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特許7005645強化分離膜の製造方法、これにより製造された強化分離膜およびレドックスフロー電池
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-01-07
(45)【発行日】2022-01-21
(54)【発明の名称】強化分離膜の製造方法、これにより製造された強化分離膜およびレドックスフロー電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 8/18 20060101AFI20220114BHJP
   H01M 8/1069 20160101ALI20220114BHJP
   H01M 8/1058 20160101ALI20220114BHJP
【FI】
H01M8/18
H01M8/1069
H01M8/1058
【請求項の数】 14
(21)【出願番号】P 2019548389
(86)(22)【出願日】2019-01-08
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2020-03-26
(86)【国際出願番号】 KR2019000241
(87)【国際公開番号】W WO2019139320
(87)【国際公開日】2019-07-18
【審査請求日】2019-09-05
(31)【優先権主張番号】10-2018-0003222
(32)【優先日】2018-01-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(73)【特許権者】
【識別番号】500239823
【氏名又は名称】エルジー・ケム・リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【弁理士】
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100122161
【弁理士】
【氏名又は名称】渡部 崇
(72)【発明者】
【氏名】スンヨン・キム
(72)【発明者】
【氏名】テ・グン・ノ
(72)【発明者】
【氏名】シクウォン・ムン
【審査官】上野 文城
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2009/0209668(US,A1)
【文献】国際公開第2013/100083(WO,A1)
【文献】特開2006-286631(JP,A)
【文献】韓国公開特許第10-2017-0064837(KR,A)
【文献】中国特許出願公開第104037431(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 8/18
H01M 8/1069
H01M 8/1058
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
イオン性高分子およびエタノールを含む第1液を用いて多孔性支持体を前処理するステップと、
前記前処理された前記多孔性支持体にイオン性高分子および溶媒を含む第2液を含浸するステップとを含み、
前記第1液のイオン性高分子の濃度は、前記第2液のイオン性高分子の濃度より低いものであり、
前記第1液及び第2液は、溶液又は分散液である、強化分離膜の製造方法。
【請求項2】
前記第1液のイオン性高分子の含有量は、前記第1液の全体重量に対して1~5重量%であり、前記第2液のイオン性高分子の含有量は、前記第2液の全体重量に対して10~40重量%である、請求項1に記載の強化分離膜の製造方法。
【請求項3】
前記第1液のイオン性高分子のパーセント濃度と前記第2液のイオン性高分子のパーセント濃度との差は、5~39重量%である、請求項1又は2に記載の強化分離膜の製造方法。
【請求項4】
前記第1液に含まれる前記イオン性高分子は、パウダー状態である、請求項1~3のいずれか一項に記載の強化分離膜の製造方法。
【請求項5】
前記前処理するステップは、前記多孔性支持体に前記第1液を噴霧または浸漬するものである、請求項1~4のいずれか一項に記載の強化分離膜の製造方法。
【請求項6】
前記第2液を含浸するステップは、前記前処理された前記多孔性支持体を前記第2液に浸漬するものである、請求項1~5のいずれか一項に記載の強化分離膜の製造方法。
【請求項7】
第2液に含まれる前記溶媒は、親水性溶媒である、請求項1~6のいずれか一項に記載の強化分離膜の製造方法。
【請求項8】
前記イオン性高分子は、フッ素系高分子、炭化水素系高分子、または部分フッ素系高分子である、請求項1~7のいずれか一項に記載の強化分離膜の製造方法。
【請求項9】
第1液に含まれるイオン性高分子および第2液に含まれるイオン性高分子は、異種系である、請求項1~8のいずれか一項に記載の強化分離膜の製造方法。
