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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-01-05
(45)【発行日】2022-02-04
(54)【発明の名称】凍結乾燥した組換え型VWF製剤
(51)【国際特許分類】
   A61K 38/36 20060101AFI20220128BHJP
   A61K 9/08 20060101ALI20220128BHJP
   A61K 47/12 20060101ALI20220128BHJP
   A61K 47/18 20060101ALI20220128BHJP
   A61K 47/26 20060101ALI20220128BHJP
   A61P 7/04 20060101ALI20220128BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20220128BHJP
   C07K 14/745 20060101ALN20220128BHJP
【FI】
A61K38/36 ZNA
A61K9/08
A61K47/12
A61K47/18
A61K47/26
A61P7/04
A61P43/00 111
C07K14/745
【請求項の数】 13
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2020099260
(22)【出願日】2020-06-08
(62)【分割の表示】P 2018164880の分割
【原出願日】2009-10-21
(65)【公開番号】P2020143166
(43)【公開日】2020-09-10
【審査請求日】2020-06-08
(31)【優先権主張番号】61/107,273
(32)【優先日】2008-10-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】000002934
【氏名又は名称】武田薬品工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100078282
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 秀策
(74)【代理人】
【識別番号】100181674
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 貴敏
(74)【代理人】
【識別番号】100181641
【弁理士】
【氏名又は名称】石川 大輔
(74)【代理人】
【識別番号】230113332
【弁護士】
【氏名又は名称】山本 健策
(72)【発明者】
【氏名】カート シュネッカー
(72)【発明者】
【氏名】エヴァ ハイドヴェガー
(72)【発明者】
【氏名】ペーター タレセク
【審査官】春田 由香
(56)【参考文献】
【文献】特表2001-517197(JP,A)
【文献】特表2001-506987(JP,A)
【文献】特表平11-509721(JP,A)
【文献】特表2000-506869(JP,A)
【文献】特表2008-525491(JP,A)
【文献】特開平9-221432(JP,A)
【文献】伊豆津 健一,凍結乾燥によるタンパク質の構造変化と添加剤による安定化,低温生物工学会誌,2003年,第49巻,第1号,p.47-53
【文献】伊豆津 健一 ほか,塩基性アミノ酸と有機酸の凍結乾燥によるガラス固体の形成とタンパク質安定化,低温生物工学会誌,2007年,第53巻,第2号,p.117-121
【文献】Fischer B, et al.,Structural analysis of recombinant von Willebrand factor: identification of hetero- and homo-dimers,FEBS Letter,1994年,Vol.351, No.3,p.345-348
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 38/00-38/58
A61K 9/00- 9/72
A61K 47/00-47/69
CiNii
医中誌WEB
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
組換えvon Willebrand因子(rVWF)の安定な医薬製剤であって、(a)rVWF;(b)1種または複数種の緩衝剤;(c)1種または複数種のアミノ酸;(d)1種または複数種の安定化剤;および(e)1種または複数種の界面活性剤を含み、
(a)前記rVWFが、
(1)配列番号3に記載のアミノ酸配列を有するポリペプチド、
(2)配列番号3に記載のアミノ酸配列を含み、かつ、配列番号1に記載のポリヌクレオチドによりコードされる、ポリペプチド、および
(3)配列番号3に記載のアミノ酸配列を含み、かつ、中程度にストリンジェントなハイブリダイゼーション条件下で配列番号1に記載のポリヌクレオチドとハイブリダイズするポリヌクレオチドによりコードされる、ポリペプチド
からなる群より選択されるポリペプチドを含み;
(b)前記緩衝剤が、約0.1mM~約500mMの範囲の、約2.0~約12.0の範囲のpHを有するpH緩衝剤であり、前記緩衝剤がシトラート緩衝液であり;
(c)前記1種または複数種のアミノ酸が、約1~約500mMの濃度であり、前記1種または複数種のアミノ酸がグリシンであり;
(d)前記1種または複数種の安定化剤が、約0.1~約1000mMの濃度であり、前記1種または複数種の安定化剤がマンニトールおよびトレハロースであり;かつ
(e)前記1種または複数種の界面活性剤が、約0.01g/L~約0.5g/Lの濃度であり、前記界面活性剤がTWEEN-80であり、そして
前記製剤を凍結乾燥することにより、安定な凍結乾燥医薬製剤がもたらされ得、前記rVWFは、前記凍結乾燥医薬製剤中で不変のままの多量体パターンを含む、
医薬製剤。
【請求項2】
前記rVWFが配列番号3に記載のアミノ酸配列を含む、請求項1に記載の製剤。
【請求項3】
pHが約6.0~約8.0の範囲、例えば、約6.5~約7.5の範囲、約7.3などである、請求項1に記載の製剤。
【請求項4】
pHが約6.5~約7.5の範囲である、請求項1に記載の製剤。
【請求項5】
pHが約7.3である、請求項1に記載の製剤。
【請求項6】
前記緩衝剤がシトラート緩衝液であり、前記pHが約7.3である、請求項1に記載の製剤。
【請求項7】
前記1種または複数種のアミノ酸が、約0.5mM~約300mMの濃度範囲である、請求項1に記載の製剤。
【請求項8】
前記1種または複数種のアミノ酸が約15mMの濃度のグリシンである、請求項7に記載の製剤。
【請求項9】
前記rVWFが配列番号3に記載のアミノ酸配列を含み;前記緩衝剤がシトラート緩衝液であり、前記pHが約7.3であり;かつ、前記1種または複数種のアミノ酸が約15mMの濃度のグリシンである、請求項1に記載の製剤。
【請求項10】
前記1種または複数種の安定化剤が、約10g/Lの濃度のトレハロースおよび約20g/Lの濃度のマンニトールである、請求項1に記載の製剤。
【請求項11】
前記1種または複数種の界面活性剤が約0.01g/LのTWEEN-80である、請求項1に記載の製剤。
【請求項12】
前記rVWFが配列番号3に記載のアミノ酸配列を含み;前記緩衝剤が約15mMの濃度のシトラート緩衝液であり、前記pHが約7.3であり;前記1種または複数種のアミノ酸が約15mMの濃度のグリシンであり;前記1種または複数種の安定化剤が、約10g/Lの濃度のトレハロースおよび約20g/Lの濃度のマンニトールであり;かつ、前記1種または複数種の界面活性剤が約0.1g/LのTWEEN-80である、請求項1に記載の製剤。
【請求項13】
前記rVWFが、リストセチンの存在下で安定化血小板の凝集を引き起こすことができるか、または、第VIII因子に結合できる、請求項1に記載の製剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は全般的に、凍結乾燥した組換え型VWF(von Willebrand factor)の製剤、および組換え型VWFを含む凍結乾燥組成物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
Von Willebrand因子(VWF)は、大きさが約500~20,000kDにわたる一連の多量体として血漿中に循環する糖タンパク質である。VWFの多量体形態は、ジスルフィド結合により結合した250kDのポリペプチドサブユニットで構成される。VWFは損傷した血管壁の内皮下組織への初期の血小板粘着に関わる。止血活性を示すのは比較的大きな多量体だけである。VWFの大きな重合体は内皮細胞から分泌され、分子量が低いVWFの形態(低分子量VWF)はタンパク質分解切断から生じると推察される。分子量の大きい多量体は内皮細胞のWeibel-Pallade小体に貯蔵され、刺激を受けると遊離される。
【0003】
VWFは、大部分が繰り返しドメインからなるプレプロVWFとして内皮細胞および巨核球で合成される。シグナルペプチドが切断されると、C末端領域のジスルフィド結合により二量体のプロVWFになる。この二量体は、遊離末端間のジスルフィド結合による多量体化を促進する働きをする。多量体が構築されると、その後タンパク分解によりプロペプチド配列が除去される(非特許文献1)。
【0004】
VWFのcDNAクローンから予想される一次翻訳産物は2813の残基の前駆体ポリペプチド(プレプロVWF)である。このプレプロVWFは、2050のアミノ酸を含む成熟VWFと、22のアミノ酸のシグナルペプチドおよび741のアミノ酸のプロペプチドからなる(非特許文献2)。
【0005】
程度の差はあるが出血の表現型を特徴とするVon Willebrand病(VWD:Von Willebrand disease)はVWFの異常が原因である。VWFが完全欠損している3型VWDは最も重篤な病型であり、1型VWDはVWFの定量的欠乏に関係し、その表現型は極めて弱い場合がある。2型VWDはVWFの質的異常に関係し、3型VWDと同じくらい重篤な場合がある。2型VWDには多くの亜型があり、高分子量多量体の欠乏または減少が関連しているものもある。2a型Von Willebrand症候群(VWS-2A)は中程度の多量体と大きい多量体との欠乏を特徴とし、VWS-2Bは最も高分子量の多量体の欠乏を特徴とする。VWFに関係する他の疾患および障害については、当該技術分野において公知である。
【0006】
特許文献1、特許文献2および欧州特許出願公開第04380188.5号には、血漿由来のVWF製剤が記載されている。しかしながら、血漿由来のVWFには量および純度の問題に加えて、血液媒介(blood-born)病原体(たとえばウイルスおよび異型クロイツフェルトヤコブ病(vCJD:Variant Creutzfeldt-Jakob disease)のリスクもある。さらにVWFはストレス状態において凝集体を形成することが知られている。
【0007】
このため当該技術分野において組換え型VWFを含む安定な医薬製剤の開発が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】米国特許第6,531,577号明細書
【文献】米国特許第7,166,709号明細書
