(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-01-06
(45)【発行日】2022-02-04
(54)【発明の名称】メタクリル酸製造用触媒の製造方法、メタクリル酸の製造方法およびメタクリル酸エステルの製造方法
(51)【国際特許分類】
B01J 27/199 20060101AFI20220128BHJP
B01J 37/04 20060101ALI20220128BHJP
B01J 37/08 20060101ALI20220128BHJP
C07C 51/235 20060101ALI20220128BHJP
C07C 57/055 20060101ALI20220128BHJP
C07B 61/00 20060101ALN20220128BHJP
【FI】
B01J27/199 Z
B01J37/04 102
B01J37/08
C07C51/235
C07C57/055 B
C07B61/00 300
(21)【出願番号】P 2019122903
(22)【出願日】2019-07-01
(62)【分割の表示】P 2017545978の分割
【原出願日】2017-08-17
【審査請求日】2020-07-16
(31)【優先権主張番号】P 2016161888
(32)【優先日】2016-08-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006035
【氏名又は名称】三菱ケミカル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100123788
【氏名又は名称】宮崎 昭夫
(74)【代理人】
【識別番号】100127454
【氏名又は名称】緒方 雅昭
(72)【発明者】
【氏名】加藤 裕樹
(72)【発明者】
【氏名】田川 雄一
【審査官】佐藤 慶明
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2005/039760(WO,A1)
【文献】特開2007-098345(JP,A)
【文献】特開2010-162460(JP,A)
【文献】特開2014-226614(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01J 21/00 - 38/74
C07C 51/235
C07C 57/055
C07B 61/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
メタクロレインを分子状酸素により気相接触酸化して、メタクリル酸を製造する際に用いられるメタクリル酸製造用触媒の製造方法であって、
(1)少なくともモリブデン、リンおよびバナジウムを含む触媒原料液Aを準備する工程と、
(2)カチオン原料を含む触媒原料液Bを準備する工程と、
(3)前記触媒原料液A
が入った容器に、前記触媒原料液Bを添加して混合し、ケギン型構造を有するヘテロポリ酸またはその塩を含む液体を調製する工程と、を含み、
前記工程(3)において、下記式(i)および(ii)を満たし、
3.0≦T/(
3√V)≦13.0 (i)
0.01≦u1≦0.5 (ii)
(式(i)および(ii)中、Vは前記触媒原料液Aの容積[m
3]、Tは他方の液を添加するための2以上の添加口の数、u1は添加する他方の液の体積流速[L/分]を示す。なお、u1は各添加口から添加される他方の液の体積流速の平均値を示す。)
前記工程(1)で準備する触媒原料液Aと、前記工程(2)で準備する触媒原料液Bとの合計の容積が、0.2m
3以上であって、
前記工程(3)において、前記触媒原料液Aおよび前記触媒原料液Bのいずれか一方が入った下記式(iv)を満たす容器内に、他方の液を添加して混合し、
0.1≦S
3/W
2≦50 (iv)
(式(iv)中、Sは容器内液の液面の表面積[m
2]を示し、Wは容器内液の容積[m
3]を示す。)
前記工程(3)において、前記容器内液の液面の上部に前記添加口が配置され、かつ、前記添加口が、前記容器内液の液面の中心を中心として、下記式(vi)で算出される半径R[m]で描かれる円形領域内の上部に存在しない、メタクリル酸製造用触媒の製造方法。
【数1】
(式(vi)中、Sは前記式(iv)と同義である。)
【請求項2】
メタクロレインを分子状酸素により気相接触酸化して、メタクリル酸を製造する際に用いられるメタクリル酸製造用触媒の製造方法であって、
(1)少なくともモリブデン、リンおよびバナジウムを含む触媒原料液Aを準備する工程と、
(2)カチオン原料を含む触媒原料液Bを準備する工程と、
(3)前記触媒原料液Aに前記触媒原料液Bを添加して混合し、ケギン型構造を有するヘテロポリ酸またはその塩を含む液体を調製する工程と、を含み、
前記工程(3)において、下記式(i)および(iii)を満たし、
3.0≦T/(
3√V)≦13.0 (i)
0.01≦u2≦5 (iii)
(式(i)および(iii)中、Vは前記触媒原料液Aの容積[m
3]、Tは前記触媒原料液Bを添加するための2以上の添加口の数、u2は前記触媒原料液Bのカチオン原料の流速[mol/分]を示す。なお、u2は各添加口から添加される前記触媒原料液Bのカチオン原料の流速の平均値を示す。)
前記工程(1)で準備する触媒原料液Aと、前記工程(2)で準備する触媒原料液Bとの合計の容積が、0.2m
3以上であって、
前記工程(3)において前記触媒原料液Aが入った下記式(iv)を満たす容器内に、前記触媒原料液Bを添加して混合し、
0.1≦S
3/W
2≦50 (iv)
(式(iv)中、Sは容器内液の液面の表面積[m
2]を示し、Wは容器内液の容積[m
3]を示す。)
前記工程(3)において、前記容器内液の液面の上部に前記添加口が配置され、かつ、前記添加口が、前記容器内液の液面の中心を中心として、下記式(vi)で算出される半径R[m]で描かれる円形領域内の上部に存在しない、メタクリル酸製造用触媒の製造方法。
【数2】
(式(vi)中、Sは前記式(iv)と同義である。)
【請求項3】
前記工程(3)において下記式(i-1)を満たす、請求項1または2に記載のメタクリル酸製造用触媒の製造方法。
4.0≦T/(
3√V)≦12.0 (i-1)
【請求項4】
前記工程(3)において、前記触媒原料液Aおよび前記触媒原料液Bのいずれか一方が入った下記式(iv)を満たす容器内に、他方の液を添加して混合する請求項1に記載のメタクリル酸製造用触媒の製造方法。
0.5≦S
3/W
2≦50 (iv)
(式(iv)中、Sは容器内液の液面の表面積[m
2]を示し、Wは容器内液の容積[m
3]を示す。)
【請求項5】
前記工程(3)において、前記触媒原料液Aが入った下記式(iv)を満たす容器内に、前記触媒原料液Bを添加して混合する請求項2に記載のメタクリル酸製造用触媒の製造方法。
0.5≦S
3/W
2≦50(iv)
(式(iv)中、Sは容器内液の液面の表面積[m
2]を示し、Wは容器内液の容積[m
3]を示す。)
【請求項6】
前記工程(3)において下記式(ii-1)を満たす、請求項1に記載のメタクリル酸製造用触媒の製造方法。
0.05≦u1≦0.4 (ii-1)
【請求項7】