【請求項10】
前記強化分離膜の製造方法は、前記前処理された多孔性支持体に前記第2液を含浸するステップの後に、乾燥するステップをさらに含むものである、請求項1~9のいずれか一項に記載の強化分離膜の製造方法。
【請求項11】
孔中にイオン性高分子を含有する多孔性支持体を含む強化分離膜であって、孔隙率が0以上1%以下である、強化分離膜。
【請求項12】
前記強化分離膜のイオン性高分子の含浸量は、横8cm×縦8cmおよび50μmの厚さの強化分離膜を基準として0.4~0.5gである、請求項11に記載の強化分離膜。
【請求項13】
請求項11又は12に記載の強化分離膜を含むレドックスフロー電池。
【請求項14】
前記レドックスフロー電池は、バナジウムレドックスフロー電池である、請求項13に記載のレドックスフロー電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書は、強化分離膜の製造方法、これにより製造された強化分離膜およびレドックスフロー電池に関する。
【0002】
本出願は、2018年1月10日付で韓国特許庁に提出された韓国特許出願第10-2018-0003222号の出願日の利益を主張し、その内容のすべては本明細書に組み込まれる。
【背景技術】
【0003】
電力貯蔵技術は、電力利用の効率化、電力供給システムの能力や信頼性向上、時間に応じて変動幅が大きい新再生エネルギーの導入拡大、移動体のエネルギー回生などエネルギー全体にわたる効率的利用のために重要な技術であり、その発展の可能性および社会的寄与に対する要求がますます増大している。
【0004】
マイクログリッドのような半自律的な地域電力供給システムの需給バランスの調整および風力や太陽光発電のような新再生エネルギー発電の不均一な出力を適切に分配し、既存の電力系統との差から発生する電圧および周波数変動などの影響を制御するために二次電池に対する研究が活発に進められており、これらの分野において二次電池の活用度に対する期待値が高くなっている。
【0005】
大容量電力貯蔵用に用いられる二次電池に求められる特性をみると、エネルギー貯蔵密度が高くなければならず、このような特性に最も適した高容量および高効率の二次電池としてフロー電池が最も注目されている。
【0006】
フロー電池において最も核心となる構成要素は、陽イオン交換が可能な高分子電解質膜であって、効率的な電池駆動のために、高い陽イオン伝導度を確保する方向に研究が進められてきている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本明細書は、強化分離膜の前処理時、疎水性の多孔性支持体と親水性のイオン性高分子との親和力を向上させて、多孔性支持体内にイオン性高分子の含浸率を高めることにより、強化分離膜の選択的イオン透過度を高め、電解液のクロスオーバー現象を防止することにより、電池の性能を向上させることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本明細書は、イオン性高分子およびエタノールを含む第1溶液を用いて多孔性支持体を前処理するステップと、前記前処理された前記多孔性支持体にイオン性高分子および溶媒を含む第2溶液を含浸するステップとを含み、前記第1溶液の濃度は、前記第2溶液の濃度より低いものである強化分離膜の製造方法を提供する。
【0009】
本明細書は、前述した製造方法により製造された強化分離膜を提供する。
【0010】
また、本明細書は、前記強化分離膜を含むレドックスフロー電池を提供する。
【発明の効果】
【0011】
本発明に係る製造方法により強化分離膜を製造する場合、疎水性を呈する多孔性支持体の内部に親水性イオン性高分子の含浸率を向上させることができる。また、強化分離膜を通した電解液活性イオンを阻止して活性イオンの透過度を低下させることができ、電解液のクロスオーバー現象を防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】フロー電池の一般的な構造を示す断面図である。
図2】本明細書の一実施例に係る強化分離膜の表面の様子である。
図3】本明細書のもう一つの実施例に係る強化分離膜の表面の様子である。
図4】エタノールのみを用いて多孔性支持体を前処理して製造した強化分離膜の表面の様子である。
図5】イオン性高分子が含浸される前の多孔性支持体の断面の様子および本明細書の一実施例によりイオン性高分子が含浸された強化分離膜の断面の様子を順に示すものである。
図6】本発明の一実施例と比較例の放電容量を示す図である。
図7】本発明の一実施例と比較例のエネルギー効率を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本明細書についてより詳細に説明する。
【0014】
