(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-01-06
(45)【発行日】2022-01-21
(54)【発明の名称】気密封止用キャップおよび電子部品収納パッケージ
(51)【国際特許分類】
H01L 23/10 20060101AFI20220114BHJP
H01L 23/02 20060101ALI20220114BHJP
H03H 9/02 20060101ALI20220114BHJP
【FI】
H01L23/10 B
H01L23/02 C
H01L23/02 J
H03H9/02 A
(21)【出願番号】P 2016105935
(22)【出願日】2016-05-27
【審査請求日】2019-04-05
(31)【優先権主張番号】P 2015141319
(32)【優先日】2015-07-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000005083
【氏名又は名称】日立金属株式会社
(72)【発明者】
【氏名】長友 和也
(72)【発明者】
【氏名】神嵜 秀志
(72)【発明者】
【氏名】浅田 賢
【審査官】平林 雅行
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-073027(JP,A)
【文献】国際公開第2007/094284(WO,A1)
【文献】特開2010-040585(JP,A)
【文献】特開平04-096256(JP,A)
【文献】特開2004-186428(JP,A)
【文献】特開2005-166955(JP,A)
【文献】特開平09-199622(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/54
H01L 23/00-23/04
H01L 23/06-23/10
H01L 23/16-23/26
H03H 3/007-3/06
H03H 9/00-9/135
H03H 9/15-9/24
H03H 9/30-9/40
H03H 9/46-9/62
H03H 9/66
H03H 9/70
H03H 9/74
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属板の表面上に形成されたNiめっき層と、前記Niめっき層の上に形成されたAuめっき層とを有する電子部品収納パッケージに用いる気密封止用キャップであって、
前記Auめっき層は他の部材との接合領域を有し、前記接合領域は表面元素分析によるAu含有割合が
2.0質量%~
10.0質量%であ
り、前記接合領域の表面上に環状に形成された半田層を有し、前記半田層の前記金属板の厚さ方向への濡れ拡がり長さLの前記金属板の厚さTに対する比率L/Tが30%以下である、気密封止用キャップ。
【請求項2】
前記接合領域の表面上にAu-Sn系合金の半田層を有する、請求項
1に記載の気密封止用キャップ。
【請求項3】
前記接合領域の内側に酸化領域を有する、請求項1
または2に記載の気密封止用キャップ。
【請求項4】
請求項1乃至
3のいずれか1項に記載の気密封止用キャップと、内部に電子部品が収納された電子部品収納部材とが、半田により接合されている、電子部品収納パッケージ。
【請求項5】
前記半田がAu-Sn系合金である、請求項
4に記載の電子部品収納パッケージ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、気密封止用キャップおよび電子部品収納パッケージに関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、携帯電話の雑音除去などに用いられる表面弾性波(SAW:Surface Acoustic Wave)フィルタや、水晶振動子および発振器などの電子部品の気密封止に用いる表面実装型デバイス(SMD:Surface Mount Device)パッケージなど、内部に電子部品を収納して気密封止した構成の電子部品収納パッケージが多く使用されている。こうした電子部品収納パッケージは、内部に電子部品を収納するセラミック製ケース(電子部品収納部材)に対し、蓋材(気密封止用キャップ)が半田などを用いて接合(気密封止)されている。こうした気密封止用キャップは、基材となる低熱膨張性の金属板の表面上にNi(ニッケル)めっき層が形成され、Niめっき層の表面上にAu(金)めっき層が形成され、Auめっき層の表面上に気密封止用の接合領域が設定され、かかる接合領域の表面上に半田層が形成されたものがある(特許文献1、2参照)。
