(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-01-06
(45)【発行日】2022-01-21
(54)【発明の名称】スラリーを輸送するポンプの選定方法
(51)【国際特許分類】
G01N 11/14 20060101AFI20220114BHJP
C22B 23/00 20060101ALI20220114BHJP
C22B 1/00 20060101ALI20220114BHJP
【FI】
G01N11/14 D
C22B23/00 102
C22B1/00 101
(21)【出願番号】P 2018113701
(22)【出願日】2018-06-14
【審査請求日】2021-02-16
(73)【特許権者】
【識別番号】000183303
【氏名又は名称】住友金属鉱山株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100123869
【氏名又は名称】押田 良隆
(72)【発明者】
【氏名】中谷 友昭
【審査官】外川 敬之
(56)【参考文献】
【文献】特開平08-277108(JP,A)
【文献】特開平11-333279(JP,A)
【文献】特表2008-533477(JP,A)
【文献】特表2015-522162(JP,A)
【文献】特開2009-173967(JP,A)
【文献】特開2005-350766(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2003/0136184(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 11/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
スラリーを輸送するポンプの選定方法であって、
前記スラリーが、液体成分と、90%以上が100μm以下の粒度分布を有する粒径が1.4mm以下の粒子のみで構成された固形成分からなり、
共軸二重円筒型粘度計により測定した前記スラリーの降伏応力値から下記式(1)を用いて算出した前記スラリーの粘度を用いて算定したポンプの必要動力を出力するポンプを選定することを特徴とするスラリーを輸送するポンプの選定方法。
【数1】
【請求項2】
前記固形成分が、ニッケル鉱石を解砕、分級して得られた粒子であることを特徴とする請求項1に記載のスラリーを輸送するポンプの選定方法。
【請求項3】
前記スラリーが、凝集剤を含有していることを特徴とする請求項1又は2に記載のスラリーを輸送するポンプの選定方法。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか1項に記載の前記ポンプの選定方法にて選定したポンプを用いてスラリーを輸送することを特徴とするニッケル酸化鉱石スラリーの輸送方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スラリーを輸送する方法、輸送されるスラリーの性質の測定方法、スラリーを輸送するポンプの設置方法に関するものであり、より詳しくは、金属水酸化物または金属酸化物等の固体粒子を含むスラリーについて、輸送に要する動力を求めたり、スラリーの性質を輸送の観点から安定化したり、輸送に適したポンプを設置したりする方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、ニッケル酸化鉱石から有価金属を回収する湿式製錬法として、硫酸を用いた高温加圧酸浸出法(High Pressure Acid Leach:以下、HPAL法と呼称する場合がある。)が利用されている。
このHPAL法は、例えば鉱石スラリーに硫酸を添加し、高温高圧下で浸出して、ニッケル及びコバルトを含む浸出液を得る浸出処理方法である。鉱石スラリーとしては、金属水酸化物や金属酸化物の形態のニッケル酸化鉱石を含有するスラリーが挙げられる。
【0003】
