(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-01-06
(45)【発行日】2022-01-21
(54)【発明の名称】ワークの両面研磨方法、ワークの製造方法、及びワークの両面研磨装置
(51)【国際特許分類】
B24B 37/08 20120101AFI20220114BHJP
B24B 37/005 20120101ALI20220114BHJP
B24B 37/28 20120101ALI20220114BHJP
B24B 49/16 20060101ALI20220114BHJP
H01L 21/304 20060101ALI20220114BHJP
【FI】
B24B37/08
B24B37/005 A
B24B37/28
B24B49/16
H01L21/304 621A
(21)【出願番号】P 2020102456
(22)【出願日】2020-06-12
【審査請求日】2020-06-12
(73)【特許権者】
【識別番号】302006854
【氏名又は名称】株式会社SUMCO
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100165696
【氏名又は名称】川原 敬祐
(74)【代理人】
【識別番号】100164448
【氏名又は名称】山口 雄輔
(72)【発明者】
【氏名】高石 和成
(72)【発明者】
【氏名】蔡 錦福
【審査官】須中 栄治
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-049612(JP,A)
【文献】特開2016-036857(JP,A)
【文献】国際公開第2014/002467(WO,A1)
【文献】特開2014-138973(JP,A)
【文献】特開2007-152499(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B24B3/00-3/60
B24B21/00-51/00
H01L21/304;21/463
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
サンギアおよびインターナルギアによって回転するキャリアプレート内でワークを研磨する、ワークの両面研磨方法であって、
前記ワークの目標となる加工形状に応じて研磨条件を設定する工程と、
前記研磨条件に基づいて研磨を開始する工程と、
トルク検出器により、研磨中に前記サンギアのトルク(Ti)および前記インターナルギアのトルク(To)を検出する工程と、
計算処理部により、検出した前記サンギアのトルク(Ti)および前記インターナルギアのトルク(To)の、トルクの和(Ti+To)の値およびトルクの比(Ti/To)の値を算出する工程と、
条件設定部により、前記トルクの和(Ti+To)および前記トルクの比(Ti/To)の制御範囲を設定する工程と、
前記条件設定部により、前記トルクの和(Ti+To)の値および前記トルクの比(Ti/To)の値が前記制御範囲内にあるか否かに基づいて、前記研磨条件を変更する必要があるか否かを判定する工程と、を含むことを特徴とする、ワークの両面研磨方法。
【請求項2】
両面研磨開始前に、前記トルクの和(Ti+To)および前記トルクの比(Ti/To)の前記ワークの前記目標となる加工形状に対する関係を予め取得する工程をさらに含み、
前記トルクの和(Ti+To)および前記トルクの比(Ti/To)の前記制御範囲を設定する前記工程を、取得した前記関係に基づいて行う、請求項1に記載のワークの両面研磨方法。
【請求項3】
前記ワークの前記目標となる加工形状が、GBIR値および/またはESFQR値により決定される、請求項2に記載のワークの両面研磨方法。
【請求項4】
前記計算処理部により、前記サンギアのトルク(Ti)の値および前記インターナルギアのトルク(To)の値を、それぞれ、前記サンギアを駆動するモータの動作出力および前記インターナルギアを駆動するモータの動作出力の、それぞれの定格出力に対する比の値に変換し、前記GBIR値により前記ワークの前記目標となる加工形状を決定する際に、前記条件設定部が、前記トルクの和(Ti+To)の前記制御範囲を30から35に設定すると共に、前記トルクの比(Ti/To)の前記制御範囲を1.5から2.1に設定し、
前記モータの動作出力の前記定格出力に対する比の値は、
(動作している前記モータの出力の値/前記モータの前記定格出力の値)×100
の式により算出される、請求項3に記載のワークの両面研磨方法。
【請求項5】
前記計算処理部により、前記サンギアのトルク(Ti)の値および前記インターナルギアのトルク(To)の値を、それぞれ、前記サンギアを駆動するモータの動作出力および前記インターナルギアを駆動するモータの動作出力の、それぞれの定格出力に対する比の値に変換し、前記ESFQR値により前記ワークの前記目標となる加工形状を決定する際に、前記条件設定部が、前記トルクの和(Ti+To)の前記制御範囲を25から30に設定すると共に、前記トルクの比(Ti/To)の前記制御範囲を1.4から1.9に設定し、
前記モータの動作出力の前記定格出力に対する比の値は、
(動作している前記モータの出力の値/前記モータの前記定格出力の値)×100
の式により算出される、請求項3に記載のワークの両面研磨方法。
【請求項6】
前記キャリアプレートが回転定盤の上定盤と下定盤との間に配置され、
前記研磨条件が、前記下定盤の回転数、または、前記回転定盤が前記ワークに与える加工荷重である、請求項1~5のいずれか一項に記載のワークの両面研磨方法。
【請求項7】
測定部により、研磨開始前に、前記ワークの形状を測定する工程と、
前記計算処理部が、測定した前記ワークの形状に基づいて、前記ワークの両面研磨工程を複数のサブ工程に分割する工程と、をさらに含み、
前記トルクの和(Ti+To)および前記トルクの比(Ti/To)の制御範囲を設定する前記工程が、各前記サブ工程においてそれぞれ行われ、
前記トルクの和(Ti+To)の値および前記トルクの比(Ti/To)の値が、前記制御範囲内にあるか否かに基づいて、前記研磨条件を変更する必要があるか否かを判定する前記工程が、各前記サブ工程においてそれぞれ行われる、請求項1~5のいずれか一項に記載のワークの両面研磨方法。
【請求項8】
前記複数のサブ工程が、
前記ワークの円周方向におけるばらつきの程度を低減するサブ工程と、
