(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-01-06
(45)【発行日】2022-01-21
(54)【発明の名称】ウェーハの評価方法
(51)【国際特許分類】
H01L 21/66 20060101AFI20220114BHJP
G01N 3/42 20060101ALI20220114BHJP
【FI】
H01L21/66 L
G01N3/42 Z
(21)【出願番号】P 2019007530
(22)【出願日】2019-01-21
【審査請求日】2021-01-19
(73)【特許権者】
【識別番号】000190149
【氏名又は名称】信越半導体株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100102532
【氏名又は名称】好宮 幹夫
(74)【代理人】
【識別番号】100194881
【氏名又は名称】小林 俊弘
(72)【発明者】
【氏名】大槻 剛
【審査官】小池 英敏
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-111044(JP,A)
【文献】特開平8-31894(JP,A)
【文献】特開2003-318237(JP,A)
【文献】特表2010-517517(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/66
G01N 3/42
H01L 31/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ウェーハの表面から一定深さまでの表層部分の強度を評価するウェーハの評価方法であって、
前記表層部分に不純物を拡散させて前記表層部分にPN接合を形成する工程と、
前記PN接合を形成する前又は後において前記ウェーハの表面に所定の押し込み圧力を加えて前記表層部分に圧痕を形成する工程と、
前記ウェーハの表面に光を照射しながら前記圧痕の近傍における表面電位を測定する工程と、
前記測定された表面電位に基づいて前記ウェーハの表層部分の強度を評価する工程とを備えることを特徴とするウェーハの評価方法。
【請求項2】
前記PN接合を形成する工程は、
前記表層部分に前記ウェーハの導電型と同じ導電型のウェル領域を形成する工程と、
前記ウェーハの導電型と異なる導電型の不純物を前記ウェル領域内に拡散させる工程とを備えることを特徴とする請求項1に記載のウェーハの評価方法。
【請求項3】
前記表層部分に圧痕を形成する工程の後、前記表面電位を測定する工程の前に、前記ウェーハに対して熱処理を行う工程をさらに備えることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のウェーハの評価方法。
【請求項4】
前記表面電位を測定する工程は、前記圧痕に非接触電極を接近させることによって行うことを特徴とする請求項1ないし請求項3のいずれか1項に記載のウェーハの評価方法。
【請求項5】
前記表面電位を測定する工程は、前記光を照射しながら前記非接触電極を前記圧痕の周辺で動かすことによって行うことを特徴とする請求項4に記載のウェーハの評価方法。
【請求項6】
前記ウェーハは、ポリッシュドシリコンウェーハ、又はエピタキシャルシリコンウェーハであることを特徴とする請求項1ないし請求項5のいずれか1項に記載のウェーハの評価方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ウェーハ(単に、基板という場合がある)の評価方法、特に、シリコンウェーハの表層部分の強度を評価する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体集積回路用基板として、主にCZ(Czochralski)法 によって育成されたシリコンウェーハが用いられている。近年の最先端デバイスでは、フラッシュランプアニールやレーザーアニールに代表される短時間熱処理技術が使用され、熱処理によるストレスが大きくなることから、ウェーハの強度が非常に重要な因子である。さらに、Fin(フィン)構造やSTI(Shallow Trench Ioslation)構造などでは、構造端部の局所応力によって発生する微小な転位がデバイス特性を悪化させる問題が発生している。
