(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-01-06
(45)【発行日】2022-01-21
(54)【発明の名称】リチウムイオン二次電池用負極材、リチウムイオン二次電池用負極材の製造方法、リチウムイオン二次電池用負極及びリチウムイオン二次電池
(51)【国際特許分類】
H01M 4/587 20100101AFI20220114BHJP
H01M 4/36 20060101ALI20220114BHJP
【FI】
H01M4/587
H01M4/36 C
H01M4/36 D
(21)【出願番号】P 2020563876
(86)(22)【出願日】2019-12-27
(86)【国際出願番号】 JP2019051577
(87)【国際公開番号】W WO2020141607
(87)【国際公開日】2020-07-09
【審査請求日】2021-06-29
(31)【優先権主張番号】PCT/JP2019/000035
(32)【優先日】2019-01-04
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000004455
【氏名又は名称】昭和電工マテリアルズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】特許業務法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】星 賢匠
(72)【発明者】
【氏名】岡村 若奈
(72)【発明者】
【氏名】久保田 高志
【審査官】上野 文城
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2019/009422(WO,A1)
【文献】特開2010-251126(JP,A)
【文献】特開2014-170724(JP,A)
【文献】特開平10-012241(JP,A)
【文献】国際公開第2015/146900(WO,A1)
【文献】国際公開第2016/140368(WO,A1)
【文献】特開2017-183205(JP,A)
【文献】特開2018-200804(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/587
H01M 4/36
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
相対圧が0.05~0.12のときの水蒸気吸着量から算出したBET法比表面積(水蒸気吸着比表面積)が0.095m
2/g以下である炭素性粒子を含む、リチウムイオン二次電池用負極材。
【請求項2】
前記炭素性粒子は、相対圧が0.3のときの窒素吸着量から算出したBET法比表面積(窒素吸着比表面積)に対する、前記水蒸気吸着比表面積の比(水蒸気吸着比表面積/窒素吸着比表面積)が、0.035以下である、請求項1に記載のリチウムイオン二次電池用負極材。
【請求項3】
前記炭素性粒子は、炭素性物質Aの表面の少なくとも一部に、前記炭素性物質Aよりも結晶性の低い炭素性物質Bが設けられてなる、請求項1又は請求項2に記載のリチウムイオン二次電池用負極材。
【請求項4】
前記炭素性物質Bの平均厚さが、1nm以上である、請求項3に記載のリチウムイオン二次電池用負極材。
【請求項5】
前記炭素性物質Bの含有率は、前記炭素性粒子の全体に対して、30質量%以下である、請求項3又は請求項4に記載のリチウムイオン二次電池用負極材。
【請求項6】
前記炭素性粒子の体積平均粒子径が、2μm~50μmである、請求項1~請求項5のいずれか1項に記載のリチウムイオン二次電池用負極材。
【請求項7】
ラマン分光測定のR値が、0.30以下である、請求項1~請求項6のいずれか1項に記載のリチウムイオン二次電池用負極材。
【請求項8】
炭素性物質Aの粒子に対して熱処理を施した賦活化炭素性物質粒子Aを準備する工程と、
前記炭素性物質Aよりも結晶性の低い炭素性物質Bの元となる炭素性物質前駆体と、前記賦活化炭素性物質粒子Aと、を混合して混合物を得る工程と、
前記混合物を熱処理して炭素性粒子を得る工程と、
を有する、請求項1~請求項7のいずれか1項に記載のリチウムイオン二次電池用負極材の製造方法。
【請求項9】
請求項1~請求項7のいずれか1項に記載のリチウムイオン二次電池用負極材を含む負極材層と、集電体と、を含むリチウムイオン二次電池用負極。
【請求項10】
請求項9に記載のリチウムイオン二次電池用負極と、正極と、電解液と、を含むリチウムイオン二次電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウムイオン二次電池用負極材、リチウムイオン二次電池用負極材の製造方法、リチウムイオン二次電池用負極及びリチウムイオン二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン二次電池は、小型、軽量、かつ高エネルギー密度という特性を活かし、従来からノート型パーソナルコンピュータ(PC)、携帯電話、スマートフォン、タブレット型PC等の電子機器に広く使用されている。近年、CO2排出による地球温暖化等の環境問題を背景に、電池のみで走行を行うクリーンな電気自動車(EV)、ガソリンエンジンと電池を組み合わせたハイブリッド電気自動車(HEV)、プラグインハイブリッド電気自動車(PHEV)等が普及してきており、EV、HEV、PHEV等に搭載される電池としてリチウムイオン二次電池(車載用リチウムイオン二次電池)が用いられている。また最近では、電力貯蔵用にもリチウムイオン二次電池が用いられており、多岐の分野にリチウムイオン二次電池の用途が拡大している。
【0003】
リチウムイオン二次電池の入力特性には、リチウムイオン二次電池の負極材の性能が大きく影響する。リチウムイオン二次電池用負極材の材料としては、炭素材料が広く用いられている。負極材に使用される炭素材料は、黒鉛と、黒鉛より結晶性の低い炭素材料(非晶質炭素等)と、に大別される。黒鉛は、炭素原子の六角網面が規則正しく積層した構造を有し、リチウムイオン二次電池の負極材としたときに六角網面の端部よりリチウムイオンの挿入反応及び脱離反応が進行し、充放電が行われる。
【0004】
非晶質炭素は、六角網面の積層が不規則であるか、六角網面を有しない。非晶質炭素を用いた負極材では、リチウムイオンの挿入反応及び脱離反応が負極材の全表面で進行する。そのため、負極材として黒鉛を用いる場合よりも出力特性に優れるリチウムイオン電池が得られやすい(例えば、特許文献1及び特許文献2参照)。一方、非晶質炭素は黒鉛よりも結晶性が低いため、エネルギー密度が黒鉛よりも低い。
【0005】
また、特許文献3では、黒鉛粒子の表面の少なくとも一部を非晶質炭素で被覆し、そのCO2吸着量を0.24~0.36cc/gに調整している。黒鉛粒子表面に非晶質炭素を設けると、リチウムイオンの吸蔵及び放出の反応点が増加するように作用し、黒鉛粒子の充電受け入れ性が向上する、と記載されている。そしてCO2吸着量を上記範囲内にすることで、充電受け入れ性に加えて、初期効率にも優れた非水電解質二次電池が得られる、と記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開平4-370662号公報
【文献】特開平5-307956号公報
【文献】国際公開第2012/090728号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、EV、HEV、PHEV等の車載用リチウムイオン二次電池においては、回生効率、急速充電化等に関わる入力特性をより向上することが可能な負極材が求められている。また、車載用リチウムイオン二次電池においては、高温保存特性も求められている。しかしながら、入力特性と高温保存特性をより高いレベルで両立することが困難であった。一般に、入力特性を向上させるために負極材の比表面積を増加させると、高温保存特性が悪化する傾向にある。一方で、高温保存特性を向上させるために、負極材の比表面積を減少させると、入力特性が悪化する傾向にある。このように、入力特性と高温保存特性とは、一般にトレードオフの関係にある。
