(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-01-05
(45)【発行日】2022-01-20
(54)【発明の名称】粉末油脂組成物
(51)【国際特許分類】
A23D 9/00 20060101AFI20220113BHJP
A23D 9/02 20060101ALI20220113BHJP
【FI】
A23D9/00
A23D9/02
(21)【出願番号】P 2021077897
(22)【出願日】2021-04-30
【審査請求日】2021-04-30
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000227009
【氏名又は名称】日清オイリオグループ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100094569
【氏名又は名称】田中 伸一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100103610
【氏名又は名称】▲吉▼田 和彦
(74)【代理人】
【識別番号】100109070
【氏名又は名称】須田 洋之
(74)【代理人】
【識別番号】100119013
【氏名又は名称】山崎 一夫
(74)【代理人】
【識別番号】100123777
【氏名又は名称】市川 さつき
(74)【代理人】
【識別番号】100111796
【氏名又は名称】服部 博信
(72)【発明者】
【氏名】竹口 誠也
(72)【発明者】
【氏名】岩沢 哲朗
【審査官】福間 信子
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2020/026946(WO,A1)
【文献】国際公開第2018/056415(WO,A1)
【文献】特開2021-016320(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23D
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
グリセリンの1位~3位に炭素数xの脂肪酸残基Xを有する1種以上のXXX型トリグリセリドを含む油脂成分を含有する粉末油脂組成物であって、前記炭素数xが16~20から選択される整数であり、前記粉末油脂組成物がβ型油脂を含み、前記油脂成分のX線回折ピークにおいて、β型の特徴的な4.6Å付近のピークとα型の特徴的な4.2Å付近のピークとの強度比:[4.6Å付近のピーク強度/(4.6Å付近のピーク強度+4.2Å付近のピーク強度)]が、0.6~1であり、前記粉末油脂組成物の凝集度が60%以下であり、該粉末油脂組成物のゆるめ嵩密度が0.05~0.6g/cm
3であり、式(I)により求めた安息角相対値が90%以下であ
り、前記粉末油脂組成物が、表面上に薄片が複数存在する薄片含有粒子の形態であり、かつ、前記粉末油脂組成物が以下の工程(a)~(c)を含む製造方法により得られたものであることを特徴とする、粉末油脂組成物。
安息角相対値=[前記粉末油脂組成物と粉末澱粉との混合粉末の安息角]/[前記粉末油脂組成物を含有しない前記粉末澱粉のみの安息角]×100 (I)
(式(I)中、「混合粉末」は、混合粉末全体の質量に対して粉末油脂組成物を1質量%含有する。)
(a)XXX型トリグリセリドを含む固体の油脂組成物原料を準備する工程、
(b)工程(a)で得られた固体の油脂組成物原料を融点未満の温度で加熱して、該油脂組成物原料を融解しないで前記固体の油脂組成物原料中の油脂成分をβ型油脂に変化させ、β型油脂含有組成物原料を得る工程、及び
(c)工程(b)で得られたβ型油脂含有組成物原料を、機械的な粉砕を伴わない該原料同士の衝突により粉砕し、粉末油脂組成物を得る工程
【請求項2】
前記粉末油脂組成物の全質量を100質量%とした場合、該粉末油脂組成物中に前記XXX型トリグリセリドを50質量%以上含有する、請求項1に記載の粉末油脂組成物。
【請求項3】
前記粒子の体積平均径に基づく平均粒径が、0.5~200μmである、請求項
2に記載の粉末油脂組成物。
【請求項4】
前記薄片における長辺の平均の長さが0.1~5μmである、請求項
2又は
3に記載の粉末油脂組成物。
【請求項5】
請求項1~
4のいずれか1項に記載の粉末油脂組成物を含有することを特徴とする、食品。
【請求項6】
請求項1~
4のいずれか1項に記載の粉末油脂組成物を含有することを特徴とする、粉体流動性改良剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、粉末油脂組成物及びその用途に関する。より具体的には、本発明は、XXX型トリグリセリドを含む油脂成分(β型油脂を含み、X線回折ピークにおいて、特定のX線回折ピーク比を有する)を含有する粉末油脂組成物であって、当該粉末油脂組成物が特定の凝集度、相対的な安息角、及びゆるめ嵩密度を有することを特徴とする粉末油脂組成物、当該粉末油脂組成物を含む食品、並びに当該粉末油脂組成物を含む粉体流動性改良剤等に関する。
【背景技術】
【0002】
これまで、粉末油脂組成物として、XXX型卜リグリセリドを含む油脂組成物原料を融解後、冷却固化し、β型油脂を含有し、その粒子形状が板状である粉末油脂組成物が開発されていた(特許文献1)。かかる粉末油脂組成物は、各種粉体の粉体流動性改善の目的等で使用されてきたが、さらに粉体流動性を高くすることができる素材が求められていた。また、粉末油脂組成物を調製する方法として、極度硬化油等の常温で固体脂含量が高い油脂を粉砕後、篩で粒度を揃える方法(特許文献2)、及び、極度硬化油等の常温で固体脂含量が高い油脂を融解し、直接噴霧する方法(特許文献3)等が知られているが、工程が煩雑であるためより工業化に適した方法が求められていた。また、かかる方法で製造された粉末油脂よりも、さらに粉体流動性を高くすることができる素材も求められていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】国際公開WO2017/051910
【文献】特開昭52-71390号公報
【文献】特開平6-245700号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の目的の一つは、XXX型トリグリセリドを含む油脂成分を含有する粉末油脂組成物であって、上記油脂成分がβ型油脂を含み(X線回折ピークにおいて、特定のX線回折ピーク比を有する)、特定の凝集度、相対的な安息角、及びゆるめ嵩密度を有する粉末油脂組成物を提供することであり得る。
本発明の目的の一つは、上記粉末油脂組成物を含有することを特徴とする、食品及び粉体流動性改良剤を提供することであり得る。
本発明の目的の一つは、流動性を改善した粉体、例えば、流動性を改善した粉末食品や流動性を改善した非食品の粉末を提供することであり得る。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、上記課題を達成するため、特定のXXX型トリグリセリド(1種類又はそれ以上)を含む油脂成分であって、当該油脂成分がβ型油脂を含むものを含有する粉末油脂組成物が、特定の凝集度、相対的な安息角、及びゆるめ嵩密度等の少なくともいずれかの特性を有する場合に、流動性改善などの新規な特性を有する粉末油脂組成物を提供できることを見出し、本発明に至った。即ち、本発明は、以下の態様を含み得る。
【0006】
〔1〕グリセリンの1位~3位に炭素数xの脂肪酸残基Xを有する1種以上のXXX型トリグリセリドを含む油脂成分を含有する粉末油脂組成物であって、前記炭素数xが16~20から選択される整数であり、前記粉末油脂組成物がβ型油脂を含み、
前記油脂成分のX線回折ピークにおいて、β型の特徴的な4.6Å付近のピークとα型の特徴的な4.2Å付近のピークとの強度比:[4.6Å付近のピーク強度/(4.6Å付近のピーク強度+4.2Å付近のピーク強度)]が、0.6~1であり、
前記粉末油脂組成物の凝集度が60%以下であり、該粉末油脂組成物のゆるめ嵩密度が0.05~0.6g/cm3であり、式(I)により求めた安息角相対値が90%以下であることを特徴とする、粉末油脂組成物。
安息角相対値=[前記粉末油脂組成物と粉末澱粉との混合粉末の安息角]/[前記粉末油脂組成物を含有しない前記粉末澱粉のみの安息角]×100 (I)
(式(I)中、「混合粉末」は、混合粉末全体の質量に対して粉末油脂組成物を1質量%含有する。)
〔2〕前記粉末油脂組成物の全質量を100質量%とした場合、該粉末油脂組成物中に前記XXX型トリグリセリドを50質量%以上含有する、前記〔1〕に記載の粉末油脂組成物。
〔3〕前記粉末油脂組成物が、表面上に薄片が複数存在する薄片含有粒子の形態である、前記〔1〕又は〔2〕に記載の粉末油脂組成物。
〔4〕前記粒子の体積平均径に基づく平均粒径が、0.5~200μmである、前記〔3〕に記載の粉末油脂組成物。
〔5〕
前記薄片における長辺の平均の長さが0.1~5μmである、前記〔3〕又は〔4〕に記載の粉末油脂組成物。
〔6〕
前記〔1〕~〔5〕のいずれか1項に記載の粉末油脂組成物を含有することを特徴とする、食品。
〔7〕前記〔1〕~〔5〕のいずれか1項に記載の粉末油脂組成物を含有することを特徴とする、粉体流動性改良剤。
【0007】
また、本発明は、以下の態様を含んでいてもよい。
〔A〕
グリセリンの1位~3位に炭素数xの脂肪酸残基Xを有する1種以上のXXX型トリグリセリドを含む油脂成分を含有する粉末油脂組成物の製造方法であって、前記炭素数xが16~20から選択される整数であり、前記油脂成分がβ型油脂を含み、前記粉末油脂組成物のゆるめ嵩密度が0.05~0.6g/cm3であり、
以下の工程、
(a)XXX型トリグリセリドを含む固体の油脂組成物原料を準備する工程、
(b)工程(a)で得られた固体の油脂組成物原料を融点未満の温度で加熱して、当該固体の油脂組成物原料中の油脂成分をβ型油脂に変化させ、β型油脂含有組成物原料を得る工程、及び
(c)工程(b)で得られたβ型油脂含有組成物原料を、機械的な粉砕を伴わない該原料同士の衝突により粉砕し、粉末油脂組成物を得る工程、
を含むことを特徴とする粉末油脂組成物の製造方法。
〔B〕
前記粉末油脂組成物の全質量を100質量%とした場合、該粉末油脂組成物中に前記XXX型トリグリセリドを50質量%以上含有する、〔A〕に記載の粉末油脂組成物の製造方法。
〔C〕
前記工程(b)の融点未満の温度が、前記固体の油脂組成物原料の融点より1~30℃低い温度である、〔A〕又は〔B〕に記載の粉末油脂組成物の製造方法。
〔D〕
前記工程(b)が、前記固体の油脂組成物原料を静置した状態で行われる、〔A〕~〔C〕のいずれかに記載の粉末油脂組成物の製造方法。
〔E〕
前記工程(b)が、前記固体の油脂組成物原料を非静置状態で行われる、〔A〕~〔C〕のいずれかに記載の粉末油脂組成物の製造方法。
〔F〕
前記非静置状態が、前記固体の油脂組成物原料を撹拌している状態である、〔E〕に記載の粉末油脂組成物の製造方法。
〔G〕
