽鎖の定常ドメインであり;
CH1は、免疫グロブリンのCH1重鎖定常ドメインであり;
Fcは、免疫グロブリンのヒンジ領域及びCH2、CH3は免疫グロブリン重鎖の定常ドメインであり;及び
L1、L2、L3及びL4は、アミノ酸リンカーであり;
そしてここで、式Iのポリペプチド及び式IIのポリペプチドは、交差軽鎖-重鎖対を形成する;
で表される構造を有するポリペプチドをコードする1つ又はそれ以上の核酸分子を細胞内で発現させることを含む、抗体様結合タンパク質を製造する方法を提供する。
【0093】
本発明の別の実施態様は、下記の式[I]及び[II]:
VL1-L1―VL2-L2-CL [I]
VH2-L3-VH1-L4-CH1 [II]
ここで、
VL1は、第1の免疫グロブリン軽鎖可変ドメインであり;
VL2は、第2の免疫グロブリン軽鎖可変ドメインであり;
VH1は、第1の免疫グロブリン重鎖可変ドメインであり;
VH2は、第2の免疫グロブリン重鎖可変ドメインであり;
CLは、免疫グロブリン軽鎖の定常ドメインであり;
CH1は、免疫グロブリンのCH1重鎖定常ドメインであり;
L1、L2、L3及びL4は、アミノ酸リンカーであり;
そしてここで、式Iのポリペプチド及び式IIのポリペプチドは、交差軽鎖-重鎖対を形成する;
で表される構造を有するポリペプチドをコードする1つ又はそれ以上の核酸分子を細胞内で発現させることを含む、抗体様結合タンパク質を製造する方法を提供する。
【0094】
3.抗体様結合タンパク質への利用
本発明の抗体様結合タンパク質は、1つ又はそれ以上の標的抗原の検出及び定量のための競合結合アッセイ、直接及び間接サンドイッチアッセイ、及び免疫沈降アッセイのような、公知のいかなるアッセイ方法においても使用できる。抗体様結合タンパク質は、使われるアッセイ方法に適切な親和性で1つ又はそれ以上の標的抗原と結合するようになる。
【0095】
診断的適用のために、或る実施態様では、抗体様結合タンパク質は、検出可能な部分で標識することができる。検出可能な部分は、検出可能なシグナルを直接又は間接的に発生することができる如何なるものでもよい。例えば、検出可能な部分は、3H、14C、32P
、35S、125I、99Tc、111In又は67Gaのような放射性同位元素;フルオレセインイソチオシアネート、ローダミン、又はルシフェリンのような蛍光性又は化学発光化合物;又はアルカリホスファターゼ、β-ガラクトシダーゼ、又は西洋ワサビペルオキシダーゼのような酵素であればよい。
【0096】
本発明の抗体様結合タンパク質は、生体内のイメージングにも有用である。検出可能な部分で標識した抗体様結合タンパク質は動物、好ましくは血流に投与することができ、そして宿主における標識抗体の存在および場所をアッセイする。抗体様結合タンパク質は、核磁気共鳴、放射線学、又は業界に公知のその他の検出手段の何れによるかに関わらず、動物で検出可能な如何なる部分によっても標識できる。
【0097】
本発明はまた、抗体様結合タンパク質及び生体サンプル中の標的抗原レベルを検出するために有用な他の試薬を含むキットに関する。そのような試薬は、検出可能な標識、ブロック用血清、陽性及び陰性コントロールサンプル、及び検出試薬を含むことができる。
【0098】
4.抗体様結合タンパク質の治療用組成物及びその投与
抗体様結合タンパク質を含む治療用組成物又は医薬組成物は、本発明の範囲内である。そのような治療用組成物又は医薬組成物は、治療的に有効量の抗体様結合タンパク質又は抗体様結合タンパク質-薬物複合体を、投与方法との適合性で選択される薬学的に又は生理学的に容認可能な製剤物質との混合物で含むことができる。
【0099】
許容可能な製剤材料は、好ましくは、投与量及び使用濃度において、受領者に対して毒性が無い。
【0100】
医薬組成物は、例えば、組成物のpH、浸透圧、粘度、透明度、色、等張性、香味、無菌性、安定性、溶解若しくは放出速度、吸着、又は浸透性を、変更、維持、又は保存するために、製剤材料を含むことができる。好適な製剤材料としては、以下を含むがこれらに限定されない、アミノ酸(例えば、グリシン、グルタミン、アスパラギン、アルギニン、又はリジンなど)、抗菌剤、抗酸化剤(例えば、アスコルビン酸、亜硫酸ナトリウム、又は亜硫酸水素ナトリウムなど)、緩衝液(例えば、ホウ酸、重炭酸、トリス-塩酸、クエ
ン酸、リン酸、又は他の有機酸など)、増量剤(例えば、マンニトール、又はグリシンなど)、キレート剤(例えば、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)など)、錯化剤(例えば、カフェイン、ポリビニルピロリドン、β-シクロデキストリン、又はヒドロキシプロピル-β-シクロデキストリンなど)、充填剤、単糖類、二糖類、及び他の炭水化物(例えば、グルコース、マンノース、又はデキストリンなど)、タンパク質(例えば、血清アルブミン、ゼラチン、又は免疫グロブリンなど)、着色、香味、及び希釈剤、乳化剤、親水性ポリマー(例えば、ポリビニルピロリドンなど)、低分子量ポリペプチド、塩形成対イオン(例えば、ナトリウムなど)、防腐剤(例えば、塩化ベンザルコニウム、安息香酸、サリチル酸、チメロサール、フェネチルアルコール、メチルパラベン、プロピルパラベン、クロルヘキシジン、ソルビン酸、又は過酸化水素など)、溶剤(例えば、グリセリン、プロピレングリコール、又はポリエチレングリコールなど)、糖アルコール類(例えば、マンニトール又はソルビトール)、懸濁化剤、界面活性剤又は湿潤剤(例えば、プルロニック;PEG;ソルビタンエステル類;ポリソルベート20又はポリソルベート80のようなポリソルベート;トリトン;トロメタミン;レシチン;コレステロール又はチロキ
サパル)、安定性増強剤(例えば、ショ糖又はソルビトールなど)、等張性増強剤(例え
ば、ハロゲン化アルカリ金属、好ましくは塩化ナトリウム又はカリウム、又はマンニトール、ソルビトールなど)、送達媒体、希釈剤、賦形剤及び/又は医薬用アジュバントが挙
げられる(例えば、REMINGTON'S PHARMACEUTICAL SCIENCES (18th Ed., A.R. Gennaro, ed., Mack Publishing Company 1990) 及び同じ本の継続版、これは如何なる目的でも参照することによって本明細書に組込まれる、を参照)。
【0101】
最適な医薬組成物は、例えば、意図する投与経路、送達形式、及び所望の投与量に応じて、熟練の職人によって決定されるだろう。そのような組成物は、抗体様結合タンパク質の物理的状態、安定性、生体内での放出速度、及び生体内クリアランス速度に影響を及ぼすことができる。
【0102】
医薬組成物における主要な媒体又は担体は、本質的に水性又は非水性であればよい。例えば、注射用の好適な媒体又は担体は、非経口投与用の組成物に一般的な他の物質で補完された水、生理食塩溶液、又は人工脳脊髄液であればよい。中性緩衝生理食塩水又は血清アルブミンと混合した生理食塩水は、さらなる典型的な媒体である。他の代表的な医薬組成物は、pHが約7.0~8.5 のトリス緩衝液、又はpHが約4.0~5.5 の酢酸緩衝液を含み、それらはさらに、ソルビトール又は好適な代替物を含むことができる。本発明の1つの実施態様では、抗体様結合タンパク質組成物は、所望の純度を有する選択された組成物を、凍結乾燥ケーキ又は水溶液の形態の任意の製剤物質と混合することによって、保存用に製造することができる。さらに、抗体様結合タンパク質は、ショ糖のような適切な賦形剤を用いて凍結乾燥物として製剤化することができる。
【0103】
本発明の医薬組成物は、非経口送達用に選択することができる。或いは、組成物は、吸入用又は経口のような消化管を経由した送達用に選択することができる。そのような薬学的に許容可能な組成物の製造は、業界の技術範囲内である。