【0008】
また、特許文献3に記載されているように、従来は、電解液と接する黒鉛粒子の表面を非晶質炭素で覆うことで電解液の分解を防ぎ、結果、初期充放電効率の低下を抑制しているが、非晶質炭素で覆うと充電特性(つまり、入力特性)が低下する傾向にある。このように、初期充放電効率と入力特性とは、一般にトレードオフの関係にある。
【0009】
本発明は、上記課題に鑑み、高温保存特性及び初期充放電効率を維持しつつ、入力特性に優れるリチウムイオン二次電池用負極材、リチウムイオン二次電池用負極材の製造方法、リチウムイオン二次電池用負極及びリチウムイオン二次電池を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、以下の態様を包含する。
【0011】
<1> 相対圧が0.05~0.12のときの水蒸気吸着量から算出したBET法比表面積(水蒸気吸着比表面積)が0.095m2/g以下である炭素性粒子を含む、リチウムイオン二次電池用負極材。
<2> 前記炭素性粒子は、相対圧が0.3のときの窒素吸着量から算出したBET法比表面積(窒素吸着比表面積)に対する、前記水蒸気吸着比表面積の比(水蒸気吸着比表面積/窒素吸着比表面積)が、0.035以下である、<1>に記載のリチウムイオン二次電池用負極材。
<3> 前記炭素性粒子は、炭素性物質Aの表面の少なくとも一部に、前記炭素性物質Aよりも結晶性の低い炭素性物質Bが設けられてなる、<1>又は<2>に記載のリチウムイオン二次電池用負極材。
<4> 前記炭素性物質Bの平均厚さが、1nm以上である、<3>に記載のリチウムイオン二次電池用負極材。
<5> 前記炭素性物質Bの含有率は、前記炭素性粒子の全体に対して、30質量%以下である、<3>又は<4>に記載のリチウムイオン二次電池用負極材。
<6> 前記炭素性粒子の体積平均粒子径が、2μm~50μmである、<1>~<5>のいずれか1項に記載のリチウムイオン二次電池用負極材。
<7> ラマン分光測定のR値が、0.30以下である、<1>~<6>のいずれか1項に記載のリチウムイオン二次電池用負極材。
<8> 炭素性物質Aの粒子に対して熱処理を施した賦活化炭素性物質粒子Aを準備する工程と、
前記炭素性物質Aよりも結晶性の低い炭素性物質Bの元となる炭素性物質前駆体と、前記賦活化炭素性物質粒子Aと、を混合して混合物を得る工程と、
前記混合物を熱処理して炭素性粒子を得る工程と、
を有する、<1>~<7>のいずれか1項に記載のリチウムイオン二次電池用負極材の製造方法。
<9> <1>~<7>のいずれか1項に記載のリチウムイオン二次電池用負極材を含む負極材層と、集電体と、を含むリチウムイオン二次電池用負極。
<10> <9>に記載のリチウムイオン二次電池用負極と、正極と、電解液と、を含むリチウムイオン二次電池。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、高温保存特性及び初期充放電効率を維持しつつ、入力特性に優れるリチウムイオン二次電池用負極材、リチウムイオン二次電池用負極材の製造方法、リチウムイオン二次電池用負極、及びリチウムイオン二次電池が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明を実施するための形態について詳細に説明する。但し、本発明は以下の実施形態に限定されるものではない。以下の実施形態において、その構成要素(要素ステップ等も含む)は、特に明示した場合を除き、必須ではない。数値及びその範囲についても同様であり、本発明を制限するものではない。
【0014】
本開示において「~」を用いて示された数値範囲には、「~」の前後に記載される数値がそれぞれ最小値及び最大値として含まれる。
本開示中に段階的に記載されている数値範囲において、一つの数値範囲で記載された上限値又は下限値は、他の段階的な記載の数値範囲の上限値又は下限値に置き換えてもよい。また、本開示中に記載されている数値範囲において、その数値範囲の上限値又は下限値は、実施例に示されている値に置き換えてもよい。
本開示において各成分は該当する物質を複数種含んでいてもよい。負極材又は組成物中に各成分に該当する物質が複数種存在する場合、各成分の含有率又は含有量は、特に断らない限り、負極材又は組成物中に存在する当該複数種の物質の合計の含有率又は含有量を意味する。
本開示において各成分に該当する粒子は複数種含んでいてもよい。負極材又は組成物中に各成分に該当する粒子が複数種存在する場合、各成分の粒子径は、特に断らない限り、負極材又は組成物中に存在する当該複数種の粒子の混合物についての値を意味する。
本開示において「層」の語には、当該層が存在する領域を観察したときに、当該領域の全体に形成されている場合に加え、当該領域の一部にのみ形成されている場合も含まれる。
本開示において「積層」との語は、層を積み重ねることを示し、二以上の層が結合されていてもよく、二以上の層が着脱可能であってもよい。
本開示において「工程」との語には、他の工程から独立した工程に加え、他の工程と明確に区別できない場合であってもその工程の目的が達成されれば、当該工程も含まれる。
【0015】
<リチウムイオン二次電池用負極材>
本開示のリチウムイオン二次電池用負極材は、相対圧が0.05~0.12のときの水蒸気吸着量から算出したBET法比表面積(水蒸気吸着比表面積)が0.095m2/g以下である炭素性粒子を含む。リチウムイオン二次電池用負極材は、必要に応じてその他の成分を含んでもよい。
【0016】
本開示において「炭素性粒子」とは、炭素の含有率が50質量%を超える粒子をいい、炭素の含有率は70質量%以上であってもよく、80質量%以上であってもよく、90質量%以上であってもよく、95質量%以上であってもよく、99質量%以上であってもよい。
また、「炭素性粒子」の結晶性は限定されず、黒鉛であっても非晶性炭素であってもよい。
【0017】
本開示のリチウムイオン二次電池用負極材を用いることで、高温保存特性及び初期充放電効率を維持しつつ、入力特性に優れるリチウムイオン二次電池を得ることができる。
【0018】
本開示において、水蒸気吸着比表面積は、JIS Z 8830:2013に準じて、以下の方法により算出した値をいう。
蒸気吸着量測定装置(例えば、日本ベル株式会社、「高精度ガス/蒸気吸着量測定装置 BELSORP-max」)を用いて、吸着ガスとして飽和水蒸気ガスを用い、50℃に設定した恒温槽内で、吸着温度を298Kとして、相対圧P/P0を変動させて、そのときの水蒸気吸着量を測定する。そして、相対圧P/P0が0.05~0.12の範囲のときの水蒸気吸着量から、BET多点法により比表面積を求める。ここで、相対圧P/P0とは、平衡圧力(P)を飽和蒸気圧(P0)で割った値である。また、比表面積の算出には、測定装置の自動計算ソフトを使用すればよい。
【0019】
BET比表面積の測定を行う際には、試料表面及び構造中に吸着している水分がガス吸着能に影響を及ぼすと考えられることから、まず、前処理として加熱による水分除去を行うことが好ましい。
前処理では、例えば、0.05gの測定試料を投入した測定用セルを、真空ポンプで10Pa以下に減圧した後、例えば、110℃で加熱し、3時間以上保持した後、減圧した状態を保ったまま常温(25℃)まで自然冷却する。
【0020】
炭素性粒子の水蒸気吸着比表面積は、0.095m2/g以下であり、0.090m2/g以下であることが好ましく、0.080m2/g以下であることがより好ましい。
炭素性粒子の水蒸気吸着比表面積は、リチウムイオン二次電池用負極材としての実用上の観点から、0.060m2/g以上であることが好ましく、0.065m2/g以上であることがより好ましく、0.070m2/g以上であることがさらに好ましい。
【0021】
リチウムイオン二次電池用負極材としての実用上の観点から、炭素性粒子は、相対圧が0.3のときの窒素吸着量から算出したBET法比表面積(窒素吸着比表面積)が、2.0m2/g以上であることが好ましく、2.5m2/g以上であることがより好ましく、3.0m2/g以上であることがさらに好ましい。
