(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-01-06
(45)【発行日】2022-01-20
(54)【発明の名称】水性粘着剤及び粘着シート
(51)【国際特許分類】
C09J 133/02 20060101AFI20220113BHJP
C08K 3/28 20060101ALI20220113BHJP
C08K 5/17 20060101ALI20220113BHJP
C08K 5/50 20060101ALI20220113BHJP
C09J 7/38 20180101ALI20220113BHJP
C09J 11/06 20060101ALI20220113BHJP
C09J 11/08 20060101ALI20220113BHJP
C08L 33/02 20060101ALI20220113BHJP
【FI】
C09J133/02
C08K3/28
C08K5/17
C08K5/50
C09J7/38
C09J11/06
C09J11/08
C08L33/02
(21)【出願番号】P 2017240600
(22)【出願日】2017-12-15
【審査請求日】2020-12-08
(73)【特許権者】
【識別番号】000002886
【氏名又は名称】DIC株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100177471
【氏名又は名称】小川 眞治
(74)【代理人】
【識別番号】100163290
【氏名又は名称】岩本 明洋
(74)【代理人】
【識別番号】100149445
【氏名又は名称】大野 孝幸
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 浩司
(72)【発明者】
【氏名】辻川 敦子
【審査官】牟田 博一
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-63746(JP,A)
【文献】特開2007-56415(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L、C09J
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
カルボキシ基を有するアクリル重合体(A)、塩基性化合物(B)、有機リン化合物(C)
、水性媒体(D)
及び粘着付与剤(E)を含み、
前記塩基性化合物(B)の沸点が、25℃以下であり、
前記有機リン化合物(C)が第3級ホスフィン化合物及び第4級ホスフィン化合物の少なくとも一方を含む
樹脂組成物と、架橋剤(F)とを含み、
前記架橋剤(F)が少なくともエポキシ架橋剤を含むことを特徴とする
粘着剤組成物。
【請求項2】
前記樹脂組成物のpHが9以下である請求項1記載の
粘着剤組成物。
【請求項3】
前記有機リン化合物(C)の25℃の水に対する溶解度が、1質量%以上である請求項1又は2記載の
粘着剤組成物。
【請求項4】
前記有機リン化合物(C)の含有量が、前記アクリル重合体(A)100質量部に対して、0.01質量部以上10質量部以下である請求項1~3のいずれか一項記載の
粘着剤組成物。
【請求項5】
請求項
1~4いずれか一項記載の粘着剤組成物の硬化物層を有する粘着シート。
【請求項6】
請求項
5記載の粘着シートを含む電子機器。
【請求項7】
請求項
5記載の粘着シートを含む自動車内装部材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水性粘着剤及び粘着シートに関する。
【背景技術】
【0002】
自動車、建材、OA、家電などの各種工業用途において、各種製品内部の部品間の固定等のために、粘着シートが用いられている。こうした粘着シートとしては、主に、溶液重合型のアクリル系樹脂を主成分とした粘着剤が用いられている。例えば、特許文献1には、(メタ)アクリル酸エステルを主単量体成分とする水分散型アクリル系粘着剤により粘着剤を形成した粘着シートが記載されている(特許文献1ご参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、従来の粘着剤では、低沸点の塩基性化合物を用いているため硬化の均一性が十分でない場合があり、その結果、特に接着時の乾燥温度を高めた場合に、被着体の反発力に耐えうる耐反発性が低下する場合があった。本発明は、前記事情に鑑みてなされたものであり、粘着層における硬化の均一性を高めることにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
通常、反応速度を低くすると、反応の進行が調整され、硬化の均一性が高められる場合が多いが、本発明者らが検討した結果、低沸点の塩基性化合物を用いた場合には、特定の有機リン化合物を併用することで、硬化の均一性を高めることができ、もって接着時の乾燥温度を高めた場合にも耐反発性を維持できることを見出して、本発明を完成した。
【0006】
すなわち本発明は、カルボキシ基を有するアクリル重合体(A)、塩基性化合物(B)、有機リン化合物(C)及び水性媒体(D)を含み、前記塩基性化合物(B)の沸点が、25℃以下であり、前記有機リン化合物(C)が第3級ホスフィン化合物又は第4級ホスフィン化合物であることを特徴とする樹脂組成物を用いる。
【発明の効果】
【0007】
本発明の樹脂組成物は、粘着剤に用いた場合、硬化の均一性が高く、その結果、接着時の乾燥温度を高めた場合にも耐反発性を維持することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】
図1は、耐反発性測定用の試料の模式図を表す。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明の樹脂組成物は、カルボキシ基を有するアクリル重合体(A)(以下、単に「アクリル系単量体(A)」という場合がある。)、塩基性化合物(B)、有機リン化合物(C)及び水性媒体(D)を含む。
