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  • 特許-ポリイミドフィルム 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-01-07
(45)【発行日】2022-01-21
(54)【発明の名称】ポリイミドフィルム
(51)【国際特許分類】
   B32B 27/34 20060101AFI20220114BHJP
   C08L 79/08 20060101ALI20220114BHJP
   C08K 5/18 20060101ALI20220114BHJP
   C08K 3/36 20060101ALI20220114BHJP
   C08J 5/18 20060101ALI20220114BHJP
   G02B 5/30 20060101ALI20220114BHJP
   C08G 73/10 20060101ALI20220114BHJP
【FI】
B32B27/34
C08L79/08
C08K5/18
C08K3/36
C08J5/18 CFG
G02B5/30
C08G73/10
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2020075562
(22)【出願日】2020-04-21
(62)【分割の表示】P 2018013792の分割
【原出願日】2018-01-30
(65)【公開番号】P2020125485
(43)【公開日】2020-08-20
【審査請求日】2021-01-29
(31)【優先権主張番号】P 2017017154
(32)【優先日】2017-02-01
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000002093
【氏名又は名称】住友化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106518
【弁理士】
【氏名又は名称】松谷 道子
(74)【代理人】
【識別番号】100104592
【弁理士】
【氏名又は名称】森住 憲一
(74)【代理人】
【識別番号】100172605
【弁理士】
【氏名又は名称】岩木 郁子
(72)【発明者】
【氏名】片 ボラム
(72)【発明者】
【氏名】安井 未央
(72)【発明者】
【氏名】桜井 孝至
【審査官】松浦 裕介
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-263654(JP,A)
【文献】特開2016-093992(JP,A)
【文献】国際公開第2016/129329(WO,A1)
【文献】国際公開第2016/088641(WO,A1)
【文献】国際公開第2017/014287(WO,A1)
【文献】特開平10-060274(JP,A)
【文献】特開平09-291224(JP,A)
【文献】国際公開第2016/108675(WO,A1)
【文献】特開2004-115698(JP,A)
【文献】特開2015-185436(JP,A)
【文献】特開2007-148334(JP,A)
【文献】特開2017-014380(JP,A)
【文献】特開2016-010920(JP,A)
【文献】韓国公開特許第10-2013-0088362(KR,A)
【文献】韓国公開特許第10-2016-0098984(KR,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
IPC B32B 1/00 - 43/00
C08J 5/00 - 5/02
C08J 5/12 - 5/22
C08K 3/00 - 13/08
C08L 1/00 - 101/14
C08G 73/00 - 73/26
G02B 5/30
DB名 CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1種のポリイミド系高分子を含有し、黄色度YIが0<YI<1.0であり、厚みが20~200μmであり、全光線透過率が90.0%以上であるポリイミドフィルム、および
前記ポリイミドフィルムの視認側表面に配置されるハードコート層
を有するポリイミド積層体であって、
ハードコート層は、ウレタン(メタ)クリレート、アルキル(メタ)クリレート、エステル(メタ)クリレート及びエポキシ(メタ)クリレート、並びにその重合体及び共重合体からなる群から選択されるアクリル系樹脂を含み、
ポリイミド系高分子は、ポリイミド系高分子の質量を基準として、1~40質量%のフッ素原子を含む、
フレキシブルディスプレイの前面板用のポリイミド積層体。
【請求項2】
少なくとも1種のブルーイング剤をさらに含有する、請求項1に記載のポリイミド積層体。
【請求項3】
ブルーイング剤及びポリイミド系高分子を含有する層を少なくとも有する積層体であるか、ポリイミド系高分子を含有する基材層とブルーイング剤を含有するハードコート層を少なくとも有する積層体であるか、又は、ポリイミド系高分子を含有する基材層と、ハードコート層と、ブルーイング剤を含有する色相調整層を少なくとも有する積層体である、請求項1又は2に記載のポリイミド積層体。
【請求項4】
少なくとも1層のブルーイング剤を含有する層を含み、ブルーイング剤を含有する各層における、該層の全質量を基準とするブルーイング剤の添加量をX(ppm)とし、該層の厚みをY(μm)として算出されるXとYの積(X×Y)を、ブルーイング剤を含有する全ての層について算出して合計した値は300~4,500である、請求項1~のいずれかに記載のポリイミド積層体。
【請求項5】
ブルーイング剤は、式(6):
【化1】
[式(6)中、XはOH、NHR又はNRを表し、XはNHR又はNRを表し、R、R、R及びRは、互いに独立して、炭素数1~6の直鎖状又は分枝状アルキル基、又は、炭素数1~6の直鎖状又は分枝状アルキル基で置換されたフェニル基を表す。]
で表され、220℃以上の1%熱重量減少温度を有する化合物である、請求項2~4のいずれかに記載のポリイミド積層体。
【請求項6】
ブルーイング剤は、式(1)~式(3):
【化2】
で表される化合物からなる群から選択される少なくとも1種である、請求項に記載のポリイミド積層体。
【請求項7】
さらにシリカ粒子を含有する、請求項1~のいずれかに記載のポリイミド積層体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリイミドフィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
現在、液晶表示装置や有機EL表示装置等の画像表示装置は、テレビのみならず、携帯電話やスマートウォッチといった種々の用途で広く活用されている。こうした用途の拡大に伴い、フレキシブル特性を有する画像表示装置(フレキシブルディスプレイ)が求められており、その各部材のフレキシブル化も必要となっている。
【0003】
画像表示装置は、液晶表示素子又は有機EL表示素子等の表示素子の他、偏光板や位相差板及び前面板等から構成される。フレキシブルディスプレイを達成するためには、これら全ての部材がフレキシブル特性を有する必要がある。画像表示装置の部材がフレキシブル特性を有する高分子材料からなる場合(例えば特許文献1)、その部材は屈曲し易いため、フレキシブルディスプレイへの適用が比較的実施し易い。しかし、これまで画像表示装置の前面板材料として用いられてきたガラスは、透明度が高く、ガラスの種類によっては高硬度を発現できる反面、非常に剛直であり、割れやすいため、フレキシブルディスプレイの前面板材料としての利用は難しい。
【0004】
画像表示装置においては、表示部分を保護及び支持する目的で、通常、ディスプレイ基板の周縁に所定の幅を有する外枠部分が存在する。この外枠部分は、ベゼル部又は額縁部と称される。上記ベゼル部には、通常、任意の色調で印刷が施されており、使用者はベゼル部の上に位置する前面板を介してベゼル部の色調を視認することとなる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2016-93992号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、従来のポリイミド系フィルムは、白色の印刷が施されたべゼル部を有する画像表示装置の前面板材料として使用した場合、ベゼル部の白色印刷の視認性が良好でない場合があった。例えば特許文献1には、2程度の黄色度を有するポリイミドフィルムが開示されているが、このような黄色度のポリイミドフィルムでは、ベゼル部の白色色相を維持することができず、白色の印刷が黄みがかって視認される場合がある。
【0007】
本発明は、上記従来技術の有する課題に鑑みてなされたものであり、フレキシブルディスプレイの前面板材料として使用可能であり、ベゼル部の白色印刷の視認性が良好な、光学フィルムを提供することを目的とする。
【0008】
本発明者らは、上記課題を解決すべく、前面板材料として使用される光学フィルムの種々の特性について鋭意検討を行った。その結果、驚くべきことに黄色度YIが0<YI<1.0であるポリイミドフィルムによって上記課題が解決されることを見出し、本発明を完成するに至った。上記のような範囲の黄色度YIを有するポリイミドフィルムは、30ミクロン以上の厚みで達成することが困難であるため従来は着目されていなかった。しかし、本発明者らは、ポリイミドフィルムの黄色度を上記の範囲に調整し、前面板材料として使用することにより、ベゼル部の白色印刷の視認性が良好となると共に、表示部の視認性は損なわれないことを見出した。
すなわち、本発明は以下の好適な態様を含む。
〔1〕少なくとも1種のポリイミド系高分子を含有し、黄色度YIが0<YI<1.0であるポリイミドフィルム。
〔2〕厚みが20~200μmである、前記〔1〕に記載のポリイミドフィルム。
〔3〕全光線透過率が88.0%以上である、前記〔1〕又は〔2〕に記載のポリイミドフィルム。
〔4〕少なくとも1種のブルーイング剤をさらに含有する、前記〔1〕~〔3〕のいずれかに記載のポリイミドフィルム。
〔5〕ブルーイング剤及びポリイミド系高分子を含有する単層であるか、ブルーイング剤及びポリイミド系高分子を含有する層を少なくとも有する積層体であるか、又は、ポリイミド系高分子を含有する基材層及びブルーイング剤を含有する色相調整層を少なくとも有する積層体である、前記〔1〕~〔4〕のいずれかに記載のポリイミドフィルム。
〔6〕少なくとも1層のブルーイング剤を含有する層を含み、ブルーイング剤を含有する各層における、該層の全質量を基準とするブルーイング剤の添加量をX(ppm)とし、該層の厚みをY(μm)として算出されるXとYの積(X×Y)を、ブルーイング剤を含有する全ての層について算出して合計した値は300~4,500である、前記〔1〕~〔5〕のいずれかに記載のポリイミドフィルム。
〔7〕ブルーイング剤は、式(6):
【化1】
[式(6)中、XはOH、NHR又はNRを表し、XはNHR又はNRを表し、R、R、R及びRは、互いに独立して、炭素数1~6の直鎖状又は分枝状アルキル基、又は、炭素数1~6の直鎖状又は分枝状アルキル基で置換されたフェニル基を表す。]