このHPAL法を適用した浸出工程と、得られた浸出液のpHを調整し、鉄等の不純物元素を含む中和澱物スラリーと浄液されたニッケル回収用母液を形成する中和工程と、及びそのニッケル回収用母液に硫化水素ガスを供給し、ニッケル・コバルト混合硫化物と貧液を形成する硫化工程とを含む製錬方法が行われている(例えば、特許文献1参照)。
この製錬方法では、浸出工程において、一般的に、鉱石スラリー中のニッケルやコバルトの90%以上が浸出される。そして、浸出液が分離された後に、中和法により浸出液中の不純物が分離除去され、ニッケル品位が55~60%、コバルト品位が3~6%程度であるニッケル・コバルト混合硫化物が得られ、ニッケル・コバルト製錬における中間原料として用いられる。
【0004】
ところで、上述した製錬処理等において用いられるニッケル酸化鉱石等の原料鉱石は、通常、鉱石処理に付されて製錬処理へ装入するために調製されて鉱石スラリーとなり、そしてその鉱石スラリーのかたちで浸出処理等において用いられる。
この原料鉱石の鉱石処理としては、具体的に、原料鉱石に対して解砕処理及び多段階からなる分級(篩分け)処理を施す解砕・分級段階と、スラリー中の固形成分を濃縮する鉱石スラリー濃縮段階とに大別される。
先ず、解砕・分級段階では、湿式設備による原料鉱石の解砕処理と、オーバーサイズの鉱石粒子や混入物を除去する分級処理が行われ、アンダーサイズの鉱石粒子と水からなる粗鉱石スラリーが製造される(例えば、特許文献2参照)。
【0005】
そして、ここで産出された粗鉱石スラリーには、過剰の水分が含まれているため、次の鉱石スラリー濃縮段階で、過剰に含まれた水分の除去が行われる(例えば、特許文献3参照)。この水分除去により、同じ移送量あたりの鉱石スラリーに含まれる鉱石成分が増加するため、プラント全体の操業効率を向上させるのに有効となる。
しかしながら、上述したような従来の鉱石処理では、投入される原料鉱石の粒度の変動や解砕処理における解砕度合い等により、鉱石粒子の大きさが変動したり、大小さまざまの鉱石粒子が並存したりする場合があり、その結果、得られる鉱石スラリーの粘度が高くなり過ぎる場合がある。
【0006】
同様に、後工程で化学反応によって発生する金属水酸化物や金属酸化物などの粒子も、粒子の大きさが変動したり、大小さまざまの粒子が並存したりする場合があり、その結果、得られるスラリーの粘度が高くなりすぎる場合がある。
この粘度を測定する技術として特許文献4があるが、塊状物があると一般に測定が難しいとしながらも、セメントペースト等のスラリーに適した粘度計が開示されている。
【0007】
ところが、金属製錬で扱うスラリーは、金属水酸化物や金属酸化物の重く硬い粒子を含有しているため、特許文献4の粘度計をもってしても粘度を正確に測定することが難しかった。
そのため、大きさが様々で重く硬い粒子を含有しているスラリーを輸送するには、スラリーの粘度を正確に測定できないと、輸送力が過大に大きなポンプが必要となる。そこで、多量のスラリーを処理するような製錬所では、輸送するスラリーに即した輸送力を有するポンプを備えるために、スラリーの粘度を精度よく測定することや、スラリーの粘度のばらつきを抑制することが求められていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開2005-350766号公報
【文献】特開2009-173967号公報
【文献】特開平11-124640号公報
【文献】特開昭58-225330号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、このような実情に鑑みて発明されたものであり、金属水酸化物や金属酸化物を粒子として含有するスラリーの粘度を精度よく測定し、そのようなスラリーの輸送に用いるポンプの選定において、所要輸送力の算定方法を新たに提供すると共に、その算定方法を基にスラリー輸送のための適正規模のポンプの選定方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上述した課題を達成するために鋭意検討を重ねた結果、スラリーの粘度の測定に適した簡素な粘度計を見出すと共に、その粘度計による粘度測定に適した形態のスラリー構成を見出し、粘度から所要輸送力を求める計算式の精度を高め、本発明の完成に至った。