【0010】
前記アクリル重合体(A)は、カルボキシ基を有するものであり、好ましくはカルボキシ基を有するビニル単量体(a1)及び(メタ)アクリル酸エステル(a2)を含む単量体混合物の重合体であることが好ましい。
なお本発明において、「(メタ)アクリル」とは、アクリル及び/又はメタクリルを表し、「(メタ)アクリレート」とは、アクリレート及び/又はメタクリレートを表すものとする。
【0011】
前記カルボキシ基を有するビニル単量体(a1)としては、1種又は2種以上を用いることができ、例えば、(メタ)アクリル酸等の不飽和モノカルボン酸;(メタ)アクリル酸β-カルボキシエチル、2-(メタ)アクリロイルプロピオン酸等のモノカルボン酸の(メタ)アクリルエステル;クロトン酸、イタコン酸、マレイン酸、フマル酸、フタル酸、サクシン酸等の不飽和ジカルボン酸;前記不飽和ジカルボン酸のハーフ(メタ)アクリル酸エステル;前記不飽和ジカルボン酸の無水物;前記不飽和ジカルボン酸のカルボキシ基の少なくとも1つに(メタ)アクリロキシアルキル基(好ましくは(メタ)アクリロキシエチル基)が付加した化合物などが挙げられる。中でも、不飽和モノカルボン酸が好ましく、アクリル酸が特に好ましい。
【0012】
前記カルボキシ基を有するビニル単量体(a1)の含有量は、後述する(メタ)アクリル酸エステル(a2)100質量部に対して、好ましくは0.1質量部以上、より好ましくは0.5質量部以上、さらに好ましくは1質量部以上であり、好ましくは10質量部以下、より好ましくは7質量部以下、さらに好ましくは5質量部以下である。
【0013】
前記(メタ)アクリル酸エステル(a2)としては、1種又は2種以上を用いることができ、例えば、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸n-プロピル、(メタ)アクリル酸イソプロピル、(メタ)アクリル酸n-ブチル、(メタ)アクリル酸イソブチル、(メタ)アクリル酸t-ブチル、(メタ)アクリル酸n-ペンチル、(メタ)アクリル酸イソペンチル、(メタ)アクリル酸ネオペンチル、(メタ)アクリル酸ヘキシル、(メタ)アクリル酸ヘプチル、(メタ)アクリル酸n-オクチル、(メタ)アクリル酸2-エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸イソオクチル、(メタ)アクリル酸n-ノニル、(メタ)アクリル酸イソノニル、(メタ)アクリル酸n-デシル、(メタ)アクリル酸イソデシル、(メタ)アクリル酸ウンデシル、(メタ)アクリル酸ドデシル、(メタ)アクリル酸トリデシル、(メタ)アクリル酸テトラデシル、(メタ)アクリル酸n-オクタデシル、(メタ)アクリル酸イソオクタデシル等の脂肪族(メタ)アクリル酸エステル;(メタ)アクリル酸シクロヘキシル、(メタ)アクリル酸イソボルニル、(メタ)アクリル酸ジシクロペンタニル、(メタ)アクリル酸ジシクロペンテニル、(メタ)アクリル酸ジシクロペンテニルオキシエチル等の脂環式(メタ)アクリル酸エステルなどが挙げられる。
前記(メタ)アクリル酸エステル(a2)の(メタ)アクリロキシ基に置換する炭化水素基の炭素数は、好ましくは1以上であり、好ましくは20以下、より好ましくは14以下、さらに好ましくは10以下、特に好ましくは8以下である。
【0014】
中でも、前記(メタ)アクリル酸エステル(a2)は、炭素原子数4以上14以下(より好ましくは炭素原子数10以下、さらに好ましくは炭素原子数8以下)の直鎖状又は分岐鎖状アルキル基を有する(メタ)アクリレートを含むことが好ましく、n-ブチル(メタ)アクリレート、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレートを含むことがさらに好ましい。前記炭素原子数4以上14以下の直鎖状又は分岐鎖状アルキル基を有する(メタ)アクリレートとしては、炭素原子数4以上14以下の直鎖状又は分岐鎖状アルキル基を有するアルキルアクリレートが好ましい。
特に、前記アルキル基が分岐鎖状アルキル基である場合、その炭素原子数は12以上20以下であってもよい。直鎖状アルキル基の炭素原子数が多くなると(例えば12以上)結晶性が発現し、粘着性能が発現し難くなるが、分岐鎖状アルキル基であれば、炭素原子数が多くとも結晶性の発現が抑制されうる。
【0015】
また、前記(メタ)アクリル酸エステル(a2)は、炭素原子数1以上3以下(より好ましくは炭素原子数2以下)のアルキル基を有するアルキル(メタ)アクリレートを含むことが好ましく、メチル(メタ)アクリレートを含むことがより好ましい。前記炭素原子数1以上3以下のアルキル基を有する(メタ)アクリレートとしては、アルキルメタクリレートが好ましい。
【0016】
前記炭素原子数1以上3以下のアルキル基を有するアルキル(メタ)アクリレートの含有量は、前記炭素原子数4以上14以下のアルキル基を有する(メタ)アクリレート(a2)100質量部に対して、好ましくは1質量部以上、より好ましくは2質量部以上であり、好ましくは10質量部以下、より好ましくは7質量部以下である。
【0017】
前記(メタ)アクリル酸エステル(a2)の含有率は、前記単量体混合物の全量中、好ましくは50質量%以上、より好ましくは70質量%以上、さらに好ましくは90質量%以上であり、好ましくは99質量%以下、より好ましくは98質量%以下である。
【0018】
前記単量体混合物は、前記カルボキシ基を有するビニル単量体(a1)、(メタ)アクリル酸エステル(a2)以外のその他のビニル単量体(a3)を含んでいてもよい。
【0019】
前記その他のビニル単量体(a3)としては、1種又は2種以上を用いることができ、例えば、窒素官能基を有するビニル単量体、ヒドロキシ基を有するビニル単量体、ケト基を有するビニル単量体、シラン系ビニル単量体、リン酸基を有するビニル単量体等が挙げられる。
【0020】
