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特許7003999エポキシ樹脂、エポキシ樹脂組成物、エポキシ樹脂硬化物及び複合材料
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-01-06
(45)【発行日】2022-01-21
(54)【発明の名称】エポキシ樹脂、エポキシ樹脂組成物、エポキシ樹脂硬化物及び複合材料
(51)【国際特許分類】
   C08G 59/24 20060101AFI20220114BHJP
   C08K 5/42 20060101ALI20220114BHJP
   C08L 63/02 20060101ALI20220114BHJP
【FI】
C08G59/24
C08K5/42
C08L63/02
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2019544147
(86)(22)【出願日】2017-09-29
(86)【国際出願番号】 JP2017035659
(87)【国際公開番号】W WO2019064545
(87)【国際公開日】2019-04-04
【審査請求日】2020-07-17
(73)【特許権者】
【識別番号】000004455
【氏名又は名称】昭和電工マテリアルズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】特許業務法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】吉田 優香
(72)【発明者】
【氏名】丸山 直樹
(72)【発明者】
【氏名】東内 智子
(72)【発明者】
【氏名】福田 和真
(72)【発明者】
【氏名】西村 圭一郎
(72)【発明者】
【氏名】竹澤 由高
【審査官】岡谷 祐哉
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-203086(JP,A)
【文献】特開2010-001427(JP,A)
【文献】国際公開第2016/104772(WO,A1)
【文献】国際公開第2017/145411(WO,A1)
【文献】特開2013-227451(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08G 59/24
C08K 5/42
C08L 63/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(2)で表される2つ以上のメソゲン構造と、4,4’-ジヒドロキシビフェニル又は2,2’-ジヒドロキシビフェニルに由来する1つ以上の2価のビフェニル基と、を有するエポキシ化合物と、下記一般式(2-m)で表されるメソゲンエポキシモノマーと、を含み、
前記メソゲンエポキシモノマーが、エポキシ樹脂全体の35%以上50%以下の割合で含有される、エポキシ樹脂。
【化1】



[式(2)及び式(2-m)中、Xは下記2価の基からなる群(A)より選択される少なくとも1種の連結基を示す。Yはそれぞれ独立に、炭素数1~8の脂肪族炭化水素基、炭素数1~8の脂肪族アルコキシ基、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子、シアノ基、ニトロ基、又はアセチル基を示す。nは各々独立に0~4の整数を示す。]
【化2】

[群(A)中、Yはそれぞれ独立に、炭素数1~8の脂肪族炭化水素基、炭素数1~8の脂肪族アルコキシ基、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子、シアノ基、ニトロ基、又はアセチル基を示す。nは各々独立に0~4の整数を示し、kは0~7の整数を示し、mは0~8の整数を示し、lは0~12の整数を示す。]
【請求項2】
前記エポキシ化合物が、2つの前記メソゲン構造の間に1つの前記2価のビフェニル基が配置された状態の構造を有する、請求項1に記載のエポキシ樹脂。
【請求項3】
前記2つ以上のメソゲン構造が、下記一般式(3)及び一般式(4)からなる群より選択される少なくとも1つの構造を含む、請求項1又は請求項2に記載のエポキシ樹脂。
【化8】


[式中、R~Rはそれぞれ独立に、水素原子又は炭素数1~3のアルキル基を示す。]
【請求項4】
前記メソゲンエポキシモノマーが、下記一般式(3-m)又は一般式(4-m)で表されるメソゲンエポキシモノマーを含む、請求項1~請求項3のいずれか1項に記載のエポキシ樹脂。
【化10】

[式中、R~Rはそれぞれ独立に、水素原子又は炭素数1~3のアルキル基を示す。]
【請求項5】
請求項1~請求項のいずれか1項に記載のエポキシ樹脂と、硬化剤と、を含む、エポキシ樹脂組成物。
【請求項6】
硬化させた場合にスメクチック構造を形成可能である、請求項に記載のエポキシ樹脂組成物。
【請求項7】
前記硬化剤は、芳香環に直接結合しているアミノ基を2つ以上有する化合物を含む、請求項又は請求項に記載のエポキシ樹脂組成物。
【請求項8】
前記硬化剤は、3,3’-ジアミノジフェニルスルホンである、請求項~請求項のいずれか1項に記載のエポキシ樹脂組成物。
【請求項9】
請求項~請求項のいずれか1項に記載のエポキシ樹脂組成物の硬化物である、エポキシ樹脂硬化物。
【請求項10】
請求項に記載のエポキシ樹脂硬化物と、強化材と、を含む複合材料。
【請求項11】
前記強化材が炭素材料を含む、請求項10に記載の複合材料。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エポキシ樹脂、エポキシ樹脂組成物、エポキシ樹脂硬化物及び複合材料に関する。
【背景技術】
【0002】
エポキシ樹脂は、その優れた耐熱性を活かして種々の用途に用いられている。近年では、エポキシ樹脂を用いたパワーデバイスの実使用温度の高温化等を受けて、熱伝導性に優れるエポキシ樹脂の検討が進められている。
【0003】
分子内にメソゲン構造を有するエポキシ化合物を含むエポキシ樹脂(以下、メソゲン含有エポキシ樹脂ともいう)の硬化物は、熱伝導性及び破壊靭性に優れていることが知られている。しかしながら、メソゲン含有エポキシ樹脂は一般に他のエポキシ樹脂に比べて粘度が高い。このため、作業時に充分な流動性が得られない場合がある。
【0004】
メソゲン含有エポキシ樹脂の流動性を向上する方法としては、溶剤を添加して粘度を下げることが考えられる。また、メソゲン構造を有するエポキシモノマーと2価フェノール化合物とを反応させて、特定範囲の分子量のエポキシ化合物の状態にする技術が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】国際公開第2016-104772号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
メソゲン含有エポキシ樹脂に溶剤を添加する方法では、硬化の際に溶剤に起因するボイドが発生して製品の品質に影響を及ぼすおそれがある。また、特許文献1に記載されたメソゲン含有エポキシ樹脂では軟化点の低下が達成されているが、作業時の温度条件下での粘度が高く、取り扱い性の観点から改善の余地がある。さらに、硬化物としたときの破壊靭性のいっそうの向上が望まれている。
本発明は上記状況に鑑み、取り扱い性に優れ、かつ硬化物としたときに優れた破壊靭性を示すエポキシ樹脂及びエポキシ樹脂組成物、並びにこれらを用いて得られるエポキシ樹脂硬化物及び複合材料を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するための手段には、以下の実施態様が含まれる。
<1>2つ以上のメソゲン構造と、1つ以上の2価のビフェニル基と、を有するエポキシ化合物を含む、エポキシ樹脂。
<2>前記エポキシ化合物が、2つの前記メソゲン構造の間に1つの前記2価のビフェニル基が配置された状態の構造を有する、<1>に記載のエポキシ樹脂。
<3>前記2つ以上のメソゲン構造のうち、少なくとも一つが下記一般式(1)で表されるメソゲン構造である、<1>又は<2>に記載のエポキシ樹脂。
【0008】
【化1】

【0009】
[式中、Xは単結合又は下記2価の基からなる群(A)より選択される少なくとも1種の連結基を示す。Yはそれぞれ独立に、炭素数1~8の脂肪族炭化水素基、炭素数1~8の脂肪族アルコキシ基、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子、シアノ基、ニトロ基、又はアセチル基を示す。nは各々独立に0~4の整数を示す。]
【0010】
【化2】

