(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-01-07
(45)【発行日】2022-01-21
(54)【発明の名称】符号化装置、復号装置及びプログラム
(51)【国際特許分類】
H04N 19/85 20140101AFI20220114BHJP
【FI】
H04N19/85
(21)【出願番号】P 2017200553
(22)【出願日】2017-10-16
【審査請求日】2020-09-07
(73)【特許権者】
【識別番号】000004352
【氏名又は名称】日本放送協会
(73)【特許権者】
【識別番号】599149108
【氏名又は名称】ポンペウ ファブラ大学
(74)【代理人】
【識別番号】110001564
【氏名又は名称】フェリシテ特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】森田 泰子
(72)【発明者】
【氏名】ベルタルミオ バラテ マルセロ ホセ
(72)【発明者】
【氏名】ケイン デイビット
(72)【発明者】
【氏名】シリアク プラビーン
【審査官】坂東 大五郎
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/053852(WO,A1)
【文献】Yasuko Sugito et al.,Improved High Dynamic Range Video Coding with a Nonlinearity Based on Natural Image Statistics,International Journal of Signal Processing Systems,Vol. 5, No. 3,2018年01月04日,pp.100-105
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H04N 19/00-19/98
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
入力映像の1フレームである入力画像I
01に対して符号化処理を施す
ことによって得られたビットストリームを出力するように構成されている符号化装置であって、
前記入力画像I
01から、非線形伝達関数
【数1】
【数2】
に基づいて、出力画像I’を生成するように構成されている伝達関数処理部を具備し、
前記ビットストリームは、前記出力画像I’から得られ、
前記入力画像I
01は、正規化された線形の光学的な輝度を示す画素値を有しており、
前記出力画像I’は、正規化された非線形の知覚的な画素値を有して
おり、
前記M
lin
は、前記輝度の中央値であり、
前記γ
L
は、低輝度値用のパラメータであり、
前記γ
H
は、高輝度値用のパラメータであることを特徴とする符号化装置。
【請求項2】
前記伝達関数処理部は、GOPの開始フレーム毎に前記非線形伝達関数を生成するように構成されていることを特徴とする請求項1に記載の符号化装置。
【請求項3】
前記γ
H’は、0.265~0.275の範囲の値であり、
前記M
linは、0.002~0.006の範囲の値であることを特徴とする請求項1又は2に記載の符号化装置。
【請求項4】
請求項1に記載の符号化装置によって出力されたビットストリームに対して復号処理を施すことによって出力画像I
c01を取得するように構成されている復号装置であって、
非線形伝達関数
【数1】
【数2】
の逆関数である非線形逆伝達関数
【数6】
を算出し、前記非線形逆伝達関数に基づいて、前記出力画像I
c01を算出するように構成されている逆伝達関数処理部を具備し、
入力画像I
c
’は、前記ビットストリームから得られ、
前記出力画像I
c01は、正規化された線形の光学的な輝度を示す画素値を有しており、
前記入力画像I
c’は、正規化された非線形の知覚的な画素値を有して
おり、
前記M
lin
は、前記輝度の中央値であり、
前記γ
L
は、低輝度値用のパラメータであり、
前記γ
H
は、高輝度値用のパラメータであることを特徴とする復号装置。
【請求項5】
前記逆伝達関数処理部は、GOPの開始フレーム毎に前記非線形逆伝達関数を生成するように構成されていることを特徴とする請求項4に記載の復号装置。
【請求項6】
前記γ
H’は、0.265~0.275の範囲の値であり、
前記M
linは、0.002~0.006の範囲の値であることを特徴とする請求項4又は5に記載の復号装置。
【請求項7】
コンピュータを、請求項1~3のいずれか一項に記載の符号化装置として機能させるためのプログラム。
【請求項8】