で表され、220℃以上の1%熱重量減少温度を有する化合物である、前記〔4〕~〔6〕のいずれかに記載のポリイミドフィルム。
〔8〕ブルーイング剤は、式(1)~式(3):
【化2】
で表される化合物からなる群から選択される少なくとも1種である、前記〔7〕に記載のポリイミドフィルム。
〔9〕さらにシリカ粒子を含有する、前記〔1〕~〔8〕のいずれかに記載のポリイミドフィルム。
【発明の効果】
【0009】
本発明のポリイミドフィルムは、上記所定の範囲である0<YI<1.0の黄色度YIを有するため、例えば白色の印刷が施されたべゼル部を有するフレキシブルディスプレイの前面板材料として使用する場合に視認性に優れる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】実施例における白色ベゼルおよびポリイミドフィルムでカバーされた部分を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。
【0012】
[ポリイミドフィルム]
(黄色度YI)
本発明のポリイミドフィルムは、黄色度YIが0<YI<1.0であるという特徴を有する。黄色度YIは、JIS K 7373:2006に準拠し、紫外可視分光光度計(例えば日本分光(株)製の分光光度計V-670)により、300~800nmの光に対する透過率測定を行い測定される3刺激値(x、y及びz)から、次の式により算出される。
【数1】
【0013】
本発明のポリイミドフィルムの黄色度YIは、0<YI<1.0である。このような黄色度を有するポリイミドフィルムは、フィルム単独で視認すると、青みがかって見える。
そのため、このような黄色度YIを有するポリイミドフィルムを例えば白色の印刷が施されたべゼル部を有するフレキシブルディスプレイの前面板材料として使用すると、ベゼル部の白色印刷も青みがかって見えると考えられる。しかしながら、YIを上記の範囲にすることにより、フィルム単独で視認すると青みがかって見えるにもかかわらず、前面板材料として使用すると、表示部の視認性を維持しつつ、ベゼル部の白色色相が維持されることがわかった。
【0014】
ポリイミドフィルムの黄色度が0以下であると、フィルムの青みが強すぎるために、ベゼル部の白色印刷及び表示部が青みがかって視認され好ましくない。また、青みが強くなるにつれてフィルムの全光線透過率も低下し得るため、視認性が低下する。ベゼル部の白色の色相を視認しやすくする観点からは、黄色度が0を超えることが好ましく、0.01以上であることがより好ましい。
【0015】
ポリイミドフィルムの黄色度が1以上であると、フィルム単独では青みがかって見える場合であっても、白色の印刷が施されたべゼル部を有するフレキシブルディスプレイの前面板材料として使用すると、その青みが十分でないために、ベゼル部の白色の色相が維持されず、黄味がかって視認されてしまう。ベゼル部の白色の色相を視認しやすくする観点からは、黄色度が1.0未満であることが好ましく、0.99以下であることがより好ましい。
【0016】
黄色度を上記範囲に調整する方法としては、例えば使用するポリイミド樹脂に無色透明な無機粒子などを添加する方法、ブルーイング剤を添加する方法などが挙げられる。
【0017】
(ポリイミド系高分子)
本発明のポリイミドフィルムは、ポリイミド系高分子を含有する。本明細書において、ポリイミド系高分子とは、イミド基を含む繰返し構造単位を含有する重合体(ポリイミド)、イミド基及びアミド基の両方を含む繰返し構造単位を含有する重合体、及びイミド基を含む繰り返し構造単位とアミド基を含む繰り返し構造単位との両方を含有する重合体から選ばれるいずれかを含むものを示す。
【0018】
ポリイミド系高分子は、例えば、後述するテトラカルボン酸化合物とジアミン化合物とを主な原料として製造することができる。本発明の一実施形態において、ポリイミド系高分子は、下記の式(10)で表される繰り返し構造単位を有する。ここで、Gは4価の有機基であり、Aは2価の有機基である。ポリイミド系高分子は、G及び/又はAが異なる、2種類以上の式(10)で表される構造を含んでいてもよい。
【0019】
【化3】
【0020】
また、ポリイミド系高分子は、ポリイミドフィルムの各種物性を損なわない範囲で、式(11)、式(12)及び式(13)で表される構造からなる群から選択される1以上を含んでいてもよい。
【0021】
【化4】
【0022】
G及びGは、それぞれ独立して、4価の有機基であり、好ましくは炭化水素基又はフッ素置換された炭化水素基で置換されていてもよい有機基である。有機基は、好ましくは炭素数4~40の4価の有機基である。炭化水素基及びフッ素置換された炭化水素基は、好ましくはその炭素数が1~8である。G及びGとしては、式(20)、式(21)、式(22)、式(23)、式(24)、式(25)、式(26)、式(27)、式(28)又は式(29)で表される基並びに4価の炭素数6以下の鎖式炭化水素基が例示される。
【0023】
【化5】
【0024】
式(20)~式(29)中、
*は結合手を表し、
Zは、単結合、-O-、-CH-、-CH-CH-、-CH(CH)-、-C(CH-、-C(CF-、-Ar-、-SO-、-CO-、-O-Ar-O-、-Ar-O-Ar-、-Ar-CH-Ar-、-Ar-C(CH-Ar-又は-Ar-SO-Ar-を表す。Arはフッ素原子で置換されていてもよい炭素数6~20のアリーレン基を表し、具体例としてはフェニレン基が挙げられる。得られるフィルムの黄色度を抑制しやすいことから、G及びGは、好ましくは式(20)、式(21)、式(22)、式(23)、式(24)、式(25)、式(26)又は式(27)で表される基である。
【0025】
は3価の有機基であり、好ましくは炭化水素基又はフッ素置換された炭化水素基で置換されていてもよい有機基である。前記有機基は、好ましくは炭素数4~40の3価の有機基である。炭化水素基及びフッ素置換された炭化水素基の炭素数は好ましくは1~8である。Gとしては、式(20)、式(21)、式(22)、式(23)、式(24)、式(25)、式(26)、式(27)、式(28)又は式(29)で表される基の結合手のいずれか1つが水素原子に置き換わった基並びに3価の炭素数6以下の鎖式炭化水素基が例示される。
【0026】
は2価の有機基であり、好ましくは炭化水素基又はフッ素置換された炭化水素基で置換されていてもよい有機基である。前記有機基は、好ましくは炭素数4~40の2価の有機基である。炭化水素基及びフッ素置換された炭化水素基の炭素数は、好ましくは1~8である。Gとしては、式(20)、式(21)、式(22)、式(23)、式(24)、式(25)、式(26)、式(27)、式(28)又は式(29)で表される基の結合手のうち、隣接しない2つが水素原子に置き換わった基及び炭素数6以下の鎖式炭化水素基が例示される。
【0027】
A、A、A及びAは、それぞれ独立して、2価の有機基であり、好ましくは炭化水素基又はフッ素置換された炭化水素基で置換されていてもよい有機基である。前記有機基の炭素数は、好ましくは4~40である。炭化水素基又はフッ素置換された炭化水素基の炭素数は好ましくは1~8である。A、A、A及びAとしては、式(30)、式(31)、式(32)、式(33)、式(34)、式(35)、式(36)、式(37)又は式(38)で表される基;それらがメチル基、フルオロ基、クロロ基又はトリフルオロメチル基で置換された基;及び炭素数6以下の鎖式炭化水素基が例示される。
【0028】
【化6】
【0029】
式(30)~式(38)中、
*は結合手を表し、
、Z及びZは、それぞれ独立して、単結合、-O-、-CH-、-CH-CH-、-CH(CH)-、-C(CH-、-C(CF-、-SO-又は-CO-を表す。
1つの例は、Z及びZが-O-であり、かつ、Zが-CH-、-C(CH-、-C(CF-又は-SO-である。ZとZとの各環に対する結合位置、及び、ZとZとの各環に対する結合位置は、それぞれ、各環に対してメタ位又はパラ位であることが好ましい。
【0030】
本発明のポリイミドフィルムは、ポリアミドを含んでいてもよい。ポリアミドとは、アミド基を含む繰返し構造単位を主に含有する重合体である。本実施形態に係るポリアミドは、上記の式(13)で表される繰り返し構造単位を主とする重合体である。好ましい例及び具体例は、ポリイミド系高分子におけるG及びAの好ましい例と同じである。G及び/又はAが異なる、2種類以上の式(13)で表される構造を含んでいてもよい。
【0031】
ポリイミド系高分子は、例えば、ジアミンとテトラカルボン酸化合物(テトラカルボン酸二無水物等)との重縮合によって得ることができ、例えば特開2006-199945号公報又は特開2008-163107号公報に記載されている方法にしたがって合成することができる。ポリイミドの市販品としては、三菱瓦斯化学(株)製ネオプリム(登録商標)、河村産業(株)製KPI-MX300Fなどを挙げることができる。
【0032】
ポリイミドの合成に用いられるテトラカルボン酸化合物としては、芳香族テトラカルボン酸二無水物等の芳香族テトラカルボン酸化合物;及び脂肪族テトラカルボン酸二無水物等の脂肪族テトラカルボン酸化合物が挙げられる。テトラカルボン酸化合物は、単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。テトラカルボン酸化合物は、二無水物の他、酸クロリド化合物等のテトラカルボン酸化合物類縁体であってもよい。
【0033】
芳香族テトラカルボン酸二無水物の具体例としては、4,4’-オキシジフタル酸二無水物(OPDAと記載することがある)、3,3’,4,4’-ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、2,2’,3,3’-ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物(BPDAと記載することがある)、2,2’,3,3’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’-ジフェニルスルホンテトラカルボン酸二無水物、2,2-ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)プロパン二無水物、2,2-ビス(2,3-ジカルボキシフェニル)プロパン二無水物、2,2-ビス(3,4-ジカルボキシフェノキシフェニル)プロパン二無水物、4,4’-(ヘキサフルオロイソプロピリデン)ジフタル酸二無水物(6FDAと記載することがある)、1,2-ビス(2,3-ジカルボキシフェニル)エタン二無水物、1,1-ビス(2,3-ジカルボキシフェニル)エタン二無水物、1,2-ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)エタン二無水物、1,1-ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)エタン二無水物、ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)メタン二無水物、ビス(2,3-ジカルボキシフェニル)メタン二無水物、4,4’-(p-フェニレンジオキシ)ジフタル酸二無水物、4,4’-(m-フェニレンジオキシ)ジフタル酸二無水物及び2,3,6,7-ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、1,2,4,5-ベンゼンテトラカルボン酸二無水物が挙げられる。
