(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-01-11
(45)【発行日】2022-01-24
(54)【発明の名称】後周期遷移金属微粒子担持体の製造方法
(51)【国際特許分類】
B01J 23/68 20060101AFI20220117BHJP
B01J 29/035 20060101ALI20220117BHJP
B01J 35/02 20060101ALI20220117BHJP
B01J 37/02 20060101ALI20220117BHJP
B01J 37/08 20060101ALI20220117BHJP
【FI】
B01J23/68 Z
B01J29/035 Z
B01J35/02 H
B01J37/02 101Z
B01J37/08
(21)【出願番号】P 2016036138
(22)【出願日】2016-02-26
【審査請求日】2019-01-25
(31)【優先権主張番号】P 2015037905
(32)【優先日】2015-02-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】504145342
【氏名又は名称】国立大学法人九州大学
(73)【特許権者】
【識別番号】504176911
【氏名又は名称】国立大学法人大阪大学
(74)【代理人】
【識別番号】110001656
【氏名又は名称】特許業務法人谷川国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】徳永 信
(72)【発明者】
【氏名】石田 玉青
(72)【発明者】
【氏名】山本 裕典
(72)【発明者】
【氏名】長谷川 貴之
(72)【発明者】
【氏名】大橋 弘範
(72)【発明者】
【氏名】横山 拓史
(72)【発明者】
【氏名】村山 美乃
(72)【発明者】
【氏名】刀禰 美沙紀
(72)【発明者】
【氏名】奥村 光隆
【審査官】佐藤 慶明
(56)【参考文献】
【文献】特開2000-354766(JP,A)
【文献】特開2005-046742(JP,A)
【文献】特開昭58-119343(JP,A)
【文献】特表2014-523810(JP,A)
【文献】特開平08-301875(JP,A)
【文献】特表2009-515679(JP,A)
【文献】特開2002-069051(JP,A)
【文献】国際公開第2014/098818(WO,A1)
【文献】特表平11-513381(JP,A)
【文献】特開昭53-028124(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第102550830(CN,A)
【文献】特開2015-016394(JP,A)
【文献】特開2011-032241(JP,A)
【文献】特表2006-506224(JP,A)
【文献】特開昭49-014390(JP,A)
【文献】特開2005-145822(JP,A)
【文献】TOBIAS, R. S. et al.,Inorganica Chimica Acta,スイス,1979年,Volume 35,Pages 11-14,ISSN: 0020-1693
【文献】Hill, D. T. et al.,Inorganic Chemistry,米国,1983年09月,Vol. 22, No.20,P. 2936-2942,ISSN: 0020-1669
【文献】RAI, S. J. et al.,Microchemical Journal,1972年12月,Volume 17, Issue 6,P. 661-664,ISSN:0026-265X
【文献】秋田知樹 ほか,顕微鏡,日本,2011年03月30日,Vol.46,pp.7-10,10.11410/kenbikyo.46.1_7
【文献】春田正毅,表面科学,日本,2005年10月10日,Vol.26,pp.578-584,doi:10.1380/jsssj.26.578
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01J 21/00 - 38/74
B22F 9/00 - 9/30
C07C 229/00 - 229/76
C07C 237/04
C07C 323/50 - 323/63
C07F 1/12 - 5/06
H01M 4/86 - 4/92
JSTPlus/JST7580/JSTChina(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1種の金/アミノ酸類似化合物錯体の溶液と担体を混和して、前記錯体を担体に含浸させる工程、及び
錯体含浸後の担体を含酸素雰囲気中で焼成する工程
を含む、金微粒子担持体の製造方法であって、アミノ酸類似化合物は、チオリンゴ酸、p-クロロフェニルアラニン、β-クロロアラニン、ヒドロキシプロリン、ヒドロキシリジン、及びサルコシンからなる群より選択される少なくとも1種であり、前記微粒子は、平均粒径が30nm以下である、方法。
【請求項2】
前記錯体の溶液は、前記錯体にできるだけ少量の水を添加して調製された溶液であり、錯体含浸後、担体を乾燥させずにすぐに焼成処理に付す、請求項1記載の方法。
【請求項3】
担体990mg当たり0.5mL~1.5mLの水を前記錯体に加えて調製された溶液、又は、担体495mg当たり0.5mlの水を前記錯体に加えて調製された溶液を用いて錯体の含浸が行われる、請求項
2記載の方法。
【請求項4】
