IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 日立化成株式会社の特許一覧

特許7003998エポキシ樹脂、エポキシ樹脂組成物、エポキシ樹脂硬化物及び複合材料
<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-01-06
(45)【発行日】2022-01-21
(54)【発明の名称】エポキシ樹脂、エポキシ樹脂組成物、エポキシ樹脂硬化物及び複合材料
(51)【国際特許分類】
   C08G 59/24 20060101AFI20220114BHJP
   C08L 63/00 20060101ALI20220114BHJP
【FI】
C08G59/24
C08L63/00 C
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2019544146
(86)(22)【出願日】2017-09-29
(86)【国際出願番号】 JP2017035658
(87)【国際公開番号】W WO2019064544
(87)【国際公開日】2019-04-04
【審査請求日】2020-07-17
(73)【特許権者】
【識別番号】000004455
【氏名又は名称】昭和電工マテリアルズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】特許業務法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】丸山 直樹
(72)【発明者】
【氏名】吉田 優香
(72)【発明者】
【氏名】東内 智子
(72)【発明者】
【氏名】福田 和真
(72)【発明者】
【氏名】西村 圭一郎
(72)【発明者】
【氏名】竹澤 由高
【審査官】岡谷 祐哉
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2009/110424(WO,A1)
【文献】特開2011-057921(JP,A)
【文献】特開2015-203086(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08G 59/24
C08L 63/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
2つ以上のメソゲン構造と1つ以上のフェニレン基とを有するエポキシ化合物Aと、2つ以上のメソゲン構造と1つ以上の2価のビフェニル基とを有するエポキシ化合物Bと、を含み、前記エポキシ化合物A及び前記エポキシ化合物Bが有する2つ以上の前記メソゲン構造が下記一般式(3)で表されるメソゲン構造である、エポキシ樹脂。
【化1】

(一般式(3)中、R ~R はそれぞれ水素原子を示す。)
【請求項2】
前記エポキシ化合物A及び前記エポキシ化合物Bの少なくとも一方は、2つの前記メソゲン構造の間に1つの前記フェニレン基又は前記2価のビフェニル基が配置された状態の構造を有する、請求項1に記載のエポキシ樹脂。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載のエポキシ樹脂と、硬化剤と、を含む、エポキシ樹脂組成物。
【請求項4】
硬化させた場合にスメクチック構造を形成可能である、請求項に記載のエポキシ樹脂組成物。
【請求項5】
請求項又は請求項に記載のエポキシ樹脂組成物の硬化物である、エポキシ樹脂硬化物。
【請求項6】
請求項に記載のエポキシ樹脂硬化物と、強化材と、を含む複合材料。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エポキシ樹脂、エポキシ樹脂組成物、エポキシ樹脂硬化物及び複合材料に関する。
【背景技術】
【0002】
エポキシ樹脂は、繊維強化プラスチック(FRP)のマトリックス樹脂として広く利用されている。最近では、破壊靭性、弾性、耐熱性等の諸物性に高い水準が要求される航空宇宙用途で使用するFRPのマトリックス樹脂としてもエポキシ樹脂が使用されている。しかしながら、エポキシ樹脂等の熱硬化性樹脂は、熱可塑性樹脂に比べて耐熱性に優れる一方、破壊靱性に劣る傾向にある。
【0003】
エポキシ樹脂の破壊靱性を向上させる手法としては、例えば、分子中にメソゲン構造を導入して硬化物中における分子の配向性を高めることが知られている。
分子中にメソゲン構造を有するエポキシ樹脂(以下、メソゲン含有エポキシ樹脂とも称する)は、一般に他のエポキシ樹脂に比べて結晶性が強く、粘度が高い。このため、作業時に充分な流動性が得られない場合がある。そこで、メソゲン含有エポキシ樹脂の流動性を向上する方法として、メソゲン構造を有するエポキシモノマーと2価フェノール化合物とを反応させて、特定範囲の分子量のエポキシ化合物の状態にする技術が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
一方、液晶性ポリエステルを液晶状態で射出成形すると、金型内でのせん断流動により分子が一定の方向に配向することが報告されている(例えば、非特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】国際公開第2016-104772号
【非特許文献】
【0005】
【文献】Yoshihara et al., Polymer Preprints, Japan, 61(1), 625(2012)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に記載されたメソゲン含有エポキシ樹脂は、軟化点の低下が達成されているが、依然として結晶性が強く、作業時の温度条件下での粘度が高いために無溶剤では塗工が困難であるなど、取り扱い性の観点から改善の余地がある。
また、作業時の温度条件下での低粘度化が達成できたとしても、他の要因(例えば、非特許文献1に報告されているような樹脂のせん断流動による分子の配向)によって粘度が上昇する可能性も考慮する必要がある。
本発明は上記状況に鑑み、作業時の粘度安定性に優れるエポキシ樹脂及びエポキシ樹脂組成物、並びにこれらを用いて得られるエポキシ樹脂硬化物及び複合材料を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するための手段には、以下の実施態様が含まれる。
<1>2つ以上のメソゲン構造と1つ以上のフェニレン基とを有するエポキシ化合物Aと、2つ以上のメソゲン構造と1つ以上の2価のビフェニル基とを有するエポキシ化合物Bと、を含むエポキシ樹脂。
<2>前記エポキシ化合物A及び前記エポキシ化合物Bの少なくとも一方は、2つの前記メソゲン構造の間に1つの前記フェニレン基又は前記2価のビフェニル基が配置された状態の構造を有する、<1>に記載のエポキシ樹脂。
<3>前記エポキシ化合物A及び前記エポキシ化合物Bの少なくとも一方が有する2つ以上の前記メソゲン構造のうち、少なくとも1つが下記一般式(3)で表されるメソゲン構造である、<1>又は<2>に記載のエポキシ樹脂。
【化1】