前記工程(3)において下記式(iii-1)を満たす、請求項2に記載のメタクリル酸製造用触媒の製造方法。
0.1≦u2≦4 (iii-1)
【請求項8】
前記添加口の直径が0.5~30mmである、請求項1から7のいずれか1項に記載のメタクリル酸製造用触媒の製造方法。
【請求項9】
前記カチオン原料が、アルカリ金属を含む化合物およびアンモニウムイオンを含む化合物からなる群から選択される少なくとも1種である請求項1から
8のいずれか1項に記載のメタクリル酸製造用触媒の製造方法。
【請求項10】
さらに、前記ケギン型構造を有するヘテロポリ酸またはその塩を含む液体を乾燥し、触媒前駆体を得る工程を含む請求項1から
9のいずれか1項に記載のメタクリル酸製造用触媒の製造方法。
【請求項11】
さらに、前記触媒前駆体を熱処理する工程を含む請求項
10に記載のメタクリル酸製造用触媒の製造方法。
【請求項12】
前記メタクリル酸製造用触媒が、下記式(vii)で示される元素組成を有する請求項1から
11のいずれか1項に記載のメタクリル酸製造用触媒の製造方法。
Mo
aP
bV
cCu
dA
eE
fG
gO
h (vii)
(式(vii)中、Mo、P、V、CuおよびOはそれぞれモリブデン、リン、バナジウム、銅および酸素を示す元素記号である。Aはアンチモン、ビスマス、砒素、ゲルマニウム、ジルコニウム、テルル、銀、セレン、ケイ素、タングステン及びホウ素からなる群より選ばれる少なくとも1種の元素を示す。Eは鉄、亜鉛、クロム、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、タンタル、コバルト、ニッケル、マンガン、バリウム、チタン、スズ、鉛、ニオブ、インジウム、硫黄、パラジウム、ガリウム、セリウム及びランタンからなる群より選ばれる少なくとも1種の元素を示す。Gはリチウム、ナトリウム、カリウム、ルビジウム、セシウムおよびタリウムからなる群より選ばれる少なくとも1種の元素を示す。a、b、c、d、e、f、gおよびhは各元素の原子比率を表し、a=12の時、b=0.5~3、c=0.01~3、d=0.01~2、e=0~3、f=0~3、g=0.01~3であり、hは前記各元素の原子価を満足するのに必要な酸素の原子比率である。)
【請求項13】
請求項1から
12のいずれか1項に記載の方法により製造されたメタクリル酸製造用触媒の存在下で、メタクロレインを分子状酸素により気相接触酸化するメタクリル酸の製造方法。
【請求項14】
請求項1から
12のいずれか1項に記載の方法によりメタクリル酸製造用触媒を製造し、該メタクリル酸製造用触媒の存在下でメタクロレインを分子状酸素により気相接触酸化するメタクリル酸の製造方法。
【請求項15】
請求項
13または14に記載のメタクリル酸の製造方法により製造されたメタクリル酸をエステル化するメタクリル酸エステルの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、メタクリル酸製造用触媒の製造方法、メタクリル酸の製造方法およびメタクリル酸エステルの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
メタクロレインを分子状酸素により気相接触酸化してメタクリル酸を製造する際に用いられるメタクリル酸製造用触媒としては、モリブデンおよびリンを含むヘテロポリ酸系触媒が知られている。このようなヘテロポリ酸系触媒としては、カウンターカチオンがプロトンであるプロトン型ヘテロポリ酸、およびそのプロトンの一部をプロトン以外のカチオンで置換したヘテロポリ酸塩が存在する。ヘテロポリ酸塩としては、カチオンがアルカリ金属イオンであるアルカリ金属塩や、カチオンがアンモニウムイオンであるアンモニウム塩が知られている(以下、プロトン型ヘテロポリ酸を単に「ヘテロポリ酸」とも言い、プロトン型ヘテロポリ酸およびヘテロポリ酸塩より選ばれる少なくとも1種類を単に「ヘテロポリ酸(塩)」とも示す。)。
【0003】
メタクリル酸製造用触媒の製造方法としては、例えば特許文献1に、メタクロレインを分子状酸素により気相接触酸化してメタクリル酸を製造するための触媒の製造方法であって、(i)少なくともモリブデン(Mo)、リン(P)およびバナジウム(V)を含む溶液またはスラリー(I液)を調製する工程と、(ii)アンモニウム根を含む溶液またはスラリー(II液)を調製する工程と、(iii)前記I液またはII液のいずれか一方の液(PR液)を槽(A槽)に装入し、該A槽に装入された該PR液の液面の全面積に対し0.01~10%の面積を有する連続する液面域に他方の前記液(LA液)を投入してI液II液混合液を調製する工程と、(iv)前記全触媒成分を含有する触媒前駆体を含む溶液またはスラリーを乾燥、焼成する工程とを含むことを特徴とする、所定原子を所定の原子比率で含むメタクリル酸製造用触媒の製造方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に開示された方法で製造されるメタクリル酸製造用触媒は、該触媒をメタクリル酸製造に使用した場合、メタクリル酸の収率が十分ではなく、更なる改良が望まれている。本発明では、メタクリル酸収率の高いメタクリル酸製造用触媒を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、以下の[1]から[18]である。
【0007】
[1]メタクロレインを分子状酸素により気相接触酸化して、メタクリル酸を製造する際に用いられるメタクリル酸製造用触媒の製造方法であって、
(1)少なくともモリブデン、リンおよびバナジウムを含む触媒原料液Aを準備する工程と、
(2)カチオン原料を含む触媒原料液Bを準備する工程と、
(3)前記触媒原料液Aおよび前記触媒原料液Bのいずれか一方に、他方の液を添加して混合し、ケギン型構造を有するヘテロポリ酸またはその塩を含む液体を調製する工程と、を含み、
前記工程(3)において、下記式(i)および(ii)を満たすメタクリル酸製造用触媒の製造方法。
【0008】
3.0≦T/(3√V)≦13.0 (i)
0.01≦u1≦1.0 (ii)
(式(i)および(ii)中、Vは前記触媒原料液Aの容積[m3]、Tは他方の液を添加するための添加口の数、u1は添加する他方の液の体積流速[L/分]を示す。なおTが2以上である場合、u1は各添加口から添加される他方の液の体積流速の平均値を示す。)。
【0009】
[2]メタクロレインを分子状酸素により気相接触酸化して、メタクリル酸を製造する際に用いられるメタクリル酸製造用触媒の製造方法であって、
(1)少なくともモリブデン、リンおよびバナジウムを含む触媒原料液Aを準備する工程と、
(2)カチオン原料を含む触媒原料液Bを準備する工程と、
(3)前記触媒原料液Aに前記触媒原料液Bを添加して混合し、ケギン型構造を有するヘテロポリ酸またはその塩を含む液体を調製する工程と、を含み、
前記工程(3)において、下記式(i)および(iii)を満たすメタクリル酸製造用触媒の製造方法。
【0010】
3.0≦T/(3√V)≦13.0 (i)
0.01≦u2≦8 (iii)
(式(i)および(iii)中、Vは前記触媒原料液Aの容積[m3]、Tは前記触媒原料液Bを添加するための添加口の数、u2は前記触媒原料液Bのカチオン原料の流速[mol/分]を示す。なおTが2以上である場合、u2は各添加口から添加される前記触媒原料液Bのカチオン原料の流速の平均値を示す。)。