これらの中でも、好ましくは4,4’-オキシジフタル酸二無水物、3,3’,4,4’-ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、2,2’,3,3’-ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、2,2’,3,3’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’-ジフェニルスルホンテトラカルボン酸二無水物、2,2-ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)プロパン二無水物、2,2-ビス(2,3-ジカルボキシフェニル)プロパン二無水物、2,2-ビス(3,4-ジカルボキシフェノキシフェニル)プロパン二無水物、4,4’-(ヘキサフルオロイソプロピリデン)ジフタル酸二無水物(6FDA)、1,2-ビス(2,3-ジカルボキシフェニル)エタン二無水物、1,1-ビス(2,3-ジカルボキシフェニル)エタン二無水物、1,2-ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)エタン二無水物、1,1-ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)エタン二無水物、ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)メタン二無水物、ビス(2,3-ジカルボキシフェニル)メタン二無水物、4,4’-(p-フェニレンジオキシ)ジフタル酸二無水物及び4,4’-(m-フェニレンジオキシ)ジフタル酸二無水物が挙げられ、より好ましくは4,4’-オキシジフタル酸二無水物、3,3’,4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、2,2’,3,3’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、4,4’-(ヘキサフルオロイソプロピリデン)ジフタル酸二無水物(6FDA)、ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)メタン二無水物及び4,4’-(p-フェニレンジオキシ)ジフタル酸二無水物が挙げられる。これらは単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0034】
脂肪族テトラカルボン酸二無水物としては、環式又は非環式の脂肪族テトラカルボン酸二無水物が挙げられる。環式脂肪族テトラカルボン酸二無水物とは、脂環式炭化水素構造を有するテトラカルボン酸二無水物であり、その具体例としては、1,2,4,5-シクロヘキサンテトラカルボン酸二無水物、1,2,3,4-シクロブタンテトラカルボン酸二無水物、1,2,3,4-シクロペンタンテトラカルボン酸二無水物等のシクロアルカンテトラカルボン酸二無水物、ビシクロ[2.2.2]オクト-7-エン-2,3,5,6-テトラカルボン酸二無水物、ジシクロヘキシル3,3’-4,4’-テトラカルボン酸二無水物及びこれらの位置異性体が挙げられる。これらは単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。非環式脂肪族テトラカルボン酸二無水物の具体例としては、1,2,3,4-ブタンテトラカルボン酸二無水物、1,2,3,4-ペンタンテトラカルボン酸二無水物等が挙げられ、これらは単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。また、環式脂肪族テトラカルボン酸二無水物及び非環式脂肪族テトラカルボン酸二無水物を組み合わせて用いてもよい。
【0035】
上記テトラカルボン酸二無水物の中でも、高透明性及び低着色性の観点から、1,2,4,5-シクロヘキサンテトラカルボン酸二無水物、ビシクロ[2.2.2]オクト-7-エン-2,3,5,6-テトラカルボン酸二無水物及び4,4’-(ヘキサフルオロイソプロピリデン)ジフタル酸二無水物、並びにこれらの混合物が好ましい。
【0036】
なお、本実施形態に係るポリイミド系高分子は、ポリイミドフィルムの各種物性を損なわない範囲で、上記のポリイミド合成に用いられるテトラカルボン酸の無水物に加えて、テトラカルボン酸、トリカルボン酸及びジカルボン酸並びにそれらの無水物及び誘導体を更に反応させたものであってもよい。
【0037】
テトラカルボン酸としては、上記テトラカルボン酸化合物の無水物の水付加体が挙げられる。
【0038】
トリカルボン酸化合物としては、芳香族トリカルボン酸、脂肪族トリカルボン酸及びそれらの類縁の酸クロリド化合物、酸無水物等が挙げられ、2種以上を併用してもよい。
具体例としては、1,2,4-ベンゼントリカルボン酸の無水物;2,3,6-ナフタレントリカルボン酸-2,3-無水物;フタル酸無水物と安息香酸とが単結合、-CH-、-C(CH-、-C(CF-、-SO-もしくはフェニレン基で連結された化合物が挙げられる。
【0039】
ジカルボン酸化合物としては、芳香族ジカルボン酸、脂肪族ジカルボン酸及びそれらの類縁の酸クロリド化合物、酸無水物等が挙げられ、2種以上を併用してもよい。具体例としては、テレフタル酸;イソフタル酸;ナフタレンジカルボン酸;4,4’-ビフェニルジカルボン酸;3,3’-ビフェニルジカルボン酸;炭素数8以下である鎖式炭化水素のジカルボン酸化合物及び2つの安息香酸が単結合、-CH-、-S-、-C(CH-、-C(CF-、-O-、-NR-、-C(=O)-、-SO-もしくはフェニレン基で連結された化合物、並びにそれらの酸クロリド化合物が挙げられる。
【0040】
ジカルボン酸化合物としては、好ましくはテレフタル酸;イソフタル酸;4,4’-ビフェニルジカルボン酸;3,3’-ビフェニルジカルボン酸;及び2つの安息香酸-骨格が-CH-、-C(=O)-、-O-、-NR-、-SO-又はフェニレン基で連結された化合物であり、より好ましくは、テレフタル酸;4,4’-ビフェニルジカルボン酸;及び2つの安息香酸-骨格が-O-、-NR-、-C(=O)-又は-SO-で連結された化合物である。これらは単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。ここで、Rは、ハロゲン原子で置換されていてもよい炭素数1~12の炭化水素基を表す。
【0041】
テトラカルボン酸化合物、トリカルボン酸化合物、及びジカルボン酸化合物の合計に対する、テトラカルボン酸化合物の割合は、好ましくは40モル%以上であり、より好ましくは50モル%以上であり、更に好ましくは70モル%以上であり、より更に好ましくは90モル%以上であり、とりわけ好ましくは98モル%以上である。
【0042】
ポリイミドの合成に用いられるジアミンとしては、例えば、脂肪族ジアミン、芳香族ジアミン又はこれらの混合物が挙げられる。なお、本実施形態において「芳香族ジアミン」とは、アミノ基が芳香環に直接結合しているジアミンを表し、その構造の一部に脂肪族基又はその他の置換基を含んでいてもよい。芳香環は単環でも縮合環でもよく、ベンゼン環、ナフタレン環、アントラセン環及びフルオレン環等が例示されるが、これらに限定されるわけではない。これらの中でも、芳香環がベンゼン環であることが好ましい。また「脂肪族ジアミン」とは、アミノ基が脂肪族基に直接結合しているジアミンを表し、その構造の一部に芳香環やその他の置換基を含んでいてもよい。
【0043】
脂肪族ジアミンとしては、例えば、ヘキサメチレンジアミン等の非環式脂肪族ジアミン及び1,3-ビス(アミノメチル)シクロヘキサン、1,4-ビス(アミノメチル)シクロヘキサン、ノルボルナンジアミン、4,4’-ジアミノジシクロヘキシルメタン等の環式脂肪族ジアミン等が挙げられる。これらは単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0044】
芳香族ジアミンとしては、例えば、p-フェニレンジアミン、m-フェニレンジアミン、2,4-トルエンジアミン、m-キシリレンジアミン、p-キシリレンジアミン、1,5-ジアミノナフタレン、2,6-ジアミノナフタレン等の、芳香環を1つ有する芳香族ジアミン;4,4’-ジアミノジフェニルメタン、4,4’-ジアミノジフェニルプロパン、4,4’-ジアミノジフェニルエーテル(ODAと記載することがある)、3,4’-ジアミノジフェニルエーテル、3,3’-ジアミノジフェニルエーテル、4,4’-ジアミノジフェニルスルホン、3,4’-ジアミノジフェニルスルホン、3,3’-ジアミノジフェニルスルホン、1,4-ビス(4-アミノフェノキシ)ベンゼン、1,3-ビス(4-アミノフェノキシ)ベンゼン、ビス〔4-(4-アミノフェノキシ)フェニル〕スルホン、ビス〔4-(3-アミノフェノキシ)フェニル〕スルホン、2,2-ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]プロパン、2,2-ビス[4-(3-アミノフェノキシ)フェニル]プロパン、2,2’-ジメチルベンジジン、2,2’-ビス(トリフルオロメチル)ベンジジン(2,2’-ビス(トリフルオロメチル)-4,4’-ジアミノジフェニルとも言う、TFMBと記載することがある)、4,4’-ビス(4-アミノフェノキシ)ビフェニル、9,9-ビス(4-アミノフェニル)フルオレン、9,9-ビス(4-アミノ-3-メチルフェニル)フルオレン、9,9-ビス(4-アミノ-3-クロロフェニル)フルオレン、9,9-ビス(4-アミノ-3-フルオロフェニル)フルオレン等の、芳香環を2つ以上有する芳香族ジアミンが挙げられる。これらは単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0045】
芳香族ジアミンは、好ましくは4,4’-ジアミノジフェニルメタン、4,4’-ジアミノジフェニルプロパン、4,4’-ジアミノジフェニルエーテル、3,3’-ジアミノジフェニルエーテル、4,4’-ジアミノジフェニルスルホン、3,3’-ジアミノジフェニルスルホン、1,4-ビス(4-アミノフェノキシ)ベンゼン、ビス〔4-(4-アミノフェノキシ)フェニル〕スルホン、ビス〔4-(3-アミノフェノキシ)フェニル〕スルホン、2,2-ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]プロパン、2,2-ビス[4-(3-アミノフェノキシ)フェニル]プロパン、2,2’-ジメチルベンジジン、2,2’-ビス(トリフルオロメチル)ベンジジン(TFMB)、4,4’-ビス(4-アミノフェノキシ)ビフェニルである。
