(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-01-05
(45)【発行日】2022-01-20
(54)【発明の名称】固体電解質組成物、全固体二次電池用シート、全固体二次電池用電極シート及び全固体二次電池、並びに、全固体二次電池用シート及び全固体二次電池の製造方法
(51)【国際特許分類】
H01M 10/0562 20100101AFI20220113BHJP
H01B 1/06 20060101ALI20220113BHJP
H01B 1/10 20060101ALI20220113BHJP
H01M 4/139 20100101ALI20220113BHJP
H01M 4/62 20060101ALI20220113BHJP
【FI】
H01M10/0562
H01B1/06 A
H01B1/10
H01M4/139
H01M4/62 Z
(21)【出願番号】P 2019553792
(86)(22)【出願日】2018-10-30
(86)【国際出願番号】 JP2018040262
(87)【国際公開番号】W WO2019098008
(87)【国際公開日】2019-05-23
【審査請求日】2020-05-12
(31)【優先権主張番号】P 2017221840
(32)【優先日】2017-11-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】306037311
【氏名又は名称】富士フイルム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002631
【氏名又は名称】特許業務法人イイダアンドパートナーズ
(74)【代理人】
【識別番号】100076439
【氏名又は名称】飯田 敏三
(74)【代理人】
【識別番号】100161469
【氏名又は名称】赤羽 修一
(74)【代理人】
【識別番号】100118809
【氏名又は名称】篠田 育男
(72)【発明者】
【氏名】望月 宏顕
(72)【発明者】
【氏名】牧野 雅臣
(72)【発明者】
【氏名】三村 智則
(72)【発明者】
【氏名】串田 陽
【審査官】近藤 政克
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2016/136983(WO,A1)
【文献】特開2006-351448(JP,A)
【文献】特開2003-197030(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 10/0562
H01B 1/06
H01B 1/10
H01M 4/139
H01M 4/62
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
周期律表第1族若しくは第2族に属する金属のイオンの伝導性を有する無機固体電解質と、平均粒径が1nm以上400nm以下のバインダー粒子と、分散媒とを含有する固体電解質組成物であって、
前記バインダー粒子が、分子量1,000未満の重合性化合物に由来する構成成分を有する重合体を含み、
前記構成成分が、前記重合体の側鎖として、10個以上の炭素原子が結合した脂肪族炭化水素鎖、及びシロキサン構造の少なくとも一方を有する、固体電解質組成物。
【請求項2】
前記重合体が、SP値が10.5(cal
1/2cm
-3/2)以上である構成成分を有する請求項1に記載の固体電解質組成物。
【請求項3】
前記重合性化合物に由来する構成成分の、前記重合体中の含有率が0.1~70質量%である請求項1又は2に記載の固体電解質組成物。
【請求項4】
前記重合体のガラス転移温度が、30℃以下である請求項1~3のいずれか1項に記載の固体電解質組成物。
【請求項5】
前記脂肪族炭化水素鎖が、直鎖状である請求項1~4のいずれか1項に記載の固体電解質組成物。
【請求項6】
前記重合性化合物に由来する構成成分が、前記脂肪族炭化水素鎖として、下記式(HC)で表される鎖構造を少なくとも1つ有する、請求項1~5のいずれか1項に記載の固体電解質組成物。
【化1】
式(HC)中、R
1及びR
2は、各々独立に、水素原子、ハロゲン原子、シアノ基、アルキル基、アルコキシ基又はアリール基を示す。nは10以上の整数である。
【請求項7】
前記重合体が、酸性官能基、塩基性官能基、ヒドロキシ基、シアノ基、アルコキシシリル基、アリール基、ヘテロアリール基、及び、3環以上が縮環した炭化水素環基からなる群から選ばれる官能基を少なくとも1つ有する請求項1~6のいずれか1項に記載の固体電解質組成物。
【請求項8】
前記無機固体電解質が、硫化物系無機固体電解質である請求項1~7のいずれか1項に記載の固体電解質組成物。
【請求項9】
さらに活物質を含有する請求項1~8のいずれか1項に記載の固体電解質組成物。
【請求項10】
請求項1~9のいずれか1項に記載の固体電解質組成物
を用いて形成された層を有する全固体電池用シート。
【請求項11】
請求項9に記載の固体電解質組成物
を用いて形成された活物質層を有する全固体電池用電極シート。
【請求項12】
正極活物質層と固体電解質層と負極活物質層とをこの順で具備する全固体二次電池であって、
前記正極活物質層、前記固体電解質層及び前記負極活物質層の少なくとも1つの層が、請求項1~9のいずれか1項に記載の固体電解質組成物
を用いて形成された層である全固体二次電池。
【請求項13】
請求項1~9のいずれか1項に記載の固体電解質組成物を製膜する全固体二次電池用シートの製造方法。
【請求項14】
請求項13に記載の製造方法を介して全固体二次電池を製造する全固体二次電池の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、固体電解質組成物、全固体二次電池用シート、全固体二次電池用電極シート及び全固体二次電池、並びに、全固体二次電池用シート及び全固体二次電池の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン二次電池は、負極と、正極と、負極及び正極の間に挟まれた電解質とを有し、両極間にリチウムイオンを往復移動させることにより充電、放電を可能とした蓄電池である。リチウムイオン二次電池には、従来、電解質として有機電解液が用いられてきた。しかし、有機電解液は液漏れを生じやすく、また、過充電、過放電により電池内部で短絡が生じ発火するおそれもあり、信頼性と安全性のさらなる向上が求められている。
このような状況の下、有機電解液に代えて、無機固体電解質を用いた全固体二次電池が注目されている。全固体二次電池は負極、電解質、正極の全てが固体からなり、有機電解液を用いた電池の課題とされる安全性及び信頼性を大きく改善することができ、また長寿命化も可能になるとされる。更に、全固体二次電池は、電極と電解質を直接並べて直列に配した構造とすることができる。そのため、有機電解液を用いた二次電池に比べて高エネルギー密度化が可能となり、電気自動車又は大型蓄電池等への応用が期待されている。
【0003】
このような全固体二次電池において、負極の活物質層、固体電解質層、及び正極の活物質層のいずれかの層を、無機固体電解質又は活物質と特定の高分子化合物等のバインダー粒子(結着剤)とを含有する材料で形成することが、提案されている。例えば、特許文献1には、無機固体電解質と、側鎖成分として数平均分子量1,000以上のマクロモノマーを組み込んだポリマーで構成された平均粒径が10nm以上1,000nm以下のバインダー粒子と、分散媒とを含む固体電解質組成物が記載されている。特許文献2には、無機固体電解質と特定の活物質と特定の粒子状ポリマーとを含む固体電解質組成物が記載されている。特定の粒子状ポリマーとしては、具体的には、主鎖中に組み込まれるシロキサン構造を含む繰り返し単位を有するポリマー、数平均分子量1,000以上のマクロモノマーを組み込んだポリマーが記載されている。更に、特許文献3には、無機固体電解質と、ノニルフェノキシポリエチレングリコールアクリレートを単量体として用いたコアシェル構造を有する粒子状ポリマーからなる結着剤と、非極性溶媒とを含む組成物(スラリー)が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2015-88486号公報
【文献】特開2016-149238号公報
【文献】国際公開第2012/173089号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
全固体二次電池の構成層(無機固体電解質層及び活物質層)は、通常、無機固体電解質、必要により活物質や導電助剤、更にはバインダー粒子で形成されるため、固体粒子(無機固体電解質、固体粒子、導電助剤等)間の界面接触が十分ではなく、界面抵抗が高くなる。一方、バインダー粒子による固体粒子同士の結着性が弱いと固体粒子同士の接触不良が起って電池性能が低下する。
しかし、近年、全固体二次電池の開発が急速に進行し、全固体二次電池に求められる電池性能も高くなっており、界面抵抗の低減と結着性の向上とをより高い水準で両立することが望まれている。
【0006】
本発明は、全固体二次電池の構成層を構成する材料として用いることにより、得られる全固体二次電池において、固体粒子間の界面抵抗の上昇を抑えることができ、しかも強固な結着性をも実現できる固体電解質組成物を提供することを課題とする。また、本発明は、この固体電解質組成物を用いた、全固体二次電池用シート、全固体二次電池用電極シート及び全固体二次電池、並びに、全固体二次電池用シート及び全固体二次電池の製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、種々検討を重ねた結果、特定の重合性化合物を重合することにより、得られる重合体の側鎖に炭素数10以上の脂肪族炭化水素からなる鎖構造(脂肪族炭化水素鎖)又はシロキサン構造を導入した重合体で形成した特定粒径のバインダー粒子を、固体粒子と併用して分散媒に分散させた固体電解質組成物が、高度な分散安定性を示すことを見出した。更に、この固体電解質組成物を全固体二次電池の構成層の構成材料として用いることにより、固体粒子間の界面抵抗を抑制しつつ、固体粒子を強固に結着させることができ、全固体二次電池に優れた電池性能を付与できること、を見出した。本発明はこれらの知見に基づき更に検討を重ね、完成されるに至ったものである。
【0008】
すなわち、上記の課題は以下の手段により解決された。
<1>周期律表第1族若しくは第2族に属する金属のイオンの伝導性を有する無機固体電解質と、平均粒径が1nm以上400nm以下のバインダー粒子と、分散媒とを含有する固体電解質組成物であって、
バインダー粒子が、分子量1,000未満の重合性化合物に由来する構成成分を有する重合体を含み、
この構成成分が、重合体の側鎖として、10個以上の炭素原子が結合した脂肪族炭化水素鎖、及びシロキサン構造の少なくとも一方を有する、固体電解質組成物。
<2>重合体が、SP値が10.5(cal1/2cm-3/2)以上である構成成分を有する<1>に記載の固体電解質組成物。
<3>重合性化合物に由来する構成成分の、重合体中の含有率が0.1~70質量%である<1>又は<2>に記載の固体電解質組成物。
<4>重合体のガラス転移温度が、30℃以下である<1>~<3>のいずれか1つに記載の固体電解質組成物。
<5>脂肪族炭化水素鎖が、直鎖状である<1>~<4>のいずれか1つに記載の固体電解質組成物。
【0009】
<6>重合性化合物に由来する構成成分が、脂肪族炭化水素鎖として、下記式(HC)で表される鎖構造を少なくとも1つ有する、<1>~<5>のいずれか1つに記載の固体電解質組成物。
【化1】
式(HC)中、R
1及びR
2は、各々独立に、水素原子、ハロゲン原子、シアノ基、アルキル基、アルコキシ基又はアリール基を示す。nは10以上の整数である。
【0010】
<7>重合体が、下記官能基群から選ばれる官能基を少なくとも1つ有する<1>~<6>のいずれか1つに記載の固体電解質組成物。
<官能基群>
酸性官能基、塩基性官能基、ヒドロキシ基、シアノ基、アルコキシシリル基、アリール基、ヘテロアリール基、及び、3環以上が縮環した炭化水素環基
<8>無機固体電解質が、硫化物系無機固体電解質である<1>~<7>のいずれか1つに記載の固体電解質組成物。
<9>活物質を含有する<1>~<8>のいずれか1つに記載の固体電解質組成物。
<10>上記<1>~<9>のいずれか1つに記載の固体電解質組成物で構成した層を有する全固体電池用シート。
<11>上記<9>に記載の固体電解質組成物で構成した活物質層を有する全固体電池用電極シート。
<12>正極活物質層と固体電解質層と負極活物質層とをこの順で具備する全固体二次電池であって、
正極活物質層、固体電解質層及び負極活物質層の少なくとも1つの層が、<1>~<9>のいずれか1つに記載の固体電解質組成物で構成した層である全固体二次電池。
<13>上記<1>~<9>のいずれか1つに記載の固体電解質組成物を製膜する全固体二次電池用シートの製造方法。
<14>上記<13>に記載の製造方法を介して全固体二次電池を製造する全固体二次電池の製造方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明の固体電解質組成物は、全固体二次電池用シート又は全固体二次電池の構成層の材料として用いたときに、固体粒子間の界面抵抗の上昇を効果的に抑え、しかも固体粒子同士が強固に結着したシート又は構成層を形成できる。本発明の全固体二次電池用シートは低抵抗で強固な結着性を示し、本発明の全固体二次電池は低抵抗で優れた電池性能を示す。また、本発明の全固体二次電池用シート及び全固体二次電池の製造方法は、上記優れた特性を示す本発明の全固体二次電池用シート及び全固体二次電池を製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本発明の好ましい実施形態に係る全固体二次電池を模式化して示す縦断面図である。
【
図2】実施例で作製した全固体二次電池(コイン電池)を模式的に示す縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本明細書において、「~」を用いて表される数値範囲は、「~」の前後に記載される数値を下限値及び上限値として含む範囲を意味する。
本明細書において、単に「アクリル」又は「(メタ)アクリル」と記載するときは、アクリル及び/又はメタクリルを意味する。
本明細書において化合物の表示(例えば、化合物と末尾に付して呼ぶとき)については、この化合物そのもののほか、その塩、そのイオンを含む意味に用いる。また、所望の効果を奏する範囲で、置換基を導入するなど一部を変化させた誘導体を含む意味である。
本明細書において置換又は無置換を明記していない置換基(連結基についても同様)については、その基に適宜の置換基を有していてもよい意味である。これは置換又は無置換を明記していない化合物についても同義である。好ましい置換基としては、下記置換基Zが挙げられる。
また、本明細書において、単に、YYY基と記載されている場合、YYY基は更に置換基を有していてもよい。
【0014】
[固体電解質組成物]
本発明の固体電解質組成物は、周期律表第1族若しくは第2族に属する金属のイオンの伝導性を有する無機固体電解質と、平均粒径が1nm~10μmのバインダー粒子と、分散媒とを含有する。このバインダー粒子は、分子量1,000未満の重合性化合物に由来する構成成分(特定構成成分ということがある。)を有する重合体を含む。重合性化合物に由来する構成成分は、重合体中において、その側鎖として、10個以上の炭素原子が結合した脂肪族炭化水素鎖、及びシロキサン構造の少なくとも一方を有している。
