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特許7004088付加製造体の製造方法、および、付加製造体の製造装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-01-06
(45)【発行日】2022-02-04
(54)【発明の名称】付加製造体の製造方法、および、付加製造体の製造装置
(51)【国際特許分類】
   B22F 10/66 20210101AFI20220128BHJP
   C22C 1/04 20060101ALI20220128BHJP
   C22C 1/05 20060101ALI20220128BHJP
   B22F 3/24 20060101ALI20220128BHJP
   B29C 64/153 20170101ALI20220128BHJP
   B29C 64/188 20170101ALI20220128BHJP
   B29C 64/268 20170101ALI20220128BHJP
   B29C 64/295 20170101ALI20220128BHJP
   B33Y 10/00 20150101ALI20220128BHJP
   B33Y 30/00 20150101ALI20220128BHJP
   B33Y 40/10 20200101ALI20220128BHJP
   B33Y 40/20 20200101ALI20220128BHJP
   B22F 3/16 20060101ALI20220128BHJP
   B22F 10/50 20210101ALI20220128BHJP
   B22F 10/362 20210101ALI20220128BHJP
   B22F 12/13 20210101ALI20220128BHJP
   B22F 12/41 20210101ALI20220128BHJP
   C22C 29/08 20060101ALN20220128BHJP
   C22C 19/05 20060101ALN20220128BHJP
   C22C 32/00 20060101ALN20220128BHJP
   C22C 14/00 20060101ALN20220128BHJP
【FI】
B22F10/66
C22C1/04 B
C22C1/05 F
B22F3/24 G
B29C64/153
B29C64/188
B29C64/268
B29C64/295
B33Y10/00
B33Y30/00
B33Y40/10
B33Y40/20
B22F3/16
B22F10/50
B22F10/362
B22F12/13
B22F12/41
C22C29/08
C22C19/05 D
C22C32/00 P
C22C32/00 N
C22C14/00 Z
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2020557854
(86)(22)【出願日】2019-11-29
(86)【国際出願番号】 JP2019046786
(87)【国際公開番号】W WO2020111231
(87)【国際公開日】2020-06-04
【審査請求日】2020-11-09
(31)【優先権主張番号】P 2018223096
(32)【優先日】2018-11-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000005083
【氏名又は名称】日立金属株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100100077
【弁理士】
【氏名又は名称】大場 充
(74)【代理人】
【識別番号】100136010
【弁理士】
【氏名又は名称】堀川 美夕紀
(74)【代理人】
【識別番号】100130030
【弁理士】
【氏名又は名称】大竹 夕香子
(74)【代理人】
【識別番号】100203046
【弁理士】
【氏名又は名称】山下 聖子
(72)【発明者】
【氏名】小関 秀峰
(72)【発明者】
【氏名】山田 湧太
(72)【発明者】
【氏名】白鳥 浩史
(72)【発明者】
【氏名】國友 謙一郎
【審査官】河口 展明
(56)【参考文献】
【文献】特許第6295001(JP,B1)
【文献】特開2002-220628(JP,A)
【文献】特開2016-023367(JP,A)
【文献】特開2016-023366(JP,A)
【文献】特開2016-023363(JP,A)
【文献】特開2018-003087(JP,A)
【文献】国際公開第2007/010598(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C 64/00-64/40
B22F 3/16,3/105,3/24、10/00-12/90
B33Y 30/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
加熱状態の下で、難切削材料から構成される付加製造体を造形する付加製造工程と、
前記加熱状態を維持したままで前記付加製造体を加工する機械加工工程と、を有し、
前記難切削材料は、超硬合金、サーメット、Ti合金のいずれかであり、
前記付加製造工程において、前記難切削材料の原料粉末を、熱源の照射領域に吐出することにより、加熱溶融、凝固させて、前記付加製造体を造形することを特徴とする付加製造体の製造方法。
【請求項2】
前記付加製造工程と前記機械加工工程が複数回繰り返され、
複数回繰り返される前記付加製造工程と前記機械加工工程において、前記加熱状態が維持される、
請求項1に記載の付加製造体の製造方法。
【請求項3】
前記付加製造工程に先立って、前記付加製造体が造形される基材を前記加熱状態になるまで加熱する予熱工程を有する、
請求項1または請求項2に記載の付加製造体の製造方法。
【請求項4】
前記加熱状態は、高周波誘導加熱および半導体レーザの一方または双方により実現される、
請求項1~請求項のいずれか一項に記載の付加製造体の製造方法。
【請求項5】
前記付加製造工程において、
前記原料粉末は、連続的または断続的に供給される、
請求項1~請求項のいずれか一項に記載の付加製造体の製造方法。
【請求項6】
前記付加製造体を構成する材料の融点をMp(℃)とすると、
前記加熱状態は、1/6Mp以上、5/6Mp以下の温度を有する、
請求項1~請求項のいずれか一項に記載の付加製造体の製造方法。
【請求項7】
前記機械加工工程は、
セラミックス製の工具による加工を含む、
請求項1~請求項のいずれか一項に記載の付加製造体の製造方法。
【請求項8】
前記熱源は、レーザ、電子ビーム、プラズマ、アークのいずれかである、
請求項1~請求項のいずれか一項に記載の付加製造体の製造方法。
【請求項9】
超硬合金、サーメット、Ti合金のいずれかの難切削材料から構成される付加製造体を造形する造形部と、
前記付加製造体を機械加工する加工部と、
前記造形部による少なくとも前記付加製造体の造形の過程および前記加工部による前記機械加工の過程において、前記付加製造体を加熱する加熱部と、
前記加工部および前記加熱部の動作を制御する制御部と、を備え、
