(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-01-07
(45)【発行日】2022-01-21
(54)【発明の名称】光学積層体の製造方法及び積層束の製造方法
(51)【国際特許分類】
B32B 38/18 20060101AFI20220114BHJP
B32B 7/025 20190101ALI20220114BHJP
C08J 7/00 20060101ALI20220114BHJP
G02B 5/30 20060101ALI20220114BHJP
【FI】
B32B38/18 D
B32B7/025
C08J7/00 302
C08J7/00 CFD
G02B5/30
(21)【出願番号】P 2018051382
(22)【出願日】2018-03-19
【審査請求日】2020-12-01
(31)【優先権主張番号】P 2017083770
(32)【優先日】2017-04-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000002093
【氏名又は名称】住友化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106518
【氏名又は名称】松谷 道子
(74)【代理人】
【識別番号】100132252
【氏名又は名称】吉田 環
(72)【発明者】
【氏名】井上 寛文
(72)【発明者】
【氏名】矢野 央人
【審査官】松浦 裕介
(56)【参考文献】
【文献】実開昭62-001930(JP,U)
【文献】特開2007-326260(JP,A)
【文献】特開2006-335044(JP,A)
【文献】特開2006-193696(JP,A)
【文献】特開2009-251213(JP,A)
【文献】特開2008-302580(JP,A)
【文献】特開2013-218317(JP,A)
【文献】特開2017-067807(JP,A)
【文献】特開2009-191208(JP,A)
【文献】特開2006-308912(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2016/0355003(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
IPC B32B 1/00 - 43/00
B29C 71/04
C08J 7/00 - 7/02
C08J 7/12 - 7/18
H05F 1/00 - 7/00
G02B 5/30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも、光学フィルム及び表面保護フィルムを有する光学層と、粘着剤層と、セパレートフィルムとをこの順で有する光学積層体の製造方法であって、
(a)光学層と、粘着剤層と、セパレートフィルムとを積層すること、
(b)セパレートフィルムにおける粘着剤層側とは反対側の面に、表面改質処理を施すこと、
(c)前記表面保護フィルムにおける光学フィルム側とは反対側の表面に表面改質処理を施すことを含み、
前記セパレートフィルムの材料は、ポリエステル系樹脂であり、
前記表面保護フィルムの材料は、ポリエステルであり、
前記セパレートフィルムにおける粘着剤層側とは反対側の面に施される表面改質処理
、及び、前記表面保護フィルムにおける光学フィルム側とは反対側の表面に施される表面改質処理は、
それぞれ、コロナ処
理である、光学積層体の製造方法。
【請求項2】
前記セパレートフィルムの表面改質処理が施された改質面における表面抵抗値が5.0×10
14Ω/□以下である、請求項1に記載の光学積層体の製造方法。
【請求項3】
前記セパレートフィルムにおける粘着剤層側とは反対側の面に施されるコロナ処理にお
いて、エネルギー密度は、10~700W・分/m
2である、請求項1又は2に記載の光学積層体の製造方法。
【請求項4】
光学積層体を複数枚重ね合わせた積層束の製造方法であって、
前記光学積層体は、請求項1から3のいずれか1項に記載の製造方法により製造された光学積層体であり、
1の光学積層体のセパレートフィルムにおける表面改質処理が施された改質面と、
別の光学積層体の光学層における粘着剤層側とは反対側の面とを重ね合わせることを含む、積層束の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光学積層体の製造方法及び積層束の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
少なくとも、光学層と、粘着剤層と、セパレートフィルムとをこの順で有する光学積層体が製造されている。通常、光学積層体を液晶セルなどに積層するまでの間、光学積層体は、複数枚重ね合わせた積層束として保管されている。このとき、例えば、1の光学積層体のセパレートフィルムにおける粘着剤層とは反対側の面と、別の光学積層体の光学層における粘着剤層側とは反対側の面とを重ね合わせることが、製造工程の観点から効率的である。
【0003】
複数枚の光学積層体を重ね合わせた積層束から、1セットの光学積層体を取り出し、必要に応じて更なる工程を経て、光学積層体は液晶セルなどに積層される。
ここで、積層束から1セットの光学積層体を取り出す工程において、静電気力などにより、複数の光学積層体が密着した状態で取り出されること(以下、「多重取り」とも言う)があり、作業効率の観点から望ましくない。
また、近年においては、光学積層体全体の厚さが薄くなっており、例えば、積層束から1セットの光学積層体を取り出す工程において、光学積層体に傷が生じたり、割れが生じたりすることを防がなければならない。
【0004】
光学積層体の多重取りを解消するために、セパレートフィルムにおける粘着剤層側とは反対側の面に、耐電防止剤を塗布して静電気が帯びることを抑制すること、又は離型剤などを塗布して離型性を向上することが一般的に行われている。