(一般式(3)中、R~Rはそれぞれ独立に、水素原子又は炭素数1~3のアルキル基を示す。)
<4><1>~<3>のいずれか1項に記載のエポキシ樹脂と、硬化剤と、を含む、エポキシ樹脂組成物。
<5>硬化させた場合にスメクチック構造を形成可能である、<4>に記載のエポキシ樹脂組成物。
<6><4>又は<5>に記載のエポキシ樹脂組成物の硬化物である、エポキシ樹脂硬化物。
<7><6>に記載のエポキシ樹脂硬化物と、強化材と、を含む複合材料。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、作業時の粘度安定性に優れるエポキシ樹脂及びエポキシ樹脂組成物、並びにこれらを用いて得られるエポキシ樹脂硬化物及び複合材料が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明を実施するための形態について詳細に説明する。但し、本発明は以下の実施形態に限定されるものではない。以下の実施形態において、その構成要素(要素ステップ等も含む)は、特に明示した場合を除き、必須ではない。数値及びその範囲についても同様であり、本発明を制限するものではない。
【0010】
本開示において「工程」との語には、他の工程から独立した工程に加え、他の工程と明確に区別できない場合であってもその工程の目的が達成されれば、当該工程も含まれる。
本開示において「~」を用いて示された数値範囲には、「~」の前後に記載される数値がそれぞれ最小値及び最大値として含まれる。
本開示中に段階的に記載されている数値範囲において、一つの数値範囲で記載された上限値又は下限値は、他の段階的な記載の数値範囲の上限値又は下限値に置き換えてもよい。また、本開示中に記載されている数値範囲において、その数値範囲の上限値又は下限値は、実施例に示されている値に置き換えてもよい。
本開示において各成分は該当する物質を複数種含んでいてもよい。組成物中に各成分に該当する物質が複数種存在する場合、各成分の含有率又は含有量は、特に断らない限り、組成物中に存在する当該複数種の物質の合計の含有率又は含有量を意味する。
本開示において各成分に該当する粒子は複数種含んでいてもよい。組成物中に各成分に該当する粒子が複数種存在する場合、各成分の粒子径は、特に断らない限り、組成物中に存在する当該複数種の粒子の混合物についての値を意味する。
本明細書において「エポキシ化合物」とは、分子中にエポキシ基を有する化合物を意味する。「エポキシ樹脂」とは、複数のエポキシ化合物を集合体として捉える概念であって硬化していない状態のものを意味する。
【0011】
<エポキシ樹脂>
本開示のエポキシ樹脂は、2つ以上のメソゲン構造と1つ以上のフェニレン基とを有するエポキシ化合物Aと、2つ以上のメソゲン構造と1つ以上の2価のビフェニル基とを有するエポキシ化合物Bと、を含む。
【0012】
本開示において、エポキシ化合物Aが有する2つ以上のメソゲン構造がフェニレン基を含む場合、当該フェニレン基は「1つ以上のフェニレン基」とは異なるものとする。エポキシ化合物Bが有する2つ以上のメソゲン構造が2価のビフェニル基を含む場合、当該2価のビフェニル基は「1つ以上の2価のビフェニル基」とは異なるものとする。
【0013】
エポキシ樹脂に含まれるエポキシ化合物A及びエポキシ化合物Bは、それぞれ1種のみでも2種以上であってもよい。また、エポキシ化合物A及びエポキシ化合物Bが有するメソゲン構造は同じであっても異なっていてもよい。
【0014】
本発明者らの検討により、エポキシ化合物Bを含むエポキシ樹脂は、特許文献1に記載のメソゲン構造を有するエポキシモノマーと2価フェノール化合物とを反応させて得られる化合物(エポキシ化合物A)を含むエポキシ樹脂よりも、昇温時に粘度が低下しやすく取り扱い性に優れていることがわかった。すなわち、分子中にフェニレン基を有するエポキシ化合物Aは、それ単体では作業時(例えば、100℃以下)の温度でスメクチック液晶相をとるのに対し、分子中にビフェニル基を有するエポキシ化合物Bは、それ単体では常温(25℃)から150℃までのすべての温度域においてネマチック液晶相であるか、等方相である。これは、エポキシ化合物Bの分子中のビフェニル基はフェニレン基に比べて分子量が大きいため、分子の配向性が低下し、高次な構造であるスメクチック液晶相を取らないためと考えられる。このため、エポキシ化合物Bを含むエポキシ樹脂の方がエポキシ化合物Aを含むエポキシ樹脂よりも作業時の温度条件での粘度が低く、流動性に優れる傾向にあると考えられる。
【0015】
さらに、エポキシ化合物Aとエポキシ化合物Bの両方を含むエポキシ樹脂は、エポキシ化合物Bのみを含むエポキシ樹脂に比べてせん断応力が連続的に印加される状況下での粘度安定性に優れていることがわかった。これは、分子中にビフェニル基を有するエポキシ化合物Bは、分子中にフェニレン基を有するエポキシ化合物Aに比べ、せん断応力等の物理的な刺激をきっかけにして分子が配向しやすい性質を持っているためと考えられる。このため、例えば、エポキシ樹脂を硬化剤と混合する際に、エポキシ樹脂にせん断応力が連続的に印加されることで粘度上昇がより生じやすくなっていると考えられる。
【0016】
本開示のエポキシ樹脂は、エポキシ化合物Aとエポキシ化合物Bの両方を含むことで、作業時の温度域における低粘度化と、せん断応力が連続的に印加される状況下での粘度安定性を両立している。
【0017】
エポキシ樹脂中のエポキシ化合物Aとエポキシ化合物Bの質量基準の比率は、特に制限されない。作業時の温度域における低粘度化と、せん断応力が連続的に印加される状況下での粘度安定性を両立する観点からは、エポキシ化合物Aとエポキシ化合物Bの比率(エポキシ化合物A:エポキシ化合物B)は1:9~9:1であることが好ましく、3:7~9:1であることがより好ましく、4:6~8:2であることがさらに好ましく、6:4~8:2であることが特に好ましい。
【0018】
エポキシ樹脂は、エポキシ化合物A及びエポキシ化合物B以外のエポキシ化合物を含んでいてもよい。例えば、後述するメソゲンエポキシモノマーを含んでいてもよい。
【0019】
エポキシ樹脂がエポキシ化合物A及びエポキシ化合物B以外のエポキシ化合物を含む場合、エポキシ化合物Aとエポキシ化合物Bの合計含有率は、特に制限されない。例えば、エポキシ樹脂全体の70質量%~99質量%であることが好ましく、80質量%~99質量%であることがより好ましく、90質量%~99質量%であることがさらに好ましい。
【0020】
(特定エポキシ化合物)
エポキシ化合物A及びエポキシ化合物B(以下、両者をあわせて特定エポキシ化合物とも称する)は、2つ以上のメソゲン構造と、1つ以上のフェニレン基又は2価のビフェニル基と、を有するものであれば、その構造は特に制限されない。
特定エポキシ化合物の1分子中に含まれる2つ以上のメソゲン構造は、異なっていても同じであってもよい。
【0021】
特定エポキシ化合物が有するメソゲン構造とは、これを有するエポキシ化合物を含むエポキシ樹脂が液晶性を発現する可能性のある構造を意味する。具体的には、ビフェニル構造、フェニルベンゾエート構造、シクロヘキシルベンゾエート構造、アゾベンゼン構造、スチルベン構造、ターフェニル構造、アントラセン構造、これらの誘導体、これらのメソゲン構造の2つ以上が結合基を介して結合した構造等が挙げられる。
【0022】
メソゲン構造を有するエポキシ化合物を含むエポキシ樹脂は、硬化物中に高次構造を形成する。ここで、高次構造とは、その構成要素が配列してミクロな秩序構造を形成した高次構造体を含む構造を意味し、例えば結晶相及び液晶相が相当する。このような高次構造体の存在の有無は、偏光顕微鏡によって判断することができる。すなわち、クロスニコル状態での観察において、偏光解消による干渉縞が見られることで判別可能である。この高次構造体は、通常はエポキシ樹脂組成物の硬化物中に島状に存在してドメイン構造を形成しており、その島の一つが一つの高次構造体に対応する。この高次構造体の構成要素自体は、一般には共有結合により形成されている。
【0023】
硬化した状態で形成される高次構造としては、ネマチック構造とスメクチック構造とが挙げられる。ネマチック構造とスメクチック構造は、それぞれ液晶構造の一種である。ネマチック構造は分子長軸が一様な方向を向いており、配向秩序のみをもつ液晶構造である。これに対し、スメクチック構造は配向秩序に加えて一次元の位置の秩序を持ち、層構造を有する液晶構造である。秩序性はネマチック構造よりもスメクチック構造の方が高い。従って、硬化物の熱伝導性及び破壊靭性の観点からは、スメクチック構造の高次構造を形成することがより好ましい。
【0024】
エポキシ樹脂の硬化物中にスメクチック構造が形成されているか否かは、硬化物のX線回折測定により判断できる。X線回折測定は、例えば、株式会社リガク製のX線回折装置を用いて行うことができる。CuKα1線を用い、管電圧40kV、管電流20mA、2θ=2°~30°の範囲で測定すると、スメクチック構造を有している硬化物であれば、2θ=2°~10°の範囲に回折ピークが現れる。
【0025】
特定エポキシ化合物が有するメソゲン構造は、下記一般式(1)で表される構造であってもよい。
【0026】
【化2】