前記ワークの半径方向におけるばらつきの程度を低減するサブ工程と、
を含む、請求項7に記載のワークの両面研磨方法。
【請求項9】
請求項1~8のいずれか一項に記載のワークの両面研磨方法によりワークを製造する、ワークの製造方法。
【請求項10】
回転可能な上定盤および下定盤を備える回転定盤と、
前記回転定盤の中心部に配置されたサンギアと、
前記回転定盤の外周部に配置されたインターナルギアと、
前記下定盤上に配置され、ワークを載置可能であり、かつ前記上定盤と前記下定盤との間で前記サンギアおよび前記インターナルギアにより回転するように構成された、キャリアプレートと、
両面研磨中に前記サンギアのトルク(Ti)を検出する、第1のトルク検出器と、
両面研磨中に前記インターナルギアのトルク(To)を検出する、第2のトルク検出器と、
検出されたトルク情報を受け取り、前記トルク情報に基づいて前記サンギアのトルク(Ti)および前記インターナルギアのトルク(To)の、トルクの和(Ti+To)の値およびトルクの比(Ti/To)の値を算出する、計算処理部と、
前記ワークの目標となる加工形状および研磨条件を設定し、かつ前記トルクの和(Ti+To)の値および前記トルクの比(Ti/To)の値を受け取るように構成された、条件設定部と、
を備えた、ワークの両面研磨装置であって、
前記条件設定部が、前記トルクの和(Ti+To)の値および前記トルクの比(Ti/To)の値が制御範囲内にあるか否かに基づいて、前記研磨条件を変更する必要があるか否かを判定することを特徴とする、ワークの両面研磨装置。
【請求項11】
前記両面研磨装置が、前記トルクの和(Ti+To)および前記トルクの比(Ti/To)の前記ワークの目標となる加工形状に対する関係を予め記憶しておく記憶部をさらに備え、および/または、前記条件設定部が、前記関係を受信可能な通信部を備え、
両面研磨開始前に、前記条件設定部が、前記記憶部から前記関係を取得し、または、前記
通信部により前記関係を外部から受信して取得し、取得した前記関係に基づいて、前記トルクの和(Ti+To)および前記トルクの比(Ti/To)の前記制御範囲を設定する、請求項10に記載のワークの両面研磨装置。
【請求項12】
前記条件設定部が、GBIR値および/またはESFQR値により前記ワークの目標となる加工形状を決定する、請求項11に記載のワークの両面研磨装置。
【請求項13】
前記計算処理部により、前記サンギアのトルク(Ti)の値および前記インターナルギアのトルク(To)の値を、それぞれ、前記サンギアを駆動するモータの動作出力および前記インターナルギアを駆動するモータの動作出力の、それぞれの定格出力に対する比の値に変換し、前記GBIR値により前記ワークの目標となる加工形状を決定する際、前記条件設定部が、前記トルクの和(Ti+To)の前記制御範囲を30から35に設定すると共に、前記トルクの比(Ti/To)の前記制御範囲を1.5から2.1に設定し、
前記モータの動作出力の前記定格出力に対する比の値は、
(動作している前記モータの出力の値/前記モータの前記定格出力の値)×100
の式により算出される、請求項12に記載のワークの両面研磨装置。
【請求項14】
前記計算処理部により、前記サンギアのトルク(Ti)の値および前記インターナルギアのトルク(To)の値を、それぞれ、前記サンギアを駆動するモータの動作出力および前記インターナルギアを駆動するモータの動作出力の、それぞれの定格出力に対する比の値に変換し、前記ESFQR値により前記ワークの目標となる加工形状を決定する際、前記条件設定部が、前記トルクの和(Ti+To)の前記制御範囲を25から30に設定すると共に、前記トルクの比(Ti/To)の前記制御範囲を1.4から1.9に設定し、
前記モータの動作出力の前記定格出力に対する比の値は、
(動作している前記モータの出力の値/前記モータの前記定格出力の値)×100
の式により算出される、請求項12に記載のワークの両面研磨装置。
【請求項15】
前記条件設定部が、
所望のGBIR値および/またはESFQR値を満たすよう、機械学習の方式で前記条件設定部に前記トルクの和(Ti+To)および前記トルクの比(Ti/To)に基づき自動的に研磨条件を設定させる機械学習装置をさらに備える、請求項12に記載のワークの両面研磨装置。
【請求項16】
前記サンギアに接続された第1のモータと、前記インターナルギアに接続された、第2のモータと、をさらに備え、
前記第1のトルク検出器は、前記第1のモータの前記サンギアを回転させるトルクを検出して前記サンギアのトルク(Ti)とし、前記第2のトルク検出器は、前記第2のモータの前記インターナルギアを回転させるトルクを検出して前記インターナルギアのトルク(To)とする、請求項10~15のいずれか一項に記載のワークの両面研磨装置。
【請求項17】
前記下定盤に接続された下定盤モータをさらに備え、
前記条件設定部は、前記下定盤モータを介して前記下定盤の回転数を制御するように構成され、
前記回転定盤は、前記ワークに対して上下方向に加工荷重を与え、前記条件設定部は、前記加工荷重を制御するように構成され、
前記条件設定部が、前記下定盤の回転数または前記加工荷重を変更することによって、前記研磨条件を変更する、請求項10~15のいずれか一項に記載のワークの両面研磨装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ワークの両面研磨方法、ワークの製造方法、及びワークの両面研磨装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
半導体ウェーハ等のワークの製造においては、該ワークの表面に対して研磨を行うプロセスが含まれることがある。例えば、研磨パッドを有する上下定盤でウェーハを挟み込み、両面を同時に研磨する。近年、半導体の微細化に伴って、ウェーハの研磨精度に対する要求が次第に高まってきている。さらに、大型集積回路の集積度を高めるためには、研磨精度を高めることの他、ウェーハの平坦度を向上させる必要もある。一般にウェーハの平坦度は、例えばGBIR値(Global Backside Indicated Reading)およびESFQR値(Edge flatness metric, Sector based, Front surface referenced, Site Front least squares range)を用いて表される。GBIR値は、主にウェーハの全体的平坦度を表すのに用いられ、ESFQR値は、主にウェーハの外周平坦度を表すのに用いられる。