【0003】
かかる気密封止用キャップにおけるAuめっき層は、該Auめっき層の表面上に設定された接合領域において、溶融半田が表面張力に抑制されつつも適度に濡れ拡がるようにするには有効である。しかし、Auめっき層の表面上における溶融半田の濡れ拡がりが良すぎる場合、溶融半田が接合領域から逸脱して内側に向かって濡れ拡がり、さらには電子部品収納部材の内部に向かって濡れ拡がることがある。こうなると、接合領域における気密封止に必要な半田量の不足ばかりでなく、半田による電子部品の汚染や、電子部品収納パッケージの気密不良が発生しやすくなる。かかる溶融半田の接合領域から電子部品収納部材の内部に向かう過剰な濡れ拡がりに対し、接合領域の内側に溶融半田に対する濡れ性が劣る酸化領域(酸化層)を形成し、該酸化領域によって溶融半田の濡れ拡がりを阻止する手段が提案されている(特許文献1、2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開平9-199622号公報
【文献】国際公開第2007/094284号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述した酸化領域(酸化層)を形成する手段により、接合領域の内側に向かう溶融半田の過剰な濡れ拡がりを阻止できるようになった。しかし、近年、接合領域から電子部品収納部材の外側に向かう溶融半田の過剰な濡れ拡がりにより発生する電子部品収納パッケージの外観不良への対策は求められている。具体的には、溶融半田が接合領域を逸脱して外側(金属板の側面)に濡れ拡がり、さらに金属板の側面を越えて接合領域とは反対側の表面上にまで濡れ拡がる現象である。その結果、電子部品収納パッケージの外表面である気密封止用キャップの外表面に半田が付着し、かかる半田の付着が外観不良となる。こうした溶融半田の接合領域から外側へ向かう過剰な濡れ拡がりは、上述した電子部品収納パッケージの外観不良の他、気密封止に必要な半田量が接合領域において不足し、電子部品収納パッケージの気密不良が発生しやすくなる。
【0006】
本発明の目的は、電子部品収納パッケージに用いる気密封止用キャップを半田により電子部品収納部材に接合するにあたり、溶融半田の接合領域から外側に向かう濡れ拡がりを所定以下に抑制し、パッケージの外観不良や気密不良を抑制できる気密封止用キャップを提供し、それを用いて信頼性の高い電子部品収納パッケージを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、従来の気密封止用キャップにおけるAuめっき層の機能や特性を特に精査し、Auめっき層におけるAu含有量が溶融半田の濡れ拡がり形態に影響を及ぼすことを突き止め、本発明に想到した。
【0008】
すなわち本発明の気密封止用キャップは、金属板の表面上に形成されたNiめっき層と、前記Niめっき層の上に形成されたAuめっき層とを有する電子部品収納パッケージに用いる気密封止用キャップであって、Auめっき層は他の部材との接合領域を有し、その接合領域は表面元素分析によるAu含有割合が2.0質量%~10.0質量%であり、前記接合領域の表面上に環状に形成された半田層を有し、前記半田層の前記金属板の厚さ方向への濡れ拡がり長さLの前記金属板の厚さTに対する比率L/Tが30%以下であることを特徴とする。
【0009】
前記接合領域の表面上にAu-Sn系合金の半田層を有することが好ましい。
前記接合領域の内側に酸化領域を有することが好ましい。
【0010】
上述した本発明の気密封止用キャップを用いて、電子部品収納パッケージを得ることができる。
すなわち本発明の電子部品収納パッケージは、本発明のいずれかの気密封止用キャップと、内部に電子部品が収納された電子部品収納部材とが、半田により接合されていることを特徴とする。
前記半田がAu-Sn系合金であることが好ましい。
【発明の効果】
【0011】
本発明の気密封止用キャップは、他の部材との接合領域の外側へ向かう溶融半田の濡れ拡がりを抑制することができる。よって、電子部品収納パッケージの外観不良や気密不良の発生が抑制される。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本発明の気密封止用キャップの構成例であって、接合領域S1が設定された断面を示す図である。
【
図2】本発明の気密封止用キャップの構成例であって、接合領域S1の表面上に半田層5を有する断面を示す図である。