【0005】
特許文献1において、積層体の離型性を向上させるために、離型剤による離型処理の施されていない基材層と粘着剤層とが積層された表面保護フィルムの粘着剤層表面に、コロナ放電処理又はプラズマ放電処理を施すことが開示されている。
【0006】
特許文献2には、多重取りを低減するための光学シートの供給装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2009-191208号公報
【文献】特開2006-308912号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
少なくとも、光学層と、粘着剤層と、セパレートフィルムとをこの順で有する光学積層体において、セパレートフィルムにおける粘着剤層側とは反対側の面に、帯電防止剤又は離型剤などを塗布する場合、光学積層体毎にこれらの薬剤を塗布し乾燥させる工程が必要となり、作業の効率が悪く、製造工程の高速化を図ることが妨げられている。また、塗布のムラ、汚れなどが塗布面に発生するという問題が生じ得る。
【0009】
特許文献1に開示された発明は、粘着剤層の表面に、コロナ放電処理又はプラズマ放電処理が施されている。しかし、粘着剤層の表面にコロナ放電処理等を施すと、粘着剤層の粘着力がより強くなるおそれがあり、積層体の離型性を向上させることが困難となる場合がある。
【0010】
また、特許文献2に開示された発明については、光学積層体の製造工程において、特許文献2に係る供給装置を組込むことで多重取りを低減することが必要となり、作業の効率が悪く、製造工程の高速化を妨げるおそれがある。さらに、薄型化された光学積層体に傷、欠けなどが生じることを避けるためには、可能な限り光学積層体の製造工程を簡潔にすることが望ましい。
【0011】
そこで、本発明は、作業効率がよく、製造工程の高速化をもたらすことができ、さらに、複雑な工程を経なくても、多重取りを低減又は抑制できる光学積層体の製造方法を提供することを目的とする。
さらに、本発明は、多重取りを低減又は抑制できる光学積層体を複数枚重ね合わせた積層束の製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、以下を含む。
[1]少なくとも、光学層と、粘着剤層と、セパレートフィルムとをこの順で有する光学積層体の製造方法であって、
(a)光学層と、粘着剤層と、セパレートフィルムとを積層すること、
(b)セパレートフィルムにおける粘着剤層側とは反対側の面に、表面改質処理を施すことを含み、
前記表面改質処理は、コロナ処理、プラズマ処理、グロー処理及びオゾン処理から選ばれる少なくとも1種である、光学積層体の製造方法。
[2]前記セパレートフィルムの表面改質処理が施された改質面における表面抵抗値が5.0×1014Ω/□(Ω/スクエア)以下である、[1]に記載の光学積層体の製造方法。
[3]前記表面改質処理は、コロナ処理であり、前記コロナ処理におけるエネルギー密度は、10~700W・分/m2である、[1]又は[2]に記載の光学積層体の製造方法。
[4]光学積層体を複数枚重ね合わせた積層束の製造方法であって、
前記光学積層体は、[1]から[3]のいずれか1に記載の製造方法により製造された光学積層体であり、
1の光学積層体のセパレートフィルムにおける表面改質処理が施された改質面と、
別の光学積層体の光学層における粘着剤層側とは反対側の面とを重ね合わせることを含む、積層束の製造方法。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、多重取りを低減又は抑制できる光学積層体を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本発明の製造方法により得られる光学積層体の一態様についての概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明により得られる光学積層体について適宜図を用いて説明するが、本発明はこれらの態様に限定されるものではない。
【0016】
本発明によると、少なくとも、光学層と、粘着剤層と、セパレートフィルムとをこの順で有する光学積層体の製造方法であって、
(a)光学層と、粘着剤層と、セパレートフィルムとを積層すること、
(b)セパレートフィルムにおける粘着剤層側とは反対側の面に、表面改質処理を施すことを含み、
前記表面改質処理は、コロナ処理、プラズマ処理、グロー処理及びオゾン処理から選ばれる少なくとも1種である、光学積層体の製造方法が提供される。
【0017】
以上の製造方法により、光学積層体を得ることができ、例えば、
図1は、本発明の製造方法において得られる光学積層体の一態様についての概略断面図である。
図1において、光学積層体1は、少なくとも光学層10と、粘着剤層20と、セパレートフィルム30とをこの順で有する。また、セパレートフィルムにおける粘着剤層側とは反対側の面40に、表面改質処理が施されている。
例えば、光学層10は、
図1に示すように、光学フィルム11と表面保護フィルム12とを積層した積層体であってもよい。
【0018】
(光学層)
本発明における光学層は、液晶表示装置などに用いることができ、光線を透過又は反射吸収し、様々な効果を与えることを目的とした層であればよい。
光学層は、例えば、位相差フィルム、偏光フィルム、反射防止フィルム、視野角向上フィルム、輝度向上フィルムなどから選択される少なくとも1の光学フィルムを有することができる。光学層は、これらの光学フィルムの単層構造であってもよく、少なくとも光学フィルムを含む、複数のフィルムを積層した複層構造(積層体)であってもよい。
光学層の厚さは、特に限定されず、例えば10~500μm、例えば100~300μmの範囲内である。