【0011】
[群(A)中、Yはそれぞれ独立に、炭素数1~8の脂肪族炭化水素基、炭素数1~8の脂肪族アルコキシ基、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子、シアノ基、ニトロ基、又はアセチル基を示す。nは各々独立に0~4の整数を示し、kは0~7の整数を示し、mは0~8の整数を示し、lは0~12の整数を示す。]
<4>前記一般式(1)で表される構造が下記一般式(2)で表される構造である、<3>に記載のエポキシ樹脂。
【0012】
【化3】

【0013】
[式中、Xは単結合又は上記2価の基からなる群(A)より選択される少なくとも1種の連結基を示す。Yはそれぞれ独立に、炭素数1~8の脂肪族炭化水素基、炭素数1~8の脂肪族アルコキシ基、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子、シアノ基、ニトロ基、又はアセチル基を示す。nは各々独立に0~4の整数を示す。]
<5>前記エポキシ化合物が、下記一般式(1-A)で表される構造を有するエポキシ化合物を含む、<3>又は<4>に記載のエポキシ樹脂。
【0014】
【化4】

【0015】
[式中、Xは単結合又は上記2価の基からなる群(A)より選択される少なくとも1種の連結基を示す。Yはそれぞれ独立に、炭素数1~8の脂肪族炭化水素基、炭素数1~8の脂肪族アルコキシ基、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子、シアノ基、ニトロ基、又はアセチル基を示す。nは各々独立に0~4の整数を示す。Zはそれぞれ独立に、-O-又は-NH-を表す。R及びRはそれぞれ独立に、炭素数1~8のアルキル基を示す。mは各々独立に0~4の整数を示す。]
<6>前記一般式(1-A)で表される構造を有するエポキシ化合物が、下記一般式(2-A)で表される構造を有するエポキシ化合物を含む、<5>に記載のエポキシ樹脂。
【0016】
【化5】

【0017】
[式中、Xは単結合又は上記2価の基からなる群(A)より選択される少なくとも1種の連結基を示す。Yはそれぞれ独立に、炭素数1~8の脂肪族炭化水素基、炭素数1~8の脂肪族アルコキシ基、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子、シアノ基、ニトロ基、又はアセチル基を示す。nは各々独立に0~4の整数を示す。Zはそれぞれ独立に、-O-又は-NH-を表す。R及びRはそれぞれ独立に、炭素数1~8のアルキル基を示す。mは各々独立に0~4の整数を示す。]
<7>前記2つ以上のメソゲン構造のうち、少なくとも1つが下記一般式(3)及び一般式(4)からなる群より選択される少なくとも1つの構造を含む、<1>~<6>のいずれか1項に記載のエポキシ樹脂。
【0018】
【化6】


【0019】
[式中、R~Rはそれぞれ独立に、水素原子又は炭素数1~3のアルキル基を示す。]
<8>前記エポキシ化合物が、2つの上記一般式(3)又は一般式(4)で表される構造の間に1つの前記2価のビフェニル基が配置された状態の構造を有する、<7>に記載のエポキシ樹脂。
<9>前記エポキシ化合物が、下記一般式(3-A)、一般式(3-B)、一般式(4-A)及び一般式(4-B)からなる群より選択される少なくとも1つの構造を有するエポキシ化合物を含む、<7>又は<8>に記載のエポキシ樹脂。
【0020】
【化7】

【0021】
[式中、Zはそれぞれ独立に、-O-又は-NH-を表す。R及びRはそれぞれ独立に、炭素数1~8のアルキル基を示す。mは各々独立に0~4の整数を示す。R~Rはそれぞれ独立に、水素原子又は炭素数1~3のアルキル基を示す。]
<10>下記一般式(1-m)で表されるメソゲンエポキシモノマーを含む、<1>~<9>のいずれか1項に記載のエポキシ樹脂。
【0022】
【化8】


[式中、Xは単結合又は下記2価の基からなる群(A)より選択される少なくとも1種の連結基を示す。Yはそれぞれ独立に、炭素数1~8の脂肪族炭化水素基、炭素数1~8の脂肪族アルコキシ基、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子、シアノ基、ニトロ基、又はアセチル基を示す。nは各々独立に0~4の整数を示す。]
【0023】
【化9】

【0024】
[群(A)中、Yはそれぞれ独立に、炭素数1~8の脂肪族炭化水素基、炭素数1~8の脂肪族アルコキシ基、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子、シアノ基、ニトロ基、又はアセチル基を示す。nは各々独立に0~4の整数を示し、kは0~7の整数を示し、mは0~8の整数を示し、lは0~12の整数を示す。]
<11>前記一般式(1-m)で表されるメソゲンエポキシモノマーが、下記一般式(2-m)で表されるメソゲンエポキシモノマーを含む、<10>に記載のエポキシ樹脂。
【0025】
【化10】


[式中、Xは単結合又は上記2価の基からなる群(A)より選択される少なくとも1種の連結基を示す。Yはそれぞれ独立に、炭素数1~8の脂肪族炭化水素基、炭素数1~8の脂肪族アルコキシ基、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子、シアノ基、ニトロ基、又はアセチル基を示す。nは各々独立に0~4の整数を示す。]
<12>前記一般式(1-m)で表されるメソゲンエポキシモノマーが、下記一般式(3-m)又は一般式(4-m)で表されるメソゲンエポキシモノマーを含む、<10>に記載のエポキシ樹脂。
【0026】
【化11】