【
図3】本発明の気密封止用キャップの構成例であって、接合領域S1の内側に酸化領域S2を有する断面を示す図である。
【
図4】本発明の電子部品収納パッケージの構成例であって、
図3に示す気密封止用キャップと、セラミック基板21などを用いて構成された電子部品収納部材とが、半田層5’により接合された断面を示す図である。
【
図5】
図4に示す電子部品収納パッケージの製造方法を示す図である。
【
図6】接合領域S1上に半田層5を形成する際に溶融半田が側面に濡れ拡がった具体例を示す断面図である。
【
図7】Au含有割合の数値を横軸とし、比率L/Tの数値を縦軸として作成した散布図に、それぞれの数値に基づいて求めた3次多項式近似曲線を併記した図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の気密封止用キャップは、電子部品収納パッケージ(以下、「パッケージ」という。)に用いられ、内部に電子部品が収納された電子部品収納部材(以下、「ケース」という。)と接合される気密封止用キャップ(以下、「キャップ」という。)である。
【0014】
本発明のキャップの構成例を
図1に示す。
図1に示すキャップ1は、プレス打抜きなどの手段により、例えばFe-42Ni系、Fe-42Ni-6Cr系、またはFe-Ni-Co系などの合金板を用いて形成された金属板2を基材とする。また、金属板2の表面上は、金属板2をNiまたはNi合金が取り囲むように、Niめっきにより形成されたNiめっき層3を有する。また、Niめっき層3の表面上は、Niめっき層3をAuまたはAu合金が取り囲むように、Auめっきにより形成されたAuめっき層4を有する。また、Auめっき層4の表面上には、ケースと接合される接合領域S1がある。
【0015】
接合領域S1は、パッケージを製造する際に半田を用いてケースに接合するための領域であって、パッケージの気密封止性に影響を及ぼす重要な領域である。また、かかる接合領域S1は、一般的に環状であるとともに金属板2の外周の形状に対応し、例えば金属板2の外周が角形状であるときは、これに近似する環状の角形状に設定される。
【0016】
図1に示すキャップ1を半田を用いてケースと接合する場合、キャップ1のAuめっき層4の接合領域S1において、
図2に示すように、予め半田層5を形成することが一般に行われている。半田層5は、接合領域S1の形状に対応して環状に形成され、例えば接合領域S1に置いた半田ワッシャを溶融させた後に凝固させて固着する方法(以下、「溶融固着法」という。)が簡便である。かかる半田層5は、接合時の加熱により溶融して溶融半田となり、接合領域S1内に濡れ拡がる。溶融半田は、キャップ1の接合領域S1とケース側の接合領域とを密着し、その後の溶融半田の凝固により両者を接合し、パッケージを気密封止する。なお、Auめっき層4の表面上に半田層5を融着する際に、半田層5内にAuめっき層4中のAuが拡散していると接合強度の向上が期待される。そのため、Auの拡散容易性を考慮し、半田層5にはAu-Sn系合金を用いることが好ましい。
【0017】
Auめっき層4の接合領域S1の表面の粗さやうねりの状態あるいは汚染や酸化の性質など(以下、「表面性状」という。)は、上述した溶融凝固法により半田層5を形成する際や、キャップ1とケースとの気密封止の際に、溶融半田の濡れ拡がりに大きな影響を及ぼす。そのため、接合領域S1の表面性状が適切に形成されていることが重要である。そこで、本発明では、キャップ1の接合領域S1の表面元素分析によるAu含有割合を1.0質量%~13.0質量%とする。かかる接合領域S1の表面元素分析によるAu含有割合は、上述したNiめっき層3の上にAuめっき層4を形成する際に調整可能である。かかる調整の具体例については後述する。
【0018】
本発明において、表面元素分析は、走査型電子顕微鏡(SEM:Scanning Electron Microscope)に付属するエネルギー分散型X線分光分析(EDX:Energy Dispersive X-ray Spectroscopy)を意図する。かかるSEM-EDXにおいて、被検体(接合領域S1の被測定面)に照射された電子線がAuめっき層4を透過し、あるいはさらにNiめっき層3をも透過し、特性X線がAuめっき層4、Niめっき層3、および金属板2から発生する。そのため、特性X線を分光して求めた元素の種類およびその含有割合は、Auめっき層4およびNiめっき層3の厚さの影響を受ける。従って、上述した接合領域S1のSEM-EDXによるAu含有割合(2.0質量%~10.0質量%)を除く残部(98.0質量%~90.0質量%)は、Auめっき層4、Niめっき層3、および金属板2に含まれるAuを除く他元素の含有割合の合計値となる。