【0011】
[3]前記式(i)において、Tが2以上である[1]または[2]に記載のメタクリル酸製造用触媒の製造方法。
【0012】
[4]前記工程(3)において、前記触媒原料液Aおよび前記触媒原料液Bのいずれか一方が入った下記式(iv)を満たす容器内に、他方の液を添加して混合する[1]に記載のメタクリル酸製造用触媒の製造方法。
【0013】
0.1≦S3/W2≦50 (iv)
(式(iv)中、Sは容器内液の液面の表面積[m2]を示し、Wは容器内液の容積[m3]を示す。)。
【0014】
[5]前記工程(3)において、前記触媒原料液Aが入った下記式(iv)を満たす容器内に、前記触媒原料液Bを添加して混合する[2]に記載のメタクリル酸製造用触媒の製造方法。
【0015】
0.1≦S3/W2≦50 (iv)
(式(iv)中、Sは容器内液の液面の表面積[m2]を示し、Wは容器内液の容積[m3]を示す。)。
【0016】
[6]前記工程(3)において、前記容器内液の液面の上部に前記添加口が配置されている[4]または[5]に記載のメタクリル酸製造用触媒の製造方法。
【0017】
[7]前記工程(3)において、下記式(v)を満たす[6]に記載のメタクリル酸製造用触媒の製造方法。
【0018】
2≦T/S≦100 (v)
(式(v)中、Tは前記式(i)と同義であり、Sは前記式(iv)と同義である。)。
【0019】
[8]前記工程(3)において、前記容器内液の液面の中心から、中心角が360°/Tとなるように、該液面に略平行に容器の壁面へ向けて引いたT本の直線で分割される該液面の領域をそれぞれY1~YTとするとき、前記添加口が各Y1~YTの上部にそれぞれ1つずつ配置されている[6]または[7]に記載のメタクリル酸製造用触媒の製造方法。
【0020】
[9]前記工程(3)において、前記添加口が、前記容器内液の液面の中心を中心として、下記式(vi)で算出される半径R[m]で描かれる円形領域内の上部に存在しない[6]から[8]のいずれかに記載のメタクリル酸製造用触媒の製造方法。
【0021】
【数1】
(式(vi)中、Sは前記式(iv)と同義である。)。
【0022】
[10]前記工程(3)において、前記触媒原料液Aが入った容器に、前記触媒原料液Bを添加して混合する[1]に記載のメタクリル酸製造用触媒の製造方法。
【0023】
[11]前記工程(1)で準備する触媒原料液Aと、前記工程(2)で準備する触媒原料液Bとの合計の容積が、0.2m3以上である[1]から[10]のいずれかに記載のメタクリル酸製造用触媒の製造方法。
【0024】
[12]前記カチオン原料が、アルカリ金属を含む化合物およびアンモニウムイオンを含む化合物からなる群から選択される少なくとも1種である[1]から[11]のいずれかに記載のメタクリル酸製造用触媒の製造方法。
【0025】
[13]さらに、前記ケギン型構造を有するヘテロポリ酸またはその塩を含む液体を乾燥し、触媒前駆体を得る工程を含む[1]から[12]のいずれかに記載のメタクリル酸製造用触媒の製造方法。
【0026】
[14]さらに、前記触媒前駆体を熱処理する工程を含む[13]に記載のメタクリル酸製造用触媒の製造方法。
【0027】
[15]前記メタクリル酸製造用触媒が、下記式(vii)で示される元素組成を有する[1]から[14]のいずれかに記載のメタクリル酸製造用触媒の製造方法。
【0028】
MoaPbVcCudAeEfGgOh (vii)
(式(vii)中、Mo、P、V、CuおよびOはそれぞれモリブデン、リン、バナジウム、銅および酸素を示す元素記号である。Aはアンチモン、ビスマス、砒素、ゲルマニウム、ジルコニウム、テルル、銀、セレン、ケイ素、タングステン及びホウ素からなる群より選ばれる少なくとも1種の元素を示す。Eは鉄、亜鉛、クロム、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、タンタル、コバルト、ニッケル、マンガン、バリウム、チタン、スズ、鉛、ニオブ、インジウム、硫黄、パラジウム、ガリウム、セリウム及びランタンからなる群より選ばれる少なくとも1種の元素を示す。Gはリチウム、ナトリウム、カリウム、ルビジウム、セシウムおよびタリウムからなる群より選ばれる少なくとも1種の元素を示す。a、b、c、d、e、f、gおよびhは各元素の原子比率を表し、a=12の時、b=0.5~3、c=0.01~3、d=0.01~2、e=0~3、f=0~3、g=0.01~3であり、hは前記各元素の原子価を満足するのに必要な酸素の原子比率である。)。
【0029】
[16][1]から[15]のいずれかに記載の方法により製造されたメタクリル酸製造用触媒の存在下で、メタクロレインを分子状酸素により気相接触酸化するメタクリル酸の製造方法。
【0030】
[17][1]から[15]のいずれかに記載の方法によりメタクリル酸製造用触媒を製造し、該メタクリル酸製造用触媒の存在下でメタクロレインを分子状酸素により気相接触酸化するメタクリル酸の製造方法。
【0031】
[18][16]または[17]に記載のメタクリル酸の製造方法により製造されたメタクリル酸をエステル化するメタクリル酸エステルの製造方法。
【発明の効果】
【0032】
本発明によれば、メタクリル酸収率の高いメタクリル酸製造用触媒を提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0033】
[メタクリル酸製造用触媒の製造方法]
本発明に係るメタクリル酸製造用触媒の製造方法は、メタクロレインを分子状酸素により気相接触酸化して、メタクリル酸を製造する際に用いられるメタクリル酸製造用触媒の製造方法である。該方法の第一の実施形態は、以下の工程(1)~(3)を含む。
(1)少なくともモリブデン、リンおよびバナジウムを含む触媒原料液Aを準備する工程。
(2)カチオン原料を含む触媒原料液Bを準備する工程。
(3)前記触媒原料液Aおよび前記触媒原料液Bのいずれか一方に、他方の液を添加して混合し、ケギン型構造を有するヘテロポリ酸またはその塩を含む液体を調製する工程。
【0034】
前記工程(3)では、下記式(i)および(ii)を満たす。
【0035】
3.0≦T/(3√V)≦13.0 (i)
0.01≦u1≦1.0 (ii)
式(i)および(ii)中、Vは前記触媒原料液Aの容積[m3]、Tは他方の液を添加するための添加口の数、u1は添加する他方の液の体積流速[L/分]を示す。なおTが2以上である場合、u1は各添加口から添加される他方の液の体積流速の平均値を示す。
【0036】
また、前記方法の第二の実施形態は、以下の工程(1)~(3)を含む。
(1)少なくともモリブデン、リンおよびバナジウムを含む触媒原料液Aを準備する工程。
(2)カチオン原料を含む触媒原料液Bを準備する工程。
(3)前記触媒原料液Aに前記触媒原料液Bを添加して混合し、ケギン型構造を有するヘテロポリ酸またはその塩を含む液体を調製する工程。
【0037】
前記工程(3)では、下記式(i)および(iii)を満たす。
【0038】
3.0≦T/(3√V)≦13.0 (i)
0.01≦u2≦8 (iii)