【0027】
一般式(1)中、Xは単結合又は下記2価の基からなる群(A)より選択される少なくとも1種の連結基を示す。Yはそれぞれ独立に、炭素数1~8の脂肪族炭化水素基、炭素数1~8の脂肪族アルコキシ基、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子、シアノ基、ニトロ基、又はアセチル基を示す。nは各々独立に0~4の整数を示す。
【0028】
【化3】

【0029】
群(A)中、Yはそれぞれ独立に、炭素数1~8の脂肪族炭化水素基、炭素数1~8の脂肪族アルコキシ基、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子、シアノ基、ニトロ基、又はアセチル基を示す。nは各々独立に0~4の整数を示し、kは0~7の整数を示し、mは0~8の整数を示し、lは0~12の整数を示す。
【0030】
一般式(1)で表されるメソゲン構造において、Xが上記2価の基からなる群(A)より選択される少なくとも1種の連結基である場合、下記2価の基からなる群(Aa)より選択される少なくとも1種の連結基であることが好ましく、群(Aa)より選択される少なくとも1種の連結基であって少なくとも1つの環状構造を含む連結基であることがより好ましい。
【0031】
【化4】

【0032】
群(Aa)中、Yはそれぞれ独立に、炭素数1~8の脂肪族炭化水素基、炭素数1~8の脂肪族アルコキシ基、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子、シアノ基、ニトロ基、又はアセチル基を示す。nは各々独立に0~4の整数を示し、kは0~7の整数を示し、mは0~8の整数を示し、lは0~12の整数を示す。
【0033】
エポキシ化合物A及びエポキシ化合物Bの少なくとも一方が有する2つ以上のメソゲン構造のうち、少なくとも1つが下記一般式(2)で表されるメソゲン構造であることが好ましく、全部が下記一般式(2)で表されるメソゲン構造であることがより好ましい。
【0034】
【化5】

【0035】
一般式(2)において、X、Y、nの定義及び好ましい例は、一般式(1)のX、Y、nの定義及び好ましい例と同様である。
【0036】
さらに、エポキシ化合物A及びエポキシ化合物Bの少なくとも一方が有する2つ以上のメソゲン構造のうち、少なくとも1つが下記一般式(3)で表されるメソゲン構造であることが好ましく、全部が下記一般式(3)で表されるメソゲン構造であることがより好ましい。
【0037】
【化6】

【0038】
一般式(3)中、R~Rはそれぞれ独立に、水素原子又は炭素数1~3のアルキル基を示す。
【0039】
~Rはそれぞれ独立に、水素原子又は炭素数1~2のアルキル基であることが好ましく、水素原子又はメチル基であることがより好ましく、水素原子であることがさらに好ましい。また、R~Rのうちの2個~4個が水素原子であることが好ましく、3個又は4個が水素原子であることがより好ましく、4個すべてが水素原子であることがさらに好ましい。R~Rのいずれかが炭素数1~3のアルキル基である場合、R及びRの少なくとも一方が炭素数1~3のアルキル基であることが好ましい。
【0040】
特定エポキシ化合物がエポキシ化合物Aである場合、エポキシ化合物Aが有するフェニレン基としては下記一般式(5A)で表される構造が挙げられる。
特定エポキシ化合物がエポキシ化合物Bである場合、エポキシ化合物Bが有する2価のビフェニル基としては下記一般式(5B)で表される構造が挙げられる。
【0041】
【化7】

【0042】
一般式(5A)及び一般式(5B)において、*は隣接する原子との結合位置を表す。隣接する原子としては酸素原子及び窒素原子が挙げられる。R及びRはそれぞれ独立に、炭素数1~8のアルキル基を表す。mはそれぞれ独立に、0~4の整数を表す。
【0043】
及びRはそれぞれ独立に炭素数1~8のアルキル基を表し、炭素数1~3のアルキル基であることが好ましく、メチル基であることがより好ましい。
【0044】
mはそれぞれ独立に、0~2の整数であることが好ましく、0~1の整数であることがより好ましく、0であることがさらに好ましい。
【0045】
一般式(5A)で表される構造の中でも、下記一般式(5a)で表される構造が好ましく、一般式(5B)で表される構造の中でも、下記一般式(5b)で表される構造が好ましい。このような構造を有する特定エポキシ化合物は、分子構造が直線的になりやすい。このため、分子のスタッキング性が高く、高次構造をより形成し易いと考えられる。
【0046】
【化8】

【0047】
一般式(5a)及び一般式(5b)において、*、R、R及びmの定義及び好ましい例は、一般式(5A)及び一般式(5B)の*、R、R及びmの定義及び好ましい例と同様である。
【0048】
特定エポキシ化合物は、2つの一般式(1)で表される構造の間に1つのフェニレン基又は2価のビフェニル基が配置された状態の構造を有することが好ましい。
特定エポキシ化合物が有する「2つの一般式(1)で表される構造の間に1つのフェニレン基又は2価のビフェニル基が配置された状態」の具体的な態様は、特に制限されない。例えば、メソゲン構造及びエポキシ基を有する化合物のエポキシ基と、フェニレン基又はビフェニル基及びエポキシ基と反応しうる官能基を有する化合物の官能基とが反応した状態であってもよい。
【0049】
特定エポキシ化合物は、下記一般式(1-A)又は一般式(1-B)で表される構造を有するエポキシ化合物であってもよい。
【0050】
【化9】