本明細書において、ある部分がある構成要素を「含む」とする時、これは、特に反対の記載がない限り、他の構成要素を除くのではなく、他の構成要素をさらに包含できることを意味する。
【0015】
本発明は、イオン性高分子およびエタノールを含む第1溶液を用いて多孔性支持体を前処理するステップと、前記前処理された前記多孔性支持体にイオン性高分子および溶媒を含む第2溶液を含浸するステップとを含み、前記第1溶液の濃度は、前記第2溶液の濃度より低いものである強化分離膜の製造方法を提供する。
【0016】
本発明の製造方法により強化分離膜を製造する場合、強化分離膜のイオン性高分子の含浸率を高めることができる。イオン性高分子の含浸率が高くなることにより、水素イオンを効果的に伝達させることができ、電解液の活性イオンの移動を阻止することができる。よって、分離膜の選択的イオン透過度を高めることができる。
【0017】
強化分離膜の材料として、代表的にナフィオン(Nafion)のようなイオン性高分子が使用されるが、ナフィオンだけで製造された純粋分離膜は高価であり、機械的強度が低く、選択的イオン透過度も低くて、長期間駆動する電池の分離膜への適用には限界がある。このような限界を克服するために、強化材料の基材を含む多孔性支持体内にイオン性高分子を含浸して、強化分離膜を製造する。
【0018】
多孔性支持体内にイオン性高分子を含浸して強化分離膜を製造することにより、分離膜の機械的強度を向上させることができ、耐久性および選択的透過度も向上させることができる。また、純粋膜に比べて製造単価が低くて経済的であるという利点がある。しかし、長期間電池を駆動する場合、多孔性支持体からイオン性高分子が離れることがあり、多孔性支持体のナノサイズの気孔にイオン性高分子を効果的に含浸する方法が必要である。
【0019】
本発明は、多孔性支持体とイオン性高分子との親和力を向上させて、多孔性支持体内にイオン性高分子の含浸率を高める。
【0020】
既存の前処理方法には、疎水性の多孔性支持体にエタノールを噴霧して一時的に多孔性支持体を親水性にする方法がある。また、エタノールにグリセロールを添加した溶液に多孔性支持体を浸漬する方法がある。多孔性支持体にエタノールを噴霧して前処理する方法は、多孔性支持体を親水性にすることができるが、この後、親水性高分子溶液に前処理された多孔性支持体を浸漬する場合、親水性高分子溶液の濃度が低くなりうる。特に、ロールツーロールによる連続工程で強化分離膜を製造する場合、親水性高分子溶液の濃度が大幅に減少しうるので、イオン性高分子の含浸率が低くなりうる。また、エタノールにグリセロールを添加した溶液に多孔性支持体を浸漬して前処理する方法は、前処理後、グリセロールが強化分離膜内に残留しかねず、分離膜に副作用(side-effect)を誘発することがある。
【0021】
しかし、本発明は、イオン性高分子およびエタノールを含む第1溶液を用いて多孔性支持体を前処理することにより、前処理後、含浸する親水性高分子溶液の濃度を減少させず、疎水性の多孔性支持体と親水性イオン性高分子との親和力を向上させることができ、イオン性高分子の含浸率を高めることができる。
【0022】
本発明の前記第1溶液に含まれるイオン性高分子は、パウダー状態でエタノールに分散する。この後、必要に応じて、フィルタを用いて第1溶液を濾過した後、前処理ステップで使用することができる。
【0023】
すなわち、本明細書において、前記第1溶液に含まれる前記イオン性高分子は、パウダー状態である。
【0024】
本明細書の一実施態様において、前記前処理するステップは、前記多孔性支持体に前記第1溶液を噴霧または浸漬するものであってもよい。好ましくは、前記多孔性支持体に前記第1溶液を噴霧するものであってもよい。前記噴霧または浸漬することは、20~25℃で0超過3分以内に行われる。前記範囲にあたる場合、前処理効果が極大化されてイオン性高分子の含浸率を向上させることができる。前処理するステップの温度が25℃を超えたり、時間が3分を超える場合、アルコールが蒸発しかねず、前処理効果が低下することがある。
【0025】
本明細書の一実施態様において、前記第2溶液は、前記イオン性高分子が前記溶媒に分散したものであって、親水性高分子溶液である。前記親水性高分子溶液は、イオン性高分子をパウダー状態で溶媒に分散させて製造することができる。イオン性高分子がパウダー状態で溶媒に分散する場合、前記イオン性高分子の間に凝集現象が発生しかねず、溶媒内のイオン性高分子の分散程度が低下することがある。それにもかかわらず、本発明は、前記第1溶液で多孔性支持体を前処理するため、多孔性支持体とイオン性高分子との親和力を高めることができて、前記第2溶液をイオン性高分子に含浸する場合、イオン性高分子の含浸率をさらに高めることができる。
【0026】
本明細書の一実施態様において、前記第1溶液の濃度は、前記第2溶液の濃度より低い。
【0027】
前記濃度は、本明細書に係る溶液に含まれるイオン性高分子の含有量を意味する。前記濃度は、パーセント濃度を意味することができる。