金/アミノ酸錯体及び金/アミノ酸類似化合物錯体からなる群より選択される少なくとも1種の錯体の溶液であって、該錯体にできるだけ少量の水を添加して調製された溶液と担体を混和して、前記少なくとも1種の錯体を担体に含浸させる工程、及び
錯体含浸後、担体を乾燥させずにすぐに焼成処理に付す工程
を含む、金微粒子担持体の製造方法であって、前記焼成処理は含酸素雰囲気中で行われ、前記微粒子は、平均粒径が30nm以下である、方法。
【請求項5】
前記錯体の溶液は、前記錯体の溶け残りがないようにできるだけ少量の水を添加して調製された溶液である、請求項
4記載の方法。
【請求項6】
担体990mg当たり0.5mL~1.5mLの水を前記錯体に加えて調製された溶液、又は、担体495mg当たり0.5mlの水を前記錯体に加えて調製された溶液を用いて錯体の含浸が行われる、請求項
4又は
5記載の方法。
【請求項7】
前記アミノ酸は、アルギニン、ヒスチジン、リジン、アスパラギン酸、グルタミン酸、アラニン、グリシン、ロイシン、バリン、イソロイシン、セリン、スレオニン、フェニルアラニン、トリプトファン、チロシン、シスチン又はシステイン、グルタミン、アスパラギン、プロリン、メチオニン、β-アラニン、γ-アミノ酪酸、カルニチン、γ-アミノレブリン酸、及びγ-アミノ吉草酸からなる群より選択される少なくとも1種である、請求項
4ないし
6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
前記アミノ酸は、アルギニン、ヒスチジン、リジン、アスパラギン酸、グルタミン酸、アラニン、グリシン、ロイシン、バリン、イソロイシン、セリン、スレオニン、フェニルアラニン、トリプトファン、チロシン、シスチン又はシステイン、グルタミン、アスパラギン、プロリン、メチオニン、β-アラニン、γ-アミノ酪酸、カルニチン、γ-アミノレブリン酸、γ-アミノ吉草酸、δ-アミノ吉草酸、及びε-アミノカプロン酸からなる群より選択される少なくとも1種である、請求項
4ないし
6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
前記アミノ酸類似化合物は、
アミノ酸分子の少なくとも1個のアミノ基がスルフヒドリル基に置き換わった化合物;
アミノ酸分子の少なくとも1個のアミノ基に少なくとも1個のアルキル基が結合した化合物;
アミノ酸分子の主鎖及び側鎖を構成する炭素原子の少なくとも1個が窒素原子、酸素原子及び硫黄原子から選択される少なくとも1つに置き換わった化合物;並びに
アミノ酸分子の主鎖及び側鎖を構成する炭素原子の少なくとも1個に、アルキル基、水酸基及びハロゲン原子からなる群より選択される少なくとも1つが結合した化合物
からなる群より選択される少なくとも1種である、請求項
4ないし
8のいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
前記アミノ酸類似化合物は、チオリンゴ酸、p-クロロフェニルアラニン、β-クロロアラニン、ヒドロキシプロリン、ヒドロキシリジン、及びサルコシンからなる群より選択される少なくとも1種である、請求項
9記載の方法。
【請求項11】
前記少なくとも1種の錯体が、少なくとも1種の金/アミノ酸錯体である、請求項4ないし8のいずれか1項に記載の方法。
【請求項12】
前記担体が、ケイ素材料、炭素材料、金属酸化物、粘土、合成又は天然ポリマー、炭酸塩、多孔性配位高分子及び窒化ホウ素からなる群より選択される少なくとも1種である、請求項1ないし
11のいずれか1項に記載の方法。
【請求項13】
金/アミノ酸錯体及び金/アミノ酸類似化合物錯体からなる群より選択される少なくとも1種の錯体の溶液
であって、該錯体にできるだけ少量の水を添加して調製された溶液と、比表面積が30m
2/g以上、400m
2/g以下の多孔質の担体を混和して、前記少なくとも1種の錯体を担体に含浸させる工程、及び
錯体含浸後、担体を乾燥させずにすぐに焼成処理に付す工程
から成る、金微粒子担持体の製造方法であって、
前記焼成は、含酸素雰囲気中のみで行ない、
前記金微粒子は、平均粒径が10nm以下である、方法。
【請求項14】
担体990mg当たり0.5mL~1.5mLの水を前記錯体に加えて調製された溶液、又は、担体495mg当たり0.5mlの水を前記錯体に加えて調製された溶液を用いて錯体の含浸が行われる、請求項
13記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、担体上に金等の後周期遷移金属の微粒子を担持させた担持体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
貴金属触媒は様々な分野において古くから活用されている。貴金属のうち金については、かつては触媒としては不活性な元素であると考えられてきたが、1980年代に入って金を5nm程度以下の微粒子状に調製可能になるとともにその高い触媒活性が発見され、現在では金ナノ粒子触媒の応用のための研究が活発に行なわれている。
【0003】
金の微粒子を担体上に担持させた材料の製造方法としては、析出沈殿法、共沈法、析出還元法、ゾル固定化法、固相混合法、気相グラフティング法、含浸法などが知られている。中でも含浸法は、金属の分散液ないしは溶液中に担体を浸漬し、乾燥させた後に焼成するというシンプルな手法であり、商業的生産に適している。
【0004】