【0003】
ウェーハを研磨する際には、研磨条件を厳密に制御して、所定の定盤温度で所定の研磨液を用いて、両面研磨装置におけるキャリアプレート内のウェーハの回転を所望の回転状態に保つ必要がある。よって、研磨精度およびウェーハ平坦度の向上という目的を達成するために、研磨装置の回転条件をどのように設定するかが、重要な課題の1つである。
【0004】
例えば、特許文献1には、両面研磨時に、研磨抵抗測定手段がウェーハの研磨抵抗を算出してその研磨抵抗を制御手段に伝送し、制御手段がキャリアプレートの自転比率(すなわち、キャリアプレートが1回公転する間の自転回数)を制御するという研磨方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1では、キャリアプレートの自転比率を制御することによってウェーハの研磨精度の低下を回避できてはいるが、ウェーハの研磨精度向上については限界がある。また、このような問題は、ウェーハのみならず、両面研磨に供されるワーク一般に生じ得るものでもある。
【0007】
本発明は、ワークの両面研磨後の該ワークの厚さを精度良く制御し、ひいては高い平坦度を有するワークを得ることのできる、ワークの両面研磨方法、ワークの製造方法、およびワークの両面研磨装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の要旨構成は、以下の通りである。
本発明のワークの両面研磨方法は、サンギアおよびインターナルギアによって回転するキャリアプレート内でワークを研磨する、ワークの両面研磨方法であって、
前記ワークの目標となる加工形状に応じて研磨条件を設定する工程と、
前記研磨条件に基づいて研磨を開始する工程と、
トルク検出器により、研磨中に前記サンギアのトルク(Ti)および前記インターナルギアのトルク(To)を検出する工程と、
計算処理部により、検出した前記サンギアのトルク(Ti)および前記インターナルギアのトルク(To)の、トルクの和(Ti+To)の値およびトルクの比(Ti/To)の値を算出する工程と、
条件設定部により、前記トルクの和(Ti+To)および前記トルクの比(Ti/To)の制御範囲を設定する工程と、
前記条件設定部により、前記トルクの和(Ti+To)の値および前記トルクの比(Ti/To)の値が前記制御範囲内にあるか否かに基づいて、前記研磨条件を変更する必要があるか否かを判定する工程と、を含むことを特徴とする。
【0009】
一実施形態において、両面研磨開始前に、前記トルクの和(Ti+To)および前記トルクの比(Ti/To)の前記ワークの前記目標となる加工形状に対する関係を予め取得する工程をさらに含み、
前記トルクの和(Ti+To)および前記トルクの比(Ti/To)の前記制御範囲を設定する前記工程を、取得した前記関係に基づいて行う。
【0010】
一実施形態において、前記ワークの前記目標となる加工形状が、GBIR値および/またはESFQR値により決定される。なお、本明細書において、「GBIR」、「ESFQR」は、SEMI規格に定められたものである。
【0011】
一実施形態において、前記計算処理部により、前記サンギアのトルク(Ti)の値および前記インターナルギアのトルク(To)の値を、それぞれ、前記サンギアを駆動するモータの動作出力および前記インターナルギアを駆動するモータの動作出力の、それぞれの定格出力に対する比の値に変換し、前記GBIR値により前記ワークの前記目標となる加工形状を決定する際に、前記条件設定部が、前記トルクの和(Ti+To)の前記制御範囲を30から35に設定すると共に、前記トルクの比(Ti/To)の前記制御範囲を1.5から2.1に設定し、
前記モータの動作出力の前記定格出力に対する比の値は、
(動作している前記モータの出力の値/前記モータの前記定格出力の値)×100
の式により算出される。
【0012】
一実施形態において、前記計算処理部により、前記サンギアのトルク(Ti)の値および前記インターナルギアのトルク(To)の値を、それぞれ、前記サンギアを駆動するモータの動作出力および前記インターナルギアを駆動するモータの動作出力の、それぞれの定格出力に対する比の値に変換し、前記ESFQR値により前記ワークの前記目標となる加工形状を決定する際に、前記条件設定部が、前記トルクの和(Ti+To)の前記制御範囲を25から30に設定すると共に、前記トルクの比(Ti/To)の前記制御範囲を1.4から1.9に設定し、
前記モータの動作出力の前記定格出力に対する比の値は、
(動作している前記モータの出力の値/前記モータの前記定格出力の値)×100
の式により算出される。
【0013】
一実施形態において、前記キャリアプレートが回転定盤の上定盤と下定盤との間に配置され、
前記研磨条件が、前記下定盤の回転数、または、前記回転定盤が前記ワークに与える加工荷重である。
【0014】
一実施形態において、測定部により、研磨開始前に、前記ワークの形状を測定する工程と、
前記計算処理部が、測定した前記ワークの形状に基づいて、前記ワークの両面研磨工程を複数のサブ工程に分割する工程と、をさらに含み、
前記トルクの和(Ti+To)および前記トルクの比(Ti/To)の制御範囲を設定する前記工程が、各前記サブ工程においてそれぞれ行われ、
前記トルクの和(Ti+To)の値および前記トルクの比(Ti/To)の値が、前記制御範囲内にあるか否かに基づいて、前記研磨条件を変更する必要があるか否かを判定する前記工程が、各前記サブ工程においてそれぞれ行われる。
【0015】
一実施形態において、前記複数のサブ工程が、
前記ワークの円周方向におけるばらつきの程度を低減するサブ工程と、
前記ワークの半径方向におけるばらつきの程度を低減するサブ工程と、
を含む。
【0016】
本発明のワークの製造方法は、上記のいずれかのワークの両面研磨方法によりワークを製造する。
【0017】
本発明のワークの研磨装置は、
回転可能な上定盤および下定盤を備える回転定盤と、
前記回転定盤の中心部に配置されたサンギアと、
前記回転定盤の外周部に配置されたインターナルギアと、
前記下定盤上に配置され、ワークを載置可能であり、かつ前記上定盤と前記下定盤との間で前記サンギアおよび前記インターナルギアにより回転するように構成された、キャリアプレートと、