【0028】
本明細書の一実施態様において、前記第1溶液のイオン性高分子の含有量は、前記第1溶液の全体重量に対して、1~5重量%であり、好ましくは1~3重量%であってもよい。また、前記第2溶液のイオン性高分子の含有量は、前記第2溶液の全体重量に対して、10~40重量%であり、好ましくは15~25重量%であってもよい。前記重量範囲によってイオン性高分子が低い濃度で含まれた第1溶液を用いて前処理をした後、イオン性高分子が高い濃度で含まれた第2溶液を多孔性支持体に含浸する場合、第2溶液の濃度が減少することを緩和させることができ、多孔性支持体とイオン性高分子との親和力を向上させることができる。
【0029】
本明細書の一実施態様において、前記第1溶液の濃度と第2溶液の濃度との差は、5~39重量%であってもよい。好ましくは、前記パーセント濃度の差は、10~24重量%であってもよい。前記濃度の差の範囲を満足する場合、前処理ステップを行うことによる多孔性支持体へのイオン性高分子の含浸率が高くなる。
【0030】
本明細書の一実施態様において、前記第2溶液を含浸するステップは、前記前処理された多孔性支持体を前記第2溶液に浸漬するものであってもよい。具体的には、第2溶液に20~25℃で1~20分間、好ましくは5~10分間浸漬することができる。必要に応じて、前記第2溶液に含浸するステップを行った後に、常温で24時間乾燥するステップをさらに含んでもよい。
【0031】
本明細書の一実施態様において、前記第2溶液に含まれる前記溶媒は、親水性溶媒である。
【0032】
本明細書の一実施態様において、前記第2溶液に含まれる溶媒は、水、ジメチルアセトアミド(DMAc)、またはジメチルスルホキシド(DMSO)のような親水性溶媒であってもよいが、これに限定されず、当技術分野で一般的に使用するものを用いることができる。前記第2溶媒に含まれる溶媒には、前記第1溶液に含まれるエタノールのようなアルコール類は含まれない。
【0033】
本明細書の一実施態様において、前記イオン性高分子は、フッ素系高分子、炭化水素系高分子、または部分フッ素系高分子であってもよい。前記フッ素系高分子は、ナフィオン(Nafion、Dupont社)、アクイヴィオン(Aquivion、Solvay社)、3Mアイオノマー(3M社のionomer)などであってもよい。前記炭化水素系高分子は、スルホン化されたポリエーテルケトン(S-PEEK)またはスルホン化されたポリアリールエーテルケトン(S-PAEK)であってもよい。また、前記イオン性高分子は、ポリエチレンオキシド(PEO)またはポリビニルアルコール(PVA)であってもよい。前記イオン性高分子は、イオン伝導性高分子であってもよい。前記イオン伝導性高分子は、イオン交換が可能な物質であれば特に限定せず、当技術分野で一般的に使用するものを用いることができる。
【0034】
本明細書の一実施態様において、第1溶液に含まれるイオン性高分子および第2溶液に含まれるイオン性高分子は、同種または異種系であってもよい。他の実施態様において、第1溶液に含まれるイオン性高分子および第2溶液に含まれるイオン性高分子は、同種であり、フッ素系高分子であってもよい。第1溶液に含まれるイオン性高分子および第2溶液に含まれるイオン性高分子が同種の場合、本発明の一実施態様に係る強化分離膜のイオン性高分子の含浸率がさらに高くなる。一実施態様において、第1溶液に含まれるイオン性高分子は、3M社のアイオノマー(ionomer)であってもよく、第2溶液に含まれるイオン性高分子は、アクイヴィオン(Aquivion、Solvay社)であってもよい。前記炭化水素系高分子は、フローリン基のない炭化水素系スルホン化高分子であってもよいし、逆に、フッ素系高分子は、フローリン基で飽和したスルホン化高分子であってもよく、前記部分フッ素系高分子は、フローリン基で飽和しないスルホン化高分子であってもよい。
【0035】
また、前記イオン伝導性高分子は、スルホン化されたパーフルオルスルホン酸系高分子、スルホン化された炭化水素系高分子、スルホン化された芳香族スルホン系高分子、スルホン化された芳香族ケトン系高分子、スルホン化されたポリベンズイミダゾール系高分子、スルホン化されたポリスチレン系高分子、スルホン化されたポリエステル系高分子、スルホン化されたポリイミド系高分子、スルホン化されたポリビニリデンフルオライド系高分子、スルホン化されたポリエーテルスルホン系高分子、スルホン化されたポリフェニレンスルフィド系高分子、スルホン化されたポリフェニレンオキシド系高分子、スルホン化されたポリホスファゼン系高分子、スルホン化されたポリエチレンナフタレート系高分子、スルホン化されたポリエステル系高分子、ドーピングされたポリベンズイミダゾール系スルホン化された高分子、スルホン化されたポリエーテルケトン系高分子、スルホン化されたポリフェニルキノキサリン系高分子、スルホン化されたポリスルホン系高分子、スルホン化されたポリピロール系高分子、およびスルホン化されたポリアニリン系高分子からなる群より選択される1つまたは2つ以上の高分子であってもよい。前記高分子は、単一共重合体、交互共重合体、ランダム共重合体、ブロック共重合体、マルチブロック共重合体、またはグラフト共重合体であってもよいが、これに限定されるものではない。