【0027】
[式中、R~Rはそれぞれ独立に、水素原子又は炭素数1~3のアルキル基を示す。]
<13>前記メソゲンエポキシモノマーが、前記エポキシ樹脂全体の50%以下の割合で含有される、<10>~<12>のいずれか1項に記載のエポキシ樹脂。
<14><1>~<13>のいずれか1項に記載のエポキシ樹脂と、硬化剤と、を含む、エポキシ樹脂組成物。
<15>硬化させた場合にスメクチック構造を形成可能である、<14>に記載のエポキシ樹脂組成物。
<16>前記硬化剤は、芳香環に直接結合しているアミノ基を2つ以上有する化合物を含む、<14>又は<15>に記載のエポキシ樹脂組成物。
<17>前記硬化剤は、3,3’-ジアミノジフェニルスルホンである、<14>~<16>のいずれか1項に記載のエポキシ樹脂組成物。
<18><14>~<17>のいずれか1項に記載のエポキシ樹脂組成物の硬化物である、エポキシ樹脂硬化物。
<19><18>に記載のエポキシ樹脂硬化物と、強化材と、を含む複合材料。
<20>前記強化材が炭素材料を含む、<19>に記載の複合材料。
【発明の効果】
【0028】
本発明によれば、取り扱い性に優れ、かつ硬化物としたときに優れた破壊靭性を示すエポキシ樹脂及びエポキシ樹脂組成物、並びにこれらを用いて得られるエポキシ樹脂硬化物及び複合材料が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、本発明を実施するための形態について詳細に説明する。但し、本発明は以下の実施形態に限定されるものではない。以下の実施形態において、その構成要素(要素ステップ等も含む)は、特に明示した場合を除き、必須ではない。数値及びその範囲についても同様であり、本発明を制限するものではない。
【0030】
本開示において「工程」との語には、他の工程から独立した工程に加え、他の工程と明確に区別できない場合であってもその工程の目的が達成されれば、当該工程も含まれる。
本開示において「~」を用いて示された数値範囲には、「~」の前後に記載される数値がそれぞれ最小値及び最大値として含まれる。
本開示中に段階的に記載されている数値範囲において、一つの数値範囲で記載された上限値又は下限値は、他の段階的な記載の数値範囲の上限値又は下限値に置き換えてもよい。また、本開示中に記載されている数値範囲において、その数値範囲の上限値又は下限値は、実施例に示されている値に置き換えてもよい。
本開示において各成分は該当する物質を複数種含んでいてもよい。組成物中に各成分に該当する物質が複数種存在する場合、各成分の含有率又は含有量は、特に断らない限り、組成物中に存在する当該複数種の物質の合計の含有率又は含有量を意味する。
本開示において各成分に該当する粒子は複数種含んでいてもよい。組成物中に各成分に該当する粒子が複数種存在する場合、各成分の粒子径は、特に断らない限り、組成物中に存在する当該複数種の粒子の混合物についての値を意味する。
本開示において「エポキシ化合物」とは、分子中にエポキシ基を有する化合物を意味する。「エポキシ樹脂」とは、複数のエポキシ化合物を集合体として捉える概念であって硬化していない状態のものを意味する。
【0031】
<エポキシ樹脂>
本開示のエポキシ樹脂は、2つ以上のメソゲン構造と、1つ以上の2価のビフェニル基と、を有するエポキシ化合物(以下、特定エポキシ化合物ともいう)を含む。なお、一般式(1)で表されるメソゲン構造がビフェニル構造を含む場合、当該ビフェニル構造は「2価のビフェニル基」とは異なるものとする。エポキシ樹脂に含まれる特定エポキシ化合物は、1種のみでも2種以上であってもよい。
【0032】
特定エポキシ化合物が有するメソゲン構造とは、これを有するエポキシ化合物を含むエポキシ樹脂が液晶性を発現する可能性のある構造を意味する。具体的には、ビフェニル構造、フェニルベンゾエート構造、シクロヘキシルベンゾエート構造、アゾベンゼン構造、スチルベン構造、ターフェニル構造、アントラセン構造、これらの誘導体、これらのメソゲン構造の2つ以上が結合基を介して結合した構造等が挙げられる。
【0033】
メソゲン構造を有するエポキシ化合物を含むエポキシ樹脂は、硬化物中に高次構造を形成する。ここで、高次構造とは、その構成要素が配列してミクロな秩序構造を形成した高次構造体を含む構造を意味し、例えば結晶相及び液晶相が相当する。このような高次構造体の存在の有無は、偏光顕微鏡によって判断することができる。すなわち、クロスニコル状態での観察において、偏光解消による干渉縞が見られることで判別可能である。この高次構造体は、通常はエポキシ樹脂組成物の硬化物中に島状に存在してドメイン構造を形成しており、その島の一つが一つの高次構造体に対応する。この高次構造体の構成要素自体は、一般には共有結合により形成されている。
【0034】
硬化した状態で形成される高次構造としては、ネマチック構造とスメクチック構造とが挙げられる。ネマチック構造とスメクチック構造は、それぞれ液晶構造の一種である。ネマチック構造は分子長軸が一様な方向を向いており、配向秩序のみをもつ液晶構造である。これに対し、スメクチック構造は配向秩序に加えて一次元の位置の秩序を持ち、層構造を有する液晶構造である。秩序性はネマチック構造よりもスメクチック構造の方が高い。従って、硬化物の熱伝導性及び破壊靭性の観点からは、スメクチック構造の高次構造を形成することがより好ましい。
【0035】
エポキシ樹脂の硬化物中にスメクチック構造が形成されているか否かは、硬化物のX線回折測定により判断できる。X線回折測定は、例えば、株式会社リガク製のX線回折装置を用いて行うことができる。CuKα1線を用い、管電圧40kV、管電流20mA、2θ=2°~30°の範囲で測定すると、スメクチック構造を有している硬化物であれば、2θ=2°~10°の範囲に回折ピークが現れる。
【0036】
特定エポキシ化合物は、2つ以上のメソゲン構造の少なくとも一つが下記一般式(1)で表される構造を有するものであってもよい。
【0037】
【化12】

【0038】
一般式(1)中、Xは単結合又は下記2価の基からなる群(A)より選択される少なくとも1種の連結基を示す。Yはそれぞれ独立に、炭素数1~8の脂肪族炭化水素基、炭素数1~8の脂肪族アルコキシ基、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子、シアノ基、ニトロ基、又はアセチル基を示す。nは各々独立に0~4の整数を示す。
【0039】
【化13】

【0040】
群(A)中、Yはそれぞれ独立に、炭素数1~8の脂肪族炭化水素基、炭素数1~8の脂肪族アルコキシ基、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子、シアノ基、ニトロ基、又はアセチル基を示す。nは各々独立に0~4の整数を示し、kは0~7の整数を示し、mは0~8の整数を示し、lは0~12の整数を示す。
【0041】
本発明者らの検討により、特定エポキシ化合物を含むエポキシ樹脂は、特許文献1に記載のメソゲン構造を有するエポキシモノマーと2価フェノール化合物とを反応させて得られる化合物(すなわち、分子中にフェニレン基を有するエポキシ化合物)を含むエポキシ樹脂よりも、昇温時に粘度が低下しやすく取り扱い性に優れていることがわかった。その理由は明らかではないが、エポキシ化合物の分子中にフェニレン基を有する場合よりもビフェニル基を有する場合の方が分子量が大きくなり、これに伴い分子運動性が増大したことによるものと推測される。
【0042】
(特定エポキシ化合物)
特定エポキシ化合物は、2つ以上の一般式(1)で表されるメソゲン構造と、1つ以上の2価のビフェニル基と、を有するものであれば、その構造は特に制限されない。
特定エポキシ化合物の1分子中に含まれる2つ以上の一般式(1)で表されるメソゲン構造は、異なっていても同じであってもよい。
【0043】
一般式(1)で表されるメソゲン構造において、Xが上記2価の基からなる群(A)より選択される少なくとも1種の連結基である場合、下記2価の基からなる群(Aa)より選択される少なくとも1種の連結基であることが好ましく、群(Aa)より選択される少なくとも1種の連結基であって少なくとも1つの環状構造を含む連結基であることがより好ましい。
【0044】
【化14】

【0045】
群(Aa)中、Yはそれぞれ独立に、炭素数1~8の脂肪族炭化水素基、炭素数1~8の脂肪族アルコキシ基、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子、シアノ基、ニトロ基、又はアセチル基を示す。nは各々独立に0~4の整数を示し、kは0~7の整数を示し、mは0~8の整数を示し、lは0~12の整数を示す。
【0046】
特定エポキシ化合物が有する2つ以上の下記一般式(1)で表されるメソゲン構造のうち、少なくとも1つが下記一般式(2)で表されるメソゲン構造であることが好ましく、全部が下記一般式(2)で表されるメソゲン構造であることがより好ましい。
【0047】
【化15】

【0048】
一般式(2)において、X、Y、nの定義及び好ましい例は、一般式(1)のX、Y、nの定義及び好ましい例と同様である。
【0049】
さらに、特定エポキシ化合物が有する2つ以上の下記一般式(1)で表されるメソゲン構造のうち、少なくとも1つが下記一般式(3)及び一般式(4)からなる群より選択される少なくとも1つの構造を含むメソゲン構造であることが好ましく、全部が下記一般式(3)又は一般式(4)からなる群より選択される少なくとも1つの構造を含むメソゲン構造であることがより好ましい。
【0050】
【化16】