両面研磨中に前記サンギアのトルク(Ti)を検出する、第1のトルク検出器と、
両面研磨中に前記インターナルギアのトルク(To)を検出する、第2のトルク検出器と、
検出されたトルク情報を受け取り、前記トルク情報に基づいて前記サンギアのトルク(Ti)および前記インターナルギアのトルク(To)の、トルクの和(Ti+To)の値およびトルクの比(Ti/To)の値を算出する、計算処理部と、
前記ワークの目標となる加工形状および研磨条件を設定し、かつ前記トルクの和(Ti+To)の値および前記トルクの比(Ti/To)の値を受け取るように構成された、条件設定部と、
を備えた、ワークの両面研磨装置であって、
前記条件設定部が、前記トルクの和(Ti+To)の値および前記トルクの比(Ti/To)の値が制御範囲内にあるか否かに基づいて、前記研磨条件を変更する必要があるか否かを判定することを特徴とする。
【0018】
一実施形態において、前記両面研磨装置が、前記トルクの和(Ti+To)および前記トルクの比(Ti/To)の前記ワークの目標となる加工形状に対する関係を予め記憶しておく記憶部をさらに備え、および/または、前記条件設定部が、前記関係を受信可能な通信部を備え、
両面研磨開始前に、前記条件設定部が、前記記憶部から前記関係を取得し、または、前記受信部により前記関係を外部から受信して取得し、取得した前記関係に基づいて、前記トルクの和(Ti+To)および前記トルクの比(Ti/To)の前記制御範囲を設定する。
【0019】
一実施形態において、前記条件設定部が、GBIR値および/またはESFQR値により前記ワークの目標となる加工形状を決定する。
【0020】
一実施形態において。前記計算処理部により、前記サンギアのトルク(Ti)の値および前記インターナルギアのトルク(To)の値を、それぞれ、前記サンギアを駆動するモータの動作出力および前記インターナルギアを駆動するモータの動作出力の、それぞれの定格出力に対する比の値に変換し、前記GBIR値により前記ワークの目標となる加工形状を決定する際、前記条件設定部が、前記トルクの和(Ti+To)の前記制御範囲を30から35に設定すると共に、前記トルクの比(Ti/To)の前記制御範囲を1.5から2.1に設定し、
前記モータの動作出力の前記定格出力に対する比の値は、
(動作している前記モータの出力の値/前記モータの前記定格出力の値)×100
の式により算出される。
【0021】
一実施形態において、前記計算処理部により、前記サンギアのトルク(Ti)の値および前記インターナルギアのトルク(To)の値を、それぞれ、前記サンギアを駆動するモータの動作出力および前記インターナルギアを駆動するモータの動作出力の、それぞれの定格出力に対する比の値に変換し、前記ESFQR値により前記ワークの目標となる加工形状を決定する際、前記条件設定部が、前記トルクの和(Ti+To)の前記制御範囲を25から30に設定すると共に、前記トルクの比(Ti/To)の前記制御範囲を1.4から1.9に設定し、
前記モータの動作出力の前記定格出力に対する比の値は、
(動作している前記モータの出力の値/前記モータの前記定格出力の値)×100
の式により算出される。
【0022】
一実施形態において、前記条件設定部が、
所望のGBIR値および/またはESFQR値を満たすよう、機械学習の方式で前記条件設定部に前記トルクの和(Ti+To)および前記トルクの比(Ti/To)に基づき自動的に研磨条件を設定させる機械学習装置をさらに備える。
【0023】
一実施形態において、前記サンギアに接続された第1のモータと、前記インターナルギアに接続された第2のモータと、をさらに備え、
前記第1のトルク検出器は、前記第1のモータの前記サンギアを回転させるトルクを検出して前記サンギアのトルク(Ti)とし、前記第2のトルク検出器は、前記第2のモータの前記インターナルギアを回転させるトルクを検出して前記インターナルギアのトルク(To)とする。
【0024】
一実施形態において、前記下定盤に接続された下定盤モータをさらに備え、
前記条件設定部は、前記下定盤モータを介して前記下定盤の回転数を制御するように構成され、
前記回転定盤は、前記ワークに対して上下方向に加工荷重を与え、前記条件設定部は、前記加工荷重を制御するように構成され、
前記条件設定部が、前記下定盤の回転数または前記加工荷重を変更することによって、前記研磨条件を変更する。
【発明の効果】
【0025】
本発明によれば、ワークの両面研磨後の該ワークの厚さを精度良く制御し、ひいては高い平坦度を有するワークを得ることのできる、ワークの両面研磨方法、ワークの製造方法、およびワークの両面研磨装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【
図1A】本発明の一実施形態に係るワークの両面研磨装置を示す斜視図である。
【
図1B】本発明の一実施形態に係るワークの両面研磨装置の部分断面図である。
【
図2】本発明の一実施形態に係るワークの両面研磨装置のブロック図である。
【
図3】ウェーハが両面研磨装置内で研磨されている際に受ける力の状態を説明する図である。
【
図4A】サンギアおよびインターナルギアのトルクの和(Ti+To)と、GBIRの変化率との関係を示す図である。
【
図4B】サンギアおよびインターナルギアのトルクの比(Ti/To)と、GBIRの変化率との関係を示す図である。
【
図4C】サンギアおよびインターナルギアのトルクの和(Ti+To)と、ESFQRの変化率との関係を示す図である。
【
図4D】サンギアおよびインターナルギアのトルクの比(Ti/To)と、ESFQRの変化率との関係を示す図である。
【
図5】本発明の一実施形態に係るワークの両面研磨方法のフローチャートである。
【
図7A】表1における実験例1の研磨後のウェーハの厚さを示す図である。
【
図7B】表1における実験例2の研磨後のウェーハの厚さを示す図である。
【
図7C】表1における実験例3の研磨後のウェーハの厚さを示す図である。
【
図7D】表1における実験例4の研磨後のウェーハの厚さを示す図である。
【
図8A】表2における実験例5の研磨後のウェーハの厚さを示す図である。
【
図8B】表2における実験例6の研磨後のウェーハの厚さを示す図である。
【
図8C】表2における実験例7の研磨後のウェーハの厚さを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、本発明の実施形態について図面を参照して詳細に説明する。
