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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-01-06
(45)【発行日】2022-01-20
(54)【発明の名称】着色剤及び水性顔料分散体
(51)【国際特許分類】
   C09C 3/08 20060101AFI20220113BHJP
   B41J 2/01 20060101ALI20220113BHJP
   C09C 1/48 20060101ALI20220113BHJP
   C09D 11/324 20140101ALI20220113BHJP
   C09D 17/00 20060101ALI20220113BHJP
   C09D 201/00 20060101ALI20220113BHJP
【FI】
C09C3/08
B41J2/01 501
C09C1/48
C09D11/324
C09D17/00
C09D201/00
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2017202614
(22)【出願日】2017-10-19
(65)【公開番号】P2019073667
(43)【公開日】2019-05-16
【審査請求日】2020-08-06
(73)【特許権者】
【識別番号】000002886
【氏名又は名称】DIC株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100177471
【弁理士】
【氏名又は名称】小川 眞治
(74)【代理人】
【識別番号】100163290
【弁理士】
【氏名又は名称】岩本 明洋
(74)【代理人】
【識別番号】100149445
【弁理士】
【氏名又は名称】大野 孝幸
(72)【発明者】
【氏名】川合 一成
(72)【発明者】
【氏名】早川 耕平
【審査官】桜田 政美
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-044278(JP,A)
【文献】特開2010-159188(JP,A)
【文献】特開2016-055517(JP,A)
【文献】特開2017-179199(JP,A)
【文献】特開2012-254972(JP,A)
【文献】特開2012-027321(JP,A)
【文献】特開平10-025426(JP,A)
【文献】特開昭60-233168(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09C 3/08
B41J 2/01
C09C 1/48
C09D 11/324
C09D 17/00
C09D 201/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)で示される構造を有する化合物(A)加水分解性シリル基またはシラノール基と、水酸基を有する顔料(B)の水酸基を反応させて得られる着色剤の製造方法
[一般式(1)中のRは二価の飽和炭化水素基または二重結合もしくは三重結合を有する二価の不飽和炭化水素基であり、Rは一価の炭化水素基であり、Rは一価の炭化水素基または水素原子であり、mは0または1または2または3であり、Rが一般式(2)で示される構造を示し、Rが水酸基を示す。一般式(2)中のRは一価の炭化水素基であり、Rは一価の炭化水素基または水素原子であり、nは0または1または2または3である。前記m及びnのいずれか一方は1または2または3である。]

【請求項2】
請求項1に記載の製法方法で得られた着色剤及び水性媒体を含有することを特徴とする水性顔料分散体の製造方法
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は各種インクの製造に使用可能な着色剤及び水性顔料分散体に関する。
【背景技術】
【0002】
インクとしては、例えば着色剤と、有機溶剤や水等の溶媒とを含有するものが知られており、前記着色剤として顔料を含有する顔料インクが広く使用されている。
【0003】
しかし、顔料は、通常、一次粒子径がサブミクロン以下の大きさであって凝集しやすいものであるため、前記顔料インクに含まれる顔料が経時的に凝集し、長期間にわたり良好な分散安定性を維持できない場合があった。
【0004】