【0003】
例えば、デバイス活性領域に発生した転位は、デバイスのリークやパターンずれの原因となる。従って、デバイス活性層、すなわち、ウェーハの表層部分に発生する転位の発生を抑制する必要があり、局所的な応力が発生しないようなデバイスパターンが工夫されている(コーナ部を丸めることや、ライナー層を挟み込みストレスを緩和するなど)。しかし、転位が発生してしまった場合は、その動きを抑制することが非常に重要である。このような理由から、ウェーハの表層部分の強度が高いウェーハが求められているとともに、ウェーハの表層部分の強度を評価することが重要となっている。
【0004】
このように、ウェーハの表層部分の強度を評価する方法が重要な技術の一つに挙げられている。 現在、よく用いられている方法は、例えば、インデンテーション法(例えば、特許文献1を参照)である。この方法では、押し込み圧力と押し込み探さの関係に基づいてウェーハの表層部分のヤング率と硬さを評価することができる。一方、塑性変形領域における評価法、例えば、転位の移動速度を測定する方法の一つにローゼット試験がある。このローゼット試験は、ウェーハの表面に押し込み圧力を加えて圧痕を形成した後、選択エッチングを行い、圧痕から生じた転位の長さ(ローゼット長さとも呼ぶ)を測定し、ローゼット長さから転位の移動速度を評価する(例えば、特許文献2を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開平5-281119号公報
【文献】特開2016-111044号公報
【非特許文献】
【0006】
【文献】Jpn. J.Appl. Phys. Vol. 40 (2001 ) pp.1240-1241
【文献】第60回応用物理学会春季学術講演会 講演予稿集 (2013春 神奈川工科大学) 29p-G16-13
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
前述のようなウェーハの表層部分における転位の移動の評価は、デバイス不良(例えば、リークやパターンずれ等)の発生を抑制し、デバイス作製の歩留まりを向上させるために、非常に重要である。しかし、特許文献1に記載されるウェーハの強度の評価方法は、評価値としては弾性率と硬さを使用しており、転位の移動に関しての評価ができないという問題がある。
【0008】
また、転位の移動速度に関しては、ウェーハ中に含まれる不純物により抑制されることが一般的に知られている(例えば、非特許文献1、及び非特許文献2を参照)。この不純物として、具体的には、酸素、窒素、炭素、ボロンが転位の移動に対して抑制効果があると言われている。非特許文献1では、不純物濃度がウェーハの深さ方向に一定である場合のローゼット試験の結果を記載している。このように、ローゼット試験は、ウェーハの表面の特性評価に有効であるが、そのために選択エッチングを行わなければならないという問題がある。
【0009】
そこで、これらの評価方法に変えて、光学的な手法で評価を行うことが出来れば、ウェーハの表層部分の強度の測定が正確かつ簡単になり、場合によっては、デバイスのスクライブライン等を利用した評価を行うことも可能になってくると思われる。
【0010】
本発明は、上記問題を解決するためになされたものであり、光学的手法によりウェーハの表層部分の強度を正確かつ簡単に評価することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成するために、本発明では、ウェーハの表面から一定深さまでの表層部分の強度を評価するウェーハの評価方法であって、前記表層部分に不純物を拡散させて前記表層部分にPN接合を形成する工程と、前記PN接合を形成する前又は後において前記ウェーハの表面に所定の押し込み圧力を加えて前記表層部分に圧痕を形成する工程と、前記ウェーハの表面に光を照射しながら前記圧痕の近傍における表面電位を測定する工程と、前記測定された表面電位に基づいて前記ウェーハの表層部分の強度を評価する工程とを備えることを特徴とするウェーハの評価方法を提供する。