【0028】
図1Aおよび
図1Bに示されるように、本発明の一実施形態に係る両面研磨装置1は、回転定盤2、上定盤モータ11、下定盤モータ13、(図示例で5つの)キャリアプレート14、上研磨パッド15、下研磨パッド16、サンギア20、およびインターナルギア30を備える。回転定盤2は、回転可能な上定盤10および下定盤12を備える。上定盤モータ11は、上定盤10を回転させ、下定盤モータ13は、下定盤12を回転させる。また、研磨に用いる上研磨パッド15および下研磨パッド16が、上定盤10の下面および下定盤12の上面にそれぞれ貼布されている。サンギア20は、回転定盤2の中心部に設置され、インターナルギア30は、回転定盤2の外周部に設置されている。本実施形態において、キャリアプレート14は、サンギア20を取り囲むように配置して、ウェーハWを載置する。キャリアプレート14は、上定盤10と下定盤12との間でサンギア20およびインターナルギア30によって回転する。なお、キャリアプレート14の個数に制限はなく、適宜調整することができ、例えば1つのみのキャリアプレート14を設置することもできる。
【0029】
図1Aに示されるように、本実施形態において、ウェーハWを研磨する際、上定盤10の回転方向A1は、図示例で反時計回りの方向であり、下定盤12の回転方向A2は、図示例で時計回りの方向であり、サンギア20の回転方向A3は、図示例で時計回りの方向であり、インターナルギア30の回転方向A4は、図示例で時計回りの方向である。ただし、これには限定されず、適宜調整が可能であり、例えば回転方向A1が時計回りの方向で、回転方向A2が反時計回りの方向であってもよい。
【0030】
また、
図1Bに示されるように、ウェーハWを研磨する際、両面研磨装置1内に、研磨液17が供給される。キャリアプレート14は、下定盤12の下研磨パッド16と上定盤10の上研磨パッド15との間に設置される。キャリアプレート14に載置されるウェーハWは、下定盤12の下研磨パッド16および上定盤10の上研磨パッド15、ならびにウェーハWに供給される研磨液17によって、その両面が同時に化学機械研磨される。
【0031】
図2を参照して、両面研磨装置1は、サンギアモータ(第1のモータ)21、第1のトルク検出器22、インターナルギアモータ(第2のモータ)31、および第2のトルク検出器32をさらに備える。サンギア20は、サンギアモータ21により駆動される(回転する)。第1のトルク検出器22は、サンギア20およびサンギアモータ21に(この例で電気的に)接続される。研磨中、第1のトルク検出器22は、サンギア20のトルクTiを直接検出するか、またはサンギアモータ21のサンギア20を回転させるトルクをサンギア20のトルクTiとする。また、インターナルギア30は、インターナルギアモータ31により駆動される(回転する)。第2のトルク検出器32は、インターナルギア30およびインターナルギアモータ31に(この例で電気的に)接続される。研磨中、第2のトルク検出器32は、インターナルギア30のトルクToを直接検出するか、またはインターナルギアモータ31のインターナルギア30を回転させるトルクをインターナルギア30のトルクToとする。トルク検出器は、任意の既知のトルクセンサ等を用いることができる。
【0032】
引き続き
図2を参照して、両面研磨装置1は、計算処理部40、条件設定部50、記憶部60、および加圧装置70をさらに備える。計算処理部40は、第1のトルク検出器22および第2のトルク検出器32に(この例で電気的に)接続され、トルク情報を受け取る。トルク情報に基づいて、計算処理部40は、サンギア20のトルクTiおよびインターナルギア30のトルクToの、トルクの和Ti+Toの値およびトルクの比Ti/Toの値を算出し、処理した後に条件設定部50へ送信する。なお、計算処理部40が通信部を備え、該通信部によりトルク情報を(無線で)受け取るように構成することもできる。計算処理部40は、任意の既知のコンピュータ等を用いることができる。
【0033】
条件設定部50は、ウェーハWの加工形状および研磨条件を設定すると共に、計算処理部40に(この例で電気的に)接続され、サンギア20およびインターナルギア30の、トルクの和Ti+Toの値およびトルクの比Ti/Toの値を受け取り、これにより上定盤10および下定盤12の回転数をどのように制御するかを判定し、および/または、加圧装置70を制御する。なお、条件設定部50が通信部を備え、該通信部によりトルクの和の値およびトルクの比の値を(無線で)受け取るように構成することもできる。条件設定部50は、任意の既知のプロセッサとすることができる。加圧装置70は、回転定盤2がウェーハWに対し上下方向に加工荷重Fを与えることができる。記憶部60は、条件設定部50に(この例で電気的に)接続され、トルクの和(Ti+To)およびトルクの比(Ti/To)のウェーハWの加工形状に対する関係を予め記憶する。記憶部60は、任意の既知のメモリとすることができる。
【0034】
続いて、条件設定部50が定盤の回転数または加工荷重を制御する理由について説明する。両面研磨装置において、ウェーハが受ける力に関する制御要素は、例えば上定盤のトルク、下定盤のトルク、インターナルギアのトルク、サンギアのトルク等である。本発明者らは、両面研磨装置におけるキャリアプレート内のウェーハが受ける力の状況とウェーハ形状との相関性を分析したところ、サンギアのトルクおよびインターナルギアのトルクが、ウェーハのGBIR値およびESFQR値に影響を与える主な要素であることを見出した。そして、本発明者らは、サンギアのトルクおよびインターナルギアのトルクの、トルクの和およびトルクの比を所定の範囲内に制御することにより、ウェーハの研磨精度を良好に制御することができるという知見を得た。
【0035】
図1Aおよび