【0011】
即ち、本発明の第1の発明は、固形成分と液体成分の混合体であるスラリーを輸送するポンプの選定方法であって、そのスラリーが、液体成分と、90%以上が100μm以下の粒度分布を有する粒径が1.4mm以下の粒子のみで構成された固形成分からなり、共軸二重円筒型粘度計により測定した、そのスラリーの降伏応力値から下記式(1)を用いて算出した、そのスラリーの粘度を用いて算定したポンプの必要動力を出力するポンプを選定することを特徴とするスラリーを輸送するポンプの選定方法である。
【0012】
【0013】
本発明の第2の発明は、第1の発明における固形成分が、ニッケル鉱石を解砕、分級して得られた粒子であることを特徴とするスラリーを輸送するポンプの選定方法である。
【0014】
本発明の第3の発明は、第1及び第2の発明におけるスラリーが、凝集剤を含有していることを特徴とするスラリーを輸送するポンプの選定方法である。
【0015】
本発明の第4の発明は、第1から第3の発明に記載のポンプの選定方法にて選定したポンプを用いてスラリーを輸送することを特徴とするニッケル酸化鉱石スラリーの輸送方法である。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、金属水酸化物や金属酸化物を粒子として含有するスラリーの粘度を精度よく測定することで、所要輸送力の実測値にきわめて近い予測値の算定を可能とし、その結果、生産規模及び設備に見合ったスラリー輸送力を提供可能なポンプの導入によって、設備コストを含む生産コスト及び生産効率の面から、効率的な操業を行うことを可能にするもので、工業上顕著な効果を奏するものである。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】本発明の粘度計測の原理を示す共軸二重円筒型粘度計の概略模式図である。
【
図2】従来の降伏応力の測定に用いたVane型粘度計の概略模式図である。
【
図3】ニッケル酸化鉱石の湿式製錬方法の工程図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の具体的な実施形態(以下、本実施の形態という。)について、図面を参照しながら以下の順序で詳細に説明する。
1.スラリーの降伏応力の測定方法
2.輸送力の算定方法
3.降伏応力の検証方法
4.金属製錬方法(ニッケル酸化鉱石の湿式製錬方法)
【0019】
<1.スラリーの降伏応力の測定方法>
本実施の形態に係るスラリーの降伏応力の測定方法は、金属水酸化物や金属酸化物を粒子として含有するスラリーの降伏応力を測定する方法である。スラリーとしては、破砕した鉱石を水溶液に懸濁したものや、水溶液にアルカリを添加して粒子を析出させたものが挙げられる。
【0020】
具体的に、本実施の形態に係るスラリー(評価物)の降伏応力の測定は、以下のように行う。
図1に示すような測定原理を有する外筒管2と内筒回転体1を備えた粘度計(一般に、共軸二重円筒型粘度計と称される)10において、評価物のスラリーを外筒管2に満たし、内筒回転体1の角加速度α[rad/s
2]を徐々に高めるようにモーター等で外力を加える。実際には、モーターの回転トルクT
+を打ち消す方向に、満たされたスラリーから内筒回転体1へ、粘性摩擦トルクT[Nm]がかかり、内筒回転体1が静止した状態がしばらく続く。その後、あるトルク以上の大きさで、そのスラリーがずり流動をおこし、内筒回転体1が回転し始める。このずり流動し始める時点で、T=T
+となり、このときのずり応力が降伏応力[Pa]である。
【0021】
このような共軸二重円筒型粘度計10ではスラリーによる粘性摩擦トルクTを観測し、スラリーの粘性摩擦抵抗に相当する「ずり応力S[Pa]」を下記(2)式により算出する。