前記工程(c)の原料同士の衝突による粉砕が、機械的な粉砕を伴わない気流式粉砕機を用いた粉砕である、請求項〔A〕~〔F〕のいずれかに記載の粉末油脂組成物の製造方法。
〔H〕
前記XXX型トリグリセリドを含む固体の油脂組成物原料が、菜種極度硬化油である、請求項〔A〕~〔G〕のいずれかに記載の粉末油脂組成物の製造方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明により、XXX型トリグリセリドを含む油脂成分を含有する粉末油脂組成物であって、上記油脂成分がβ型油脂を含み、特定の凝集度、相対的な安息角、及びゆるめ嵩密度を有する粉末油脂組成物を提供することができる。
本発明により、上記粉末油脂組成物を含有することを特徴とする、食品及び粉体流動性改良剤を提供することができる。
本発明により、流動性を改善した粉体、例えば、流動性を改善した粉末食品や流動性を改善した非食品の粉末や粉末食品を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】製造例1の粉末油脂組成物(β型油脂)の外観写真である。
【
図2】製造例4の粉末油脂組成物(β型油脂)の外観写真である。
【
図3】製造比較例1の粉末油脂組成物(α型及びβ型油脂)の外観写真である。
【
図4】製造比較例2の粉末油脂組成物(β型油脂)の顕微鏡写真である。
【
図5】製造比較例5の粉末油脂組成物(β型油脂)の顕微鏡写真である。
【
図6】製造比較例8の粉末油脂組成物(β型油脂)の顕微鏡写真である。
【
図7】製造比較例9の粉末油脂組成物(β型油脂)の顕微鏡写真である。
【
図8】製造例1を40℃の恒温槽で5日間保管した後の外観写真である。
【
図9】製造比較例1を40℃の恒温槽で5日間保管した後の外観写真である。
【
図10】製造比較例4を40℃の恒温槽で5日間保管した後の外観写真である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
ここで、発明を実施するための形態を詳説するが、以下で例示する好ましい態様やより好ましい態様等は、「好ましい」や「より好ましい」等の表現にかかわらず適宜相互に組み合わせて使用することができる。また、数値範囲の記載は例示であって、各範囲の上限と下限並びに実施例の数値とを適宜組み合わせた範囲も好ましく使用することができる。さらに、「含有する」又は「含む」等の用語は、「本質的になる」や「のみからなる」と読み替えてもよい。
【0011】
<粉末油脂組成物>
本発明の一態様は、グリセリンの1位~3位に炭素数xの脂肪酸残基Xを有する1種以上のXXX型トリグリセリドを含む油脂成分を含有する粉末油脂組成物であって、前記炭素数xが16~20から選択される整数であり、前記粉末油脂組成物がβ型油脂を含み、
前記油脂成分のX線回折ピークにおいて、β型の特徴的な4.6Å付近のピークとα型の特徴的な4.2Å付近のピークとの強度比:[4.6Å付近のピーク強度/(4.6Å付近のピーク強度+4.2Å付近のピーク強度)](以下、ピーク強度比ともいう。)が、0.6~1であり、
前記粉末油脂組成物の凝集度が60%以下であり、該粉末油脂組成物のゆるめ嵩密度が0.05~0.6g/cm3であり、式(I)により求めた安息角相対値が90%以下であることを特徴とする、粉末油脂組成物に関する。
安息角相対値=[前記粉末油脂組成物と粉末澱粉との混合粉末の安息角]/[前記粉末油脂組成物を含有しない前記粉末澱粉のみの安息角]×100 (I)
ここで、式(I)中、「混合粉末」は、混合粉末全体の質量に対して粉末油脂組成物を1質量%含有する。
以下、本発明の粉末油脂組成物を詳細に説明する。
【0012】
<油脂成分>
本発明の粉末油脂組成物は、油脂成分を含有する。当該油脂成分は、少なくともXXX型トリグリセリドを含み、任意にその他のトリグリセリドを含む。
上記油脂成分はβ型油脂を含む。ここで、β型油脂とは、油脂の結晶多形の一つであるβ型の結晶のみからなる油脂である。その他の結晶多形の油脂としては、β’型油脂及びα型油脂があり、β’型油脂とは、油脂の結晶多形の一つであるβ’型の結晶のみからなる油脂である。α型油脂とは、油脂の結晶多形の一つであるα型の結晶のみからなる油脂である。油脂の結晶には、同一組成でありながら、異なる副格子構造(結晶構造)を持つものがあり、結晶多形と呼ばれている。代表的には、六方晶型、斜方晶垂直型及び三斜晶平行型があり、それぞれα型、β’型及びβ型と呼ばれている。また、各多形の融点はα、β’、βの順に融点が高くなり、各多形の融点は、炭素数xの脂肪酸残基Xの種類により異なるので、以下、表1にそれぞれ、トリパルミチン、トリステアリン、トリアラキジンである場合の各多形の融点(℃)を示す。なお、表1は、Nissim Garti et al.、”Crystallization and Polymorphism of Fats and Fatty Acids”、Marcel Dekker Inc.、1988、pp.32-33に基づいて作成した。そして、表1の作成にあたり、融点の温度(℃)は小数点第1位を四捨五入した。また、油脂の組成とその各多形の融点がわかれば、少なくとも当該油脂中にβ型油脂が存在するか否かを検出することができる。
【0013】
【0014】
これらの多形を同定する一般的な手法は、X線回折法があり、回折条件は下記のブラッグの式によって与えられる。
2dsinθ=nλ(n=1,2,3・・・)
この式を満たす位置に回折ピークが現れる。ここでdは格子定数、θは回折(入射)角、λはX線の波長、nは自然数である。短面間隔に対応する回折ピークの2θ=16~27°からは、結晶中の側面のパッキング(副格子)に関する情報が得られ、多形の同定を行なうことができる。特にトリアシルグリセロールの場合、2θ=19、23、24°(4.6Å付近、3.9Å付近、3.8Å付近)にβ型の特徴的ピークが、21°(4.2Å)付近にα型の特徴的なピークが出現する。なお、X線回折測定は、例えば、20℃に維持したX線回折装置((株)リガク、全自動多目的X線回折装置Smart Lab 9 kW)を用いて測定される。X線の光源としてはCuKα線(1.54Å)が最もよく利用される。
【0015】
ここで、油脂成分は、β型油脂を含むもので、ピーク強度比が0.6~1であるもの、あるいはβ型油脂を主成分(粉末油脂組成物又は油脂成分に対して50質量%超)として含むものである。
油脂成分の好ましい態様としては、上記油脂成分がβ型油脂から実質的になるものであり、より好ましい態様は上記油脂成分がβ型油脂からなるものであり、特に好ましい態様は、上記油脂成分がβ型油脂のみからなるものである。上記油脂成分のすべてがβ型油脂である場合とは、示差走査熱量測定法によってα型油脂及び/又はβ’型油脂が検出されない場合である。
本発明の更なる態様として、上記油脂成分が全てβ型油脂であることが好ましいが、その他のα型油脂やβ’型油脂が含まれていてもよい。
【0016】
具体的には、上述のX線回折測定に関する知見をもとに、β型の特徴的ピークである2θ=19°(4.6Å)のピーク強度とα型の特徴的ピークである2θ=21°(4.2Å)のピーク強度の比率:19°付近のピーク強度/(19°付近のピーク強度+21°のピーク強度)[4.6Å付近のピーク強度/(4.6Å付近のピーク強度+4.2Å付近のピーク強度)]を算出することで上記油脂成分のβ型油脂の存在量を表す指標とし、「β型油脂を含む」ことが理解できる。本発明は、上記油脂成分が全てβ型油脂である(即ち、ピーク強度比=1)ことが理想である。
つまり、このピーク強度比が0であった場合、すべてがα型油脂であるとわかり、ピーク強度比が1であった場合、すべてがβ型油脂であるとわかり、また、ピーク強度比が1に近い数字であると、β型油脂が多いということがわかる。
本発明では、油脂成分中のβ型油脂がより多い方が好ましいので、ピーク強度比は、1に近い値であることが好ましい。
したがって、ピーク強度比は、好ましくは0.6~1であり、より好ましくは0.7~1であり、さらに好ましくは0.8~1であり、さらにより好ましくは0.9~1であり、特に好ましくは0.95~1である。
本発明の油脂成分は、粉末油脂組成物に対して、例えば50~100質量%、70~100質量%、80~100質量%、85~100質量%、92~100質量%、95~100質量%程度であってもよい。
【0017】
<XXX型トリグリセリド>
本発明の油脂成分は、グリセリンの1位~3位に炭素数xの脂肪酸残基Xを有する1種以上のXXX型トリグリセリドを含む。当該XXX型トリグリセリドは、グリセリンの1位~3位に炭素数xの脂肪酸残基Xを有するトリグリセリドであり、各脂肪酸残基Xは互いに同一である。ここで、当該炭素数xは16~20から選択される整数であり、好ましくは16~18から選択される整数、より好ましくは18である。
脂肪酸残基Xは、飽和あるいは不飽和の脂肪酸残基であってもよい。具体的な脂肪酸残基Xとしては、例えば、パルミチン酸、ステアリン酸、アラキジン酸等の残基が挙げられるがこれに限定するものではない。脂肪酸としてより好ましくは、パルミチン酸及びステアリン酸であり、さらに好ましくは、ステアリン酸である。
当該XXX型トリグリセリドの含有量は、粉末油脂組成物又は油脂成分の全質量を100質量%とした場合、例えば、50質量%以上、好ましくは60質量%以上、より好ましくは、70質量%以上、さらに好ましくは、80質量%以上を下限とし、例えば、100質量%以下、好ましくは、99質量%以下、より好ましくは、95質量%以下を上限とする範囲である。XXX型トリグリセリドは1種類又は2種類以上用いることができ、好ましくは1種類又は2種類であり、より好ましくは1種類が用いられる。XXX型トリグリセリドが2種類以上の場合は、その合計値がXXX型トリグリセリドの含有量となる。
【0018】
<その他のトリグリセリド>
本発明の油脂成分は、本発明の効果を損なわない限り、上記XXX型トリグリセリド以外の、その他のトリグリセリドを含んでいてもよい。その他のトリグリセリドは、複数の種類のトリグリセリドであってもよく、合成油脂であっても天然油脂であってもよい。合成油脂としては、トリカプリル酸グリセリル、トリカプリン酸グリセリル等が挙げられる。天然油脂としては、例えば、ココアバター、ヒマワリ油、菜種油、大豆油、綿実油等が挙げられる。本発明の粉末油脂組成物又は油脂成分中の全トリグリセリドを100質量%とした場合、その他のトリグリセリドは、粉末油脂組成物又は油脂成分の全質量を100質量%とした場合、例えば1質量%以上、あるいは5~50質量%程度含まれていても問題はない。その他のトリグリセリドの含有量は、粉末油脂組成物又は油脂成分の全質量を100質量%とした場合、例えば、0~50質量%、好ましくは5~40質量%、より好ましくは10~30質量%、更に好ましくは15~25質量%である。
【0019】
<その他の成分>
本発明の粉末油脂組成物は、上記トリグリセリド等の油脂成分の他、任意に乳化剤、香料、着色料等のその他の成分(添加剤)を含んでいてもよい。これらの任意のその他の成分は本発明の粉末油脂組成物に外添することもできる。