【0019】
接合領域S1の表面元素分析によるAu含有割合が2.0質量%~10.0質量%の範囲であるキャップ1は、接合領域S1内における溶融半田の濡れ拡がりが好適にある。具体的には、溶融半田は、環状の接合領域S1内において濡れ拡がりながらも、接合領域S1の内側や外側へ逸脱して過剰に濡れ拡がるような現象が抑制される。よって、溶融凝固法により半田層5を形成する際には、溶融半田が接合領域S1内に必要かつ十分に濡れ拡がるし、キャップ1とケースとの気密封止の際には、接合領域S1内に必要かつ十分な半田量を担保することができる。なお、キャップ1の接合領域S1のAu含有割合を上述した範囲としたときに、溶融半田の濡れ拡がりのために適切な表面性状になる理由は明らかではない。
【0020】
キャップ1の接合領域S1の表面元素分析によるAu含有割合は、好ましくは6.0質量%~10.0質量%である。この構成により、接合領域S1内においては溶融半田の好適な濡れ拡がりが得られやすく、接合領域S1の内側や外側への溶融半田の逸脱が好適に抑制されやすい。
【0021】
また、
図3に示すように、キャップ1の接合領域S1の内側に酸化領域S2を有することは好ましく、この酸化領域S2により接合領域S1の内側へ向かう溶融半田の濡れ拡がりを一層確実に抑制することができる。かかる酸化領域S2は、例えばYVO4(Yttrium Vanadium tera Oxide)を媒体とするレーザ光を照射し、Auめっき層4の一部を環状に除去することにより形成することができる。レーザ光は、熱によりAuめっき層4を溶融して除去するとともに、Niめっき層3の表面を酸化させる。よって、酸化領域S2は、Niめっき層3の表面が酸化された酸化層である。
【0022】
上述した本発明のキャップ1を用いて、内部に電子部品が収納された本発明のパッケージを得ることができる。
本発明のパッケージの構成例を
図4に示す。
図4に示すパッケージ10は、
図5に示すように、キャップ1と、内部に電子部品30が収納されたケース20とが、半田層5’を介して接合され、内部が気密封止されている。この構成例では、キャップ1は、
図3に示すものと同形態である。また、ケース20は、アルミナなどの絶縁性材料を用いて形成されたセラミック基板21と、アルミナなどの絶縁性材料を用いて形成された環状のセラミック枠体22とを含み、セラミック基板21の平面と、セラミック枠体22による外周壁とが、電子部品30を収納する空間を構成している。また、環状のセラミック枠体22の上面には、タングステン層23が設けられている。タングステン層23の上面には、Ni-Co系合金層24が設けられている。Ni-Co系合金層24の上面には、AuまたはAu合金を用いて形成されたAu層25(
図5参照)が設けられている。また、電子部品30は、例えば水晶振動子であって、ケース20の前記空間内において、バンプ31を介してセラミック基板21の上に配置されている。
【0023】
上述したキャップ1とケース20は、半田を用いて接合されている。具体的には、
図5に示すように、ケース20側のAu層25の表面と、キャップ1側の半田層5の表面とを、矢印で示すように近づけて接触させる。次いで、280℃~310℃の温度の可能な限り真空に近い雰囲気中において半田層5を溶融して溶融半田を生成し、その溶融半田が接合領域S1内において必要かつ十分に濡れ拡がるまで保持する。その後、降温して溶融半田を凝固させることにより、キャップ1とケース20とを接合することができる。
【0024】
溶融半田が濡れ拡がるキャップ1の接合領域S1は、溶融半田の濡れ拡がりに好適な表面性状、すなわち、表面元素分析によるAu含有割合が
2.0質量%~
10.0質量%に形成されている。これにより、溶融半田が接合領域S1において円滑に濡れ拡がるとともに充足され、接合領域S1の外側あるいは内側へ逸脱する溶融半田の濡れ拡がりを所定以下に抑制することができる。よって、溶融半田の接合領域S1を逸脱した外側への濡れ拡がりによるパッケージ10の外観不良が抑制される。また、溶融半田の接合領域S1を逸脱した内側への濡れ拡がりによる電子部品30の特性不良が抑制される。加えて、