炭素性粒子の窒素吸着比表面積は、10.0m2/g以下であることが好ましく、8.0m2/g以下であることがより好ましく、6.0m2/g以下であることがさらに好ましい。
【0022】
本開示において、窒素吸着比表面積は、JIS Z 8830:2013に準じて、以下の方法により算出した値をいう。なお、窒素吸着比表面積の測定を行う際も、水蒸気吸着比表面積の測定で説明した前処理を行うことが好ましい。
比表面積/細孔分布測定装置(例えば、フローソーブ III 2310、株式会社島津製作所)を用いて、吸着ガスとして窒素とヘリウムの混合ガス(窒素:ヘリウム=3:7)を用い、液体窒素温度(77K)で、相対圧P/P0を変動させて、そのときの窒素吸着量を測定する。そして、相対圧P/P0が0.3のときの窒素吸着量から、BET一点法により、比表面積を求める。比表面積の算出には、測定装置の自動計算ソフトを使用すればよい。
【0023】
水蒸気吸着比表面積/窒素吸着比表面積の比は、0.048以下であってもよく、0.042以下であってもよく、0.035以下であることが好ましく、0.030以下であることがより好ましく、0.025以下であることがさらに好ましい。
水蒸気吸着比表面積/窒素吸着比表面積の比は、0.005以上であることが好ましく、0.007以上であることがより好ましく、0.010以上であることがさらに好ましい。
【0024】
水蒸気吸着比表面積/窒素吸着比表面積の比は、その値が小さいほど、炭素性粒子の表面に、窒素分子が入り込めるが水分子は入り込めないような微細な凹凸が多く存在するか、あるいは、炭素性粒子の表面における凹部の形状に起因して、その凹部に存在する水酸基には水分子が接触できず、結果、水分子が吸着されにくくなっていることが考えられる。このような炭素性粒子は、例えば、炭素性粒子におけるコア粒子を熱処理等によって賦活して、特定の表面形状を有するコア粒子を得た後、その賦活されたコア粒子の表面の少なくとも一部をコア粒子よりも結晶性の低い炭素物質Bで被覆することで得ることができる。但し、本発明に係る炭素性粒子は、このような形状、構成及び製造方法に限定されない。
【0025】
炭素性粒子(表面の少なくとも一部が被覆されている場合には、コア粒子)としては、人造黒鉛粒子、天然黒鉛粒子、黒鉛化メソフェーズカーボン粒子、低結晶性炭素粒子、非晶質炭素粒子、メソフェーズカーボン粒子等が挙げられる。
【0026】
充放電容量を大きくする観点からは、炭素性粒子は、黒鉛粒子を含むことが好ましい。黒鉛粒子の形状は特に制限されず、鱗片状、球状、塊状、繊維状等が挙げられる。高タップ密度を得る観点からは、球状であることが好ましい。
【0027】
人造黒鉛粒子は、例えば、扁平状の粒子を複数、配向面(主面)が非平行となるように集合又は結合している黒鉛粒子(以下、「塊状黒鉛粒子」という)であってもよい。塊状黒鉛粒子を含むか否かは、走査型電子顕微鏡(SEM)による観察によって確認することができる。
【0028】
扁平状の粒子とは、長軸と短軸を有する形状の粒子のことであり、完全な球状でないものをいう。例えば鱗状、鱗片状、塊状等の形状のものがこれに含まれる。塊状黒鉛粒子において、複数の扁平状の粒子の主面が非平行であるとは、扁平状の黒鉛粒子の最も断面積の大きい面(主面)が一定方向に揃っていないことをいう。
【0029】
また、塊状黒鉛粒子においては、扁平状の粒子は集合又は結合しているが、結合とは互いの粒子が、タール、ピッチ等の有機結着剤が炭素化された炭素質を介して、化学的に結合している状態をいう。また、集合とは互いの粒子が化学的に結合してはないが、その形状等に起因して、その集合体としての形状を保っている状態をいう。機械的な強度の面から、扁平状の粒子は結合しているものが好ましい。
1つの塊状黒鉛粒子において、扁平状の粒子が集合又は結合する数としては特に制限されないが、3個以上であることが好ましく、5~20個であることがより好ましく、5個~15個であることがさらに好ましい。
【0030】
塊状黒鉛粒子の製造方法としては、所定の構造が形成される限り特に制限はない。例えば、黒鉛化可能な骨材又は黒鉛と黒鉛化可能なバインダ(有機結着剤)との混合物に対して黒鉛化触媒を添加してさらに混合し、焼成した後、粉砕することにより得ることができる。これにより、黒鉛化触媒の抜けた後に細孔が生成され、塊状黒鉛粒子として良好な特性が付与される。また、塊状黒鉛粒子は、黒鉛又は骨材とバインダとの混合方法、バインダ量等の混合割合の調整、焼成後の粉砕条件等を適宜選択することにより、所望の構成に調整することもできる。
【0031】
黒鉛化可能な骨材としては、例えば、コークス粉末、樹脂の炭化物等が使用できるが、黒鉛化できる粉末材料であれば特に制限はない。中でも、ニードルコークス等の黒鉛化しやすいコークス粉末が好ましい。また、黒鉛としては、粉末状であれば特に制限はなく、天然黒鉛粉末、人造黒鉛粉末等を使用することができる。黒鉛化可能な骨材又は黒鉛の体積平均粒子径は、塊状黒鉛粒子の体積平均粒子径より小さいことが好ましく、塊状黒鉛粒子の体積平均粒子径の2/3以下であることがより好ましい。また黒鉛化可能な骨材又は黒鉛は扁平状の粒子であることが好ましい。
【0032】
黒鉛化可能な骨材又は黒鉛が扁平状の粒子である場合、球状天然黒鉛等の球状の黒鉛粒子を併用してもよい。
【0033】
黒鉛化触媒としては、例えば、鉄、ニッケル、チタン、珪素、硼素等の金属又は半金属、これらの炭化物、酸化物などを使用することができる。これらの中で、珪素又は硼素の炭化物又は酸化物が好ましい。これらの黒鉛化触媒の添加量は、得られる塊状黒鉛粒子に対して、1質量%~50質量%であることが好ましく、5質量%~40質量%であることがより好ましく、5質量%~30質量%であることがさらに好ましい。
【0034】
バインダ(有機結着剤)は、焼成により黒鉛化可能であれば特に制限されない、例えば、タール、ピッチ、熱硬化性樹脂、熱可塑性樹脂等の有機系材料を挙げることができる。また、バインダは、扁平状の黒鉛化可能な骨材又は黒鉛に対し、5質量%~80質量%添加することが好ましく、10質量%~80質量%添加することがより好ましく、15質量%~80質量%添加することがさらに好ましい。
【0035】
黒鉛化可能な骨材又は黒鉛とバインダの混合方法は、特に制限はなく、ニーダー等を用いて行われ、バインダの軟化点以上の温度で混合することが好ましい。具体的には、混合温度は、バインダがピッチ、タール等の際には、50℃~300℃であることが好ましく、熱硬化性樹脂、熱可塑性樹脂等の場合には、20℃~100℃であることが好ましい。
【0036】
上記の混合物を焼成し、黒鉛化処理を行うことで塊状黒鉛粒子が得られる。なお、黒鉛化処理の前に上記混合物を所定形状に成形してもよい。さらに、成形後、黒鉛化前に粉砕し、粒径を調整した後、黒鉛化を行ってもよい。
焼成は、混合物が酸化し難い条件で行うことが好ましく、例えば窒素雰囲気中、アルゴンガス雰囲気中又は真空中で焼成する方法が挙げられる。黒鉛化の温度は、2000℃以上が好ましく、2500℃以上であることがより好ましく、2800℃~3200℃であることがさらに好ましい。
【0037】
黒鉛化前に粒径を調整しない場合、黒鉛化処理により得られた黒鉛化物を所望の体積平均粒子径となるように粉砕することが好ましい。黒鉛化物の粉砕方法は、特に制限はないが、ジェットミル、振動ミル、ピンミル、ハンマーミル等の既知の方法をとることができる。上記に示す製造方法を経ることにより、扁平状の粒子を複数、主面が非平行となるように集合又は結合している黒鉛粒子、即ち、塊状黒鉛粒子を得ることができる。
さらに、塊状黒鉛粒子の製造方法の詳細は、特許3285520号公報、特許3325021号公報等を参照することもできる。
【0038】
炭素性粒子は、炭素性物質A(コア粒子を構成していてもよい)の表面の少なくとも一部に、炭素性物質Aよりも結晶性の低い炭素性物質Bが設けられたものであってもよい。炭素性粒子の表面の少なくとも一部が結晶性の低い炭素性物質Bで被覆されることで、炭素性粒子の表面における電解液との反応性が低減し、初期の充放電効率を良好に維持しつつ入力特性がより向上する傾向にある。