しかしながら、金微粒子担持体は含浸法による製造が困難である。塩化金酸を用いて含浸法で調製すると、塩化物イオンが金の粒径を大きくしてしまうからである(非特許文献1)。従来、金微粒子触媒の調製は、共沈法や析出沈殿法により行われてきた。近年では、酢酸金を用いた含浸法(特許文献1)による金ナノ粒子担持体の調製法が報告されている。しかしながら、酢酸金は水への溶解性が低く、当該手法においては塩化物イオンフリーの含浸液の調製のために複数工程が必要となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【非特許文献】
【0006】
【文献】Mol. Phys. 2014, 112, 365-378
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、金等の金属微粒子を担体上に担持させた金属微粒子担持体を、簡便な工程で低コストで製造することを可能にする新規な手段を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本願発明者らは、鋭意研究の結果、後周期遷移金属にアミノ酸分子又はアミノ酸類似化合物が配位した錯体は塩化金酸から短工程で調製可能であること、この後周期遷移金属/アミノ酸錯体又は後周期遷移金属/アミノ酸類似化合物錯体を含浸法における金属前駆体として用いることにより、金を用いた場合であってもナノサイズの粒子を調製できること、後周期遷移金属/アミノ酸錯体及び後周期遷移金属/アミノ酸類似化合物錯体は水への溶解性が良好であり、含浸工程において用いる水溶媒の量はごく少量で済むために廃液量も低減でき、低コストで金属微粒子担持体を調製可能となることを見出し、本願発明を完成した。
【0009】
すなわち、本発明は、少なくとも1種の金/アミノ酸類似化合物錯体の溶液と担体を混和して、前記錯体を担体に含浸させる工程、及び錯体含浸後の担体を含酸素雰囲気中で焼成する工程を含む、金微粒子担持体の製造方法であって、アミノ酸類似化合物は、チオリンゴ酸、p-クロロフェニルアラニン、β-クロロアラニン、ヒドロキシプロリン、ヒドロキシリジン、及びサルコシンからなる群より選択される少なくとも1種であり、前記微粒子は、平均粒径が30nm以下である、方法を提供する。また、本発明は、金/アミノ酸錯体及び金/アミノ酸類似化合物錯体からなる群より選択される少なくとも1種の錯体の溶液であって、該錯体にできるだけ少量の水を添加して調製された溶液と担体を混和して、前記少なくとも1種の錯体を担体に含浸させる工程、及び錯体含浸後、担体を乾燥させずにすぐに焼成処理に付す工程を含む、金微粒子担持体の製造方法であって、前記焼成処理は含酸素雰囲気中で行われ、前記微粒子は、平均粒径が30nm以下である、方法を提供する。さらに、本発明は、金/アミノ酸錯体及び金/アミノ酸類似化合物錯体からなる群より選択される少なくとも1種の錯体の溶液であって、該錯体にできるだけ少量の水を添加して調製された溶液と、比表面積が30m2/g以上、400m2/g以下の多孔質の担体を混和して、前記少なくとも1種の錯体を担体に含浸させる工程、及び錯体含浸後、担体を乾燥させずにすぐに焼成処理に付す工程から成る、金微粒子担持体の製造方法であって、前記焼成は、含酸素雰囲気中のみで行ない、前記金微粒子は、平均粒径が10nm以下である、方法を提供する。
【発明の効果】
【0010】
本発明により、金属前駆体として後周期遷移金属にアミノ酸又はアミノ酸類似化合物が配位した錯体を利用した含浸法による後周期遷移金属微粒子担持体の製造方法が初めて提供される。後周期遷移金属/アミノ酸錯体及び後周期遷移金属/アミノ酸類似化合物錯体は水への溶解性が良好であり、含浸液の調製は水等の溶媒に錯体を溶解するのみで極めて簡便である。また水への溶解度の高さゆえに溶媒の使用量も少なく抑えることができ、含浸液のボリュームダウンが可能であるとともに廃液量の低減も可能であり、低コストでの大量生産に適している。上記の錯体自体も調製は容易であり、安価な原料で錯体を製造できる。含浸液は塩化物イオンフリーであるため、本発明による含浸法は金ナノ粒子担持体の調製にも適用可能である。さらに、本発明の方法によれば、通常は使用困難な酸性担体でも使用可能であるので、担体の種類に左右されることなく、様々な担体を用いて極小サイズの金属微粒子担持体を調製することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】各種の金/アミノ酸錯体を用いて調製したAu担持シリカをXRD測定した結果である。
【
図2-1】金/グリシン錯体を用いた含浸法(基準条件)により調製したAu担持シリカ(1 wt% Au/SiO
2-(G-3))のDMTS吸着能を調べた結果である。
【
図2-2】金/グリシン錯体を用いた含浸法(焼成時間を30分に変更)により調製したAu担持シリカ(1 wt% Au/SiO
2-(G-7))のDMTS吸着能を調べた結果である。
【
図2-3】金/グリシン錯体を用いた含浸法(焼成温度を200℃に変更)により調製したAu担持シリカ(1 wt% Au/SiO
2-(G-8))のDMTS吸着能を調べた結果である。
【
図2-4】市販のAu担持シリカ触媒(1 wt% Au/SiO
2-(H))のDMTS吸着能を調べた結果である。
【
図2-5】金/グリシン錯体を用いた含浸法(錯体溶解に水10 mL使用+エバポレーション乾燥)により調製したAu担持シリカ(1 wt% Au/SiO
2-(G-1))のDMTS吸着能を調べた結果である。
【
図2-6】金/グリシン錯体を用いた含浸法(シリカ担体をQ-3に変更)により調製したAu担持シリカ(1 wt% Au/SiO
2-(G-9))のDMTS吸着能を調べた結果である。