【0015】
本発明の固体電解質組成物において、無機固体電解質とバインダー粒子と分散媒とを含有する態様(混合態様)は、特に制限されないが、分散媒中に無機固体電解質とバインダー粒子とが分散したスラリーであることが好ましい。
本発明の固体電解質組成物は、スラリーとしたときにも、無機固体電解質、所望により併用される活物質及び導電助剤等の固体粒子をよく分散させることができ、しかも、固体粒子、更には未反応化合物等の凝集若しくは沈殿等による層分離を効果的に抑制して均一な組成(分散状態)を維持することができる(高い分散安定性を示す。)。
【0016】
平均粒径が1nm~10μmのバインダー粒子を形成する重合体は、分子量1,000未満の重合性化合物に由来する構成成分を有し、かつこの構成成分が有する炭素数10個以上の脂肪族炭化水素鎖又はシロキサン構造を側鎖として有している。そのため、このような特定の構成成分を含む重合体で形成されたバインダー粒子は、平均粒径、重合体の側鎖としての脂肪族炭化水素鎖又はシロキサン構造、更にこの側鎖を形成する構成成分を導く重合性化合物の分子量が互いに相まって、併用される固体粒子を分散媒に高度かつ安定的に分散させることができる。また、全固体二次電池用シート又は全固体二次電池の構成層としたときに、固体粒子同士の強固な結着と固体粒子同士の良好な接触による低抵抗化とをバランスよく発揮する。上記平均粒子径、脂肪族炭化水素鎖又はシロキサン構造、及び重合性化合物の分子量を規定する意義は後述する。
本発明の固体電解質組成物は、全固体二次電池用シート又は全固体二次電池の固体電解質層又は活物質層の成形材料として好ましく用いることができる。
【0017】
本発明の固体電解質組成物は、特に制限されないが、含水率(水分含有量ともいう。)が、500ppm以下であることが好ましく、200ppm以下であることがより好ましく、100ppm以下であることが更に好ましく、50ppm以下であることが特に好ましい。固体電解質組成物の含水率が少ないと、無機固体電解質の劣化を抑制することができる。含水量は、固体電解質組成物中に含有している水の量(固体電解質組成物に対する質量割合)を示し、具体的には、0.02μmのメンブレンフィルターでろ過し、カールフィッシャー滴定を用いて測定された値とする。
【0018】
以下、本発明の固体電解質組成物が含有する成分及び含有しうる成分について説明する。
【0019】
<無機固体電解質>
本発明の固体電解質組成物は、無機固体電解質を含有する。
本発明において、無機固体電解質とは、無機の固体電解質のことであり、固体電解質とは、その内部においてイオンを移動させることができる固体状の電解質のことである。主たるイオン伝導性材料として有機物を含むものではないことから、有機固体電解質(ポリエチレンオキシド(PEO)などに代表される高分子電解質、リチウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド(LiTFSI)などに代表される有機電解質塩)とは明確に区別される。また、無機固体電解質は定常状態では固体であるため、通常カチオン及びアニオンに解離又は遊離していない。この点で、電解液、又は、ポリマー中でカチオン及びアニオンが解離若しくは遊離している無機電解質塩(LiPF6、LiBF4、リチウムビス(フルオロスルホニル)イミド(LiFSI)、LiClなど)とも明確に区別される。無機固体電解質は周期律表第1族若しくは第2族に属する金属のイオンの伝導性を有するものであれば、特に限定されず、電子伝導性を有さないものが一般的である。本発明の全固体二次電池がリチウムイオン電池の場合、無機固体電解質は、リチウムイオンのイオン伝導性を有することが好ましい。
上記無機固体電解質は、全固体二次電池に通常使用される固体電解質材料を適宜選定して用いることができる。無機固体電解質は(i)硫化物系無機固体電解質と(ii)酸化物系無機固体電解質が代表例として挙げられる。本発明において、活物質と無機固体電解質との間により良好な界面を形成することができる観点から、硫化物系無機固体電解質が好ましく用いられる。
【0020】
(i)硫化物系無機固体電解質
硫化物系無機固体電解質は、硫黄原子(S)を含有し、かつ、周期律表第1族若しくは第2族に属する金属のイオン伝導性を有し、かつ、電子絶縁性を有するものが好ましい。硫化物系無機固体電解質は、元素として少なくともLi、S及びPを含有し、リチウムイオン伝導性を有しているものが好ましいが、目的又は場合に応じて、Li、S及びP以外の他の元素を含んでもよい。
【0021】
硫化物系無機固体電解質としては、例えば、下記式(1)で示される組成を満たすリチウムイオン伝導性無機固体電解質が挙げられる。
La1Mb1Pc1Sd1Ae1 (1)
式中、LはLi、Na及びKから選択される元素を示し、Liが好ましい。Mは、B、Zn、Sn、Si、Cu、Ga、Sb、Al及びGeから選択される元素を示す。Aは、I、Br、Cl及びFから選択される元素を示す。a1~e1は各元素の組成比を示し、a1:b1:c1:d1:e1は1~12:0~5:1:2~12:0~10を満たす。a1は1~9が好ましく、1.5~7.5がより好ましい。b1は0~3が好ましく、0~1がより好ましい。d1は2.5~10が好ましく、3.0~8.5がより好ましい。e1は0~5が好ましく、0~3がより好ましい。
【0022】
各元素の組成比は、下記のように、硫化物系無機固体電解質を製造する際の原料化合物の配合量を調整することにより制御できる。
【0023】
硫化物系無機固体電解質は、非結晶(ガラス)であっても結晶化(ガラスセラミックス化)していてもよく、一部のみが結晶化していてもよい。例えば、Li、P及びSを含有するLi-P-S系ガラス、又はLi、P及びSを含有するLi-P-S系ガラスセラミックスを用いることができる。
硫化物系無機固体電解質は、例えば硫化リチウム(Li2S)、硫化リン(例えば五硫化二燐(P2S5))、単体燐、単体硫黄、硫化ナトリウム、硫化水素、ハロゲン化リチウム(例えばLiI、LiBr、LiCl)及び上記Mで表される元素の硫化物(例えばSiS2、SnS、GeS2)の中の少なくとも2つ以上の原料の反応により製造することができる。
【0024】
Li-P-S系ガラス及びLi-P-S系ガラスセラミックスにおける、Li2SとP2S5との比率は、Li2S:P2S5のモル比で、好ましくは60:40~90:10、より好ましくは68:32~78:22である。Li2SとP2S5との比率をこの範囲にすることにより、リチウムイオン伝導度を高いものとすることができる。具体的には、リチウムイオン伝導度を好ましくは1×10-4S/cm以上、より好ましくは1×10-3S/cm以上とすることができる。上限は特にないが、1×10-1S/cm以下であることが実際的である。
【0025】
具体的な硫化物系無機固体電解質の例として、原料の組み合わせ例を下記に示す。例えば、Li2S-P2S5、Li2S-P2S5-LiCl、Li2S-P2S5-H2S、Li2S-P2S5-H2S-LiCl、Li2S-LiI-P2S5、Li2S-LiI-Li2O-P2S5、Li2S-LiBr-P2S5、Li2S-Li2O-P2S5、Li2S-Li3PO4-P2S5、Li2S-P2S5-P2O5、Li2S-P2S5-SiS2、Li2S-P2S5-SiS2-LiCl、Li2S-P2S5-SnS、Li2S-P2S5-Al2S3、Li2S-GeS2、Li2S-GeS2-ZnS、Li2S-Ga2S3、Li2S-GeS2-Ga2S3、Li2S-GeS2-P2S5、Li2S-GeS2-Sb2S5、Li2S-GeS2-Al2S3、Li2S-SiS2、Li2S-Al2S3、Li2S-SiS2-Al2S3、Li2S-SiS2-P2S5、Li2S-SiS2-P2S5-LiI、Li2S-SiS2-LiI、Li2S-SiS2-Li4SiO4、Li2S-SiS2-Li3PO4、Li10GeP2S12などが挙げられる。ただし、各原料の混合比は問わない。このような原料組成物を用いて硫化物系無機固体電解質材料を合成する方法としては、例えば非晶質化法を挙げることができる。非晶質化法としては、例えば、メカニカルミリング法、溶液法及び溶融急冷法を挙げられる。常温での処理が可能になり、製造工程の簡略化を図ることができるからである。
【0026】
(ii)酸化物系無機固体電解質
酸化物系無機固体電解質は、酸素原子(O)を含有し、かつ、周期律表第1族若しくは第2族に属する金属のイオン伝導性を有し、かつ、電子絶縁性を有するものが好ましい。
酸化物系無機固体電解質は、イオン伝導度として、1×10-6S/cm以上であることが好ましく、5×10-6S/cm以上であることがより好ましく、1×10-5S/cm以上であることが特に好ましい。上限は特に制限されないが、1×10-1S/cm以下であることが実際的である。
【0027】
具体的な化合物例としては、例えばLixaLayaTiO3〔xaは0.3≦xa≦0.7を満たし、yaは0.3≦ya≦0.7を満たす。〕(LLT); LixbLaybZrzbMbb
mbOnb(MbbはAl、Mg、Ca、Sr、V、Nb、Ta、Ti、Ge、In及びSnから選ばれる1種以上の元素である。xbは5≦xb≦10を満たし、ybは1≦yb≦4を満たし、zbは1≦zb≦4を満たし、mbは0≦mb≦2を満たし、nbは5≦nb≦20を満たす。); LixcBycMcc
zcOnc(MccはC、S、Al、Si、Ga、Ge、In及びSnから選ばれる1種以上の元素である。xcは0≦xc≦5を満たし、ycは0≦yc≦1を満たし、zcは0≦zc≦1を満たし、ncは0≦nc≦6を満たす。); Lixd(Al,Ga)yd(Ti,Ge)zdSiadPmdOnd(xdは1≦xd≦3を満たし、ydは0≦yd≦1を満たし、zdは0≦zd≦2を満たし、adは0≦ad≦1を満たし、mdは1≦md≦7を満たし、ndは3≦nd≦13を満たす。); Li(3-2xe)Mee
xeDeeO(xeは0以上0.1以下の数を表し、Meeは2価の金属原子を表す。Deeはハロゲン原子又は2種以上のハロゲン原子の組み合わせを表す。); LixfSiyfOzf(xfは1≦xf≦5を満たし、yfは0<yf≦3を満たし、zfは1≦zf≦10を満たす。); LixgSygOzg(xgは1≦xg≦3を満たし、ygは0<yg≦2を満たし、zgは1≦zg≦10を満たす。); Li3BO3; Li3BO3-Li2SO4; Li2O-B2O3-P2O5; Li2O-SiO2; Li6BaLa2Ta2O12; Li3PO(4-3/2w)Nw(wはw<1); LISICON(Lithium super ionic conductor)型結晶構造を有するLi3.5Zn0.25GeO4; ペロブスカイト型結晶構造を有するLa0.55Li0.35TiO3; NASICON(Natrium super ionic conductor)型結晶構造を有するLiTi2P3O12; Li1+xh+yh(Al,Ga)xh(Ti,Ge)2-xhSiyhP3-yhO12(xhは0≦xh≦1を満たし、yhは0≦yh≦1を満たす。); ガーネット型結晶構造を有するLi7La3Zr2O12(LLZ)等が挙げられる。
またLi、P及びOを含むリン化合物も望ましい。例えばリン酸リチウム(Li3PO4); リン酸リチウムの酸素の一部を窒素で置換したLiPON; LiPOD1(D1は、好ましくは、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Zr、Nb、Mo、Ru、Ag、Ta、W、Pt及びAuから選ばれる1種以上の元素である。)等が挙げられる。
更に、LiA1ON(A1は、Si、B、Ge、Al、C及びGaから選ばれる1種以上の元素である。)等も好ましく用いることができる。
【0028】
無機固体電解質は粒子であることが好ましい。この場合、無機固体電解質の体積平均粒子径は特に制限されないが、0.01μm以上であることが好ましく、0.1μm以上であることがより好ましい。上限としては、100μm以下であることが好ましく、50μm以下であることがより好ましい。無機固体電解質の体積平均粒子径の測定は、以下の手順で行う。無機固体電解質粒子を、水(水に不安定な物質の場合はヘプタン)を用いて20mLサンプル瓶中で1質量%の分散液を希釈調製する。希釈後の分散試料は、1kHzの超音波を10分間照射し、その直後に試験に使用する。この分散液試料を用い、レーザ回折/散乱式粒度分布測定装置LA-920(商品名、HORIBA社製)を用いて、温度25℃で測定用石英セルを使用してデータ取り込みを50回行い、体積平均粒子径を得る。その他の詳細な条件等は必要によりJIS Z 8828:2013「粒子径解析-動的光散乱法」の記載を参照する。1水準につき5つの試料を作製しその平均値を採用する。
【0029】
無機固体電解質は、1種を単独で用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
固体電解質層を形成する場合、固体電解質層の単位面積(cm2)当たりの無機固体電解質の質量(mg)(目付量)は特に制限されるものではない。設計された電池容量に応じて、適宜に決めることができ、例えば、1~100mg/cm2とすることができる。
ただし、固体電解質組成物が後述する活物質を含有する場合、無機固体電解質の目付量は、活物質と無機固体電解質との合計量が上記範囲であることが好ましい。
【0030】
無機固体電解質の、固体電解質組成物中の含有量は、分散安定性、界面抵抗の低減及び結着性の点で、固形分100質量%において、5質量%以上であることが好ましく、70質量%以上であることがより好ましく、90質量%以上であることが特に好ましい。上限としては、同様の観点から、99.9質量%以下であることが好ましく、99.5質量%以下であることがより好ましく、99質量%以下であることが特に好ましい。
ただし、固体電解質組成物が後述する活物質を含有する場合、固体電解質組成物中の無機固体電解質の含有量は、活物質と無機固体電解質との合計含有量が上記範囲であることが好ましい。
本明細書において、固形分(固形成分)とは、固体電解質組成物を、1mmHgの気圧下、窒素雰囲気下170℃で6時間乾燥処理したときに、揮発又は蒸発して消失しない成分をいう。典型的には、後述の分散媒以外の成分を指す。
【0031】
<バインダー粒子>
本発明の固体電解質組成物は、平均粒径が1nm~10μmのバインダー粒子を含有する。固体電解質組成物に含有されるバインダー粒子は1種でも2種以上でもよい。固体電解質組成物が2種以上のバインダー粒子を含有する場合、そのうちの少なくとも1種が平均粒径1nm~10μmの特定のバインダー粒子であればよい。
このバインダー粒子は、本発明の全固体二次電池用電極シート及び全固体二次電池(構成層)においては、固体粒子同士(例えば、無機固体電解質同士、無機固体電解質と活物物質、活物質同士)を強固に結着させ、更には固体粒子と集電体とも強固に結着させるバインダーとして、機能する。更には、固体電解質組成物中においては、分散媒に固体粒子を高度にかつ高安定性で固体粒子を分散させる(分散剤若しくは乳化剤として)機能を有する。
【0032】
バインダー粒子の平均粒径は、10000nm以下であり、1000nm以下であることが好ましく、800nm以下であることがより好ましく、500nm以下であることが更に好ましく、400nm以下であることが特に好ましい。下限値は1nm以上であり、5nm以上であることが好ましく、10nm以上であることがより好ましく、50nm以上であることが更に好ましい。バインダー粒子の大きさを上記の範囲とすることにより、バインダー粒子を形成する重合体が固体粒子等との接触面積を強固な結着性が損なわれない範囲で小さくすることができ、低抵抗化することができる。すなわち、良好な結着性と界面抵抗の抑制とを実現することができる。