コンピュータを、請求項4~6のいずれか一項に記載の復号装置として機能させるためのプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、符号化装置、復号装置及びプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、従来に比べて広い範囲の輝度を扱うHDR(High Dynamic Range:高ダイナミックレンジ)映像の普及が進んでいる。テレビジョン(TV)映像フォーマットの国際標準では、従来のSDR(Standard Dynamic Range)映像の輝度が、0.1~100cd/m2と規定されている(Rec. ITU-R BT.1886)のに対して、HDR映像の輝度は、0.005cd/m2以下~1,000cd/m2以上となっている(Rec. ITU-R BT.2100)。
【0003】
HDR映像の処理において、線形の光学的な輝度値を非線形の知覚的な画素値に変換するTF(Transfer Function:伝達関数)は、高品質に圧縮伝送する場合に重要な要素技術となる。適切なTFを選択することにより、HDR映像の輝度の明るさ及び色差の鮮やかさの両方を保ったまま処理をすることができる。
【0004】
HDR-TV映像の国際標準であるRec. ITU-R BT.2100では、PQ(Perceptual Quantization)-EOTF(Electro-Optical Transfer Function)及びHLG(Hybrid Log-Gamma)-OETF(Opto-Electronic Transfer Function)として定義されている2種類のTFが規定されている。
【0005】
HDR映像を高品質に圧縮伝送するために、国際標準化団体であるMPEG(Motion Picture Experts Group)は、映像符号化方式HEVC(High Efficiency Video Coding)/H.265によるHDR映像の符号化方式の検討を進めている。非特許文献1には、MPEGにおけるHDR映像の符号化方式の共通実験条件が記載されている。
【0006】
図13に、4,000cd/m
2システム(最大輝度値L
pが4,000cd/m
2であるシステム)におけるHLG-OETF及びPQ-EOTFのトーンカーブを示す。
図13において、横軸は、線形の光学的な輝度(linear optical luminance)を、縦軸は、非線形の知覚的な輝度(non-linear perceptual luminance)を示す。
【0007】
非特許文献2には、TFとして逆PQ-EOTFを使用した場合には、色差サブサンプリングの影響により、HEVCで符号化をしない場合にも、色が鮮やかで輝度が高い部分に信号処理の過程で発生するアーティファクト(原画像には存在しない不自然な絵柄)が生じること、及び、視覚に影響のない範囲で輝度を調整することでアーティファクトが解消することが記載されている。
【0008】
非特許文献3には、静止画に対してTFと同様の変換処理を行うHDR画像のトーンマッピング手法が記載されている。かかる手法では、画像の輝度の統計的性質に基づいてパラメータを決定し、主観的な画質が向上するトーンマッピング関数を動的に生成する。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0009】
【文献】E.Francois、J.Sole、J.Strom、P.Yin、「Common Test Conditions for HDR/WCG video coding experiments」、JCTVC-Z1020、2017年1月
【文献】J.Strom、J.Samuelsson、K.Dovstam、「Luma Adjustment for High Dynamic Range Video」、2016 Data Compression Conference(DCC)、319~328頁、2016年3月
【文献】P.Cyriac、D.Kane、M.Bertalmio、「Optimized Tone Curve for In-Camera Image Processing」、Electronic Imaging 2016.13、2016年
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、非特許文献2に記載されているように、PQ-EOTFを用いた場合には、色差サブサンプリング時にアーティファク卜が発生し、輝度値の調整が必要になるという問題点がある。
【0011】
また、非特許文献3に記載の手法は、静止画の主観的な画質を向上させるために開発されたもので、圧縮効率を向上させることは考慮されておらず、そのままでは映像符号化には適していないという問題点がある。
【0012】
具体的には、非特許文献3に記載の手法は、主観的な画像品質を向上させることを目的としており、入出力画像の信号値の歪みを小さくする(客観的な画像品質を向上させる)ことを考慮していないという問題点がある。
【0013】
かかる手法を映像のフレームごとに適用すると、フレームごとの明るさやコントラストを調整するトーンカーブが異なり得るために、動き補償予測がうまく機能せず、符号化効率が悪くなるという問題点がある。