前記窒素官能基は、窒素原子を含む官能基であり、前記窒素官能基を有する単量体としては、例えば、N-ビニルピロリドン、N-ビニルピペリドン、N-ビニルモルホリノン、N-ビニルカプロラクタム、N-シクロヘキシルマレイミド、N-ブチルマレイミド、N-フェニルマレイミド、N-(メタ)アクリロイルモルホリン、N-(メタ)アクリロイルピロリドン、N-(メタ)アクリロイルピペリジン、N-(メタ)アクリロイルピロリジン、N-(メタ)アクリロイル-4-ピペリドン等の環状アミド;(メタ)アクリロニトリル;(メタ)アクリルアミド、N,N-ジメチル(メタ)アクリルアミド、N,N-ジエチル(メタ)アクリルアミド、N-メチロール(メタ)アクリルアミド、N-メトキシメチル(メタ)アクリルアミド、N-ブトキシメチル(メタ)アクリルアミド、N,N-メチレンビス(メタ)アクリルアミド、N-イソプロピル(メタ)アクリルアミド、N,N-ジメチルアミノプロピル(メタ)アクリルアミド、ジメチルアミノプロピル(メタ)アクリルアミド等の置換(メタ)アクリルアミド;ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、ジメチルアミノプロピル(メタ)アクリレート、ジエチルアミノエチル(メタ)アクリレート、t-ブチルアミノエチル(メタ)アクリレート等のアミノ基含有(メタ)アクリレートなどが挙げられる。
【0021】
窒素官能基を有するビニル単量体を用いることによって、アクリル重合体中に窒素官能基を導入することができ、アクリル重合体に良好な凝集力を付与ことができる。特にカルボキシ基を有するビニル単量体と併用した場合、少量の使用でも優れた凝集力を付与することができる。
【0022】
前記ヒドロキシ基を有するビニル単量体としては、例えば、(メタ)アクリル酸2-ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸2-ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸4-ヒドロキシブチル、(メタ)アクリル酸1,4-シクロヘキサンジメタノール、ポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、グリセロールモノメタクリレート等が挙げられる。
【0023】
ヒドロキシ基を有するラジカル重合性官能基含有単量体を用いることによって、アクリル重合体中に水酸基を導入することができ、例えばイソシアネート架橋剤等のイソシアネート基との反応を促進でき、その結果、接着性や耐湿熱性、耐熱接着力等の粘着性能に優れた粘着剤層を形成しうる。ヒドロキシ基と反応する架橋剤を使用しない場合には、耐水性の観点からその使用量は、ラジカル重合性官能基含有単量体の全量に対して、1質量%未満が好ましく、より好ましくは0.1質量%未満、さらに好ましくは実質的に含まないことが好ましい。
【0024】
前記ケト基を有するビニル単量体としては、例えば、ダイアセトン(メタ)アクリルアミド等が挙げられる。
【0025】
前記シラン系ビニル単量体としては、例えば、3-(メタ)アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3-(メタ)アクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン等が挙げられる。
【0026】
前記リン酸基を有するビニル単量体としては、例えば、ポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレートのリン酸エステル(例えば、SIPOMER PAM-100(ローディア日華(株)製))等が挙げられる。
【0027】
前記その他のビニル単量体(a4)の含有率は、前記単量体混合物の全量中、好ましくは20質量%以下、より好ましくは10質量%以下、よりいっそう好ましくは5質量%以下、さらに好ましくは1質量%以下、よりさらに好ましくは0.1質量%以下、特に好ましくは0質量%である。
【0028】
前記カルボキシ基を有するアクリル重合体(A)は、前記単量体混合物を重合することにより製造することができる。前記重合方法としては、乳化重合法、溶剤重合法等が挙げられ、乳化重合法が好ましい。前記乳化重合の際、前記単量体混合物や重合開始剤は、水性媒体に一括仕込みしてもよく、滴下法等により供給してもよい。
前記重合開始剤としては、1種又は2種以上を用いることができ、例えば、アゾ開始剤;過硫酸アンモニウム等の過硫酸塩開始剤;過酸化水素等の過酸化物開始剤;芳香族カルボニル化合物等のカルボニル開始剤;過硫酸塩-還元剤、過酸化物-還元剤、鉄化合物-過酸化物等の組合せであるレドックス開始剤等を用いることができる。中でも、重合安定性及び、アクリル重合体(A)中の分岐構造を低減する観点から、アゾ開始剤、過硫酸塩開始剤が好ましい。
【0029】
前記アゾ開始剤としては、1種又は2種以上を用いることができ、例えば、2,2’-アゾビス[2-(2-イミダゾリン-2-イル)プロパン]二塩酸塩、2,2’-アゾビス[2-(2-イミダゾリン-2-イル)プロパン]二硫酸塩、2,2’-アゾビス[2-(2-イミダゾリン-2-イル)プロパン]、2,2’-アゾビスイソブチロニトリル、2,2’-アゾビス(2-アミジノプロパン)二塩酸塩、2,2’-アゾビス(2-メチルプロピオンアミジン)二塩酸塩、2,2’-アゾビス[N-(2-カルボキシエチル)-2-メチルプロピオンアミジン]ハイドレート、2,2’-アゾビス{2-[1-(2-ヒドロキシエチル)-2-イミダゾリン-2-イル]プロパン}二塩酸塩、2,2’-アゾビス(1-イミノ-1-ピロリジノ-2-メチルプロパン)二塩酸塩、2,2’-アゾビス{2-メチル-N-[1,1-ビス(ヒドロキシメチル)-2-ヒドロキシエチル]プロピオンアミド}、2,2’-アゾビス[2-メチル-N-(2-ヒドロキシエチル)プロピオンアミド]、2,2’-アゾビス[2-(5-メチル-2-イミダゾリン-2-イル)プロパン]二塩酸塩、2,2’-アゾビス(N,N’-ジメチレンイソブチルアミジン)等が挙げられる。