芳香族ジアミンは、より好ましくは、4,4’-ジアミノジフェニルメタン、4,4’-ジアミノジフェニルプロパン、4,4’-ジアミノジフェニルエーテル、4,4’-ジアミノジフェニルスルホン、1,4-ビス(4-アミノフェノキシ)ベンゼン、ビス〔4-(4-アミノフェノキシ)フェニル〕スルホン、2,2-ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]プロパン、2,2’-ジメチルベンジジン、2,2’-ビス(トリフルオロメチル)ベンジジン(TFMB)、4,4’-ビス(4-アミノフェノキシ)ビフェニルが挙げられる。
【0046】
上記ジアミンの中でも、高透明性及び低着色性の観点からは、ビフェニル構造を有する芳香族ジアミンからなる群から選ばれる1種以上を用いることが好ましい。2,2’-ジメチルベンジジン、2,2’-ビス(トリフルオロメチル)ベンジジン(TFMB)、4,4’-ビス(4-アミノフェノキシ)ビフェニル及び4,4’-ジアミノジフェニルエーテルからなる群から選ばれる1種以上を用いることがさらに好ましく、2,2’-ビス(トリフルオロメチル)ベンジジン(TFMB)を用いることがよりさらに好ましい。
【0047】
式(10)、式(11)、式(12)又は式(13)で表される繰り返し構造単位を少なくとも1種含む重合体であるポリイミド系高分子及びポリアミドは、ジアミンと、テトラカルボン酸化合物(酸クロリド化合物、テトラカルボン酸二無水物等のテトラカルボン酸化合物類縁体)、トリカルボン酸化合物(酸クロリド化合物、トリカルボン酸無水物等のトリカルボン酸化合物類縁体)及びジカルボン酸化合物(酸クロリド化合物等のジカルボン酸化合物類縁体)からなる群に含まれる少なくとも1種類の化合物との重縮合生成物である縮合型高分子である。出発原料としては、これらに加えて、さらにジカルボン酸化合物(酸クロリド化合物等の類縁体を含む)を用いることもある。式(11)で表される繰り返し構造単位は、通常、ジアミン類及びテトラカルボン酸化合物から誘導される。式(12)で表される繰り返し構造単位は、通常、ジアミン及びトリカルボン酸化合物から誘導される。式(13)で表される繰り返し構造単位は、通常、ジアミン及びジカルボン酸化合物から誘導される。ジアミン及びテトラカルボン酸化合物の具体例は、上述のとおりである。
【0048】
ジアミンと、テトラカルボン酸化合物等のカルボン酸化合物とのモル比は、ジアミン1molに対して、好ましくはテトラカルボン酸0.9mol以上1.1mol以下の範囲で適宜調節できる。高い耐折性を発現するためには得られるポリイミド系高分子が高分子量であることが好ましいことから、ジアミン1molに対してテトラカルボン酸0.98mol以上1.02molであることがより好ましく、0.99mol以上1.01mol以下であることがさらに好ましい。
また、得られるポリイミド系高分子フィルムの黄色度を抑制する観点から、得られる高分子末端に占めるアミノ基の割合が低いことが好ましく、ジアミン1molに対してテトラカルボン酸化合物等のカルボン酸化合物は1mol以上であることが好ましい。
【0049】
ポリイミド系高分子及びポリアミドの重量平均分子量は、好ましくは10,000~500,000、より好ましくは50,000~500,000であり、さらに好ましくは70,000~450,000、特に好ましくは100,000~400,000である。ポリイミド系高分子及びポリアミドの重量平均分子量が大きいほど、フィルム化した際に高い耐屈曲性を発現しやすい傾向がある。そのため、フィルムの耐屈曲性を高めやすい観点からは、重量平均分子量が上記の下限以上であることが好ましい。一方、ポリイミド系高分子及びポリアミドの重量平均分子量が小さいほど、ワニスの粘度を低くしやすく、加工性を向上させやすい傾向がある。また、ポリイミドフィルムの延伸性が向上しやすい傾向がある。そのため、加工性及び延伸性の観点からは、重量平均分子量が上記の上限以下であることが好ましい。なお、重量平均分子量は、GPC測定を行い、標準ポリスチレン換算により求めることができる。
【0050】
本発明の好ましい一実施形態において、本発明のポリイミドフィルムに含まれるポリイミド系高分子及びポリアミドは、例えば上記の含フッ素置換基等によって導入することができる、フッ素原子等のハロゲン原子を含んでよい。ポリイミド系高分子及びポリアミドがハロゲン原子を含む場合、ポリイミドフィルムの弾性率を向上させ且つ黄色度(YI値)を低減させやすい。ポリイミドフィルムの弾性率が高いと、ポリイミドフィルムにおけるキズ及びシワ等の発生を抑制しやすく、また、ポリイミドフィルムの黄色度が低いと、フィルムの透明性を向上させやすくなる。ハロゲン原子は、好ましくはフッ素原子である。ポリイミド系高分子及びポリアミドにフッ素原子を含有させるために好ましい含フッ素置換基としては、例えばフルオロ基及びトリフルオロメチル基が挙げられる。
【0051】
ポリイミド系高分子又はポリアミドにおけるハロゲン原子の含有量は、ポリイミド系高分子又はポリアミドの質量を基準として、好ましくは1~40質量%であり、より好ましくは5~40質量%である。ハロゲン原子の含有量の下限値は、10質量%以上であってもよく、20質量%以上であってもよい。好ましいハロゲン原子の含有量の範囲は、5~30質量%である。ハロゲン原子の含有量が1質量%以上であると、フィルム化した際の弾性率をより向上し、吸水率を下げ、YI値をより低減し、透明性をより向上させやすい。ハロゲン原子の含有量が40質量%を越えると、合成が困難になる場合がある。フッ素系置換基は、ジアミン又はカルボン酸化合物のいずれに存在してもよく、両方に存在してもよい。
【0052】
本発明の一実施形態において、ポリイミド系高分子は、ジアミンと、テトラカルボン酸化合物との重縮合反応によって生成することができる。この重縮合反応においては、イミド化触媒が存在してもよい。イミド化触媒としては、例えばトリプロピルアミン、ジブチルプロピルアミン、エチルジブチルアミン等の脂肪族アミン;N-エチルピペリジン、N-プロピルピペリジン、N-ブチルピロリジン、N-ブチルピペリジン、及びN-プロピルヘキサヒドロアゼピン等の脂環式アミン(単環式);アザビシクロ[2.2.1]ヘプタン、アザビシクロ[3.2.1]オクタン、アザビシクロ[2.2.2]オクタン、及びアザビシクロ[3.2.2]ノナン等の脂環式アミン(多環式);並びに2-メチルピリジン、3-メチルピリジン、4-メチルピリジン、2-エチルピリジン、3-エチルピリジン、4-エチルピリジン、2,4-ジメチルピリジン、2,4,6-トリメチルピリジン、3,4-シクロペンテノピリジン、5,6,7,8-テトラヒドロイソキノリン、及びイソキノリン等の芳香族アミンが挙げられる。
【0053】
ジアミン及びテトラカルボン酸化合物の反応温度は、特に限定されないが、例えば50~350℃である。反応時間も特に限定されないが、例えば30分~48時間程度である。必要に応じて、不活性雰囲気又は減圧の条件下において反応を行ってよい。また、反応は溶剤中で行ってよく、溶剤としては例えば、ポリイミドワニスの調製に用いられる下記溶剤が挙げられる。
【0054】
本発明の一実施形態において、ポリイミドフィルム中におけるポリイミド系高分子の含有量は、ポリイミドフィルムの全質量を基準として、好ましくは40質量%以上であり、より好ましくは50質量%以上であり、さらに好ましくは70質量%以上である。ポリイミド系高分子の含有量が上記の下限以上であることが、屈曲性を高めやすい観点から好ましい。なお、ポリイミドフィルム中におけるポリイミド系高分子の含有量は、ポリイミドフィルムの全質量を基準として、通常100質量%以下である。
【0055】
(ブルーイング剤)
本発明のポリイミドフィルムは、好ましくは着色剤、より好ましくはブルーイング剤をさらに含有する。ブルーイング剤は、可視光領域のうち、例えば、橙色から黄色などの波長領域の光を吸収し、色相を調整する添加剤(染料、顔料)であって、例えば、群青、紺青、コバルトブルーなどの無機系の染料や顔料、例えば、フタロシアニン系ブルーイング剤、縮合多環系ブルーイング剤などの有機系の染料や顔料などが挙げられる。ブルーイング剤は、特に限定されないが、耐熱性、耐光性、溶解性の観点からは、縮合多環系ブルーイング剤が好ましく、アントラキノン系ブルーイング剤がより好ましい。耐熱性の観点から、ブルーイング剤は、220℃以上の1%熱重量減少温度を有することが好ましい。ブルーイング剤の熱重量減少温度は、熱重量測定(TG)を用いて、一定速度で昇温した際の試料の重量減少を測定することによって得ることができる。1%熱重量減少温度は、仕込み重量に対して、重量減少が1%となる温度として求めることができる。なお、本明細書において、1%熱重量減少温度を「熱分解温度」とも称する。
【0056】
縮合多環系ブルーイング剤としては、例えばアントラキノン系ブルーイング剤、インジゴ系ブルーイング剤、フタロシアニン系ブルーイング剤が挙げられる。
【0057】
アントラキノン系ブルーイング剤は、式(5):
【化7】
で表されるアントラキノン環を含有するブルーイング剤である。アントラキノン系ブルーイング剤として、好ましくは式(6):
【化8】
[式(6)中、XはOH、NHR又はNRを表し、XはNHR又はNRを表し、R、R、R及びRは、互いに独立して、炭素数1~6の直鎖状又は分枝状アルキル基、又は、炭素数1~6の直鎖状又は分枝状アルキル基で置換されたフェニル基を表す。]
で表される一般式を有する化合物が挙げられる。式(6)中のX及びXは、互いに同一であってもよいし、異なっていてもよい。式(6)で表される化合物は、式中のX及びXのうち少なくとも1つが、炭素数1~6の直鎖状又は分枝状アルキル基で置換されたフェニル基を有することが好ましく、X又はXが炭素数1~6の直鎖状又は分枝状アルキル基で置換されたフェニル基を有することがより好ましい。
【0058】
アントラキノン系ブルーイング剤として、より好ましくは、式(1)~式(3)で表される化合物が挙げられる。
【化9】
【0059】
アントラキノン系ブルーイング剤は、市販品としても入手可能である。市販品としては、例えば、Plast Blue 8510、Plast Blue 8514、Plast Blue 8516、Plast Blue 8520、Plast Blue 8540、Plast Blue 8580、Plast Blue 8590(以上、いずれも有本化学工業(株)製)など、例えば、マクロレックスバイオレットB、マクロレックスバイオレット3R、マクロレックスブルーRR(以上、いずれもバイエル製)など、例えば、ダイアレジンブルーB、ダイアレジンバイオレットD、ダイアレジンブルーJ、ダイアレジンブルーN(以上、いずれも三菱化学(株)製)など、例えば、スミプラストバイオレットB、スミプラストブルーOA、スミプラストブルーGP、スミプラストタークブルーG、スミプラストブルーS、スミプラストグリーンG(以上、いずれも住友化学(株)製)などが挙げられる。
【0060】
インジゴ系ブルーイング剤は、インドキシル又はチオインドキシルを含有するブルーイング剤である。インジゴ系ブルーイング剤は、市販品としても入手可能である。市販品としては、例えば、Dystar Indigo 4B Coll Liq、DyStar Indigo Coat、Dystar Indigo Vat(以上、いずれもダイスター製)などが挙げられる。
【0061】