【0033】
バインダー粒子の平均粒径は、特に断らない限り、以下に記載の測定条件及び定義によるものとする。
バインダー粒子を適宜の溶媒(固体電解質組成物の調製に用いる有機溶媒、例えば、ヘプタン)を用いて20mLサンプル瓶中で1質量%の分散液を希釈調製する。希釈後の分散試料は、1kHzの超音波を10分間照射し、その直後に試験に使用する。この分散液試料を用い、レーザ回折/散乱式粒度分布測定装置LA-920(商品名、HORIBA社製)を用いて、温度25℃で測定用石英セルを使用してデータ取り込みを50回行い、得られた体積平均粒子径を平均粒径とする。その他の詳細な条件等は必要によりJIS Z 8828:2013「粒子径解析-動的光散乱法」の記載を参照する。1水準につき5つの試料を作製して測定し、その平均値を採用する。
なお、全固体二次電池を用いる場合は、例えば、全固体二次電池を分解して活物質層又は固体電解質層を剥がした後、その材料について上記バインダー粒子の平均粒径の測定方法に準じてその測定を行い、予め測定していたバインダー粒子以外の粒子の平均粒径の測定値を排除することにより行うことができる。
【0034】
バインダー粒子の、固体電解質組成物中での形状は、バインダーとして固体粒子を結着させることができれば特に制限されず、偏平状、無定形等であってもよいが、通常、球状若しくは粒状である。
【0035】
上記バインダー粒子は、特定の重合体を1種又は2種以上含み、好ましくは特定の重合体で形成されている(重合体の粒子である。)。
重合体のガラス転移温度は、特に制限されないが、30℃以下であることが好ましい。ガラス転移温度が30℃以下であると、固体電解質組成物の分散性、とりわけ分散安定性が高く、シート又は構成層としたときに低抵抗と強固な結着性とを示し、優れた電池性能を発揮する。その理由の詳細なまだ明らかではないが、固体粒子間を接着する際に、バインダー粒子が固体粒子表面の微細な凹凸に追随して変形し、接触面積を向上させるためであると考えられる。分散性、抵抗及び結着性の点で、ガラス転移温度は、25℃以下であることが好ましく、15℃以下であることがより好ましく、5℃以下であることが更に好ましい。ガラス転移温度の下限は、特に制限されず、例えば、-200℃に設定でき、-150℃以上であることが好ましく、-120℃以上であることがより好ましい。
【0036】
ガラス転移温度(Tg)は、バインダー粒子の乾燥試料を用いて、示差走査熱量計:X-DSC7000(商品名、SII・ナノテクノロジー社製)を用いて下記の条件で測定する。測定は同一の試料で二回実施し、二回目の測定結果を採用する。
測定室内の雰囲気:窒素ガス(50mL/min)
昇温速度:5℃/min
測定開始温度:-100℃
測定終了温度:200℃
試料パン:アルミニウム製パン
測定試料の質量:5mg
Tgの算定:DSCチャートの下降開始点と下降終了点の中間温度の小数点以下を四捨五入することでTgを算定する。
なお、全固体二次電池を用いる場合は、例えば、全固体二次電池を分解して活物質層又は固体電解質層を水に入れてその材料を分散させた後、ろ過を行い、残った固体を収集し、上記の測定法でガラス転移温度を測定することにより行うことができる。
【0037】
バインダー粒子を構成する重合体は、非晶質であることが好ましい。本発明において、重合体が「非晶質」であるとは、典型的には、上記ガラス転移温度の測定法で測定したときに結晶融解に起因する吸熱ピークが見られない重合体をいう。
【0038】
バインダー粒子を形成する重合体の重量平均分子量は、特に制限されない。例えば、3,000以上が好ましく、5,000以上がより好ましく、7,000以上が更に好ましい。上限としては、1,000,000以下が実質的であるが、架橋された態様も好ましい。
-分子量の測定-
本発明において重合体の分子量については、特に断らない限り、重量平均分子量をいい、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)によって標準ポリスチレン換算の重量平均分子量を計測する。測定法としては、基本として下記条件1又は条件2(優先)の方法により測定した値とする。ただし、重合体種によっては適宜適切な溶離液を選定して用いればよい。
(条件1)
カラム:TOSOH TSKgel Super AWM-Hを2本つなげる
キャリア:10mMLiBr/N-メチルピロリドン
測定温度:40℃
キャリア流量:1.0mL/min
試料濃度:0.1質量%
検出器:RI(屈折率)検出器
(条件2)優先
カラム:TOSOH TSKgel Super HZM-H、TOSOH TSKgel Super HZ4000、TOSOH TSKgel Super HZ2000をつないだカラムを用いる
キャリア:テトラヒドロフラン
測定温度:40℃
キャリア流量:1.0mL/min
試料濃度:0.1質量%
検出器:RI(屈折率)検出器
【0039】
加熱又は電圧の印加によって重合体の架橋が進行した場合には、上記分子量より大きな分子量となっていてもよい。好ましくは、全固体二次電池の使用開始時に、バインダー粒子を形成する重合体が上記範囲の重量平均分子量であることである。
【0040】
重合体の水分濃度は、100ppm(質量基準)以下が好ましい。
また、この重合体は、晶析させて乾燥させてもよく、重合体溶液をそのまま用いてもよい。金属系触媒(ウレタン化、ポリエステル化触媒=スズ、チタン、ビスマス)は少ない方が好ましい。重合時に少なくするか、晶析で触媒を除くことで、共重合体中の金属濃度を、100ppm(質量基準)以下とすることが好ましい。
【0041】
重合体は、後述する特定の構成成分を有し、上述の固体粒子のバインダー、更には分散剤等として機能するものであれば特に制限されず、その主鎖構造(種類)、結合様式等は適宜に設定できる。
本発明において、重合体は、上記特定構成成分を導く重合性化合物と、必要により、この重合性化合物と共重合しうる共重合化合物との(共)重合体である。重合性化合物は、重合体の種類に応じて特有の結合を形成しうる重合性基と、脂肪族炭化水素鎖及びシロキサン構造の少なくとも一方とを、所望により後述する連結部分で、結合した化合物である。
本発明において、重合体の主鎖とは、重合体(重合性化合物と必要によりこれと共重合可能な共重合性化合物が重合してなる)の分子鎖のうち、樹脂の種類(結合)を特徴付ける結合を含む分子鎖、通常最も長い分子鎖をいう。側鎖とは、重合体の主鎖から枝分かれしている分子鎖をいい、通常、重合性化合物又は共重合性化合物が有していた重合性基以外の部分構造(鎖)に相当する。
【0042】
重合体は、単独重合体、ブロック共重合体、交互共重合体又はランダム共重合体のいずれであってもよく、またグラフト共重合体でもよい。本発明においては、後述するように、重合性化合物がマクロモノマーではないことが好ましく、そのため、重合体は、単独重合体、ブロック共重合体、交互共重合体又はランダム共重合体のいずれかが好ましい。
【0043】
重合体(通常、主鎖を形成する分子鎖、ブロック共重合体の場合は1つのブロックを形成する分子鎖)としては、特に制限されず、例えば、ポリアミド、ポリイミド、ポリウレア、ウレタン樹脂又は(メタ)アクリル樹脂が好ましく、ポリウレア又は(メタ)アクリル樹脂がより好ましい。
ポリアミドは、少なくとも主鎖にアミド結合を有するポリマーであって、例えば、ジアミン化合物とジカルボン酸化合物との重縮合体、ラクタムの開環重合体が挙げられる。
ポリイミドは、少なくとも主鎖にイミド結合を有するポリマーであって、例えば、テトラカルボン酸とジアミン化合物との重縮合体(通常、テトラカルボン酸二無水物とジアミン化合物とを付加反応させてポリアミック酸を形成した後、閉環することで得られる。)が挙げられる。
ポリウレアは、少なくとも主鎖にウレア結合を有するポリマーであって、例えば、ジイソシアネート化合物とジアミン化合物との付加縮合体が挙げられる。
ウレタン樹脂は、少なくとも主鎖にウレタン結合を有するポリマーであって、例えば、ジイソシアネート化合物とジオール化合物との重付加体が挙げられる。
(メタ)アクリル樹脂は、その主鎖を形成する繰り返し単位として、(メタ)アクリル化合物を含む単量体の付加重合体である。(メタ)アクリル化合物としては、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸エステル、(メタ)アクリル酸アミド及びα,β-不飽和ニトリル化合物から選ばれる化合物を用いることが好ましい。
上記各重合体を形成する上記(共)重合性化合物は、上記重合反応しうる官能基を分子中に1つ又は少なくとも2つ有するものであれば特に制限されず、従来公知の化合物を適宜に選択して用いることができる。重合反応しうる官能基の数は、重合反応の種類に応じて決定される。例えば、連鎖重合である場合、官能基は少なくとも1つでよい。
【0044】
重合体は、重合体を構成する構成成分のうち、重合性化合物に由来する特定構成成分を少なくとも1種又は2種以上有する。
本発明において、重合体を構成する構成成分は、重合体が連鎖重合体である場合、繰り返し単位と同義であり、重合体が逐次重合体である場合、繰り返し単位を構成する、原料化合物に由来する部分構造をいう。例えば、重合体がウレタン樹脂である場合、ジイソシアネート化合物に由来する部分構造、及び、ジオール化合物に由来する部分構造をいう。重合体を形成する化合物は、特定の条件下で重合性を示すものであればよく、重合体の種類等に応じて適宜の官能基を有する化合物が選択される。例えば、上記重合体で説明した化合物又はその組み合わせが挙げられる。
【0045】
分子量1,000未満の重合性化合物に由来する特定構成成分は、上記脂肪族炭化水素鎖及びシロキサン構造を重合体の側鎖となる結合様式で重合体の少なくとも主鎖中に組み込まれ、特定構成成分全体が重合体の側鎖中のみに組み込まれることはない。
特定構成成分を導く重合性化合物の分子量が1,000未満であると、固体電解質組成物の分散性、とりわけ分散安定性が高く、シート又は構成層としたときに低抵抗と強固な結着性とを示し、優れた電池性能を発揮する。その理由の詳細なまだ明らかではないが、分子量が1,000未満であると、重合性化合物の重合反応性が高く、未反応の重合性化合物の残存が少なくなり、更には固体粒子同士の凝集による、分散性の悪化を抑制できている可能性があると考えられる。分散性、抵抗及び結着性の点で、重合性化合物の分子量は、150~999であることが好ましく、180~900であることがより好ましく、200~850であることが更に好ましい。
この重合性化合物は、マクロモノマー(重合体の主鎖に組み込まれる重合可能な官能基を持つ高分量のモノマーであって、通常グラフトポリマーを形成可能なモノマー)ではない化合物が好ましい。
【0046】
特定構成成分は、重合体の側鎖として、特定鎖長の脂肪族炭化水素鎖及びシロキサン構造の少なくとも一方を有する。このような脂肪族炭化水素鎖又はシロキサン構造を有する構成成分を重合体が含有していると、固体電解質組成物の分散性、とりわけ分散安定性が高く、シート又は構成層としたときに低抵抗と強固な結着性とを示し、優れた電池性能を発揮する。その理由の詳細なまだ明らかではないが、特定鎖長の脂肪族炭化水素鎖又はシロキサン構造はいずれも高い疎水性(又は低極性)を示すことから、分散媒中で、安定的に粒子状態として存在できるため、固体粒子が分散媒中に安定的に分散させることができ、しかも極性の高い固体粒子界面では、速やかに特定構成成分が動き、高極性部分が固体粒子表面に向くことで、結着性が良好となると考えられる。また、重合体の合成において、分散媒に固体粒子が分散したラテックスの形態として固体電解質組成物を調製できる。このような固体電解質組成物でシート又は構成層を形成すると、固体粒子間の界面接触を阻害することなく、固体粒子同士を強固に結着させることができる。その結果、固体粒子間の界面抵抗の上昇が抑えられ、Liイオン及び電子が固体粒子間を速やかに伝導して、優れた電池性能を示す。この優れた電池性能(例えば高出力)は、シート又は構成層に曲げ応力が作用しても、固体粒子同士の強固な結着性が損なわれることがなく、維持される。
特定構成成分が有する脂肪族炭化水素鎖及びシロキサン構造の数は、特に制限されず、例えば1~8個に設定でき、好ましくは1~4個であり、より好ましくは1個又は2個である。
【0047】
上記構成成分が有する脂肪族炭化水素鎖は、脂肪族炭化水素からなる炭素鎖であればよく、例えば、メタン系炭化水素(アルカン)、エチレン系炭化水素(アルケン)又はアセチレン系炭化水素(アルキン)が挙げられ、中でも、メタン系炭化水素が好ましい。
脂肪族炭化水素鎖は、10個以上の炭素原子が結合して形成される脂肪族炭化水素の鎖状構造であって、直鎖状、分枝鎖状又は環式鎖状のいずれでもよいが、分散性、抵抗及び結着性の点で、直鎖状が好ましい。脂肪族炭化水素鎖の炭素数は、脂肪族炭化水素鎖を形成する炭素原子の総数をいい、炭素数を計数する炭素原子は脂肪族性炭素原子であっても官能基を形成する炭素原子を含まない。例えば、炭素鎖にC(=O)OH基が結合している場合、カルボニル炭素原子は、置換基としてオキソ基及び水酸基を有する脂肪族炭化水素鎖を形成するものとして、炭素数に算入することはしない。
【0048】
上記構成成分が炭素数10以上の脂肪族炭化水素鎖を有していると、固体電解質組成物の分散性(分散安定性)が高く、シート又は構成層としたときに低抵抗と強固な結着性とを示す。分散性、抵抗及び結着性の点で、脂肪族炭化水素鎖の炭素数は、11個以上が好ましく、12個以上がより好ましい。一方、炭素数の上限は、特に制限されないが、例えば、50個以下に設定することができ、40個以下が好ましく、30個以下がより好ましい。
【0049】
脂肪族炭化水素鎖は、置換基を有していてもよい。脂肪族炭化水素鎖が有していてもよい置換基としては、特に制限されないが、好ましくは、ハロゲン原子(フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子)、シアノ基、アルコキシ基(炭素数1~20が好ましく、1~6がより好ましく、1~3が特に好ましい。)又はアリール基(炭素数6~26が好ましく、6~10がより好ましい。)である。
【0050】
上記構成成分は、上記脂肪族炭化水素鎖として、下記式(HC)で表される鎖構造を少なくとも1つ有することが好ましい。
【化2】
【0051】
式中、R1及びR2は、それぞれ、水素原子、ハロゲン原子、シアノ基、アルキル基、アルコキシ基又はアリール基を示す。中でも、R1及びR2は、それぞれ、水素原子、ハロゲン原子又はシアノ基が好ましく、水素原子がより好ましい。R1及びR2として採りうる、ハロゲン原子、アルコキシ基及びアリール基は、脂肪族炭化水素鎖が有していてもよい、ハロゲン原子、アルコキシ基及びアリール基と同義であり、好ましいものも同じである。R1及びR2として採りうるアルキル基は、特に制限されないが、炭素数1~20のアルキル基が好ましく、1~6のアルキル基がより好ましく、1~3のアルキル基が特に好ましい。式(HC)で表される鎖構造中、複数のR1及びR2は、それぞれ同じであっても異なっていてもよい。
【0052】
nは、炭素原子の結合数を示し、10以上の整数である。nの好ましい範囲は、上記脂肪族炭化水素鎖の炭素数と同じである。ただし、R1及びR2としてアルキル基を採る場合、nの炭素数はR1及びR2としてのアルキル基の炭素数を含む。
【0053】
バインダー粒子を構成する上記重合体が有する特定構成成分は、上記脂肪族炭化水素鎖に代えて又はとともにシロキサン構造を有する。