【0104】
製剤成分は、投与部位に対して許容可能な濃度で存在する。例えば、緩衝液は、組成物を生理的なpHに、又は僅かに低いpH,通常約5~約8のpH範囲に維持するために用いられる。
【0105】
非経口投与をもくろむ場合、本発明に用いる治療用組成物は、薬学的に許容可能な媒体中に目的の抗体様結合タンパク質を含む、パイロジェンフリーの、非経口的に許容可能な、水溶液の形態であればよい。非経口的注入に特に好適な媒体は、抗体様結合タンパク質が適切に保存された無菌の等張溶液として製剤化される無菌蒸留水である。さらに別の調剤は、その後蓄積注射を介して送達できる生成物の制御された又は持続した放出を備える
、注射可能なミクロスフェア、生分解性(bio-erodible)の粒子、ポリマー化合物(ポリ乳酸又はポリグリコール酸など)、ビーズ、又はリポソームなどの物質を備えた目的分子の製剤を含むことができす。また、ヒアルロン酸も用いることができ、これは、血液循環内の持続期間を亢進させる効果を有することができる。目的の分子を導入するための他の好適な手段としては、埋め込み型の薬物送達デバイスが挙げられる。
【0106】
1つの実施態様では、医薬組成物は、吸入用に製剤化することができる。例えば、抗体様結合タンパク質は、吸入用の乾燥粉末として製剤化することができる。また、抗体様結合タンパク質吸入溶液もまた、エアゾール送達用の噴霧剤で製剤化することができる。さらに別の実施態様では、溶液を噴霧することができる。
【0107】
また、或る製剤は経口的に投与できることも考えられる。本発明の1つの実施態様では、この様式で投与される抗体様結合タンパク質は、錠剤やカプセルのような固体の剤型の調合(compounding)に習慣的に用いられる担体の有無に関わらず製剤化することができ
る。例えば、カプセルは、消化管において生物学的利用能が最大であり、プレ全身性の(pre-systemic)分解が最小になる時点で製剤の活性部分を放出するように設計することができる。抗体様結合タンパク質の吸収を促進するために、追加的な薬剤を含めることができる。また、希釈剤、香味料、低融点ワックス、植物油、潤滑剤、懸濁化剤、錠剤崩壊剤、及び結合剤も用いることができる。
【0108】
別の医薬組成物は、錠剤の製造に好適な毒性の無い賦形剤との混合物として有効量の抗体様結合タンパク質を含むことができる。錠剤を滅菌水又は別の適切な媒体に溶解することによって、溶液を単位用量の形態に調製できる。好適な賦形剤としては、以下を含むがこれらに限定されない、炭酸カルシウム、炭酸又は重炭酸ナトリウム、乳糖若しくはリン酸カルシウムなどの不活性希釈剤;又はデンプン、ゼラチン若しくはアカシアなどの結合剤;又はステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸若しくはタルクなどの潤滑剤、が挙げられる。
【0109】
本発明のさらなる医薬組成物は、持続された又は制御された送達製剤における抗体様結合タンパク質に関連する製剤を含めて、当業者には明らかになる。リポソーム担体、生体内分解性微粒子又は多孔性ビーズ及び蓄積注射などのさまざまな他の持続された又は制御された送達手段を製剤化するための技術もまた、当業者は周知している。さらなる徐放性製剤の例としては、成形品の形態の半透性ポリマーマトリックス、例えば、フィルム、又はマイクロカプセルが挙げられる。徐放性マトリックスとしては、ポリエステル、ヒドロゲル、ポリラクチド、L-グルタミン酸とγ-エチルL-グルタミン酸のコポリマー、ポリ(2-ヒドロキシエチルメタクリレート)、エチレンビニルアセテート、又はポリ-D(-)-3-ヒドロキシ酪酸を挙げることができる。
【0110】
生体内投与に用いられる本発明の医薬組成物は、通常は無菌でなければならない。これは、無菌濾過膜を通す濾過によって達成することができる。組成物が凍結乾燥される場合、この方法を用いる滅菌は、凍結乾燥前又は凍結乾燥及び再溶解後の何れかで行うことができる。非経口投与用の組成物は、凍結乾燥の形態又は溶液で保存することができる。また、非経口組成物は、一般に無菌アクセスポートを有する容器、例えば、静脈注射用溶液バッグ又は皮下注射針で突刺し可能なストッパを有するバイアル内に入れられる。
【0111】
医薬組成物が一旦製剤化されると、それは、溶液、懸濁液、ゲル、エマルジョン、固体として、又は乾燥又は凍結乾燥粉末として滅菌バイアルに保存することができる。そのような製剤は、直使用可能な形態又は投与より前に再構成(reconstitution)が必要な形態(例えば、凍結乾燥)の何れかで保存することができる。
【0112】
本発明はまた、単回投与単位を作成するためのキットを包含する。キットは、各々乾燥タンパク質を有する第1の容器及び水性製剤を有する第2の容器の両者を含有することができる。また、単一又は多室の前充填シリンジ(例えば、液体シリンジ及び分散シリンジ)を含むキットも、本発明の範囲内に含まれる。
【0113】
治療に使用される抗体様結合タンパク質医薬組成物の有効量は、例えば、治療の背景及び目的に依存する。当業者は、従って、処置のために適切な投与量レベルは、送達される分子、抗体様結合タンパク質が使用される適応症、投与経路、及び患者のサイズ(体重、体表面、又は臓器サイズ)及び状態(年齢及び健康状態)に、ある程度依存して変わることを理解するだろう。従って、臨床医は、最適な治療効果を得るために、投与量を滴定し、そして投与経路を変更することができる。典型的な投与量は、上述した要因によって、約0.1μg/kgから約100mg/kg又はそれ以上までに及ぶことができる。別の実施態様では、投与量は0.1μg/kgから高々約100mg/kgまで;又は1μg/kgから高々約100mg/kgまで;5μg/kg、10μg/kg、15μg/kg、20μg/kg、25μg/kg、30μg/kg、35μg/kg、40μg/kg、45μg/kg、50μg/kg、55μg/kg、60μg/kg、65μg/kg、70μg/kg、75μg/kgから高々約100 mg/kgまで変動することが
できる。
【0114】
投与頻度は、使用される製剤中の抗体様結合タンパク質の薬物動態パラメータに依存するだろう。通常、臨床医は、投与量が目的の効果を得るところに到達するまで、組成物を投与するようになる。組成物は、従って、単一用量として、長時間かけた2又はそれ以上の用量(同量の目的分子を含有しても含有しなくてもよい)として、又は埋め込みデバイス若しくはカテーテルを介した連続注入として投与することができる。さらに、投与量の微調整は、通常の当業者によって日常的に行われ、それは彼らによって行われる日常業務の範囲内である。適切な投与量は、適切な用量反応データを使って確認することができる。
【0115】
医薬組成物の投与経路は、例えば、経口;静脈内、腹腔内、脳内(実質内)、脳室内、筋肉内、眼内、動脈内、門脈内又は病巣内経路;持続放出システム;又は埋め込みデバイ
ス;などの公知の方法と一致する。所望される場合、組成物は、ボーラス注入によって又は輸注若しくは埋め込みデバイスによって連続的に投与することができる。
【0116】
組成物はまた、目的の分子が吸収若しくは封入された膜、スポンジ、又は他の適切な材料の移植を介して、局所的に投与することができる。埋め込みデバイスが用いられる場合、デバイスは、任意の好適な組織又は臓器に埋め込むことができ、目的の分子の送達は拡散、時限放出ボーラス、又は連続的投与を介することができる。
【0117】
5.実施例
以下に続く実施例は、本発明の具体的な実施態様、及びその種々の使用を例証する。それらは説明目的のためだけに記載されるものであり、そしていずれにしても本発明の範囲を限定すると解釈されるべきものではない。