【0036】
前記イオン伝導性高分子は、陽イオン伝導性高分子であってもよいし、例えば、ナフィオン(Nafion)、スルホン化ポリエーテルエーテルケトン(sPEEK、Polyetheretherketone)、スルホン化ポリエーテルケトン(sPEK、sulfonated(polyetherketone))、ポリビニリデンフルオライド-グラフト-ポリスチレンスルホン酸(poly(vinylidene fluoride)-graft-poly(styrene sulfonic acid)、PVDF-g-PSSA)、およびスルホン化ポリフルオレニルエーテルケトン(Sulfonated poly(fluorenyl ether ketone))のうちの少なくとも1つを含むことができる。
【0037】
前記イオン伝導性高分子は、重量平均分子量が数千から数千万であってもよい。具体的には、前記高分子の重量平均分子量は、1,000g/mol以上10,000,000g/mol以下であってもよいが、これに限定されない。
【0038】
前記多孔性支持体のホールの大きさは、工程中に必要な機械的な物性を維持すれば特に限定しないが、前記ホールの大きさは、1mm以上10cm以下であってもよい。
【0039】
前記多孔性支持体の幅を基準として前記ホールの大きさの百分率は、0.1%以上10%以下であってもよい。この場合、多孔性支持体をピンと張るようにするだけでなく、多孔性支持体で製造される強化分離膜の損失を低減できるという利点がある。
【0040】
前記多孔性支持体の多数のホールの形態は、円形、楕円形、または多角形であってもよい。前記多角形は、3個以上の線分で囲まれた図形を意味し、辺の数に応じて三角形、四角形、五角形、六角形などであってもよいし、特に限定しない。
【0041】
前記多孔性支持体の両側に並ぶ多数のホールにおいて、隣接したホール間の間隔は、工程中に必要な機械的な物性を維持すれば特に限定しないが、隣接したホール間の間隔は、1mm以上10cm以下であってもよい。前記ホール間の間隔は、いずれか1つのホールと、前記いずれか1つのホールの中心と隣り合うもう1つのホールの中心との距離を意味する。前記ホール間の間隔を基準として、前記ホールの大きさの百分率は、1%以上100%以下であってもよい。
【0042】
本明細書において、前記多孔性支持体は、多数の気孔を含んでいれば、支持体の構造および材質は特に限定されず、当技術分野で一般的に使用するものを用いることができる。例えば、ポリイミド(Polyimide:PI)、ポリスルホン(Polysulfone:PSF)、ポリベンズイミダゾール(Polybenzimidazole:PBI)、ナイロン、ポリエチレンテレフタレート(Polyethyleneterephtalate:PET)、ポリテトラフルオロエチレン(Polytetrafluoro ethylene:PTFE)、ポリエチレン(Polyethylene:PE)、ポリプロピレン(Polypropylene:PP)、ポリアリーレンエーテルスルホン(Poly(arylene ether sulfone):PAES)、ポリエーテルエーテルケトン(Polyetheretherketone:PEEK)、ポリアラミド(Polyaramide)、フッ素系エチレンプロピレン(Fluorinated ethylene propylene:FEP)、ポリ(エテン-co-テトラフルオロエテン)(Poly(ethene-co-tetrafluoroethene))、ポリクロロトリフルオロエチレン(Polychlorotrifluoroethylene:PCTFE)、ポリビニリデンフルオライド(Polyvinylidene fluoride:PVDF)、およびパーフルオロアルキル系高分子(Perfluoroalkoxy polymer:PFA)のうちの少なくとも1つを含むことができる。
【0043】
前記多孔性支持体の厚さは特に限定しないが、前記多孔性支持体の厚さは、1μm以上500μm以下であってもよい。
【0044】
前記多孔性支持体の幅は特に限定しないが、前記多孔性支持体の幅は、10cm以上10m以下であってもよい。
【0045】
前記多孔性支持体は、Au、Sn、Ti、Pt-Ti、およびIrO-Tiのうちの少なくとも1つを含む多孔性金属;またはカーボンペーパー、カーボンナノチューブ、グラファイトフェルト、およびカーボンフェルトのうちの少なくとも1つを含む多孔性炭素を含むことができる。
【0046】