前記溶媒中で凝集しにくく、長期間にわたり良好な分散安定性を備えたインクとしては、例えば顔料、分散剤および水性媒体からなる筆記具用水性インキ組成物において、前記分散剤が親水性部分と親油性部分を併有する重合体であり、水性媒体が不揮発性の親水性有機溶剤を含有する筆記具用水性インキ組成物が知られている(例えば特許文献1参照。)。
【0005】
しかし、前記特許文献1に記載のインクでは、インクの浸透性の高い記録媒体(例えば普通紙等)に印刷した場合に、光学濃度の高い画像等を形成することができない場合があった。
【0006】
インクやその原料である水性顔料分散体中における顔料の分散性を向上させるためには、通常、顔料に分散性を付与することのできる分散樹脂の使用量を増加させる方法がある。しかし、前記分散樹脂の使用量を増加させると、相対的に顔料の含有量が減少するため、とりわけ浸透性の高い記録媒体に印刷される画像等の光学濃度が著しく低下する場合があった。
【0007】
すなわち、インク中における顔料等の着色剤の分散性の向上と、普通紙等に形成された画像等の光学濃度の向上とは、トレードオフの関係にあるため、これらをより一層高いレベルで両立した着色剤等はいまだ見出されていなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開昭54-10023号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明が解決しようとする課題は、水や有機溶剤等の溶媒中における分散性に優れ、かつ、光学濃度の高い画像等の記録を形成可能なインクの製造に使用可能な着色剤及び水性顔料分散体を提供することである。
【0010】
本発明は、下記一般式(1)で示される構造を有する化合物(A)、及び、前記化合物(A)が有する加水分解性シリル基またはシラノール基と反応性を有する官能基(b)を有する顔料(B)との反応物を含有することを特徴とする着色剤に関するものである。
【0011】
【化1】
【0012】
[一般式(1)中のRは二価の飽和炭化水素基または二重結合もしくは三重結合を有する二価の不飽和炭化水素基であり、Rは一価の炭化水素基であり、Rは一価の炭化水素基または水素原子であり、mは0または1または2または3であり、Rが一般式(2)で示される構造を示し、Rが水酸基または一般式(2)で示される構造を示す。一般式(2)中のRは一価の炭化水素基であり、Rは一価の炭化水素基または水素原子であり、nは0または1または2または3である。前記m及びnのいずれか一方は1または2または3である。]
【発明の効果】
【0013】
本発明の着色剤は、水や有機溶剤等の溶媒中における分散性に優れ、かつ、光学濃度の高い画像等の記録を形成可能なインク等の製造に使用することができる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の着色剤は、下記一般式(1)で示される構造を有する化合物(A)、及び、前記化合物(A)が有する加水分解性シリル基またはシラノール基と反応性を有する官能基(b)を有する顔料(B)との反応物を含有することを特徴とする。
【0015】
【化2】
【0016】
[一般式(1)中のRは二価の飽和炭化水素基または二重結合もしくは三重結合を有する二価の不飽和炭化水素基であり、Rは一価の炭化水素基であり、Rは一価の炭化水素基または水素原子であり、mは0または1または2または3であり、Rが一般式(2)で示される構造を示し、Rが水酸基または一般式(2)で示される構造を示す。一般式(2)中のRは一価の炭化水素基であり、Rは一価の炭化水素基または水素原子であり、nは0または1または2または3である。前記m及びnのいずれか一方は1または2または3である。]
【0017】
(化合物(A))
前記着色剤に使用する化合物(A)としては、下記一般式(1)で示される構造を有する化合物(A)を使用する。
【0018】
【化3】
【0019】
[一般式(1)中のRは二価の飽和炭化水素基または二重結合もしくは三重結合を有する二価の不飽和炭化水素基であり、Rは一価の炭化水素基であり、Rは一価の炭化水素基または水素原子であり、mは0または1または2または3であり、Rが一般式(2)で示される構造を示し、Rが水酸基または一般式(2)で示される構造を示す。一般式(2)中のRは一価の炭化水素基であり、Rは一価の炭化水素基または水素原子であり、nは0または1または2または3である。前記m及びnのいずれか一方は1または2または3である。]
【0020】