【非特許文献】
【0009】
【文献】Leyte et al.,Biochem.J.274(1991),257-261
【文献】Ruggeri Z.A.,and Ware,J.,FASEB J.,308-316(1993)
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、組換え型VWFの凍結乾燥に有用な製剤を提供し、これは高度に安定な医薬組成物をもたらす。安定な医薬組成物は、組換え型VWFの投与により利益が得られる障害または状態に罹患している個体の処置において治療薬として有用である。
【0011】
一実施形態では、(a)rVWF;(b)1種または複数種の緩衝剤;(c)1種または複数種のアミノ酸;(d)1種または複数種の安定化剤;および(e)1種または複数種の界面活性剤を含む組換え型von Willebrand因子(rVWF)の安定な凍結乾燥医薬製剤が提供され;上記rVWFはa)配列番号3に記載のアミノ酸配列;b)a)の生物活性アナログ、フラグメントまたは変異体;c)配列番号1に記載のポリヌクレオチドによりコードされるポリペプチド;d)c)の生物活性アナログ、フラグメントまたは変異体;およびe)中程度にストリンジェントなハイブリダイゼーション条件下で配列番号1に記載のポリヌクレオチドとハイブリダイズするポリヌクレオチドによりコードされるポリペプチドからなる群から選択されるポリペプチドを含み;上記緩衝液は約0.1mM~約500mMの範囲のpH緩衝剤から構成され、pHは約2.0~約12.0の範囲にあり;上記アミノ酸は約1~約500mMの濃度であり;上記安定化剤は約0.1~約1000mMの濃度であり;および上記界面活性剤は約0.01g/L~約0.5g/Lの濃度である。
【0012】
別の実施形態では、rVWFは配列番号3に記載のアミノ酸配列を含む。さらに別の実施形態では、緩衝剤はシトラート、グリシン、ヒスチジン、HEPES、トリスおよびこれらの物質の組み合わせからなる群から選択される。なお別の実施形態では、緩衝剤はシトラートである。種々の実施形態では、pHは約6.0~約8.0、約6.5~約7.5または約7.3の範囲である。別の実施形態では、pHは約7.3である。
【0013】
別の実施形態では、前述のアミノ酸はグリシン、ヒスチジン、プロリン、セリン、アラニンおよびアルギニンからなる群から選択される。別の実施形態では、アミノ酸は約0.5mM~約300mMの濃度範囲である。さらに別の実施形態では、アミノ酸は約15mMの濃度のグリシンである。
【0014】
本発明の一実施形態では、rVWFは配列番号3に記載のアミノ酸配列を含み;緩衝剤はシトラートであり、pHは約7.3であり;アミノ酸は約15mMの濃度のグリシンである。
【0015】
本発明のさらに別の実施形態では、前述の1種または複数種の安定化剤はマンニトール、ラクトース、ソルビトール、キシリトール、スクロース、トレハロース、マンノース、マルトース、ラクトース、グルコース、ラフィノース、セロビオース、ゲンチオビオース、イソマルトース、アラビノース、グルコサミン、フルクトースおよびこれらの安定化剤の組み合わせからなる群から選択される。一実施形態では、安定化剤は約10g/LmMの濃度のトレハロースおよび約20g/Lの濃度のマンニトールである。
【0016】
本発明のなお別の実施形態では、前述の界面活性剤はジギトニン、トリトンX-100、トリトンX-114、TWEEN-20、TWEEN-80およびこれらの界面活性剤の組み合わせからなる群から選択される。さらに別の実施形態では、界面活性剤は約0.01g/LのTWEEN-80である。
【0017】
本発明の別の実施形態では、rVWFは配列番号3に記載のアミノ酸配列を含み;緩衝剤は約pH7.3で約15mMの濃度のシトラートであり;アミノ酸は約15mMの濃度のグリシンであり;安定化剤は約10g/Lの濃度のトレハロースおよび約20g/Lの濃度のマンニトールであり;界面活性剤は約0.1g/LのTWEEN-80である。
本発明は例えば、以下の項目を提供する。
(項目1)
(a)rVWF;(b)1種または複数種の緩衝剤;(c)1種または複数種のアミノ酸;(d)1種または複数種の安定化剤;および(e)1種または複数種の界面活性剤を含む組換え型von Willebrand因子(rVWF)の安定な凍結乾燥医薬製剤であって;
該rVWFは:
a)配列番号3に記載のアミノ酸配列;
b)a)の生物活性アナログ、フラグメントまたは変異体;
c)配列番号1に記載のポリヌクレオチドによりコードされるポリペプチド;
d)c)の生物活性アナログ、フラグメントまたは変異体;および
e)中程度にストリンジェントなハイブリダイゼーション条件下で配列番号1に記載の該ポリヌクレオチドとハイブリダイズするポリヌクレオチドによりコードされるポリペプチド;
からなる群から選択されるポリペプチドを含み、
該緩衝液は約0.1mM~約500mMの範囲のpH緩衝剤から構成され、該pHは約2.0~約12.0の範囲であり;
該アミノ酸は約1~約500mMの濃度であり;
該安定化剤は約0.1~約1000mMの濃度であり;
該界面活性剤は約0.01g/L~約0.5g/Lの濃度である
医薬製剤。
(項目2)
前記rVWFは配列番号3に記載のアミノ酸配列を含む、項目1に記載の製剤。
(項目3)
前記緩衝剤はシトラート、グリシン、ヒスチジン、HEPES、トリスおよびこれらの物質の組み合わせからなる群から選択される、項目1に記載の製剤。
(項目4)
前記緩衝剤はシトラートである、項目3に記載の製剤。
(項目5)
pHが約6.0~約8.0の範囲である、項目1に記載の製剤。
(項目6)
pHが約6.5~約7.5の範囲である、項目5に記載の製剤。
(項目7)
前記pHが約7.3である、項目4に記載の製剤。
(項目8)
前記緩衝剤はシトラートであり、前記pHは約7.3である、項目1に記載の製剤。
(項目9)
前記アミノ酸はグリシン、ヒスチジン、プロリン、セリン、アラニンおよびアルギニンからなる群から選択される、項目1に記載の製剤。
(項目10)
前記アミノ酸は約0.5mM~約300mMの濃度範囲である、項目9に記載の製剤。(項目11)
前記アミノ酸は約15mMの濃度のグリシンである、項目10に記載の製剤。
(項目12)
前記rVWFは配列番号3に記載のアミノ酸配列を含み;前記緩衝剤はシトラートであり、前記pHは約7.3であり;前記アミノ酸は約15mMの濃度のグリシンである、項目1に記載の製剤。
(項目13)
前記1種または複数種の安定化剤はマンニトール、ラクトース、ソルビトール、キシリトール、スクロース、トレハロース、マンノース、マルトース、ラクトース、グルコース、ラフィノース、セロビオース、ゲンチオビオース、イソマルトース、アラビノース、グルコサミン、フルクトースおよびこれらの安定化剤の組み合わせからなる群から選択される、項目1に記載の製剤。
(項目14)
前記安定化剤は約10g/LmMの濃度のトレハロースおよび約20g/Lの濃度のマンニトールである、項目13に記載の製剤。
(項目15)
前記界面活性剤はジギトニン、トリトンX-100、トリトンX-114、TWEEN-20、TWEEN-80およびこれらの界面活性剤の組み合わせからなる群から選択される、項目1に記載の製剤。
(項目16)
前記界面活性剤は約0.01g/LのTWEEN-80である、項目15に記載の製剤。
(項目17)
前記rVWFは配列番号3に記載のアミノ酸配列を含み;前記緩衝剤は約pH7.3、約15mMの濃度のシトラートであり;前記アミノ酸は約15mMの濃度のグリシンであり;前記安定化剤は約10g/Lの濃度のトレハロースおよび約20g/Lの濃度のマンニトールであり;前記界面活性剤は約0.1g/LのTween-80である、項目1に記載の製剤。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1図1は、安定性を評価した各ロットにプールされたVWF:RCo活性のANCOVA解析を示す(5℃±3℃で保存)。
図2図2は、5℃±3℃で保存したrVWF FDPにおける残留水分の増加を示す。
図3図3は、40℃±2℃で保存したrVWF FDPにおける残留水分の増加を示す。
【発明を実施するための形態】
【0019】
用語の定義
他に定義しない限り、本明細書に使用する技術用語および科学用語はすべて本発明が属する技術分野の当業者が一般に理解しているのと同じ意味を持つ。以下の参考文献は本発明に使用する多くの用語の一般的な定義を当業者に与えてくれる: Singleton,et al.,DICTIONARY OF MICROBIOLOGY AND MOLECULAR BIOLOGY(2d ed.1994);THE CAMBRIDGE DICTIONARY OF SCIENCE AND TECHNOLOGY(Walker ed.,1988);THE GLOSSARY OF GENETICS,5TH ED.,R.Rieger,et al.(eds.),Springer
Verlag(1991);およびHale and Marham,THE HARPER COLLINS DICTIONARY OF BIOLOGY(1991)。
【0020】
本明細書に引用する刊行物、特許出願、特許および他の文献については本開示と矛盾しない範囲でそれぞれ参照によってその全体を援用する。
【0021】
ここで本明細書および添付の特許請求の範囲に使用する単数形「a」、「an」および「the」は、文脈上明らかに他の意味に解すべき場合を除き、複数の意味を含むことに留意されたい。
【0022】
本明細書で使用する場合、以下の用語は、他に記載がない限り、定義される意味を有する。
【0023】
ペプチド化合物に関する「を含む(comprising)」という用語は、化合物が、対象となる配列のアミノ末端とカルボキシ末端のどちらか一方あるいは両方に別のアミノ酸を含んでもよいことを意味する。言うまでもなく、こうした別のアミノ酸は、その化合物の活性を著しく阻害してはならない。本発明の組成物に関する「を含む(comprising)」という用語は、組成物が、別の成分を含んでもよいことを意味する。こうした別の成分は、その組成物の活性を著しく阻害してはならない。
【0024】
「薬理学的に活性な」という用語は、そのように記載された物質が、医学的パラメーター(たとえば、以下に限定されるものではないが、血圧、血球数、コレステロールレベル)または病状(たとえば、以下に限定されるものではないが、癌、自己免疫障害)に影響を与える活性を持つことが確認されていることを意味する。
【0025】
本明細書で使用する場合、「発現する」、「発現している」および「発現」という用語は、遺伝子またはDNA配列の情報が表現されたり、あるいはそれを表現させたりすること、たとえば対応する遺伝子またはDNA配列の転写および翻訳に関わる細胞機能を活性化してタンパク質を産生することを意味する。DNA配列は細胞に発現したり、あるいは細胞に発現させたりしてタンパク質などの「発現産物」を形成する。発現産物自体、たとえば形成されたタンパク質も、「発現する」という場合がある。発現産物は、細胞内に発現するもの、細胞外に発現するものまたは分泌発現するものに分けることができる。「細胞内」という用語は細胞の内側を意味する。「細胞外」という用語は、膜貫通タンパク質などの細胞の外側を意味する。ある物質が細胞のかなり外側で認められる場合、その物質は細胞上または細胞内のどこかから細胞により「分泌されている」。
【0026】