【0014】
さらに、TFの情報を示すメタデータの量が大きくなり、符号化効率が悪くなるという問題点がある。
【0015】
そこで、本発明は、上述した課題を解決するためになされたものであり、アーティファク卜の発生を防ぐことにより符号化効率を向上させることが可能な符号化装置、復号装置及びプログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明の第1の特徴は、入力映像の1フレームである入力画像I
01に対して符号化処理を施すように構成されている入力映像の1フレームである入力画像I
01に対して符号化処理を施すように構成されている符号化装置であって、前記入力画像I
01から、非線形伝達関数
【数1】
【数2】
に基づいて、出力画像I’を生成するように構成されている伝達関数処理部を具備し、前記入力画像I
01は、正規化された線形の光学的な輝度を示す画素値を有しており、前記出力画像I’は、正規化された非線形の知覚的な画素値を有していることを要旨とする。
【0017】
本発明の第2の特徴は、上述の第1の特徴に記載の符号化装置によって出力されたビットストリームに対して復号処理を施すことによって出力画像I
c01を取得するように構成されている復号装置であって、非線形伝達関数
【数1】
【数2】
の逆関数である非線形逆伝達関数
【数6】
を算出し、前記非線形逆伝達関数に基づいて、前記出力画像I
c01を算出するように構成されている逆伝達関数処理部を具備し、前記出力画像I
c01は、正規化された線形の光学的な輝度を示す画素値を有しており、入力画像I
c’は、正規化された非線形の知覚的な画素値を有していることを要旨とする。
【0018】
本発明の第3の特徴は、コンピュータを、上述の第1の特徴に記載の符号化装置として機能させるためのプログラムであることを要旨とする。
【0019】
本発明の第4の特徴は、コンピュータを、上述の第2の特徴に記載の復号装置として機能させるためのプログラムであることを要旨とする。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、アーティファク卜の発生を防ぎ、符号化効率を向上させることができる符号化装置、復号装置及びプログラムを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】
図1は、第1の実施形態に係る符号化装置の機能ブロックの一例を示す図である。
【
図2】
図2は、第1の実施形態について説明するための図である。
【
図3】
図3は、第1の実施形態について説明するための図である。
【
図4】
図4は、第1の実施形態について説明するための図である。
【
図5】
図5は、第1の実施形態に係る復号装置の機能ブロックの一例を示す図である。
【
図6】
図6は、第2の実施形態について説明するための図である。
【
図7】
図7は、第2の実施形態について説明するための図である。
【
図8】
図8は、第3の実施形態に係る符号化装置の機能ブロックの一例を示す図である。
【
図9】
図9は、第3の実施形態に係る復号装置の機能ブロックの一例を示す図である。
【
図13】
図13は、従来技術について説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
(第1の実施形態)
以下、
図1~
図5を参照して、本発明の第1の実施形態に係る符号化装置1及び復号装置3について説明する。
【0023】
本実施形態に係る符号化装置1は、入力映像の1フレームである入力画像I01に対して符号化処理を施すように構成されている。
【0024】
具体的には、
図1に示すように、符号化装置1は、伝達関数処理部11と、変換部12と、量子化部13と、サブサンプリング部14と、符号化部15とを具備している。
【0025】
伝達関数処理部11は、入力画像I01から、非線形伝達関数に基づいて、出力画像I’を生成するように構成されている。
【0026】
より具体的には、伝達関数処理部11は、入力画像I
01から、非線形伝達関数
【数1】
【数2】
に基づいて、出力画像I’を生成するように構成されている。
【0027】
なお、かかる非線形伝達関数は、後述の
図7の横軸から縦軸にマッピングする関数である。
【0028】
具体的には、入力画像I01は、0~Lpの範囲の輝度を示す画素値を有するカメラセンサーで取得されたHDR映像のフレームであってもよい。
【0029】
ここで、入力画像I01を最大値Lpで除算することによって、入力画像I01は、0~1の範囲に正規化された線形の光学的な輝度を示す画素値を有することになる。
【0030】
上述の(数式2)は、低輝度値用のγL’にほぼ等しい指数関数(Exponent function)γから高輝度値用のγH’にほぼ等しい指数関数γへ、輝度の中央値Mlinで、これらの平均値になるようになだらかに変化することを示す。