【0030】
前記過硫酸塩開始剤としては、1種又は2種以上を用いることができ、例えば、過硫酸カリウム、過硫酸ナトリウム、過硫酸アンモニウム等が挙げられ、過酸化物系開始剤としては、例えば、ベンゾイルパーオキサイド、t-ブチルハイドロパーオキサイド、t-ヘキシルパーオキシピバレート、過酸化水素等が挙げられる。
【0031】
前記レドックス開始剤に用いる還元剤としては、例えば、アスコルビン酸ナトリウム、エリソルビン酸ナトリウム、ピロ亜硫酸ナトリウム等が挙げられ、鉄化合物としては、例えば、塩化第二鉄等が挙げられる。
【0032】
前記重合開始剤の含有量は、単量体混合物の全量100質量部に対して、好ましくは0.005質量部以上、より好ましくは0.01質量部以上、さらに好ましくは0.02質量部以上であり、好ましくは5質量部以下、より好ましくは1質量部以下、さらに好ましくは0.5質量部以下である。使用量が多いほど発生するラジカル量が多くなり、反応性は向上するが耐水性の低下を招くほか、アクリル重合体が水素引き抜きによる分岐構造を有しやすくなるので使用量は少ないほど良い。
【0033】
前記重合の際、ラウリルメルカプタン、グリシジルメルカプタン、メルカプト酢酸、2-メルカプトエタノール、チオグリコール酸、チオグリコール酸2-エチルヘキシル、α-ピネン、β-ピネン、ターピノーレン、α―メチルスチレンダイマー等の連鎖移動剤を共存させてもよい。これらの連鎖移動剤は単独で用いても2種以上を併用してもよい。
連鎖移動剤を用いる場合、その使用量は、単量体混合物の全量100質量部に対して、好ましくは0.001質量部以上5質量部以下である。
【0034】
また、前記重合の際、アニオン性界面活性剤、ノニオン性界面活性剤、カチオン性界面活性剤、両イオン性界面活性剤、重合性界面活性剤等の界面活性剤を共存させてもよい。中でも、粘着剤の機械的安定性を向上する観点からアニオン性界面活性剤、耐水性を向上する観点から重合性界面活性剤を用いることが好ましい。
前記重合性界面活性剤としては、1種又は2種以上を用いることができ、例えば、アルキルアリルスルホコハク酸アンモニウム塩、アルキルアリルスルホコハク酸ナトリウム塩、ポリオキシエチレンノニルプロペニルフェニルエーテル硫酸エステルアンモニウム塩、ポリオキシエチレン-1-(アリルオキシメチル)アルキル硫酸エステルアンモニウム塩、ポリオキシアルキレンアルケニルエーテル硫酸エステルアンモニウム塩、α-スルホ-ω-(1-(ノニルフェノキシ)メチル-2-(2-プロペニルオキシ)エトキシ)-ポリ(オキシ-1,2-エタンジイル)アンモニウム塩、α-スルホ-ω-(1-(アルコキシ)メチル-2-(2-プロペニルオキシ)エトキシ)-ポリ(オキシ-1,2-エタンジイル)アンモニウム塩、ジ(メタクリル酸アルキル)フォスフェート、メタクリル酸エチレンオキサイド付加物硫酸エステルのナトリウム塩、ビス(ポリオキシエチレン多環フェニルエーテル)メタクリレート硫酸エステル塩、アルコキシポリエチレングリコールマレイン酸エステル、ポリオキシアルキレンアルケニルエーテル、2-ソディウムスルホアルキルメタクリレート等が挙げられる。
【0035】
重合性界面活性剤としては、市販品を用いてもよく、市販品としては、具体的には、ポリオキシエチレン構造と硫酸エステル構造と有する化合物を含む「ラテムルS-180」「S-180A」「PD-104」〔以上、花王株式会社製〕、「RS-3000」〔以上、三洋化成工業株式会社製〕、「アクアロンHS-5」「HS-10」「BC-5」「BC-20」「KH-05」「KH-10」「KH-1025」〔以上、第一工業製薬株式会社製〕、「アデカリアソープSE-10」「SE-20」「SR-10」「SR-1025」「SR-20」「SR-30」「SR-3025」〔以上、旭電化工業株式会社製〕、「アントックス MS-60」〔以上、日本乳化剤株式会社製〕等;硫酸エステル構造を有する「エレミノールJS-20」〔以上、三洋化成工業株式会社製〕、「アントックスMS-2N」〔以上、日本乳化剤株式会社製〕;リン酸基を有する「ニューフロンティアA-229E」〔以上、第一工業製薬株式会社製〕、「アデカリアソープPP-70」〔以上、旭電化工業株式会社製〕等;ポリオキシエチレン構造とカルボン酸基を有する化合物を含む「アントックスEMH-20」「LMH-20」「SMH-20」〔以上、日本乳化剤株式会社製〕等;非イオン性親水基を有する化合物を含む「アクアロンRN-10」「RN-20」「RN-30」「RN-50」〔以上、第一工業製薬株式会社製〕、「ラテムルPD-104」「PD-420」「PD-430」「PD-450」〔以上、花王株式会社製〕、「アデカリアソープER-10」「ER-20」「ER-30」「ER-40」〔以上、株式会社ADEKA製〕などが市販品として入手することができる。
【0036】
また、重合性界面活性剤としては、例えば、下記化学式(1)に示すようなカチオン性重合性界面活性剤を用いることもできる。
【0037】
【0038】
前記界面活性剤の使用量は、接着性、耐水性をより向上する観点から、単量体混合物の全量100質量部に対して、好ましくは0.1質量部以上であり、好ましくは5質量部以下、より好ましくは3質量部以下である。
【0039】
前記重合の際、必要に応じてpH緩衝剤を併用してもよい。pH緩衝剤としては、pH緩衝作用を有するものであれば特に制限されないが、例えば、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウム、リン酸一ナトリウム、リン酸一カリウム、リン酸二ナトリウム、リン酸三ナトリウム、酢酸ナトリウム、酢酸アンモニウム、蟻酸ナトリウム、ギ酸アンモニウム等が挙げられる。
【0040】
重合温度は、好ましくは20℃以上100℃以下である。特に、アゾ開始剤、過硫酸塩開始剤等の熱分解系開始剤を用いる場合、熱分解系開始剤の場合、重合温度としては、10時間半減期温度が反応温度内、または反応温度付近である熱分解系開始剤を選定することで反応をコントロールしやすくなり、反応終了時の未分解の残存開始剤量が少なくすることができる。