図4に示すように、表面の酸化により溶融半田の濡れ拡がり性が低減された酸化領域S2をキャップ1に備えておくことにより、溶融半田の接合領域S1を逸脱した内側への濡れ拡がりによる電子部品30の特性不良が一層確実に抑制される。また、溶融半田の過剰な濡れ拡がりが抑制された結果、その抑制分だけ半田層5の厚さや幅を小さくしてよく、半田の使用量を低減することができる。
【0025】
なお、上述した半田層5が溶融半田となった後に再凝固する過程において、Auめっき層4およびAu層25が半田層5内に拡散する。かかる拡散は半田による接合強度を高める傾向がある。よって、半田層5にAu-Sn系合金を用いることは好ましく、半田層5とAuめっき層4とを馴染みやすくすることができ、同様に、半田層5とAu層25とを馴染みやすくすることができる。こうした拡散により、ケース20と接合した後の半田層5は、Auめっき層4およびAu層25との区別が困難になる。そのため、接合後の半田層5は、見掛け上、ケース20側では
図4に示すようにNi-Co系合金層24の表面上に半田層5’が形成されたようになる。また、キャップ1側ではNiめっき層3の表面上に半田層5’が形成されたようになるが、説明の都合上、
図4ではAuめっき層4と半田層5’とを明確に区分して示している。
【実施例】
【0026】
(実施例1)
図1に示す構成を参照し、Auめっき層4の接合領域S1のSEM-EDX(表面元素分析)によるAu含有割合が種々異なるキャップ1を作製し、接合領域S1から逸脱して外側あるいは内側へ向かう溶融半田の濡れ拡がり状態の評価を実施した。かかるSEM-EDXでは、日立ハイテクノロジーズ社製のSEM(型式:S-3400N)に付属する堀場製作所製のEDX(型式:Emax xact)を用いて、加速電圧を15kV、ワーキングディスタンスを10mm、収集係数率を2~3kpcsに設定し、被検体となるキャップ1の接合領域S1(全表面にAuめっき層4を有するキャップ1の場合はその中心部分でもよい)を500倍に拡大した概ね180μm×250μmの領域を面分析し、得られた値を検出値とした。なお、簡便のため、実施例1の説明についても各図に示す各部品の呼称や番号を引用する。
【0027】
キャップ1の基材となる金属板2(縦1.58mm、横1.18mm、厚さ0.06mm)は、Fe-29%Ni-17%Co合金(質量%)製の板材をプレスで打抜いて作製した。次いで、Niめっき処理により、金属板2の表面を主成分がNiであるNiめっき層3(平均厚さ1.98μm)で被覆し、Niめっき金属板を形成した。続いて、Auめっき処理により、Niめっき金属板の表面を主成分がAuであるAuめっき層4で被覆し、Auめっき金属板を形成した。また、最表面にAuめっき層4を有し、そのAuめっき層4と金属板2の間にNiめっき層3を有する前記Auめっき金属板の外周近傍が、環状の接合領域S1となる。
【0028】
前記Auめっき処理では、電気めっき法を適用した。具体的には、Auの供給源となるシアン化Auカリウムを含むpHが5~6程度のめっき液を準備し、そのめっき液中のAu濃度を0.5g/L~2.0g/Lに調整した。また、Auの析出速度を安定させてAuの析出量のばらつきを抑制する目的で、めっき液の温度(液温)を30℃±5℃に制御した。かかるめっき液中に、表面の洗浄処理を行った前記Niめっき金属板を投入し、通電時の電流密度を0.01±0.005A/dm
2に制御し、接合領域S1を含むAuめっき層4のAu含有割合が所定値となるように通電時間を制御した。かかる通電時間を種々調整し、Auめっき層4の表面のAu含有割合、すなわち、Auめっき層4の接合領域S1のAu含有割合を変化させた。こうして、金属板2を基材とし、Niめっき層3を下地とし、最表面にAuめっき層4を備え、接合領域S1に半田層5を備える前の
図1に示すようなキャップ1(以下、他構成のキャップと区別するために「無半田キャップ」という。)を得た。
【0029】
次に、溶融固着法により、無半田キャップの接合領域S1上に半田層5を形成した。具体的には、接合領域S1が鉛直方向の上面になるように無半田キャップを配置し、接合領域S1に対応するAuめっき層4の表面上に環状に形成された半田ワッシャ(幅0.10mm、厚さ0.015mm)を置き、その状態で炉内に入れて加熱し、半田ワッシャを溶融させた後に十分に冷却した。なお、半田ワッシャはAu-22.4質量%Sn系合金を用いて形成されたものである。これにより、
図2に示す構成のキャップ1(以下、他構成のキャップと区別するために「半田付キャップ」という。)を得ることができた。また、半田付キャップの接合領域S1上に形成された半田層5は、溶融して表面張力が作用した状態で凝固するため、