【
図2-7】DR法により調製したAu担持シリカ(0.5 wt% Au/SiO
2-(DR))のDMTS吸着能を調べた結果である。
【
図3-1】金/β-アラニン錯体を用いた含浸法により調製したAu担持シリカ(1 wt% Au/SiO
2-(A))のDMTS吸着能を調べた結果である。
【
図3-2】金/4-アミノ酪酸錯体を用いた含浸法により調製したAu担持シリカ(1 wt% Au/SiO
2-(GABA))のDMTS吸着能を調べた結果である。
【
図4-1】金/β-アラニン錯体を用いてアルミニウム含有メソポーラスシリカ(Al-MCM41)担体上に金粒子を含浸担持させたAu担持アルミニウム含有メソポーラスシリカ(1 wt% Au/Al-MCM-41-(A))のDMTS吸着能を調べた結果である。
【
図4-2】金/β-アラニン錯体を用いてモンモリロナイト担体上に金粒子を含浸担持させたAu担持モンモリロナイト(1 wt% Au/Mont)のDMTS吸着能を調べた結果である。
【
図5-1】Au担持シリカのヘキサン中DMTS吸着能を調べた結果である(実験1回目)。
【
図5-2】Au担持シリカのヘキサン中DMTS吸着能を調べた結果である(実験2回目)。
【
図6】金/β-アラニン錯体のX線吸収微細構造(XAFS)スペクトルである。
【
図7】金/β-アラニン錯体のEXAFS振動スペクトルである。
【
図8】金/β-アラニン錯体のEXAFSスペクトルフーリエ変換である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の製造方法では、担体上に含浸担持させる金属前駆体として、後周期遷移金属にアミノ酸が配位した後周期遷移金属/アミノ酸錯体、及び後周期遷移金属にアミノ酸類似化合物が配位した後周期遷移金属/アミノ酸類似化合物錯体からなる群より選択される少なくとも1種を用いることを特徴とする。以下、本明細書において、アミノ酸及びアミノ酸類似化合物を総称して「アミノ酸系化合物」と呼ぶことがある。
【0013】
本発明において、後周期遷移金属には、金、銀、白金、パラジウム、ルテニウム、ロジウム、オスミウム、イリジウム、鉄、コバルト、ニッケル、銅、亜鉛及び鉛が包含され、これらの金属のうちの少なくとも1種を使用可能である。中でも好ましく使用し得る金属として、金、銀、白金、及びパラジウムからなる群より選択される少なくとも1種、特に金を挙げることができるが、これらに限定されない。
【0014】
金属に配位させるアミノ酸の種類は特に限定されない。本発明において、「アミノ酸」とは、分子内にアミノ基とカルボキシ基とを持つ化合物をいい、一般的なアミノ酸の定義の通り、アミノ基の水素が分子内の他の部分と置換して二級アミンとなった環状化合物であるイミノ酸も包含する。本発明で使用できるアミノ酸の代表的な例としては、天然のタンパク質を構成する20種のα-アミノ酸が挙げられるが、これらに限定されず、β-、γ-及びδ-アミノ酸も包含される。また、アミノ酸はD体でもL体でもよく、両者の混合物でもよい。アミノ酸の具体例を挙げると、アルギニン、ヒスチジン、リジン、アスパラギン酸、グルタミン酸、アラニン、グリシン、ロイシン、バリン、イソロイシン、セリン、スレオニン、フェニルアラニン、トリプトファン、チロシン、シスチン又はシステイン、グルタミン、アスパラギン、プロリン、メチオニン、β-アラニン、γ-アミノ酪酸(4-アミノ酪酸)、カルニチン、γ-アミノレブリン酸、γ-アミノ吉草酸、δ-アミノ吉草酸(5-アミノ吉草酸)、ε-アミノカプロン酸(6-アミノカプロン酸)などが挙げられる。なお、金とアミノ酸との間の錯体として、グリシン、ヒスチジン、及びトリプトファンとの錯体が公知である(Pharmaceutical Chemistry Journal, 1999, vol.33, No.9, p.11-13)。
【0015】
アミノ酸類似化合物も、上記定義の通りのアミノ酸に類似した構造を有する限り特に限定されない。アミノ酸類似化合物の例としては、
アミノ酸分子の少なくとも1個(例えば全部、又は1個若しくは2個、又は1個)のアミノ基がスルフヒドリル基に置き換わった化合物;
アミノ酸分子の少なくとも1個(例えば全部、又は1個若しくは2個、又は1個)のアミノ基に少なくとも1個のアルキル基が結合した化合物(アルキル基の炭素数は例えば1~5個、1~4個、1~3個、1個若しくは2個、又は1個);
アミノ酸分子の主鎖及び側鎖を構成する炭素原子の少なくとも1個(例えば1~5個、又は1~3個、又は1個若しくは2個、又は1個)が窒素原子、酸素原子及び硫黄原子から選択される少なくとも1つに置き換わった化合物;並びに
アミノ酸分子の主鎖及び側鎖を構成する炭素原子の少なくとも1個(例えば1~5個、1~4個、1~3個、1個若しくは2個、又は1個)に、アルキル基、水酸基及びハロゲン原子からなる群より選択される少なくとも1つが結合した化合物(アルキル基の炭素数は例えば1~5個、1~4個、1~3個、1個若しくは2個、又は1個)
等を挙げることができる。
【0016】
アミノ酸類似化合物の具体例としては、チオリンゴ酸(アスパラギン酸の-NH2基が-SH基に置き換わったアスパラギン酸類似化合物)、p-クロロフェニルアラニン(フェニル基のパラ位が塩素原子で置換されたフェニルアラニン類似化合物)、β-クロロアラニン(β炭素が塩素原子で置換されたアラニン類似化合物)、ヒドロキシプロリン(ヒドロキシル化されたプロリン、コラーゲン構成成分)、ヒドロキシリジン(ヒドロキシル化されたリジン、コラーゲン構成成分)、サルコシン(Nメチルグリシン、グリシンのアミノ基に1個のメチル基が結合したグリシン類似化合物)などを挙げることができるが、これらに限定されない。