【0041】
得られた前記カルボキシ基を有するアクリル重合体(A)の重量平均分子量は、好ましくは接着性の観点から、10万以上、より好ましくは30万以上、さらに好ましくは50万以上であり、好ましくは200万以下、より好ましくは100万以下である。
本明細書において、重量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)を用い標準ポリスチレン換算して求めることができる。
乳化重合は溶剤重合と比較して、アクリル重合体の製造時に水素引き抜きによる分岐構造が生じ分岐しやすいが、分岐度合いやGPC測定の際の選択したカラムの種類によっては分子量が正しく測定されないことがある。このような場合はGPCによる分子量測定で高分子側にショルダーとして現れる。アクリル重合体の重量平均分子量は、GPC測定のピークが1山でかつ左右対称で上記分子量範囲にあることが好ましい。
【0042】
前記アクリル重合体(A)のガラス転移温度は、接着性の観点から、好ましくは-10℃以下、より好ましくは-30℃以下であり、好ましくは-70℃以上である。アクリル重合体(A)のガラス転移温度は、アクリル重合体(A)を示差走査熱量計(DSC)装置内に入れ、(Tg+50℃)まで昇温速度10℃/分で昇温した後、3分間保持し、その後急冷してえられた示差熱曲線から得られる中間点ガラス転移温度として求めることができる。
【0043】
前記カルボキシ基を有するアクリル重合体(A)の酸価は、好ましくは0.5mgKOH/g以上、より好ましくは3mgKOH/g以上であり、好ましくは40mgKOH/g以下、より好ましくは80mgKOH/g以下である。
【0044】
前記カルボキシ基を有するアクリル重合体(A)は、前記樹脂組成物において、粒子状に分散していることが好ましい。前記粒子の平均粒子径は、被着体に対して優れた接着力、とりわけ優れた投錨性を付与できる観点から、好ましくは50nm以上、より好ましくは100nm以上であり、好ましくは1000nm以下、より好ましくは500nm以下、さらに好ましくは400nm以下である。アクリル重合体の平均粒子径は、動的散乱法によって測定した体積基準での50%メジアン径を表す。平均粒子径は粒子径が小さいほど粘着シートの耐水性が向上するが水分散型アクリル重合体の粘度が上昇するので使用する固形分濃度を考慮して、平均粒子径を決定すればよい。
【0045】
前記樹脂組成物の固形分中、アクリル重合体(A)の含有率は、好ましくは50質量%以上、より好ましくは70質量%以上、さらに好ましくは75質量%以上であり、好ましくは99質量%以下、より好ましくは95質量%以下である。
【0046】
前記塩基性化合物(B)は、前記アクリル重合体(A)に含まれるカルボキシ基を中和し、前記アクリル重合体(A)を樹脂組成物中に安定に分散しうる。前記塩基性化合物(B)の沸点は、25℃以下である。低沸点の塩基性化合物(B)を用いることで、樹脂組成物の製造効率を高めることができる。前記塩基性化合物(B)の沸点は、好ましくは15℃以下、より好ましくは10℃以下、さらに好ましくは3℃以下である。
【0047】
前記塩基性化合物(B)としては、1種又は2種以上を用いることができ、例えば、アンモニア;メチルアミン等の第1級アミン;ジメチルアミン等の第2級アミンなどが挙げられる。中でも、アンモニア又は第1級アミンが好ましく、アンモニアが特に好ましい。
【0048】
前記塩基性化合物(B)の含有量は、樹脂組成物のpHが好ましくは9以下、より好ましくは8.5以下であり、好ましくは6以上、より好ましくは7.5以上、さらに好ましくは8.5以上となるよう用いればよい。
【0049】
本発明の樹脂組成物は、有機リン化合物(C)を含む。有機リン化合物(C)を用いることで、低沸点の塩基性化合物(B)を用いた場合にも、硬化の均一性を高めることができる。
前記有機リン化合物(C)の25℃の水に対する溶解度は、好ましくは1質量%以上、より好ましくは3質量%以上、さらに好ましくは5質量%以上である。溶解度が前記範囲にあることで、有機リン化合物を樹脂組成物中によりいっそう均一に混合することが容易となる。
【0050】
前記有機リン化合物(C)は、第3級ホスフィン化合物及び第4級ホスフィン化合物の少なくとも一方を含み、前記第3級ホスフィン化合物としては、1種又は2種以上を用いることができ、例えば、トリフェニルホスフィン、トリパラトリルホスフィン等のトリアリルホスフィン化合物;ジフェニルシクロヘキシルホスフィン、トリシクロヘキシルホスフィン等のトリシクロアルキルホスフィン化合物;トリアルキルホスフィン化合物などが挙げられる。前記第4級ホスフィン化合物としては、1種又は2種以上を用いることができ、例えば、水酸化テトラメチルホスホニウム、水酸化テトラエチルホスホニウム、水酸化テトラプロピルホスホニウム、水酸化テトラブチルホスホニウム、水酸化トリエチルメチルホスホニウム等の水酸化テトラアルキルホスフィン化合物など挙げられる。中でも、第4級ホスフィン化合物が好ましく、水酸化テトラアルキルホスフィン化合物が好ましい。
【0051】
前記有機リン化合物(C)中、第3級ホスフィン化合物及び第4級ホスフィン化合物の合計含有率は、好ましくは50質量%以上、より好ましくは80質量%以上、さらに好ましくは90質量%以上であり、上限は100質量%である。
【0052】
前記有機リン化合物(C)の含有量は、前記アクリル重合体(A)100質量部に対して、好ましくは0.01質量部以上、より好ましくは0.1質量部以上であり、好ましくは1質量部以下である。
【0053】