ここで、当該その他の成分としての乳化剤としては、例えば、モノグリセリド、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、レシチン等を挙げることができ、香料としては、例えば、リモネン、バニリン、オレンジ、バニラ、ジャスミン等を挙げることができ、着色料としては、例えばウコン色素、クチナシ色素、ベニバナ色素、パプリカ色素、赤キャベツ色素等の天然着色料や、タール系色素等の合成着色料等を挙げることができる。
これらその他の成分の量は、本発明の効果を損なわない限り任意の量とすることができるが、例えば、粉末油脂組成物の全質量を100質量%とした場合、例えば、0~30質量%、好ましくは1~18質量%、より好ましくは2~15質量%、更に好ましくは3~8質量%である。その他の成分は、その90質量%以上が、平均粒径が1000μm以下である粉体であることが好ましく、平均粒径が500μm以下の粉体であることがより好ましい。さらに、20μm以下の細かい粒子は人間の感覚では感じとることが困難であるので、平均粒径が例えば20μm以下、好ましくは0.1~20μm、より好ましくは1~12μmの粉体であれば、口に含んだ際の粉体の粗いざらついた感触がなくなるので好ましい。なお、特に断らない限り、本明細書で言う平均粒径は、レーザ回折散乱法(ISO13320及びJIS Z 8825-1準拠)によって測定した値である。レーザ回折散乱法については、下記で詳述する。
但し、本発明の好ましい粉末油脂組成物は、実質的に上記油脂成分のみからなることが好ましく、かつ、油脂成分は、実質的にトリグリセリドのみからなることが好ましい。また、「実質的に」とは、油脂組成物中に含まれる油脂成分以外の成分または油脂成分中に含まれるトリグリセリド以外の成分が、粉末油脂組成物または油脂成分を100質量%とした場合、例えば、0~15質量%、好ましくは1~10質量%、より好ましくは2~5質量%であることを意味する。
【0020】
<粉末油脂組成物の特性>
本発明の粉末油脂組成物は、20℃で粉末状の固体である。本発明の粉末油脂組成物は、以下のような物理的特性を有していてもよい。
〔凝集度〕
「凝集度」とは、粒子の凝集のしやすさを数値化したものである。凝集度は、例えば、篩に所定時間と一定の振動を与えて残る粉体の量を計ることにより求めることができる。凝集度が小さいほど粉体の流動性が高く、凝集度が大きいほど粉体の流動性が低いと判断することができる。
凝集度の測定例としては、パウダテスタPT-X(ホソカワミクロン株式会社製)を使用して測定する方法を挙げることができる。具体的には、目開きが異なる直径7.5cmの3つの円形の篩(上段篩:目開き355μm、中段篩:目開き250μm、下段篩:目開き150μm)を重ね、上段篩にあらかじめ精確に秤量した約2gのサンプル粉体を供し、全篩を、後述する振動時間T(秒)で、1mmの振幅で水平方向に振動させる。その後、各篩上に残ったサンプル粉体の質量をさらに秤量し、以下の式(II)から凝集度を算出することができる。
なお、凝集度は、1つのサンプルについて測定を3回行い、求めた値の平均値をそのサンプルの凝集度とする。
凝集度(%)=(U/N+M/N×3/5+L/N×1/5)×100 (II)
(式中、U:上段篩上のサンプル粉体の質量(g)、M:中段篩上のサンプル粉体の質量(g)、L:下段篩上のサンプル粉体の質量(g)、N:初期のサンプル粉体の質量(g))
上記式(II)より算出され得る本発明の粉末油脂組成物の凝集度は、例えば、0%以上でありかつ60%以下、55%以下、若しくは51%以下であり、好ましくは1~60%であり、より好ましくは2~55%であり、さらにより好ましくは3~51%である。
【0021】
〔振動時間Tについて〕
上記凝集度の測定で使用される振動時間T(秒)は、次の計算式(III)によって算出される。
T(秒)=20+{(1.6-W)/0.016} (III)
ここで、Wは粉体の動的嵩密度で、次式(IV)から算出される。
W=(Q-P)C/100+P (IV)
(式中、P:ゆるめ嵩密度、Q:固め嵩密度、C:圧縮度) ただし、W≧1.6のときは、T=20となる。
さらに、上記固め嵩密度、ゆるめ嵩密度、圧縮度は、以下のようにして求めることができる。
【0022】
〔ゆるめ嵩密度〕
ゆるめ嵩密度(g/cm3)は、粉体の質量を、その粉体の占める嵩体積で割った値、すなわち、単位嵩体積当たりの粉体質量である。
ゆるめ嵩密度の測定は、パウダテスタPT-X(ホソカワミクロン株式会社製)を使用して行うことができる。パウダテスタPT-Xによる測定では、注入法を採用し、正弦波の振動により容器へ空気を含んだ粉粒体を自由落下させることにより測定を行う。
具体的には、直径7.5cmの目開き1.7mmの円形の篩に粉末サンプルを200~300cm3供し、振幅1.5mmで振動させ、篩から落下させる(正弦波の振動による自由落下)。27cmの高さから自由落下した粉末サンプルは、篩の下に設置してあるステンレス製100cm3カップ(内径約5cm×高さ約5cm)に注入され、粉末サンプルが当該カップから溢れるまで注入された後、篩の振動を止める。その後、長方形のブレードでカップ上の余分な粉体サンプルをカップの上面に沿ってすり切り、カップ中の粉体サンプルの質量(A(g))を測定することでゆるめ嵩密度を下記式(V)から算出する。
ゆるめ嵩密度は、1つのサンプルについて3回測定し、その平均値をそのサンプルのゆるめ嵩密度の値とする。
ゆるめ嵩密度(g/cm3)=A(g)/100(cm3) (V)
本発明の粉末油脂組成物のゆるめ嵩密度は、例えば実質的に油脂成分のみからなる場合、0.05~0.6g/cm3、好ましくは0.1~0.5g/cm3であり、より好ましくは0.1~0.4cm3であり、さらに好ましくは0.1~0.3g/cm3である。
【0023】
〔固め嵩密度〕
固め嵩密度(g/cm3)は、ゆるめ嵩密度の粉体をさらにタッピングして固めて出来た粉体から求めた嵩密度である。
具体的には、上述のようにしてゆるめ嵩密度を測定した後のステンレス製100cm3カップ(内径約5cm×高さ約5cm)の開口上部に、当該カップと同じ大きさの穴を有する筒状キャップ(穴の直径5.04cm×高さ4cm、筒の両端は開口されている)を取り付け、上記カップの開口部を延長する。筒状キャップを取り付けたステンレス製100cm3カップを、直径7.5cmの目開き1.7mmの円形の篩の下に設置する。篩に粉末サンプルを200~300cm3供し、振幅1.5mmで振動させ、篩から落下させる(正弦波の振動による自由落下)。27cmの高さから自由落下したサンプルは、下に設置してあるステンレス製100cm3カップに十分量注入し、当該カップを180回タッピング(ストローク18mm、タッピング速度60回/分)することでサンプルを圧密させる。タッピングを行うと、粉粒体が圧密されてその体積が減少する。タッピングの途中で、粉粒体の体積の減少により粉粒体の粉面がカップ上端より下がった場合には、再度同様の方法でサンプルをカップに注入し、粉粒体の粉面がカップ上端より高くなるようにする。タッピング終了後、キャップを取り外し、ブレードでカップ上の余分なサンプルをカップの面に沿ってすり切り、質量(B(g))を測定することで固め嵩密度を下記式(VI)から算出する。
固め嵩密度は、1つのサンプルについて3回測定し、その平均値をそのサンプルの固め嵩密度の値とする。
固め嵩密度(g/cm3)=B(g)/100(cm3) (VI)
本発明の粉末油脂組成物の固め嵩密度は、例えば実質的に油脂成分のみからなる場合、0.1~2.0g/cm3、好ましくは0.1~1.0g/cm3であり、より好ましくは0.15~0.7cm3であり、さらに好ましくは0.2~0.5g/cm3である。
【0024】
〔圧縮度〕
圧縮度C(%)は、ゆるめ嵩密度Pと固め嵩密度Qを用いて、次の式(VII)で求められる値である。
C(%)=100×(Q-P)/Q (VII)
【0025】
〔安息角相対値〕
本発明の粉末油脂組成物は、特定の相対的な安息角を有する。ここで相対的な安息角とは、粉末馬鈴薯等の澱粉自体の安息角に対する当該粉末馬鈴薯等の澱粉に粉末油脂組成物を混合した場合の混合物の安息角の比を意味し、それによって求められた値を安息角相対値と呼ぶ。相対的な安息角を確認することにより、粉末油脂組成物の澱粉流動性の改善効果を確認することができる。安息角相対値は、具体的には、次の式(I)により求められる値である。
安息角相対値(%)=[該粉末油脂組成物と粉末澱粉との混合粉末の安息角]/[該粉末油脂組成物を含有しない該粉末澱粉のみの安息角]×100 (I)
ここで、式(I)中、「混合粉末」は、混合粉末全体の質量に対して粉末油脂組成物を1質量%含有する。「粉末澱粉」としては、粉末馬鈴薯澱粉、片栗粉等を使用することができる。粉末澱粉の平均粒径は、例えば、1~100μm、好ましくは10~50μm、より好ましくは20~40μmである。ここで、平均粒径は、レーザ回折散乱法(ISO13320及びJIS Z 8825-1準拠)によって測定される体積平均径〔MV〕を意味し、具体的には以下で説明する通りである。また、「安息角」とは、粉体を水平面に落下させた後、静止した粉体の堆積層の自由表面(堆積した粉体が形成する山の稜線)が水平となす角度で定義される。一般的に、流動性の良い粉体は、安息角が小さくなり、流動性の悪い粉体は、安息角が大きくなる。
したがって、上記式(I)で得られる安息角相対値が100%より大きくなると、粉末油脂組成物と粉末澱粉との混合粉末の流動性が粉末澱粉それ自体の流動性よりも悪くなった、即ち、粉末油脂組成物が粉体澱粉の流動性に悪影響を及ぼしたことになり、逆に、安息角相対値が100%より小さくなれば、粉末油脂組成物と粉末澱粉との混合粉末の流動性が粉末澱粉それ自体の流動性よりも良くなった、即ち、粉末油脂組成物が粉体澱粉の流動性を改善したことになる。
【0026】
本発明の粉末油脂組成物の安息角相対値は、例えば、90%以下であり、好ましくは88%以下であり、より好ましくは86%以下であり、さらにより好ましくは84%以下である。また、本発明の粉末油脂組成物の安息角相対値は、例えば、70%以上であり、好ましくは75%以上であり、より好ましくは80%以上である。
安息角相対値の算出に必要な安息角の測定は、例えば、パウダテスタPT-X(ホソカワミクロン株式会社製)のような試験装置を用いて測定することができる。
具体的には、粉末馬鈴薯澱粉297g(製品名:国産片栗粉(北海)(火乃国食品工業株式会社製)、後述するレーザ回折散乱法で測定した平均粒径34.8μm)に、試験対象とする各種粉末を3g添加し、フードプロセッサー(製品名「フードプロセッサー1.9L」、コンエアージャパン合同会社製)で20秒間攪拌混合し、サンプル(全体の質量に対して粉末油脂組成物を1質量%含有する混合粉末)を調製する。
対照として、粉末油脂組成物を添加していない粉末馬鈴薯澱粉を、上記同様にフードプロセッサーで20秒間攪拌混合し、対照サンプルを調製する。
【0027】
得られたサンプル及び対照サンプルの安息角は、上記パウダテスタを用いて測定することができる。