【0017】
担体の種類は特に限定されず、後周期遷移金属をナノサイズ以下の粒子状でその表面に担持することができる担体であればいかなるものであってもよい。本発明の方法によれば、通常の含浸法では使用困難な酸性担体でも使用可能である。担体の具体例を挙げると、ケイ素材料(シリカ、シリカ-アルミナ、アルミノケイ酸塩等)、炭素材料(活性炭、及び各種の多孔性炭素材料等)、金属酸化物(酸化鉄、酸化アルミニウム、酸化チタン、酸化コバルト、酸化ジルコニウム、酸化セリウム、酸化マンガン、酸化亜鉛、酸化ニッケル、酸化マグネシウム、酸化タングステン等)、粘土(ベントナイト、活性白土、珪藻土、モンモリロナイト等)、合成又は天然ポリマー(各種の合成樹脂、ポリビニルピロリドン、キトサン、微小繊維状セルロース、タンニン、寒天、ゼラチン等)、炭酸塩(炭酸マグネシウム、炭酸カルシウム、炭酸バリウム等)、多孔性配位高分子(Porous Coordination Polymer; PCP、金属イオンとそれらを架橋する有機配位子とで構成される結晶性の高分子構造体であり、金属有機構造体(Metal-Organic Framework; MOF)とも呼ばれる)、窒化ホウ素等を挙げることができるが、これらに限定されない。
【0018】
担体の形状も特に限定されず、いかなる形状・形態であってもよい。例えば、粉末状、顆粒状、ペレット状、ハニカム状等、様々な形状のものを使用可能である。担体の比表面積は特に限定されないが、通常、比表面積が大きい多孔質の担体(例えば、概ね30m2/g程度以上、特に100m2/g程度以上)が好ましく使用される。比表面積の上限も特に限定されないが、通常3000m2/g程度以下である。
【0019】
後周期遷移金属/アミノ酸系化合物錯体の調製方法の具体例は、下記実施例に記載される通りである。簡単に記載すると、アミノ酸系化合物を塩基性のアルコール水溶液溶媒中に溶解し、これに後周期遷移金属の可溶性化合物のアルコール水溶液を添加し、さらにアルコールを加えて錯体を析出させ、これを回収し適宜アルコールで再沈殿後に洗浄することにより、後周期遷移金属/アミノ酸系化合物錯体を得ることができる。アルコールとしてはエタノール等の低級アルコールを用いればよい。後周期遷移金属の可溶性化合物の具体例として、金の場合は塩化金酸;白金の場合は塩化白金酸及び硝酸白金;銀の場合は硝酸銀;パラジウムの場合は塩化パラジウム及び硝酸パラジウム、等を挙げることができる。
【0020】
後周期遷移金属/アミノ酸系化合物錯体の担体への含浸担持は、錯体を水に溶解し、これに担体を添加して撹拌混和した後に焼成することにより行なえばよい。配位したアミノ酸系化合物が異なる錯体を混合して担体に含浸させてもよい。錯体を溶解させる時の水をできるだけ少量とし、担体と錯体水溶液を撹拌混和して担体に錯体を含浸させた後、乾燥させずにすぐに焼成処理に付すことにより、担体上の金属微粒子のサイズを10nm程度以下に小さくすることができるということが、金を用いた実験により確認されている。乾燥工程を経て焼成処理を行なった場合には、平均粒径がやや大きめ(10nm~30nm程度)の金属粒子を調製することができる。担体との撹拌混和時間は特に限定されず、数分~数十分程度で十分である。焼成温度は100℃~600℃程度、例えば150℃~400℃程度でよい。焼成時間は数分~十数時間程度、例えば20分~10時間程度でよい。焼成は、空気等の含酸素雰囲気中で行なってもよいし、還元性ガス雰囲気中又は不活性ガス雰囲気中で行なってもよい。焼成処理により錯体中に含まれていたアミノ酸系化合物は消失するので、触媒活性等の性能を低下させる不要成分が担体上に残存する懸念はない。
【0021】
本発明によれば、平均粒径50nm程度以下の後周期遷移金属微粒子が担体上に担持された金属微粒子担持体を得ることができる。ここで、担体上に担持された金属微粒子の「粒径」「粒子サイズ」との文言は、略半球状で担体上に固定化されている金属微粒子の直径をいう。金属微粒子のサイズは、上記した各条件の範囲内で製造条件を調節することにより、サイズ調整が可能である。例えば、平均粒径を10nm程度以下の極小サイズにしたい場合、多孔質でも比較的比表面積が小さめのもの(300~400m2/g程度以下)を担体として用いる、アミノ酸との錯体を担体に含浸させた後乾燥させずに焼成する、等の条件で含浸担持を行なえばよい。水への溶解度が特に高い後周期遷移金属/アミノ酸系化合物錯体を用いることによっても、担体上に担持される金属微粒子のサイズを小さくすることができる。本発明の方法により得られる担体上の金属微粒子のサイズの下限値は特に限定されないが、通常は平均粒径0.5 nm以上、例えば平均粒径1 nm程度以上である。
【0022】
本発明の製造方法により得られる後周期遷移金属微粒子担持体は、通常、金属の担持量が0.1~30wt%程度である。
【0023】
本発明の方法で製造される後周期遷移金属微粒子担持体は、従来より知られている各種貴金属触媒と同様に触媒として使用可能である。例えば、公知の金ナノ粒子触媒は、環境中の有害成分の分解、燃料電池関連反応(アノード反応など)、プロピレン、スチレンの気相エポキシ化などの化学プロセス反応等の様々な反応を触媒することが知られているが、本発明の方法で金/アミノ酸系化合物錯体を用いて製造される金微粒子担持体も、公知の金ナノ粒子触媒と同様に様々な反応の触媒として利用可能である。
【0024】