前記水性媒体(D)は、前記アクリル重合体(A)、前記塩基性化合物(D)、前記有機リン化合物(C)を分散しうる。前記水性媒体(D)としては、水、親水性有機溶剤、及び、これらの混合物が挙げられる。親水性有機溶剤としては、水と混和しうるものが好ましく、1種又は2種以上を用いることができ、例えば、メタノール、エタノール、n-プロパノール、イソプロパノール等のアルコール類;アセトン、メチルエチルケトン等のケトン類;エチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール等のアルキレングリコール類;ポリアルキレングリコールのアルキルエーテル類;N-メチル-2-ピロリドン等のラクタム類、等が挙げられる。前記水性媒体(D)は、少なくとも水を含むことが好ましく、水のみであることがより好ましい。
前記水性媒体(D)の含有量は、前記アクリル重合体(A)100質量部に対して、好ましくは30質量部以上であり、好ましくは70質量部以下である。
【0054】
前記樹脂組成物は、さらに、粘着剤層の接着力等を調整するため粘着付与剤(E)を含んでいてもよい。前記粘着付与剤(E)は、水分散型であることが好ましく、前記水分散型の粘着付与剤(E)としては、例えばロジン系、重合ロジン系、重合ロジンエステル系、ロジンフェノール系、安定化ロジンエステル系、不均化ロジンエステル系、テルペン系、テルペンフェノール系、石油樹脂系等の粘着付与剤を例示することができる。中でも、重合ロジンエステル系粘着付与樹脂、ロジンフェノール系粘着付与樹脂がアクリルとの相溶性が近く好ましい。また耐水性を向上させる観点から、重合阻害の少ない水添ロジンエステル等の粘着付与樹脂をラジカル重合性官能基含有単量体混合物に溶解したものを乳化重合する内添型にしても良い。
【0055】
前記水分散型の粘着付与樹脂としては、具体的には、重合ロジンエステル系粘着付与樹脂は、スーパーエステルE-650、スーパーエステルE-788、スーパーエステルE-786-60、スーパーエステルE-865、スーパーエステルE-865NT[以上、荒川化学工業(株)製]、ハリエスターSK-508、ハリエスターSK-508H、ハリエスターSK-816E、ハリエスターSK-822E、ハリエスターSK-323NS[以上、ハリマ化成(株)製]等が挙げられ、ロジンフェノール系粘着付与樹脂は、タマノルE-100、タマノルE-200、タマノルE-200NT[以上、荒川化学工業(株)製]等が挙げられる。水添型の粘着付与樹脂としては、具体的には、水添重合ロジン系粘着付与樹脂は、パインクリスタルKR-140[荒川化学工業(株)製]、水添ロジンエステル系粘着付与樹脂は、パインクリスタルKE-100、パインクリスタルKE-311、パインクリスタルKE-359、パインクリスタルPE-590、パインクリスタルKE-604以上、荒川化学工業(株)製]等が挙げられ、水添ロジン系粘着付与樹脂としては、パインクリスタルKR-85、パインクリスタルKR-612、パインクリスタルKR-614[以上、荒川化学工業(株)製]等が挙げられる。
【0056】
前記粘着付与剤(E)の軟化点は、好ましくは100℃以上、より好ましくは180℃以下である。
【0057】
前記樹脂組成物が前記粘着付与剤(E)を含む場合、その含有量は、アクリル重合体100質量部に対して、好ましくは10質量部以上であり、好ましくは100質量部以下、より好ましくは70質量部以下、さらに好ましくは40質量部以下である。粘着付与剤の含有量が前記範囲にあることで、粘着剤の硬度が適度であり、粘着性能が良好である。
【0058】
前記アクリル重合体(A)、塩基性化合物(B)、有機リン化合物(C)及び水性媒体(D)並びに必要に応じて用いる粘着付与剤(E)の混合順序は特に限定されず、前記アクリル重合体(A)、前記水性媒体(D)を予め混合し、次いで、必要に応じて用いる粘着付与剤(D)を混合した上で塩基性化合物(B)、有機リン化合物(C)を混合してもよく、前記アクリル重合体(A)、塩基性化合物(B)、有機リン化合物(C)及び水性媒体(D)を混合した後、粘着付与剤(E)を混合してもよい。
【0059】
前記樹脂組成物は、必要に応じて、顔料・染料等の着色剤、可塑剤、軟化剤、酸化防止剤、ガラスやプラスチック製の繊維・バルーン・ビーズ・金属粉末等の充填剤、皮膜形成補助剤、レベリング剤、濡れ剤、増粘剤(粘度調整剤)、撥水剤、消泡剤等の添加剤を含んでいてもよい。前記樹脂組成物が前記添加剤を含む場合、その含有量は、アクリル重合体100質量部に対して、好ましくは0質量部超1質量部以下である。
【0060】
本発明の樹脂組成物のpHは、好ましくは9以下、より好ましくは8.5以下であり、好ましくは6以上、より好ましくは7.5以上、さらに好ましくは8.5以上である。
【0061】
本発明の粘着剤組成物は、前記樹脂組成物と、架橋剤(F)とを含む。本発明の粘着剤組成物は、前記樹脂組成物と架橋剤(F)とを含む所謂2液系であることから、アクリル重合体(A)粒子の粒子内及び粒子間で架橋され、良好な粘着物性を発現することが可能である。一方、予め樹脂組成物中に架橋剤を含む1液系では、粒子間架橋が起きず、粒子内架橋のみであるため、150℃以上の高温条件で乾燥しない場合には、粘着シートを形成した後にも粒子形状が残ってしまう場合がある。
【0062】
前記架橋剤(F)としては、前記アクリル重合体(A)が有するカルボキシ基及び該カルボキシ基を前記塩基性化合物(B)とが形成するカルボン酸塩基と架橋反応しうる官能基を2個以上有するものを用いることができる。前記架橋剤(F)としては、少なくともエポキシ架橋剤を含むことが好ましい。エポキシ架橋剤を用いることで、高温高湿環境下に放置した場合であっても粘着力の低下を引き起こさないレベルの耐久性を付与でき、且つ基材として金属を用いた場合にも腐食を抑制しうる。前記エポキシ架橋剤としては、非水溶性エポキシ架橋剤が好ましい。
【0063】
前記エポキシ架橋剤としては、TETRAD-C、TETRAD-X[以上、三菱ガス化学(株)製]、Syna610、Syna721、Syna722、Syna720M、Syna500M[以上、Synasia製]等が挙げられ、前記アジリジン架橋剤としては、ケミタイトPZ-33[(株)日本触媒製]等が挙げられ、前記オキサゾリン架橋剤としては、エポクロスWS-700[(株)日本触媒製]等が挙げられる。