【0039】
炭素性粒子の表面に結晶性の低い炭素性物質Bが存在するか否かは、透過型電子顕微鏡(TEM)による観察結果に基づいて判断することができる。以下、表面の少なくとも一部を結晶性の低い炭素性物質Bで被覆されている炭素性粒子を「被覆炭素性粒子」ともいう。
【0040】
炭素性物質Bとしては、低結晶性炭素、非晶質炭素、メソフェーズカーボン等の炭素材料が挙げられ、非晶質炭素を含むことが好ましい。
【0041】
被覆炭素性粒子における炭素性物質Bの含有率は、特に制限されない。入力特性の向上の観点からは、炭素性物質Bの含有率は、被覆炭素性粒子の全体に対して、0.1質量%以上であることが好ましく、0.5質量%以上であることがより好ましく、1質量%以上であることがさらに好ましい。容量の低下を抑制する観点からは、炭素性物質Bの含有率は、30質量%以下であることが好ましく、20質量%以下であることがより好ましく、10質量%以下であることがさらに好ましい。
【0042】
炭素性物質Bの含有率は、以下の方法により求めることができる。
被覆炭素性粒子を15℃/分の昇温速度で加熱し、30℃~950℃の範囲で質量を測定する。30℃~700℃での質量減少を炭素性物質Bの質量とする。この炭素性物質Bの質量を用いて、下記式により炭素性物質Bの含有率を求める。
炭素性物質Bの含有率(質量%)=(炭素性物質Bの質量/30℃での被覆炭素性粒子の質量)×100
【0043】
被覆炭素性粒子における炭素性物質Bの平均厚さは、初期の充放電効率及び入力特性の観点から、1nm以上であることが好ましく、2nm以上であることがより好ましく、3nm以上であることがさらに好ましい。
また、被覆炭素性粒子における炭素性物質Bの平均厚さは、エネルギー密度の観点から、500nm以下であることが好ましく、300nm以下であることがより好ましく、100nm以下であることがさらに好ましい。
【0044】
被覆炭素性粒子における炭素性物質Bの平均厚さは、透過型電子顕微鏡により、任意の20点を測定して、その算術平均を求めた値である。
【0045】
炭素性粒子(被覆炭素性粒子の場合には、被覆されている炭素性粒子)の体積平均粒子径(D50)は、2μm~50μmであることが好ましく、5μm~35μmであることがより好ましく、7μm~30μmであることがさらに好ましい。炭素性粒子の体積平均粒子径が50μm以下であると、放電容量及び放電特性が向上する傾向にある。炭素性粒子の体積平均粒子径が2μm以上であると、初期充放電効率が向上する傾向にある。
【0046】
体積平均粒子径(D50)は、レーザー回折式粒度分布測定装置(例えば、SALD-3000J、株式会社島津製作所)を用いて体積基準の粒度分布を測定し、D50(メジアン径)として求められる。
【0047】
炭素性粒子(被覆炭素性粒子の場合には、被覆されている炭素性粒子)の粒度分布(D90/D10)は、2.00以下であることが好ましく、1.90以下であることがより好ましく、1.85以下であることがさらに好ましい。
【0048】
粒度分布(D90/D10)は、上記の体積平均粒子径(D50)の測定で得られた体積基準の粒度分布において、小径側からの体積累積10%粒子径(D10)と、小径側からの体積累積90%粒子径(D90)を求め、その比(D90/D10)から算出される。
【0049】
炭素性粒子(被覆炭素性粒子の場合には、被覆されている炭素性粒子)の平均円形度は、0.85以上であることが好ましく、0.88以上であることがより好ましく、0.90以上であることがさらに好ましい。
【0050】
炭素性粒子の円形度とは、炭素性粒子の投影面積と同じ面積を持つ円の直径である円相当径から算出される円としての周囲長を、炭素性粒子の投影像から測定される周囲長(輪郭線の長さ)で除して得られる数値であり、下記式で求められる。尚、円形度は真円では1.00となる。
円形度=(相当円の周囲長)/(粒子断面像の周囲長)
【0051】
具体的に炭素性粒子の平均円形度は、湿式フロー式粒子径・形状分析装置(例えば、マルバーン社、FPIA-3000)を用いて測定することができる。なお、測定温度は25℃とし、測定試料の濃度は10質量%とし、カウントする粒子の数は12000個とする。また、分散用の溶媒として水を用いる。
【0052】
炭素性粒子の円形度を測定する際には、炭素性粒子を予め水中で分散させておくことが好ましい。例えば、超音波分散、ボルテックスミキサー等を使用して炭素性粒子を水中で分散させることが可能である。炭素性粒子の粒子崩壊又は粒子破壊の影響を抑制するため、測定する炭素性粒子の強度に鑑みて、超音波の強さ及び時間を適宜調整してもよい。
超音波処理としては、例えば、超音波洗浄器(ASU-10D、アズワン株式会社)の槽内に任意の量の水を貯めた後、炭素性粒子の分散液の入った試験管をホルダーごと槽内の水に浸漬し、1分間~10分間超音波処理することが好ましい。この処理時間内であれば炭素性粒子の粒子崩壊、粒子破壊、試料温度の上昇等を抑制したまま、炭素性粒子を分散させやすくなる。
【0053】
炭素性粒子は、ラマン分光測定のR値が0.30以下であることが好ましく、0.28以下であることがより好ましく、0.26以下であることがさらに好ましく、0.25以下であることが特に好ましく、0.24以下であることが極めて好ましい。
R値は、波長532nmのグリーンレーザー光を用いたラマンスペクトル分析において、波数1580cm-1~1620cm-1の範囲において最大強度を示す第1のピークP1のピーク強度I1580に対する、波数1350cm-1~1370cm-1の範囲において最大強度を示す第2のピークP2のピーク強度I1350の比(I1350/I1580)である。ここで、波数1580cm-1~1620cm-1の範囲に現れる第1のピークP1とは、通常、黒鉛結晶構造に対応すると同定されるピークである。また、波数1350cm-1~1370cm-1の範囲に現れる第2のピークP2とは、通常、炭素の非晶質構造に対応すると同定されるピークである。
【0054】
本開示において、ラマン分光測定は、レーザーラマン分光光度計(例えば、型番:NRS-1000、日本分光株式会社)を用い、炭素性粒子を平らになるようにセットした試料板に半導体レーザー光を照射して測定を行う。測定条件は以下の通りである。
半導体レーザー光の波長:532nm
波数分解能:2.56cm-1
測定範囲:850cm-1~1950cm-1
ピークリサーチ:バックグラウンド除去
【0055】
<リチウムイオン二次電池用負極材の製造方法>
本開示のリチウムイオン二次電池用負極材の製造方法は特に限定されず、例えば、次の方法を挙げることができる。本開示のリチウムイオン二次電池用負極材の製造方法の一例としては、炭素性物質Aの粒子に対して熱処理を施した賦活化炭素性物質粒子Aを準備する工程と、前記炭素性物質Aよりも結晶性の低い炭素性物質Bの元となる炭素性物質前駆体と、前記賦活化炭素性物質粒子Aと、を混合して混合物を得る工程と、前記混合物を熱処理して炭素性粒子を得る工程と、を有する製造方法である。
本開示のリチウムイオン二次電池用負極材の製造方法は、必要に応じてその他の工程を含んでもよい。
【0056】
<賦活化炭素性物質粒子Aを準備する工程>
賦活化炭素性物質粒子Aを準備する工程では、炭素性物質Aの粒子に対して熱処理が施された賦活化炭素性物質粒子Aが準備される。熱処理としては、CO2ガス、水蒸気、O2ガス等の存在する雰囲気下での熱処理などが挙げられる。賦活化炭素性物質粒子Aの粒子径の制御、賦活化炭素性物質粒子Aの表面状態の制御等の観点から、O2ガスの存在する雰囲気下(例えば、空気雰囲気下)で熱処理することが好ましい。
【0057】
熱処理温度は、使用されるガス雰囲気、処理時間等に応じて適宜調節することが好ましい。例えば、空気雰囲気下における処理の場合、熱処理温度は100℃~800℃であることが好ましく、150℃~750℃であることがより好ましく、350℃~750℃であることがさらに好ましい。この温度範囲内であれば、炭素性物質Aを燃焼させることなく賦活化炭素性物質粒子Aの比表面積を増加させることが可能となる。