【0118】
〔実施例1〕
二重特異性交差二重可変領域抗体様結合タンパク質の設計及び改変
Fvフォーマット中の交差二重可変領域は米国特許5,989,830に記載され、そして交差ダブルヘッド(CODH)立体配置と称された。分子モデリングは、交差ダブルヘッド(CODH)設計が二重Fv立体配置で示唆される拘束なしに反対方向を向く両方の結合部位との複合体をもたらすことを予測した。CODHのFvフォーマットは、それがCLドメインを軽鎖に及びFc領域を重鎖に付加することによって完全抗体様分子に変
換され得るかについて検討された。同様の変換は、米国特許7,612,181及び国際出願WO2009/052081に記載の対応する二重可変ドメイン(DVD-Ig)及びTBTIで奏功した。CODHフォーマット中の可変領域の配列は下記の構造で示され、ペプチド鎖のアミノからカルボキシルへの配向を示す:
(a)軽鎖: NH2-VL1-リンカー-VL2-COOH
(b)重鎖: NH2-VH2-リンカー-VH1-COOH。
【0119】
上記(a)及び(b)中の可変領域のアミノからカルボキシル末端配列は下記の(c)及び(d)に示される二重Fv立体配置中の配列と区別されることができる:
(c)軽鎖: NH2-VL1-リンカー-VL2-COOH
(d)重鎖: NH2-VH1-リンカー-VH2-COOH。
【0120】
注目に値する重要な差異は、2つの二重可変領域立体配置において互いに対して対応する軽鎖及び重鎖可変領域(VH1/VL1及びVH2/VL2)の異なる配置である。対応するVL1及びVH1ドメインはいずれも二重可変領域立体配置中の軽鎖及び重鎖のN末端にあった。対照的に、交差立体配置では、抗体可変領域の一対の片方は交差立体配置中のタンパク質鎖内で空間的に分離された。交差立体配置では、VL1ドメインはタンパク質軽鎖のN末端にあり得るが、しかし対になるVH1ドメインは交差立体配置の重鎖のC末端にある。二重可変領域立体配置中に認められるVL1とVH1との空間的関係は自然抗体において認められる配列である。
【0121】
二重Fv立体配置の1つの潜在的な不利な点は、2つの可変領域を分離するリンカーL
LがFv2ドメインの抗原結合部位へ突出することである(
図1参照)。この突出は抗原
結合を妨害し得て、そしてFv2の抗原2への接近可能性の撹乱をもたらし得る。この接近可能性の撹乱又は妨害は抗原結合を阻止し得る。また、この妨害は抗原2のサイズがより大きい場合により顕著になり得る。実際、米国特許7,612,181には、DVD-Ig分子の結合親和性及び中和能力は、抗原特異性がN末端又はC末端に存在しているかで決まることが記載されている。米国特許7,612,181、実施例2を参照されたい。
【0122】
従って、親抗体と比べて抗原親和性の欠如の影響を受けにくいより安定な抗体様結合タンパク質を創出するために、軽鎖上にCLドメインを及び重鎖上にFc領域を有する交差
二重可変領域分子が設計及び構成された。これらの抗体様タンパク質を形成するポリペプチドは下記に示される構造を有し、そこではポリペプチド鎖のアミノからカルボキシル末端への配向が示される:
(e)軽鎖: NH2-VL1-リンカー-VL2-CL-COOH
(f)重鎖: NH2-VH2-リンカー-VH1-CH1-Fc-COOH。
【0123】
この二重特異性抗体様タンパク質の設計が2つの異なる抗原に結合し得るかを評価するために、IL4(親ヒト化抗IL4)及びIL13(親ヒト化抗IL13)に特異的な抗体由来の2つの既生成及びヒト化可変領域が、表1に示される二重特異性抗体様分子を構成するために使用された。マウス抗体の配列決定及びヒト化過程は国際特許出願WO2009/052081(TBTI)に記載された。簡潔に言うと、マウス抗IL13クローンB-B13及びマウス抗IL4クローン8D4-8の可変重鎖及び軽鎖のアミノ酸配列が、アミノ酸配列決定によって決定された。マウスの配列はヒト化され、そして次に国際特許出願WO2009/052081の実施例5に記載のようにヌクレオチド配列に戻し翻訳され、その全体は参照することにより本明細書に組み入れられる。親ヒト化抗IL4VH及びVL、及び親ヒト化抗IL13VH及びVL配列は表1に示されるように組み合わされそして配列された。表1のカラム1中の短縮コードはこれらの抗体様結合タンパク質の検討を単純化するために創出された。抗体様結合タンパク質は、表1に示されるように2
つの可変領域間に挿入されたリンカーのサイズが異なる。表1に示されるポリペプチドをコード化するDNA分子は、戻し翻訳された親抗IL4及び親抗IL13から生成された。CH1、CL、及びFcドメインは、IGHG1(GenBank登録番号569F4)
及びIGKC(GenBank登録番号Q502W4)から取得された。
【0124】
【0125】
表2に示されるタンパク質の組み合わせは、一過性トランスフェクションにより発現されそしてタンパク質Aクロマトグラフィーにより精製された。いずれの場合にも、サイズ排除クロマトグラフィーで12%未満の凝集を示し、大部分では7%未満の凝集を有した;しかし交差ダブルヘッド免疫グロブリンのどれもIL4か又はIL13を結合する能力を示さなかった。しかしながら、いかなる抗体様結合も検出されることができず、そしてこの活性欠如の理由は確認され得なかった。この配列は、米国特許7,612,181及び国際出願WO2009/052081に記載された二重可変領域ドメイン抗体を超える優れた安定性を示し得ることが既に予測されていた。
【0126】
【0127】
〔実施例2〕
分子モデリングによるCODH-Igタンパク質の設計
Fc及びC
L1ドメインの組み込みに従順な交差ダブルヘッド立体配置を活用する完全機能性抗体様タンパク質を得るために、分子モデリングプロトコールが、定常と可変ドメイン間でそして両重鎖及び軽鎖上の二重可変ドメイン間で異なるリンカーの封入評価のために開発された。問題は、各々定常/可変ドメインインターフェース間で並びに両重鎖及び軽鎖上の2つの可変/可変ドメインインターフェース間で特有のリンカーの付加は、適切なタンパク質の折り畳みが起こり、そして交差二重可変領域立体配置において機能性抗体様分子を産生させることを可能にするかであった(
図2参照)。言い換えれば、4つの独立したそして特有のリンカーはすべて評価された(
図2参照)。この分子モデリングプロトコールは、Fv
IL4とFv
IL13領域間でそしてFvと定常又はFc領域間で適切なリン
カーと組み合わせて、それぞれFv
IL4及びFv
IL13領域のホモロジーモデル及び実験モ
デルのタンパク質-タンパク質ドッキングに基づいていた。
【0128】
独立リンカーには次のとおりに特有に名称が割り当てられた:L1は軽鎖上のN末端VLとC末端VL間のリンカーを指す;L2は軽鎖上の末端VLとCL間のリンカーを指す;L3
は重鎖上のN末端VHとC末端VH間のリンカーを指す;L4は重鎖上のC末端VHとCH1(及びFc)間のリンカーを指す。なお、名称VH及びVLは最終フォーマットにおける特定のタンパク質鎖上のドメインの位置だけを指す。例えば、VH1及びVH2は親抗体中のVL1及びVL2ドメインに由来し得て、そしてCODV-Ig中のVH1及びVH2位置に入れられ得る。同様に、VL1及びVL2は親抗体中のVH1及びVH2ドメインに由来し得て、そしてCODV-Ig中のVH1及びVH2位置に入れられ得る。このように、VH及びVLの名称は現在の位置を指しそして親抗体中の元の位置を指さない。
【0129】
更に詳細には、FvIL4のホモロジーモデルはPDBエントリー1YLD(軽鎖)及び