具体的には、直径7.5cmの目開き710μmの円形の篩に上記サンプル又は対照サンプルを200~300cm3供し、振幅1.5mmで振動させ、篩から落下させる(正弦波の振動による自由落下)。上記サンプル等は、篩の下にある開口部の径5mmの漏斗を通過後、漏斗下端より7.5cmの高さから円形テーブル(直径8cm)上に落下させ、テーブルの端部から粉体があふれる程度に堆積させる。その後静止したサンプル等が形成する粉体の堆積層の自由表面(堆積した粉体が形成する山の稜線)が水平となす角度を、画像により算出し、その値を安息角とする。
安息角は、1つのサンプルについて3回測定し、その平均値をそのサンプルの安息角の値とする。
【0028】
〔比表面積〕
粉末油脂組成物の比表面積(cm2/g)は、N2ガス吸着法(多点法)により測定することができる。
N2ガス吸着法(多点法)による測定は、例えば、マイクロメリティックス社製の比表面積測定分析装置を使って測定することができる。具体的には、試料1.2~1.5gをセルに採取し、前処理装置(マイクロメリティックス社製、装置名「VacPrep 061」)を用いて、室温(約25℃)で約24時間の減圧脱気処理後、比表面積測定分析装置(マイクロメリティックス社製、装置名「3Flex」)を使って、N2ガス吸着法(多点法)により比表面積を測定することができる。粉末油脂組成物の比表面積の値は、例えば、0.5~10m2/g、好ましくは0.5~8m2/g、より好ましくは1~8m2/g、更に好ましくは1~7m2/gが適当である。
【0029】
[粉末油脂組成物の形状]
本発明の粉末油脂組成物は、表面上に薄片が複数存在する薄片含有粒子の形態を有する。この薄片含有粒子の形状は、表面上に薄片が複数存在・集積することにより、表面に凹凸が形成された不定形状を有している。この薄片含有粒子の内部は、粒子の断面を直接見ることができないため、どのような構造になっているか明確でないものの、
図1の製造例1の粉末油脂組成物(平均粒径3.5μm)、及び
図2の製造例4の粉末油脂組成物(平均粒径10.5μm)の電子顕微鏡の外観写真から判断すると、製造例4よりも小さく粉砕した製造例1の粒子であっても、粒径の大きい製造例4の粒子と同じように、粒子表面に薄片が複数存在していて、その外観はほとんど変わらないことから、当該薄片含有粒子の内部も薄片が複数集まった構造であると予想される。
実施例において粒子の顕微鏡写真と安息角相対値の値を比較して説明をするが、本発明の粉末油脂組成物の安息角相対値が90%以下となるのは、メカニズムは定かではないものの、このような特殊な粒子の構造によるものであると推測される。
当該粒子の平均粒径(有効径)は、例えば、好ましくは0.5~200μm、より好ましくは1~100μm、さらに好ましくは1~50μm、殊更好ましくは、1~30μmである。
ここで、当該平均粒径(有効径)は、体積平均径〔MV〕を言い、粒度分布測定装置(例えば、株式会社島津製作所製、装置名:SALD-2300)でレーザ回折散乱法(ISO13320,JIS Z 8825-1)に基づいて、乾式測定により体積基準粒度分布を測定して体積平均径〔MV〕を求め、得られた体積平均径〔MV〕を平均粒径とした。体積平均径〔MV〕は、粒子の粒径、粒子の体積、及び粒子の体積の総和の各値を使って以下の式から求めることができる。
体積平均径〔MV〕=(粒径×その粒子の体積)の総和/粒子の体積の総和
なお、有効径とは、測定対象となる結晶の実測回折パターンが、球形と仮定して得られる理論的回折パターンに適合する場合の、当該球形の粒径を意味する。このように、レーザ回折散乱法の場合、球形と仮定して得られる理論的回折パターンと、実測回折パターンを適合させて有効径を算出しているので、測定対象が板状形状であっても球状形状であっても同じ原理で測定することができる。
【0030】
ここで、本発明の粉末油脂組成物の粒子表面の薄片の寸法(長辺、短辺、厚さ)は、電子顕微鏡写真からその大きさを測定して得た平均値を採用することができる。当該薄片の長辺の平均の長さは、例えば、好ましくは0.01~5μm、より好ましくは0.05~4μm、さらに好ましくは0.1~3μm、さらにより好ましくは0.2~2.5μmである。当該薄片の短辺の平均の長さは、長辺より短く、例えば、好ましくは0.01~4μm、より好ましくは0.05~3μm、さらに好ましくは0.1~2μm、さらにより好ましくは0.2~1μmである。当該薄片の厚さの平均の長さは、長辺や短辺より短く、例えば、好ましくは0.005~0.5μm、より好ましくは0.01~0.3μm、さらに好ましくは0.02~0.2μm、さらにより好ましくは0.03~0.15μmである。
【0031】
<粉末油脂組成物の製造方法>
本発明の粉末油脂組成物は、例えば、グリセリンの1位~3位に炭素数xの脂肪酸残基Xを有する1種以上のXXX型トリグリセリドを含む固体の油脂組成物原料を融解しないで、即ち融点未満の温度で、XXX型トリグリセリドの種類にあわせた特定の温度に加熱等することで当該原料中の油脂成分をβ型油脂(好ましくは、X線回折ピークのピーク強度比が0.6~1)に変化させた後、原料同士を衝突させて粉砕することによって、粉末状の油脂組成物(粉末油脂組成物)を得ることができる。具体的には、以下のような粉末油脂組成物の製造方法を例示することができる。
【0032】
グリセリンの1位~3位に炭素数xの脂肪酸残基Xを有する1種以上のXXX型トリグリセリドを含む油脂成分を含有する粉末油脂組成物の製造方法であって、前記炭素数xが16~20から選択される整数であり、前記油脂成分がβ型油脂を含み、前記粉末油脂組成物のゆるめ嵩密度が0.05~0.6g/cm3であり、
好ましくは、該油脂成分のX線回折ピークにおいて、β型の特徴的な4.6Å付近のピークとα型の特徴的な4.2Å付近のピークとの強度比:[4.6Å付近のピーク強度/(4.6Å付近のピーク強度+4.2Å付近のピーク強度)]が、0.6~1であり、かつ、好ましくは、該粉末油脂組成物の凝集度が60%以下であり、
以下の工程、
(a)XXX型トリグリセリドを含む固体の油脂組成物原料を準備する工程、
(b)工程(a)で得られた固体の油脂組成物原料を、好ましくは融解させないように、融点未満の温度で加熱して、当該固体の油脂組成物原料中の油脂成分をβ型油脂(好ましくは、X線回折ピークのピーク強度比が0.6~1)に変化させ、β型油脂含有組成物原料を得る工程、及び
(c)工程(b)で得られたβ型油脂含有組成物原料を、機械的な粉砕を伴わない該原料同士の衝突により粉砕して粉末油脂組成物を得る工程、
を含むことを特徴とする粉末油脂組成物の製造方法。
以下、上記工程(a)~(c)について説明する。
【0033】
(a)原料準備工程
工程(a)で準備されるXXX型トリグリセリドを含む固体の油脂組成物原料は、グリセリンの1位~3位に炭素数xの脂肪酸残基Xを有する1種以上のXXX型トリグリセリドを含む通常のXXX型トリグリセリド等の油脂の製造方法に基づいて製造され、もしくは容易に市場から入手され得る。当該固体の油脂組成物原料は粉末状、フレーク状、ブロック状など、いかなる形状であっても良い。ここで、上記炭素数x及び脂肪酸残基Xで特定されるXXX型トリグリセリドは、最終的に得られる目的の粉末油脂組成物や油脂成分のものと結晶多形以外の点で同じであってよい。つまり、当該XXX型トリグリセリド、油脂成分、粉末油脂組成物等の各用語の詳細は、結晶多形がβ型であるか否かを問わない点以外は、既に上述したとおりの定義が適用され得る。当該原料にはα型油脂、β’型油脂、あるいはβ型油脂が含まれていても良い。
固体の油脂組成物原料には、上述したとおりのXXX型トリグリセリドを1種類又は2種以上含んでいてもよく、好ましくは1種類又は2種類であり、より好ましくは1種類である。
具体的には、例えば、上記XXX型トリグリセリドは、脂肪酸または脂肪酸誘導体とグリセリンを用いた直接合成によって製造することができる。XXX型トリグリセリドを直接合成する方法としては、(i)炭素数xの脂肪酸Xとグリセリンとを直接エステル化する方法(直接エステル合成)、(ii)炭素数xである脂肪酸Xのカルボキシル基がアルコキシル基と結合した脂肪酸アルキル(例えば、脂肪酸メチル及び脂肪酸エチル)とグリセリンとを塩基性または酸性触媒条件下にて反応させる方法(脂肪酸アルキルを用いたエステル交換合成)、(iii)炭素数xである脂肪酸Xのカルボキシル基の水酸基がハロゲンに置換された脂肪酸ハロゲン化物(例えば、脂肪酸クロリド及び脂肪酸ブロミド)とグリセリンとを塩基性触媒下にて反応させる方法(酸ハライド合成)が挙げられる。
XXX型トリグリセリドは前述の(i)~(iii)のいずれの方法によっても製造できるが、製造の容易さの観点から、(i)直接エステル合成又は(ii)脂肪酸アルキルを用いたエステル交換合成が好ましく、(i)直接エステル合成がより好ましい。
【0034】
XXX型トリグリセリドを(i)直接エステル合成によって製造するには、製造効率の観点から、グリセリン1モルに対して脂肪酸Xまたは脂肪酸Yを3~5モルを用いることが好ましく、3~4モルを用いることがより好ましい。
XXX型トリグリセリドの(i)直接エステル合成における反応温度は、エステル化反応によって生ずる生成水が系外に除去できる温度であればよく、例えば、120℃~300℃が好ましく、150℃~270℃がより好ましく、180℃~250℃がさらに好ましい。反応を180~250℃で行うことで、特に効率的にXXX型トリグリセリドを製造することができる。
【0035】
XXX型トリグリセリドの(i)直接エステル合成においては、エステル化反応を促進する触媒を用いても良い。触媒としては酸触媒、及びアルカリ土類金属のアルコキシド等が挙げられる。触媒の使用量は、反応原料の総質量に対して0.001~1質量%程度であることが好ましい。
XXX型トリグリセリドの(i)直接エステル合成においては、反応後、水洗、アルカリ脱酸及び/又は減圧脱酸、及び吸着処理等の公知の精製処理を行うことで、触媒や原料未反応物を除去することができる。更に、脱色・脱臭処理を施すことで、得られた反応物をさらに精製することができる。
【0036】
上記固体の油脂組成物原料中に含まれるXXX型トリグリセリドの量は、例えば、当該原料中又は油脂成分中に含まれる全トリグリセリドの全質量を100質量%とした場合、100~50質量%、好ましくは95~55質量%、より好ましくは90~60質量%である。さらに殊更好ましくは85~65質量%である。
【0037】
<その他のトリグリセリド>
XXX型トリグリセリドを含む固体の油脂組成物原料となるその他のトリグリセリドとしては、上記XXX型トリグリセリドの他、本発明の効果を損なわない限り、各種トリグリセリドを含めてもよい。その他のトリグリセリドとしては、例えば、上記XXX型トリグリセリドの脂肪酸残基Xの1つが脂肪酸残基Yに置換したX2Y型トリグリセリド、上記XXX型トリグリセリドの脂肪酸残基Xの2つが脂肪酸残基Yに置換したXY2型トリグリセリド等を挙げることができる。
上記その他のトリグリセリドの量は、例えば、全トリグリセリドの全質量を100質量%とした場合、0~50質量%、好ましくは5~45質量%、より好ましくは10~40質量%、さらに殊更好ましくは15~35質量%である。
【0038】