【0051】
一般式(3)及び一般式(4)中、R~Rはそれぞれ独立に、水素原子又は炭素数1~3のアルキル基を示す。
【0052】
~Rはそれぞれ独立に、水素原子又は炭素数1~2のアルキル基であることが好ましく、水素原子又はメチル基であることがより好ましく、水素原子であることがさらに好ましい。また、R~Rのうちの2個~4個が水素原子であることが好ましく、3個又は4個が水素原子であることがより好ましく、4個すべてが水素原子であることがさらに好ましい。R~Rのいずれかが炭素数1~3のアルキル基である場合、R及びRの少なくとも一方が炭素数1~3のアルキル基であることが好ましい。
【0053】
特定エポキシ基が有する2価のビフェニル基としては、下記一般式(5)で表される構造が挙げられる。
【0054】
【化17】

【0055】
一般式(5)において、*は隣接する原子との結合位置を表す。隣接する原子としては酸素原子及び窒素原子が挙げられる。R及びRはそれぞれ独立に、炭素数1~8のアルキル基を表す。mはそれぞれ独立に、0~4の整数を表す。
【0056】
及びRはそれぞれ独立に炭素数1~8のアルキル基を表し、炭素数1~3のアルキル基であることが好ましく、メチル基であることがより好ましい。
【0057】
mはそれぞれ独立に、0~2の整数であることが好ましく、0~1の整数であることがより好ましく、0であることがさらに好ましい。
【0058】
一般式(5)で表される構造の中でも、下記一般式(5a)で表される構造が好ましい。このような構造を有する特定エポキシ化合物は、分子構造が直線的になりやすい。このため、分子のスタッキング性が高く、高次構造をより形成し易いと考えられる。
【0059】
【化18】

【0060】
一般式(5a)において、*、R、R及びmの定義及び好ましい例は、一般式(5)の*、R、R及びmの定義及び好ましい例と同様である。
【0061】
特定エポキシ化合物は、2つの一般式(1)で表される構造の間に1つの2価のビフェニル基が配置された状態の構造を有することが好ましい。
特定エポキシ化合物が有する「2つの一般式(1)で表される構造の間に1つの2価のビフェニル基が配置された状態」の具体的な態様は、特に制限されない。例えば、一般式(1)で表される構造及びエポキシ基を有する化合物のエポキシ基と、ビフェニル基及びエポキシ基と反応しうる官能基を有する化合物の官能基とが反応した状態であってもよい。
特定エポキシ化合物は、2つの一般式(3)又は一般式(4)で表される構造の間に1つの2価のビフェニル基が配置された状態の構造を有することがより好ましい。
【0062】
特定エポキシ化合物は、下記一般式(1-A)で表される構造を有するエポキシ化合物であってもよい。
【0063】
【化19】

【0064】
一般式(1-A)において、X、Y及びnの定義及び好ましい例は、一般式(1)のX、Y及びnの定義及び好ましい例と同様である。また、R、R及びmの定義及び好ましい例は、一般式(5)のR、R及びmの定義及び好ましい例と同様である。Zはそれぞれ独立に、-O-又は-NH-を表す。
【0065】
つまり、一般式(1-A)においてR又はRを付されたベンゼン環は、2個~4個の水素原子を有することが好ましく、3個又は4個の水素原子を有することがより好ましく、4個の水素原子を有することがさらに好ましい。
【0066】
高次構造形成の観点からは、一般式(1-A)で表される構造を有するエポキシ化合物は、下記一般式(2-A)で表される構造を有するエポキシ化合物であることが好ましい。
【0067】
【化20】

【0068】
一般式(2-A)において、X、Y、n、m、R、R及びZの定義及び好ましい例は、一般式(1-A)のX、Y、n、m、R、R及びZの定義及び好ましい例と同様である。
【0069】
一般式(1-A)で表される構造を有するエポキシ化合物としては、下記一般式(3-A)、(3-A)、(4-A)及び(4-B)からなる群より選択される少なくとも一つの構造を有するエポキシ化合物が挙げられる。
【0070】
【化21】

【0071】
一般式(3-A)、(3-B)、(4-A)及び(4-B)において、R~Rの定義及び好ましい例は、一般式(3)及び一般式(4)のR~Rの定義及び好ましい例と同様である。また、R、R、m及びZの定義及び好ましい例は、一般式(1-A)のR、R、m及びZの定義及び好ましい例と同様である。
【0072】
特定エポキシ化合物における一般式(1)で表される構造の数は、2以上であれば特に制限されない。低粘度化の観点からは、特定エポキシ化合物の少なくとも一部が一般式(1)で表される構造を2つ含む化合物(二量体化合物)であることが好ましい。
【0073】
特定エポキシ化合物が二量体化合物である場合の構造としては、下記一般式(1-A-A)で表される化合物が挙げられる。
【0074】
【化22】

【0075】
一般式(1-A-A)において、X、Y、n、m、R、R及びZの定義及び好ましい例は、一般式(1-A)のX、Y、n、m、R、R及びZの定義及び好ましい例と同様である。
【0076】
高次構造形成の観点からは、一般式(1-A-A)で表される構造を有するエポキシ化合物は、下記一般式(2-A-A)で表される構造を有するエポキシ化合物であることが好ましい。
【0077】
【化23】

【0078】
一般式(2-A-A)において、X、Y、n、m、R、R及びZの定義及び好ましい例は、一般式(1-A-A)のX、Y、n、m、R、R及びZの定義及び好ましい例と同様である。
【0079】
さらに、一般式(1-A-A)で表される構造を有するエポキシ化合物は、下記一般式(3-A-A)~(3-A-C)及び(4-A-A)~(4-A-C)からなる群より選択される少なくとも一つの構造を有するエポキシ化合物であることがより好ましい。
【0080】
【化24】

【0081】
一般式(3-A-A)~(3-A-C)及び(4-A-A)~(4-A-C)において、R~R、R、R、m及びZの定義及び好ましい例は、一般式(3-A)、(3-B)、(4-A)及び(4-B)のR~R、R、R、m及びZの定義及び好ましい例と同様である。
【0082】
(特定エポキシ化合物の合成方法)
特定エポキシ化合物を合成する方法は、特に制限されない。例えば、下記一般式(1-m)で表される化合物(以下、メソゲンエポキシモノマーとも称する)と、メソゲンエポキシモノマーのエポキシ基と反応しうる官能基を有するビフェニル化合物とを反応させて得てもよい。
【0083】
【化25】

【0084】
一般式(1-m)において、X、Y及びnの定義及び好ましい例は、特定エポキシ化合物が有する一般式(1)で表されるメソゲン構造におけるX、Y及びnの定義及び好ましい例と同様である。
【0085】
高次構造形成の観点からは、一般式(1-m)で表されるメソゲンエポキシモノマーは、下記一般式(2-m)で表される構造を有するメソゲンエポキシモノマーであることが好ましい。
【0086】
【化26】

【0087】
一般式(2-m)において、X、Y及びnの定義及び好ましい例は、一般式(1-m)のX、Y及びnの定義及び好ましい例と同様である。
【0088】
一般式(1-m)で表されるメソゲンエポキシモノマーは、下記一般式(3-m)又は(4-m)で表される構造を有するメソゲンエポキシモノマーであることがより好ましい。
【0089】
【化27】