【0019】
例えば、位相差フィルムは、偏光フィルムの吸収軸に対して所定の方位角を持つフィルムであり、主に、液晶ディスプレイの液晶層による着色を補償するためや、視野角による位相差の変化を補償するために用いられる。位相差フィルムとしては、一軸又は二軸延伸等の加工を施された光学用フィルム、又は液晶性の化合物等を基材に塗布し、配向、固定化の加工をした光学用フィルムなどが挙げられ、これらは、三次元屈折率の大小関係(屈折率楕円体)を使用条件に合わせて制御されている。位相差フィルムの例は、例えば、λ/2板及びλ/4板である。
位相差フィルムの厚みは、例えば10μm~100μmであり、ある態様においては10μm~30μmである。
【0020】
本発明で用いられる位相差フィルムに特に限定はないが、その基材としてのフィルムの素材としては、ポリエチレン、ポリプロピレン、環状ポリオレフィンのようなポリオレフィンや、ポリカーボネート、ポリビニルアルコール、ポリスチレン、ポリメチルメタクリレート、ポリアリレート、ポリアミドなどが例示できる。延伸等の加工を施された光学用フィルムの具体例としては、帝人株式会社製「ピュアエース」(商品名)、株式会社カネカ製「エルメック」(商品名)、日本ゼオン株式会社製「ゼオノア」(商品名)、JSR株式会社製「アートン」(商品名)などが挙げられる。また、液晶性化合物などを基材に塗布し、配向、固定化の加工をした光学用フィルムの具体例としては、富士フイルム株式会社製「WVフィルム」(商品名)、新日本石油株式会社製「LCフィルム」、「NHフィルム」(何れも商品名)などが挙げられる。
【0021】
偏光フィルム(偏光子と称する場合もある)は、所定方向に振動する光を選択的に透過する層であり、一軸延伸されると共に、その延伸方向に二色性色素が吸着配向された樹脂フィルムから構成されていてもよい。
偏光フィルムとして用いることができる樹脂フィルムの例として、ポリビニルアルコール(以下「PVA」と称す場合もある)系樹脂フィルムが挙げられる。PVA系樹脂フィルムの例は、PVAフィルムである。二色性色素の例は、ヨウ素及び二色性有機染料である。偏光子の厚さの例は、1μm~30μmであり、ある態様においては7μm~30μmであり、別の態様においては10μm~30μmである。
【0022】
偏光フィルム(偏光子)は、少なくとも一方の面に、偏光子保護フィルムを有してもよい。ある態様においては、偏光フィルムは、少なくとも一方の面に、位相差フィルムを有してもよい。また、偏光フィルムは、少なくとも一方の面に、偏光子保護フィルムを有し、他方に位相差フィルムを有してもよい。以下、このような態様の積層体は、偏光板と称されることがある。
【0023】
偏光子保護フィルムは、一般的に樹脂フィルムから構成されている。偏光子保護フィルムを構成する樹脂フィルムの例として、トリアセチルセルロース(TAC)、セルロースアセテートプロピオネート(CAP)フィルム等のセルロース樹脂フィルム、ポリノルボルネン樹脂フィルム、ポリカーボネート樹脂フィルム、ポリエステル樹脂フィルム、ポリエーテルスルホン樹脂フィルム、ポリスルホン樹脂フィルム、ポリアミド樹脂フィルム、ポリイミド樹脂フィルム、ポリオレフィン樹脂フィルム、ポリアリレート樹脂フィルム、ポリビニルアルコール樹脂フィルム、ポリ塩化ビニル樹脂フィルム、ポリ塩化ビニリデン樹脂フィルムなどが挙げられる。ある態様において、セルロース樹脂フィルムが用いられる。ある態様において、偏光子保護フィルムは、セルロース樹脂フィルムなどの透明樹脂フィルムと、ハードコート層などの機能層との積層体であってもよい。
なお、偏光フィルム(偏光子)が両面に偏光子保護フィルムを有する態様において、各偏光子保護フィルムは同一であってもよく、相違していてもよい。
【0024】
ある態様において、偏光子保護フィルムの厚さの例は、10μm~200μmである。偏光子保護フィルムは、通常、偏光子の少なくとも片面に接着剤層を介して積層される。
【0025】
ある態様において、光学層は、光学フィルムの少なくとも一方の面に表面保護フィルム(或いはプロテクトフィルムとも称される)を有してもよい。例えば、位相差フィルムにおける粘着剤層側とは反対側の面に、表面保護フィルムを有してもよく、表面保護フィルムは剥離可能に積層されてもよい。
【0026】
ある態様において、光学層は、偏光子及び偏光子保護フィルムを有し、さらに、偏光子保護フィルムにおける偏光子側とは反対側の面に、表面保護フィルム(プロテクトフィルム)を有してもよい。この場合において、偏光子保護フィルムと表面保護フィルムは剥離可能に積層されてもよい。
【0027】
表面保護フィルムの厚さは、例えば、30μm~100μmである。表面保護フィルムの材料の例は、ポリエチレン、ポリプロピレン及びポリエステルである。
【0028】
表面保護フィルムは、液晶セルに光学積層体を貼合せた後に、光学フィルムから剥離される場合がある。このため、表面保護フィルムは、光学層の光学特性に影響を与えない透明樹脂フィルムであってもよい。一方、表面保護フィルムは、光学特性を有するフィルムであってもよく、この場合、表面保護フィルムを剥離することなく使用してもよい。
【0029】
(粘着剤層)
粘着剤層は、光学層と、粘着剤層と、セパレートフィルムがこの順になるように積層される。一般に、本発明の製造方法により得られる光学積層体からセパレートフィルムを剥離し、次いで、粘着剤層を介して、光学層を、液晶セル等の他の部材に貼り合わせてもよい。
【0030】
粘着剤層を構成する粘着剤として、例えば、アクリル系ポリマー、シリコーン系ポリマー、ポリエステル、ポリウレタン、ポリエーテル等をベースポリマーとする粘着剤が挙げられる。これら粘着剤のなかでも、アクリル系ポリマー等をベースポリマーとする粘着剤を使用できる。このような粘着剤は、光学的な透明性、接着性に優れ、適度な濡れ性及び/又は凝集力を保持し、さらに耐候性及び/又は耐熱性等を有し、加熱や加湿の条件下で浮きや剥がれ等の剥離に係る問題を生じ得ないので好ましい。