本明細書で使用する場合、「ポリペプチド」とは、ペプチド結合により結合したアミノ酸残基、その構造異性体、関連する天然の構造異性体および非天然の合成アナログからなるポリマーをいう。合成ポリペプチドは、たとえば、自動ポリペプチド合成機を用いて調製することができる。「タンパク質」という用語は一般に大きなポリペプチドをいう。「ペプチド」という用語は一般に短いポリペプチドをいう。
【0027】
本明細書で使用する場合、ポリペプチドの「フラグメント」とは全長ポリペプチドまたはタンパク質発現産物よりも小さいポリペプチドまたはタンパク質の任意の部分をいうものとする。
【0028】
本明細書で使用する場合、「アナログ」とは、構造が非常に類似しており、かつ分子全体またはそのフラグメントに対して同じ生物活性を持つが、活性の程度が異なる場合がある2つ以上のポリペプチドのいずれかをいう。アナログは、1つまたは複数のアミノ酸と他のアミノ酸との置換、1つまたは複数のアミノ酸の欠失、他のアミノ酸の挿入および(insertionand)/または付加など1つまたは複数の突然変異によりそのアミノ酸配列の組成が異なっている。置換は、元のアミノ酸と置換されるアミノ酸との物理化学的または機能的関係に応じて保存的であっても、あるいは非保存的であってもよい。
【0029】
本明細書で使用する場合、「変異体」とは、通常その分子の一部ではない別の化学部分を含むように修飾されたポリペプチド、タンパク質またはそのアナログをいう。こうした部分は、分子の溶解性、吸収作用、生物学的半減期などを調整することができる。あるいは、この部分は分子の毒性を抑制し、分子の望ましくない任意の副作用を除去または減弱することなどが可能である。こうした作用を媒介できる部分は、Remington’s
Pharmaceutical Sciences(1980)に開示されている。こうした部分を分子に連結する手順は当該技術分野において周知である。たとえば以下に限定されるものではないが、一態様では、変異体は、インビボでのタンパク質の半減期を延長する化学修飾を受けた血液凝固因子である。種々の態様では、グリコシル化、ペグ化および/またはポリシアル化によりポリペプチドを修飾する。
【0030】
組換え型VWF
プレプロVWFのポリヌクレオチドおよびアミノ酸配列をそれぞれ配列番号1および配列番号2に示す。それぞれGenBank受託番号NM_000552およびNP_000543で入手可能である。成熟VWFタンパク質に対応するアミノ酸配列を配列番号3(全長プレプロVWFアミノ酸配列のアミノ酸764~2813に対応)に示す。
【0031】
有用なrVWFの一形態は、少なくとも1つの第VIII因子(FVIII)分子をインビボで安定化する、たとえばこの分子と結合するという特性、および任意に薬理学的に許容されるグリコシル化パターンを持つという特性を少なくとも有する。その具体的な例として、A2ドメインがないためタンパク質分解に対して抵抗性を示すVWF(Lankhof et al.,Thromb.Haemost.77:1008-1013,1997)および糖タンパク質1b結合ドメインと、コラーゲンおよびヘパリンの結合部位とを含むVal449~Asn730のVWFフラグメント(Pietu et al.,Biochem.Biophys.Res.Commun.164:1339-1347,1989)がある。一態様では、VWFが少なくとも1つのFVIII分子を安定化する能力の判定を、VWF欠乏哺乳動物を用いて当該技術分野(the state in the art)において周知の方法により行う。
【0032】
本発明のrVWFは、当該技術分野において公知の任意の方法により作製される。1つの具体的な例が1986年10月23日に公開された国際公開第86/06096号、および1990年7月23日に出願された米国特許出願第07/559,509号に開示されており、組換え型VWFの作製方法についてこれらを参照によって本明細書に援用する。したがって、(i)遺伝子工学、たとえばRNAの逆転写および/またはDNAの増幅により組換えDNAを作製する方法、(ii)トランスフェクション、たとえばエレクトロポレーションまたはマイクロインジェクションにより原核細胞または真核細胞へ組換えDNAを導入する方法、(iii)たとえば連続培養法またはバッチ培養法により形質転換細胞を培養する方法、(iv)たとえば構成的にまたは誘導によりVWFを発現させる方法および(v)VWFを、たとえば培養基から、または形質転換細胞の回収により単離する方法を用いて、(vi)たとえば陰イオン交換クロマトグラフィーまたはアフィニティークロマトグラフィー方法により精製されたrVWFを得ることは当該技術分野において公知である。一態様では、当該技術分野において周知の組換えDNA技法により形質転換した宿主細胞を用いて組換え型VWFを作製する。たとえば、ポリペプチドをコードする配列については、好適な制限酵素を用いてDNAから切断することができる。あるいは、別の態様では、ホスホルアミデート法などの化学合成法を用いてDNA分子を合成する。また、さらに別の態様では、これらの技法を組み合わせて使用する。
【0033】
本発明はまた、適切な宿主中の、本発明のポリペプチドをコードするベクターも提供する。ベクターは、適当な発現制御配列に作動的に連結されたポリペプチドをコードするポリヌクレオチドを含む。ポリヌクレオチドをベクターに挿入する前あるいは後にこの作動的連結を行う方法についてはよく知られている。発現制御配列はプロモーター、アクチベーター、エンハンサー、オペレーター、リボソーム結合部位、開始シグナル、停止シグナル、キャップシグナル、ポリアデニル化シグナル、および転写または翻訳の制御に関与する他のシグナルを含む。ポリヌクレオチドを含む得られたベクターを用い、適当な宿主を形質転換する。こうした形質転換は当該技術分野において周知の方法により行えばよい。
【0034】
本発明の実施に際しては入手可能でよく知られた宿主細胞が多くあり、そのいずれかを使用する。どのような宿主を個々に選択するかは、たとえば、選択した発現ベクターとの適合性、DNA分子によりコードされるペプチドの毒性、形質転換率、ペプチドの回収しやすさ、発現特性、バイオ安全性および費用など当該技術分野で知られる多くの要因によって決まる。個々のDNA配列の発現効率がすべての宿主細胞で同等とは限らないことを理解して、こうした要因のバランスをとる必要がある。こうした一般的なガイドラインの範囲内で有用な微生物宿主細胞として、細菌、酵母および他の真菌、昆虫、植物、哺乳動物(ヒトを含む)の培養細胞、または当該技術分野において公知の他の宿主が挙げられる。
【0035】
形質転換した宿主は、所望の化合物が発現するように従来の発酵条件で培養する。そうした発酵条件は当該技術分野において周知である。最後に、当該技術分野において周知の方法により培養基または宿主細胞自体からポリペプチドを精製する。
【0036】
本発明の化合物の発現に使用する宿主細胞によっては、タンパク質のグリコシル化部位であることが知られている部位に炭水化物(オリゴ糖)基を任意に結合する。一般にグリコシル化部位が配列Asn-X-Ser/Thrの一部で、Xがプロリン以外の任意のアミノ酸であり得る場合、O-結合型オリゴ糖はセリン(Ser)またはトレオニン(Thr)残基に結合し、N-結合型オリゴ糖はアスパラギン(Asn)残基に結合する。Xは好ましくはプロリンを除く19種の天然のアミノ酸の1つである。N-結合型およびO-結合型オリゴ糖と各型に見られる糖残基の構造は多岐にわたる。N-結合型およびO-結合型オリゴ糖の2つの型に多く見られるタイプの糖の1つはN-アセチルノイラミン酸(シアル酸という)である。シアル酸は通常N-結合型オリゴ糖でもO-結合型オリゴ糖でも末端残基であり、一態様では、その負電荷によりグリコシル化化合物に酸性特性を与えることができる。こうした部位(単数または複数)については本発明の化合物のリンカーに組み込んでもよく、好ましくはポリペプチド化合物の組換え体作製の過程において細胞で(たとえば、CHO、BHK、COSなどの哺乳動物細胞内で)グリコシル化される。他の態様では、当該技術分野において公知の合成または半合成手順により、こうした部位をグリコシル化する。
【0037】
あるいは、合成方法によって本化合物を作製してもよく、たとえば、固相合成法を用いてもよい。好適な技法は当該技術分野において周知であり、Merrifield(1973),Chem.Polypeptides,pp.335-61(Katsoyannis and Panayotis eds.);Merrifield(1963),J.Am.Chem.Soc.85:2149;Davis et al.(1985),Biochem.Intl.10:394-414;Stewart and Young(1969),Solid Phase Peptide Synthesis;米国特許第3,941,763号;Finn et al.(1976),The Proteins(3rd ed.)2:105-253;およびErickson et al.(1976),The Proteins(3rd ed.)2:257-527に記載されている技法が挙げられる。固相合成は小さなペプチドを作製する最も費用効果に優れた方法であるため、ペプチドを個別に作製するのに好ましい手法である。
【0038】
VWFのフラグメント、変異体およびアナログ
ポリペプチドのフラグメント、変異体またはアナログの調製方法は当該技術分野において公知である。
【0039】
ポリペプチドのフラグメントは、以下に限定されるものではないが、酵素的切断(たとえば、トリプシン、キモトリプシン)を用いて、さらに特定のアミノ酸配列を持つポリペプチドフラグメントを生成する組換え手段も用いて調製する。多量体化ドメインまたは当該技術分野において公知の他の任意の同定可能なVWFドメインなど、特定の活性を持つタンパク質の領域を含むポリペプチドのフラグメントを生成してもよい。
【0040】
ポリペプチドアナログの作製方法についてもよく知られている。ポリペプチドのアミノ酸配列のアナログは置換アナログでも、挿入アナログでも、付加アナログでもまたは欠失アナログでもよい。ポリペプチドのフラグメントを含む欠失アナログは、機能または免疫原性活性に必須ではない未変性タンパク質の1つまたは複数の残基が欠損している。挿入アナログは、たとえば、ポリペプチドの末端以外にアミノ酸(単数または複数)の付加を含む。このアナログは、たとえば以下に限定されるものではないが、免疫反応性エピトープの挿入を含んでいても、または単に1つの残基の挿入を含んでいてもよい。ポリペプチドのフラグメントを含む付加アナログは、タンパク質のどちらか一方の末端あるいは両末端に1つまたは複数のアミノ酸の付加を含むもので、たとえば、融合タンパク質がある。また、前述のアナログの組み合わせも意図している。
【0041】
置換アナログは一般にタンパク質内の1つまたは複数の部位で野生型のアミノ酸1つを別のアミノ酸と交換したものであり、ポリペプチドの1つまたは複数の特性を、他の機能または特性を完全には消失させずに調節するように設計してもよい。一態様では、置換は保存的置換である。「保存的アミノ酸置換」とは、あるアミノ酸を、側鎖または類似の化学的特性を持つアミノ酸と置換することを意味する。保存的置換を生じる類似のアミノ酸としては、酸性側鎖を持つアミノ酸(グルタミン酸、アスパラギン酸);塩基性側鎖を持つアミノ酸(アルギニン、リジン、ヒスチジン);極性アミド側鎖を持つアミノ酸(グルタミン、アスパラギン);疎水性脂肪族側鎖を持つアミノ酸(ロイシン、イソロイシン、バリン、アラニン、グリシン);芳香族側鎖を持つアミノ酸(フェニルアラニン、トリプトファン、チロシン);小さな側鎖を持つアミノ酸(グリシン、アラニン、セリン、トレオニン、メチオニン);あるいは脂肪族ヒドロキシル側鎖を持つアミノ酸(セリン、トレオニン)が挙げられる。