前記造形部は、前記難切削材料の原料粉末を、レーザ、電子ビーム、プラズマ、アークのいずれかの熱源の照射領域に吐出することにより、加熱溶融、凝固させて付加製造するように構成され、
前記制御部は、前記加工部における前記付加製造体の前記機械加工が終始、加熱状態を維持したままで実施されるように、前記加工部および前記加熱部の動作を制御する、
ことを特徴とする付加製造体の製造装置。
【請求項10】
前記加熱部は、高周波誘導加熱および半導体レーザの一方または双方により前記付加製造体を加熱する、
請求項に記載の付加製造体の製造装置。
【請求項11】
前記加工部は、セラミックス製の工具を用いて前記付加製造体を機械加工する
請求項または10に記載の付加製造体の製造装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、超硬合金やサーメット等の、難切削材料に好適な付加製造体の製造方法、および、製造装置に関する。
【背景技術】
【0002】
付加製造方法は、例えば特許文献1に開示されるように、基板に供給される原料粉末にパルスレーザエネルギを印加して原料粉末を溶融、凝固させることを繰り返して三次元形状の付加製造体を得る。付加製造方法によれば、ネットシェイプまたはニアネットシェイプで三次元形状の製品を得ることができる。なお、特許文献1に開示されるように、「付加製造(Additive Manufacturing)」という用語は、ASTM(American Society for Testing and Materials) F2792で規定されるように、業界標準用語とされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特表2016-502596号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
付加製造方法により得られる付加製造体は、設計寸法に近い形状を得るニアネットシェイプを形成できるが、付加製造体のままでは、切削や塑性加工で得られる寸法精度、表面粗さには到達できない。したがって、付加製造方法は用途によっては後の工程として機械加工が必要であり、付加製造方法によるニアネットシェイプの利益を享受するためには、付加製造体に亀裂や割れなどの欠陥を生じさせることなく機械加工が実行される必要がある。また、付加製造では、高強度、高耐食など優れた特性を有する材料が適用されることが多いが、これら材料から構成される付加製造体の加工性は劣り、所望の形状を能率よく得ることが困難であった。機械加工として、例えば切削が掲げられるが、付加製造体が難切削材料から構成されると、刃具の寿命が短く、能率が低い加工が行われることに加え、無理な切削状態を継続することで切削中に工具の異常摩耗が生じ、切削抵抗や切削温度の上昇が起こるなどして、付加製造体に欠陥(表面キズ、亀裂や割れ)が生じるおそれがある。
【0005】
そこで本発明は、付加製造体に機械加工を施し、かつ欠陥が生じるのを抑制できる付加製造体の製造方法を提供することを目的とする。また本発明は、そのような製造方法を実現できる製造装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の付加製造体の製造方法(以下、単に付加製造方法と言うことがある)は、加熱状態の下で付加製造体を造形する付加製造工程と、加熱状態を維持したままで付加製造体を加工する機械加工工程と、を有する、ことを特徴とする。
【0007】
本発明の製造方法において、付加製造工程と機械加工工程が複数回繰り返される場合には、好ましくは、複数回繰り返される付加製造工程と機械加工工程において、加熱状態が維持される。
【0008】
本発明の製造方法において、好ましくは、付加製造工程に先立って、付加製造体が造形される基材を加熱状態になるまで加熱する予熱工程を有する。
【0009】
本発明の製造方法において、付加製造体は、好ましくは、被削性指数が50以下の難切削材料から構成される。
この難切削材料として、好ましくは、超硬合金またはサーメット、さらには高硬度材、超合金等が適用される。
本発明の製造方法において、加熱状態を安定して維持することができるのであれば、加熱方式は限定しない。一方で、付加製造体を構成する材料の種類に応じた適切な温度域に保持する必要があり、温度制御の面から好ましくは、高周波誘導加熱が適用される。また、半導体レーザ(例えばVCSEL:Vertical Cavity Surface Emitting LASER(垂直共振器面発光レーザ))は表面からの局所加熱として有用である。なお、複数の熱源を併用することで付加製造体の複雑な形状をより安定な温度に維持することもできる。高周波誘導加熱による付加製造体による全体の加熱と、半導体レーザによる造形体の表面部の加熱を組合せることで、より短時間での安定造形に寄与する。
また、本発明の製造方法において、付加製造工程は、連続的もしくは断続的に供給される原料粉末を溶融し、凝固することで付加製造体が造形される。
【0010】
また、本発明の製造方法において、加熱状態は、好ましくは、付加製造体を構成する材料の融点をMp(℃)とすると、加熱状態は、1/6Mp以上、5/6Mp以下の温度を有する。この温度域では材料内部の原子拡散が起こるため、すなわち付加製造時の溶融部が凝固する際に、残留応力が発生するのを緩和するため、付加製造体に表面キズ、亀裂や割れ等の欠陥が生じるのを抑制することができる。また、この温度域では、材料自体が軟化する傾向になるため、機械加工した際には加工負荷が小さくなるため、刃具を損傷させずに加工することが可能となる。
また、本発明の製造方法において、機械加工工程は、好ましくは、セラミックス製の工具による加工を含む。
【0011】
本発明の付加製造体の製造装置(以下、単に付加製造装置と言うことがある)は、付加製造体を造形する造形部と、付加製造体を機械加工する加工部と、造形部による少なくとも付加製造体の造形の過程および加工部による機械加工の過程において、付加製造体を加熱する加熱部と、を備える、ことを特徴とする。
本発明における加熱源として、好ましくは、高周波誘導加熱および半導体レーザの一方または双方が用いられる。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、付加製造工程における加熱状態を維持したままで付加製造体を機械加工する。したがって、本発明によれば、例えば超硬合金やサーメットといった難切削材料に欠陥が生ずるのを抑制しつつ、最終形状に加工された付加製造体を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本実施形態に係る付加製造方法における主要工程を示すフロー図である。
図2】(a)は本実施形態に係る付加製造方法の主要工程における経過時間と温度の関係の一例を示し、(b)は本実施形態に係る付加製造方法の主要工程における経過時間と温度の関係の他の例を示し、(c)は本実施形態に係る付加製造方法の主要工程における経過時間と温度の関係のさらに他の例を示す。