【0031】
ベースポリマーであるアクリル系ポリマーとしては、メチル基やエチル基、ブチル基等の炭素数が20以下のアルキル基を有する(メタ)アクリル酸のアルキルエステルと、(メタ)アクリル酸や(メタ)アクリル酸ヒドロキシエチル等からなる官能基含有アクリル系モノマーとを、ガラス転移温度が好ましくは25℃以下、より好ましくは0℃以下となるように配合した、重量平均分子量が100,000以上のアクリル系共重合体が有用である。
【0032】
粘着剤に含まれる上記ベースポリマーの他に、通常、ベースポリマーを架橋させる架橋剤が配合されている。上記架橋剤は、ベースポリマーを架橋させることができる化合物であればよく、特に限定されない。また、本発明により得られる光学積層体を液晶セルに貼り合わせる場合には、粘着剤にシランカップリング剤が配合されていてもよい。
【0033】
粘着剤層の形成方法は、特に限定されない。例えば、粘着剤層は、上記ベースポリマーを含む粘着剤組成物をトルエンや酢酸エチル等の有機溶剤に溶解又は分散させて、粘着剤組成物全体に対して10~40重量%の溶液(又は分散液)を調製し、適当なプロテクトフィルム上に当該溶液(又は分散液)を塗工し、乾燥させて粘着剤層を形成した後、この粘着剤層を光学層に移着することにより、形成することができる。
【0034】
粘着剤層には、必要に応じて、ガラス繊維、ガラスビーズ、樹脂ビーズ、金属粉等の無機粉末等からなる充填剤、或いは、顔料、着色剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤等が配合されていてもよい。上記紫外線吸収剤としては、例えば、サリチル酸エステル系化合物、ベンゾフェノン系化合物、ベンゾトリアゾール系化合物、シアノアクリレート系化合物、及びニッケル錯塩系化合物等が挙げられる。
【0035】
ある態様において、粘着剤層を構成する粘着剤組成物は、活性エネルギー線硬化型粘着剤組成物であってもよい。活性エネルギー線硬化型粘着剤組成物は、紫外線や電子線のような活性エネルギー線の照射を受けて硬化する性質を有しており、活性エネルギー線照射前においても粘着性を有してフィルム等の被着体に密着させることができ、活性エネルギー線の照射によって硬化して密着力の調整ができる性質を有する粘着剤組成物である。
【0036】
活性エネルギー線硬化型粘着剤組成物は、紫外線硬化型であることが好ましい。活性エネルギー線硬化型粘着剤組成物は、ベースポリマー、架橋剤に加えて、活性エネルギー線重合性化合物をさらに含有する。さらに必要に応じて、光重合開始剤や光増感剤等を含有させることもある。
【0037】
粘着剤層の厚みは、30μm以下であり得る。例えば、25μm以下、ある態様においては20μm以下、別の態様においては15μm以下である。第1粘着剤層の厚みがこのような範囲にあることにより、良好な加工性を保つことができ、さらに、光学層の寸法変化を抑制できる。
【0038】
(セパレートフィルム)
本発明における光学積層体は、粘着剤層における光学層側とは反対側の面に、セパレートフィルムが積層されてもよい。セパレートフィルムを有することにより、粘着剤層への異物付着を防止できるなど、粘着剤層を保護できる。
また、複数の光学積層体を重ね合わせた光学積層体の積層束を製造する場合、1の光学積層体のセパレートフィルムにおける表面改質処理が施された改質面と、別の光学積層体の光学層における粘着剤層側とは反対側の面とを重ね合わせることができる。
【0039】
ある態様において、例えば、光学層を、粘着剤層を介して液晶セルなどに積層する場合、光学層を液晶セルに積層する前に、セパレートフィルムを粘着剤層から剥離する。
【0040】
本発明においては、セパレートフィルムにおける粘着剤層側とは反対側の面に、後述するように、表面改質処理が施される。表面改質処理は、例えば、コロナ処理、プラズマ処理、グロー処理及びオゾン処理から選ばれる少なくとも1種である。
本発明の製造方法により得られる光学積層体であれば、セパレートフィルムにおける粘着剤層側とは反対側の面において、例えば、耐電防止剤、離型剤などの薬品を塗布しなくても、多重取りを大きく低減又は抑制できる。
【0041】
セパレートフィルムの材料は、例えば、酢酸セルロース系樹脂、シクロオレフィン系樹脂、ポリオレフィン系樹脂、アクリル系樹脂、ポリイミド系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリエステル系樹脂等が挙げられる。例えば、セパレートフィルムの材料は、ポリエチレンテレフタレート(PET)及びポリエチレンから選択される少なくとも1つを含む。また、市販のセパレートフィルムを用いてもよい。
ある態様において、セパレートフィルムの材料は、ポリエチレンテレフタレート(PET)を含む。ポリエチレンテレフタレート(PET)を含むことで、多重取りをより効果的に低減又は抑制できる。また、光学積層体の反りを抑制できる。さらに、表面改質処理を効率的に行える。
【0042】
セパレートフィルムは、より薄い方が好ましい。セパレートフィルムの厚さは、例えば、5~100μmの範囲であり、ある態様では10~80μmの範囲であり、別の態様では10~50μmの範囲である。セパレートフィルムの厚さがこのような範囲内であることにより、強度が低下することなく、加工性に優れ、また、光学積層体の重量が重くなることを抑制できる。
【0043】
<光学積層体の製造方法>
本発明によると、少なくとも、光学層と、粘着剤層と、セパレートフィルムとをこの順で有する光学積層体の製造方法であって、
(a)光学層と、粘着剤層と、セパレートフィルムとを積層すること、