【0042】
一態様では、アナログは、アナログを得る元となった組換え型VWFと実質的に相同であるか、または実質的に同一である。アナログは、野生型ポリペプチドの生物活性、たとえば、血液凝固活性の少なくとも一部を保持するものを含む。
【0043】
意図しているポリペプチド変異体として、以下に限定されるものではないが、ユビキチン化、ポリシアル化などのグリコシル化、治療剤または診断剤とのコンジュゲーション、標識化、ペグ化(ポリエチレングリコールを用いた誘導体化)などのポリマーの共有結合、非加水分解性結合の導入、および通常ヒトタンパク質に起こらない、オルニチンなどのアミノ酸の化学合成による挿入または置換といった技法により化学修飾されたポリペプチドが挙げられる。変異体は、本発明の非修飾分子と同じまたは本質的に同じ結合特性を保持している。こうした化学修飾には、VWFポリペプチドへの作用物質の直接的または間接的(たとえば、リンカーを介した)結合を含めてもよい。間接的結合の場合、リンカーは加水分解性でも、または非加水分解性でもよいことを意図している。
【0044】
一態様では、ペグ化ポリペプチドアナログの調製は、(a)ポリペプチドをポリエチレングリコール(PEGの反応性エステルまたはアルデヒド誘導体など)と、結合コンストラクトポリペプチドが1つまたは複数のPEG基に結合する条件下で反応させるステップおよび(b)反応生成物(単数または複数)を得るステップを含む。一般に、アシル化反応に最適な反応条件は既知のパラメーターおよび所望の結果に基づき決定される。たとえば、PEG:タンパク質の比が大きいほど、ポリペグ化生成物の割合が高くなる。いくつかの実施形態では、結合コンストラクトはN末端に1つのPEG部分を持つ。ポリエチレングリコール(PEG)を血液凝固因子に結合させて、たとえばインビボでの半減期を延長させてもよい。PEG基は都合のよい任意の分子量としてよく、直鎖または分枝である。PEGの平均分子量は約2キロダルトン(「kD:kiloDalton」)から約100kDa、約5kDa~約50kDaまたは約5kDa~約10kDaの範囲である。ある態様では、PEG基はPEG部分の天然または人工の反応基(たとえば、アルデヒド基、アミノ基、チオール基またはエステル基)と血液凝固因子の反応基(たとえば、アルデヒド基、アミノ基またはエステル基)のアシル化または還元アルキル化により、または当該技術分野において公知の他の任意の手法により血液凝固因子に結合している。
【0045】
ポリシアル化ポリペプチドの調製方法は、米国特許出願公開第20060160948号、Fernandes et Gregoriadis;Biochim.Biophys.Acta 1341:26-34,1997、およびSaenko et al.,Haemophilia 12:42-51,2006に記載されている。簡単に説明すると、0.1MのNaIO4を含むコロミン酸(CA:colominic acid)溶液を暗所で室温にて撹拌してCAを酸化する。この活性化CA溶液を、たとえば、暗所で0.05Mのリン酸ナトリウム緩衝液、pH7.2に対して透析し、この溶液をrVWF溶液に加え、緩やかに振盪しながら暗所で室温にて18時間インキュベートした。任意に、たとえば除外濾過/ダイアフィルトレーションにより、このrVWF-ポリシアル酸コンジュゲートから遊離試薬を分離する。rVWFとポリシアル酸のコンジュゲーションについては、グルタルアルデヒドを架橋結合試薬として用いて行う(Migneault et al.,Biotechniques 37:790-796,2004)。
【0046】
別の態様では、本発明のポリペプチドは、ポリペプチドである第2の作用物質との融合タンパク質であることをさらに意図している。一実施形態では、ポリペプチドである第2の作用物質は、以下に限定されるものではないが、酵素、成長因子、抗体、サイトカイン、ケモカイン、細胞表面受容体、細胞表面受容体の細胞外ドメイン、細胞接着分子、または上述のタンパク質のフラグメントもしくは活性ドメインである。関連する実施形態では、第2の作用物質は第VIII因子、第VII因子、第IX因子などの血液凝固因子である。意図している融合タンパク質は当該技術分野において公知の化学的技法または組換え技法により作製される。
【0047】
さらに、別の態様ではプレプロVWFポリペプチドおよびプロVWFポリペプチドが本発明の製剤中で治療効果を与えることも意図している。たとえば、米国特許第7,005,502号には、インビトロでトロンビンの産生を誘導する大量のプロVWFを含む医薬調製物が記載されている。本発明は、天然の成熟VWFの生物活性組換えフラグメント、変異体または他のアナログだけでなく、プレプロVWF(配列番号2に記載)またはプロVWFポリペプチド(配列番号2のアミノ酸残基23~764)の生物活性組換えフラグメント、変異体またはアナログを本明細書に記載の製剤に使用することも意図している。
【0048】
当業者であれば、天然分子と同一または類似の生物活性を有する天然分子の生物活性フラグメント、変異体またはアナログをコードするよう、フラグメント、変異体およびアナログをコードするポリヌクレオチドを容易に作製することができる。種々の態様では、こうしたポリヌクレオチドは、PCR法、分子をコードするDNAの消化/ライゲーションおよび同種のものを用いて調製する。したがって当業者であれば、以下に限定されるものではないが、部位特異的変異誘発など当該技術分野において公知の任意の方法によりDNA鎖に一塩基を変化させたものを作製し、コドンの変化およびミスセンス変異を引き起こすことができる。本明細書で使用する場合、「中程度にストリンジェントなハイブリダイゼーション条件」という語句は、たとえば50%ホルムアミド中、42℃でハイブリダイズし、0.1×SSC、0.1%SDS中、60℃で洗浄することを意味する。当業者であれば、ハイブリダイズしようとする配列の長さおよびヌクレオチドの塩基のGC含量によってこうした条件が変化することを理解するであろう。当該技術分野における処方標準は、正確なハイブリダイゼーション条件を判定するのに適している。Sambrook et al.,9.47-9.51 in Molecular Cloning,Cold Spring Harbor Laboratory Press,Cold Spring Harbor,New York(1989)を参照されたい。
【0049】
凍結乾燥
一態様では、本発明のVWFポリペプチドを含む製剤は投与前に凍結乾燥する。凍結乾燥は当該技術分野における通常の技法を用いて行い、開発中の組成物に対して最適化するべきである[Tang et al.,Pharm Res.21:191-200,(2004)およびChang et al.,Pharm Res.13:243-9(1996)]。
【0050】
一態様では、凍結乾燥サイクルは、凍結、1次乾燥および2次乾燥という3つのステップから構成される[A.P.Mackenzie,Phil Trans R Soc London,Ser B,Biol 278:167(1977)]。凍結ステップでは、溶液を冷却して氷を形成させる。さらに、このステップでは充填剤の結晶化を誘導する。1次乾燥段階ではこの氷を昇華させる。これは、真空にしてチャンバー圧力を氷の蒸気圧未満に下げ、昇華を促進する熱を導入することにより行う。最後に、2次乾燥段階ではチャンバー圧力を下げながら棚温度を高温にして吸着または結合した水を除去する。このプロセスでは凍結乾燥ケークと呼ばれる材料が生成される。このケークは後で滅菌水あるいは好適な注射用希釈液で再構成することができる。
【0051】
凍結乾燥サイクルは賦形剤の最終的な物理的状態を決定するだけでなく、再構成の時間、外観、安定性および最終的な含水量などの他のパラメーターにも影響を与える。凍結状態にある組成物の構造は特定の温度で起こるいくつかの転移(たとえばガラス転移、湿潤および結晶化)を経て進行するものであり、こうした構造を用いれば凍結乾燥プロセスを理解し最適化することができる。ガラス転移温度(Tgおよび/またはTg’)は溶質の物理的状態に関する情報を与えるものであり、示差走査熱量測定(DSC:differential scanning calorimetry)によって判定することができる。TgおよびTg’は、凍結乾燥サイクルを設計する際に考慮に入れなければならない重要なパラメーターである。たとえば、Tg’は1次乾燥において重要である。また、乾燥状態のガラス転移温度は最終生成物の保管温度に関する情報を与える。
【0052】
一般的な製剤および賦形剤
賦形剤は製剤(drug product)(たとえばタンパク質)の安定性および送達性を付与したり、あるいは向上させたりする添加剤である。賦形剤は、加える理由にかかわらず、製剤に不可欠な成分であり、したがって、患者において安全かつ忍用性が良好である必要がある。タンパク質薬剤の場合、賦形剤の選択は、薬剤の有効性および免疫原性の両方に影響する可能性があるため特に重要である。このため、タンパク質製剤は、好適な安定性、安全性および市場性を与える賦形剤を適切に選択して開発する必要がある。
【0053】
一態様では、凍結乾燥製剤は少なくとも緩衝液、充填剤および安定剤の1つまたは複数からなる。この態様では、凍結乾燥ステップの過程または再構成中に凝集が問題になる場合に界面活性剤の有用性を評価し、選択する。適切な緩衝剤を加えると製剤の凍結乾燥中のpHが安定なゾーンに維持される。液体および凍結乾燥タンパク質製剤を想定した賦形剤成分の比較を表Aに示す。
【表A】
【0054】
タンパク質の製剤を開発する際の主な課題は、製造、輸送および保管のストレスに対して生成物を安定化させることである。製剤賦形剤の役割はこうしたストレスに対して安定性を与えることにある。賦形剤はまた、送達を可能にし患者の利便性を高めることを目的として高濃度タンパク質製剤の粘度を低下させるために使用されることもある。一般に、賦形剤は、様々な化学的および物理的ストレスに対してタンパク質を安定化させる機序に基づき分類することができる。一部の賦形剤は、特定のストレス作用を軽減したり、または特定のタンパク質の何らかの感受性を制御したりするために使用される。賦形剤によってはタンパク質の物理的安定性および共有結合の安定性により全体的な作用を及ぼすものもある。本明細書に記載の賦形剤は、化学的種類あるいは製剤におけるその機能的役割のどちらかでまとめられる。安定化の機序に関する簡単な説明は、各賦形剤のタイプを考察する際に行う。
【0055】
本明細書に記載の本教示内容およびガイダンスを踏まえれば、本発明の生物学的製剤を得るのに、任意の特定の製剤にどのくらいの量または範囲の賦形剤を加えれば生物学的製剤(biopharmaceutical)(たとえばタンパク質)の安定性の保持を促進できるかが当業者であれば分かるであろう。たとえば、本発明の生物学的製剤に加えるべき塩の量および種類は、最終溶液の所望の重量オスモル濃度(すなわち等張、低張または高張)のほか、製剤に加えるべき他の成分の量および重量オスモル濃度に基づき選択される。
【0056】