【0090】
一般式(3-m)又は(4-m)において、R~Rの定義及び好ましい例は、一般式(3)又は(4)のR~Rの定義及び好ましい例と同様である。
【0091】
メソゲンエポキシモノマーと、メソゲンエポキシモノマーのエポキシ基と反応しうる官能基を有するビフェニル化合物とを反応させて特定エポキシ化合物を合成する方法は、特に制限されない。具体的には、例えば、メソゲンエポキシモノマーと、メソゲンエポキシモノマーのエポキシ基と反応しうる官能基を有するビフェニル化合物と、必要に応じて用いる反応触媒とを溶媒中に溶解し、加熱しながら撹拌することで、特定エポキシ化合物を合成することができる。
【0092】
あるいは、例えば、メソゲンエポキシモノマーと、メソゲンエポキシモノマーのエポキシ基と反応しうる官能基を有するビフェニル化合物を、必要に応じて用いる反応触媒と溶媒を用いずに混合し、加熱しながら撹拌することで、特定エポキシ化合物を合成することができる。
【0093】
溶媒は、メソゲンエポキシモノマーと、メソゲンエポキシモノマーのエポキシ基と反応しうる官能基を有するビフェニル化合物とを溶解でき、かつ両化合物が反応するのに必要な温度にまで加温できる溶媒であれば、特に制限されない。具体的には、シクロヘキサノン、シクロペンタノン、乳酸エチル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、N-メチルピロリドン、メチルセロソルブ、エチルセロソルブ、プロピレングリコールモノプロピルエーテル等が挙げられる。
【0094】
溶媒の量は、メソゲンエポキシモノマーと、メソゲンエポキシモノマーのエポキシ基と反応しうる官能基を有するビフェニル化合物と、必要に応じて用いる反応触媒とを反応温度において溶解できる量であれば特に制限されない。反応前の原料の種類、溶媒の種類等によって溶解性が異なるものの、例えば、仕込み固形分濃度が20質量%~60質量%となる量であれば、反応後の溶液の粘度が好ましい範囲となる傾向にある。
【0095】
メソゲンエポキシモノマーのエポキシ基と反応しうる官能基を有するビフェニル化合物の種類は、特に制限されない。硬化物中にスメクチック構造を形成する観点からは、ビフェニル構造を形成する2つのベンゼン環にそれぞれ1つの水酸基が結合した構造を有するジヒドロキシビフェニル化合物及びビフェニル構造を形成する2つのベンゼン環にそれぞれ1つのアミノ基が結合した構造を有するジアミノビフェニル化合物からなる群より選択される少なくとも1種(以下、特定ビフェニル化合物とも称する)であることが好ましい。
【0096】
ジヒドロキシビフェニル化合物としては、2,2’-ジヒドロキシビフェニル、2,3’-ジヒドロキシビフェニル、2,4’-ジヒドロキシビフェニル、3,3’-ジヒドロキシビフェニル、3,4’-ジヒドロキシビフェニル、4,4’-ジヒドロキシビフェニル、これらの誘導体等が挙げられる。
ジアミノビフェニル化合物としては、2,2’-ジアミノビフェニル、2,3’-ジアミノビフェニル、2,4’-ジアミノビフェニル、3,3’-ジアミノビフェニル、3,4’-ジアミノビフェニル、4,4’-ジアミノビフェニル、これらの誘導体等が挙げられる。
【0097】
特定ビフェニル化合物の誘導体としては、特定ビフェニル化合物のベンゼン環に炭素数1~8のアルキル基等の置換基が結合した化合物が挙げられる。特定ビフェニル化合物は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0098】
反応触媒の種類は特に限定されず、反応速度、反応温度、貯蔵安定性等の観点から適切なものを選択できる。具体的には、イミダゾール化合物、有機リン化合物、第3級アミン、第4級アンモニウム塩等が挙げられる。反応触媒は1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0099】
硬化物の耐熱性の観点からは、反応触媒としては有機リン化合物が好ましい。
有機リン化合物の好ましい例としては、有機ホスフィン化合物、有機ホスフィン化合物に無水マレイン酸、キノン化合物、ジアゾフェニルメタン、フェノール樹脂等のπ結合をもつ化合物を付加してなる分子内分極を有する化合物、有機ホスフィン化合物と有機ボロン化合物との錯体などが挙げられる。
【0100】
有機ホスフィン化合物として具体的には、トリフェニルホスフィン、ジフェニル(p-トリル)ホスフィン、トリス(アルキルフェニル)ホスフィン、トリス(アルコキシフェニル)ホスフィン、トリス(アルキルアルコキシフェニル)ホスフィン、トリス(ジアルキルフェニル)ホスフィン、トリス(トリアルキルフェニル)ホスフィン、トリス(テトラアルキルフェニル)ホスフィン、トリス(ジアルコキシフェニル)ホスフィン、トリス(トリアルコキシフェニル)ホスフィン、トリス(テトラアルコキシフェニル)ホスフィン、トリアルキルホスフィン、ジアルキルアリールホスフィン、アルキルジアリールホスフィン等が挙げられる。
【0101】
キノン化合物として具体的には、1,4-ベンゾキノン、2,5-トルキノン、1,4-ナフトキノン、2,3-ジメチルベンゾキノン、2,6-ジメチルベンゾキノン、2,3-ジメトキシ-5-メチル-1,4-ベンゾキノン、2,3-ジメトキシ-1,4-ベンゾキノン、フェニル-1,4-ベンゾキノン等が挙げられる。
【0102】
有機ボロン化合物として具体的には、テトラフェニルボレート、テトラ-p-トリルボレート、テトラ-n-ブチルボレート等が挙げられる。
【0103】
反応触媒の量は、特に制限されない。反応速度及び貯蔵安定性の観点からは、メソゲンエポキシモノマーと、メソゲンエポキシモノマーのエポキシ基と反応しうる官能基を有するビフェニル化合物との合計質量100質量部に対し、0.1質量部~1.5質量部であることが好ましく、0.2質量部~1質量部であることがより好ましい。
【0104】
メソゲンエポキシモノマーを用いて特定エポキシ化合物を合成する場合、メソゲンエポキシモノマーのすべてが反応して特定エポキシ化合物の状態になっていても、メソゲンエポキシモノマーの一部が反応せずにモノマーの状態で残存していてもよいが、後述の耐熱性の観点からメソゲンエポキシモノマーの一部が反応せずにモノマーの状態で残存しているほうが好ましい。
【0105】
特定エポキシ化合物の合成は、少量スケールであればフラスコ、大量スケールであれば合成釜等の反応容器を使用して行うことができる。具体的な合成方法は、例えば以下の通りである。
まず、メソゲンエポキシモノマーを反応容器に投入し、必要に応じて溶媒を入れ、オイルバス又は熱媒により反応温度まで加温し、メソゲンエポキシモノマーを溶解する。そこにメソゲンエポキシモノマーのエポキシ基と反応しうる官能基を有するビフェニル化合物を投入し、次いで必要に応じて反応触媒を投入し、反応を開始させる。次いで、必要に応じて減圧下で溶媒を留去することで、特定エポキシ化合物が得られる。
【0106】
反応温度は、メソゲンエポキシモノマーのエポキシ基と、メソゲンエポキシモノマーのエポキシ基と反応しうる官能基との反応が進行する温度であれば特に制限されず、例えば100℃~180℃の範囲であることが好ましく、100℃~150℃の範囲であることがより好ましい。反応温度を100℃以上とすることで、反応が完結するまでの時間をより短くできる傾向にある。一方、反応温度を180℃以下とすることで、ゲル化する可能性を低減できる傾向にある。
【0107】
メソゲンエポキシモノマーと、メソゲンエポキシモノマーのエポキシ基と反応しうる官能基を有するビフェニル化合物の配合比は、特に制限されない。例えば、エポキシ基の当量数(A)と、エポキシ基と反応しうる官能基の当量数(B)との比(A:B)が10:10~10:0.01の範囲となる配合比としてもよい。硬化物の破壊靭性及び耐熱性の観点からは、A:Bが10:5~10:0.1の範囲となる配合比が好ましい。
エポキシ樹脂の取り扱い性の観点からは、エポキシ基の当量数(A)と、エポキシ基と反応しうる官能基の当量数(B)との比(A:B)が10:1.6~10:3.0の範囲となる配合比が好ましく、10:1.8~10:2.9の範囲となる配合比がより好ましく、10:2.0~10:2.8の範囲となる配合比がさらに好ましい。
【0108】
特定エポキシ化合物の構造は、例えば、合成に使用したメソゲンエポキシモノマーと、メソゲンエポキシモノマーのエポキシ基と反応しうる官能基を有するビフェニル化合物との反応より得られると推定される特定エポキシ化合物の分子量と、UV及びマススペクトル検出器を備える液体クロマトグラフを用いて実施される液体クロマトグラフィーにより求めた目的化合物の分子量とを照合させることで決定することができる。
【0109】
液体クロマトグラフィーは、例えば、株式会社日立製作所製の「LaChrom II C18」を分析用カラムとして使用し、グラジエント法を用いて、溶離液の混合比(体積基準)をアセトニトリル/テトラヒドロフラン/10mmol/l酢酸アンモニウム水溶液=20/5/75からアセトニトリル/テトラヒドロフラン=80/20(開始から20分)を経てアセトニトリル/テトラヒドロフラン=50/50(開始から35分)と連続的に変化させて測定を行う。また、流速を1.0ml/minとして行う。UVスペクトル検出器では280nmの波長における吸光度を検出し、マススペクトル検出器ではイオン化電圧を2700Vとして検出する。
【0110】
エポキシ樹脂の重量平均分子量(Mw)は、特に制限されない。低粘度化の観点からは、エポキシ樹脂の重量平均分子量(Mw)は800~1300の範囲から選択されることが好ましい。
【0111】
本開示において、エポキシ樹脂の数平均分子量(Mn)と重量平均分子量(Mw)は液体クロマトグラフィーにより得られる値とする。
液体クロマトグラフィーは、試料濃度を0.5質量%とし、移動相にテトラヒドロフランを用い、流速を1.0ml/minとして行う。検量線はポリスチレン標準サンプルを用いて作成し、それを用いてポリスチレン換算値でMn及びMwを測定する。
測定は、例えば、株式会社日立製作所製の高速液体クロマトグラフ「L6000」と、株式会社島津製作所製のデータ解析装置「C-R4A」を用いて行うことができる。カラムとしては、例えば、東ソー株式会社製のGPCカラムである「G2000HXL」及び「G3000HXL」を用いることができる。
【0112】
エポキシ樹脂のエポキシ当量は、特に制限されない。エポキシ樹脂の流動性と硬化物の熱伝導率を両立する観点からは、245g/eq~360g/eqであることが好ましく、250g/eq~355g/eqであることがより好ましく、260g/eq~350g/eqであることがさらに好ましい。エポキシ樹脂のエポキシ当量が245g/eq以上であれば、エポキシ樹脂の結晶性が高くなりすぎないためエポキシ樹脂の流動性が低下しにくい傾向にある。一方、エポキシ樹脂のエポキシ当量が360g/eq以下であれば、エポキシ樹脂の架橋密度が低下しにくいため、成形物の熱伝導率が高くなる傾向にある。本開示において、エポキシ樹脂のエポキシ当量は、過塩素酸滴定法により測定する。
【0113】
本開示のエポキシ樹脂は、特定エポキシ化合物と、メソゲンエポキシモノマーの両方を含んでいることが好ましい。エポキシ樹脂中に特定エポキシ化合物とメソゲンエポキシモノマーが適切な割合で存在していると、硬化する際の架橋密度をより高い状態にすることができ、耐熱性により優れるエポキシ樹脂硬化物が得られる傾向にある。エポキシ樹脂中に存在する特定エポキシ化合物とメソゲンエポキシモノマーの割合は、メソゲンエポキシモノマーと、メソゲンエポキシモノマーのエポキシ基と反応しうる官能基を有するビフェニル化合物の配合比その他の反応条件によって調節することができる。
【0114】
エポキシ樹脂に含まれるメソゲンエポキシモノマーの含有割合は、エポキシ樹脂全体の50%以下であることが好ましい。メソゲンエポキシモノマーが50%以下であるエポキシ樹脂は、メソゲンエポキシモノマーの含有割合が50%を超えるエポキシ樹脂に比べて昇温時に粘度が下がりやすく、取り扱い性に優れていることがわかった。その理由は明らかではないが、メソゲンエポキシモノマーの割合がエポキシ樹脂全体の50%以下であると、メソゲンエポキシモノマーの含有割合が50%を超える場合に比べ、エポキシ樹脂の溶融温度以下の温度での結晶の析出がより抑制されるためと推測される。
【0115】
本開示において、エポキシ樹脂中のメソゲンエポキシモノマーの含有割合は、例えば、液体クロマトグラフにより得られるチャートから算出することができる。
より具体的には、液体クロマトグラフにより得られるチャートにおける、エポキシ樹脂を構成する全ての成分に由来するピークの合計面積に占めるメソゲンエポキシモノマーに由来するピークの面積の割合(%)として求める。具体的には、測定対象のエポキシ樹脂の280nmの波長における吸光度を検出し、検出された全てのピークの合計面積と、メソゲンエポキシモノマーに相当するピークの面積とから、下記式により算出する。
【0116】
メソゲンエポキシモノマーに由来するピークの面積の割合(%)=(メソゲンエポキシモノマーに由来するピークの面積/エポキシ樹脂を構成する全ての成分に由来するピークの合計面積)×100
【0117】
液体クロマトグラフィーは、試料濃度を0.5質量%とし、移動相にテトラヒドロフランを用い、流速を1.0ml/minとして行う。測定は、例えば、株式会社日立製作所製の高速液体クロマトグラフ「L6000」と、株式会社島津製作所製のデータ解析装置「C-R4A」を用いて行うことができる。カラムとしては、例えば、東ソー株式会社製のGPCカラムである「G2000HXL」及び「G3000HXL」を用いることができる。
【0118】
取り扱い性向上の観点からは、メソゲンエポキシモノマーの割合は、エポキシ樹脂全体の50%以下であることが好ましく、49%以下であることがより好ましく、48%以下であることがさらに好ましい。
【0119】
固有粘度(溶融時の粘度)の低減の観点からは、メソゲンエポキシモノマーの割合は、エポキシ樹脂全体の35%以上であることが好ましく、37%以上であることがより好ましく、40%以上であることがさらに好ましい。
【0120】
<エポキシ樹脂組成物>
本開示のエポキシ樹脂組成物は、上述したエポキシ樹脂と、硬化剤と、を含む。
【0121】
(硬化剤)
硬化剤は、エポキシ樹脂と硬化反応を生じることができる化合物であれば、特に制限されない。硬化剤の具体例としては、アミン硬化剤、フェノール硬化剤、酸無水物硬化剤、ポリメルカプタン硬化剤、ポリアミノアミド硬化剤、イソシアネート硬化剤、ブロックイソシアネート硬化剤等が挙げられる。硬化剤は、1種を単独で用いても2種以上を併用してもよい。
【0122】
エポキシ樹脂組成物の硬化物中に高次構造を形成する観点からは、硬化剤としては、アミン硬化剤又はフェノール硬化剤が好ましく、アミン硬化剤がより好ましく、芳香環に直接結合しているアミノ基を2つ以上有する化合物であることがさらに好ましい。
【0123】
アミン硬化剤として具体的には、3,3’-ジアミノジフェニルスルホン、4,4’-ジアミノジフェニルスルホン、4,4’-ジアミノジフェニルメタン、4,4’-ジアミノジフェニルエーテル、4,4’-ジアミノ-3,3’-ジメトキシビフェニル、4,4’-ジアミノフェニルベンゾエート、1,5-ジアミノナフタレン、1,3-ジアミノナフタレン、1,4-ジアミノナフタレン、1,8-ジアミノナフタレン、1,3-ジアミノベンゼン、1,4-ジアミノベンゼン、4,4’-ジアミノベンズアニリド、トリメチレン-ビス-4-アミノベンゾアート等が挙げられる。
【0124】
エポキシ樹脂組成物の硬化物中にスメクチック構造を形成する観点からは3,3’-ジアミノジフェニルスルホン、4,4’-ジアミノジフェニルスルホン、1,3-ジアミノベンゼン、1,4-ジアミノベンゼン、4,4’-ジアミノベンズアニリド、1,5-ジアミノナフタレン、4,4’-ジアミノジフェニルメタン及びトリメチレン-ビス-4-アミノベンゾアートが好ましく、低吸水率及び高破壊靭性の硬化物を得る観点からは3,3’-ジアミノジフェニルスルホンがより好ましい。
【0125】
フェノール硬化剤としては、低分子フェノール化合物、及び低分子フェノール化合物をメチレン鎖等で連結してノボラック化したフェノールノボラック樹脂が挙げられる。低分子フェノール化合物としては、フェノール、o-クレゾール、m-クレゾール、p-クレゾール等の単官能フェノール化合物、カテコール、レゾルシノール、ハイドロキノン等の2官能フェノール化合物、1,2,3-トリヒドロキシベンゼン、1,2,4-トリヒドロキシベンゼン、1,3,5-トリヒドロキシベンゼン等の3官能フェノール化合物などが挙げられる。
【0126】
エポキシ樹脂組成物における硬化剤の含有量は特に制限されない。硬化反応の効率性の観点からは、エポキシ樹脂組成物に含まれる硬化剤の官能基の当量数と、エポキシ樹脂のエポキシ基の当量数との比(官能基の当量数/エポキシ基の当量数)が0.3~3.0となる量であることが好ましく、0.5~2.0となる量であることがより好ましい。
【0127】
(その他の成分)
エポキシ樹脂組成物は、必要に応じてエポキシ樹脂と硬化剤以外のその他の成分を含んでもよい。例えば、硬化触媒、フィラー等を含んでもよい。硬化触媒の具体例としては、多量体の合成に使用しうる反応触媒として例示した化合物が挙げられる。
【0128】
(用途)
エポキシ樹脂組成物の用途は特に制限されないが、粘度が低く、流動性に優れていることが要求される加工方法にも好適に用いることができる。例えば、繊維間の空隙にエポキシ樹脂組成物を加温しながら含浸する工程を伴うFRP(繊維強化プラスチック)の製造、エポキシ樹脂組成物を加温しながらスキージ等で広げる工程を伴うシート状物の製造などにも好適に用いることができる。
【0129】
本開示のエポキシ樹脂組成物は、硬化物中のボイドの発生を抑制する観点から粘度低下のための溶剤の添加を省略又は低減することが望まれる加工方法(例えば、航空機、宇宙船等に用いるFRPの製造)にも好適に用いることができる。
【0130】
<エポキシ樹脂硬化物及び複合材料>
本開示のエポキシ樹脂硬化物は、本開示のエポキシ樹脂組成物を硬化して得られる。本開示の複合材料は、本開示のエポキシ樹脂硬化物と、強化材と、を含む。
【0131】
複合材料に含まれる強化材の材質は特に制限されず、複合材料の用途等に応じて選択できる。強化材として具体的には、炭素材料、ガラス、芳香族ポリアミド系樹脂(例えば、ケブラー(登録商標))、超高分子量ポリエチレン、アルミナ、窒化ホウ素、窒化アルミニウム、マイカ、シリコン等が挙げられる。強化材の形状は特に制限されず、繊維状、粒子状(フィラー)等が挙げられる。複合材料の強度の観点からは、強化材は炭素材料であることが好ましく、炭素繊維であることがより好ましい。複合材料に含まれる強化材は、1種でも2種以上であってもよい。
【実施例
【0132】
以下、実施例にもとづいて上記実施形態をさらに具体的に説明するが、上記実施形態はこれらに限定されるものではない。
【0133】
<実施例1>
500mLの三口フラスコに、下記構造で表されるメソゲンエポキシモノマーを50g量り取り、そこにプロピレングリコールモノメチルエーテルを100g添加した。三口フラスコに冷却管及び窒素導入管を設置し、溶媒に漬かるように撹拌羽を取り付けた。この三口フラスコを120℃のオイルバスに浸漬し、撹拌を開始した。メソゲンエポキシモノマーが溶解し、透明な溶液になったことを確認した後、特定ビフェニル化合物として4,4’-ジヒドロキシビフェニルをメソゲンエポキシモノマーのエポキシ基(A)と4,4’-ジヒドロキシビフェニルの水酸基(B)の当量数比(A:B)が10:2.5となるように添加し、反応触媒としてトリフェニルホスフィンを0.5g添加し、120℃のオイルバス温度で加熱を継続した。3時間加熱を継続した後に、反応溶液からプロピレングリコールモノメチルエーテルを減圧留去し、残渣を室温(25℃)まで冷却することにより、メソゲンエポキシモノマーの一部が4,4’-ジヒドロキシビフェニルと反応して多量体(特定エポキシ化合物)を形成した状態のエポキシ樹脂を得た。
【0134】
【化28】