また、空気雰囲気下における熱処理時間は、熱処理温度、炭素材料の種類等に応じて適宜調節することが好ましく、例えば、0.5時間~24時間であることが好ましく、1時間~6時間であることがより好ましい。この時間内であれば、効果的に賦活化炭素性物質粒子Aの比表面積を増加させることが可能となる。さらに、O2ガスの存在する雰囲気で熱処理を行う場合、O2ガスの含有率が1体積%~30体積%であることが好ましい。この範囲内であることで、効果的に賦活化炭素性物質粒子Aの比表面積を増加させることができる傾向にある。
【0058】
また、CO2ガス雰囲気下における熱処理温度は、600℃~1200℃であることが好ましく、700℃~1100℃であることがより好ましい。また、CO2ガス雰囲気下における熱処理時間は、熱処理温度、炭素材料の種類に応じて適宜調節することが好ましく、例えば、0.5時間~24時間であることが好ましく、1時間~6時間であることがより好ましい。
【0059】
炭素性粒子の水蒸気吸着比表面積は、賦活化のための熱処理温度が高くなるにつれて大きくなるが、特定の温度以上になると逆に小さくなる傾向にある。炭素性粒子の窒素吸着比表面積も同様に、賦活化のための熱処理温度が高くなるにつれて大きくなるが、特定の温度以上になると逆に小さくなる傾向にある。賦活化のための熱処理において、特定の温度を境に、炭素性粒子の比表面積が増大から減少に転じる理由は明らかではないが、次のように考えることができる。特定の温度までは、炭素性粒子が賦活化されて、表面に微細な細孔が生じる傾向にある。特定の温度以上になると、表面に生じた微細な細孔の一部がつながって、比表面積が減少するものと考えられる。この特定の温度は、水蒸気吸着比表面積の場合と窒素吸着比表面積の場合とでは異なっていることが多い。
【0060】
賦活化炭素性物質粒子Aを準備する工程で用いられる炭素性物質Aは、特に限定されるものではなく、上述の炭素性粒子のコア粒子として説明したものと同様のものが挙げられる。
【0061】
炭素性物質Aが球状天然黒鉛の場合、炭素性物質Aの体積平均粒子径(D50)は、2μm~30μmであることが好ましく、5μm~25μmであることがより好ましく、7μm~20μmであることがさらに好ましい。
炭素性物質Aが人造黒鉛の場合、炭素性物質Aの体積平均粒子径(D50)は、8μm~40μmであることが好ましく、10μm~35μmであることがより好ましく、12μm~30μmであることがさらに好ましい。
【0062】
炭素性物質Aが球状天然黒鉛の場合、炭素性物質AのBET比表面積は、4m2/g~15m2/gであることが好ましく、5m2/g~15m2/gであることがより好ましく、6m2/g~13m2/gであることがさらに好ましく、7m2/g~11m2/gであることが特に好ましい。
炭素性物質Aが人造黒鉛の場合、炭素性物質AのBET比表面積は、0.5m2/g~10m2/gであることが好ましく、1m2/g~10m2/gであることがより好ましく、2m2/g~8m2/gであることがさらに好ましく、3m2/g~7m2/gであることが特に好ましい。
【0063】
炭素性物質Aが球状天然黒鉛の場合、賦活化炭素性物質粒子AのBET比表面積は、5m2/g~23m2/gであることが好ましく、6m2/g~20m2/gであることがより好ましく、7m2/g~15m2/gであることがさらに好ましい。
炭素性物質Aが人造黒鉛の場合、賦活化炭素性物質粒子AのBET比表面積は、1m2/g~13m2/gであることが好ましく、2m2/g~12m2/gであることがより好ましく、3m2/g~10m2/gであることがさらに好ましい。
【0064】
本開示のリチウムイオン二次電池用負極材の製造方法においては、市販の賦活化炭素性物質粒子Aを購入して準備することもできる。
【0065】
<混合物を得る工程>
混合物を得る工程では、炭素性物質Aよりも結晶性の低い炭素性物質Bの元となる炭素性物質前駆体と、賦活化炭素性物質粒子Aと、が混合される。
【0066】
入力特性を向上する観点からは、炭素性物質Bは、結晶性炭素及び非晶質炭素の少なくとも一方を含むことが好ましい。例えば、熱処理により炭素質に変化しうる有機化合物(以下、炭素性物質Bの元となる炭素性物質前駆体を、炭素性物質Bの前駆体とも称する)から得られる炭素質の物質であることが好ましい。炭素性物質Bとしては、具体的には、上述の炭素性粒子において炭素性物質Bとして挙げたものと同様のものが挙げられる。
【0067】
炭素性物質Bの前駆体は特に制限されず、ピッチ、有機高分子化合物等が挙げられる。ピッチとしては、エチレンヘビーエンドピッチ、原油ピッチ、コールタールピッチ、アスファルト分解ピッチ、ポリ塩化ビニル等を熱分解して作製されるピッチ、ナフタレン等を超強酸存在下で重合させて作製されるピッチなどが挙げられる。
有機高分子化合物としては、ポリ塩化ビニル、ポリビニルアルコール、ポリ酢酸ビニル、ポリビニルブチラール等の熱可塑性樹脂、デンプン、セルロース等の天然物質などが挙げられる。
【0068】
炭素性物質Bの前駆体としてピッチが用いられる場合、ピッチの軟化点は70℃~250℃であることが好ましく、75℃~150℃であることがより好ましく、80℃~120℃であることがさらに好ましい。
ピッチの軟化点はJIS K 2425:2006に記載のタールピッチの軟化点測定方法(環球法)によって求められた値をいう。
炭素性物質Bの前駆体の残炭率は、5質量%~80質量%であることが好ましく、10質量%~70質量%であることがより好ましく、20質量%~60質量%であることがさらに好ましい。
炭素性物質Bの前駆体の残炭率は、炭素性物質Bの前駆体を単独で(又は所定割合の炭素性物質Bの前駆体と賦活化炭素性物質粒子Aの混合物の状態で)炭素性物質Bの前駆体が炭素質に変化しうる温度で熱処理し、熱処理前の炭素性物質Bの前駆体の質量と、熱処理後の炭素性物質Bの前駆体に由来する炭素性物質Bの質量とから、計算することができる。熱処理前の炭素性物質Bの前駆体の質量及び熱処理後の炭素性物質Bの前駆体に由来する炭素性物質Bの質量は、熱重量分析等により求めることができる。
【0069】
混合物は、必要に応じて、炭素性物質Bの前駆体の他に、粒子状のその他の炭素性物質B(炭素質粒子)を含んでもよい。混合物が炭素性物質Bの前駆体と共に炭素質粒子を含む場合、炭素性物質Bの前駆体から形成される炭素性物質Bと炭素質粒子とは、同じであっても異なっていてもよい。
その他の炭素性物質Bとして用いられる炭素質粒子は特に制限されず、アセチレンブラック、オイルファーネスブラック、ケッチェンブラック、チャンネルブラック、サーマルブラック、土状黒鉛等の粒子が挙げられる。
【0070】
混合物を得る工程において、混合物中の賦活化炭素性物質粒子A及び炭素性物質Bの前駆体の含有率は、特に制限されない。入力特性の観点からは、炭素性物質Bの前駆体の含有率は、リチウムイオン二次電池用負極材の総質量における炭素性物質Bの含有率が0.1質量%以上となる量であることが好ましく、0.5質量%以上となる量であることがより好ましく、1質量%以上となる量であることがさらに好ましい。容量の低下を抑制する観点からは、炭素性物質Bの前駆体の含有率は、リチウムイオン二次電池用負極材の総質量における炭素性物質Bの含有率が30質量%以下となる量であることが好ましく、20質量%以下となる量であることがより好ましく、10質量%以下となる量であることがさらに好ましい。
【0071】
混合物を得る工程において、賦活化炭素性物質粒子Aと炭素性物質Bの前駆体とを含む混合物の調製方法は、特に制限されない。例えば、賦活化炭素性物質粒子A及び炭素性物質Bの前駆体を溶媒に混合した後に溶媒を除去する方法(湿式混合)、賦活化炭素性物質粒子A及び炭素性物質Bの前駆体を粉体の状態で混合する方法(粉体混合)並びに力学的エネルギーを加えながら賦活化炭素性物質粒子A及び炭素性物質Bの前駆体を混合する方法(メカニカル混合)が挙げられる。
【0072】
賦活化炭素性物質粒子Aと炭素性物質Bの前駆体と、を含む混合物は、複合化された状態であることが好ましい。複合化された状態とは、それぞれの材料が物理的又は化学的に接触している状態であることを意味する。