前記化合物(A)は、前記顔料(B)に反応することで、着色剤に優れた分散安定性を付与する。前記化合物(A)であれば、前記顔料(B)に対する前記化合物(A)の使用量が、従来の分散樹脂の使用量と比較して少ない場合であっても、水性媒体に対する優れた分散性を付与することができる。
【0021】
前記化合物(A)は、前記顔料(B)の質量に対して1質量%~5質量%の範囲で使用することが好ましく、2質量%~3質量%の範囲で使用することが、水性媒体中においてより一層分散性に優れ、かつ、インクの浸透性の高い記録媒体(例えば普通紙等)に対して光学濃度の高い画像を形成可能なインクや水性顔料分散体の製造に使用可能な着色剤を得るうえでより好ましい。
【0022】
前記化合物(A)としては、下記一般式(1)及び(2)で示される構造を有するものを使用する。
【0023】
【化4】
【0024】
[一般式(1)中のRは二価の飽和炭化水素基または二重結合もしくは三重結合を有する二価の不飽和炭化水素基であり、Rは一価の炭化水素基であり、Rは一価の炭化水素基または水素原子であり、mは0または1または2または3であり、Rが一般式(2)で示される構造を示し、Rが水酸基または一般式(2)で示される構造を示す。一般式(2)中のRは一価の炭化水素基であり、Rは一価の炭化水素基または水素原子であり、nは0または1または2または3である。前記m及びnのいずれか一方は1または2または3である。]
【0025】
前記化合物(A)は、前記一般式(1)中のRまたはRが結合したカルボニル基を構成する炭素原子と、一般式(2)中の硫黄原子とが結合した構造を有する。
【0026】
前記一般式(1)中のRである二価の飽和炭化水素基としては、好ましくは炭素原子数3~12、より好ましくは炭素原子数3~8の二価の飽和炭化水素基が挙げられ、より具体的には、プロピレン基、イソプロピレン基、ブチレン基、イソブチレン基、tert-ブチレン基、ペンチレン基、ネオペンチレン基、ヘキシレン基、オクチレン基等のアルキレン基、シクロヘキシレン基等のシクロアルキレン基等が挙げられる。前記二価の飽和炭化水素基としては、前記飽和炭化水素基を構成する水素原子の一部または全部がハロゲン原子等で置換された官能基であってもよい。
【0027】
また、前記一般式(1)中のRである二重結合もしくは三重結合を有する二価の不飽和炭化水素基としては、好ましくは、炭素原子数3~12、より好ましくは炭素原子数3~8の二価の飽和炭化水素基が挙げられ、より具体的には、プロペニレン基、ブテニレン基、ヘキセニレン基等のアルケニレン基、プロピニレン基、ブチニレン基、オクチニレン基等のアルキニレン基等が挙げられる。前記二価の不飽和炭化水素基としては、前記不飽和炭化水素基を構成する水素原子の一部または全部がハロゲン原子等で置換された官能基であってもよい。
【0028】
前記Rとしては、前記したなかでも二価の飽和炭化水素基であることが好ましく、前記炭素原子数3~8の二価の飽和炭化水素基のなかでもプロピレン基であることがより好ましい。
【0029】
前記一般式(1)中のRである一価の炭化水素基としては、好ましくは炭素原子数1~10、より好ましくは炭素原子数1~6の一価の炭化水素基が挙げられ、具体的には、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、tert-ブチル基、ペンチル基、ネオペンチル基、ヘキシル基、オクチル基等のアルキル基、シクロヘキシル基等のシクロアルキル基、ビニル基、アリル基、プロペニル基等のアルケニル基、フェニル基、トリル基、キシリル基、ナフチル基等のアリール基、ベンジル基、フェニルエチル基、フェニルプロピル基等のアラルキル基などが挙げられ、メチル基、エチル基、フェニル基であることが好ましい。
【0030】
前記一般式(1)中のRとしては、一価の炭化水素基または水素原子が挙げられる。前記Rを構成する一価の炭化水素基としては、例えばメチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、tert-ブチル基等のアルキル基等が挙げられ、炭素原子数1~4の一価の炭化水素基であることが好ましく、メチル基、エチル基であることが好ましい。
【0031】
前記一般式(1)中のRは、一般式(2)で示される構造を示すものである。また、前記一般式(1)中のRは水酸基または一般式(2)で示される構造を示すものである。
【0032】
前記化合物(A)としては、前記一般式(1)中のRが一般式(2)で示される構造であり、かつ、Rが水酸基であるものであることが、より一層優れた分散性を有する着色剤を得るうえで好ましい。