【0012】
このようなウェーハの評価方法によれば、ウェーハの表面に光を照射しながら圧痕の近傍における表面電位を測定することによってウェーハの表層部分の強度を評価することができる。すなわち、ウェーハの表面に照射された光は、光電効果によりウェーハの表層部分においてキャリアを発生させる。当該キャリアは、PN接合によりウェーハの表面電位に影響を与える。このため、光により発生したキャリアとウェーハの表面電位と間には、一定の比例関係が成り立っている。
【0013】
一方、ウェーハの表層部分に形成される圧痕の程度(深さなど)は、ウェーハの表層部分の強度に依存する。また、当該圧痕から生じる転位により、光により発生したキャリアの再結合が生じる。このため、ウェーハの表面電位は、当該圧痕の程度に応じて変化することになる。従って、当該圧痕の近傍における表面電位を測定することで、当該圧痕から生じた転位によるキャリアの消滅具合(表面電位)から、ウェーハの表層部分の強度を評価することができる。
【0014】
このように、上記評価方法によれば、光学的手法によりウェーハの表層部分の強度を正確かつ簡単に評価することができる。
【0015】
また、PN接合を形成する工程は、表層部分にウェーハの導電型と同じ導電型のウェル領域を形成する工程と、ウェーハの導電型と異なる導電型の不純物をウェル領域内に拡散させる工程とを備えることが好ましい。
【0016】
これにより、評価対象となるウェーハの基板抵抗をウェル領域の形成により揃えた後にウェーハの表層部分にPN接合を形成することができ、結果として、PN接合による空乏層幅を一定として光電変換による表面電位(ウェーハの表層部分の強度)をより正確に評価することが可能になるからである。
【0017】
また、上記評価方法において、表層部分に圧痕を形成する工程の後、表面電位を測定する工程の前に、ウェーハに対して熱処理を行う工程をさらに備えることが好ましい。
この熱処理を行うことで、表層部分に形成された圧痕による転位を発生させてから、表面電位の測定を行うことが可能となり、ウェーハの表層部分の強度をより正確に評価することができる。
【0018】
また、上記評価方法において、表面電位を測定する工程は、圧痕に非接触電極を接近させることによって行うことが好ましい。
この非接触電極を用いることで、接触電極を用いる場合に比べて、当該電極をウェーハの表面上でスムーズに動かすことが可能となるため、ウェーハの表層部分の強度を高速かつ正確に評価することができる。
【0019】
また、上記評価方法において、表面電位を測定する工程は、光を照射しながら非接触電極を圧痕の周辺で動かすことによって行うことが好ましい。
これにより、ローゼット試験と同様に、圧痕により生じた転位の長さを測定することが可能になる。すなわち、ウェーハの表層部分の強度を正確かつ簡易に評価することができる。
【0020】
また、ウェーハは、ポリッシュドシリコンウェーハ、又はエピタキシャルシリコンウェーハとすることができる。
これらのウェーハにおいて、FIN構造、STI構造などの局所応力が発生し易い構造が採用される場合に、ウェーハの表層部分の強度の測定が必要となるからである。
【発明の効果】
【0021】
以上のように、本発明によれば、実デバイスに近いPN接合を持った領域も含めて、光学的手法によりウェーハの表層部分の強度を正確かつ簡単に評価することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】本発明の評価方法の例を示す測定模式図である。
【
図3】傷部分をスキャンして測定した、傷形状に対応した光起電力分布の例を示す図である。
【
図4】圧子圧力と表面起電力との関係を示す図である。
【
図5】酸素濃度とローゼット長さとの関係を示す図である。
【
図6】ローゼット長さと表面電位との関係を示す図である。
【
図7】酸素濃度と表面電位との関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
上述のように、本発明は、光学的手法によりウェーハの表層部分の強度を正確かつ簡単に評価することを主体とした発明である。