【0073】
<炭素性粒子を得る工程>
炭素性粒子を得る工程では、混合物を熱処理して炭素性粒子を得る。得られる炭素性粒子は、賦活化炭素性物質粒子Aの表面の少なくとも一部に炭素性物質Bが設けられている。
【0074】
混合物を熱処理する際の熱処理温度は、特に制限されない。例えば、熱処理は、700℃~1500℃の温度条件下で行われることが好ましく、750℃~1300℃の温度条件下で行われることがより好ましく、800℃~1200℃の温度条件下で行われることがさらに好ましい。炭素性物質Bの前駆体の炭素化を充分に進行させる観点からは、熱処理は700℃以上の温度条件下で行われることが好ましく、入力特性の向上の観点からは熱処理は1500℃以下の温度条件下で行われることが好ましい。また、熱処理温度が上述の範囲内であれば、初期充放電効率及び入力特性が向上する傾向にある。熱処理温度は、熱処理の開始から終了まで一定であっても、変化してもよい。
【0075】
混合物を熱処理する際の処理時間は、使用する炭素性物質Bの前駆体の種類によって、適宜異なる。例えば、炭素性物質Bの前駆体として軟化点が100℃(±20℃)のコールタールピッチを使用した場合は、400℃までは、10℃/分以下の速度で昇温させることが好ましい。また、昇温過程を含む合計の熱処理時間は、2時間~18時間であることが好ましく、3時間~15時間であることがより好ましく、4時間~12時間であることがさらに好ましい。
【0076】
混合物を熱処理する際の雰囲気は、窒素ガス、アルゴンガス等の不活性ガス雰囲気であれば特に限定されず、工業的な観点から窒素ガス雰囲気であることが好ましい。
【0077】
炭素性粒子を得る工程は、炭素性粒子の水蒸気吸着比表面積を上記の範囲にする工程であることが好ましい。また、炭素性粒子を得る工程は、炭素性粒子の窒素吸着比表面積を上記の範囲にする工程であることが好ましい。
なお、炭素性粒子の水蒸気吸着比表面積及び窒素吸着比表面積とは、後述する解砕後の炭素性粒子の水蒸気吸着比表面積及び窒素吸着比表面積をいう。
【0078】
炭素性物質Bの結晶性は、賦活化炭素性物質粒子Aの結晶性よりも低い。炭素性物質Bの結晶性が賦活化炭素性物質粒子Aの結晶性よりも低いことで、入力特性が向上する傾向にある。
賦活化炭素性物質粒子A及び炭素性物質Bの結晶性の高低は、例えば、透過型電子顕微鏡(TEM)による観察結果に基づいて判断することができる。
また、炭素性粒子を得る工程で得られた炭素性粒子は、カッターミル、フェーザーミル、ジューサーミキサー等で解砕してもよい。また、解砕された炭素性粒子を篩分けしてもよい。
【0079】
<リチウムイオン二次電池用負極>
本開示のリチウムイオン二次電池用負極は、本開示のリチウムイオン二次電池用負極材を含む負極材層と、集電体と、を含む。リチウムイオン二次電池用負極は、本開示のリチウムイオン二次電池用負極材を含む負極材層及び集電体の他、必要に応じて他の構成要素を含んでもよい。
【0080】
リチウムイオン二次電池用負極は、例えば、リチウムイオン二次電池用負極材と結着剤を溶剤とともに混練してスラリー状のリチウムイオン二次電池用負極材組成物を調製し、これを集電体上に塗布して負極材層を形成することで作製したり、リチウムイオン二次電池用負極材組成物をシート状、ペレット状等の形状に成形し、これを集電体と一体化することで作製したりすることができる。混練は、撹拌機、ボールミル、スーパーサンドミル、加圧ニーダー等の分散装置を用いて行うことができる。
【0081】
リチウムイオン二次電池用負極材組成物の調製に用いる結着剤は、特に限定されない。結着剤としては、スチレン-ブタジエン共重合体(SBR)、メチルアクリレート、メチルメタクリレート、エチルアクリレート、エチルメタクリレート、ブチルアクリレート、ブチルメタクリレート、ヒドロキシエチルアクリレート、ヒドロキシエチルメタクリレート等のエチレン性不飽和カルボン酸エステル及びアクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸、フマル酸、マレイン酸等のエチレン性不飽和カルボン酸の単独重合体又は共重合体、ポリフッ化ビニリデン、ポリエチレンオキサイド、ポリエピクロロヒドリン、ポリフォスファゼン、ポリアクリロニトリル、ポリメタクリロニトリル等のイオン伝導性の大きな高分子化合物などが挙げられる。リチウムイオン二次電池用負極材組成物が結着剤を含む場合、結着剤の含有量は特に制限されない。例えば、リチウムイオン二次電池用負極材と結着剤の合計100質量部に対して0.5質量部~20質量部であってもよい。
【0082】
リチウムイオン二次電池用負極材組成物は、増粘剤を含んでもよい。増粘剤としては、カルボキシメチルセルロース、メチルセルロース、ヒドロキシメチルセルロース、エチルセルロース、ポリビニルアルコール、ポリアクリル酸又はその塩、酸化スターチ、リン酸化スターチ、カゼイン等を使用することができる。リチウムイオン二次電池用負極材組成物が増粘剤を含む場合、増粘剤の含有量は特に制限されない。例えば、リチウムイオン二次電池用負極材100質量部に対して、0.1質量部~5質量部であってもよい。
【0083】
リチウムイオン二次電池用負極材組成物は、導電補助材を含んでもよい。導電補助材としては、カーボンブラック、グラファイト、アセチレンブラック等の炭素材料、導電性を示す酸化物、導電性を示す窒化物等の無機化合物などが挙げられる。リチウムイオン二次電池用負極材組成物が導電補助材を含む場合、導電補助材の含有量は特に制限されない。例えば、リチウムイオン二次電池用負極材100質量部に対して、0.5質量部~15質量部であってもよい。
【0084】
集電体の材質は特に制限されず、アルミニウム、銅、ニッケル、チタン、ステンレス鋼等から選択できる。集電体の状態は特に制限されず、箔、穴開け箔、メッシュ等から選択できる。また、ポーラスメタル(発泡メタル)等の多孔性材料、カーボンペーパーなども集電体として使用可能である。
【0085】
リチウムイオン二次電池用負極材組成物を集電体に塗布して負極材層を形成する場合、その方法は特に制限されず、メタルマスク印刷法、静電塗装法、ディップコート法、スプレーコート法、ロールコート法、ドクターブレード法、コンマコート法、グラビアコート法、スクリーン印刷法等の公知の方法を採用できる。リチウムイオン二次電池用負極材組成物を集電体に塗布した後は、リチウムイオン二次電池用負極材組成物に含まれる溶剤を乾燥により除去する。乾燥は、例えば、熱風乾燥機、赤外線乾燥機又はこれらの装置の組み合わせを用いて行うことができる。必要に応じて負極材層に対して圧延処理を行ってもよい。圧延処理は、平板プレス、カレンダーロール等の方法で行うことができる。
【0086】
シート、ペレット等の形状に成形されたリチウムイオン二次電池用負極材組成物を集電体と一体化して負極材層を形成する場合、一体化の方法は特に制限されない。例えば、ロール、平板プレス又はこれらの手段の組み合わせにより行うことができる。リチウムイオン二次電池用負極材組成物を集電体と一体化する際の圧力は、例えば、1MPa~200MPa程度であることが好ましい。
【0087】
負極材層の負極密度は、特に制限されない。例えば、1.1g/cm3~1.8g/cm3であることが好ましく、1.1g/cm3~1.7g/cm3であることがより好ましく、1.1g/cm3~1.6g/cm3であることがさらに好ましい。負極密度を1.1g/cm3以上とすることで、電気抵抗の増加が抑制され、容量が増加する傾向にあり、1.8g/cm3以下とすることで、入力特性及びサイクル特性の低下が抑制される傾向がある。
【0088】
<リチウムイオン二次電池>
本開示のリチウムイオン二次電池は、リチウムイオン二次電池用負極と、正極と、電解液とを含む。
【0089】
正極は、上述した負極の作製方法と同様にして、集電体上に正極材層を形成することで得ることができる。集電体としては、アルミニウム、チタン、ステンレス鋼等の金属又は合金を、箔状、穴開け箔状、メッシュ状等にしたものを用いることができる。
【0090】