図3】同じく(a)は本実施形態に係る付加製造方法の主要工程における経過時間と温度の関係の一例を示し、(b)は本実施形態に係る付加製造方法の主要工程における経過時間と温度の関係の他の例を示し、(c)は本実施形態に係る付加製造方法の主要工程における経過時間と温度の関係のさらに他の例を示す。
図4】本実施形態に係る付加製造装置の概略構成を示す平面図である。
図5】本実施形態に係る付加製造装置の主要部を示し、(a)は基材の取り付け前を示し、(b)は基材を取り付けた後に基材を予熱する工程を示す。
図6】実施形態に係る付加製造装置の主要部を示し、(a)は付加製造工程を示し、(b)は機械加工工程を示す。
図7】第1実施例におけるフライスの損傷形態を比較して示す写真である。
図8】第1実施例にけるエンドミルの損傷形態を比較して示す写真である。
図9】第2実施例の評価結果を示し、(a)は測定温度と硬さの関係を示すグラフ、(b)は加熱保持時間と硬さの関係を示すグラフである。
図10】第1実験例における摩耗試験の結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の一実施形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。
本実施形態に係る付加製造方法は、図1に示すように基材の予熱工程(S101)と、付加製造工程(S103)と、機械加工工程(S105)と、冷却工程(S107)と、を備える。
本実施形態に係る付加製造方法は、付加製造工程(S103)における加熱状態が機械加工工程(S105)を終えるまで維持される。この加熱状態の維持により、本実施形態に係る付加製造方法は、例えば超硬合金やサーメットといった難切削材料に生ずる表面キズ、亀裂や割れなどの欠陥が生じるのを抑制できる。以下、各工程について順に説明する。
【0015】
[基材の予熱工程(S101)]
はじめに、基材について説明し、本発明の好ましい形態として基材を予熱する理由、基材を加熱する手段、予熱する温度の順で説明する。
本実施形態における基材は、次の付加製造工程で付加製造体が造形される対象である。供給される原料粉末は熱エネルギーが加えられることで溶融するとともに基材の表面で冷却、凝固される。原料粉末の供給、溶融、冷却、凝固を繰り返すことにより付加製造体の前駆体が積層され、最終的には所望する形状の付加製造体が得られる。
【0016】
基材は供給される原料粉末が溶融、凝固する対象であり、基材と造形される当初の前駆体との間の温度勾配が大きいと、生じる熱応力および残留応力により前駆体の変形を無視できなくなる場合がある。また、例えば付加製造体が超硬合金からなる場合には、超硬合金は高い強度を有する一方、靭性が低いため、造形時に基材と前駆体の界面で剥離の発生が懸念される。そこで、付加製造工程に先立って基材を加熱する予熱を行うことが好ましい。予熱を行うことで熱応力による変形と残留応力の緩和を図ることができる。
【0017】
基材を予熱する手段はその目的を達成できる限り限定されない。例えば、高周波誘導加熱、半導体レーザ、ガスバーナー、赤外線電気ヒーター、加熱炉、電子ビームまたはレーザの照射、ハロゲンランプ照射による加熱、ホットプレートのような電熱線を熱源とした加熱方式などによって、基材を加熱できる。これら手段を単独で用いて加熱してもよいし、併用して加熱してもよい。この加熱手段は、次の付加製造工程S103および機械加工工程S105における加熱状態の維持にも適用できる。
本実施形態は好ましい例として、付加製造工程S103および機械加工工程S105においても、予熱工程S101による加熱状態、具体的には加熱温度を維持する。安定して加熱温度を維持するためには、以上の加熱手段の中で高周波誘導加熱によるエネルギー投入が効果的である。これは、対象物内において、渦電流と金属の電気抵抗によるジュール熱が発生し、金属の自己発熱が起こるため、熱容量の大きい部材であっても、十分な加熱が可能である。特に、加熱温度を維持する部分以外を断熱材で覆うことで、加熱温度の維持を安定させることができる。対象物を外部から加熱する方法である他の加熱方法は、熱容量の小さい部材の加熱においては十分なエネルギーを投入できる。
【0018】
予熱工程S101における加熱温度はその目的を達成することができる限り限定されない。
但し、難切削材料を安定して造形するためには、付加製造中の付加製造体の温度制御が重要である。付加製造中の急冷時の熱応力勾配を緩やかにし、ひずみの蓄積を緩和するためには、付加製造体を構成する材料の融点をMp(℃)とすると1/6Mp以上の温度に加熱し維持することが好ましい。この温度域では、転移の移動が起こり易いため、ひずみは蓄積されにくいので欠陥が生じにくい。予熱工程における加熱温度は必要以上に高くする必要はなく、加熱温度は5/6Mp以下にすることができる。好ましい加熱温度は1/3Mp~3/4Mpである。さらに、好ましい加熱温度は2/5Mp~3/4Mpである。
付加製造体が超硬合金から構成される場合には、予熱工程における加熱温度は500℃以上であることが好ましく、より好ましい加熱温度は600℃以上であり、さらに好ましい加熱温度は650~900℃である。なお、加熱温度の維持と許容範囲については後述する。
【0019】
基材を構成する材料はその目的を達成することができる限り限定されず、金属材料、セラミックス材料を用いることができる。ただし、高周波誘導加熱により加熱する場合には、高周波誘導加熱により加熱され得る材料を用いることになる。したがって、基材は基本的には金属材料で構成されることが好ましく、その中でも加熱温度の範囲において、耐性があるのに加えて加熱による膨張収縮の小さい材料が好ましい。具体的には、Ni基合金、特にNi基超合金、Co基合金、特にCo基超合金、Cr基合金、Mo基合金、Fe基超合金が好ましい。
【0020】
[付加製造工程(S103)]
次に、付加製造工程について説明する。
付加製造工程は、基材の上に三次元の付加製造体を造形する。付加製造の方式は、特に限定されないが、たとえば、レーザメルトデポジションなどの指向性エネルギー堆積(Directed energy deposition)方式、粉末床溶融結合方式、プラズマ粉体肉盛などを用いることができる。
指向性エネルギー堆積方式による付加製造は、原料粉末を、レーザ、電子ビーム、プラズマ、アークのいずれかの熱源を用いて溶融させ、溶融した原料粉末を基材の表面に付着させて凝固させる手順を、位置を移動させながら繰り返す。さらに、基材に造形された前駆体の表面に、原料粉末の溶融、凝固の手順を、位置を移動させながら繰り返すことで、所望する三次元の付加製造体を造形する。
【0021】
付加製造工程は、原料粉末を溶融、凝固する手順を、位置を移動させながら繰り返す。溶融部分(溶融池)と凝固したその周囲との間に生じる温度勾配による熱応力によって欠陥が発生するおそれがある。例えば、付加製造体が超硬合金からなる場合には、超硬合金は高い強度を有する一方、靭性が低いため、熱応力による欠陥が発生しやすい。
そこで、望ましい実施形態では、付加製造工程においても、予熱工程S101による加熱状態を維持する。予熱工程S101を行わない場合には、付加製造の開始に伴って付加製造体を加熱し、付加製造工程を終えるまでその加熱状態を維持する。
【0022】
[機械加工工程(S105)]