フタロシアニン系ブルーイング剤は、4つのフタル酸イミドが窒素原子で架橋された環状構造を含有するブルーイング剤である。フタロシアニン系ブルーイング剤は、市販品としても入手可能である。市販品としては、例えば、Chromofine Blue、Chromofine Green(以上、いずれも大日精化(株)製)、ピグメントブルー15、ピグメントブルー16(以上、いずれも東京化成工業(株)製)などが挙げられる。
【0062】
本発明のポリイミドフィルムは、耐熱性、耐光性、溶解性の観点から、アントラキノン系ブルーイング剤を含有することが好ましく、式(5)で表される構造を有する少なくとも1種のブルーイング剤を含有することがより好ましく、式(6)で表される構造を有する少なくとも1種のブルーイング剤を含有することがさらに好ましく、式(1)~式(3)で表される化合物からなる群から選択される少なくとも1種のブルーイング剤を含有することが特に好ましい。なお、式(1)~式(3)で表される化合物は、市販品としても入手可能である。市販品としては、スミプラストバイオレットB(式(1)で表される化合物、熱分解温度:277℃)、スミプラストブルーOA(式(2)で表される化合物、熱分解温度:248℃)及びスミプラストブルーGP(式(3)で表される化合物、熱分解温度:255℃)が挙げられる。
【0063】
ブルーイング剤は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。全光線透過率を高く維持する観点からは、ブルーイング剤の総使用量(配合量)は相対的に少なくする方が好ましく、使用するブルーイング剤の種類も少ない方が好ましい。
【0064】
本発明のポリイミドフィルムがブルーイング剤を含有する場合、フィルムの成形加工性の観点から、ブルーイング剤の1%熱重量減少温度は、好ましくは220℃以上、より好ましくは240℃以上である。ブルーイング剤の1%熱重量減少温度の測定方法は、上記に述べたとおりである。
【0065】
本発明のポリイミドフィルムがブルーイング剤を含有する場合、ブルーイング剤の含有量は、ポリイミドフィルムの全質量を基準として、好ましくは5ppm以上、より好ましくは8ppm以上、さらに好ましくは10ppm以上である。ブルーイング剤の含有量が上記の下限以上である場合、YIを十分に低下させ、ベゼル部の白色印刷の視認性を向上しやすいため好ましい。また、上記含有量は好ましくは55ppm以下、より好ましくは50ppm以下である。ブルーイング剤の含有量が上記の上限以下である場合、全光線透過率が低下しすぎることなく、ベゼル部の白色印刷の視認性と全体的な視認性を両立しやすいため好ましい。
【0066】
ポリイミドフィルムあるいは積層体がブルーイング剤を含有し、少なくとも1層のブルーイング剤を含有する層を含む場合、ブルーイング剤を含有する各層について、該層の全質量を基準とするブルーイング剤の添加量をX(ppm)とし、該層の厚みをY(μm)として算出される、各層におけるXとYの積(X×Y)を、ブルーイング剤を含有する全ての層について算出して合計した値は、好ましくは300~4,500であり、より好ましくは400~4,250であり、さらに好ましくは500~4,000である。XとYの積(X×Y)の合計が上記の範囲内であると、所望の黄色度YIを有するポリイミドフィルムを得やすい。
【0067】
(無機粒子)
本発明のポリイミドフィルムは、強度を高める観点から、ポリイミド系高分子の他に無機粒子等の無機材料を更に含有してもよい。無機材料としては、例えば、チタニア粒子、アルミナ粒子、ジルコニア粒子、シリカ粒子等の無機粒子、及びオルトケイ酸テトラエチル等の4級アルコキシシラン等のケイ素化合物等が挙げられる。ポリイミドフィルムを製造するためのポリイミドワニスの安定性の観点から、無機材料は好ましくは無機粒子であり、より好ましくはシリカ粒子である。シリカ粒子として、有機溶剤等にシリカ粒子を分散させたシリカゾルを用いてもよいし、気相法で製造したシリカ微粒子粉末を用いてもよいが、ハンドリングが容易であることからシリカゾルを用いることが好ましい。ここで、無機粒子同士は、シロキサン結合を有する分子により結合されていてもよい。
【0068】
無機粒子の平均一次粒子径は、好ましくは5~100nm、より好ましくは10~90nmであり、さらに好ましくは20~80nmである。無機粒子の平均一次粒子径が上記の上限以下であることが、ポリイミドフィルムの透明性を高めやすい観点から好ましい。また、無機粒子の平均一次粒子径が上記の下限以上であることが、無機粒子の凝集力が高まりすぎることなく取扱いしやすい観点から好ましい。ここで、ポリイミドフィルム中に含まれ得る無機材料の平均一次粒子径は、透過型電子顕微鏡による定方向径の10点の平均値を測定することにより決定することができる。なお、ポリイミドフィルムを形成する前の無機粒子の粒度分布は、市販のレーザー回折式粒度分布計を用いて測定することができる。
【0069】
ポリイミドフィルムが無機材料を含む場合、ポリイミドフィルム中の無機材料の含有量は、ポリイミドフィルムの全質量を基準として、好ましくは0質量%以上90質量%以下、より好ましくは0質量%以上60質量%以下、さらに好ましくは0質量%以上40質量%以下である。無機材料の含有量が上記範囲内であると、ポリイミドフィルムの透明性及び機械物性を両立させやすい傾向がある。
【0070】
本発明の一実施態様において、本発明のポリイミドフィルムはシリカ粒子を含有する。シリカ粒子を含有すると、機械的強度、例えば弾性率や耐屈曲性等を向上しやすい。シリカ粒子の平均一次粒子径は、好ましくは5nm以上、より好ましくは10nm以上、さらに好ましくは15nm以上、特に好ましくは20nm以上であり、好ましくは100nm以下、より好ましくは80nm以下、さらに好ましくは60nm以下、特に好ましくは40nm以下である。シリカ粒子の平均一次粒子径が上記範囲であると、シリカ粒子の凝集を抑制し、ポリイミドフィルムの曇り度(Haze)及び黄色度(YI値)を低減できる。なお、シリカ粒子の平均一次粒子径は、例えばBET法により測定できる。シリカ粒子の含有量は、ポリイミドフィルムの質量に対して、通常0.1質量%以上、好ましくは1質量%以上、より好ましくは5質量%以上、さらに好ましくは10質量%以上、特に好ましくは20質量%以上であり、好ましくは60質量%以下、より好ましくは50質量%以下である。シリカ粒子の含有量が上記の下限以上であると弾性率や耐屈曲性を向上しやすく、またシリカ粒子の含有量が上記の上限以下であると、曇り度(Haze)及び黄色度(YI値)をより低減しやすい。
【0071】
(紫外線吸収剤)
ポリイミドフィルムは、1種又は2種以上の紫外線吸収剤を含有していてもよい。紫外線吸収剤は、樹脂材料の分野で紫外線吸収剤として通常用いられているものから、適宜選択することができる。紫外線吸収剤は、400nm以下の波長の光を吸収する化合物を含んでいてもよい。紫外線吸収剤としては、例えば、ベンゾフェノン系化合物、サリシレート系化合物、ベンゾトリアゾール系化合物、及びトリアジン系化合物からなる群より選ばれる少なくとも1種の化合物が挙げられる。ポリイミドフィルムが紫外線吸収剤を含有することにより、ポリイミド樹脂の劣化が抑制されるため、ポリイミドフィルムの視認性を高めることができる。
【0072】
本明細書において、「系化合物」とは、当該「系化合物」が付される化合物及びその誘導体を指す。例えば、「ベンゾフェノン系化合物」とは、ベンゾフェノン及び母体骨格としてのベンゾフェノンと、ベンゾフェノンに結合している置換基とを有する化合物を指す。
【0073】
ポリイミドフィルムが紫外線吸収剤を含有する場合、紫外線吸収剤の含有量は、ポリイミドフィルムの全質量に対して、好ましくは1質量%以上、より好ましくは2質量%以上、さらに好ましくは3質量%以上であり、好ましくは10質量%以下、より好ましくは8質量%以下、さらに好ましくは6質量%以下である。紫外線吸収剤が上記範囲内であると、ポリイミドフィルムの耐候性を特に効果的に高めるとともに、透明性の高いポリイミドフィルムを得ることができる。
【0074】
(他の添加剤)
ポリイミドフィルムは、透明性、屈曲性及び位相差性を損なわない範囲で、更に他の添加剤を含有していてもよい。他の添加剤としては、例えば、酸化防止剤、離型剤、安定剤、ブルーイング剤、難燃剤、pH調整剤、シリカ分散剤、滑剤、増粘剤、及びレベリング剤等が挙げられる。
【0075】
他の添加剤の含有量は、ポリイミドフィルムの質量に対して、好ましくは0質量%以上20質量%以下、より好ましくは0質量%以上10質量%以下である。
【0076】
(厚さ)
本発明のポリイミドフィルムの厚みは、黄色度YIが0<YI<1.0の範囲にあればよく、用途に応じて適宜調整することができる。ポリイミドフィルムの厚みは、好ましくは20~200μm、より好ましくは25~150μm、さらに好ましくは30~100μm、特に好ましくは50~100μmである。なお、本発明において、厚みは接触式のデジマチックインジケーターによって測定することができる。厚みが上記の下限以上であることが、フィルムとしての取扱い性を向上しやすく、鉛筆硬度などを高めやすいため好ましい。また、厚みが上記の上限以下であることが、フィルムの屈曲耐性を高めやすいため好ましい。
【0077】
(全光線透過率)
本発明のポリイミドフィルムは、JIS K 7105:1981に準拠した全光線透過率が好ましくは88.0%以上、より好ましくは88.5%以上、さらに好ましくは89.0%以上、特に好ましくは89.5%以上、きわめて好ましくは90.0%以上である。ポリイミドフィルムの全光線透過率が上記の下限以上であると、ポリイミドフィルムを画像表示装置に組み込んだ際に、十分な視認性を確保することができる。なお、ポリイミドフィルムの全光線透過率の上限値は通常100%以下である。全光線透過率は、上記のフィルムの厚さの範囲において88.0%以上であることが好ましく、50~100μmの厚さで測定した際に上記の数値を示すことがより好ましい。
【0078】
(視認性)
本発明のポリイミドフィルムは、黄色度YIが0<YI<1.0であるため、白色の印刷が施されたべゼル部を有するフレキシブルディスプレイの前面板材料として使用する場合に視認性に優れる。ポリイミドフィルムの視認性は、50~100μmの厚さのポリイミドフィルムであって、黄色度YIが0.01以上であり、かつ上記の全光線透過率が89.0%以上であると、当該フィルムを市販の白ベゼル印刷されたディスプレイに設置したときの色目を目視で観察したときに、白ベゼルが白色に見え、さらに文字を正しく認識することができる傾向となる。さらには、50~100μmの厚さのポリイミドフィルムであって、黄色度YIが0.01以上であり、かつ上記の全光線透過率が90.0%以上であると、当該フィルムを市販の白ベゼル印刷されたディスプレイに設置したときの色目を目視で観察したときに、白ベゼルが白色に見え、さらに文字を明確に認識することができる傾向となる。
ポリイミドフィルムの黄色度YIが、1以上である場合や、又は0以下である場合は、全光線透過率が89.0%以上であっても、当該フィルムを市販の白ベゼル印刷されたディスプレイに設置したときの色目を目視で観察したときに、白ベゼルは黄みを帯びた白色か又は青みを帯びた白色で視認される傾向にある。なお、視認性は、例えば実施例に記載の方法により評価できる。
【0079】
(層構成)