本明細書の一実施態様において、前記強化分離膜の製造方法は、前記前処理された多孔性支持体に前記第2溶液を含浸するステップの後に、乾燥するステップをさらに含んでもよい。前記乾燥するステップは、70℃~230℃でホットプレートまたは真空オーブンを用いて乾燥することができる。具体的には、80℃で3日、180℃で6時間、そして200℃で4分間段階的に乾燥することができる。フッ素系高分子のうち、ナフィオン(Nafion)は、80℃で3日間乾燥する場合、十分に乾燥できるが、本発明の一実施態様で使用されるアクイヴィオン(Aquivion)の場合、80℃で3日、180℃で6時間、そして200℃で4分間段階的に乾燥する過程を経ることにより、フロー電池に使用される場合、多孔性支持体に含浸されたイオン性高分子が水に洗い流されない。
【0047】
本明細書の一実施態様は、前述した製造方法によりイオン性高分子の含浸率が向上した強化分離膜を提供することができる。
【0048】
本発明の一実施態様において、前述した製造方法により製造された強化分離膜のイオン性高分子の含浸量は、横8cm×縦8cmおよび50μmの厚さの強化分離膜を基準として0.4~0.5gであってもよい。具体的には、前記イオン性高分子の含浸量は、0.45~0.5gであってもよい。前記厚さは前述したものに限定されず、強化分離膜の用途や、電流密度または電圧などの電池駆動環境によって異なる。前記イオン性高分子の含浸量は、本発明の製造方法により製造された強化分離膜の重量から、本発明の製造方法を適用する前の多孔性支持体の重量を引いた値で計算することができる。前記範囲のように高いイオン性高分子の含浸量によって強化分離膜のイオン伝導度を高めることができ、効率的な電池駆動が可能である。
【0049】
本発明の製造方法により製造された強化分離膜の孔隙率は、0以上1%以下であってもよい。好ましくは、前記孔隙率は、0%であってもよい。前記孔隙率とは、強化分離膜の全体体積に対して空隙の占める比率を意味する。本発明の製造方法により製造された強化分離膜は、前処理ステップを経ることにより、空隙をほとんど含まなくなる。
【0050】
本明細書の一実施態様は、前記強化分離膜を含むレドックスフロー電池を提供する。前記レドックスフロー電池は、バナジウムレドックスフロー電池であってもよい。
【0051】
本明細書の一実施態様により製造されたレドックスフロー電池のイオン伝導度は、0.038S/cm以上であってもよい。他の実施態様において、前記イオン伝導度は、0.040S/cm以上であってもよい。もう一つの実施態様において、前記イオン伝導度は、0.038~0.050S/cmであってもよいが、これに限定されない。反面、本発明の一実施態様に係る第1溶液を用いて多孔性支持体を前処理するステップを含まない分離膜で製造されたレドックスフロー電池のイオン伝導度は、0.032S/cm以下である。すなわち、本発明の前処理ステップを行った強化分離膜は、前処理ステップを行わない分離膜に比べてイオン性高分子の含浸率が高くて強化分離膜を含むフロー電池のイオン伝導度がより高く、電池駆動にさらに効率的である。
【0052】
本明細書の一実施態様において、強化分離膜とは、多孔性の基材を含み、イオンを交換できる膜であって、イオン交換膜、イオン伝達膜、イオン伝導性膜、分離膜、イオン交換分離膜、イオン伝達分離膜、イオン伝導性分離膜、イオン交換電解質膜、イオン伝達電解質膜、またはイオン伝導性電解質膜などを意味することができる。
【0053】
前記レドックスフロー電池(酸化-還元フロー電池、Redox Flow Battery)とは、電解液に含まれている活性物質が酸化・還元されて充電・放電されるシステムで、活性物質の化学的エネルギーを直接電気エネルギーとして貯蔵させる電気化学的蓄電装置である。
【0054】
前記レドックスフロー電池は、負極活物質を含む負極電解液が注入および排出される負極と、正極活物質を含む正極電解液が注入および排出される正極と、前記負極と正極との間に配置された分離膜とを含むことができる。
【0055】
図1にて、レドックスフロー電池は、負極電解液または正極電解液をそれぞれ貯蔵する負極タンクおよび正極タンクと、前記負極タンクおよび正極タンクに連結されて前記電解液を負極または正極に供給するポンプと、前記ポンプから負極電解液または正極電解液がそれぞれ流入する負極流入口31および正極流入口32と、負極21または正極22から電解液がそれぞれ負極タンクおよび正極タンクに排出される負極排出口41および正極排出口42とをさらに含んでもよい。
【0056】
前記フロー電池の形態は限定されず、例えば、コイン型、平板型、円筒型、角型、ボタン型、シート型、または積層型であってもよい。
【0057】
前記負極は負極電解液がタンクから注入および排出され、前記正極は正極電解液がタンクから注入および排出されながら化学的に反応し、電気エネルギーを充電し放電できる領域を意味する。
【0058】