所望する付加製造体が得られたならば、機械加工工程に移行する。前述したように、付加製造体は最終的に得たい製造物体に対してニアネットシェイプを形成できるが、付加製造体のままでは、切削や塑性加工で得られる寸法精度、表面粗さには到達できない。そのため、得たい形状、寸法にするために、機械加工が施される。
本実施形態における機械加工工程とは、機械加工を広く包含するが、最も典型的には切削加工(フライス加工、穴あけ加工、旋削加工など)が掲げられる。ここで、付加製造体が難切削材料、例えば超硬合金やサーメットからなる場合には、切削加工が容易ではない。そこで、本実施形態においては、付加製造工程における加熱状態を機械加工工程においても維持する。
【0023】
加熱状態においては、付加製造体が難切削材料から構成されていても、付加製造体の硬さが低下する。したがって、例えば切削工具が付加製造体に衝突した際にせん断変形が生じ易く、切りくずが生じるときの抵抗が小さい。また、硬質粒子が分散された材料は、室温では切削困難であるが、加熱することで初めて切り屑が生成され、材料組成によっては硬質粒子が起点となって切り屑の分断が起こる等により、切削し易く、切り屑の工具への付着による加工面の性状向上につながる。本実施形態は、付加製造工程における加熱状態が維持されたままで切削加工するので、加熱状態を解いてから再度加熱するのに比べて、エネルギー的にもロスが小さく高能率な加工といえる。なお、付加製造時と機械加工時の温度をそれぞれ最適な状態に制御することができる。機械加工により残留応力が生じることがあるが、これを緩和した状態で加工することやその逆に残留応力を付与することで表面を硬化したり、耐欠損性を向上したりするなどの制御が可能となる。
【0024】
以上では切削加工について説明したが、本実施形態は、例えば塑性加工、研削加工などの他の機械加工を行うこと、またこれらの加工を併用して行うことを許容する。
【0025】
機械加工工程が切削加工である場合には、セラミックス製の切削工具を用いることが好ましい。
室温においては、超硬合金やサーメットとセラミックス製の切削工具とは同程度の硬さ、例えばHVで1300~1800を有している。したがって、通常は、セラミックス製の切削工具で超硬合金やサーメットを切削することは困難である。しかし、上述した加熱状態においては、超硬合金やサーメットの軟化の程度はセラミックスのそれよりも大きいので、両者の硬さに差が生じる。この差を利用して切削加工現象を起こすことが可能である。また、セラミックス製の切削工具は金属材料との接触による凝着が生じ難いため、超硬合金やサーメットに対して安定した切りくずの排出ができる。このように、セラミックス製の切削工具は、本実施形態における加熱状態にある切削加工に有効である。
セラミックス製の切削工具の材質としては、アルミナ系セラミックス、窒化珪素系セラミックス、ジルコニア系セラミックスなどを適用できる。窒化珪素系セラミックスとしては、サイアロンが好ましい。
【0026】
[冷却工程(S107)]
付加製造体に必要な加工を施したならば、加熱状態を解いて、付加製造体を冷却する。
冷却工程は、例えば、徐冷、放冷の順に行われる。つまり、付加製造体を構成する材料の割れ感受性の低い温度域になるまでは冷却速度の遅い徐冷を適用し、割れ感受性の低い温度域からは冷却速度の速い放冷を適用することが好ましい。ここでいう冷却速度の速い、遅いは相対的な関係であって、具体的な徐冷における冷却速度は付加製造体を構成する材料に基づいて定めればよい。
【0027】
[加熱状態の維持]
次に、本実施形態が包含する加熱状態を維持するいくつかのパターンを図2および図3を参照して説明する。
図2(a)は、付加製造工程および機械加工工程を通じて、付加製造工程で昇温された加熱温度が維持されるパターンを示している。図2(a)は、予熱工程を備えていない。
前述したように加熱は1/6Mp以上、5/6Mp以下の範囲から選択されるので、加熱温度の維持はこの温度範囲において行われる。
付加製造工程における加熱温度(T)を機械加工工程において変動させることなく維持することが好ましい。しかし、工業的な生産規模を考慮するとこれは現実的ではない。したがって、本実施形態においては、機械加工工程において設定した加熱温度(T)を基準として、T±100℃以下の範囲で温度が変動しても、温度が維持されているものとみなす。好ましい温度の変動範囲はT±50℃以下であり、より好ましい温度の変動範囲はT±30℃以下であり、さらに好ましい温度の変動範囲はT±10℃以下である。この加熱温度の維持は、以降のパターンにも踏襲される。
なお、ここでいうT±100℃以下の範囲における維持とは、1度の機械加工工程における温度の維持範囲のことである。例えば、付加製造工程および機械加工工程が2回繰り返される場合に、1回目の機械加工工程の加熱温度と2回目の機械加工工程の加熱温度の温度差がT±100℃以下の範囲に収まることではない。つまり、1回目の機械加工工程における加熱温度がT±100℃以下に収まることを意味する。
【0028】
次に、図2(b)は、予熱工程、付加製造工程および機械加工工程を通じて、予熱工程で昇温された加熱温度が維持されるパターンを示している。ここでいう加熱温度は予熱工程における最も高い温度のことである。なお、付加製造体全体の温度を均一にすることは困難である。そこで、高周波誘導加熱したときの付加製造体の側面の表面温度、すなわち最高温度と、付加製造体中央部の表面温度を事前に調べておき、付加製造体の側面温度と中央部温度の相関(温度差など)のデータを基に、実際の造形部分となる付加製造体の中央部の温度が所望の温度以上になるように制御する。
【0029】
付加製造工程と機械加工工程は、図2(a),(b)に示すようにそれぞれ一度だけ行われる場合もあるが、以下の理由により図2(c)に示すようにそれぞれが複数回繰り返される場合もある。
付加製造時には、例えばレーザの照射によって形成された溶融池に粉体を投入するが、溶融池の形状や大きさの制御は難しい。そのために、付加製造体の形状を機械加工によって整えた後に付加製造するという手順を繰り返す場合がある。つまり、付加製造工程と機械加工工程を交互に繰り返して行うことで、加工部位に加工工具が容易に届くようになり、加工を安定的に行い、所望の形状を得ることができる。このように付加製造工程と機械加工工程の繰り返し工程は、複雑形状の部材を製造する上で有用な方法である。
なお、図2(c)は複数回として2回を例示しているが、付加製造工程と機械加工工程を3回ずつ以上行われてもよいことは言うまでもない。図2(c)に示すように、複数回の付加製造工程と機械加工工程が繰り返される場合にも、繰り返される過程で加熱状態が維持される。
【0030】
次に、図3(a)は付加製造に先立って機械加工が行われ、さらに付加製造の後に機械加工が行われるパターンを示している。付加製造に先立って行われる機械加工としては、後の付加製造に適するような形状とするために、基材を機械加工することが例示される。この機械加工工程は、付加製造工程の後に行われる付加製造体を機械加工するのとは、加工の対象が異なる。そこで、図3(a)において、付加製造体を機械加工するのと区別するために予備加工と表記した。