【0051】
一般式(1-A)及び一般式(1-B)において、X、Y及びnの定義及び好ましい例は、一般式(1)のX、Y及びnの定義及び好ましい例と同様である。また、R、R及びmの定義及び好ましい例は、一般式(5A)及び一般式(5B)のR、R及びmの定義及び好ましい例と同様である。Zはそれぞれ独立に、-O-又は-NH-を表す。
【0052】
つまり、一般式(1-A)及び一般式(1-B)においてR又はRを付されたベンゼン環は、2個~4個の水素原子を有することが好ましく、3個又は4個の水素原子を有することがより好ましく、4個の水素原子を有することがさらに好ましい。
【0053】
高次構造形成の観点からは、一般式(1-A)で表される構造を有するエポキシ化合物は、下記一般式(2-A)表される構造を有するエポキシ化合物であることが好ましく、一般式(1-B)で表される構造を有するエポキシ化合物は、下記一般式(2-B)で表される構造を有するエポキシ化合物であることが好ましい。
【0054】
【化10】
【0055】
一般式(2-A)及び一般式(2-B)において、X、Y、n、m、R、R及びZの定義及び好ましい例は、一般式(1-A)及び一般式(1-B)のX、Y、n、m、R、R及びZの定義及び好ましい例と同様である。
【0056】
一般式(1-A)で表される構造を有するエポキシ化合物としては、下記一般式(3-A-1)及び一般式(3-A-2)からなる群より選択される少なくとも一つの構造を有するエポキシ化合物が挙げられる。
一般式(1-B)で表される構造を有するエポキシ化合物としては、下記一般式(3-B-1)及び一般式(3-B-2)からなる群より選択される少なくとも一つの構造を有するエポキシ化合物が挙げられる。
【0057】
【化11】

【化12】

【0058】
一般式(3-A-1)、一般式(3-A-2)、一般式(3-B-1)及び一般式(3-B-2)において、R~Rの定義及び好ましい例は、一般式(3)のR~Rの定義及び好ましい例と同様である。また、R、R、m及びZの定義及び好ましい例は、一般式(1-A)及び一般式(1-B)のR、R、m及びZの定義及び好ましい例と同様である。
【0059】
特定エポキシ化合物における一般式(1)で表される構造の数は、2以上であれば特に制限されない。作業時の低粘度化の観点からは、特定エポキシ化合物の少なくとも一部が一般式(1)で表される構造を2つ含む化合物(二量体化合物)であることが好ましい。
【0060】
特定エポキシ化合物が二量体化合物である場合の構造としては、下記一般式(4-A-1)又は下記一般式(4-B-1)で表される化合物が挙げられる。
【0061】
【化13】

【0062】
一般式(4-A-1)又は一般式(4-B-1)において、X、Y、n、m、R、R及びZの定義及び好ましい例は、一般式(1-A)及び一般式(1-B)のX、Y、n、m、R、R及びZの定義及び好ましい例と同様である。
【0063】
高次構造形成の観点からは、一般式(4-A-1)で表される構造を有するエポキシ化合物は、下記一般式(5-A-1)で表される構造を有するエポキシ化合物であることが好ましく、一般式(5-B-1)で表される構造を有するエポキシ化合物は、下記一般式一般式(5-B-1)で表される構造を有するエポキシ化合物であることが好ましい。
【0064】
【化14】
【0065】
一般式(5-A-1)及び一般式(5-B-1)において、X、Y、n、m、R、R及びZの定義及び好ましい例は、一般式(4-A-1)及び一般式(4-B-1)のX、Y、n、m、R、R及びZの定義及び好ましい例と同様である。
【0066】
一般式(4-A-1)で表される構造を有するエポキシ化合物の具体例としては、下記一般式(6-A-1)~(6-A-3)で表される構造を有するエポキシ化合物が挙げられる。
一般式(4-B-1)で表される構造を有するエポキシ化合物の具体例としては、下記一般式(6-B-1)~(6-B-3)で表される構造を有するエポキシ化合物が挙げられる。
【0067】
【化15】

【化16】

【0068】
一般式(6-A-1)~(6-A-3)及び一般式(6-B-1)~(6-B-3)において、R~R、R、R、m及びZの定義及び好ましい例は、一般式(3-A-1)、(3-A-2)、(3-B-1)又は一般式(3-B-2)のR~R、R、R、m及びZの定義及び好ましい例と同様である。
【0069】
(特定エポキシ化合物の合成方法)
特定エポキシ化合物を合成する方法は、特に制限されない。例えば、メソゲン構造とエポキシ基とを有する化合物(以下、メソゲンエポキシモノマーとも称する)と、メソゲンエポキシモノマーのエポキシ基と反応しうる官能基を有する芳香族化合物とを反応させて得てもよい。
【0070】
メソゲンエポキシモノマーは、下記一般式(1-m)で表される構造を有する化合物であってもよい。
【0071】
【化17】

【0072】
一般式(1-m)において、X、Y及びnの定義及び好ましい例は、上述した一般式(1)におけるX、Y及びnの定義及び好ましい例と同様である。
【0073】
高次構造形成の観点からは、一般式(1-m)で表されるメソゲンエポキシモノマーは、下記一般式(2-m)で表される構造を有するメソゲンエポキシモノマーであることが好ましい。
【0074】
【化18】

【0075】
一般式(2-m)において、X、Y及びnの定義及び好ましい例は、一般式(1-m)におけるX、Y及びnの定義及び好ましい例と同様である。
【0076】
一般式(1-m)で表されるメソゲンエポキシモノマーは、下記一般式(3-m)で表される構造を有するメソゲンエポキシモノマーであることがより好ましい。
【0077】
【化19】