従って、降伏応力τyは下記(3)式により求められる。なお、Rbは内筒回転体1の外径の1/2[m]、hは内筒回転体の長さ[m]である。
【0022】
【0023】
<2.輸送力の算定方法>
次に、本実施の形態に係る輸送力の算定方法では、上記スラリーの降伏応力の測定方法で求めた降伏応力から、輸送に必要な動力を以下のように計算する。
ここで、一般に鉱石スラリーは非ニュートン流体の中でもビンガム流動の特性を示すものであり、ビンガム流動の特性をもつ流体(以下ビンガム流体と称する)は、一般に、せん断速度が0[1/s]であるとき、降伏応力以上の外力を加えないと流動せず固体のような振舞いを示す。このビンガム流体に降伏応力以上の外力を加えると、流動化が始まり、流体としての性質を示すようになる。また一般に、ビンガム流体はせん断速度が大きくなればなるほど粘度が低下する、「シアシニング効果」と呼ばれる性質を有している。
【0024】
本発明では配管中でスラリーに作用するせん断速度による「シアシニング効果」の影響を正しく考慮するため、共軸二重円筒型粘度計で測定した降伏応力から、下記(4)式に示す換算式を用いて、配管中を流れる鉱石スラリーの見かけ粘度μ[Pa/s]を算出した。
【0025】
【0026】
ここで、τyは降伏応力[Pa]、τwは液面せん断応力[Pa]、Vは管内平均流速[m/s]、Dは配管内径[m]、Leは配管相当長[m]、ΔPは摩擦圧力損失[Pa]を表している。
次に、求めた見かけ粘度μと、鉱石スラリーの密度ρ[kg/m3]とを用いてレイノルズ数Reを下記(5)式により求める。
【0027】
【0028】
ここで、レイノルズ数は、流体が層流の状態か乱流の状態かを判別するための無次元数であり、水などのニュートン流体の場合は一般にRe=2000~2300が層乱流の閾値とされるが、ビンガム流体の場合はこの閾値が低くなる傾向にあり、本発明では閾値をRe=1000としている。
次に配管摩擦圧力損失ΔPfricを下記(6)式の「ダルシー・ワイスバッハの式」を用いて計算する。
【0029】
【0030】
ここで、λは摩擦係数とよばれ、層流の場合、λ=64/Reで解析的に求められているが、乱流の場合、解析的に求めることができないことから数々の実験式が提案されている。本発明では、乱流の場合、比較的粗い管内壁をもつ系に対して精度が良いとされる下記(7)式に示す「コールブルックの式」を用いてλを求める。
【0031】
【0032】
ここで、εは管内面の絶対粗度[mm]を表し、以上の計算式および手順により、摩擦圧力損失が求められる。
【0033】
次に、スラリーポンプの必要圧力と消費電力の計算手順を説明する。
ポンプに求められる必要エネルギーは、全必要圧力をPall、摩擦圧力損失をΔPFric、落差項をΔPh、速度項をΔPVとすると、下記(8)式により計算される。
【0034】
【0035】
ここで、ΔPh及び△PVは、それぞれ下記(9)式により求められる。ここでgは重力加速度[m/s2]、ΔHは揚程[m]である。
【0036】
【0037】
したがって、ポンプ必要軸動力Pax[W]は、ポンプの代表的性能を表す効率η1[%]を考慮して下記(10)式により計算される。
最後にポンプの消費動力の予想値Pm[W]は下記(11)式により計算される。
【0038】
【0039】
ここで、Qは流量[m3/hr]、eはポンプを設計する際に設定する余裕率[%]で、η2はモーターから軸に伝わるエネルギーの伝導効率である。
【0040】
次に、従来の降伏応力の測定について説明する。
図1に示す共軸二重円筒型粘度計10において、その内筒1に代わる回転体として、
図2に示すようなVane型と呼ばれる羽根型の回転体3を用いること以外は、これまで述べてきた
図1に示す粘度計を用いた場合と同様の操作を行い、得られた粘性摩擦トルクから、下記(12)式に従い、「ずり応力」を算出し、上記(4)式から「τ
y=S
0」として降伏応力が求められる。
図2において、Bは回転体(羽根)の全幅[m]、Lは回転体(羽根)の全長[m]、T