また、本発明の固体の油脂組成物原料としては、上記XXX型トリグリセリドを直接合成する代わりに、天然由来のトリグリセリド組成物に対し水素添加、エステル交換又は分別を行ったものを使用してもよい。天然由来のトリグリセリド組成物としては、例えば、ナタネ油、大豆油、ヒマワリ油、ハイオレイックヒマワリ油、サフラワー油、パームステアリン及びこれらの混合物等を挙げることができる。特に、これらの天然由来のトリグリセリド組成物の硬化油、部分硬化油、極度硬化油が好ましいものとして挙げられる。さらに好ましくは、ハードパームステアリン、ハイオレイックヒマワリ油極度硬化油、菜種極度硬化油、大豆極度硬化油が挙げられ、さらにより好ましくは、菜種極度硬化油である。
【0039】
さらに、本発明の固体の油脂組成物原料としては、市販されている、トリグリセリド組成物又は合成油脂を挙げることができる。例えば、トリグリセリド組成物としては、ハードパームステアリン(日清オイリオグループ株式会社製)、菜種極度硬化油(横関油脂工業株式会社製)、大豆極度硬化油(横関油脂工業株式会社製)を挙げることができる。また、合成油脂としては、トリパルミチン(東京化成工業株式会社製)、トリステアリン(シグマアルドリッチ製)、トリステアリン(東京化成工業株式会社製)、トリアラキジン(東京化成工業株式会社製)を挙げることができる。
【0040】
<その他の成分>
上記固体の油脂組成物原料としては、上記トリグリセリドの他、任意に部分グリセリド、脂肪酸、抗酸化剤、乳化剤、水などの溶媒等のその他の成分を含んでいてもよい。これらその他の成分の量は、本発明の効果を損なわない限り任意の量とすることができるが、例えば、油脂組成物原料の全質量を100質量%とした場合、0~5質量%、好ましくは0~2質量%、より好ましくは0~1質量%である。
【0041】
上記固体の油脂組成物原料は、成分が複数含まれる場合、任意に混合してもよい。混合は、均質な反応基質が得られる限り公知のいかなる混合方法を用いてもよいが、例えば、パドルミキサー、アジホモミキサー、ディスパーミキサー、V型混合機、W型混合機、リボンミキサー等で行うことができる。
【0042】
(b)β型油脂に変化させる工程
(c)工程の前に、上記工程(a)で準備された固体の油脂組成物原料中の油脂成分を、β型油脂(好ましくは、X線回折ピークのピーク強度比が0.6~1)に、その結晶多形を変化させる。
β型油脂に変化させる工程で、油脂成分がβ型油脂を含むものに変化したことは、X線回折ピークのうち、β型の特徴的ピークとα型の特徴的ピークとの強度比:[β型の特徴的ピークの強度/(α型の特徴的ピークの強度+β型の特徴的ピークの強度)](ピーク強度比)から判断することができる。
具体的には、上述のX線回折測定に関する知見をもとに、β型の特徴的ピークである2θ=19°(4.6Å)のピーク強度とα型の特徴的ピークである2θ=21°(4.2Å)のピーク強度の比率:19°付近のピーク強度/(19°付近のピーク強度+21°のピーク強度)[4.6Å付近のピーク強度/(4.6Å付近のピーク強度+4.2Å付近のピーク強度)]を算出することで上記油脂成分のβ型油脂の存在量を表す指標とし、「β型油脂を含む」ことが理解できる。
つまり、このピーク強度比が0であった場合、すべてがα型油脂であるとわかり、ピーク強度比が1であった場合、すべてがβ型油脂であるとわかり、また、ピーク強度比が1に近い数字であると、β型油脂が多いということがわかる。本発明は、上記油脂成分が全てβ型油脂である(即ち、ピーク強度比=1)ことが理想である。
したがって、β型油脂に変化させる工程では、油脂成分のピーク強度比が、好ましくは0.6~1、より好ましくは0.7~1、さらに好ましくは0.8~1、さらにより好ましくは0.9~1、特に好ましくは0.95~1になるように処理をする。
【0043】
β型油脂に変化させる方法は、種々の方法を利用することができるが、代表的な方法としては工程(a)で得られた固体の油脂組成物原料を融解しないで、融点未満の温度で加熱する方法である。ここで言う「融点」は、油脂組成物原料の融点であり、より好ましくは油脂組成物原料中の油脂成分の融点を意味する。油脂組成物原料が融解しないこと、つまり、油脂成分を融解せずにβ型油脂に変化させることが重要である。加熱温度は、加熱工程を通してその温度を一定に保持することが好ましい。ここで一定とは、例えば温度変化を±3℃、好ましくは±1℃、より好ましくは±0.5℃に制御することが適当である。
また、加熱は、加熱工程を通して固体の油脂組成物原料中の油脂成分が融解しない温度で加熱するのが良い。
固体の油脂組成物原料を加熱してβ型油脂に変化させる工程は、固体の油脂組成物原料を恒温槽に入れて、静置したまま行うこともできるが、例えば、横型撹拌タンク等の機械を用いて、原料を撹拌させながら、すなわち、非静置下で加熱することもできる。非静置下で加熱する方法の方が、β型油脂に変化させる時間が短くなるため、生産効率が上がるという利点がある。
例えば、加熱温度は、グリセリンの1位~3位に炭素数xの脂肪酸残基Xを有する1種以上のXXX型トリグリセリドを含む油脂成分を含有する固体の油脂組成物原料の融点より1~30℃低い温度、好ましくは当該融点より2~27℃低い温度、より好ましくは当該融点より3~23℃低い温度、さらにより好ましくは当該融点より3~19℃低い温度とすることが適当である。
例えば、炭素数が18のステアリン酸残基を3つ有するXXX型トリグリセリドの場合、β型油脂の融点は74℃であるので(表1)、加熱温度は当該融点より1~30℃低い温度(即ち44~73℃)であることが好ましく、当該融点より2~27℃低い温度(即ち47~72℃)であることがより好ましく、当該融点より3~23℃低い温度(即ち51~71℃)であることがさらに好ましく、当該融点より3~19℃低い温度(即ち55~71℃)であることがさらにより好ましい。
さらに、前記炭素数xが16のXXX型トリグリセリドの場合、加熱温度は36~65℃であることが好ましく、39~64℃であることがより好ましい。前記炭素数xが20の場合、加熱温度は48~77℃であることが好ましく、51~76℃であることがより好ましい。
また、例えば、融点が67℃のフレーク状の菜種極度硬化油の場合、加熱温度を当該融点より1~30℃低い温度(即ち37~66℃)、好ましくは当該融点より2~27℃低い温度(即ち40~65℃)、より好ましくは当該融点より3~23℃低い温度(即ち44~64℃)、さらにより好ましくは当該融点より3~19℃低い温度(即ち48~64℃)とすることが適当である。
加熱時間は、β型油脂に変化するために十分な時間であればよいが、例えば、10分以上、好ましくは20分~120時間、より好ましくは30分~100時間、さらに好ましくは30~72時間であることが適当である。
【0044】
工程(b)は、固体の油脂組成物原料を静置状態、又は非静置状態で行うことができる。
静置状態での加熱は、固体の油脂組成物原料を恒温室、恒温槽等に入れて加熱する方法が挙げられる。静置状態での加熱の加熱時間を短くするには、原料全体に熱が伝わる状態で加熱するのが好ましく、かかる状態にするには、加熱時に、原料の堆積の高さを低くすると良い。原料の堆積の高さを低くして加熱する方法として、例えば、縦10~100cm、横10~100cm、高さ5~30cmのステンレス容器に、固体の油脂組成物原料の堆積の高さが低くなるように拡げて敷き詰めて、恒温室、恒温槽等で加熱する方法が挙げられる。なお、加熱時間を短くする必要がない場合には、原料の堆積の高さを低くする必要はない。
静置状態で加熱する場合の加熱時間は、油脂成分がβ型油脂に変化するために十分な時間であれば特に制限はなく、例えば、好ましくは20分以上、より好ましくは30分~120時間、さらに好ましくは10~100時間、さらにより好ましくは15~72時間であることが適当である。加熱処理する固体の油脂組成物原料の堆積の高さを低くして、原料全体への熱の伝わりが速い状態であれば、短時間でβ型油脂に変化させることができるが、原料の堆積の高さが高く、原料全体への熱の伝わりが遅い状態であれば、より長い時間の加熱が必要になる。
【0045】
非静置状態での加熱は、例えば、固体の油脂組成物原料を、横型撹拌タンク等を用いて撹拌しながら加熱する方法が挙げられる。
静置状態で加熱する場合の加熱時間は、油脂成分がβ型油脂に変化するために十分な時間であれば特に制限はないが、例えば、10分以上、15分以上、又は20分以上であることが適当であり、加熱時間の上限は、好ましくは5時間以下、より好ましくは2時間以下であることが適当である。加熱時間は短い方が、作業の効率化等の面から見ても好ましい。
【0046】
(c)原料同士の衝突により粉砕して粉末油脂組成物を得る工程
上記工程(b)で得られたβ型油脂含有組成物原料同士を、機械的な粉砕を伴わない気流式粉砕機等を用いて原料同士を衝突させることにより粉砕し、粉末油脂組成物を得ることができる。
原料同士を衝突させることによる粉砕は、機械的な粉砕を伴わない気流式粉砕機等を使用して行うことができる。「機械的な粉砕」とは、サイクロンミルやハンマーミルなどに備え付けられたインペラやハンマーなどの粉砕器具によって機械的に粉砕を行うことを意味する。「機械的な粉砕を伴わない」とは、「原料同士を衝突させることによる粉砕」の際に、同時に機械的な粉砕を行なわない、という意味で解釈される。本発明では、粉砕の初期工程として、工程(b)で得た原料を解砕機で解砕すること、及び機械的な粉砕を行うことは許容されるものの、最終的な粉末油脂組成物を得る直前の粉砕が、原料同士を衝突させることによってのみ行われ、その際に、機械的な粉砕は一切行われないことが適当である。ここで、「気流式粉砕」は、圧縮空気などの気流を用い、当該気流によって移動する粉砕対象物同士が衝突することによって粉砕対象を粉砕する方法である。機械的に粉砕対象を粉砕する方式と異なり、粉砕対象同士を衝突させるので、粉砕された粒子の表面がハンマー面等によって平滑化されてしまうなどの表面特性が変化してしまうことなく、より微細な粒子を得ることができる。また、分級器を備える気流式粉砕機を使用することにより、所望の粒径を有する粒子を得ることができる。「気流式粉砕機」としては、例えば、流動層式ジェットミル、カウンター式ジェットミルを挙げることができ、より具体的な気流式粉砕機としては、例えば、ホソカワミクロン株式会社製の粉砕機「カウンタジェットミル200AFG」等が挙げられる。
例えば、上記カウンタジェットミルを使用する場合、分級速度を、例えば1800~12000rpmとすることができる。分級速度を大きくするほど、得られる粉末油脂組成物の平均粒径が小さくなる傾向があるため、分級速度を変えることで、得られる粒子の平均粒径を調整することができる。
前記(c)工程は、最終的な粉末油脂組成物を得る直前の工程であることが適当である。最終的に原料同士を衝突させて粉砕し、その後機械粉砕をせずに最終的な粉末油脂組成物を得る限り、気流式粉砕機で粉砕する前に、解砕機等で解砕をしても良い。また、加熱によりβ型油脂に変化させた油脂組成物原料の粉砕は、品温を室温(25℃±5℃)まで冷却してから行っても良い。
【0047】
<粉末油脂組成物の用途>