たとえば、約5%ソルビトールを加えると等張化する場合があるのに対し、賦形剤による等張化に約9%のスクロース賦形剤が必要となる。本発明の生物学的製剤中に加えてもよい1種または複数種の賦形剤の量または濃度範囲の選択については、塩、ポリオールおよび糖を参照して上記に例示した。しかしながら、本明細書に記載し、さらに具体的な賦形剤を参照して例示した各項目については、たとえば、塩、アミノ酸、他の等張化剤、界面活性剤、安定剤、充填剤、凍結保護物質、凍結乾燥保護剤、酸化防止剤、金属イオン、キレート化剤および/または防腐剤など、賦形剤のあらゆる種類および組み合わせにも同様に当てはまることを当業者であれば理解するであろう。
【0057】
さらに、ある賦形剤をモル濃度で報告する場合、溶液の等価なw/vパーセント(%)(たとえば、(溶液サンプル中の物質のグラム数/溶液のmL数)×100%)も意図していることを当業者であれば分かるであろう。
【0058】
言うまでもなく、本明細書に記載の賦形剤の濃度は個々の製剤中で相互に依存し合うことも当業者であれば分かるであろう。たとえば、ポリペプチド濃度が高い場合、あるいは、安定化剤の濃度が高い場合、充填剤の濃度を低くしてもよい。さらに、充填剤が存在しない特定の製剤の等張性を維持するには、適宜安定化剤の濃度を調節することになる(すなわち、安定剤を「等張になる」量で使用することになる)ことも当業者であれば分かるであろう。通常の賦形剤は当該技術分野において公知であり、Powell et al.,Compendium of Excipients fir Parenteral Formulations(1998),PDA J.Pharm.Sci.Technology,52:238-311で確認することができる。
【0059】
緩衝液および緩衝剤
薬理学的に活性なタンパク質製剤の安定性は通常、狭いpH範囲で最大になることが観察される。この最も安定したpH範囲は、プレフォーミュレーション研究の初期段階で確認する必要がある。これを行う際には加速安定性試験および熱量測定スクリーニング試験などいくつかのアプローチが有用であることが明らかになっている(Remmele R.L.Jr.,et al.,Biochemistry,38(16):5241-7(1999))。製剤が完成したら、そのタンパク質を製造し、保管期間通じて保存する必要がある。したがって、製剤のpHを調節するために必ずといっていいほど緩衝剤が使用される。
【0060】
緩衝種の緩衝能はpKaとpHが等しいときに最大になり、pHがその値から増加したり減少したりするにつれ小さくなる。緩衝能力の90パーセントはそのpKaの1pH単位内に存在する。また、緩衝能は緩衝液濃度の上昇に比例して増大する。
【0061】
緩衝液の選択の際は複数の要因を考慮する必要がある。何よりもまず、そのpKaおよび所望の製剤pHに基づき緩衝液種およびその濃度を規定する必要がある。同様に、その緩衝液にタンパク質および他の製剤賦形剤との適合性があり、いかなる分解反応も触媒しないことを確認することも重要である。考慮すべき第3に重要な点は、投与時に緩衝液が起こすことがあるチクチク感および刺激感である。たとえば、シトラートは注射時にチクチク感を引き起こすことが知られている(Laursen T,et al.,Basic Clin Pharmacol Toxicol.,98(2):218-21(2006))。投与時に製剤が速やかに血液に希釈されるIV経路による投与に比べて薬剤溶液が比較的長時間その部位にとどまる皮下(SC:subcutaneous)または筋肉内(IM:intramuscular)経路により投与される薬剤は、チクチク感および刺激感が起こる可能性が大きくなる。直接的なIV注入により投与される製剤の場合、緩衝液(および他の任意の製剤成分)の総量をモニターする必要がある。患者の心血管系に対して作用する恐れがある、リン酸カリウム緩衝液の形態で投与されたカリウムイオンについては、特に注意しなければならない(Hollander-Rodriguez JC,et al.,Am.Fam.Physician.,73(2):283-90(2006))。
【0062】
凍結乾燥製剤の緩衝液はさらに考慮する必要がある。リン酸ナトリウムのような緩衝液の一部は凍結中にタンパク質のアモルファス相から結晶化し、pHが変化する可能性がある。アセタートおよびイミダゾールなど他の通常の緩衝液は凍結乾燥の過程で昇華または蒸発し、それにより凍結乾燥中あるいは再構成後に製剤のpHが変化する恐れがある。
【0063】
本組成物に存在する緩衝系は生理学的に適合性があり、かつ医薬製剤の所望のpHを維持するように選択する。一実施形態では、溶液のpHはpH2.0~pH12.0である。たとえば、溶液のpHは2.0、2.3、2.5、2.7、3.0、3.3、3.5、3.7、4.0、4.3、4.5、4.7、5.0、5.3、5.5、5.7、6.0、6.3、6.5、6.7、7.0、7.3、7.5、7.7、8.0、8.3、8.5、8.7、9.0、9.3、9.5、9.7、10.0、10.3、10.5、10.7、11.0、11.3、11.5、11.7または12.0であってもよい。
【0064】
pH緩衝化合物は、製剤のpHを所定のレベルで維持するのに好適であればどのような量で存在してもよい。一実施形態では、pH緩衝濃度は0.1mM~500mM(1M)である。たとえば、pH緩衝剤は少なくとも0.1、0.5、0.7、0.8 0.9、1.0、1.2、1.5、1.7、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、25、30、40、50、60、70、80、90、100、200または500mMであることを意図している。
【0065】
本明細書に記載するような製剤を緩衝するのに使用する例示的なpH緩衝剤としては、以下に限定されるものではないが、有機酸、グリシン、ヒスチジン、グルタマート、スクシナート、ホスファート、アセタート、シトラート、トリス、HEPES、および以下に限定されるものではないが、アスパルタート、ヒスチジンおよびグリシンなどのアミノ酸またはアミノ酸の混合物がある。本発明の一実施形態では、緩衝剤はシトラートである。
【0066】
安定剤および充填剤
本医薬製剤の一態様では、保管による凝集および化学分解を防止または抑制するために安定剤(または安定剤の組み合わせ)を加える。再構成時に曇ったまたは濁った溶液はタンパク質が沈殿するか、あるいは少なくとも凝集することが示されている。「安定剤」という用語は、液体状態における凝集または化学分解(たとえば自己分解、脱アミド、酸化など)を含む物理的劣化を防止できる賦形剤を意味する。想定している安定剤として、スクロース、トレハロース、マンノース、マルトース、ラクトース、グルコース、ラフィノース、セロビオース、ゲンチオビオース、イソマルトース、アラビノース、グルコサミン、フルクトース、マンニトール、ソルビトール、グリシン、アルギニンHCL、デキストラン、デンプン、ヒドロキシエチルデンプン、シクロデキストリン、N-メチルピロリデン(N-methyl pyrollidene)、セルロースおよびヒアルロン酸などの多糖類を含むポリ-ヒドロキシ化合物、塩化ナトリウムがあるが、これに限定されるものではない[Carpenter et al.,Develop.Biol.Standard 74:225,(1991)]。安定剤は本製剤中に約0.1、0.5、0.7、0.8 0.9、1.0、1.2、1.5、1.7、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、30、40、50、60、70、80、90、100、200、500、700、900または1000mMの濃度で加える。本発明の(f)一実施形態では、安定化剤としてマンニトールおよびトレハロースを使用する。
【0067】
必要に応じて、本製剤は、適切な量の充填剤および浸透圧調整剤も含む。充填剤としては、たとえば、マンニトール、グリシン、スクロース、デキストラン、ポリビニルピロリドン(polyvinylpyrolidone)、カルボキシメチルセルロース、ラクトース、ソルビトール、トレハロースまたはキシリトールなどのポリマーが挙げられるが、これに限定されるものではない。一実施形態では、充填剤はマンニトールである。充填剤は約0.1、0.5、0.7、0.8 0.9、1.0、1.2、1.5、1.7、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、30、40、50、60、70、80、90、100、200、500、700、900または1000mMの濃度で加える。
【0068】
界面活性剤
タンパク質は各表面と相互作用する傾向が強く、気-液、バイアル-液および液-液(シリコーン油)界面で吸着および変性を受けやすい。この分解経路はタンパク質濃度に逆相関することが観察されており、この分解経路により可溶性および不溶性のタンパク質凝集の形成、あるいは表面への吸着による溶液からのタンパク質の減少のどちらかが起こる。容器表面への吸着以外にも、生成物の輸送および取り扱いの過程で見られるような物理的撹拌によって表面で起こる分解が助長される。
【0069】
界面活性剤は、表面で起こる分解を防止するためタンパク質製剤に繁用されている。界面活性剤は、界面位置においてタンパク質に置き換わることができる両親媒性分子である。界面活性剤分子の疎水性部分は界面位置(たとえば、気/液)に集まるのに対し、分子の親水性部分はバルク溶媒に向いたままである。十分な濃度(典型的には界面活性剤(detergent)の臨界ミセル濃度前後)であれば、界面活性剤分子の表層はタンパク質分子が界面で吸着されるのを防止する働きをする。このため、表面で起こる分解が最小限に抑えられる。本明細書で想定する界面活性剤として、ソルビタンポリエトキシレートの脂肪酸エステル、すなわち、ポリソルベート20およびポリソルベート80が挙げられるが、これに限定されるものではない。この2剤が異なるのは分子に疎水特性を与える脂肪族鎖の長さだけであり、それぞれC-12およびC-18である。このため、ポリソルベート80の方がポリソルベート20よりも表面活性が強く、臨界ミセル濃度が低い。
【0070】
界面活性剤(detergent)はさらにタンパク質の立体構造の熱力学的安定性にも作用することができる。個々の界面活性剤(detergent excipient)の作用はやはりタンパク質特異的となる。たとえば、ポリソルベートはタンパク質によって安定性を低下させることもあれば、高めることもあることが明らかになっている。界面活性剤(detergent)によるタンパク質の不安定化は、界面活性剤(detergent)分子の疎水性尾が特異的結合に関与し、タンパク質の折り畳みが一部または全部ほどけた状態になる場合があることによって合理的に説明できる。この種の相互作用により、コンホメーションの平衡状態はタンパク質がより伸びた状態に変化する(すなわち、ポリソルベートの結合に伴いタンパク質分子の疎水性部分の曝露が増大する)場合がある。あるいは、未変性状態のタンパク質に疎水性表面がある程度現れている場合、未変性状態に界面活性剤(detergent)が結合すると、そのコンホメーションを安定化させることができる。
【0071】
ポリソルベートのもう1つの側面は、本質的に酸化分解を受けやすいことである。原料としてのポリソルベートは、タンパク質残基の側鎖、特にメチオニンを酸化するペルオキシドを十分な量で含んでいる場合が多い。安定剤を添加すると酸化損傷を起こす可能性があるため、製剤には賦形剤を最小有効濃度で使用する点に留意すべきである。界面活性剤の場合、個々のタンパク質に対する有効濃度が安定化の機序によって異なる。