+は回転トルク[Nm]である。ずり流動し始める時点で粘性摩擦トルクT=T
+となる。
【0041】
【0042】
Vane型粘度計で測定された降伏応力値を、摩擦圧力損失やポンプ消費動力を求める際に必要な粘度μに換算する際、せん断速度によるシアシニング効果の影響に対して以下の近似的な計算を行う。この場合鉱石スラリーをニュートン流体と仮定し、管内壁面せん断速度γw[1/s]を下記(13)式により算出する。
【0043】
【0044】
さらに、一般にせん断応力はせん断速度に対して、ニュートン流体では一次線形比例で増加し、非ニュートン流体では非線形的に増加するが、従来法ではせん断速度によらずにせん断応力は一定(降伏応力値)と仮定し、下記(14)式の近似式により見かけ粘度μaを求め、このμaと前記(5)~(11)式とから、同じようにポンプの消費動力の計算値Pmを算出する。
【0045】
【0046】
<3.降伏応力の検証方法>
そして、降伏応力の検証方法では、上述した輸送力の算定方法による計算値を、ポンプの駆動によって実際に消費した輸送力の実測値と比較する。
これら2つの値が近ければ(たとえば、20%以内の差であれば近いとする。)、スラリーの粘度の測定方法が適切と判断し、輸送力の算定方法が適切と判断する。
【0047】
適切と判断された場合は、工場で想定される流量、高低差、配管長さ、配管の屈曲度合いなどを考慮して算定用パラメータを置き換え、所要の輸送力を算定する。算定した輸送力を発揮できる工業用ポンプを入手して据え付けることができる。工業用ポンプが既に設置してある場合も、必要十分な(たとえば輸送能力が算定した値の100~120%の)工業用ポンプに置き換えることができ、取り外した既設品をさらに適切な用途に再配置することができるので効果が大きい。
【0048】
適切と判断されない場合は、スラリーの粘度の測定方法で用いる回転体の形状を変更してやり直すが、回転体の形状としては、たとえばパドル形などの羽根を設けて、輸送力の比較時に差が小さくなるよう羽根の大きさを変更する。この際、羽根に傾斜をつけて傾斜角度も変更することができる。
【0049】
以上のように、比較は小型の試験用ポンプを用いて行うことができ、比較の精度が高いことを確認してから高価な工業用ポンプを入手すればよいから、工業用ポンプを無駄に何度も購入する必要がない。
【0050】
なお、粘度の誤差、そして輸送力の誤差を生じる要因として、スラリー中の固体粒子の分布のばらつきがある。そこで、固体粒子の分布のばらつきを安定させるため、スラリーには凝集剤を添加するとよい。凝集剤を添加したスラリーは、固体粒子が適度に凝集して2次粒子を形成しており、2次粒子の粒径がほぼ一定となるので、粘度が安定し、必要な輸送力も一定値をとる。
【0051】
<4.金属製錬方法(ニッケル酸化鉱石の湿式製錬方法)>
そこで、次に、上述した本発明に係るスラリーを輸送するポンプの選定に鉱石スラリーを用いた、HPAL法によりニッケル酸化鉱石からニッケル及びコバルトを回収する湿式製錬方法について説明する。
【0052】
図3に、ニッケル酸化鉱石の高温加圧酸浸出法による湿式製錬方法の工程図の一例を示す。
図3に示すように、ニッケル酸化鉱石の湿式製錬方法は、ニッケル酸化鉱石を解砕・分級し、スラリー中の固形成分を濃縮して鉱石スラリーを製造する鉱石スラリー製造工程S21と、得られた鉱石スラリーからニッケル及びコバルトを浸出する浸出工程S22と、得られた浸出スラリーから浸出液と浸出残渣とに固液分離する固液分離工程S23と、浸出液を中和しニッケル回収用の母液と中和澱物スラリーとに分離する中和工程S24と、母液である硫酸に硫化水素ガスを吹き込んで硫化反応を行い、ニッケルを含む硫化物と貧液とを得る硫化工程S25とを有する。以下、各工程についてより具体的に説明する。
【0053】
(鉱石スラリー製造工程)
鉱石スラリー製造工程S21では、まず、原料鉱石であるニッケル酸化鉱石を解砕し、所定の分級点で分級し、分級して得られたアンダーサイズの鉱石粒子と水からなる粗鉱石スラリーを製造する。そして、得られた粗鉱石スラリーから固液分離処理により水分を除去して固形成分(鉱石成分)を濃縮することによって、鉱石スラリーを製造する。