また、触媒以外にも、吸着剤、力学材料、光学材料、電磁気材料等への応用も可能である。例えば、金の微粒子は硫黄化合物を吸着する作用を有することが知られており(特許第5170591号)、本発明の方法で製造される金微粒子担持体も、硫黄化合物の吸着剤として用いることができる。例えば、ジメチルトリスルフィド、ジメチルジスルフィド等のポリスルフィドは、清酒の劣化臭である老香の主要構成成分であるが(日本醸造協会誌, 101, 125-131, 2006)、後周期遷移金属微粒子担持体は、そのようなポリスルフィドの吸着除去剤として、清酒における老香の低減にも利用可能である。また、本発明の方法で製造される後周期遷移金属微粒子担持体は、水系の液体からの硫黄化合物の吸着除去だけではなく、特許第5170591号記載の発明と同様に、ガソリン等の液体燃料や有機溶媒などの親油性の液体から硫黄化合物を吸着除去する吸着剤としても利用可能である。
【0025】
以下、本発明を実施例に基づきより具体的に説明する。もっとも、本発明は下記実施例に限定されるものではない。
【0026】
1.金/アミノ酸錯体を用いた含浸法によるAu担持シリカ(Au/SiO2)の調製
まず、金/グリシン錯体を使用し、含浸法による調製の条件を検討した。
【0027】
(1) 金/グリシン錯体の調製
ビーカー内で水酸化ナトリウム2.5 mmol、グリシン2.5 mmolを水2 mLに溶かし、エタノール3mLを加えた。フラスコで塩化金酸四水和物0.32 mmolを水1 mLに溶かし、エタノール4mLを加えた。フラスコの塩化金酸溶液をビーカーに加え、エタノール6 mLで洗い出した後、冷凍庫に一晩放置した。透明の上澄みを取り除き、少量の水で沈殿物を溶かし、エタノールで再沈殿させ、遠心分離器で上澄みを捨てた。エタノールで遠心洗浄を2回行った。金/グリシン錯体Au(gly)(OH)2をろ取し、真空乾燥させた。
【0028】
(2) 担体への金の含浸担持
金/グリシン錯体15 mgを乳鉢に入れ、水を0.5mL加えて溶かし、そこに990 mgのSiO2(富士シリシア化学、CARiACT Q-15、比表面積200m2/g)を加えて30分間撹拌混和した。その後、乾燥させずにすぐ空気焼成(300℃、4時間)を行ない、金粒子をSiO2上に担持させた。
【0029】
(3) 含浸担持の条件検討
上記(2)の条件を基準とし、条件を種々に変更して含浸担持の条件検討を行なった。検討した条件及びその結果(担持された金粒子の平均粒径、XRDにより測定)を併せて下記表1に示す。
【0030】
【0031】
(4) 析出還元(DR)法によるAu/SiO2-(DR)の調製
参考例として、析出還元(DR)法によるAu/SiO2の調製も行なった。下記の手順により、[Au(en)2Cl3]をNaBH4で還元させてAu担持シリカ(Au/SiO2-(DR))を調製した。
【0032】
ナスフラスコに水250mL、シリカゲル990 mg、[Au(en)2Cl3]を11 mg加えた。0℃で30分撹拌した後、0.01 MのNaBH4 3.8 mLを10分かけてゆっくり滴下した。1時間撹拌した後、ろ取し、水で洗い、真空乾燥させた。得られたAu担持シリカAu/SiO2-(DR)の平均粒径(XDRにより測定)は11.0 nmであった。
【0033】
<結果>
金/グリシン錯体含浸法では、条件[1]~[3]、[6]~[8]、[10]で5nm程度以下の小さいサイズの金粒子を調製することができた。条件[4]及び[5](乾燥工程あり)、条件[9](シリカ担体の比表面積大)、並びにDR法では、10nm程度以上のやや大きめの金粒子が調製された。
【0034】
2.アミノ酸系化合物の検討
アミノ酸として、グリシンに加え、β-アラニン、4-アミノ酪酸、リジン、アスパラギン、D,L-アラニン、5-アミノ吉草酸、6-アミノカプロン酸、メチオニン、グルタミン酸、ヒスチジン、トリプトファンを用いた。また、アミノ酸類似化合物として、チオリンゴ酸を用いた。ビーカー内で水酸化ナトリウム2.5 mmol、アミノ酸系化合物2.5 mmolを水2 mLに溶かし、エタノール3mLを加えた。フラスコで塩化金酸四水和物0.32 mmolを水1 mLに溶かし、エタノール4mLを加えた。フラスコの塩化金酸溶液をビーカーに加え、エタノール6 mLで洗い出した。冷凍庫に一晩放置した。透明の上澄みを取り除き、少量の水で沈殿物を溶かし、エタノールで再沈殿させ、遠心分離器で上澄みを捨てた。エタノールで遠心洗浄を2回行った。錯体をろ取し、真空乾燥させた。
【0035】
金/アミノ酸系化合物錯体(グリシン、β-アラニン、4-アミノ酪酸、リジン、アスパラギン、5-アミノ吉草酸、6-アミノカプロン酸、メチオニン、グルタミン酸、ヒスチジン、トリプトファン、チオリンゴ酸)を用いて、以下の方法でシリカ担体上に担持させた。
【0036】
金/アミノ酸系化合物錯体(金10 mg相当)を乳鉢に入れ、水0.5 mLを加えて溶かし、そこに990 mgのSiO2を加えて30分間撹拌混和した。その後、乾燥させずに300℃で4時間空気焼成を行なった。
【0037】
各種の金/アミノ酸系化合物錯体を用いて調製したAu担持シリカ(Au/SiO
2)をXRD測定した結果の一例として、β-アラニン(調製例1)、4-アミノ酪酸(調製例1)、リジン、又はアスパラギン(調製例1)と金との錯体を使用したAu/SiO
2のXRD測定結果を
図1に示す。また、各種の金/アミノ酸系化合物錯体を用いて調製したAu担持シリカ(Au/SiO