上記構成成分が有するシロキサン構造は、ケイ素原子と酸素原子とが交互に結合した構造であればよく、下記式(SO)で表される構造が好ましい。
【0054】
【0055】
R3及びR4は、それぞれ、水素原子、ヒドロキシ基、アルキル基(炭素数1~12が好ましく、1~6がより好ましく、1~3が特に好ましい。)、アルケニル基(炭素数2~12が好ましく、2~6がより好ましく、2又は3が特に好ましい。)、アルコキシ基(炭素数1~24が好ましく、1~12がより好ましく、1~6が更に好ましく、1~3が特に好ましい。)、アリール基(炭素数6~22が好ましく、6~14がより好ましく、6~10が特に好ましい。)、アラルキル基(炭素数7~23が好ましく、7~15がより好ましく、7~11が特に好ましい。)を示す。このアルキル基、アルケニル基、アリール基及びアラルキル基は置換基を有していてもよい。中でも、炭素数1~3のアルキル基、炭素数1~12のアルコキシ基又はフェニル基がより好ましく、炭素数1~3のアルキル基が更に好ましい。式(SO)で表される構造中、複数のR3及びR4はそれぞれ同じであっても異なっていてもよい。R3及びR4はそれぞれメチル基(ジメチルシロキサン構造)であることが更に好ましい。
mは、シロキサン構造中の結合数を示し、ポリシロキサン構造を有する特定構成成分の分子量1000未満の範囲内で適宜に設定される。例えば、100~999であることが好ましく、150~900であることがより好ましい。
【0056】
ポリシロキサン構造の端部に位置する基は、特に制限されないが、アルキル基(炭素数1~20が好ましく、1~6がより好ましく、1~3が好ましい。)、アルコキシ基(炭素数1~20が好ましく、1~6がより好ましく、1~3が特に好ましい。)、アリール基(炭素数6~26が好ましく、6~10がより好ましい。)、ヘテロ環基(好ましくは、少なくとも1つの酸素原子、硫黄原子、窒素原子を有し、炭素原子数2~20のヘテロ環基、5員環又は6員環が好ましい。)等が挙げられる。
【0057】
上記特定構成成分において、重合性基と上記脂肪族炭化水素鎖又はシロキサン構造とを連結する連結部分は、特に制限されず、重合体の種類等において適宜に設定される。例えば、アルキレン基(好ましくは炭素数1~30)、アリーレン基(好ましくは炭素数6~26)、カルボニル基(-CO-基)、エーテル結合(-O-)、イミノ基(-NR-:Rは水素原子又は置換基を示す。)、チオエーテル結合、スルホニル基(-SO2-)、ヒドロキシホスホリル基(-PO(OH)-)、アルコキシホスホリル基(-PO(OR)-:Rはアルキル基を示す。))、又は、これらを2~10個(好ましくは2~4個)組み合わせてなる基若しくは結合が挙げられる。中でも、アルキレン基、-CO-O-基、-CO-NR-基、アルキレン基-O-CO-基、アルキレン基-O-CO-アルキレン基-CO-O-基等が好ましい。
【0058】
上記重合体が逐次重合体である場合、繰り返し単位を形成する構成成分のうち少なくとも1つが上記特定構成成分であればよく、複数の構成成分が上記特定構成成分であってもよい。
【0059】
バインダー粒子を構成する上記重合体は、上述の特定構成成分に加えて、他の構成成分を含有していてもよい。他の構成成分としては、上記特定構成成分を導く重合性化合物と共重合可能な共重合性化合物に由来する成分であればよく、重合体の種類等に応じて、適宜に選択される。例えば、重合体が(メタ)アクリル樹脂である場合、ビニル重合性基を有する化合物、例えば、(メタ)アクリル化合物(上記脂肪族炭化水素鎖を有する分子量1,000未満の重合性化合物を除く。)、環状オレフィン化合物、ジエン化合物、スチレン化合物、ビニルエーテル化合物、カルボン酸ビニルエステル化合物、不飽和カルボン酸無水物等が挙げられる。
このような共重合性化合物としては、特許文献1の段落<0031>~<0035>に記載の「ビニル系モノマー」及び同段落<0036>~<0042>に記載の「アクリル系モノマー」(ただし、上記特定構成成分に相当するものを除く。)が挙げられる。
【0060】
重合体は、その構成成分として、SP値が10.5(cal1/2cm-3/2)以上である構成成分を有することが好ましい。本発明において、SP値(以下、単位を省略することがある。)が10.5以上である構成成分とは、この構成成分が重合体に組み込まれた構造でのSP値が10.5以上であることを意味する。
10.5以上のSP値を有する構成成分は、上記特定構成成分であっても上記他の構成成分であってもよいが、上記他の構成成分であることが好ましい(すなわち上記特定構成成分のSP値は10.5未満であることが好ましい。)。
【0061】
SP値は、電池特性の点で、11以上が好ましく、11.5以上がより好ましく、12以上が更に好ましい。一方、上限は特に制限されず、適宜に設定される。例えば、20以下が好ましく、17以下がより好ましく、15以下が更に好ましい。SP値は、特に断らない限り、Hoy法によって求めた値(H.L.Hoy Journal of Painting,1970,Vol.42,76-118)とする。
【0062】
構成成分のSP値を10.5以上に設定するためには、例えば、水酸基等の置換基を導入するなど、極性の高い官能基を導入する方法等が挙げられる。
SP値を10.5以上の構成成分を導く化合物としては、特に制限されず、例えば、(メタ)アクリル酸ヒドロキシアルキル、(メタ)アクリル酸(ポリオキシアルキレンエステル)、N-モノ若しくはジ(アルキル)(メタ)アクリル酸アミド、N-(ヒドロキシアルキル)(メタ)アクリル酸アミド、α,β-不飽和ニトリル化合物、ジオール化合物、ジアミン化合物、ジフェニルメタンジイソシアネート等、更には後述する実施例で用いた化合物等が挙げられる。
【0063】
重合体は、マクロモノマー、特に、上記重量平均分子量の測定方法と同様にして測定された数平均分子量1,000以上のマクロモノマーに由来する構成成分を実質的に含有しないことが好ましい。本発明において、実質的に含有しないとは、重合体が奏する上述の分散性及び結着性を損なわない範囲であれば含有していてもよいことを意味し、例えば、重合体中の含有率としては1質量%未満が挙げられる。
【0064】
重合体中の、上記特定構成成分の含有率は、特に制限されないが、固体電解質組成物の分散性、シート又は構成層の抵抗及び結着性の点で、0.1~70質量%であることが好ましく、0.3~60質量%であることがより好ましく、0.5~50質量%であることが更に好ましい。
重合体中の、上記共重合性化合物に由来する他の構成成分の総含有率は、上記特定構成成分の含有率、重合体のガラス転移温度、共重合性化合物のSP値等に応じて適宜に決定される。例えば、重合体中、30~99.9質量%であることが好ましく、40~99.7質量%であることがより好ましく、50~99.5質量%であることが更に好ましい。
重合体が共重合性化合物に由来する他の構成成分を複数含有する場合、他の構成成分の総含有率が上記範囲内となるのであれば、他の構成成分それぞれの含有量は、例えば、重合体のガラス転移温度及び共重合性化合物のSP値等に応じて、適宜に決定される。
【0065】
重合体が、SP値10.5以上の構成成分を含有する場合、この構成成分の含有率は、上記特定構成成分及び上記他の構成成分の各含有率等に応じて適宜に設定される。例えば、重合体中、3~99.9質量%であることが好ましく、4~90質量%であることがより好ましく、5~80質量%であることが更に好ましい。
SP値10.5以上の構成成分が、上記特定構成成分又は他の構成成分に相当する場合、SP値10.5以上の構成成分の含有率は、上記特定構成成分の含有率又は他の構成成分の総含有率に合算される。
本発明において、構成成分の含有率は、重合前の化合物(重合性化合物、共重合性化合物又はSP値が10.5以上である化合物)の分子量に換算して算出した含有率をいう。
【0066】
バインダー粒子を形成する重合体は、下記官能基群から選ばれる官能基を少なくとも1種有することが好ましい。
<官能基群>
酸性官能基、塩基性官能基、ヒドロキシ基、シアノ基、アルコキシシリル基、アリール基、ヘテロアリール基、及び、3環以上が縮環した炭化水素環基
【0067】
酸性官能基としては、特に制限されず、例えば、カルボン酸基(-COOH)、スルホン酸基(スルホ基:-SO3H)、リン酸基(ホスホ基:-OPO(OH)2)、ホスホン酸基及びホスフィン酸基が挙げられる。
塩基性官能基としては、特に制限されず、例えば、アミノ基、ピリジル基、イミノ基及びアミジンが挙げられる。
アルコキシシリル基としては、特に制限されず、炭素数1~6のアルコキシシリル基が好ましく、例えば、メトキシシリル、エトキシシリル、t-ブトキシシリル及びシクロヘキシルシリルが挙げられる。
アリール基としては、特に制限されず、炭素数6~10のアリール基が好ましく、例えば、フェニル及びナフチルが挙げられる。アリール基の環は単環若しくは2つの環が縮合した環が好ましい。
ヘテロアリール基としては、特に制限されず、4~10員のヘテロ環を有するものが好ましく、このヘテロ環を構成する炭素数は3~9が好ましい。ヘテロ環を構成するヘテロ原子は、例えば、酸素原子、窒素原子及び硫黄原子が挙げられる。ヘテロ環の具体例として、例えば、チオフェン、フラン、ピロール及びイミダゾールが挙げられる。
【0068】
3環以上が縮環した炭化水素環基は、上記アリール基以外の炭化水素環であって、炭化水素環が3環以上縮環した環基であれば特に限定されない。縮環する炭化水素環としては、飽和脂肪族炭化水素環、不飽和脂肪族炭化水素環及び芳香族炭化水素環(ベンゼン環)が挙げられる。炭化水素環は5員環又は6員環が好ましい。
3環以上が縮環した炭化水素環基は、少なくとも1つの芳香族炭化水素環を含む3環以上縮環した環基、又は、飽和脂肪族炭化水素環若しくは不飽和脂肪族炭化水素環が3環以上縮環した環基が好ましい。縮環する環数は特に制限されないが、3~8環が好ましく、3~5環がより好ましい。
【0069】
少なくとも1つの芳香族炭化水素環を含む3環以上縮環した環基としては特に制限されないが、例えば、アントラセン、フェナントラセン、ピレン、テトラセン、テトラフェン、クリセン、トリフェニレン、ペンタセン、ペンタフェン、ペリレン、ピレン、ベンゾ[a]ピレン、コロネン、アンタントレン、コランヌレン、オバレン、グラフェン、シクロパラフェニレン、ポリパラフェニレン又はシクロフェンからなる環基が挙げられる。
【0070】
飽和脂肪族炭化水素環若しくは不飽和脂肪族炭化水素環が3環以上縮環した環基としては特に制限されないが、例えば、ステロイド骨格を有する化合物からなる環基が挙げられる。ステロイド骨格を有する化合物としては、例えば、コレステロール、エルゴステロール、テストステロン、エストラジオール、エルドステロール、アルドステロン、ヒドロコルチゾン、スチグマステロール、チモステロール、ラノステロール、7-デヒドロデスモステロール、7-デヒドロコレステロール、コラン酸、コール酸、リトコール酸、デオキシコール酸、デオキシコール酸ナトリウム、デオキシコール酸リチウム、ヒオデオキシコール酸、ケノデオキシコール酸、ウルソデオキシコール酸、デヒドロコール酸、ホケコール酸又はヒオコール酸の化合物からなる環基が挙げられる。
3環以上が縮環した炭化水素環基としては、上記の中でも、コレステロール環構造を有する化合物からなる環基又はピレニル基がより好ましい。
【0071】
上記官能基は、固体粒子と相互作用することにより、バインダー粒子が奏する、固体粒子同士の結着機能を、更に補強することができる。この相互作用は特に制限されないが、例えば、水素結合によるもの、酸-塩基によるイオン結合によるもの、共有結合によるもの、芳香環によるπ-π相互作用によるもの、又は、疎水-疎水相互作用によるもの等が挙げられる。上記固体粒子とバインダー粒子とは、官能基の種類と、上述の粒子の種類とによって、1つ又は2つ以上の上記相互作用によって、吸着する。
官能基が相互作用する場合、官能基の化学構造は変化しても変化しなくてもよい。例えば、上記π-π相互作用等においては、通常、官能基は変化せず、そのままの構造を維持する。一方、共有結合等による相互作用においては、通常、カルボン酸基等の活性水素が離脱したアニオンとなって(官能基が変化して)無機固体電解質と結合する。
【0072】
正極活物質及び無機固体電解質に対しては、カルボン酸基、スルホン酸基、リン酸基、ヒドロキシ基、シアノ基、アルコキシシリル基が好適に吸着する。中でもカルボン酸基が特に好ましい。
負極活物質及び導電助剤に対しては、アリール基、ヘテロアリール基、3環以上が縮環した脂肪族炭化水素環基が好適に吸着する。中でも、3環以上が縮環した炭化水素環基が特に好ましい。
【0073】
官能基は、重合体の主鎖、側鎖又はこれらの末端のいずれに有していてもよいが、側鎖又はその末端に導入されていることがより好ましい。例えば、上記特定構成成分においては、上記脂肪族炭化水素鎖又は上記連結部分に導入されていることが好ましい。
重合体が有する官能基数は、少なくとも1つであればよいが、好ましくは2つ以上であり、具体的には、この官能基を有する構成成分の含有率(モル)と重合体のモル数によって決定される。
上記官能基の重合体への導入方法は、特に制限されず、例えば、上記官能基を有する化合物を重合する方法、重合体中の水素原子等を上記官能基で置換する方法等が挙げられる。
【0074】
バインダー粒子は、市販品を用いることができ、また、界面活性剤、乳化剤若しくは分散剤、縮合触媒等の存在下で、重合性化合物、共重合性化合物等を通常の重合反応又は縮合反応等に準じて重合し、調製することができる。調製する場合、重合性化合物が乳化剤として機能するため、重合体は通常球状若しくは粒状の樹脂粒子として形成される。重合体の平均粒径は、重合性化合物、共重合性化合物等の種類、分散成分量、重合温度、滴下時間、滴下方法によって、所定の範囲に適宜に設定できる。
重合体の重合反応又は縮合反応に用いる溶媒は特に制限されない。なお、無機固体電解質又は活物質と反応しないこと、更にそれらを分解しない溶媒を用いることが好ましい。例えば、炭化水素溶媒(トルエン、ヘプタン、キシレン)、エステル溶媒(酢酸エチル、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート)、エーテル溶媒(テトラヒドロフラン、ジオキサン、1,2-ジエトキシエタン)、ケトン溶媒(アセトン、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン)、ニトリル溶媒(アセトニトリル、プロピオニトリル、ブチロニトリル、イソブチロニトリル)、ハロゲン溶媒(ジクロロメタン、クロロホルム)を用いることができる。
【0075】
固体電解質組成物中の、バインダー粒子の含有量は、その固形分中、0.1質量%以上であることが好ましく、0.2質量%以上であることがより好ましく、0.3質量%以上であることが特に好ましい。上限としては、30質量%以下であることが好ましく、20質量%以下であることがより好ましく、10質量%以下であることが特に好ましい。
バインダー粒子を上記の範囲で用いることにより、一層効果的に固体電解質の固着性と界面抵抗の抑制性とを両立して実現することができる。
【0076】
<分散媒>
本発明の固体電解質組成物は、分散媒(分散媒体)を含有する。
分散媒は、上記の各成分を分散させるものであればよく、例えば、各種の有機溶媒が挙げられる。有機溶媒としては、アルコール化合物、エーテル化合物、アミド化合物、アミン化合物、ケトン化合物、芳香族化合物、脂肪族化合物、ニトリル化合物、エステル化合物等の各溶媒が挙げられ、その分散媒の具体例としては下記のものが挙げられる。
【0077】