1IQW(重鎖)上に構成された。FvIL4の二量体は、IL13/抗IL13のFabIL13複合体の内部結晶構造上で組み直されそして最適化された。FvIL4に結合されたときIL4によって必要とされる容量の推定を得るために、IL4(1RCB.pdb)の結晶構造はFvIL4のホモロジーモデルにドッキングされた。次に、更なる検討に値する複
合体の22の推定モデルがもたらされた。
【0130】
並行して、Fv
IL4のホモロジーモデルは、IL13/Fab
IL13複合体の内部結晶構
造から引き出されるFv
IL13にドッキングされた。相対的に短いリンカーの構成を許容し、一方で二重可変領域免疫グロブリンの場合のように抗原結合及び定常ドメインの配置に立体障害を示さない1つの優れた解決法が見出された(
図3参照)。この配列では、Fv
IL4(V
L1)は軽鎖のN末端に置かれ、続いて軽鎖C末端上にFv
IL13(V
L2)及びFc
(C
L1)が置かれた。重鎖上には、Fv
IL13(V
H2)がN末端に置かれ、続いてFv
IL4
(V
H1)及び定常領域(C
H1-C
H2-C
H3)が置かれた。
【0131】
表3に示されるように、軽鎖のモデルは、V
L1とV
L2ドメイン間のリンカーL
1及びV
L2とC
L1ドメイン間のリンカーL
2が、それぞれ1つから3つまで及びゼロから2つまでのグリシン残基長間にあり得ることを示唆した。重鎖のモデルは、V
H2とV
H1ドメイン間のリンカーL
3及びV
H1とC
H1ドメイン間のリンカーL
4が、それぞれ2つから6つまで及び4つから7つまでのグリシン残基長間にあり得ることを示唆した(表3及び
図2参照)。この実施例では、リンカーに対するプロトタイプアミノ酸としてグリシンが使用されたが、しかし他のアミノ酸残基もまたリンカーとしての機能を果たし得る。提案モデルの構造安定性は、リンカー立体配座の最適化、最小化、及び分子動力学計算によって検証された。4つの軽鎖及び6つの重鎖構成物間の体系的組み合わせは、24の可能な交差二重可変領域二重特異性抗IL4及び抗IL13抗体様結合タンパク質をもたらした(表4参照)。
【0132】
【0133】
【0134】
表4において、接頭辞「抗」は含まれないが、IL13は抗IL13を意味しそしてIL4は抗IL4を意味することが意図されている。
【0135】
〔実施例3〕CODV-Ig発現プラスミドの生成
表4に記載される6つの重鎖及び4つの軽鎖の可変重鎖及び軽鎖をコード化する核酸分子は、Geneart(Regensburg, ドイツ)における遺伝子合成によって生成された。可変軽鎖
ドメインは、制限エンドヌクレアーゼApaLI及びBsiWIでの消化により定常軽鎖(IGKC、GenBank登録番号Q502W4)に融合され、そして続いて、Durocher et al., (2002, Nucl. Acids Res. 30(2): E9) によって記載された、pTTのアナロゴンであるエピソーム発現ベクターpFFのApaLI/BsiWI部位に連結反応され(ligated)、軽鎖の発現のための哺乳類発現プラスミドを創出した。
【0136】
可変重鎖ドメインは、ヒト定常重鎖(IGHG1、GenBank登録番号569F4)の「Ted」バリアントに、あるいは二重特異性Fabを創出するためにヒト定常IGHG1由来の6xHisタグ付きCH1ドメインに融合された。次に、VHドメインは、制
限エンドヌクレアーゼApaLI及びApaIで消化され、そして次いでエピソーム発現ベクターpFFのApaLI/ApaI部位への連結反応によってそれぞれIGHG1又
はHisタグ付きCH1ドメインに融合され、重鎖の発現(それぞれIgG1又はFab)のための哺乳類発現プラスミドを創出した。
【0137】
〔実施例4〕CODV-Igの発現
対応する構成物の重鎖及び軽鎖をコード化する発現プラスミドは大腸菌DH5a細胞内で増殖された。トランスフェクションに使用されるQiagenのEndoFreeプラスミドMegaキットを用いて大腸菌から調製された。
【0138】
Freestyle培地(Invitrogen)中で増殖するHEK293-FS細胞は、製造業者によって記載された293フェクチン(Invitrogen)トランスフェクション試薬を用いて、表4に示される重鎖及び軽鎖をコード化する表示LC及びHCプラスミドでトランスフェクションされた。7日後、細胞は遠心分離により除かれ、そして上清は粒子を除くために0.22μmフィルターに通された。
【0139】
CODV-IgG1構成物は、タンパク質Aカラム(HiTrapタンパク質A HPカラム、GE Life Sciences)のアフィニティークロマトグラフによって精製された。100mM酢酸緩衝液及び100mMNaCl、pH3.5でカラムからの溶出後、CODV-IgG1構成物はHiPrep26/10脱塩カラムを用いて脱塩され、1mg/mLの濃度で、PBS中で製剤化され、そして0.22μm膜を用いて濾過された。
【0140】
二重特異性CODVFab構成物は、HiTrap IMAC HPカラム(GE Life Sciences)上でIMACによって精製された。線形勾配(溶離緩衝液:20mMリン酸ナトリウム、0.5MNaCl、50-500mMイミダゾール、pH7.4)でカラムから溶出後、タンパク質含有画分はプールされ、そしてHiPrep26/10脱塩カラムを用いて脱塩され、1mg/mLの濃度で、PBS中で製剤化され、そして0.22μm膜を用いて濾過された。
【0141】
タンパク質濃度は280nmでの吸収の測定によって決定された。各バッチは、各サブユニット及び単量体の純度及び分子量を決定するために、還元及び非還元条件下でSDS-PAGEによって分析された。
【0142】
NuncF96-MaxiSorp-イムノプレートがヤギ抗ヒトIgG(Fc特異性)[NatuTecA80-104A]でコーティングされた。抗体は炭酸塩コーティング緩衝液(50mM炭酸ナトリウム、pH9.6)中で10μg/mlに希釈され、そして50μL/ウェルに調剤された。プレートは粘着テープで密閉されそして4℃で終夜保存された。プレートは洗浄緩衝液(PBS、pH7.4及び0.1%Tween20)で3回洗浄された。プレートをカバーするために150μLのブロッキング溶液(1%BSA/PBS)が各ウェルに調剤された。室温で1時間後、プレートは洗浄緩衝液で3回洗浄された。100μLの試料又は標準(1500ng/ml~120ng/mlの範囲で)が加えられ、そして室温で1時間静置された。プレートは洗浄緩衝液で3回洗浄された。1:10.000に希釈された100μLのヤギ抗ヒトIgG-FC-HRPコンジュゲート[NatuTecA80-104P-60]が、インキュベーション溶液(0.1%BSA、PBS、pH7.4、及び0.05%Tween20)を用いて加えられた。室温で1時間インキュベーション後、プレートは洗浄緩衝液で3回洗浄された。100μLのABTS基質(0.1MNa2HPO4中の10mgABTS錠(Pierce34026)、0.05Mクエン酸溶液、pH5.0)。使用前に10μLの30%H2O2/10ml基質緩衝液の添加が各ウェルに調剤され、そして色が発現するのが可能となった。色が発現した後(凡そ10~15分で)、50μLの1%SDS溶液が反応を停止させるために加えられた。プレートはA405で読み取られた。
【0143】
〔実施例5〕CODV-Igバリアントのキャラクタリゼーション
CODV-Ig抗体様タンパク質の重鎖及び軽鎖が対になって適切に折り畳まれているかを明らかにするために、凝集レベルが分析的サイズ排除クロマトグラフ(SEC)によって測定された。分析的SECは、TSKゲルG3000SWXLカラム(7.8mmx30cm)及びTSKゲルSWXLガードカラム(Tosoh Bioscience)が装備されたAK