(b)セパレートフィルムにおける粘着剤層側とは反対側の面に、表面改質処理を施すことを含み、
前記表面改質処理は、コロナ処理、プラズマ処理、グロー処理及びオゾン処理から選ばれる少なくとも1種である、光学積層体の製造方法が提供される。
【0044】
本発明においては、(a)光学層と、粘着剤層と、セパレートフィルムとを積層すること及び(b)セパレートフィルムにおける粘着剤層側とは反対側の面に、表面改質処理を施すことの順序は特に限定されない。
例えば、(a)光学層と、粘着剤層と、セパレートフィルムを積層し、次いで、(b)セパレートフィルムにおける粘着剤層側とは反対側の面に、表面改質処理を施してもよい。一方、(b)セパレートフィルムにおける粘着剤層側とは反対側の面に、表面改質処理を施し、次いで(a)光学層と、粘着剤層と、セパレートフィルムを積層してもよい。
【0045】
本発明の製造方法においては、例えば、セパレートフィルムがチップ状の場合、ベルトコンベアにより光学積層体又はセパレートフィルムを搬送する際に、表面改質処理を行ってもよい。例えば、セパレートフィルムが長尺の場合、セパレートフィルムの製造後、得られた長尺のセパレートフィルムを巻き取る際に表面改質処理を行ってもよく、ロール状のセパレートフィルムを、光学積層体の製造ラインに搬送する直前、搬送中に表面改質処理を行ってもよい。また、複数回に分けて表面改質処理を行ってもよい。
【0046】
<(a)光学層と、粘着剤層と、セパレートフィルムの積層>
本発明の製造方法において、光学層と、粘着剤層と、セパレートフィルムとを積層する順は特に限定されない。ある態様においては、光学層と粘着剤層とを積層し、次いで、粘着剤層における光学層側とは反対側の面に、セパレートフィルムを積層してもよい。また、セパレートフィルムに粘着剤層を積層し、次いで、粘着剤層におけるセパレートフィルム側とは反対側の面に光学層を積層してもよい。あるいは、これら全てを同時に積層してもよい。
【0047】
光学層については、例えば、光学フィルムと表面保護フィルムとを公知の手段により予め積層したものを用いてもよい。また、光学層が、光学フィルムと表面保護フィルムを有する場合、所望により、光学フィルムと表面保護フィルムを、貼合、接着、粘着、融着、圧着、熱圧着などから選択される少なくとも1の手段により、光学フィルムと表面保護フィルムを密着させてもよい。
貼合の一例として、粘着剤をロールで圧着する貼合方法が挙げられる。また、接着剤又は粘着剤を用いた積層の場合、常温あるいは加熱しながらの圧着、活性エネルギー線を照射することによる処理を行ってもよい。
【0048】
光学層と、粘着剤層と、セパレートフィルムとを積層する場合、光学層、粘着剤層、セパレートフィルムの少なくとも1つは、ロールに巻き取られた長尺状の形態であってもよく、例えば、光学層及びセパレートフィルムの少なくとも1つは、ロールに巻き取られた長尺状のシート又はフィルムであってもよい。
光学層、粘着剤層、セパレートフィルムの少なくとも1つが長尺状の形態であった場合、積層後に、所望の寸法(例えば、横2cm~30cm及び縦2cm~30cmの範囲)となるように切断し、光学積層体としてもよい。
また、光学層、粘着剤層、セパレートフィルムの全てが、所望のサイズに切断されたチップ状の形態であってもよい。例えば、チップ状の形態である場合、各チップの寸法は、例えば、横2cm~30cm及び縦2cm~30cmの範囲内である。
【0049】
<(b)表面改質処理>
本発明の光学積層体の製造方法は、(b)セパレートフィルムにおける粘着剤層側とは反対側の面に、表面改質処理を施すことを含み、表面改質処理は、コロナ処理、プラズマ処理、グロー処理及びオゾン処理から選ばれる少なくとも1種である。
【0050】
例えば、1の光学積層体のセパレートフィルムにおいて表面改質処理が施された面と、別の光学積層体の光学層における粘着剤層とは反対側の面とを重ね合わせて、複数の光学積層体を重ね合せる場合、本発明に係る表面改質処理を施すことにより、1の光学積層体と他の光学積層体を積層後、光学積層体の構造を破壊することなく、1の光学積層体と他の光学積層体を容易に剥離できる。
特定の理論に限定して解釈されるべきではないが、このような現象は、例えば、本発明に係る表面改質処理を施すことにより、1の光学積層体のセパレートフィルムにおいて表面改質処理が施された面と、別の光学積層体の光学層における粘着剤層とは反対側の面との間におけるクリープ力(滑り性)が下がることによるものと推定される。
【0051】
ある態様においては、光学層が表面保護フィルムと光学フィルムと粘着剤層とセパレートフィルムとをこの順で有する場合、1の光学積層体のセパレートフィルムにおいて表面改質処理が施された面と、別の光学積層体の表面保護フィルムにおける光学フィルム側とは反対側の面とを重ね合わせることができる。このような態様において、本発明の製造方法により得られた光学積層体であれば、1の光学積層体と他の光学積層体を容易に剥離できる。
【0052】
本発明において、1の光学積層体と他の光学積層体を容易に剥離できるとは、例えば、光学積層体を複数枚重ね合わせた積層束における最表層を手で触れ、僅かな力を加えることにより、最表層側に位置する1の光学積層体を、積層束から取り出すことができ、多重取りが生じていない状態を意味する。
【0053】
表面改質処理は、コロナ処理、プラズマ処理、グロー処理及びオゾン処理から選ばれる少なくとも1種である。
【0054】
表面改質処理は、セパレートフィルムにおける粘着剤層側とは反対側の面に施される。セパレートフィルムは、ロールに巻き取られた長尺状の形態であってもよく、所望のサイズに切断されたチップ状の形態であってもよい。例えば、チップ状の形態である場合、各チップの寸法は、例えば、横2cm~30cm及び縦2cm~30cmの範囲内である。