アルコール化合物としては、例えば、メチルアルコール、エチルアルコール、1-プロピルアルコール、2-プロピルアルコール、2-ブタノール、エチレングリコール、プロピレングリコール、グリセリン、1,6-ヘキサンジオール、シクロヘキサンジオール、ソルビトール、キシリトール、2-メチル-2,4-ペンタンジオール、1,3-ブタンジオール、1,4-ブタンジオールが挙げられる。
【0078】
エーテル化合物としては、アルキレングリコールアルキルエーテル(エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコール、ジプロピレングリコール、プロピレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、トリエチレングリコール、ポリエチレングリコール、プロピレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、トリプロピレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル等)、ジアルキルエーテル(ジメチルエーテル、ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、ジブチルエーテル等)、環状エーテル(テトラヒドロフラン、ジオキサン(1,2-、1,3-及び1,4-の各異性体を含む)等)が挙げられる。
【0079】
アミド化合物としては、例えば、N,N-ジメチルホルムアミド、N-メチル-2-ピロリドン、2-ピロリジノン、1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノン、ε-カプロラクタム、ホルムアミド、N-メチルホルムアミド、アセトアミド、N-メチルアセトアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、N-メチルプロパンアミド、ヘキサメチルホスホリックトリアミドなどが挙げられる。
【0080】
アミン化合物としては、例えば、トリエチルアミン、ジイソプロピルエチルアミン、トリブチルアミンなどが挙げられる。
ケトン化合物としては、例えば、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノンなどが挙げられる。
芳香族化合物としては、例えば、ベンゼン、トルエン、キシレンなどが挙げられる。
脂肪族化合物としては、例えば、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、デカンなどが挙げられる。
ニトリル化合物としては、例えば、アセトニトリル、プロピロニトリル、イソブチロニトリルなどが挙げられる。
エステル化合物としては、例えば、酢酸エチル、酢酸ブチル、酢酸プロピル、酪酸ブチル、ペンタン酸ブチルなどが挙げられる。
非水系分散媒としては、上記芳香族化合物、脂肪族化合物等が挙げられる。
【0081】
本発明においては、中でも、アミン化合物、エーテル化合物、ケトン化合物、芳香族化合物、脂肪族化合物が好ましく、エーテル化合物、芳香族化合物及び脂肪族化合物が更に好ましい。本発明においては、硫化物系無機固体電解質を用いて、更に上記の特定の有機溶媒を選定することが好ましい。この組み合わせを選定することにより、硫化物系無機固体電解質に対して活性な官能基が含まれないため硫化物系無機固体電解質を安定に取り扱え、好ましい。特に硫化物系無機固体電解質と脂肪族化合物との組み合わせが好ましい。
【0082】
分散媒は常圧(1気圧)での沸点が50℃以上であることが好ましく、70℃以上であることがより好ましい。上限は250℃以下であることが好ましく、220℃以下であることが更に好ましい。
上記分散媒は、1種を単独で用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0083】
本発明において、固体電解質組成物中の、分散媒の含有量は、特に制限されず適宜に設定することができる。例えば、固体電解質組成物中、20~99質量%が好ましく、25~70質量%がより好ましく、30~60質量%が特に好ましい。
【0084】
<活物質>
本発明の固体電解質組成物には、周期律表第1族若しくは第2族に属する金属のイオンの挿入放出が可能な活物質をさらに含有してもよい。活物質としては、以下に説明するが、正極活物質及び負極活物質が挙げられ、正極活物質である遷移金属酸化物(好ましくは遷移金属酸化物)、又は、負極活物質である金属酸化物若しくはSn、Si、Al及びIn等のリチウムと合金形成可能な金属が好ましい。
本発明において、活物質(正極活物質又は負極活物質)を含有する固体電解質組成物を、電極層用組成物(正極層用組成物又は負極層用組成物)ということがある。
【0085】
(正極活物質)
本発明の固体電解質組成物が含有してもよい正極活物質は、可逆的にリチウムイオンを挿入及び/又は放出できるものが好ましい。その材料は、上記特性を有するものであれば、特に制限はなく、遷移金属酸化物、又は、硫黄などのLiと複合化できる元素などでもよい。
中でも、正極活物質としては、遷移金属酸化物を用いることが好ましく、遷移金属元素Ma(Co、Ni、Fe、Mn、Cu及びVから選択される1種以上の元素)を有する遷移金属酸化物がより好ましい。また、この遷移金属酸化物に元素Mb(リチウム以外の金属周期律表の第1(Ia)族の元素、第2(IIa)族の元素、Al、Ga、In、Ge、Sn、Pb、Sb、Bi、Si、P及びBなどの元素)を混合してもよい。混合量としては、遷移金属元素Maの量(100mol%)に対して0~30mol%が好ましい。Li/Maのモル比が0.3~2.2になるように混合して合成されたものが、より好ましい。
遷移金属酸化物の具体例としては、(MA)層状岩塩型構造を有する遷移金属酸化物、(MB)スピネル型構造を有する遷移金属酸化物、(MC)リチウム含有遷移金属リン酸化合物、(MD)リチウム含有遷移金属ハロゲン化リン酸化合物及び(ME)リチウム含有遷移金属ケイ酸化合物等が挙げられる。
【0086】
(MA)層状岩塩型構造を有する遷移金属酸化物の具体例として、LiCoO2(コバルト酸リチウム[LCO])、LiNi2O2(ニッケル酸リチウム)、LiNi0.85Co0.10Al0.05O2(ニッケルコバルトアルミニウム酸リチウム[NCA])、LiNi1/3Co1/3Mn1/3O2(ニッケルマンガンコバルト酸リチウム[NMC])、LiNi0.5Mn0.5O2(マンガンニッケル酸リチウム)が挙げられる。
(MB)スピネル型構造を有する遷移金属酸化物の具体例として、LiMn2O4(LMO)、LiCoMnO4、Li2FeMn3O8、Li2CuMn3O8、Li2CrMn3O8及びLi2NiMn3O8が挙げられる。
(MC)リチウム含有遷移金属リン酸化合物としては、例えば、LiFePO4及びLi3Fe2(PO4)3等のオリビン型リン酸鉄塩、LiFeP2O7等のピロリン酸鉄類、LiCoPO4等のリン酸コバルト類並びにLi3V2(PO4)3(リン酸バナジウムリチウム)等の単斜晶ナシコン型リン酸バナジウム塩が挙げられる。
(MD)リチウム含有遷移金属ハロゲン化リン酸化合物としては、例えば、Li2FePO4F等のフッ化リン酸鉄塩、Li2MnPO4F等のフッ化リン酸マンガン塩及びLi2CoPO4F等のフッ化リン酸コバルト類が挙げられる。
(ME)リチウム含有遷移金属ケイ酸化合物としては、例えば、Li2FeSiO4、Li2MnSiO4、Li2CoSiO4等が挙げられる。
本発明では、(MA)層状岩塩型構造を有する遷移金属酸化物が好ましく、LCO又はNMCがより好ましい。
【0087】
正極活物質の形状は特に制限されないが粒子状が好ましい。正極活物質の体積平均粒子径(球換算平均粒子径)は特に制限されない。例えば、0.1~50μmとすることができる。正極活物質を所定の粒子径にするには、通常の粉砕機又は分級機を用いればよい。焼成法によって得られた正極活物質は、水、酸性水溶液、アルカリ性水溶液、有機溶剤にて洗浄した後使用してもよい。正極活物質粒子の体積平均粒子径(球換算平均粒子径)は、レーザ回折/散乱式粒度分布測定装置LA-920(商品名、HORIBA社製)を用いて測定することができる。
【0088】
上記正極活物質は、1種を単独で用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
正極活物質層を形成する場合、正極活物質層の単位面積(cm2)当たりの正極活物質の質量(mg)(目付量)は特に制限されるものではない。設計された電池容量に応じて、適宜に決めることができ、例えば、1~100mg/cm2とすることができる。
【0089】
正極活物質の、固体電解質組成物中における含有量は特に制限されず、固形分100質量%において、10~97質量%が好ましく、30~95質量%がより好ましく、40~93質量が更に好ましく、50~90質量%が特に好ましい。
【0090】
(負極活物質)
本発明の固体電解質組成物が含有してもよい負極活物質は、可逆的にリチウムイオンを挿入及び/又は放出できるものが好ましい。その材料は、上記特性を有するものであれば、特に制限はなく、炭素質材料、酸化錫等の金属酸化物、酸化ケイ素、金属複合酸化物、リチウム単体又はリチウムアルミニウム合金等のリチウム合金、並びに、Sn、Si、Al、In等のリチウムと合金形成可能な金属等が挙げられる。中でも、炭素質材料又はリチウム複合酸化物が信頼性の点から好ましく用いられる。また、金属複合酸化物としては、リチウムを吸蔵、放出可能であることが好ましい。その材料は、特には制限されないが、構成成分としてチタン及び/又はリチウムを含有していることが、高電流密度充放電特性の観点で好ましい。
【0091】
負極活物質として用いられる炭素質材料とは、実質的に炭素からなる材料である。例えば、石油ピッチ、アセチレンブラック(AB)等のカーボンブラック、黒鉛(天然黒鉛、気相成長黒鉛等の人造黒鉛等)、及びPAN(ポリアクリロニトリル)系の樹脂若しくはフルフリルアルコール樹脂等の各種の合成樹脂を焼成した炭素質材料を挙げることができる。更に、PAN系炭素繊維、セルロース系炭素繊維、ピッチ系炭素繊維、気相成長炭素繊維、脱水PVA(ポリビニルアルコール)系炭素繊維、リグニン炭素繊維、ガラス状炭素繊維、活性炭素繊維等の各種炭素繊維類、メソフェーズ微小球体、グラファイトウィスカー、平板状の黒鉛等を挙げることもできる。
【0092】
これらの炭素質材料は、黒鉛化の程度により難黒鉛化炭素質材料と黒鉛系炭素質材料に分けることもできる。また炭素質材料は、特開昭62-22066号公報、特開平2-6856号公報、同3-45473号公報に記載される面間隔又は密度、結晶子の大きさを有することが好ましい。炭素質材料は、単一の材料である必要はなく、特開平5-90844号公報記載の天然黒鉛と人造黒鉛の混合物、特開平6-4516号公報記載の被覆層を有する黒鉛等を用いることもできる。
【0093】
負極活物質として適用される金属酸化物及び金属複合酸化物としては、特に非晶質酸化物が好ましく、更に金属元素と周期律表第16族の元素との反応生成物であるカルコゲナイトも好ましく用いられる。ここでいう非晶質とは、CuKα線を用いたX線回折法で、2θ値で20°~40°の領域に頂点を有するブロードな散乱帯を有するものを意味し、結晶性の回折線を有してもよい。2θ値で40°以上70°以下に見られる結晶性の回折線の内最も強い強度が、2θ値で20°以上40°以下に見られるブロードな散乱帯の頂点の回折線強度の100倍以下であるのが好ましく、5倍以下であるのがより好ましく、結晶性の回折線を有さないことが特に好ましい。
【0094】
上記非晶質酸化物及びカルコゲナイドからなる化合物群の中でも、半金属元素の非晶質酸化物、及びカルコゲナイドがより好ましく、周期律表第13(IIIB)族~15(VB)族の元素、Al、Ga、Si、Sn、Ge、Pb、Sb及びBiの一種単独あるいはそれらの2種以上の組み合わせからなる酸化物、並びにカルコゲナイドが特に好ましい。好ましい非晶質酸化物及びカルコゲナイドの具体例としては、例えば、Ga2O3、SiO、GeO、SnO、SnO2、PbO、PbO2、Pb2O3、Pb2O4、Pb3O4、Sb2O3、Sb2O4、Sb2O8Bi2O3、Sb2O8Si2O3、Bi2O4、SnSiO3、GeS、SnS、SnS2、PbS、PbS2、Sb2S3、Sb2S5及びSnSiS3が好ましく挙げられる。また、これらは、酸化リチウムとの複合酸化物、例えば、Li2SnO2であってもよい。
【0095】
負極活物質はチタン原子を含有することも好ましい。より具体的にはLi4Ti5O12(チタン酸リチウム[LTO])がリチウムイオンの吸蔵放出時の体積変動が小さいことから急速充放電特性に優れ、電極の劣化が抑制されリチウムイオン二次電池の寿命向上が可能となる点で好ましい。
【0096】
本発明においては、ハードカーボン又は黒鉛が好ましく用いられ、黒鉛がより好ましく用いられる。本発明において、上記炭素質材料は1種単独でも2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0097】
本発明においては、Si系の負極を適用することもまた好ましい。一般的にSi負極は、炭素負極(黒鉛及びアセチレンブラックなど)に比べて、より多くのLiイオンを吸蔵できる。すなわち、単位重量あたりのLiイオンの吸蔵量が増加する。そのため、電池容量を大きくすることができる。その結果、バッテリー駆動時間を長くすることができるという利点がある。
【0098】
上記焼成法により得られた化合物の化学式は、測定方法として誘導結合プラズマ(ICP)発光分光分析法、簡便法として、焼成前後の粉体の質量差から算出できる。
【0099】
Sn、Si、Geを中心とする非晶質酸化物負極活物質に併せて用いることができる負極活物質としては、リチウムイオン又はリチウム金属を吸蔵及び/又は放出できる炭素材料、リチウム、リチウム合金、リチウムと合金可能な金属が好適に挙げられる。
【0100】
負極活物質の形状は特に制限されないが粒子状が好ましい。負極活物質の平均粒子径は、0.1~60μmが好ましい。所定の粒子径にするには、通常の粉砕機又は分級機が用いられる。例えば、乳鉢、ボールミル、サンドミル、振動ボールミル、衛星ボールミル、遊星ボールミル、旋回気流型ジェットミル又は篩などが好適に用いられる。粉砕時には水、あるいはメタノール等の有機溶媒を共存させた湿式粉砕も必要に応じて行うことができる。所望の粒子径とするためには分級を行うことが好ましい。分級方法としては、特に制限はなく、篩、風力分級機などを必要に応じて用いることができる。分級は乾式、湿式ともに用いることができる。負極活物質粒子の平均粒子径は、前述の正極活物質の体積平均粒子径の測定方法と同様の方法により測定することができる。
【0101】
上記負極活物質は、1種を単独で用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
負極活物質層を形成する場合、負極活物質層の単位面積(cm2)当たりの負極活物質の質量(mg)(目付量)は特に制限されるものではない。設計された電池容量に応じて、適宜に決めることができ、例えば、1~100mg/cm2とすることができる。
【0102】
負極活物質の、固体電解質組成物中における含有量は特に制限されず、固形分100質量%において、10~90質量%であることが好ましく、20~85質量%がより好ましく、30~80質量%であることがより好ましく、40~75質量%であることが更に好ましい。
【0103】
(活物質の被覆)