2)の、38°付近の金のピークによる粒径を下記表2に示す。いずれも粒径の小さい金粒子を調製することができた。リジン及びメチオニンでは金の粒径が若干大きくなったが、これは、金/リジン錯体及び金/メチオニン錯体の水への溶解性が他の錯体よりも低く、溶け残りがある状態で含浸担持させたためであると考えられる。これら以外では、粒径が10nm未満と非常に小さい金粒子を調製することができた。
【0038】
【0039】
遠心洗浄した金/β-アラニン錯体を水に溶かし、SiO2を加えて混ぜた後、真空凍結乾燥をしてから空気焼成した。XRDで測定したところ、粒径は9.1 nmだった。SiO2と混和後に乾燥をすることで粒径が大きくなったので、粒径の小さい金粒子を調製するためには乾燥させないことが必要であることを再確認した。
【0040】
3.担体の検討
シリカ担体の他、シリカアルミナ、活性炭及びモンモリロナイトへの含浸担持を検討した。金属/アミノ酸錯体は金/β-アラニン錯体を用いた。
【0041】
<アルミニウム含有メソポーラスシリカ担体>
金/アミノ酸錯体(金10 mg相当)を乳鉢に入れ、水0.5 mLを加えて溶かし、そこに990 mgのシリカアルミナ(アルミニウム含有メソポーラスシリカMCM-41、シグマアルドリッチ社)を加えて30分間撹拌混和した。その後、乾燥させずに300℃で4時間空気焼成を行なうことで、Au担持アルミニウム含有メソポーラスシリカ(Au/Al-MCM-41-(A))を得た。透過型電子顕微鏡(TEM)画像から算出した金粒子の平均粒径は2.5 nmであり、シリカ担体の場合と同様に粒子径の小さい金粒子を担持させることができた。
【0042】
<活性炭担体>
金/β-アラニン錯体(金5 mg相当)を乳鉢に入れ、水0.5 mLを加えて撹拌し、そこに495 mgの活性炭(ケッチェンブラック、ライオン株式会社)を加えて30分撹拌混和した。その後、乾燥させずに300℃で30分空気焼成を行い、Au担持活性炭(Au/C-(A))を得た。活性炭担体上に担持された金粒子サイズは4.7nmであり、シリカ担体の場合と同様に粒子径の小さい金粒子を担持させることができた。
【0043】
<モンモリロナイト担体>
金/アミノ酸錯体(金10 mg相当)を乳鉢に入れ、水0.5 mLを加えて溶かし、そこに990 mgのモンモリロナイト(シグマアルドリッチ社)を加えて30分間撹拌混和した。その後、乾燥させずに300℃で4時間空気焼成を行なった。得られたAu担持モンモリロナイト(Au/Mont)の金粒子サイズは約10 nmであり(透過型電子顕微鏡(TEM)画像から算出)、シリカ担体の場合と同様にモンモリロナイトを担体として用いた場合も粒子径の小さい金粒子を担持させることができた。
【0044】
4.金微粒子担持体を用いたDMTS吸着実験-1
本発明の方法で調製される金属微粒子担持体の一用途として、含硫黄化合物の吸着除去剤を想定し、上記で調製した各種金微粒子担持体を用いて清酒の老香成分であるジメチルトリスルフィド(DMTS)(日本醸造協会誌, 101, 125-131, 2006)の吸着実験を行なった。
【0045】
<吸着実験方法>
エタノールにDMTS及び内部標準のジエチレングリコールジメチルエーテルを加えて混合した。このうちの10μLをエタノール4 mLで希釈し、DMTS濃度を1.48×10-4 mmol(4.69 pm)に調整した。この溶液にAu/SiO2を加え、ガスクロマトグラフィーで吸着の様子を確認した。金微粒子担持体の使用量は、Au/DMTS=15~20になるように調整した。
【0046】
<結果>
(1) 上記1で調製した各種Au/SiO
2のDMTS吸着能
金ナノ粒子のサイズが小さいAu/SiO
2のうち、表1に示した条件[1]、[7]及び[8]のAu/SiO
2、並びに市販の金ナノ粒子触媒(ハルタゴールド社製の1wt% Au/SiO
2、金粒子サイズ7.1 nm)を用いて吸着実験を行なった結果を
図2-1~
図2-4に示す。また金ナノ粒子がやや大きいAu/SiO
2のうち、条件[5]及び[9]のAu/SiO
2、並びにDR法のAu/SiO
2を用いて吸着実験を行なった結果を
図2-5~
図2-7に示す。担体上に担持された金粒子のサイズが小さいほどDMTSの吸着能が高い傾向が認められた。金箔で吸着実験を行なったところ、DMTSは全く吸着されなかった。
【0047】
(2) 上記2で調製したAu/SiO
2のDMTS吸着能
金/β-アラニン錯体を用いたAu担持シリカAu/SiO
2-(A)の結果を
図3-1に、金/4-アミノ酪酸錯体を用いたAu担持シリカAu/SiO
2-(GABA)の結果を
図3-2に示す。いずれも良好なDMTS吸着能を有していた。
【0048】
(3) 上記3で調製した金微粒子担持体のDMTS吸着能
Au担持アルミニウム含有メソポーラスシリカ及びAu担持モンモリロナイトを用いたDMTS吸着実験の結果を
図4-1及び
図4-2にそれぞれ示す。いずれも良好なDMTS吸着能を有していた。
【0049】
5.金微粒子担持体を用いたDMTS吸着実験-2
本発明の方法で調製される金属微粒子担持体の用途のさらなる例として、ガソリン等の液体燃料及び有機溶媒をはじめとする親油性の液体からの含硫黄化合物の吸着除去を想定し、金担持シリカを用いてヘキサンに添加したDMTSの吸着実験を行なった。
【0050】
<方法>
(1) ヘキサンにDMTS及び内部標準としてトリデカンを加える
(2) (1)の溶液をヘキサンで希釈する(DMTS濃度: 6.0 ppm)
(3) (2)の試料4.0 mLにAu/SiO2(300℃, 0.5 h焼成, Au平均粒径5.1 nm)50.0 mgを加える
(4) GCで経時的にDMTS残量を測定する