【0024】
ウェーハに、FIN構造、STI構造などの局所応力が問題となるような構造が頻繁に採用される近年において、ウェーハの強度を十分に確保することが重要となっている。このような状況の下、ウェーハの表層部分の強度を正確かつ簡単に評価することは、必要不可欠な技術である。しかし、従来は、特許文献1の技術のように、転位の移動が評価できないか、又はローゼット試験のように、転位の移動の評価が可能であるが、そのために、選択エッチングといった追加の工程が必要となる問題があった。
【0025】
このようなことから、ウェーハの表層部分の強度を正確かつ簡単に評価する手法の開発が求められていた。
【0026】
本発明者は、上記課題について鋭意検討を重ねた結果、ウェーハの表層部分にPN接合(フォトダイオード)を形成し、かつウェーハの表面に所定の押し込み圧力を加えて圧痕を形成することで、光電効果により圧痕の近傍における表面電位が当該圧痕の程度(ウェーハの表層部分の強度に相当)に応じて変化することを見出し、本発明を完成させた。
【0027】
すなわち、本発明は、ウェーハの表面から一定深さまでの表層部分の強度を評価するウェーハの評価方法であって、表層部分に不純物を拡散させて表層部分にPN接合を形成する工程と、PN接合を形成する前又は後においてウェーハの表面に所定の押し込み圧力を加えて表層部分に圧痕を形成する工程と、ウェーハの表面に光を照射しながら圧痕の近傍における表面電位を測定する工程と、測定された表面電位に基づいてウェーハの表層部分の強度を評価する工程とを備えることを特徴とするウェーハの評価方法である。
【0028】
以下、本発明の実施の形態について、添付した図面に基づいて具体的に説明するが、本発明は、これらに限定されるものではない。
【0029】
図1は、本発明の評価方法の例を示す。
本発明の評価方法の対象となるウェーハは、シリコン基板5と、シリコン基板5の表層部分に形成されるウェル領域4と、ウェル領域4内に形成される表面高濃度層3と、を備える。ウェル領域4の深さは、少なくともシリコン基板5の表層部分を含む深さ、すなわち、シリコン基板5の表面から一定深さ以上を有するものとする。
【0030】
ウェル領域4の導電型は、シリコン基板5の導電型と同じであり、表面高濃度層3の導電型は、シリコン基板5の導電型と異なる。すなわち、ウェル領域4と表面高濃度層3とによりPN接合(フォトダイオード)が形成される。例えば、シリコン基板5がP型(ボロンなどのP型不純物を含む単結晶シリコン基板)である場合、ウェル領域4も、P型であり、一方、表面高濃度層3は、N型(リン、ヒ素などのN型不純物を含む単結晶シリコン層)である。
【0031】
ウェル領域4は、基板抵抗を揃えることで、PN接合による空乏層幅を一定として光電変換による表面電位(シリコン基板5の表層部分の強度)をより正確に評価するために形成される。従って、後述する評価方法に示すように、PN接合の形成、すなわち、ウェル領域4と表面高濃度層3の形成は、シリコン基板5の表面に所定の押し込み圧力を加えて圧痕を形成する前であってもよいし、又はその後であってもよい。
【0032】
なお、シリコン基板5としては、ポリッシュドシリコンウェーハ、エピタキシャルシリコンウェーハなどである。また、本例では、シリコン基板5を対象とするが、PN接合を形成できるウェーハ(基板)であれば、シリコン基板5に限られることはない。
【0033】
次に、本発明の評価方法を説明する。
【0034】
まず、シリコン基板5の表層部分に不純物を拡散させて当該表層部分にPN接合を形成する(ステップST1)。
【0035】
ここで、シリコン基板5は、P型であると仮定する。この場合、シリコン基板5の表層部分には、例えば、ボロンを拡散させることで、当該表層部分にP型のウェル領域4を形成する。続けて、シリコン基板5の表層部分には、例えば、リンを拡散させることで、当該表層部分にN型の表面高濃度層3を形成する。
【0036】
次に、ステップST1でPN接合を形成した後に、シリコン基板5の表面に所定の押し込み圧力を加えて、シリコン基板5の表層部分に圧痕を形成する(ステップST2)。
【0037】