正極活物質及び負極活物質の表面は別の金属酸化物で表面被覆されていてもよい。表面被覆剤としてはTi、Nb、Ta、W、Zr、Al、Si又はLiを含有する金属酸化物等が挙げられる。具体的には、チタン酸スピネル、タンタル系酸化物、ニオブ系酸化物、ニオブ酸リチウム系化合物等が挙げられ、具体的には、Li4Ti5O12、Li2Ti2O5、LiTaO3、LiNbO3、LiAlO2、Li2ZrO3、Li2WO4、Li2TiO3、Li2B4O7、Li3PO4、Li2MoO4、Li3BO3、LiBO2、Li2CO3、Li2SiO3、SiO2、TiO2、ZrO2、Al2O3、B2O3等が挙げられる。
また、正極活物質又は負極活物質を含む電極表面は硫黄又はリンで表面処理されていてもよい。
更に、正極活物質又は負極活物質の粒子表面は、上記表面被覆の前後において活性光線又は活性気体(プラズマ等)により表面処理を施されていてもよい。
【0104】
<導電助剤>
本発明の固体電解質組成物は、活物質の電子導電性を向上させる等のために用いられる導電助剤を適宜必要に応じて含有してもよい。導電助剤としては、一般的な導電助剤を用いることができる。例えば、電子伝導性材料である、天然黒鉛、人造黒鉛などの黒鉛類、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、ファーネスブラックなどのカーボンブラック類、ニードルコークスなどの無定形炭素、気相成長炭素繊維若しくはカーボンナノチューブなどの炭素繊維類、グラフェン若しくはフラーレンなどの炭素質材料であってもよいし、銅、ニッケルなどの金属粉、金属繊維でも良く、ポリアニリン、ポリピロール、ポリチオフェン、ポリアセチレン、ポリフェニレン誘導体などの導電性高分子を用いてもよい。またこれらの内1種を用いてもよいし、2種以上を用いてもよい。
本発明の固体電解質組成物が導電助剤を含む場合、固体電解質組成物中の導電助剤の含有量は、0~10質量%が好ましい。
【0105】
<リチウム塩>
本発明の固体電解質組成物は、リチウム塩(支持電解質)を含有することも好ましい。
リチウム塩としては、通常この種の製品に用いられるリチウム塩が好ましく、特に制限はなく、例えば、特開2015-088486の段落0082~0085記載のリチウム塩が好ましい。
本発明の固体電解質組成物がリチウム塩を含む場合、リチウム塩の含有量は、固体電解質100質量部に対して、0.1質量部以上が好ましく、5質量部以上がより好ましい。上限としては、50質量部以下が好ましく、20質量部以下がより好ましい。
【0106】
<分散剤>
本発明の固体電解質組成物は、固体粒子の分散剤(乳化剤)としても機能するバインダー粒子を含有しているため、バインダー粒子以外の分散剤を含有していなくてもよいが、必要であれば分散剤を含有してもよい。無機固体電解質等の凝集を抑制し、均一な活物質層及び固体電解質層を形成することができる。分散剤としては、全固体二次電池に通常使用されるものを適宜選定して用いることができる。一般的には粒子吸着と立体反発及び/又は静電反発を意図した化合物が好適に使用される。
【0107】
<他の添加剤>
本発明の固体電解質組成物は、上記各成分以外の他の成分として、所望により、イオン液体、増粘剤、架橋剤(ラジカル重合、縮合重合又は開環重合により架橋反応するもの等)、重合開始剤(酸又はラジカルを熱又は光によって発生させるものなど)、消泡剤、レベリング剤、脱水剤、酸化防止剤等を含有することができる。
イオン液体は、イオン伝導度をより向上させるため含有されるものであり、公知のものを特に制限されることなく用いることができる。
【0108】
(固体電解質組成物の調製)
本発明の固体電解質組成物は、無機固体電解質、バインダー粒子及び分散媒、必要により他の成分を、例えば、各種の混合機を用いて、混合することにより、好ましくはスラリーとして、調製することができる。
混合方法は特に制限されず、一括して混合してもよく、順次混合してもよい。
混合機としては特に制限されないが、例えば、ボールミル、ビーズミル、プラネタリミキサー、ブレードミキサー、ロールミル、ニーダー及びディスクミルが挙げられる。混合条件は特に制限されず、例えば、混合温度は10~60℃、混合時間は5分~5時間、回転数は10~700rpm(rotation per minute)に設定される。混合機としてボールミルを用いる場合、上記混合温度において、回転数は150~700rpm、混合時間は5分~24時間に設定することが好ましい。なお、各成分の配合量は、上記含有量となるように設定されることが好ましい。
混合する環境は特に制限されないが、乾燥空気下又は不活性ガス下等が挙げられる。
【0109】
本発明の活物質層形成用組成物は、固体粒子の再凝集を抑えて固体粒子を高度に分散させることができ、組成物の分散状態を維持できる(高い分散安定性を示す。)。そのため、後述するように、全固体二次電池の活物質層、又は、全固体二次電池用電極シートを形成する材料として好ましく用いられる。
【0110】
[全固体二次電池用シート]
本発明の全固体二次電池用シートは、全固体二次電池の構成層を形成しうるシート状成形体であって、その用途に応じて種々の態様を含む。例えば、固体電解質層に好ましく用いられるシート(全固体二次電池用固体電解質シートともいう。)、電極、又は電極と固体電解質層との積層体に好ましく用いられるシート(全固体二次電池用電極シート)等が挙げられる。本発明において、これら各種のシートをまとめて全固体二次電池用シートということがある。
【0111】
本発明の全固体二次電池用固体電解質シートは、固体電解質層を有するシートであればよく、固体電解質層が基材上に形成されているシートでも、基材を有さず、固体電解質層から形成されているシートであってもよい。全固体二次電池用固体電解質シートは、固体電解質層を有していれば、他の層を有してもよい。他の層としては、例えば、保護層(剥離シート)、集電体、コート層等が挙げられる。
本発明の全固体二次電池用固体電解質シートとして、例えば、基材上に、固体電解質層と、必要により保護層とをこの順で有するシートが挙げられる。
基材としては、固体電解質層を支持できるものであれば特に限定されず、後述する集電体で説明する材料、有機材料、無機材料等のシート体(板状体)等が挙げられる。有機材料としては、各種ポリマー等が挙げられ、具体的には、ポリエチレンテレフタレート、ポリプロピレン、ポリエチレン、セルロース等が挙げられる。無機材料としては、例えば、ガラス、セラミック等が挙げられる。
【0112】
全固体二次電池用シートの固体電解質層の構成、層厚は、本発明の全固体二次電池において説明した固体電解質層の構成、層厚と同じである。
【0113】
本発明の全固体二次電池用電極シート(単に「本発明の電極シート」ともいう。)は、活物質層を有する電極シートであればよく、活物質層が基材(集電体)上に形成されているシートでも、基材を有さず、活物質層から形成されているシートであってもよい。この電極シートは、通常、集電体及び活物質層を有するシートであるが、集電体、活物質層及び固体電解質層をこの順に有する態様、並びに、集電体、活物質層、固体電解質層及び活物質層をこの順に有する態様も含まれる。本発明の電極シートは、活物質層を有していれば、上述の他の層を有してもよい。本発明の電極シートを構成する各層の層厚は、後述する全固体二次電池において説明した各層の層厚と同じである。
【0114】
[全固体二次電池用シートの製造]
本発明の全固体二次電池用シートの製造方法は、特に制限されず、本発明の固体電解質組成物を用いて、上記の各層を形成することにより、製造できる。例えば、必要により基材若しくは集電体上(他の層を介していてもよい。)に、製膜(塗布乾燥)して固体電解質組成物からなる層(塗布乾燥層)を形成する方法が挙げられる。これにより、必要により基材若しくは集電体と、塗布乾燥層とを有する全固体二次電池用シートを作製することができる。ここで、塗布乾燥層とは、本発明の固体電解質組成物を塗布し、分散媒を乾燥させることにより形成される層(すなわち、本発明の固体電解質組成物を用いてなり、本発明の固体電解質組成物から分散媒を除去した組成からなる層)をいう。
本発明の全固体二次電池用シートの製造方法において、塗布、乾燥等の各工程については、下記全固体二次電池の製造方法において説明する。
【0115】
本発明の全固体二次電池用シートの製造方法においては、上記のようにして得られた塗布乾燥層を加圧することもできる。加圧条件等については、後述する、全固体二次電池の製造方法において説明する。
また、本発明の全固体二次電池用シートの製造方法においては、基材、保護層(特に剥離シート)等を剥離することもできる。
【0116】
本発明の全固体二次電池用シートは、固体電解質層及び活物質層の少なくとも1層が本発明の固体電解質組成物で形成され、固体粒子間の界面抵抗の上昇を効果的に抑え、しかも固体粒子同士が強固に結着している。したがって、全固体二次電池の構成層を形成しうるシートとして好適に用いられる。特に、全固体二次電池用シートを長尺状でライン製造して(搬送中の巻き取っても)、また、捲回型電池として用いる場合において、固体電解質層及び活物質層に曲げ応力が作用しても、固体電解質層及び活物質層における固体粒子の結着状態を維持できる。このような製造法で製造した全固体二次電池用シートを用いて全固体二次電池を製造すると、優れた電池性能を維持しつつも、高い生産性及び歩留まり(再現性)を実現できる。
【0117】
[全固体二次電池]
本発明の全固体二次電池は、正極活物質層と、この正極活物質層に対向する負極活物質層と、正極活物質層及び負極活物質層の間に配置された固体電解質層とを有する。正極活物質層は、必要により正極集電体上に形成され、正極を構成する。負極活物質層は、必要により負極集電体上に形成され、負極を構成する。
負極活物質層、正極活物質層及び固体電解質層の少なくとも1つの層は、本発明の固体電解質組成物で形成されることが好ましく、中でも、全ての層が本発明の固体電解質組成物で形成されることがより好ましい。本発明の固体電解質組成物で形成された活物質層又は固体電解質層は、好ましくは、含有する成分種及びその含有量比について、本発明の固体電解質組成物の固形分におけるものと同じである。なお、活物質層又は固体電解質層が本発明の固体電解質組成物で形成されない場合、公知の材料を用いることができる。
負極活物質層、固体電解質層及び正極活物質層の厚さは、それぞれ、特に制限されない。各層の厚さは、一般的な全固体二次電池の寸法を考慮すると、それぞれ、10~1,000μmが好ましく、20μm以上500μm未満がより好ましい。本発明の全固体二次電池においては、正極活物質層及び負極活物質層の少なくとも1層の厚さが、50μm以上500μm未満であることが更に好ましい。
正極活物質層及び負極活物質層は、それぞれ、固体電解質層とは反対側に集電体を備えていてもよい。
【0118】
〔筐体〕
本発明の全固体二次電池は、用途によっては、上記構造のまま全固体二次電池として使用してもよいが、乾電池の形態とするためには更に適当な筐体に封入して用いることが好ましい。筐体は、金属性のものであっても、樹脂(プラスチック)製のものであってもよい。金属性のものを用いる場合には、例えば、アルミニウム合金又は、ステンレス鋼製のものを挙げることができる。金属性の筐体は、正極側の筐体と負極側の筐体に分けて、それぞれ正極集電体及び負極集電体と電気的に接続させることが好ましい。正極側の筐体と負極側の筐体とは、短絡防止用のガスケットを介して接合され、一体化されることが好ましい。
【0119】
以下に、
図1を参照して、本発明の好ましい実施形態に係る全固体二次電池について説明するが、本発明はこれに限定されない。
【0120】
図1は、本発明の好ましい実施形態に係る全固体二次電池(リチウムイオン二次電池)を模式化して示す断面図である。本実施形態の全固体二次電池10は、負極側からみて、負極集電体1、負極活物質層2、固体電解質層3、正極活物質層4、正極集電体5を、この順に有する。各層はそれぞれ接触しており、隣接した構造をとっている。このような構造を採用することで、充電時には、負極側に電子(e
-)が供給され、そこにリチウムイオン(Li
+)が蓄積される。一方、放電時には、負極に蓄積されたリチウムイオン(Li
+)が正極側に戻され、作動部位6に電子が供給される。図示した例では、作動部位6に電球をモデル的に採用しており、放電によりこれが点灯するようにされている。
【0121】
図1に示す層構成を有する全固体二次電池を2032型コインケースに入れる場合、この全固体二次電池を全固体二次電池用電極シートと称し、この全固体二次電池用電極シートを2032型コインケースに入れて作製した電池を全固体二次電池と称して呼び分けることもある。
【0122】
(正極活物質層、固体電解質層、負極活物質層)
全固体二次電池10においては、正極活物質層、固体電解質層及び負極活物質層のいずれも本発明の固体電解質組成物で形成されている。この全固体二次電池10は電気抵抗が小さく、優れた電池性能を示す。正極活物質層4、固体電解質層3及び負極活物質層2が含有する無機固体電解質及びバインダー粒子は、それぞれ、互いに同種であっても異種であってもよい。
本発明において、正極活物質層及び負極活物質層のいずれか、又は、両方を合わせて、単に、活物質層又は電極活物質層と称することがある。また、正極活物質及び負極活物質のいずれか、又は両方を合わせて、単に、活物質又は電極活物質と称することがある。
【0123】
本発明において、上記バインダー粒子を無機固体電解質又は活物質等の固体粒子と組み合わせて用いると、上述のように、固体粒子間の界面抵抗の上昇、固体粒子と集電体の界面抵抗の上昇を抑えることができる。更には、固体粒子同士の接触不良、集電体からの固体粒子の剥がれ(剥離)を抑えることができる。そのため、本発明の全固体二次電池は優れた電池特性を示す。特に固体粒子等を強度に結着させることができる上記バインダー粒子を用いた本発明の全固体二次電池は、上述のように、全固体二次電池用シート又は全固体二次電池を例えば製造工程において曲げ応力が作用しても優れた電池特性を維持できる。
【0124】
全固体二次電池10においては、負極活物質層をリチウム金属層とすることができる。リチウム金属層としては、リチウム金属の粉末を堆積又は成形してなる層、リチウム箔及びリチウム蒸着膜等が挙げられる。リチウム金属層の厚さは、上記負極活物質層の上記厚さにかかわらず、例えば、1~500μmとすることができる。
【0125】
正極集電体5及び負極集電体1は、電子伝導体が好ましい。
本発明において、正極集電体及び負極集電体のいずれか、又は、両方を合わせて、単に、集電体と称することがある。
正極集電体を形成する材料としては、アルミニウム、アルミニウム合金、ステンレス鋼、ニッケル及びチタンなどの他に、アルミニウム又はステンレス鋼の表面にカーボン、ニッケル、チタンあるいは銀を処理させたもの(薄膜を形成したもの)が好ましく、その中でも、アルミニウム及びアルミニウム合金がより好ましい。
負極集電体を形成する材料としては、アルミニウム、銅、銅合金、ステンレス鋼、ニッケル及びチタンなどの他に、アルミニウム、銅、銅合金又はステンレス鋼の表面にカーボン、ニッケル、チタンあるいは銀を処理させたものが好ましく、アルミニウム、銅、銅合金及びステンレス鋼がより好ましい。
【0126】
集電体の形状は、通常フィルムシート状のものが使用されるが、ネット、パンチされたもの、ラス体、多孔質体、発泡体、繊維群の成形体なども用いることができる。
集電体の厚みは、特に制限されないが、1~500μmが好ましい。また、集電体表面は、表面処理により凹凸を付けることも好ましい。
【0127】
本発明において、負極集電体、負極活物質層、固体電解質層、正極活物質層及び正極集電体の各層の間又はその外側には、機能性の層や部材等を適宜介在ないし配設してもよい。また、各層は単層で構成されていても、複層で構成されていてもよい。
【0128】