【0078】
一般式(3-m)において、R~Rの定義及び好ましい例は、一般式(3)のR~Rの定義及び好ましい例と同様である。
【0079】
メソゲンエポキシモノマーと、メソゲンエポキシモノマーのエポキシ基と反応しうる官能基を有する芳香族化合物とを反応させて特定エポキシ化合物を合成する方法は、特に制限されない。具体的には、例えば、メソゲンエポキシモノマーと、メソゲンエポキシモノマーのエポキシ基と反応しうる官能基を有する芳香族化合物と、必要に応じて用いる反応触媒とを溶媒中に溶解し、加熱しながら撹拌することで、特定エポキシ化合物を合成することができる。
【0080】
あるいは、例えば、メソゲンエポキシモノマーと、メソゲンエポキシモノマーのエポキシ基と反応しうる官能基を有する芳香族化合物を、必要に応じて用いる反応触媒と溶媒を用いずに混合し、加熱しながら撹拌することで、特定エポキシ化合物を合成することができる。
【0081】
溶媒は、メソゲンエポキシモノマーと、メソゲンエポキシモノマーのエポキシ基と反応しうる官能基を有する芳香族化合物とを溶解でき、かつ両化合物が反応するのに必要な温度にまで加温できる溶媒であれば、特に制限されない。具体的には、シクロヘキサノン、シクロペンタノン、乳酸エチル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、N-メチルピロリドン、メチルセロソルブ、エチルセロソルブ、プロピレングリコールモノプロピルエーテル等が挙げられる。
【0082】
溶媒の量は、メソゲンエポキシモノマーと、メソゲンエポキシモノマーのエポキシ基と反応しうる官能基を有する芳香族化合物と、必要に応じて用いる反応触媒とを反応温度において溶解できる量であれば特に制限されない。反応前の原料の種類、溶媒の種類等によって溶解性が異なるものの、例えば、仕込み固形分濃度が20質量%~60質量%となる量であれば、反応後の溶液の粘度が好ましい範囲となる傾向にある。
【0083】
メソゲンエポキシモノマーのエポキシ基と反応しうる官能基を有する芳香族化合物の種類は、特に制限されない。硬化物中にスメクチック構造を形成する観点からは、1つのベンゼン環に2つの水酸基が結合した構造を有するジヒドロキシベンゼン化合物、1つのベンゼン環に2つのアミノ基が結合した構造を有するジアミノベンゼン化合物、ビフェニル構造を形成する2つのベンゼン環にそれぞれ1つの水酸基が結合した構造を有するジヒドロキシビフェニル化合物及びビフェニル構造を形成する2つのベンゼン環にそれぞれ1つのアミノ基が結合した構造を有するジアミノビフェニル化合物からなる群より選択される少なくとも1種(以下、特定芳香族化合物とも称する)であることが好ましい。
【0084】
ジヒドロキシベンゼン化合物としては、カテコール、レゾルシノール、ヒドロキノン、これらの誘導体等が挙げられる。
ジアミノベンゼン化合物としては、1,2-ジアミノベンゼン、1,3-ジアミノベンゼン、1,4-ジアミノベンゼン、これらの誘導体等が挙げられる。
【0085】
ジヒドロキシビフェニル化合物としては、2,2’-ジヒドロキシビフェニル、2,3’-ジヒドロキシビフェニル、2,4’-ジヒドロキシビフェニル、3,3’-ジヒドロキシビフェニル、3,4’-ジヒドロキシビフェニル、4,4’-ジヒドロキシビフェニル、これらの誘導体等が挙げられる。
ジアミノビフェニル化合物としては、2,2’-ジアミノビフェニル、2,3’-ジアミノビフェニル、2,4’-ジアミノビフェニル、3,3’-ジアミノビフェニル、3,4’-ジアミノビフェニル、4,4’-ジアミノビフェニル、これらの誘導体等が挙げられる。
【0086】
特定芳香族化合物の誘導体としては、特定芳香族化合物のベンゼン環に炭素数1~8のアルキル基等の置換基が結合した化合物が挙げられる。特定芳香族化合物は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0087】
反応触媒の種類は特に限定されず、反応速度、反応温度、貯蔵安定性等の観点から適切なものを選択できる。具体的には、イミダゾール化合物、有機リン化合物、第3級アミン、第4級アンモニウム塩等が挙げられる。反応触媒は1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0088】
硬化物の耐熱性の観点からは、反応触媒としては有機リン化合物が好ましい。
有機リン化合物の好ましい例としては、有機ホスフィン化合物、有機ホスフィン化合物に無水マレイン酸、キノン化合物、ジアゾフェニルメタン、フェノール樹脂等のπ結合をもつ化合物を付加してなる分子内分極を有する化合物、有機ホスフィン化合物と有機ボロン化合物との錯体などが挙げられる。
【0089】
有機ホスフィン化合物として具体的には、トリフェニルホスフィン、ジフェニル(p-トリル)ホスフィン、トリス(アルキルフェニル)ホスフィン、トリス(アルコキシフェニル)ホスフィン、トリス(アルキルアルコキシフェニル)ホスフィン、トリス(ジアルキルフェニル)ホスフィン、トリス(トリアルキルフェニル)ホスフィン、トリス(テトラアルキルフェニル)ホスフィン、トリス(ジアルコキシフェニル)ホスフィン、トリス(トリアルコキシフェニル)ホスフィン、トリス(テトラアルコキシフェニル)ホスフィン、トリアルキルホスフィン、ジアルキルアリールホスフィン、アルキルジアリールホスフィン等が挙げられる。
【0090】
キノン化合物として具体的には、1,4-ベンゾキノン、2,5-トルキノン、1,4-ナフトキノン、2,3-ジメチルベンゾキノン、2,6-ジメチルベンゾキノン、2,3-ジメトキシ-5-メチル-1,4-ベンゾキノン、2,3-ジメトキシ-1,4-ベンゾキノン、フェニル-1,4-ベンゾキノン等が挙げられる。
【0091】
有機ボロン化合物として具体的には、テトラフェニルボレート、テトラ-p-トリルボレート、テトラ-n-ブチルボレート等が挙げられる。
【0092】