式(i)および(iii)中、Vは前記触媒原料液Aの容積[m3]、Tは前記触媒原料液Bを添加するための添加口の数、u2は前記触媒原料液Bのカチオン原料の流速[mol/分]を示す。なおTが2以上である場合、u2は各添加口から添加される前記触媒原料液Bのカチオン原料の流速の平均値を示す。
【0039】
本発明に係る方法の第一および第二の実施形態では、前記工程(1)~(3)を含み、かつ、前記工程(3)において前記式(i)および(ii)を満たすことにより、または、前記(i)および(iii)を満たすことにより、高い収率でメタクリル酸を製造可能なメタクリル酸製造用触媒を製造することができる。その詳細なメカニズムは必ずしも明らかになっていないが、メタクリル酸収率向上に有効な触媒粒子が生成されやすくなるものと推測される。
【0040】
本発明に係る方法により製造されるメタクリル酸製造用触媒は、少なくともモリブデン、リンおよびバナジウムを含むが、これら以外にも銅などの他の元素をさらに含むことができる。該触媒は、高い収率でメタクリル酸を製造できる観点から、下記式(vii)で示される元素組成を有することが好ましい。
【0041】
MoaPbVcCudAeEfGgOh (vii)
式(vii)中、Mo、P、V、CuおよびOはそれぞれモリブデン、リン、バナジウム、銅および酸素を示す元素記号である。Aはアンチモン、ビスマス、砒素、ゲルマニウム、ジルコニウム、テルル、銀、セレン、ケイ素、タングステン及びホウ素からなる群より選ばれる少なくとも1種の元素を示す。Eは鉄、亜鉛、クロム、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、タンタル、コバルト、ニッケル、マンガン、バリウム、チタン、スズ、鉛、ニオブ、インジウム、硫黄、パラジウム、ガリウム、セリウム及びランタンからなる群より選ばれる少なくとも1種の元素を示す。Gはリチウム、ナトリウム、カリウム、ルビジウム、セシウムおよびタリウムからなる群より選ばれる少なくとも1種の元素を示す。a、b、c、d、e、f、gおよびhは各元素の原子比率を表し、a=12の時、b=0.5~3、c=0.01~3、d=0.01~2、e=0~3、f=0~3、g=0.01~3であり、hは前記各元素の原子価を満足するのに必要な酸素の原子比率である。なお、前記元素組成は触媒をアンモニア水に溶解した成分をICP発光分析法で分析することによって算出される値である。
【0042】
(工程(1))
工程(1)では、少なくともモリブデン、リンおよびバナジウムを含む触媒原料液Aを準備する。例えば、調製容器を用いて、モリブデン、リンおよびバナジウムを含む触媒成分の原料化合物を溶媒に溶解又は懸濁させることにより、触媒原料液Aを得ることができる。触媒原料液Aが、少なくともモリブデン、リンおよびバナジウムを含むことにより、メタクリル酸収率がより高いメタクリル酸製造用触媒を製造できる。
【0043】
前記触媒成分の原料化合物は特に限定されず、触媒の各構成元素の硝酸塩、炭酸塩、酢酸塩、アンモニウム塩、酸化物、ハロゲン化物、オキソ酸、オキソ酸塩等を単独で又は2種以上を組み合わせて使用することができる。モリブデンの原料化合物としては、例えば、三酸化モリブデン等の酸化モリブデン、パラモリブデン酸アンモニウム、ジモリブデン酸アンモニウム等のモリブデン酸アンモニウム等が挙げられる。リンの原料化合物としては、例えば、リン酸、五酸化リン、リン酸アンモニウム等が挙げられる。バナジウムの原料化合物としては、例えば、メタバナジン酸アンモニウム、五酸化バナジウム、蓚酸バナジル等が挙げられる。銅の原料化合物としては、例えば、硝酸銅、酸化銅、炭酸銅、酢酸銅等が挙げられる。触媒成分の原料化合物は、触媒成分を構成する各元素に対して1種を用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0044】
前記溶媒としては、例えば、水、エチルアルコール、アセトン等が挙げられる。これらは1種を用いてもよく、2種以上を併用してもよい。これらの中でも、水を用いることが好ましい。
【0045】
触媒原料液Aは、調製容器を用いて、溶媒に触媒成分の原料化合物を加え、加熱しながら撹拌して調製することが好ましい。加熱温度は80~130℃が好ましく、下限は90℃以上がより好ましい。また、触媒原料液AのpHは3.0以下が好ましく、2.5以下がより好ましい。触媒原料液AのpHを3.0以下とする方法としては、例えばモリブデン原料として三酸化モリブデンを使用する、硝酸イオンが多く含まれるように触媒成分の原料化合物を選択する等の方法が挙げられる。触媒原料液A中の触媒成分の原料化合物の濃度は特に限定されないが、例えば5~90質量%であることができる。
【0046】
(工程(2))
工程(2)では、カチオン原料を含む触媒原料液Bを準備する。例えば、調製容器を用いて、カチオン原料を溶媒に溶解又は懸濁させることにより、触媒原料液Bを得ることができる。
【0047】
ここで、「カチオン原料」とは、アルカリ金属を含む化合物、アルカリ土類金属を含む化合物、遷移金属を含む化合物、卑金属を含む化合物および窒素を含む化合物(アンモニア、アンモニウムイオンもしくはアルキルアンモニウムイオンを含む化合物、または含窒素ヘテロ環化合物)からなる群から選択される少なくとも1種を示す。アルカリ金属としては、リチウム、ナトリウム、カリウム、ルビジウム、セシウムが挙げられる。アルカリ土類金属としては、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、バリウムが挙げられる。アルカリ金属を含む化合物、アルカリ土類金属を含む化合物、遷移金属を含む化合物、卑金属を含む化合物としては、アルカリ金属、アルカリ土類金属、遷移金属または卑金属の硝酸塩、炭酸塩、重炭酸塩、酢酸塩、硫酸塩、アンモニウム塩、酸化物、水酸化物、ハロゲン化物、オキソ酸、オキソ酸塩等が挙げられる。アンモニウムイオンを含む化合物としては、重炭酸アンモニウム、炭酸アンモニウム、硝酸アンモニウム、リン酸アンモニウム、バナジン酸アンモニウム等が挙げられる。アルキルアンモニウムイオンを含む化合物としては、テトラメチルアンモニウム、テトラエチルアンモニウム、テトラn-プロピルアンモニウム、テトラn-ブチルアンモニウム、トリエチルメチルアンモニウム等のハロゲン化物または水酸化物等が挙げられる。含窒素ヘテロ環化合物としては、ピリジン、ピペリジン、ピペラジン、ピリミジン、キノリン、イソキノリンおよびこれらのアルキル誘導体等が挙げられる。これらは一種を用いてもよく、二種以上を併用してもよい。これらの中でもカチオン原料としては、メタクリル酸収率がより高いメタクリル酸製造用触媒を得られる観点から、アルカリ金属を含む化合物およびアンモニウムイオンを含む化合物からなる群から選択される少なくとも1種であることが好ましい。
【0048】
前記溶媒としては、例えば、水、エチルアルコール、アセトン等が挙げられる。これらは1種を用いてもよく、2種以上を併用してもよい。これらの中でも、水を用いることが好ましい。
【0049】