【0135】
次いで、得られたエポキシ樹脂を50g、硬化剤として3,3’-ジアミノジフェニルスルホン9.1gをステンレスシャーレに量り取り、ホットプレートで180℃に加熱した。ステンレスシャーレ内の樹脂が溶融した後に、180℃で1時間加熱した。常温(25℃)まで冷却した後にステンレスシャーレから樹脂を取り出し、恒温槽にて230℃で1時間加熱して硬化を完了させて、エポキシ樹脂硬化物を得た。このエポキシ樹脂硬化物を13mm×36mm×6mmの直方体に切り出し、吸水試験用の試験片を作製した。さらに、3.75mm×7.5mm×33mmの直方体に切り出し、破壊靭性評価用の試験片を作製した。
【0136】
<実施例2>
500mLの三口フラスコに、下記構造で表されるメソゲンエポキシモノマーを50g量り取り、そこにプロピレングリコールモノメチルエーテルを100g添加した。三口フラスコに冷却管及び窒素導入管を設置し、溶媒に漬かるように撹拌羽を取り付けた。この三口フラスコを120℃のオイルバスに浸漬し、撹拌を開始した。メソゲンエポキシモノマーが溶解し、透明な溶液になったことを確認した後、特定ビフェニル化合物として2,2’-ジヒドロキシビフェニルをメソゲンエポキシモノマーのエポキシ基(A)と2,2’-ジヒドロキシビフェニルの水酸基(B)の当量数比(A:B)が10:2.5となるように添加し、反応触媒としてトリフェニルホスフィンを0.5g添加し、120℃のオイルバス温度で加熱を継続した。3時間加熱を継続した後に、反応溶液からプロピレングリコールモノメチルエーテルを減圧留去し、残渣を室温(25℃)まで冷却することにより、エポキシモノマーの一部が2,2’-ジヒドロキシビフェニルと反応して多量体(特定エポキシ化合物)を形成した状態のエポキシ樹脂を得た。
【0137】
【化29】