なお、既に述べたように、ステップST1とステップST2の順序は、入れ替えることも可能である。すなわち、シリコン基板5の表面に所定の押し込み圧力を加えて、シリコン基板5の表層部分に圧痕を形成した後に、シリコン基板5の表層部分にPN接合を形成してもよい。
【0038】
圧痕は、例えば、圧子という冶具を用いて行う。圧子は、シリコン基板5よりも硬い材料、例えば、金属からなり、三角形、針形などの先端が尖っている形状を有していることが好ましい。
【0039】
圧子の例を
図2に示す。
図2において、圧子6は、例えば、円錐形を有する。圧子6をシリコン基板5の表面に押し付けて、シリコン基板5の表面に所定の押し込み圧力を加えることで、シリコン基板5の表層部分に圧痕7が形成される。圧子6による好ましい押し込み圧力は、評価対象がシリコン基板5の場合には、1N(ニュートン)以上、20N以下である。
【0040】
次に、シリコン基板5の表面に光1を照射しながら、ステップST2で形成された圧痕の近傍における表面電位を測定する(ステップST3)。
【0041】
表面電位の測定は、例えば、電極2を用いて行う。当該電極は、シリコン基板5の表面から離れた位置(圧痕に近接した状態)で、シリコン基板5の表面電位を測定することが可能な非接触電極を用いることが好ましい。これにより、当該電極をウェーハの表面上でスムーズに動かすことが可能となるからである。
【0042】
また、表面電位の測定は、光1をシリコン基板5の表面に照射した状態で、当該電極を圧痕7の周辺で動かすことによって行うことが好ましい。これにより、ローゼット試験と同様に、圧痕7により生じた転位の長さを測定することが可能になるからである。
【0043】
表面電位の測定において、非接触電極は、例えば、シリコン基板5の表面から0.25mm前後、離れた位置に配置する。また、非接触電極の電極面積(シリコン基板5に対向する部分の面積)は、1mm2前後とする。但し、これらの値は、一例であり、評価対象となるウェーハの種類、本発明の評価方法を実際に行う評価装置の仕様などに応じて、最適値は変わってくる。
【0044】
ステップST3により得られた表面電位の例を
図3に示す。
図3は、等電位部分を濃淡の程度で表したマップデータである。
図3において、中心部分は、圧子によりシリコン基板5に形成された圧痕(傷部分)である。表面電位の分布(光起電力分布)は、表面電位(光起電力)が圧痕の中心部分から離れるに従い放射状に増加していることを示している。
【0045】
これは、圧痕の近傍では、圧子による傷の影響で、光電変換により発生したキャリアが再結合し、消滅することに起因する。すなわち、圧痕(傷)の程度によってキャリアの再結合割合が変化することから、シリコン基板5の圧痕の近傍における表面電位を測定することで、シリコン基板5の表層部分の強度を評価することができる。
【0046】
なお、シリコン基板5の表層部分に圧痕を形成する工程(ステップST2)の後、圧痕の近傍における表面電位を測定する工程(ステップST3)の前に、シリコン基板5に対して熱処理を行う工程をさらに備えていてもよい。これにより、表層部分に形成された圧痕による転位を発生させてから、表面電位の測定を行うことが可能となる。
【0047】
熱処理の温度は、評価対象となるシリコン基板5が実際のデバイス処理(デバイス製造プロセス)において受ける温度を参考にして決めることが好ましい。例えば、熱処理の温度は、700℃以上、1000℃以下の範囲内の値を目安に決定する。
【0048】
最後に、ステップST3で測定された表面電位に基づいて、シリコン基板5の表層部分の強度を評価する(ステップST4)。
【0049】
例えば、圧子による押し込み圧力を一定とした場合、シリコン基板5の強度が大きいと圧痕(傷)の程度は、小さくなる。すなわち、圧痕の近傍でのキャリアの再結合割合が小さくなり、例えば、
図3の表面電位の分布は、中心部分に向かって緩やかに変化する。一方、シリコン基板5の強度が小さいと圧痕(傷)の程度は、大きくなる。すなわち、圧痕の近傍でのキャリアの再結合割合が大きくなり、例えば、
図3の表面電位の分布は、中心部分に向かって急激に変化する。
【0050】
このように、