なお、カチオン原料として複数の種類を用いる場合には、調製容器を複数用いて、各カチオン原料をそれぞれ溶媒に溶解又は懸濁させることにより、触媒原料液B1、B2、…のように複数の触媒原料液Bを調製してもよい。触媒原料液Aに対して触媒原料液Bを添加する場合は、触媒原料液Aに対して、触媒原料液B1、B2、…を順不同で添加してもよく、また同時に添加してもよい。第一の実施形態において、触媒原料液Bに対して触媒原料液Aを添加する場合は、いずれかの触媒原料液Bに対して触媒原料液Aを添加し、得られた液体と他の触媒原料液Bとを混合してもよく、また触媒原料液A1、A2、…のように複数の触媒原料液Aに分割して触媒原料液Bに添加した後、得られた各液体を混合してもよい。また、触媒原料液B中のカチオン原料の濃度は特に限定されないが、例えば5~90質量%であることができる。
【0050】
また、前記工程(1)および(2)において触媒原料液AおよびBを準備する場合、工業的な製造を考慮すると、製造コストの観点から、前記工程(1)で準備する触媒原料液Aと、前記工程(2)で準備する触媒原料液Bとの合計の容積は、0.2m3以上であることが好ましく、0.8m3以上であることがより好ましく、1.5m3以上であることがさらに好ましい。なお、該容積の範囲の上限は特に限定されないが、例えば5m3以下であることができる。
【0051】
(工程(3))
第一の実施形態では、工程(3)において、前記触媒原料液Aおよび前記触媒原料液Bのいずれか一方に、他方の液を添加して混合し、ケギン型構造を有するヘテロポリ酸またはその塩を含む液体を調製する。即ち、触媒原料液Aに触媒原料液Bを添加して混合するか、または触媒原料液Bに触媒原料液Aを添加して混合する。前者では触媒原料液Bが、後者では触媒原料液Aが、それぞれ「他方の液」にあたる。以下、「他方の液」を添加液とも示す。また、第二の実施形態では、工程(3)において、前記触媒原料液Aに前記触媒原料液Bを添加して混合し、ケギン型構造を有するヘテロポリ酸またはその塩を含む液体を調製する。第一の実施形態では、工程(3)において、下記式(i)および(ii)の条件を両方とも満たす必要がある。また、第二の実施形態では、工程(3)において、下記式(i)および(iii)の条件を両方とも満たす必要がある。
【0052】
3.0≦T/(3√V)≦13.0 (i)
0.01≦u1≦1.0 (ii)
0.01≦u2≦8 (iii)
式(i)、(ii)および(iii)中、Vは前記触媒原料液Aの容積[m3]、Tは他方の液(前記触媒原料液B)を添加するための添加口の数、u1は添加する他方の液の体積流速[L/分]、u2は前記触媒原料液Bのカチオン原料の流速[mol/分]を示す。また、「添加口」とは、触媒原料液Aおよび触媒原料液Bのいずれか一方(触媒原料液A)に他方の液(触媒原料液B)を添加するために設けられた他方の液(触媒原料液B)の出口である。なお、Tが2以上である場合、u1およびu2はそれぞれ、各添加口から添加される他方の液の体積流速、各添加口から添加される前記触媒原料液Bのカチオン原料の流速、の平均値を示す。なお、添加液が複数ある場合、それぞれが上記条件を満たす必要がある。即ち、添加液として触媒原料液B1、B2、…がある場合、各液の添加それぞれ全てが式(i)および(ii)の条件を両方とも満たすか、または、式(i)および(iii)の条件を両方とも満たす必要がある。また、第一の実施形態において、添加液として触媒原料液A1、A2、…がある場合も同様に、各液の添加それぞれ全てが式(i)および(ii)の条件を両方とも満たす必要がある。
【0053】
触媒原料液Aと触媒原料液Bを混合することで、ケギン型構造を有するヘテロポリ酸(塩)を含む液体が得られる。前記式(i)において、T/(3√V)は添加口の数Tを触媒原料液Aの容積Vの三乗根で除したものであり、触媒原料液Aと触媒原料液Bとを混合する際の、各液の接触状態に影響を与える。そのため、前記式(i)においてT/(3√V)を特定の範囲とすることで、ヘテロポリ酸(塩)の中でもメタクリル酸収率向上に有効なヘテロポリ酸(塩)が生成されやすくなると推測される。なお、得られるヘテロポリ酸(塩)の総量は、触媒原料液Aに含まれる触媒成分の量に関係する。T/(3√V)の値は、3.0≦T/(3√V)≦13.0を満たし、下限は4.0以上が好ましく、5.0以上がより好ましく、6.0以上がさらに好ましい。上限は12.0以下が好ましく、11.0以下がより好ましく、9.0以下がさらに好ましい。
【0054】
Tの値は、メタクリル酸収率がより高いメタクリル酸製造用触媒を得られる観点から、2以上が好ましく、4以上がより好ましく、8以上がさらに好ましい。Tの値の範囲の上限は特に限定されないが、例えば20以下とすることができる。Tの値を2以上とする方法としては、例えば複数の穴を有する配管を用いる、複数の吐出口を有する多連ノズルを用いる等が挙げられる。添加口の直径は、0.5~30mmが好ましく、下限は1mm以上、上限は10mm以下がより好ましい。
【0055】
前記式(ii)において、添加液の体積流速u1は、触媒原料液Aと触媒原料液Bとを混合する際の、両液の接触速度に影響する。そのため前記式(ii)を満たすように触媒原料液Aおよび触媒原料液Bのいずれか一方に他方の液を添加することで、メタクリル酸収率向上に有効な触媒粒子が生成されやすくなると推測される。u1の値は、0.01≦u1≦1.0を満たし、下限は0.05以上が好ましく、0.1以上がより好ましい。上限は0.5以下が好ましく、0.4以下がより好ましく、0.3以下がさらに好ましい。
【0056】
また、前記式(iii)において、添加する触媒原料液Bのカチオン原料の流速u2は、触媒原料液Aと触媒原料液Bとを混合する際の、両液の接触速度に影響する。そのため前記式(iii)を満たすように触媒原料液Aに対して触媒原料液Bを添加することで、メタクリル酸収率向上に有効な触媒粒子が生成されやすくなると推測される。u2の値は、0.01≦u2≦8を満たし、下限は0.1以上が好ましく、0.5以上がより好ましい。上限は5以下が好ましく、4以下がより好ましく、2以下がさらに好ましい。
【0057】
第一の実施形態において、工程(3)では、触媒原料液Aおよび触媒原料液Bのいずれか一方が入った下記式(iv)を満たす容器内に、他方の液を添加して混合することが好ましい。また、第二の実施形態において、工程(3)では、触媒原料液Aが入った下記式(iv)を満たす容器内に、触媒原料液Bを添加して混合することが好ましい。
【0058】
0.1≦S3/W2≦50 (iv)
式(iv)中、Sは容器内液の液面の表面積[m2]を示し、Wは容器内液の容積[m3]を示す。ここで、「容器内液」とは容器内に入れられている前記触媒原料液A又は前記触媒原料液Bを示す。
【0059】
S3/W2は触媒原料液Aと触媒原料液Bとを混合する容器の形状に係る値である。前記式(iv)を満たすように触媒原料液Aと触媒原料液Bとを混合する容器の形状を調整することで、容器内液の容積に対する液面の表面積が好ましい範囲となり、安定した撹拌状態を維持することができる。S3/W2の値は、下限は0.5以上がより好ましく、0.8以上がさらに好ましい。
【0060】
前記工程(1)および(2)において調製容器を用いて前記触媒原料液Aおよび前記触媒原料液Bをそれぞれ調製した場合には、触媒原料液A及び触媒原料液Bのいずれか一方(触媒原料液A)をそのまま該調製容器に入れておき、他方の液(触媒原料液B)を添加してもよく、前記式(iv)を満たすようにするため、新たに用意した容器に移し替えて、添加液を添加してもよい。また、容器を複数用いて、それぞれの容器において前記式(iv)を満たすように容器内液に添加液を添加してもよい。