前記負極電解液および正極電解液は、それぞれ電解質と溶媒を含むことができる。前記電解質および溶媒は特に限定しないが、当技術分野で一般的に使用するものを採用することができる。
【0059】
例えば、前記レドックスフロー電池は、正極電解質としてV(IV)/V(V)レドックスカップルを用い、負極電解質としてV(II)/V(III)レドックスカップルを用いることができる。
【0060】
前記レドックスフロー電池は、正極電解質としてハロゲンレドックスカップルを用い、負極電解質としてV(II)/V(III)レドックスカップルを用いることができる。
【0061】
本明細書の一実施態様において、前記レドックスフロー電池は、残留容量が29%以上であってもよい。具体的には29~100%であり、さらに具体的には63~100%であってもよい。前記レドックスフロー電池は、200cycleで電流効率が95%以上であってもよい。具体的には95~100であり、さらに具体的には96~100%であってもよい。また、前記レドックスフロー電池は、200cycleで電圧効率が74%以上であってもよい。具体的には74~100%であり、さらに具体的には76~100%であってもよい。そして、前記レドックスフロー電池は、200cycleでエネルギー効率が71%以上であってもよい。具体的には71~100%であり、さらに具体的には74~100%であってもよい。前記範囲を満足することにより、効率的なフロー電池駆動が可能である。
【0062】
本明細書において、含浸(impregnation)とは、基材内にイオン性高分子が浸透することを意味する。本明細書では、前記含浸は、前記基材を前記第2溶液に浸漬(dipping)、スロットダイ(slot dye)コーティング、バーキャスティング(bar casting)などを利用して行われる。
【0063】
本明細書において、浸漬は、ディップコーティング(Dip Coating)またはデイッピング法(Dipping method)などの用語で表現される。
【0064】
本明細書において、レドックスフロー電池は、酸化状態が異なる活性物質を含む電解液がイオン交換膜を挟んで接する時、電子をやり取りして充電と放電が行われる原理を利用する。一般的に、レドックスフロー電池は、電解液の入っているタンクと、充電と放電が起こる電池セルと、電解液をタンクと電池セルとの間に循環させるための循環ポンプとから構成され、電池セルの単位セルは、電極と、電解質と、分離膜とを含む。
【0065】
本明細書の一実施態様に係る強化分離膜をレドックスフロー電池の分離膜に使用した時、前述した効果を奏することができる。
【0066】
本明細書のレドックスフロー電池は、本明細書の一実施態様に係る強化分離膜を含むことを除けば、当分野で知られた通常の方法により製造される。
【実施例
【0067】
以下、本明細書を具体的に説明するために実施例を挙げて詳細に説明する。しかし、本明細書に係る実施例は種々の異なる形態に変形可能であり、本明細書の範囲が以下に詳述する実施例に限定されると解釈されない。本明細書の実施例は、当業界における平均的な知識を有する者に本明細書をより完全に説明するために提供されるものである。
【0068】
実施例1.
3M社のionomerイオン性高分子およびエタノールを含む第1溶液の全体重量に対して、3M社のionomerイオン性高分子パウダー1重量%をエタノールと混合して第1溶液を製造した。製造された第1溶液を多孔性支持体に20~25℃で3分間噴霧して前処理した。前記多孔性支持体としてはポリテトラフルオロエチレン(PTFE)を使用した。
【0069】
前記3M社のionomerイオン性高分子の構造は、下記の通りである。
【0070】
【化1】
【0071】
前記構造において、スルホン酸基(-SOH)1個あたりの前記高分子構造の等価重量(EW)は850gであり、n/mは4.7であった。この後、アクイヴィオン(Aquivion、Solvay社)イオン性高分子および水を含む第2溶液の全体重量に対して、イオン性高分子25重量%を水と混合して第2溶液を製造した。前記前処理された多孔性支持体を第2溶液に20~25℃で5~10分間浸漬して、アクイヴィオン(Aquivion、Solvay社)イオン性高分子を含浸させた。前記アクイヴィオン(Aquivion、Solvay社)イオン性高分子の構造は、下記の通りである。
【0072】
【化2】
【0073】
前記構造において、スルホン酸基(-SOH)1個あたりの前記高分子構造の等価重量(EW)は830gであり、m/nは5.5であった。この後、アクイヴィオン(Aquivion、Solvay社)イオン性高分子が含浸された強化分離膜を80℃で3日、180℃で6時間、200℃で4分間段階的に乾燥させて、強化分離膜を製造した。
【0074】
製造された強化分離膜を含むレドックスフロー電池の単電池評価を行った。
【0075】
実施例2.