【0031】
ここで、輝度の中央値Mlin、及び、指数関数γは、上述の非特許文献3に記載の手法によって算出した結果である。以下、かかる算出方法について説明する。
【0032】
図2(a)~
図2(c)は、入力画像I
01の輝度L(CIE XYZ空間のY成分)のヒストグラム(点線)、及び、かかるヒストグラムの暗部からの積算値(実線)を常用対数スケールで示したものである。M
linは、M
lin=e
Mによって算出される。
【0033】
ここで、Mは、
【数3】
によって算出される。L
m及びL
Mは、それぞれ、輝度の積算の1及び90パーセンタイル値である。
【0034】
γ
L及びγ
Hは、
図2(a)~
図2(c)の3パターンに応じて計算される。
【0035】
図2(a)に示すように、上述のヒストグラムが、1つの頂点を持ち、なだらかに分布している場合、γ
L及びγ
Hは、(数式4)に示すアルゴリズム1のステップ1によって算出される。多くの画像は、かかる分布に当てはまる。
【数4】
ここで、(数式4)において、Lは、0~1の範囲に正規化された入力画像I
01の輝度を示し、H(L)は、log領域におけるLの累積したヒストグラムを示し、S(a,b)は、a及びbに対応するH上の点を結ぶ直線の傾きを示し(ここで、a及びbは、log(L)の要素である)、trm(L)は、1%の外れ値を取り除いた後のトリム平均を示す。
【0036】
図2(b)に示すように、上述のヒストグラムが、2つの頂点を持つ場合、γ
L及びγ
Hは、(数式4)に示すアルゴリズム1のステップ2によって算出される。mean(L)は、輝度Lの平均値を意味する。
【0037】
図2(c)に示すように、上述のヒストグラムが、
図2(b)においてyで示される輝度Lの上半分(輝度がM以上の領域)の中間値に近い輝度にピークを有する場合、γ
L及びγ
Hは、(数式4)に示すアルゴリズム1のステップ3によって算出される。
【0038】
発明者らは、(数式2)において、低輝度部γL’が小さい場合(例えば、0.2程度の場合)には、低輝度部γL’に対して割り当てる非線形の知覚的な輝度の範囲が大きくなり、画像の暗部が全体的に明るくなってノイズが強調されるため、符号化効率が下がることに注目した。
【0039】
そこで、発明者らは、γL及びγHを調整し、(数式2)に示すように、γL’を従来(Rec. ITU-R BT.709)と同じ0.45に固定すると共に、γH’については、γLとγL’との比に基づいて調整して、γL’及びγH’を導出することとした。
【0040】
図3(a)は、このような調整を行う前の状態の画像を示し、
図3(b)は、かかる調整を行った後の状態の画像を示す。
図3(b)では、暗部の輝度が低くなってノイズが抑制されるため、符号化効率が向上することが分かる。
【0041】
さらに、符号化処理では、8フレームや16フレームのGOP(Group Of Picture)単位で処理を行うことに着目し、伝達関数処理部11は、GOPの開始フレーム毎に非線形伝達関数を生成するように構成されていてもよい。
【0042】
図4に、HEVCで使用される16フレームから成るGOPの例を示す。
図4における長方形内の番号は、フレーム番号を示し、かかる長方形の下の下線の番号は、符号化処理及び復号処理の順番を示す。
【0043】
図4に示すように、符号化処理及び復号処理の順番が、フレーム番号0→16→8→…→15→32→…であることに着目し、伝達関数処理部11は、フレーム番号0、16、32…の順で非線形伝達関数を生成して、処理対象であるフレーム番号fnの非線形伝達関数TF
fnを(数式5)で示す内挿で求めるように構成されている。
【数5】
(数式5)において、aは、フレーム番号fnをGOPサイズ16で割った剰余を示し、TF
0は、フレーム番号quot(fn,16)×16(フレーム番号fnをGOPサイズ16で割った商の16(GOPサイズ)倍)から生成された非線形伝達関数を示し、TF
1はフレーム番号(quot(fn,16)+1)×16(非線形伝達関数TF
0を導出したフレーム番号+16(GOPサイズ))から生成された非線形伝達関数を示す。
【0044】
例えば、伝達関数処理部11は、フレーム番号0及び16では、それぞれフレーム番号0及び16から生成された非線形伝達関数のみを使い、フレーム番号1~15では、フレーム番号0及び16から生成された非線形伝達関数をフレーム間の距離に応じて内挿する。ここで、GOPサイズは、16に限らず、8や32等の任意の値であってもよい。
【0045】
また、伝達関数処理部11は、(数式2)の各パラメータを(数式5)のように内挿するように構成されていてもよい。或いは、伝達関数処理部11は、非線形伝達関数を内挿せずに、GOPサイズの倍数の単位ごとに計算して切り替えるように構成されていてもよい。
【0046】