正極材層の形成に用いる正極材料は、特に制限されない。正極材料としては、リチウムイオンをドーピング又はインターカレーション可能な金属化合物(金属酸化物、金属硫化物等)、導電性高分子材料などが挙げられる。より具体的には、コバルト酸リチウム(LiCoO2)、ニッケル酸リチウム(LiNiO2)、マンガン酸リチウム(LiMnO2)、これらの複酸化物(LiCoxNiyMnzO2、x+y+z=1)、添加元素M’を含む複酸化物(LiCoaNibMncM’dO2、a+b+c+d=1、M’:Al、Mg、Ti、Zr又はGe)、スピネル型リチウムマンガン酸化物(LiMn2O4)、リチウムバナジウム化合物、V2O5、V6O13、VO2、MnO2、TiO2、MoV2O8、TiS2、V2S5、VS2、MoS2、MoS3、Cr3O8、Cr2O5、オリビン型LiMPO4(M:Co、Ni、Mn、Fe)等の金属化合物、ポリアセチレン、ポリアニリン、ポリピロール、ポリチオフェン、ポリアセン等の導電性ポリマー、多孔質炭素などが挙げられる。正極材料は、1種単独であっても2種以上であってもよい。
【0091】
電解液は特に制限されず、例えば、電解質としてのリチウム塩を非水系溶媒に溶解したもの(いわゆる有機電解液)を使用することができる。
リチウム塩としては、LiClO4、LiPF6、LiAsF6、LiBF4、LiSO3CF3等が挙げられる。リチウム塩は、1種単独でも2種以上であってもよい。
非水系溶媒としては、エチレンカーボネート、フルオロエチレンカーボネート、クロロエチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ブチレンカーボネート、ビニレンカーボネート、シクロペンタノン、シクロヘキシルベンゼン、スルホラン、プロパンスルトン、3-メチルスルホラン、2,4-ジメチルスルホラン、3-メチル-1,3-オキサゾリジン-2-オン、γ-ブチロラクトン、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、エチルメチルカーボネート、メチルプロピルカーボネート、ブチルメチルカーボネート、エチルプロピルカーボネート、ブチルエチルカーボネート、ジプロピルカーボネート、1,2-ジメトキシエタン、テトラヒドロフラン、2-メチルテトラヒドロフラン、1,3-ジオキソラン、酢酸メチル、酢酸エチル、トリメチルリン酸エステル、トリエチルリン酸エステル等が挙げられる。非水系溶媒は、1種単独でも2種以上であってもよい。
【0092】
リチウムイオン二次電池における正極及び負極の状態は、特に限定されない。例えば、正極及び負極と、必要に応じて正極及び負極の間に配置されるセパレータとを、渦巻状に巻回した状態であっても、これらを平板状として積層した状態であってもよい。
【0093】
セパレータは特に制限されず、例えば、樹脂製の不織布、クロス、微孔フィルム又はそれらを組み合わせたものを使用することができる。樹脂としては、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィンを主成分とするものが挙げられる。リチウムイオン二次電池の構造上、正極と負極が直接接触しない場合は、セパレータは使用しなくてもよい。
【0094】
リチウムイオン二次電池の形状は、特に制限されない。例えば、ラミネート型電池、ペーパー型電池、ボタン型電池、コイン型電池、積層型電池、円筒型電池及び角型電池が挙げられる。
【0095】
本開示のリチウムイオン二次電池は、入力特性、高温保存特性及び初期充放電効率に優れるため、電気自動車、パワーツール、電力貯蔵装置等に使用される大容量のリチウムイオン二次電池として好適である。特に、加速性能及びブレーキ回生性能の向上のために大電流での充放電が求められている電気自動車(EV)、ハイブリッド電気自動車(HEV)、プラグインハイブリッド電気自動車(PHEV)等に使用されるリチウムイオン二次電池として好適である。
【実施例1】
【0096】
以下、実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0097】
<実施例1>
[負極材の作製]
黒鉛粒子として球形化天然黒鉛(体積平均粒子径:10μm)60gを容積0.864Lのアルミナるつぼ内に入れ、空気雰囲気で400℃に保たれた状態で1時間静置し、熱処理を行った。
熱処理後の黒鉛粒子100質量部と、8.0質量部のコールタールピッチ(軟化点:98℃、残炭率:50質量%)と、を粉体混合して混合物を得た。次いで、混合物の熱処理を行って、表面に非晶質炭素が付着した焼成物を作製した。熱処理は、窒素流通下、200℃/時間の昇温速度で25℃から1000℃まで昇温し、1000℃で1時間保持することで行った。実施例1で得られた負極材の表面に非晶質炭素が付着した焼成物をカッターミルで解砕し、350メッシュ篩で篩分けを行い、その篩下分をリチウムイオン二次電池用負極材(負極材)とした。
【0098】
<実施例2>
実施例1と同様にして、但し、黒鉛粒子の熱処理温度を500℃にして、コールタールピッチの量を6.4質量部に変更して、負極材を得た。
【0099】
<実施例3>
実施例2と同様にして、但し、コールタールピッチ量を7.5質量部に変更して、負極材を得た。
【0100】
<実施例4、5>
実施例1と同様にして、但し、黒鉛粒子の熱処理温度400℃を表1に記載の温度に変更して、負極材を得た。
【0101】
<実施例6>
実施例1と同様にして、但し、体積平均粒子径(D50)が17μmの黒鉛粒子に変更し、黒鉛粒子の熱処理温度を500℃にして、負極材を得た。
【0102】
<比較例1>
実施例1の原料として用いた黒鉛粒子を熱処理せず、そのまま負極材として用いた。
【0103】
<比較例2>
実施例1と同様にして、但し、実施例1の原料として用いた黒鉛粒子を熱処理せずに、表面に非晶質炭素を付着させて、負極材を得た。
【0104】
<比較例3>
実施例1と同様にして、但し、黒鉛粒子の熱処理の条件を、窒素雰囲気で500℃に変更して、負極材を得た。
【0105】
<比較例4>
実施例1と同様にして、但し、黒鉛粒子の熱処理温度を300℃に変更して、負極材を得た。
【0106】
<比較例5>
実施例1と同様にして、但し、体積平均粒子径(D50)が17μmの黒鉛粒子に変更し、黒鉛粒子の熱処理温度を300℃にして、負極材を得た。
【0107】
<比較例6>
実施例1と同様にして、但し、体積平均粒子径(D50)が17μmの黒鉛粒子に変更し、黒鉛粒子の熱処理温度を650℃、熱処理時間を15分に変更して、負極材を得た。
【0108】
<比較例7>
実施例1と同様にして、但し、体積平均粒子径(D50)が17μmの黒鉛粒子に変更し、黒鉛粒子の熱処理温度を650℃、熱処理時間を15分に変更し、さらに8.0質量部のコールタールピッチを14質量部の石油系タール量に変更して負極材を得た。
【0109】
得られた実施例1~6及び比較例1~7の負極材について、以下の測定を行った。
【0110】
[水蒸気吸着比表面積の測定]
日本ベル株式会社、「高精度ガス/蒸気吸着量測定装置 BELSORP-max」を用い、飽和水蒸気ガスを用い、50℃に設定した恒温槽内で、吸着温度を298Kとして、相対圧P/P0を0.0000~0.9500まで変動させて、そのときの水蒸気吸着量を測定した。そして、相対圧P/P0が0.05~0.12の範囲のときの水蒸気吸着量から、BET多点法により、水蒸気吸着比表面積を求めた。
なお、測定の前処理として、0.05gの負極材を投入した測定用セルを、真空ポンプで10Pa以下に減圧した後、110℃で加熱し、3時間以上保持した後、減圧した状態を保ったまま常温(25℃)まで自然冷却した。
【0111】
[窒素吸着比表面積の測定]
比表面積/細孔分布測定装置(フローソーブ III 2310、株式会社島津製作所)を用いて、吸着ガスとして窒素とヘリウムの混合ガス(窒素:ヘリウム=3:7)を用い、液体窒素温度(77K)での窒素吸着を相対圧0.3の一点法で測定してBET法により窒素吸着比表面積を算出した。