【0033】
前記一般式(2)中のRである一価の炭化水素基としては、好ましくは炭素原子数1~10、より好ましくは炭素原子数1~6の一価の炭化水素基が挙げられ、具体的には、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、tert-ブチル基、ペンチル基、ネオペンチル基、ヘキシル基、オクチル基等のアルキル基、シクロヘキシル基等のシクロアルキル基、ビニル基、アリル基、プロペニル基等のアルケニル基、フェニル基、トリル基、キシリル基、ナフチル基等のアリール基、ベンジル基、フェニルエチル基、フェニルプロピル基等のアラルキル基などが挙げられ、メチル基、エチル基、フェニル基であることが好ましい。
【0034】
前記一般式(2)中のRとしては、一価の炭化水素基または水素原子が挙げられる。前記Rを構成する一価の炭化水素基としては、例えばメチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、tert-ブチル基等のアルキル基等が挙げられ、炭素原子数1~4の一価の炭化水素基であることが好ましく、メチル基、エチル基であることが好ましい。
【0035】
前記化合物(A)としては、前記一般式(1)中のR及びRの構造に由来の加水分解性シリル基またはシラノール基のいずれか一方または両方を有するものを使用する。前記加水分解性シリル基は、加水分解することによってシラノール基を形成し、これが、後述する顔料(B)が有する官能基(b)と反応し結合を形成する。
【0036】
前記化合物(A)としては、前記化合物(A)の全体に対して加水分解性シリル基またはシラノール基を合計1モル~10モル有するものを使用することが好ましく、1モル~5モル有するものを使用することがより好ましく、1モル~2モル有するものを使用することが、水等の溶媒中における優れた分散性を備えた着色剤を得るうえでより好ましい。前記化合物(A)の加水分解性シリル基及びシラノール基は、前記化合物(A)中に1個以上有するものを使用し、2個~3個有するものを使用することが好ましい。
【0037】
また、前記化合物(A)としては、前記Rが水酸基である場合に一般式(1)中に形成されるカルボキシル基を1モル~10モル有するものを使用することが好ましく、1モル~5モル有するものを使用することが、水等の溶媒中における優れた分散性を備え、かつ、普通紙等に対して光学濃度の高い画像を形成可能な着色剤を得るうえでより好ましい。
【0038】
前記化合物(A)としては、前記一般式中のmが0または1または2または3であり、nが0または1または2または3であり、かつ、前記m及びnのいずれか一方が1または2または3である化合物を使用する。なかでも、前記化合物(A)としては、前記nが2または3である化合物を使用することが好ましく、nが3であるものを使用することが、顔料(B)と反応しやすく、顔料に良好な分散性等を付与するうえでより好ましい。
【0039】
前記化合物(A)としては、下記一般式(3)で示される化合物と下記一般式(4)で示される化合物との反応物を使用することが好ましい。
【0040】
【化5】
【0041】
【化6】
【0042】
[一般式(3)中のRは二価の飽和炭化水素基または二重結合もしくは三重結合を有する二価の不飽和炭化水素基であり、Rは一価の炭化水素基であり、Rは一価の炭化水素基または水素原子であり、mは0または1または2または3であり、Rが一般式(2)で示される構造を示し、Rが水酸基または一般式(4)で示される構造を示す。一般式(4)中のRは一価の炭化水素基であり、Rは一価の炭化水素基または水素原子であり、nは0または1または2または3である。前記m及びnのいずれか一方は1または2または3である。]
【0043】
前記一般式(3)中のR、R及びRは、前記一般式(1)中のR、R及びRとして例示したものとそれぞれ同様のものを使用することができる。
【0044】
前記一般式(3)で示される化合物としては、トリメトキシシリルプロピル(無水)コハク酸を使用することが好ましい。
【0045】
また、前記一般式(4)中のR及びRは、前記一般式(2)中のR及びRとして例示したものとそれぞれ同様のものを使用することができる。
【0046】
前記一般式(4)で示される化合物としては、具体的には、トリメトキシシリルプロピルメルカプタン、トリエトキシシリルプロピルメルカプタン、メチルジメトキシシリルプロピルメルカプタン、メチルジエトキシシリルプロピルメルカプタン等を使用することができ、トリエトキシシリルプロピルメルカプタンを使用することが、水溶解性を向上させるうえでより好ましい。