図6に示すように厚さ方向の断面形状が弧状に形成される。なお、
図6は、無半田キャップの接合領域S1上に半田層5を環状に形成した半田付キャップを金属板2の厚さ方向に切断した切断面の拡大観察例である。
【0030】
上述した製造方法により作製した半田層5を形成する前の無半田キャップの接合領域S1について、EDXによりAu含有割合を測定し、膜厚計によりAuめっき層4の厚さを測定した。無半田キャップの接合領域S1上に半田層5を形成して半田付キャップを得る際、半田層5が溶融半田となり、接合領域S1やAuめっき層4の表面性状に応じて、
図6に点線で囲んで示す領域S3のように、接合領域S1から逸脱して外側(側面)に向かって濡れ拡がることが一般的である。これを参酌し、接合領域S1から逸脱して外側へ向かう溶融半田の濡れ拡がり長さ(
図6中のL)を測定し、その長さLの金属板2の厚さT(
図6中に示すT)に対する比率L/Tを百分率で求めた。なお、厚さTは0.06mmである。
【0031】
これらの結果を、接合領域S1のAu含有割合に基づいてグループ分けし、いずれも平均値で表1に示す。なお、接合領域S1に関して表1に示す数値は、無半田キャップを分析した結果である。また、溶融半田の濡れ拡がりに関して表1に示す数値は、半田付キャップの半田層5を溶融凝固させて測定した結果である。なお、金属板2の厚さTに対する溶融半田の接合領域S1を逸脱して外側(側面)へ向かう濡れ拡がりに係る比率L/Tが概ね40%以下である場合、パッケージが外観不良と判定される可能性が小さい。また、かかる比率L/Tが概ね1/3の35%以下であると、パッケージが外観不良と判定される可能性が特に小さくなるため、実用上の問題がなく好ましいとされている。これを参酌し、本発明の有効性は比率L/Tで評価し、その閾値を40%とし、好ましい閾値を35%とし、より好ましい閾値を30%とした。
【0032】
【0033】
表1から、接合領域S1のAu含有割合が2.0質量%~10.0質量%であったグループ1~3(本発明例)は、比率L/Tの最大値が26.65%(グループ1)であり、より好ましい閾値30%未満であった。一方、接合領域S1のAu含有割合が10.0質量%を超えていたグループ4~7(比較例)では、グループ5と7の比率L/Tが閾値40%を超え、これらよりも小さいグループ4と6でもより好ましい閾値(30%)を超えていた。
【0034】
また、グループ3と4のAu含有割合の大小関係からして、Au含有割合が10.0%以下であると、比率L/Tがより好ましい閾値30%以下となる傾向が認められる。なお、グループ1と2のAu含有割合の大小関係からして、Au含有割合が小さくなると比率L/Tが大きくなる傾向が認められるため、接合領域S1のAu含有割合の低下による溶融半田の濡れ拡がりの不安定性が推定される。これを参酌し、好ましいAu含有割合は3.0%以上、より好ましくは4.0%以上、より一層好ましくは6.0%以上と解することができる。
【0035】
別の観点として、表1に示すAu含有割合と比率L/Tに基づいて散布図を作成して評価した。かかる散布図に3次多項式近似曲線を併記した図(グラフ)を、
図7に示す。表1の結果に加えて
図7に示す傾向を参酌し、接合領域S1のAu含有割合の好ましい範囲を判定した。例えば、接合領域S1のAu含有割合が1.0質量%~13.0質量%であると、溶融半田の接合領域S1を逸脱して外側へ向かう濡れ拡がりについて、比率L/Tを閾値40%以下に容易に抑制できることが分る。また、接合領域S1のAu含有割合が2.0質量%~10質量%であると、より好ましい閾値30%以下に抑制できる可能性が認められる。
【0036】
また、比率L/Tを可能な限り小さくしたい場合は、接合領域S1のAu含有割合が3.0質量%~8.0質量%であると、比率L/Tをより好ましい閾値30%以下に抑制することが容易となり、さらに一層好ましい閾値20%以下に抑制できる可能性が認められる。また、Auめっき層4の厚さが小さくなると、Niめっき層3が部分的に露出する不具合(めっきむら)の発生リスクが高まるため、比率L/Tをより好ましい閾値30%以下に抑制しながらも、めっきむらの発生リスクを小さくしたい場合は、接合領域S1のAu含有割合が6.0質量%~10.0質量%であることが好ましい。
【0037】
次に、グループ1~
3(本発明例)を対象とし、半田付キャップの半田を溶融凝固させた被検体の平面観察や