図3を同時に参照して、研磨時におけるウェーハWの受ける力の状況について説明する。前述したように、下定盤12の回転方向A2は、時計回りの方向であり、サンギア20の回転方向A3は、時計回りの方向であり、インターナルギア30の回転方向A4は、時計回りの方向であり、また、キャリアプレート14の公転方向A5は、時計回りの方向であり、キャリアプレート14の自転方向A6は、反時計回りの方向である。かかる場合に、研磨時のウェーハWは、全部で4つの力、それぞれ:サンギア20の回転がキャリアプレート14に与える力Fi、インターナルギア30の回転がキャリアプレート14に与える力Fo、下研磨パッド16がキャリアプレート14に与える力Fd(下定盤12の回転により生じる)、およびキャリアプレート14が生じる摩擦力Fs(垂直抗力、つまり加工荷重Fにより生じる力)を受けることになる。本発明者らは、キャリアプレート14が時計回りの公転および反時計回りの自転が可能な場合を想定し、それぞれトルク原理を用いて力学的分析を行った。
【0036】
先ず、キャリアプレート14が時計回りの公転が可能な場合、下式(1)を得ることができる。式中、riはサンギア20の外径、roはインターナルギア30の内径、Rcはキャリアプレート14の半径である。
Fo×ro+Fi×ri+Fd×(rc+ri)>Fs×(rc+ri)
...式(1)
【0037】
式(1)を整理して下式(2)を得ることができる。式中、Toはサンギア20のトルク、Tiはインターナルギア30のトルク、Fは加工荷重、mは下定盤12の質量、αは下定盤12の角加速度である。
To+Ti+m×(rc+ri)×α×(rc+ri)>μ×F×(rc+ri)
...式(2)
【0038】
式(2)を整理して下式(3)を得ることができる。式中、XおよびYは定数である。
To+Ti>F×X-α×Y ...式(3)
【0039】
次いで、キャリアプレート14が反時計回りの自転が可能な場合、下式(4)を得ることができる。
Fi×rc>Fo×rc ...式(4)
【0040】
式(4)の両辺に同時にroおよびriを乗じると下式(5)が得られる。
Fi×rc×ro×ri>Fo×rc×ro×ri ...式(5)
【0041】
式(5)を整理して下式(6)を得ることができる。式中、riをroで除した数は定数である。
Ti/To>ri/ro ...式(6)
【0042】
また、式(3)の両辺をToで除してから、整理すると、下式(7)が得られる。
Ti/To>(F×X-α×Y)/To-1.....式(7)
【0043】
式(6)と式(7)とを合わせて整理すると、下式(8)が得られる。
Ti/To>(F×X-α×Y)/To-1>ri/ro ...式(8)
【0044】
最後に、式(3)と式(8)とから、サンギア20およびインターナルギア30の、トルクの和Ti+Toおよびトルクの比Ti/Toは、加工荷重Fおよび下定盤12の角加速度と関係があることがわかる。
【0045】
つまり、加工荷重Fおよび下定盤12の回転数を制御する(すなわち、下定盤モータ13の出力を制御する)ことによって、サンギア20およびインターナルギア30の、トルクの和Ti+Toおよびトルクの比Ti/Toを制御することができる。
【0046】
また、前述したように、本発明者らは、サンギア20のトルクToおよびインターナルギア30のトルクTiの、トルクの和Ti+Toおよびトルクの比Ti/Toが、ウェーハのGBIR値およびESFQR値に影響を与える主な要素であることを見出した。そこで、上述の力学的分析の結果に基づいて実験を行い、
図4Aから
図4DのGBIR、ESFQR変化率と、トルクの和Ti+Toおよびトルクの比Ti/Toとの関係図を得た。縦軸のGBIR変化率およびESFQR変化率は比の値であり、横軸のTi/Toの単位は比の値である。なお、
図4A、
図4C、および本明細書におけるトルクの和Ti+Toの単位は、一般的なトルクの単位ではなく、サンギア20のトルクTiおよびインターナルギア30のトルクToの値を、それぞれ、対応するモータであるサンギアモータ21およびインターナルギアモータ31の動作出力の定格出力に対する比の値に変換した後、2つのモータ動作出力の比の値を足して得られる値であるという点に特に言及する必要がある。また、各モータの動作出力の各定格出力に対する比の値は、
(動作しているモータの出力の値/モータの定格出力の値)×100
の式で算出することができる。
つまり、モータの動作出力の定格出力に対する比の値が例えば15である場合、動作しているモータの動作出力は、その定格出力の15%であるということを意味する。また、定電圧の電流制御のモータの場合、出力値を電流値に置き換えてもよい。
【0047】
図4Aおよび
図4Bを参照して、トルクの和Ti+Toの制御範囲が30から35の間である場合、および、トルクの比Ti/Toの制御範囲が1.5から2.1の間である場合、GBIRの変化率は比較的小さい、つまりウェーハWの全体平坦度が比較的高い。したがって、本実施形態では、GBIR値でウェーハWの加工形状を決める場合、トルクの和Ti+Toの制御範囲を30から35に設定し、かつトルクの比Ti/Toの制御範囲を1.5から2.1に設定することが好ましい。なお、
図4Aおよび
図4BのGBIR変化率の関係図では、横軸の値が大きくなるにつれ、ウェーハWの全体形状が凹形状から凸形状へと変化しているという点に特に言及する必要がある。また、前述したように、GBIRの変化率は比の値であり、その定義は、各ウェーハのGBIR値/最小のウェーハのGBIR値である。つまり、
図4Aおよび
図4Bにおいて、最良(最小)のGBIR値を有するウェーハは、そのGBIR変化率が1である。
【0048】
次いで、
図4Cおよび
図4Dを参照して、トルクの和Ti+Toの制御範囲が25から30である場合、および、トルクの比Ti/Toの制御範囲が1.4から1.9の間にある場合、ESFQRの変化率は比較的小さい、つまりウェーハWの外周の平坦度が比較的高い。したがって、本実施形態では、ESFQR値でウェーハWの加工形状を決める場合、トルクの和Ti+Toの制御範囲を25から30に設定し、かつトルクの比Ti/Toの制御範囲を1.4から1.9に設定することが好ましい。なお、
図4Cおよび
図4DのESFQR変化率の関係図では、横軸の値が大きくなるにつれ、ウェーハWの外周形状は、内側が低く外側に向かうにつれ高くなる傾斜形状から、内側が高く外側が低くなる傾斜形状に変わる、という点に特に言及する必要がある。また、前述したように、ESFQRの変化率は比の値であり、その定義は、各ウェーハのESFQR値/最小のウェーハのESFQR値である。つまり、
図4Cおよび
図4Dにおいて、最良(最小)のESFQR値を有するウェーハは、そのESFQR変化率が1である。
【0049】