本発明のポリイミドフィルムの層構成は特に限定されず、単層であってもよいし、2層以上の多層であってもよい。ポリイミドフィルムが多層の構成である場合、ブルーイング剤を含有する層が2層以上含まれていてもよい。画像表示装置の薄膜化や、経済性の観点からは、ブルーイング剤及びポリイミド系高分子を1つの層に含有することが好ましく、具体的には、ブルーイング剤及びポリイミド系高分子を含有する単層であるか、ブルーイング剤及びポリイミド系高分子を含有する層を少なくとも有する積層体であることがより好ましい。また、耐衝撃特性の観点からは、本発明のポリイミドフィルムは2層以上の多層構造を有することが好ましく、ブルーイング剤及びポリイミド系高分子を含有する層を少なくとも有する積層体であるか、又は、ポリイミド系高分子を含有する基材層及びブルーイング剤を含有する色相調整層を少なくとも有する積層体であることがより好ましく、ブルーイング剤及びポリイミド系高分子を含有する層を少なくとも有する積層体であることがさらに好ましい。ブルーイング剤及びポリイミド系高分子を含有する層を形成する際、ポリイミド系高分子を含有する溶媒にブルーイング剤を添加しワニスを調製し、ワニスを塗工し、ワニスに含まれる溶媒を乾燥させてフィルムを製膜する。ここで、通常のブルーイング剤は、ワニスから溶媒を乾燥させるフィルム製膜時に、熱分解など劣化を伴うことが多い。そのため、1つの層にブルーイング剤及びポリイミド系高分子を含有させて、色相調整層の機能を単層において達成しやすい観点からは、少なくとも200℃以上の熱分解温度を有するブルーイング剤を用いることが好ましい。1つの層にブルーイング剤及びポリイミド系高分子を含有するポリイミドフィルムは、画像表示装置の薄膜化や、経済性の観点から好ましい。
【0080】
[ポリイミド積層体]
本発明のポリイミドフィルムは、上記層構成のポリイミドフィルムにさらに1以上の機能層を積層させた、ポリイミド積層体であってもよい。本明細書において、単に「ポリイミドフィルム」という場合は、上記層構成のポリイミドフィルム及びポリイミド積層体のどちらであってもよく、いずれも該当する。機能層としては、ハードコート層、紫外線吸収層、粘着層、屈折率調整層、プライマー層等の種々の機能を有する層が挙げられる。機能層の厚さは、ポリイミドフィルムに積層する機能層の種類により、適宜の厚さに調整することができる。ポリイミドフィルムは、単数又は複数の機能層を備えていてもよい。また、1つの機能層が複数の機能を有してもよい。例えば、本発明のポリイミドフィルムが単層構成である場合、単層のポリイミドフィルムに上記機能層を形成させて、多層構成のポリイミド積層体を得てよい。また、本発明のポリイミドフィルムが上記基材層及び色相調整層を少なくとも有する場合、上記のハードコート層、紫外線吸収層、粘着層、屈折率調整層、プライマー層等の種々の機能を有する機能層にブルーイング剤を添加して、これら機能層を色相調整層としてもよい。また、本発明のポリイミドフィルムが上記基材層及び色相調整層を少なくとも有する場合、これにさらに機能層を積層させてもよい。
【0081】
ハードコート層は、ポリイミドフィルムの視認側表面に配置されることが好ましい。ハードコート層の厚さは、例えば、2μm~20μmとすることができる。ハードコート層は、単層構造であってもよく、多層構造であってもよい。ハードコート層はハードコート層樹脂を含んでなり、ハードコート層樹脂としては、例えば、アクリル系樹脂、エポキシ系樹脂、ウレタン系樹脂、ベンジルクロライド系樹脂、ビニル系樹脂もしくはシリコーン系樹脂又はこれらの混合樹脂等の紫外線硬化型、電子線硬化型、又は熱硬化型の樹脂が挙げられる。特に、ハードコート層は、表面硬度等の機械物性及び工業上な観点から、アクリル系樹脂を含んでなることが好ましい。
【0082】
アクリル系樹脂としては、ウレタンアクリレート、ウレタンメタクリレート(以下、アクリレート及び/又はメタクリレートは(メタ)クリレートと記載する)、アルキル(メタ)クリレート、エステル(メタ)クリレート、及びエポキシ(メタ)クリレート、並びにその重合体及び共重合体等が挙げられる。具体的には、メチル(メタ)クリレート、ブチル(メタ)クリレート、メトキシエチル(メタ)クリレート、ブトキシエチル(メタ)クリレート、フェニル(メタ)クリレート、エチレングリコールジ(メタ)クリレート、プロピレングリコールジ(メタ)クリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)クリレート、ジプロピレングリコールジ(メタ)クリレート、及びペンタエリスリトールトリ(メタ)クリレート、並びにその重合体及び共重合体等が挙げられる。
【0083】
紫外線吸収層は、紫外線吸収の機能を有する層であり、例えば、紫外線硬化型の透明樹脂、電子線硬化型の透明樹脂、及び熱硬化型の透明樹脂から選ばれる主材と、この主材に分散した紫外線吸収剤とから構成される。機能層として紫外線吸収層を設けることにより、光照射による黄色度の変化を容易に抑制することができる。紫外線吸収層の厚さは、例えば、2μm~20μmとすることができる。
【0084】
粘着層は、粘着性の機能を有する層であり、ポリイミドフィルムやポリイミド積層体を他の部材に接着させる機能を有する。粘着層の形成材料としては、通常知られたものを用いることができる。例えば、熱硬化性樹脂組成物又は光硬化性樹脂組成物を用いることができる。
【0085】
粘着層は、重合性官能基を有する成分を含む樹脂組成物から構成されていてもよい。この場合、ポリイミドフィルム又はポリイミド積層体を他の部材に密着させた後に粘着層を構成する樹脂組成物をさらに重合させることにより、強固な接着を実現することができる。ポリイミドフィルム又はポリイミド積層体と粘着層との接着強度は、0.1N/cm以上、又は0.5N/cm以上であってもよい。
【0086】
粘着層は、熱硬化性樹脂組成物又は光硬化性樹脂組成物を材料として含んでいてもよい。この場合、事後的にエネルギーを供給することで樹脂組成物を高分子化し硬化させることができる。
【0087】
粘着層は、感圧型接着剤(Pressure Sensitive Adhesive、PSA)と呼ばれる、押圧により対象物に貼着される層であってもよい。感圧型接着剤は、「常温で粘着性を有し、軽い圧力で被着材に接着する物質」(JIS K6800)である粘着剤であってもよく、「特定成分を保護被膜(マイクロカプセル)に内容し、適当な手段(圧力、熱等)によって被膜を破壊するまでは安定性を保持できる接着剤」(JIS K6800)であるカプセル型接着剤であってもよい。
【0088】
屈折率調整層は、屈折率調整の機能を有する層であり、ポリイミドフィルムとは異なる屈折率を有し、これを有するポリイミド積層体に所定の屈折率を付与することができる層である。屈折率調整層は、例えば、適宜選択された樹脂、及び場合によりさらに顔料を含有する樹脂層であってもよいし、金属の薄膜であってもよい。
【0089】
屈折率を調整する顔料としては、例えば、酸化珪素、酸化アルミニウム、酸化アンチモン、酸化錫、酸化チタン、酸化ジルコニウム及び酸化タンタルが挙げられる。顔料の平均粒子径は、0.1μm以下であってもよい。顔料の平均粒子径を0.1μm以下とすることにより、屈折率調整層を透過する光の乱反射を防止し、透明度の低下を防止することができる。
【0090】
屈折率調整層に用いられる金属としては、例えば、酸化チタン、酸化タンタル、酸化ジルコニウム、酸化亜鉛、酸化錫、酸化ケイ素、酸化インジウム、酸窒化チタン、窒化チタン、酸窒化ケイ素、窒化ケイ素等の金属酸化物又は金属窒化物が挙げられる。
【0091】
プライマー層は、ポリイミドフィルムと機能層との間に、これらの層間の密着性を高める等の目的で配置してよい。ポリイミドフィルムの両方の表面に機能層が配置される場合、ポリイミドフィルムと一方の機能層との間のみにプライマー層が配置されてもよく、ポリイミドフィルムと一方の機能層との間及びポリイミドフィルムと他方の機能層との間の両方にプライマー層が配置されてもよい。プライマー層の厚さは、0.05μm~5μmとすることができる。
【0092】
プライマー層は、プライマー剤から形成された層であり、ポリイミドフィルムとハードコート層との密着性を高めることができる。プライマー層に含まれる化合物が、ポリイミドフィルムに含まれるポリイミド系高分子等と、界面において化学結合していてもよい。
【0093】
プライマー剤として、例えば、紫外線硬化型、熱硬化型又は2液硬化型のエポキシ系化合物のプライマー剤がある。プライマー剤は、ポリアミック酸であってもよい。これらは、ポリイミドフィルムとハードコート層との密着性を高めるために好適である。
【0094】
プライマー剤は、シランカップリング剤を含んでいてもよい。シランカップリング剤は、縮合反応によりポリイミドフィルムに含まれ得るケイ素化合物と化学結合してもよい。
シランカップリング剤は、特にポリイミドフィルムに含まれ得るケイ素化合物の配合比が高い場合に好適に用いることができる。
【0095】
シランカップリング剤は、ケイ素原子と、該ケイ素原子に共有結合した1~3個のアルコキシ基とを有するアルコキシシリル基を有する化合物である。ケイ素原子にアルコキシ基が2個以上共有結合している構造を含む化合物が好ましく、ケイ素原子にアルコキシ基が3個共有結合している構造を含む化合物がより好ましい。上記アルコキシ基として、例えば、メトキシ基、エトキシ基、イソプロポキシ基、n-ブトキシ基、tert-ブトキシ基等が挙げられる。なかでも、メトキシ基、エトキシ基がケイ素材料との反応性を高めることができるため好ましい。
【0096】
シランカップリング剤は、ポリイミドフィルム及びハードコート層との親和性の高い置換基を有することが好ましい。ポリイミドフィルムに含まれるポリイミド系高分子との親和性の観点から、シランカップリング剤の置換基は、エポキシ基、アミノ基、ウレイド基又はイソシアネート基であることが好ましい。ハードコート層が(メタ)クリレート類を含む場合、プライマー層に用いられ得るシランカップリング剤が、エポキシ基、メタクリル基、アクリル基、アミノ基又はスチリル基を有していると、親和性が高まるので好ましい。これらのなかでも、メタクリル基、アクリル基及びアミノ基から選ばれる置換基を有するシランカップリング剤は、ポリイミドフィルムとハードコート層との親和性に優れる傾向を示すため好ましい。
【0097】
上記に述べた機能層、好ましくはハードコート層及び/又はプライマー層にブルーイング剤を添加して、これら機能層を色相調整層とすることが製造の観点から好ましい。したがって、この実施形態において色相調整層は、上記ハードコート層及び/又はプライマー層について記載した樹脂及びその他の成分を含有することが好ましく、ハードコート層について記載した樹脂及びその他の成分を含有することがより好ましい。本発明のポリイミドフィルムが基材層及び色相調整層を少なくとも有する本発明の一実施形態において、色相調整層に含まれるブルーイング剤の含有量は、色相調整層に含まれる樹脂成分、好ましくはハードコート形成成分、より好ましくはアクリル系樹脂を基準として、好ましくは100ppm以上、より好ましくは300ppm以上、さらに好ましくは500ppm以上である。ブルーイング剤の含有量が上記の下限以上である場合、ハードコート層の厚みを適切な範囲に入れることができるため好ましい。また、上記含有量は好ましくは4,000ppm以下、より好ましくは3,000ppm以下、さらに好ましくは2,500ppm以下である。ブルーイング剤の含有量が上記の上限以下である場合、高い透過率を維持できるため好ましい。