【0054】
より具体的には、
図4に示す本実施の形態に係る金属製錬方法における鉱石スラリー製造工程S21(S1~S3)では、原料鉱石を解砕し、所定の分級点で分級してオーバーサイズの鉱石粒子を除去し、アンダーサイズの鉱石粒子と水からなる粗鉱石スラリーを得る解砕・分級工程S1と、解砕・分級工程にて得られた粗鉱石スラリーの粒度を測定する粒度測定工程S2と、粗鉱石スラリーを固液分離装置に装入し、粗鉱石スラリーに含まれる水分を分離除去して鉱石成分を濃縮する鉱石スラリー濃縮工程S3を経ることで、本発明に係る所定の90%以上が100μm以下の粒度分布を有する粒径が1.4mm以下の粒子のみで構成された固形成分と液体成分とを有する鉱石スラリーを作製する。
【0055】
そして、この鉱石スラリー製造工程S21では、粒度測定工程S2にて測定された粗鉱石スラリーの粒度が所定値を下回った場合に、解砕・分級工程S1にて除去されたオーバーサイズの鉱石粒子の一部を、鉱石スラリー濃縮工程S3における固液分離装置に装入添加する。
【0056】
このような鉱石スラリーの製造工程S21によれば、スラリー粘度の上昇を抑制した鉱石スラリーを製造することができ、一般的な移送ポンプ等を用いて、移送不良等を生じさせることなく、次工程の浸出工程に効率的に移送することができる。
【0057】
鉱石スラリー製造工程S21にて製造する鉱石スラリーのスラリー濃度(固形成分濃度)としては、特に限定されるものではないが、15~45質量%になるように調製することが好ましい。
【0058】
(浸出工程)
鉱石スラリー製造工程S21にて得られた鉱石スラリーを本発明に係るポンプを介して浸出工程S22へ輸送し、浸出工程S22では、硫酸の添加、220~280℃の温度下で撹拌処理を行い、浸出液と浸出残渣とからなる浸出スラリーを形成する。浸出工程S22では、例えば高温加圧容器(オートクレーブ)が用いられる。
【0059】
具体的に、浸出工程S22においては、下記の式(A)~(E)で表される浸出反応と高温加水分解反応が生じ、ニッケル、コバルト等の硫酸塩としての浸出と、浸出された硫酸鉄のヘマタイトとしての固定化が行われる。ただし、鉄イオンの固定化は完全には進行しないため、通常、得られる浸出スラリーの液部分には、ニッケル、コバルト等の他に2価と3価の鉄イオンが含まれる。
【0060】
【0061】
浸出工程S22における硫酸の添加量は、特に限定されるものではなく、鉱石中の鉄が浸出されるような過剰量が用いられる。例えば、鉱石1トン当り300~400kgとする。鉱石1トン当りの硫酸添加量が400kgを超えると、硫酸コストが大きくなり好ましくない。
【0062】
(固液分離工程)
固液分離工程S23では、浸出工程S22で形成される浸出スラリーを多段洗浄して、ニッケル及びコバルトを含む浸出液と浸出残渣とを得る。
【0063】
固液分離工程S23における多段洗浄方法としては、特に限定されるものではないが、ニッケルを含まない洗浄液で向流に接触させる連続向流洗浄法(CCD法:Counter Current Decantation)を用いることが好ましい。これによって、系内に新たに導入する洗浄液を削減できるとともに、ニッケル及びコバルトの回収率を95%以上とすることができる。
【0064】
(中和工程)
中和工程S24では、固液分離工程S23にて分離された浸出液の酸化を抑制しながら、その浸出液のpHが4以下となるように炭酸カルシウムを添加し、ニッケル回収用の母液と3価の鉄を含む中和澱物スラリーとを形成する。中和工程S24では、このようにして浸出液の中和処理を行うことで、高温加圧酸浸出による浸出工程S22で用いた過剰の酸の中和を行うとともに、溶液中に残留する3価の鉄イオンやアルミニウムイオン等を除去する。
【0065】