TAエクスプローラー10(GE Healthcare)を用いて組み立てペアで実施された。分析
は、250mMNaCl、100mMNa-リン酸塩、pH6.7を用いて280nmの検出で行われた。30μLのタンパク質試料(0.5-1mg/mlで)がカラムにかけられた。分子サイズの推定のために、カラムがゲル濾過標準混合物(MWGF-1000、SIGMA Aldrich)を用いて較正された。データ評価はUNICORNソフトウェアv5
.11を用いて行われた。
【0144】
表5は、表4に記載された抗IL4及び抗IL13可変領域組み合わせを用いて行われた24の異なるCODV-Ig分子の第1セットの結果を示す。表4に割り当てられたコードは表4に示された隣接構造を表す。タンパク質が産生された場合の軽鎖及び重鎖の対に対して、凝集レベルがSECを用いて測定された。LC4(L1=1;L2=2)が全6つの重鎖と対になって最も成功した結果が表5に示される。LC4は1に等しいリンカーL1を有する構造IL4VL-(Gly)-IL13VL-(Gly2)-CL1に対応し、
ここでは単一アミノ酸残基は二重可変領域軽鎖の2つのVLドメインを分離した。また、
LC4は、VLとC末端CH1間にGly-Glyジペプチドリンカーを含有する、2に等
しいL2を有した。
【0145】
【0146】
CODV-Ig分子が生産された場合、標的抗原への結合を検証するために中間のIL13及びIL4濃度における単一濃度BIACORE実験が行われた。表4に記載されたLC4:HC4及びLC4:HC6組み合わせに対応するCODV-Ig抗体様分子が、表面プラズモン共鳴を用いた完全動力学解析の評価のために選択された。
【0147】
表5に描写されるように、大部分のCODV-Ig分子は全然か又はわずかに凝集物としてしか産生され得なかった(最大90%まで)。1つのクロマトグラフィー工程後に許容範囲の凝集レベル(5~10%)をもたらす重鎖/軽鎖組み合わせは、IL4VL-(
Gly)-IL13VL-(Gly2)-CL1と組み合わされたものであった。軽鎖はこ
れらのCODV-Igバリアント内の最も微細な鎖であり、そして異なるリンカー組成の異なる重鎖を受け入れるためのプラットフォームの機能を有した。
【0148】
1.動態解析
2対の重鎖及び軽鎖が完全動態解析のために選択された。組換ヒトIL13及びIL4はChemicon(米国)から購入された。精製抗体の速度論的キャラクタリゼーションは、BIACORE3000(GE Healthcare)で表面プラズモン共鳴を用いて行われた。検討さ
れた抗体の捕捉及び配向のために、種特異的抗体(例えば、ヒト-Fc特異的MAB1302、Chemicon)を用いた捕捉アッセイが使用された。捕捉抗体は、標準手順を用いて研究グレードCM5チップ(GE Life Sciences)上の第1級アミン基(11000RU)を介して固定化された。解析抗体は、30RUの最大の被検体結合をもらし得る調整RU値で10μL/分の流速において捕捉された。結合動力学は、30μl/分の流速において、HBS EP(10mMHEPES、pH7.4、150mMNaCl、3mMEDTA、及び0.005%界面活性剤P20)中、0~25nM間の濃度範囲にわたって組換ヒトIL4及びIL13に対して測定された。チップ表面は10mMグリシン、pH 2.5で再生された。速度パラメータは、基準として捕捉抗体のないフローセルを用いて、BIA評価プログラムパッケージv4.1で解析され計算された。
【0149】
以下の表6は、CODV-Igフォーマット(表4、コードLC4:HC4及びLC4:HC6)内のそれぞれのドメインと親BB13(抗IL13)及び8D4(抗IL4)抗体(IgGsとして発現される)の動力学の比較を示す。表6に示されるように、CODV-Ig構成物は、親抗IL13及び抗IL4抗体と比べたとき、対応の抗原に対する結合特性の減少を示さなかった。同じFv配列を用いたDVD-Ig/TBTIフォーマット中で認められたオンレートの欠如は、CODV-Ig立体配置では起こらなかった。反対に向いた結合部位は、二重特異性抗体様立体配置により大抗原を結合し又は異なる細胞を架橋することを可能にし得て、そしてまた親抗体の広範囲の選択に好適であり得る。CODV-Igの更なる利点は、リンカー残基が抗原結合部位へ突出しそして抗原の接近可能性を減少させないことである。
【0150】
【0151】
2.CODV-Igによる付加的抗原結合の証明のためのIL4及びIL13の同時注入
両抗原の付加的結合を検討するために、1つの抗原は即時に注入されそれに続いてラグタイム後に他の抗原(IL4次いでIL13及び逆の場合も同じ)が注入される、ウィザード駆動同時注入法が適用された。その結果の結合レベルが同じ濃度の両抗原の1:1混合物で実現されたものと比較され得た。CODV-Ig分子によるIL4及びIL13両方の抗原の付加的結合を示すために、BIACORE実験が、3つの別々の分析サイクルにおいて両抗原の同時注入によってCODV-Ig組み合わせ[HC4:LC4]で行われた(
図4参照)。同時注入は、3.125nMのIL4/25nMのIL13(逆の場合も同じ)で、そして3.125nMのIL4及び25nMのIL13の1:1混合物で行われた。HBS-EP緩衝液の同時注入が基準として行われた。800秒の時点で、6
3RUの同一の結合レベルが、同時注入の順序に無関係に抗原混合物の注入又は抗原の同時注入後に達成された。CODV-Igタンパク質が第1の抗原(IL4)によって飽和されていたとき、第2の抗原(IL13)は注入されそして第2の結合シグナルが認められた。この観察は抗原注入順序が逆にされたとき再現された。これはCODV-Igによる両抗原の結合の相加的及び非阻害を証明する。従って、CODV-Ig構成物は、全結合部位を飽和しながら(即ち、四価を示した)両抗原を同時に結合することができた(即ち、二重特異性を示す)。
【0152】
〔実施例6〕CODV-Igに対するリンカー長の許容範囲
種々の長さのリンカーの許容範囲が、軽鎖上のL1、L2及び重鎖上のL3及びL4に対して、リンカー長の種々の組み合わせを有するCODV-Ig分子を構成することによって評価された。CODV-Ig構成物は、L3に対して1~8残基そしてL4に対して0か又は1残基間で変わる重鎖リンカーL3及びL4で生成された。重鎖は、N末端結合ドメインとして抗IL4及びC末端結合ドメインとして抗IL13を含有し、CH1-Fcが続いた。軽鎖リンカーL1及びL2は、L1に対して3から12残基まで、そしてL2に対して3から14残基まで変化した。軽鎖は、N末端結合ドメインとして抗IL13及びC末端結合ドメインとして抗IL4を含有しCL1が続いた。
【0153】
1. CODV-Igバリアントのキャラクタリゼーション
凝集レベルの測定は,分析的サイズ排除クロマトグラフ(SEC)によってであった。分析的SECは、TSKゲルG3000SWXLカラム(7.8mm x 30cm)及びTSKゲルSWXLガードカラム(Tosoh Bioscience)が装備された AKTAエクスプローラー10(GE Healthcare)を用いて実施された。分析は、250mMNaCl、1
00mMNa-リン酸塩pH6.7を用いて280nmの検出で行われた。30μLのタンパク質試料(0.5-1mg/mlで)がカラムにかけられた。分子サイズの推定のために、カラムがゲル濾過標準混合物(MWGF-1000、SIGMA Aldrich)を用いて較
正された。データ評価はUNICORNソフトウェアv5.11を用いて行われた。
【0154】