前記実施例1において、第1溶液の全体重量に対して、3M社のionomerイオン性高分子パウダーを5重量%にしたことを除き、実施例1と同様の方法で強化分離膜を製造した後、前記強化分離膜を含むレドックスフロー電池の単電池評価を行った。
【0076】
比較例1.
前記実施例1において、第1溶液の代わりにエタノールのみを用いたことを除き、実施例1と同様の方法で強化分離膜を製造した後、前記強化分離膜を含むレドックスフロー電池の単電池評価を行った。
【0077】
比較例2.
純粋分離膜のナフィオンを含むレドックスフロー電池の単電池評価を行った。前記純粋分離膜として多孔性基材が入っておらず、下記の構造で表されるイオン性高分子のみからなる、50μmの厚さのNafion212製品を使用した。
【0078】
【化3】
【0079】
前記構造において、スルホン酸基(-SOH)1個あたりの前記高分子構造の等価重量(EW)は1100gであり、m/nは6.6であった。前記実施例1と比較例1および2で製造されたレドックスフロー電池の単電池性能評価結果を、下記表1に記載した。
【0080】
【表1】
【0081】
前記表1の結果のように、本発明の一実施態様により製造された強化分離膜を含むレドックスフロー電池の性能が向上したことを確認することができた。具体的には、実施例1および2は、比較例1および2よりもイオン伝導度、電圧効率およびエネルギー効率が高いことを確認することができた。また、実施例1の電池の残留容量および電流効率は、比較例2より高いことが分かった。
【0082】
したがって、本明細書の一実施態様により製造された強化分離膜は、イオン性高分子の含浸率およびイオン伝導度が向上して、本発明の強化分離膜を含むレドックスフロー電池は、優れた性能を示すことを確認した。
【0083】
図2は、第1溶液の全体重量に対してイオン性高分子の含有量が1重量%である第1溶液を用いて多孔性支持体を前処理した後、前処理された多孔性支持体に第2溶液の全体重量に対してイオン性高分子の含有量が25重量%である第2溶液を含浸して製造した強化分離膜の表面の様子である。
【0084】
図3は、第1溶液の全体重量に対してイオン性高分子の含有量が5重量%である第1溶液を用いて多孔性支持体を前処理した後、前処理された多孔性支持体に第2溶液の全体重量に対してイオン性高分子の含有量が25重量%である第2溶液を含浸して製造した強化分離膜の表面の様子である。
【0085】
図4は、イオン性高分子を含まないエタノールを用いて多孔性支持体を前処理した後、前処理された多孔性支持体に第2溶液の全体重量に対してイオン性高分子の含有量が25重量%である第2溶液を含浸して製造した強化分離膜の表面の様子である。
【0086】
前記図2および3に示された気孔の直径は図4よりも小さくて、多孔性支持体へのイオン性高分子の含浸率が向上することを確認することができた。
【0087】
前記図2の強化分離膜に示された気孔の直径は図3よりも大きいが、図2の分離膜の表面がさらに均一であることを確認することができた。
【0088】
図5は、イオン性高分子の含浸前の多孔性支持体の断面の様子、および実施例1により製造された、イオン性高分子が含浸された強化分離膜の断面の様子を示すものであって、含浸前の多孔性支持体は、空隙が多数個存在するのに対し、含浸後の強化分離膜には空隙が存在しないことを確認することができた。
【0089】
図6は、本発明の実施例1、比較例1および2による残留容量を示すもので、実施例1の残留容量の減少幅が比較例1と比べて大きくないことが分かり、これに対し、純粋膜のナフィオンを用いた比較例2は、残留容量の減少幅が大きいことを確認することができた。
【0090】
図7は、本発明の実施例1、比較例1および2によるエネルギー効率を示すもので、実施例1のエネルギー効率は、比較例1および2より高いことを確認することができた。
【0091】
以上、本発明の好ましい実施例について説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、特許請求の範囲と発明の詳細な説明の範囲内で多様に変形して実施することが可能であり、これも発明の範疇に属する。
【符号の説明】
【0092】
1:ハウジング
10:分離膜
21:負極
22:正極
31:負極流入口
32:正極流入口
41:負極排出口
42:正極排出口
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7