【0064】
架橋剤(F)は、さらに、エポキシ架橋剤以外の他の架橋剤を含んでいてもよい。前記他の架橋剤としては、イソシアネート架橋剤、アジリジン架橋剤、多価金属塩架橋剤、金属キレート架橋剤、ケト・ヒドラジド架橋剤、オキサゾリン架橋剤、カルボジイミド架橋剤、シラン架橋剤等が挙げられる。前記他の架橋剤の含有量は、架橋剤(F)の全量中、好ましくは10質量%以下、より好ましくは5質量%以下、さらに好ましくは1質量%以下である。
【0065】
前記架橋剤(F)の含有量は、前記アクリル重合体(A)100質量部に対して、好ましくは0.005質量部以上、より好ましくは0.01質量部以上、特に好ましくは0.5質量部以上であり、好ましくは1質量部以下、より好ましくは0.5質量部以下、特に好ましくは0.1質量部以下である。
【0066】
前記アクリル系粘着剤は、粘着シートの製造に使用することができる。
前記粘着シートとしては、例えばポリエチレンテレフタレートフィルム等の樹脂フィルムからなる中芯基材の片面または両面に、前記アクリル系粘着剤を用いて形成された粘着剤層を有する粘着シート、前記中芯基材を有さない前記粘着剤層によって構成される、いわゆる基材レスの粘着シートが挙げられる。
【0067】
前記粘着シートの製造方法としては、中芯基材の片面または両面に、ロールコーターやダイコーター等を用い、前記アクリル系粘着剤を塗布し、乾燥することによって製造する直接法や、予め離型ライナーの表面にロールコーターやダイコーター等を用い、前記アクリル系粘着剤を塗布し、乾燥することによって、粘着剤層を形成し、次に、前記粘着剤層を、中芯基材に貼り合わせる転写法が挙げられる。
【0068】
前記いずれの方法で製造した粘着シートも、その後、20℃~50℃の範囲で48時間以上養生することが、前記粘着剤層の架橋反応を進行させるうえで好ましい。
【0069】
前記養生後の粘着シートとしては、養生後の粘着剤層の質量と、それを、25℃の環境下、トルエンに24時間浸漬し、次いで105℃環境下で乾燥したものの質量とに基づいて算出したゲル分率が20質量%以上50質量%以下の範囲であることが、金属または金属酸化物からなる層(面)、ガラスに対しての接着力に優れた粘着剤層を形成するうえで好ましい。また養生前の粘着シートのゲル分率が10質量%以下であることが、粘着剤層が基材に接着しやすくなることから好ましい。
【0070】
本発明の樹脂組成物、粘着剤組成物及び粘着シートは、粘着剤に用いた場合、硬化の均一性が高く、その結果、接着時の乾燥温度を高めた場合にも耐反発性を維持することができる。そのため本発明の樹脂組成物、粘着剤組成物及び粘着シートは、自動車、OA、家電などの各種工業用途に好適に使用できる。
【実施例】
【0071】
以下、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明する。
【0072】
(合成例)
容器にイオン交換水75質量部と、界面活性剤としてアクアロンKH-1025[第一工業製薬(株)製;有効成分25質量%]20質量部と界面活性剤ラテムルPD-104[花王(株)製;有効成分20質量%]37.5質量部とを入れ、均一に溶解した。そこに、n-ブチルアクリレート232.5質量部、2-エチルヘキシルアクリレート232.5質量部、メチルメタクリレート25質量部、アクリル酸10質量部、ラウリルメルカプタン0.2質量部を加えて乳化し、乳化液632.7質量部を得た。
【0073】
攪拌機、還流冷却管、窒素導入管、温度計、滴下漏斗を備えた反応容器に、イオン交換水333.5質量部を入れ、窒素を吹き込みながら60℃まで昇温した。攪拌下、前記で調製した乳化液の一部[7.59質量部]、過硫酸アンモニウム水溶液2.5質量部[有効成分6質量%]、亜硫酸水素ナトリウム水溶液2.5質量部[有効成分6質量%]を添加し、60℃を保ちながら1時間で重合させた。引き続き、残りの乳化液625.11質量部と、過硫酸アンモニウム水溶液50質量部[有効成分1質量%]を別々の漏斗を使用して、反応容器を60℃に保ちながら6時間かけて滴下した。滴下終了後は、反応容器を60℃に保ちながら1時間攪拌した。次に、エリソルビン酸ナトリウム水溶液5質量部[有効成分2質量%]を別の漏斗を用いて1時間かけて滴下重合した後、反応容器を60℃に保ちながら1時間撹拌した。そして、内容物を冷却し、これを200メッシュ金網で濾過し、水分散型アクリル系重合体の水分散液(I)[固形分濃度50質量%]を得た。前記水分散型アクリル系重合体の重量平均分子量は70万であった。
【0074】
(実施例1)
<水分散型アクリル系粘着剤の製造>
前記水分散型アクリル系共重合体の水分散液(I)1000質量部に水酸化テトラブチルホスホニウムの10%水溶液15質量部を添加した後、アンモニア水及びアルカリ増粘型水分散型増粘剤ボンコート3750-E[DIC(株)製]でpH8.0、BM型粘度計によるローターM4の12rpmにおける粘度は12000mPa・sに調整した。粘着付与樹脂としてスーパーエステルE-865NT[荒川化学工業(株)製;エマルジョン型ロジンエステル系粘着付与樹脂[荒川化学工業(株)製;軟化点160℃、固形分濃度50質量%]100質量部、エマルジョン型ロジンフェノール系粘着付与樹脂タマノルE-200NT[荒川化学工業(株)製;軟化点150℃、固形分濃度51質量%]98質量部、レベリング剤としてサーフィノールPSA-336[エアー・プロダクツ・ジャパン(株)製]2.5質量部、消泡剤としてサーフィノールDF-110D[エアー・プロダクツ・ジャパン(株)製]2.5質量部を添加した。それらを混合した後、架橋剤として、テトラッドC[三菱瓦斯化学(株)製、エポキシ化合物]の10質量%エタノール溶液1.5質量部を添加し、1時間撹拌した。これを200メッシュ金網で濾過し、水分散型アクリル系粘着剤(1)を得た。
【0075】