中和工程S24において調整する浸出液のpHは、上述のように4以下とし、好ましくは3.2~3.8とする。浸出液のpHが4を超えると、ニッケルの水酸化物の発生が多くなる。
【0066】
また、中和工程S24においては、溶液中に残留する3価の鉄イオンの除去に際し、溶液中に2価として存在する鉄イオンを酸化させないことが好ましい。そのため、例えば空気の吹込み等による溶液の酸化を極力防止することが好ましい。これにより、2価の鉄の除去に伴う炭酸カルシウム消費量と中和澱物スラリーの生成量の増加を抑制することができる。すなわち、中和澱物スラリー量の増加による澱物へのニッケル回収ロスを抑えることができる。
【0067】
また、中和工程S24で得られる中和澱物スラリーを、必要に応じて固液分離工程S23へ送ることができる。これによって、中和澱物スラリーに含まれるニッケルを効果的に回収することができる。具体的には、中和澱物スラリーを、中和工程S24よりも低いpH条件で操業される固液分離工程S23へ繰返すことによって、中和澱物表面での局所反応により生成した水酸化ニッケルを溶解することができ、中和澱物の付着水を浸出液中に回収することもできる。よって、回収ロスとなるニッケル分を低減することができる。
【0068】
中和工程S24における反応温度としては、50~80℃程度とすることが好ましい。反応温度が50℃未満では、形成される3価の鉄イオンを含む中和澱物が微細となり、その分離が難しくなる。一方、反応温度が80℃を超えると、装置材料の耐食性が低下する。
【0069】
(硫化工程)
硫化工程S25では、中和工程S24において得られたニッケル回収用の母液である硫酸水溶液に硫化水素ガスを吹き込んで硫化反応を生じさせ、ニッケルを含む硫化物と貧液とを生成する。
【0070】
母液は、上述のように鉱石スラリーを浸出して得られた硫酸であり、中和工程S24を経て得られたものである。具体的には、例えば、pHが3.2~4.0で、ニッケル濃度が2~5g/L、コバルト濃度が0.1~1.0g/Lであり、また不純物成分として鉄、マグネシウム、マンガン等を含む硫酸である。不純物成分の含有量は、浸出の酸化還元電位、オートクレーブの操業条件、及び鉱石品位により大きく変化するが、一般的に鉄、マグネシウム、マンガンがそれぞれ数g/L程度含まれている。ここで、不純物成分は、回収するニッケル及びコバルトに対して比較的多く存在するが、鉄、マンガン、アルカリ金属、マグネシウム、及びその他のアルカリ土類金属は、硫化物としての安定性が低いので、生成する硫化物には含有されることはない。
【0071】
また、母液中に亜鉛が含まれる場合には、硫化反応によりニッケル等を硫化物として生成させる処理に先立って、亜鉛を硫化物として選択的に分離する処理を行うことができる。この亜鉛を選択分離する処理としては、添加する硫化剤を少量に制限することによって、亜鉛と比較して濃度の高いニッケルの共沈を抑制し、亜鉛を選択的に除去する。
【0072】
硫化工程S25においては、不純物含有の少ないニッケルを含む硫化物とニッケル濃度を低い水準で安定させた貧液とを生成して回収する。具体的には、硫化反応により得られた硫化物のスラリーをシックナー等の沈降分離装置を用いて沈降分離処理することによって、沈殿物である硫化物をシックナーの底部より分離回収し、水溶液成分である貧液はオーバーフローさせて回収する。なお、この貧液は、pHが1~3程度であり、硫化されずに残る鉄、マグネシウム、マンガン等の不純物元素を含んでいる。
【0073】
この硫化工程S25においては、平均粒径を所定の大きさ以上となるように調整したニッケルを含む硫化物(ニッケル硫化物)を種晶としてニッケル回収用の母液中に添加することもできる。これにより、硫化反応により生成した硫化物スラリーを沈殿物である硫化物と貧液とに分離する沈降分離処理に際して、オーバーフロー液中におけるニッケルを含む微細な浮遊固形分の含有量を低下させ、硫化物として沈殿形成するニッケル分を増加させ、ニッケルの回収ロスを低減させることができる。
【0074】