【0061】
Sの値は特に限定されないが、0.01m2≦S≦3m2が好ましく、下限は0.05m2以上、上限は2m2以下がより好ましい。また、Wの値は特に限定されないが、0.1m3≦W≦4.5m3が好ましく、下限は0.5m3以上、上限は3.0m3以下がより好ましい。
【0062】
工程(3)において、前記容器内液の液面の上部に前記添加口が配置されていることが好ましい。また、T/Sの値は下記式(v)を満たすことが好ましい。
【0063】
2≦T/S≦100 (v)
式(v)中、Tは前記式(i)と同義であり、Sは前記式(iv)と同義である。T/Sは容器内液の液面の単位表面積当たりの添加口の数を示し、前記式(v)を満たすように調整することで、安定した撹拌状態を維持することができる。T/Sの値は、下限は3以上がより好ましく、4以上がさらに好ましい。上限は80以下がより好ましく、60以下がさらに好ましい。
【0064】
更に、前記容器内液の液面の中心から、中心角が360°/Tとなるように、該液面に略平行に容器の壁面へ向けて引いたT本の直線で分割される該液面の領域をそれぞれY1~YTとするとき、前記添加口は各Y1~YTの上部にそれぞれ1つずつ配置されていることがより好ましい。前記添加口をこのように配置することで、触媒原料液Aと触媒原料液Bを混合する際に、両液の接触面がより均等となり、混合状態が安定することでメタクリル酸収率向上に有効な触媒粒子を安定して生成することができる。なお、「容器内液の液面の中心」とは、容器内液の液面の重心を示し、例えば液面の形状が円形の場合には円の中心、液面の形状が長方形の場合には対角線の交点であることができる。また、「略平行」とは±5°の範囲内で平行であることを示す。特に、Y1の上部に存在する添加口から容器内液の液面上に垂線を下したときの接点をZ1とするとき、容器内液の液面の中心を軸として360°/TずつZ1を回転移動させた位置の上部に、全ての添加口が存在することが好ましい。
【0065】
工程(3)において、前記添加口は、前記容器内液の液面の中心を中心として、下記式(vi)で算出される半径R[m]で描かれる円形領域内の上部に存在しないことが好ましい。すなわち、前記添加口は、前記円形領域の範囲外の上部に全て存在することが好ましい。
【0066】
【数2】
式(vi)中、Sは前記式(iv)と同義である。前記容器内液の液面が円形である場合、下記式(vi)においてRは容器内液の液面の半径の1/3となる。添加口をこのように配置することで、触媒原料液Aと触媒原料液Bを混合する際に、両液の接触面がさらに均等となり、混合状態が安定することでメタクリル酸収率向上に有効な触媒粒子を安定して生成することができる。
【0067】
また、第一の実施形態では、工程(3)において、触媒原料液Aが入った容器に、触媒原料液Bを添加して混合することが好ましい。カチオン原料を含む触媒原料液を添加液として混合することで、よりメタクリル酸収率向上に有効な触媒粒子が生成されやすくなると推測される。
【0068】
工程(3)で得られる液体は、ケギン型構造を有するヘテロポリ酸またはその塩を含む。液体がケギン型構造を有するヘテロポリ酸またはその塩を含むことにより、生成した触媒粒子が変化せず安定して存在できるため、メタクリル酸収率の高い触媒を得ることができる。なお、前記液体がケギン型構造を有するヘテロポリ酸またはその塩を含むことは、前記液体を乾燥させたものを赤外吸収分析で測定することにより確認することができる。ケギン型構造を有するヘテロポリ酸またはその塩を含む場合、得られる赤外吸収スペクトルは、1060、960、870、780cm-1付近に特徴的なピークを有する。
【0069】
工程(3)で得られる液体のpHは、3.0以下であることが好ましく、2.5以下であることがより好ましい。該pHが3.0以下であることにより、ケギン型構造を有するヘテロポリ酸またはその塩を含む液体を簡便に得ることができる。該pHを3.0以下とする方法としては、触媒原料液AのpHを予め低く調節しておく方法等が挙げられる。
【0070】
(乾燥工程)
本発明に係る方法は、前記工程(3)で得られた前記ケギン型構造を有するヘテロポリ酸またはその塩を含む液体を乾燥し、触媒前駆体を得る工程を含むことが好ましい。前記液体の乾燥方法や乾燥温度等の条件は特に限定されず、所望の乾燥物の形状や大きさにより適宣選択することができる。乾燥方法としては、例えば、箱型乾燥器を用いた乾燥方法、ドラム乾燥法、気流乾燥法、蒸発乾固法、噴霧乾燥法等が挙げられる。乾燥温度は、例えば120~500℃とすることができ、下限は140℃以上、上限は400℃以下が好ましい。乾燥は、前記液体が乾固するまで行うことができる。
【0071】
(成形工程)
本発明に係る方法は、後述する熱処理工程の前に、前記乾燥工程で得られた前記触媒前駆体を成形する工程を実施してもよい。成形方法は特に制限されず、公知の乾式又は湿式の成形方法が適用できる。例えば、打錠成形、プレス成形、押出成形、造粒成形等が挙げられる。成形品の形状は特に限定されず、例えば、円柱状、リング状、球状等が挙げられる。また、成形時には触媒前駆体に担体やバインダー等を添加せず、触媒前駆体を単独で成形することが好ましいが、必要に応じて例えばグラファイト、タルク等の公知の添加剤や有機物、無機物由来の公知のバインダーを添加してもよい。以下、前記乾燥工程により得られる触媒前駆体および前記成形工程により得られる触媒前駆体の成形品をまとめて触媒前駆体と示す。
【0072】
(熱処理工程)
本発明に係る方法は、前記触媒前駆体を熱処理する工程を含むことが好ましい。例えば、前記触媒前駆体を空気及び不活性ガスの少なくとも一方の流通下で熱処理することができる。前記熱処理は、空気等の酸素含有ガス流通下で行われることが好ましい。また、「不活性ガス」とは触媒活性を低下させない気体のことを示し、例えば窒素、炭酸ガス、ヘリウム、アルゴン等が挙げられる。これらは一種を用いてもよく、二種以上を混合して使用してもよい。熱処理容器の形状は特に制限されないが、断面積が2平方センチメートル以上、100平方センチメートル以下である管状熱処理容器を用いることが好ましい。熱処理温度は300℃以上700℃以下が好ましく、下限は320℃以上、上限は450℃以下がより好ましい。
【0073】
このようにして得られるメタクリル酸製造用触媒は、ケギン型構造を有するヘテロポリ酸またはその塩を含むことが、メタクリル酸収率がより高い観点から好ましい。ケギン型構造を有するヘテロポリ酸またはその塩を含むことは、前述したように赤外吸収分析で測定することにより確認することができる。
【0074】
[メタクリル酸の製造方法]