図3の表面電位の分布を検証することで、シリコン基板5の表層部分の強度を評価することができる。
【0051】
なお、上記評価方法は、光を照射した光電効果を利用するために、複数の基板を比較する場合は、基板抵抗の影響を受けることが考えられる。そこで、予め、評価対象となる基板にイオン注入等を行い、ウェル領域を形成することで、表面近傍の抵抗を揃えた後にPN接合を形成することができ、結果として、PN接合による空乏層幅を一定とすることが可能になり、より正確な評価が可能になる。
【実施例】
【0052】
以下に本発明の実施例を挙げて、本発明を詳細に説明するが、これらは、本発明を限定するものではない。
【0053】
(実施例1)
試料としてのウェーハは、ボロンがドープされた直径200mmのP型シリコンウェーハであり、当該ウェーハの抵抗率は、10Ω・cmである。当該ウェーハに対して、その表層部分の強度を本発明の評価方法により評価する。
【0054】
まず、上記ウェーハの表面上の3箇所に、圧子を用いて、それぞれ1.96N、8.9N、19.6Nの押し込み圧力で圧痕(傷)を付けた。その後、イオン注入により、当該ウェーハの表層部分にボロンを注入し、続けて、POCl3を原料とした固体拡散により、当該ウェーハの表層部分にリンを拡散させ、PN接合を形成した。
【0055】
ここで、イオン注入の条件は、ドーズ量を2×1012atoms/cm2とし、加速エネルギーを55keVとし、注入角(チルト角)を7°とした。また、固体拡散の条件は、温度1000℃とした。
【0056】
次に、当該ウェーハをウェーハチャックに搭載した。また、波長λが520nmの光を当該ウェーハの表面に照射しながら、非接触電極を用いて、当該ウェーハの表面電位(光起電力)を測定した。表面電位の測定は、圧痕(傷)が形成された3箇所のそれぞれについて、その近傍を非接触電極によりスキャンすることにより行った。
【0057】
その結果、各箇所において、圧痕(傷)の程度に対応した光起電力分布(
図3)を得ることができた。光起電力は、圧痕を考慮しない場合、以下の式に示すように、光により生成されたキャリア数と比例関係にある。すなわち、以下の式により計算により得られるキャリア数よりも実際に測定されたキャリア数が少ないということは、圧痕により生じた転位の長さによってキャリア数が減少したことを意味している。
【0058】
【0059】
これを示すデータが
図4である。
図4は、圧子圧力と表面起電力との関係を示す。圧子圧力(横軸)は、上記3箇所における押し込み圧力に相当する。光起電力(縦軸)は、上記3箇所で実際に測定された光起電力(キャリア数)に相当する。
【0060】
同図から明らかなように、圧子圧力が大きくなるほど、すなわち、圧痕の程度が大きくなるほど、光起電力が小さくなる。これは、光起電力を測定することで、ウェーハの表層部分の強度を評価できることを意味する。
【0061】
(実施例2)
CZ法によって育成されたシリコンウェーハは、不純物として酸素を含む。当該酸素は、実際のデバイス処理(デバイス製造プロセス)において加わる熱工程で転位を発生させる。従って、本発明の評価方法において、ウェーハの表層部分の強度を評価するに当たり、ウェーハ中の酸素濃度とローゼット長さ(転位の長さ)との関係、又はウェーハ中の酸素濃度と光起電力との関係を調べておくことは有効である。
【0062】
試料としてのウェーハは、酸素を含む5枚のポリッシュドウェーハ(PW)である。これらのウェーハは、それぞれ既知の酸素濃度を有し、当該酸素濃度は、深さ方向に均一である。また、これらのウェーハの酸素濃度は、以下のように互いに異なる。
【0063】
試料1: 酸素濃度 4.0×1017atoms/cm2
試料2: 酸素濃度 5.0×1017atoms/cm2
試料3: 酸素濃度 7.0×1017atoms/cm2
試料4: 酸素濃度 9.0×1017atoms/cm2
試料5: 酸素濃度 1.0×1018atoms/cm2
【0064】
これらのウェーハの表面に、圧子を用いて、それぞれ1.96Nの押し込み圧力で圧痕(傷)を付けた。この際、各ウェーハの表面に形成された圧痕の深さは、約3μmであった。続けて、ローゼット長さを伸長させるために、900℃ で60分の熱処理を行い、その後、ITエッチング(転位の顕在化のためにJISH0609-199中のC液を使用した選択エッチング)を行い、ローゼット長さを測定した。