本発明の粉末油脂組成物は、粉末油脂を原料とする各種分野で利用できる。特に、パン、菓子、ケーキミックス、麺、打ち粉、バッター、天ぷら粉、唐揚げ粉、粉末澱粉、粉末馬鈴薯澱粉等の食品分野で利用することができる。また、本発明の粉末油脂組成物は、粉末状の食品等の流動性を改善するための粉体流動性改良剤として利用することができる。
【0048】
<油脂組成物を含む食品及び非食品>
本発明の食品中の粉末油脂組成物の含有量は、対象とする食品の種類によって異なるが、例えば、最終的に得られる食品全体を100質量%とした場合、例えば、0.1~99質量%、好ましくは、0.1~90質量%、より好ましくは、0.5~80質量%、さらに好ましくは、1~70質量%である。本発明の食品は、本発明の粉末油脂組成物を原料として使用する以外は、公知の方法により製造することができる。粉末状の食品を使用する場合、当該粉末状の食品の平均粒径は、例えば、1~100μm、好ましくは10~50μm、より好ましくは20~40μmである。また、食品以外の非食品粉末においても、上記食品同様に利用することができる。
【0049】
<粉体流動性改良剤>
本発明に用いる粉末油脂組成物は、粉体の流動性を改善するための粉体流動性改良剤として使用できる。例えば、澱粉等の粉末食品の原材料の一部として本発明に用いる粉末油脂組成物を加えると、従来の粉末食品の流動性を改善することができる。流動性の改善は、例えば、凝集度及び安息角相対値によって確認することができる。好ましい凝集度及び安息角相対値は上述したとおりである。
本発明の粉体流動性改良剤は、有効成分であると上述した粉末油脂組成物を含有したものであればよく、この他に本発明の効果を損なわない範囲で、デキストリン、澱粉等の賦形剤、乳化剤等の他の成分を含有させたものであってもよい。
本発明の粉体流動性改良剤は、上述の粉末油脂組成物を含有する。本発明の粉体流動性改良剤は、上記の粉末油脂組成物を、好ましくは50~100質量%、より好ましくは80~100質量%、さらに好ましくは90~100質量%含有する。
但し、本発明の好ましい粉体流動性改良剤は、実質的に当該粉末油脂組成物のみからなることが好ましい。また「実質的に」とは、粉体流動性改良剤中に含まれる粉末油脂組成物以外の成分が、粉体流動性改良剤を100質量%とした場合、例えば、0~10質量%、好ましくは0~5質量%、より好ましくは、0~3質量%であることを意味する。
また、本発明の粉体流動性改良剤の粉末食品(澱粉等)への添加量は、好ましくは0.05~20質量%であり、より好ましくは0.08~10質量%であり、さらに好ましくは0.1~5質量%である。
【実施例】
【0050】
次に本発明を製造例及び製造比較例により詳細に説明する。
[分析方法]
以下、使用した各種分析方法を説明する。一部製造例1を例にとって説明しているが、特に断りがない限り、ここに記載したすべての製造例及び製造比較例でも同様の分析を行っている。
・トリグリセリド組成
トリグリド組成は、ガスクロマトグラフィー分析により行った。以下に測定条件を示す。ガスクロマトグラフィー分析条件
DB1-ht(0.32mm×0.1μm×5m)Agilent Technologies社(123-1131)
注入量 :1.0μL
注入口 :370℃
検出器 :370℃
スプリット比 :50/1 35.1kPa コンスタントプレッシャー
カラムCT :200℃(0min hold)~(15℃/min)~370℃(4min hold)
・X線回折測定
X線回折装置((株)リガク、全自動多目的X線回折装置Smart Lab 9 kW)を用いて、CuKα(λ=1.542Å)を線源とし、Cu用フィルタ使用、出力9.0kW、操作角0.96~30.0°、測定速度20°/分の条件で測定した。この測定により、XXX型トリグリセリドを含む油脂成分におけるα型油脂、β’型油脂、及びβ型油脂の存在を確認した。4.6Å付近のピークのみを有し、4.1~4.2Å付近のピークを有しない場合は、油脂成分のすべてがβ型油脂であると判断できる。
したがって、上記X線回析測定の結果から、ピーク強度比=[β型の特徴的ピークの強度(2θ=19°(4.6Å))/(α型の特徴的ピークの強度(2θ=21°(4.2Å))+β型の特徴的ピークの強度(2θ=19°(4.6Å)))]を算出し、その値をβ型油脂の存在量を表す指標として判断した。
【0051】
・凝集度
凝集度は、パウダテスタPT-X(ホソカワミクロン株式会社製)を使用して測定した。
具体的には、嵩密度から選択される目開きが異なる直径7.5cmの3つの円形の篩、(上段篩:目開き355μm、中段篩:目開き250μm、下段篩:目開き150μm)を重ね、上段篩に約2gの製造例1の粉末油脂組成物を供し、全篩を、106秒の振動時間で、1mmの振幅で水平方向に振動させた。その後、各篩上に残った製造例1の粉末油脂組成物の質量を秤量し、以下の式(II)から凝集度を算出した。なお、凝集度は、1つのサンプル粉体(製造例1の粉末油脂組成物)について測定を3回行い、求めた値の平均値を製造例1の粉末油脂組成物の凝集度とした。
凝集度(%)=(U/N+M/N×3/5+L/N×1/5)×100 (II)
(式中、U:上段篩上のサンプル粉体の質量(g)、M:中段篩上のサンプル粉体の質量(g)、L:下段篩上のサンプル粉体の質量(g)、N:初期のサンプル粉体の質量(g))
なお、振動時間(T(秒))の算出は、〔発明を実施するための形態〕で記載した式(III)及び式(IV)を利用した方法で行った。
T(秒)=20+{(1.6-W)/0.016} (III)
(Wは粉体の動的嵩密度で、次式(IV)から算出される)
W=(Q-P)C/100+P (IV)
(式中、P:ゆるめ嵩密度、Q:固め嵩密度、C:圧縮度)ただし、W≧1.6のときは、T=20となる。
【0052】
・ゆるめ嵩密度
ゆるめ嵩密度(g/cm3)は、粉体の質量を、その粉体の占める嵩体積で割った値、すなわち、単位嵩体積当たりの粉体質量として求めた。
ゆるめ嵩密度の測定は、パウダテスタPT-X(ホソカワミクロン株式会社製)を使用して測定した。パウダテスタPT-Xは注入法を採用しており、正弦波の振動により容器へ空気を含んだ粉粒体を自由落下させることにより測定を行った。
具体的には、直径7.5cmの目開き1.7mmの円形の篩に粉末サンプルを200~300cm3供し、振幅1.5mmで振動させ、篩から落下させた(正弦波の振動による自由落下)。27cmの高さから自由落下した粉末サンプルは、篩の下に設置してあるステンレス製100cm3カップ(内径約5cm×高さ約5cm)に注入され、粉末サンプルがカップから溢れるまで注入された後、篩の振動を止めた。その後、長方形のブレードでカップ上の余分な粉末サンプルをカップの上面に沿ってすり切り、カップ中の粉体サンプルの質量(A(g))を測定することでゆるめ嵩密度を下記式(V)から算出した。なお、ゆるめ嵩密度は、1つのサンプルについて3回測定し、その平均値をそのサンプルのゆるめ嵩密度の値とした。
ゆるめ嵩密度(g/cm3)=A(g)/100(cm3) (V)
【0053】
・固め嵩密度
ゆるめ嵩密度を測定した後のステンレス製100cm3カップ(内径約5cm×高さ約5cm)の開口上部に、当該カップと同じ大きさの穴を有する筒状キャップ(穴の直径5.04cm×高さ4cm、筒の両端は開口されている)を取り付け、上記カップの開口部を延長した。筒状キャップを取り付けたステンレス製100cm3カップを、直径7.5cmの目開き1.7mmの円形の篩の下に設置した。篩に粉末サンプルを200~300cm3供し、振幅1.5mmで振動させ、篩から落下させた(正弦波の振動による自由落下)。27cmの高さから自由落下したサンプルは、下に設置してあるステンレス製100cm3カップに十分量注入し、当該カップを180回タッピング(ストローク18mm、タッピング速度60回/分)することでサンプルを圧密させた。タッピングを行うことで、粉粒体が圧密されてその体積が減少した。タッピングの途中で、粉粒体の体積の減少により粉粒体の粉面がカップ上端より下がった場合には、再度同様の方法でサンプルをカップに注入し、粉粒体の粉面がカップ上端より高くなるようにした。タッピング終了後、キャップを取り外し、ブレードでカップ上の余分なサンプルをカップの面に沿ってすり切り、質量(B(g))を測定することで固め嵩密度を下記式(VI)から算出した。
固め嵩密度は、1つのサンプルについて3回測定し、その平均値をそのサンプルの固め嵩密度の値とした。
固め嵩密度(g/cm3)=B(g)/100(cm3) (VI)
【0054】
・圧縮度
圧縮度C(%)は、上記ゆるめ嵩密度Pと固め嵩密度Qを用いて、次の式(VII)から求めた。
C(%)=100×(Q-P)/Q (VII)
【0055】
・安息角相対値
粉末馬鈴薯澱粉297g(製品名:国産片栗粉(北海)(火乃国食品工業株式会社製)、後述するレーザ回折散乱法で測定した平均粒径34.8μm)に、製造例1の粉末油脂組成物を3g添加して(全体の質量に対して粉末油脂組成物を1質量%含有)混合粉末を調製し、当該混合粉末をフードプロセッサー(製品名「フードプロセッサー1.9L」、コンエアージャパン合同会社製)で20秒間攪拌混合し、サンプルを調製した。製造例1の粉末油脂組成物の代わりに、製造例2~4、製造比較例1~9の粉末油脂組成物を添加したサンプルも、同様の方法で調製した。
対照として、粉末油脂組成物を添加していない粉末馬鈴薯澱粉自体を、同様にフードプロセッサーで20秒間攪拌混合し、対照サンプルを調製した。
得られたサンプルの安息角を、パウダテスタPT-X(ホソカワミクロン株式会社製)を用いて測定した。
具体的には、直径7.5cmの目開き1.7mmの円形の篩に粉末サンプルを200~300cm3供し、振幅1.5mmで振動させ、篩から落下させた(正弦波の振動による自由落下)。粉末サンプルは、篩の下にある開口部の径5mmの漏斗を通過後、7.5cmの高さから円形テーブル(直径8cm)上に落下させ、テーブルの端部から粉体があふれる程度に堆積させた。形成する粉体堆積層の自由表面が水平となす角度を、画像により算出し、その値を安息角とした。
安息角は、1つのサンプルについて3回測定を行い、その平均値をそのサンプルの安息角とした。
次に、測定した安息角の値を用いて、次の式(I)から安息角相対値を求めた。
安息角相対値(%)=[該粉末油脂組成物と粉末馬鈴薯澱粉との混合粉末の安息角]/[該粉末油脂組成物を含有しない該粉末馬鈴薯澱粉のみの安息角]×100 (I)
(式(I)中、「混合粉末」は、混合粉末全体の質量に対して粉末油脂組成物を1質量%含有)
【0056】
・比表面積
粉末油脂組成物の比表面積(cm2/g)は、N2ガス吸着法(多点法)により測定した。
具体的には、試料1.2~1.5gをセルに採取し、前処理装置(マイクロメリティックス社製、装置名「VacPrep 061」)を用いて、室温(25℃)で24時間の減圧脱気処理後、比表面積測定分析装置(マイクロメリティックス社製、装置名「3Flex」)を使って、N2ガス吸着法(多点法)により比表面積を測定した。
【0057】
・平均粒径