【0047】
(顔料(B))
本発明の着色剤を構成する前記反応物の製造に使用する顔料(B)としては、前記化合物(A)が有する加水分解性シリル基またはシラノール基と反応し得る官能基(b)を有するものを使用する。
【0048】
前記顔料(B)としては、無機顔料または有機顔料のうち、前記化合物(A)が有するシラノール基と反応し得る官能基(b)を有する顔料を使用することができる。
【0049】
前記顔料(B)が有する官能基(b)としては、例えば水酸基、カルボキシル基等が挙げられ、なかでも水酸基が、前記化合物(A)が有するシラノール基に対する反応性に優れるため好ましい。
【0050】
前記顔料(B)としては、例えばカーボンブラックであれば、従来知られるコンタクト法、ファーネス法、サーマル法などの公知の方法によって製造されたものを使用することができる。
【0051】
前記顔料(B)としては、予め前記官能基(b)を有する顔料を使用することもでき、また、任意の顔料に官能基(b)を導入することによって得られた顔料を使用することもできる。
【0052】
前記顔料(B)のうち、例えばカーボンブラックとしては、官能基(b)として水酸基やカルボキシル基等の官能基を有するカーボンを使用することができる。前記カーボンとしては、例えば酸性を示すカーボンブラックを使用することができる。前記酸性カーボンブラックとしては、具体的には、三菱化学株式会社製の#970、#1000、#1000N、#2350、#2650、MA7、MA77、MA8、MA11、MA100、MA100R、MA100S、MA230、MA14、MA220、オリオンエンジニアドカーボンズ社製ガスブラック製法のPRINTEXシリーズ、COLOUR BLACKシリーズ、NEROXシリーズ、SPECIAL BLACKシリーズ、NIPex150、160IQ、170IQ、180IQ、旭カーボン株式会社製のSUNBLACKシリーズなどが挙げられる。
【0053】
なかでも、前記カーボンブラックとしては、水や有機溶剤等の溶媒中における分散性に優れ、かつ、光学濃度の高い画像等の記録を形成可能なインクの製造に使用できる着色剤を得るうえで、三菱化学株式会社製のMAシリーズなどのpHが4.5以下のカーボンブラックを使用することが好ましい。
【0054】
またカーボンブラックとしては、一次粒子径が20~40nm、DBP吸油量が50~120cm/100gであるものが好ましい。
【0055】
本発明の着色剤は、前記化合物(A)、及び、前記顔料(B)との反応物を含有する。
【0056】
前記反応物は、前記化合物(A)が有する加水分解性シリル基またはシラノール基のいずれか一方または両方と、前記顔料(B)が有する官能基(b)との反応物である。
【0057】
前記反応物としては、前記化合物(A)と前記顔料(B)との合計質量に対する前記化合物(A)の質量が0.001~0.5の範囲であるものを使用することが好ましく、0.01~0.13の範囲であるものを使用することが、より一層優れた分散性と、普通紙に対する発色濃度をより一層向上させるうえで好ましい。なお、前記顔料(B)が有する官能基(b)は、全て前記化合物(A)が有する官能基と反応してもよく、前記反応物中に残存してもよい。
【0058】
本発明の着色剤としては、前記着色剤の全量に対して0.1質量%~100質量%の範囲で前記反応物を含むものを使用することが好ましく、50質量%~100質量%の範囲で含むものを使用することがより好ましく、90質量%~100質量%含むものを使用することがさらに好ましく、100質量%含むものを使用することが、未反応物や副生成物の含有量が少なく、優れた分散性を維持した着色剤を得るうえで特に好ましい。
【0059】
前記化合物(A)と前記顔料(B)との反応は、例えば溶媒の存在下、前記化合物(A)と前記顔料(B)とを混合し、必要に応じて分散機を用いて分散させた後、その分散体を乾燥させることによって行うことができる。具体的には、前記反応は、前記乾燥後または乾燥過程で進行させることができる。
【0060】
前記反応物を製造する際に使用可能な溶媒としては、例えば水を単独で使用してもよく、水と水溶性溶媒とを含む混合溶媒を使用することができる。
【0061】