【0072】
界面活性剤はさらに、凍結および乾燥中の表面に関連する凝集現象の防止のため適当な量で加える[Chang,B,J.Pharm.Sci.85:1325,(1996)]。そうした例示的な界面活性剤として、天然のアミノ酸に由来する界面活性剤を含むアニオン性、カチオン性、非イオン性、両性イオン性および両性界面活性剤が挙げられるが、これに限定されるものではない。アニオン性界面活性剤には、ラウリル硫酸ナトリウム、ジオクチルスルホコハク酸ナトリウムおよびジオクチルスルホン酸ナトリウム、ケノデオキシコール酸、N-ラウロイルサルコシンナトリウム塩、ドデシル硫酸リチウム、1-オクタンスルホン酸ナトリウム塩、コール酸ナトリウム水和物、デオキシコール酸ナトリウムおよびグリコデオキシコール酸ナトリウム塩があるが、これに限定されるものではない。カチオン性界面活性剤には、ベンザルコニウムクロリドまたは塩化ベンゼトニウム、塩化セチルピリジニウム一水和物およびヘキサデシルトリメチルアンモニウムブロミドがあるが、これに限定されるものではない。両性イオン界面活性剤には、CHAPS、CHAPSO、SB3-10およびSB3-12があるが、これに限定されるものではない。非イオン界面活性剤には、ジギトニン、トリトンX-100、トリトンX-114、TWEEN20およびTWEEN80があるが、これに限定されるものではない。界面活性剤にはさらに、ラウロマクロゴール400、ステアリン酸ポリオキシル40、ポリオキシエチレン硬化ひまし油10、40、50および60、モノステアリン酸グリセロール、ポリソルベート40、60、65および80、大豆レシチン、およびジオレイルホスファチジルコリン(DOPC:dioleyl phosphatidyl choline)、ジミリストイルホスファチジルグリセロール(DMPG:dimyristoylphosphatidyl glycerol)、ジミリストイルホスファチジルコリン(DMPC:dimyristoylphosphatidyl choline)および(ジオレイルホスファチジルグリセロール)DOPG(dioleyl phosphatidyl glycerol)などの他のリン脂質;スクロース脂肪酸エステル、メチルセルロースおよびカルボキシメチルセルロースがあるが、これに限定されるものではない。したがって、これらの界面活性剤を個別にあるいは混合物として様々な比率で含む組成物もさらに提供される。本発明の一実施形態では、界面活性剤はTWEEN-80である。本製剤の場合、界面活性剤を約0.01~約0.5g/Lの濃度で加える。提供する製剤の界面活性剤の濃度は0.005、0.01、0.02、0.03、0.05、0.06、0.07、0.08、0.09、0.1、0.2、0.3、0.4、0.5、0.6、0.7、0.8、0.9または1.0g/Lである。
【0073】

タンパク質の溶解性、物理的安定性および等張性に重要であり得る製剤のイオン強度を高めるには、塩を加える場合が多い。塩は、様々な方法でタンパク質の物理的安定性に作用することができる。イオンは、タンパク質の表面の荷電残基に結合して未変性状態のタンパク質を安定化させることができる。あるいは、塩は、タンパク質骨格に沿ったペプチド基(-CONH-)に結合して変性状態を安定化させることもできる。塩はさらに、タンパク質分子内の残基間の静電的斥力相互作用を遮蔽してタンパク質の未変性コンホメーションも安定化させることができる。タンパク質製剤中の塩は、タンパク質の凝集および不溶を引き起こす恐れがあるタンパク質分子間の静電的斥力相互作用を遮蔽することもできる。提供する製剤中の塩濃度は0.1、1、10、20、30、40、50、80、100、120、150、200、300~500mMである。
【0074】
他の一般的な賦形剤成分
アミノ酸
アミノ酸は緩衝液、充填剤、安定剤および酸化防止剤としてタンパク質製剤に多用途に使用されている。このため一態様では、ヒスチジンおよびグルタミン酸をそれぞれpH範囲5.5~6.5および4.0~5.5でタンパク質製剤の緩衝に使用する。ヒスチジンのイミダゾール基はpKa=6.0、グルタミン酸側鎖のカルボキシル基のpKaは4.3であるため、これらのアミノ酸はそのそれぞれのpH範囲での緩衝に好適である。こうした場合にはグルタミン酸が特に有用である。ヒスチジンは市販のタンパク質製剤によく用いられており、このアミノ酸は、注射時に刺痛があることが知られている緩衝液シトラートに変わる緩衝液になっている。興味深いことに、ヒスチジンは高濃度で使用する場合、液体状態でも凍結乾燥状態でも凝集に対して安定化作用があることも報告されている(Chen B,et al.,Pharm Res.,20(12):1952-60(2003))。さらに他の研究者により、ヒスチジンは高濃度のタンパク質製剤の粘度を低下させることも観察された。しかしながら、同じ試験でこの著者らは、ステンレス鋼容器を用いた抗体の凍結融解試験においてヒスチジン含有製剤中で凝集および変色が促進されることを観察した。ヒスチジンのもう1つの注意点は、金属イオンの存在下で光酸化を受けることである(Tomita M,et al.,Biochemistry,8(12):5149-60(1969))。メチオニンを製剤の酸化防止剤として使用するのは有望のようであり、多くの酸化ストレスに対して有効であることが観察されている(Lam XM,et al.,J Pharm Sci.,86(11):1250-5(1997))。
【0075】
種々の態様では、アミノ酸のグリシン、プロリン、セリン、アルギニンおよびアラニンの1つまたは複数を含む、提供する製剤は、優先的な排除機構によりタンパク質を安定化させることが明らかになっている。グリシンはさらに、凍結乾燥製剤に繁用される充填剤でもある。アルギニンは、凝集の阻害に有効な作用物質であることが明らかになっており、液体製剤にも凍結乾燥製剤にも使用されている。
【0076】
提供する製剤のアミノ酸濃度は、0.1、1、10、20、30、40、50、80、100、120、150、200、300~500mMである。本発明の一実施形態では、アミノ酸はグリシンである。
【0077】
酸化防止剤
タンパク質残基の酸化は様々な原因から起こる。酸化によるタンパク質損傷の予防に際しては、特定の酸化防止剤の添加以外に、空気中の酸素、温度、光の曝露および化学物質汚染など生成物の製造プロセスおよび保管を通じて多くの要因を慎重に制御する必要がある。このため本発明は、以下に限定されるものではないが、還元剤、酸素/フリーラジカルスカベンジャーまたはキレート化剤など医薬用酸化防止剤の使用を意図している。一態様では、治療用タンパク質製剤の酸化防止剤は水溶性であり、生成物の保管期間を通じて活性が維持される。還元剤および酸素/フリーラジカルスカベンジャーは溶液中の活性酸素種を切断することで作用する。EDTAなどのキレート化剤は、フリーラジカルの形成を促進する微量金属夾雑物に結合することで効果を発揮する。たとえば、EDTAは、金属イオンを触媒とするシステイン残基の酸化を阻害するため酸性線維芽細胞増殖因子の液体製剤に使用されていた。
【0078】
様々な賦形剤はタンパク質の酸化の防止に有効である一方で、酸化防止剤自体がタンパク質に対して他の共有結合の変化または物理変化を引き起こす可能性が懸念される。たとえば、還元剤は分子内のジスルフィド結合を破壊する恐れがあるため、ジスルフィドシャフリングが起こる可能性がある。遷移金属イオンの存在下のアスコルビン酸およびEDTAについては、多くのタンパク質およびペプチドにおいてメチオニン酸化を促進することが明らかになっている(Akers MJ,and Defelippis MR.Peptides and Proteins as Parenteral Solutions.In:Pharmaceutical Formulation Development of Peptides and Proteins.Sven Frokjaer,Lars Hovgaard,editors.Pharmaceutical Science.Taylor and Francis,UK(1999));Fransson J.R.,J.Pharm.Sci. 86(9):4046-1050(1997);Yin J,et al.,Pharm Res.,21(12):2377-83(2004))。チオ硫酸ナトリウムに関してはrhuMab HER2において光および温度によるメチオニン酸化のレベルを低下させることが報告されている。ただし、この研究では、チオスルファート-タンパク質付加物の形成も報告された(Lam XM,Yang JY,et al.,J Pharm Sci.86(11):1250-5(1997))。タンパク質の個々のストレスおよび感受性に従って好適な酸化防止剤の選択を行う。ある態様では、想定される酸化防止剤として、還元剤および酸素/フリーラジカルスカベンジャー、EDTAおよびチオ硫酸ナトリウムがあるが、これに限定されるものではない。
【0079】
金属イオン
一般に、遷移金属イオンはタンパク質の物理化学的分解反応を触媒する恐れがあるため、タンパク質製剤には好ましくない。しかしながら、特定の金属イオンについては、タンパク質の補助因子である場合に製剤に加えられ、配位錯体を形成する場合にタンパク質の懸濁液製剤(たとえば、インスリン亜鉛懸濁液)に加えられる。最近ではマグネシウムイオン(10~120mM)を使用すると、アスパラギン酸のイソアスパラギン酸への異性化が阻害されると考えられている(国際公開第2004039337号)。
【0080】
金属イオンが安定性を付与したり、タンパク質の活性を高めたりする2つの例として、ヒトデオキシリボヌクレアーゼ(rhDNase、Pulmozyme(登録商標))および第VIII因子がある。rhDNaseの場合、Ca+2イオン(最大100mM)が特異的結合部位を介して酵素の安定性を高めた(Chen B,et al.,J Pharm Sci.,88(4):477-82(1999))。実際にEGTAを用いて溶液からカルシウムイオンを除去したところ、脱アミドおよび凝集が促進された。ただし、この作用はCa+2イオンでしか観察されず、他の二価カチオンMg+2、Mn+2およびZn+2はrhDNaseを不安定化させることが観察された。同様の作用が第VIII因子でも観察された。Ca+2およびSr+2イオンがタンパク質を安定化させたのに対し、Mg+2、Mn+2およびZn+2、Cu+2およびFe+2のような他のイオンはこの酵素を不安定化させた(Fatouros,A.,et al.,Int.J.Pharm.,155,121-131(1997)。第VIII因子を用いた別の研
究では、Al+3イオンの存在下で凝集率の大幅な上昇が観察された(Derrick TS,et al.,J.Pharm.Sci.,93(10):2549-57(2004))。この著者らは緩衝塩のような他の賦形剤にもAl+3イオンが混入している場合が多いことを指摘し、製剤化した製品には賦形剤を適切な質で使用する必要があることを明らかにしている。
【0081】
防腐剤