図3(a)のパターンは、基材を予め加熱してから付加製造および機械加工する形態h1と、予熱することなく付加製造の際に基材を加熱する形態h2と、を含む。また、図3(a)においては、予熱の前に予備加工を行う例を示しているが、予熱と付加製造の間に予備加工を行うこともできる。
【0031】
次に、図3(b)は付加製造工程と機械加工工程の温度が異なるパターンを示している。このパターンは、付加製造工程に適する加熱温度と機械加工工程に適する加熱温度が相違する場合に適応する。ただし、温度の相違は前述したT±200℃以下の範囲に留まることが好ましい。
次に、図3(c)は付加製造工程と機械加工工程の温度が異なるのに加えて、複数回行われる機械加工工程の加熱温度が異なるパターンを示している。このパターンは、前述した1/6Mp以上、5/6Mp以下の温度範囲の中で、それぞれの機械加工工程における加熱温度を任意に選択できることを意味する。加熱され高温となった付加製造体を切削加工した場合、冷却過程で寸法収縮を生じる。そのため、加熱中の切削で高精度な加工は困難である。そこで、上述の温度範囲の中で低い温度を選択することにより、精密な機械加工が可能になる。特に、最終段階、例えば冷却(徐冷、放冷)段階において機械加工工程を加えてもよく、この機械加工工程においては室温のように低い温度を選択することで、高い加工精度を得ることができる。
また、図3(c)に示すように、複数回、ここでは2回の付加製造工程が行われる場合、異なる加熱温度を選択できる。付加製造体の温度が、切削に適する温度の下限よりも高い状態であれば、徐冷中であっても切削加工可能である。なお、より精度良く加工するため、機械加工前に付加製造体の十分な冷却過程を設ける。ここで、切削加工を安定的に行うためには、温度が一定になるまで機械加工の開始を待つことが好ましい。
【0032】
[適用材料]
本実施形態の付加製造方法が適用される材料に制限はないが、いわゆる難切削材料と称される金属材料に適用されることが好ましい。
機械加工工程S105で行われる加工が切削である場合には、難切削材料ということになるが、本実施形態において難切削材料であるか否かは被削性指数が指標となる。被削性指数は硫黄快削鋼(AISI‐B1112)を切削して、一定の工具寿命に対する切削速度を100とし、比較する材料の同一工具寿命に対する切削速度を百分率で表すものである。
【0033】
本実施形態においては、この被削性指数が50以下の難切削材料に好適であり、切削温度や切削抵抗が高いため、工具の摩耗が早く削りにくい材料である。これらの中でも、高硬度である超硬合金およびサーメットは、本実施形態を適用することにより、実用的な切削速度で切削が可能になる。難切削材料は熱伝導率が低く、高温での硬さが高い傾向にある。そのため、付加製造における局所的な加熱と急冷によって、温度勾配が付きやすく、熱応力が発生することによって、欠陥が生じ易い。欠陥を抑制するためには、付加製造工程と機械加工工程に加熱状態を維持するのがよい。
【0034】
ここで、超硬合金(Cemented Carbide)、サーメット(Cermet)とは、周期律表の4族遷移金属、5族遷移金属および6族遷移金属の炭化物、窒化物、酸化物、酸窒化物、炭窒化物、ホウ化物および珪化物の少なくとも一種を含む硬質相と、Fe、Co、Ni、Cr、Moの少なくとも一種からなる結合相と、を主体とする焼結体からなる複合材料である。
超硬合金は、典型的にはWC-Co系合金であるが、WC-TiC-Co系合金、WC-TaC-Co系合金、WC-TiC-TaC-Co系合金なども用いられている。また、結合相には、Cr、Cuなどの他の金属元素を含むこともある。
またサーメットは、典型的にはTiN-Ni系合金、TiN-TiC-Ni系合金、TiC-Ni-MoC系合金などである。
【0035】
超硬合金は一般的には切削工具として用いられているが、後述する金型のように靭性が求められる用途の場合には、切削工具として用いられているものとは異なる組成を採用することが好ましい。サーメットについても同様である。
つまり、超硬合金からなる付加製造体を例えば金型に用いる際には、WC-Co系合金において、Co量が20質量%以上、50質量%以下であることが好ましい。このCo量は、切削工具として用いられるWC-Co系合金に比べて多い。これにより、金型としての使用に適した靱性、強度および硬度が与えられる。
【0036】
本実施形態の付加製造方法が適用される材料として、超硬合金またはサーメットの他には、高硬度材、超合金が掲げられる。
高硬度材は、50HRCを超えるFe基の材料を指し、JIS SKD11、SKH51、SUS630などである。
超合金は、Ni、Cr、Co、MoなどのFe以外を主体とした合金である。その内、Ni基超合金とは、たとえばNiを50質量%以上含み、その他にクロム(Cr)、コバルト(Co)、モリブデン(Mo)、タングステン(W)、ニオブ(Nb)、アルミニウム(Al)、チタン(Ti)、鉄(Fe)、ジルコニウム(Zr)、タンタル(Ta)、バナジウム(V)、ハフニウム(Hf)、マンガン(Mn)、ケイ素(Si)、ランタン(La)、マグネシウム(Mg)、炭素(C)、ホウ素(B)等から選択される元素を含む合金である。一般に、Ni基超合金は、ガンマ相を主相とする合金である。ガンマ相は冷却過程で相変態することなく、そのままの結晶構造が保たれるため、ワレが起こりにくい。また、鋼や超硬合金の上にNi基超合金を造形した場合には、界面近傍に中間層が形成されるが、この場合、中間層のガンマ相分率が高くなり靭性の著しい低下を抑制することができる。
さらに、被削性指数が50以下の難切削材料として、Ti合金(例えば、Ti-6質量%Al-4質量%V)がある。
【0037】
[用途]
本発明により得られる付加製造体の用途は限定されるものではないが、好適な用途として、温熱間鍛造、鋳造、ダイカスト、ホットスタンプに用いられる金型や軸受け等の耐摩耗部材が掲げられる。
これらの金型は、高温にて被成形材と接触し、摩擦が繰り返されるが、安定した成形を繰り返すために、耐摩耗性が要求される。そのため、これらの金型は高温で高強度が安定して得られる材料で作製することで長寿命が図られている。具体的には、超硬合金やサーメット等の複合材料、ダイス鋼、高速度工具鋼等が掲げられる。
【0038】
これらの材料は、いずれも難切削材料に該当し、所望の金型形状に成形する際の機械加工の負荷が大きい。そこで、このような材料を用いて金型を成形する際に、付加製造方法を用いると、金型を設計寸法に近いニアネットシェイプに造形することができるので、機械加工負荷を低減できる。
【0039】
ただし、付加製造方法によっても、最終的な表面粗さの調整や、寸法精度の調整のため、機械加工は必要である。したがって、加熱温度が維持された状態で機械加工をすることで機械加工の負荷を低減できる本実施形態にとって、難切削材料からなる金型は好適な用途である。
【0040】
[付加製造装置]
次に、本発明を実施するのに好ましい付加製造装置1を、図4図6を参照して説明する。
付加製造装置1は、付加製造体を造形する機能と、造形された付加製造体7に切削加工する機能と、を備える。また、付加製造装置1は、付加製造体7の付加製造工程および付加製造体7の切削工程(機械加工工程)を、加熱状態を維持したままで行う機能を備えている。尚、切削加工の機能は、研削加工、旋削加工などに置き換えることができる。