なお、測定の前処理として、0.05gの負極材を投入した測定用セルを、真空ポンプで10Pa以下に減圧した後、110℃で加熱し、3時間以上保持した後、減圧した状態を保ったまま常温(25℃)まで自然冷却した。
【0112】
[体積平均粒子径(D50)の測定]
負極材を界面活性剤とともに精製水中に分散させた分散液を、レーザー回折式粒度分布測定装置(SALD-3000J、株式会社島津製作所)の試料水槽に入れた。次いで、分散液に超音波をかけながらポンプで循環させて、粒度分布を得た。粒度分布における体積累積50%粒子径を体積平均粒子径として求めた。
【0113】
[粒度分布(D90/D10)の測定]
上記の体積平均粒子径(D50)の測定で得られた粒度分布において、小径側からの体積累積10%粒子径(D10)と、小径側からの体積累積90%粒子径(D90)を求め、その比(D90/D10)を算出した。
【0114】
[平均円形度の測定]
負極材を水に入れ、10質量%の水分散液を調製して、測定試料を得た。超音波洗浄器(ASU-10D、アズワン株式会社)の槽内に貯めた水に、測定試料の入った試験管をホルダーごと入れた。そして、1分間~10分間の超音波処理を行った。
超音波処理を行った後、湿式フロー式粒子径・形状分析装置(マルバーン社、FPIA-3000)を用いて、25℃で黒鉛粒子の平均円形度を測定した。カウントする粒子の数は12000個とした。
【0115】
[R値の測定]
ラマン分光測定は、ラマン分光器「レーザーラマン分光光度計(型番:NRS-1000、日本分光株式会社」を用い、負極材が平らになるようにセットした試料板に半導体レーザー光を照射して測定を行った。測定条件は以下の通りである。
半導体レーザー光の波長:532nm
波数分解能:2.56cm-1
測定範囲:850cm-1~1950cmg-1
ピークリサーチ:バックグラウンド除去
【0116】
[被覆層の厚さの測定]
B表面における結晶性の低い炭素性物質の厚さを、透過型電子顕微鏡により任意の20点を測定し、その算術平均を求めた。
【0117】
【0118】
[正極板の作製]
正極活物質として(LiNi1/3Mn1/3Co1/3O2)(BET比表面積:0.4m2/g、平均粒子径(d50):6.5μm)を用いた。この正極活物質に、導電材としてアセチレンブラック(商品名:HS-100、平均粒子径48nm(デンカ株式会社カタログ値)、デンカ株式会社製)と、結着剤としてポリフッ化ビニリデンとを順次添加し、混合することにより正極材料の混合物を得た。質量比は、正極活物質:導電材:結着剤=80:13:7とした。さらに上記混合物に対し、分散溶媒であるN-メチル-2-ピロリドン(NMP)を添加し、混練することによりスラリーを形成した。このスラリーを正極用の集電体である平均厚みが20μmのアルミニウム箔の両面に実質的に均等かつ均質に塗布した。その後、乾燥処理を施し、密度2.7g/cm3までプレスにより圧密化した。
【0119】
[負極板の作製]
負極活物質として表1に記載の負極材を用いた。
この負極活物質に増粘剤としてカルボキシメチルセルロース(CMC)と結着剤としてスチレンブタジエンゴム(SBR)を添加した。これらの質量比は、負極活物質:CMC:SBR=98:1:1とした。これに分散溶媒である精製水を添加し、混練することにより各実施例及び比較例のスラリーを形成した。このスラリーを負極用の集電体である平均厚みが10μmの圧延銅箔の両面に実質的に均等かつ均質に所定量塗布した。負極材層の密度は1.2g/cm3とした。
【0120】
[リチウムイオン二次電池の作製](単極)
作製した負極板を直径14mmの円盤状に打ち抜き、試料電極(負極)を作製した。
作製した試料電極(負極)、セパレータ、対極(正極)の順にコイン型電池容器に入れ、電解液を注入して、コイン型のリチウムイオン二次電池を作製した。電解液としては、エチレンカーボネート(EC)及びメチルエチルカーボネート(EMC)(ECとEMCの体積比は3:7)の混合溶媒にLiPF6を1.0mol/Lの濃度になるように溶解したものを使用した。対極(正極)としては、金属リチウムを使用した。セパレータとしては、厚み20μmのポリエチレン製微孔膜を使用した。作製したリチウムイオン二次電池を用いて、下記の方法により初期充放電効率の評価を行った。
【0121】
[初期充放電効率の評価]
(1)0.48mA(0.2CA相当)の定電流で0V(V vs.Li/Li+)まで充電し、次いで電流値が0.048mAになるまで0V(V vs.Li/Li+)で定電圧充電を行った。このときの容量を初回充電容量とした。
(2)30分の休止時間後に、0.48mAの定電流で1.5V(V vs.Li/Li+)まで放電を行った。このときの容量を初回放電容量とした。
(3)上記(1)及び(2)で求めた充放電容量から下記の(式1)を用いて、初回充放電効率を求めた。
初期充放電効率(%)=(初回放電容量/初回充電容量)×100・・・(式1)
【0122】
[リチウムイオン二次電池の作製]
作製した正極板及び負極板をそれぞれ所定の大きさに裁断し、裁断した正極と負極とを、その間に平均厚みが30μmのポリエチレンの単層セパレータ(商品名:ハイポア、旭化成株式会社、「ハイポア」は登録商標)を挟装して捲回し、ロール状の電極体を形成した。このとき電極体の直径は、17.15mmになるよう、正極、負極、及びセパレータの長さを調整した。この電極体に集電用リードを付設し、18650型電池ケースに挿入し、次いで電池ケース内に非水電解液を注入した。非水電解液には環状カーボネートであるエチレンカーボネート(EC)と、鎖状カーボネートであるジメチルカーボネート(DMC)とエチルメチルカーボネート(EMC)とを、それぞれの体積比が2:3:2で混合した混合溶媒に、リチウム塩(電解質)としてヘキサフルオロリン酸リチウム(LiPF6)を1.2mol/Lの濃度で溶解させたものを用い、ビニレンカーボネート(VC)を1.0質量%添加した。最後に電池ケースを密封して、リチウムイオン二次電池を完成させた。
【0123】
[初期状態]
作製したリチウムイオン二次電池は、25℃の環境下において、0.5CA相当の電流値で4.2Vまで定電流充電し、4.2Vに到達した時からその電圧で電流値が0.01CA相当の電流値になるまで定電圧充電した。その後、0.5CA相当の定電流放電で、2.7Vまで放電した。これを3サイクル実施した。なお、各充放電間には30分の休止を入れた。3サイクル実施後のリチウムイオン二次電池を、初期状態と称する。3サイクル目の放電容量を放電容量1とする。
【0124】
[高温保存特性の評価]
初期状態の電池を25℃の環境下において、0.5CA相当の電流値で4.2Vまで定電流充電し、4.2Vに到達した時からその電圧で電流値が0.01CA相当の電流値になるまで定電圧充電した。その後、60℃の環境下で90日間静置した。静置した電池を25℃の環境下で6時間置き、0.5CA相当の電流値で2.7Vまで定電流放電した。次いで、0.5CA相当の電流値で4.2Vまで定電流充電し、4.2Vに到達した時からその電圧で電流値が0.01CA相当になるまで定電圧充電した。その後、0.5CA相当の電流値で2.7Vまで定電流放電した。このときの放電容量を放電容量2とする。なお、各充放電間には30分の休止を入れた。上記で求めた放電容量1と放電容量2から下記の(式2)を用いて、高温保存特性を求めた。
高温保存特性(%)=(放電容量2/放電容量1)×100・・・(式2)
【0125】
[入力特性の評価]
初期状態にした電池を、環境温度25℃に設定した恒温槽内に電池内部の温度と環境温度が同等になるように静置した後、0.5CA相当の電流値で、11秒充電した。次に、0.5CA相当の電流値で2.7Vまで放電した。同様にして、充電の電流値を1CA、3CA、5CA相当に変更して、電圧の変化と電流値の関係から傾きを算出して初期抵抗を求めた。この初期抵抗の値から、入力特性を評価した。
【0126】
【0127】
表2の結果に示されるように、実施例の負極材を用いて作製したリチウムイオン二次電池は、比較例の負極材を用いて作製したリチウムイオン二次電池に比較して、高温保存特性及び初期充放電効率を維持しつつ、入力特性に優れていることがわかる。