組換ヒトIL13及びIL4はChemicon(米国)から購入された。組換ヒトTNF-αはSigma Aldrich(H8916-10μg)から購入され、組換ヒトIL-1β(201
-LB/CF)、組換ヒトIL-23(1290-IL/CF)、組換ヒトEGFR(344ER)、及び組換ヒトHER2(1129-ER-50)はR&D Systemsから購入さ
れた。
【0155】
BIACOREによる速度論的結合解析が次のとおりに行われた。BIACORE3000(GE Healthcare)での表面プラズモン共鳴法が、精製抗体の詳細な速度論的キャラク
タリゼーションのために使用された。検討された抗体の捕捉及び配向のために、種特異的抗体(例えば、ヒト-Fc特異的MAB1302、Chemicon)を用いた捕捉アッセイが使用された。IL4及びIL13の結合動力学のために、実施例10、表12のように対応するCODV-IgFabが、抗ヒトFab捕捉キット(GE Healthcare)を用いて捕捉さ
れた。捕捉抗体は、標準手順を用いて研究グレードCM5チップ(GE Life Sciences)上の第1級アミン基(11000RU)を介して固定化された。解析抗体は、30RUの最大の被検体結合をもらし得る調整RU値で10μL/分の流速において捕捉された。結合動力学は、30μl/分の流速において、HBS EP(10mMHEPES、pH7.4、150mMNaCl、3mMEDTA、及び0.005%界面活性剤P20)中、0~25nM間の濃度範囲にわたって組換ヒトIL4及びIL13に対して測定された。チップ表面は10mMグリシンpH 2.5で再生された。速度パラメータは、基準として捕捉抗体のないフローセルを用いて、BIA評価プログラムパッケージv4.1で解析され計算された。
【0156】
EGFR及びHER2に対するCODV-Ig、CODV-Fab、及びTBTIの結合親和性が、ProteonXPR36タンパク質相互作用アレイシステム(Biorad)を用いて測定された。抗原は、GLCセンサチップ(Biorad)上でアミン反応性カップリングによって固定化された。PBSET緩衝液(Biorad)中における二重特異性抗体バリアントの希釈シリーズが、二重基準化と1回限りの動力学様式において並行して解析された。データは、Langmuirの1:1モデルによるか物質移動又は二価被検体モデルによりProteonマネジャーソフトウェアv3.0 (Biorad)を用いて解析された。
【0157】
表7では、リンカーの異なるサイズ組み合わせを有するCODV-Igの収量、凝集(サイズ排除クロマトグラフで測定)、及び結合親和性の結果を要約する。結果は、L2が
ほぼゼロであったCODV-Ig分子は産生され得ず、又はタンパク質が産生された場合、高レベルの凝集があることを示した(表7中のバッチID番号101、102、106-111、及び132-137を参照されたい)。従って、実施例2からの分子モデリング予測と対照的に、ゼロに等しいL2が許容範囲内である場合、これらの結果は、VL2-
CL転移(又はL2)が少なくとも1つの残基のリンカーを必要とすることを示す(表7参照)。
【0158】
【0159】
【0160】
加えて、上記のCODV-Igリンカー長は、2アミノ酸残基の増加よりも1アミノ酸残基の増加により敏感であることが見出された。例えば、バッチID番号103及び104はL2中で1アミノ酸残基だけが異なるのに対して、バッチID番号103は6倍多い
凝集を示しそしてバッチID番号104は少ない2倍の凝集を示す。対照的に、L2中で
2つの残基だけが異なるバッチID番号104及び105は、収量、凝集、及び結合に対して類似のプロファイルを示した。
【0161】
〔実施例7〕CODV-Igに対する鋳型鎖としての重鎖
1~5の実施例では、軽鎖上の最適な短いリンカーサイズは、軽鎖が線形配列中に残ることにより鋳型として機能していたこと、及び重鎖が鋳型軽鎖に適合するように交差立体配置へ適切に折り畳めることができるために、より大きいリンカーが重鎖に必要とされたことを示唆した(
図5、パネルA参照)。重鎖上の線形配列を維持するために重鎖上に具体的に置かれた短いリンカーは重鎖を「鋳型」鎖にしたか、並びにそのパターンはそれ自体繰り返し得て、及びより大きいリンカーは非鋳型鎖が適切に折り畳めてこれで鋳型重鎖を収容することが可能になることが必要とされるかが、次に評価された(
図5、パネルB参照)。
【0162】
図6は「鋳型」として軽鎖か又は重鎖を有することに基づくCODV-Ig設計のこれらの原理を図示する。この概念の一般的性質を評価するために、CODV-Ig構成物は、L
3に対して1~8残基そしてL
4に対して0か又は1残基間で変わる重鎖リンカーL
3
及びL
4で生成された。重鎖は、N末端結合ドメインとして抗IL4及びC末端結合ドメ
インとして抗IL13を含有し、C
H1-Fcが続いた。軽鎖リンカーL
1及びL
2は、L
1
に対して3から12残基まで、そしてL
2に対して3から14残基まで変化した。軽鎖は
、N末端結合ドメインとして抗IL13及びC末端結合ドメインとして抗IL4を含有し、C
L1が続いた。
【0163】
表8では、リンカーの異なるサイズ組み合わせを有するCODV-Igの収量、凝集(
サイズ排除クロマトグラフで測定)、及び結合親和性の結果を要約し、そしてここでは重鎖は鋳型鎖として線形配列中に維持され、そして軽鎖は交差配列中に折り畳めることが可能である。結果は、L4がほぼゼロであったCODV-Ig分子は産生され得ず、又はタ
ンパク質が産生された場合、高レベルの凝集があることを示した(L2がゼロに等しかっ
た分子に類似)(表8中のバッチID番号207-209、211-212、219-224、231-236、243-252、及び263-266を参照されたい)。1つの例外は、L1が7、L2が5、L3が2、そしてL4がゼロであった、バッチID番号210であった。この配列は十分量のタンパク質を産生し、そして受容できるレベルの凝集及び結合を有したことから、幾つかのリンカーサイズの組み合わせは、ある状況下ではL4に
おいてゼロ長リンカーを補償することが見出され得ることを示唆した。
【0164】
【0165】
【0166】
【0167】
表7及び8で結果は、リンカーが最適折り畳みを可能にする可変及び定常ドメイン間で必要とされることを明確に示す。稀な配列でのみ、ゼロに等しいリンカーは許容された(L1(LC)がゼロであるバッチID番号103-105、及びL4がゼロであるバッチ番号210を参照されたい)。しかしながら、いずれの場合にも、他の鎖上の可変領域と定常領域間の対応する転移リンカーはゼロではあり得ない。
【0168】
上記の結果から、組み合わせL1=7、L2=5、L3=1、及びL4=2は、重鎖が鋳型である新しいCODV-Igを最適化するための良い出発点であることを示した。表9における範囲は2つの親抗体由来の新しいCODV-Igを成功裏に改変するための合理的な範囲であることが示された。
【0169】
【0170】
〔実施例8〕CODV-Igフォーマットの一般的適用性
新しい抗体様結合タンパク質を改変するためのCODV-Igフォーマットの適切性を評価するために、インシュリン様成長因子1受容体(IGF1R(1))、インシュリン様成長因子1受容体に対する二次抗体(IGF1R(2))、ヒト表皮成長因子受容体2(HER2)、表皮成長因子受容体(EGFR)、腫瘍壊死因子-α(TNFα)、インターロイキン12及び23(IL-12/23)及びインターロイキン1β(IL-1β)に対して特異性を有する多数の既存のヒト及びヒト化抗体由来の可変領域は、CODV-Igフォーマットに組み込まれた(表10参照)。
【0171】
【0172】