また、表面改質処理は、セパレートフィルムの粘着剤層側とは反対側の面における全面に施してもよく、一部の領域に施してもよい。
本発明の製造方法によると、薄型の光学積層体であっても多重取りを回避できる。さらに、本発明における製造方法により製造した光学積層体であれば、例えば、光学積層体の積層束から1の光学積層体を取り出す際に、傷、割れが生じることを抑制できる。
【0055】
本発明における表面改質処理を行うことにより、セパレートフィルムの表面改質処理が施された改質面における表面抵抗値を5.0×1014Ω/□以下に調整でき、例えば3.0×1014Ω/□以下、ある態様においては2.0×1014Ω/□以下、に調整できる。このような範囲に表面抵抗値を調整することにより、表面改質処理を施したセパレートフィルム面における帯電量を十分な程度まで低減できるので、1の光学積層体と他の光学積層体を、例えば積層束から容易に剥離でき、その上多重取りを大きく低減又は抑制できる。また、表面改質処理を施されたセパレートフィルムの改質面の表面抵抗値の下限は、通常、1.0×1012Ω/□である。
更に、このような範囲に表面抵抗値を有することにより、1の光学積層体と他の光学積層体を剥離する際に、静電気が発生することを低減でき、例えば、剥離面におけるダストの付着を低減できる。また、静電気の発生による液晶セルに対する悪影響を抑制できる。
【0056】
一方、表面抵抗値が5.0×1014Ω/□を超過すると、1の光学積層体と他の光学積層体が密着するおそれがあり、光学積層体の多重取りが生じ得る。その結果、光学積層体を製造する作業効率が悪くなり、製造工程の高速化をもたらすことができなくなる場合がある。
【0057】
例えば、本発明により、表面抵抗値を5.0×1014Ω/□以下に調整した光学積層体を複数枚重ね合わせて、積層束を製造した場合、概ね30日程度、本発明による表面改質処理の効果を持続できる。これにより、積層束を養生し、保管することができ、光学特性に優れた光学積層体を必要な時に提供できる。
【0058】
(コロナ処理)
コロナ処理の条件としては、コロナ処理1回当たりのエネルギー密度が、10~700W・分/m2であってもよく、例えば、100~550W・分/m2であってもよく、ある態様においては200~520W・分/m2であってもよい。
別の態様においては、コロナ処理を複数回行う場合、各コロナ処理におけるエネルギー密度の合計が10~700W・分/m2であってもよく、例えば、100~550W・分/m2であってもよく、ある態様においては200~520W・分/m2であってもよい。コロナ処理を複数回行う場合、各コロナ処理におけるエネルギー密度は、順に増加してもよく、順に減少してもよい。
エネルギー密度が、このような範囲であることにより、積層束における多重取りを大きく低減又は抑制できる。さらに、積層束から1枚の光学積層体を容易に取り出すことができ、多重取りを低減又は抑制でき、その上、小さな力で取り出すことが出来るので、光学積層体の光学特性を損なうことがなく、また、光学積層体の表面に小さな傷が生じることを抑制できる。このため、本発明の光学積層体の製造方法は、光学層が極めて薄い、例えば厚さが100~300μmである光学積層体においても、適用できる。
【0059】
一方、エネルギー密度が10W・分/m2よりも小さいと、セパレートフィルム表面の改質処理が不十分となる傾向があり、多重取りの問題が生じ得る。一方、700W・分/m2より大きいと、セパレートフィルム表面に粘着性が生じ、積層束から1枚の光学積層体を取り出す際の力が大きくなるおそれがある。これにより、薄膜化された光学積層体の構造を破壊するおそれがあり、光学積層体に要求される光学特性を発揮できなくなる場合がある。
【0060】
コロナ処理の各種条件は、上記エネルギー密度を満たすように、適宜設定できる。例えば、チップを固定した条件でコロナ処理を行うことができる。当板の厚みを0.5~2.5mmの範囲内、ギャップを1~5mmの範囲内、ライン速度を1~10m/分の範囲内、コロナ出力を300~1000Wの範囲内、電極長さを0.2~0.5mの範囲内に設定できる。用いるセパレートフィルムの種類、コロナ処理時の温度、湿度などに基づき、上記条件を適宜選択することができる。
なお、所望のエネルギー密度を得られる限り、これらの処理条件は、上記範囲外であってもよい。また、光学積層体のカール、光学積層体の搬送時における波打ちなどを考慮して、条件を適宜選択できる。さらに、例えば、コロナ処理を複数回行う場合、コロナ処理毎に処理条件を変更できる。
【0061】
コロナ処理は、空気、窒素、酸素、水素、二酸化炭素、アルゴン等又はこれらのうち、2種以上の混合ガス雰囲気中で行うことができる。経済性、安全性の観点からは、空気中又は窒素を送風した空気中で行うことが好ましい。
【0062】
(プラズマ処理)
表面改質処理は、プラズマ処理であってもよい。プラズマ処理は、減圧下又は大気圧下で発生させた不活性ガス又は酸素ガス等のプラズマを、セパレートフィルム表面に照射して、その表面を活性化する処理である。作業の簡便さ及び処理装置のコスト面からは、大気圧下にてプラズマ放電する方法が望ましい。
プラズマ処理においては、様々なガス雰囲気下でプラズマ放電を起こさせることにより、セパレートフィルム表面を種々に改質することができる。
【0063】
プラズマでセパレートフィルムの表面改質処理を行う方法としては、
大気圧近傍の圧力下で、対向した電極間にセパレートフィルムを設置し、プラズマを発生させて、セパレートフィルムの表面処理を行う方法、
対向した電極間にガスを流し、電極間でガスをプラズマ化し、プラズマ化したガスをセパレートフィルムに吹付ける方法、及び、
低圧条件下で、グロー放電プラズマを発生させて、セパレートフィルムの表面改質処理を行う方法が挙げられる。
【0064】