【0041】
<全体構成>
付加製造装置1は、ハウジング10と、付加製造体7を造形するとともに造形された付加製造体7に切削加工を施す工作部20と、基材3の予熱から付加製造体7の切削を終えるまでの加熱状態を維持する加熱部30と、工作部20と加熱部30の動作を制御する制御部40とを備える。
【0042】
<ハウジング10>
ハウジング10は、工作部20、加熱部30を収容するとともに内部を周囲から隔離する。ハウジング10にはドア11が設けられており、工作部20および加熱部30を動作させる際には、ドア11は閉じられる。付加製造装置1のオペレータは、基材3の取り付けを行うとき、切削加工が施された付加製造体7を取り出すときなどは、ドア11を空けてハウジング10の内部に入る。
なお、図4はハウジング10の天井を透視することにより、内部を視認できるようにしている。
【0043】
<工作部20>
工作部20は、図4および図6(a),(b)に示すように、主軸21と、主軸21に取り付けられる造形ヘッド23およびマシニングヘッド25とを備える。なお、工作部20は本発明の造形部と加工部を含む概念を有している。
主軸21は、自身が回転することにより、造形ヘッド23およびマシニングヘッド25を必要とされる位置に移動させる。また、主軸21は、マシニングヘッド25に取り付けられる工具に例えば回転駆動力を与える。なお、図6(b)には一つのマシニングヘッド25だけを示しているが、複数のマシニングヘッド25を備えることができる。
【0044】
造形ヘッド23には、図6(a)に示すように、レーザノズル24が取り付けられる。
レーザノズル24は付加製造工程で用いられる。レーザノズル24は、基材3の表面にレーザを照射する。レーザノズル24は、図示を省略する粉末供給源から連続的に供給される原料粉末5をレーザの照射領域に吐出することにより、レーザで原料粉末を溶融し凝固して付加製造する。原料粉末5は、上述した適用材料による平均粒径10μm~250μm程度のアトマイズ粉とすることができる。
【0045】
マシニングヘッド25には、図6(b)に示すように、一例として切削工具26が取り付けられる。
切削工具26は、付加製造工程の後の機械加工工程で用いられる。この切削工具26は、付加製造体7を構成する材料に適したものが選択される。付加製造体7が超硬合金、サーメットからなるときには、セラミックス製の切削工具26が選択されるのが好ましい。
【0046】
工作部20は、図4図5(b)に示すように、基材3が固定されるテーブル28を備えている。レーザノズル24が取り付けられた造形ヘッド23および切削工具26が取り付けられたマシニングヘッド25は、テーブル28に取り付けられた基材3に上方から対向してそれぞれの動作を行う。この造形ヘッド23およびマシニングヘッド25が動作する領域を、単に動作領域という。
【0047】
<加熱部30>
加熱部30では、予熱工程における加熱状態を機械加工工程が終わるまで維持したままで行う機能を、ここでは高周波誘導加熱が担っている。
加熱部30は、高周波電流を出力する高周波電源31と、高周波電源31から出力された高周波電流を所望する周波数の高周波電流として出力する高周波発振器33と、高周波発振器33から出力された高周波電流が流れる高周波コイル35とを備える。高周波電源31、高周波発振器33および高周波コイル35は、基材3および付加製造体7の加熱に直接的に関わる部分である。
高周波コイル35に高周波電力が流れると磁界が形成され、この磁界の範囲内におかれる被加熱物の表面付近に高密度のうず電流が発生し、そのジュール熱で被加熱物を発熱させる。本実施形態における被加熱物は、基材3および付加製造体7である。
【0048】
加熱部30は、チラー36と温調器37を備える。チラー36は、高周波発振器33に冷却媒体を循環させ、温調器37は高周波電源31の温度を調節する。チラー36と温調器37を設けることにより、加熱部30が過熱することなく安定した動作が行える。
図示を省略するが、加熱部30は、他の部分、例えば工作部20のテーブル28を冷却する手段を備えることができる。
【0049】
<制御部40>
制御部40は、工作部20および加熱部30の動作を司る。
工作部20の動作について、制御部40は、付加製造体7を造形する際には造形ヘッド23を動作位置に移動させるとともに、レーザノズル24に原料粉末を供給する。さらにレーザの基材3への照射を指示する。付加製造体7の造形が終われば、制御部40は、造形ヘッド23を動作位置から退避させるとともにマシニングヘッド25を動作位置に移動させる。その後、制御部40は、所定の切削加工を行うためにマシニングヘッド25および切削工具26の動作を制御する。所定の切削加工が終われば、制御部40はマシニングヘッド25を退避させる。
【0050】
制御部40は、加熱部30による適切な加熱温度を実現するために、第1温度センサ41と第2温度センサ43を備える。第1温度センサ41は付加製造体7の直上における温度T1を測定し、第2温度センサ43は基材3の温度T3を測定する。
制御部40は、第1温度センサ41で測定された温度T1と第2温度センサ43で測定された温度T3の差が規定範囲ΔT(式1)に収まっていれば、加熱部30に従前の条件で加熱を続けるように指示する。制御部40は、温度T1と温度T3の差が規定範囲ΔT(式2)を超えれば、加熱部30に従前とは異なる条件で加熱をするように指示する。
|T1-T3|≦ΔT …式(1) , |T1-T3|>ΔT …式(2)
【0051】
次に、図5および図6を参照して、付加製造装置1を用いて付加製造体7を得る手順を説明する。
<基材3の固定~予熱工程>
はじめに、図5(a),(b)に示すように、オペレータがテーブル28の所定位置に基材3を載せ、かつ固定する。
基材3の固定が終わると、オペレータは制御部40の操作盤を操作して、加熱部30の高周波コイル35に高周波電源31および高周波発振器33を介して高周波電流を流す。基材3の表層部に渦電流が生じることで、基材3は自己発熱する。
基材3の予熱工程において、制御部40は第2温度センサ43で測定される温度T3を取得し、温度T3と設定温度Tsを比較する。制御部40は、温度T3が設定温度Tsに達するまでは当初の加熱条件を維持するが、温度T3が設定温度Tsに達すれば温度T3が設定温度Tsで維持される加熱条件に切り替える。
設定温度Tsに達した後には、次の付加製造工程および機械加工工程の間、上述した式(1),(2)より加熱状態を維持する制御が実行される。
【0052】
<付加製造工程>
基材3が設定温度まで昇温されると、図6(a)に示すように、レーザノズル24から原料粉末を吐出しつつ加熱溶融、凝固することで、基材3の上に付加製造体7を造形する。レーザノズル24を移動させながら付加製造を行うことにより、所望する形状の付加製造体7を造形することができる。
【0053】
<機械加工工程>
所望する付加製造体7が得られたならば、造形ヘッド23を動作領域から後退させるとともに、図6(b)に示すように、マシニングヘッド25を動作領域に進出させる。次いで、マシニングヘッド25を移動させながら切削工具26を回転させることにより、付加製造体7を所望する形状に加工する。