【0098】
[製造方法]
本発明のポリイミドフィルムの製造方法の一例について説明する。
【0099】
本発明の一実施形態において、ポリイミドフィルムは、例えば以下の工程:
(a)ポリイミド系高分子を含む液(ポリイミドワニス)を基材に塗布して塗膜を形成する工程(塗布工程)、及び
(b)塗布された液(ポリイミドワニス)を乾燥させてポリイミドフィルムを形成する工程(フィルム形成工程)
を含む製造方法によって製造することができる。工程(a)及び(b)は、通常この順で行ってよい。
【0100】
塗布工程においては、まずポリイミド系高分子を含む液(ポリイミドワニス)を調製する。ポリイミドワニスの調製のために、前記テトラカルボン酸化合物、前記ジアミン、及び必要に応じて他の成分を混合し、反応させてポリイミド混合液を調製する。このポリイミド混合液に、溶剤、必要に応じて上記ブルーイング剤、紫外線吸収剤及び他の添加剤を添加し、攪拌することにより、ポリイミド系高分子を含む液(ポリイミドワニス)を調製する。ポリイミド混合液に代えて、購入したポリイミド系高分子等の溶液や、購入した固体のポリイミド系高分子等の溶液を用いてもよい。
【0101】
ポリイミドワニスの調製に用いられる溶剤は、ポリイミド系高分子を溶解可能であれば特に限定されない。かかる溶剤としては、例えばN,N-ジメチルアセトアミド、N,N-ジメチルホルムアミド等のアミド系溶剤;γ-ブチロラクトン、γ-バレロラクトン等のラクトン系溶剤;ジメチルスルホン、ジメチルスルホキシド、スルホラン等の含硫黄系溶剤;エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート等のカーボネート系溶剤;及びそれらの組み合わせ(混合溶剤)が挙げられる。これらの溶剤の中でも、アミド系溶剤又はラクトン系溶剤が好ましい。また、ポリイミドワニスには水が含まれてもよい。
【0102】
次に、例えば公知のロール・ツー・ロールやバッチ方式により、樹脂基材、SUSベルト、又はガラス基材等の基材上に、ポリイミドワニスを用いて、流涎成形等によって塗膜を形成する。
【0103】
フィルム形成工程において、塗膜を乾燥し、基材から剥離することによって、ポリイミドフィルムを形成することができる。剥離後に更にポリイミドフィルムを乾燥する乾燥工程を行ってもよい。塗膜の乾燥は、通常50~350℃の温度にて行うことができる。
必要に応じて、不活性雰囲気又は減圧の条件下において塗膜の乾燥を行ってよい。
【0104】
ポリイミドフィルムの少なくとも一方の表面に、表面処理を施す表面処理工程を行ってもよい。表面処理としては、例えばUVオゾン処理、プラズマ処理、及びコロナ放電処理が挙げられる。
【0105】
樹脂基材の例としては、PETフィルム、PENフィルム、ポリイミドフィルム、及びポリアミドイミドフィルム等が挙げられる。中でも、耐熱性に優れる観点から、PETフィルム、PENフィルム、ポリイミドフィルム、及びポリアミドイミドフィルムが好ましい。さらに、ポリイミドフィルムとの密着性及びコストの観点から、PETフィルムがより好ましい。
【0106】
本発明のポリイミドフィルムがポリイミド系高分子及びブルーイング剤を含有する単層である場合、かかる層は、上記ポリイミド系高分子を含む液(ポリイミドワニス)にさらに少なくとも1種のブルーイング剤を添加して得たポリイミドワニスを用いることにより、上記と同様にして製造することができる。ここで、通常のブルーイング剤は、ワニスから溶媒を乾燥させるフィルム製膜時に、熱分解など劣化を伴うことが多い。そのため、1つの層にブルーイング剤及びポリイミド系高分子を含有させる本発明の好ましい一態様においては、少なくとも220℃以上の熱分解温度を有するブルーイング剤を用いることが好ましい。
【0107】
本発明のポリイミドフィルムがポリイミド系高分子及びブルーイング剤を含有する層を少なくとも有する積層体である場合、かかる積層体は、例えば、上記ポリイミド系高分子を含む液(ポリイミドワニス)にさらに少なくとも1種のブルーイング剤を添加して得たポリイミドワニスを上記基材上に塗工して、積層体として製造してもよいし、あるいは、上記のようにして得たポリイミド系高分子及びブルーイング剤を含有する単層を別の層に貼り合せるか、又は、上記に述べた機能層を該単層に設けることにより製造してもよい。
この態様においても、1つの層にブルーイング剤及びポリイミド系高分子が含有されるため、少なくとも220℃以上の熱分解温度を有するブルーイング剤を用いることが好ましい。
【0108】
本発明のポリイミドフィルムがポリイミド系高分子を含有する基材層及びブルーイング剤を含有する色相調整層を少なくとも有する積層体である場合、かかる積層体は、例えば、以下の工程:
(c)ポリイミドフィルム上に、ブルーイング剤を含有する組成物(以下において「ブルーイング剤組成物」とも称します)を塗布して塗膜を形成する工程(塗膜形成工程)によって製造することができる。
【0109】
塗膜形成工程において、まずブルーイング剤組成物を調製する。例えば、ブルーイング剤組成物は、上記ハードコート層樹脂、及び必要に応じて光重合開始剤、有機溶剤及び/又は無機酸化物を含有してよく、これらの成分を混合することによって調製してよい。この場合、ブルーイング剤を含有する色相調整層は、ハードコート層の機能も併せ持つ。この実施形態において、光重合開始剤としては、例えばベンゾイン系化合物、ベンゾフェノン系化合物、アルキルフェノン系化合物、アシルホスフィンオキサイド系化合物、トリアジン系化合物、ヨードニウム塩、及びスルホニウム塩等が挙げられる。有機溶剤としては、例えばエタノール、エチレングリコール、イソプロピルアルコール、及びプロピレングリコール等のアルコール溶剤;酢酸エチル、及びγ-ブチロラクトン等のエステル溶剤;アセトン、メチルエチルケトン、及びシクロペンタノン等のケトン溶剤;ペンタン等の脂肪族炭化水素溶剤;並びにトルエン、及びキシレン等の芳香族炭化水素溶剤が挙げられる。光重合開始剤及び/又は有機溶剤は、単独でもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。また、ハードコート層組成物は上記他の添加剤を含んでもよい。
【0110】
次に、ポリイミドフィルム上にブルーイング剤組成物を塗布して塗膜を形成する。ポリイミドフィルムと塗膜との形成順序は逆でもよく、基材上にブルーイング剤組成物を塗布して塗膜を形成した後、その塗膜上にポリイミドフィルムの塗膜を形成してもよい。また、ポリイミドフィルムに公知の接着剤及び/又は粘着剤を用いて貼り合せてもよい。
【0111】
ポリイミドフィルム上に形成された塗膜の乾燥を行ってもよい。塗膜の乾燥は、温度50~150℃にて溶剤を蒸発させることにより行うことができ、乾燥時間は通常30~180秒である。大気下、不活性雰囲気下、又は減圧の条件下で乾燥させてもよい。
【0112】
硬化工程において、塗膜(樹脂組成物)に高エネルギー線(活性エネルギー線)を照射し、塗膜を硬化させて色相調整層を形成する。照射強度は、ブルーイング剤組成物の組成によって適宜決定され、特に限定されないが、光重合開始剤の活性化に有効な波長領域の照射が好ましい。照射強度は、好ましくは0.1~6,000mW/cm、より好ましくは10~1,000mW/cm、さらに好ましくは20~500mW/cmである。照射強度が前記範囲内であると、適当な反応時間を確保でき、光源から輻射される熱及び硬化反応時の発熱による樹脂の黄変や劣化を抑えることができる。照射時間は、ハードコート層組成物の組成によって適宜選択すればよく、特に制限されるものではないが、前記照射強度と照射時間との積として表される積算光量が好ましくは10~10,000mJ/cm、より好ましくは50~1,000mJ/cm、さらに好ましくは80~500mJ/cmとなるように設定される。積算光量が前記範囲内であると、光重合開始剤由来の活性種を十分量発生させて、硬化反応をより確実に進行させることができ、また、照射時間が長くなりすぎず、良好な生産性を維持できる。また、この範囲での照射工程を経ることで、色相調整層の硬度をさらに高め得るため有用である。
【0113】
なお、高エネルギー線の照射によって光硬化性接着剤を硬化させる場合、例えば、ポリイミドフィルムの位相差や透明性等の光学機能が低下しない条件で硬化を行うことが好ましい。
【0114】
[画像表示装置]
本発明のポリイミドフィルムは、画像表示装置の前面板、特にフレキシブルディスプレイの前面板(ウィンドウフィルム)として有用である。本発明の別の実施形態においては、本発明のポリイミドフィルムを備える画像表示装置、特にフレキシブルディスプレイも提供される。本実施形態に係るフレキシブルディスプレイは、例えば、フレキシブル機能層と、フレキシブル機能層に重ねられて前面板として機能する上記ポリイミドフィルムを有する。すなわち、フレキシブルディスプレイの前面板は、フレキシブル機能層の上の視認側に配置される。この前面板は、フレキシブル機能層を保護する機能を有する。
【0115】
画像表示装置としては、テレビ、スマートフォン、携帯電話、カーナビゲーション、タブレットPC、携帯ゲーム機、電子ペーパー、インジケーター、掲示板、時計、及びスマートウォッチ等のウェアラブルデバイス等が挙げられる。フレキシブルディスプレイとしては、フレキシブル特性を有する画像表示装置全てである。
【0116】
このような画像表示装置、特にフレキシブルディスプレイは、テレビ、スマートフォン、携帯電話、カーナビゲーション、タブレットPC、携帯ゲーム機、電子ペーパー、インジケーター、掲示板、時計、及びスマートウォッチ等のウェアラブルデバイス等として有利に用いることができる。この画像表示装置は、フレキシブル特性を有すると同時に、所定の範囲の黄色度YIを有するため、例えば白色の印刷が施されたべゼル部を有するフレキシブルディスプレイの前面板材料として使用する場合に視認性に優れる。
【実施例
【0117】
以下、実施例により本発明をさらに詳細に説明する。例中の「%」及び「部」は、特記ない限り、質量%及び質量部を意味する。まず評価方法について説明する。
【0118】
<全光線透過率測定>
サンプルの全光線透過率を、JIS K7105:1981に準拠して、スガ試験機社製の全自動直読ヘーズコンピューターHGM-2DPにより測定した。
【0119】
<重量平均分子量の測定>
ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)測定
(1)前処理方法
試料をγ-ブチロラクトン(GBL)に溶解させて20質量%溶液とした後、DMF溶離液にて100倍に希釈し、0.45μmメンブランフィルターろ過したものを測定溶液とした。
(2)測定条件
カラム:TSKgel SuperAWM-H×2+SuperAW2500×1(6.0mm I.D.×150mm×3本)
溶離液:DMF(10mMの臭化リチウム添加)
流量:0.6mL/min.