中でも、大気圧近傍の圧力下で、対向した電極間にセパレートフィルムを設置し、プラズマを発生させて、セパレートフィルムの表面処理を行う方法、又は、対向した電極間にガスを流し、電極間でガスをプラズマ化し、プラズマ化したガスをセパレートフィルムに吹付ける方法が好ましい。かかるプラズマによる表面処理は、通常、市販のプラズマ表面処理装置により行われる。
【0065】
特に、窒素及び酸素を含む雰囲気下、200mJ/cm2以下のエネルギーで、セパレートフィルムの表面をプラズマ処理することが好ましい。セパレートフィルムを表面処理する際の処理エネルギーは、プラズマを発生させる際の電力、電極の放電幅及びセパレートフィルムのライン速度から算出することができる。セパレートフィルムの密着性の観点から、基材を120mJ/cm2以下のエネルギーで処理することが好ましく、100mJ/cm2以下のエネルギーで処理することがより好ましい。また、基材を30mJ/cm2以上のエネルギーで処理することが好ましい。
このような範囲のエネルギーで処理することにより、積層束における多重取りを大きく低減又は抑制できる。さらに、積層束から1枚の光学積層体を容易に取り出すことができ、多重取りを低減又は抑制できる。その上、小さな力で取り出すことが出来るので、光学積層体の光学特性を損なうことがなく、また、光学積層体の表面に小さな傷が生じることを抑制できる。
【0066】
なお、所望のエネルギーで処理できる限り、光学積層体のカール、光学積層体の搬送時における波打ちなどを考慮して、プラズマ処理の条件を適宜選択できる。さらに、例えば、1回の処理でエネルギー密度が所望の範囲内に含まれない場合、プラズマ処理を複数回おこなってもよい。
【0067】
窒素及び酸素を含む雰囲気中の窒素に対する酸素の体積含有比(酸素:窒素)は、例えば、0.01:99.99~15:85であり、ある態様では0.05:99.95~10:90であり、別の態様では0.05:99.95~5:95であり、さらに別の態様では0.05:99.95~1:99の範囲である。
【0068】
(グロー処理)
表面改質処理は、グロー処理(グロー放電処理)であってもよい。グロー放電は、チャンバー内の環境の酸素濃度を、例えば0.1%重量以上、1重量%以下の環境下で行われ、加えて、必要に応じ、セパレートフィルムと電極との距離、及び電極に付与する電力を適宜調節することにより発生させることができる。条件によって異なるが、一般的な傾向として、電極とセパレートフィルムとの間の距離が近いほうが、グロー放電が発生し易く、また、電力が大きいほうが、グロー放電が発生し易い。
【0069】
電極に印加する電力は、良好なグロー放電が形成されるよう適宜調整でき、例えば0.1kw~10kWの範囲内であることができる。また、電力と処理時間との積としての電力量は、良好なグロー放電処理を達成できるよう適宜調整し、通常2~10000W・s、例えば5~100W・sの範囲内に設定できる。
電極に印加する電流は、周波数10kHz~500kHz、例えば、20kHz~100kHzの高周波の交流電流である。また、かかる電流の波形は、パルス波でもサイン波でもよい。
【0070】
放電処理工程において、セパレートフィルムにグロー放電処理を行う時間は、例えば、は0.02秒以上、別の例では0.05秒以上であり、一方、例えば1.0秒以下、ある態様においては0.5秒以下である。グロー放電処理を行う時間を前記下限以上とすることにより、セパレートフィルムに十分な表面改質を施すことができる。また、グロー放電処理を行う時間を前記上限以下とすることにより、セパレートフィルムの過熱による劣化を防止でき、効率的な処理を行うことができる。
グロー放電処理を行う時間は、セパレートフィルムの搬送速度、及びセパレートフィルムの搬送方向における放電空間の大きさを適宜調節することにより行いうる。放電空間の大きさは、例えば、電極を設ける数、及び複数の電極の配置の間隔を適宜調整することにより調整できる。
【0071】
このような条件で処理することにより、積層束における多重取りを大きく低減又は抑制できる。さらに、積層束から1枚の光学積層体を容易に取り出すことができ、多重取りを低減又は抑制でき、その上、小さな力で取り出すことが出来るので、光学積層体の光学特性を損なうことがなく、また、光学積層体の表面に小さな傷が生じることを抑制できる。
【0072】
(オゾン処理)
表面改質処理は、オゾン処理であってもよい。
オゾン処理は、オゾンをセパレートフィルム表面に吹き付け、オゾンが分解して発生する活性酸素原子による表面処理である。オゾンの発生方法には、制限はないが、UV/オゾン処理が好ましい。UV/オゾン処理は、低圧水銀ランプ、Xeエキシマランプ等の紫外線を発生させる光源が使用され、セパレートフィルム表面に照射される光源のエネルギーと、光源の照射で発生するオゾンの相乗効果が得られるからである。
240nm以下の波長の紫外光は、酸素を分解してオゾンを発生させ、低圧水銀ランプを使用する場合は、185nm線がオゾンの発生に用いられる。
UV/オゾン処理では、セパレートフィルム表面の改質と洗浄に効果があるとされているが、照射する光源のエネルギーが樹脂化合物の分子結合エネルギーよりも高い場合は、分子結合が切れて分解反応生成物が生じることも考えられるので、処理する樹脂フィルムによって調整することが好ましい。
【0073】
<積層束の製造方法>
本発明の一態様において、光学積層体を複数枚重ね合わせた積層束の製造方法が提供され、この方法における光学積層体は、上記方法により製造されたものである。
より詳細には、例えば、積層束の製造方法は、1の光学積層体のセパレートフィルムにおける表面改質処理が施された改質面と、別の光学積層体の光学層における粘着剤層側とは反対側の面とを重ね合わせることを含む、積層束の製造方法である。光学積層体を複数枚重ね合わせる方法は、特に限定されない。
【0074】