【0051】
<結果>
2回の実験の結果を
図5-1(1回目)、
図5-2(2回目)、及び表3に示す。6時間~24時間でヘキサン中のDMTSを完全に除去できた。これにより、本発明の方法で製造される金属微粒子担持体は親油性の有機化合物の液体に対しても良好なDMTS吸着能を発揮できることが確認された。
【0052】
【0053】
6.水素化反応触媒能の検討
酸化物担持金触媒は、水素化、酸化、C-C結合形成反応など各種の反応の触媒としても有効であることが知られており、金アミノ酸錯体を用いる新規含浸法により調製した金微粒子担持体も同様にこれらの反応の触媒として有効であると考えられる。そこで、各種金属酸化物を担体として新規含浸法により金属微粒子担持体を調製し、それらの水素化反応の触媒活性を調べた。
【0054】
<シリカ担体>
金/グリシン錯体を用いた含浸法によるAu担持シリカ(1wt% Au/SiO2-(G-3))は、上記表1に示した条件[1](基準条件)にて調製した。
金/β-アラニン錯体を用いた含浸法によるAu担持シリカ(1wt% Au/SiO2-(A))は、上記2の通りに調製した。
4wt% Au/SiO2-(A)は次の通りに調製した。金/β-アラニン錯体(金40 mg相当)を乳鉢に入れ、水0.5 mLを加えて溶かし、そこに960 mgのSi02を加えて30分間撹拌混和した。その後、乾燥させずに300℃で4時間空気焼成を行なった。
【0055】
<酸化チタン担体>
金/β-アラニン錯体(金10 mg相当)を乳鉢に入れ、水0.5 mLを加えて溶かし、そこに990 mgの酸化チタン(P-25、日本アエロジル社)を加えて30分間撹拌混和した。その後、乾燥させずに300℃で4時間空気焼成を行ない、Au担持酸化チタン(Au/TiO2-(A))を得た。透過型電子顕微鏡(TEM)画像から算出した金粒子の平均粒径は2.5 nmであり、シリカ担体の場合と同様に粒子径の小さい金粒子を担持させることができた。
【0056】
<酸化タングステン担体>
金/β-アラニン錯体(金10 mg相当)を乳鉢に入れ、水0.5 mLを加えて溶かし、そこに990 mgの酸化タングステン(和光純薬工業社)を加えて30分間撹拌混和した。その後、乾燥させずに300℃で4時間空気焼成を行ない、Au担持酸化タングステン(Au/WO3-(A))を得た。
【0057】
<酸化ジルコニウム担体>
金/β-アラニン錯体(金10 mg相当)を乳鉢に入れ、水0.5 mLを加えて溶かし、そこに990 mgの酸化ジルコニウム(触媒学会参照触媒(第一稀元素化学工業株式会社)、品番:JRC-ZRO-4)を加えて30分間撹拌混和した。その後、乾燥させずに300℃で4時間空気焼成を行ない、Au担持酸化ジルコニウム(Au/ZrO2-(A))を得た。
【0058】
<酸化アルミニウム担体>
金/β-アラニン錯体(金10 mg相当)を乳鉢に入れ、水0.5 mLを加えて溶かし、そこに990 mgの酸化ジルコニウム(触媒学会参照触媒(水沢化学工業株式会社)、品番:JRC-ALO-5)を加えて30分間撹拌混和した。その後、乾燥させずに300℃で4時間空気焼成を行ない、Au担持酸化アルミニウム(Au/Al2O3-(A))を得た。
【0059】
<水素化反応>
50 mL高圧反応容器に4-ニトロスチレン(1 mmol)、酢酸エチル2 mL、トリグリム60.5 mg (GC定量用の内部標準)、及び触媒として金微粒子担持体10 mgを入れ、2 MPaの水素で1回置換したのち、2 MPaの水素圧をかけ、100℃で24時間撹拌した。冷却後、反応容器を開け、ガスクロマトグラフにて生成物を分析した。反応後の4-ニトロスチレンの残存量も分析し、生成物への変換率を算出した。
変換率(%)=(1-n)/1×100
n: 反応後(1 day後)に残った4-ニトロスチレンの物質量(mmol)
【0060】
結果を表4に示す。1 wt% Au/SiO2触媒はビニル基が選択的に水素化された生成物Aを54~59%収率で与えた(番号1、2)。酸化ジルコニウムに担持された金触媒も同様の傾向を示した。(番号6)。その一方で、4 wt% Au/SiO2触媒はニトロ基が選択的に水素化された生成物Bおよび、両方の官能基が水素化された生成物Cを、それぞれ47%と34%で与えた(番号3)。また、酸化チタン、酸化アルミニウムに担持された金触媒はニトロ基が選択的に水素化された生成物Bを選択的に与えた。(番号5、7)。
【0061】
【0062】
7.金/β-アラニン錯体の構造解析
錠剤成型した所定量の試料をSPring-8 BL14B2の光路上にセットし、透過法により Au L3-edge XAFSを測定した。測定には、Si(311)二結晶モノクロメータとイオンチャンバー検出器を用い、データは、REX2000(リガク)により解析した。
【0063】
金/β-アラニン錯体のX線吸収微細構造(XAFS)スペクトル(
図6)では、11922 eV付近にAu 2p
3/2から5dおよび6s軌道への遷移に相当する特徴的なホワイトラインが観測された。また、EXAFS振動スペクトル(
図7)は、標準試料として測定したAu
2O
3のスペクトルと類似していた。このことから、金/β-アラニン錯体は3価Auが中心金属となった平面4配位状態であることが示唆された。さらに、EXAFSスペクトルフーリエ変換(
図8)のカーブフィッティング解析の結果、金/β-アラニン錯体の分子構造は、β-アラニンが2分子、もしくはβ-アラニン1分子と水酸基2分子が配位した単核錯体であることが示唆された。
【0064】
【0065】