反応触媒の量は、特に制限されない。反応速度及び貯蔵安定性の観点からは、メソゲンエポキシモノマーと、メソゲンエポキシモノマーのエポキシ基と反応しうる官能基を有する芳香族化合物との合計質量100質量部に対し、0.1質量部~1.5質量部であることが好ましく、0.2質量部~1質量部であることがより好ましい。
【0093】
メソゲンエポキシモノマーを用いて特定エポキシ化合物を合成する場合、メソゲンエポキシモノマーのすべてが反応して特定エポキシ化合物の状態になっていても、メソゲンエポキシモノマーの一部が反応せずにモノマーの状態で残存していてもよいが、後述の耐熱性の観点からメソゲンエポキシモノマーの一部が反応せずにモノマーの状態で残存しているほうが好ましい。
【0094】
特定エポキシ化合物の合成は、少量スケールであればフラスコ、大量スケールであれば合成釜等の反応容器を使用して行うことができる。具体的な合成方法は、例えば以下の通りである。
まず、メソゲンエポキシモノマーを反応容器に投入し、必要に応じて溶媒を入れ、オイルバス又は熱媒により反応温度まで加温し、メソゲンエポキシモノマーを溶解する。そこにメソゲンエポキシモノマーのエポキシ基と反応しうる官能基を有する芳香族化合物を投入し、次いで必要に応じて反応触媒を投入し、反応を開始させる。次いで、必要に応じて減圧下で溶媒を留去することで、特定エポキシ化合物が得られる。
【0095】
反応温度は、メソゲンエポキシモノマーのエポキシ基と、メソゲンエポキシモノマーのエポキシ基と反応しうる官能基との反応が進行する温度であれば特に制限されず、例えば100℃~180℃の範囲であることが好ましく、100℃~150℃の範囲であることがより好ましい。反応温度を100℃以上とすることで、反応が完結するまでの時間をより短くできる傾向にある。一方、反応温度を180℃以下とすることで、ゲル化する可能性を低減できる傾向にある。
【0096】
メソゲンエポキシモノマーと、メソゲンエポキシモノマーのエポキシ基と反応しうる官能基を有する芳香族化合物の配合比は、特に制限されない。例えば、エポキシ基の当量数(A)と、エポキシ基と反応しうる官能基の当量数(B)との比(A:B)が10:10~10:0.01の範囲となる配合比としてもよい。硬化物の破壊靭性及び耐熱性の観点からは、A:Bが10:5~10:0.1の範囲となる配合比が好ましい。
エポキシ樹脂の取り扱い性の観点からは、エポキシ基の当量数(A)と、エポキシ基と反応しうる官能基の当量数(B)との比(A:B)が10:1.6~10:3.0の範囲となる配合比が好ましく、10:1.8~10:2.9の範囲となる配合比がより好ましく、10:2.0~10:2.8の範囲となる配合比がさらに好ましい。
【0097】
特定エポキシ化合物の構造は、例えば、合成に使用したメソゲンエポキシモノマーと、メソゲンエポキシモノマーのエポキシ基と反応しうる官能基を有する芳香族化合物との反応より得られると推定される特定エポキシ化合物の分子量と、UV及びマススペクトル検出器を備える液体クロマトグラフを用いて実施される液体クロマトグラフィーにより求めた目的化合物の分子量とを照合させることで決定することができる。
【0098】
液体クロマトグラフィーは、例えば、株式会社日立製作所製の「LaChrom II C18」を分析用カラムとして使用し、グラジエント法を用いて、溶離液の混合比(体積基準)をアセトニトリル/テトラヒドロフラン/10mmol/l酢酸アンモニウム水溶液=20/5/75からアセトニトリル/テトラヒドロフラン=80/20(開始から20分)を経てアセトニトリル/テトラヒドロフラン=50/50(開始から35分)と連続的に変化させて測定を行う。また、流速を1.0ml/minとして行う。UVスペクトル検出器では280nmの波長における吸光度を検出し、マススペクトル検出器ではイオン化電圧を2700Vとして検出する。
【0099】
エポキシ樹脂の重量平均分子量(Mw)は、特に制限されない。低粘度化の観点からは、エポキシ樹脂の重量平均分子量(Mw)は800~1300の範囲から選択されることが好ましい。
【0100】
本開示において、エポキシ樹脂の数平均分子量(Mn)と重量平均分子量(Mw)は液体クロマトグラフィーにより得られる値とする。
液体クロマトグラフィーは、試料濃度を0.5質量%とし、移動相にテトラヒドロフランを用い、流速を1.0ml/minとして行う。検量線はポリスチレン標準サンプルを用いて作成し、それを用いてポリスチレン換算値でMn及びMwを測定する。
測定は、例えば、株式会社日立製作所製の高速液体クロマトグラフ「L6000」と、株式会社島津製作所製のデータ解析装置「C-R4A」を用いて行うことができる。カラムとしては、例えば、東ソー株式会社製のGPCカラムである「G2000HXL」及び「G3000HXL」を用いることができる。
【0101】
エポキシ樹脂のエポキシ当量は、特に制限されない。エポキシ樹脂の流動性と硬化物の熱伝導率を両立する観点からは、245g/eq~360g/eqであることが好ましく、250g/eq~355g/eqであることがより好ましく、260g/eq~350g/eqであることがさらに好ましい。エポキシ樹脂のエポキシ当量が245g/eq以上であれば、エポキシ樹脂の結晶性が高くなりすぎないためエポキシ樹脂の流動性が低下しにくい傾向にある。一方、エポキシ樹脂のエポキシ当量が360g/eq以下であれば、エポキシ樹脂の架橋密度が低下しにくいため、成形物の熱伝導率が高くなる傾向にある。本開示において、エポキシ樹脂のエポキシ当量は、過塩素酸滴定法により測定する。
【0102】
本開示のエポキシ樹脂は、特定エポキシ化合物と、メソゲンエポキシモノマーの両方を含んでいることが好ましい。エポキシ樹脂中に特定エポキシ化合物とメソゲンエポキシモノマーが適切な割合で存在していると、硬化する際の架橋密度をより高い状態にすることができ、耐熱性により優れるエポキシ樹脂硬化物が得られる傾向にある。エポキシ樹脂中に存在する特定エポキシ化合物とメソゲンエポキシモノマーの割合は、メソゲンエポキシモノマーと、メソゲンエポキシモノマーのエポキシ基と反応しうる官能基を有する芳香族化合物の配合比その他の反応条件によって調節することができる。