前記水溶性溶媒としては、例えば、アセトン、メチルエチルケトン、メチルブチルケトン、メチルイソブチルケトン、等のケトン類;メタノール、エタノール、2-プロパノール、2-メチル-1-プロパノール、1-ブタノール、2-メトキシエタノール、等のアルコール類;テトラヒドロフラン、1,4-ジオキサン、1,2-ジメトキシエタン等のエーテル類;ジメチルホルムアミド、N-メチルピロリドン等のアミド類が挙げられ、とりわけ炭素原子数が3~6個のケトン及び炭素原子数が1~5個のアルコールからなる群から選ばれる1種以上を用いることが好ましい。
【0062】
前記反応物を製造する際に使用可能な分散機としては、例えば二本ロールミル、三本ロールミル、ボールミル、ペブルミル、ヘンシェルミキサー、コボルミル、トロンミル、サンドミル、サンドグラインダー、セグバリアトライター、高速インペラー分散機、高速ストーンミル、高速度衝撃ミル、ディスパー、高速ミキサー、ホモジナイザー、超音波分散機等が挙げられる。なかでも、前記分散機としては、超音波分散機を使用することが、短時間で顔料(B)の濡れ性を向上させる効果を得るうえで好ましい。
【0063】
前記反応物を製造する際の乾燥方法としては、例えば熱風乾燥法、減圧乾燥法、スチームチューブドライヤー、通気乾燥法、減圧下マイクロ波乾燥法、噴霧乾燥法、気流乾燥法、撹拌乾燥法、凍結乾燥法などが利用できる。前記乾燥温度は、前記化合物(A)と顔料(B)とを脱水縮合反応させる場合であれば、かかる反応が起こる80℃~200℃の範囲あることが好ましい。
【0064】
本発明では、前記方法で得られた反応物を含む本発明の着色剤を、後述する水性媒体に分散させることによって水性顔料分散体を製造することができる。
【0065】
前記水性顔料分散体の製造に使用可能な水性媒体としては、例えばイオン交換水、限外濾過水、逆浸透水、蒸留水等の純水または超純水を用いることができる。また、前記水としては、紫外線照射または過酸化水素の添加などにより滅菌した水を使用することが、水性顔料分散体やインク等を長期保存する場合にカビまたはバクテリアの発生を防止することができるため好ましい。
【0066】
また、前記水性媒体としては、前記水の他に、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコールなどのグリコール類;ブタンジオール、ペンタンジオール、ヘキサンジオールおよびこれらと同族のジオールなどのジオール類;ラウリン酸プロピレングリコールなどのグリコールエステル;ジエチレングリコールモノエチル、ジエチレングリコールモノブチル、ジエチレングリコールモノヘキシルの各エーテル、プロピレングリコールエーテル、ジプロピレングリコールエーテル、およびトリエチレングリコールエーテルを含むセロソルブなどのグリコールエーテル類;メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、1-プロパノール、2-プロパノール、1-ブタノール、2-ブタノール、ブチルアルコール、ペンチルアルコール、およびこれらと同族のアルコールなどのアルコール類;あるいは、スルホラン;γ-ブチロラクトンなどのラクトン類;N-(2-ヒドロキシエチル)2-ピロリジノンなどのラクタム類;グリセリンおよびその誘導体、ポリオキシエチレンベンジルアルコールエーテルなど、水溶性有機溶剤として知られる他の各種の溶剤などを挙げることができる。これらの水溶性有機溶剤は1種または2種以上混合して用いることができる。
【0067】
なかでも、前記水性媒体としては、2-ピロリジノンを使用することが、より一層分散性に優れた着色剤を得るうえで好ましく、トリエチレングリコールやグリセリン等の湿潤性を有するものを使用することが、溶媒の揮発等を抑制するうえで好ましい。
【0068】
前記水性顔料分散体を製造する際に、前記着色剤と前記水性媒体等の溶媒とを混合する方法としては、二本ロールミル、三本ロールミル、ボールミル、ペブルミル、ヘンシェルミキサー、コボルミル、トロンミル、サンドミル、サンドグラインダー、セグバリアトライター、高速インペラー分散機、高速ストーンミル、高速度衝撃ミル、ディスパー、高速ミキサー、ホモジナイザー、超音波分散機等が挙げられる。なかでも、前記分散機としては、超音波分散機を使用することが、着色剤である前記反応物の1次粒子を傷つけず、親水性や分散性をより一層向上させるうえで好ましい。
【0069】
また、本発明の水性顔料分散体としては、前記反応物及び水性媒体のほかに必要に応じて添加剤を含有するものを使用することができる。
【0070】