二重特異性抗体様結合タンパク質を設計する場合に、CODV-Igフォーマットの一般的適用性を試験するために、公知ヒト及びヒト化抗体由来の抗体可変領域が使用された。また、重鎖か又は軽鎖上の特定抗体可変領域のN末端か又はC末端の配置に対する位置効果の可能性が調べられた。L1=7、L2=5、L3=1、及びL4=2のリンカー組成を有するCODV-Ig分子の設計に基づいて、抗体の異なる配列がCODV-Igフォーマットに導入された。
【0173】
IL1β及びTNFαに対する二重特異性抗体又は誘導体の活性は、市販のHEK-BlueのTNFα/IL1βレポーター細胞(InvivoGen)を用いることによって測定され
た。TNFα及びIL1βに対する抗体活性を測定するために、異なる濃度の抗体でサイ
トカインが1時間プレインキュベーションされ、そして50,000のHEKBlueのTNFα/IL1β細胞に加えられた。SEAPのサイトカイン媒介誘導は、24時間後にQUANTI-Blueアッセイ(InvivoGen)により培養上清で測定された。
【0174】
表11に示されるように、全構成物は良好ないし極めて優れた収量、及び十分なレベルの凝集を示した(特に、表11中のバッチID番号301及び302を参照されたい)。各抗体可変ドメインの測定された親和性は公表又は予想親和性の範囲内であった。親和性が評価された場合には、位置効果は認められなかった。要約すれば、下記の表に示されるように、使用されたいずれの抗体可変ドメインで、又はどちらかの抗体鎖上のこれらのドメインの使用で、位置効果は見られなかった。
【0175】
【0176】
〔実施例9〕CODV-Igフォーマットにおける親抗体親和性の保持
抗IL4及び抗IL13の同一抗体配列は、これらの立体配置、リンカーの位置決め、及びその結果得られた分子の親和性の直接比較のためにTBTI/DVD-Igか又はCODV-Igフォーマットに組み込まれた。
図7に示されるように、抗体のそれぞれの親の親和性はCODVフォーマット中に維持された。
図7の上方パネルに示されるように、可変領域がTBTI/DVD-Igフォーマットに置かれたとき、内部Fv2位置に位置付けられるIL4抗体の親和性の低下は抗原に結合している抗体のオンレートの減少として現れた。対照的に、親抗体と比べてCODV-Igフォーマットの親和性の欠如はなか
った(
図7、下方パネル参照)。
【0177】
〔実施例10〕FabフォーマットへのCODV-Igの適応性
FabフラグメントのようなフラグメントをもたらすCODV-Igフォーマットの能力が次に評価された。2つの異なる可変重鎖は、リンカーL3を介して互いに融合され、
そしてリンカーL4によりC末端で延長された。このVH複合体は次いで、ヒンジ領域からの5アミノ酸配列DKTHT(配列番号60)をC末端に固定するIGHG1(GenBank登録番号Q569F4)のCH1ドメインに融合され、6ヒスチジン残基が続いた。2つの異なる可変軽鎖は、リンカーL1を通して対応する重鎖に交差立体配置で互いに融
合され、そしてリンカーL2によりC末端に伸長しその結果として定常κ鎖(IGKC、
GenBank登録番号Q502W4)に融合された。
【0178】
Fabフラグメントは既述のように一過性トランスフェクションにより発現された。トランスフェクション後7日で、細胞は遠心分離によって除かれ、10容積/容積%の1MTris-HCl、pH8.0が加えられ、そして粒子を除くために上清を0.22μm
フィルターに通した。Fabタンパク質はHisTrap高性能カラム(GE Healthcare)
を用いて捕捉され、そしてイミダゾール勾配を介して溶出された。タンパク質含有画分はプールされ、そしてPD-10又はSephadexカラムを用いて脱塩された。濃縮及び除菌濾過(0.22μm)タンパク質溶液は1mg/mlに調整され、そして使用まで4℃に保たれた。
【0179】
目前の利点は、CODV配向のFab様分子が凝集傾向を示さず、そして親抗体の親和性を保持した点に認められた(表12参照)。バッチID番号401-421からの結合タンパク質構成物では、抗体可変領域がCODV-Ig分子中のように配列された抗体様タンパク質を、鋳型(401、402、406、及び407)としての重鎖、CODVFab様フラグメント(402、408、413、418、及び421)、TBTI/DVD-Igフォーマット(404、409、414、及び419)中の4つのドメイン抗体様分子、及びリンカーのないCODV-Ig(405、410、415、及び420)と直接比較した。表12に示されるように、この比較の結果は、可変領域がTBTI又はDVD-Igフォーマットに組み込まれるとき、親抗体と比べて親和性の欠如がより確からしいことを示した。対照的に、CODV-Ig及びCODV-IgFab様フォーマットの両方は、親の親和性をより良く維持することができた。結果は更に、CODV-Ig分子が、可変領域間及び可変領域と定常ドメイン間にリンカーを必要とすることを確認した(表12参照)。
【0180】
【0181】
【0182】
〔実施例11〕CODV-Ig及びCODV-Fab内の可変ドメインの置換
T細胞関与方法におけるCODVフォーマットを特徴付けるために、TCR結合部位(CD3ε)及びCD19結合部位を有する二重特異性CODVFab用結合タンパク質(CODV-Fab)が生成され、そしてTBTI/DVD-Igフォーマット(B-Fab)から由来する二重特異性Fabと比較された。結合部位(TCRxCD19vs.CD19xTCR)の配向の重要性を調べるために、結合タンパク質それぞれについて両方の配向が評価された。
【0183】
結合タンパク質は、標的細胞としてNALM-6(CD19発現)細胞及びエフェクター細胞として一次ヒトT細胞を用いた細胞毒性アッセイで特徴付けられた。CD3陽性細胞は新たにヒトPBMCから調製された。エフェクター及び標的細胞は10:1の比で混合され、そして二重特異性結合タンパク質の表示濃度で20時間インキュベーションされた。アポトーシス標的細胞は、7-アミノアクチノマイシン染色を用いてFACSベースアッセイで測定された。
【0184】
CD3-CD19(1060)の立体配置中のB-Fabフォーマットは、3.7ng/mlのEC50で、NALM-6細胞へT細胞媒介細胞毒性を誘導するのに活性であることが示された。同様に高い活性は、3.2ng/mlのEC50で、CD19-CD3のCODV-Fab(1109)に対して認められた(
図8参照)。
【0185】
CD19-CD3配向へのB-Fab分子(TBTI/DVD-IgフォーマットのFab)の立体配置の交換は活性の著しい欠如をもたらした(
図8参照)。交換されたB-Fab分子は、CODV-IgFabの配向及びB-Fabの他の配向の両方に対して最大の濃度において活性を示さなかった。CODV-IgFab及びB-Fabの1つの配向では、最大反応が認められた(1と100ng/ml間に変動する)。B-FabのCD19-CD3配向では、最大濃度においても(30μg/ml)、最適細胞毒性反応が達成されなかった。際立って対照的に、CODV-Fab中のドメインのCD3-CD19(1108)への配向の変化は、このアッセイにおいて著しい活性の分子をもたらした(
図8参照)。CODV-Fabにおいて交換するドメインも、T細胞媒介細胞毒性(~100だけのEC50の増加)の誘導を減少させたが、この効果はB-Fabフォーマットで見られたものよりもはるかに目立たないものであり、そして分子は最大レベルまでの細胞毒性を誘導することができた。そのデータは代表的なものでそして3つの独立した実験から得られた。
【0186】
〔実施例12〕CODV-Igリンカーに及ぼすアミノ酸配列同一性の影響