本発明における積層束の製造方法によると、1の光学積層体のセパレートフィルムにおいて表面改質処理が施された面と、別の光学積層体の光学層における粘着剤層とは反対側の面との間におけるクリープ力(滑り性)を低下させることができる。このため、光学積層体を複数枚重ね合わせた積層束における最表層側を手で触れ、僅かな力を加えることにより、最表層側に位置する1の光学積層体を、積層束から取り出すことができ、多重取りを大きく低減又は抑制できる。
【0075】
光学積層体を重ね合わせる枚数は、特に限定されない。例えば、2枚~2000枚程度である。
【0076】
本発明の製造方法により製造された光学積層体は、多重取りを低減又は抑制できる。また、積層束から取り出す際に、光学積層体に変形、傷などが生じないので、設計された光学特性を維持した状態で使用できる。さらに、例えば、30日間保管した状態であっても、多重取りを低減又は抑制できる。
【0077】
本発明の光学積層体のセパレートフィルムにおける粘着剤層側とは反対側の面の表面抵抗値に対する光学層における粘着剤層側とは反対側の面の表面抵抗値の比は、1~120000の範囲であり、通常、1000~100000の範囲である。セパレートフィルムと光学層の表面抵抗値の比が、この範囲であるため、多重取りを低減又は抑制でき、積層束から取り出す際に、光学積層体に変形、傷などが生じないので、設計された光学特性を維持した状態で使用できる。
【0078】
本発明における一形態では、
図1に示される光学積層体のセパレートフィルムにおける粘着剤層側とは反対側の表面に表面改質処理を行うことを説明した。別の形態において、セパレートフィルムへの表面改質処理に加え、必要に応じ表面保護フィルムにおける光学フィルム側とは反対側の表面に表面改質処理を行うことができる。光学積層体におけるセパレートフィルム側および表面保護フィルム側に表面改質処理を行うことにより、この光学積層体を複数枚重ね合わせて積層束を製造する際に、それぞれ表面改質処理を施したセパレートフィルム表面と表面保護フィルム表面同士が重なり合わせることができるため積層束からより容易に光学積層体を取り出すことができ、更に高い多重取り抑制効果が期待できる。
セパレートフィルムへの表面改質処理条件と、表面保護フィルムにおける光学フィルム側とは反対側の表面への表面改質処理条件は、同一であってもよく異なっていてもよい。表面保護フィルムへの表面改質処理条件は、本明細書に記載の内容を、適宜選択できる。また、セパレートフィルムの表面改質処理が施された改質面における表面抵抗値と、表面保護フィルムの表面改質処理が施された改質面における表面抵抗値との値は、同一であってもよく、相違していてもよい。表面保護フィルムの改質面における表面抵抗値は、本明細書に記載の範囲内で、適宜選択できる。
【実施例】
【0079】
以下、実施例を示して本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの例によって限定されるものではない。
【0080】
以下の実施例及び比較例において用いた材料は、以下のとおりである。
(光学層)
光学層として、表面保護フィルム(厚さ53μm)と、偏光子保護フィルム(厚さ44μm)と、偏光子(厚さ28μm)と、位相差フィルム(厚さ23μm)とを順に有する積層体を用いた。光学層の厚さは148μmであった。
上記偏光子保護フィルムは、ハードコート層とTAC層とを有する多層構造を有し、位相差フィルムは、「ゼオノア」(日本ゼオン株式会社製)を用いた。
【0081】
(粘着剤層およびセパレートフィルム)
厚さ25μmの粘着剤層(新タック化成株式会社製)と、厚さ38μmのセパレートフィルム(PET樹脂製)とを用いた。
【0082】
実施例1
光学層と、粘着剤層と、セパレートフィルムとを積層した。ここで、光学層における位相差フィルムと粘着剤層とセパレートフィルムとがこの順になるように積層した。
セパレートフィルムにおける粘着剤層側とは反対側の面に、表面改質処理を施した。
表面処理は、コロナ処理装置(春日電機株式会社製、装置名:高周波電源ワイヤー放電処理装置)を用いて、コロナ処理を行った。コロナ処理の条件は、表1に示した通りである。
【0083】
(多重取り発生率)
実施例1により得られた光学積層体を20枚用意し、1の光学積層体のセパレートフィルムにおける表面改質処理が施された改質面と、別の光学積層体の光学層における粘着剤層側とは反対側の面とを重ね合わせることにより、20枚の光学積層体からなる積層束を製造した。
得られた積層束の最表層側に位置する光学積層体の長手方向に沿って、手で僅かな力を光学積層体に加え、積層束から最表層側に位置する1の光学積層体を滑らすようにして取り出すことを試みた。複数枚の光学積層体が重ね合わされることなく、1セットの光学積層体を取り出せた場合、多重取りは発生していないと判断した。
この結果に基づき、以下の式から多重取り発生率を算出した。結果を表1に示す。
多重取り発生率=(多重取りが発生した回数/積層束における光学積層体の積層枚数)
【0084】
実施例2~4及び比較例1
実施例2~4については、表1に示すコロナ処理条件を変更した以外は、実施例1と同様にして、光学積層体を製造した。
比較例1は、セパレートフィルムに対して表面改質処理を施さなかった以外は、実施例1と同様にして光学積層体を製造した。
【0085】
【0086】
実施例1~4は、多重取りの発生率を抑制できることが分かる。一方、比較例1は、セパレートフィルムに対して表面改質処理を施さなかったため、多重取り発生率が極めて高くなった。
【産業上の利用可能性】
【0087】
本発明によれば、多重取りを低減又は抑制できる光学積層体を得ることができる。
【符号の説明】
【0088】
1 光学積層体
10 光学層
11 光学フィルム
12 表面保護フィルム
20 粘着剤層
30 セパレートフィルム
40 セパレートフィルムにおける粘着剤層側とは反対側の面