前記添加剤としては、例えば表面張力調整剤、防腐剤、粘度調整剤、pH調整剤、キレート化剤、可塑剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤等を使用することができる。
【0071】
本発明の水性顔料分散体は、後述するインクや塗料の製造に使用するものである。前記水性顔料分散体は、水性顔料分散体の全量に対して前記着色剤に含まれる前記反応物を0.075質量%~1質量%の範囲で含有するものを使用することが好ましい。
【0072】
上記方法で得られた本発明の水性顔料分散体は、各種インクや塗料等の製造に使用することができる。
【0073】
(印刷方法)
前記水性顔料分散体を含有する塗料またはインクを用いた印刷方法としては、例えばロールコーター、グラビアコーター、フレキソコーター、エアドクターコーター、ブレードコーター、エアナイフコーター、スクイズコーター、含浸コーター、トランスファロールコーター、キスコーター、キャストコーター、スプレイコーター、ダイコーター、オフセット印刷機、スクリーン印刷機、インクジェット印刷等を用いる方法が挙げられる。
【0074】
前記インクジェット印刷法で使用されるインクには、その他の印刷法で使用されるインクと比較してより一層高いレベルの分散安定性が求められる。本発明の着色剤を含有するインクは、非常に優れた分散安定性を有することから、インクジェット印刷法で使用されるインクとして好適に使用することができる。
【0075】
また、インクジェット印刷法のうち、一般に、シングルパス方式といわれるインク吐出ヘッドを備えた印刷方法では、より一層高いレベルの分散安定性を備えたインクが求められる。本発明の着色剤を含有するインクは、非常に優れた分散安定性を有することから、シングルパス方式のインク吐出ヘッドを備えたインクジェット印刷法で使用されるインクとしても好適に使用することができる。
【0076】
前記インクジェット印刷方式としては、従来公知の方式がいずれも使用できる。例えば圧電素子の振動を利用して液滴を吐出させる方法(電歪素子の機械的変形によりインク滴を形成するインクジェットヘッドを用いた記録方法)や熱エネルギーを利用する方法が挙げられる。また印刷方法としても特に限定はない。
【0077】
本発明の着色剤を含有する塗料やインクによって印刷が施される基材(印刷媒体)としては、特に限定されることはなく、紙、コート紙、インクジェット記録用専用紙の他、曲面や凹凸した不規則な形状を有するような、プラスチック成形体等を使用することができる。
【0078】
前記プラスチック成形体としては、例えば食品包装用フィルム等として使用される熱可塑性樹脂フィルムが挙げられる。前記熱可塑性樹脂フィルムとしては、例えばポリエチレンレテフタレート(PET)フィルム、ポリスチレンフィルム、ポリアミドフィルム、ポリアクリロニトリルフィルム、ポリエチレンフィルム(LLDPE:低密度ポリエチレンフィルム、HDPE:高密度ポリエチレンフィルム)やポリプロピレンフィルム(CPP:無延伸ポリプロピレンフィルム、OPP:二軸延伸ポリプロピレンフィルム)等のポリオレフィンフィルム、ポリビニルアルコールフィルム、エチレン-ビニルアルコール共重合体フィルムが挙げられる。
【0079】
前記紙としては、例えば普通紙が挙げられる。本発明の塗料及びインクに含まれる前記着色剤は、一般にインク等の吸収性が高い普通紙の表面に付着しやすいため、優れた光学濃度の印刷物を得ることができる。
【実施例
【0080】
以下、実施例により、本発明をさらに詳しく説明する。
【0081】
(実施例1 着色剤(VT-1))
トリメトキシシリルプロピル無水コハク酸(前記一般式(3)中のRが炭素原子数3のアルキレン基、Rがメチル基、nが3である化合物)0.75モルと、トリメトキシシリルプロピルメルカプタン(前記一般式(4)中のRがメチル基、nが3の化合物)0.25モルとの反応物の水溶液(有効成分30質量%)を用意した。
【0082】
次に、前記反応物の水溶液4質量部と、「MA11」(三菱化学株式会社製、酸性カーボンブラック、pH3.0、水酸基を有する。走査型電子顕微鏡観察による算術平均径である一次粒子径29nm)20.0質量部と、水76.0質量部とを、ステンレス製容器に入れ、冷却しながらHielscher社製の超音波ホモジナイザーUP200St(最大出力200W、周波数20kHz)を用いて3分間超音波分散処理を行った。前記方法で得られた分散液を120℃に設定した乾燥機に入れ、5時間乾燥させることによって、着色剤(VT-1)(固形分100質量%)を得た。
【0083】