【0138】
次いで、得られたエポキシ樹脂を50g、硬化剤として3,3’-ジアミノジフェニルスルホン9.1gをステンレスシャーレに量り取り、ホットプレートで180℃に加熱した。ステンレスシャーレ内の樹脂が溶融した後に、180℃で1時間加熱した。常温(25℃)まで冷却した後にステンレスシャーレから樹脂を取り出し、恒温槽にて230℃で1時間加熱して硬化を完了させて、エポキシ樹脂硬化物を得た。このエポキシ樹脂硬化物を用いて、実施例1と同様にして試験片を作製した。
【0139】
<実施例3>
500mLの三口フラスコに、下記構造で表されるメソゲンエポキシモノマーを50g量り取り、そこにプロピレングリコールモノメチルエーテルを100g添加した。三口フラスコに冷却管及び窒素導入管を設置し、溶媒に漬かるように撹拌羽を取り付けた。この三口フラスコを120℃のオイルバスに浸漬し、撹拌を開始した。メソゲンエポキシモノマーが溶解し、透明な溶液になったことを確認した後、特定ビフェニル化合物として4,4’-ジヒドロキシビフェニルをメソゲンエポキシモノマーのエポキシ基(A)と4,4’-ジヒドロキシビフェニルの水酸基(B)の当量比(A:B)が10:2.5となるように添加し、反応触媒としてトリフェニルホスフィンを0.5g添加し、120℃のオイルバス温度で加熱を継続した。3時間加熱を継続した後に、反応溶液からプロピレングリコールモノメチルエーテルを減圧留去し、残渣を室温(25℃)まで冷却することにより、メソゲンエポキシモノマーの一部が4,4’-ジヒドロキシビフェニルと反応して多量体を形成した状態のエポキシ樹脂を得た。
【0140】
【化30】