同一容器から2回以上取り出す必要がある複数回使用の非経口製剤を開発する場合は防腐剤が必要である。防腐剤の主な機能は微生物の増殖を阻害し、製剤(drug product)の保管期間または使用期間を通じて生成物の無菌性を確保することにある。多く使用される防腐剤として、ベンジルアルコール、フェノールおよびm-クレゾールがあるが、これに限定されるものではない。防腐剤の使用には長い歴史があるものの、防腐剤を含むタンパク質製剤の開発には改良の余地があり得る。防腐剤はタンパク質に不安定化作用(凝集)を及ぼす場合が多く、これが反復投与タンパク質製剤への防腐剤の使用が制限される主な要因になっている(Roy S,et al.,J Pharm Sci.,94(2):382-96(2005))。
【0082】
これまでタンパク質薬剤の大部分は、単回用のみ製剤化されてきた。しかしながら、反復投与製剤が可能になれば、患者に利便性を与え、市場性を高められるという利点が加わる。良い例としてヒト成長ホルモン(hGH)の例があり、この場合、防腐剤を含む製剤の開発がより簡便な複数回使用のペン型注射器の商品化に結び付いた。防腐剤の入ったhGH製剤を含む少なくとも4種類のそうしたペン型装置が現在市場に出ている。フェノールを含むものにNorditropin(登録商標)(液体、Novo Nordisk)、Nutropin AQ(登録商標)(液体、Genentech)およびGenotropin(凍結乾燥-デュアルチャンバーカートリッジ、Pharmacia & Upjohn)があり、m-クレゾールと共に製剤化されているものにSomatrope(登録商標)(Eli Lilly)がある。
【0083】
防腐剤を含む剤形の製剤開発においては、いくつかの側面を考慮する必要がある。製剤(drug product)中の防腐剤の有効濃度については、最適化しなければならない。これには、剤形中の防腐剤がタンパク質の安定性を損なうことなく抗菌有効性を与える濃度範囲にあることを個々に検査することが不可欠である。たとえば、インターロイキン-1受容体(I型)の液体製剤の開発においては、示差走査熱量測定(DSC:differential scanning calorimetry)により3種類の防腐剤のスクリーニングに成功した。これらの防腐剤は、防腐剤が市販の製品に一般に使用される濃度で安定性に及ぼす影響に基づき順位付けされた(Remmele RL Jr.,et al.,Pharm Res.,15(2):200-8(1998))。
【0084】
防腐剤を含む液体製剤の開発は凍結乾燥製剤よりも課題が多い。凍結乾燥される製品は防腐剤を用いずに凍結乾燥し、使用時に防腐剤を含む希釈液で再構成すればよい。このため防腐剤がタンパク質と接触する時間が大幅に短縮され、防腐剤に関連する安定性リスクが最小限に抑えられる。液体製剤の場合、防腐剤の有効性および安定性を製品の全保管期間(約18~24カ月)にわたり維持しなければならない。留意すべき重要な点は、活性物質およびすべての賦形剤成分を含む最終製剤において防腐剤の有効性を実証しなければならないことである。
【0085】
防腐剤の選択の際に考慮する必要があるもう1つの要因は、防腐剤によっては注射部位反応を引き起こす恐れがあることである。Norditropinの防腐剤および緩衝液の評価に着目した臨床試験において、フェノールおよびベンジルアルコールを含む製剤ではm-クレゾールを含む製剤に比べて痛みが軽減されることが観察された(Kappelgaard A.M.,Horm Res.62 Suppl 3:98-103(2004))。興味深いことに、繁用される防腐剤のうち、ベンジルアルコールは麻酔特性を有する(Minogue SC,and Sun DA.,Anesth Analg.,100(3):683-6(2005))。種々の態様では、防腐剤を使用するといずれの副作用も上回る効果が得られる。
【0086】
調製方法
本発明はさらに、医薬製剤の調製方法も意図している。
【0087】
本方法は、本明細書に記載するような安定化剤を凍結乾燥する前に前記混合物に加えるステップ、各々本明細書に記載するような充填剤、浸透圧調整剤および界面活性剤から選択される少なくとも1種の薬を凍結乾燥する前に前記混合物に加えるステップの1つまたは複数をさらに含む。
【0088】
凍結乾燥材料の標準的な再構成のやり方は、純水または無菌注射用水(WFI)の一定量(典型的には凍結乾燥中に除去した量と同等量)を足し戻すものであるが、非経口投与用の医薬品の作製では抗菌薬の希薄溶液を使用する場合もある[Chen,Drug Development and Industrial Pharmacy,18:1311-1354(1992)]。したがって、再構成rVWF組成物の調製方法であって、希釈液を本発明の凍結乾燥rVWF組成物に加えるステップを含む方法を提供する。
【0089】
凍結乾燥材料は、水溶液として再構成してもよい。様々な水性キャリア、たとえば、無菌注射用水、反復投与用の防腐剤を含む水または適切な量の界面活性剤を含む水(たとえば水性懸濁液の作製に好適な賦形剤と混合した活性化合物を含む水性懸濁液)。種々の態様では、そうした賦形剤は、懸濁化剤、たとえば以下に限定されるものではないが、カルボキシメチルセルロースナトリウム、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、アルギン酸ナトリウム、ポリビニルピロリドン、トラガントゴムおよびゴムアカシアであり;分散剤または湿潤剤は天然ホスファチド、たとえば以下に限定されるものではないが、レシチン、またはアルキレンオキシドと脂肪酸の縮合生成物、たとえば以下に限定されるものではないが、ステアリン酸ポリオキシエチレン、またはエチレンオキシドと長鎖脂肪族アルコールとの縮合生成物、たとえば以下に限定されるものではないが、ヘプタデカエチル-エネオキシセタノール、またはエチレンオキシドと脂肪酸およびヘキシトールから誘導される部分エステルとの縮合生成物、たとえばポリオキシエチレンソルビトールモノオレエート、またはエチレンオキシドと脂肪酸およびヘキシトール無水物から誘導される部分エステルとの縮合生成物、たとえば以下に限定されるものではないが、ポリエチレンソルビタンモノオレエートである。種々の態様では、水性懸濁液は、1種または複数種の防腐剤、たとえば以下に限定されるものではないが、p-ヒドロキシ安息香酸エチルまたはp-ヒドロキシ安息香酸n-プロピルをさらに含む。
【0090】
投与
一態様では、組成物をヒトまたは試験動物に投与するため、組成物に1種または複数種の薬学的に許容されるキャリアを含ませる。「薬学的に」または「薬理学的に」許容されるという語句は、分子的実体および組成物が安定であり、凝集および切断産物などのタンパク質分解を阻害し、さらに下記のような当該技術分野において公知の経路により投与したときにアレルギー反応または他の有害反応を起こさないことをいう。「薬学的に許容されるキャリア」としては、臨床的に有用なあらゆる溶媒、分散媒、コーティング剤、抗菌薬および抗真菌薬、等張剤および吸収遅延剤ならびに上記に開示した薬を含む同種のものが挙げられる。
【0091】
医薬製剤は経口投与しても、局所投与しても、経皮投与しても、非経口投与しても、噴霧吸入投与しても、経膣投与しても、直腸内投与しても、または頭蓋内注射により投与してもよい。本明細書で使用する場合、非経口という用語は、皮下注射、静脈内注射または注入法、筋肉内注射または注入法、大槽内注射または注入法を含む。静脈内注射による投与、皮内注射による投与、筋肉内(intramusclar)注射による投与、乳房内注射による投与、腹腔内注射による投与、髄膜内注射による投与、眼球後注射による投与、肺内注射による投与およびまたは特定部位での外科的植え込みも意図している。一般に、組成物は本質的にパイロジェン、および被投与者に有害となる恐れがある他の不純物を含まない。
【0092】
組成物の単回または反復投与は、担当医師が選択した用量レベルおよびパターンにより行う。疾患の予防または処置のための適切な投与量は上述のような処置対象の疾患のタイプ、疾患の重症度および経過、薬剤の投与が予防目的かまたは治療目的か、以前に行われた治療、患者の既往歴および薬剤に対する応答ならびに主治医の裁量によって異なる。
【0093】
キット
追加の態様として、本発明は、被検体への投与の際に使用しやすいようにパッケージ化された1つまたは複数の凍結乾燥組成物を含むキットを含む。一実施形態では、そうしたキットは、密封されたビンまたは器などの容器内にパッケージ化された本明細書に記載の医薬製剤(たとえば、治療用タンパク質またはペプチドを含む組成物)を含んでおり、この方法を実施する際の化合物または組成物の使用を説明したラベルが容器に貼付されているか、パッケージの中に入れられている。一実施形態では、医薬製剤は、容器内のヘッドスペースの量(たとえば、液体製剤と容器上端との間の空気量)が非常に少なくなるように容器内にパッケージ化されている。好ましくは、ヘッドスペースの量は無視できる程度である(すなわち、ほとんどない)。一実施形態では、キットは、治療用タンパク質またはペプチド組成物を含む第1の容器と、組成物用の生理学的に許容される再構成溶液を含む第2の容器とを含む。一態様では、医薬製剤は単位剤形中にパッケージ化されている。キットはさらに、個々の投与経路に応じて医薬製剤の投与に好適な装置を含んでもよい。好ましくは、キットは、医薬製剤の使用について説明したラベルを含む。
【0094】
投与量
本明細書に記載する状態の処置方法に関連する投与レジメンについては、薬剤の作用を変化させる様々な要因、たとえば、患者の年齢、状態、体重、性別および食事、任意の感染症の重症度、投与期間および他の臨床的因子を考慮して主治医が決定する。たとえば、本発明の組換え型VWFの代表的な用量は約50U/kg、500μg/kg相当である。
【0095】
一態様では、本発明の製剤を初回ボーラス投与し、その後は持続注入して製剤(drug product)の治療域血中濃度を維持する。もう1つの例として、本発明の化合物を1回投与として投与してもよい。当業者であれば、医療実施基準および個々の患者の臨床症状から判断して有効投与量および投与レジメンを容易に最適化するであろう。投与頻度は、作用物質の薬物動態パラメーターおよび投与経路によって異なる。最適な医薬製剤は、当業者が投与経路および所望の投与量に応じて決定する。たとえば、開示内容を参照によって本明細書に援用するRemington’s Pharmaceutical
Sciences,18th Ed.(1990,Mack Publishing Co.,Easton,PA 18042)pages 1435-1712を参照されたい。こうした製剤は、投与された作用物質の物理的状態、安定性、インビボでの放出速度およびインビボでのクリアランス速度に影響を与える。好適な用量は投与経路により異なるが、体重、体表面積または臓器の大きさに従って算出する。適切な投与量は、適切な用量反応データと共に血中濃度投与量を判定する確立されたアッセイを使用して確認してもよい。最終的な投与レジメンは、薬剤の作用を変化させる様々な要因、たとえば、薬剤の比活性、障害の重症度および患者の応答性、患者の年齢、状態、体重、性別および食事、任意の感染症の重症度、投与期間ならびに他の臨床的因子を考慮して主治医が決定する。研究が行われるにつれて、様々な疾患および状態に適切な投与量レベルおよび処置期間に関する情報がさらに明らかになるであろう。
【0096】
以下の実施例は限定的であることを意図するものではなく、本発明の具体的な実施形態を例示するものにすぎない。
【実施例
【0097】
(実施例1)
振盪実験
様々な製剤におけるrVWFの沈殿量を判定するため、種々の条件下で激しい振盪後のrVWFの凝集の程度を検査した。