【0054】
<冷却工程>
機械加工が終われば、前述した手順で冷却工程が行われる。
冷却工程が始まると高周波コイル35への電流の供給が止められる。または、冷却速度を設定したい場合は、高周波コイル35へ必要な電流を供給することもできる。
【0055】
次に、本発明を具体的な実施例および実験例に基づいて説明する。なお、実施例および実験例において共通する基材について説明した後に、各実施例および実験例を順次説明する。
[基材]
下記の組成(JIS NCF718相当材,質量%)を有するNi基合金からなる基材を用意した。この基材は、固溶化熱処理および時効処理(JIS G4901)を経て作製されている。
C:0.05%,Cr:19%、Ni:52.5%、Mo:3%、Nb:5%、Al:0.5%、Ti:0.8%、残部:Feおよび不可避的不純物
【0056】
[複合粉末]
次に、付加製造体7を構成する原料粉末として、以下の複合粉末Aおよび複合粉末Bを用意した。
複合粉末A:Co量が40質量%であるWC―Co超硬合金
複合粉末Aの製造方法:炭化タングステン粉末(平均粒子径0.8μm)と、コバルト粉末(平均粒子径0.6μm)を用い、炭化タングステン粉末とコバルト粉末とを重量比で6:4になるよう秤量した。そして、秤量した粉末に少量のカーボン粉末とパラフィンワックスを添加し、エタノールと一緒にアトライターに投入して湿式混合して混合粉末のスラリーを得た。そして、得られた混合粉末のスラリーをスプレードライヤーで乾燥造粒して平均粒径80μmの造粒粉末を得た。この造粒粉末を脱脂後1260℃で熱処理して複合粉末Aを得た。複合粉末Aの融点はおよそ1320℃、被削性指数は2~5程度である。粉末の融点は、材料組成によって異なるため、報告されている平衡状態図もしくは,CALPHAD(CALculation of PHAse Diagram)法に基づく熱力学平衡計算および状態図計算によって求めた計算状態図を参考に決定した。
【0057】
複合粉末B:Ni量が65質量%であるTiCN-Niサーメット合金粉末
複合粉末Bの製造方法:炭窒化チタン粉末(平均粒子径1.2μm)と、ニッケル粉末(平均粒子径2.5μm)を用い、炭窒化チタン粉末とニッケル粉末とを重量比で5:5になるよう秤量した。そして、秤量した粉末に少量のカーボン粉末とパラフィンワックスを添加し、エタノールと一緒にアトライターに投入して湿式混合して混合粉末のスラリーを得た。そして、得られた混合粉末のスラリーをスプレードライヤーで乾燥造粒して平均粒径80μmの造粒粉末を得た。この造粒粉末を脱脂後1300℃で熱処理して複合粉末Bを得た。複合粉末Bの融点はおよそ1350℃、被削性指数は2~5程度である。
【0058】
[第1実施例]
[予熱工程、付加製造工程、機械加工工程]
以上の基材および複合粉末Aを用いて、以下に示す条件で予熱工程、付加製造工程および機械加工工程を実施した。複合粉末Aを用いた付加製造体7Aからなる試験片を用い、セラミックス(サイアロン)、超硬合金および多結晶ダイヤモンド(PCD;Polycrystalline diamond)の3種類の材質の切削工具を用いて切削性の評価を行った。切削工具は、フライスとエンドミルの2種類とした。なお、超硬合金は表面にTiAlNからなるコーティング(厚さ:約3μm)が施されているCo量が10質量%であるWC-Co系超硬合金(焼結体)である。また、セラミックス(サイアロン)については、後述する第2実施例において同様の材質を用いている。
【0059】
フライス工具はポジ形状とネガ形状の2種類を用いた。工具取り付け後の軸方向すくい角がそれぞれ+5°(ポジ形状)と後者が-5°(ネガ形状)である。逃げ角はいずれも5°である。すくい角が正の値であると、切削加工時の刃の食いつき性が良く、切削抵抗が小さくなる傾向にある。しかし、刃先の厚みが小さくなるため、欠損のリスクは高まる。一方で、すくい角が負の値であると、切削加工時の刃の食いつきは悪くなり、切削抵抗は大きくなるものの、刃の厚みが大きくなるため、切削負荷過大によっても、欠損するリスクが低減する。
フライスを用いた切削試験の結果を表1に示し、エンドミルを用いた切削試験の結果を表2に示す。また、図7にフライスを用いた切削試験を経た工具の損傷形態を示し、図8にエンドミルを用いた切削試験を経た工具の損傷形態を示す。
【0060】
*予熱工程:
100×100×10mmのNi基合金製の基材を高周波誘導加熱によりそれぞれ以下の予熱温度まで加熱
予熱温度;800℃
予熱温度は基材側面を放射温度計で測定した値を目的温度として維持した。
*付加製造工程:
積層造形方式;指向性エネルギー堆積方式のレーザメルトデポジション
造形条件;レーザ出力:1000~2000W、送り:100~1000mm/min、粉末送給ガス量:4~12L/min、積層ピッチ0.4~0.8mmで造形し、1層あたり20パスで、高さが30mmになるように材料を付着させて、おおむね40層程度にわたって積層させる。そして、30mm×30mm×30mmの付加製造体を得た。
付加製造時の温度;予熱工程の加熱温度である以下の温度を維持
基材側面の温度;800℃
【0061】
*機械加工工程:フライス(正面フライス)とエンドミルを用いた切削加工を図2(b)のパターンで実施
(1)フライスの切削条件
カッタ径:φ50mm
軸切込:0.3mm、径切込:30mm、切削距離:30mm
工具形状:ネガ(軸方向すくい角-5°),ポジ(軸方向すくい角5°)
工具材種:サイアロン、超硬合金、PCD
切削速度:20m/min、30m/min、300m/min、800m/min
一刃送り:0.05mm/tooth
加工温度:予熱工程の加熱温度である以下の温度域を維持もしくは室温(R.T.)25℃
維持温度;100~200℃、500~600℃、700~800℃
【0062】
(2)エンドミルを用いた切削条件
工具径:φ12mm
軸切込:6mm、径切込:0.5mm、切削距離:30mm
工具材種:サイアロン、超硬合金
切削速度:30m/min、300m/min
加工温度:予熱工程の加熱温度から以下の温度域を維持もしくは室温(R.T.)25℃
維持温度;100~200℃、500~600℃
【0063】
【表1】
【0064】
【表2】
【0065】
表1および図7に示すように、被削材を加熱すると、工具の損傷幅が加熱しなかった場合に比べて減少した。工具の材質がセラミックスであって、加工が室温のときの工具の損傷形態は欠損であった。これに対して、被削材を加熱すると損傷形態は摩耗となり、損傷幅が抑制された。
図7に示すように、被削材加熱温度を500~600℃に増大すると工具の損傷幅は小さくなり、損傷形態も欠損から摩耗形態に変化し、安定した切削が行える。これは、被削材を加熱したことで、被削材に軟化が生じ、工具にかかる負荷が減じたためと解される。つまり、加熱を伴う切削により安定した工具摩耗状態に移行しているといえる。なお、加熱温度が500~600℃のとき、工具形状によらず良好な摩耗形態が得られることを確認した。比較例に示すように、室温での切削は、工具が早期に欠損、破損するため切削加工が困難であった。超硬合金の被削性指数は極めて小さく、加熱切削が有効に機能する。超硬合金以外のNi基超合金(Alloy718)等への加熱切削の効果も確認したが、室温では切削困難である超硬合金のような被削材に対して加熱切削は特に有効であることが確認された。