【0103】
<エポキシ樹脂組成物>
本開示のエポキシ樹脂組成物は、上述したエポキシ樹脂と、硬化剤と、を含む。
【0104】
(硬化剤)
硬化剤は、エポキシ樹脂と硬化反応を生じることができる化合物であれば、特に制限されない。硬化剤の具体例としては、アミン硬化剤、フェノール硬化剤、酸無水物硬化剤、ポリメルカプタン硬化剤、ポリアミノアミド硬化剤、イソシアネート硬化剤、ブロックイソシアネート硬化剤等が挙げられる。硬化剤は、1種を単独で用いても2種以上を併用してもよい。
【0105】
エポキシ樹脂組成物の硬化物中に高次構造を形成する観点からは、硬化剤としては、アミン硬化剤又はフェノール硬化剤が好ましく、アミン硬化剤がより好ましく、芳香環に直接結合しているアミノ基を2つ以上有する化合物であることがさらに好ましい。
【0106】
アミン硬化剤として具体的には、3,3’-ジアミノジフェニルスルホン、4,4’-ジアミノジフェニルスルホン、4,4’-ジアミノジフェニルメタン、4,4’-ジアミノジフェニルエーテル、4,4’-ジアミノ-3,3’-ジメトキシビフェニル、4,4’-ジアミノフェニルベンゾエート、1,5-ジアミノナフタレン、1,3-ジアミノナフタレン、1,4-ジアミノナフタレン、1,8-ジアミノナフタレン、1,3-ジアミノベンゼン、1,4-ジアミノベンゼン、4,4’-ジアミノベンズアニリド、トリメチレン-ビス-4-アミノベンゾアート等が挙げられる。
【0107】
エポキシ樹脂組成物の硬化物中にスメクチック構造を形成する観点からは3,3’-ジアミノジフェニルスルホン、4,4’-ジアミノジフェニルスルホン、1,3-ジアミノベンゼン、1,4-ジアミノベンゼン、4,4’-ジアミノベンズアニリド、1,5-ジアミノナフタレン、4,4’-ジアミノジフェニルメタン及びトリメチレン-ビス-4-アミノベンゾアートが好ましく、低吸水率及び高破壊靭性の硬化物を得る観点からは3,3’-ジアミノジフェニルスルホンがより好ましい。
【0108】
フェノール硬化剤としては、低分子フェノール化合物、及び低分子フェノール化合物をメチレン鎖等で連結してノボラック化したフェノールノボラック樹脂が挙げられる。低分子フェノール化合物としては、フェノール、o-クレゾール、m-クレゾール、p-クレゾール等の単官能フェノール化合物、カテコール、レゾルシノール、ハイドロキノン等の2官能フェノール化合物、1,2,3-トリヒドロキシベンゼン、1,2,4-トリヒドロキシベンゼン、1,3,5-トリヒドロキシベンゼン等の3官能フェノール化合物などが挙げられる。
【0109】
エポキシ樹脂組成物における硬化剤の含有量は特に制限されない。硬化反応の効率性の観点からは、エポキシ樹脂組成物に含まれる硬化剤の官能基の当量数と、エポキシ樹脂のエポキシ基の当量数との比(官能基の当量数/エポキシ基の当量数)が0.3~3.0となる量であることが好ましく、0.5~2.0となる量であることがより好ましい。
【0110】
(その他の成分)
エポキシ樹脂組成物は、必要に応じてエポキシ樹脂と硬化剤以外のその他の成分を含んでもよい。例えば、硬化触媒、フィラー等を含んでもよい。硬化触媒の具体例としては、多量体の合成に使用しうる反応触媒として例示した化合物が挙げられる。
【0111】
(用途)
エポキシ樹脂組成物の用途は特に制限されないが、粘度が低く、流動性に優れていることが要求される加工方法にも好適に用いることができる。例えば、繊維間の空隙にエポキシ樹脂組成物を加温しながら含浸する工程を伴うFRPの製造、エポキシ樹脂組成物を加温しながらスキージ等で広げる工程を伴うシート状物の製造などにも好適に用いることができる。
【0112】
本開示のエポキシ樹脂組成物は、硬化物中のボイドの発生を抑制する観点から粘度低下のための溶剤の添加を省略又は低減することが望まれる加工方法(例えば、航空機、宇宙船等に用いるFRPの製造)にも好適に用いることができる。
【0113】
<エポキシ樹脂硬化物及び複合材料>
本開示のエポキシ樹脂硬化物は、本開示のエポキシ樹脂組成物を硬化して得られる。本開示の複合材料は、本開示のエポキシ樹脂硬化物と、強化材と、を含む。
【0114】
複合材料に含まれる強化材の材質は特に制限されず、複合材料の用途等に応じて選択できる。強化材として具体的には、炭素材料、ガラス、芳香族ポリアミド系樹脂(例えば、ケブラー(登録商標))、超高分子量ポリエチレン、アルミナ、窒化ホウ素、窒化アルミニウム、マイカ、シリコン等が挙げられる。強化材の形状は特に制限されず、繊維状、粒子状(フィラー)等が挙げられる。複合材料の強度の観点からは、強化材は炭素材料であることが好ましく、炭素繊維であることがより好ましい。複合材料に含まれる強化材は、1種でも2種以上であってもよい。
【実施例
【0115】
以下、実施例にもとづいて上記実施形態をさらに具体的に説明するが、上記実施形態はこれらに限定されるものではない。なお、特に断りのない限り、「部」および「%」は質量基準である。
【0116】
(エポキシ樹脂1の合成)
500mlの三口フラスコに、メソゲンエポキシモノマーとして(4-{4-(2,3-エポキシプロポキシ)フェニル}シクロヘキシル=4-(2,3-エポキシプロポキシ)ベンゾエート、下記構造)を50g量り取り、そこにプロピレングリコールモノメチルエーテルを80g添加した。三口フラスコに冷却管及び窒素導入管を設置し、溶媒に漬かるように攪拌羽を取り付けた。この三口フラスコを120℃のオイルバスに浸漬し、撹拌を開始した。エポキシモノマーが溶解し、透明な溶液になったことを確認した後、特定芳香族化合物として4,4-ビフェノールを5.2g、反応触媒としてトリフェニルホスフィンを0.5g添加し、120℃のオイルバス温度で加熱を継続した。3時間加熱を継続した後に、反応溶液からプロピレングリコールモノメチルエーテルを減圧留去し、残渣を室温(25℃)まで冷却することにより、メソゲンエポキシモノマーの一部が特定芳香族化合物と反応してエポキシ化合物Bの状態になったエポキシ樹脂1を得た。
【0117】
【化20】