上述のウェーハWの形状に変化が起こる原因について、本発明者らは次のように説明する。つまり、トルクの和Ti+Toが低すぎると、キャリアプレート14の公転作用が抑制されるが、これは研磨時に、ウェーハWの移動速度が低下し、研磨液17中の砥粒とウェーハW中心との接触率が高まって、ウェーハW中心の研磨量がウェーハW外周より多くなるということであり、よってウェーハWの形状が凹形状となりやすいためである。一方、トルクの和Ti+Toが大きすぎると、キャリアプレート14の公転速度が加速されるが、これは研磨時に、ウェーハWの移動速度が加速され、研磨液17中の砥粒とウェーハW外周との接触率が高まって、ウェーハW外周の研磨量がウェーハW中心より多くなるということであり、よってウェーハWの形状が凸形状となりやすいためである。
【0050】
また、トルクの比Ti/Toが小さすぎると研磨後の形状は不安定となりやすい。キャリアプレート14の自転がスムーズでなくなり、ウェーハWの各外周に対する研磨量が不均一となるため、ウェーハWの外周形状が不安定となりやすいからである。一方、トルクの比Ti/Toが大きすぎると、キャリアプレート14の自転速度が加速されて、ウェーハWの各外周に対する研磨量が多くなるため、ウェーハWが凸形状となりやすい。
【0051】
次に、
図5および
図6を合わせて参照されたい。これらは本発明の一実施形態に係るワークの両面研磨方法を説明するフローチャートである。
【0052】
ステップS01において、条件設定部50が、両面研磨開始前に、記憶部60からGBIRおよびESFQRを制御するトルクの和Ti+Toおよびトルクの比Ti/ToとウェーハWの形状との相関性を取得する。なお、この相関性は、通信部により外部から受信するようにしても良い。
【0053】
次いで、ステップS02において、測定部により、ウェーハWの現在の(両面研磨開始前の)形状を測定する。測定部は、ウェーハの厚さを測定可能な任意の既知のセンサ等の計測器を用いることができる。
【0054】
次いで、ステップS03において、両面研磨装置1による研磨を開始する。
【0055】
開始研磨後、ステップS04において、先ずGBIRを制御するための研磨(つまり、ウェーハ全体を平坦にする研磨)を行う。このとき、条件設定部50は、先に取得したGBIRに関する、トルクの和Ti+Toおよびトルクの比Ti/ToとウェーハWの形状との相関性に基づいて、ウェーハWの所望の加工形状に応じて研磨条件を設定する。具体的には、条件設定部50は、下定盤12の回転数または加圧装置が与える加工荷重Fを設定する。
【0056】
次いで、ステップS05において、ウェーハWが、ステップS04で設定された研磨条件で、継続して研磨される。
【0057】
ウェーハWの研磨が継続されている状態で、ステップS06において、第1のトルク検出器22がサンギアモータ21のトルクTiを検出し、かつ第2のトルク検出器32がインターナルギアモータ31のトルクToを検出する。
【0058】
次いで、ステップS07において、計算処理部40が、第1のトルク検出器22および第2のトルク検出器32からトルクTiおよびトルクToを取得し、トルクTiの値およびトルクToの値をそれぞれ対応するモータの動作出力の定格出力に対する比の値に変換した後、トルクの和Ti+Toおよびトルクの比Ti/Toを得る。
【0059】
次いで、ステップS08において、条件設定部50が、先に取得したGBIRに関する、トルクの和Ti+Toおよびトルクの比Ti/ToとウェーハWの形状との相関性に基づいて、ウェーハWの所望の形状に応じて、トルクの和Ti+Toおよびトルクの比Ti/Toの制御範囲を設定する。
【0060】
次いで、ステップS09において、条件設定部50が、計算処理部40からトルクの和Ti+Toおよびトルクの比Ti/Toの値を受け取り、トルクの和Ti+Toの値およびトルクの比Ti/Toの値が制御範囲内にあるか否かを判定する。トルクの和Ti+Toおよびトルクの比Ti/Toの値のいずれかが制御範囲内にない場合、ステップS04に進み、下定盤12の回転数または加圧装置が与える加工荷重Fを新たに設定する。トルクの和Ti+Toおよびトルクの比Ti/Toの値の両方が制御範囲を満たしている場合はステップS10に進む。
【0061】
ステップS10において、GBIRに関する研磨が終了したか否かを判断する。まだ終了していない場合はステップS05に進み、終了している場合はステップS11に進んで、ESFQRの研磨(つまり、ウェーハ外周を平坦にする研磨)を行う。
【0062】
ステップS11において、条件設定部50が、先に取得したESFQRに関する、トルクの和Ti+Toおよびトルクの比Ti/ToとウェーハWの形状との相関性に基づいて、ウェーハWの所望の加工形状に応じて、研磨条件を設定する。具体的には、条件設定部50は、下定盤12の回転数または加圧装置が与える加工荷重Fを設定する。
【0063】
次いで、ステップS12において、ステップS11にて設定された研磨条件に基づいて継続して研磨を行う。
【0064】
ウェーハWの研磨が継続されている状態で、ステップS13において、第1のトルク検出器22がサンギアモータ21のトルクTiを検出し、かつ第2のトルク検出器32がインターナルギアモータ31のトルクToを検出する。
【0065】
次いで、ステップS14において、計算処理部40が、第1のトルク検出器22および第2のトルク検出器32からトルクTiおよびトルクToを取得し、トルクTiおよびトルクToの値をそれぞれ対応するモータの動作出力の定格出力に対する比の値に変換した後、トルクの和Ti+Toおよびトルクの比Ti/Toを得る。
【0066】
次いで、ステップS15において、条件設定部50が、先に取得したESFQRに関するトルクの和Ti+Toおよびトルクの比Ti/ToとウェーハWの形状との相関性に基づいて、ウェーハWの所望の形状に応じて、トルクの和Ti+Toおよびトルクの比Ti/Toの制御範囲を設定する。
【0067】
次いで、ステップS16において、条件設定部50が、計算処理部40からトルクの和Ti+Toおよびトルクの比Ti/Toの値を受け取り、トルクの和Ti+Toの値およびトルクの比Ti/Toの値が制御範囲内にあるか否かを判定する。トルクの和Ti+Toおよびトルクの比Ti/Toの値のいずれかが制御範囲内にない場合は、ステップS11に進み、下定盤12の回転数または加圧装置が与える加工荷重Fを新たに設定する。トルクの和Ti+Toおよびトルクの比Ti/Toの値の両方が制御範囲を満たしている場合はステップS17に進む。