平均粒径は、粒度分布測定装置(株式会社島津製作所製、装置名:SALD-2300)でレーザ回折散乱法(ISO13320、JIS Z 8825-1)に基づいて、乾式測定により体積基準粒度分布を測定して体積平均径〔MV〕を求め、得られた体積平均径〔MV〕を平均粒径とした。体積平均径〔MV〕は、粒子の粒径、粒子の体積、及び粒子の体積の総和の各値を使って以下の式から求めた。
体積平均径〔MV〕=(粒径×その粒子の体積)の総和/粒子の体積の総和
【0058】
・外観観察
得られた各種粉末油脂組成物の外観を目視で観察した。
また、粉末油脂組成物の粒子の形状を、電子顕微鏡(日本電子株式会社製、「JSM-7500F」)を用いて、倍率10000倍で観察した。
電子顕微鏡で観察するサンプルの蒸着方法を以下に記載する。
まず、銅板上に導電テープを張り試料粉を上に載せた後、余剰試料を飛ばす目的で窒素ガスによるブロワー処理をした。その後、蒸着処置は、Osmium plasma coator(Nippon Laser&Electronics Lab.社製、「OPC-80」)を用いて、オスミウム蒸着処理(30nm)を行った。
【0059】
・粉末油脂組成物の粒子の表面上に存在する薄片の大きさ
製造例1~4、製造比較例1で得られた粉末油脂組成物の粒子の表面上に存在する薄片の大きさを、上述した電子顕微鏡写真を用いて測定した。
電子顕微鏡写真に写った薄片の長辺(μm)、短辺(μm)、厚さ(μm)をそれぞれ測定した。測定は10個の薄片について行い、その平均値を求めた。
・原料
製造例及び製造比較例において原料として使用したフレーク状の菜種極度硬化油の詳細は以下の通りである。
横関油脂工業株式会社製、α型油脂、菜種極度硬化油の全質量を100質量%とした場合のグリセリンの1位~3位に炭素数18の脂肪酸残基X(ステアリン酸残基)を有するXXX型トリグリセリドの含有量は79.6質量%、ピーク強度比:0.03、融点67℃
【0060】
製造例1~4(恒温室、カウンタジェットミル)
フレーク状の菜種極度硬化油20kgを、紙袋(縦:800mm、横450mm:、厚さ:150mm)に入れて、恒温室(横幅:5100mm×高さ:2100mm×奥行:4050mm、エスペック株式会社製、装置名「TBUU」)に入れ、融解が生じない62℃にて64時間静置し、フレーク状の油脂を得た。
得られたフレーク状の油脂12.0kgを解砕機で解砕し、油脂解砕物を得た。得られた油脂解砕物6.0kgを、気流式粉砕機(ホソカワミクロン株式会社製、装置名「カウンタジェットミル200AFG」)で原料同士の衝突により粉砕することにより粉末油脂組成物(粉末油脂組成物の全質量を100質量%とした場合のグリセリンの1位~3位に炭素数18の脂肪酸残基X(ステアリン酸残基)を有するXXX型トリグリセリドの含有量は79.6質量%)4.8kgを得た。なお、製造例1~4は、粉砕時の分級速度が表2に示すように異なっている以外は、同一の方法で製造されている。得られた製造例1~4の粉末油脂組成物中の油脂の結晶多形は、X線回折分析により、β型であることを確認した。表2に、気流式粉砕機の粉砕条件、各サンプルの外観、分析値、及びX線回折分析で確認をした各粉末油脂組成物中の油脂の結晶多形を示す。
【0061】
【0062】
製造例1~4の粉末油脂組成物の各粒子を上記外観観察に基づいて電子顕微鏡にて観察した結果、当該粒子は、表面上に薄片が複数存在・集積することにより、表面に凹凸が形成された不定形状であった。参考のため、製造例1の上記電子顕微鏡写真を
図1に、製造例4の上記電子顕微鏡写真を
図2に示す。
【0063】
製造例5(β化処理のみ、恒温室)
恒温室を用いて、α型油脂のβ化処理を検討した。
具体的には、フレーク状の菜種極度硬化油6kgを、ステンレス容器(横幅:530mm×奥行:325mm×高さ:200mm)に拡げて敷き詰め、恒温室(横幅:5100mm×高さ:2100mm×奥行:4050mm、エスペック株式会社製、装置名「TBUU」)内のスチールラック(横幅:760mm×奥行:460mm×高さ:1795mm)に入れ、40℃で28日間加熱処理し、加熱処理したフレーク状の油脂(粉末油脂組成物の全質量を100質量%とした場合のグリセリンの1位~3位に炭素数18の脂肪酸残基X(ステアリン酸残基)を有するXXX型トリグリセリドの含有量は79.6質量%)6kgを得た。
X線回折分析により、加熱処理したフレーク状の油脂の結晶多形は、β型であることを確認した。表3に、加熱方法、外観、分析値、及びX線回折分析で確認をした油脂の結晶多形を示す。
【0064】
製造例6(β化処理のみ、恒温室)
恒温室を用いて、α型油脂のβ化処理を検討した。
具体的には、フレーク状の菜種極度硬化油6kgを、ステンレス容器(横幅:530mm×奥行:325mm×高さ:200mm)に拡げて敷き詰め、恒温室(横幅:5100mm×高さ:2100mm×奥行:4050mm、エスペック株式会社製、装置名「TBUU」)内のスチールラック(横幅:760mm×奥行:460mm×高さ:1795mm)に入れ、62℃で15時間加熱処理し、加熱処理したフレーク状の油脂(粉末油脂組成物の全質量を100質量%とした場合のグリセリンの1位~3位に炭素数18の脂肪酸残基X(ステアリン酸残基)を有するXXX型トリグリセリドの含有量は79.6質量%)6kgを得た。
X線回折分析により、加熱処理したフレーク状の油脂の結晶多形は、β型であることを確認した。表3に、加熱方法、外観、分析値、及びX線回折分析で確認をした油脂の結晶多形を示す。
【0065】
製造例7(β化処理のみ、横型撹拌タンク)
横型撹拌タンクを用いて、α型油脂のβ化処理を検討した。
具体的には、フレーク状の菜種極度硬化油4.0kgを、横型撹拌タンク(株式会社マツボー製、装置名「レーディゲミキサーM20」)を用いて、63℃、撹拌速度100rpmで30分加熱処理することにより、フレーク状の油脂(粉末油脂組成物の全質量を100質量%とした場合のグリセリンの1位~3位に炭素数18の脂肪酸残基X(ステアリン酸残基)を有するXXX型トリグリセリドの含有量は79.6質量%)3.8kgを得た。X線回折分析により、加熱処理したフレーク状の油脂の結晶多形は、β型であることを確認した。表3に、加熱方法、外観、分析値、及びX線回折分析で確認をした油脂の結晶多形を示す。
【0066】
製造例8(β化処理のみ、横型撹拌タンク)
横型撹拌タンクを用いて、α型油脂のβ化処理を検討した。
具体的には、フレーク状の菜種極度硬化油4.0kgを、横型撹拌タンク(株式会社マツボー製、装置名「レーディゲミキサーM20」)を用いて、65℃、撹拌速度50rpmで1時間加熱処理することにより、フレーク状の油脂(粉末油脂組成物の全質量を100質量%とした場合のグリセリンの1位~3位に炭素数18の脂肪酸残基X(ステアリン酸残基)を有するXXX型トリグリセリドの含有量は79.6質量%)3.8kgを得た。X線回折分析により、加熱処理したフレーク状の油脂の結晶多形は、β型であることを確認した。表3に、加熱方法、外観、分析値、及びX線回折分析で確認をした油脂の結晶多形を示す。
【0067】
【0068】
上記表3の結果から、α型油脂を、40℃~65℃の温度で加熱処理することで、原料を融解することなく、β型油脂に変化させられることがわかった。また、製造例5及び6、製造例7及び8からわかるように、同じ加熱装置を用いた場合の加熱時間を比較すると、加熱温度が高い方がβ型油脂に変化させる時間が短いという傾向がみられた。さらに、製造例5及び6のように、加熱する原料を静置状態で加熱するよりも、製造例7及び8のように、加熱する原料を撹拌状態の非静置状態で加熱した方が、β型油脂に変化させる時間が短くできることがわかった。
【0069】
製造比較例1(β化処理なし、カウンタジェットミル)
フレーク状の菜種極度硬化油12.0kgを解砕機で解砕し、11.5kgの油脂解砕物を得た。得られた油脂解砕物6.0kgを、気流式粉砕機(ホソカワミクロン株式会社製、装置名「カウンタジェットミル200AFG」)で粉砕することにより粉末油脂組成物(粉末油脂組成物の全質量を100質量%とした場合のグリセリンの1位~3位に炭素数18の脂肪酸残基X(ステアリン酸残基)を有するXXX型トリグリセリドの含有量は79.6質量%)4.8kgを得た。X線回折分析により、得られた粉末油脂組成物中の油脂の結晶多形は、α型及びβ型であることを確認した。
なお、製造比較例1では、加熱処理を行っていないが、気流式粉砕機での粉砕時に発生した熱等により、α型油脂の一部がβ型油脂に変化したと考えられる。
表4に、気流式粉砕機の粉砕条件、サンプルの外観、分析値、及びX線回折分析で確認をした粉末油脂組成物中の油脂の結晶多形を示す。
【0070】
【0071】
製造比較例1の粉末油脂組成物の粒子を上記外観観察に基づいて電子顕微鏡にて観察した結果、当該粒子は、表面上に薄片が複数存在・集積することにより、表面に凹凸が形成された不定形状であった。参考のため、製造比較例1の上記電子顕微鏡写真を
図3に示す。
【0072】
製造比較例2(恒温室、サイクロンミル(機械的及び気流式粉砕機))
フレーク状の菜種極度硬化油6.0kgを、ステンレス容器(横幅:530mm×奥行:325mm×高さ:200mm)に拡げて敷き詰め、恒温室(横幅:5100mm×高さ:2100mm×奥行:4050mm、エスペック株式会社製、装置名「TBUU」)内のスチールラック(横幅:760mm×奥行:460mm×高さ:1795mm)に入れ、66℃で4時間、63℃4時間のサイクルを3回実施し、フレーク状の油脂を得た。
得られたフレーク状の油脂6.0kgを解砕機で解砕し、油脂解砕物を得た。
次に、得られた油脂解砕物4.0kgを、機械的及気流式の粉砕機(株式会社静岡プラント製、装置名「サイクロンミル150BMS」)で粉砕することにより粉末油脂組成物3.5kgを得た。ここで、サイクロンミルは、インペラによる機械的な粉砕と高速気流中の粒子同士の衝突による気流式粉砕、さらに遠心分級の3つの機能を併せ持つ粉砕機である。粉末油脂組成物の粒径をさらに小さくするために、得られた粉末油脂組成物1.3kgを、もう1度、機械的及び気流式の粉砕機(株式会社静岡プラント製、装置名「サイクロンミル150BMS」)で粉砕し、粉末油脂組成物(粉末油脂組成物の全質量を100質量%とした場合のグリセリンの1位~3位に炭素数18の脂肪酸残基X(ステアリン酸残基)を有するXXX型トリグリセリドの含有量は79.6質量%)1.0kgを得た。X線回折分析により、得られた粉末油脂組成物中の油脂の結晶多形は、β型であることを確認した。表5に、機械的及び気流式粉砕機の粉砕条件、サンプルの外観、分析値、及びX線回折分析で確認をした粉末油脂組成物中の油脂の結晶多形を示す。
【0073】
【0074】
製造比較例2の粉末油脂組成物の粒子を上記外観観察に基づいて電子顕微鏡観察をした結果、薄片が表面に存在しない不定形状の粒子が一部存在しており、また、表面上に薄片が複数存在・集積することにより、表面に凹凸が形成された不定形状の粒子も存在していた。
一方、サイクロンミルによる粉砕では、表面上に薄片が複数存在することにより表面に凹凸が形成された不定形状粒子だけでなく、薄片が粒子の表面上にない不定形状の粒子も存在していた(