[全固体二次電池の製造]
全固体二次電池は、常法によって、製造できる。具体的には、全固体二次電池は、本発明の固体電解質組成物等を用いて、上記の各層を形成することにより、製造できる。これにより、電気抵抗が小さく、優れた電池性能を示す全固体二次電池を製造できる。以下、詳述する。
【0129】
本発明の全固体二次電池は、本発明の固体電解質組成物を、基材(例えば、集電体となる金属箔)上に塗布し、塗膜を形成する(製膜する)工程を含む(介する)方法(本発明の全固体二次電池用シートの製造方法)を介して、製造できる。
例えば、正極集電体である金属箔上に、正極用材料(正極層用組成物)として、正極活物質を含有する固体電解質組成物を塗布して正極活物質層を形成し、全固体二次電池用正極シートを作製する。次いで、この正極活物質層の上に、固体電解質層を形成するための固体電解質組成物を塗布して、固体電解質層を形成する。更に、固体電解質層の上に、負極用材料(負極層用組成物)として、負極活物質を含有する固体電解質組成物を塗布して、負極活物質層を形成する。負極活物質層の上に、負極集電体(金属箔)を重ねることにより、正極活物質層と負極活物質層の間に固体電解質層が挟まれた構造の全固体二次電池を得ることができる。必要によりこれを筐体に封入して所望の全固体二次電池とすることができる。
また、各層の形成方法を逆にして、負極集電体上に、負極活物質層、固体電解質層及び正極活物質層を形成し、正極集電体を重ねて、全固体二次電池を製造することもできる。
【0130】
別の方法として、次の方法が挙げられる。すなわち、上記のようにして、全固体二次電池用正極シートを作製する。また、負極集電体である金属箔上に、負極用材料(負極層用組成物)として、負極活物質を含有する固体電解質組成物を塗布して負極活物質層を形成し、全固体二次電池用負極シートを作製する。次いで、これらシートのいずれか一方の活物質層の上に、上記のようにして、固体電解質層を形成する。更に、固体電解質層の上に、全固体二次電池用正極シート及び全固体二次電池用負極シートの他方を、固体電解質層と活物質層とが接するように積層する。このようにして、全固体二次電池を製造することができる。
また別の方法として、次の方法が挙げられる。すなわち、上記のようにして、全固体二次電池用正極シート及び全固体二次電池用負極シートを作製する。また、これとは別に、固体電解質組成物を基材上に塗布して、固体電解質層からなる全固体二次電池用固体電解質シートを作製する。更に、全固体二次電池用正極シート及び全固体二次電池用負極シートで、基材から剥がした固体電解質層を挟むように積層する。このようにして、全固体二次電池を製造することができる。
【0131】
上記の形成法の組み合わせによっても全固体二次電池を製造することができる。例えば、上記のようにして、全固体二次電池用正極シート、全固体二次電池用負極シート及び全固体二次電池用固体電解質シートをそれぞれ作製する。次いで、全固体二次電池用負極シート上に、基材から剥がした固体電解質層を積層した後に、上記全固体二次電池用正極シートと貼り合わせることで全固体二次電池を製造することができる。この方法において、固体電解質層を全固体二次電池用正極シートに積層し、全固体二次電池用負極シートと貼り合わせることもできる。
上記の製造方法においては、正極層用組成物、固体電解質組成物及び負極層用組成物のいずれか1つに本発明の固体電解質組成物を用いればよく、いずれも、本発明の固体電解質組成物を用いることが好ましい。
【0132】
<各層の形成(成膜)>
固体電解質組成物の塗布方法は特に制限されず、適宜に選択できる。例えば、塗布(好ましくは湿式塗布)、スプレー塗布、スピンコート塗布、ディップコート、スリット塗布、ストライプ塗布、バーコート塗布が挙げられる。
このとき、固体電解質組成物は、それぞれ塗布した後に乾燥処理を施してもよいし、重層塗布した後に乾燥処理をしてもよい。乾燥温度は特に制限されない。下限は30℃以上が好ましく、60℃以上がより好ましく、80℃以上が更に好ましい。上限は、300℃以下が好ましく、250℃以下がより好ましく、200℃以下が更に好ましい。このような温度範囲で加熱することで、分散媒を除去し、固体状態(塗布乾燥層)にすることができる。また、温度を高くしすぎず、全固体二次電池の各部材を損傷せずに済むため好ましい。これにより、全固体二次電池において、優れた総合性能を示し、かつ良好な結着性と、非加圧でも良好なイオン伝導度を得ることができる。
【0133】
上記のようにして、本発明の固体電解質組成物を塗布乾燥すると、固体粒子間の界面抵抗が小さく、固体粒子が強固に結着した塗布乾燥層を形成することができる。
【0134】
塗布した固体電解質組成物、又は、全固体二次電池を作製した後に、各層又は全固体二次電池を加圧することが好ましい。また、各層を積層した状態で加圧することも好ましい。加圧方法としては油圧シリンダープレス機等が挙げられる。加圧力としては特に制限されず、一般的には50~1500MPaの範囲であることが好ましい。
また、塗布した固体電解質組成物は、加圧と同時に加熱してもよい。加熱温度としては特に制限されず、一般的には30~300℃の範囲である。無機固体電解質のガラス転移温度よりも高い温度でプレスすることもできる。一方、無機固体電解質とバインダー粒子が共存する場合、バインダー粒子を形成する上記重合体のガラス転移温度よりも高い温度でプレスすることもできる。ただし、一般的には上記重合体の融点を越えない温度である。
加圧は塗布溶媒又は分散媒を予め乾燥させた状態で行ってもよいし、溶媒又は分散媒が残存している状態で行ってもよい。
なお、各組成物は同時に塗布してもよいし、塗布乾燥プレスを同時及び/又は逐次行ってもよい。別々の基材に塗布した後に、転写により積層してもよい。
【0135】
加圧中の雰囲気としては特に制限されず、大気下、乾燥空気下(露点-20℃以下)、不活性ガス中(例えばアルゴンガス中、ヘリウムガス中、窒素ガス中)などいずれでもよい。
プレス時間は短時間(例えば数時間以内)で高い圧力をかけてもよいし、長時間(1日以上)かけて中程度の圧力をかけてもよい。全固体二次電池用シート以外、例えば全固体二次電池の場合には、中程度の圧力をかけ続けるために、全固体二次電池の拘束具(ネジ締め圧等)を用いることもできる。
プレス圧はシート面等の被圧部に対して均一であっても異なる圧であってもよい。
プレス圧は被圧部の面積又は膜厚に応じて変化させることができる。また同一部位を段階的に異なる圧力で変えることもできる。
プレス面は平滑であっても粗面化されていてもよい。
【0136】
<初期化>
上記のようにして製造した全固体二次電池は、製造後又は使用前に初期化を行うことが好ましい。初期化は特に制限されず、例えば、プレス圧を高めた状態で初充放電を行い、その後、全固体二次電池の一般使用圧力になるまで圧力を開放することにより、行うことができる。
【0137】
[全固体二次電池の用途]
本発明の全固体二次電池は種々の用途に適用することができる。適用態様には特に制限はないが、例えば、電子機器に搭載する場合、ノートパソコン、ペン入力パソコン、モバイルパソコン、電子ブックプレーヤー、携帯電話、コードレスフォン子機、ページャー、ハンディーターミナル、携帯ファックス、携帯コピー、携帯プリンター、ヘッドフォンステレオ、ビデオムービー、液晶テレビ、ハンディークリーナー、ポータブルCD、ミニディスク、電気シェーバー、トランシーバー、電子手帳、電卓、メモリーカード、携帯テープレコーダー、ラジオ、バックアップ電源、メモリーカードなどが挙げられる。その他民生用として、自動車、電動車両、モーター、照明器具、玩具、ゲーム機器、ロードコンディショナー、時計、ストロボ、カメラ、医療機器(ペースメーカー、補聴器、肩もみ機など)などが挙げられる。更に、各種軍需用、宇宙用として用いることができる。また、太陽電池と組み合わせることもできる。
【実施例】
【0138】
以下に、実施例に基づき本発明について更に詳細に説明する。なお、本発明がこれにより限定して解釈されるものではない。以下の実施例において組成を表す「部」及び「%」は、特に断らない限り質量基準である。本発明において「室温」とは25℃を意味する。
【0139】
[実施例1]
実施例1では、全固体二次電池用シートを作製して、その性能を評価した。その結果を表1~3に示す。
<バインダー粒子の合成(バインダー粒子分散液の調製)>
((メタ)アクリル樹脂からなるバインダー粒子分散液P-1の調製)
還流冷却管、ガス導入コックを付した1L三口フラスコにヘプタンを420質量部と、ラウリルメタクリレート(和光純薬工業社製)45質量部とを加え、流速200mL/minにて窒素ガスを10分間導入した後に80℃に昇温した。これに、別容器にて調製した液(アクリル酸ヒドロキシエチル(和光純薬工業社製)9質量部と、メチルメタクリレート(和光純薬工業社製)117質量部と、メタクリル酸(和光純薬工業社製)9質量部と、ラジカル重合開始剤V-601(商品名、和光純薬工業社製)7.2質量部とを混合した液)を2時間かけて滴下し、引き続き80℃で2時間攪拌を継続した。その後、ラジカル重合開始剤V-601を更に1.2質量部添加し、95℃で2時間攪拌した。得られた溶液を室温まで冷却して、バインダー粒子分散液P-1を得た。
【0140】
((メタ)アクリル樹脂からなるバインダー粒子分散液P-2~P-11及びP-13の調製)
上記バインダー粒子分散液P-1の調製において、重合性化合物及び共重合性化合物の種類とその比率(含有率)、更に分散媒の種類を下記表1に示すように変更したこと以外は、バインダー粒子分散液P-1の調製と同様にして、バインダー粒子分散液P-2~P-11及びP-13をそれぞれ調製した。
【0141】
(ポリウレタンからなるバインダー粒子分散液P-12の調製)
200mLの3つ口フラスコに1,2-ドデカンジオール2.0gを投入し、ヘプタン30mLに溶解した。この溶液に、ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)2.5gを加え、65℃で撹拌し、そこへビスマス触媒(商品名:ネオスタンU-600、日東化成社製)0.025gを加えて、65℃で6時間撹拌した。こうして、バインダー粒子分散液P-12を得た。
【0142】
((メタ)アクリル樹脂からなるバインダー粒子分散液CP-1の調製)
上記バインダー粒子分散液P-1の調製において、重合性化合物及び共重合性化合物の種類とその比率(含有率)とを、下記表1に示す各化合物及び比率(含有率)に変更したこと以外は、バインダー粒子分散液P-1の調製と同様にして、バインダー粒子分散液CP-1を調製した。
【0143】
((メタ)アクリル樹脂からなるバインダー粒子分散液CP-2の調製)
還流冷却管、ガス導入コックを付した5L三口フラスコに水を400質量部と、メチルメタクリレート(和光純薬工業社製)200質量部と、スチレン(和光純薬工業社製)50質量部と、ジビニルベンゼン(和光純薬工業社製)5質量部と、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム(和光純薬工業社製)10質量部と、アゾビスブチロニトリル(和光純薬工業社製)10質量部を加え、流速200mL/minにて窒素ガスを10分間導入した後に80℃に昇温した。これに、別容器にて調製した液(ノニルフェノキシポリエチレングリコールアクリレート(日立化成工業社製)400質量部と、スチレン(和光純薬工業社製)100質量部と、水800質量部と、アゾビスブチロニトリル(和光純薬工業社製)10質量部を混合した液)を滴下し、引き続き80℃で5時間攪拌を継続した。その後、デカリン(和光純薬工業社製)15,000質量部を加え、十分に撹拌した後、水を減圧乾燥により除去して、バインダー粒子分散液CP-2を得た。
バインダー粒子分散液CP-2は、バインダー粒子分散液CP-1のように、有機分散剤中で調製できないため、バインダー粒子を水中で合成した後にデカリンで溶媒置換して調製した。バインダー粒子分散液CP-3及びCP-4も同様である。
【0144】
((メタ)アクリル樹脂からなるバインダー粒子分散液CP-3の調製)
上記バインダー粒子分散液CP-2の調製において、重合性化合物及び共重合性化合物の種類とその比率(含有率)とを、下記表1に示す各化合物及び比率(含有率)に変更したこと以外は、バインダー粒子分散液CP-2の調製と同様にして、バインダー粒子分散液CP-3を調製した。
【0145】
((メタ)アクリル樹脂からなるバインダー粒子分散液CP-4の調製)
上記バインダー粒子分散液CP-2の調製において、重合性化合物及び共重合性化合物の種類とその比率(含有率)とを、下記表1に示す各化合物及び比率(含有率)に変更したこと以外は、バインダー粒子分散液CP-2の調製と同様にして、バインダー粒子分散液CP-4を調製した。
【0146】
((メタ)アクリル樹脂からなるバインダー粒子分散液CP-5の調製)
還流冷却管、ガス導入コックを付した1L三口フラスコにヘプタンを400質量部と、デシルメタクリレート(和光純薬工業社製)100質量部と、メタクリル酸(和光純薬工業社製)1質量部を加え、流速200mL/minにて窒素ガスを10分間導入した後に80℃に昇温した。これに、別容器にて調製した液(ラジカル重合開始剤V-601(商品名、和光純薬工業社製)20質量部とヘプタン400質量部を混合した液)を2時間かけて滴下し、引き続き80℃で2時間攪拌を継続した。その後、メタノール2000質量部に得られたポリマー液を入れ、析出したポリマーを60℃で2時間減圧乾燥した。得られたポリマーをトルエンに溶解した後に、メタクリル酸グリシジル(和光純薬工業社製)10質量部を加え、90℃で5時間撹拌し、メタクリル酸由来のカルボン酸とグリシジル基を反応させ、M-1を得た。
次いで、還流冷却管、ガス導入コックを付した1L三口フラスコにヘプタンを400質量部と、上記で合成したM-1(固形分換算)100質量部とを加え、流速200mL/minにて窒素ガスを10分間導入した後に80℃に昇温した。これに、別容器にて調製した液(メタクリル酸(和光純薬工業社製)580質量部と、メチルメタクリレート(和光純薬工業社製)320質量部と、ラジカル重合開始剤V-601(商品名、和光純薬工業社製)5質量部とヘプタン400質量部を混合した液)を2時間かけて滴下し、引き続き80℃で2時間攪拌を継続した。室温まで冷却して、バインダー粒子分散液CP-5を得た。
【0147】
得られた、バインダー粒子分散液の固形分濃度(質量%)及びバインダー粒子の平均粒径を表1に示す。また、バインダー粒子を形成する重合体の、重量平均分子量及びガラス転移点(Tg)を算出し、その結果を表1に示す。更に、この重合体を形成する(共)重合性化合物の分子量及びSP値を測定又は算出した結果を表1に示す。なお、SP値を算出する際には、単量体構造ではなく、重合体に組み込まれた構造で算出する。
<固形分濃度の測定方法>
バインダー粒子分散液の固形分濃度は、下記方法に基づいて、測定した。
7cmΦのアルミカップ内にバインダー粒子分散液を約1.5g秤量し、少数点第3位までの秤量値を読み取った。続いて窒素雰囲気下で90℃2時間、140℃2時間加熱し、乾燥させた。得られたアルミカップ内の残存物の重量を測り、下記式により固形分濃度を算出した。測定は、5回行い、最大値及び最小値を除いた、3回の平均を採用した。
固形分濃度(%)=アルミカップ内の残存物量(g)/バインダー粒子の分散液又はマクロモノマー溶液(g)
【0148】
<バインダー粒子の平均粒径の測定>
バインダー粒子の平均粒径の測定は、以下の手順で行った。上記にて調製したバインダー粒子分散液の乾燥試料を適宜の溶媒(固体電解質組成物の調製に用いる分散媒。バインダー粒子P-1の場合はヘプタン)を用いて1質量%の分散液を調製した。この分散液試料に1kHzの超音波を10分間照射した後に、レーザ回折/散乱式粒度分布測定装置LA-920(商品名、HORIBA社製)を用いて、樹脂粒子の体積平均粒径を測定した。