【0118】
(エポキシ樹脂2の合成)
4,4-ビフェノール5.2gに替えてヒドロキノン3.1gを添加した以外はエポキシ樹脂1と同様にして、メソゲンエポキシモノマーの一部が特定芳香族化合物と反応してエポキシ化合物Aの状態になったエポキシ樹脂2を得た。
【0119】
(エポキシ樹脂3の合成)
4,4-ビフェノール5.2gに替えてレゾルシノール3.1gを添加した以外はエポキシ樹脂1と同様にして、メソゲンエポキシモノマーの一部が特定芳香族化合物と反応してエポキシ化合物Aの状態になったエポキシ樹脂3を得た。
【0120】
(硬化剤の前処理)
3,3-ジアミノジフェニルスルホン(和光純薬工業株式会社)160gを、株式会社アイシンナノテクノロジー製ナノジェットマイザーNJ-50-B型を用いて、圧力0.15MPa、処理量240g/hrで粉砕し、平均粒径8μmの微粉体を155g得た。得られた微粉体を以下の実施例及び比較例で使用した。
【0121】
<実施例1>
エポキシ樹脂1を35.0g、エポキシ樹脂2を15.0gプラスチック容器に量り取り、恒温槽に投入して90℃に加温した。その後、3,3-ジアミノジフェニルスルホンを9.5g添加し、1分間スパチュラで撹拌した。次いで、自転・公転ミキサーを用いて、1600回転/分(rpm)、30minの条件で撹拌し、エポキシ樹脂組成物を得た。得られたエポキシ樹脂組成物を、内壁に離型処理を施したステンレスシャーレに移し、恒温槽に投入して150℃で4時間加熱して、エポキシ樹脂組成物を硬化させた。常温(25℃)に冷却した後にステンレスシャーレからエポキシ樹脂硬化物を取り出し、3.75mm×7.5mm×33mmの直方体に切り出し、破壊靭性評価用の試験片を作製した。さらに、エポキシ樹脂硬化物を2mm×0.5mm×40mmの短冊状に切り出し、ガラス転移温度評価用の試験片を作製した。
【0122】
<実施例2>
エポキシ樹脂1を25.0g、エポキシ樹脂2を25.0g、3,3-ジアミノジフェニルスルホンを9.6g量り取った以外は実施例1と同様にして、エポキシ樹脂組成物とエポキシ樹脂硬化物を得た。得られたエポキシ樹脂硬化物を用いて、実施例1と同様にして破壊靭性及びガラス転移温度の評価用試料を作製した。
【0123】
<実施例3>
エポキシ樹脂1を35.0g、エポキシ樹脂2に代えてエポキシ樹脂3を15.0g、3,3-ジアミノジフェニルスルホンを9.7g量り取った以外は実施例1と同様にして、エポキシ樹脂組成物とエポキシ樹脂硬化物を得た。得られたエポキシ樹脂硬化物を用いて、実施例1と同様にして破壊靭性及びガラス転移温度の評価用試料を作製した。
【0124】
<実施例4>
エポキシ樹脂1を45.0g、エポキシ樹脂2を5.0g、3,3-ジアミノジフェニルスルホンを9.5g量り取った以外は実施例1と同様にして、エポキシ樹脂組成物とエポキシ樹脂硬化物を得た。得られたエポキシ樹脂硬化物を用いて、実施例1と同様にして破壊靭性及びガラス転移温度の評価用試料を作製した。
【0125】
<実施例5>
エポキシ樹脂1を16.7g、エポキシ樹脂2を33.3g、3,3-ジアミノジフェニルスルホンを9.7g量り取った以外は実施例1と同様にして、エポキシ樹脂組成物とエポキシ樹脂硬化物を得た。得られたエポキシ樹脂硬化物を用いて、実施例1と同様にして破壊靭性及びガラス転移温度の評価用試料を作製した。
【0126】
<比較例1>
エポキシ樹脂1を50.0g、3,3-ジアミノジフェニルスルホンを9.4gステンレスシャーレに量り取った以外は実施例1と同様にして、エポキシ樹脂組成物とエポキシ樹脂硬化物を得た。得られたエポキシ樹脂硬化物を用いて、実施例1と同様にして破壊靭性及びガラス転移温度の評価用試料を作製した。
【0127】
<比較例2>
エポキシ樹脂2を50.0g、3,3-ジアミノジフェニルスルホンを9.8gステンレスシャーレに量り取った以外は実施例1と同様にして、エポキシ樹脂組成物とエポキシ樹脂硬化物を得た。得られたエポキシ樹脂硬化物を用いて、実施例1と同様にして破壊靭性及びガラス転移温度の評価用試料を作製した。
【0128】
[動的せん断粘度の測定]
エポキシ樹脂組成物の粘度安定性の指標として、高せん断下の動的せん断粘度(Pa・s)を用いた。エポキシ樹脂組成物の動的せん断粘度は、平行平板振動レオメータにより測定した。測定条件は、周波数1Hz、ひずみ1000%とした。評価装置には、MCR-301(アントンパール社)を用いた。
【0129】
測定では、エポキシ樹脂組成物を90℃に加温したステージ上で3分以上放置して溶融させた後、直径12mmのパラレルプレートをギャップ0.2mmとなるように降下させた。次いで、装置ステージ温度を80℃に降温し、測定を開始した。最初の5分間で温度を90℃まで上昇させた後、90℃に温度を保った。測定開始10分後(90℃保持で5分後)の粘度(初期粘度)と、測定開始から2時間後(90℃保持で1時間55分後)の粘度を測定した。また、下記式で定義する増粘率を求めた。
増粘率=2h後の粘度/初期粘度
【0130】
[破壊靭性値の測定]
エポキシ樹脂硬化物の破壊靭性の指標として、破壊靭性値(MPa・m1/2)を用いた。試験片の破壊靭性値は、ASTM D5045に基づいて3点曲げ測定を行って算出した。評価装置には、インストロン5948(インストロン社)を用いた。
【0131】
[動的粘弾性の評価]
エポキシ樹脂硬化物の耐熱性の指標として、ガラス転移温度(Tg)を用いた。試験片のガラス転移温度は、引張りモードによる動的粘弾性測定を行って算出した。測定条件は、周波数10Hz、昇温速度5℃/分、ひずみ0.1%とした。得られた温度‐tanδ関係図において、tanδが最大となる温度を、ガラス転移温度とみなした。評価装置には、RSA-G2(ティー・エイ・インスツルメント社)を用いた。
【0132】
[X線回折測定]
エポキシ樹脂硬化物中の高次構造(スメクチック構造)の形成の有無を確認するために、X線回折測定を行った。測定条件は、CuKα線を用い、管電圧50kV、管電流300mA、走査速度を1°/分、測定角度を2θ=2°~30°とした。評価装置には、株式会社リガク製のX線回折装置を用いた。2θ=2°~10°の範囲においてピークが検出された場合はスメクチック構造が形成されていると判断した。
【0133】
実施例1~5、比較例1、2のエポキシ樹脂組成物の90℃における初期粘度、2時間後の粘度及び増粘率を表1に示す。さらに、実施例1~5、比較例1、2のエポキシ樹脂硬化物の破壊靭性値、ガラス転移温度(Tg)及びスメクチック構造の有無を表1に示す。
【0134】
【表1】
【0135】
表1に示すように。エポキシ樹脂としてエポキシ化合物A(エポキシ樹脂2)と、エポキシ化合物B(エポキシ樹脂1)の両方を含む実施例1~5のエポキシ樹脂組成物は、1000%の大きなせん断ひずみを与えた際の初期粘度が十分低く、かつ2時間後の粘度増大も抑制され、良好な粘度安定性を示した。さらに、これらのエポキシ樹脂組成物から得られるエポキシ樹脂硬化物は優れた破壊靭性と耐熱性を示した。
エポキシ樹脂がエポキシ化合物Bを含むがエポキシ化合物Aを含まない比較例1のエポキシ樹脂組成物は、初期粘度が低いものの、測定開始から2時間後には粘度が16倍以上に増大し、無溶剤での塗工に際して膜厚が制御できず塗工困難なレベルであった。
エポキシ樹脂がエポキシ化合物Aを含むがエポキシ化合物Bを含まない比較例2のエポキシ樹脂組成物も同様に測定から2時間後には粘度が著しく増大し、膜厚制御,流動性の点から無溶剤での塗工が困難なレベルであった。