【0066】
工具がエンドミルの場合においても、表2および図8に示すように、加熱切削の効果が確認された。フライスに比べ刃先が鋭利なエンドミルにおいても被削材を加熱することで、損傷形態をチッピングから摩耗形態に移行させることが確認できた。
【0067】
[第2実施例]
以上の基材ならびに複合粉末Aおよび複合粉末Bを用いて、以下に示す条件で予熱工程、付加製造工程および機械加工工程を採用する以外は、第1実施例と同様にして、複合粉末Aを用いた付加製造体7Aおよび複合粉末Bを用いた付加製造体7Bともに、以下の条件による切削加工を実現できた。
【0068】
*予熱工程:
100×100×10mmのNi基合金製の基材を高周波誘導加熱により700℃まで加熱
*付加製造工程:
積層造形方式;指向性エネルギー堆積方式のレーザメルトデポジション
造形条件;レーザ出力:1000~2000W、送り:100~1000mm/min、粉末送給ガス量:4~12L/min、積層ピッチ0.4~0.8mmで造形し、1層あたり20パスで、高さが10mmになるように材料を付着させて、おおむね15層程度にわたって積層させる。そして、30mm×30mm×10mmの付加製造体を得た。
付加製造時の温度:予熱工程の加熱温度である700℃を維持
【0069】
*機械加工工程:フライス(正面フライス)を用いた切削加工を図2(b)のパターンで実施
カッタ径:φ50mm、チップ:サイアロン製
切削速度:1000m/min、送り0.08mm/t
軸切込:0.5mm、径切込:30mm、切削距離:30mm
加工温度:予熱工程の加熱温度である700℃を維持
【0070】
[加熱温度と硬さの評価]
次に、以上のようにして得た付加製造体7Aから得られた試験片(実施例)、Co量を変えたWC-Co系超硬合金(焼結体)および高速度工具鋼(JIS SKH51)を用い、加熱温度と硬さの関係を測定した。硬さは、株式会社ミツトヨ製の高温マイクロビッカース硬さ試験機(AVK-HF)を用いて、各温度に加熱した試験片にダイヤモンド圧子を押し込み(荷重30kgf)、圧痕の対角の長さを測定することで算出した。
その結果を図9(a)に示す。なお、付加製造体7Aは真空中、1200℃で2時間保持する熱処理を行ったのちに測定した。また、図9(a)において、5%Co~40%CoなどはCo量が5質量%~40質量%、残部がWCである超硬合金を意味する。
図9(a)に示すように、高速度工具鋼は600℃程度から硬さが急激に低下するのに対して、実施例は800℃においてHRA40以上の硬さが維持され、超硬合金(焼結体)と同等の硬度を備えていることが確認された。
【0071】
また、付加製造体7Aから得られた試験片(実施例)を用い、700℃(大気中)で所定時間保持したあとの硬さの変動を測定して、軟化抵抗を評価した。結果を図9(b)に示す。なお、比較のために熱間金型用鋼(JIS SKD61、DAC10、DAC45)についても同様の評価を行った。なお、「DAC」は日立金属(株)の登録商標である。
図9(b)に示すように、実施例は超硬合金である分、熱間金型用鋼に比べて、極めて高い軟化抵抗を示す。
【0072】
[高温摩耗試験の評価]
次に、付加製造体7Aから得られた試験片(実施例 7A)について、機械的特性を測定するとともに、高温摩耗試験を行った。付加製造体7Bから得られた試験片(実施例 7B)についても高温摩耗試験を行った。付加製造体7Bは、硬質相にTiCN、結合相に65質量%Niを含むサーメット材料である。
機械的特性の結果を表3に、高温摩耗試験の結果を図10に示す。なお、比較のために熱間金型用鋼(JIS SKD61,SKD61+窒化,YXR33)、超硬合金(WC-40%Co焼結)についても同様の試験を行った。なお、「YXR」は日立金属(株)の登録商標である。
試験条件は以下の通りであるが、試験は偏芯しながら回転する円筒状のワークの外周に試験片を押し付けるというものである。図10の横軸の摺動回数は、ワークの回転数に相当する。
ワーク温度:900℃,試験片温度:25~100℃程度
ワーク外周の速度:30m/min,垂直加重:250N
本実施例は、熱間金型用鋼に比べて格段に高い耐摩耗性を示し、超硬合金(焼結体)と同等の耐摩耗性を備えている。
表3は積層造形により作製した超硬合金(実施例)と通常の焼結により作製した超硬合金(焼結体)の強度測定結果を示す。焼結した超硬合金に比べ積層造形により作製された超硬合金の抗折力が低くなっているが、これは造形材の炭化物の組織が大きいためである。一方で、粗大な炭化物を有している場合、図10で記載したような耐摩擦特性が発揮され、高い耐摩耗性が求められる部位や用途に適している。
【0073】
【表3】
【0074】
[実験例1]
[切削工具による高温切削性評価]
次に、付加製造体7Aから得られた試験片を用い、セラミックス(サイアロン)と超硬合金の2種類の切削工具を用いて切削性の評価を行った。超硬合金は、第1実施例で用いたのと同じ表面にTiAlNからなるコーティングが施されたものを用いた。この評価は、常温の試験片と700℃に加熱された試験片のそれぞれについて行われた。結果を表4に示す。
はじめに、切削工具がセラミックスおよびTiAlNコーティングが施されている超硬合金のいずれであっても、試験片が加熱されていれば切削が可能である。特に、切削工具がセラミックスからなる場合には、1000m/minという速い切削速度での切削が実現される。
【0075】
【表4】
【0076】
[実験例2]
付加製造体が大きい場合には、高周波誘導加熱によって均一温度にすることが難しく、コイルに近い部分が赤熱されるものの、付加製造体の全体が加熱されるのに時間がかかる。そこで、付加製造および切削加工時の加工点近傍の温度制御のため、第1実施例および第2実施例で用いた高周波誘導加熱器に加え、半導体レーザによる加熱機構を付設した。それ以外は、第1実施例と同様にした。
付加製造体7Aから得られる試験片を高周波誘導加熱器のみで昇温させると、高周波誘導加熱器の設定温度が800℃のとき、付加製造体7Aの側面はおよそ5分以内で800℃に到達したが、付加製造体7Aの上面中心部近傍は650℃程度であった。これに対し、同じ寸法の付加製造体7Aの上面中心部近傍に半導体レーザによる加熱を適用したところ、約10分で800℃までの昇温が確認でき、より均一な状態での予熱造形と加熱切削の環境が整ったことが確認された。
【符号の説明】
【0077】
1 付加製造装置
3 基材
5 原料粉末
7 付加製造体
10 ハウジング
11 ドア
20 工作部(造形部、加工部)
21 主軸
23 造形ヘッド
24 レーザノズル
25 マシニングヘッド
26 切削工具
28 テーブル
30 加熱部
31 高周波電源
33 高周波発振器
35 高周波コイル
36 チラー
37 温調器
40 制御部
41 第1温度センサ
43 第2温度センサ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10