【0149】
<重量平均分子量の測定>
バインダー粒子を形成する重合体の重量平均分子量は、上記方法(条件2)により、測定した。
<ガラス転移点(Tg)の測定方法>
バインダー粒子を形成する重合体のガラス転移点(Tg)を、上記方法により、測定した。
【0150】
<SP値の計算方法>
(共)重合性化合物のSP値(cal1/2cm-3/2)は、上記方法に基づいて、算出した。
【0151】
【0152】
<表の注釈>
A-1:下記に示す重合性化合物
A-2:下記に示す重合性化合物
X22-174ASX:下記に示す片末端メタクリル変性ジメチルシロキサン、信越化学工業社製
MKF-2012:片末端メタクリル変性ジメチルシロキサン、信越化学工業社製
M-1:上記合成例で記載した重合性化合物
HEA:ヒドロキシエチルアクリレート
MMA:メチルメタクリレート
MAA:メタクリル酸
MA:メチルアクリレート
MEEA:メトキシエチルアクリレート
GMA:グリシジルメタクリレート
AA:アクリル酸
DMAA:ジメチルアクリルアミド
HMAA:ヒドロキシメチルアクリルアミド
MMI:N-メチルマレイミド
AN:アクリロニトリルβ-CEA;β-カルボキシエチルアクリレート
St:スチレン
DVB:ジビニルベンゼン
MDI:メチレンジフェニルジイソシアナート
【0153】
【0154】
<硫化物系無機固体電解質の合成>
硫化物系無機固体電解質は、T.Ohtomo,A.Hayashi,M.Tatsumisago,Y.Tsuchida,S.Hama,K.Kawamoto,Journal of Power Sources,233,(2013),pp231-235、及び、A.Hayashi,S.Hama,H.Morimoto,M.Tatsumisago,T.Minami,Chem.Lett.,(2001),pp872-873の非特許文献を参考にして合成した。
具体的には、アルゴン雰囲気下(露点-70℃)のグローブボックス内で、硫化リチウム(Li2S、Aldrich社製、純度>99.98%)2.42g及び五硫化二リン(P2S5、Aldrich社製、純度>99%)3.90gをそれぞれ秤量し、メノウ製乳鉢に投入し、メノウ製乳棒を用いて、5分間混合した。Li2S及びP2S5の混合比は、モル比でLi2S:P2S5=75:25とした。
ジルコニア製45mL容器(フリッチュ社製)に、直径5mmのジルコニアビーズを66g投入し、上記の硫化リチウムと五硫化二リンの混合物全量を投入し、アルゴン雰囲気下で容器を完全に密閉した。フリッチュ社製遊星ボールミルP-7(商品名、フリッチュ社製)に容器をセットし、温度25℃で、回転数510rpmで20時間メカニカルミリングを行うことで、黄色粉体の硫化物系無機固体電解質(Li/P/Sガラス、以下、LPSと表記することがある。)6.20gを得た。
【0155】
<固体電解質組成物の調製例>
(固体電解質組成物S-1の調製)
ジルコニア製45mL容器(フリッチュ社製)に、直径5mmのジルコニアビーズを180個投入し、上記で合成したLPS9.5g、分散媒としてヘプタン12.3gを投入した。その後、バインダー粒子分散液P-1を固形分相当で0.5g投入し、遊星ボールミルP-7(商品名、フリッチュ社製)にセットした。温度25℃、回転数300rpmで2時間混合を続け、固体電解質組成物S-1を調製した。
【0156】
(固体電解質組成物S-2~S-15及びT-1~T-6の調製)
上記固体電解質組成物S-1の調製において、固体電解質、バインダー粒子分散液及び分散媒の種類及び配合量(含有率)を下記表2に示すように変更したこと以外は、固体電解質組成物S-1の調製と同様にして、固体電解質組成物S-2~S-15及びT-1~T-6をそれぞれ調製した。
【0157】
【0158】
<表の注釈>
LPS:上記で合成した硫化物系無機固体電解質
LLZ:酸化物系無機固体電解質Li7La3Zr2O12(豊島製作所製)
【0159】
<全固体二次電池用電極シートの作製>
(全固体二次電池用正極シートC-1の作製)
ジルコニア製45mL容器(フリッチュ社製)に、直径5mmのジルコニアビーズを180個投入し、上記で調製した固体電解質組成物S-1を固形分相当で1.9g、分散媒総量としてヘプタン12.3gを投入した。更に、そこへ、正極活物質としてNCA(LiNi0.85Co0.10Al0.05O2)8.0g、アセチレンブラック0.1gを投入し、遊星ボールミルP-7にセットし、温度25℃、回転数200rpmで30分間混合を続けた。こうして、正極用組成物(スラリー)C-1Cを調製した。
上記で調製した正極用組成物C-1Cを、集電体として厚み20μmのアルミニウム箔に、ベーカー式アプリケーター(商品名:SA-201、テスター産業社製)により塗布し、80℃で1時間加熱後、更に110℃で1時間加熱して、正極用組成物C-1Cを乾燥させた。その後、ヒートプレス機を用いて、乾燥させた正極層用組成物C-1Cを加熱(120℃)しながら加圧し(20MPa、1分間)、正極活物質層(層厚は表4に示す。)/アルミニウム箔の積層構造を有する全固体二次電池用正極シートC-1を作製した。
【0160】
(全固体二次電池用正極シートC-2~C-15及びCC-1~CC-6の作製)
上記全固体二次電池用正極シートC-1の作製において、固体電解質組成物、活物質、導電助剤及び分散媒の種類及び配合量(含有率)を下記表3に示すように変更したこと以外は、全固体二次電池用正極シートC-1の作製と同様にして、全固体二次電池用正極シートC-2~C-15及びCC-1~CC-6をそれぞれ調製した。
【0161】
(全固体二次電池用負極シートA-1の作製)
ジルコニア製45mL容器(フリッチュ社製)に、直径5mmのジルコニアビーズを180個投入し、上記で調製した固体電解質組成物S-3を固形分相当で5.0g、分散媒としてヘプタン12.3gを投入した。その後、この容器を遊星ボールミルP-7(商品名、フリッチュ社製)にセットし、温度25℃で、回転数300rpmで2時間攪拌した。その後、表3に示す負極活物質として黒鉛5.0gを投入し、再びこの容器を遊星ボールミルP-7にセットし、温度25℃、回転数100rpmで15分間混合を続けた。このようにして、負極層用組成物(スラリー)A-1Cを得た。
上記で得られた負極層用組成物A-1Cを、厚み10μmのステンレス箔上に、上記ベーカー式アプリケーターにより塗布し、80℃2時間加熱して、負極層用組成物A-1Cを乾燥させた。その後、ヒートプレス機を用いて、乾燥させた負極層用組成物A-1Cを加熱(120℃)しながら加圧(600MPa、1分間)し、負極活物質層(層厚は表4に示す。)/ステンレス箔の積層構造を有する全固体二次電池用負極シートA-1を作製した。
【0162】
(全固体二次電池用負極シートA-2~A-4、CA-1及びCA-2の作製)
上記全固体二次電池用負極シートA-1の作製において、固体電解質組成物、活物質、導電助剤及び分散媒の種類及び配合量(含有率)を下記表3に示すように変更したこと以外は、全固体二次電池用負極シートA-1の作製と同様にして、全固体二次電池用正極シートA-2~A-4、CA-1及びCA-2をそれぞれ調製した。
【0163】
<正極層用組成物及び負極層用組成物の安定性試験>
上述のようにして調製した各組成物の一部を、遊星ボールミルP-7から分けとり、直径10mmの透明なガラス管に、高さ3cmまで充填した。これを25℃の環境下で1時間静置した。その後、組成物の相分離状態及び相分離の程度を、以下の評価基準で判定した。本試験において、評価基準「C」以上が合格レベルである。
-評価基準-
A:組成物(スラリー)が層分離しない
B:分層発生した箇所(上澄層)が液面より3mm未満である場合
C:分層発生した箇所が液面より3mmを越え、10mm未満である場合
D:分層発生した箇所が液面より10mmを越え、20mm未満である場合
E:分層発生した箇所が液面より20mm以上である場合
【0164】
<全固体二次電池用電極シートの結着性試験>
全固体二次電池用正極シート及び全固体二次電池用負極シートの結着性試験として、各シートの柔軟性、すなわちマンドレル試験機を用いた耐屈曲性試験(JIS K 5600-5-1に準拠)により、評価した。具体的には、各シートから、幅50mm、長さ100mmの短冊状の試験片を切り出した。この試験片の活物質層面をマンドレルとは逆側(集電体をマンドレル側)に、かつ試験片の幅方向がマンドレルの軸に平行となるようにセットし、マンドレルの外周面に沿って180°屈曲(1回)させた後、活物質層にヒビ及び割れが生じているか否かを観察した。この屈曲試験は、まず、直径32mmのマンドレルを用いて行い、ヒビ及び割れのいずれも発生していない場合、マンドレルの直径(単位mm)を、25、20、16、12、10、8、6、5、4、3、2と徐々に小さくしていき、最初にヒビ及び/又は割れが発生したマンドレルの直径を記録した。このヒビ及び割れが最初に発生直径(欠陥発生径)が下記評価基準のいずれに含まれるかにより、結着性を評価した。本発明において、欠陥発生径が小さいほど固体粒子の結着性が強固であることを示し、評価基準「C」以上が合格レベルである。
【0165】
-評価基準-
A:5mm以下
B:6mm又は8mm
C:10mm
D:12mm又は16mm
E:20mm又は25mm
F:32mm
【0166】
【0167】
<表の注釈>
NCA:LiNi0.85Co0.10Al0.05O2(アルドリッチ社製)
LCO:LiCoO2(アルドリッチ社製)
NMC:LiNi1/3Co1/3Mn1/3O2(アルドリッチ社製)
Si:ケイ素粉末
AB:アセチレンブラック(デンカブラック(商品名)、デンカ社製)
VGCF:気相成長炭素繊維(昭和電工社製)
【0168】
表3に示す結果から明らかなように、本発明で規定するバインダー粒子を含有しない固体電解質組成物は、いずれも分散安定性が十分ではない。更に、これらの固体電解質組成物を用いた、全固体二次電池用正極シートCC-1~CC-6、並びに、全固体二次電池用負極シートCA-1及びCA-2は、いずれも固体粒子の結着性に劣る。
これに対して、本発明で規定するバインダー粒子を含有する固体電解質組成物は、いずれも高い分散安定性を示し、これらの固体電解質組成物を用いた、全固体二次電池用正極シートC-1~C-10及びC-13~C-15、並びに全固体二次電池用負極シートA-1~A-4は固体粒子が強固に結着されている。
【0169】
[実施例2]
実施例2では、
図1に示す層構成を有する、
図2に示す全固体二次電池を作製して、その電池性能を評価した。その結果を表4に示す。
【0170】
<全固体二次電池101の製造>
実施例1で作製した全固体二次電池用負極シートA-1を、実施例1の上記<全固体二次電池用電極シートの結着性試験>と同様にして、直径10mmのマンドレルを用いた屈曲試験を3回行った後に、負極活物質層の上に、実施例1で調製した固体電解質組成物S-1を、上記ベーカー式アプリケーターにより塗布し、80℃で1時間加熱後、更に110℃で6時間加熱し、固体電解質組成物S-1を乾燥させた。負極活物質層上に固体電解質層(塗布乾燥層)を形成した負極シートA-1を、ヒートプレス機を用いて、加熱(120℃)しながら加圧(30MPa、1分間)し、固体電解質層/負極活物質層/ステンレス箔の積層構造を有する負極シートを作製した。
この負極シートを直径15mmの円板状に切り出した。他方、上記で作製した全固体二次電池用正極シートC-1を上記<全固体二次電池用電極シートの結着性試験>と同様にして直径10mmのマンドレルを用いた屈曲試験を3回行った後に、直径13mmの円板状に切り出した。全固体二次電池用正極シートC-1の正極活物質層と、負極シートA-1に形成した固体電解質層とが向かい合うように配置(積層)した後に、ヒートプレス機を用いて、加熱(120℃)しながら加圧(40MPa、1分間)し、アルミ箔/正極活物質層/固体電解質層/負極活物質層/ステンレス箔の積層構造を有する全固体二次電池用積層体を作製した。
次いで、このようにして作製した全固体二次電池用積層体12をスペーサーとワッシャー(
図2において図示せず)を組み込んだステンレス製の2032型コインケース11に入れ、2032型コインケース11をかしめることで、
図2に符号13で示す全固体二次電池101を製造した。
【0171】
<全固体二次電池102~116及びc01~c06の製造>
上記全固体二次電池101の製造において、全固体二次電池用正極シート(正極活物質層)、固体電解質組成物及び全固体二次電池用負極シート(負極活物質層)を下記表4に示すように変更したこと以外は、全固体二次電池101の製造と同様にして、全固体二次電池102~116及びc01~c06をそれぞれ製造した。
【0172】
実施例1で製造した各電極シート、及び上記で形成した固体電解質層についての、目付量及び層厚を、表4に示す。
【0173】
<曲げ後の電池性能試験>
(抵抗試験)
上記で製造した全固体二次電池の電池電圧を、充放電評価装置「TOSCAT-3000」(商品名、東洋システム社製)により測定した。全固体二次電池を電池電圧が4.2Vになるまで電流値0.2mAで充電した後、電池電圧が3.0Vになるまで電流値2.0mAで放電した。放電開始10秒後の電池電圧を読み取り、読み取った電池電圧が下記評価基準のいずれに含まれるかにより、抵抗を評価した。電池電圧が高いほど低抵抗であることを示す。評価基準を以下に示す。本試験において、評価基準が「C」以上が合格レベルである。
-評価基準-
A:4.1V以上
B:4.0V以上、4.1V未満
C:3.8V以上、4.0V未満
D:3.6V以上、3.8V未満
E:3.6V未満
【0174】
(放電容量の測定)
上記で製造した全固体二次電池の放電容量を、充放電評価装置「TOSCAT-3000」(商品名、東洋システム社製)により、測定した。全固体二次電池を電池電圧が4.2Vになるまで電流値0.2mAで充電した後、電池電圧が3.0Vになるまで電流値0.2mAで放電した。この充放電を1サイクルとして充放電を繰り返し行った。この充放電サイクルにおいて、3サイクル目の放電容量を求めた。この放電容量を、正極活物質層の表面積が100cm2当たりに換算し、全固体二次電池の放電容量とした。全固体二次電池の放電容量は110mAh以上が合格レベルである。
【0175】
【0176】
表4に示す結果から明らかなように、本発明で規定するバインダー粒子を含有しない固体電解質組成物で構成した層を電極層及び固体電解質層として有する全固体二次電池c01~c06は、いずれも、抵抗が大きく、しかも放電容量が小さく、電池性能が十分ではない。これは、固体粒子の結着性が十分ではなく、電極層又は固体電解質層にヒビ又は割れが生じたためと考えられる。
これに対して、本発明で規定するバインダー粒子を含有する固体電解質組成物で構成した層を電極層及び固体電解質層の少なくとも1層に適用した全固体二次電池101~110及び113~116は、いずれも、電極シートに曲げ応力を作用させた後であっても、抵抗が小さく、しかも放電容量が大きいものである。このように、本発明の全固体二次電池は、固体粒子が強固に結着されており、曲げ応力によって全固体二次電池の構成層にヒビ及び割れが生じないため、曲げ応力が作用しても優れた電池性能を維持できる。
【符号の説明】
【0177】
1 負極集電体
2 負極活物質層
3 固体電解質層
4 正極活物質層
5 正極集電体
6 作動部位
10 全固体二次電池
11 コインケース
12 全固体二次電池用積層体
13 イオン伝導度測定用セル(コイン電池)