【0098】
下記表1に示すように、20mMのクエン酸塩緩衝液、pH7.3を用いて様々なrVWF製剤を評価した。振盪実験は、機械的応力条件をシミュレートするように設計した。実験用シェーカーを用いて10分間1200rpmで各製剤1~2mlを振盪した。
【0099】
【表1】
以下に示すスキームに従って目視可能なVWFの凝集物を評価した。「目視可能な凝集物」は、ほとんどの場合、大きさが約100nmから1~2cmの範囲のゼラチン繊維である。
【0100】
【数1】
振盪実験の結果を下記表2に示す。
【0101】
【表2】
要約すると、上述の振盪実験は、Tween-80およびマンニトールを含む製剤が最良の結果(すなわち最低の凝集量)となることを示す。
【0102】
(実施例2)
凍結融解実験
凍結融解実験は、凍結および解凍の繰り返しによるストレスの影響を評価するように設計した。上述の振盪実験の製剤(表1)に加えて以下の製剤を評価した(表3および表4):
【0103】
【表3】
【0104】
【表4】
全製剤をフリーザーで約1時間-20℃にて凍結させ、次いで室温で解凍した。結果を下記表5に示す。
【0105】
【表5】
上記に示すように、トレハロースが最良の結果(すなわち最低の凝集量)となった。
【0106】
(実施例3)
凍結乾燥実験
凍結乾燥実験は、様々な製剤が10分未満で溶解する凍結乾燥ケークを形成し、透明な溶液が得られるかどうかを評価するように設計した。また、生物活性が著しく低下しないことを明らかにするため加速安定性試験も行った。
【0107】
下記表6に示す製剤は製造者の指示に従って窒素を用いる凍結乾燥器TS20002で凍結乾燥した。凍結乾燥の総時間を約72時間とした。以下の製剤はそれぞれ20g/Lのマンニトールおよび0.1g/LのTween-80をさらに含んでいた。
【0108】
【表6】
凍結乾燥(lyophilzation)実験の結果を下記表7に示す。
【0109】
【表7】
上記のように、シトラートあるいはHEPES緩衝液とアミノ酸との組み合わせが最も透明な溶液となった。
【0110】
再構成凍結乾燥rVWF、VWF:AgおよびVWF:RCoの安定性を評価するため試験を行った。VWF:Agはポリクローナル抗VWF抗体を用いたVWF特異的ELISAで検出できるVWFの量に相当し、VWF:RCoは安定した血小板がリストセチンの存在下で凝集を起こすVWFの量に相当する。サンプルは40℃で保存した。アレニウスの式が成り立つと仮定すれば、40℃で1カ月の安定性は約4℃で1年に相当する。安定性実験の結果を下記表8および表9に示す。
【0111】
【表8】
【0112】
【表9】
ELISAの標準偏差は10~20%の範囲である。上記の結果から試験対象の製剤がすべて40℃で8週間にわたり良好な安定性を示すことが示唆される。
【0113】
製剤中に様々なアミノ酸を使用し(たとえば15mMまたは20mのグリシン、リジンまたはヒスチジン)、クエン酸塩緩衝液を変えて(たとえば15、20または25mM)、さらに安定性実験を行った。上記のようにVWF:RCo活性アッセイによりrVWFの安定性をモニターした。40℃で保存したrVWFの安定性サンプルのVWF:RCo活性値には、13カ月後でも著しい相違は観察されなかった。測定値の有意性(significane)についてはt検定で評価した。アッセイの室内再現精度は変動係数を算出して判定した。全シリーズの安定性データにおいてCVは20%未満であり、CV<20%という検証基準を満たした。上記に基づき、緩衝液のモル濃度および添加したアミノ酸に関係なく試験対象の全クエン酸塩緩衝液系においてrVWFは安定であると結論できる。rVWFは40℃で保存しても少なくとも13カ月安定な状態が続く。VWF:RCo活性アッセイによる力価測定は、CV値が20%未満で良好な室内再現精度を示す。
【0114】
以上のような本明細書に示すデータを踏まえて、15mMのシトラート(クエン酸Na×2HO)、15mMのグリシン、10g/Lのトレハロース、20g/Lのマンニトール、0.1g/LのTween-80、pH7.3を含むrVWF製剤が想定された。
【0115】
(実施例4)
長期間の安定性
加速安定性および長期安定性試験
推奨保存条件と高温保存条件とで保存したrVWFの最終製剤(FDP:final drug product)の安定性を評価する試験を行った。高温保存条件のデータから、温度の偏差がrVWFのFDPの品質に影響せず、これを用いれば実時間、実環境の安定性データがなくても本材料の許容可能な有効期限が外挿されることは確実である。
【0116】
本規格は≦3.0%残留水分(カールフィッシャー法により判定)とする。各ロットrVWFF#4FC、rVWFF#5FC、rVWFF#6FCおよびrVWFF#7FCをそれぞれ1.2%、1.3%、1.2%および1.5%の水分レベルでリリースした。類似のバイアルおよび栓を使用した他の製品の過去の経験に基づき、約1.3%の残留水分でリリースすれば、予定の有効期間(すなわち所期の保存温度5℃±3℃で24カ月)の終了時にいずれのrVWFのロットも≦3.0%という本明細書の限度を満たすものと予想される。
【0117】
既に製造されていた4つのrVWF FDPロットを用いて推奨保存条件(すなわち5℃±3℃)および高温(すなわち40℃±2℃)での長期安定性試験を行った。これらの試験から各臨床用ロットの安定性挙動を比較する十分なデータが得られた。
【0118】
スタビリティインディケイティングアッセイおよび安定性許容基準を含む安定性プロトコルについては表10で確認できる。表10はさらに本安定性試験で評価したrVWF FDPロットに関する情報も含む。
【0119】
【表10】
全体的な安定性の概要および考察(24カ月)
提示したrVWF FDP安定性データは以下からなる:
1.ロットrVWF#1FCに関する5℃±3℃での24カ月の長期試験データ(終了した試験)および30℃±2℃での6カ月の中間データ(終了した試験);
2.ロットrVWF#2FCに関する5℃±3℃での6カ月のデータ(終了した試験);
3.ロットrVWF#3FCに関する2~8°での24カ月の長期試験データ(終了した試験)、30℃±2℃での6カ月のデータおよび40℃±2℃での3カ月のデータ(終了した試験);
4.ロットrVWFF#4FCに関する5℃±3℃での24カ月の安定性データおよび40℃±2℃での9カ月のデータ;
5.ロットrVWFF#5FCに関する5℃±3℃での24カ月の安定性データおよび40℃±2℃での9カ月のデータ;
6.ロットrVWFF#6FCに関する5℃±3℃での12カ月の安定性データおよび40℃±2℃での9カ月のデータ;および
7.ロットrVWFF#7FCに関する5℃±3℃での12カ月の安定性データおよび40℃±2℃での9カ月のデータ
ロットrVWFF#4FC、rVWFF#5FC、rVWFF#6FCおよびrVWFF#7FCの残留水分に観察されたばらつきは許容基準≦3%を大きく下回ったままであり、機能活性(VWF:RCo)に影響を与えていない。非臨床試験および臨床試験に使用されることを目的として好適に製造されたロットの定性分析法(すなわち外観、SDS-PAGE解析など)において安定性成績に観察可能な変化はなかった。同様に、全タンパク質解析、VWF:Ag解析または保存中に観察されるVWF多量体の数の安定性に関して低下傾向は認められなかった。
【0120】
VWF:RCo活性とVWF:Ag活性の比と、ロットrVWF#1FC、rVWF#2FCおよびrVWF#3FCのVWF:RCoのデータとにおけるばらつきはおそらくどちらも、試験方法の変更、各VWF:RCo安定性試験の結果が1つの安定性サンプルの1回のデータおよび/または欧州薬局方非適合の方法によるアッセイ法のデータで構成されていたことによるものと考えられた。アッセイ法を欧州薬局方適合のアッセイに変更後の非臨床用ロットの測定時点についてはすべて、当初のアッセイ法と新しいアッセイ法とを用いて試験した。
【0121】
大規模に製造されたrVWF FDPも実験室規模で製造されたrVWF FDPロットと同様の安定性特性を示した。これらのrVWF FDPロットは5℃±3℃の保存で最大24カ月VWF:RCo活性を維持した。その時点で安定状態にあった大規模ロットのサンプルにおけるVWF多量体パターンには30℃±2℃で6カ月の保存後、あるいは40℃±2℃で9カ月の保存後でも変化はなかった。表11は、40℃±2℃のストレス条件下で保存したバッチrVWF#4FC、rVWF#5FC、rVWF#6FCおよびrVWF#7FCにおけるVWF:RCo、VWF:AgおよびVWF多量体パターンの結果を示す。こうした結果から、高温度保存条件で9カ月間の安定性について、周囲温度で3年を超える有効期間または冷蔵条件下ではそれ以上の有効期間に外挿できることが示唆される。
【0122】
【表11】
共分散(ANCOVA解析)の解析から、回帰直線(5℃±3℃で保存したロットrVWFF#4FC、rVWFF#5FC、rVWFF#6FCおよびrVWFF#7FC)の傾きの差は有意でなく(p=0.906)、ICH Q1A(R2)に記載されているようにVWF:RCo活性データをプールできることが明らかになった。各ロットの傾向線の上昇の差も有意ではない。図1に示すように、プールされたより悪い事例の傾きを外挿すると、信頼区間は少なくとも24カ月間の許容基準の範囲内に十分収まることが示される。母平均の曲線の信頼区間下限は、51カ月で初期活性の80%まで低下する(欧州薬局方のヒトvon Willebrand因子の推定力価と実際の力価との最大差も80%である)。プールされたより悪い事例の傾きはVWF:RCoが1カ月当たり0.0344U低下することを示す。この比較からrVWF FDPの安定性特性、特にVWF:RCo活性は製造プロセスにより変化しなかったことが示される。上記の外挿により、推奨保存温度で保存した場合、rVWF FDPの暫定の有効期間を24カ月まで延長することの妥当性が裏付けられる。
【0123】
栓から凍結乾燥生成物への水分の移動は栓材料によって異なるものであり、滅菌後の栓の残留水分、サンプル保存時の湿度および栓に固有の水分移動率の影響を受ける。5℃±3℃で保存されたロットrVWFF#4FC、rVWFF#5FC、rVWFF#6FCおよびrVWFF#7FCの残留水分は、図2に示すように同程度であった(傾きの比較における差はp=0.734と有意ではない)。また、40℃±2℃の高温度条件で保存したロットも9カ月間の残留水分の増加が同程度であることが示された(図3)。ここでANCOVA解析により、回帰直線の傾きの差が同程度であることが明らかにされる(p=0.546)。図3は、プールされたより悪い事例の傾きを24カ月まで外挿したものを示す。
【0124】
5℃±3℃で保存した場合、ロットrVWFF#6FCおよびrVWFF#7FCを前述の24カ月の有効期間持続して使用することの妥当性が裏付ける十分なデータが存在する。
【0125】
想定される保存条件および有効期間
rVWF FDPの推奨保存条件は5℃±3℃である。したがって、推奨保存条件で保存した場合、rVWF FDPの暫定の有効期間は24カ月が想定される。より長期の保存期間から得られる追加データに基づけば、rVWF FDPロットの有効期間は、おそらくさらに延長できると考えられる。
図1
図2
図3
【配列表】
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