本発明に係るメタクリル酸の製造方法では、本発明に係る方法により製造されたメタクリル酸製造用触媒の存在下で、メタクロレインを分子状酸素により気相接触酸化してメタクリル酸を製造する。また、本発明に係るメタクリル酸の製造方法では、本発明に係る方法によりメタクリル酸製造用触媒を製造し、該メタクリル酸製造用触媒の存在下でメタクロレインを分子状酸素により気相接触酸化してメタクリル酸を製造する。これらの方法によれば、高い収率でメタクリル酸を製造することができる。具体的には、メタクロレインおよび分子状酸素を含む原料ガスと、本発明に係るメタクリル酸製造用触媒とを接触させることでメタクリル酸を製造することができる。この反応は固定床で行うことができる。触媒層は1層でもよく、2層以上でもよい。メタクリル酸製造用触媒は、担体に担持されていてもよく、その他の添加剤を含んでもよい。原料ガス中のメタクロレインの濃度は特に限定されないが、1~20容量%が好ましく、下限は3容量%以上、上限は10容量%以下がより好ましい。メタクロレインは、低級飽和アルデヒド等の本反応に実質的に影響を与えない不純物を少量含んでいてもよい。原料ガス中の分子状酸素の濃度は、メタクロレイン1モルに対して0.4~4モルが好ましく、下限は0.5モル以上、上限は3モル以下がより好ましい。なお、分子状酸素源としては、経済性の観点から空気が好ましいが、必要であれば、空気に純酸素を加えて分子状酸素を富化した気体等を用いてもよい。原料ガスは、メタクロレインおよび分子状酸素を、窒素、炭酸ガス等の不活性ガスで希釈したものであってもよい。さらに、原料ガスに水蒸気を加えてもよい。水蒸気の存在下で反応を行うことにより、メタクリル酸をより高い収率で得ることができる。原料ガス中の水蒸気の濃度は、0.1~50容量%が好ましく、下限は1容量%以上、上限は40容量%以下がより好ましい。原料ガスとメタクリル酸製造用触媒との接触時間は、1.5~15秒が好ましく、下限は2秒以上、上限は5秒以下がより好ましい。反応圧力は、0.1MPa(G)~1.0MPa(G)が好ましい。なお、(G)はゲージ圧であることを意味する。反応温度は200~450℃が好ましく、下限は250℃以上、上限は400℃以下がより好ましい。
【0075】
[メタクリル酸エステルの製造方法]
本発明に係るメタクリル酸エステルの製造方法は、本発明に係る方法により製造されたメタクリル酸をエステル化する。該方法によれば、メタクロレインの気相接触酸化により得られるメタクリル酸を用いて、メタクリル酸エステルを得ることができる。メタクリル酸と反応させるアルコールとしては、メタノール、エタノール、イソプロパノール、n-ブタノール、イソブタノール等が挙げられる。得られるメタクリル酸エステルとしては、例えばメタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸プロピル、メタクリル酸ブチル等が挙げられる。反応は、スルホン酸型カチオン交換樹脂等の酸性触媒の存在下で行うことができる。反応温度は50~200℃が好ましい。
【実施例】
【0076】
以下、実施例および比較例により本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。実施例および比較例中の「部」は質量部を意味する。触媒の元素組成のモル比は、触媒をアンモニア水に溶解した成分をICP発光分析法で分析することによって算出した。原料ガスおよび生成物の分析は、ガスクロマトグラフィーを用いて行った。ガスクロマトグラフィーの結果から、メタクロレインの転化率、生成するメタクリル酸の選択率及びメタクリル酸の単流収率を下記式にて求めた。
【0077】
メタクロレイン転化率(%)=(B/A)×100
メタクリル酸選択率(%)=(C/B)×100
メタクリル酸単流収率=(C/A)×100
式中、Aは供給したメタクロレインの炭素数、Bは反応したメタクロレインの炭素数、Cは生成したメタクリル酸の炭素数を示す。
【0078】
またu2は、触媒原料液Bのモル濃度[mol/L]とu1の積として算出した。
【0079】
[実施例1]
純水400部に、三酸化モリブデン100部、メタバナジン酸アンモニウム7.5部、85質量%リン酸水溶液11.4部、および硝酸銅(II)3水和物7.0部を溶解した。これを攪拌しながら95℃に昇温し、液温を95℃に保ちつつ2時間攪拌して触媒原料液Aを得た。触媒原料液AのpHは2.1であった。一方、純水20部に重炭酸セシウム15.7部を溶解して触媒原料液B1を得た。また、純水20部に重炭酸アンモニウム20.0部を溶解して触媒原料液B2を得た。前記触媒原料液A、前記触媒原料液B1および前記触媒原料液B2の合計の容積は2.1m3であった。
【0080】
容器内の触媒原料液Aの液温を95℃に保持したまま、触媒原料液Aを、回転翼攪拌機を用いて攪拌しつつ、触媒原料液B1を添加して15分攪拌した。その後、触媒原料液B2を添加して15分攪拌した。なお、触媒原料液B1およびB2を添加する際には、T=10、S=1.54m2、V=1.9m3、S3/W2=1.01、T/(3√V)=8.1、T/S=6.5、u1=0.20L/分とした。この時のu2については、触媒原料液B1が0.62mol/分、触媒原料液B2が1.40mol/分であった。また、直径2mmの添加口が等間隔に設けられた半径3×(√(S/π))/7[m]のリング状配管を、該リング状配管の中心が容器内液の液面の中心の上部に位置するように、また領域Y1~Y10の上部に添加口がそれぞれ1つずつ配置されるように配置した。該リング状配管の添加口から触媒原料液B1およびB2を順次添加した。得られたスラリーには、ケギン型構造を有するヘテロポリ酸またはその塩が含まれていた。その後、該スラリーを噴霧乾燥することで、触媒前駆体を得た。
【0081】
前記触媒前駆体を成形し、内径3cmの円筒状石英ガラス製焼成容器に入れた。空気流通下、10℃/hで昇温し、380℃にて2時間熱処理することで、メタクリル酸製造用触媒を調製した。得られたメタクリル酸製造用触媒は、ケギン型構造を有していた。また、得られたメタクリル酸製造用触媒の酸素以外の元素組成は、Mo12P1.7V1.1Cu0.5Cs1.4であった。
【0082】
前記メタクリル酸製造用触媒を反応管に充填し、メタクロレイン5容量%、酸素10容量%、水蒸気30容量%および窒素55容量%からなる原料ガスを流通させ、反応温度300℃で反応を行った。生成物を捕集し、ガスクロマトグラフィーで分析して、メタクリル酸収率を算出した。結果を表1に示す。
【0083】
[実施例2]
触媒原料液A、触媒原料液B1および触媒原料液B2の合計の容積を0.10m3、T=4、S=0.196m2、V=0.088m3、S3/W2=0.97、T/(3√V)=9.0、T/S=20.4、u1=0.03L/分に変更し、領域Y1~Y4の上部に添加口がそれぞれ1つずつ配置されるように、直径2mmの添加口が等間隔に設けられた半径3×(√(S/π))/5[m]のリング状配管を用いた。また、この時のu2については、触媒原料液B1が0.09mol/分、触媒原料液B2が0.21mol/分であった。これら以外は、実施例1と同様の方法によりスラリーを得た。得られたスラリーには、ケギン型構造を有するヘテロポリ酸またはその塩が含まれていた。その後、実施例1と同様にメタクリル酸製造用触媒を調製した。得られたメタクリル酸製造用触媒は、ケギン型構造を有していた。また、得られたメタクリル酸製造用触媒の酸素以外の元素組成は、Mo12P1.7V1.1Cu0.5Cs1.4であった。また、該メタクリル酸製造用触媒を用いた以外は、実施例1と同様にメタクリル酸を製造した。結果を表1に示す。
【0084】
[実施例3]