<両面粘着テープの製造方法>
前記の水分散型アクリル系粘着剤(1)を架橋剤を配合したその日の内に離型処理した厚さ50μmのポリエステルフィルム上に、乾燥後の厚さが65μmになるように塗工して、100℃で3分間乾燥して得た粘着シートを、レーヨン不織布(坪量14g/m2)の両面に転写し、100℃の熱ロールで4kgf/cmの圧力でラミネートし、更に40℃2日エージングすることで両面テープ(1-A)を得た。また乾燥温度を100℃で3分間、更に110℃で5分間に変更した以外は上記と同様に両面テープを作成することで両面テープ(1-B)を得た。
【0076】
(実施例2)
水酸化テトラブチルホスホニウムの10%水溶液15質量部を、25質量部に変更した以外は、実施例1と同様の方法で、水分散型アクリル系粘着剤(2)、両面テープ(2-A)、(2-B)を得た。
【0077】
(比較例1)
水酸化テトラブチルホスホニウムの10%水溶液を添加しない以外は、実施例1と同様の方法で、水分散型アクリル系粘着剤(3)、両面テープ(3-A)、(3-B)を得た。
【0078】
(比較例2)
水酸化テトラブチルホスホニウムの10%水溶液15質量部を、ジエタノールアミン2.5質量部に変更した以外は、実施例1と同様の方法で、水分散型アクリル系粘着剤(4)、両面テープ(4-A)、(4-B)を得た。
【0079】
(比較例3)
比較例1で作成した水分散型アクリル系粘着剤(3)を40℃1週間保管し、水分散型アクリル系粘着剤(5)を、実施例1と同様の方法で両面テープを作成し、両面テープ(5-A)、(5-B)を得た。
【0080】
実施例1~2、比較例1~3で得られた両面テープについて、それぞれ、以下の評価を行った。評価結果を表1に示す。
【0081】
[ゲル分率の評価方法]
前記方法で作製した両面テープを縦20mm及び横100mmの大きさに切り取ったものを試験片とした。前記試験片から離型フィルムを除去した粘着剤層と支持体との合計質量を、精密天秤を用いて測定した(W1)。
次に、前記粘着剤層を50ccのトルエン中に24時間浸漬した後、取り出し、100℃の乾燥オーブン中で2時間乾燥した。乾燥後の粘着剤層の質量(W2)を、精密天秤を用いて測定した。
ゲル分率は、(質量(W2)-支持体の質量)/(質量(W1)-支持体の質量)×100に基づいて算出した。
【0082】
[ゲル分率保持率の評価方法]
異なる乾燥条件で作成された両面テープA、Bのゲル分率を下記式に代入しゲル分率保持率とした。
ゲル分率保持率=両面テープBのゲル分率÷両面テープAのゲル分率
なお、ゲル分率保持率が80%以上である場合に「○」と評価し、80%未満である場合に「×」と評価した。
【0083】
[定荷重保持力の評価方法]
前記方法で作製した両面テープを縦10mm及び横80mmの大きさに切り取ったものを試験片とした。23℃、湿度50%の雰囲気下で、試験片から片面の離型シートを除去し厚さ25μmのポリエステルフィルムを裏打ちし、残る片面の離型シートを除去し、その粘着剤層表面にポリプロピレン基材を載置し、その上部から5kgロール1往復の荷重をかけることにより、それらを貼り合わせた。40℃雰囲気下に1時間静置した後、90°の角度になるように300gの荷重をかけ、23℃・50%RHの雰囲気下にセットし、測定を開始した。60分後にずれた距離で評価し、60分未満で落下したものは、その時間を記録した。
なお、ずれた距離が10mm未満である場合に「○」と評価し、10mm以上20mm未満である場合に「△」と評価し、20mm以上である場合に「×」と評価した。
【0084】
[耐反発性の評価]
23℃・50%の環境下、両面粘着テープをECSウレタンフォーム(イノアック社製5mm厚み)に、2kgローラー1往復の加圧貼付を行い、24時間放置した。次いで、10mm幅に切断したサンプルを、貼付長さが10mmとなるように厚さ2mmのステンレス板を挟み込む状態で貼付し、ウレタンフォーム面を、2kgローラー1往復で加圧圧着し、1時間放置した。次いで、60℃・90%RHの環境下で3日間放置し、ステンレス板に貼付された両面粘着テープからウレタンフォームが剥がれた距離を測定した(
図1)。尚、耐反発性の評価は以下の基準で行った。
◎:ウレタンフォームと両面粘着テープが十分に密着した状態にあり、剥がれ距離が3mm未満であった。
○:ウレタンフォームと両面粘着テープに僅かに浮き剥がれは認められたが、3日経過後もウレタンフォームが両面粘着テープにより固定されていた。
△:60℃・90%RHの環境下にて1日経過後、3日以内にウレタンフォームと両面粘着テープが完全に剥離した。
×:60℃・90%RHの環境下に放置後1日以内にウレタンフォームと両面粘着テープが完全に剥離した。
【0085】
[臭気の評価方法]
前記方法で作製した両面テープを縦50mm及び横50mmの大きさに切り取ったものを試験片とした。片面の離型フィルムを除去した試験片をマヨネーズ瓶に入れ密閉し、60℃の雰囲気下に1時間静置後、23℃・湿度50%RH雰囲気下で15分間放冷した後、マヨネーズ瓶の蓋を開け、素早く臭いを嗅いで臭気を判定した。
なお、臭いがない場合に「◎」と評価し、臭いはあるが不快な臭いではない場合に「○」と評価し、不快な臭いの場合に「×」と評価した。
【0086】
【0087】
特定の塩基性化合物(B)及び有機リン化合物(C)を含む実施例1、2の粘着剤組成物は、いずれも、硬化の均一性が高く、その結果、接着時の乾燥温度を高めた場合にも耐反発性を維持することが可能であった。一方、特定の有機リン化合物(C)を含まない比較例1、3の粘着剤組成物は、硬化の均一性が十分でなく、その結果、接着時の乾燥温度を高めた場合に耐反発性を維持することが困難であった。また、特定の塩基性化合物(B)以外の塩基性化合物を用いた比較例2では、臭気が発生し、同時に、硬化の均一性が十分でなく、その結果、接着時の乾燥温度を高めた場合に耐反発性を維持することが困難であった。
【符号の説明】
【0088】
1 ステンレス板
2 ウレタンフォーム
3 サンプル