【0065】
これにより得られたデータが
図5である。
図5は、酸素濃度とローゼット長さとの関係を示す。酸素濃度(横軸)は、上記試料1~5の酸素濃度に相当する。ローゼット長さ(縦軸)は、上記試料1~5から実際に測定されたローゼット長さに相当する。
【0066】
同図からは、ウェーハ中の酸素濃度が高くなるほど、強度が高くなり、ローゼット長さが短くなることが分かる。これは、当該酸素濃度が高くなるほど、転位による表面電位への影響が少なくなることを意味する。
【0067】
上記と同様に、試料としてのウェーハとして、酸素を含む5枚のポリッシュドウェーハ(PW)を用意した。
【0068】
試料1: 酸素濃度 4.0×1017atoms/cm2
試料2: 酸素濃度 5.0×1017atoms/cm2
試料3: 酸素濃度 7.0×1017atoms/cm2
試料4: 酸素濃度 9.0×1017atoms/cm2
試料5: 酸素濃度 1.0×1018atoms/cm2
【0069】
これらのウェーハの表面に、圧子を用いて、それぞれ1.96Nの押し込み圧力で圧痕(傷)を付けた。この際、各ウェーハの表面に形成された圧痕の深さは、上記と同様に、約3μmであった。続けて、実施例1と同様の方法により、これらのウェーハの表層部分にPN接合を形成した。
【0070】
その後、実施例1と同様の方法により、非接触電極を用いて、これらのウェーハの表面電位(光起電力)を測定した(1回目の測定)。
【0071】
また、1回目の測定を終えた後、これらのウェーハのそれぞれについて、900℃で60分の熱処理を行った。そして、実施例1と同様の方法により、非接触電極を用いて、これらのウェーハの表面電位(光起電力)を測定した(2回目の測定)。
【0072】
【0073】
図6は、ローゼット長さと表面電位との関係を示す。ローゼット長さ(横軸)は、上記試料1~5から実際に測定されたローゼット長さに相当し、上記で得られたローゼット長さに対応する。光起電力(縦軸)は、上記試料1~5から実際に測定された光起電力(表面電位)に相当する。
【0074】
図7は、酸素濃度と表面電位との関係を示す。酸素濃度(横軸)は、上記試料1~5の酸素濃度に相当する。光起電力(縦軸)は、上記試料1~5から実際に測定された光起電力(表面電位)に相当する。
【0075】
「熱処理前」を示すマーク◆は、上記1回目の測定により得られた光起電力を表す。また、「熱処理後」を示すマーク■は、上記2回目の測定により得られた光起電力を表す。
【0076】
図6から分かることは、ローゼット長さが短くなるほど、光起電力が大きくなるということである。すなわち、
図7に示すように、ウェーハ中の酸素濃度が高くなるほど、ローゼット長さが短くなり(
図5参照)、結果として、光起電力が大きくなる。これは、ウェーハ中の酸素濃度が高くなるほど、強度が大きくなり、転位による表面電位への影響が少なくなり、光起電力が大きくなることを意味する。
【0077】
また、
図6及び
図7から明らかなように、熱処理を行うことで、転位の発生によるキャリアの再結合が起こり、光起電力が、熱処理前に比べて低下する。
【0078】
従って、これらの相関関係を考慮することで、ウェーハの表層部分の強度を正確に評価することが可能となる。
【0079】
以上、説明してきたように、本発明によれば、実デバイスに近いPN接合を持った領域も含めて、光学的手法によりウェーハの表層部分の強度を正確かつ簡単に評価することが可能になる。
【0080】
なお、本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。上記実施形態は例示であり、本発明の特許請求の範囲に記載された技術的思想と実質的に同一な構成を有し、同様な作用効果を奏するものは、いかなるものであっても本発明の技術的範囲に包含される。
【符号の説明】
【0081】
1…光、 2…電極、 3…表面高濃度層、 4…ウェル領域、 5…シリコン基板、 6…圧子、 7…圧痕。