変換部12は、伝達関数処理部11から出力された出力画像I’を構成するRGBコンポーネントをYCbCrコンポーネントに変換するように構成されている。すなわち、変換部12は、伝達関数処理部11から出力された出力画像I’に対して色空間変換処理を施すように構成されている。
【0047】
量子化部13は、変換部12から出力された信号に対して量子化処理を施して0~1023の範囲の値を有する10ビットの信号に変換するように構成されている。
【0048】
サブサンプリング部14は、量子化部13から出力された信号に対して4:4:4から4:2:0への色差サブサンプリング処理を施すように構成されている。
【0049】
符号化部15は、サブサンプリング部14から出力された信号に対してHEVC方式等による符号化処理を施し、ビットストリームを出力するように構成されている。
【0050】
ここで、符号化装置1は、かかるビットストリームに、上述の非線形伝達関数の情報を示すメタデータを含めるように構成されていてもよい。具体的には、符号化装置1は、非線形伝達関数を生成したフレームごとに、非線形伝達関数を使用していることを示すモード情報及びパラメータγH’及びMlinを送信するように構成されていてもよい。
【0051】
本実施形態に係る復号装置3は、符号化装置1によって出力されたビットストリームに対して復号処理を施すことによって出力画像IC01を取得するように構成されている。
【0052】
図5に示すように、復号装置3は、復号部31と、アップサンプリング部32と、逆量子化部33と、逆変換部34と、逆伝達関数処理部35とを具備している。
【0053】
復号部31は、符号化装置1から出力されたビットストリームに対して復号処理を施し、0~1023の範囲の値を有する信号を出力するように構成されている。
【0054】
アップサンプリング部32は、復号部31から出力された信号に対して4:2:0から4:4:4への色差アップサンプリング処理を施すように構成されている。
【0055】
逆量子化部33は、アップサンプリング部32から出力された10ビットの信号に対して逆量子化処理を施すように構成されている。
【0056】
逆変換部34は、逆量子化部33から出力された信号を構成するYCbCrコンポーネントをRGBコンポーネントに変換するように構成されている。すなわち、逆変換部34は、逆量子化部33から出力された信号に対して色空間逆変換処理を施すように構成されている。
【0057】
ここで、逆量子化部33から出力された信号は、上述の出力画像I’と同様に、正規化された非線形の知覚的な画素値を有している。具体的には、逆量子化部33から出力された信号は、0~1の範囲の画素値を有していてもよい。
【0058】
逆伝達関数処理部35は、非線形伝達関数
【数1】
【数2】
の逆関数である非線形逆伝達関数
【数6】
を算出し、かかる非線形逆伝達関数に基づいて、出力画像I
C01を算出するように構成されている。
【0059】
ここで、出力画像IC01は、正規化された線形の光学的な輝度を示す画素値を有する。
【0060】
本実施形態に係る符号化装置1及び復号装置3によれば、入力されたHDR映像及び出力されたHDR映像の歪みをできるだけ小さくしながら、ビットストリームのデータ量を削減することができる。
【0061】
なお、本実施形態では、入力画像I01をRGBコンポーネントから構成されるものとしたが、伝達関数処理部11及び逆伝達関数処理部35では輝度値に基づいた処理を行うことができればよく、輝度値のみから構成されるモノクロ画像や輝度値に変換可能な他の形式の画像を入力しても良い。この場合、変換部12および逆変換部34での処理は入力形式に合わせて変更される。
【0062】
(第2の実施形態)
図6及び
図7を参照して、本発明の第2の実施形態について、上述の第1の実施形態との相違点に着目して説明する。本実施形態において、γ
H’は、0.265~0.275の範囲の値であり、M
linは、0.002~0.006の範囲の値である。第1の実施形態では、入力画像の画面の大部分が暗く、輝度の中央値M
linが小さい(例えば、0.00017程度)場合に、符号化効率が悪くなることがあり、本実施形態はかかる課題を解決するものである。
【0063】
図6に、第1の実施形態で符号化効率が良い入力映像I
01に対して、(数式1)および(数式2)から求めたγ
H’とM
linとの関係を示す。
図6において灰色で塗りつぶされた丸のマーカーは、本実施形態で用いられたパラメータの値である。
【0064】
図7に、4,000cd/m
2システムにおけるHLG-OETF、PQ-EOTF及び本実施形態(NISTF)のトーンカーブを示す。
図7において、横軸は、線形の光学的な輝度を、縦軸は、非線形の知覚的な輝度を示す。
図7のNISTFは、(数式2)のパラメータγ
H’を0.267744、M
linを0.00446910としたものであるが、γ
H’を0.27程度(0.265~0.275)、M