種晶となるニッケル硫化物の添加量としては、母液に含まれるニッケル量に対し、4~6倍のニッケル量に当たる添加量とすることが好ましい。これにより、反応容器内面への生成硫化物の付着を抑制することができるとともに、貧液中のニッケル濃度をより一層に低い水準で安定させることができる。
【0075】
また、この種晶として添加するニッケル硫化物は、硫化工程S25において生成され沈降分離処理を経て回収された後、平均粒径が所定の大きさ以上となるように分級処理などにより粒径調整された硫化物が好ましい。なお、必要に応じて、分級処理に先立ち、硫化物を粉砕する処理を行ってもよい。
【実施例】
【0076】
以下、実施例を用いて本発明を詳細に説明するが、本発明は下記の実施例に限定されるものではない。
【実施例1】
【0077】
産地Aのニッケル酸化鉱石と水とを混合してスラリーとした後に、含有される1.4mm以上の粒径を有する塊を除去して供試材となるスラリーAを作製した。スラリーAの固形成分濃度は42質量%であった。その得られたスラリーAの粘度を、レオシス社製の共軸二重円筒型の粘度計を用いて測定した。得られた見かけ粘度を用い、上記(4)~(10)式からスラリーAの降伏応力の計算値Pmを得た、
計算に際しては、鋼管の絶対粗度εを0.457mmと想定した。又、ポンプを設計する際に設定する余裕率e[%]をe=0とし、モーターから軸に伝わるエネルギーの伝導効率η2は95%として計算した。
【0078】
計算の結果、動力値の計算値Pmは68kwと算定された。
本発明に基づいてポンプを選定し、実際に稼働させたところ、その必要動力(実測値Pr)は61kwであり、予測値と非常によく一致する結果が得られた。
【実施例2】
【0079】
産地Bのニッケル酸化鉱を用いた以外は、実施例1と同様の操作を行った。
ポンプに必要な動力値の計算値Pmは55kwと算定された。本方法に基づいてポンプを選定し、実際に稼働させたところその必要動力(実測値Pr)は62kwであり計算値と非常によく一致した。
【実施例3】
【0080】
スラリーサンプルを採取する前に濃縮させるために凝集剤を加えた以外は、実施例1と同様の操作を行った。供試材となるスラリーの固形成分濃度は43質量%であった。ポンプに必要な動力は57kwと算定された。本方法に基づいてポンプを選定し、実際に稼働させたところその必要動力は63kwであり、計算値と非常に良い一致が得られた。
【0081】
(比較例1)
産地Aのニッケル酸化鉱を用い、その粘度の測定にVane型と呼ばれる粘度計(従来のもの)を用いて見かけ粘度を測定して降伏応力を計算した。
比較例1の方法で算定したポンプ動力は117kwであった。実際のポンプ動力を調査したところ、61kwであり、その動力の値は大きくかい離していた。
以上の実施例の結果を纏めて表1に示す。
【0082】
【0083】
(参考例1)
実施例1のスラリーAに粒径が1.4mmを超える粒子を添加して得た、スラリーの固形成分の90%以上が100μm以下の粒度分布を有するスラリーBを得た。このスラリーBを供試材とした点以外は実施例1と同じ条件で、粘度測定、ポンプ動力値算出及び実測値との比較を行った結果、計算値と実測値に比較例1程ではないが、実施例1~3よりも乖離が大きかった。
【産業上の利用可能性】
【0084】
本発明によれば、スラリーの粘度を精度よく測定して所要輸送力を算定できる算定方法を提供することができる。そして、このような算定方法によれば、必要最小限の輸送力のポンプでスラリーを移送することができ、効率的な操業を行うことを可能となる。特に、製錬所で広く取り扱われている鉱石スラリーや中和スラリー、金属水酸化物や金属酸化物を粒子として含有するスラリーに適している。
【符号の説明】
【0085】
1 内筒回転体
2 外筒管
3 Vane羽根型回転体
10 共軸二重円筒型粘度計
Rb 共軸二重円筒型粘度計の内筒半径
Rc 共軸二重円筒型粘度系の外筒半径
h 共軸二重円筒型粘度計の高さ
B Vane型粘度計の回転体(羽根)の全幅
L Vane型粘度計の回転体(羽根)の全長(高さ)
T+ Vane型粘度計の回転トルク