図6に示すような断面観察を行うことにより、溶融半田の接合領域S1を逸脱して内側に向かう濡れ拡がりの状態を確認した。その結果、接合領域S1を逸脱した内側のAuめっき層4の表面上に、半田が付着していることがあった(図示略)。これは、半田ワッシャの溶融により、溶融半田が接合領域S1を逸脱して内側へ向かって濡れ拡がったと推測される。しかし、付着していた半田はいずれも微量であったため、かかる微量の半田がパッケージ10を作製する際にケース20の内部で再溶融しても、電子部品30に特性不良が発生するようなことはなく、問題なく使用することができることが分った。
【0038】
以上述べたことから、グループ1~3(本発明例)の接合領域S1は、溶融半田の接合領域S1の外側あるいは内側へ向かう濡れ拡がりを所定以下に抑制しながら、接合領域S1内において必要かつ十分に濡れ拡がる表面性状であることが確認できた。また、グループ4~7(比較例)の接合領域S1は、溶融半田の接合領域S1を逸脱して外側へ向かう濡れ拡がりがより好ましい閾値30%を超える表面性状であることが確認された。
【0039】
次いで、グループ1~
3(本発明例)の半田付キャップを用いて、
図5を参照して説明した製造方法により、
図4に示す構成を有するパッケージ10を作製した。その結果、半田層5を再溶融してケース20に接合したときに、溶融半田が接合領域S1を逸脱して外側(半田付キャップの側面)へ濡れ拡がることに起因して発生するパッケージ10の外観不良は認められなかった。同様に、グループ
4~7(比較例)の半田付キャップを用いて、
図4に示す構成を有するパッケージ10を作製した。その結果、半田層5を再溶融してケース20に接合したときに、溶融半田が接合領域S1を逸脱して外側(半田付キャップの側面)へ濡れ拡がり、
比率L/Tがより好ましい閾値30%を超え、外観不良となったパッケージ10があった。
【0040】
(実施例2)
実施例1で作製した
図1に示す構成を有するグループ1~
3(本発明例)の無半田キャップに対して
図3を参照して酸化領域S2を形成し、接合領域S1を内側に外れた接合領域S1の近傍(以下、単に「接合領域S1の内側」という。)に酸化領域S2を備える無半田キャップを作製した。なお、簡便のため、実施例2の説明についても各図に示す各部品の呼称や番号を引用する。
【0041】
具体的には、無半田キャップのAuめっき層4の表面上に接合領域S1を設定し、かかる接合領域S1の内側にYVO4を媒体とするレーザ光を環状に照射し、Auめっき層4を除去し、Niめっき層3を露出させた。ESCA850(島津製作所製)を用いて、かかるNiめっき層3の最表面を測定したところ、厚さが1nm~2nmのNiO層が形成されていた。かかるNiO層が酸化領域S2として機能する。なお、ESCA850の測定条件は、X-Ray(Mg)を8kV、30mAとし、イオンエッチング(Ar)を2kV、20mA、3.2nm/minとした。
【0042】
次に、実施例1と同様な溶融固着法により、グループ1~3(本発明例)の無半田キャップの接合領域S1上に半田層5を形成し、接合領域S1の内側に酸化領域S2を備える半田付キャップを作製した。なお、実施例1と同様である半田層5の形成方法に係る説明および図示は略す。
【0043】
かかる接合領域S1の内側に酸化領域S2を備える半田付キャップについて、厚さ方向の断面を観察することにより、接合領域S1を逸脱して内側へ向かう溶融半田の濡れ拡がり状態を確認した。その結果、いずれの場合においても、接合領域S1を逸脱して内側へ向かう溶融半田の濡れ拡がりは酸化領域S2によって阻止されていた。そのため、Auめっき層4の表面上を、酸化領域S2を超えてさらに内側に向かうような溶融半田の濡れ拡がりは発生しなかった。よって、半田付キャップを作製する場合、Auめっき層4の表面上に環状に設定された接合領域S1の内側に対し、さらに環状に形成された酸化領域S2を備えることが好ましいことが分った。
【0044】
また、かかる結果から、接合領域S1を逸脱して内側へ向かう溶融半田の濡れ拡がりを阻止する酸化領域S2を備える本発明の半田付キャップを用いることにより、パッケージの内部に収納された電子部品30の特性不良を一層抑制できることが分った。
【符号の説明】
【0045】
1.キャップ、2.金属板、3.Niめっき層、4.Auめっき層、5.半田層、5’.半田層、10.パッケージ、20.ケース、21.セラミック基板、22.セラミック枠体、23.タングステン層、24.Ni-Co系合金層、25.Au層、30.電子部品、31.バンプ、S1.接合領域、S2.酸化領域、S3.濡れ拡がり、L.長さ、T.厚さ