図4)。薄片が粒子の表面上にない不定形状の粒子が存在する理由として、サイクロンミルによる粉砕では、高速気流中の粒子同士の衝突による気流式粉砕だけではなく、インペラによる機械的な粉砕も同時に行っているので、表面上の薄片がつぶされてなくなってしまったためと考えられる。
このことから、ほとんどの粒子が、表面上に薄片が複数存在・集積することにより、表面に凹凸が形成された不定形状の粉末油脂組成物を製造するには、最終的な粉末油脂組成物を得る直前の粉砕工程では、機械的な粉砕を行わない粉砕機、例えば、気流式粉砕機を用いて製造する必要があることがわかった。
【0075】
製造比較例3~7(融解後固化、カウンタジェットミル)
フレーク状の菜種極度硬化油2kgを、ステンレス容器(横幅:530mm×奥行:325mm×高さ:100mm)に拡げて敷き詰め、計6個のステンレス容器を恒温室(横幅:5100mm×高さ:2100mm×奥行:4050mm、エスペック株式会社製、装置名「TBUU」)内のスチールラック(横幅:760mm×奥行:460mm×高さ:1795mm)に静置し、融点を超える80℃にて10時間維持して完全に融解した後、60℃で15時間冷却し、体積が増加した空隙を有する固形物を形成させ、結晶化を完了させた後、室温(25℃)状態まで冷却し、油脂固形物を得た。
得られた油脂固形物12.0kgを解砕機で解砕し、油脂解砕物を得た。次に、得られた油脂解砕物10.0kgを、気流式粉砕機(ホソカワミクロン株式会社製、装置名「カウンタジェットミル200AFG」)で粉砕することにより、粉末油脂組成物(粉末油脂組成物の全質量を100質量%とした場合のグリセリンの1位~3位に炭素数18の脂肪酸残基X(ステアリン酸残基)を有するXXX型トリグリセリドの含有量は79.4質量%)7.8kgを得た。X線回折分析により、得られた粉末油脂組成物中の油脂の結晶多形は、β型であることを確認した。表6に、気流式の粉砕機の粉砕条件、サンプルの外観、分析値、及びX線回折分析で確認をした粉末油脂組成物中の油脂の結晶多形を示す。
【0076】
【0077】
製造比較例3~7の粉末油脂組成物の粒子を上記外観観察に基づいて電子顕微鏡にて観察した結果、粒子は、表面上に薄片が複数存在・集積することにより、表面に凹凸が形成された不定形状ではなく、単なる板状形状であった。参考のため、製造比較例5の上記電子顕微鏡写真を
図5に示す。
【0078】
製造比較例8(恒温室、サイクロンミル(機械的及び気流式粉砕機))
フレーク状の菜種極度硬化油2.0kgを、ステンレス容器(横幅:530mm×奥行:325mm×高さ:100mm)に拡げて敷き詰め、計3個のステンレス容器を恒温室(横幅:5100mm×高さ:2100mm×奥行:4050mm、エスペック株式会社製、装置名「TBUU」)内のスチールラック(横幅:760mm×奥行:460mm×高さ:1795mm)に静置し、融点を超える80℃にて10時間維持して完全に融解した後、60℃で16時間冷却し、体積が増加した空隙を有する固形物を形成させ、結晶化を完了させた後、室温(25℃)状態まで冷却し、油脂固形物を得た。
得られた油脂固形物6.0kgを解砕機で解砕し、油脂解砕物を得た。
次に、得られた油脂解砕物5.8kgを、機械的及び気流式の粉砕機(株式会社静岡プラント製、装置名「サイクロンミル150BMS」)で粉砕することにより粉末油脂組成物(粉末油脂組成物の全質量を100質量%とした場合のグリセリンの1位~3位に炭素数18の脂肪酸残基X(ステアリン酸残基)を有するXXX型トリグリセリドの含有量は79.4質量%)5.4kgを得た。
ここで、サイクロンミルは、インペラによる機械的な粉砕と高速気流中の粒子同士の衝突による気流式粉砕、さらに遠心分級の3つの機能を併せ持つ粉砕機である。
X線回折分析により、得られた粉末油脂組成物中の油脂の結晶多形は、β型であることを確認した。
表7に、機械的及び気流式の粉砕機の粉砕条件、サンプルの外観、分析値、及びX線回折分析で確認をした粉末油脂組成物中の油脂の結晶多形を示す。
【0079】
【0080】
製造比較例8の粉末油脂組成物の粒子を上記外観観察に基づいて電子顕微鏡にて観察した結果、粒子は、表面上に薄片が複数存在・集積することにより、表面に凹凸が形成された不定形状ではなく、単なる板状形状であった。参考のため、製造比較例8の上記電子顕微鏡写真を
図6に示す。
【0081】
製造比較例9(融解後結晶、機械的粉砕機)
フレーク状の菜種極度硬化油2.0kgを、ステンレス容器(横幅:530mm×奥行:325mm×高さ:100mm)に拡げて敷き詰め、計3個のステンレス容器を恒温室(横幅:5100mm×高さ:2100mm×奥行:4050mm、エスペック株式会社製、装置名「TBUU」)内のスチールラック(横幅:760mm×奥行:460mm×高さ:1795mm)に静置し、融点を超える80℃にて10時間維持して完全に融解した後、60℃で16時間冷却し、体積が増加した空隙を有する固形物を形成させ、結晶化を完了させた後、室温(25℃)状態まで冷却し、油脂固形物を得た。
得られた油脂固形物6.0kgを解砕機で解砕し、油脂解砕物を得た。
次に、得られた油脂解砕物5.8kgを、機械的粉砕機である衝撃型分級機内蔵微粉砕機(ホソカワミクロン株式会社製、装置名「ACM―10A」)で粉砕することにより、粉末油脂組成物(粉末油脂組成物の全質量を100質量%とした場合のグリセリンの1位~3位に炭素数18の脂肪酸残基X(ステアリン酸残基)を有するXXX型トリグリセリドの含有量は79.4質量%)5.5kgを得た。X線回折分析により、得られた粉末油脂組成物中の油脂の結晶多形は、β型であることを確認した。表8に、衝撃型分級機内蔵微粉砕機の粉砕条件、サンプルの外観、分析値、及びX線回折分析で確認をした粉末油脂組成物中の油脂の結晶多形を示す。
【0082】
【0083】
製造比較例9の粉末油脂組成物の粒子を上記外観観察に基づいて電子顕微鏡にて観察した結果、粒子は、表面上に薄片が複数存在・集積することにより、表面に凹凸が形成された不定形状ではなく、単なる板状形状であった。参考のため、製造比較例9の上記電子顕微鏡写真を
図7に示す。
【0084】
[40℃及び20℃での保存安定性試験]
製造比較例1で得られたα型及びβ型油脂含有粉末油脂組成物、並びに、製造例1及び製造比較例4で得られたβ型油脂含有粉末油脂組成物について、40℃での保存安定性試験1を行った。具体的には、ポリエチレン製ビニール袋にそれぞれサンプル約100gを入れ、40℃の恒温槽(遮光状態)で5日間保管し、保管後の外観を観察した(
図8~10)。また、保管条件を「40℃で5日間」から「20℃で5ヶ月間」に変更した保存安定性試験2も同様に行った。保存安定性試験1及び2の結果を表9に示す。
【0085】
【0086】
表9から、各粉末油脂組成物を40℃で5日間保存すると、β型油脂である製造例1及び製造比較例4の粉末油脂組成物は、その外観は変わらなかったが(
図8及び
図10)、α型及びβ型油脂を含有する製造比較例1の粉末油脂組成物は(
図9)、ブロッキング(粉末の凝集)が起こり、大きな塊が生じた。
また、各粉末油脂組成物を20℃で5ヵ月間保存(長期保存)すると、β型油脂である製造例1及び製造比較例4の粉末油脂組成物は、その外観は変わらなかったが、α型及びβ型油脂を含有する製造比較例1の粉末油脂組成物は、一部にブロッキング(粉末の凝集)が起こっていた。
以上のことから、α型及びβ型油脂を含有する製造比較例1の粉末油脂組成物は、40℃で5日間及び20℃で5ヶ月間のどちらの場合においても保存安定性が悪い粉末であったため、商品価値がないと判断した。
【0087】
[安息角相対値試験]
表10~12に、製造例1~4、製造比較例1~9の粉末油脂組成物を1質量%添加した粉末馬鈴薯澱粉の安息角相対値を示す。
また、表13に、製造後20℃で5ヵ月間保存した製造例1及び製造比較例4の粉末油脂組成物を1質量%添加した粉末馬鈴薯澱粉の安息角相対値を示す。
【0088】
【0089】
【0090】
【0091】
【0092】
表10~12から、製造例1~4の粉末油脂組成物の凝集度はすべて60%以下で、製造比較例3~9の粉末油脂組成物の凝集度は66%以上であったので、製造比較例3~9の粉末油脂組成物よりも製造例1~4の粉末油脂組成物の方が、粉体の流動性が高いことがわかった。
よって、本発明の粉末油脂組成物はハンドリング性が良い粉体であることから、粉末油脂組成物の製造時に取り扱いがし易く、また、粉末油脂組成物を他の成分に添加して粉体混合物を製造する場合には、当該粉体混合物の製造の作業効率が良くなると考えられる。
また、製造例1~4の粉末油脂組成物を添加した粉末馬鈴薯澱粉の安息角相対値はすべて90%以下で、製造比較例2及び4~9の粉末油脂組成物を添加した粉末馬鈴薯澱粉の安息角相対値は90%より大きかった。このことから、本発明の粉末油脂組成物は、澱粉等の粉末に添加することで、その粉末の流動性を向上させることができることがわかった。
メカニズムは定かではないが、
図1~
図7の粒子の形状から考えると、この安息角相対値の違いは、本発明の製造例1及び4の粉末油脂組成物(
図1及び2)並びに製造比較例1(
図3)の粒子が、表面上に薄片が複数存在する薄片含有粒子の形態である一方、製造比較例2の粉末油脂組成物では、表面上に薄片が複数存在することにより表面に凹凸が形成された不定形状粒子だけでなく、薄片が粒子の表面上にない不定形状の粒子も存在しているということ(
図4)、また、製造比較例5、8及び9の粉末油脂組成物では、粒子の形状が板状形状で粒子の表面上に薄片が存在していないということ(
図5~7)、によると推測される。
また、表10及び13からわかるように、20℃で5ヵ月間保存(長期保存)した製造例1の粉末油脂組成物を添加した粉末馬鈴薯澱粉の安息角相対値(86.9%、表13)は、保存前の安息角相対値(86.3%、表10)とほとんど変わらなかった。
一方、表11からわかるように、保存前のα型及びβ型油脂を含有する製造比較例1の粉末油脂組成物は、凝集度が60%以下で、粉末油脂組成物を添加した粉末馬鈴薯澱粉の安息角相対値が90%以下(89.1%)であったが、表13からわかるように、20℃で5ヵ月間保存(長期保存)した製造比較例1の粉末油脂組成物を添加した粉末馬鈴薯澱粉の安息角相対値は97.6%で、長期保存前よりかなり大きい値に変化した。このことから、製造比較例1の粉末油脂組成物は、長期保存をすると安息角相対値が大きく変化し、品質が安定しないので商品価値がないと判断した。
【要約】
【課題】本発明は、新規粉末油脂組成物、好ましくは流動性を改善した粉末油脂組成物を提供することを目的とする。
【解決手段】グリセリンの1位~3位に炭素数xの脂肪酸残基Xを有する1種以上のXXX型トリグリセリドを含む油脂成分を含有する粉末油脂組成物であって、前記炭素数xが16~20から選択される整数であり、前記粉末油脂組成物がβ型油脂を含み、前記油脂成分のX線回折ピークにおいて、ピーク強度比が、0.6~1であり、前記粉末油脂組成物の凝集度が60%以下であり、該粉末油脂組成物のゆるめ嵩密度が0.05~0.6g/cm
3であり、安息角相対値が90%以下であることを特徴とする、粉末油脂組成物を提供する。
【選択図】
図1