【0141】
次いで、得られたエポキシ樹脂を50g、硬化剤として3,3’-ジアミノジフェニルスルホン9.1gをステンレスシャーレに量り取り、ホットプレートで180℃に加熱した。ステンレスシャーレ内の樹脂が溶融した後に、180℃で1時間加熱した。常温(25℃)まで冷却した後にステンレスシャーレから樹脂を取り出し、恒温槽にて230℃で1時間加熱して硬化を完了させて、エポキシ樹脂硬化物を得た。このエポキシ樹脂硬化物を用いて、実施例1と同様にして試験片を作製した。
【0142】
<比較例1>
ビフェニル型エポキシ樹脂(YL6121H、三菱ケミカル株式会社)を50g、硬化剤として3,3’-ジアミノジフェニルスルホン19.3gをステンレスシャーレに量り取り、実施例1と同様にしてエポキシ樹脂硬化物を作製した。このエポキシ樹脂硬化物を用いて、実施例1と同様にして試験片を作製した。
【0143】
<比較例2>
ビスフェノールA型エポキシ樹脂(エピコート828XA、三菱ケミカル株式会社)を50g、硬化剤として3,3’-ジアミノジフェニルスルホン15.1gをステンレスシャーレに量り取り、実施例1と同様にしてエポキシ樹脂硬化物を作製した。このエポキシ樹脂硬化物を用いて、実施例1と同様にして試験片を作製した。
【0144】
<比較例3>
下記構造で表されるメソゲンエポキシモノマーを50g、硬化剤として3,3’-ジアミノジフェニルスルホン13.8gをステンレスシャーレに量り取り、実施例1と同様にしてエポキシ樹脂硬化物を作製した。このエポキシ樹脂硬化物を用いて、実施例1と同様にして試験片を作製した。
【0145】
【化31】

【0146】
<比較例4>
メソゲンエポキシモノマーを4,4’-ジヒドロキシビフェニルに代えてヒドロキノンと反応させた以外は実施例1と同様にして、エポキシ樹脂を得た。得られたエポキシ樹脂を50g、硬化剤として3,3’-ジアミノジフェニルスルホン9.7gをステンレスシャーレに量り取り、実施例1と同様にしてエポキシ樹脂硬化物を作製した。このエポキシ樹脂硬化物を用いて、実施例1と同様にして試験片を作製した。
【0147】
[粘度挙動の評価]
エポキシ樹脂の粘度挙動の評価を、動的せん断粘度(Pa・s)を測定することにより行った。
動的せん断粘度(Pa・s)は、JIS K 7244-10:2005の規格に従い、レオメータ(MCR-301、アントンパール社製)により振動モードで測定した。測定には直径12mmの平行平板プレートを用い、測定条件は、周波数1Hz、ギャップ0.2mm、ひずみ2%とした。
測定は、エポキシ樹脂を150℃で3分以上放置して溶融させた後、エポキシ樹脂の温度を150℃から30℃まで2℃/分の速度で下降させる降温工程と、エポキシ樹脂の温度を30℃から150℃まで2℃/分の速度で上昇させる昇温工程と、をこの順に実施し、昇温工程における70℃での動的せん断粘度(Pa・s)を測定した。結果を表1に示す。
【0148】
[破壊靭性の評価]
エポキシ樹脂硬化物の破壊靭性の評価の指標として、破壊靭性値(MPa・m1/2)を測定した。試験片の破壊靭性値は、ASTM D5045に基づいて3点曲げ測定を行って算出した。評価装置には、インストロン5948(インストロン社製)を用いた。結果を表1に示す。
【0149】
[スメクチック構造の有無]
エポキシ樹脂硬化物中にスメクチック構造が形成されているか否かを確認するために、X線回折測定を行った。測定条件は、CuKα線を用い、管電圧50kV、管電流300mA、走査速度を1°/分、測定角度を2θ=2°~30°とした。評価装置には、株式会社リガク製のX線回折装置を用いた。結果を表1に示す。
有…2θ=2°~10°の範囲に回折ピークが現れ、スメクチック構造が形成されている。
無…2θ=2°~10°の範囲に回折ピークが現れておらず、スメクチック構造が形成されていない。
【0150】
【表1】

【0151】
表1の結果に示すように、メソゲン構造とビフェニル基を有する特定エポキシ化合物を含む実施例のエポキシ樹脂は、70℃での粘度が低く、取り扱い性が良好であった。また、実施例のエポキシ樹脂から得られた硬化物は破壊靭性の評価も良好であった。
メソゲン基を有するが特定エポキシ化合物の構造になっていないエポキシ化合物を含む比較例1、3のエポキシ樹脂は、70℃で結晶化した状態であり、粘度も高かった。また、これらのエポキシ樹脂から得られた硬化物は破壊靭性値が実施例より低かった。
メソゲン構造をもたないエポキシ化合物を用いた比較例2は、70℃での粘度が低いものの硬化物の破壊靭性値が実施例より低かった。
ビフェニル構造ではなくフェニレン構造を有するエポキシ化合物を用いた比較例4は、70℃での粘度が低いものの硬化物の破壊靭性値が実施例より低かった。