(実施例2 着色剤(VT-2))
トリメトキシシリルプロピル無水コハク酸(前記一般式(3)中のRが炭素原子数3のアルキレン基、Rがメチル基、nが3である化合物)0.75モルと、トリメトキシシリルプロピルメルカプタン(前記一般式(4)中のRがメチル基、nが3の化合物)0.25モルとの反応物の水溶液(有効成分30質量%)を用意した。
【0084】
次に、前記反応物の水溶液4質量部と、4.0質量部と、「MA77」(三菱化学株式会社製、酸性カーボンブラック、pH3.0、水酸基を有する、走査型電子顕微鏡観察による算術平均径である一次粒子径23nm)20.0質量部と、水76.0質量部とを、ステンレス製容器に入れ、冷却しながらHielscher社製の超音波ホモジナイザーUP200St(最大出力200W、周波数20kHz)を用いて3分間超音波分散処理を行った。前記方法で得られた分散液を120℃に設定した乾燥機に入れ、5時間乾燥させることによって、着色剤(VT-2)(固形分100質量%)を得た。
【0085】
(実施例3 水性顔料分散体(1))
前記着色剤(VT-1)15質量部、水70質量部、「2-ピロール」(ISP社製の2-ピロリジノン)14.6質量部、34質量%水酸化カリウム水溶液0.4質量部をステンレス製容器に入れたのちに冷却しながらHielscher社製の超音波ホモジナイザーUP200St(最大出力200W、周波数20kHz)で3分間超音波分散処理して水性顔料分散体(1)を調製した。
【0086】
(実施例4 水性顔料分散体(2))
前記着色剤(VT-2)15質量部、水70質量部、「2-ピロール」(ISP社製の2-ピロリジノン)14.7質量部、34質量%水酸化カリウム水溶液0.4質量部をステンレス製容器に入れたのちに冷却しながらHielscher社製の超音波ホモジナイザーUP200St(最大出力200W、周波数20kHz)で3分間超音波分散処理して水性顔料分散体(2)を調製した。
【0087】
(比較例1 水性顔料分散体(H1))
「MA11」(三菱化学株式会社製、酸性カーボンブラック、pH3.0、水酸基を有する)15質量部、水70質量部、「2-ピロール」(ISP社製の2-ピロリジノン)15.0質量部をステンレス製容器に入れたのちに冷却しながらHielscher社製超音波ホモジナイザーUP200St(最大出力200W、周波数20kHz)で3分間超音波分散処理して水性顔料分散体(H1)を調製した。
【0088】
(比較例2 水性顔料分散体(H2))
「MA11」(三菱化学株式会社製、酸性カーボンブラック、pH3.0、水酸基を有する)15質量部、ジョンクリル683(BASF社製アクリル樹脂)を5質量部、水62.9質量部、「2-ピロール」(ISP社製の2-ピロリジノン)14.7質量部、34質量%水酸化カリウム水溶液2.4質量部をステンレス製容器に入れたのちに冷却しながらHielscher社製の超音波ホモジナイザーUP200St(最大出力200W、周波数20kHz)で3分間超音波分散処理して水性顔料分散体(H2)を作製した。
【0089】
[体積平均粒子径及び粘度変化による分散安定性の評価]
水性顔料分散体(1)、(2)、(H1)及び(H2)をそれぞれポリエチレン容器に密封し、60℃雰囲気下に28日間保存した。前記保存前と保存後の水性顔料分散体中の分散物の体積平均粒子径を測定した。
【0090】
測定にはナノトラックUPA-150EX(日機装株式会社)を使用した。
【0091】
また、前記保存前と保存後の水性顔料分散体の粘度を測定した。測定にはViscometerTV-20(東機産業株式会社)を使用した。
【0092】
【表1】
【0093】
[実施例5]
水性顔料分散体(1)と水とを、顔料濃度が4質量%になるように混合することによってインクを得た。
[実施例6]
水性顔料分散体(2)と水とを、顔料濃度が4質量%になるように混合することによってインクを得た。
[比較例3]
水性顔料分散体(H1)と水とを、顔料濃度が4質量%になるように混合することによってインクを得た。
[比較例4]
水性顔料分散体(H2)と水とを、顔料濃度が4質量%になるように混合することによってインクを得た。
【0094】
[光学濃度(OD値)]
前記インクを、ワイヤーバー#3を用いてPPC用紙(普通紙)に塗布した。前記塗布物を30分間自然乾燥した後、塗布部の光学濃度(OD値)を測定した。測定には「Gretag Macbeth Spectro Scan Transmission」(X-Rite社)を使用した。
【0095】
【表2】