linを0.004程度(0.002~0.006)とした範囲では、本実施形態と類似するトーンカーブになる。
【0065】
本実施形態によれば、PQ-EOTF等のように、色差サブサンプリング処理の後に発生するアーティファクトの発生を回避することができる。
【0066】
(第3の実施形態)
図8及び
図9を参照して、本発明の第3の実施形態について、上述の第1及び第2の実施形態との相違点に着目して説明する。
【0067】
図8に示すように、本実施形態に係る符号化装置1は、上述の第1の実施形態に係る符号化装置1の構成に加えて、PQ-HDR変換部16を具備している。
【0068】
PQ-HDR変換部16は、逆伝達関数PQ-EOTFを用いて、PQ画像をHDR画像である入力画像I01に変換するように構成されている。
【0069】
図9に示すように、本実施形態に係る復号装置3は、上述の第1の実施形態に係る復号装置3の構成に加えて、HDR-PQ変換部36を具備している。
【0070】
HDR-PQ変換部36は、伝達関数逆PQ-EOTFを用いて、逆伝達関数処理部35から出力された信号のHDR画像をPQ画像に変換するように構成されている。
【0071】
(実施例)
図10~
図12を参照して、上述の符号化装置1及び復号装置3を用いて、3種類の入力映像A~Cに対する符号化処理及び復号処理を行った実験結果について説明する。
【0072】
入力映像Aは、街路の様子で、日向と日陰の明暗部分が含まれ、細かいテクスチャが多いという特徴がある。入力映像Bは、陸上競技の様子で、動きが速く、全体的に明るいという特徴がある。入力映像Cは、野外イベント会場の遠景を固定撮影したもので、日中の太陽光の明るさを有するという特徴がある。このような性質が異なる種々のHDR映像を入力として実験を行った。
【0073】
図10~
図12において、グラフの横軸は、ビットレートを示し、縦軸は、入力映像の各フレームである入力画像I
01及び出力画像I
C01を構成するRGBコンポーネントをCIE XYZ色空間に変換して、輝度YのPSNR(Peak Signal-to-Noise Ratio)をフレームごとに求めて平均した結果を示す。
【0074】
図10~
図12において、PQ-EOTFは、PQ-EOTFを用いたケースにおける実験結果を示し、HLG-OETFは、HLG-OETFを用いたケースにおける実験結果を示し、Ex1は、上述の第1の実施形態における実験結果(実施例1)を示し、Ex2は、上述の第2の実施形態における実験結果(実施例2)を示す。
【0075】
上述の実験では、(数式2)が入力画像I01自身を含み、逆変換処理を簡潔な数式で表すことができないため、復号装置2において用いられる非線形逆伝達関数は、符号化装置1において用いられる非線形伝達関数からLUT(Look Up Table)を作成して求めた。
【0076】
なお、上述の実験結果には、非線形伝達関数や非線形伝達関数に関するメタデータが含まれていない。
【0077】
上述の実験結果によれば、映像A~Cのいずれの場合も、PQ-EOTFを用いたケース及びHLG-OETFを用いたケースと比べて、第1の実施形態及び第2の実施形態における符号化効率が良いことが分かる。
【0078】
なお、第2の実施形態では、トーンカーブが固定されているため、メタデータとしてモード情報のみを送ればよく、このデータ量は、HLG-OETFを用いたケースと同等である。
【0079】
(その他の実施形態)
本発明について、上述した実施形態によって説明したが、かかる実施形態における開示の一部をなす論述及び図面は、本発明を限定するものであると理解すべきではない。かかる開示から当業者には様々な代替実施形態、実施例及び運用技術が明らかとなろう。
【0080】
また、上述の実施形態では特に触れていないが、上述の符号化装置1及び復号装置3によって行われる各処理をコンピュータに実行させるプログラムが提供されてもよい。また、かかるプログラムは、コンピュータ読取り可能媒体に記録されていてもよい。コンピュータ読取り可能媒体を用いれば、かかるプログラムをコンピュータにインストールすることが可能である。ここで、かかるプログラムが記録されたコンピュータ読取り可能媒体は、非一過性の記録媒体であってもよい。非一過性の記録媒体は、特に限定されるものではないが、例えば、CD-ROMやDVD-ROM等の記録媒体であってもよい。
【0081】
或いは、上述の符号化装置1及び復号装置3内の少なくとも一部の機能を実現するためのプログラムを記憶するメモリ及びメモリに記憶されたプログラムを実行するプロセッサによって構成されるチップが提供されてもよい。
【符号の説明】
【0082】
1…符号化装置
11…伝達関数処理部
12…変換部
13…量子化部
14…サブサンプリング部
15…符号化部
16…PQ-HDR変換部
3…復号装置
31…復号部
32…アップサンプリング部
33…逆量子化部
34…逆変換部
35…逆伝達関数処理部
36…HDR-PQ変換部