【0068】
ステップS17において、ESFQRの研磨が終了したか否かを判定する。まだ終了していない場合は、ステップS12に進む。終了している場合はステップS18に進み、研磨終了となる。
【0069】
次いで、ステップS19において、ウェーハWが製造の次工程へ送られる。具体的には、ウェーハWが両面研磨装置1を離れて次の機械へ送られる。
【実施例】
【0070】
以下の表1、表2では本発明の実験例による研磨結果を説明している。表1は、実験例それぞれの加工荷重の設定、測定されたトルク、および研磨結果を示している。各実験例において、研磨の対象となったウェーハは、デバイスが形成されていないシリコンウェーハを用いた。
【0071】
【0072】
また、表1の各例に共通する研磨条件の設定は次のとおりである:
研磨パッド:材料が発泡ポリウレタンであり、厚さ約1mm、硬度(Shore A)80から88(度)、圧縮率1.4から3.4(%)等の基本特性を有する研磨パッド
研磨液:砥粒の平均粒径45から65(nm)、比重1.15から1.16、PH値10.8から11.8等の基本特性を有する研磨液
キャリアプレートのタイプ:ステンレス製基板にDLCメッキ材をメッキしたもの
上定盤回転数:-9.4rpm(負の符号は反時計回りの回転を示す)
下定盤回転数:25rpm
サンギア回転数:25rpm
インターナルギア回転数:4rpm
【0073】
研磨後のウェーハ形状は、従来の測定機器を用いて測定することができる。GBIRの測定は、測定範囲を298mmとし、外周1mmを除外した。ESFQRの測定は、測定範囲を298mmとして、外周1mmを除外した(長さ35mm、ラジアン5度)。
【0074】
図7Aから
図7Dは、実験例1から4のウェーハ形状を順次示している。実験例1は、1000daNの加工荷重を用いており、研磨後のウェーハ形状は、
図7Aに示されるような凹形状である。これに対し、実験例2は加工荷重を低くしたため、トルクの和Ti+Toおよびトルクの比Ti/Toの値が小さくなり、よって研磨後のウェーハ形状が
図7Bに示されるように、より凹んだ凹形状になりやすい。また、実験例3、4は加工荷重を大きくしたため、トルクの和Ti+Toおよびトルクの比Ti/Toの値が大きくなり、よって研磨後のウェーハ形状が、
図7Cおよび
図7Dに示されるように、平坦状または凸形状になりやすい。
【0075】
表2は、実験例それぞれの下定盤回転数の設定、測定されたトルク、および研磨結果を示している。
【0076】
【0077】
また、表2の各例に共通する研磨条件の設定は次のとおりである:
研磨パッド:材料が発泡ポリウレタンであり、厚さ約1mm、硬度(Shore A)80から88(度)、圧縮率1.4から3.4(%)等の基本特性を有する研磨パッド
研磨液:砥粒の平均粒径45から65(nm)、比重1.15から1.16、PH値10.8から11.8等の基本特性を有する研磨液
キャリアプレートのタイプ:ステンレス製基板にDLCメッキ材をメッキしたもの
加工荷重:1000daN
上定盤回転数:-18.4rpm(負の符号は反時計回りの回転を示す)
サンギア回転数:25rpm
インターナルギア回転数:4rpm
【0078】
研磨後のウェーハ形状は、従来の測定機器を用いて測定することができる。GBIRの測定は、測定範囲を298mmとし、外周1mmを除外した。ESFQRの測定は、測定範囲を298mmとして、外周1mmを除外した(長さ35mm、ラジアン5度)。
【0079】
図8Aから
図8Cは、実験例5から7のウェーハ形状を順次示している。実験例5は、下定盤回転数を25rpmに設定しており、研磨後のウェーハ形状は、
図8A示されるような凹形状である。これに対し、実験例6、7は、下定盤回転数を下げたため、トルクの和Ti+Toおよびトルクの比Ti/Toの値が大きくなり、よって研磨後のウェーハ形状が、
図8Bおよび
図8Cに示されるように、平坦状または凸形状となりやすい。
【0080】
以上、実施形態を挙げて具体的に本発明を説明したが、本発明はこれらに限定されることはなく、各種のバリエーションが可能である。
【0081】
例えば、1つの変形例では、条件設定部50が機械学習装置をさらに備えていてもよい。機械学習装置は、任意の従来の演算法により機械学習を行うことができ、例えば、ニューラルネットワーク等の演算法によりサンギア20およびインターナルギア30のトルクの和(Ti+To)およびトルクの比(Ti/To)とウェーハの形状との関係を学習することができる。これにより、条件設定部50が、サンギア20およびインターナルギア30のトルクの和(Ti+To)およびトルクの比(Ti/To)に基づいて自動的に研磨条件を設定し、所望のGBIR値および/またはESFQR値を満たすことができるようになる。
【0082】
また、本発明の研磨フローチャートでは、GBIRの研磨およびESFQRの研磨を順次行っているが、これに限定はされず、研磨の順序を変えることもできるし、あるいはこれらのうち1つの研磨のみを行ってもよい。
【0083】
また、条件設定部50は、測定されたウェーハWの形状に基づいて、ウェーハWの研磨工程を複数のサブ工程に分割することもできる。例えば、サブ工程には、ウェーハWの円周方向におけるばらつきの程度を低減させるサブ工程、およびウェーハWの半径方向におけるばらつきの程度を低減させるサブ工程が含まれ得る。
【0084】
さらに、条件設定部50は、複数のサブ工程の各々において、トルクの和Ti+Toおよびトルクの比Ti/Toの制御範囲を設定し、かつトルクの和Ti+Toおよびトルクの比Ti/Toの値が制御範囲内にあるか否かを判定して、研磨条件を変更する必要があるか否かを判定することができる。
【符号の説明】
【0085】
1:両面研磨装置、
2:回転定盤、
11:上定盤モータ、
13:下定盤モータ、
14:キャリアプレート、
15:上研磨パッド、
16:下研磨パッド、
17:研磨液、
20:サンギア、
30:インターナルギア、
21:サンギアモータ(第1のモータ)、
22:第1のトルク検出器、
31:インターナルギアモータ(第2のモータ)、
32:第2のトルク検出器、
40:計算処理部、
50:条件設定部、
60:記憶部、
70:加圧装置、
F:加工荷重、
A1、A2、A3、A4:回転方向、
A5:公転方向、
A6:自転方向、
Fd、Fi、Fo、Fs:力、
S01~S19:ステップ、
W:ウェーハ