バッチID204(実施例7及び表8参照)に対応する最適化構成物が、リンカーL1~L4に及ぼすリンカー組成の影響を調べるために選択された。リンカー長は、L1、L2、L3、及びL4に対して長さでそれぞれ7、5、1、及び2残基に設定された(表13参照)。試験配列は、自然抗体VHとCH1ドメイン間又はκ又はλ軽鎖の抗体Fv及びCLドメイン間の転移における自然発生リンカーから生じた。候補配列は、VH及びCH1ドメイ
ン転移から生じるASTKGPS(配列番号48)、それぞれκ及びλ軽鎖のFv及びCLドメイン転移から生じたRTVAAPS(配列番号49)及びGQPKAAP(配列番
号50)であった。更に、1つの構成物は、いずれの配列も潜在的にリンカーL1~L4で使用されることができることを示すために、任意のリンカー組成で生成された。このリンカー組成は、アミノ酸としてバリン、ロイシン、イソロイシン、セリン、トレオニン、リジン、アルギニン、ヒスチジン、アスパラギン酸、グルタミン酸、アスパラギン、グルタミン、グリシン、及びプロリンを4つのリンカーの15位置にランダムに分配することによって得られた。芳香族アミノ酸としてフェニルアラニン、チロシン、及びトリプトファン、並びにアミノ酸としてメチオニン及びシステインは、凝集の増加可能性を回避するために意図的に除外された。
【0187】
バッチID番号204に対する構成物の三次元モデルは、リンカー組成の適合性を確実にし又は選択を精密にするために作り出された。このように、正及び負電荷残基が三次元モデルの直ぐ近くに認められることから、セリンがリンカーL3に選択された。リンカー
L4中の残基は、モデルによって示唆されるようにこれらの位置の溶媒露出に適合性であ
るように選択された。同様に、L1及びL2のリンカー組成に対する問題は予期又は予想されなかった。リンカー組成に対する選択提案の三次元モデルが構成された。
【0188】
表12に示されるように、リンカー組成は収量に劇的な影響を有する可能性がある。L1上のλ鎖から生じた配列は(バッチID番号505-507をバッチID番号501-
503と比較して)、より生産性の高い発生器(最大で8倍増加)であった。実際に、ランダム発生に基づくリンカーはまた、表13、バッチID番号508で示されるように良い収量をもたらした。従って、リンカー組成はCODV-Ig最適化中に検討された1つのパラメータであり得る。
【0189】
【0190】
サイトカインIL4及びIL13に対する二重特異性抗体及び誘導体の活性は、 市販のHEK-BlueのIL-4/IL-13レポーター細胞 (InvivoGen)中で測定された。 HEK-BlueのIL-4/IL-13細胞は、IL-4又はIL13によるST
AT6経路の活性化をモニターするために設計された。どちらかのサイトカインによる細胞の刺激は、レポーター遺伝子分泌胚性アルカリホスアターゼ(SEAP)の産生をもたらし、QUANTI-Blueアッセイにより培養上清中で測定されることができる。IL4又はIL13に対する抗体活性を試験するために、サイトカインは異なる濃度の抗体で1時間プレインキュベーションされ、そして50,000HEK-BlueのIL-4/IL-13細胞に加えられた。SEAPのサイトカイン媒介誘導は、24時間インキュベーション後QUANTI-Blueアッセイ(InvivoGen)により細胞培養上清中で測
定された。
【0191】
〔実施例13〕CODV-Igリンカーへのシステインの導入
公開データは、抗体及び抗体由来タンパク質の安定性が非天然ジスルフィド架橋(Wozniak-Knopp et al., 2012、「改変ドメイン内ジスルフィド結合によるヒトIgG1のFcフラグメントの安定化,」PLoS ONE 7(1): e30083を参照されたい)の導入に
よって増加されることができることを示唆する。ヒトIgG1抗体から生じそしてCODV-Ig分子へ改変された等価Fcフラグメントが、鎖間及び鎖内ジスルフィド架橋の導入によって安定化され得るかを調べるために、CODV-Ig構成物バッチID番号204(実施例7参照)の等価Fc位置がシステイン残基に変異され、そして変異タンパク質は過剰産生され、精製され、そして特徴付けられた(表14参照)。
【0192】
表14に示されるように、更なるシステイン残基を含有する変異CODV-Ig分子のそれぞれは、CODV-Ig構成物バッチID番号204の融解温度と同じ融解温度を有した。
【0193】
また、2つの同時のシステインが、Brinkmann et al., 1993, Proc. Natl. Acad. Sci.
U.S.A. 90: 7538-42に記載のように、可変ドメインのそれぞれの上に、軽鎖ではKab
at位置100にそして重鎖では44に導入された。これらの位置は抗体折り畳み内に構造的に保存されて、そしてそれ故に個々のドメインの完全性を妨害することなしにシステイン置換に耐容性であることが示されている。
【0194】
表15に示されるように、システイン残基が可変ドメインのそれぞれの上に軽鎖ではKabat位置100にそして重鎖では44に導入された、CODV及びCODV-Ig構成物は、システイン残基がこれらの位置(例えばバッチID番号704及び706並びにバッチID番号713及び714を参照されたい)に導入されなかったCODV及びCODV-Ig構成物よりも高い融解温度を有した。
【0195】
1. CODV及びTBTIバリアントの熱安定性測定
CODV及びTBTIバリアントの融点(Tm)は示差走査蛍光分析(DSF)を用いて測定された。試料はD-PBS緩衝液(Invitrogen) 中で0.2μg/μlの最終濃度
まで希釈され、そして白色半スカート96ウェルにおいてD-PBS中でSYPRO-オレンジ色素(Invitrogen) の40x濃縮溶液の2μlに加えられた。全測定がMyiQ2
リアルタイムPCR機器 (Biorad)を用いて2回ずつ行われた。Tm値はiQ5ソフトウ
ェアv2.1を用いて融解曲線の負の一次導関数から導かれた。
【0196】
次にシステイン残基をリンカーへ又は可変領域内に直接導入する効果を調べた。この実施例では、バッチID番号204(実施例7及び表8から)がモデルCODV-Ig結合タンパク質として使用され、そしてシステインは三次元モデルに基づいてL1、L3、及び
可変領域においてグリシンで置換された。下記の表16に示されるように、結果はシステイン対の導入が収量及び凝集にどのような影響を与え得るかを示す。想定される変異はすべて、ジスルフィド結合が適切に形成され、そして正しい幾何図形がリンカー及びモデル中の環境で維持されたことを確認するためにモデル化された。いずれにせよ、バッチID番号808は良い収量及び少ない凝集を示し、それ故適切なシステイン架橋が形成し得ることを示唆する。
【0197】
本発明が種々の実施態様に関して記載されている一方で、当然のことながら、変動及び改変は当業者で生じ得る。それ故に、補足請求の範囲は、請求の範囲に記載されている本発明の範囲内になる全てのそのような同等の変動をカバーするものである。加えて、本明細書で使用される項目見出しは構成の目的のためだけであり、そして記載の対象を限定すると解釈されるべきものではない。
【0198】
本明細書に記載の各実施態様は、別に明瞭に示されない限りその他の実施態様又は複数の実施態様と組み合わせられ得る。特に、好ましい又は有利であるとして示されるいずれもの特徴又は実施態様は、別に明瞭に示されない限り、好ましい又は有利であるとして示されるその他の特徴若しくは複数の特徴又は実施態様若しくは複数の実施態様と組み合わせられ得る。
【0199】
本出願におけるすべての引用文献は、参照することにより本明細書に明確に組み入れられる。
【0200】
【0201】
【0202】
【0203】
【配列表】