検出器:RI検出器
カラム温度:40℃
注入量:20μL
分子量標準:標準ポリスチレン
【0120】
<黄色度(YI値)の測定>
試料の黄色度(Yellow Index:YI値)を、JIS K 7373:2006に準拠して、日本分光(株)製の紫外可視近赤外分光光度計V-670を用いて測定した。試料がない状態でバックグランド測定を行った後、試料をサンプルホルダーにセットして、300~800nmの光に対する透過率測定を行い、3刺激値(x、y、z)を求めた。YI値を、下記の式に基づいて算出した。
【数2】
【0121】
<白色色相の視認性評価>
作製したフィルムについて、図1に示すように、フィルムを市販の白ベゼル印刷されたディスプレイに設置したときの色目を目視で観察したときの視認性を表1に示す。視認性の判定は、視認者が照射強度1000~2000lx下、試料を1mと2mの視距離から見て、ベゼル部の白色の色相を下記の4段階で評価した。文字の視認性は、文字が明確に見える場合を「非常に良好」、「非常に良好」よりは明確でないが文字を正しく認識ができる場合を「良好」、及び文字を正しく認識ができない又は認識しにくい場合を「悪い」としている。
◎:白ベゼルが白色に見え、ディスプレイに表示される文字の視認性が非常に良好。
○:白ベゼルが白色に見え、ディスプレイに表示される文字の視認性が良好。
△:白ベゼルが明らかに着色しており白色とは言えないが、文字の視認性が良好。
×:白ベゼルが明らかに着色しており白色とは言えず、文字の視認性も悪い。
【0122】
[製造例1]ポリイミド系高分子(1)を含有するポリイミドワニス(1)の製造
窒素雰囲気下、溶媒トラップ及びフィルターを取り付けた真空ポンプが接続された反応容器に、1.25gのイソキノリンを投入した。次に、反応容器にγ-ブチロラクトン(GBL)375.00g、及び2,2’-ビス(トリフルオロメチル)-4,4’-ジアミノジフェニル(TFMB)104.12gを投入し、混合物を撹拌して溶解させた。さらに、4,4’-(ヘキサフルオロイソプロピリデン)ジフタル酸二無水物(6FDA)145.88gを反応容器に加えた後、混合物を撹拌しつつオイルバスで昇温を開始した。
加えたTFMBと6FDAとのモル比は1.00:0.99であり、混合物中のモノマー濃度は40質量%であった。反応容器の内温が80℃に到達したところで650mmHgまで減圧し、続けて内温180℃まで昇温した。内温が180℃に到達した後、さらに4時間加熱撹拌を行った。その後、大気圧まで復圧し、内温を155℃まで冷却し、ポリイミド溶液を得た。155℃にてGBLを加えてポリイミドの固形分が24質量%である均一溶液を調製し、その後、反応容器から均一溶液であるポリイミドワニス(1)を取り出した。得られたポリイミドワニス中のポリイミドについて、GPC測定を行ったところ、重量平均分子量は360,000であった。また、ポリイミドのフッ素原子含有量は31.3質量%であった。
【0123】
[製造例2]ポリイミド系高分子(2)を含有するポリイミドワニス(2)
ポリイミドワニス(2)として、三菱ガス化学(株)製の「ネオプリム(登録商標)C6A20」を用いた。「ネオプリムC6A20」は、γ-ブチロラクトン溶媒中に、22質量%のポリイミド系高分子(2)を含有する。
【0124】
[製造例3]ポリイミド系高分子(3)を含有するポリイミドワニス(3)の製造
窒素雰囲気下、撹拌翼を備えた1Lセパラブルフラスコに、2,2’-ビス(トリフルオロメチル)-4,4’-ジアミノジフェニル(TFMB)40.00g(124.91mmol)及びN,N-ジメチルアセトアミド(DMAc)682.51gを加え、室温で撹拌しながらTFMBをDMAcに溶解させた。次に、フラスコに4,4’-(ヘキサフルオロイソプロピリデン)ジフタル酸二無水物(6FDA)16.78g(37.77mmol)を添加し、室温で3時間撹拌した。その後、4,4’-オキシビス(ベンゾイルクロリド)(OBBC)3.72g(12.59mmol)、次いでテレフタロイルクロリド(TPC)15.34g(75.55mmol)をフラスコに加え、室温で1時間撹拌した。次いで、フラスコに4-メチルピリジン8.21g(88.14mmol)と無水酢酸15.43g(151.10mmol)とを加え、室温で30分間撹拌後、オイルバスを用いて70℃に昇温し、さらに3時間撹拌し、ポリイミド系高分子(3)を含有するポリイミドワニス(3)を得た。
得られたポリイミドワニス(3)を室温まで冷却し、大量のメタノール中に糸状に投入し、析出した沈殿物を取り出し、メタノールで6時間浸漬後、メタノールで洗浄した。次に、100℃にて沈殿物の減圧乾燥を行い、重量平均分子量Mwが430,000であるポリイミド系高分子(3)を得た。重量平均分子量は、実施例1と同様にして測定した。ポリイミドのフッ素原子含有量は26質量%であった。
【0125】
[実施例1]
製造例1で得られたポリイミドワニス(1)200.00gに、GBL18.40g及びN,N-ジメチルアセトアミド(DMAc)11.82g、スミプラストバイオレットB(式(1)で表される化合物)1.50mg(ポリイミドワニス中の固形分に対して31ppm)を加えてさらに希釈した。希釈されたポリイミドワニスを用いて、PET(ポリエチレンテレフタラート)フィルム上において流涎成形により塗膜を成形した。その後、50℃で30分、140℃で10分加熱することによって塗膜を乾燥し、PETフィルムから塗膜を剥離した。その後、200℃で40分、塗膜を加熱することによって、80μmの厚さを有するポリイミドフィルムを得た。
【0126】
[実施例2]
ブルーイング剤の添加量を0ppmとしたこと以外は実施例1と同様にして、ポリイミドフィルムを得た。その後、ポリイミドフィルム上に、AICA社製Z-624 24.0gにスミプラストバイオレットB(式(1)で表される化合物) 12.0mg(Z-624中の固形分に対して500ppm)を加えて、乾燥後の厚さが5μmとなるように、ワイヤーバーを用いて塗布し、塗膜を形成した。得られた塗膜を120℃で1分間乾燥させた後、紫外線照射量500mJ/cmで、紫外線を照射して塗膜を硬化させ、厚さ5μmのハードコート層を形成した。
【0127】
[比較例1]
ブルーイング剤の添加量を0.63ppmとしたこと以外は実施例1と同様にして、ポリイミドフィルムを得た。
【0128】
[比較例2]
ブルーイング剤の添加量を10ppmとしたこと以外は実施例2と同様にして、ポリイミドフィルムを得た。
【0129】
[実施例3]
スミプラストバイオレットBに代えてスミプラストブルーOA(式(2)で表される化合物)を使用し、ブルーイング剤の添加量を50ppmとしたこと以外は実施例1と同様にして、ポリイミドフィルムを得た。このようにして得たポリイミドフィルムを、200℃で40分加熱することによって、50μmの厚さを有するポリイミドフィルムを得た。
【0130】
[実施例4]
スミプラストバイオレットBに代えてスミプラストブルーGP(式(3)で表される化合物)を使用し、ブルーイング剤の添加量を50ppmとしたこと以外は実施例1と同様にして、ポリイミドフィルムを得た。このようにして得たポリイミドフィルムを、200℃で40分加熱することによって、50μmの厚さを有するポリイミドフィルムを得た。
【0131】
[実施例5]
ブルーイング剤の添加量を10ppmとしたこと以外は実施例1と同様にして、ポリイミドフィルムを得た。このようにして得たポリイミドフィルムを、200℃で40分加熱することによって、50μmの厚さを有するポリイミドフィルムを得た。
【0132】
[実施例6]
ブルーイング剤の添加量を47ppmとし、製造例1で得たポリイミド系高分子に代えて製造例2で得たポリイミド系高分子を使用したこと以外は実施例1と同様にして、ポリイミドフィルムを得た。
【0133】
[比較例3]
ブルーイング剤の添加量を63ppmとしたこと以外は実施例6と同様にして、ポリイミドフィルムを得た。
【0134】
[比較例4]
ブルーイング剤の添加量を0.63ppmとしたこと以外は実施例6と同様にして、ポリイミドフィルムを得た。
【0135】
[実施例7]
ポリイミドワニス(2)である三菱ガス化学(株)製「ネオプリムC6A20」(γ-ブチロラクトン溶媒、22質量%)、γ-ブチロラクトンに固形分濃度30質量%のシリカ粒子(平均一次粒子径23nm)を分散した溶液、及びスミプラストバイオレットBを38ppmを混合し、30分間攪拌し、ポリイミドワニス(2’)を得た。ここで、シリカ粒子の固形分とポリイミド系高分子の固形分の質量比を30:70、とした。
次に、それを基材にキャスト製膜し、50μmの厚みのポリイミド系高分子フィルム原反を得た。次に、PET(ポリエチレンテレフタラート)フィルム上において流涎成形により塗膜を成形した。その後、50℃で30分、140℃で10分加熱することによって塗膜を乾燥し、PETフィルムから塗膜を剥離した。その後、200℃で40分、塗膜を加熱することによって80μmの厚さを有するポリイミドフィルムを得た。
【0136】
[実施例8]
ブルーイング剤の添加量を50ppmとしたこと以外は実施例7と同様にして、ポリイミドフィルムを得た。
【0137】
[実施例9]
製造例3で得られたポリイミド系高分子(3)粉末20gをγ-ブチロラクトン272.093g、シリカ粒子(平均一次粒子径27nm)の固形分とポリイミド系高分子の固形分の質量比が50:50になるように、固形分濃度30質量%でγ-ブチロラクトンに分散したシリカ粒子66.534g、及びスミプラストバイオレットB2.00mg(ポリイミドワニス中の固形分に対して50ppm)を混合した溶液に溶解し、3時間撹拌することでポリイミドワニス(3’)を得た。希釈されたポリイミド系ワニスを用いて、PET(ポリエチレンテレフタラート)フィルム上において流涎成形により塗膜を成形した。その後、50℃で30分、140℃で10分加熱することによって塗膜を乾燥し、PETフィルムから塗膜を剥離した。その後、200℃で40分、塗膜を加熱することによって50μmの厚さを有するポリイミドフィルムを得た。
【0138】
[比較例5]
ブルーイング剤の添加量を0.63ppmとしたこと以外は実施例7と同様にして、ポリイミドフィルムを得た。
【0139】
[参考例1]
スミプラストバイオレットBに代えて銅フタロシアニン(DIC(株)製、製品名FASTOGEN Blue CA5380)を1.417mg(ポリイミドワニス中の固形分に対して50ppm)使用した以外は、実施例9と同様に行い、50μmの厚さを有するポリイミドフィルムを得た。
【0140】
上記のようにして得た実施例1~9、比較例1~5及び参考例1のポリイミドフィルムについて、全光線透過率及び黄色度(YI値)の測定を行った。さらに、ブルーイング剤を含有する層の全質量を基準とするブルーイング剤の添加量をX(ppm)とし、ブルーイング剤を含有する層の厚みをY(μm)とし、XとYの積(X×Y)を算出した。なお、本実施例および比較例においては、ブルーイング剤を含有する層は1層であるため、上記XとYの積が、そのまま、ブルーイング剤を含有する全ての層についてのXとYの積の合計となる。得られた結果を次の表1に示す。なお、表1中のフィルムの厚みは、本発明のフィルム(単層又は積層体)の厚みであり、ブルーイング層の厚みは、本発明のフィルムにおけるブルーイング剤を含有する層の厚み(Yμm)である。また、表1のブルーイング剤の種類の欄において、スミプラストバイオレットBは「B」と、スミプラストブルーOAは「OA」と、スミプラストブルーGPは「GP」と、銅フタロシアニンは「Cu」とそれぞれ示す。
【表1】
【0141】
上記所定の範囲の黄色度YIを有する実施例1~9のポリイミドフィルムは、白色色相の視認性が良好であり、白色の印刷が施されたべゼル部を有するフレキシブルディスプレイの前面板材料として好適に使用可能である。
また、上記から、好ましくはブルーイング剤としてアントラキノン系ブルーイング剤を含有すると、少量の使用量で所望のYI値となり、また高い全光線透過率を有するフィルムが得られる傾向にあることがわかった。
【符号の説明】
【0142】
1 白色ベゼル
2 ポリイミドフィルムカバー部
3 ポリイミドフィルム未カバー部
図1