T=13、S=1.54m2、V=1.9m3、S3/W2=1.01、T/(3√V)=10.5、T/S=8.4、u1=0.26L/分に変更し、領域Y1おいて、容器内液の液面の中心から半径5×(√(S/π))/7[m]以上の領域の上部に全ての添加口を配置した。また、この時のu2については、触媒原料液B1が0.80mol/分、触媒原料液B2が1.83mol/分であった。これら以外は、実施例1と同様の方法によりスラリーを得た。得られたスラリーには、ケギン型構造を有するヘテロポリ酸またはその塩が含まれていた。その後、実施例1と同様にメタクリル酸製造用触媒を調製した。得られたメタクリル酸製造用触媒は、ケギン型構造を有していた。また、得られたメタクリル酸製造用触媒の酸素以外の元素組成は、Mo12P1.7V1.1Cu0.5Cs1.4であった。また、該メタクリル酸製造用触媒を用いた以外は、実施例1と同様にメタクリル酸を製造した。結果を表1に示す。
【0085】
[比較例1]
触媒原料液A、触媒原料液B1および触媒原料液B2の合計の容積を0.0014m3、T=1、S=0.0177m2、V=0.0013m3、S3/W2=3.28、T/(3√V)=9.2、T/S=56.5、u1=1.41L/分に変更し、容器内液の液面の中心から4×(√(S/π))/5[m]の位置の上部に添加口を配置した。また、この時のu2については、触媒原料液B1が4.35mol/分、触媒原料液B2が9.90mol/分であった。これら以外は、実施例1と同様の方法によりスラリーを得た。得られたスラリーには、ケギン型構造を有するヘテロポリ酸またはその塩が含まれていた。その後、実施例1と同様にメタクリル酸製造用触媒を調製した。得られたメタクリル酸製造用触媒は、ケギン型構造を有していた。また、得られたメタクリル酸製造用触媒の酸素以外の元素組成は、Mo12P1.7V1.1Cu0.5Cs1.4であった。また、該メタクリル酸製造用触媒を用いた以外は、実施例1と同様にメタクリル酸を製造した。結果を表1に示す。
【0086】
[比較例2]
触媒原料液A、触媒原料液B1および触媒原料液B2の合計の容積を0.00048m3、T=1、S=0.00785m2、V=0.00043m3、S3/W2=2.62、T/(3√V)=13.2、T/S=127.4、u1=0.07L/分に変更し、容器内液の液面の中心から2×(√(S/π))/5[m]の位置の上部に添加口を配置した。また、この時のu2については、触媒原料液B1が0.22mol/分、触媒原料液B2が0.49mol/分であった。これら以外は、実施例1と同様の方法によりスラリーを得た。得られたスラリーには、ケギン型構造を有するヘテロポリ酸またはその塩が含まれていた。その後、実施例1と同様にメタクリル酸製造用触媒を調製した。得られたメタクリル酸製造用触媒は、ケギン型構造を有していた。また、得られたメタクリル酸製造用触媒の酸素以外の元素組成は、Mo12P1.7V1.1Cu0.5Cs1.4であった。また、該メタクリル酸製造用触媒を用いた以外は、実施例1と同様にメタクリル酸を製造した。結果を表1に示す。
【0087】
[比較例3]
純水400部に、三酸化モリブデン100部、メタバナジン酸アンモニウム7.5部、85質量%リン酸水溶液11.4部を溶解した。これを攪拌しながら95℃に昇温し、液温を95℃に保ちつつ2時間攪拌して触媒原料液Aを調製した。触媒原料液AのpHは6.9であった。一方、純水20部に硝酸セシウム15.8部を溶解して触媒原料液B1を調製した。また、純水20部に30質量%のアンモニア水40.0部を溶解して触媒原料液B2を調製した。また、純水40部に硝酸銅(II)3水和物7.0部を溶解して触媒原料液B3を調製した。前記触媒原料液A、前記触媒原料液B1~B3の合計の容積は2.3m3であった。
【0088】
容器内の触媒原料液Aの液温を50℃に冷却して保持したまま、触媒原料液Aを、回転翼攪拌機を用いて攪拌しつつ、触媒原料液B1を添加して15分攪拌した。その後、触媒原料液B2を添加して15分攪拌した。さらに、触媒原料液B3を添加した。なお、触媒原料B1からB3は実施例3と同様に添加した。また、この時のu2については、触媒原料液B1が0.80mol/分、触媒原料液B2が2.87mol/分、触媒原料液B3が0.18mol/分であった。得られたスラリーには、ドーソン型構造を有するヘテロポリ酸またはその塩が含まれていた。
【0089】
その後、実施例1と同様にメタクリル酸製造用触媒を調製した。得られたメタクリル酸製造用触媒は、ドーソン型構造を有していた。また、得られたメタクリル酸製造用触媒の酸素以外の元素組成は、Mo12P1.7V1.1Cu0.5Cs1.4であった。また、該メタクリル酸製造用触媒を用いた以外は、実施例1と同様にメタクリル酸を製造した。結果を表1に示す。
【0090】
[比較例4]
比較例3と同様に、触媒原料液A、B1~B3を調製した。容器内の触媒原料液Aの液温を50℃に冷却して保持したまま、触媒原料液Aを、回転翼攪拌機を用いて攪拌しつつ、触媒原料液B1を添加して15分攪拌した。その後、触媒原料液B2を添加して15分攪拌した。さらに、触媒原料液B3を添加した。なお、触媒原料B1からB3は実施例1と同様に添加した。また、この時のu2については、触媒原料液B1が0.62mol/分、触媒原料液B2が2.21mol/分、触媒原料液B3が0.14mol/分であった。得られたスラリーには、ドーソン型構造を有するヘテロポリ酸またはその塩が含まれていた。
【0091】
その後、実施例1と同様にメタクリル酸製造用触媒を調製した。得られたメタクリル酸製造用触媒は、ドーソン型構造を有していた。また、得られたメタクリル酸製造用触媒の酸素以外の元素組成は、Mo12P1.7V1.1Cu0.5Cs1.4であった。また、該メタクリル酸製造用触媒を用いた以外は、実施例1と同様にメタクリル酸を製造した。結果を表1に示す。
【0092】
【0093】
実施例1、2および3では、T/(3√V)の値並びにu1およびu2の値が本発明の範囲内にあり、収率が高い触媒であることが確認された。なお、実施例3では、添加口が領域Y1の上部にのみ配置されており、実施例1および2と比較すると収率がやや低い触媒となった。また、比較例1ではu1および触媒原料液B2のu2の値が、比較例2ではT/(3√V)の値がそれぞれ本発明の範囲外であるため、実施例と比較して収率が低かった。また、比較例3および4では、得られたスラリーがケギン型構造を有するヘテロポリ酸またはその塩を含まなかったため、実施例と比較して収率が低かった。なお、本実施例で得られたメタクリル酸をエステル化することで、メタクリル酸エステルを得ることができる。
【0094】
この出願は、2016年8月22日に出願された日本出願特願2016-161888を基礎とする優先権を主張し、その開示の全てをここに取り込む。
【0095】
以上、実施形態及び実施例を参照して本願発明を説明したが、本願発明は上記実施形態及び実施例に限定されるものではない。本願発明の構成や詳細には、本願発明のスコープ内で当業者が理解し得る様々な変更をすることができる。
【産業上の利用可能性】
【0096】
本発明に係る方法により得られるメタクリル酸製造用触媒は、高い収率でメタクリル酸を製造できるため、工業的に有用である。